JP2756451B2 - 冷間工具鋼の製造方法 - Google Patents
冷間工具鋼の製造方法Info
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Description
【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は過酷な条件下の冷間加工に使用される、或い
は、工具に加工する際にワイヤーカット等の放電加工を
施される冷間工具鋼に関する。 (従来技術及び発明が解決しようとする問題点) 従来、冷間鍛造用ダイス及びポンチ、抜型等に代表さ
れる冷間加工用合金工具鋼としては、JSI SKD11が汎用
されている。このSKD11は、熱処理法として1000〜1050
℃から焼入後、150〜200℃で焼き戻しし、通常、HRC61
以上で用いられている。 ところが、このSKD11は高い硬度を有するものの、靭
性の点で充分ではないという問題がある。そのため、近
年の冷間加工法の条件の過酷化、或いは、工具に加工す
る方法として最近普及されてきたワイヤーカット放電加
工に充分対応することができない場合が増大している。
具体的には、冷間鍛造加工用ダイスでは焼付による工具
寿命の低下、又、抜型ワイヤーカット放電加工時の割れ
の発生等が問題となっている。 本発明は、上記した従来の問題に鑑みてなされたもの
であり、高い強度及び高い靭性を有し、冷間工具鋼とし
ての寿命が長い冷間工具鋼が得られる冷間工具鋼の製造
方法を提供することを目的とする。 (問題点を解決するための手段および作用) 本発明は、冷間工具鋼組成において、第1に不可避不
純物として含有されているP、S、O及びNの含有量を
所定値以下に規制すると、共晶炭化物の結晶粒界偏析が
低減され、靭性を大幅に向上させることができ、第2に
P、S等の親和力が大きい希土類元素(REM)を添加す
ると、これらの不純物がトラップされて結晶粒界偏析及
び縞状偏析を抑制することができ、更に第3に、上記不
純物の低減及びREM添加による不純物トラップで高温焼
き戻し脆性を軽減でき、靭性向上効果が得られるとの認
識に基づくものである。 即ち、第1の本発明に係る冷間工具鋼の製造方法は、
重量%で、C:0.75〜1.75%、P:0.025%以下、S:0.0030
%以下、O:0.0050%以下、N:0.030%以下、Si:3.0%以
下、Mn:0.1〜2.0%、Cr:5.0〜11.0%、Mo:1.3〜5.0%、
V:0.1〜5.0%を含有すると共に、希土類元素のうちの少
なくとも1種を合計で0.001〜0.600%含有し、残部実質
的にFe及び不可避不純物からなる冷間工具鋼を製造する
際、前記希土類元素の合計含有量Rと、P含有量[P]
及びS含有量[S]との間に、次式: R=α[P]+β[S] …(I) (式中、α、βは夫々2≦α≦7、6≦β≦10を満足す
る数を表す) で示される関係が成り立つようにP及びSの含有量に応
じて希土類元素を添加することを特徴とするものであ
り、第2の本発明の冷間工具鋼の製造方法は、重量%
で、C:0.75〜1.75%、P:0.025%以下、S:0.0030%以
下、O:0.0050%以下、N:0.030%以下、Si:3.0%以下、M
n:0.1〜2.0%、Cr:5.0〜11.0%、Mo:1.3〜5.0%、V:0.1
〜5.0%を含有すると共に、希土類元素のうちの少なく
とも1種を合計で0.001〜0.600%、並びに、Cu:0.1〜2.
0%、Ni:0.2〜2.0%、W:0.1〜3.0%、Co:0.1〜5.0%、N
b:0.01〜3.00%、Ti:2.0%以下及びZr:2.0%以下のうち
の少なくとも1種を含有し、残部実質的にFe及び不可避
不純物からなる冷間工具鋼を製造する際、前記希土類元
素の合計含有量Rと、P含有量[P]及びS含有量
[S]との間に、次式: R=α[P]+β[S] …(I) (式中、α、βは夫々2≦α≦7、6≦β≦10を満足す
る数を表す) で示される関係が成り立つようにP及びSの含有量に応
じて希土類元素を添加することを特徴とするものであ
る。 次いで、第1の本発明に係る冷間工具鋼の成分元素の
含有量の限定理由について述べる。 C:0.75〜1.75重量% Cはマルテンサイトの硬さを高め、高温焼き戻しによ
り特殊炭化物を形成して二次硬化に寄与し、又、更にC
r、Mo、Vと炭化物を形成して耐摩耗性の向上に資する
元素である。C含有量はCr含有量と相関を持つが、0.75
%未満では焼入焼き戻し硬さが低く、逆に1.75%を超え
ると靭性が低下する。 Si:3.0重量%以下 Siは主として脱酸剤として作用し、高温焼き戻し硬さ
の増大に有効である。しかし、多量に含有させると熱間
加工性及び靭性を低下させるので、上限値を3.0%とし
た。特にSi含有量が0.10%以下の場合に偏析が軽減で
き、材料内外層の靭性の差が小さくなり、又、T方向の
靭性が向上する。 Mn:0.1〜2.0重量% Mnは脱酸及び脱硫剤として作用し、鋼の清浄度を向上
させると共に焼入性を良好にする。そのために、0.1%
以上含有させることが必要であるが、2%を超えると加
工性が低下するため上限値を2.0%とした。 Cr:5.0〜11.0重量% Crは焼入時に基地中に固溶して焼入性を高めると共に
Cr炭化物を形成して耐摩耗性を向上させるが、5.0%未
満ではこのような効果が小さく、逆に11.0%を超えると
靭性を劣化させる。 Mo:1.3〜5.0重量% Moは焼入時に基地中に固溶すると共に炭化物を形成し
て耐摩耗性を向上させ、焼入及び焼き戻し抵抗性を高め
るのに有効な元素である。かかる効果を発揮させ,特に
高温焼き戻しでHRC62以上の高硬度を得るためには、そ
の含有量を1.3%以上とする必要があるが、5%を超え
てもその効果の増大は期待されず、逆に、熱間加工性を
低下させる。 V:0.1〜5.0重量% Vは基地のオーステナイト系結晶粒の粗大化を防止
し、微細な炭化物を形成して耐摩耗性及び焼入性の向上
に資する元素である。これらの効果は0.1%未満では期
待できず、又5%を超えると加工性が劣化する。 N:0.030重量%以下 鋼中にNが多量に含まれると、他の添加元素と窒化物
を形成し、大きな炭窒化物が鋼中に存在することになっ
て工具の性能を劣化させるので、上限値を0.030%とし
た。このように、N含有量を規制することにより、晶出
カーバイドM7C3(Mは金属元素を表す)の晶出形態が変
化して微細化すると共に、焼入時にカーバイドの溶け込
みが生じて高温焼き戻しの際に硬度が高くなるものと考
えられる。 S:0.0030重量%以下 鋼中におけるS含有量を低減することによって地キズ
の発生を抑制し、衝撃値を高めることができるので、上
限値を0.0030%に規制した。好ましくは、0.0010%以下
に規制する。 O:0.0050重量%以下 Oは鋼中に酸化物系非金属介在物を形成し、靭性を低
下させるので、上限値を0.0050%に規制した。 P:0.025重量%以下 Pは地キズの発生を増大させる元素であり、このP含
有量を低減することによって靭性を大きく改善すること
ができると共に、衝撃値の異方性を小さくすることがで
きるので、上限値を0.025%とした。尚、Pは初析カー
バイドの析出を抑制すると同時に析出した炭化物の成長
を抑えて、高温焼き戻しの際の硬度を向上させるものと
考えられる。 希土類元素のうち少なくとも1種を合計で0.001〜0.600
重量% 希土類元素(Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、
Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)はP、Sを捕捉する
元素である。例えばLaはPをLaPの形で捕捉し、又、S
をLaO2Sの形で捕捉して,P及びSの粒界偏析を抑制し、
それと同時に縞状偏析を低減し、結果として、工具鋼の
靭性を向上させ、特に耐衝撃性を高めるのに有効な元素
である。 この場合、Laはまず鋼中のSと反応してLaO2Sの形で
Sを捕捉し、残りのLaが鋼中のPと反応してLaPの形で
Pを捕捉する。そこで、このような効果を得るために、
これらの1種または2種以上の合計で0.001%以上添加
する必要がある。しかし、多量に添加すると靭性及び加
工性を劣化させるので、上限値を0.60%以下とした。こ
の場合、上記希土類元素の合計量RとP含有量[P]、
S含有量[S]との関係が、R=α[P]+β[S]
(式中、α、βは夫々2≦α≦7、6≦β≦10を満足す
る数を表す)となるように、P及びSの含有量に応じて
過不足なく上記希土類元素を添加する。なお、希土類元
素のうち、例えば、LaやCeを単独で添加するとコストが
上昇する虞れがあるため、例えば、ミッシュメタルのよ
うに比較的コストの低いものを使用することが望まし
い。 第2の本発明に係る冷間工具鋼は、上記した第1の本
発明に係る冷間工具鋼の成分元素に加えて、更に、Cu:
0.1〜2.0%、Ni:0.2〜2.0%、W:0.1〜3.0%、Co:0.1〜
5.0%、Nb:0.01〜3.00%、Ti:2.0%以下及びZr:2.0%以
下のうちの少なくとも1種を含有するものである。 これらの元素は、強度及び靭性の向上に資する元素で
あるが、多量に含有すると却って熱間加工性や靭性を低
下させるため夫々上述した範囲で添加される。 これらの各成分元素追が上記範囲にある鋼材は焼きな
ましされた後焼入し、しかる後に高温焼き戻しすること
が好ましい。本発明の冷間工具鋼は、この焼き戻し温度
を450℃以上としたときに優れた焼き戻し効果を発揮す
る。かかる高温焼き戻しにより、焼入時の残留応力が除
去されて安定組織となると同時に、二次硬化硬さが増大
する。従って、高温焼き戻し後は硬度及び靭性が共に高
く、例えば、ワイヤカット放電加工により工具に加工す
る際に割れを生じたり、又、工具としての使用時にかじ
りを起こしたりすることが防止れ加工性が向上すると共
に、工具寿命が大幅に延長される。更に、工具表面にTi
C等を物理的に蒸着する場合の表面処理性も良好とな
る。 尚、本発明の冷間工具鋼を冷間工具に加工する方法と
しては、上記したワイヤカット放電加工法に限るもので
はなく、鋳造法等を使用することができることは言うま
でもない。 (実施例) 第1表に示す成分組成の本発明鋼及び比較鋼を溶製
し、硬さ(HRC)、シャルピー衝撃値、曲げ抗折力、焼
付荷重、比摩耗量、残留応力、炭化物生成量及びワイヤ
カット放電加工性について下記の条件で試験を行ない、
夫々の結果を第2表に示した。尚、第1表中には、上記
(I)式における[P]、[S]の係数α、βの値を併
せて示してある。 (1)曲げ抗折力 φ8×130mmの試験片につき、支点間距離100mm、中央
1点荷重とし試験片が破断する際の破断荷重を測定し
た。 (2)比摩耗量 大越式迅速摩耗試験機を使用し、相手材SCM415(HB19
0)、摩耗速度2.9m/sec、摩耗距離200mm、摩耗荷重6.5k
gとした。 (3)焼付荷重 相手材としてSCM415(焼なまし)を用い、摩耗速度30
〜100mm/sec、接触面圧5〜50kgf/mm2とし、潤滑油とし
て油脂系の潤滑油を使用した。 (4)ワイヤカット放電加工性 ワイヤカット放電加工により10mmの長さに切断し、切
断面における100μm以上の長さの割れの数で示した。 (5)炭化物 炭化物はL方向断面の最大長さを測定し、単位面積当
たりの10μm以上の炭化物数により評価した。 第2表からも明らかなように、本発明鋼は何れもHRC6
2以上の硬さを有すると共に、特にシャルピー衝撃値が
高く靭性に優れている。 (発明の効果) 以上説明したように第1の本発明に係る冷間工具鋼の
製造方法によれば、重量%で、C:0.75〜1.75%、P:0.02
5%以下、S:0.0030%以下、O:0.0050%以下、N:0.030%
以下、Si:3.0%以下、Mn:0.1〜2.0%、Cr:5.0〜11.0
%、Mo:1.3〜5.0%、V:0.1〜5.0%を含有すると共に、
希土類元素のうちの少なくとも1種を合計で0.001〜0.6
00%含有し、残部実質的にFe及び不可避不純物からなる
冷間工具鋼を製造する際、前記希土類元素の合計含有量
Rと、P含有量[P]及びS含有量[S]との間に、次
式:R=α[P]+β[S](式中、α、βは夫々2≦α
≦7、6≦β≦10を満足する数を表す)で示される関係
が成り立つようにP及びSの含有量に応じて希土類元素
を添加することとしたので、得られる冷間工具鋼は、高
硬度と高靭性をバランスよく達成することができ、過酷
な冷間加工条件に充分に耐えることができると共に、工
具に加工を行う際の例えばワイヤカット放電加工等にお
いて割れが発生することが防止され、工具としての寿命
が大幅に増大する。又、第2の本発明に係る冷間工具鋼
の製造方法によれば、上記の各成分元素に加えて、Cu:
0.1〜2.0%、Ni:0.2〜2.0%、W:0.1〜3.0%、Co:0.1〜
5.0%、Nb:0.01〜3.00%、Ti:2.0%以下及びZr:2.0%以
下のうちの少なくとも1種を含有することとしたので、
得られる冷間工具鋼は、強度及び靭性が更に向上する。 従って、本発明の冷間工具鋼は冷間鍛造用ダイス、ポ
ンチ等の冷間加工用工具鋼として極めて有用である。
は、工具に加工する際にワイヤーカット等の放電加工を
施される冷間工具鋼に関する。 (従来技術及び発明が解決しようとする問題点) 従来、冷間鍛造用ダイス及びポンチ、抜型等に代表さ
れる冷間加工用合金工具鋼としては、JSI SKD11が汎用
されている。このSKD11は、熱処理法として1000〜1050
℃から焼入後、150〜200℃で焼き戻しし、通常、HRC61
以上で用いられている。 ところが、このSKD11は高い硬度を有するものの、靭
性の点で充分ではないという問題がある。そのため、近
年の冷間加工法の条件の過酷化、或いは、工具に加工す
る方法として最近普及されてきたワイヤーカット放電加
工に充分対応することができない場合が増大している。
具体的には、冷間鍛造加工用ダイスでは焼付による工具
寿命の低下、又、抜型ワイヤーカット放電加工時の割れ
の発生等が問題となっている。 本発明は、上記した従来の問題に鑑みてなされたもの
であり、高い強度及び高い靭性を有し、冷間工具鋼とし
ての寿命が長い冷間工具鋼が得られる冷間工具鋼の製造
方法を提供することを目的とする。 (問題点を解決するための手段および作用) 本発明は、冷間工具鋼組成において、第1に不可避不
純物として含有されているP、S、O及びNの含有量を
所定値以下に規制すると、共晶炭化物の結晶粒界偏析が
低減され、靭性を大幅に向上させることができ、第2に
P、S等の親和力が大きい希土類元素(REM)を添加す
ると、これらの不純物がトラップされて結晶粒界偏析及
び縞状偏析を抑制することができ、更に第3に、上記不
純物の低減及びREM添加による不純物トラップで高温焼
き戻し脆性を軽減でき、靭性向上効果が得られるとの認
識に基づくものである。 即ち、第1の本発明に係る冷間工具鋼の製造方法は、
重量%で、C:0.75〜1.75%、P:0.025%以下、S:0.0030
%以下、O:0.0050%以下、N:0.030%以下、Si:3.0%以
下、Mn:0.1〜2.0%、Cr:5.0〜11.0%、Mo:1.3〜5.0%、
V:0.1〜5.0%を含有すると共に、希土類元素のうちの少
なくとも1種を合計で0.001〜0.600%含有し、残部実質
的にFe及び不可避不純物からなる冷間工具鋼を製造する
際、前記希土類元素の合計含有量Rと、P含有量[P]
及びS含有量[S]との間に、次式: R=α[P]+β[S] …(I) (式中、α、βは夫々2≦α≦7、6≦β≦10を満足す
る数を表す) で示される関係が成り立つようにP及びSの含有量に応
じて希土類元素を添加することを特徴とするものであ
り、第2の本発明の冷間工具鋼の製造方法は、重量%
で、C:0.75〜1.75%、P:0.025%以下、S:0.0030%以
下、O:0.0050%以下、N:0.030%以下、Si:3.0%以下、M
n:0.1〜2.0%、Cr:5.0〜11.0%、Mo:1.3〜5.0%、V:0.1
〜5.0%を含有すると共に、希土類元素のうちの少なく
とも1種を合計で0.001〜0.600%、並びに、Cu:0.1〜2.
0%、Ni:0.2〜2.0%、W:0.1〜3.0%、Co:0.1〜5.0%、N
b:0.01〜3.00%、Ti:2.0%以下及びZr:2.0%以下のうち
の少なくとも1種を含有し、残部実質的にFe及び不可避
不純物からなる冷間工具鋼を製造する際、前記希土類元
素の合計含有量Rと、P含有量[P]及びS含有量
[S]との間に、次式: R=α[P]+β[S] …(I) (式中、α、βは夫々2≦α≦7、6≦β≦10を満足す
る数を表す) で示される関係が成り立つようにP及びSの含有量に応
じて希土類元素を添加することを特徴とするものであ
る。 次いで、第1の本発明に係る冷間工具鋼の成分元素の
含有量の限定理由について述べる。 C:0.75〜1.75重量% Cはマルテンサイトの硬さを高め、高温焼き戻しによ
り特殊炭化物を形成して二次硬化に寄与し、又、更にC
r、Mo、Vと炭化物を形成して耐摩耗性の向上に資する
元素である。C含有量はCr含有量と相関を持つが、0.75
%未満では焼入焼き戻し硬さが低く、逆に1.75%を超え
ると靭性が低下する。 Si:3.0重量%以下 Siは主として脱酸剤として作用し、高温焼き戻し硬さ
の増大に有効である。しかし、多量に含有させると熱間
加工性及び靭性を低下させるので、上限値を3.0%とし
た。特にSi含有量が0.10%以下の場合に偏析が軽減で
き、材料内外層の靭性の差が小さくなり、又、T方向の
靭性が向上する。 Mn:0.1〜2.0重量% Mnは脱酸及び脱硫剤として作用し、鋼の清浄度を向上
させると共に焼入性を良好にする。そのために、0.1%
以上含有させることが必要であるが、2%を超えると加
工性が低下するため上限値を2.0%とした。 Cr:5.0〜11.0重量% Crは焼入時に基地中に固溶して焼入性を高めると共に
Cr炭化物を形成して耐摩耗性を向上させるが、5.0%未
満ではこのような効果が小さく、逆に11.0%を超えると
靭性を劣化させる。 Mo:1.3〜5.0重量% Moは焼入時に基地中に固溶すると共に炭化物を形成し
て耐摩耗性を向上させ、焼入及び焼き戻し抵抗性を高め
るのに有効な元素である。かかる効果を発揮させ,特に
高温焼き戻しでHRC62以上の高硬度を得るためには、そ
の含有量を1.3%以上とする必要があるが、5%を超え
てもその効果の増大は期待されず、逆に、熱間加工性を
低下させる。 V:0.1〜5.0重量% Vは基地のオーステナイト系結晶粒の粗大化を防止
し、微細な炭化物を形成して耐摩耗性及び焼入性の向上
に資する元素である。これらの効果は0.1%未満では期
待できず、又5%を超えると加工性が劣化する。 N:0.030重量%以下 鋼中にNが多量に含まれると、他の添加元素と窒化物
を形成し、大きな炭窒化物が鋼中に存在することになっ
て工具の性能を劣化させるので、上限値を0.030%とし
た。このように、N含有量を規制することにより、晶出
カーバイドM7C3(Mは金属元素を表す)の晶出形態が変
化して微細化すると共に、焼入時にカーバイドの溶け込
みが生じて高温焼き戻しの際に硬度が高くなるものと考
えられる。 S:0.0030重量%以下 鋼中におけるS含有量を低減することによって地キズ
の発生を抑制し、衝撃値を高めることができるので、上
限値を0.0030%に規制した。好ましくは、0.0010%以下
に規制する。 O:0.0050重量%以下 Oは鋼中に酸化物系非金属介在物を形成し、靭性を低
下させるので、上限値を0.0050%に規制した。 P:0.025重量%以下 Pは地キズの発生を増大させる元素であり、このP含
有量を低減することによって靭性を大きく改善すること
ができると共に、衝撃値の異方性を小さくすることがで
きるので、上限値を0.025%とした。尚、Pは初析カー
バイドの析出を抑制すると同時に析出した炭化物の成長
を抑えて、高温焼き戻しの際の硬度を向上させるものと
考えられる。 希土類元素のうち少なくとも1種を合計で0.001〜0.600
重量% 希土類元素(Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、
Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)はP、Sを捕捉する
元素である。例えばLaはPをLaPの形で捕捉し、又、S
をLaO2Sの形で捕捉して,P及びSの粒界偏析を抑制し、
それと同時に縞状偏析を低減し、結果として、工具鋼の
靭性を向上させ、特に耐衝撃性を高めるのに有効な元素
である。 この場合、Laはまず鋼中のSと反応してLaO2Sの形で
Sを捕捉し、残りのLaが鋼中のPと反応してLaPの形で
Pを捕捉する。そこで、このような効果を得るために、
これらの1種または2種以上の合計で0.001%以上添加
する必要がある。しかし、多量に添加すると靭性及び加
工性を劣化させるので、上限値を0.60%以下とした。こ
の場合、上記希土類元素の合計量RとP含有量[P]、
S含有量[S]との関係が、R=α[P]+β[S]
(式中、α、βは夫々2≦α≦7、6≦β≦10を満足す
る数を表す)となるように、P及びSの含有量に応じて
過不足なく上記希土類元素を添加する。なお、希土類元
素のうち、例えば、LaやCeを単独で添加するとコストが
上昇する虞れがあるため、例えば、ミッシュメタルのよ
うに比較的コストの低いものを使用することが望まし
い。 第2の本発明に係る冷間工具鋼は、上記した第1の本
発明に係る冷間工具鋼の成分元素に加えて、更に、Cu:
0.1〜2.0%、Ni:0.2〜2.0%、W:0.1〜3.0%、Co:0.1〜
5.0%、Nb:0.01〜3.00%、Ti:2.0%以下及びZr:2.0%以
下のうちの少なくとも1種を含有するものである。 これらの元素は、強度及び靭性の向上に資する元素で
あるが、多量に含有すると却って熱間加工性や靭性を低
下させるため夫々上述した範囲で添加される。 これらの各成分元素追が上記範囲にある鋼材は焼きな
ましされた後焼入し、しかる後に高温焼き戻しすること
が好ましい。本発明の冷間工具鋼は、この焼き戻し温度
を450℃以上としたときに優れた焼き戻し効果を発揮す
る。かかる高温焼き戻しにより、焼入時の残留応力が除
去されて安定組織となると同時に、二次硬化硬さが増大
する。従って、高温焼き戻し後は硬度及び靭性が共に高
く、例えば、ワイヤカット放電加工により工具に加工す
る際に割れを生じたり、又、工具としての使用時にかじ
りを起こしたりすることが防止れ加工性が向上すると共
に、工具寿命が大幅に延長される。更に、工具表面にTi
C等を物理的に蒸着する場合の表面処理性も良好とな
る。 尚、本発明の冷間工具鋼を冷間工具に加工する方法と
しては、上記したワイヤカット放電加工法に限るもので
はなく、鋳造法等を使用することができることは言うま
でもない。 (実施例) 第1表に示す成分組成の本発明鋼及び比較鋼を溶製
し、硬さ(HRC)、シャルピー衝撃値、曲げ抗折力、焼
付荷重、比摩耗量、残留応力、炭化物生成量及びワイヤ
カット放電加工性について下記の条件で試験を行ない、
夫々の結果を第2表に示した。尚、第1表中には、上記
(I)式における[P]、[S]の係数α、βの値を併
せて示してある。 (1)曲げ抗折力 φ8×130mmの試験片につき、支点間距離100mm、中央
1点荷重とし試験片が破断する際の破断荷重を測定し
た。 (2)比摩耗量 大越式迅速摩耗試験機を使用し、相手材SCM415(HB19
0)、摩耗速度2.9m/sec、摩耗距離200mm、摩耗荷重6.5k
gとした。 (3)焼付荷重 相手材としてSCM415(焼なまし)を用い、摩耗速度30
〜100mm/sec、接触面圧5〜50kgf/mm2とし、潤滑油とし
て油脂系の潤滑油を使用した。 (4)ワイヤカット放電加工性 ワイヤカット放電加工により10mmの長さに切断し、切
断面における100μm以上の長さの割れの数で示した。 (5)炭化物 炭化物はL方向断面の最大長さを測定し、単位面積当
たりの10μm以上の炭化物数により評価した。 第2表からも明らかなように、本発明鋼は何れもHRC6
2以上の硬さを有すると共に、特にシャルピー衝撃値が
高く靭性に優れている。 (発明の効果) 以上説明したように第1の本発明に係る冷間工具鋼の
製造方法によれば、重量%で、C:0.75〜1.75%、P:0.02
5%以下、S:0.0030%以下、O:0.0050%以下、N:0.030%
以下、Si:3.0%以下、Mn:0.1〜2.0%、Cr:5.0〜11.0
%、Mo:1.3〜5.0%、V:0.1〜5.0%を含有すると共に、
希土類元素のうちの少なくとも1種を合計で0.001〜0.6
00%含有し、残部実質的にFe及び不可避不純物からなる
冷間工具鋼を製造する際、前記希土類元素の合計含有量
Rと、P含有量[P]及びS含有量[S]との間に、次
式:R=α[P]+β[S](式中、α、βは夫々2≦α
≦7、6≦β≦10を満足する数を表す)で示される関係
が成り立つようにP及びSの含有量に応じて希土類元素
を添加することとしたので、得られる冷間工具鋼は、高
硬度と高靭性をバランスよく達成することができ、過酷
な冷間加工条件に充分に耐えることができると共に、工
具に加工を行う際の例えばワイヤカット放電加工等にお
いて割れが発生することが防止され、工具としての寿命
が大幅に増大する。又、第2の本発明に係る冷間工具鋼
の製造方法によれば、上記の各成分元素に加えて、Cu:
0.1〜2.0%、Ni:0.2〜2.0%、W:0.1〜3.0%、Co:0.1〜
5.0%、Nb:0.01〜3.00%、Ti:2.0%以下及びZr:2.0%以
下のうちの少なくとも1種を含有することとしたので、
得られる冷間工具鋼は、強度及び靭性が更に向上する。 従って、本発明の冷間工具鋼は冷間鍛造用ダイス、ポ
ンチ等の冷間加工用工具鋼として極めて有用である。
Claims (1)
- (57)【特許請求の範囲】 1.重量%で、C:0.75〜1.75%、P:0.025%以下、S:0.0
030%以下、O:0.0050%以下、N:0.030%以下、Si:3.0%
以下、Mn:0.1〜2.0%、Cr:5.0〜11.0%、Mo:1.3〜5.0
%、V:0.1〜5.0%を含有すると共に、希土類元素のうち
の少なくとも1種を合計で0.001〜0.600%含有し、残部
実質的にFe及び不可避不純物からなる冷間工具鋼を製造
する際、前記希土類元素の合計含有量Rと、P含有量
[P]及びS含有量[S]との間に、次式: R=α[P]+β[S] …(I) (式中、α、βは夫々2≦α≦7、6≦β≦10を満足す
る数を表す) で示される関係が成り立つようにP及びSの含有量に応
じて希土類元素を添加することを特徴とする冷間工具鋼
の製造方法。 2.重量%で、C:0.75〜1.75%、P:0.025%以下、S:0.0
030%以下、O:0.0050%以下、N:0.030%以下、Si:3.0%
以下、Mn:0.1〜2.0%、Cr:5.0〜11.0%、Mo:1.3〜5.0
%、V:0.1〜5.0%を含有すると共に、希土類元素のうち
の少なくとも1種を合計で0.001〜0.600%、並びに、C
u:0.1〜2.0%、Ni:0.2〜2.0%、W:0.1〜3.0%、Co:0.1
〜5.0%、Nb:0.01〜3.00%、Ti:2.0%以下及びZr:2.0%
以下のうちの少なくとも1種を含有し、残部実質的にFe
及び不可避不純物からなる冷間工具鋼を製造する際、前
記希土類元素の合計含有量Rと、P含有量[P]及びS
含有量[S]との間に、次式: R=α[P]+β[S] …(I) (式中、α、βは夫々2≦α≦7、6≦β≦10を満足す
る数を表す) で示される関係が成り立つようにP及びSの含有量に応
じて希土類元素を添加することを特徴とする冷間工具鋼
の製造方法。
Priority Applications (1)
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JP62187731A JP2756451B2 (ja) | 1987-07-29 | 1987-07-29 | 冷間工具鋼の製造方法 |
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JPS6431952A JPS6431952A (en) | 1989-02-02 |
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1987
- 1987-07-29 JP JP62187731A patent/JP2756451B2/ja not_active Expired - Fee Related
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KR20160010930A (ko) * | 2014-07-21 | 2016-01-29 | 국민대학교산학협력단 | 우수한 내충격성을 겸비한 고내마모성 냉간공구강 |
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