JP3547873B2 - 熱可塑性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐衝撃性と顔料着色性に優れた耐衝撃性樹脂に関する。
【0002】
【従来技術】
一般に、樹脂材料を工業用途に用いる場合、成形加工後の外観、機械強度、さらに無塗装で使用する場合には太陽光や降雨によって変色、物性低下の少ない、いわゆる耐候性が良好であると同時に、顔料等の着色剤を混合した際の発色性、顔料着色性が良好でなければならない。
【0003】
特に、車輛分野で用いられる樹脂部品においては、成形外観、衝撃強度および顔料着色性が高いレベルである必要がある。このうち、衝撃強度は一般にASTM D256試験法に準拠したアイゾット衝撃強度で評価されるが、例えば自動車外装用材料に使用可能かどうかの見極めは室温での衝撃強度に加え、−30℃あるいは−40℃といった低温雰囲気下での衝撃強度を持って判断される。自動車外装部品用樹脂材料として必要な低温雰囲気下でのアイゾット衝撃強度は、それぞれの用途によって異なるが、常温での衝撃強度に加え、低温雰囲気下での衝撃強度の高い樹脂材料は、材料の耐久性に関する信頼度が高いために、工業的価値が高い。
【0004】
また、車輛分野に用いる樹脂材料に要求される顔料着色性は、用途や所望する色相によって異なるものの、一般には最も代表的な色調である黒色の発色性をもって評価される。この場合、評価法としてはカーボンブラック等の着色剤を一定量添加した樹脂成形品の明度(L*)を色相色差分析より求めることによって行われ、L*値が小さい樹脂材料ほど顔料着色性が優れていると判断される。同一の着色条件でL*値の小さい材料は、工業用材料として様々な色調に着色する場合に用いる着色剤の使用量が減らせるためコストダウンを図れることができ、さらに着色剤添加による樹脂材料が本来有している物性の低下が少なくなるため、工業的価値が高い。
【0005】
従来、このように特に高度な耐衝撃性と顔料着色性が要求される用途に対応する方法としては、例えば耐衝撃性の高い樹脂材料表面に耐候性および顔料着色性に優れた樹脂材料を積層する方法、塗装する方法あるいは被覆する方法等が用いられているが、これらは煩雑な工程を要するため高いコストとなり、工業的に好ましい方法とはいえない。
【0006】
ポリカ−ボネ−ト樹脂は、その優れた耐衝撃性あるいは耐熱性を生かして様々な工業用用途に用いられているが、成形加工温度が高い、流動性が悪い、あるいは衝撃強度の厚み依存性が大きい等の欠点を有している。
従来、これらポリカ−ボネ−ト樹脂の欠点を改良する方法として、ポリカ−ボネ−ト樹脂にABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)系樹脂をブレンドすることが、特公昭38−15225号公報、特公昭48−12170号公報等に記載されている。
しかしながら、ポリカ−ボネ−ト樹脂にABS系樹脂をブレンドする方法では、得られる樹脂組成物の成形性および耐衝撃性は良好であるが、耐候性が不良であり、無塗装状態での自動車外装用材料等には使用できない。
さらにポリカ−ボネ−ト樹脂系樹脂組成物の耐候性を改良し、かつ上記ポリカ−ボネ−ト樹脂の欠点を克服する方法として、特開昭64−79257号公報に、ポリオルガノシロキサンおよびポリアルキル(メタ)アクリレ−トからなる複合ゴムにビニル系単量体がグラフト重合されてなる複合ゴム系グラフト共重合体をポリカ−ボネ−ト樹脂にブレンドすることが提案されている。
【0007】
また、ABS系樹脂の耐衝撃性改質剤としての効果を向上させ、特に低温雰囲気下での衝撃強度を向上させる方法として、特開平6−1897号公報にポリカ−ボネ−ト樹脂および/またはコポリエステルカ−ボネ−トならびにSAN系樹脂(スチレン−アクルロニトリル共重合体)からなる樹脂マトリックスにABS系樹脂およびポリオルガノシロキサンとポリアルキルアクリレ−トを含む複合ゴムにビニル単量体がグラフト重合されてなる複合ゴム系グラフト共重合体からなる樹脂組成物を用いる方法が提案されている。
【0008】
また、特開平7−126510号公報には、ポリカーボネート樹脂、ABS系樹脂、リン酸エステル、ポリテトラフルオロエチレン、無機充填剤およびポリオルガノシロキサンとポリアルキルアクリレ−トを含む複合ゴムにビニル単量体がグラフト重合されてなる複合ゴム系グラフト共重合体からなる樹脂組成物が提案されている。
【0009】
また、特開平7−133417号公報には、ポリカーボネート樹脂、ゴム強化樹脂、ポリオルガノシロキサンとポリアルキルアクリレ−トを含む複合ゴムにビニル単量体がグラフト重合されてなる複合ゴム系グラフト共重合体およびハロゲン系化合物からなる樹脂組成物が提案されている。
【0010】
さらに、特開平6−157889号公報には、ポリオルガノシロキサンとポリアクリレ−トからなる複合ゴムにビニル系単量体がグラフト重合されてなる複合ゴム系グラフト共重合体とポリカ−ボネ−ト樹脂とのブレンド体の顔料着色性を改良する方法として、数平均粒子径が0.01μm〜0.07μmで0.10μmより大きい粒子の体積が全粒子体積の20%以下である複合ゴム系グラフト共重合体を用いることが提案されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開昭64−79257号公報ではポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートとからなる平均粒子径0.08〜0.6μmの複合ゴムにビニル系単量体がグラフト重合されてなるグラフト共重合体について、耐衝撃性を発現させるための複合ゴム中のポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートの比率およびグラフト成分量については言及しているものの、実施例にはグラフト成分量が30重量%のグラフト共重合体しか記載されておらず、これらのグラフト共重合体を含む樹脂組成物の顔料着色性は不良となるため、例えば自動車外装用材料等の高度な意匠性の必要な用途に利用することができない。
【0012】
また、特開平6−1897号公報に記載されている樹脂組成物は、ABS系樹脂中のポリブタジエンに起因して耐候性が不良である。さらに樹脂組成物の顔料着色性に関しては記載がなく、また実施例に示された樹脂組成物はいずれも顔料着色性が不良のため、ポリカ−ボネ−ト樹脂が本来有している優れた意匠性を損ない、例えば自動車外装用材料等の高度な意匠性の必要な用途に利用することができない。
【0013】
また、特開平7−126510号公報に記載されている樹脂組成物は、ジエン系ゴム成分を含有するため、耐候性が不良であり、さらにこの発明の目的は樹脂材料の難燃性および耐衝撃性に関するもので、樹脂材料の顔料着色性を向上させる具体的な方法は示していない。また、樹脂組成物を構成するポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレートゴムからなる複合ゴムにビニル単量体をグラフト重合させたグラフト共重合体の構造については言及しているものの、低温雰囲気下での耐衝撃性および顔料着色性を向上させるためのグラフト共重合体の構造については示しておらず、また実施例に示された樹脂組成物はいずれも顔料着色性が不良のため、例えば自動車外装用材料等の高度な意匠性の必要な用途に利用することができない。
【0014】
また、特開平7−133417号公報の発明は、樹脂組成物の難燃性と耐衝撃性に関するものであり、樹脂材料の顔料着色性を向上させるための方法については具体的に示されていない。また、樹脂組成物を構成するポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレートゴムからなる複合ゴムにビニル単量体をグラフト重合させたグラフト共重合体の構造については言及しているものの、低温雰囲気下での耐衝撃性および顔料着色性を向上させるためのグラフト共重合体の構造については示しておらず、また実施例に示された樹脂組成物はいずれも上記特開昭64−79257号公報記載の実施例に準拠して製造されたグラフト共重合体を用いた例しか記載されておらず、この方法で製造されたグラフト共重合体を含有する樹脂組成物の顔料着色性は不良となるため工業的価値が低い。
【0015】
一方、特開平6−157889号公報に提案されている数平均粒子径0.01〜0.07μmで0.10μmより大きい粒子が20体積%以下のグラフト共重合体を用いる方法では、顔料着色性には優れるものの自動車外装部品等で要求される−30℃あるいは−40℃といった低温雰囲気下での耐衝撃性が低いため、使用できる用途が限られるため工業的利用価値が低い。
【0016】
すなわち従来は、ポリカ−ボネ−ト樹脂およびSAN系樹脂をマトリックスとする樹脂材料において耐候性や顔料着色性を損なうことなく、耐衝撃性の厚み依存性および低温雰囲気下での衝撃強度を向上させ、例えば自動車外装用材料としても利用可能となる材料は未だ見出されておらず、これを満足する技術の開発が強く望まれていた。
【0017】
【課題を解決しようとするための手段】
本発明者らはグラフト共重合体を構成するポリオルガノシロキサンのポリマー構造およびグラフト共重合体のポリマー組成とこれを配合したポリカーボネート/SAN系樹脂組成物の低温雰囲気下での耐衝撃性および顔料着色性について鋭意検討した結果、驚くべきことに、ポリオルガノシロキサンの架橋密度および複合ゴム中のポリオルガノシロキサン量、アルキル(メタ)アクリレートゴム量およびグラフト共重合体中のグラフト成分量さらにグラフト共重合体の重量平均粒子径を限定して製造することによって、このグラフト共重合体を含む樹脂組成物が従来にない優れた低温雰囲気下での耐衝撃性と顔料着色性を示すことを見出し本発明に到達した。
【0018】
すなわち、本発明の要旨とするところは、ポリカーボネート樹脂(A)と(b−1)ビニル重合性官能基を有し、ゲル含有率が60〜95重量%、トルエン溶媒中で測定した膨潤度が10〜30であるポリオルガノシロキサンと(b−2)アルキル(メタ)アクリレートゴムとからなる複合ゴムに、(b−3)芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよびシアン化ビニル化合物から選ばれた少なくとも一種の単量体がグラフト重合されたグラフト共重合体であって、複合ゴム((b−1)+(b−2))中にポリオルガノシロキサン(b−1)を20〜40重量%、アルキル(メタ)アクリレートゴム(b−2)を60〜80重量%含有し、かつグラフト共重合体(B)に基づくグラフト成分(b−3)の含有量が50〜80重量%であり、グラフト共重合体の重量平均粒子径が0.10〜0.20μmであることを特徴とするグラフト共重合体(B)とからなる熱可塑性樹脂組成物にある。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明に係るポリカ−ボネ−ト樹脂(A)としては、公知の方法で製造されるものが用いられる。すなわち、▲1▼単官能性芳香族あるいは脂肪族ヒドロキシ化合物から得られる炭酸のジエステルとジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応、▲2▼ジヒドロキシ化合物とそれ自身あるいは他のジヒドロキシ化合物のビスアルキル、またはビスアリルカ−ボネ−トとのエステル交換反応、▲3▼酸素結合剤の存在下でジヒドロキシ化合物とホスゲンの反応、▲4▼酸素結合剤の存在下でジヒドロキシ化合物とジヒドロキシ化合物のビスクロロ炭酸エステルとの反応による製造法等が挙げられる。代表的には、ビスフェノ−ルAを酸素結合剤および溶剤の存在下で塩化カルボニルと反応させる製造法がある。
【0020】
本発明に係るグラフト共重合体(B)を構成するポリオルガノシロキサン(b−1)は、ジメチルシロキサンに架橋剤およびグラフト交叉剤であるビニル重合性官能基含有シロキサンを添加して縮合させることによって製造することができる。
【0021】
ジメチルシロキサンとしては、3員環以上のジメチルシロキサンが挙げられ、3〜6員環のものが好ましい。具体的にはヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルテトラシクロシロキサン、デカメチルペンタシクロシロキサン、ドデカメチルヘキサシクロシロキサン等が挙げられるが、これらは単独でまたは二種以上混合して用いられる。
【0022】
また、ビニル重合性官能基含有シロキサンとしては、ビニル重合性官能基を含有しかつジメチルシロキサンとシロキサン結合を介して結合しうるものであれば特に限定されないが、ジメチルシロキサンとの反応性を考慮するとビニル重合性官能基を有する各種アルコキシシラン化合物が好ましい。具体的には、βーメタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γーメタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γーメタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γーメタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γーメタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γーメタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシランおよびδーメタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等のメタクリロイルオキシシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等のビニルシロキサン、p−ビニルフェニルジメトキシメチルシランさらにγーメルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γーメルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシロキサンが挙げられる。
【0023】
なお、これらビニル重合性官能基含有シロキサンは、単独でまたは二種以上の混合物として用いることができるが、その使用量は得られるグラフト共重合体を含む樹脂組成物の耐衝撃性および成形外観を考慮すると、ポリオルガノシロキサンのシロキサン単位を基にビニル重合性官能基含有シロキサン単位が好ましくは0.2〜3モル%、より好ましくは0.3〜2モル%、さらに好ましくは0.3〜1モル%である。
【0024】
また、架橋剤としては、3官能性および4官能性のシロキサン系架橋剤、例えばトリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランおよびテトラブトキシシラン等が用いられる。
【0025】
なお、これら架橋剤は、単独でまたは二種以上の混合物として用いることができるが、その使用量は得られるポリオルガノシロキサンのゲル含量が60〜95重量%かつトルエン溶媒中で測定した膨潤度が10〜30の範囲に調製する必要がある。ゲル含量が60重量%未満の場合は、ポリオルガノシロキサンを含むグラフト共重合体を含有した樹脂組成物の低温雰囲気下での耐衝撃性が低くなり好ましくない。また膨潤度が10未満の場合は、ポリオルガノシロキサンの架橋密度が高くなることでゴム弾性が失われ、このポリオルガノシロキサンを含むグラフト共重合体を含有した樹脂組成物の常温での耐衝撃性が低くなってしまう。一方、膨潤度が30を超えた場合、ポリオルガノシロキサンを含有するグラフト共重合体を含む樹脂組成物の低温雰囲気下での耐衝撃性が低くなってしまう。常温での耐衝撃性と低温雰囲気下での耐衝撃性の両方を考慮すると、ポリオルガノシロキサンの膨潤度は、10〜20であることがより好ましい。
【0026】
なお、本発明に係る膨潤度とは、以下の方法で測定され、ポリオルガノシロキサンの架橋密度の指標となる値である。作製したポリオルガノシロキサンラテックスを、約3〜5倍量のイソプロピルアルコール中に撹拌しながら添加し、該エマルジョンを破壊し凝固することによってシロキサンポリマーを得る。こうして得られたポリマーを80℃で10時間減圧乾燥する。乾燥後、約1gのポリマーを精秤し、約30gのトルエン中に浸漬し、25℃で100時間放置し、ポリマー中にトルエンを膨潤させる。次いで残余のトルエンをデカンテーションにより分離除去し、精秤した後、80℃で16時間減圧乾燥し、吸収されたトルエンを蒸発除去し、再び精秤する。膨潤度は、次式により算出される。
【0027】
膨潤度=((膨潤したポリマー重量)−(乾燥ポリマー重量))/(乾燥ポリマー重量)
本発明に係るポリオルガノシロキサンの製法としては、上述のジメチルシロキサン、ビニル重合性官能基含有シロキサンおよび架橋剤からなる混合物を乳化剤と水によって乳化させたラテックスを高速回転によるせん断力で微粒化するホモミキサーや、高圧発生器による噴出力で微粒化するホモジナイザー等を使用して微粒化した後、酸触媒を用いて高温下で重合させ、次いでアルカリ性物質により酸を中和するものである。
【0028】
重合に用いる酸触媒の添加方法としては、シロキサン混合物、乳化剤および水とともに混合する方法と、シロキサン混合物が微粒化したラテックスを高温の酸水溶液中に一定速度で滴下する方法等があるが、ポリオルガノシロキサンの粒子径の制御のしやすさを考慮するとシロキサン混合物が微粒化したラテックスを高温の酸水溶液中に一定速度で滴下する方法が好ましい。
【0029】
ポリオルガノシロキサン製造の際に用いる乳化剤としては、アニオン系乳化剤が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等の中から選ばれた乳化剤が使用される。特にアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸系の乳化剤が好ましい。
【0030】
これらの乳化剤は、シロキサン混合物100重量部に対して0.05〜5重量部程度の範囲で使用される。使用量が少ないと分散状態が不安定となり微小な粒子径の乳化状態を保てなくなる。また使用量が多いとこの乳化剤に起因する樹脂組成物成型品の着色が甚だしくなり不都合である。
【0031】
ポリオルガノシロキサンの重合に用いる酸触媒としては、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸類および硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸類が挙げられる。これらの酸触媒は一種でまたは二種以上を組み合わせて用いられる。また、これらの中では、ポリオルガノシロキサンラテックスの安定化作用にも優れている点で脂肪族置換ベンゼンスルホン酸が好ましく、n−ドデシルベンゼンスルホン酸が特に好ましい。また、ポリオルガノシロキサンの製造に用いる酸触媒の使用量としては、特に限定されるものではないが、得られるグラフト共重合体およびこれを含む樹脂組成物の顔料着色性および低温衝撃特性を考慮するとシロキサン混合物100重量部に対し0.5〜10重量部が好ましく、より好ましくは1〜5重量部、さらに好ましくは1〜3重量部である。
【0032】
ポリオルガノシロキサンの重合温度は、50℃以上が好ましく、さらに好ましくは80℃以上である。
【0033】
また、ポリオルガノシロキサンを高温下で重合した後、重合温度以下の温度で放置することによって、ポリオルガノシロキサンの架橋反応が進行し、得られるポリオルガノシロキサンのゲル含量は上昇し、またトルエン溶媒中での膨潤度は低下する。重合反応および架橋反応の停止は、反応液を冷却した後、重合ラテックスを苛性ソーダ、苛性カリおよび炭酸ナトリウム等のアルカリ性物質で中和することによって行うことができる。
【0034】
重合反応の時間としては、酸触媒をシロキサン混合物、乳化剤および水とともに混合、微粒化させて重合する場合には2時間以上、さらに好ましくは5時間以上であり、酸触媒の水溶液にシロキサン混合物が微粒化したラテックスを滴下する方法では、ラテックスの滴下終了後1時間以上保持することが好ましい。
【0035】
また、重合後ラテックスを重合温度以下の温度で放置する時間は、得られるポリオルガノシロキサンのゲル含量が60〜95重量%、トルエン溶媒中で測定した膨潤度が10〜30になる条件でなければならなく、この放置時間は使用する架橋剤の量によって適宜選択される。
【0036】
ポリオルガノシロキサン粒子の大きさは、該ポリオルガノシロキサンを用いたグラフト共重合体の重量平均粒子径が0.10μm〜0.20μmの範囲であれば特に限定されるものではないが、好ましくは重量平均粒子径が0.05〜0.13μmの範囲である。
【0037】
このようにして製造されたポリオルガノシロキサンラテックスに、アルキル(メタ)アクリレートと多官能アルキル(メタ)アクリレートとからなるアルキル(メタ)アクリレート成分を含浸させた後重合させることによって複合ゴムを得ることができる。
【0038】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2ーエチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレートおよびヘキシルメタクリレート、2ーエチルヘキシルメタクリレート、n−ラウリルメタクリレート等のアルキルメタクリレートが挙げられ、特にn−ブチルアクリレートの使用が好ましい。 多官能アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばアリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1、3ーブチレングリコールジメタクリレート、1、4ーブチレングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。また、多官能アルキル(メタ)アルリレートの使用量は、アルキル(メタ)アクリレート成分中0.1〜20重量%、好ましくは0.2〜1重量%である。
【0039】
アルキル(メタ)アクリレートや多官能アルキル(メタ)アクリレートは単独で、または二種以上併用して用いられる。
【0040】
本発明に係るポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレートゴムからなる複合ゴムは、ポリオルガノシロキサン成分のラテックス中へ上記アルキル(メタ)アクリレート成分を添加し、通常のラジカル重合開始剤を作用させて重合することによって製造できる。アルキル(メタ)アクリレートを添加する方法としては、ポリオルガノシロキサン成分のラテックスと一括で混合する方法とポリオルガノシロキサン成分のラテックス中に一定速度で滴下する方法がある。なお、得られるグラフト共重合体を含む樹脂組成物の耐衝撃性を考慮するとポリオルガノシロキサン成分のラテックスを一括で混合する方法が好ましい。
【0041】
また、重合に用いるラジカル重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤または酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。この中では、レドックス系開始剤が好ましく、特に硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ヒドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。
【0042】
また、ラジカル重合の際に、必要に応じて乳化剤を添加することができるが、この乳化剤としては、ノニオン系、アニオン系およびカチオン系乳化剤が用いられ、このうち重合ラテックスの安定性および得られたグラフト共重合体をポリカーボネート樹脂系マトリックスとブレンドしたときの熱安定性を考慮すると、ノニオン−アニオン系乳化剤が好ましく、さらに好ましくはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウムが好ましい。
【0043】
本発明に係るポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレートゴムとからなる複合ゴムにおいて、ポリオルガノシロキサンの量は20〜40重量%、アルキル(メタ)アクリレートゴムの量は60〜80重量%である。複合ゴム中のポリオルガノシロキサンの量が20重量%未満ではポリオルガノシロキサンの含量が少ないために得られるグラフト共重合体を含む樹脂組成物の低温雰囲気下での耐衝撃性が低くなり、40重量%を超えるとグラフト共重合体を含む樹脂組成物の顔料着色性が悪く工業的価値が低い。また、グラフト共重合体およびこれを含む樹脂組成物の低温雰囲気下での耐衝撃性と顔料着色性の両方を考慮すると、複合ゴム中のポリオルガノシロキサンの量は好ましくは22〜35重量%、アルキル(メタ)アクリレートゴムの量が65〜78重量%、さらに好ましくは複合ゴム中のポリオルガノシロキサンが25〜30重量%、アルキル(メタ)アクリレートゴムの量が70〜75重量%である。
【0044】
本発明に係る樹脂組成物を構成するグラフト共重合体(B)は、上記のごとく乳化重合によって製造された複合ゴムに芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよびシアン化ビニル化合物から選ばれた少なくとも一種の単量体をグラフト重合することによって製造できる。グラフト重合に用いる単量体のうち芳香族アルケニル化合物としては例えばスチレン、αーメチルスチレン、ビニルトルエン等であり、メタクリル酸エステルとしては例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、2ーエチルヘキシルメタクリレート等であり、アクリル酸エステルとしては例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等であり、シアン化ビニル化合物としては例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等である。これらのうち、該グラフト共重合体を含む樹脂組成物の成形時の熱安定性を考慮するとグラフト重合に用いる単量体としては、スチレンとアクリロニトリルの混合物が好ましい。
【0045】
グラフト重合は、複合ゴムのラテックスに芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよびシアン化ビニル化合物から選ばれた少なくとも一種の単量体を加え、ラジカル重合技術により一段であるいは多段で重合を行うことができるが、得られるグラフト共重合体を含む樹脂組成物の耐衝撃性および顔料着色性を考慮すると二段以上で重合を行うことが好ましい。
【0046】
また、グラフト重合において用いる単量体中にはグラフト共重合体の分子量やグラフト率を調整するための各種連鎖移動剤を添加することができる。
【0047】
本発明に係るグラフト共重合体中の芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよびシアン化ビニル化合物から選ばれた少なくとも一種の単量体がグラフト重合したグラフト成分の量は、全グラフト共重合体に対し50〜80重量%である。グラフト成分が50重量%未満ではグラフト共重合体を含む樹脂組成物の顔料着色性が悪く、また、80重量%を超えるとゴム量が低くなるため耐衝撃性が低くなり好ましくない。また、グラフト共重合体を含む樹脂組成物の耐衝撃性と顔料着色性の両方を考慮するとグラフト共重合体中の芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよびシアン化ビニル化合物から選ばれた少なくとも一種の単量体がグラフト重合したグラフト成分の量は、全グラフト共重合体に対し好ましくは50〜70重量%、さらに好ましくは50〜60重量%である。
【0048】
本発明に係る樹脂組成物を構成するグラフト共重合体(B)の重量平均粒子径は0.10〜0.20μmであり、0.10μm未満では該グラフト共重合体を含む樹脂組成物の低温雰囲気下での耐衝撃性が低くなり、また0.20μmを超えた範囲では該グラフト共重合体を含む樹脂組成物の顔料着色性が悪く工業的価値が低い。グラフト共重合体を含む樹脂組成物の低温雰囲気下での耐衝撃性と顔料着色性の両方を考慮すると、グラフト共重合体の重量平均粒子径が0.10〜0.15μmであることがより好ましい。
【0049】
本発明に係るグラフト共重合体は、上記のごとく製造したグラフト共重合体ラテックスを塩化カルシウム、酢酸カルシウムまたは硫酸アルミニウム等の金属塩を溶解した熱水中に投入し、塩析、凝固することによりグラフト共重合体を分離し、回収することができる。このうち、得られるグラフト共重合体をポリカーボネート樹脂系マトリックスとブレンドしたときの熱安定性を考慮すると、塩化カルシウムおよび酢酸カルシウム等のカルシウム塩が用いる凝固剤として特に好ましい。
【0050】
本願発明のポリカーボネート樹脂(A)およびグラフト共重合体(B)からなる熱可塑性樹脂組成物には、さらに芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物およびこれらと共重合可能なビニル単量体から選ばれる少なくとも一種から得られる共重合体(C)を配合することができる。
【0051】
本発明に係る共重合体(C)は、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物およびこれらと共重0合可能なビニル単量体から選ばれる少なくとも一種から得られる共重合体である。芳香族アルケニル化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、p−タ−シャリ−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等であり、好ましくはスチレン、α−メチルスチレンである。またシアン化ビニル化合物としては例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、好ましくはアクリロニトリルである。また共重合可能なビニル単量体としては、メチルメタクリレ−ト、エチルメタクリレ−ト、2−エチルヘキシルメタクリレ−ト、グリシジルメタクリレ−ト等のメタクリル酸エステル、メチルアクリレ−ト、エチルアクリレ−ト、ブチルアクリレ−ト等のアクリル酸エステル、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド等のマレイミド化合物、無水マレイン酸等が挙げられる。
【0052】
共重合体(C)の好ましい例としては、スチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN樹脂)およびスチレン−アクリロニトリル−N−フェニルマレイミド共重合体が挙げられる。
共重合体(C)の製造法としては、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の通常公知の方法が用いられる。
【0053】
またその添加量は任意に選択できるものである。
【0054】
本発明に係る樹脂組成物は、上記の方法で製造したグラフト共重合体(B)、ポリカーボネート樹脂(A)および共重合体(C)を通常の公知の混練装置によって押し出し成形することによって製造することができる。混練に用いる成形機としては押出機、射出成形機、ブロー成形機、カレンダー成形機およびインフレーシュン成形機等が挙げられる。
【0055】
さらに該グラフト共重合体を含む樹脂組成物には、必要に応じて染料、顔料、安定剤、補強剤、充填材、難燃剤等を配合することができる。
【0056】
【実施例】
以下実施例により本発明を説明する。なお、参考例、実施例および比較例において『部』および『%』は特に断らない限り『重量部』および『重量%』を意味する。
【0057】
参考例におけるラテックス中のポリオルガノシロキサンおよび実施例におけるグラフト共重合体の重量平均粒子径は、大塚電子(株)社製DLS−700型を用いた動的光散乱法により求めた。
【0058】
実施例および比較例におけるアイゾット衝撃強度の測定は、ASTM D258に準拠した方法により行い、特に低温雰囲気下でのアイゾット衝撃強度の測定は−30℃または−40℃雰囲気下で12時間以上アイゾット試験片を放置した後、測定を行うことにより行った。
【0059】
実施例および比較例における表面硬度(ロックウェル硬度)の測定は、ASTM D785に準拠する方法により行った。
【0060】
また、実施例および比較例における樹脂組成物の顔料着色性評価は、東芝機械(株)社製射出成形機IS−100ENを用いて成形した100mm*100mm*3mm板のJIS Z8729に準拠した色相測定によって行った。
【0061】
(参考例1)ポリオルガノシロキサンラテックスL−1の製造
オクタメチルテトラシクロシロキサン96部、γーメタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン2部およびエチルオルソシリケート2部を混合してシロキサン系混合物100部を得た。これにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.67部を溶解した蒸留水300部を添加し、ホモミキサーにて10000回転/分で2分間撹拌した後、ホモジナイザーに300kg/cm2 の圧力で1回通し、安定な予備混合オルガノシロキサンラテックスを得た。
【0062】
一方、試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱器および撹拌装置を備えた反応器内に、ドデシルベンゼンスルホン酸2部と蒸留水98部とを注入し、2重量%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を調製した。
【0063】
この水溶液を85℃に過熱した状態で、予備混合オルガノシロキサンラテックスを4時間に亘って滴下し、滴下終了後1時間温度を維持し、冷却した。この反応液を室温で48時間放置した後、苛性ソーダ水溶液で中和した。
【0064】
このようにして得られたラテックス(L−1)を170℃で30分間乾燥して固形分を求めたところ、17.3%であった。また、ラテックス中のポリオルガノシロキサンの重量平均粒子径は、0.08μmであった。また、ポリオルガノシロキサンのゲル含量は85%、トルエン溶媒中で測定した膨潤度は14.5であった。
【0065】
(参考例2)ポリオルガノシロキサンL−2の製造
オクタメチルテトラシクロシロキサン95部、γーメタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン2部およびエチルオルソシリケート3部を混合してシロキサン系混合物100部を得た。これにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.67部を溶解した蒸留水300部を添加し、ホモミキサーにて10000回転/分で2分間撹拌した後、ホモジナイザーに300kg/cm2 の圧力で1回通し、安定な予備混合オルガノシロキサンラテックスを得た。
【0066】
一方、試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱器および撹拌装置を備えた反応器内に、ドデシルベンゼンスルホン酸2部と蒸留水98部とを注入し、2重量%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を調製した。
【0067】
この水溶液を85℃に過熱した状態で、予備混合オルガノシロキサンラテックスを4時間に亘って滴下し、滴下終了後1時間温度を維持し、冷却した。反応液の温度が40℃まで低下した後、この反応液を苛性ソーダ水溶液で中和した。
【0068】
このようにして得られたラテックス(L−2)の固形分は17.7%、ラテックス中のポリオルガノシロキサンの重量平均粒子径は、0.08μmであった。また、ポリオルガノシロキサンのゲル含量は80%、トルエン溶媒中で測定した膨潤度は17.7であった。
【0069】
(参考例3)ポリオルガノシロキサンL−3の製造
参考例1におけるシロキサン系混合物をオクタメチルテトラシクロシロキサン98部、γーメタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン2部に変更する以外は参考例1と同様にしてラテックス(L−3)を調製した。得られたポリオルガノシロキサンラテックスの固形分は17.5%、重量平均粒子径は、0.08μmであった。また、ポリオルガノシロキサンは、トルエン溶媒に可溶であり、ゲル成分は観察されなかった。
【0070】
(参考例4)ポリオルガノシロキサンL−4の製造
参考例1におけるシロキサン系混合物をオクタメチルテトラシクロシロキサン93部、γーメタクリルオキシプロピルジメトキシメチルシラン2部およびエチルオルソシリケート5部に変更する以外は参考例1と同様にしてラテックス(L−4)を調製した。得られたポリオルガノシロキサンラテックスの固形分は17.5%、重量平均粒子径は、0.08μmであった。また、ポリオルガノシロキサンのゲル含量は95%、トルエン溶媒中で測定した膨潤度は7.0であった。
(参考例5)ポリオルガノシロキサンL−5の製造
参考例1におけて、用いるドデシルベンゼンスルホン酸の量を10部に変更する以外は参考例1と同様にしてポリオルガノシロキサンラテックス(L−5)を調製した。得られたポリオルガノシロキサンラテックスの固形分は17.5重量%、重量平均粒子径は、0.05μmであった。また、ポリオルガノシロキサンのゲル含量は10%、トルエン溶媒中で測定した膨潤度は25.0であった。
【0071】
(参考例6)ポリオルガノシロキサンL−6の製造
オクタメチルテトラシクロシロキサン96部、γーメタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン2部およびエチルオルソシリケート2部を混合してシロキサン系混合物100部を得た。これにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.67部およびドデシルベンゼンスルホン酸0.67部を溶解した蒸留水200部を添加し、ホモミキサーにて10000回転/分で2分間撹拌した後、ホモジナイザーに300kg/cm2 の圧力で1回通し、安定な予備混合オルガノシロキサンラテックスを得た。このオルガノシロキサンラテックスを冷却管、ジャケット加熱器および撹拌装置を備えた反応器内に移し撹拌混合しながら85℃で5時間過熱した後、冷却した。この反応液を室温で48時間放置した後、苛性ソーダ水溶液で中和した。得られたポリオルガノシロキサンラテックス(L−6)の固形分は29.0%、重量平均粒子径は、0.19μmであった。また、ポリオルガノシロキサンのゲル含量は95%、トルエン溶媒中で測定した膨潤度は7.0であった。
【0072】
以上の参考例1〜6のポリオルガノシロキサンの調製条件および結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
(参考例7)グラフト共重合体S−1の製造
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱器および撹拌装置を備えた反応器内に、参考例1にて得たポリオルガノシロキサンラテックス(L−1)119.5部、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム(花王(株)社製エマールNC−35)0.8部を採取し、蒸留水203部添加混合した後、n−ブチルアクリレート53.2部、アリルメタクリレート0.21部、1、3−ブチレングリコールジメタクリレート0.11部およびターシャリーブチルハイドロパーオキサイド0.13部からなる混合物を添加した。
【0075】
この反応器に窒素気流を通じることによって、雰囲気の窒素置換を行い、60℃まで昇温した。内部の液温が60℃となった時点で、硫酸第一鉄0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0003部およびロンガリット0.24部を蒸留水10部に溶解させた水溶液を添加し、ラジカル重合を開始せしめた。アクリレート成分の重合により、液温は78℃まで上昇した。1時間この状態を維持し、アクリレート成分の重合を完結させポリオルガノシロキサンとブチルアクリレートゴムとの複合ゴムのラテックスを得た。
【0076】
反応器内部の液温が60℃に低下した後、ロンガリット0.4部を蒸留水10部に溶解した水溶液を添加し、次いでアクリロニトリル11.1部、スチレン33.2部およびターシャリーブチルハイドロパーオキサイド0.2部の混合液を約1時間に亘って滴下し重合した。滴下終了後1時間保持した後、硫酸第一鉄0.0002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0006部およびロンガリッド0.25部を蒸留水10部に溶解させた水溶液を添加し、次いでアクリロニトリル7.4部、スチレン22.2部およびターシャリーブチルハイドロパーオキサイド0.1部の混合液を約40分間に亘って滴下し重合した。滴下終了後1時間保持した後冷却し、ポリオルガノシロキサンとブチルアクリレートゴムとからなる複合ゴムに、アクリロニトリルとスチレンをグラフト重合させたグラフト共重合体のラテックスを得た。動的光散乱法で求めたラテックス中のグラフト共重合体の重量平均粒子径は、0.13μmであった。
【0077】
次いで、酢酸カルシウムを5%の割合で溶解した水溶液150部を60℃に加熱し撹拌した。この中へグラフト共重合体のラテックス100部を徐々に滴下し凝固した。次いで析出物を分離し、洗浄した後乾燥し、グラフト共重合体(S−1)を得た。
【0078】
(参考例8)グラフト共重合体S−2の製造
参考例2にて得られたポリオルガノシロキサンラテックス(L−2)を用いて参考例7と同様の複合ゴム化反応およびグラフト共重合体の調製を実施した。得られたラテックス中のグラフト共重合体の重量平均粒子径は、0.13μmであった。
【0079】
(参考例9)グラフト共重合体T−1の製造
参考例3にて得られたポリオルガノシロキサンラテックス(L−3)を用いて参考例7と同様の複合ゴム化反応およびグラフト共重合体の調製を実施した。得られたラテックス中のグラフト共重合体の重量平均粒子径は、0.13μmであった。
【0080】
(参考例10)グラフト共重合体T−2の製造
参考例4にて得られたポリオルガノシロキサンラテックス(L−4)を用いて参考例7と同様の複合ゴム化反応およびグラフト共重合体の調製を実施した。得られたラテックス中のグラフト共重合体の重量平均粒子径は、0.13μmであった。
【0081】
(参考例11)グラフト共重合体T−3の製造
参考例5にて得られたポリオルガノシロキサンラテックス(L−5)を用いて参考例7と同様の複合ゴム化反応およびグラフト共重合体の調製を実施した。得られたラテックス中のグラフト共重合体の重量平均粒子径は、0.08μmであった。
【0082】
(参考例12)グラフト共重合体T−4の製造
参考例7において反応器中に仕込むポリオルガノシロキサンラテックスを参考例6にて調製したL−6に変更し、さらにこのポリオルガノシロキサンラテックス(L−5)の仕込量を71.3部に、蒸留水の量を251.2部に変更する以外は参考例7と同様にしてグラフト共重合体を製造した。得られたラテックス中のグラフト共重合体の重量平均粒子径は、0.25μmであった。
【0083】
(参考例13)グラフト共重合体T−5の製造
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱器および撹拌装置を備えた反応器内に、参考例1にて得たポリオルガノシロキサンラテックス(L−1)167.3部、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム(花王(株)社製エマールNC−35)0.8部を採取し、蒸留水163.4部添加混合した後、n−ブチルアクリレート74.4部、アリルメタクリレート0.30部、1、3ーブチレングリコールジメタクリレート0.15部およびターシャリーブチルハイドロパーオキサイド0.19部からなる混合物を添加した。
【0084】
この反応器に窒素気流を通じることによって、雰囲気の窒素置換を行い、60℃まで昇温した。内部の液温が60℃となった時点で、硫酸第一鉄0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0003部およびロンガリット0.24部を蒸留水10部に溶解させた水溶液を添加し、ラジカル重合を開始せしめた。アクリレート成分の重合により、液温は82℃まで上昇した。1時間この状態を維持し、アクリレート成分の重合を完結させポリオルガノシロキサンとブチルアクリレートゴムとの複合ゴムのラテックスを得た。
【0085】
反応器内部の液温が60℃に低下した後、ロンガリット0.4部を蒸留水10部に溶解した水溶液を添加し、次いでアクリロニトリル7.4部、スチレン22.1部およびターシャリーブチルハイドロパーオキサイド0.13部の混合液を約40分間に亘って滴下し重合した。滴下終了後1時間保持した後、硫酸第一鉄0.0002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0006部およびロンガリッド0.25部を蒸留水10部に溶解させた水溶液を添加し、次いでアクリロニトリル3.7部、スチレン11.1部およびターシャリーブチルハイドロパーオキサイド0.1部の混合液を約10分間に亘って滴下し重合した。滴下終了後1時間保持した後冷却し、ポリオルガノシロキサンとブチルアクリレートゴムとからなる複合ゴムに、アクリロニトリルとスチレンをグラフト重合させたグラフト共重合体のラテックスを得た。動的光散乱法で求めたラテックス中のグラフト共重合体の重量平均粒子径は、0.11μmであった。
【0086】
次いで、酢酸カルシウムを5%の割合で溶解した水溶液150部を60℃に加熱し撹拌した。この中へグラフト共重合体のラテックス100部を徐々に滴下し凝固した。次いで析出物を分離し、洗浄した後乾燥し、グラフト共重合体(T−5)を得た。
【0087】
(参考例14)グラフト共重合体T−6の製造
参考例7において反応器中に仕込むポリオルガノシロキサンラテックス(L−1)の量を59.8部に、蒸留水の量を252.3部に、n−ブチルアクリレートを63.5部、アリルメタクリレートを0.25部、1,3−ブチレングリコールジメタクリレートを0.13部およびターシャリーブチルハイドロパーオキサイドを0.16部に変更する以外は、参考例7と同様にしてグラフト共重合体(T−6)を製造した。動的光散乱法で求めたラテックス中のグラフト共重合体の重量平均粒子径は、0.15μmであった。
【0088】
(参考例15)グラフト共重合体T−7の製造
参考例7において反応器中に仕込むポリオルガノシロキサンラテックス(L−1)の量を192.1部に、蒸留水の量を142.9部に、n−ブチルアクリレートを40.6部、アリルメタクリレートを0.16部、1,3−ブチレングリコールジメタクリレートを0.08部およびターシャリーブチルハイドロパーオキサイドを0.10部に変更する以外は、参考例7と同様にしてグラフト共重合体(T−7)を製造した。動的光散乱法で求めたラテックス中のグラフト共重合体の重量平均粒子径は、0.11μmであった。
【0089】
以上の参考例7〜15で製造したグラフト共重合体の製造条件および結果を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
(実施例1〜3および比較例1〜7)
実施例および比較例において、以下の成分を使用した。
成分(A)(PC樹脂):三菱エンプラ(株)社製ユ−ピロンS2000F
成分(B)(複合ゴム系グラフト共重合体):参考例7〜15で調製した複合ゴム系共重合体
成分(C)(SAN樹脂):
SAN−1:スチレン70部およびアクリロニトリル30部の混合物を懸濁重合法によって重合し、ジメチルホルムアミド溶液中で測定した還元粘度(ηSP/C)が0.60のSAN樹脂
SAN−2:SAN樹脂(旭化成(株)製スタイラックAS 709)
上記(A)、(B)および(C)の各成分を表3に示す割合(重量比)で混合し、さらに熱安定剤としてアデカスタブルC(旭電化(株)社製)を0.3部、さらに離型剤としてステアリン酸バリウムを0.4部、さらに滑剤としてEBSを0.4部、さらに黒着色剤としてカ−ボンブラック(CB−960:三菱化学(株)社製)を0.8部それぞれ添加混合し、シリンダ−温度260℃に設定した二軸押出機で賦形し、ペレットを作製した。次いで、このペレットをシリンダ−設定温度260℃、金型温度80℃で射出成形し、物性および顔料着色性評価用試験片を得た。得られた各試験片より、アイゾット衝撃強度、ロックウェル硬度および色相測定から得られたL*値を表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
実施例および比較例より、次のことが明らかとなった。
【0094】
1)実施例1〜3の樹脂組成物は、常温で高いアイゾット衝撃強度を示すとともに、−30℃および−40℃といった低温雰囲気下でも20kgcm/cm以上の高い衝撃強度を有し、さらに、黒着色板のL*値が低く優れた顔料着色性を同時に満足する。
【0095】
2)比較例1の樹脂組成物は、架橋構造を有さないポリオルガノシロキサンを複合ゴムに用いたグラフト共重合体を含有しているため、常温でのアイゾット衝撃強度および顔料着色性には優れるものの、−30℃および−40℃といった低温雰囲気下でのアイゾット衝撃強度が低いために、例えば自動車外装部品といった高度な低温雰囲気下での耐衝撃性が要求される用途には使用できないため好ましくない。
【0096】
3)比較例2の樹脂組成物は、トルエン溶媒中で測定した膨潤度が10未満の架橋密度が高く、堅いポリオルガノシロキサンを複合ゴム中に含むグラフト共重合体を使用しているため、常温および低温雰囲気下でのアイゾット衝撃強度が低く、工業材料としては好ましくない。
【0097】
4)比較例3の樹脂組成物は、重量平均粒子径が0.08μmと小さな平均粒子径のグラフト共重合体を含有しているため、低温雰囲気下でのアイゾット衝撃強度が低く、好ましくない。
【0098】
5)比較例4の樹脂組成物は、重量平均粒子径が0.25μmと大きな平均粒子径のグラフト共重合体を含有しているため、黒着色板のL*値が高く、例えば自動車外装部品を無塗装で使用する場合のように高度な顔料着色性が要求される用途には使用することができない。
【0099】
6)比較例5の樹脂組成物は、グラフト成分量が30部と少ないグラフト共重合体を用いているため、顔料着色性が悪い。
【0100】
7)比較例6の樹脂組成物は、複合ゴム中のポリオルガノシロキサン含量が20%未満であるグラフト共重合体を用いているため、顔料着色性には優れるものの、−30℃および−40℃といった低温雰囲気下でのアイゾット衝撃強度が低いために、例えば自動車外装部品といった高度な低温雰囲気下での耐衝撃性が要求される用途には使用できないため好ましくない。
【0101】
8)比較例7の樹脂組成物は、複合ゴム中のポリオルガノシロキサン含量が40%を超えたグラフト共重合体を用いているため、黒着色板のL*値が高く、例えば自動車外装部品を無塗装で使用する場合のように高度な顔料着色性が要求される用途には使用することができない。
【0102】
【発明の効果】
本発明は以上説明した通りであり、次のように特別に顕著な効果を奏し、その産業上の利用価値は極めて大である。
【0103】
1)本発明に係る樹脂組成物は、耐衝撃性特に低温雰囲気下での耐衝撃性、表面硬度および顔料着色性のバランスに優れる。
【0104】
2)特に低温雰囲気下でのアイゾット衝撃強度と顔料着色性のバランスは、従来知られているポリオルガノシロキサンとアクリレートゴムとからなる複合ゴムを含有したグラフト共重合体とポリカーボネート樹脂およびSAN系樹脂よりなる樹脂組成物では得られない非常に高いレベルであり、各種工業材料とりわけ自動車外装部品用材料としての利用価値は極めて高い。
Claims (2)
- ポリカーボネート樹脂(A)と、(b−1)ビニル重合性官能基を有し、ゲル含有率が60〜95重量%、トルエン溶媒中で測定した膨潤度が10〜30であるポリオルガノシロキサンと(b−2)アルキル(メタ)アクリレートゴムとからなる複合ゴムに、(b−3)芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよびシアン化ビニル化合物から選ばれた少なくとも一種の単量体がグラフト重合されたグラフト共重合体であって、複合ゴム((b−1)+(b−2))中にポリオルガノシロキサン(b−1)を20〜40重量%、アルキル(メタ)アクリレートゴム(b−2)を60〜80重量%含有し、かつグラフト共重合体(B)に基づくグラフト成分(b−3)の含有量が50〜80重量%であり、グラフト共重合体の重量平均粒子径が0.10〜0.20μmであることを特徴とするグラフト共重合体(B)とからなる熱可塑性樹脂組成物。
- 請求項1の熱可塑性樹脂組成物にさらに、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物およびこれらと共重合可能なビニル単量体から選ばれる少なくとも一種から得られる共重合体(C)が配合されてなる熱可塑性樹脂組成物。
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