JP3040517B2 - 電気泳動による薬剤浸透装置 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、イオン浸透療法（Ion
transter therapy）、即ち、イオン性の薬剤を電気泳動
を利用して薬剤の有効成分をイオンの形で無痛状態で所
望の患部に浸透させる装置に関するものである。

【０００２】

【従来の技術】イオン浸透療法は広く知られており、こ
れは大多数の薬剤が電解質（イオン解離性）であること
を利用した治療法である。即ち、薬剤の有効成分が電解
質であり、これを含む水溶液に電場を印加すると、薬剤
の有効成分が水溶液中で陽イオンに解離する場合には当
該陽イオンは陰極へ、陰イオンに解離する場合には当該
陰イオンは陽極へ電気泳動により移動する。従って、こ
の原理によりイオン性薬剤の有効成分（イオン）を無痛
状態で所望の患部に浸透させることができる。

【０００３】これを図面により説明する。図４は薬剤と
してアスコルビン酸ナトリウムを用いて電気泳動により
薬剤の有効成分を皮膚（所望の患部）に浸透させる態様
を説明したもので、従来技術に属するものである。な
お、図４において、アスコルビン酸イオンはＡ^-、ナト
リウムイオンはＮａ⁺、また薬剤のｐＨ安定剤として添
加されるリン酸緩衝溶液中に含まれるリン酸イオンはＨ
₂ＰＯ₄ ^-で示されている。図４において、アスコルビン
酸ナトリウム溶液を含浸した薬剤保持材（ガーゼ）を皮
膚（患部）と電源に接続された電極（−極）との間に介
在させ、同様にして他極（＋極）が構成される。このよ
うな状態において電極間に電圧を印加すると次のような
現象が生起する。この場合、薬剤保持材としてのガーゼ
に含浸された薬剤の有効成分であるアスコルビン酸ナト
リウムは、アスコルビン酸イオン（Ａ^-）とナトリウム
イオン（Ｎａ⁺）に解離し、両者は電場によりそれぞれ
の極性とは反対側の電極へ泳動して通電、即ち電流が流
れる。ここで注目しなければならないことは、各イオン
の輸率である。この輸率とは、上例の場合、Ｎａ⁺の方
が輸率がＡ^-と比較して極めて大きく、薬剤の有効成分
であるＡ^-のほとんど移動することはない。従って、こ
のような態様では、迅速かつ効果的に薬剤の有効成分を
所望の患部に浸透させることができない。前記した欠点
を解消しようとして、印加電場を大きくすると、電極に
おいて薬剤の有効成分が電極反応を起し、皮膚（患部）
に重大な影響を及ぼす。例えば図４の場合、−極ではア
スコルビン酸の還元分解による有害成分の発生と水素の
発生が生じる。他方、＋極においてはアスコルビン酸の
酸化分解による有害成分の発生と酸素の発生が生じる。
以上の点から、図４に示されるような従来の電気泳動を
利用したイオン浸透法では、薬剤の有効成分を皮膚（患
部）に、それも深部（真皮）まで効率的に浸透させるこ
とができない。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、前記し
た従来のイオン浸透法の欠点を解消すべき鋭意検討を加
えた。その結果、イオンの透過性に選択性を有するイオ
ン交換樹脂膜を用いることにより、極めて効率的に薬剤
の有効成分を所望の患部に浸透させることができること
を見い出し、本発明を完成するに至った。

【０００５】

【課題を解決するための手段】本発明を概説すれば、本
発明は、電気泳動を利用したイオン性薬剤の浸透装置に
おいて、電気泳動用電源部に接続されたイオン性薬剤を
浸透させる側の電極部の構成を、電極、イオン性薬剤の
有効成分のイオンと反対の極性のイオン交換樹脂膜、イ
オン性薬剤を保持する薬剤保持材、イオン性薬剤の有効
成分のイオンと同種の極性のイオン交換樹脂膜、の順に
配設して構成したことを特徴とする電気泳動による薬剤
浸透装置に関するものである。

【０００６】以下、本発明の技術的構成及び実施の態様
について図面を参照して説明する。なお、本発明は、図
示のものに限定されないことはいうまでもないことであ
る。

【０００７】本発明の最大の特徴は、前記したように電
気泳動を利用したイオン性薬剤の浸透装置において、特
に、電気泳動用電源部に接続されたイオン性薬剤を浸透
させる側の電極部（作用側電極部）の構成において、従
来のように電極上に、単にイオン性薬剤を保持するため
の薬剤保持材を配設するのではなく、当該薬剤保持材と
ともにイオン性薬剤の有効成分のイオンと同種及び異種
の極性の二種のイオン交換樹脂膜を配設した点にある。

【０００８】本発明の前記したイオン交換樹脂膜を使用
することの優位性について、以下、図１〜図２を参照し
て説明する。

【０００９】図１は、電気泳動によるイオン性薬剤の浸
透装置において、電気泳動用電源部に接続されたイオン
性薬剤を浸透させる側の作用電極部の構成として、−極
（負極）板上に薬剤保持材であるガーゼ、更に該ガーゼ
の上にアニオン交換樹脂膜を配設て構成したものを示し
ている。なお、図１は、−極（負極）側を患部側の皮膚
に当接させてイオン性薬剤を浸透させることを前提とし
ており、従って一極側は作用電極部となるものである。
一方、＋極（正極）側はアース（接地）電極部となるこ
とはいうまでもないことである。また、図４と同様に薬
剤としてアスコルビン酸ナトリウムの水溶液を用いてい
る。

【００１０】図１は、図示の態様でアニオン交換膜を用
いているため、前記従来技術に係わる図４のものと相違
して作用電極部では皮膚面に存在する汗中のＮａ^＋がア
ニオン交換膜中を通過せず、イオン性薬剤の有効成分で
あるアニオン（アスコルビン酸イオンＡ⁻）が皮膚側へ
の移動することを示している。なお、図４は、皮膚面側
へのＡ⁻の移動のほかに、皮膚面に存在するＮａ^＋が一
極側へ移動することを示している。前記したことから明
らかのように、アニオン交換膜は、電気泳動現象を用い
てアスコルビン酸、より正確にはイオン性薬剤の有効成
分であるアスコルビン酸イオン（Ａ⁻）を皮膚（患部）
に投与するうえで大きな寄与をなしているものである。

【００１１】本発明において、イオン交換樹脂膜を配設
する態様は、前記図１に示されるものではなく、図２に
示される態様を採用する点に大きな特徴点がある。図２
は、前記図１のイオン交換膜の配設態様のものと比較す
ると、更に−極側にカチオン交換膜を配設している点で
大きく異なる。図２のイオン交換膜の配設態様、即ち、
アニオン及びカチオンの二種のイオン交換膜を配設する
場合、印加電圧を図１のものよりも大きくしても、アス
コルビン酸の−極上での電極反応を抑制することがで
き、かつ、−極上での水の電気分解反応（還元）により
生成するＯＨ⁻（ヒドロキシイオン）の皮膚面への移動
を阻止することができる。即ち、印加電圧を大きくして
も、カチオン交換膜によりイオン性薬剤の有効成分であ
るアスコルビン酸イオン（Ａ⁻）の−極側への移動や接
触がカチオン交換膜により阻止され、−極上での電極反
応（アスコルビン酸の分解）は防止される。また、一極
上での水の電気分解反応（還元）により生成するＯＨ⁻
（ヒドロキシイオン）は、カチオン交換膜により皮膚面
への移動が阻止され、皮膚面での急激なｐＨ値上昇（高
アルカリ化）による皮膚のやけどなどの欠点が防止され
る。従って、本発明の図２に示されるイオン交換膜の配
設態様により、イオン性薬剤の有効成分であるアスコル
ビン酸イオン（Ａ⁻）を効果的かつ効率的に所望患部に
浸透させることができる。

【００１２】本発明において、一極側（作用電極部側）
に配設するイオン選択性の異なる二種のイオン交換膜の
配設態様は、図２から明らかのようにイオン性薬剤の有
効成分の極性に依存することはいうまでもないことであ
る。即ち、イオン性薬剤が図２に示されるアニオンに解
離するアスコルビン酸ナトリウム（Ａ⁻Ｎａ^＋）の場
合、薬剤保持材（ガーゼ）の皮膚側に面する側にアニオ
ン交換膜、その反対側（−極側）にカチオン交換膜を配
設すればよい。また、イオン性薬剤がカチオンに解離す
る場合、作用電極部の極性を＋極にするとともに、薬剤
保持材（ガーゼ）の皮膚側に面する側にカチオン交換
膜、その反対側（＋極側）にアニオン交換膜を配設すれ
ばよい。

【００１３】前記したイオン交換樹脂膜としては、通常
のものを使用すればよく、特に制限を受けるものではな
い。例えば、アニオン交換膜としては高分子の側鎖に四
級化されたアンモニウム基を有するもの、カチオン交換
膜としては高分子の側鎖にスルホン酸基を有するものな
どを使用すればよく、これらは図２に示されるようにイ
オン性薬剤の解離イオン種の種類によって適宜組合わせ
て使用される。

【００１４】本発明において、医薬用薬剤としてはイオ
ン解離し電気泳動するものは全て使用できるが、これら
の有効成分がどのようにイオン解離しているかにより、
使用するイオン交換樹脂膜を選べばよい。通常、よく使
用される薬剤において、陽極性のものは局所麻酔（コカ
イン、ノボカイン、ナルカイン）、ヨードカリ、塩化カ
ルシウム、ヒスタミン、各種ビタミン（Ｂ１，Ｃな
ど）、陰極性のものは、クロール（腐食剤）、チトラー
ト（鎮痛剤）、ヨウ化カリウム、ペニシリンなどがあ
る。これらの薬剤の極性にあわせて使用するイオン交換
樹脂膜を選べばよい。

【００１５】図３に、本発明の電気泳動による薬剤浸透
装置の概略図を示す。図３に示される本発明の薬剤浸透
装置（１）は、電気泳動用電源部（２）を本体内部に有
し、該電源部（２）に接続されたイオン性薬剤を浸透さ
せる作用電極部を有するものであって、該作用電極部の
構成が、電極（３）、該電極（３）上面に薬剤保持材
（４）、更にその上部に薬剤保持材（４１）を挟持した
二枚のイオン交換樹脂膜（５，５１）、最上部に薬剤保
持材（４２）を配設することにより構成されたものであ
る。

【００１６】図３に示されるように、薬剤浸透装置
（１）の前面部に配設される電極（３）と薬剤保持材
（４）は蓋受部（６）により包囲され、かつ、該蓋受部
（６）には蓋体（７）が固定されている。蓋受部（６）
と蓋体（７）が、固定される位置で薬剤保持材（４，４
１，４２）に含浸された薬液が他部へ漏れないようにパ
ッキン（８）が施されている。しかし、本発明において
これらの蓋受部（６）と蓋体（７）などの構造は所望の
ものでよく、その固定手段も螺合式、フック式などいず
れであってもよい。また、図３において、電極（３１）
は、接地（アース）側の電極を示すものである。

【００１７】前記図３に示される薬剤浸透装置（１）に
おいて、薬剤保持材としては、ガーゼ、脱脂あるいは生
理綿、合成樹脂製のスポンジ材などによりイオン性薬剤
の溶液を保持できるものであればいずれでもよい。

【００１８】前記したように電気泳動効果により薬物を
投与する場合、投与する量は流れた電気量と関連してお
り、特にイオン交換樹脂膜を用いて選択的に投与を行な
う場合には、簡単に投与量を見積ることができる。例え
ば、本発明の薬剤浸透装置を用いてアスコルビン酸（分
子量１８１）を１ｍｇ投与しようとする場合、電流を
０．５ｍＡとし約２０分程度という極めて短時間に効率
的に投与することができる。

【００１９】

【発明の効果】本発明の電気泳動による薬剤浸透装置
は、次のような優れた効果を有する。 (i) 薬剤のイオン解離性有効成分を迅速、適確に電気泳
動により皮膚（患部）に浸透させることができる。 (ii)電極上での薬剤成分及び水（電極液）の電気化学反
応（電極反応）を防止できたり、該電気化学反応により
生成する皮膚に対する有害物質の皮膚側への移動を防止
することができるため極めて安全である。 (iii)薬物の有効成分のイオン極性に応じて、最適なイ
オン交換樹脂膜を選べることができるため、あらゆる薬
剤を効率よく皮膚（患部）に浸透させることができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】 アニオン性イオン交換樹脂膜を利用した薬剤
浸透装置におけるイオン性薬剤の電気泳動過程を説明す
る図である。

【図２】 本発明のアニオン性及びカチオン性イオン交
換樹脂膜を利用した薬剤浸透装置におけるイオン性薬剤
の電気泳動過程を説明する図である。

【図３】 本発明の薬剤浸透装置の概要図である。

【図４】 従来の薬剤浸透装置における、薬剤の電気泳
動勝ち得を説明する図である。

【符号の説明】

１ ………………………… 薬剤浸透装置 ２ ………………………… 電気泳動用電源部 ３，３１ ………………… 電極 ４，４１，４２ ………… 薬剤保持材 ５，５１ ………………… イオン交換膜

Claims (4)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 電気泳動を利用したイオン性薬剤の浸透
   装置において、電気泳動用電源部に接続されたイオン性
   薬剤を浸透させる側の電極部の構成を、電極、イオン性
   薬剤の有効成分のイオンと反対の極性のイオン交換樹脂
   膜、イオン性薬剤を保持する薬剤保持材、イオン性薬剤
   の有効成分のイオンと同種の極性のイオン交換樹脂膜、
   の順に配設して構成したことを特徴とする電気泳動によ
   る薬剤浸透装置。
2. 【請求項２】 カチオン性イオン交換樹脂膜とアニオン
   性イオン交換樹脂膜の間に薬剤保持材が介装されたもの
   である請求項第１項に記載の電気泳動による薬剤浸透装
   置。
3. 【請求項３】 電極とイオン性薬剤の有効成分のイオン
   と反対の極性のイオン交換樹脂膜との間に、薬剤保持材
   が介装されたものである請求項第１項に記載の電気泳動
   による薬剤浸透装置。
4. 【請求項４】 イオン性薬剤の有効成分のイオンと同種
   の極性のイオン交換樹脂膜の前面側に、薬剤保持材が配
   設されたものである請求項第１項に記載の電気泳動によ
   る薬剤浸透装置。