JP3578967B2 - 一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度pc鋼棒およびその製造方法 - Google Patents

一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度pc鋼棒およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はPCポ−ル、PCパイルなどのPC構造物の補強用鋼材として用いられるPC鋼棒に関わるものであり、特に引張り強さが1420MPa以上を有し、一様伸びと遅れ破壊特性に優れる溶接可能な高強度PC鋼棒およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
コンクリ−トパイル、ポ−ルおよび橋梁、建築等のプレストレストコンクリ−ト構造物の補強用鋼材としてPC鋼棒が広く使用されている。このようなPC鋼棒はJIS G 3109「PC鋼棒」およびJIS G 3137「細径異形PC鋼棒」にて引張強さ、耐力、伸び、リラクセ−ション値が規格化されており、高強度PC鋼棒としては、引張り強さが1420MPa以上のD種規格製品まで市販されている。
【0003】
一方、地震対策のためにコンクリ−ト構造物の高靭性化要求が厳しく、コンクリ−ト構造物に瞬間的に大きな荷重が作用した場合の曲げ破壊を防止するために高強度、高一様伸びのPC鋼棒の適用が望まれている。
【0004】
特に、引張り強さ1420MPa以上、一様伸び5%以上の特性を有するPC鋼棒の開発が要求されている。
【0005】
一方、PC鋼棒は、高い一様伸びを有していても降伏比(降伏強度と引張り強さの比)が高い場合は破断部近傍の伸びのみが大きくなり、破断部から離れた部位ではほとんど伸びが発生せず、コンクリ−ト構造物として十分に高い均一な曲げ靭性が得られない。このようなことから、PC鋼棒には一様伸びと共に鋼棒全長が均一に伸び、コンクリ−ト構造物全体に発生する亀裂を全体に微細分散させるために低降伏比の鋼棒が求められている。
【0006】
さらに、PC鋼棒はスポット溶接等により骨組み構造に溶接して使用されることが多い。そのために溶接しても脆化しない溶接性が優れていることも要求される。
【0007】
さらに、プレストレストコンクリート構造物中の高強度PC鋼棒は長期間の使用中に、コンクリ−トのひび割れ部等から水分が侵入し、局部的に腐食が発生し、鋼中に水素が侵入することにより遅れ破壊を引き起こすことがある。特にスポット溶接部は母材部分に比べ急冷されるために高強度となり、遅れ破壊を発生し易い。このようなことからプレストレストコンクリート構造物の信頼性を高めるために遅れ破壊特性の優れたPC鋼棒についても要求されている。
【0008】
上記のようにPC鋼棒には、強度が高く、一様伸びが高くかつ低降伏であるとともに溶接性と耐遅れ破壊特性にも優れていることが要求されている。
【0009】
具体的にはJIS D種の1420MPa以上の引張り強さ、5%以上の一様伸びを有し、さらに溶接可能で遅れ破壊特性に優れたPC鋼棒が開発されれば、コンクリ−ト構造物の飛躍的な強度および破壊靱性向上を達成できる。
【0010】
このために、従来から上記特性を達成するための開発が行われてきた。しかし、それぞれ単独の特性は改善できても、全ての特性を満足するPC鋼棒を得ることはできていない。
【0011】
例えば、一様伸びの優れたPC鋼棒として、特開平7−3396号公報にはC量を0.45〜0.6%と高めると共に、Crを0.5〜0.8%含有する材料を焼入焼戻し工程で製造する場合の焼戻し温度を500℃以上とした高温焼戻しにより高い一様伸びと高い強度を得るPC鋼棒の製造方法が開示されている。また、特開平9−241745号公報にはC量を0.35%以下に規制し、(Si+Al)を2〜5%の多量添加して高強度と一様伸びを改善しようとする試みが行われている。
【0012】
しかしながら、前者の特開平7−3396号公報のPC鋼棒ではC含有率が0.45%以上と高いために溶接した場合、溶接部には高強度のマルテンサイトが生成し、溶接部の靭性が低下するために溶接部破断し易く、著しい靭性の低下をもたらすために溶接性に問題があった。また、後者の特開平9−241745号公報のPC鋼棒も(Si+Al)の量が多いためにスポット溶接部の熱影響部の硬度が高く、溶接部の靭性が低下するためにスポット溶接性に問題があった。
【0013】
上記のように、C量を高くしたり、合金量を増すことにより溶接性を満足することは困難である。
【0014】
また、特開平3−28351号公報には旧オ−ステナイト粒径が5μm以下のマルテンサイトを主体組織とするために400〜900℃の温度域で加工するか、もしくは塑性加工による温度上昇を利用して逆変態させることにより一様伸びを改善する技術が開示されている。しかしながら、本発明者らの実験によれば、上記開示されている技術条件は製造条件が非常に厳しいために安定して量産することが困難であり、実用性が低いものである。
【0015】
さらに、高強度材の遅れ破壊特性の改善手段としては例えば特公平5−59967号公報にはP,Sの不純物元素を低減する方法が有効であるとの提案がある。また、特開平9−227983号公報には旧オ−ステナイト結晶粒界に厚さ0.1〜10μmのフィルム状のフェライトを析出させ旧オ−ステナイト粒界の不純物濃度を低減させ、遅れ破壊特性を改善した高強度鋼が提案されている。
【0016】
しかし、上記特公平5−59967号公報の技術ではP、Sの不純物を低減するためには溶鋼での製錬を行う必要があり、コストが増加する課題があるとともに、現在の鋼のP,Sの含有量は既に0.01%レベルまで達しており、さらにP、Sを低減するためには大幅なコスト増加となるため、実用性に課題がある。また、特開平9−227983号公報の技術では溶接性、一様伸びおよび降伏比に関する記述はなく、耐遅れ破壊特性と高一様伸び特性が要求される高強度PC鋼棒材に適用するには満足すべき特性が確立されていないという問題がある。
【0017】
さらに特開平5−7963号公報にはスポット溶接部の遅れ破壊特性を改善するためにスポット溶接部の周辺に樹脂被覆層を設けることが提案されている。しかし、この方法によっても被膜の損傷を完全に防ぐことはできず、損傷部から腐食が進行した場合には、溶接部の遅れ破壊を完全に防止できない問題がある。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように従来技術では溶接性を確保しつつ高強度、高一様伸びで、かつ遅れ破壊特性までを満足したPC鋼棒を得ることはできていない。
【0019】
そこで、本発明は上記状況に鑑みなされたものであり、プレストレストコンクリ−ト構造物の破壊靭性を高めるために補強用鋼材として溶接して使用されるPC鋼棒において、1420MPa以上の高強度で、コンクリ−ト構造物中で有効に作用する高一様伸びに優れるとともに遅れ破壊特性に優れたPC鋼棒を実現し、かつその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく、高い伸びと高強度を達成するための組織形態について着目した。すなわち延性に富むフェライトと高強度化が可能なマルテンサイトからなる二相組織を形成し、その形態を制御し、フェライトを微細に析出させることにより高強度と高一様伸びという相反する特性を満足することを技術思想としている。一様伸びはフェライトの面積率に比例して高くなることから、フェライトの形状、析出面積率を適正化することによりマルテンサイトおよび焼戻マルテンサイトとの複合組織において1420MPa以上の高強度が達成可能であるかが最も重要なポイントである。強度を高めるためには軟質なフェライトは極力微細析出させる必要があり、さらにマルテンサイトも高強度のものとする必要がある。そこで、フェライトを細粒かつ微細に析出させるためにはフェライト変態の析出サイトとなる旧オ−ステナイトの細粒化が有効であることが知られている。さらに本発明では加工熱処理によりひずみを導入し、そのひずみが回復しない短時間の間に変態を行わせるために急速加熱と短時間での加工処理および焼入れを組み合わせることにより目的の組織を形成することを検討した。一方、強度への影響が最も大きい組織はマルテンサイトであり、その強度はC量によって一義的に決定される。しかし、加工を受けたオ−ステナイトから生成したマルテンサイトは加工ひずみが導入された状態で変態するためにより高い強度が得られる。そこで本発明のフェライトが存在する組織で高強度化を達成するために加熱からマルテンサイト変態終了までを短時間で行うものである。
【0021】
その結果、加工熱処理の加熱温度、加工率、加工時間、焼戻し温度を制御することにより5μm以下の微細なフェライトとマルテンサイトを主体の組織とした複合組織において、フェライト面積率を20%以上とすることにより5%以上の一様伸びが達成可能であり、40%までの範囲では大幅な強度低下が起きないことを知見した。さらに、旧オ−ステナイト粒界に一定量の微細なフェライトを優先析出させることにより遅れ破壊特性の改善も可能であること知見し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0022】
本発明は以上の知見に基づいてなされたものであって、その要旨とするところは以下の通りである。
【0023】
すなわち本発明の組織は(1)平均粒径5μm以下のフェライトとマルテンサイトまたは焼戻マルテンサイトを主体とする組織からなり、フェライトの平均面積率が20〜40%であることを特徴とした一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒である。
(2)少なくとも表層から直径の10%の厚さの領域に於いて平均粒径が3μm以下で面積率が25〜45%のフェライトとマルテンサイトまたは焼戻マルテンサイト組織からなり、表層から直径の10%の厚さより内部は平均粒径が5μm以下で面積率が15〜35%のフェライトとマルテンサイト又は焼戻マルテンサイト組織からなることを特徴とする一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒である。
(3)特に遅れ破壊特性を改善することを目的として全フェライトのうち、50%以上の面積を有するフェライトが旧オ−ステナイト粒界に析出したことを特徴とする(1)および(2)のいずれかに記載の一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒である。
(4)本発明の組織を達成するために旧オ−ステナイト粒度番号が10番以上であることを特徴とする(1)、(2)および(3)のいずれかに記載の一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒である。
(5)本発明のPC鋼棒の機械的特性は引張り強さが1420MPa以上、一様伸びが5%以上でかつ降伏比が95%以下あでることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒である。
(6)さらに本発明のPC鋼棒の成分は質量%で
C:0.2〜0.4%
Si:2.0%未満
Al:0.01〜0.1%
で、かつ(Si+Al):2.0%未満
を含有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒である。
【0024】
(7)その製造方法は鋼材を100℃/s以上の速度でAc3温度以上に加熱した後、引き続いてAr1温度以上のオ−ステナイト域あるいはオ−ステナイトとフェライトの二相域で熱間加工を行い、該加工後にAr3温度以下、Ar1温度以上の温度から臨界冷却速度以上の冷却速度でM点以下まで急冷し、必要に応じて100℃/s以上の加熱速度でAc1温度以下に加熱して焼戻すことを特徴とするものである。
(8)上記熱間圧延での累積減面率が20%以上であることを特徴とする(7)記載の一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒の製造方法である。
(9)加工の効果を最大限に有効利用するために本発明では鋼材の加熱開始からM点温度以下に冷却するまでの時間が30秒以下の短時間で処理することを特徴とする(7)および(8)記載の一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒の製造方法である。
【0025】
ここで、急速加熱を行う手段は高周波誘導加熱、直接通電加熱等により行うことができ、鋼材加熱ではAc3温度以上に、焼戻しではAc1以下の温度に100℃/s以上、より好ましくは200℃/s以上の速度で加熱できるものであれば特に加熱装置、手段は限定されない。
また、熱間加工の方法についても2ロ−ル、3ロ−ル、4ロ−ル等の圧延ロ−ルや、押し出しダイス、ロ−ラ−ダイス等の加工方法のいずれでも良く、熱間加工が安定して行え、ひずみを均一に鋼材に導入できる方法であれば特に限定されるものではない。
【0026】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明でPC鋼棒の高一様伸びおよび耐遅れ破壊特性と高強度を達成するための最も重要なポイントとなる組織形態の限定理由について述べる。
【0027】
本発明の組織は微細なフェライトとマルテンサイトあるいは焼戻マルテンサイトを主体とした複合組織である。組織の走査型電子顕微鏡写真の一例を図1に示す。この組織は表1のAの成分の鋼材を10mmから7.1mmに50%の減面率で圧延、焼入れ後に焼戻しを行い引張り強さを1458MPa、に調整し、一様伸び5.6%の特性が得られたものである。得られた組織の特徴は焼戻マルテンサイトの周囲に多くの微細なフェライト(黒い部分)が存在しており、その平均粒径は2.1μmである。このフェライトは表層近傍では主に旧オ−ステナイト粒界に析出しているが、中心部では粒内への析出も認められる。旧オ−ステナイト粒界への析出フェライトは全析出フェライトに対する面積率が、表層で約80%、中心部では約55%である。このような組織に制御するには、加工熱処理を適用し、加熱速度、加工温度、焼入温度を適正化することにより可能となる。
【0028】
即ちAc3温度以上のオ−ステナイト域に加熱された後、熱間加工されるが、このとき、Ar3温度以上の高温領域での加工では、再結晶により旧オ−ステナイトが細粒化し、引き続きAr3温度以下、Ar1温度以上の二相域で加工されることにより、フェライトが変態析出する。さらに、二相域から焼入れることによりオ−ステナイト相がマルテンサイト変態し、変態析出した微細のフェライトとマルテンサイトからなる複合組織とすることができる。
本発明のフェライトとマルテンサイトからなる二相組織はAr3温度以下Ar1温度以上の二相域温度範囲で焼入温度を調整し、フェライトの面積率を20%以上とすることにより一様伸びが5%以上が得られ、引張強さは焼戻し温度を制御することにより1420MPa以上に調整可能である。一方、Ar3温度より焼入温度が高い場合はフェライトが析出せず、マルテンサイト単相の組織となり引張り強さを1420MPaに調整した場合の一様伸びは2〜3%程度である。逆に焼入温度がAr1温度以下と低い場合はフェライトと、パ−ライトからなる組織となり、引張り強さで1420MPaの高強度は得られない。
【0029】
フェライトは主に旧オ−ステナイト粒界を核生成サイトとして析出し、加工を行うことにより旧オ−ステナイトが細粒化すること、さらにひずみが導入されることにより同一焼入温度でも核生成サイトが増し、より多くのフェライトが変態析出するとともに析出フェライトの粒子は細粒となり、強度、延性が高い特性を得ることができる。
【0030】
フェライト粒径は一様伸びには直接影響を及ぼさないが、強度に影響し、細粒のフェライトとすることにより高い強度が得られる。しかし、5μmより大きいフェライト粒径では1420MPa以上の高強度が得られないために5μmを上限とした。さらに高強度化の観点からは5μm以下の細粒フェライトとすることがより好ましい条件であり、より細粒のフェライトとすることによりフェライト面積率が多くても高い強度が確保できる。また、フェライトは一般にリラクセ−ション特性を悪化させるが細粒化によりその影響は小さくなり、温間でのリラクセ−ション特性は、フェライトの存在しない従来のPC鋼棒と同等にできる。
【0031】
次に粒状のフェライトとマルテンサイトおよび焼戻マルテンサイトを主体とする複合組織に於いてフェライト面積率と一様伸びの関係について述べる。本発明の組織ではフェライトにより一様伸びを高めるためにフェライトの面積率の増加により一様伸びは改善される。しかし、20%未満のフェライト面積率では一様伸びの改善効果は小さく、20%以上のフェライトとすることにより5%以上の大幅な一様伸びが可能となる。耐震性を考慮した高靭性コンクリ−ト構造物の補強筋として5%以上の一様伸びが要求されており5%以上の一様伸びを達成するためのフェライト面積率を20%以上とした。しかし、40%以上の多量なフェライトが析出しても一様伸びの改善効果は小さく、逆に強度が低下し、1420MPaの高強度が達成できなくなるためにフェライトの面積率は40%を上限とした。
【0032】
PC鋼棒はスポット溶接を行うことによりPC構造物の骨組み構造を形成するが、この溶接部分では鋼材表面が溶解し、短時間で急冷されるために高強度のマルテンサイトが生成し易い。特にC量が高いと硬いマルテンサイト組織となり、靭性が低下する。このため本発明では表層部での溶接性と素材としての強度を考慮して成分および表層部の組織の限定を行った。即ちC量は溶接性の観点から0.4%を上限とし、強度の観点から0.2%を下限とした。
【0033】
また、少なくとも溶接の熱影響を受ける表層から線径の10%未満の領域にはより多くのフェライトを析出させることにより溶接熱影響部の表層部の硬化を低減し、溶接性を確保した。そのために、表層から直径の10%未満の領域におけるフェライト量と粒径を限定した。すなわち、表層部のフェライト面積率を25%を下限とし、引張り強さを確保するために45%を上限とし、その粒径は3μm以下とした。この場合表層部を除く内部については、1420MPa以上の引張り強さを確保するためにフェライト面積率は35%を上限とし、5%以上の一様伸びを確保するために15%を下限とし、粒径は5μm以下とした。
【0034】
析出したフェライトは旧オ−ステナイト粒界に優先的に析出するものの加工を受けた場合には粒内の変形帯に沿っても析出する。この時、優先的に粒界にフェライトを析出させることにより粒界破壊を特徴とする遅れ破壊特性が改善される。この、遅れ破壊特性の改善はフェライトが粒界にどれだけの割合で析出しているかにより決定され、スポット溶接後の鋼材を張り強さの70%の引張荷重を負荷した状態で50℃、20%チオシアン酸アンモニウム溶液に浸漬した状態で破断時間を求めた。その結果、析出した全フェライト粒子の面積に対して50%以上の面積率のフェライト粒子が旧オーステナイト粒界に存在していればフェライト析出のない同等の強度を有する鋼材に比べ著しい破断時間の延長が確認された。逆に50%未満の面積比率のフェライト粒子が旧オーステナイトに析出した場合はフェライトの析出のない鋼材と同等の遅れ破壊破断時間となったことから、遅れ破壊特性を改善するフェライト粒子のオ−ステナイト粒界への析出割合は全析出フェライトに対して面積率で50%を下限とした。
【0035】
次に本発明の成分限定理由について述べる。
C:CはPC鋼棒の強度、溶接性に対して最も大きな影響を及ぼす元素である。溶接性はC量が少ないほど良好であり、高強度化の観点からはC量が多いほど好ましい。C量が0.2%未満では1420MPaの高強度は得られないことから0.2%を下限とした。また、0.4%を越えるとスポット溶接性が著しく悪化し、溶接部からの破断一様伸びの低下をもたらすことから0.4%を上限とした。
高い引張り強さと溶接性を両立させるには望ましくは0.25〜0.35%である。
【0036】
Si:Siはリラクセ−ション特性を向上させると共にフェライト中に固溶し、固溶強化により強度を高める作用がある。
しかし、Siが多いと加熱時に表面に剥離し難い薄いスケ−ルが形成され、溶接性を悪化するとともに熱影響部の強度を高め溶接部の靭性を低下させる。このようなことから、Si量は2%を上限とした。
【0037】
Al:Alは脱酸元素であるととともにAlNを析出することによりオ−ステナイト粒の成長を抑制する効果がある。オ−ステナイト粒の細粒化によりフェライトの核生成サイトを増し、フェライトの変態析出を制御することができる。しかし、0.01%未満では上記の効果が不十分で、0.1を越えると効果が飽和するばかりでなくAlの硬質介在物が多量に生成し、加工性を悪化させることから0.01〜0.1%とした。
さらに、SiとAlはCを下げた場合に引張り強さを増すために効果はあるが、溶接性を阻害する。そこでリラクセ−ション特性と一様伸びおよび溶接性を改善するためにSi、Al単独の成分とともにSi+Alの合計の含有量を2%未満、に限定した。より好ましくは1.7%以下とする。
【0038】
なお、本発明のPC鋼棒の成分は溶接性を阻害しない限り、他の合金元素を排除するものではない。
【0039】
本発明のPC鋼棒の旧オ−ステナイト粒度はフェライトを微細析出させるために少なくとも10番以上の細粒とした。より好ましくは11番以上の細粒である。
【0040】
本発明のPC鋼棒は一様伸び5%以上、引張り強さ1420MPa以上で降伏比が95%以下のものである。
【0041】
次に本発明の製造方法について説明する。図2は本発明のPC鋼棒の製造に用いた装置の配置図である。図3は被加工鋼棒の熱履歴を模式的に示した図である。
【0042】
図2は被加工鋼棒(以下ワークと言う)Wを導入するピンチロ−ル1の下流に2つの焼入用高周波誘導コイル2,3が配置されワ−クWを所定の温度に急速加熱する。焼入用高周波誘導コイル2,3の下流に2スタンドの3方ロ−ル4,5がタンデムに配列される。これらのロ−ルにより所定の減面率で熱間圧延されたワ−クは、直ちに焼入冷却ジャケット6により急冷されて加工焼入れされる。その後、焼戻し高周波誘導コイル7により所定の焼戻し温度に加熱されて、焼戻し冷却ジャケット8により急冷されて焼戻される。こうして加工、焼入れ、焼戻しされたワ−クWはピンチロ−ル9により送り出される。
【0043】
図3は上記の工程におけるワ−クの熱履歴を模式的に図示したものである。通常の熱間圧延においては、ワ−クWはAc3温度を越える温度fまで加熱された後にAr3温度以上の温度領域で加工され、Ar3温度以上のgにて加工が終了する。
【0044】
これに対して本発明の製造方法はワ−クWは通常、常温からAc3温度を超える温度fまで100℃/s以上の加熱速度で急速加熱される。加熱後ワ−クWは3方ロ−ルにて加工されるが加工の開始はAr3温度より高い温度から加工され加工時にワ−クWは急激に温度低下し、最後の加工が行われる温度はAr3以下、Ar1以上の二相域で加工される。このときの減面率は累積で20%以上である。
【0045】
圧延加工されたワークWは二相域温度のgから冷却ジャケットにより臨界冷却速度以上で急冷されM点以下の温度に至りマルテンサイト変態を生じ、M点を通過してマルテンサイト変態が終了する。このように加工焼入れされたワークWの組織は微細なフェライトとマルテンサイトからなる組織となる。
【0046】
本発明では、前記加熱開始から加熱、圧延加工、冷却によりM点を通過するまでの時間を30s以内とした。望ましくは20s以内である。このように高温に加熱される時間が短い短時間処理を行うことにより旧オーステナイトの粒成長の抑制、さらには導入したひずみの回復、変態析出フェライトの粒成長が抑制され微細なフェライトとマルテンサイトからなる組織を得ることができる。この結果、従来の技術では実用化が困難であった高い引張り強さとともに高い一様伸びを有するPC鋼棒を実用的に得ることができた。
【0047】
次に本発明の製造方法の各条件の限定理由について説明する。
加熱温度:本発明の加熱温度は加熱前鋼材の組織全てを完全にオ−ステナイト化するためにAc3温度以上とした。オ−ステナイト結晶粒度を微細化するためにはAc3温度+10〜30℃の範囲がより好ましいが本発明の誘導加熱、短時間保持の場合にはこれより高い温度に加熱しても加熱速度が速く保持時間がほとんどないためにオ−ステナイトの成長抑制が可能である。
急速加熱手段は高周波誘導加熱、直接通電加熱等が適用可能であり、100℃/s以上の加熱速度と、目的の温度への高精度な制御が可能であれば特に加熱装置、手段は限定されない。
【0048】
圧延温度はオ−ステナイト化処理後から圧延を行い、圧延開始温度はAr3温度以上の温度でもかまわない。最終の加工を行う仕上げ温度は、Ar3温度以下、Ar1温度以上とし、この温度範囲から臨界冷却速度以上の速度で冷却し、焼入れを行う。
【0049】
圧延減面率:圧延時にワ−クに加工歪を導入し、オ−ステナイトの細粒化とフェライトの変態を促進する。このためには累積の減面率で20%以上が必要であり、好ましくは30%以上であるが上限は特に規制されるものではなく、経済性と圧延機の能力により制限される。
【0050】
焼入温度:焼入温度は目的のフェライト面積率を得るために本発明において最も重要な制御因子である。焼入温度はAr3温度以下、Ar1温度以上の範囲内とする。温度が高い時にはフェライトの生成が少なく、強度は高くなるものの一様伸びは低下する。温度が低いとフェライトが多く生成し、マルテンサイトが減少し、一様伸びは高くなるものの強度は低下する。最適焼入温度は、鋼材成分、加熱温度、加熱速度、圧延減面率によっても異なる。本発明のように、急速加熱される場合には比較的高温でも目的のフェライト面積率を得ることができる。
【0051】
焼入速度は加工終了時に残存しているオ−ステナイトを完全にマルテンサイトに変態させることができる臨界冷却速度以上とする。
【0052】
焼戻し:焼入れ後、必要に応じて焼戻しを行い焼戻マルテンサイトとフェライト組織とする。焼戻し温度を高くするとマルテンサイト強度が低下し、素材の強度も低下する。焼戻し温度の範囲はオ−ステナイトが再生成しないAc1温度以下とするが急速加熱、短時間処理の場合はAc1よりやや高い温度で行う場合もある。
さらに、焼戻し加熱速度は粒界への炭化物の析出による粒界脆化を抑制するために本発明では急速加熱とし、加熱速度は100℃/S以上とする。
焼戻しの加熱手段についても高周波誘導加熱、直接通電加熱等が適用可能であり、100℃/s以上の加熱速度と、目的の温度への高精度な制御が可能であれば特に加熱装置、手段は限定されない。
以上の製造方法により一様伸びと遅れ破壊特性に優れた溶接が可能な高強度PC鋼棒の製造が可能となる。
【0053】
【実施例】
【表1】
Figure 0003578967
【0054】
【表2】
Figure 0003578967
【0055】
以下、実施例により本発明の効果を更に具体的に説明する。
表1に示した成分の鋼材を用いて図2に示した加工装置により引張り強さが1420MPa以上のPC鋼棒の製造を行った。表2には製造条件を示す。表1の鋼種A〜DはSiが0.25から1.91%の範囲のもので、FはCが下限、Mnが上限成分である。また、比較例としてHはCが上限を越え、IはCが下限以下、であり、さらにJはSiおよびSi+Alが上限を越えた成分の鋼種である。
加工は上記鋼種を11mmに熱間圧延した後に10φに冷間伸線を行い供試材とした。
【0056】
表2の本発明の1〜13の製造条件は10φの圧延素材の送り速度を150〜250mm/sとして高周波誘導加熱により110〜180℃/sの加熱速度とし、加熱温度を変え、焼入温度を調整し、フェライトの面積率および粒径を制御し、焼戻し温度を調整することにより強度を目標の1420MPa以上とした。ここで加工温度は図2の加熱コイル3の出口aで加熱温度を、第1スタンド4と第2スタンド入り口の間bで加工温度を、第2スタンド5を出て冷却ジャケット6の入り口cで焼入温度を、冷却ジャケット6の出口dで焼入終了温度を、さらに焼戻し加熱コイル7の出口eで焼戻し温度を測定した。加工減面率は22%、50%、73%に変えて圧延した。比較例は全く加工を行わない条件と減面率の下限以下の16%で加工を行った。
【0057】
加工中のワ−クWの温度変化は第1スタンド出口で約150〜200℃、第2スタンド出口で約50℃程度の低下であり、第1スタンド出口からの温度変化は小さい。また、水冷ジャケット6の出口の温度は35℃でほぼ常温まで低下している。加熱温度は鋼材のC、Si量で異なり、900〜1050℃の範囲でオ−ステナイト化した。焼入温度は主に加熱温度と、送り速度を変えて調整した。本発明の加工時間は加熱開始から焼入終了までの時間は送り速度250mm/sで約15s、最も遅い150mm/sで25sであった。
【0058】
これに対して比較例として鋼材A、Bを用いたNO.21,26は炉加熱による加熱および焼戻しを行い加熱から焼入れまでの時間は30min程度と長い。No.19,24は加工減面率が16%で本発明の下限の20%以下である。さらに従来のPC鋼棒の製造工程である高周波誘導加熱による急速加熱を行い、加工を行わない条件として、No.20,25を実施した。
【0059】
【表3】
Figure 0003578967
【0060】
表3に表2の条件で製造したPC鋼棒の特性の調査結果を示した。特性は引張強さ(TS)、降伏強さ(YS)、降伏比(YR=YS/TS)、一様伸び(ELu)、およびスポット溶接後の一様伸びと、さらに組織観察、リラクセーション特性、および遅れ破壊特性を調査した。ここで一様伸びは評点距離100mmの伸び計を用いて荷重伸び線図を作成し、最大到達荷重までの伸び率から求めた。組織の観察は長手方向に切断し、表層から線径の10%までの領域を表層、内部として走査型電子顕微鏡で観察し、2000倍の写真を撮影し、画像解析装置を用いてフェライトの面積率、円相当換算の平均粒径を求めた。
【0061】
リラクセ−ション試験は規格破断荷重の70%の荷重を付加し、図5に示す温度パタ−ンの温間リラクセーション条件とし、23時間後の荷重減少率で評価した。
【0062】
また、溶接性の評価は鋼材に直行して3.2mmの線径のJIS SWRM8の軟鋼線材を以下の溶接条件にてスポット溶接を実施し、溶接後に引張試験を行い一様伸びを測定し評価した。
Figure 0003578967
遅れ破壊試験はスポット溶接後の素材に規格引張強さの70%の荷重を付加した状態で50℃、20%のチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬し、破断時間で評価した。
【0063】
その結果、本発明のPC鋼棒は減面率50%で7.1mmまで圧延をした条件では各鋼種とも引張り強さが1420MPa以上で、降伏比は88〜94%の範囲で、一様伸び5.5〜6%の特性が得られた。さらに加工減面率が73%と高い条件ではより高い一様伸びが得られ、最高で6.8%の一様伸びとなった。逆に加工減面率が22%では引張り強さを1420MPa以上に調整した場合は5%の一様伸びを確保できるぎりぎりの条件である。また、スポット溶接後の一様伸びの値も溶接前とほとんど差はなく溶接による靱性の劣化はない。
【0064】
比較例の加工を行わない場合および加工減面率が16%の条件では引張り強さを1420MPaに調整した場合、フェライト面積率が最高でも15%で、一様伸びは3.9%で5%の一様伸びは得られなかった。さらに降伏比は96%以上で、局部的に伸びている。Cが低い成分の鋼種を用いたNo.28でも引張り強さを1420MPa以上に調整することは可能であるが焼戻し温度を低く設定するために降伏強度が低く、PC鋼棒のD種の降伏強度である1275MPaに達しない。逆にCが4%以上あるいはSi+Alが2%以上と高いNo.27,29はスポット溶接後に溶接部破断し、一様伸びが著しく低下し、溶接は不可能である。
【0065】
上記機械的特性を組織面から解析した。本発明のフェライト面積率は21〜38%の範囲で粒径は1.1〜3.5μmであった。特に表層部は細粒のフェライトが多数析出し、フェライト面積が多く、25〜42%、粒径は1.0〜2.9μmと細粒である。これに対して、中心部はフェライト面積率が18〜36%と少なくフェライト粒径ははわずかに粗大化し、2.0〜4.3μmである。これに対して比較例のNo.20,25は加工を全く行わない、従来のQT処理材であり、全て焼戻マルテンサイトからなる組織であり、フェライトは析出していない。また、加工減面率が16%と少ないNo.19,24の場合もフェライト面積率はそれぞれ13,15%と少なく5%以上の一様伸びは得られなかった。また、炉加熱により加熱から焼入れまでの時間が長いNO.21,26もフェライトは少なく面積率で17,16%でそのフェライト粒径は10μm以上である。
【0066】
さらに多くの試料について、鋼材断面のフェライト面積率の平均値と一様伸びの関係を調査した結果を図4に示す。図から明らかなようにフェライト面積率と一様伸びの間には明瞭な相関関係が認められる。この結果から5%以上の一様伸びを得るためにはフェライト面積率は少なくとも20%以上であることがわかる。しかし、40%以上の多量のフェライトが析出しても一様伸びの増加におよぼす影響は小さく、逆に強度の低下が大きくなり1420MPa以上の引張り強さが達成できなくなるために上限を40%としたものである。
【0067】
本発明のフェライト粒径は表3に示すように平均で5μm以下で、表層部は3μm以下の細粒である。フェライトの細粒化はフェライトの析出による強度低下を抑制することができるので高強度化のためにはより好ましい。
【0068】
フェライトは一般にリラクセーション特性を悪化させるが、細粒化により、その影響は小さく表3に示すように本発明のPC鋼棒は図5に示す温度条件でのリラクセ−ション特性はすべて5%以下であり、従来のPC鋼棒の特性と同等のものである。
【0069】
遅れ破壊特性の調査結果を表3に併せて示す。本発明の供試材は平均破断時間がすべて50時間以上で比較例に比べ著しく改善されており、遅れ破壊特性が著しく改善されることがわわる。
【0070】
さらに、本発明の旧オーステナイト粒度はすべて10番以上の細粒で、加工減面率が73%と大きい条件のNO.5,10は12番以上の細粒となり、この細粒のオ−ステナイト粒がリラクセ−ション、強度、遅れ破壊特性の改善に対しても有効に作用したことが推定される。これに対して比較例のNO.21,26の炉加熱を行った条件では旧オーステナイト粒度が7番台であり粗大化した。
【0071】
旧オ−ステナイト粒径の細粒化と加工ひずみの導入によりフェライトの変態析出サイトが増え、微細かつ多くのフェライトが変態析出を可能とした。一方、比較例ではフェライトの析出サイトが著しく減少し、5%以上の一様伸びを確保するのに十分なフェライトを析出することはできず、かつそのフェライト粒径も粗大化するために高強度も達成できていないか、強度と一様伸びの目標が達成できても溶接時に靱性の劣化が著しく溶接後に一様伸びが大きく低下した。
【0072】
次に本発明の製造方法の各条件の影響について説明する。
加熱温度は鋼材を完全にオ−ステナイト化し、オ−ステナイト粒度をより微細化することによりフェライト変態の促進を図る。このために加熱温度は完全にオ−ステナイト化し、かつオーステナイトの粒成長を抑制するために極力低くすることが好ましい。表2の同一鋼種の加熱温度を変えた条件で比較すると本発明の中でも加熱温度が低い方がオーステナイト粒が細粒化しフェライト面積の増加、フェライトの細粒化となり、より高い一様伸びが得られる。圧延は第1スタンドではAr3温度以上の高温で圧延され、ここでは再結晶によるオーステナイト粒の微細化が起きる。次いでAr3温度以下の低温で圧延されることによりひずみの導入と、フェライトの析出、オーステナイト粒の変形が相次いで起こる。この析出状況および変形度を制御するために本発明では加工減面率を20%以上とした。表3の特性に示すとおり本発明の20%以上の加工減面率では20%以上のフェライト面積率とフェライトの細粒化が達成でき、1420MPa以上の引張り強さと5%以上の一様伸びが達成できる。焼入温度はフェライトの面積率、粒径を制御する上で重要な制御因子である。Ar3温度以下Ar1温度以上の温度範囲に制御し、最適焼入温度は加熱温度、速度、圧延減面率、圧延速度により異なるが温度が高いとフェライト面積率が少なく、一様伸びは低い。温度の低下に伴いフェライトは多くなるが逆に引張り強さは低下する。焼戻しは引張り強さ、降伏比を制御する因子であり高温での焼戻し処理により引張り強さは低下するものの降伏強度は高くなり、降伏比も高くなる。焼戻し温度は成分により焼戻し軟化抵抗が異なるためにSiが高い成分の材料では高温に設定するが組織変化が起きない範囲とし、Ac1温度以下とする。また、D種強度として十分な引張り強さと降伏強度が確保でき、一様伸びが5%達成可能であれば必ずしも焼戻し処理は必要ではない。
【0073】
以上述べたように、本発明により質量%でC:0.2〜0.4%、Si:2%未満、Al:0.01〜0.1%で、かつSi+Al:2%未満の成分で低CでSiなどを少量含有する20〜40%の面積率の粒状の微細フェライトとマルテンサイトおよび焼戻マルテンサイトの2相組織とすることにより引張り強さ1420MPa以上で、5%以上の高い一様伸びを有し、かつ溶接が可能で、特別な合金元素を添加すること無しに遅れ破壊特性に優れたPC鋼棒を実用化することができた。
【0074】
本発明の方法は、フェライトの変態析出、フェライト形態の制御のために急速加熱、短時間での加工熱処理を行い、より細粒のオ−ステナイトおよび変態の核生成サイトを導入し、有効に作用させることにより目標の組織を造り込むものである。
【0075】
このように引張り強さが1420MPa以上で一様伸びが5%以上の溶接可能で遅れ破壊特性にも優れた JIS D種のPC鋼棒が実用化されることにより、耐震対策としてのコンクリ−ト構造物の強度、靱性の大幅な改善が図られる。
【0076】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明の一様伸びに優れたPC鋼棒とその製造方法によれば、従来多くの研究がなされ発明もされているが、なお実用化されていない高強度で溶接可能な高い強度、靱性を有するPC鋼棒が得られる。具体的には一様伸びが5%以上で引張り強さが1420MPa以上のJIS D種の性能を有し、かつ溶接が可能な遅れ破壊特性にも優れたPC鋼棒の実用化が可能になった。これによりプレストレストコンクリ−ト構造物の強度、靱性向上が図られ、有効な地震対策をとることができ、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の組織例
【図2】本発明の製造装置配置例
【図3】本発明の被加工鋼材の熱履歴の例
【図4】フェライト面積率と一様伸びの関係
【図5】リラクセ−ション温度パタ−ン
【符号の説明】
W:ワ−ク(被加工鋼材)
1:ピンチロール
2,3:焼入誘導加熱コイル
4:第1圧延スタンド
5:第2圧延スタンド
6:焼入冷却ジャケット
7:焼戻し誘導加熱コイル
8:焼戻し冷却ジャケット
9:ピンチローラー

Claims (9)

  1. 平均粒径が5μm以下のフェライトとマルテンサイトまたは焼戻マルテンサイトを主体とする組織からなり、フェライトの平均面積率が20〜40%であることを特徴とする一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒。
  2. 平均粒径が5μm以下のフェライトとマルテンサイトまたは焼戻マルテンサイトを主体とする組織からなり、少なくとも表層から直径の10%の厚さの領域に於いて平均粒径が3μm以下で面積率が25〜45%のフェライトとマルテンサイトまたは焼戻マルテンサイト組織からなり、表層から直径の10%の厚さより内部は平均粒径が5μm以下で面積率が15〜35%のフェライトとマルテンサイト又は焼戻マルテンサイト組織からなることを特徴とする一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒。
  3. 全フェライトのうち、50%以上の面積を有するフェライトが旧オ−ステナイト粒界に析出したことを特徴とする請求項1又は2に記載の一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒。
  4. 旧オ−ステナイト粒度番号が10番以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒。
  5. 引張り強さが1420MPa以上、一様伸びが5%以上でかつ降伏比が95%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒。
  6. 質量%で
    C:0.2〜0.4%
    Si:2.0%未満
    Al:0.01〜0.1%
    で、かつ(Si+Al):2.0%未満
    を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒。
  7. 鋼材を100℃/s以上の速度でAc3温度以上に加熱した後、引き続いてAr1温度以上のオ−ステナイト域あるいはオ−ステナイトとフェライトの二相域で熱間加工を行い、該加工後にAr3温度以下、Ar1温度以上の温度から臨界冷却速度以上の冷却速度でM点以下まで急冷し、必要に応じて100℃/s以上の加熱速度でAc1温度以下に加熱して焼戻すことを特徴とする一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒の製造方法。
  8. 熱間圧延での累積減面率が20%以上であることを特徴とする請求項7記載の一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒の製造方法。
  9. 鋼材の加熱開始からM点温度以下に冷却するまでの時間が30秒以下の短時間で処理することを特徴とする請求項7又は8記載の一様伸びと遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒の製造方法。
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