JP3248772B2 - 耐食性食器類 - Google Patents

耐食性食器類

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JP3248772B2 JP09805293A JP9805293A JP3248772B2 JP 3248772 B2 JP3248772 B2 JP 3248772B2 JP 09805293 A JP09805293 A JP 09805293A JP 9805293 A JP9805293 A JP 9805293A JP 3248772 B2 JP3248772 B2 JP 3248772B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、高度の耐食性と高い
表面硬度の双方を備えたオーステナイト系ステンレス製
の耐食性食器類に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、ナイフ,フォーク,スプーン等
の食器類は、錆を極度に嫌うため、ステンレス製のもの
が汎用されている。特に、上記ステンレス材としては、
マルテンサイト系のステンレス材が用いられている。し
かしながら、上記マルテンサイト系ステンレスは、比較
的高価なクロムを多量に含有しているため、ステンレス
材自体が高価であること、また、焼入等を行う必要があ
ることから、歪みを生ずること、さらに耐食性が不充分
であるため、場合によって錆を生ずるという欠点を有し
ている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】このため、最近では、
上記のようなマルテンサイト系のステンレス材に代え
て、オーステナイト系ステンレス材を用いることが試み
られている。オーステナイト系ステンレス材は、上記マ
ルテンサイト系ステンレス材に比べて、耐食性に富んで
おり、錆びにくい反面、表面剛性に欠けることから、硬
質クロムメッキ等を施すことが行われる。しかし、この
硬質クロムメッキ法では、メッキ皮膜の密着性が低いこ
とから、比較的早期に剥離し、食器類の寿命が短くなる
という難点がある。そこで、上記オーステナイト系ステ
ンレス材の表面硬度を向上させることができれば、少々
のことでは傷が付かず、しかも錆びにくい耐食性食器類
を提供することができる。上記ステンレス材の表面硬度
を向上させるには、通常、窒化処理を施し、表面に窒化
硬化層を形成することによって、表面硬度を高めること
が考えられる。この種の窒化処理の方法としては、塩浴
窒化,イオン窒化およびガス窒化等の各種の方法がある
が、これらの窒化方法では、窒化温度が、通常550〜
570℃程度に設定され、低温でも480℃程度に設定
されている。このような窒化方法によって、上記オース
テナイト系ステンレス材からなる食器類を窒化処理する
と、上記食器類は、その表面硬度は向上するものの、オ
ーステナイト系ステンレス材自体が有していた耐食性が
損なわれ、発錆しやすくなることがわかった。
【0004】この発明は、このような事情に鑑みなされ
たもので、高い耐食性と高い表面硬度の双方を備えた耐
食性食器類の提供をその目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
め、この発明の耐食性食器類は、母材が、オーステナイ
ト系ステンレスからなり、表層部の少なくとも一部が、
下記の(A),(B)を備えた窒化硬化層で構成されて
いるという構成をとる。 (A) 結晶質のクロム窒化物を実質的に含有していな
い。 (B) 窒化硬化層最表層部の組織中に1.8重量%以
上11.8重量%(以下「%」と略す)以下のN原子が
含有されている。
【0006】
【作用】すなわち、本発明者らは、先に述べた窒化処理
によって耐食性の劣化が生ずる原因を突き止めるため一
連の研究を行った。その結果、上記耐食性の劣化は、形
成された窒化層中に結晶クロム窒化物(CrN)が析出
生成することにより、母相(オーステナイト相)中の固
溶クロム(Cr)濃度が大幅に低下し、ステンレス本来
の耐食性保持機能を果たすべき不働態皮膜の形成に必要
不可欠な活性Crが殆ど無くなってしまうことに起因す
ることを突き止めた。そして、さらに研究を重ねた結
果、上記オーステナイト系ステンレスに対する窒化処理
をかなりの低温(前記従来の窒化法の窒化温度である4
80〜580℃の温度領域より100〜200℃下げた
温度領域)で行うと、結晶クロム窒化物(CrN)や、
鉄窒化物を析出生成させることなく、窒素原子がオース
テナイト系ステンレスの母相(γ相)中に浸透するよう
になる。そして、その浸透量(含有量)を1.8%以上
11.8%以下の範囲内に規制すると、耐食性の劣化も
生じず、しかも上記窒素原子の浸透によって、表面硬度
の高い窒化硬化層が形成されることを見出し、この発明
に到達した。この場合、上記窒素原子は、γ相中に単に
浸透するだけの状態であり、それによって格子歪は形成
するが、結晶クロム窒化物等の析出生成までには至らな
いものと考えられる。そして、上記窒素原子の含有量が
上限を超えると、浸透窒素原子とクロムとによって、結
晶クロム窒化物が生成してしまい、耐食性の低下が生起
する。また、上記範囲を下回ると、表面硬度の高い窒化
硬化層の生成が不充分となる。
【0007】なお、この発明の耐食性食器類が、結晶質
のクロム窒化物を実質的に含有していないことは、X線
回折法によって試料を分析することにより確認すること
ができ、また、オーステナイト相中に含有されている窒
素原子の量は、エスカ(Electron Spect
roscopy for Chemical Anal
ysis)またはEPMA(Electron Pro
be Micro Analyzer)によって確認す
ることができる。ここで、この発明において、「結晶質
のクロム窒化物を実質的に含有していない」とは、結晶
質のクロム窒化物の含有量が微量(数%)以下であるこ
とをいう。
【0008】つぎに、この発明を詳しく説明する。
【0009】この発明の耐食性食器類は、オーステナイ
ト系ステンレスを原料とし、そのまま窒化処理するか、
もしくはそれを所定の形状に成形した後、その成形品に
対して窒化処理することによって得られる。上記オース
テナイト系ステンレス材としては、18−8(略Cr1
8%、Ni8%)系オーステナイト系ステンレス材を基
本とし、耐食性,加工硬化性,耐熱性,切削性,非磁性
等の要求特性に応じ、元素,成分量を適宜変更させたオ
ーステナイト系ステンレス材があげられる。また、クロ
ムを22%以上含有するCr−Ni−Mo系、あるいは
一部のNiをMnで代用したようなオーステナイト系ス
テンレス材も対象となる。さらに、クロムが22%未満
でも、モリブデン(Mo)を1.5%以上含有するオー
ステナイト系ステンレス材もこの発明の対象となる。
【0010】上記のようなオーステナイト系ステンレス
材ないし、その成形品(これらを「ステンレス品」とい
う)に対して施す窒化処理は、つぎのようにして行われ
る。すなわち、上記ステンレス品に対し、窒化処理に先
立って、窒化の際のN原子の浸透の容易化を図るため、
フッ化処理をする。このフッ化処理に用いるフッ素系ガ
スとしては、NF3 ,BF3 ,CF4 ,HF,SF6
2 6 , WF6 ,CHF3 ,SiF4 等からなるフッ
素化合物ガスがあげられ、単独でもしくは併せて使用さ
れる。また、これら以外に分子内にフッ素を含む他のフ
ッ素化合物ガスもフッ素系ガスとして用いることができ
る。このようなフッ素系ガスは、それのみで用いること
もできるが、通常は、N2 ガス等の不活性ガスで希釈さ
れて使用される。このような希釈されたガスにおけるフ
ッ素系ガスの濃度は、例えば10000〜100000
ppmであり、好ましくは20000〜70000pp
m、より好ましくは、30000〜50000ppmで
ある。この種のフッ素系ガスとして最も実用性を備えて
いるのはNF3 である。NF3 は常温でガス状であり化
学的安定性が高く取り扱い性が容易である。
【0011】フッ化処理は、上記濃度のフッ素系ガス雰
囲気を作り、この雰囲気中に、上記ステンレス品を入れ
加熱状態で保持することにより行う。この場合の加熱
は、上記ステンレス品自体を300〜550℃の温度に
昇温させることによって行われる。このようなフッ素系
ガス雰囲気中でのステンレス品の保持時間は、その形状
寸法等によって適当な時間が選択される。通常は、十数
分〜数十分の範囲内に設定される。このフッ化処理によ
り、N原子がステンレス品の表面層に浸透しやすくな
る。この理由については、現段階では充分に明らかでは
ないが、およそつぎのように考えられる。すなわち、上
記ステンレス品の表面には、窒化作用を奏するN原子の
浸透拡散を阻害する不働態皮膜が形成されている。この
ため、従来は不働態皮膜(酸化皮膜)の存在により、窒
化処理の際の温度をかなり高くしないと窒素原子が浸透
しなかったのであり、その結果、表面硬化層中に結晶ク
ロム窒化物が析出生成することとなった。ところが、こ
の発明では、窒化処理に先立って、フッ素系ガス雰囲気
下でフッ素処理をする。このように表面に不働態皮膜が
形成されたステンレス品を上記のようなフッ素系ガス雰
囲気下において加熱状態で保持すると、上記不働態皮膜
がフッ化膜に変換する。このフッ化膜は不働態皮膜に比
べてN原子の浸透が容易であることから、上記ステンレ
ス品の表面は、フッ化処理によってN原子の浸透の容易
な表面状態に形成される。したがって、このようなN原
子の浸透の容易な表面状態となっているステンレス品
を、つぎに示すように窒化雰囲気下において加熱状態で
保持すると、窒化ガス中のN原子がステンレス製品の表
面層に一定の深さで均一に浸透するため、深く均一な窒
化硬化層が形成されると考えられる。
【0012】窒化処理は、上記のように、フッ素処理に
よりN原子の浸透し易い状態となっているステンレス品
を窒化雰囲気下において加熱状態で保持して窒化処理す
ることにより行われる。この場合、窒化雰囲気下をつく
る窒化ガスとしては、NH3のみからなる単体ガス、ま
たは炭素源を有するガス(例えばRXガス)とNH3
の混合ガス(例えばNH3 とCOとCO2 との混合ガ
ス)が用いられる。通常は、上記単体ガスまたは混合ガ
スにN2 等の不活性ガスを混合して使用される。場合に
よっては、これらのガスにH2 ガスを混合して使用する
ことも行われる。このような窒化雰囲気下において、フ
ッ化処理のなされたステンレス品が加熱状態で保持され
る、この場合、加熱温度は、従来の窒化処理のそれより
も大幅に低い温度の450℃以下の温度に設定される。
特に好ましいのは370℃以上420℃以下の範囲内で
ある。すなわち、上記温度が450℃を超えると、結晶
CrNが窒化硬化層中に生成して母相中の活性Cr濃度
が低下し、ステンレス自体の有する耐食性が損なわれる
からである。特に、420℃以下の温度で窒化処理する
ことにより、母材となるオーステナイト系ステンレス自
身の有する耐食性と同程度の耐食性を保持でき、しかも
硬度の大きな窒化硬化層がステンレス品の表面に形成さ
れることとなるため、このような温度域に設定すること
が好ましい。なお、370℃未満の窒化処理温度では、
24時間窒化処理しても窒化硬化層が深さ10μm以下
に生成するに過ぎず、工業的価値に乏しいことから余り
実用的ではない。そして、上記窒化処理時間は、通常1
0〜20時間に設定される。
【0013】このような窒化処理により、上記ステンレ
ス品の表面層が緻密で均一な、厚み20〜40μm程度
の窒化硬化層(全体が一層からなる)に形成される。上
記窒化処理によれば、オーステナイト系ステンレス品
に、窒化処理後の寸法変形や面荒れがほとんど生じな
い。すなわち、従来の窒化処理では、結晶クロム窒化物
が析出生成すること等によって、ステンレス品の外形が
膨張して、寸法変化が生じたり、また、面粗度が悪くな
るという欠点が生じ、最終加工仕上げに多大のコストを
有するうえ、その技術を精密機械に応用することが困難
である。これに対し、この発明の窒化硬化層は、結晶ク
ロム窒化物をほとんど含有していず、緻密な組織からな
っていることから、寸法変化や面粗度の悪化が生じず、
最終仕上げ加工をする必要がなくなる。
【0014】この窒化硬化層には、結晶クロム窒化物が
実質的に含有されていず、かつ、その最表層部の組織中
1.8%以上11.8%以下のN原子が含有されてい
る。このため、窒化処理済のステンレス品は、窒化硬化
前のオーステナイト系ステンレス材とほぼ同程度の耐食
性を備え、しかも、上記窒化硬化層の存在により、表面
硬度が大幅に向上している。このような窒化処理済のス
テンレス品の耐食性は、窒化前の表面状態が精密研磨状
態であるほど高い。また、材質的には、SUS310
(クロム25%,ニッケル20%)のようにクロム含有
量が高いほど耐食性が良い。また、18−8系オーステ
ナイト系ステンレス材については、モリブデンを含むほ
ど良好となる。そして、上記のようにして得られた窒化
処理済のステンレス品は、窒化前のオーステナイト系ス
テンレスと同程度の優れた耐食性を有しているうえ表面
硬度も大幅に向上しており、しかも、通常、非磁性にな
っている。すなわち、従来の窒化処理によれば、結晶ク
ロム窒化物が析出生成することによって、オーステナイ
ト系ステンレス材自体の有する非磁性が損なわれ、窒化
硬化層が磁性を帯びるようになるのであるが、この発明
の耐食性食器類では、窒化硬化層に結晶質のクロム窒化
物を実質的に含有していないことから、非磁性を保った
ままになる。
【0015】なお、上記窒化処理を終えたステンレス品
(ステンレス窒化品)に対し、HNO3 を含む強混酸処
理を施してもよい。この処理によって、窒化を終えたス
テンレス品の表面に付着している酸化スケールが除去さ
れると同時に、硝酸の作用によって、ステンレス窒化品
の表面に、固溶クロムに起因する不働態皮膜(酸化皮
膜)が早期に厚めに形成されるようになり、酸化皮膜の
強化が可能となる。より詳しく述べると、前記窒化処理
によって、場合によっては、ステンレス窒化品の表面に
酸化スケールが生ずることがあり、この酸化スケールは
発錆しやすいため、窒化硬化層の耐食性は、酸化スケー
ルの存在によって低下する。したがって、上記のような
強混酸処理を施すことによって、酸化スケールが除去で
き、耐食性の低下が防止される。また、オーステナイト
系ステンレス材の耐食性は、母相中の固溶クロムに基づ
く不働態皮膜(酸化皮膜)の生成に起因するものである
が、上記のような強混酸処理によって不働態皮膜の早期
生成および強化が行われ、耐食性の一層の向上が見られ
るようになる。このような強混酸としては、HNO3
HFからなる混酸,HNO3 −HClからなる混酸等の
HNO3 を含む混酸が用いられる。これら強混酸におけ
るHNO3 の濃度は、10〜20%、HFは1〜10
%、HClは5〜25%の範囲に設定される。強混酸の
残部は水となる。そして、上記処理は、強混酸の液温
を、20〜50℃に制御し、20〜60分間、上記強混
酸液にステンレス窒化品を浸漬することによって行われ
る。このような強混酸処理を行うと、全窒化硬化層の2
0〜30%を占める最表面層が除去されることとなる
が、残された部分の表面硬度は高いことから、充分な剛
性が維持される。この場合、残存する窒化硬化層は、最
表面相の上記除去により完全な非磁性となる。すなわ
ち、窒化硬化層の最表面層は、場合によって、多少磁性
を帯びることもあるが、そのような場合でも、上記強混
酸処理によって磁性を帯びた最表面層が除去されるよう
になることから、強混酸処理済のステンレス窒化品は、
オーステナイト系ステンレス(母材)と同等の透磁率を
示すようになる。また、上記最表面層部分には窒素原子
の浸透量が多く、この窒素原子の浸透量の多さに基づ
き、上記最表面層部分は、他の部分より多少錆びやすく
なっているので、最表面層部分の除去により、その下側
の、比較的窒素原子の浸透量の少ない層(N原子2〜5
%)が表面層を形成するようになる。この層は、上記最
表面部分に比べて硬度が多少低いものの、なお充分な硬
度を有しており、しかも、より錆びにくいという特性を
有する。したがって、このようにして処理されたもの
は、高い防錆性が要求される食器類として最適である。
【0016】
【発明の効果】以上のように、この発明の耐食性食器類
は、表面層を構成する窒化硬化層に、結晶クロム窒化物
を実質的に含有していないため、窒化硬化層に結晶クロ
ム窒化物を含むステンレス窒化品にくらべ、オーステナ
イト相(母相)中の固溶クロムが結晶クロム窒化物の析
出生成によって消費されていない。したがって、窒化硬
化層の表面に、母相の結晶クロムの作用によって生ずる
不働態皮膜(酸化皮膜)が充分に生成し、それによっ
て、窒化硬化層が上記母相と同等の優れた耐食性を有す
るようになる。また、窒化硬化層中に、結晶クロム窒化
物が析出生成していないことから、上記結晶クロム窒化
物の析出生成に基づく、ステンレス窒化品の寸法変化や
面粗度の悪化が生じない。その結果、窒化処理後に、最
終仕上げ加工を行う必要がない。すなわち、この発明の
耐食性食器類は、窒化硬化層最表層部の組織中に1.8
%以上11.8%以下のN原子が浸透含有されているこ
とによって、表面硬度が高くなり、結晶クロム窒化物か
らなる窒化硬化層によって形成されるものとほぼ同等の
高い表面硬度を備えるようになる。
【0017】つぎに、実施例について比較例と併せて説
明する。
【0018】
【実施例1】SUS304からなるスプーンと、SUS
316(クロム18%,ニッケル12%,モリブデン2
%,芯部硬度Hv=310)からなるスプーンと、SU
S310(クロム25%,ニッケル20%,芯部硬度H
v=370)からなるスプーンの3種類の試験品を準備
した。ついで、これらをマッフル炉に入れて炉内を充分
に真空パージした後、400℃に昇温させた。そして、
その状態でフッ素系ガス(NF3 10vol%+N2
0vol%)を入れて炉内を大気圧の状態にし、その状
態で15分間保持しフッ化処理した。つぎに、上記フッ
素系ガスを炉から排出した後、窒化ガス(NH3 25v
ol%+N2 60vol%+CO5vol%+CO2
vol%)を導入し、炉内を400℃に保ったまま24
時間保持し窒化処理して取り出した。
【0019】このようにして、窒化処理された上記各試
験品(SUS304製スプーン,SUS316製スプー
ン,SUS310製スプーン)について表面硬度を測定
したところ、SUS304製スプーンでHv=880,
SUS316製スプーンでHv=1050,SUS31
0製スプーンでHv=1120であった。また、硬化層
深さはそれぞれ、SUS304製スプーンで18μm,
SUS316製スプーンで20μm,SUS310製ス
プーンで18μmであった。
【0020】
【実施例2】実施例1において、窒化処理の温度を44
0℃に変えるとともに、処理時間を12時間に変更し
た。それ以外は実施例1と同様に行った。得られた3種
類の窒化処理済みスプーンについて、同様の測定行った
ところ、表面硬度は3者ともHv=1100以上で窒化
硬化層の厚みはそれぞれ、SUS304製スプーンが2
3μm、SUS316製スプーンが25μm、SUS3
10製スプーンが20μmであった。
【0021】
【実施例3】実施例1において、窒化処理の温度を38
0℃に変えるとともに、処理時間を15時間に変更し
た。それ以外は実施例1と同様に行った。得られた3種
類の窒化処理済みスプーンについて、同様の測定行った
ところ、表面硬度は3者ともHv=950以上で窒化硬
化層の厚みはそれぞれ、SUS304製スプーンが15
μm、SUS316製スプーンが15μm、SUS31
0製スプーンが12μmであった。
【0022】
【比較例1】実施例1で用いた3種類のスプーンを対象
とし、いずれも400℃でフッ化処理をしたのち、実施
例1で用いたと同様の窒化ガスを用い、実施例1で用い
たと同様の炉に入れ、550℃で5時間窒化処理して取
り出した。得られた3種類の窒化処理済みスプーンの表
面硬度は、それぞれ順に、Hv=1280,Hv=12
80,Hv=1300であり、硬化層深さは30〜35
μmであった。
【0023】つぎに、上記実施例1〜3で得られた試験
品を40℃の5%HF−18%HNO3 の強混酸溶液に
60分間浸漬したのち、取出して調べたところ、各試験
品の窒化硬化層の最表面層(3〜6μm)が除去されて
いた。また、比較例1についても、同様に処理したとこ
ろ、窒化硬化層の全体が消失除去されていた。
【0024】つぎに、以上の実施例1〜3および比較例
1で得られた試験品およびそれを強混酸溶液で処理した
ものの表面硬度および窒化硬化層の最表面のN原子の含
有量を求め、下記の表1にまとめて示した。表1中、酸
処理有は、強混酸処理を施したものを示し、酸処理無
は、窒化を終えた段階のものを示す。また、N原子の含
有量は、上記各試料をEPMA線分析に供し、得られた
チャートから求めた。耐食性は、JIS2371に基づ
く塩水噴霧試験(SST試験)に供し、発錆までの時間
を求めた。また、結晶質クロムの存在の有無は、各試料
をX線回試験に供し、得られたチャートから判断した。
【0025】
【表1】
【0026】上記の表から下記のことがわかる。 実
施例2のSUS310製スプーン(酸処理有)と、比較
例1のSUS316製スプーン(酸処理無)との対比か
ら明らかなように、窒化硬化層中に結晶クロム窒化物が
なく、かつN原子濃度が、11.8%以内であれば耐食
性は実用化できる程度に得られるが、11.8%を境に
し、これを超えると、結晶クロム窒化物の析出がみられ
るようになり耐食性が大幅に低下する。逆に、実施例3
のSUS316製スプーン(酸処理有)から明らかなよ
うに、N原子濃度が、1.8%を下回ると、表面硬度が
通常、Hv600未満となり、表面剛性が不充分とな
る。 実施例1〜3と比較例1との対比から明らかな
ように、窒化温度が高くなる程、窒化硬化層中のN原子
の濃度(含有量)が多くなる。 強混酸処理すると、
窒化硬化層中の最表面層部(N原子の濃度最大)が溶解
除去され、その下の層が現れるため、N原子濃度および
表面硬度が下がる。 窒化硬化層中のN原子濃度は、
SUS316製スプーンよりもSUS310製スプーン
の方が高いことから、窒化に際しては、母材中のCr濃
度に比例して、N原子の濃度が高くなる。 比較例
は、窒化硬化層の全体にわたって結晶クロム窒化物が析
出していて耐食性に欠けることから、強混酸処理によっ
て、耐食性に欠ける窒化硬化層の全体が消失し、母材が
露呈している。
【0027】なお、上記EPMA線分析の結果を、実施
例1(SUS316製スプーン、酸処理無)と比較例1
(SUS316製スプーン、酸処理無)とを代表させて
図1(実施例1)および図2(比較例1)に示した。こ
の図1と図2のN原子の濃度曲線から明らかなように、
実施例1では、窒化硬化層の最表面層のN原子の濃度
(含有量)は、7.6%であるのに対し、比較例1で
は、12.8%と著しく高くなっている。なお、上記E
PMAのN原子濃度は、基準検量線を用いて測定したも
のである。
【0028】また、X線回折試験の結果を、上記実施例
1および比較例1(いずれもSUS316製、酸処理
無)とを代表させて図3(実施例1)および図4(比較
例1)に示した。これらの図において、曲線(イ)が実
施例1のX線回折曲線、曲線(ロ)が窒化処理をしてい
ないSUS316(SUS316生材)のX線回折曲
線、曲線(ハ)が比較例1のX線回折曲線である。図3
において、γnは、窒化によって窒素原子が含有された
γ相(母相)を示す。曲線(イ)と曲線(ロ)との対比
から、曲線(イ)のγn(母相)が、それに対応する曲
線(ロ)のγ−Fe相(母相)よりも左(低角度側)に
ずれ、格子常数が大きくなっていて、格子歪の発生がみ
られ、これが実施例品の表面硬度の向上原因であること
がうかがえる。他方、比較例の曲線(ハ)では、CrN
のような結晶クロム窒化物のピークが多数みられ、これ
が、窒化硬化層の耐食性を低減させていることがうかが
える。
【0029】また、上記のようにして得られた実施例1
および比較例1のスプーン(いずれもSUS316製、
酸処理無)について、電気化学的腐食性を調べるため
に、アノード分極試験(JIS G 0579に準ず
る)に供した。その結果を図5に示す。図5から、不働
態領域近傍(破線X)での不働態保持電流密度レベルの
オーダーを比較すると、実施例1(曲線A)は窒化処理
していないSUS316母材(曲線B)と比べてあまり
劣化していないことがわかる。これに対して比較例1
(曲線C)は、SUS316母材(曲線B)と比べて3
桁以上の差を有し、窒化処理によって耐食性が著しく劣
化していることがわかる。
【0030】
【実施例4】さらに、上記実施例1で得られた3種類の
窒化処理済みスプーンをショットブラストに供し、表面
に付着していた酸化スケールを除去してSST試験に供
した。発錆は、いずれも72時間以内で生じた。
【0031】つぎに、これらの試験品を、20%HCl
−13%HNO3 の強混酸溶液に、液温45℃で60分
浸漬し、その後、硬度を測定したところ、いずれも、表
面硬度Hv=850〜900であり、窒化硬化層の厚み
は、強混酸によって浸され5〜8μm減少し12〜15
μmとなっていた。ついで、上記酸処理済の試験品をS
ST試験に供した結果、耐腐食性が向上しており、18
00時間を超えても全く発錆しなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例品に対するEPMA線分析曲線図であ
る。
【図2】比較例品に対するEPMA線分析曲線図であ
る。
【図3】実施例品に対するX線回折曲線図である。
【図4】比較例品に対するX線回折曲線図である。
【図5】実施例品および比較例品に対する電流密度−電
圧曲線図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 湊 輝男 和歌山県橋本市城山台3−38−2 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C23C 8/26 A47G 21/04

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 母材が、オーステナイト系ステンレスか
    らなり、表層部の少なくとも一部が、下記の(A),
    (B)を備えた窒化硬化層で構成されていることを特徴
    とする耐食性食器類。 (A) 結晶質のクロム窒化物を実質的に含有していな
    い。 (B) 窒化硬化層最表層部の組織中に1.8重量%以
    上11.8重量%以下のN原子が含有されている。
  2. 【請求項2】 オーステナイト系ステンレスが、クロム
    を22重量%以上含有している請求項1記載の耐食性食
    器類。
  3. 【請求項3】 オーステナイト系ステンレスが、モリブ
    デンを1.5重量%以上含有している請求項1または2
    記載の耐食性食器類。
  4. 【請求項4】 構成要素(B)のみが、下記のように制
    限されている請求項1記載の耐食性食器類。 (B) 窒化硬化層最表層部の組織中に2〜5重量%の
    N原子が含有されている。
  5. 【請求項5】 窒化硬化層の厚みが14〜40μmに設
    定されている請求項1記載の耐食性食器類。
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