JP3200959B2 - X線用反射鏡 - Google Patents

X線用反射鏡

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JP3200959B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、X線(特に軟X線)領
域の波長を有する光に対して用いられる多層膜反射鏡、
すなわち、X線レーザ、X線望遠鏡、X線リソグラフィ
ー、X線顕微鏡等に光学素子として用いられる高反射率
の多層膜反射鏡に関するものである。
【0002】
【従来の技術】波長がX線領域の光(以下、単にX線と
いう)に対する物質の屈折率(いわゆる複素屈折率)
は、 n=(1−δ)−iβ (δ、βは正の定数、iは虚数
単位) と表される。しかし、δ、βはともに1に比べて非常に
小さいため、X線に対する屈折率はほぼ1に近くなる。
従って、X線はこのような物質に対してはほとんど屈折
せず、可視光領域の波長を有する光のように屈折を利用
したレンズは使用できない。そのため、反射を利用した
光学系が用いられるが、やはり屈折率が1に近いために
反射率は非常に小さく、大部分のX線は透過するかまた
は吸収されてしまう。
【0003】そこで、使用するX線の波長域での屈折率
の差のなるべく大きい複数の物質を何層も積層すること
により、それらの界面である反射面を多数形成して各々
の界面からの反射波の位相が一致するように光学的干渉
理論に基づいて各層の厚さを調整した多層膜からなる反
射鏡が開発された。この反射鏡は、多層膜を形成する物
質を適宜組み合わせることで、様々な波長のX線を反射
することができる。さらに、その層の厚さによって、比
較的自由な角度でX線を反射できるという利点を有す
る。多層膜の代表例としては、Ni(ニッケル)/Ti
(チタン)、W(タングステン)/C(炭素)、Mo
(モリブデン)/Si(珪素)等の組み合わせが知られ
ており、これらの多層膜はスパッタリング、真空蒸着、
CVD等の薄膜成膜技術によって形成することができ
る。
【0004】ところで、前記多層膜はX線を反射させる
際、入射したX線のうち前記反射条件を満たす波長を有
するX線だけを反射し、それ以外の波長を有するものに
ついてはその大部分を吸収していた。従って、多層膜反
射鏡に強力なX線を入射させると、多層膜に吸収された
X線のエネルギーによってこの多層膜が加熱されてい
た。多層膜を含めて、一般に、X線の光学系は真空中に
設置される。これは、大気中ではX線の大気に対する吸
収が大きいためである。ところが、真空中では空気中の
ようなガスによる熱の伝達が生じないため、加熱された
多層膜の熱の大部分は、該多層膜から多層膜の基板への
熱伝導という形でしか移動できない。この熱伝導による
熱の移動量Qは、熱伝導率をk、温度勾配を(dT/d
x)とすると、Q=−k(dT/dx)と表すことがで
きる。従って、熱伝導による熱の移動量は物質の熱伝導
率kに依存し、熱伝導率の大きい物質ほど熱の移動量は
大きくなる。従って、基板に熱伝導率の小さい材料を用
いると、多層膜で発生した熱が十分に外部に移動できな
いため、この多層膜は高温まで加熱されることになる。
このような多層膜の温度上昇は、反射鏡に入射するX線
の強度や多層膜のX線の吸収率にも依存するが、シンク
ロトロン放射光の場合、数百℃程度に達すると予想され
る(E.Ziegler,Y.Lepetre,S.Joksch,V.Saile,S.Mouriki
s,P.J.Viccaro,G.Rolland and F.Laugier:Rev.Sci.Inst
rum.60(1989)1999. 参照)。
【0005】一般に、多層膜は加熱されると、その微細
構造が変化して反射率が低下してしまう。その原因とし
ては、多層膜を形成する各層の物質が拡散して周期構
造が破壊される、多層膜と基板との熱膨張率の違いに
より多層膜が基板から剥離する、多層膜の体積が変化し
て周期長が変わる、ことなどが挙げられる。例えば、波
長130 Å程度のX線に対して高い反射率(理論値は75%
で、実際の多層膜では50%以上の反射率)を示すことで
知られるモリブデンと珪素の組合せの多層膜は、200 ℃
で加熱すると前記拡散が生じて反射率が低下してしま
う。
【0006】そこで、加熱された際に拡散等の起こり難
い物質を選び、この物質により多層膜を形成することで
多層膜自体の耐熱性を向上させる方法が考えられた。こ
の場合、多層膜を形成する物質の熱力学的性質に基づい
て拡散の起こり具合をある程度予想することになるが、
多層膜の熱による構造変化は各層の結晶性などの微細構
造にも影響を受けるため、実際には作製した多層膜を加
熱してその時の反射率の変化を調べければならなかっ
た。そのため、多層膜の開発には、多大な時間と労力を
要するという問題があった。これまでのところ、耐熱性
の良い多層膜として、タングステン/炭素、モリブデン
/炭素、の組合せの多層膜が知られている。しかし、こ
れらの多層膜は600 ℃まで加熱しても反射率が減少しな
いという優れた耐熱性を有する反面、X線に対する反射
率の値そのものが高いものではなかった。例えば、波長
130 ÅのX線に対するこれら多層膜の反射率は、前記モ
リブデンと珪素の組合せの多層膜の反射率の半分以下で
ある。従って、耐熱性の良い多層膜を反射鏡として使用
する場合は、反射鏡での反射率の低下が避けられず、X
線の利用効率が低下するという問題があった。また、長
時間X線を照射するとやはり多層膜の構造が破壊されて
しまう問題があった。
【0007】そのため、従来は多層膜を冷却する冷却機
構を設けることで、所望の反射率を確保して多層膜反射
鏡の耐熱性を向上させていた。この場合、前述のように
反射鏡は真空中に配置されるため、多層膜の冷却は熱伝
導性の良い固体あるいは液体による熱伝導を利用するこ
とが望ましい。また、多層膜の表面にはX線が照射され
るため、多層膜を直接冷却することは困難である。その
ため、従来の冷却機構は、多層膜の基板の裏面を冷却す
るように構成されていた。図5は、従来の冷却方法の一
例を示すもので、多層膜を保持するホルダに冷却機構を
設けた例である。反射鏡は、基板3とこの基板3上に形
成されたX線7を反射する多層膜1とで構成されてい
る。この反射鏡を保持するホルダ4は、その内部に水な
どの冷却媒体6が流れるための流路9と、冷却媒体6が
ホルダ4外に漏れるのを防ぐOリング5とを有してい
る。そして、冷却媒体6を基板3と接触させることで多
層膜1の熱を基板3を介して冷却していた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】従来の冷却機構の場
合、その冷却効率は冷却媒体と多層膜との間にある基板
の熱伝導率によって決定される。従って、基板を形成す
る物質の熱伝導率が大きければ十分な冷却が可能とな
る。ところで、多層膜反射鏡の基板には高い形状精度と
非常に小さい表面粗さが要求されるため、実際の基板に
はこの要求を満たす石英あるいはそれに類したガラスを
用いることが多かった。しかし、これら石英やガラス等
の熱伝導率は小さいため、多層膜の熱は基板の裏面にほ
とんど移動しなかった。そのため、基板の裏面を冷却し
ても多層膜の熱を十分放出できず、多層膜の温度が急激
に上昇してその構造が破壊されてしまうという問題が生
じた。
【0009】このような熱伝導率の小さい基板を用いた
反射鏡の冷却効果を上げるためには、基板の形状を熱が
伝わり易いようにすればよい。そこで、基板の厚さを薄
くすることが考えられるが、薄い基板では精密な研削や
研磨を施すことが困難である。また、多層膜は内部応力
を有していることが多く、基板を薄くした反射鏡では変
形の恐れがある。そこで、基板を薄くする代わりに、こ
の基板の裏面に溝を設けて基板と冷却媒体との接触面積
を大きくして冷却効果を高める方法が考えられる。しか
し、基板に溝を設けるための加工を行なうと、この加工
の際に基板の形状精度が悪化する恐れがあった。基板の
精度が悪いと、多層膜反射鏡を結像光学系に用いた際に
得られる像の質が著しく低下するという問題が生じる。
【0010】また、冷却媒体に冷却効果の大きい材料を
用いて基板を冷却する方法も考えられる。しかしこの場
合は、液体窒素のような温度の低い媒体や熱容量の大き
い液体金属を基板に直接接触させると、冷却の際に基板
が収縮するため反射鏡の形状変化や膜の剥離を引き起こ
す原因となってしまう。本発明は、このような問題に鑑
みてなされたものであり、光学的性能を損なわずに多層
膜反射鏡の耐熱性を向上させることを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記の目的のために、本
発明では、基板と、該基板上に形成されたX線領域での
屈折率と真空の屈折率との差が小さい物質と大きい物質
とが交互に積層された多層膜とからなるX線用反射鏡に
おいて、前記多層膜に接触するように熱伝導性の高い良
導体を設けた。この良導体からなる層(以下、伝熱層と
いう)は、基板と多層膜との間に設けてもよく、また多
層膜の表面に設けてもよい。さらに、この伝熱層で多層
膜を覆うようにしてもよい。
【0012】そして、このX線用多層膜反射鏡を冷却機
構を有するホルダで保持して、前記伝熱層を該冷却機構
によって冷却するようにした。
【0013】
【作用】本発明では、多層膜に熱伝導率の大きい物質
(良導体)あるいはその物質からなる層(以下、伝熱層
という)を直接接触するようにして、反射鏡を構成して
いる。このような構成の反射鏡においては、強度の大き
い軟X線が入射すると、まず多層膜の温度が上がり始め
るが、この多層膜は熱伝導率の大きい伝熱層と接触して
いるので発生した熱は瞬時にこの層に移動する。熱が移
動した伝熱層は、その温度が上昇するが熱伝導率が大き
いため、この熱は多層膜と接していない低温の周辺部に
移動する。伝熱層の周辺部は冷却媒体と接しているため
に、熱は冷却媒体に移動する。このような熱移動は、い
ずれも熱伝導率の大きい伝熱層の中で起こるため、その
移動速度は非常に速い。従って、多層膜はX線で加熱さ
れても、発生した熱は短時間で外部に放出され、多層膜
の温度はほとんど上昇しない。また、伝熱層は、従来と
同様に基板を高精度で加工した後、この基板上に積層さ
せるため、基板の形状精度には全く影響しない。なお、
基板の形状は平面状、球面状またはその他の曲面状とす
ることができるので、反射鏡の形状も基板の形状に応じ
て任意に設定できる。
【0014】多層膜の表面に伝熱層を設ける場合は、こ
の伝熱層をX線を吸収しにくい物質によって形成するこ
とが好ましい。このような物質は、使用するX線の波長
により異なるが、例えば、波長15〜25ÅのX線には銅、
波長30〜60ÅのX線には銀、波長45〜90ÅのX線には炭
素、波長 110〜150 ÅのX線にはベリリウムが適してい
る。また、伝熱層は図4に示すように連続的に形成され
ている方が、冷却効率が高くなり好ましい。
【0015】なお、本発明の反射鏡の冷却効率は、伝熱
層の熱伝導率とこの伝熱層の形態によって決定される。
伝熱層の膜厚が厚く、また伝熱層と冷却媒体との接触面
積が大きい程冷却効率は向上する。例えば、多層膜の温
度が最も上昇するのは、X線が照射される反射面側であ
ることが多いため、この反射面に伝熱層を接触させると
冷却効率が最も高くなり耐熱性も向上する。ただし、X
線は伝熱層を通って多層膜で反射した後再度伝熱層を通
って多層膜反射鏡から出射するため、この伝熱層によっ
てX線が吸収される分、該反射鏡での反射率は低下す
る。
【0016】一方、基板と多層膜の間に伝熱層を設ける
場合、該多層膜が伝熱層と接する面は前記反射面とは反
対側の面となる。そのため、温度の上昇しにくい部分か
ら多層膜の熱を移動させることになるので、冷却効率の
点では前述の多層膜表面に設けるよりも劣ることにな
る。しかし、X線が伝熱層で吸収されないため、反射鏡
での反射率は高くなる。
【0017】このように、本発明においては、耐熱性を
重視するか反射率を重視するかでその形態を適宜選択す
ることが可能である。いずれの場合も多層膜は伝熱層を
介して冷却機構(冷却媒体)により冷却されるため、熱
による多層膜の破壊を防止することができる。なお、冷
却媒体と伝熱層とを接触させて冷却する場合は、接触面
積を大きくすることで冷却効率を高めることが可能であ
る。
【0018】
【実施例1】図1は、本発明の一実施例を示す概略断面
図である。多層膜反射鏡10は、直径80mm、厚さ10mmの
平面状に形成された石英からなる基板3と、この基板3
上に形成された熱伝導性の高い物質からなる伝熱層2
と、伝熱層2上に形成された多層膜1とで構成されてい
る。なお、図1では、多層膜反射鏡10の積層構造を分
かりやすくするために縦方向に拡大して示してある。伝
熱層2は膜厚10μmの銅の薄膜からなり、蒸着法で基板
3表面に成膜した。多層膜1は、モリブデンと珪素の組
合せからなり、周期長70Å、周期数50ペアとしてマグネ
トロンスパッタ法で成膜した。このモリブデンと珪素の
組合せからなる多層膜の反射率は、多層膜自体の耐熱性
が良いことで知られる前述のタングステン/炭素、モリ
ブデン/炭素、の組合せの多層膜の反射率よりも高い
(ほぼ2倍)ものである。多層膜1の成膜時には、基板
(実際には伝熱層2)上に直径50mmの穴の開いたマスク
を配置して、多層膜1が基板の中央部にのみ形成される
ようにした。
【0019】ここで、反射鏡の基板、多層膜、伝熱層を
形成する各物質の熱伝導率を表にして示す。基板1とし
て用いた石英は、熱伝導率が非常に小さく熱伝導にはほ
とんど寄与しない。一方、伝熱層2を形成する銅は、こ
れらの物質の中では最も熱伝導率が大きく、伝熱層とし
て有効に機能する。
【0020】
【表1】
【0021】この多層膜反射鏡10を、ホルダ4に装着
した。ホルダ4内には冷却媒体として用いた冷却水6が
流れるための流路9と、冷却水6がホルダ4外に漏れる
のを防ぐOリング5とが設けてある。冷却水6は、図示
していない冷却水の供給手段により図の左側からホルダ
4内の流路9に導入され、多層膜反射鏡10の周囲をま
わって(図中では、反射鏡の前後)右側から排出され
る。この時、冷却水6は伝熱層2の外周部(多層膜1が
積層されていない部分)と接触するため、この伝熱層か
ら熱を奪うことで多層膜反射鏡10を冷却する。伝熱層
2から熱を受けて温度が上昇した冷却水6は、外部で冷
却されて再びホルダ4内に導入され再度多層膜の冷却に
用いられる。なお、加熱された冷却水を冷やすための手
段を設けてもよい。
【0022】以上のような構成の多層膜反射鏡10をホ
ルダ4に装着して真空中に設置し、シンクロトロン放射
光を分光して得られた130 Åの波長を含むX線7を斜入
射角約80゜でこの多層膜反射鏡10に照射した。この
時、赤外線カメラ(図示せず)により多層膜1の表面温
度を測定したところ、その温度は100 ℃以下であった。
また、多層膜反射鏡10で反射したX線の強度を検出器
(図示せず)により測定し、この反射鏡10の反射率を
求めたところ、60%という高い反射率が得られた。さら
に、X線を1時間以上照射し続けても反射率は低下しな
かった。測定に用いた多層膜の微細構造を分析してみる
と、その微細構造に変化がないことが確認された。
【0023】比較例として、本実施例と同じモリブデン
と珪素の組合せの多層膜反射鏡を図5に示す従来の方法
で冷却しながらX線を照射したところ、多層膜の表面温
度は300 ℃以上に上昇した。また、X線を一時間照射す
るとこの反射鏡で反射したX線の強度は、照射開始時の
半分以下に低下した。この反射率の低下した多層膜の微
細構造を分析してみると、モリブデンと珪素が拡散して
混ざりあっていた。
【0024】
【実施例2】図2は、本発明の他の実施例を示す概略断
面図である。多層膜反射鏡10は、直径80mm、厚さ10mm
の平面状に形成された石英からなる基板3と、この基板
3上に形成された多層膜1と、多層膜1上に形成された
伝熱層2とで構成されている。なお、図2は、多層膜反
射鏡10の積層構造を分かりやすくするために縦方向に
拡大して示してある。多層膜1は、ニッケルとチタンの
組み合わせからなり、周期長29Å、周期数100 ペアとし
てイオンビームスパッタ法で基板3上に成膜した。伝熱
層2は、膜厚0.05μmの銀の薄膜からなり、蒸着法で多
層膜1上に成膜した。表に示すように、銀、ニッケル、
チタン、石英の中では銀が最も熱伝導率が高く、伝熱層
として有効に機能する。
【0025】この多層膜反射鏡10を、実施例1と同様
にホルダ4に装着して真空中に設置し、シンクロトロン
放射光を分光して得られた40Åの波長を含むX線7を斜
入射角約45゜で照射した。そして、実施例1と同様にし
て多層膜1の表面温度と多層膜反射鏡10の反射率を測
定した。その結果、多層膜1の表面温度は100 ℃以下で
あった。また、反射鏡10でのX線の反射率は4%であ
った。さらに、この反射鏡10に、X線を1時間以上照
射し続けても反射率は低下しなかった。測定に用いた多
層膜の微細構造を分析してみると、その微細構造に変化
がないことが確認された。本実施例では、多層膜1の反
射面上に伝熱層2を形成しているため、X線7がこの伝
熱層2に吸収される分、実施例1の構成と比較して反射
率は低下する。しかし、前述のように多層膜1で最も温
度が上昇しやすい反射面に伝熱層2を接触させているの
で冷却効率は実施例1よりも高くなり耐熱性も向上す
る。
【0026】比較例として、本実施例と同じニッケルと
チタンの組合せの多層膜反射鏡を図4に示す従来の方法
で冷却しながらX線を照射したところ、多層膜の表面温
度は300 ℃以上に上昇した。また、X線を一時間照射す
ると反射率は1%以下に低下してしまった。この時の多
層膜の微細構造を分析したところ、多層膜を形成してい
るニッケルとチタンが拡散して混ざりあっていた。
【0027】
【実施例3】図3は、本発明の第3の実施例を示す概略
断面図である。多層膜反射鏡10は、直径80mm、厚さ10
mmの平面状に形成された石英からなる基板3、多層膜1
およびこの多層膜1を包み込むように形成された熱伝層
2とで構成されている。そのため、多層膜1で発生する
熱を効率よく伝熱層2に移動させることができ、冷却効
率をより高めることが可能となる。なお、図3は、多層
膜反射鏡10の積層構造を分かりやすくするために縦方
向に拡大して示してある。ここで、本実施例の反射鏡1
0の作製手順を説明する。
【0028】まず、基板3上に銀の薄膜(図3の21の
部分)を膜厚10μm となるように蒸着法で成膜し、その
上にニッケルとチタンの組み合わせからなる多層膜1を
周期長29Å、周期数100 ペアでイオンビームスパッタ法
により成膜した。この時、基板3上に直径50mmの穴の開
いたマスク(図示せず)を配置して、多層膜1が基板3
の中央部付近にのみ形成されるようにした。次に、多層
膜1の表面にマスクをおいて、銀を膜厚0.3 μm積層し
た(図3の22の部分)後、マスクを取り除いてさらに
銀を0.05μm積層した(図3の23の部分)。これら多
層膜反射鏡10を形成する物質の中では、伝熱層2を形
成する銀が最も熱伝導率が高く、多層膜1は表面と裏面
の両方から伝熱層2により冷却される。
【0029】この多層膜反射鏡10を実施例1と同様に
ホルダ4に装着して真空中に設置し、シンクロトロン放
射光を分光して得られた30Åの波長を含むX線7を斜入
射角約45゜で照射した。そして、実施例1と同様にして
多層膜1の表面温度と多層膜反射鏡10の反射率を測定
した。その結果、多層膜1の表面温度は50℃以下であっ
た。また、反射鏡10でのX線の反射率は4%であっ
た。さらに、この反射鏡10に、X線を10時間以上照射
し続けても反射率は低下しなかった。測定に用いた多層
膜の微細構造を分析してみると、その微細構造に変化が
ないことが確認された。
【0030】
【実施例4】図4は、本発明の第4の実施例を示す概略
構成図である。多層膜反射鏡10は、直径50mm、厚さ10
mmの平面状の石英からなる基板3と、基板3上に形成さ
れた多層膜1と、多層膜1上に形成された熱伝導性の高
い物質からなる伝熱層2とで構成されている。なお、図
4では、多層膜反射鏡10の積層構造を分かりやすくす
るために縦方向に拡大して示してある。多層膜1は、ニ
ッケルとチタンの組合せからなり、周期長29Å、周期数
100ペアとしてイオンビームスパッタ法により成膜し
た。伝熱層2は、膜厚0.05μmの銀の薄膜からなり、蒸
着法により成膜した。成膜の際は、多層膜1表面の一部
をマスク等で覆うことにより伝熱層2を格子状に形成さ
せた。格子に囲まれた多層膜1の一辺の長さは2mm、格
子の幅は 0.5mmとした。なお、反射鏡の周囲に相当する
部分は格子状に形成していない。こうすることで、伝熱
層2と冷却媒体(冷却水)との接触面積を広くして十分
な冷却効果が得られるようにした。
【0031】以上のような構成の多層膜反射鏡10を実
施例1と同様ホルダ(図示せず)に装着して真空中に設
置し、シンクロトロン放射光を分光して得られた40Åの
波長を含むX線を斜入射角約45゜で照射した。そして、
実施例1と同様にして多層膜1の表面温度と多層膜反射
鏡10の反射率を測定した。その結果、多層膜1の表面
温度は 150℃以下であった。また、反射鏡10でのX線
の反射率は5%であった。さらに、この反射鏡10に、
X線を1時間以上照射し続けても反射率は低下しなかっ
た。測定に用いた多層膜の微細構造を分析してみると、
その微細構造に変化がないことが確認された。伝熱層2
の形状は格子状に限るものではなく、多層膜1の一部を
露出させると共に、多層膜1の熱が冷却媒体に接触して
いる部分に伝わるように形成されていればよい。
【0032】なお、多層膜を形成する物質の組み合わせ
や成膜方法は、上記各実施例に示したものに限らない。
また、伝熱層を形成する物質やその成膜方法も上記各実
施例に示したものに限らない。例えば、実施例1では伝
熱層として熱伝導率が高い金などを用いてもよいし、実
施例1の多層膜を実施例2ないし4のような形態にした
い時は、伝熱層としてベリリウムを用いてもよい。さら
に、より強力なX線や耐熱性の低い多層膜に対しては、
伝熱層の膜厚を大きくしたり、伝熱層を基板の全表面に
成膜するなどしてこの伝熱層と冷却水(冷却媒体)との
接触面積を大きくしてもよい。多層膜の表面を伝熱層で
覆う場合には、伝熱層が覆う面積や覆い方によって多層
膜の冷却効率を適宜設定することが可能となる。
【0033】また、多層膜反射鏡を保持するホルダの形
態や冷却媒体である水の流し方についても、本実施例に
示した方法に限るものではなく、伝熱層が冷却されるよ
うに構成されていればよい。伝熱層の冷却方法について
も冷却水と伝熱層とを接触させるものに限らない。
【0034】
【発明の効果】以上のように、本発明によるX線用多層
膜反射鏡は、X線の照射によって多層膜に発生する熱を
熱伝導性の高い物質からなる伝熱層に移動させるため、
該多層膜の温度上昇を抑えることができる。そのため、
熱による多層膜の微細構造の破壊によって生じる反射率
の低下を防止でき、耐熱性の優れた多層膜反射鏡を得る
ことができる。特に、本発明の反射鏡は、シンクロトロ
ン放射光のような強力なエネルギーを有するX線を、長
時間高い反射率で反射する際に有効である。
【0035】また、反射鏡とは別に冷却手段を設けてい
るため、該反射鏡自体に機械的な加工を行なう必要がな
い。そのため、反射鏡の形状精度を所望の程度に維持す
ることができ、反射率や結像特性等の光学的性能を損な
わずに耐熱性を向上させることが可能である。さらに、
冷却手段を設けることで多層膜の温度上昇を防いでいる
ため、「反射率は高いが耐熱性は低い」という物質でも
多層膜を形成することが可能となる。
【0036】さらにまた、実施例1の伝熱層や実施例3
の伝熱層のうち基板と多層膜に挟まれた部分の膜(図3
の21)は、精密な成膜技術により基板よりも表面荒さ
を小さくすることができるため、これにより反射率をさ
らに向上させるという効果も期待できる。実施例2の伝
熱層および実施例3の表面の伝熱層(図3の23)の場
合は、使用波長におけるX線の吸収の小さい物質を選択
することにより、他の波長のX線を除去するフィルタと
しての特性も有することが可能である。一般に、多層膜
反射鏡を光学素子として使用する場合は、X線源と反射
鏡の間に短波長のX線を除去するためのフィルタを用い
る場合が多い。従って、本発明による多層膜反射鏡にこ
のフィルタの特性も兼ね備えることで、光学系に別途フ
ィルタを設置する必要がなくなるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】は、実施例1の多層膜反射鏡を示す図である。
【図2】は、実施例2の多層膜反射鏡を示す図である。
【図3】は、実施例3の多層膜反射鏡を示す図である。
【図4】は、実施例4の多層膜反射鏡を示す図である。
【図5】は、冷却機構を有する従来の多層膜反射鏡を示
す図である。
【符号の説明】
1 多層膜 2 伝熱層(熱伝導性の高い物質からなる層) 3 基板 4 ホルダ 5 Oリング 6 冷却媒体 7 X線 9 流路 10 多層膜反射鏡 21 伝熱層の一部 22 伝熱層の一部 23 伝熱層の一部

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 基板と、該基板上に形成されたX線領域
    での屈折率と真空の屈折率との差が小さい物質と大きい
    物質とが交互に積層された多層膜とからなるX線用反射
    鏡において、 前記多層膜に熱伝導性の高い物質からなる薄膜の伝熱層
    が接触していることを特徴とするX線用反射鏡。
  2. 【請求項2】 前記伝熱層が、前記多層膜と基板との間
    に設けられていることを特徴とする請求項1記載のX線
    用反射鏡。
  3. 【請求項3】 前記伝熱層が、前記多層膜の表面上に設
    けられていることを特徴とする請求項1記載のX線用反
    射鏡。
  4. 【請求項4】 前記多層膜が、前記伝熱層に周囲を覆わ
    れていることを特徴とする請求項1記載のX線用反射
    鏡。
  5. 【請求項5】 前記基板、該基板上に形成された伝熱
    層、該伝熱層に設けられた1または複数個の穴および該
    穴の内部に設けられたX線領域での屈折率と真空の屈折
    率との差が小さい物質と大きい物質とが交互に積層され
    た多層膜からなることを特徴とする請求項1記載のX線
    用反射鏡。
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