しかし、上述のような鬼目ナットを埋設した板材で構成された天板が用いられる座卓においては、例えば座卓が移動される際に座卓の天板が持ち上げられた場合には、座卓の4本の脚及び幕桟の重量によって、天板固定ビスを介して鬼目ナットを天板から下方へ引き抜く力が働き、天板から鬼目ナットが抜けるおそれがあった。なお、天板から鬼目ナットが抜けないように、例えば軸方向の長さ寸法が従来より大きい鬼目ナットを用いて構成することが考えられるが、鬼目ナットの軸方向の長さ寸法を、天板の厚さ寸法よりも大きくした場合には、天板の上面から鬼目ナットが突き出ることになり、外観上の美観を損なうという問題がある。また、天板の上面から鬼目ナットが突き出ないようにするために、例えば厚さ寸法が従来より大きい天板を用いて構成することが考えられるが、天板の重量が従来よりも増加するという問題がある。
本考案は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ボルトと螺合可能なナットが板材に取り付けられているナット付き板材、このナット付き板材を備える家具、及びナット付き板材を備える椅子において、ナットが板材から抜けることなく、外観上の美観を損なわないようにすることにある。
上述した問題点を解決するためになされた本考案のナット付き板材(10:なお、この欄においては、考案に対する理解を容易にするため、必要に応じて「考案を実施するための最良の形態」欄において説明した構成要素を括弧内に示すが、この記載によって実用新案登録請求の範囲を限定することを意味するものではない。)は、その一面(3a)から内部に向けて形成され、且つ他方の面(3b)へは貫通しないよう形成された挿入穴(130)を有する板材(110,120)と、板材の挿入穴にその少なくとも一部が挿入されるとともに、その内周側に板材の外部から雄ネジ部材を螺合可能な雌ネジ部(180b)が形成された筒状のナット(180)とを備えている。そして、ナットは、その外周側に配設される第一の被係止部(180c)を有する。また、板材は、板材の挿入穴から雌ネジ部に螺合される雄ネジ部材の方向へナットを移動させないようナットの第一の被係止部を係止する第一の係止部(150)を有する。
このように構成されたナット付き板材によれば、次のような作用効果を奏する。すなわち、板材の第一の係止部が、ナットの第一の被係止部を係止することにより板材の挿入穴から雌ネジ部に螺合される雄ネジ部材の方向へナットを移動させない。つまり、板材の挿入穴に挿入されたナットは、板材から抜けないように構成されている。一例を挙げると、ナットが筒状の六角ナットの場合には、六角ナットの軸心に直交する六角形の断面形状に沿って形成された六角形の横断面形状を有し、且つ六角ナットの厚さ寸法より大きい深さ寸法を有する挿入穴が、板材の一面から内部に向けて形成され、且つ他方の面へは貫通しないよう形成される。そして、この板材の一面から内部に向けて形成された挿入穴に六角ナットを挿入した後に、その内径寸法が六角ナットの雌ネジ部の外径寸法より大きい貫通穴を有し、挿入穴の横断面形状に沿って形成された六角形の横断面形状を有するストッパが挿入穴に挿入され、このストッパが板材に固定されるといった具合である。このように構成すれば、板材の第一の係止部に相当するストッパが、ナットの第一の被係止部に相当する六角ナットにおける雌ネジ部の外側に位置する部分(以下、筒部とも称する。)を係止することにより板材の挿入穴に挿入された六角ナットは板材から抜けない。そして、このように構成されたナット付き板材を用いて、例えば座卓の天板を構成すると効果的である。例えば四隅の脚の上部間に幕桟を架設して形成した座卓本体の上面に上述のナット付き板材から構成される天板を載置し、幕桟の下面側から幕桟に天板固定ボルトを上下方向に貫通させるとともに天板固定ボルトの先端を上述の六角ナットに螺合させる。なお、上述の例では、六角ナットの場合を取り上げて説明したが、Tナットなどの他のナットでも同様である。このことにより、例えば座卓が移動される際に座卓の天板が持ち上げられた場合には、座卓の四本の脚及び幕桟の重量によって、天板固定ボルトを介してナットを天板から下方へ引き抜く力が働くが、天板を構成する板材の第一の係止部(上述の例ではストッパが相当する)が、ナットの第一の被係止部(上述の例では六角ナットの筒部が相当する)を係止するので、天板からナットが抜けることがない。したがって、従来のように天板の下面側に鬼目ナットを埋設させる場合に比べて、例えば座卓が移動される際に座卓の天板が持ち上げられた場合には、天板からナットが抜けるおそれがないので、使用者に安心感を与えられる。
なお、ナットの少なくとも一部が挿入され、板材の一面から内部に向けて形成された挿入穴は他方の面へは貫通されていない。つまり、挿入穴が形成された板材の一面とは反対側に位置する他方の面からナットが突き出ることはない。上述の座卓の例を用いて説明すれば、座卓本体の上面に載置される天板が上述のナット付き板材から構成される場合には、天板の上面からナットが突き出ることがないので、外観上の美観を損なわない。
また、請求項2に記載のように、ナットは、その外周側に配設される第二の被係止部(180d)を有し、板材は、板材に対してナットを回転させないようナットの第二の被係止部を係止する第二の係止部(120)を有するとよい。
このように構成されたナット付き板材によれば、次のような作用効果を奏する。すなわち、板材の第二の係止部が、ナットの第二の被係止部を係止することにより板材に対してナットを回転させない。つまり、板材の挿入穴に挿入されたナットは、ナットの雌ネジ部に板材の外部から雄ネジ部材を螺合させる際に、雄ネジ部の回転に伴って連れ回らないように構成されている。一例を挙げると、ナットが筒状の六角ナットの場合には、六角ナットの軸心に直交する六角形の断面形状に沿って形成された六角形の横断面形状を有する挿入穴が板材の一面から内部に向けて形成されるといった具合である。このように構成すれば、板材の第二の係止部に相当する挿入穴が有する六角形の横断面形状を形成する内周側面部が、この挿入穴に挿入されたナットの第二の被係止部に相当する六角ナットの外周側面部を係止することにより板材の挿入穴に挿入された六角ナットは、六角ナットの雌ネジ部に板材の外部から雄ネジ部材を螺合させる際に、雄ネジ部の回転に伴って連れ回らないのである。なお、上述の例では、六角ナットの場合を取り上げて説明したが、Tナットなどの他のナットでも同様である。したがって、ナットの雌ネジ部に板材の外部から雄ネジ部材を螺合させる際に、ナットが雄ネジ部材の回転に伴って連れ回る場合に比べて、雄ネジ部をナットの雌ネジ部に容易に螺合させられる。
また、板材が複数の薄板材を重ね合わせた構成を有する場合には、挿入穴が形成された一つまたは複数の薄板材のうち少なくとも一つの薄板材が第一の係止部を有することが考えられる。具体的には、請求項3に記載のように、板材は、複数の薄板材(110、120)を重ね合わせた構成を有し、複数の薄板材のうちの少なくとも一つの薄板材には挿入穴が形成されており、挿入穴が形成された一つまたは複数の薄板材のうち少なくとも一つの薄板材(120)が第一の係止部を有することが考えられる。
このように構成されたナット付き板材によれば、次のような作用効果を奏する。すなわち、挿入穴が形成された一つまたは複数の薄板材のうち少なくとも一つの薄板材が有する第一の係止部が、ナットの第一の被係止部を係止することにより板材の挿入穴から雌ネジ部に螺合される雄ネジ部材の方向へナットを移動させない。つまり、板材の挿入穴に挿入されたナットは、挿入穴が形成された一つまたは複数の薄板材のうち少なくとも一つの薄板材から抜けないように構成されている。一例を挙げると、ナットが筒状の六角ナットの場合には、六角ナットの軸心に直交する六角形の断面形状に沿って形成された六角形の横断面形状を有し、且つ六角ナットの厚さ寸法より大きい深さ寸法を有する挿入穴が、板材の一面から内部に向けて形成され、且つ他方の面へは貫通しないよう形成される。そして、この板材の一面から内部に向けて形成された挿入穴に六角ナットを挿入した後に、その内径寸法が六角ナットの雌ネジ部の外径寸法より大きい貫通穴を有し、挿入穴の横断面形状に沿って形成された六角形の横断面形状を有するストッパが挿入穴に挿入され、このストッパが、挿入穴が形成された一つまたは複数の薄板材のうち少なくとも一つの薄板材に固定されるといった具合である。このように構成すれば、板材の第一の係止部に相当するストッパが、ナットの第一の被係止部に相当する六角ナットの筒部を係止することにより板材の挿入穴に挿入された六角ナットは板材から抜けない。なお、上述の例では、六角ナットの場合を取り上げて説明したが、Tナットなどの他のナットでも同様である。
なお、板材は、複数の薄板材を重ね合わせた構成を有している。そこで、複数の薄板材を重ね合わせる前に、挿入穴が形成される一つまたは複数の薄板材のうち少なくとも一つの薄板材に第一の係止部が形成されてもよい。一例を挙げると、ナットが筒状の六角ナットの場合には、六角ナットの軸心に直交する六角形の断面形状に沿って形成された六角形の横断面形状を有し、且つ六角ナットの厚さ寸法より大きい深さ寸法を有する挿入穴が、第一の係止部が形成される薄板材における六角ナットの雌ネジ部に螺合される雄ネジ部材に近い面とは反対側の面から内部に向けて形成され、且つ六角ナットの雌ネジ部に螺合される雄ネジ部材に近い面へは貫通しないように形成される。そして、この挿入穴の底部には、この挿入穴の軸心と略同軸心の軸心を有し、六角ナットの雌ネジ部に螺合される雄ネジ部材の外径寸法より大きい内径寸法を有する貫通穴が形成される。そして、この挿入穴に六角ナットが挿入されると、貫通穴を有する挿入穴の底部に六角ナットは係止される。この貫通穴を有する挿入穴の底部が第一の係止部を形成する。そして、六角ナットが挿入穴に挿入された後に、この挿入穴が形成された面に、挿入穴が形成されていない薄板材を重ね合わせるといった具合である。このように構成すれば、板材の第一の係止部に相当する貫通穴を有する挿入穴の底部が、ナットの第一の被係止部に相当する六角ナットの筒部を係止することにより板材の挿入穴から、雌ネジ部に螺合される雄ネジ部材の方向へ六角ナットは抜けない。なお、上述の例では、六角ナットの場合を取り上げて説明したが、Tナットなどの他のナットでも同様である。このことにより、板材が複数の薄板材を重ね合わせた構成を有する場合には、挿入穴が形成される一つまたは複数の薄板材のうち少なくとも一つの薄板材に第一の係止部が形成される。
また、板材が複数の薄板材を重ね合わせた構成を有する場合には、板材の外部に最も近い位置にある薄板材に、挿入穴が形成され、その薄板材が第一の係止部を有するとよい。具体的には、請求項4に記載のように、複数の薄板材(110,120)のうち板材の外部に最も近い位置にある薄板材(120)には、挿入穴が形成され、挿入穴が形成された薄板材が第一の係止部を有するとよい。
このように構成されたナット付き板材によれば、請求項3と同様の作用効果を奏する。ところで、複数の薄板材に挿入穴、及び第一の係止部が形成された場合には、それらの薄板材を重ね合わせた際に、薄板材それぞれに形成された挿入穴、及び第一の係止部それぞれの位置合わせ作業が発生する。それに対して、このように構成されたナット付き板材によれば、挿入穴、及び第一の係止部が形成されるのは、板材の外部に最も近い位置にある薄板材だけであり、そのような位置合わせ作業が発生しないので、作業工数を削減できる。
なお、上述のナットについては、請求項5に記載のように、ナットの第一の被係止部がナットの一方の端部からナットの軸心に直交する方向へ延出するフランジ部(180c)を有し、ナットの第二の被係止部がフランジ部から板材へ向けて延出する爪部(180d)を有するナット(180、以下、Tナットとも称する。)であることが考えられる。
このように構成されたナット付き板材によれば、請求項1〜請求項4、と同様の作用効果を奏する。また、請求項3または請求項4に記載のように板材が複数の薄板材を重ね合わせた構成を有し、ナットがTナットの場合には、次のような作用効果を奏する。すなわち、Tナットは、Tナットの第二の被係止部が有する爪部を板材に差し込ませられるように構成されている。一例を挙げると、Tナットの一方の端部からTナットの軸心に直交する方向へ延出するフランジ部の断面形状に沿って形成された横断面形状を有し、且つフランジ部の厚さ寸法より大きい深さ寸法を有するフランジ挿入穴が、第一の係止部が形成される薄板材におけるTナットの雌ネジ部に螺合される雄ネジ部材に近い面とは反対側の面から内部に向けて形成され、且つTナットの雌ネジ部に螺合される雄ネジ部材に近い面へは貫通しないように形成される。そして、このフランジ挿入穴の底部には、このフランジ挿入穴の軸心と略同軸心の軸心を有し、フランジ部、及び爪部を除いたTナットの外径寸法より大きい内径寸法を有する貫通穴が形成される。そして、Tナットにおけるフランジ部が延出している一方の端部とは反対側の他端部からTナットが前記貫通穴へ挿入されると、貫通穴を有するフランジ挿入穴の底部に爪部の先端が接触される。そして、Tナットの爪部をフランジ挿入穴の底部に差し込ませることにより、Tナットのフランジ部がフランジ挿入穴に係止され、Tナットは、板材に固定される。この貫通穴を有するフランジ挿入穴の底部が第一の係止部を形成する。そして、Tナットのフランジ部がフランジ挿入穴に挿入された後に、このフランジ挿入穴が形成された面に、挿入穴が形成されていない薄板材を重ね合わせるといった具合である。このように構成すれば、板材の第一の係止部に相当する貫通穴を有するフランジ挿入穴の底部が、ナットの第一の被係止部に相当するTナットのフランジ部を係止することにより挿入穴から雌ネジ部に螺合される雄ネジ部材の方向へTナットは板材から抜けない。また、Tナットの爪部をフランジ挿入穴の底部に差し込ませることにより、Tナットは、板材に固定されるので、板材から抜け落ちることがないので、ナットを抜け落ちないように板材に仮止めするような作業が発生する場合と比較して、挿入穴が形成されていない薄板材を重ね合わせるまでの板材の取り扱いが容易である。
また、請求項6に記載のように、第二の被係止部の前記爪部の長さ寸法は、板材における爪部が差し込まれる部分の板厚の寸法より小さいとよい。
このように構成されたナット付き板材によれば、次のような作用効果を奏する。すなわち、Tナットの第二の被係止部が有する爪部を板材に差し込ませた際に、爪部が差し込まれる部分の板材から爪部が突出することがない。したがって、このように構成されたナット付き板材を取り扱う際に、取扱者がTナットの爪部によって怪我することがなく、取扱者にとって安全である。
また、請求項7に記載のように、板材における爪部が差し込まれる部分は、複数の単板(122,124,126)を互いに重ね合わせるように貼り合わされた積層材(120)からなり、第二の被係止部の爪部の長さ寸法は、複数の単板のうち爪部に最も近い位置にある単板の板厚の寸法より大きいとよい。
このように構成されたナット付き板材によれば、次のような作用効果を奏する。すなわち、Tナットの第二の被係止部が有する爪部を板材の積層材に差し込ませた際に、爪部が少なくとも二つの単板に差し込まれるので、次のような理由から、爪部は積層材から抜け難くなる。積層材は、例えば複数の単板を、繊維方向が互いに直交し、重ね合わせるように接着剤で貼り合わされて構成される。そして、爪部が例えば板状に形成された場合には、その板状の面が単板の繊維方向と略平行となるように爪部が単板に差し込まれると爪部は抜け易くなるが、その板状の面が単板の繊維方向と略直交するように爪部が単板に差し込まれると爪部は抜け難くなる。よって、例えば複数の単板のうち爪部に最も近い位置にある単板の繊維方向と略平行となるように爪部がその単板に差し込まれ、爪部が抜け易くなった場合であっても、次の単板の繊維方向は、爪部に最も近い位置にある単板の繊維方向と直交しているので、爪部が次の単板に差し込まれると、爪部が積層材から抜け難くなる。このことにより、Tナットの第二の被係止部が有する爪部を板材の積層材に差し込ませた際に、爪部が少なくとも二つの単板に差し込まれると、爪部は積層材から抜け難くなるのである。
なお、請求項8に記載のように、物体を載置することが可能な板状の載置部材を備える家具であって、載置部材は、請求項1〜請求項7のいずれかに記載のナット付き板材で構成されるとよい。
このように構成された家具によれば、次のような作用効果を奏する。すなわち、請求項1〜請求項7のいずれかに記載のナット付き板材によって、家具における物体を載置することが可能な板状の載置部材が構成される。一例を挙げると、四隅の脚の上部間に幕桟を架設して形成したテーブル本体の上面に上述のナット付き板材から構成される天板を載置し、幕桟の下面側から幕桟に天板固定ボルトを上下方向に貫通させるとともに天板固定ボルトの先端をナットに螺合させるといった具合である。このことにより、例えばテーブルが移動される際にテーブルの天板が持ち上げられた場合には、テーブルの四本の脚及び幕桟の重量によって、天板固定ボルトを介してナットを天板から下方へ引き抜く力が働くが、天板を構成する板材の第一の係止部が、ナットの第一の被係止部を係止するので、天板からナットが抜けることがない。したがって、従来のように天板の下面側に鬼目ナットを埋設させる場合に比べて、例えばテーブルが移動される際にテーブルの天板が持ち上げられた場合には、天板からナットが抜けるおそれがないので、使用者に安心感を与えられる。また、テーブルの天板の上面からナットが突き出ることがないので、外観上の美観を損なわない。
また、請求項9に記載のように、使用者が着座するための略水平な座部(3)を有する椅子本体(2)を備える椅子(1)であって、座部は、請求項1〜請求項7のいずれかに記載のナット付き板材で構成されるとよい。
このように構成された椅子によれば、次のような作用効果を奏する。すなわち、請求項1〜請求項7のいずれかに記載のナット付き板材によって、椅子における使用者が着座するための略水平な座部が構成される。一例を挙げると、四隅の脚の上部間に座支持部を架設して形成した椅子本体の上面に上述のナット付き板材から構成される座部を載置し、座支持部の内側に略水平に形成された溝にその一端が差し込まれた板材からなる座取付金具の他端側に形成された貫通穴に座取付金具の下面側から座部固定ボルトを貫通させるとともに座部固定ボルトの先端を座部のナットに螺合させるといった具合である。そして、例えば座部に使用者が着座すると、座部は、使用者の体重によって座部の略中央部が下げられるように曲がる。座部が曲がると、座部の上面側には圧縮力が働き、座部の下面側には引張力が働く。よって、従来のように座部の下面側に鬼目ナットを埋設させる場合には、上述のように座部の下面側には引張力が働くので、鬼目ナットを埋設している挿入穴と鬼目ナットとの嵌合力が低下し、鬼目ナットが緩んだり、座部から落下するおそれがあった。これに対して本発明によれば、座部を構成する板材の第一の係止部が、ナットの第一の被係止部を係止するので、座部からナットが抜けることがない。したがって、従来のように座部の下面側に鬼目ナットを埋設させる場合に比べて、例えば座部に使用者が着座した場合には、座部からナットが抜けるおそれがないので、使用者に安心感を与えられる。また、座部の上面からナットが突き出ることがないので、安全であるとともに、外観上の美観を損なわない。
また、請求項10に記載のように、使用者が着座するための略水平な座部を有する椅子本体と、座部の後端に配置される背もたれ(4)とを備える椅子であって、座部または背もたれの少なくともいずれか一方は、請求項1〜請求項7のいずれかに記載のナット付き板材で構成されるとよい。
このように構成された椅子によれば、次のような作用効果を奏する。すなわち、請求項1〜請求項7のいずれかに記載のナット付き板材によって、椅子における使用者が着座するための略水平な座部または背もたれの少なくともいずれか一方が構成される。一例を挙げると、使用者が四隅に脚部を有する椅子に着座する際に、使用者に近い前方の二隅の前脚の上部と、前脚の高さ寸法より大きい高さ寸法を有する後方の二隅の後脚における前脚の上部とほぼ等しい高さ寸法の位置に存在する中間部との間に4辺の座支持部を架設して形成した椅子本体の上面に上述のナット付き板材から構成される座部を載置する。座支持部の内側に略水平に形成された溝にその一端が差し込まれた板材からなる座取付金具の他端側に形成された貫通穴に座取付金具の下面側から座部固定ボルトを貫通させるとともに座部固定ボルトの先端を座部のナットに螺合させる。そして、後方の二隅の後脚の上部間に背支持部を架設し、二隅の後脚の中間部から上部までの部位及び背支持部で形成した背枠体の前面に上述のナット付き板材から構成される背もたれを配置し、背支持部の内側に略垂直に形成された溝にその一端が差し込まれた板材からなる背取付金具の他端側に形成された貫通穴に背取付金具の後面側から背もたれ固定ボルトを貫通させるとともに背もたれ固定ボルトの先端を背もたれのナットに螺合させるといった具合である。
このことにより、例えば椅子が移動される際に椅子の背もたれが持ち上げられた場合には、椅子の四本の脚及び座支持部の重量によって、座部固定ボルトを介してナットを座部から下方へ引き抜く力が働くが、座部を構成する板材の第一の係止部が、ナットの第一の被係止部を係止するので、天板からナットが抜けることがない。したがって、従来のように座部の下面側に鬼目ナットを埋設させる場合に比べて、例えば椅子が移動される際に椅子の背もたれが持ち上げられた場合には、座部からナットが抜けるおそれがないので、使用者に安心感を与えられる。また、座部の上面からナットが突き出ることがないので、安全であるとともに、外観上の美観を損なわない。
また、例えば座部に使用者が着座し、使用者の背中で背もたれを押し付けると、背もたれの略中央部が後方に曲がる。背もたれが曲がると、背もたれの前面側には圧縮力が働き、背もたれの後面側には引張力が働く。よって、従来のように背もたれの後面側に鬼目ナットを埋設させる場合には、上述のように背もたれの後面側には引張力が働くので、鬼目ナットを埋設している挿入穴と鬼目ナットとの嵌合力が低下し、鬼目ナットが緩んだり、背もたれから外れるおそれがあった。これに対して本発明によれば、背もたれを構成する板材の第一の係止部が、ナットの第一の被係止部を係止するので、背もたれからナットが抜けることがない。したがって、従来のように背もたれの後面側に鬼目ナットを埋設させる場合に比べて、例えば座部に使用者が着座し、使用者の背中で背もたれを押し付ける場合には、背もたれからナットが抜けるおそれがないので、使用者に安心感を与えられる。また、背もたれの前面からナットが突き出ることがないので、安全であるとともに、外観上の美観を損なわない。
次に、本考案が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[椅子1の構成の説明]
まず、本実施形態の椅子1の構成について説明する。図1(a)は本実施形態の椅子1を上方からみた斜視図であり、図1(b)は図1(a)のA−A断面図である。なお、以降、椅子1において、背もたれ4に対して座部3が配されている側を「前側」とし、座部3に対して背もたれ4が配されている側を「後側」として説明する。また、椅子1において、二つの前脚22及び前脚23に対して座部3が配されている側を「上側」とし、座部3に対して二つの前脚22及び前脚23が配されている側を「下側」として説明する。さらに、椅子1の前側から後側を見た場合における椅子1の左側、右側をそれぞれ「左側」、「右側」として説明する。
椅子1は、図1(a)に示すように、使用者が着座するための略水平な略矩形の座部3を有する椅子本体2、及び座部3の後端に配置される背もたれ4を備えている。以下、椅子本体2、座部3、背もたれ4の順に説明する。
[椅子本体2の構成の説明]
椅子本体2は、座部3の四隅のうち前側の二つの隅それぞれに取り付けられた略角柱状の二つの前脚22と前脚23、座部3の四隅のうち後側の二つの隅それぞれに取り付けられた略角柱状の二つの後脚24と後脚25、左側の前脚22と右側の前脚23とを連結する略角柱状の前側連結部材27a、左側の後脚24と右側の後脚25とを連結する略角柱状の後側連結部材(図示省略)、左側の前脚22と左側の後脚24とを連結する左側連結部材(図示省略)、及び右側の前脚23と右側の後脚25とを連結する右側連結部材27bを備えている。なお、椅子本体2が備える各部材は、本実施形態では木製である。
また、図1(b)に示すように、右側連結部材27bの中央部における左側面からは、三つの溝29が内部に向けて略水平に長く形成されている。なお、図1(b)中では一つの溝29だけを図示する。この溝29は、その上下方向の幅寸法が後述する取付金具6の板厚の寸法より大きく、その前後方向の幅寸法が後述する取付金具6の差込部6bの幅寸法より大きく形成されている。そして、これらの三つの溝29は、前後方向にほぼ均等の間隔で右側連結部材27bに形成されている。また、左側連結部材の中央部における右側面からは、三つの溝29が内部に向けて略水平に長く形成されている。なお、左側連結部材は、その三つの溝29が右側連結部材27bの三つの溝29と対向するように形成されている。
[座部3の構成の説明]
座部3は、図1(b)に示すように、裏面板120、六つのTナット180、及び表面板110を備える。なお、図1(b)中では一つのTナット180だけを図示する。裏面板120には、この六つのTナット180が、座部3を取付金具6を介して左側連結部材及び右側連結部材27bに取り付ける際に、下方からボルト7の雄ネジ部がTナット180の雌ネジ部180bに螺合される位置に配設されている。なお、この座部3については、[座部3の構成の詳細説明]欄において詳細に説明する。
取付金具6は、例えば金属製の板材などの剛性の高い材料からなり、図1(b)に示すように、その両面が略垂直となる姿勢に配置される略矩形の本体部6a、本体部6aの下端部から本体部6aに対して略垂直に延出された略矩形の差込部6b、本体部6aの上端部から差込部6bが延出された方向とは反対側の方向へ本体部6aに対して略垂直に延出された略矩形の取付部6cを有する。取付部6cの略中央部には、貫通孔6dが形成されている。この貫通孔6dは、座部3を左側連結部材、及び右側連結部材27bに取り付ける際に、Tナット180の雌ネジ部180bに連通し、ボルト7の雄ネジ部が挿通するように形成されている。また、取付金具6の差込部6bの左右方向の長さ寸法は、上述の溝29の左右方向の深さ寸法より小さく形成されている。
座部3は左側連結部材及び右側連結部材27bに次のようにして取り付けられる。まず、座部3を前側連結部材27a、後側連結部材、左側連結部材、及び右側連結部材27bの上部に載置する。そして、取付金具6の本体部6aの両面が略垂直となり、且つ取付金具6の取付部6cが差込部6bより上方となる姿勢で取付金具6を保持する。この際、取付金具6は、右側連結部材27bの溝29と取付金具6の差込部6bとが対向するような姿勢で保持される。また、取付金具6の差込部6bを、右側連結部材27bの溝29に挿入させ、取付金具6を、その貫通孔6dと座部3のTナット180の雌ネジ部180bとが連通するような姿勢で保持する。そして、ボルト7の雄ネジ部を取付金具6の貫通孔6dに挿通させて、座部3のTナット180の雌ネジ部180bに螺合させる。次に、右側連結部材27bの三つの溝29のうち、残りの二つの溝29それぞれに取付金具6の差込部6bを挿入させ、ボルト7の雄ネジ部を取付金具6それぞれの貫通孔6dに挿通させ、座部3のTナット180の雌ネジ部180bに螺合させることによって、座部3を右側連結部材27bに取り付ける。そして、左側連結部材の三つの溝29それぞれに取付金具6の差込部6bを挿入させ、ボルト7の雄ネジ部を取付金具6それぞれの貫通孔6dに挿通させ、座部3のTナット180の雌ネジ部180bに螺合させることによって、座部3を左側連結部材に取り付ける。
[背もたれ4の構成の説明]
背もたれ4は、左側の後脚24の上部と右側の後脚25の上部との間に架設された背支持部5、左側の後脚24の上半分、及び右側の後脚25の上半分によって構成される。
[座部3の構成の詳細説明]
次に、椅子1の座部3の構成について詳細に説明する。図2(a)は裏面板120に形成されたフランジ挿入穴130の上方にTナット180を配置し、その上方に表面板110を配置した状態を示す斜視図であり、図2(b)は裏面板120のフランジ挿入穴130にTナット180が挿入され、表面板110が重ね合わされた状態を示す要部側断面図であり、図2(c)は座部3を上方から見た斜視図であり、図2(d)は座部3を下方から見た斜視図である。
座部3は、図2(a)に示すように、裏面板120、六つのTナット180、及び表面板110を備える。なお、図2(a)中では一つのTナット180だけを図示する。なお、裏面板120、六つのTナット180、及び表面板110からなる構成が、Tナット付き板材に該当する。以下、裏面板120、六つのTナット180、表面板110の順に説明する。
裏面板120は、例えば木材からなり、略矩形の形状をなす。なお、裏面板120は、図2(b)に示すように、薄く加工された三つの単板である第一の単板122、第二の単板124、及び第三の単板126を有する。そして、第一の単板122と第二の単板124とは、第一の単板122の繊維方向と第二の単板124の繊維方向とが互いに直交し、重ね合わせるように例えば樹脂系の接着剤を介して貼り合わされている。また、第二の単板124における第一の単板122と貼り合わされている面とは反対側の面には、第三の単板126が、第二の単板124の繊維方向と第三の単板126の繊維方向とが互いに直交し、重ね合わせるように例えば樹脂系の接着剤を介して貼り合わされている。
そして、裏面板120には、図2(a)に示すように、後述するTナット180のフランジ部180cが挿入されるフランジ挿入穴130が六つ形成されている。また、これらのフランジ挿入穴130は、図2(b)に示すように、裏面板120における後述するTナット180の雌ネジ部180bに螺合されるボルト(図示省略)に近い面(以下、ボルト挿入面)120aとは反対側の面(以下、Tナット挿入面)120bから内部に向けて形成され、且つボルト挿入面120aへは貫通しないように形成されている。
また、これらのフランジ挿入穴130それぞれの底部150の略中央部には、後述するTナット180のTナット本体180aが挿通される貫通孔140が形成されている。なお、これらの貫通孔140は、それぞれの底部150からボルト挿入面120aへ貫通するように形成されている。
Tナット180は、図2(b)に示すように、例えば鉄材などの金属材料からなり、Tナット本体180a、フランジ部180c、及び爪部180dを有する。Tナット本体180aは、略円筒状の形状をなし、その内周側に雌ネジ部180bが形成されている。フランジ部180cは、Tナット本体180aの一方の端部(以下、フランジ側端部)からTナット本体180aの軸心に直交する方向へ延出し、円板状に形成されている。爪部180dは、フランジ部180cから裏面板120へ延出し、円環状に形成されている。
上述した裏板材120のフランジ挿入穴130は、図2(b)に示すように、その軸心と直交する断面形状がTナット180のフランジ部180cの断面形状に沿って形成され、且つその軸心方向の深さ寸法がフランジ部180cの厚さ寸法より大きく形成されている。また、上述した裏面板120の貫通孔140は、その内径寸法がTナット本体180aの外径寸法より大きく形成されている。
また、Tナット180は、その爪部180dの長さ寸法が、裏面板120における爪部180dが差し込まれる部分の板厚の寸法より小さく設定されている。つまり、Tナット180は、その爪部180dの長さ寸法が、裏板材120の板厚の寸法からフランジ挿入穴130の深さ寸法を減算した寸法より小さく設定されている。よって、Tナット180の爪部180dを裏面板120の底部150に差し込ませた際に、爪部180dが裏面板120のボルト挿入面120aから突出することがない。
また、Tナット180は、その爪部180dの長さ寸法が、裏面板120が有する三つの薄板状の単板のうち爪部180dに最も近い位置にある単板の板厚の寸法より大きく設定されている。例えば第一の単板122の板厚の寸法が、フランジ挿入穴130の深さ寸法より大きい場合には、Tナット180は、その爪部180dの長さ寸法が、裏面板120が有する三つの薄板状の単板である第一の単板122、第二の単板124、及び第三の単板126のうち爪部180dに最も近い位置にある第一の単板122の板厚の寸法より大きく設定されている。よって、Tナット180の爪部180dを裏面板120の底部150に差し込ませた際に、爪部180dが第一の単板122、及び第二の単板124に差し込まれる。
表面板110は、図2(a)に示すように、例えば木材からなり、薄く加工された板材であり、略矩形の形状をなし、且つその左右の端部に対してその中央部が下方へ位置するように反った形状をなしている。また、表面板110は、その左右の長さ寸法及び前後の長さ寸法が使用者が座部3に着座した際に、使用者にとって適当となるように設定されている。なお、上述した裏面板120は、その外形寸法が表面板110の外形寸法とほぼ同じ外形寸法で、且つ表面板110の反りの形状に沿って左右の端部に対してその中央部が下方へ位置するように反った形状に形成されている。また、使用者が座部3に着座した際に使用者が触れる表面板110の表面110bは、裏面板120と貼り合わされる貼付面110aとは反対側の面であり、平滑に加工されている。
次に、図2(a)に示すように、六つのTナット180が裏面板120に形成されたフランジ挿入穴130、及び貫通孔140に挿入され、その裏面板120に表面板110が重ね合わされる組付方法について説明する。まず、裏面板120のTナット挿入面120bが上方を向く姿勢で裏面板120を保持し、その裏面板120のTナット挿入面120bの上方にTナット本体180aのフランジ側端部が上方を向く姿勢でTナット180を保持する。この際、Tナット180は、裏面板120のTナット挿入面120b側における貫通孔140とTナット本体180aのフランジ側端部とは反対側の端部とが対向するような姿勢で保持される。そして、Tナット本体180aのフランジ側端部とは反対側の端部を、裏面板120のTナット挿入面120b側における貫通孔140に挿入させる。さらに、貫通孔140を有するフランジ挿入穴130の底部150にTナット180の爪部180dの先端を接触させてから、Tナット180の爪部180dをフランジ挿入穴130の底部150に差し込ませる。このことにより、Tナット180のフランジ部180cがフランジ挿入穴130の底部150に係止され、Tナット180は、裏面板120に固定される。次に、六つのTナット180のうち、残りの五つのTナット180についても上述のようにして、Tナット180の爪部180dをフランジ挿入穴130の底部150に差し込ませる。このことにより、残りの五つのTナット180についても裏面板120に固定される。
そして、図2(a)に示すように、六つのTナット180が固定された裏面板120のTナット挿入面120bが上方を向く姿勢で裏面板120を保持し、その裏面板120の上方に表面板110の表面110bが上方を向く姿勢で表面板110を保持する。この際、裏面板120のTナット挿入面120bまたは表面板110の貼付面110aの少なくとも一方には、例えば樹脂系の接着剤が塗布されている。また、裏面板120及び表面板110は、裏面板120の反りの形状に沿って表面板110の反りの形状を合わせるように、且つ裏面板120のTナット挿入面120bと表面板110の貼付面110aとが対向するような姿勢で保持される。そして、裏面板120の四つの端面それぞれが表面板110の四つの端面それぞれと揃うように、裏面板120のTナット挿入面120bに表面板110の貼付面110aを貼り合わせる。
このように構成された座部3は、その上側の表面3bが表面板110の表面110bに相当し、図2(c)に示すように、Tナット180が突出していない平滑な面をなしている。また、座部3の下側の裏面3aが裏面板120のボルト挿入面120aに相当する。そして、座部の裏面3aには、図2(d)に示すように、座部3を取付金具6を介して左側連結部材及び右側連結部材27bに取り付ける際に、外部からボルト7の雄ネジ部がTナット180の雌ネジ部180bに螺合される位置に六つの貫通孔140が配設されている。
なお、裏面板120、六つのTナット180、及び表面板110が「ナット付き板材」に相当し、座部3の裏面3aが「その一面」に相当し、座部3の表面3bが「他方の面」に相当し、フランジ挿入穴130が「挿入穴」に相当し、裏面板120及び表面板110が「板材」に相当し、Tナット180が「筒状のナット」に相当し、フランジ部180cが「第一の被係止部」に相当し、底部150が「第一の係止部」に相当する。また、爪部180dが「第二の被係止部」に相当し、裏面板120の底部150が「第二の係止部」に相当し、裏面板120及び表面板110が「複数の薄板材」に相当し、第一の単板122、第二の単板124、及び第三の単板126が「複数の単板」に相当する。
[効果の説明]
(1)本実施形態のナット付き板材で構成された座部3を備える椅子1によれば、次のような作用効果を奏する。すなわち、従来の鬼目ナットを埋設した板材で構成された天板が用いられる座卓においては、例えば座卓が移動される際に座卓の天板が持ち上げられた場合には、座卓の4本の脚及び幕桟の重量によって、天板固定ビスを介して鬼目ナットを天板から下方へ引き抜く力が働き、天板から鬼目ナットが抜けるおそれがあった。また、鬼目ナットの軸方向の長さ寸法を、天板の厚さ寸法よりも大きくした場合には、天板の上面から鬼目ナットが突き出ることになり、外観上の美観を損なうという問題があった。
それに対して、本実施形態の椅子1によれば、その座部3が裏面板120、六つのTナット180、及び表面板110を備える。裏面板120、六つのTナット180、及び表面板110からなる構成が、Tナット付き板材に該当する。そして、裏面板120には、そのTナット挿入面120bから内部に向けて形成され、且つボルト挿入面120aへは貫通しないようにフランジ挿入穴130が形成されている。また、フランジ挿入穴130の底部150の略中央部には、底部150からボルト挿入面120aへ貫通するようにTナット本体180aが挿通される貫通孔140が形成されている。そして、裏面板120のTナット挿入面120b側における貫通孔140にTナット本体180aを挿入させ、Tナット180の爪部180dを底部150に差し込ませることにより、フランジ部180cがフランジ挿入穴130に係止され、Tナット180は、裏面板120に固定される。そして、裏面板120のTナット挿入面120bに表面板110の貼付面110aを、接着剤を介して重ね合わせるように貼り合わせる。また、使用者が座部3の表面3bに着座した際に使用者が触れる表面板110の表面110bは、裏面板120の貼付面110aとは反対側の面であり、平滑に加工されている。
このことにより、例えば椅子1が移動される際に座部3が持ち上げられた場合には、椅子1の四本の前脚22,前脚23,後脚24,及び後脚25と、四つの前側連結部材27a、後側連結部材、左側連結部材、及び右側連結部材27bとの重量によって、ボルト7を介してTナット180を座部3から下方へ引き抜く力が働くが、座部3のフランジ挿入穴130の底部150が、Tナット180のフランジ部180cを係止するので、裏面板120から、Tナット180は抜けない。また、座部3の表面3bは、表面板110の表面110bに相当し、裏面板120と貼り合わされる表面板110の貼付面110aとは反対側の面であることから、座部3の表面3bからTナット180が突き出ることがない。したがって、座部が、従来のように鬼目ナットを埋設した板材で構成された場合に比べて、例えば椅子1が移動される際に座部3が持ち上げられた場合には、座部3からTナット180が抜けるおそれがないので、使用者に安心感を与えられる。また、座部3の表面3bからTナット180が突き出ることがないので、安全であるとともに、外観上の美観を損なわない。
(2)また、本実施形態のナット付き板材によって構成された座部3を備える椅子1によれば、次のような作用効果を奏する。すなわち、上述したように、裏面板120のTナット挿入面120b側における貫通孔140にTナット本体180aを挿入させ、Tナット180の爪部180dを底部150に差し込ませることにより、フランジ部180cがフランジ挿入穴130に係止され、Tナット180は、裏面板120に固定される。
このように構成すれば、裏面板120の底部150が、Tナット180の爪部180dを係止することにより裏面板120に対してTナット180ナットを回転させない。したがって、Tナット180の雌ネジ部180bにボルト7の雄ネジ部を螺合させる際に、Tナット180がボルト7の雄ネジ部の回転に伴って連れ回る場合に比べて、Tナット180が連れ回らないので、ボルト7の雄ネジ部をTナット180の雌ネジ部180bに容易に螺合させることができる。
また、Tナット180の爪部180dを裏面板120の底部150に差し込ませることにより、Tナット180は、裏面板120に固定されるので、裏面板120からTナット180が抜け落ちることがない。したがって、ナットを抜け落ちないように裏板材120に仮止めするような作業が発生する場合と比較して、Tナット180が抜け落ちないのでので、表面板110を重ね合わせるまでの裏板材120の取り扱いが容易である。
(3)さらに、本実施形態のナット付き板材によって構成された座部3を備える椅子1によれば、次のような作用効果を奏する。すなわち、上述したように、裏面板120には、裏面板120のTナット挿入面120bから内部に向けて形成され、且つボルト挿入面120aへは貫通しないようにフランジ挿入穴130が形成されている。例えば、複数の板材にフランジ挿入穴130が形成された場合には、それらの板材に形成されたフランジ挿入穴130の位置合わせ作業が発生するが、それに対して、本実施形態の椅子1によれば、フランジ挿入穴130が形成されるのは、裏板材120だけであり、そのような位置合わせ作業が発生しないので、作業工数を削減できる。
(4)また、本実施形態のナット付き板材によって構成された座部3を備える椅子1によれば、次のような作用効果を奏する。すなわち、Tナット180は、その爪部180dの長さ寸法が、裏面板120における爪部180dが差し込まれる部分の板厚の寸法より小さく設定されている。よって、Tナット180の爪部180dを裏面板120の底部150に差し込ませた際に、爪部180dが差し込まれる部分の裏面板120のボルト挿入面120aから爪部180dが突出することがない。したがって、本実施形態のナット付き板材を取り扱う際に、取扱者がTナット180の爪部180dによって怪我することがなく、取扱者にとって安全である。
(5)また、本実施形態のナット付き板材によって構成された座部3を備える椅子1によれば、次のような作用効果を奏する。すなわち、例えば第一の単板122の板厚の寸法が、フランジ挿入穴130の深さ寸法より大きい場合には、Tナット180の爪部180dを裏面板120の底部150に差し込ませた際に、爪部180dが第一の単板122、及び第二の単板124に差し込まれる。そして、第一の単板122と第二の単板124とは、第一の単板122の繊維方向と第二の単板124の繊維方向とが互いに直交し、重ね合わせるように例えば樹脂系の接着剤を介して貼り合わされている。
このように構成すれば、爪部180dが例えば板状に形成された場合には、例えば第一の単板122の繊維方向と略平行となるように爪部180dが第一の単板122に差し込まれ、爪部180dが抜け易くなった場合であっても、次の第二の単板124の繊維方向は、第一の単板122の繊維方向と直交しているので、爪部180dが第二の単板124に差し込まれると、爪部180dが裏板材120から抜け難くなる。したがって、Tナット180の爪部180dを裏板材120に差し込ませた際に、爪部180dが少なくとも二つの単板である第一の単板122と第二の単板124に差し込まれるので、爪部180dは裏板材120から抜け難くなる。
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のような様々な態様にて実施することが可能である。
(1)上記実施形態の椅子1において、座部3がTナット180を備えるが、これには限らない。座部が備えるナットは、六角ナットでもよいし、他のナットでもよい。このように構成された実施形態においても、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
(2)上記実施形態の椅子1において、背もたれ4がナット付き板材によって構成されてもよい。例えば、上記実施形態の背もたれ4を構成する背支持部5、左側の後脚24の上半分、及び右側の後脚24の上半分を、背枠体(図示省略)とする。そして、この背枠体の前面に上記実施形態のナット付き板材から構成される背部(図示省略)を配置し、背枠体の内側に略垂直に形成された溝にその一端が差し込まれた板材からなる背部取付金具(図示省略)の他端側に形成された貫通穴に背部取付金具の後面側から背もたれ固定ボルト(図示省略)を貫通させるとともに背もたれ固定ボルトの先端を背部のナットに螺合させる。
このように構成された実施形態によれば、例えば座部(図示省略)に使用者が着座し、使用者の背中で背部を押し付けると、背部の略中央部が後方に曲がる。背部が曲がると、背部の前面側には圧縮力が働き、背部の後面側には引張力が働く。よって、背部が、従来のように鬼目ナットを埋設した板材で構成された場合には、上述のように背部の後面側には引張力が働くので、鬼目ナットを埋設している挿入穴と鬼目ナットとの嵌合力が低下し、鬼目ナットが緩んだり、背部から外れるおそれがあった。これに対して本実施形態によれば、背部を構成する板材のフランジ挿入穴の底部(図示省略)が、Tナットのフランジ部(図示省略)を係止するので、背部からTナットが抜けることがない。したがって、背部が、従来のように鬼目ナットを埋設した板材で構成された場合に比べて、例えば座部に使用者が着座し、使用者の背中で背部を押し付ける場合には、背部からTナットが抜けるおそれがないので、使用者に安心感を与えられる。また、背部の前面からTナットが突き出ることがないので、安全であるとともに、外観上の美観を損なわない。
(3)上記実施形態においては、本考案が椅子1の座部3に適用されたが、本考案が椅子以外の家具に適用されてもよい。具体的には、次のように、テーブルの天板が本考案によるナット付き板材によって構成されてもよい。例えば、四隅の脚の上部間に幕桟を架設して形成したテーブル本体(図示省略)の上面に上述のナット付き板材から構成される天板(図示省略)を載置し、幕桟の下面側から幕桟に天板固定ボルト(図示省略)を上下方向に貫通させるとともに天板固定ボルトの先端をナットに螺合させる。
このように構成された実施形態によれば、例えばテーブルが移動される際にテーブルの天板が持ち上げられた場合には、テーブルの四本の脚及び幕桟の重量によって、天板固定ボルトを介してナットを天板から下方へ引き抜く力が働くが、天板を構成する板材のフランジ挿入穴の底部(図示省略)が、Tナットのフランジ部(図示省略)を係止するので、天板からTナットが抜けることがない。したがって、天板が、従来のように鬼目ナットを埋設した板材で構成された場合に比べて、例えばテーブルが移動される際にテーブルの天板が持ち上げられた場合には、天板からTナットが抜けるおそれがないので、使用者に安心感を与えられる。また、テーブルの天板の上面からTナットが突き出ることがないので、外観上の美観を損なわない。
(4)上記実施形態の椅子1において、座部3を構成する裏面板120、及び表面板110が木製であったが、これには限らない。例えばアルミニウム材などの金属材料であってもよいし、樹脂材料であってもよい。このように構成された実施形態においても、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
1…椅子、2…椅子本体、3…座部、3a…裏面、3b…表面、4…背もたれ、5…背支持部、6…取付金具、6a…本体部、6b…差込部、6c…取付部、6d…貫通孔、7…ボルト、22,23…前脚、24,25…後脚、27a…前側連結部材、27b…右側連結部材、29…溝、110…表面板、110a…貼付板、110b…表面、120…裏面板、120a…ボルト挿入面、120b…Tナット挿入面、122…第一の単板、124…第二の単板、126…第三の単板、130…フランジ挿入穴、130a…フランジ挿入穴、140…貫通孔、150…底部、180…Tナット、180a…Tナット本体、180b…雌ネジ部、180c…フランジ部、180d…爪部。