JP3545980B2 - 耐遅れ破壊特性の優れた自動車用超高強度電縫鋼管およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐遅れ破壊特性に優れ、引張強度が1620N/mm2 以上の焼入れ型超高強度電縫鋼管の技術分野に属し、詳しくは自動車ドアのインパクトビームやバンパーの補強部材等、軽量でかつ強度の要求される用途に用いられる超高強度電縫鋼管の技術分野に属するものである。
【0002】
【従来の技術】
地球の環境保全の観点から、最近、自動車の燃費の改善要求が強くなってきている。そこで、車体の軽量化を図るべくドアのインパクトビーム等、自動車の補強部材用途には引張強度の高い高強度材の要求が強まっている。例えば、特開昭57−134765 号公報には、成形した鋼管の焼入れ処理に先立ち、焼入れ組織の均一化を図るため、焼きならし処理後に焼入れして熱処理後の硬さHv≧600 の高強度材の製造方法が提案されている。また、特開平1−261718号公報には、引張強度≧120kgf/mm2(1180N/mm2 )の焼入れ鋼管の製造方法が提案されている。
【0003】
しかし、鋼材は超高強度になると水素脆化による割れ、所謂遅れ破壊が発生することは、例えば、引張強度980N/mm2以上の強度を有する超高強度鋼を用いたボルトについて、特開昭60−155644 号公報に開示されているように、既によく知られていることである。したがって、超高強度鋼管を用いた種々の部材においても、大気環境下での腐食反応によって発生する水素が鋼材中に侵入して、使用中に突然遅れ破壊が発生する恐れがある。
【0004】
一方、前述の補強部材の軽量化を達成するために、鋼管の高強度化を達成する方法は多数提案されている。例えば、特開平5−9579号公報には、析出強化により鋼管強度 120〜150kgf/mm2(1180〜1470N/mm2 )級鋼の製造方法が提案されており、特開平5−65541 号公報には成分調整と製造条件を規定し、引張強度 150〜190kgf/mm2(1470〜1860N/mm2 )級の超高強度鋼管の製造方法が提案されている。
【0005】
他方で、遅れ破壊に注目したものでは、特開平5−339678号公報に、主要成分を制御した引張強度 130〜170kgf/mm2(1270〜1670N/mm2 )級鋼管が提案されているが、引張強度170kgf/mm2(1670N/mm2 )を超えると遅れ破壊特性が劣化することが紹介されている。また、特開平7−126750号公報には、電縫鋼管の溶接部を含めた最高硬さが Hv550以下とした鋼管を 600℃以下の温度で熱処理する方法が提案されているが、これは引張強度1180N/mm2 級鋼管であり本発明が目標とする引張強度1620N/mm2 以上よりも低い。つまり、超高強度化すると補強部材の軽量化ニーズは達成できるが、遅れ破壊特性の向上が図れない。また、良好な遅れ破壊特性を確保するためには、得られる引張強度は低くなるという問題がある。
【0006】
また、超高強度薄鋼板の遅れ破壊特性の防止については、特開平4−268053号公報に提案されているように、鋼中にSiを添加し、鋼板中への水素の侵入を制御することによって、遅れ破壊の原因となる水素脆化の発生を防止する方法がある。しかし、遅れ破壊の発生原因は、必ずしも水素侵入に限られているものではなく、腐食ピット形成による応力集中も大きな要因となる。したがって、Si添加のみによって遅れ破壊の発生を十分に防止することは困難である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
自動車ドアのインパクトビーム等の補強部材に使用される鋼材には、所定の引張強度が要求されることは勿論、衝撃等に十分耐えるための靱性に優れていることと同時に、高強度鋼材に付随する耐遅れ破壊特性に優れることも必要である。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、引張強度が1620N/mm2 以上の焼入れ型超高強度電縫鋼管で、かつ耐遅れ破壊特性に優れた自動車用超高強度電縫鋼管を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
その要旨は、質量%で、C:0.20〜0.30%、 Si:0.05〜0.50%、 Mn:0.80〜2.0 %、 P:0.020%以下、 S:0.020%以下、 Al:0.01〜0.10%、 Cu:0.05〜1.0 %、Cr:0.05〜1.0 %、 Ti:0.01〜0.10%、B:0.0005〜0.0050%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり引張強度が1620N/mm2 以上である耐遅れ破壊特性の優れた自動車用超高強度電縫鋼管である。
【0010】
さらに質量%で、 Nb:0.01〜0.10%、V:0.01〜0.10%、 Zr:0.01〜0.10%、 Mo:0.05〜1.0 %、 Ni:0.05〜2.0 %の中から選ばれる1種または2種以上を含む上記の耐遅れ破壊特性の優れた自動車用超高強度電縫鋼管である。
【0011】
上記の化学成分を有する熱延鋼板から造管した電縫鋼管を Ac3変態点以上、 950℃以下の温度に加熱した後、水冷する高周波焼入れを行い引張強度が1620N/mm2 以上である耐遅れ破壊特性の優れた自動車用超高強度電縫鋼管の製造方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、引張強度、靱性および耐遅れ破壊特性の三者を満足させるべく鋼材の成分について種々検討を重ねた。その結果、自動車ドアのインパクトビーム等の補強部材としての用途に適した超高強度焼入れ鋼管を見出した。すなわち、焼入れ鋼管の強度、靱性レベルを向上させ、耐遅れ破壊特性を兼備し、しかも高周波焼入れに対応した焼入れ性を考慮して、鋼中の成分組成を限定した。そして、簡単な高周波焼入れを採用することにより、インパクトビーム等の補強部材に要求される強度、靱性、耐遅れ破壊特性を兼備した超高強度鋼管を高い生産性のもとで製造できることを見出したものである。
【0013】
高強度鋼の遅れ破壊は、現象的には、鋼中に侵入した拡散性水素が引張応力勾配にしたがって、ある箇所に局部的に集中し、その箇所において、鋼が水素脆化割れを起こすことであると見なされている。水素脆化割れは、面圧説、鉄原子間の凝集力低下説等の種々の機構が提案されているものの、未だに明確には解明されていないが、水素の吸収し易さ、拡散し易さおよび鋼自身の水素脆化感受性の3つの要因が相互に関連した現象であると理解される。
【0014】
したがって、水素脆化の対策として、鋼側からは、(1) 水素の侵入経路を遮ること、(2) 水素の鋼中での拡散と引張応力部への集中を抑制すること、(3) 鋼自身の水素脆化感受性を低下すること、の3つの対策が有効と考えられる。従来、水素脆化の対策としては、(2) 、(3) によるものが多いが、本発明は(1) の対策にも着目したもである。
【0015】
すなわち、通常の使用環境における鋼の水素吸蔵は、鋼が腐食する際にカソード反応により生じた水素がガス化せずに、鋼中に侵入することに起因するので、本発明によって鋼の耐食性を向上させ、水素吸蔵を防止することによって、(1) の対策を実行することができる。また、耐食性の向上の別の側面として、本発明によって、不均一腐食を抑制することにより、鋼材表面における応力集中を避けることができ、もって上記(2) の対策とすることができる。一方、(3) の鋼自身の水素脆化感受性の低下に関しては、粒界偏析元素の含有量を低減することと、あるいは結晶粒の微細化等によって対応することができる。
【0016】
本発明は、このように超高強度電縫鋼管の強度、靱性、耐遅れ破壊特性を向上させるための添加元素を鋭意検討した結果、以下に説明するような所定の元素を用いることによって、引張強度1620N/mm2 以上でありながら、靱性、耐遅れ破壊特性に優れる超高強度電縫鋼管を得ることに成功したものである。
【0017】
以下に、本発明の超高強度電縫鋼管の化学成分の限定理由について説明する。
【0018】
C :本発明は焼入れマルテンサイトによる強化を目指すもので、焼入れ状態のままのマルテンサイトの強度は鋼中のC 含有量によって決定される。そこで、C は鋼管中にマルテンサイト等の低温変態組織を生成し、鋼管を高強度化するために必須の元素であり、特に、本発明のように、1620N/mm2 以上の強度を得るためには、図1に示すように、少なくとも0.20%以上の含有量が必要である。しかし、含有量が0.30%を超えると、強度は上昇するものの延性や靱性が低下する。その結果、衝撃荷重が負荷されたときに脆性的に破壊し、インパクトビームとして望ましくない性質を呈する。また、耐食性の劣化等が原因となり耐水素脆化特性の劣化が促進されることもあるので、C 含有量は0.30%を上限とする。
【0019】
Si:Siは、鋼の脱酸剤として使用される元素であり、焼入れ性を高めるためにも有用であり、延性を劣化させることなく、鋼を固溶強化するとともに生成する錆を緻密化して腐食による水素侵入を抑制するために有効な元素である。また、電縫溶接で鋼管を製造する場合に、溶接部の健全性を維持するうえで非常に有効な元素でもある。このような効果を得るためには、0.05%以上の含有量が必要である。含有量の上限は、電縫鋼管の溶接時に生じるペネトレータと呼ばれる酸化物の形成を抑制するために0.50%とする。
【0020】
Mn:Mnは、鋼のマルテンサイト変態温度を低下させ、焼入れ性を向上させるとともに、焼入れ処理途中での変態後のセルフテンパーによる焼入れ強度不足となることを回避し、高強度を安定して得るに非常に有効な元素である。このような効果を発現させるためには、0.80%以上の含有量が必要である。しかし、 2.0%を超えて添加してもその効果が飽和するのみならず、偏析が大きくなり組織が不均一となるので、含有量は 2.0%を上限とする。
【0021】
P :P は、鋼を強化し延性を高めるためにも有効な元素であるが、反面、粒界に偏析し易く、粒界強度を低下させ靱性も低下するので、含有量は 0.020%以下とする。
【0022】
S :S は、Mn等と非金属介在物を形成し、腐食発生の起点となり、耐遅れ破壊特性を低下させるとともに、靱性の劣化や溶接部の健全性低下等の欠陥を引き起こすので、含有量は 0.020%以下とする。
【0023】
Al:Alは溶鋼の脱酸剤として有用な元素である。この効果を得るためには、0.01%の含有量が必要である。しかし、含有量が0.10%を超えると鋼の清浄度が損なわれるとともに、表面疵が生じ易くなるので、0.10%を含有量の上限とする。
【0024】
Cu:Cuは、生成錆を緻密化して大気環境下における鋼の腐食速度を著しく低減し、耐遅れ破壊特性の向上を図る上で、本発明における極めて有用な元素である。また、Cuは電気化学的に鉄よりも貴な元素であることから、相乗的に鋼の耐食性を向上させる。これらの効果を有効に得るには、図2に示すように、少なくとも0.05%の含有量を必要とする。しかし、他方においては、Cuは熱間圧延時に脆化を引き起こす恐れがあるので、含有量の上限を 1.0%とする。また、熱間圧延時の脆化を抑制するには、等量程度のNiと併せて添加することが好ましい。
【0025】
Cr:Crは、鋼の焼入れ性を向上させるために有効な元素であり、0.05%以上の含有量が必要である。しかし、 1.0%を超えて含有させると、電縫鋼管の溶接時にペネトレータが発生し易くなり高強度鋼管としての靱性低下の原因となるので、 1.0%を含有量の上限とする。
【0026】
Ti:Tiは、微細な炭化物を形成することによって、結晶粒の微細化と粒成長抑制効果を有する。さらに、拡散性水素のトラップサイトとして作用し、鋼素材の水素脆化感受性を低下させ、さらには、生成錆の緻密化の効果を有して耐食性を向上させる。また、B を添加した鋼ではTiの脱窒効果によって、B が有効に作用し所定の焼入れ性が確保される。これらの効果を得るためには、少なくとも0.01%の含有量が必要である。しかし、過度に添加すると、炭化物が粗大化して靱性の劣化をまねくので、0.10%を含有量の上限とする。
【0027】
B :鋼の焼入れ性はB の添加によって大きく向上する。また、焼入れ組織の靱性向上にも効果のある有用な元素である。この効果を得るためには、少なくとも0.0005%以上の含有量が必要である。しかし、0.0050%を超えて添加すると鋼中に M23(C、B)6 で表される複合炭硼化物が形成され、逆に焼入れ性の低下を招き、所定の強度が得られなくなるので、0.0050%を含有量の上限とする。
【0028】
本発明の超高強度電縫鋼管には、上記以外に下記の化学成分の中から選ばれる1種または2種以上を含有することができる。
【0029】
Nb、V 、Zr:これらの元素は、いずれもTiと同様に安定な炭窒化物を形成し、焼入れ時に結晶粒の粗大化を抑制し、靱性の劣化を防止する等の有効な作用を呈する。このような作用を得るには、0.01%以上の含有量が必要となる。含有量が0.10%を超えると短時間で鋼材が加熱される高周波焼入れでは、炭化物の固溶不足に起因してマトリックスの C濃度が低下する。その結果、必要とする強度が得られなくなる。したがって、それぞれの含有量の上限は0.10%とする。
【0030】
Mo:Moは鋼の焼入れ性を向上させるのに有効な元素であり、Moを添加することによって耐遅れ破壊特性を劣化させる C量を増加させることなく、より高強度の鋼を得ることができる。また、Moの添加により同一強度の鋼を得るのであれば、C量を低減することができ、これによって耐遅れ破壊特性を向上させることができる。このような効果を得るためには、少なくとも0.05%以上の含有量が必要である。しかし、過度に添加すると延性の低下をもたらすとともに、高価な元素であるので製造コストを高める。したがって、Moの含有量の上限は 1.0%とする。
【0031】
Ni:Niは鋼の焼入れ性を向上させ、同時に鉄原子間の結合エネルギを高めることで、靱性の劣化を抑えながら高強度化を図る上で非常に有効な元素である。また、生成錆の緻密化によって、鋼の耐食性を向上させる効果も有する。これらの作用を得るためには、少なくとも0.05%以上の含有量が必要であり、より望ましくは0.10%以上の含有量が必要である。しかし、過度に添加しても特性改善効果が緩慢になるだけでなく、鋼材のコスト上昇を招く。したがって、Niの含有量の上限は 2.0%とする。
【0032】
次に、製造方法について説明する。本発明によれば、先ず上述した化学成分を有する鋼片(スラブ)を加熱温度1100℃以上、巻取温度 650℃以下の条件にて、常法にしたがって熱間圧延を行う。鋼片加熱においては、本発明におけるような高強度鋼では熱間圧延時の圧延荷重が高くなる傾向があるので、圧延温度が低くなりすぎないようにすることが好ましく、そこで鋼片の加熱温度を1100℃以上とする。この場合、連続鋳造された鋼片をそのまま圧延する直接圧延や軽加熱や鋼片を一度冷却した後に再加熱を行う方法等、加熱方法は特に限定されるものではない。しかし、加熱温度が1300℃を超えることは、徒に熱エネルギを消費するのみであり特に利点はない。
【0033】
鋼片の熱間圧延は、常法によって行えばよく、仕上げ圧延は Ar3変態点以上のオーステナイト単相域で行えばよい。巻取りは、圧延鋼板表面のスケールの除去性を考慮し、 650℃以下の温度で行うことが望ましい。しかし、余りに巻取温度が低くなると、ベイナイトやマルテンサイトの低温変態組織が混在し、強度が高くなり造管しにくくなるので、下限温度を 450℃以上の温度とする。このような条件にて製造した熱延鋼板は、一般の電縫鋼管の強度水準である390N/mm2〜690N/mm2程度となり、通常の熱延鋼板と同等の状態で造管が可能である。
【0034】
このようにして得られた熱延鋼板(鋼帯)を常法にしたがって、酸洗、研削、ショットブラスト等の手段によって表面のスケールを除去した後、常法にしたがって、所定幅にスリットした鋼帯を電縫鋼管に成形する。造管時の溶接は一般的な高周波誘導抵抗溶接を用いる。
【0035】
電縫鋼管の断面形状は、造管したままの状態の円形断面で使用するのがコスト的にも、熱処理作業の容易性の面でも有利であるが、用途によっては矩形断面を持つ角形鋼管に加工して使用することもできる。
【0036】
得られた電縫鋼管から、所定の強度を得るための熱処理には、順次短時間加熱された部分を水冷却して焼入れを行う高周波焼入れを用いる。高周波焼入れは、熱処理時の形状変形が抑制され、形状特性に優れた電縫鋼管を得ることができるので好適である。
【0037】
高周波焼入れは、 Ac3変態点以上、 950℃以下の温度範囲に加熱し、加熱後は常温まで水冷する。加熱温度が Ac3変態点よりも低く、 Ac1〜 Ac3変態点間の二相域では、その温度域で存在するオーステナイトはマルテンサイトに変態し、硬化するが、フェライトは硬化しないので、焼入れ組織は硬いマルテンサイトと軟らかいフェライトとの混合組織となり、焼入れ本来の目的に添わないばかりか、目的とする強度も得られない。また、加熱温度が 950℃を超えると、加熱時のオーステナイトが粗大化し、焼入れ材の衝撃特性が低下する。また、加熱温度が高くなり過ぎると焼入れ強度も低下する。したがって、焼入れ時の加熱温度は Ac3変態点以上、 950℃以下の温度範囲とする。
【0038】
焼入れ組織は、引張強度が1620N/mm2 以上であれば、どんな組織でもよい。しかし、高周波焼入れでは、焼入れ後の冷却速度の厳密な制御は困難であるため、例えばベイナイト等が多量に混在した組織では得られた電縫鋼管の機械的性質が大きく変動し易くなるので、引張強度が冷却速度に依存しないマルテンサイト組織を主体とすることが、機械的性質を安定させる上で有効となる。このためにも、C 含有量は焼入れ後の組織がマルテンサイト組織になるように、0.20〜0.30%の範囲に限定している。
【0039】
なお、焼入れ処理後に焼もどし処理を行い、機械的性質を調整することができる。ただし、熱処理工程が複雑化するため製造コスト面で若干不利となる。
【0040】
【実施例】
表1に示す化学成分を含有する鋼片を1200℃に加熱し、表2に示す圧延条件で板厚 2.0mmの熱延鋼板に圧延した。これらの熱延鋼板から、常法にしたがって、外径31.8mm、肉厚 2.0mmの電縫鋼管を製造し、この鋼管を全数とも 900±20℃の温度から水冷する高周波焼入れを行った。焼入れ後の電縫鋼管から試験片を採取し、引張り特性、衝撃特性および耐遅れ破壊特性を調査した。その結果を表2に示す。
【0041】
引張り試験にはJIS 11号試験片を用いた。衝撃試験は JIS 4号衝撃試験片に準拠し、鋼管軸方向から切り出し加工した厚さ 2mmのVノッチ試験片を用い、−40℃で繰り返し3回の試験を行った。表2の衝撃特性値は繰り返し3回の平均値である。耐遅れ破壊特性は、焼入れ後の電縫鋼管から長さ 300mmの鋼管状の試験片を切り出し、これを1000mol/m3の塩酸水溶液中に 300時間浸漬し、目視検査で浸漬後の水素脆化割れを観察した。評価は割れの有無で行い、表2には割れ無しを○、割れ有りを×印で示した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示すように、本発明例は、化学成分、高周波焼入れ条件とも本発明の限定範囲内であるため、いずれも良好な特性を有している。本発明例に対して、比較例、鋼14は水素のトラップサイトとなるTiの含有量が少なく、鋼15は耐遅れ破壊特性を向上させるCuと前記Tiの含有量が少なく、鋼16〜18は前記Cuの含有量が少なく、鋼19と20は耐遅れ破壊特性を低下させる Sの含有量が多く、かつ前記Cuの含有量が少ないため、耐遅れ破壊特性が悪い。
【0045】
比較例、鋼14は焼入れ強度を確保するために必要なCr、Tiの含有量が少ないため、目標とする引張強度 1620N/mm2以上が得られていない。鋼15はTi含有量が少ないものの、強度確保に有用なCrが添加されているので、目標引張強度は得られているが、耐遅れ破壊特性が劣り、衝撃特性も低い。鋼17は焼入れ性を向上させるMnとB の含有量が少なく、鋼18と19は Cの含有量が少ないため、目標とする引張強度が1620N/mm2 以上が得られていない。また、鋼16は Cの含有量が多いため、引張強度は1620N/mm2 以上であるが、延性(伸び)および衝撃特性が低下している。
【0046】
【発明の効果】
以上述べたところから明らかなように、本発明は引張強度を確保し、かつ耐遅れ破壊特性を向上させる化学成分を有する電縫鋼管を、高周波焼入れしているため、引張強度が1620N/mm2 以上で、かつ耐遅れ破壊特性に優れた自動車用超高強度電縫鋼管を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】高周波焼入れ後の鋼中 C含有量と引張強度との関係を示す図である。
【図2】1000mol/m3の塩酸水溶液に浸漬したときの水素脆化割れ発生までの浸漬時間と鋼中Cu含有量との関係を示す図である。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.20〜0.30%、 Si:0.05〜0.50%、 Mn:0.80〜2.0 %、 P:0.020%以下、 S:0.020%以下、 Al:0.01〜0.10%、 Cu:0.05〜1.0 %、 Cr:0.05〜1.0 %、 Ti:0.01〜0.10%、B:0.0005〜0.0050%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり引張強度が1620N/mm2 以上であることを特徴とする耐遅れ破壊特性の優れた自動車用超高強度電縫鋼管。
- さらに質量%で、 Nb:0.01〜0.10%、V:0.01〜0.10%、 Zr:0.01〜0.10%、 Mo:0.05〜1.0 %、 Ni:0.05〜2.0 %の中から選ばれる1種または2種以上を含む請求項1に記載の耐遅れ破壊特性の優れた自動車用超高強度電縫鋼管。
- 請求項1または請求項2の化学成分を有する熱延鋼板から造管した電縫鋼管を Ac3変態点以上、 950℃以下の温度に加熱した後、水冷する高周波焼入れを行い引張強度が1620N/mm2 以上であることを特徴とする耐遅れ破壊特性の優れた自動車用超高強度電縫鋼管の製造方法。
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