JP3579275B2 - 安息香酸誘導体の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、医薬品、農薬、各種機能材料などの製造中間体として有用な安息香酸または安息香酸エステル類の製造法に関する。
【0001】
【従来技術】
芳香族ハロゲン化物に一酸化炭素を挿入する反応により安息香酸誘導体が得られることは従来から知られている。
【0002】
特開昭64−47号公報には、環上に塩素原子を有する有機塩化物をパラジウム化合物及びホスフィン化合物を触媒とし、塩基の存在下、一酸化炭素と150℃〜300℃の反応温度で反応させてカルボン酸の得られることが開示され、ホスフィン化合物としてビス(ジフェニルフォスフィノ)ブタンが例示されている。
【0003】
ビス(トリフルオロメチル)安息香酸類を製造する方法としては、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼンを出発原料とし、グリニャール反応により、3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸を製造する方法が知られている[Bull.Soc.Chim.France.,(1962),587−93]。
【0004】
また、特開平9−67297号公報には、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼンと一酸化炭素と水またはメタノールとを、酢酸パラジウムとトリフェニルホスフィンからなる触媒およびトリエチルアミンの存在下、反応させて3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸類およびそのエステル類の得られることが記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
特開平9−67297号公報の方法によると選択率、収率共に比較的良好な結果が得られるが反応途中でパラジウム触媒が触媒不活性なパラジウム黒として析出し実質的な触媒濃度が低下するため比較的多量のパラジウム化合物を使用する必要があった。また、ベンゼン環上にトリフルオロメチル基を有する場合、副反応として脱ハロゲン化反応が進行し、目的とする安息香酸の収率を低下させ、またそれによる副生成物が生成物の精製を困難にしていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる問題点に鑑み、ビス(トリフルオロメチル)安息香酸類を工業的に容易に、かつ、大量に製造することができる方法について、鋭意検討を行った結果、ハロゲノ−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと、一酸化炭素および水またはアルコール類とを塩基の存在下反応させることによりビス(トリフルオロメチル)安息香酸類を製造する際に、触媒として特定の触媒を使用することで収率と選択率が顕著に向上し、また、他の貴金属触媒を用いた場合に起こりやすい金属の析出を著しく減らすことができることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、一般式(1)
Ar−X (1)
(式中、Arはアリール基、Xはハロゲン(フッ素、塩素、臭素またはヨウ素)、トリフルオロメタンスルホネート基、炭素数1〜4のアルキルスルホネート基、置換または非置換アリールスルホネート基を表す)で表される芳香族化合物を触媒と塩基の存在下一酸化炭素と一般式(2)
R1OH (2)
(式中、R1は水素、アリール基または炭素数1〜10のアルキル基を表す)で表されるヒドロキシ化合物を反応させることからなる一般式(3)
【0008】
【化5】
(式中、Ar、R1は前記に同じ)で表される安息香酸誘導体を製造する方法であって、触媒として一般式(4)、
【0009】
【化6】
(式中、Ar1、Ar2はそれぞれ独立にアリール基を表し、Lはそれぞれ独立にホスフィン配位子を表す。)で表されるパラジウム錯化合物を用いる安息香酸誘導体の製造方法である。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明に使用する一般式(1)で表される芳香族化合物は、Xで表される基以外の部分が本発明の方法において不活性なものであればよく、置換基を有することもある芳香族基にハロゲン、トリフルオロメタンスルホネート基、炭素数1〜4のアルキルスルホネート基、置換または非置換アリールスルホネート基が結合した化合物である。原料の入手が容易なハロゲン化物の方が実用上は好ましい。ハロゲンはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素であり、臭素またはヨウ素がより好ましい。
【0012】
芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基などの炭素環式基、ピリジル基、キノリル基などの複素環式基であってもよく、置換基を有することもあるが、Ar(アリール基)としては一般式(5)
【0013】
【化7】
(式中、R2はそれぞれ独立にトリフルオロメチル基、トリフルオロメチルオキシ基、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素またはヨウ素)を表す)、ニトロ基、アセチル基、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基を表し、nは0または1〜5の整数を表す。)で表されるアリール基であるのが好ましい。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、i−プロポキシカルボニル基を挙げることができる。
【0014】
一般式(1)で表される芳香族化合物としては、Rとして上に例示したアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン(Xとは異なる)、またはトリフルオロメチル基を有し、Xとして臭素またはヨウ素原子を有するものがより好ましい。アルキル基を有するものとしては具体的には、2−、3−または4−ブロモトルエン、2−、3−または4−ブロモエチルベンゼン、2−、3−または4−ブロモ−イソプロピルベンゼンなど、2−、3−または4−ブロモn−ブチルベンゼンなどが例示でき、2−、3−または4−ブロモメトキシベンゼン、2−、3−または4−ブロモエトキシベンゼン、2−、3−または4−ブロモn−プロポキシベンゼン、2−、3−または4−ブロモイソプロポキシベンゼン、2−、3−または4−ブロモn−ブトキシベンゼンなど、2−、3−または4−ブロモクロロベンゼンなどまたはこれらの臭素がヨウ素に置換した化合物が例示できるがこれらに限られない。
【0015】
さらに、一般式(1)で表される芳香族化合物としては、ハロゲノ−(トリフルオロメチル)ベンゼン、ハロゲノ−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、あるいはこれらの化合物のベンゼン環上水素がハロゲン原子で置換した化合物は好ましい。
【0016】
具体的には、トリフルオロメチル基を1個有する、2−トリフルオロメチルフェニルブロモベンゼン、3−トリフルオロメチルフェニルブロモベンゼン、4−トリフルオロメチルフェニルブロモベンゼン、トリフルオロメチル基を2個有する、2,3−ビス(トリフルオロメチル)フェニルブロモベンゼン、2,4−ビス(トリフルオロメチル)フェニルブロモベンゼン、2,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルブロモベンゼン、2,6−ビス(トリフルオロメチル)フェニルブロモベンゼン、3,4−ビス(トリフルオロメチル)フェニルブロモベンゼン、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルブロモベンゼンまたはこれらの臭素がヨウ素に置換した化合物が例示できるがこれらに限られない。
【0017】
さらに、X以外にハロゲンを有する芳香族化合物としては、2−クロロ−3−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、2−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、2−フルオロ−4−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、3−フルオロ−5−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、2−ブロモ−6−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、4−クロロ−2−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、4−フルオロ−2−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、2−クロロ−6−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、4−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、1−クロロ−4−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、2−フルオロ−6−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、2−フルオロ−5−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、2−クロロ−4−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、4−クロロ−3−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、4−クロロ−2−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼンなどまたはこれらの臭素がヨウ素に置換した化合物が例示できるがこれらに限られない。
【0018】
これらのうち、生成物の有用性の顕著なことから3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼンまたは3,5−ビス(トリフルオロメチル)ヨードベンゼン、あるいはこれらのベンゼン核の水素がハロゲンで置換した2−クロロ−3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼンなどがさらに好ましい。この場合、前2者を出発原料として用いると3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸またはそのエステルが得られ、後者からは2−クロロ−3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸またはそのエステルが得られる。
【0019】
一般式(1)で表される芳香族化合物に本発明の方法を適用すると、一般に芳香環に結合したハロゲンまたはトリフルオロメタンスルホネート基、炭素数1〜4のアルキルスルホネート基、置換または非置換アリールスルホネート基などのみがカルボキシル基に変換し、Rで表される置換基は変化しない生成物が得られる。複数の異なるハロゲンを芳香環に有する化合物では、一般にヨウ素、臭素、塩素、フッ素の順に優先的に反応するが、置換基の環上での位置および種類により異なることもある。
【0020】
一般式(2)
R1OH (2)
(式中、R1は水素または炭素数1〜10のアルキル基を表す)で表されるヒドロキシ化合物は、炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基などを有するアルコール類や水を挙げることができる。したがって、本発明における一般式(2)で表されるヒドロキシ化合物を具体的に示すと、例えば、水、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−ヘプチルアルコール、n−オクチルアルコール、n−ノニルアルコール、n−デシルアルコールなどを挙げることができる。
【0021】
本発明における水またはアルコール類の使用量は、一般式(1)で示される芳香族化合物1モルに対して1モル以上であればよいが、一般式(1)で示される芳香族化合物をより転化率よく反応させるため、および、溶媒として機能させるために、やや過剰に添加するのが好ましい。
【0022】
本発明における塩基としては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリアリルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、N−メチルモルホリンなどの第三アミン類、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどの酢酸塩、あるいは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの無機塩基などを挙げることができる。
【0023】
また、本発明における塩基の使用量は、通常、一般式(1)で示される芳香族化合物1モルに対して1.0〜10.0モル、好ましくは1.0〜5.0モル、さらに好ましくは1.0〜3.0モル使用するのがよい。1.0モルより少ない場合には、反応が充分に進行せず、収率低下の原因となり、経済的に不利となり、また、未反応の一般式(1)で示される芳香族化合物の除去あるいは回収のために後処理工程に負荷がかかるため、好ましくない。また、10.0モルより多く使用しても、目的とする安息香酸エステル類の収量にほとんど変化はなく、過剰に添加した塩基が、未反応のまま、多量に残るだけであり、経済的に不利となり、また、未反応の塩基の除去のために後処理工程に負荷がかかるため、好ましくない。
【0024】
本発明の触媒は、一般式(4)
【0025】
【化8】
(式中、Ar1、Ar2はそれぞれ独立にアリール基を表し、Lはホスフィン配位子を表す。)で表されるパラジウム錯化合物である。
【0026】
一般式(4)のAr1またはAr2で表されるアリール基はそれぞれ独立に一般式(5)
【0027】
【化9】
(式中、R2はそれぞれ独立にトリフルオロメチル基、トリフルオロメチルオキシ基、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素またはヨウ素)を表す)、ニトロ基、アセチル基、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基を表し、nは0または1〜5の整数を表す。)で表されるアリール基である。
【0028】
炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基)、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、i−プロポキシカルボニル基を挙げることができる。
【0029】
一般式(4)で表されるパラジウム錯化合物において一般式(5)で表されるアリール基としては、Ar1、Ar2共にフェニル基、o−、m−、p−トリル基などの炭化水素系のアルキル基を有するフェニル基を始め、トリフルオロメチル基を1個有する、2−トリフルオロメチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、トリフルオロメチル基を2個有する、2,3−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,4−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,6−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、3,4−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基などが好ましい基として挙げられる。
【0030】
さらに、これらのうち、一般式(4)で表される錯化合物のAr1で表されるアリール基がビス(トリフルオロメチル)フェニル基であるのものが好ましく、一方、Ar2で表されるアリール基がフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基またはビス(トリフルオロメチル)フェニル基であるものが好ましく、3−トリフルオロメチルフェニル基または3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基であるのがより好ましい。
【0031】
一般式(4)で表されるパラジウム錯化合物においてLで表されるホスフィン配位子は、特に限定されないが、一般式(6)、
P(R3)3 (6)
(R3はそれぞれ独立に置換基を有することもあるフェニル基(アリール基)、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)で表されるホスフィン配位子である。ここで、R3はそれぞれ独立にフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、メチル基、エチル基、n−ブチル基などから選ばれた基であることが好ましい。また、Lで表されるホスフィン配位子は、トリフェニルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィンまたはトリ−n−ブチルホスフィンなどが好ましく、トリフェニルホスフィンは特に好ましい。
【0032】
本発明に使用するのに好適な一般式(4)で表されるパラジウム化合物としては、
【0033】
【化10】
(Tolはo−、m−またはp−トリル基を表す)などが例示できる。
【0034】
本発明に使用するパラジウム錯化合物は結晶性であり、多くの有機溶媒に溶解し、安定である。また、室温において空気中で安定である。このような物理的、化学的性質を有するために単離操作が容易であるので高純度の物質が得られやすく、保存も容易であるので工業的な使用においても取り扱い易いという特徴がある。
【0035】
本発明のに使用するパラジウム錯化合物の製造方法は特に限定されないが、文献(J. Am. Chem. Soc., Vol.117, No.15, 4305(1995))に記載された方法や以下に例示的に示す方法を採用できる。密閉できる容器に一般式(7)
Ar−COOH (7)
(式中、Arは前記に同じ)で表される安息香酸と一般式(1)
Ar−X (1)
(式中、Arは前記に同じ、但し、一般式(7)のArと同時に同じである必要はない)で表される芳香族化合物、溶媒、パラジウム化合物、ホスフィン配位子となるホスフィン、塩基性物質を仕込む。溶媒としては、融点が低い場合には一般式(1)で表される芳香族化合物が使える他、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、ピリジンなどの第三アミン類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)などの酸アミド類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホランなどの含硫黄化合物、水などを使うことができる。
【0036】
塩基性物質としては、アンモニア、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリアリルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、N−メチルモルホリンなどの第三アミン類、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどの酢酸塩、あるいは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの無機塩基などを挙げることができる。
【0037】
パラジウム化合物としては、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウムなどが好適である。
【0038】
原料各物質の使用比率は特に限定されないが、パラジウムを有効に利用するために、一般式(1)で表される芳香族化合物と一般式(7)で表される安息香酸はそれぞれ1当量以上用い、ホスフィンは2当量以上使用するのが好ましい。他の溶媒等は適宜の量を使用すればよい。
【0039】
容器は加圧してもしなくてもよく、攪拌してもしなくてもよい。仕込んだ原料などは通常は50〜150℃程度に加熱して反応の進行を速める。所定の時間が経過した後、容器を冷却して内容物を取り出す。内容物に適宜抽出溶媒を加え固形分を分離して、揮発成分を留去すれば目的とする一般式(4)で表される錯化合物が得られる。必要に応じて再結晶により精製することができる。
【0040】
本発明の反応は、無溶媒で行っても溶媒中で行ってもよい。溶媒を使用する場合、溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、ピリジンなどの第三アミン類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)などの酸アミド類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホランなどの含硫黄化合物など、通常使用されるものを使用することができる。しかしながら、溶媒を使用した場合、反応系全体の容量が増大し、より大規模な反応装置が必要となったり、1バッチ当たりの生産量が減少したりする。本発明においては反応剤として水またはアルコール類を使用しており、これらが溶媒としても機能できることから、特に他の溶媒を使用する必要はない。
【0041】
本発明の方法におけるパラジウム錯化合物の使用量は、一般式(1)で表される芳香族化合物1モルに対して通常金属として0.00001〜0.5モル、好ましくは0.00005〜0.1モル、より好ましくは0.0001〜0.1モルである。0.00001モルよりも少ないと反応の進行が遅く実用的でないので好ましくなく、また、0.5モルよりも多いことは反応の点では問題はないが経済的に不利であるので好ましくない。
【0042】
また、反応系に、一般式(6)
P(R3)3 (6)
(式中、R3はそれぞれ独立にアリール基、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)または、一般式(8)
(R4)2P−Q−P(R4)2 (8)
(式中、R4はそれぞれ独立にアリール基、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Qは二価の有機基を表す。)で表されるホスフィンを別途添加することは好ましい。ここで、R3、R4はそれぞれ独立にフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、メチル基、エチル基、n−ブチル基などから選ばれた基であることが好ましい。また、Qとしては、−(CH2)m−(mは2〜8の整数)で表されるアルキレン基などである。
【0043】
したがって、ホスフィンとしては、トリフェニルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(dppb)、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)または1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(dppe)などが好ましく、トリフェニルホスフィン、dppbは特に好ましい。
【0044】
本発明の方法で、パラジウム錯化合物とは別に反応系に添加するホスフィン類は、パラジウム金属1モルに対し、0.1モル〜100モルであり、50モル以下が好ましく、20モル以下であるのがより好ましい。100モルよりも多く使用しても、反応速度、収率などにはほとんど変化はなく、経済的に不利なだけであり、好ましくない。
【0045】
本発明において、一般式(4)で表されるパラジウム錯化合物の他にホスフィン類を反応系に共存させることは、パラジウム錯化合物の使用量を減らすことに効果があり、また、反応途中においてパラジウム金属が析出し触媒の実効濃度を下げるという好ましくない現象の発現を低減させるという点においても効果を有する。
【0046】
また、本発明における塩基の使用量は、通常、一般式(1)で示される芳香族化合物1モルに対して10.0〜1.0モル、好ましくは5.0〜1.0モル、さらに好ましくは3.0〜1.0モル使用するのがよい。この範囲より少ない場合には、反応が充分に進行せず、収率低下の原因となり、経済的に不利となり、また、未反応の一般式(1)で示される芳香族ハロゲン化物の除去あるいは回収のために後処理工程に負荷がかかるため、好ましくない。また、この範囲より多く使用しても、目的とする安息香酸エステル類の収量にほとんど変化はなく、過剰に添加した塩基が、未反応のまま、多量に残るだけであり、経済的に不利となり、また、未反応の塩基の除去のために後処理工程に負荷がかかるため、好ましくない。
【0047】
次に、本発明の製造方法の実施について述べる。一般式(1)で示される芳香族化合物、水またはアルコール類、パラジウム錯化合物および塩基、さらに必要であれば溶媒および/またはホスフィンを反応器に仕込んだ後、反応器を密閉し、系内を一酸化炭素で置換し、常圧下あるいは加圧下で反応を行う。一酸化炭素圧は、通常、常圧〜30kg/cm2、好ましくは1〜20kg/cm2、さらに好ましくは2〜10kg/cm2とするのがよい。この範囲より低い場合には、反応が充分に進行せず、収率低下の原因となり、経済的に不利となる、あるいは、反応速度が低下して反応終了までに長時間を要するなどの問題を生ずる場合があり、好ましくない。また、この範囲より高くしても、反応速度や目的とする一般式(3)で示される安息香酸または安息香酸エステル類の収量にほとんど変化はなく、また、反応装置の安全性などの問題が生じるため、好ましくない。
【0048】
また、本発明における反応温度は、通常、30℃〜200℃、好ましくは50℃〜180℃、さらに好ましくは60℃〜150℃とするのがよい。この範囲より低い温度の場合には、反応が充分に進行せず、収率低下の原因となり、経済的に不利となる、あるいは、反応速度が低下して反応終了までに長時間を要するなどの問題を生ずる場合があり、好ましくない。また、この範囲より高い温度の場合には、反応中に分解などが起こる場合があり、収率低下の原因となり、経済的に不利となり、また、分解生成物などの除去のために後処理工程に負荷がかかるため、好ましくない。
【0049】
【実施例】
次に、本発明が製法について実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
〔調製例1〕[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)の合成
容量500mlのステンレス製オートクレーブに3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン65.3g、テトラヒドロフラン100ml、酢酸パラジウム50.0g、トリフェニルホスフィン175.5g、3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸57.6g、25%アンモニア水60.8gを仕込んだ。窒素置換を2回行い、窒素圧を3kg/cm2として攪拌を始めると内温が約50℃に上昇した。その後油浴温度を120℃に設定し加熱を開始した。約2時間後、内温が95.6℃に達した時点で油浴を外し冷却した。反応液に水200mlおよびトルエン600mlを加え、氷冷下、数十分間攪拌した。得られた処理液を吸引濾過し、濾液の有機層を分液した後、飽和食塩水で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後揮発成分を留去濃縮した。濃縮初期に析出した固体を濾別し、さらに濃縮した後,n−ヘキサンを加え冷却し析出した固体を濾別し粗生成物187.5gを得た。粗生成物をトルエンから再結晶し淡黄色結晶143.0gを得た。
【0051】
[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)
融点:168−170℃(decomp.)
IR(KBr:cm−1):3060,2926,1637,1437,1321,1277,1173,1127,748,697,518
1H−NMR(基準物質:TMS 溶媒:CDCl3):
δppm 6.97(s,1H),7.09(s,2H),7.20−7.32(m,18H),7.40−7.50(m,12H),7.53(s,2H),7.62(s,1H)
31P−NMR(基準物質:85%H3PO4 溶媒:CDCl3):δppm 25.73(s)
【0052】
〔調製例2〕[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’−トリフルオロメチルフェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)の合成容量500mlのステンレス製オートクレーブに、3−トリフルオロメチルブロモベンゼン25.0g、テトラヒドロフラン75ml、酢酸パラジウム25g、トリフェニルホスフィン87.3g、25%アンモニア水38g、3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸57.5gを仕込み、調製例1と同様な操作を行って目的とする[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’−トリフルオロメチルフェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)が32.3g得られた。
【0053】
[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’−トリフルオロメチルフェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)
1H−NMR(基準物質:TMS 溶媒:CDCl3):
δppm 6.47(dd,J=7.3,7.8Hz,1H),6.77(d,J=7.3Hz,1H),6.80(brs,1H),6.95(d,J=7.8Hz,1H),7.24−7.30(m,18H),7.40−7.46(m,12H)
【0054】
[実施例1]
容量500mlのステンレス製オートクレーブに、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン200g、トリエチルアミン145g、およびテトラヒドロフラン100mlを混合し、さらに[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)2.87g、トリフェニルホスフィン1.79gおよび水100gを加えた。反応器を密閉したのち、撹拌を開始し窒素置換3回、更に一酸化炭素置換3回を行った。一酸化炭素初期圧を4kg/cm2に設定し加熱を始めた。1時間後内温が100℃に達した時点で内圧を8kg/cm2に調整した。反応中は内温100℃、内圧8kg/cm2を保った。
【0055】
12.5時間後、加温を停止し反応器を冷却。内温が50℃以下になった時点で内部ガスをパージし、内圧を常圧まで降下させた後、窒素置換を3回行って反応を終了した。
【0056】
反応液を1000mlビーカーに移液し撹拌しつつ、氷冷下濃硫酸55gを分液ロートより滴下した。滴下終了後、テトラヒドロフラン50ml、および水100mlを加え、しばらく撹拌した後、得られた溶液を分液ロートに移液し、有機層を分液した。
【0057】
2000ml三つ口フラスコに撹拌機、滴下ロート及びコンデンサー付きト字管を取り付け、500mlの温水を加えた。油浴を用いて温水の温度を85℃に保ち、そこへ滴下ロートを用いて上記の有機層を滴下した。添加開始後、しばらくしてテトラヒドロフラン−水の混合物が留出してくるので、添加量と留出量のバランスを保ちつつ浴温等を調整した。全量添加終了後、テトラヒドロフランの留出が停止し、液温および蒸気温度が上昇を開始した時点で油浴を外し室温まで冷却した。生成した沈殿を吸引濾過した後、得られた結晶を水、次いでトルエンで洗浄した。減圧乾燥後、目的とする3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸128.9gを得た。
【0058】
[実施例2]
容量500mlのステンレス製オートクレーブに、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン200gおよびトリエチルアミン145gを混合し、さらに[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)1.43g、トリフェニルホスフィン0.45gおよび水100gを加えた。その後、実施例1と同様の操作を行って、3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸130gを得た。
【0059】
[実施例3]
容量500mlのステンレス製オートクレーブに、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン150g、トリエチルアミン114.0gおよびトルエン75gを混合し、さらに[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)2.71gおよび水200gを加えた。その後、実施例1と同様の操作を行って、3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸84.0gを得た。
【0060】
[実施例4]
容量500mlのステンレス製オートクレーブに、3−トリフルオロメチルブロモベンゼン154gおよびトリエチルアミン145gを混合し、さらに[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)3.77g、トリフェニルホスフィン0.898gおよび水100gを加えた。その後、実施例1と同様の操作を行って、3−トリフルオロメチル安息香酸119gを得た。
【0061】
【発明の効果】
医薬品、農薬、各種機能材料などの製造中間体として有用な化合物である安息香酸類誘導体、トリフルオロメチル安息香酸誘導体類を容易に、かつ、効率よく製造することができる。
【0001】
【従来技術】
芳香族ハロゲン化物に一酸化炭素を挿入する反応により安息香酸誘導体が得られることは従来から知られている。
【0002】
特開昭64−47号公報には、環上に塩素原子を有する有機塩化物をパラジウム化合物及びホスフィン化合物を触媒とし、塩基の存在下、一酸化炭素と150℃〜300℃の反応温度で反応させてカルボン酸の得られることが開示され、ホスフィン化合物としてビス(ジフェニルフォスフィノ)ブタンが例示されている。
【0003】
ビス(トリフルオロメチル)安息香酸類を製造する方法としては、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼンを出発原料とし、グリニャール反応により、3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸を製造する方法が知られている[Bull.Soc.Chim.France.,(1962),587−93]。
【0004】
また、特開平9−67297号公報には、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼンと一酸化炭素と水またはメタノールとを、酢酸パラジウムとトリフェニルホスフィンからなる触媒およびトリエチルアミンの存在下、反応させて3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸類およびそのエステル類の得られることが記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
特開平9−67297号公報の方法によると選択率、収率共に比較的良好な結果が得られるが反応途中でパラジウム触媒が触媒不活性なパラジウム黒として析出し実質的な触媒濃度が低下するため比較的多量のパラジウム化合物を使用する必要があった。また、ベンゼン環上にトリフルオロメチル基を有する場合、副反応として脱ハロゲン化反応が進行し、目的とする安息香酸の収率を低下させ、またそれによる副生成物が生成物の精製を困難にしていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる問題点に鑑み、ビス(トリフルオロメチル)安息香酸類を工業的に容易に、かつ、大量に製造することができる方法について、鋭意検討を行った結果、ハロゲノ−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと、一酸化炭素および水またはアルコール類とを塩基の存在下反応させることによりビス(トリフルオロメチル)安息香酸類を製造する際に、触媒として特定の触媒を使用することで収率と選択率が顕著に向上し、また、他の貴金属触媒を用いた場合に起こりやすい金属の析出を著しく減らすことができることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、一般式(1)
Ar−X (1)
(式中、Arはアリール基、Xはハロゲン(フッ素、塩素、臭素またはヨウ素)、トリフルオロメタンスルホネート基、炭素数1〜4のアルキルスルホネート基、置換または非置換アリールスルホネート基を表す)で表される芳香族化合物を触媒と塩基の存在下一酸化炭素と一般式(2)
R1OH (2)
(式中、R1は水素、アリール基または炭素数1〜10のアルキル基を表す)で表されるヒドロキシ化合物を反応させることからなる一般式(3)
【0008】
【化5】
(式中、Ar、R1は前記に同じ)で表される安息香酸誘導体を製造する方法であって、触媒として一般式(4)、
【0009】
【化6】
(式中、Ar1、Ar2はそれぞれ独立にアリール基を表し、Lはそれぞれ独立にホスフィン配位子を表す。)で表されるパラジウム錯化合物を用いる安息香酸誘導体の製造方法である。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明に使用する一般式(1)で表される芳香族化合物は、Xで表される基以外の部分が本発明の方法において不活性なものであればよく、置換基を有することもある芳香族基にハロゲン、トリフルオロメタンスルホネート基、炭素数1〜4のアルキルスルホネート基、置換または非置換アリールスルホネート基が結合した化合物である。原料の入手が容易なハロゲン化物の方が実用上は好ましい。ハロゲンはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素であり、臭素またはヨウ素がより好ましい。
【0012】
芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基などの炭素環式基、ピリジル基、キノリル基などの複素環式基であってもよく、置換基を有することもあるが、Ar(アリール基)としては一般式(5)
【0013】
【化7】
(式中、R2はそれぞれ独立にトリフルオロメチル基、トリフルオロメチルオキシ基、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素またはヨウ素)を表す)、ニトロ基、アセチル基、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基を表し、nは0または1〜5の整数を表す。)で表されるアリール基であるのが好ましい。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、i−プロポキシカルボニル基を挙げることができる。
【0014】
一般式(1)で表される芳香族化合物としては、Rとして上に例示したアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン(Xとは異なる)、またはトリフルオロメチル基を有し、Xとして臭素またはヨウ素原子を有するものがより好ましい。アルキル基を有するものとしては具体的には、2−、3−または4−ブロモトルエン、2−、3−または4−ブロモエチルベンゼン、2−、3−または4−ブロモ−イソプロピルベンゼンなど、2−、3−または4−ブロモn−ブチルベンゼンなどが例示でき、2−、3−または4−ブロモメトキシベンゼン、2−、3−または4−ブロモエトキシベンゼン、2−、3−または4−ブロモn−プロポキシベンゼン、2−、3−または4−ブロモイソプロポキシベンゼン、2−、3−または4−ブロモn−ブトキシベンゼンなど、2−、3−または4−ブロモクロロベンゼンなどまたはこれらの臭素がヨウ素に置換した化合物が例示できるがこれらに限られない。
【0015】
さらに、一般式(1)で表される芳香族化合物としては、ハロゲノ−(トリフルオロメチル)ベンゼン、ハロゲノ−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、あるいはこれらの化合物のベンゼン環上水素がハロゲン原子で置換した化合物は好ましい。
【0016】
具体的には、トリフルオロメチル基を1個有する、2−トリフルオロメチルフェニルブロモベンゼン、3−トリフルオロメチルフェニルブロモベンゼン、4−トリフルオロメチルフェニルブロモベンゼン、トリフルオロメチル基を2個有する、2,3−ビス(トリフルオロメチル)フェニルブロモベンゼン、2,4−ビス(トリフルオロメチル)フェニルブロモベンゼン、2,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルブロモベンゼン、2,6−ビス(トリフルオロメチル)フェニルブロモベンゼン、3,4−ビス(トリフルオロメチル)フェニルブロモベンゼン、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルブロモベンゼンまたはこれらの臭素がヨウ素に置換した化合物が例示できるがこれらに限られない。
【0017】
さらに、X以外にハロゲンを有する芳香族化合物としては、2−クロロ−3−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、2−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、2−フルオロ−4−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、3−フルオロ−5−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、2−ブロモ−6−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、4−クロロ−2−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、4−フルオロ−2−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、2−クロロ−6−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、4−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、1−クロロ−4−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、2−フルオロ−6−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、2−フルオロ−5−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、2−クロロ−4−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、4−クロロ−3−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン、4−クロロ−2−(トリフルオロメチル)ブロモベンゼンなどまたはこれらの臭素がヨウ素に置換した化合物が例示できるがこれらに限られない。
【0018】
これらのうち、生成物の有用性の顕著なことから3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼンまたは3,5−ビス(トリフルオロメチル)ヨードベンゼン、あるいはこれらのベンゼン核の水素がハロゲンで置換した2−クロロ−3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼンなどがさらに好ましい。この場合、前2者を出発原料として用いると3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸またはそのエステルが得られ、後者からは2−クロロ−3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸またはそのエステルが得られる。
【0019】
一般式(1)で表される芳香族化合物に本発明の方法を適用すると、一般に芳香環に結合したハロゲンまたはトリフルオロメタンスルホネート基、炭素数1〜4のアルキルスルホネート基、置換または非置換アリールスルホネート基などのみがカルボキシル基に変換し、Rで表される置換基は変化しない生成物が得られる。複数の異なるハロゲンを芳香環に有する化合物では、一般にヨウ素、臭素、塩素、フッ素の順に優先的に反応するが、置換基の環上での位置および種類により異なることもある。
【0020】
一般式(2)
R1OH (2)
(式中、R1は水素または炭素数1〜10のアルキル基を表す)で表されるヒドロキシ化合物は、炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基などを有するアルコール類や水を挙げることができる。したがって、本発明における一般式(2)で表されるヒドロキシ化合物を具体的に示すと、例えば、水、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−ヘプチルアルコール、n−オクチルアルコール、n−ノニルアルコール、n−デシルアルコールなどを挙げることができる。
【0021】
本発明における水またはアルコール類の使用量は、一般式(1)で示される芳香族化合物1モルに対して1モル以上であればよいが、一般式(1)で示される芳香族化合物をより転化率よく反応させるため、および、溶媒として機能させるために、やや過剰に添加するのが好ましい。
【0022】
本発明における塩基としては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリアリルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、N−メチルモルホリンなどの第三アミン類、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどの酢酸塩、あるいは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの無機塩基などを挙げることができる。
【0023】
また、本発明における塩基の使用量は、通常、一般式(1)で示される芳香族化合物1モルに対して1.0〜10.0モル、好ましくは1.0〜5.0モル、さらに好ましくは1.0〜3.0モル使用するのがよい。1.0モルより少ない場合には、反応が充分に進行せず、収率低下の原因となり、経済的に不利となり、また、未反応の一般式(1)で示される芳香族化合物の除去あるいは回収のために後処理工程に負荷がかかるため、好ましくない。また、10.0モルより多く使用しても、目的とする安息香酸エステル類の収量にほとんど変化はなく、過剰に添加した塩基が、未反応のまま、多量に残るだけであり、経済的に不利となり、また、未反応の塩基の除去のために後処理工程に負荷がかかるため、好ましくない。
【0024】
本発明の触媒は、一般式(4)
【0025】
【化8】
(式中、Ar1、Ar2はそれぞれ独立にアリール基を表し、Lはホスフィン配位子を表す。)で表されるパラジウム錯化合物である。
【0026】
一般式(4)のAr1またはAr2で表されるアリール基はそれぞれ独立に一般式(5)
【0027】
【化9】
(式中、R2はそれぞれ独立にトリフルオロメチル基、トリフルオロメチルオキシ基、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素またはヨウ素)を表す)、ニトロ基、アセチル基、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基を表し、nは0または1〜5の整数を表す。)で表されるアリール基である。
【0028】
炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基)、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、i−プロポキシカルボニル基を挙げることができる。
【0029】
一般式(4)で表されるパラジウム錯化合物において一般式(5)で表されるアリール基としては、Ar1、Ar2共にフェニル基、o−、m−、p−トリル基などの炭化水素系のアルキル基を有するフェニル基を始め、トリフルオロメチル基を1個有する、2−トリフルオロメチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、トリフルオロメチル基を2個有する、2,3−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,4−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,6−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、3,4−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基などが好ましい基として挙げられる。
【0030】
さらに、これらのうち、一般式(4)で表される錯化合物のAr1で表されるアリール基がビス(トリフルオロメチル)フェニル基であるのものが好ましく、一方、Ar2で表されるアリール基がフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基またはビス(トリフルオロメチル)フェニル基であるものが好ましく、3−トリフルオロメチルフェニル基または3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基であるのがより好ましい。
【0031】
一般式(4)で表されるパラジウム錯化合物においてLで表されるホスフィン配位子は、特に限定されないが、一般式(6)、
P(R3)3 (6)
(R3はそれぞれ独立に置換基を有することもあるフェニル基(アリール基)、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)で表されるホスフィン配位子である。ここで、R3はそれぞれ独立にフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、メチル基、エチル基、n−ブチル基などから選ばれた基であることが好ましい。また、Lで表されるホスフィン配位子は、トリフェニルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィンまたはトリ−n−ブチルホスフィンなどが好ましく、トリフェニルホスフィンは特に好ましい。
【0032】
本発明に使用するのに好適な一般式(4)で表されるパラジウム化合物としては、
【0033】
【化10】
(Tolはo−、m−またはp−トリル基を表す)などが例示できる。
【0034】
本発明に使用するパラジウム錯化合物は結晶性であり、多くの有機溶媒に溶解し、安定である。また、室温において空気中で安定である。このような物理的、化学的性質を有するために単離操作が容易であるので高純度の物質が得られやすく、保存も容易であるので工業的な使用においても取り扱い易いという特徴がある。
【0035】
本発明のに使用するパラジウム錯化合物の製造方法は特に限定されないが、文献(J. Am. Chem. Soc., Vol.117, No.15, 4305(1995))に記載された方法や以下に例示的に示す方法を採用できる。密閉できる容器に一般式(7)
Ar−COOH (7)
(式中、Arは前記に同じ)で表される安息香酸と一般式(1)
Ar−X (1)
(式中、Arは前記に同じ、但し、一般式(7)のArと同時に同じである必要はない)で表される芳香族化合物、溶媒、パラジウム化合物、ホスフィン配位子となるホスフィン、塩基性物質を仕込む。溶媒としては、融点が低い場合には一般式(1)で表される芳香族化合物が使える他、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、ピリジンなどの第三アミン類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)などの酸アミド類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホランなどの含硫黄化合物、水などを使うことができる。
【0036】
塩基性物質としては、アンモニア、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリアリルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、N−メチルモルホリンなどの第三アミン類、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどの酢酸塩、あるいは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの無機塩基などを挙げることができる。
【0037】
パラジウム化合物としては、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウムなどが好適である。
【0038】
原料各物質の使用比率は特に限定されないが、パラジウムを有効に利用するために、一般式(1)で表される芳香族化合物と一般式(7)で表される安息香酸はそれぞれ1当量以上用い、ホスフィンは2当量以上使用するのが好ましい。他の溶媒等は適宜の量を使用すればよい。
【0039】
容器は加圧してもしなくてもよく、攪拌してもしなくてもよい。仕込んだ原料などは通常は50〜150℃程度に加熱して反応の進行を速める。所定の時間が経過した後、容器を冷却して内容物を取り出す。内容物に適宜抽出溶媒を加え固形分を分離して、揮発成分を留去すれば目的とする一般式(4)で表される錯化合物が得られる。必要に応じて再結晶により精製することができる。
【0040】
本発明の反応は、無溶媒で行っても溶媒中で行ってもよい。溶媒を使用する場合、溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、ピリジンなどの第三アミン類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)などの酸アミド類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホランなどの含硫黄化合物など、通常使用されるものを使用することができる。しかしながら、溶媒を使用した場合、反応系全体の容量が増大し、より大規模な反応装置が必要となったり、1バッチ当たりの生産量が減少したりする。本発明においては反応剤として水またはアルコール類を使用しており、これらが溶媒としても機能できることから、特に他の溶媒を使用する必要はない。
【0041】
本発明の方法におけるパラジウム錯化合物の使用量は、一般式(1)で表される芳香族化合物1モルに対して通常金属として0.00001〜0.5モル、好ましくは0.00005〜0.1モル、より好ましくは0.0001〜0.1モルである。0.00001モルよりも少ないと反応の進行が遅く実用的でないので好ましくなく、また、0.5モルよりも多いことは反応の点では問題はないが経済的に不利であるので好ましくない。
【0042】
また、反応系に、一般式(6)
P(R3)3 (6)
(式中、R3はそれぞれ独立にアリール基、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)または、一般式(8)
(R4)2P−Q−P(R4)2 (8)
(式中、R4はそれぞれ独立にアリール基、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Qは二価の有機基を表す。)で表されるホスフィンを別途添加することは好ましい。ここで、R3、R4はそれぞれ独立にフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、メチル基、エチル基、n−ブチル基などから選ばれた基であることが好ましい。また、Qとしては、−(CH2)m−(mは2〜8の整数)で表されるアルキレン基などである。
【0043】
したがって、ホスフィンとしては、トリフェニルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(dppb)、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)または1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(dppe)などが好ましく、トリフェニルホスフィン、dppbは特に好ましい。
【0044】
本発明の方法で、パラジウム錯化合物とは別に反応系に添加するホスフィン類は、パラジウム金属1モルに対し、0.1モル〜100モルであり、50モル以下が好ましく、20モル以下であるのがより好ましい。100モルよりも多く使用しても、反応速度、収率などにはほとんど変化はなく、経済的に不利なだけであり、好ましくない。
【0045】
本発明において、一般式(4)で表されるパラジウム錯化合物の他にホスフィン類を反応系に共存させることは、パラジウム錯化合物の使用量を減らすことに効果があり、また、反応途中においてパラジウム金属が析出し触媒の実効濃度を下げるという好ましくない現象の発現を低減させるという点においても効果を有する。
【0046】
また、本発明における塩基の使用量は、通常、一般式(1)で示される芳香族化合物1モルに対して10.0〜1.0モル、好ましくは5.0〜1.0モル、さらに好ましくは3.0〜1.0モル使用するのがよい。この範囲より少ない場合には、反応が充分に進行せず、収率低下の原因となり、経済的に不利となり、また、未反応の一般式(1)で示される芳香族ハロゲン化物の除去あるいは回収のために後処理工程に負荷がかかるため、好ましくない。また、この範囲より多く使用しても、目的とする安息香酸エステル類の収量にほとんど変化はなく、過剰に添加した塩基が、未反応のまま、多量に残るだけであり、経済的に不利となり、また、未反応の塩基の除去のために後処理工程に負荷がかかるため、好ましくない。
【0047】
次に、本発明の製造方法の実施について述べる。一般式(1)で示される芳香族化合物、水またはアルコール類、パラジウム錯化合物および塩基、さらに必要であれば溶媒および/またはホスフィンを反応器に仕込んだ後、反応器を密閉し、系内を一酸化炭素で置換し、常圧下あるいは加圧下で反応を行う。一酸化炭素圧は、通常、常圧〜30kg/cm2、好ましくは1〜20kg/cm2、さらに好ましくは2〜10kg/cm2とするのがよい。この範囲より低い場合には、反応が充分に進行せず、収率低下の原因となり、経済的に不利となる、あるいは、反応速度が低下して反応終了までに長時間を要するなどの問題を生ずる場合があり、好ましくない。また、この範囲より高くしても、反応速度や目的とする一般式(3)で示される安息香酸または安息香酸エステル類の収量にほとんど変化はなく、また、反応装置の安全性などの問題が生じるため、好ましくない。
【0048】
また、本発明における反応温度は、通常、30℃〜200℃、好ましくは50℃〜180℃、さらに好ましくは60℃〜150℃とするのがよい。この範囲より低い温度の場合には、反応が充分に進行せず、収率低下の原因となり、経済的に不利となる、あるいは、反応速度が低下して反応終了までに長時間を要するなどの問題を生ずる場合があり、好ましくない。また、この範囲より高い温度の場合には、反応中に分解などが起こる場合があり、収率低下の原因となり、経済的に不利となり、また、分解生成物などの除去のために後処理工程に負荷がかかるため、好ましくない。
【0049】
【実施例】
次に、本発明が製法について実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
〔調製例1〕[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)の合成
容量500mlのステンレス製オートクレーブに3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン65.3g、テトラヒドロフラン100ml、酢酸パラジウム50.0g、トリフェニルホスフィン175.5g、3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸57.6g、25%アンモニア水60.8gを仕込んだ。窒素置換を2回行い、窒素圧を3kg/cm2として攪拌を始めると内温が約50℃に上昇した。その後油浴温度を120℃に設定し加熱を開始した。約2時間後、内温が95.6℃に達した時点で油浴を外し冷却した。反応液に水200mlおよびトルエン600mlを加え、氷冷下、数十分間攪拌した。得られた処理液を吸引濾過し、濾液の有機層を分液した後、飽和食塩水で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後揮発成分を留去濃縮した。濃縮初期に析出した固体を濾別し、さらに濃縮した後,n−ヘキサンを加え冷却し析出した固体を濾別し粗生成物187.5gを得た。粗生成物をトルエンから再結晶し淡黄色結晶143.0gを得た。
【0051】
[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)
融点:168−170℃(decomp.)
IR(KBr:cm−1):3060,2926,1637,1437,1321,1277,1173,1127,748,697,518
1H−NMR(基準物質:TMS 溶媒:CDCl3):
δppm 6.97(s,1H),7.09(s,2H),7.20−7.32(m,18H),7.40−7.50(m,12H),7.53(s,2H),7.62(s,1H)
31P−NMR(基準物質:85%H3PO4 溶媒:CDCl3):δppm 25.73(s)
【0052】
〔調製例2〕[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’−トリフルオロメチルフェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)の合成容量500mlのステンレス製オートクレーブに、3−トリフルオロメチルブロモベンゼン25.0g、テトラヒドロフラン75ml、酢酸パラジウム25g、トリフェニルホスフィン87.3g、25%アンモニア水38g、3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸57.5gを仕込み、調製例1と同様な操作を行って目的とする[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’−トリフルオロメチルフェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)が32.3g得られた。
【0053】
[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’−トリフルオロメチルフェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)
1H−NMR(基準物質:TMS 溶媒:CDCl3):
δppm 6.47(dd,J=7.3,7.8Hz,1H),6.77(d,J=7.3Hz,1H),6.80(brs,1H),6.95(d,J=7.8Hz,1H),7.24−7.30(m,18H),7.40−7.46(m,12H)
【0054】
[実施例1]
容量500mlのステンレス製オートクレーブに、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン200g、トリエチルアミン145g、およびテトラヒドロフラン100mlを混合し、さらに[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)2.87g、トリフェニルホスフィン1.79gおよび水100gを加えた。反応器を密閉したのち、撹拌を開始し窒素置換3回、更に一酸化炭素置換3回を行った。一酸化炭素初期圧を4kg/cm2に設定し加熱を始めた。1時間後内温が100℃に達した時点で内圧を8kg/cm2に調整した。反応中は内温100℃、内圧8kg/cm2を保った。
【0055】
12.5時間後、加温を停止し反応器を冷却。内温が50℃以下になった時点で内部ガスをパージし、内圧を常圧まで降下させた後、窒素置換を3回行って反応を終了した。
【0056】
反応液を1000mlビーカーに移液し撹拌しつつ、氷冷下濃硫酸55gを分液ロートより滴下した。滴下終了後、テトラヒドロフラン50ml、および水100mlを加え、しばらく撹拌した後、得られた溶液を分液ロートに移液し、有機層を分液した。
【0057】
2000ml三つ口フラスコに撹拌機、滴下ロート及びコンデンサー付きト字管を取り付け、500mlの温水を加えた。油浴を用いて温水の温度を85℃に保ち、そこへ滴下ロートを用いて上記の有機層を滴下した。添加開始後、しばらくしてテトラヒドロフラン−水の混合物が留出してくるので、添加量と留出量のバランスを保ちつつ浴温等を調整した。全量添加終了後、テトラヒドロフランの留出が停止し、液温および蒸気温度が上昇を開始した時点で油浴を外し室温まで冷却した。生成した沈殿を吸引濾過した後、得られた結晶を水、次いでトルエンで洗浄した。減圧乾燥後、目的とする3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸128.9gを得た。
【0058】
[実施例2]
容量500mlのステンレス製オートクレーブに、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン200gおよびトリエチルアミン145gを混合し、さらに[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)1.43g、トリフェニルホスフィン0.45gおよび水100gを加えた。その後、実施例1と同様の操作を行って、3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸130gを得た。
【0059】
[実施例3]
容量500mlのステンレス製オートクレーブに、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロモベンゼン150g、トリエチルアミン114.0gおよびトルエン75gを混合し、さらに[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)2.71gおよび水200gを加えた。その後、実施例1と同様の操作を行って、3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸84.0gを得た。
【0060】
[実施例4]
容量500mlのステンレス製オートクレーブに、3−トリフルオロメチルブロモベンゼン154gおよびトリエチルアミン145gを混合し、さらに[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)フェニルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)3.77g、トリフェニルホスフィン0.898gおよび水100gを加えた。その後、実施例1と同様の操作を行って、3−トリフルオロメチル安息香酸119gを得た。
【0061】
【発明の効果】
医薬品、農薬、各種機能材料などの製造中間体として有用な化合物である安息香酸類誘導体、トリフルオロメチル安息香酸誘導体類を容易に、かつ、効率よく製造することができる。
Claims (13)
- 一般式(1)
Ar−X (1)
(式中、Arはアリール基、Xはハロゲン(フッ素、塩素、臭素またはヨウ素)、トリフルオロメタンスルホネート基、炭素数1〜4のアルキルスルホネート基、置換または非置換アリールスルホネート基を表す)で表される芳香族化合物を触媒と塩基の存在下一酸化炭素と一般式(2)
R1OH (2)
(式中、R1は水素、アリール基または炭素数1〜10のアルキル基を表す)で表されるヒドロキシ化合物を反応させることからなる一般式(3)
- 一般式(1)で表される芳香族化合物が、少なくとも1個のトリフルオロメチル基を有する芳香族化合物である請求項2記載の安息香酸誘導体の製造方法。
- 一般式(2)
R1OH (2)
(式中、R1は水素または炭素数1〜10のアルキル基を表す)で表されるヒドロキシ化合物が水である請求項1乃至3の何れかに記載の安息香酸の製造方法。 - 一般式(4)のAr1で表されるアリール基がビス(トリフルオロメチル)フェニル基である請求項1乃至4の何れかに記載の安息香酸誘導体の製造方法。
- 一般式(4)のAr2で表されるアリール基がフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基またはビス(トリフルオロメチル)フェニル基である請求項1乃至6の何れかに記載の安息香酸誘導体の製造方法。
- 一般式(4)のAr2で表されるアリール基が、3−トリフルオロメチルフェニル基または3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基である請求項1乃至6の何れかに記載の安息香酸誘導体の製造方法。
- 一般式(4)のLで表されるホスフィン配位子が一般式(6)、
P(R3)3 (6)
(R3はそれぞれ独立にアリール基、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)で表されるホスフィン配位子である請求項1乃至6の何れかに記載の安息香酸誘導体の製造方法。 - 一般式(6)のR3がそれぞれ独立にフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、メチル基またはエチル基から選ばれた基である請求項1乃至6の何れかに記載の安息香酸誘導体の製造方法。
- 一般式(4)の両方のLがトリフェニルホスフィンである請求項1乃至6の何れかに記載の安息香酸誘導体の製造方法。
- 一般式(4)で表されるパラジウム錯化合物が、[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)フェニル−ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)または[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’−ビス(トリフルオロメチル)フェニル−ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)である請求項1乃至6の何れかに記載の安息香酸誘導体の製造方法。
- 3,5−ビス(トリフルオロメチル)ブロムベンゼンまたは3,5−ビス(トリフルオロメチル)ヨードベンゼンを[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’,5’−ビス(トリフルオロメチル)フェニル−ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)または[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアト]3’−ビス(トリフルオロメチル)フェニル−ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)と塩基の存在下一酸化炭素と水を反応させることからなる3,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸の製造方法。
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