JP3219003B2 - 鋼材の表面処理剤および表面処理鋼材 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、鋼材の新しい表面処理
塗料に関連したものであり、海岸地域等塩分の影響で厳
しい大気腐食環境に対しても保護作用を有する錆層（以
後耐候性安定錆という）を早期に形成することができる
表面処理剤およびこれが被覆されている表面処理鋼材に
関するものである。

【０００２】

【従来の技術】一般に、鋼にＰ，Ｃｕ，Ｃｒ，Ｎｉ等の
元素を添加することにより、大気中における耐食性を向
上させることができる。これらの低合金鋼は耐候性鋼と
呼ばれるが、屋外において数年で腐食に対して保護性の
ある錆（以下耐候性錆という）を形成し、以後塗装等の
耐食処理作業を不要とするいわゆるメインテナンスフリ
ー鋼である。

【０００３】しかしながら、耐候性錆が形成されるまで
に数年かかるため、それまでの期間中に赤錆や黄錆等の
浮き錆や流れ錆を生じてしまい、外見的に好ましくない
ばかりでなく周囲環境の汚染原因にもなるという問題点
を残している。特に海塩粒子飛来環境においては、この
傾向が著しいばかりではなく、耐候性錆が形成されない
ことが問題であった。

【０００４】この問題については、たとえば特開平１−
１４２０８８号にあるように、リン酸塩皮膜を形成させ
る表面処理方法が提案されている。

【０００５】

【発明が解決しようとする課題】しかし、リン酸塩皮膜
を形成させる以前に適当な前処理を施す必要があるなど
処理の内容が複雑であり、また鋼材の溶接が必要な場合
は溶接部に処理を施すことは容易ではなく、建築構造物
には適用が困難である等の問題がある。また、この方法
により、塩分飛来環境の厳しい大気腐食環境で耐候性錆
が形成される点については、疑問が残る。

【０００６】したがって、本発明の課題は、耐候性鋼等
の低合金鋼や普通鋼等のいわゆる錆を生成する鋼材の表
面あるいは錆層に塗布することにより、早期に鋼材表面
に耐候性安定錆を形成できる表面処理剤を提供し、かつ
この表面処理剤で被覆された表面処理鋼材を提供するこ
とにある。

【０００７】

【課題を解決するための手段】本発明者らは、２０年以
上暴露して生成させた安定錆を解析した結果、耐候性安
定錆がα−（Ｆｅ，Ｃｒ）ＯＯＨ（以下クロムゲーサイ
トという）からなる微細結晶の緻密な集合により構成さ
れていることを解明した。このため、鋼材の保護のため
に、耐候性安定錆を早期に生成して浮き錆や流れ錆の生
成を抑えるためには、緻密なクロムゲーサイト生成をい
かに促進させるかがポイントとなることを知見した。

【０００８】前記課題を解決する具体的手法として本発
明者らは、硫酸クロムを適当量含有する有機樹脂塗料を
鋼材表面あるいは鋼材の錆層に被覆することにより、流
れ錆等の発生を伴わずに耐候性安定錆を早期に形成させ
る手法を開発した。

【０００９】したがって、上記課題を解決した本発明の
請求項１記載の発明は、鋼材の表面あるいは錆層に塗布
し、クロムゲーサイト層を形成する必須成分として硫酸
クロムを１質量％以上１５質量％未満含み、硫酸アルミ
ニウムを含まない有機樹脂塗料であることを特徴とする
鋼材の表面処理剤である。

【００１０】請求項２記載の発明は、鋼材の表面あるい
は錆層に塗布され、クロムゲーサイト層を形成する必須
成分として硫酸クロムを１質量％以上１５質量％未満含
み、硫酸アルミニウムを含まない有機樹脂塗料により被
覆されていることを特徴とする表面処理鋼材である。

【００１１】

【作用】以下に本発明について詳細に説明する。

【００１２】（１）硫酸クロムの意味 錆の構造が緻密であれば物理的に大気腐食環境を遮断し
易く、また浮き錆や流れ錆の根本的な原因であるＦｅイ
オンの溶出を軽減する。しかしながら、錆中に割れや細
孔があると水や酸素の供給経路となり、錆の防食性が低
減する。このため緻密で連続した錆層を形成させる必要
がある。

【００１３】硫酸クロムは、被膜中に水分が浸透してき
たときに、クロムイオンと硫酸イオンとなり被膜／鋼界
面に到達する。硫酸イオンおよび水分は鋼を腐食させ鉄
イオンを生成させる。クロムイオンは、この鉄イオンを
耐候性安定錆の主成分であるクロムゲーサイトに転化さ
せる効果を有する。また、硫酸イオンも初期の鉄イオン
生成の加速のみならず、安定錆の微細・緻密化に関与し
ていると考えられる。

【００１４】塩分の飛来するような厳しい大気腐食環境
中でもこの効果を得るためには、塗料中に１質量％以上
の硫酸クロムを添加する必要がある。硫酸クロムを１質
量％以上添加することにより、本発明に係る塗料を塗布
し、乾燥後の塗膜を表面に有する鋼材が大気腐食環境に
置かれたとき、早期に生成する耐候性安定錆は、腐食性
アニオンの透過を抑制する効果が示す。また、添加量の
上限を１５質量％未満に限定したのは、１５質量％以上
の添加量では、生成する耐候性安定錆の腐食性アニオン
透過抑制効果が低下することにより、厳しい腐食環境に
おいて防食作用が保証できないからである。ここでいう
硫酸クロムの質量割合は、水や溶剤等の揮発分を除いた
塗料固形分に対する割合を意味する。

【００１５】（２）有機樹脂 有機樹脂は、被膜により鋼材表面に対するバリアーを形
成し、下地鋼材面に耐候性安定錆を生成させ、かつ鉄イ
オンの滲み出しを防止し、流れ錆の発生を防止する。

【００１６】本発明において、使用される有機樹脂は特
に制限を受けるものではなく、エポキシ樹脂、ウレタン
樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、
アルキド樹脂、フタル酸樹脂等を例示することができ
る。また上記樹脂を塗料化して塗装を行うが、溶剤系の
塗料にしても、水性塗料にしても特に問題ない。

【００１７】また、本発明における塗料中には、必須の
硫酸クロムの他に、ベンガラ、二酸化チタン、カーボン
ブラック、フタロシアニンブルー等の着色顔料、タル
ク、シリカ、マイカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等
の体質顔料、酸化クロム、クロム酸亜鉛、クロム酸鉛、
塩基性硫酸鉛等の防錆顔料、その他チキソ剤、分散剤、
酸化防止剤等慣用の添加剤を含むことができる。

【００１８】使用時には、適当量の溶剤または水により
塗装作業に適した粘度に調整されていることは言うまで
もないことであり、溶剤または水分は、塗装後自然乾燥
により蒸散していく。水分の一部は、耐候性安定錆生成
反応にも寄与するものと考えられる。

【００１９】さらには、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸ニッケ
ル、燐酸等あるいはその水溶液を添加しても良く、むし
ろ好適である。鉄イオンや銅イオン、ニッケルイオンあ
るいは燐酸は、クロムイオンと共存することにより、ク
ロムゲーサイトの生成を促進させる効果を有する。

【００２０】なお、ここで、述べた塗料が乾燥固化した
後には、５〜１５０μｍの膜厚になれば、耐候性安定錆
生成段階でクロムイオンと鉄イオンの供給バランスが最
適であり、望ましい膜厚である。

【００２１】（３）被膜の形成 以上、述べてきた塗料は、通常の塗装方法と同じくエア
スプレー、エアレススプレーあるいは刷毛塗り等慣用の
方法で塗装することができるため、場所を選ばす施工が
可能である。また、１回の塗装作業で効果が得られるた
め、経済性にも優れている。さらには、現地塗装が可能
なため、現地での鋼材の切断、溶接等の加工後や、表面
に錆の発生している鋼材にも対応できる。

【００２２】耐候性安定錆が生成した後には、鋼材の腐
食速度が極めて低くなるため、さらに上層を着色塗膜で
被覆することも可能で、ブラスト等の表面を有する裸仕
様鋼材に着色塗膜を被覆する場合に比べて、その着色塗
膜の寿命延長効果も期待できる。

【００２３】なお、本塗料を塗装する鋼材は、特に鋼種
を限定されるものではなく普通鋼であっても、耐候性鋼
等の低合金鋼であっても、いわゆる錆を生成するもので
あれば構わない。

【００２４】こうして生成された保護性の錆層に何らか
の外力が作用して亀裂の生成や剥離を生じても、健全部
の塗膜中に硫酸クロムが残存しておれば、その損傷部に
おいて健全部からの硫酸クロムの供給があり、再度耐候
性安定錆を生成する自己修復性能が期待できるのはいう
までもない。

【００２５】

【実施例】本発明の実施例に用いた２種類の試験鋼の化
学成分を表１に、また鋼材の２種の前処理方法を表２に
示す。塗料に用いた各種の基材樹脂組成を表３に示す。
試験片の寸法は１５０×７０×３．２mmとした。

【００２６】

【表１】

【００２７】

【表２】

【００２８】

【表３】

【００２９】表４および表５にサンプルの作製条件およ
び試験結果を示す。

【００３０】

【表４】

【００３１】

【表５】

【００３２】サンプルの作製に際しては、表４および表
５に示す樹脂／添加剤配合組成に適当量の溶剤を加えて
粘度（Ｂ型粘度計測定）を２００〜１０００CPS にした
塗料を作製し、エアスプレー塗装により被覆した。この
サンプル試験片を、水平設置し人工海水の原粉末を１ｍ
ｇ／ｄｍ² となるよう毎日試験片上面に散布するという
同一条件のもとに、海岸より１００ｍの位置にある新潟
県直江津市の海岸地帯に１年間暴露した。

【００３３】評価に際しては、残存皮膜および錆を除去
後、重量測定し、予め測定していた塗装前の鋼材重量か
ら減ずることにより、腐食重量を測定した。表４および
表５においては、測定した腐食減量の半分である片面の
平均腐食減量を示した。また暴露後のサンプルについ
て、生成した錆の断面をラマン分光法で構造解析すると
ともに錆中元素分析を行うことにより、クロムゲーサイ
ト層の生成有無を確認した。

【００３４】その結果、実施例１〜２３では、流れ錆の
発生は認められず、腐食減量が小さく、かつ下地鋼面部
分に耐候性安定錆が生成しているのが認められた。特に
硫酸クロムを単独で用いたものに比べ、実施例１５〜２
３における硫酸銅や硫酸ニッケル等を併用したものは、
その相乗効果により腐食減量が低い傾向にある。実施例
８、２０〜２３にみられるように、錆層形成後に塗布し
た場合も、十分な効果が認められた。

【００３５】一方、比較例２４〜３５に示すように、硫
酸クロムの添加量が適正範囲外のものは、耐候性安定錆
の生成が不十分であり腐食減量が大きい。

【００３６】

【発明の効果】以上のとおり、本発明に係る、硫酸クロ
ムを１質量％以上１５質量％未満含む有機樹脂塗料は、
これを鋼材に塗布乾燥することにより、厳しい大気腐食
環境中でも赤錆や黄錆等の浮き錆や流れ錆を生じること
なく、鋼材表面に耐候性安定錆層を早期に形成させるこ
とができ、鋼材の優れた耐食性を確保することができ
る。特に厳しい腐食環境である海岸近傍の海塩粒子飛来
環境でもその効果を発揮するため、非常に有用な処理剤
である。

【００３７】土木あるいは建築構造物用鋼材に本塗料を
適用した場合、赤錆や黄錆等の浮き錆や流れ錆を生じる
ことなく、早期に耐候性安定錆を形成させることができ
るため、鋼材の防食に関するメンテナンスが不要にな
り、社会資本の充実に大きく寄与することが期待され
る。

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平８−13158（ＪＰ，Ａ) (58)調査した分野(Int.Cl.⁷，ＤＢ名) C23C 22/00 - 22/86 B05D 7/14

Claims (2)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】鋼材の表面あるいは錆層に塗布し、クロム
   ゲーサイト層を形成する必須成分として硫酸クロムを１
   質量％以上１５質量％未満含み、硫酸アルミニウムを含
   まない有機樹脂塗料であることを特徴とする鋼材の表面
   処理剤。
2. 【請求項２】鋼材の表面あるいは錆層に塗布され、クロ
   ムゲーサイト層を形成する必須成分として硫酸クロムを
   １質量％以上１５質量％未満含み、硫酸アルミニウムを
   含まない有機樹脂塗料により被覆されていることを特徴
   とする表面処理鋼材。