JP3583117B2 - 熱電素子用結晶体及びその製造方法並びに熱電素子の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体等の発熱体の冷却等に使用する熱電素子用の結晶体として好適に用いることのできる熱電素子用結晶体及びその製造方法並びに熱電素子の製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
従来より、ペルチェ効果を利用した熱電素子は、電流を流すことにより一端が発熱するとともに他端が吸熱するため、冷却用の熱電素子として用いられている。特に、熱電モジュールとしてレーザーダイオードの温度制御、小型で構造が簡単でありフロンレスの冷却装置、冷蔵庫、恒温槽、光検出素子、半導体製造装置等の電子冷却素子、レーザーダイオードの温度調節等への幅広い利用が期待されている。
【0003】
この室温付近で使用される冷却用熱電モジュールは、P型及びN型の熱電素子を対にしたものを複数直列に電気的接続が行なわれた構成を有しており、そこで使用される熱電素子としては、冷却特性が優れるという観点からA2B3型結晶(AはBi及び/又はSb、BはTe及び/又はSe)が一般的に用いられている。
【0004】
P型の熱電素子としてはBi2Te3とSb2Te3(テルル化アンチモン)との固溶体が、N型の熱電素子としてはBi2Te3とBi2Se3(セレン化ビスマス)との固溶体が特に優れた性能を示すことから、これらのA2B3型結晶(AはBi及び/又はSb、BはTe及び/又はSe)を熱電素子として広く用いられている。
【0005】
このA2B3型結晶からなる熱電素子は古くよりブリッジマン法、引き上げ(CZ)法、ゾーンメルト法など公知の単結晶製造技術によって結晶粒子径の大きいインゴットあるいは単結晶からなる溶製材料として作製され、これをスライスし、電極に接合するためのメッキを施した後、0.5〜3mmのチップ形状にダイシングしたものが用いられてきた。
【0006】
これら溶製材料は結晶の向きがそろっているために比抵抗の小さいC面が一方向にそろいやすく、熱電特性が優れる素子が得られる。しかしながら、この結晶は、C面と平行な面で劈開性を有するために、スライスおよびダイシング時に劈開面がはがれ、加工歩留まりが極めて低いという問題があった。
【0007】
そこで、原料を加熱して融液にし、該融液を形枠に設けられた複数の空隙内に導入し、一端から該融液を固化して熱電素子用結晶体を得ることにより、ダイシング工程を省略でき、加工歩留まりを向上させられる方法が、特開平8−228027号公報に記載されている。
【0008】
さらに、同様の手法で、隣り合う劈開面の角度が小さく劈開面の向きが比較的そろっていることで熱電性能を向上させたインゴット板状の熱電材料、及びインゴット板状の熱電材料を切断した棒状熱電材料が、特表2000−507398号公報に記載されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平8−228027号公報に記載の熱電素子用結晶体は、スライス時に欠けやクラック等の欠陥が発生して加工歩留まりが低く、また、熱電特性のばらつきが大きいという問題があった。
【0010】
また、特表2000−507398号公報に記載の熱電材料は、熱電特性のばらつきは小さいものの、インゴット板を切断して棒状熱電材料を形成した後、該棒状熱電材料をさらにスライスして熱電素子を作製するため、切断工程が多く、その工程中に欠けやクラックが発生する。その結果、加工歩留まりが極めて悪く、いずれも熱電素子作製時に全数検査する必要があり、大量生産に不向きであるという問題があった。
【0011】
従って、本発明は、欠陥が少なく、熱電特性に特に優れる熱電素子用結晶体及びその結晶体を高歩留まり、低コストで製造する製造方法並びに熱電素子の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、熱電素子に含まれる劈開面の数及び熱電材料の表面組成を制御することにより、熱電性能のばらつきを小さくすることができるとともに、欠陥の少ない熱電素子用結晶体を実現し、且つ加工歩留まりを改善でき、低コストの熱電素子用結晶体を実現できるという知見に基づく。
【0013】
また、熱電モジュールに搭載する熱電素子の断面形状と略同一な断面形状を有する熱電素子用結晶体から熱電素子として特定の長さに切断することで、スライス工程を大幅に減らし、加工時の欠陥発生を著しく改善できると言う知見に基づく。
【0014】
即ち、本発明の熱電素子用結晶体は、断面積10mm2以下、長さ10mm以上の劈開性を有する柱状の半導体結晶からなり、該半導体結晶におけるいずれの1mmの長さ範囲においても、劈開面が1方向又は2方向であり、且つ両端面を除く面におけるカーボン量及び酸素量が、それぞれ内部よりも表面部で多いことを特徴とする。劈開面が1方向又は2方向の場合、熱電特性およびスライス時の加工歩留まりのばらつきが小さく、また表面にカーボンおよび酸素量が内部と比べて多い層が存在することによって熱電素子切断時のチッピング等をほとんど無くすることができ加工歩留まりを高められる。
【0015】
また、前記表面部の厚みが少なくとも10nmであることが好ましい。
【0016】
さらに、前記柱状の半導体結晶の断面形状が熱電モジュールに搭載する熱電素子の断面形状と略同一であることが好ましい。これにより、所望の長さにスライスするだけで熱電素子を得られるため、欠陥の少ない熱電素子を低コストで製造するための結晶体としての付加価値を顕著に高めることができる。
【0017】
さらにまた、前記断面形状が四角形で、該四角形の角部がR形状であることが好ましい。このように、四角形であることによって熱電素子を熱電装置に用いたときの性能を高めることができ、且つ角部で発生する欠陥をより効果的に抑制することができる。
【0018】
また、本発明によれば、前記半導体結晶が、Bi、Sb、Te及びSeのうち少なくとも2種を主成分とすることが好ましい。この組成で得られる合金を用いることで室温付近の熱電性能を高めることができる。
【0019】
さらに、前記半導体結晶が、I及び/又はBrを含むことが好ましい。これらハロゲン元素によって電子濃度が調整され熱電素子として最適なキャリア濃度に制御できる。
【0020】
また、本発明の熱電素子用結晶体の製造方法は、型の内部に設けられた空間に熱電半導体金属の融液を充填し、該融液を結晶化させる熱電素子用結晶体の製造方法において、前記空間の断面積が10mm2以下、長さが10mm以上であって、前記型における前記融液との接触面の少なくとも一部にカーボンを主成分とする離型剤を塗布し、2mm/h以下の速度で結晶化させ、しかる後に80〜400℃の温度で熱処理することを特徴とする。このように結晶成長速度を制御することによって、いずれの1mmの長さ範囲においても、劈開面が1方向又は2方向にすることが可能となり、且つ表面にカーボン量と酸素量との多い結晶体を実現できる。また、カーボン以外の型を用いた場合でもカーボン型を用いた場合と同様に表面部のカーボン量を内部と比べて多くすることができる。
【0021】
また、前記型の少なくとも前記融液との接触面の純度が99.9%以上、気孔率が5%以上であることが好ましい。これにより、結晶体中への不純物混入を防止でき、熱電素子としての特性劣化を防止できる。
【0022】
さらに、前記型の内部に設けられた空間が、四角形の断面形状を有する角状体であって、該四角形の外周の一辺の長さが4mm以下、該四角形の角部がR形状である。これにより、熱電特性の優れる断面形状が四角形の熱電素子を製造することが容易となる。
【0023】
さらにまた、前記型と、該型の内部空間に配置された種結晶とを前記融液に浸漬して該型の内部空間に該融液を充填するとともに、該種結晶を該融液に接触させ、しかる後に該種結晶及び該型を該融液から引き上げることによって、該融液の一部を結晶化させることが好ましい。このような製造方法によって劈開面の方向が少ない熱電素子用結晶を安定して作製することができる。
【0024】
また、前記熱電半導体金属が、Bi、Sb、Te及びSeのうち少なくとも2種を含むことを特徴とする。この組成によって熱電特性に優れた結晶体を容易に得ることができる。
【0025】
さらに、前記熱電半導体金属が、I及び/又はBrを含むことが好ましい。このように、ハロゲン元素を含有することによってキャリア濃度の調整が可能となり、半導体としての特性を高める効果が高い。
【0026】
また、本発明の熱電素子の製造方法は、上記の熱電素子用結晶体を、熱電モジュールに搭載する長さに切断することを特徴とする。これにより、熱電素子を作製する際に、スライスする回数及び量を著しく減少させることができ、且つ特性に優れた熱電素子を低コスト、高歩留りで作製することができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
本発明の熱電素子用結晶体は、断面積10mm2以下、長さ10mm以上の半導体結晶からなることが重要である。半導体結晶の断面積が10mm2よりも大きいと、劈開面の方向の数を制御することが困難となる。この断面積を10mm2以下にすることによって、劈開面の方向の数を2以下にすることができる。
【0028】
この半導体結晶は、実際に用いる熱電素子の形状にもよるが、熱電特性をより高めて、且つより安定させるためには、断面積を小さくすることが好ましく、特に情報通信の分野においては、低消費電力高冷却能を得るため、断面積が5mm2以下、特に2.5mm2以下、更には1mm2以下であることが好ましい。
【0029】
さらに、本発明の熱電素子用結晶体の断面形状を、熱電モジュールに搭載する熱電素子の断面形状と略同一な断面形状に設定することが最も好ましく、これにより、所望の長さにスライスするだけで熱電素子を作製できる。
【0030】
上記の結晶体が、10mm以上の長さであれば、ハンドリング性を高めることができ、この結晶体を一定の長さに切断し、得られた結晶片を直接熱電素子として用いる場合に、スライスを行う面積を低減できるため、加工時の欠陥発生を効果的に抑制でき、量産性に優れた結晶体を実現できる。結晶体の長さを、特に50mm以上、更には100mm以上にすることで、熱電素子のコストを更に低減し、量産性をより高めることができる。
【0031】
本発明によれば、上記の熱電素子用結晶体が劈開性を有し、柱状の半導体結晶からなり、この結晶におけるいずれの1mmの長さ範囲においても、劈開面が1方向又は2方向であることが重要である。換言すれば、柱状結晶からなる結晶体におけるいずれの長さ1mmの範囲においても、結晶粒界の数が1以下であることを意味する。
【0032】
即ち、例えば図1において、熱電素子用結晶体1は、劈開面C1が上面又は下面に略平行な部位2と、劈開面C2が上面又は下面に対して角度αだけ傾いている部位3とから構成されており、換言すると、2つの劈開面の方向を有する、又は劈開方向の異なる2つの結晶粒子から構成され、粒界の数は1である。この熱電素子用結晶体1において、どの1mmの長さの範囲でスライスしても、劈開面の方向は2以下になり、且つ粒界の数は1以下にある。
【0033】
これに対し、図2に示された熱電素子用結晶体11は、劈開面D1が上面又は下面に平行な部位12と、劈開面D2が上面又は下面に対して角度βだけ傾いている部位13と、劈開面D3が上面又は下面に対して角度γだけ傾いている部位14とから構成されており、切断面a及び切断面bでこの熱電素子用結晶体11をスライスすると、部位12、部位13及び部位14の3粒子から構成され、劈開面の方向は、劈開面D1、D2及びD3の3方向となり、粒界の数も2となる。
【0034】
このような結晶体では、粒界G1及びG2が存在すると切断後の熱電素子の熱電特性が低下すると共に、切断時の割れが粒界を介して急激に大きくなり、加工歩留まりが大幅に低下する。特に、粒界G1とG2の交差する場所にクラックが発生しやすく、機械的特性及び電気的特性の劣化を招きやすい。従って、熱電素子用結晶体におけるどの1mmの長さ範囲に存在する劈開方向の数は1又は2であることが必要であり、特に、粒界をクラックが進展しやすいことを考慮すると、粒界がなく、劈開が1方向であることが最も好ましい。
【0035】
なお、Bi2Te3、Sb2Te3、Bi2Se3などカルコゲナイト型結晶には、劈開面が存在するが、図1に矢印で示したように、上面に垂直な方向が[0001]方向となるように設定することが望ましい。この方向に設定すると、電気特性が向上し、その結果熱電特性が改善される。
【0036】
なお、劈開面は、表面を塩酸等で化学エッチングするか、400〜500℃の酸化性雰囲気で1分間、サーマルエッチングをするか、又はプラズマエッチングを行うことで容易に観察できる。
【0037】
さらに、本発明の熱電素子用結晶体は、両端面を除く面におけるカーボン量及び酸素量が、それぞれ内部よりも表面部で多いことも重要である。例えば、図1における両端面、即ち対向する端面S1及びS2を除く側面S3〜S6において各々の表面における酸素量及びカーボン量が内部よりも多いことが必要である。
【0038】
このように酸素量及びカーボン量を表面に多量に存在させることによって、加工時に発生する劈開面の剥がれ、欠けやクラックの発生を抑制することができる。その抑制機構については明確ではないが、表面に形成される炭化物又は酸化物によって圧縮応力が生じ、クラックの発生を防止するものと考えられる。
【0039】
表面部に形成される炭化物層又は酸化物層は保護層となり、上記効果を発現させるため、少なくとも10nmの厚みを有することが好ましい。しかし、厚みが大きすぎると熱電特性が低下することがあるため、上限は100nm、特に50μm、更には30μm、より好適には20nmが好ましい。
【0040】
なお、表面部に形成される酸化膜は電気抵抗を高め、熱電材料としての熱電特性を劣化させるが、カーボンを含有せしめることによって、表面部の特性劣化を抑え、優れた熱電特性を維持することができる。
【0041】
表面部におけるカーボン量及び酸素量は結晶の内部と比べて多いことが重要であり、内部よりも表面部でそれぞれの含有量が20%以上、特に30%以上、更には50%以上、より好適には70%以上多いことが好ましい。
【0042】
なお、酸素量及びカーボン量は特に限定されるものではないが、例えば、内部のカーボン量が0.1〜5原子%、酸素量が0.1〜1原子%であるのに対し、表面部のカーボン量は1原子%以上、酸素量は1原子%以上を例示できる。なお、それぞれの含有量が内部よりも表面部で20%以上多いことは言うまでもない。
【0043】
なお、上記のカーボン量及び酸素量の分析方法としては、オージェ電子分光法(AES)、X線光電子分光法(XPS又はESCA)によって厚み方向の定量分析を行うことが可能である。
【0044】
また、本発明によれば、結晶体の断面形状が四角形であることが好ましい。四角形の熱電素子を作製し、熱電モジュールに組み込むと、装填密度を高くでき、被冷却物の冷却能を高めることができ、さらに四角形の角部を丸く加工し、R形状とすることで、角部に発生し、欠損の起点となるクラックの発生を抑制することができる。
【0045】
熱電半導体結晶1は、Bi、Sb、Te及びSeのうち少なくとも2種を主成分とすることが好ましい。Bi2Te3、Sb2Te3、Bi2Se3等のカルコゲナイト型結晶を使用した熱電素子は、室温付近の熱電特性に優れ、情報通信関連の冷却用熱電モジュールとして好適に使用され得る。
【0046】
熱電半導体結晶1は、I及び/又はBrを含むことが好ましい。即ち、半導体を形成するため、ハロゲン元素の添加によって電子濃度の調整がなされ、キャリア濃度の制御されたN型半導体として優れた特性を示すことができる。
【0047】
以上のような構成を有する本発明の熱電素子用結晶体は、熱電特性が極めて高く同時に加工歩留まりが高いという特徴を有し、冷却、発電用、熱電モジュール等に好適に用いることができる。
【0048】
次に、本発明の熱電素子用結晶体の製造方法について、N型半導体結晶を作製する場合を例として説明する。
【0049】
まず、熱電半導体金属を用意する。この金属の例としては、Bi、Sb、Te、Se金属と、SbI3、HgBr2等のハロゲン化合物からなるドーパントとを特定の組成比に混合した粉末を用いることができるが、あらかじめ石英管に秤量した上記の金属を不活性ガスあるいは真空封入したのち、加熱、溶融し、冷却し、粉砕した合金粉末を使用するのが熱電特性を安定させる上で好ましい。
【0050】
次に、型を用意する。本発明によれば、この型の材質は、合金と高温で反応せずに安定な材料であればどのような材質でも良いが、コスト、耐久性、加工性が良いことからカーボン製の型が好ましく、特に純度が99.9%以上であることが不純物の混入を防ぐ上で好ましく、気孔率5%以上であることが得られる半導体結晶の表面に存在する酸素量やカーボン量を増やすのに有効である。
【0051】
さらに、型には結晶体を作製するための内部空間が必要であるが、本発明によれば、内部空間の中の少なくとも前記金属の融液と接触する部分(内壁)には主成分をカーボンとする離型剤を塗布することが重要である。このように融液と接する型の内壁に離型剤を塗布することは、冷却固化後に結晶体を型から取り出し易くすることに加え、結晶体の表面に内部と比べてカーボンの多い層を短時間で確実に生成するために重要である。この離型剤の塗布方法は、有機溶媒及びカーボンを混合した溶液を筆などで塗布する方法や、上記の混合溶液に型を浸漬して型の内壁に離型剤を塗布する方法を採用することができる。
【0052】
内部空間は、四角柱の結晶を得る場合は、例えば図3に示すように、型21が4個の割型22からなるカーボン板を用意し、割型22を組み合わせて断面形状が四角形の空間23を形成しても良いし、また、例えば図4に示す割型32のように、2個の割型33からなるカーボン板を用意し、割型32を組み合わせて断面形状が四角形の空間33を形成しても良く、このように割型22、32をもちいることが結晶の取り出しやすさ、カーボン型の加工性の上で好ましい。
【0053】
なお、前記型の内部に設けられた空間が、四角形の断面形状を有する角状体であって、該四角形の外周の長さが4mm以下、該四角形の角部がR形状であることが、特に劈開の方向を1方向にしやすいため熱電特性を高めることが容易となり、且つ加工時の欠けを防止しやすいために好ましい。そのため、例えば図4において、空間33の断面形状は四角形であるが、角部は丸みを有しており、R形状を予め付与した割型32を用いるのが良い。
【0054】
次に、型が充分入る大きさで、純度99.9%以上のカーボンルツボの中に型を入れ、結晶が成長する方の内部空間に融液が含浸されるように合金粉末を配置したのちに、高周波加熱炉等単結晶合成に適した炉を用いて加熱し溶融させる。
【0055】
例えば、試験管形状のカーボンルツボの中に内部空間が貫通した型を入れてその上部に合金粉末を入れることで、加熱溶融すれば融液が自然に内部空間に含浸する。このとき炉内の雰囲気はArなど不活性雰囲気中が好ましく、より好ましくはルツボの形状の入り口を小さくして、合金中の蒸気圧が高い成分(例えばTe、Seなど)の蒸発を抑える手法が望ましい。
【0056】
含浸後、型をブリッジマン法と同様に移動させる方法、あるいは型から結晶を引き上げる、引き上げ法によって融液の一部が冷却固化され、一方向凝固された結晶が得られる。融液を得る温度は組成によって異なるが、融点よりも100〜200℃高い温度で溶融することで融液が得られる。本発明によれば冷却固化するときの速度が劈開面の方向の数を制御し良質な結晶を成長させる上で重要である。
【0057】
本発明では特に冷却速度を2mm/h以下で成長させることが重要である。2mm/hよりも大きい冷却速度で結晶成長させた場合、結晶核の多量の発生を招き、前述した劈開面の方向が異なる結晶が多数生成する。
【0058】
ここで冷却速度とは前述したブリッジマン法の場合ルツボまたは融液が入っている型の移動速度で、引き上げ法の場合は引き上げ速度に対応する。
【0059】
本発明によれば、得られた結晶を80〜400℃の温度で熱処理することで表面部の酸素量を内部に比べてより大きくすることができ、その結果、加工時の割れをより低減することが可能となる。
【0060】
この熱電素子用結晶体のスライス加工によって、両端面のみがスライス面で、他の面は結晶成長面からなる熱電素子を形成することができるが、表面部のカーボン量及び酸素量が内部よりも多いため、スライスによってクラックの進展を防止し、欠陥の発生を抑制し、欠陥の少ない熱電素子を製造するための結晶体として極めて有用となる。即ち、スライスを行う表面が、カーボン及び酸素に富む表面組成を有するため、加工による欠陥の生成を抑制できるとの作用効果を奏することができる。
【0061】
【実施例】
純度99.99%以上、粒径475μm以下のBi、Te、Sb、Se金属粉末を(Bi2Te3)0.80(Bi2Te3)0.10(Sb2Se3)0.10組成となるように秤量し、添加剤としてSbI3を0.09質量%添加した混合金属粉末を石英管にAr封入し、ロッキング炉にて850℃、5時間溶融した。
【0062】
得られた合金を475μm以下に粉砕した後、カーボンルツボに入れ800℃にて1時間溶融させたまた、表1に示す純度および気孔率をもつカーボン板2枚を重ね合わせたときに表1に示す断面形状を有する割型を準備した。なお、型の内壁の加工精度は±0.2%以下であった。
【0063】
割型の内壁にはカーボンスプレーを表1に示す条件にて塗布し、割型を組み合わせた後に、これを溶融しているルツボ中に挿入し、溶融している融液を空間部分に充分含浸させるようにした後、表1に示した結晶化速度にて割型を引き上げて割型内部の空間中に単結晶を育成させた。
【0064】
なお、試料No.35は、カーボン型を用いず、単に石英チューブ内で冷却することによって結晶化を行った。
【0065】
得られた結晶体を表1に示す温度にて大気中10分間の熱処理を施した後、スライス装置にて厚さ1mmの幅にスライスして素子を作製した。
【0066】
スライス後の素子は顕微鏡で観察して断面積で10%以上欠けているものを不良品として選別し、全切断素子と不良素子数より不良率を算出し、さらに劈開面の方向が異なる面の数の最大を劈開数として算出した。また、柱状の結晶体の長さ、断面の断面積を測定した。
【0067】
さらに、素子はマイクロオージェ分析装置にて表面部をエッチングしながらカーボン量、酸素量を求め、同時に切断面の測定値を内部の値とし、表面部のカーボン量が内部量と同じになるまでの厚みを表1の表面部厚みとした。結果を表1に示した。
【0068】
【表1】
【0069】
本発明の試料No.1〜5、8〜16及び18〜32は、不良率が10%以下で、熱電特性も良好であった。
【0070】
一方、断面積が15mm2と大きく、劈開面の方向が4で本発明の範囲外の試料No.6は、不良率が46%と大きく、熱電特性も劣化した。
【0071】
また、長さが5mmと短く、本発明の範囲外の試料No.7は、加工工程におけるハンドリングの悪さから不良率が22%と大きかった。
【0072】
結晶化速度が大きく劈開数が多い本発明の範囲外の試料No.17は、不良率が25%と大きかった。
【0073】
さらに、カーボンスプレーにより離型剤塗布を行わず、また、酸化処理を行わなかった本発明の範囲外の試料No.33は、離型性が悪く、また欠け易く、不良率が27%であった。
【0074】
さらにまた、BNを離型剤に用いた本発明の範囲外の試料No.34は、表面部のカーボン含有量が内部と同じであるため、不良率が19%と高かった。
【0075】
また、カーボン型を用いないで結晶化を行った本発明の範囲外の試料No.35は、表面部と内部とで組成が均一であり、且つ劈開面の方向が4と大きく、不良率が38%であった。
【0076】
【発明の効果】
本発明の熱電素子用結晶体は、熱電素子に含まれる劈開面の数及び熱電材料の表面組成を制御することにより、熱電性能のばらつきを小さくすることができるとともに、欠陥の少ない熱電素子用結晶体を実現し、且つ加工歩留まりを改善でき、低コストの熱電素子用結晶体を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の熱電素子用結晶体を示す概略平面図である。
【図2】従来の熱電素子用結晶体を示す概略平面図である。
【図3】本発明の熱電素子用結晶体の製造に用いた割型を示す斜視図である。
【図4】本発明の熱電素子用結晶体の製造に用いた他の割型を示す斜視図である。
【符号の説明】
1・・・熱電素子用結晶体
2、3・・・部位
C1、C2・・・劈開面
S1、S2・・・端面
S3、S4、S5、S6・・・側面
α、β、γ・・・劈開面の角度
Claims (13)
- 断面積10mm2以下、長さ10mm以上の劈開性を有する柱状の半導体結晶からなり、該半導体結晶におけるいずれの1mmの長さ範囲においても、劈開面が1方向又は2方向であり、且つ両端面を除く面におけるカーボン量及び酸素量が、それぞれ内部よりも表面部で多いことを特徴とする熱電素子用結晶体。
- 前記表面部の厚みが少なくとも10nmであることを特徴とする請求項1記載の熱電素子用結晶体。
- 前記柱状の半導体結晶の断面形状が熱電モジュールに搭載する熱電素子の断面形状と略同一であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱電素子用結晶体。
- 前記断面形状が四角形で、該四角形の角部がR形状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の熱電素子用結晶体。
- 前記半導体結晶が、Bi、Sb、Te及びSeのうち少なくとも2種を主成分とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の熱電素子用結晶体。
- 前記半導体結晶が、I及び/又はBrを含むことを特徴とする請求項5記載の熱電素子用結晶体。
- 型の内部に設けられた空間に熱電半導体金属の融液を充填し、該融液を結晶化させる熱電素子用結晶体の製造方法において、前記空間の断面積が10mm2以下、長さが10mm以上であって、前記型における前記融液との接触面の少なくとも一部にカーボンを主成分とする離型剤を塗布し、2mm/h以下の速度で結晶化させ、しかる後に80〜400℃の温度で熱処理することを特徴とする熱電素子用結晶体の製造方法。
- 前記型の少なくとも前記融液との接触面の純度が99.9%以上、気孔率が5%以上であることを特徴とする請求項7記載の熱電素子用結晶体の製造方法。
- 前記型の内部に設けられた空間が、四角形の断面形状を有する角状体であって、該四角形の外周の長さが4mm以下、該四角形の角部がR形状であることを特徴とする請求項7又は8記載の熱電素子用結晶体の製造方法。
- 前記型と、該型の内部空間に配置された種結晶とを前記融液に浸漬して該型の内部空間に該融液を充填するとともに、該種結晶を該融液に接触させ、しかる後に該種結晶及び該型を該融液から引き上げることによって、該融液の一部を結晶化させることを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載の熱電素子用結晶体の製造方法。
- 前記熱電半導体金属が、Bi、Sb、Te及びSeのうち少なくとも2種を含むことを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の熱電素子用結晶体の製造方法。
- 前記熱電半導体金属が、I及び/又はBrを含むことを特徴とする請求項7乃至11のいずれかに記載の熱電素子用結晶体の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の熱電素子用結晶体を、熱電モジュールに搭載する長さに切断することを特徴とする熱電素子の製造方法。
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