JP2586066Y2 - 粘性ポンプ - Google Patents

Description

【考案の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本考案は、遠心力に抗して回転体
の内側に向かって粘性流体を運ぶ非接触型粘性ポンプ、
特に自動車のインタアクルスデフに用いられている非接
触形粘性ポンプに関するものである。

【０００２】

【従来の技術】回転軸と共に回転する回転体と、その回
転体の側面に対面し渦巻突条が形成された非回転体とか
ら構成され、粘性流体であるオイル等を、その粘性を利
用して上記回転体の遠心力に抗して該回転体の内側方向
に移動させる粘性ポンプ原理が知られている。

【０００３】この粘性ポンプを実用化するには、上記回
転体と渦巻突条の間の隙間が問題となる。即ち、オイル
等の粘性流体が上記回転体の内側方向に移動するのは、
オイル自身の粘性による滞留力と上記渦巻突条にオイル
が衝突したときの粘性摩擦力とが、回転体によって生じ
る遠心力に打ち勝ったときであり、できるだけ上記渦巻
突条にオイルを衝突させることが望ましい。そのために
は上記回転体と渦巻突条との間の隙間ができるだけ小さ
いことが望ましく、できることなら隙間が無いのが理想
である。

【０００４】

【考案が解決しようとする課題】しかし、実際には組み
付け誤差や製造誤差などにより回転体と渦巻突条との間
に隙間が存在したり、該回転体と渦巻突条との圧接力が
強すぎてしまうなど、安定して隙間を保持することが難
しい。そこで、回転体と該渦巻板に形成された渦巻突条
を最初から接触させてしまう隙間の無い接触タイプや、
回転体と渦巻突条との間に隙間を予め設け、両者を接触
させない非接触タイプの二つのタイプの粘性ポンプがあ
る。

【０００５】非接触タイプの粘性ポンプにおいては、回
転体と渦巻突条との隙間が広すぎるとオイルの渦巻突条
への衝突が少なく、回転体の遠心力でオイルが回転体の
外周方向に移動してしまいポンプの性能が著しく低下し
たり、最悪のときにはポンプの役目を果たさないという
不具合を生じる。

【０００６】また、回転体と渦巻突条とを接触させた粘
性ポンプおいては、両者の接触が強く圧接してしまう場
合があり、双方の摩擦抵抗が大きく、それにより発生す
る摩擦熱によるオイルの劣化や回転体と渦巻突条の摩耗
など耐久性に問題が発生する。

【０００７】さらに、ポンプ組み付け時に隙間の大きさ
を気にしなければならず、作業性が良くないといった問
題点も生じる。

【０００８】

【課題を解決するための手段】本考案は、固定部材から
なり内部に潤滑油を貯溜すめデフカバーと、上記デフカ
バー内に回転可能に配置されて上記潤滑油を掻き上げ可
能なデフケースと、上記デフケースに穿設され該デフケ
ースの内部と外部とを連通すると共に開口部が同デフケ
ースの軸心部近傍に形成された孔と、先端部が上記デフ
ケースに当接し上記潤滑油の移動を上記孔の開口部方向
へ規制する渦巻突条を備え上記デフカバーと回転方向に
略一体的に取り付けられたプレートとを備えた粘性ポン
プにおいて、上記プレートが上記デフカバーに対して軸
方向に移動自在に構成されると共に、上記デフカバーと
上記プレートとの間に介装され上記プレートを上記デフ
ケース側へ付勢する弾性部材を備えている。

【０００９】

【作用】弾性部材の弾力により渦巻突条起がデフケース
側に適度に圧接するので、デフケースと渦巻突条との隙
間がなくなり、粘性流体の渦巻突条との流体摩擦が大き
くなる。また、デフケースの非回転時にはプレートがデ
フケース側に弾性部材の付勢力で圧接し、車両が走行し
てデフケースが回転して潤滑油の吐出圧が上昇すると、
その力でプレートがデフケースから離れる方向に移動
し、デフケースと渦巻突条先端部の間に僅かな隙間が生
じる。

【００１０】

【実施例】以下、本考案の第１の実施例について説明す
る。図５は、本考案の粘性ポンプを設けた後二輪駆動大
型トラックにおける後前軸側インタアクルスデフ（以
下、「インターデフ」という）を示している。このイン
ターデフには図示しないトランスミッショからの駆動力
を伝達するプロペラシャフト１がインターデフカバー２
（以下、「デフカバー２」という）内のインターデフケ
ース３（以下、「デフケース３」という）に連結してお
り、このデフケース３を回転させる。デフケース３の回
転はスパイダ４に支持された一対のデフピニオン５を介
してフロントデフギア６及びリアデフギア７にそれぞれ
伝達される。さらに、フロントデフギア６の回転はスル
ーシャフト８、タンデムプロペラシャフト９を介して図
示しない後後車輪側のリダクションギアに伝達され、リ
アデフギア７の回転は一対のヘリカルギア１０を介して
後前車軸側のリダクションギア１１に伝達される。この
インターデフは通常のデフ装置と同じもので、コーナリ
ング時などにおいて車軸間に回転差が生じると、デフピ
ニオン５が回転して回転差を吸収する。

【００１１】また、インターデフの後側には、デフロッ
ク１２が配設されている。このデフロック１２は、自動
車がぬかるみなどの悪路を走行するときなどに、スルー
シャフト８とヘリカルギア１０とを連結させてインター
デフの機能を停止させるもので、エアシリンダ１３によ
りロッククラッチ１４をスライドするようになってい
る。

【００１２】さらに、このインターデフでは、デフカバ
ー２内に粘性流体である潤滑油１６を供給して潤滑およ
び冷却している。その構造は、アクルスハウジング１５
の下部に設けた潤滑油溜め部１５Ａ内に溜められている
潤滑油１６を、回転するリダクションギア１１が掻き上
げ、これを飛沫として各摺動部位やギアの噛み合い部分
に供給する飛沫給油方式である。

【００１３】一方、アクルスハウジング１５および分割
されたデフキャリア４０Ａ，４０Ｂの上部には、この掻
き上げられた潤滑油１６をデフカバー２内に導くための
油路１８が形成されている。そして、この油路１８内に
供給された潤滑油１６は、さらにデフカバー２内に送ら
れてその下部に溜る。この下部に溜った潤滑油１６はデ
フケース３で掻き上げられ、デフカバー２の内周面２ａ
に付着する。この内周面２ａは、ベアリング１９ｂ側
（図では右側）に向い末広がりにテーパーが付けられて
いる。

【００１４】このような構造のインターデフにおいて、
デフカバー２とデフケース３の間でベアリング１９Ｂの
近傍には粘性ポンプ２２が配置されている。この粘性ポ
ンプ２２は図１，２に示すように、回転体となる回転板
２３と非回転体である固定板２４とから主に構成されて
いる。回転板２３はリンク状の円板に円筒形のフランジ
部２３ａが一体成形されたもので、円板の中心付近には
軸方向に対して斜めに孔２３ｂが穿設されており、デフ
ケース３の端部３ａに圧入され、デフケース３と一体的
に回転するようになっている。

【００１５】固定板２４は、周縁２４ａを軸方向に向か
って折り曲げられたドーナッツ形のもので、その周縁２
４ａがデフカバー２の内周面２ａに嵌装されている。固
定板２４の内側面には外周面２５ａが固定板２４の周縁
２４ａに圧着され、内周面２５ｂが回転板２３のフラン
ジ部２３ａに圧接された弾性部材であり、プレートを構
成するゴムプレート２５が形成されている。ゴムプレー
ト２５の背面には輪状の補強板２５ｃが設けられてい
る。ゴムプレート２５は、外周面２５ａと内周面２５ｂ
によって、デフケース３と一体回転する回転板２３に対
して移動可能に支持されている。

【００１６】また、ゴムプレート２５の回転板２３側の
面には、スルーシャフト８を中心に渦巻を描く突条２６
が形成されている。ゴムプレート２５は、回転板２３に
自身の弾性力により突条２６の先端部２６ｂを圧接させ
ており、回転板２３と突条２６との間に、デフケース３
が回転しない車両停止状態時に隙間が形成しないように
なっている。

【００１７】また、デフケース３とリアデフギア７に
は、孔２３ｂと連通しポンプ２２からの送られる潤滑油
１６をデフケース３内部に導く孔３ｂと７ａが形成され
ている。

【００１８】このような構造のポンプ２２をデフカバー
２とデフケース３の間に形成することにより、リダクシ
ョンギア１１によって掻き上げられ油路１８を通ってデ
フカバー２の下部に溜った潤滑油１６は、図３に示すよ
うに、デフケース３の回転によりデフカバー２の内周面
２ａに付着し、その内周面２ａに沿ってポンプ２２側に
移動する。

【００１９】移動した潤滑油１６は回転板２３の回転に
より突条２６の渦巻の外周端開口２６ａから突条２６で
形成された渦巻溝内に押し込まれ、外周部２５ａと内周
部２５ｂにより固定板２４側に漏れることなく自身の粘
性と突条２６との衝突により生じる粘性摩擦力とにより
渦巻状の突条２６の間をスルーシャフト８の中心方向に
向って移動し、孔２３ｂ、３ｂ、７ａを通ってデフケー
ス３内に入り、デフピニオン５やフロントデフギア６、
リフデフギア７を潤滑する。

【００２０】また、車両が走行して回転板２３の回転、
つまりデフケース３の回転により粘性ポンプ２２内に押
し込まれ潤滑油１６により突条２６間が満たされると、
回転板２３の回転による遠心力により回転板２３に圧接
された突条２６は、外周部２５ａと内周部２５ｂに支持
され図面右方に移動し、わずかではあるが突条の先端部
２６ｂと回転板２３との間に隙間が発生する。すると、
この隙間を突条２６間を中心方向に流動している潤滑油
１６の一部が外周方向移動し、回転板２３と突条２６と
の間に介在し、圧接状態が良好となる。

【００２１】

【００２２】また、デフカバー２の底に一定以上の潤滑
油１６が溜ると、図５に示すように、それらは自然に溢
れ、この溢れた分がデフキァリア４０Ａ，４０Ｂ内を通
って自然に流れながらアクルスハウジング１５内に戻
り、このアクルスハウジング１５内で冷却された後、再
びリダクションギア１１で油路１８内に送られる。

【００２３】次に本考案の第２の実施例を図４を用いて
説明する。なお、上記第１の実施例と同じ機能を有する
部材については同一符号を付すにとどめその説明を省略
する。

【００２４】図４に示す第２の実施例では、第１の実施
例における渦巻状の突条２６をプレート２４０に形成
し、弾性部材である皿バネ３０でデフケース３と一体回
転する回転板２３に弾性的に押圧したものである。

【００２５】回転板２３は、そのフランジ部２３ａに断
面Ｌ字型のオイルカード３１を介してデフケース３の端
部３ａに圧着されており、オイルガート３１とプレート
２４０との間にはオイルガード３１のフランジに設けた
オイルパッキン３２が嵌装されている。

【００２６】プレート２４０はその周縁部２４０ａをデ
フカバー２の内周面２ａに軸方向に摺動可能に支持され
ている。このプレート２４０の、回転体２３と対向する
端面には突条２６が形成されている。

【００２７】皿バネ３０はリング状のストップリング３
３により固定されており、このストップリング３３は皿
バネ３０をプレート２４０に押しつけるような位置で内
周面２ａに嵌合されている。また、回転板２３、デフケ
ース３、リフデフギア７には孔２３ｂ、３ｂ、７ａがそ
れぞれ形成されている。

【００２８】このような構成のポンプ２２によりデフケ
ース２の下部に溜った潤滑油１６は内周面２ａを図面右
方へ移動し、外周端開口２６ａからポンプ２２内に押し
込まれ、突条２６間を通ってポンプ中心に運ばれ、孔２
３ｂ、３ｂ、７ａを通り第１の実施例同様の働きをす
る。

【００２９】尚、ポンプ２２を組み付ける時に弾力の異
なる皿バネ３０を適宜選択することにより、回転板２３
と突条２６との圧接力を調整できると共に、組み付け誤
差や部品の製造誤差などを吸収することができる。

【００３０】

【考案の効果】本考案によれば、デフケースの非回転時
にはプレートがデフケース側に弾性部材の付勢力で圧接
し、車両が走行してデフケースが回転して潤滑油の吐出
圧が上昇すると、その力でプレートがデフケースから離
れる方向に移動し、デフケースと渦巻突条先端部の間に
僅かな隙間が生じるので、潤滑油の吐出圧の上昇を抑え
られ、適度な吐出圧を維持することができる。従って、
デフケースと渦巻突条先端部との間に製造誤差や組み付
け誤差があっても、粘性ポンプの性能を一定に保持する
ことができると共に、車両毎のバラつきを押されること
ができる。

【００３１】また、デフケースと渦巻突条が弾性部材に
よる緩やかな弾性接触であることから、両者の摩擦摩耗
を抑えると共に、摩擦熱による粘性流体である潤滑油等
の耐久性を向上させることができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本考案の第１の実施例の主要部を示す断面図で
ある。

【図２】図５におけるＡ−Ａの拡大断面図である。

【図３】本考案の第１の実施例における潤滑油の流れと
プレートの動きを示す断面図である。

【図４】本考案の第２の実施例の主要部を示す側面図で
ある。

【図５】本考案の粘性ポンプを取り付けたインターデフ
を示す側面断面図である。

【符号の説明】２ デフカバー ３ 回転部材（デフケース） １６ 粘性流体（潤滑油） ２２ 粘性ポンプ ２３ 回転体 （回転板） ２４ 非回転体（固定板） ２５，３０ 弾性部材 ２６ 渦巻突条２５，２４０ プレート

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)考案者 中根 和彦 東京都港区芝五丁目33番８号・三菱自動 車工業株式会社内 (56)参考文献 実開 平４−133057（ＪＰ，Ｕ) 実開 平３−11163（ＪＰ，Ｕ) 実開 平２−81223（ＪＰ，Ｕ) (58)調査した分野(Int.Cl.⁶，ＤＢ名) F16H 57/04 B60K 17/06

Claims (1)

(57)【実用新案登録請求の範囲】
1. 【請求項１】固定部材からなり内部に潤滑油を貯溜すめ
   デフカバーと、 上記デフカバー内に回転可能に配置されて上記潤滑油を
   掻き上げ可能なデフケースと、 上記デフケースに穿設され該デフケースの内部と外部と
   を連通すると共に開口部が同デフケースの軸心部近傍に
   形成された孔と、 先端部が上記デフケースに当接し上記潤滑油の移動を上
   記孔の開口部方向へ規制する渦巻突条を備え上記デフカ
   バーと回転方向に略一体的に取り付けられたプレートと
   を備えた粘性ポンプにおいて、 上記プレートが上記デフカバーに対して軸方向に移動自
   在に構成されると共に、上記デフカバーと上記プレート
   との間に介装され上記プレートを上記デフケース側へ付
   勢する弾性部材を備えたことを特徴とする粘性ポンプ。