JP2023530797A - 部位特異的Notch活性化分子およびその使用 - Google Patents

部位特異的Notch活性化分子およびその使用 Download PDF

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Abstract

本発明は、Notch受容体を標的とする多重特異性抗原結合分子、その使用等に関する。本発明は、第1の標的細胞上のNotch受容体に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分とを含む、多重特異性抗原結合分子を提供する。さらに、本発明者らは、本発明の多重特異性抗原結合分子による、足場依存性Notchシグナル伝達活性化を実証する。

Description

本開示は、Notch受容体を標的とする多重特異性抗原結合分子およびその使用等に関する。
Notch受容体ファミリーおよびNotchリガンドの概説
Notchシグナル伝達は、幅広い細胞システムに必須である、高度に保存されたプロセスであり、その脱調節は、数多くの発達障害および悪性腫瘍に関係している。ヒトおよびマウスでは、膜貫通受容体のNotchファミリーは、ほとんど非冗長性の機能を有する4種類のタンパク質パラログ(Notch 1~4)で構成される。Notch受容体は、細胞膜局在化の前に、S1部位で翻訳後切断される。この切断はトランスゴルジネットワーク内で生じ、フリン様プロテアーゼによって媒介される(非特許文献1)。成熟膜結合型Notchを形成する2つのポリペプチドは、細胞外ドメイン(ECD)、および、膜貫通ドメインと細胞内ドメインとで構成される膜貫通断片と呼ばれる。
N末端から、ECDは29~36個の上皮増殖因子(EGF)様ドメインからなる。EGFリピート12は、受容体-リガンド相互作用に関与する主要な結合ドメインであることが報告されている。EGF様リピートドメインの後に、負の制御領域(negative regulatory region)(NRR)が続き、これは3個のシステインリッチLin12/Notchリピート(LNR)と、膜貫通ドメインとECDポリペプチドとを連結してNotchヘテロ二量体を形成するHDドメインとを含む(非特許文献1)。NRRは、Notch受容体の自己抑制を媒介するのに重要であり、正しいシグナルの非存在下での活性化を妨げる(非特許文献2)。
ヒトおよびマウスにおけるDelta/Serrate/Lag-2(DSL)ファミリーのNotchリガンドは、それらがショウジョウバエ(Drosophila)のNotchリガンドのDeltaホモログであるかまたはSerrateホモログであるかに応じて、2つのクラスに分類される。Delta様リガンド(DLL)には、DLL1、DLL3、DLL4が含まれ、Serrateホモログには、Jagged1(Jag1とも呼ばれる)およびJagged2(Jag2とも呼ばれる)が含まれる。4種類のNotch受容体の間では機能の相違があるにもかかわらず、DLLリガンドまたはJaggedリガンドのいずれかと相互作用することで、同じ古典的シグナル伝達経路の活性化がもたらされる(非特許文献3)。
Notchシグナル伝達の生理学的機能、特に幹細胞シグナル伝達および組織再生における役割
Notchシグナル伝達経路は、胚組織および成体組織における複数の発生過程で繰り返し用いられる数少ないシグナル伝達経路の1つとして認識されている。発生時、Notchシグナル伝達は、種々の組織幹細胞(SC)の自己再生と分化との間のバランスの厳密な制御に関与し、損傷した組織の組織恒常性および再生の維持を担う(非特許文献3)。Notch活性化の状況特異性は、生じる特定のプロセスまたは機能的事象(例えば、分化、増幅、またはアポトーシス)およびそのような事象が生じる時期(すなわち、発生段階)を決定づける(非特許文献4)。したがって、この状況依存的なNotch活性は、多細胞真核生物の発生の多数の局面を推し進めることができ、最近では、衛星細胞、神経幹細胞、腸幹細胞、および造血幹細胞を含む、胚組織および成体組織における幹細胞の運命および維持に関連付けられている。
現行の治療の限界
Notchシグナル伝達の調節不全は数多くの発達障害および悪性腫瘍に関係していることから、Notchシグナル伝達の構成成分は治療標的として魅力的である。また一方で、今日までに、Notchシグナル伝達の選択的な阻害を示した小分子は、複数存在する(非特許文献5および6)。γセクレターゼ阻害剤(GSI)は、Notchのタンパク質分解活性を遮断するために広く使用されているが、それらは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、E-カドヘリンおよびErbB4を含む、90を超える他の基質のプロセシングも遮断することから、それらの作用が非特異的であることも知られている(非特許文献7~9)。加えて、また一方で、そのような化合物は、4種類全てのNotch受容体を含む、複数の膜貫通タンパク質のタンパク質分解を阻害し(非特許文献10)、慢性的に投与されると重大な毒性、中でも注目すべきは、結腸杯細胞化生に起因する重篤な分泌性下痢を引き起こす(非特許文献11)。この胃腸毒性は、結腸陰窩における前駆細胞から吸収性腸細胞への分化を促進するNOTCH1および/またはNOTCH2の阻害によるものと考えられる(非特許文献12)。
小分子とは別に、特定のNotch受容体に選択的であるアンタゴニスト抗体が、複数のグループによって報告されている(非特許文献13~17)。しかしながら、これらのNotchアンタゴニスト抗体の大多数は、腫瘍学的適応症を標的とすることに焦点を当てており、それらの臨床上の利用は、小分子阻害剤が直面するものと同様の懸念によって限定されている。
Proc Natl Acad Sci USA. 1998 Jul 7;95(14):8108 Nature Structural & Molecular Biology, 14, 295-300(2007) Development 2013 140: 689-704 Cell Death & Disease 8, e2595 (2017) Sci Rep. 2019; 9: 10811. Methods Mol Biol. 2014;1187:311-22. Nature. 1999 Apr 8;398(6727):518-22. J Alzheimers Dis. 2011;25(1):3-28. Breast Cancer (Dove Med Press). 2012 Jun 21;4:83-90. Nature Reviews Molecular Cell Biology, 5, 499-504(2004) The Journal of Biological Chemistry, 279,12876-12882. Nature volume 435, pages964-968(2005) Methods. 2012 Sep; 58(1): 69-78. Methods Mol Biol. 2014;1187:335-42. The Journal of Biological Chemistry, 283, 8046-8054. Clin Cancer Res; 21(9) May 1, 2015 Plos One, February 2010, Volume 5, Issue 2, e9094
本発明者らは、正常組織の副作用を回避しつつ、Notch調節の効果を病的部位に限定することは取り組みがいがあると考えた。したがって、Notch調節因子の部位特異性を改善することは、Notch調節因子の全身投与による副作用を回避するための可能性のある戦略の1つである。本発明はそのような考えに基づいて作製されている。本開示の目的は、目的の細胞においてNotchシグナル伝達経路活性化を、細胞足場依存的様式で可能にする、多重特異性抗原結合分子、多重特異性抗原結合分子を産生するための方法、および目的の細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化するための活性成分としてそのような多重特異性抗原結合分子を含む医薬組成物を提供することである。
Notchシグナル伝達に関与するコア構成成分、ならびにリガンド/受容体相互作用およびタンパク質分解活性化の誘発を記載した以前の総説が存在する(Cell. 2009 Apr 17;137(2):216-33)。この報告によると、著者らの理論は以下の通りである:Notchシグナル伝達の活性化は以下を伴う:(1)Notch受容体とそのリガンド(Delta様リガンドおよびJaggedリガンド)との相互作用を可能にする細胞間の接触;(2)Notch受容体は、リガンド会合時に立体構造変化を受け、負の制御領域(NRR)として公知のNotch受容体内の保護ドメインを露出させる機械力が生じる。これによりS2部位のその後のタンパク質分解切断がもたらされ、残りのドメインは、S3部位で構成的活性型γ-セクレターゼによって認識および切断され、Notch細胞内ドメイン(NICD)が放出される;および(3)膜からのNICDの核移行は、保存された転写因子であるCSL;CBF1/RBPJへのその結合をもたらし、Notch標的遺伝子を上方制御する。
本発明者らは、第1の標的細胞上のNotch受容体に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分とを含む多重特異性抗原結合分子が、該多重特異性抗原結合分子が第2の標的細胞上のアンカー抗原に結合している場合に(またはその場合にのみ)第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達活性化を引き起こすことができる(すなわち、足場依存性シグナル伝達活性化)ことを見出した。Notchシグナル伝達経路活性化の組織または部位特異性は、目的の組織または細胞集団に特異的、独占的、または限定的に発現する特有のアンカー抗原への、部位特異的結合ドメインの選択的結合によって付与される。部位特異的Notch「トランス活性化」という概念は、そのような多重特異性抗体フォーマットを採用することによって達成することができる。
より具体的には、本発明は以下を提供する:
[1] (i)第1の標的細胞上のNotch受容体に特異的に結合する第1の抗原結合部分、および
(ii)第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗原結合分子であって、
第1の標的細胞と第2の標的細胞が異なる細胞であり、かつ
該多重特異性抗原結合分子が第2の標的細胞上のアンカー抗原に結合している場合に、該多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化する、
多重特異性抗原結合分子。
[2] 第1の標的細胞が、組織幹細胞、活性化CD4 Tリンパ球、線維化促進因子分泌細胞、または腫瘍微小環境中の腫瘍形成促進性(pro-tumorigenic)細胞である、[1]の多重特異性抗原結合分子。
[3] 組織幹細胞が、衛星細胞、成体腸幹細胞、または陰窩基底部円柱(CBC)細胞である、[2]の多重特異性抗原結合分子。
[4] 第1の結合部分が、Notch受容体リガンドのNotch結合ドメインを含む、[1]~[3]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[5] Notch受容体リガンドが、Notch1、Notch2、Notch3、またはNotch4受容体に対するリガンドである、[4]の多重特異性抗原結合分子。
[6] Notch受容体リガンドが、Deltaタンパク質またはJaggedタンパク質である、[4]または[5]の多重特異性抗原結合分子。
[7] Deltaタンパク質が、Delta様リガンド 1(DLL1)、DLL3、またはDLL4である、[6]の多重特異性抗原結合分子。
[8] Jaggedタンパク質がJagged 1またはJagged 2である、[6]の多重特異性抗原結合分子。
[9] 第1の抗原結合部分が、Notch受容体に特異的に結合するFab、scFv、VHH、VL、VH、またはシングルドメイン抗体を含む、[1]~[3]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[10] 第2の標的細胞が、衛星細胞ではない筋細胞、活性化線維芽細胞、FcgRIIBを発現する免疫細胞、GPC3発現がん細胞、および腸陰窩中の細胞からなる群より選択される、[1]~[9]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[11] FcgRIIBを発現する免疫細胞が、循環Bリンパ球、単球、好中球、リンパ系樹状細胞、および骨髄樹状細胞からなる群より選択される、[10]の多重特異性抗原結合分子。
[12] 第2の標的細胞上のアンカー抗原が、電位開口型カルシウムチャネルサブユニットα1 S(CACNA1S)、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、グリピカン-3(GPC3)、およびFcγRIIB(CD32B)からなる群より選択される、[10]の多重特異性抗原結合分子。
[13] 第2の抗原結合部分が、アンカー抗原に特異的に結合するFab、scFv、VHH、VL、VH、シングルドメイン抗体、リガンド、または改変されたFc領域を含む、[1]~[12]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[14] Fc領域をさらに含む、[1]~[13]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[15] Fc領域が、
天然型ヒトIgG1 Fcドメインと比較して、ヒトFcγ受容体に対する低下した結合アフィニティを示す、改変されたFc領域
である、[14]の多重特異性抗原結合分子。
[16] 第2の抗原結合部分が、FcgRIIBに特異的に結合する改変されたFc領域を含む、[13]~[15]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子。
[17] 第1の抗原結合部分をもう一つさらに含む、[16]の多重特異性抗原結合分子。
[18] 第3の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第3の抗原結合部分をさらに含む、[16]の多重特異性抗原結合分子。
[19] 第2の標的細胞と第3の標的細胞が、異なる細胞または同じ細胞である、[18]の多重特異性抗原結合分子。
[20] [1]~[19]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
[21] 第1の標的細胞を、有効量の[1]~[19]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子または[20]の医薬組成物と接触させる段階を含む、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化するための方法。
[22] 第1の標的細胞がインビボで哺乳動物対象中にある、[21]の方法。
[23] 対象がヒトである、[22]の方法。
[24] [1]~[19]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子をコードする、単離された核酸。
[25] [24]の核酸を含む、ベクター。
[26] [24]の核酸または[25]のベクターを含む、宿主細胞。
[27] [26]の宿主細胞を培養する段階を含む、[1]~[19]のいずれか1つの多重特異性抗原結合分子を産生する方法。
部位特異的結合ドメインと、Notch受容体に結合することができ、その活性化をもたらすポリペプチドとを伴う、部位特異的Notch活性化の概念を示す図。(A)NotchアゴニストドメインによるNotch受容体の足場依存性トランス活性化を誘導するための、アンカー抗原に特異的に結合することができる1つのFabアームを有する、二重特異性抗体。(B)アンカー抗原に結合することができる改変されたFcを有し、かつ2つのNotchアゴニストドメインを有する、多重特異性抗体。(C)アンカー抗原に結合することができる改変されたFcを有し、1つのアンカー抗原(1)に結合することができる改変されたFcと、1つのNotchアゴニストドメインと、さらなる特異性のための第2のアンカー抗原(2)に対する追加の結合ドメインとを有する、多重特異性抗体。 FcγRIIB選択的結合技術(該技術は、Fc領域に変異を導入することによって、FcγRIIa、FcγRI、およびFcγRIIIaを含む活性化Fcγ受容体よりも阻害性FcγRIIbへのFc領域の結合アフィニティを選択的に増加させる)によるNotchアゴニスト抗体の概念を示す図。 多重特異性Notchアゴニスト抗体の調製。分子フォーマットおよび命名規則の図。(A)抗AA//Jag-Fcは、FcγR結合を欠く(「FcγRサイレンス(silenced)」)Fc、ヒトJag1細胞外ドメイン(ECD)、およびGPC3などの標的抗原に結合するFabからなる。ヘテロ二量体化および正しいアセンブリは、Fcにおけるノブ-イントゥ-ホール(kih)変異によって達成される。(B)Jag1//Jag1-Fcは、FcγR結合を欠くFc、および2つのヒトJag1細胞外ドメイン(ECD)からなる。 足場依存性Notch活性化誘導型Notchアゴニスト抗体。(A)RBP-Jkレポーターアッセイは、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を安定に発現するC212細胞(C2C12-Notchレポーター細胞)における、Notchアゴニスト抗体によって誘導される足場依存性Notch活性化の効果を示す。ヒトIgG1抗体をアイソタイプ対照として含めた。Notchアゴニスト抗体(10マイクログラム(mcg)/mL)を、吸着によって培養プレートに直接固定化したか、培養プレート上に吸着させた抗ヒトIgGκ軽鎖(抗IgGκ-LC)抗体(10 mcg/mL)によって固定化し、その後、C212-Notchレポーター細胞を播種した、またはC2C12-Notchレポーター細胞と共に添加した(固定化なし)。データを、アイソタイプ対照抗体処理に対して正規化したルシフェラーゼ刺激倍率として表す。(B)ヒトIgG1抗体をアイソタイプ対照として含めた。Notchアゴニスト抗体(10 mcg/mL)を、吸着によって培養プレートに直接固定化したか、最初に培養プレート上に吸着させた抗ヒトIgG Fc特異的抗体(10 mcg/mL)によって固定化したか、または固定化せずに抗抗ヒトIgG Fc抗体と共にまたは該抗体なしで培養培地に直接添加した。 Notch活性化は、アンカー抗原の利用可能性およびレベルに依存する。(A)GPC3を安定に過剰発現するSK-HEP1細胞(SK-PCa 60)を、表示した細胞密度でC2C12-Notchレポーター細胞と共に共培養し、アイソタイプ対照抗体または抗GPC3//Jag1-Fc抗体(10 mcg/mL)のいずれかで24時間処理した後に、二重ルシフェラーゼアッセイを実施した。データを、アイソタイプ対照処理に対して正規化したルシフェラーゼ刺激倍率として表す。(B)種々のレベルでGPC3を安定に過剰発現するSK-HEP1細胞(高GPC3:SK-PCa 60、中GPC3:SK-PCA31、および低 SK-PCA 13)をC2C12-Notchレポーター細胞と共に共培養し、アイソタイプ対照抗体または抗GPC3//Jag1-Fc抗体(10 mcg/mL)のいずれかで24時間処理した後に、二重ルシフェラーゼアッセイを実施した。データを、アイソタイプ対照処理に対して正規化したルシフェラーゼ刺激倍率として表す。 qPCR分析は、Notch標的遺伝子(A)HEY1および(B)NRARPの相対的発現を示す。親C2C12細胞の添加前に、アイソタイプ対照抗体または抗GPC3//Jag1-Fc抗体(0または25 mcg/mL)のいずれかを培養プレートに一晩吸着させた。C2C12細胞をDMSOまたはγセクレターゼ阻害剤であるDAPT(10マイクロモル)のいずれかで24時間さらに処理した後に、qPCR分析のために細胞を回収した。 部位特異的アンカー抗原に対する二重特異性Notchアゴニスト抗体によって誘導される足場依存性Notch活性化。(A)Notchレポーター細胞をNIH3T3-FAP過剰発現細胞と共に共培養し、抗KLH対照抗体または抗FAP//Jag1二重特異性抗体(10 mcg/mL)のいずれかで24時間処理した後に、ルシフェラーゼアッセイを実施した。(B)NIH3T3細胞上に過剰発現された表面FAPに結合する抗FAP//Jag1-Fcの能力を示すFACS分析。(C)Notchレポーター細胞をMDCK-FcγRIIB過剰発現細胞と共に共培養した。Jag1//Jag1-Fc*は、アンカー抗原としてのFcγRIIBに優先的に結合する改変されたFcからなる。 Jagged1の代わりに他のNotchリガンド(すなわち、Jagged2、DLL1、DLL3、DLL4)の細胞外ドメインを有する二重特異性Notchアゴニスト抗体によって誘導される足場依存性Notch活性化。(A)二重特異性抗体(10 mcg/mL)は、Notchアゴニストアーム(すなわち、表示されるようなNotchリガンド)および抗アンカー抗原アーム(すなわち、抗KLHまたは抗GPC3)からなり、プレート上にコーティングされた抗ヒトFc特異的抗体によって固定化したか、または培養培地中でNotchレポーター細胞に直接添加し(非固定化条件)、その後、ルシフェラーゼアッセイを実施した。データを、抗KLH対照抗体処理に対して正規化した後の相対的ルシフェラーゼ単位(RLU)の変化倍率として表す。(B)GPC3を安定に過剰発現するSK-HEP1細胞(SK-PCA 60および SK-PCA 31)をC2C12-Notchレポーター細胞と共に共培養し、抗アンカー抗原結合アームとして抗KLH抗体または抗GPC3抗体のいずれかと、表示されているようなヒトNotchリガンドの細胞外ドメインとからなる二重特異性抗体(10 mcg/mL)で、24時間処理し、その後、ルシフェラーゼアッセイを実施した。データを、抗KLH対照抗体処理に対して正規化した後の相対的ルシフェラーゼ単位(RLU)の変化倍率として表す。(C)Bangs LaboratoriesからのQuantum(商標)Simply Cellular(登録商標)(QSC)マイクロスフェアキットを用いた、GPC3過剰発現細胞(SK-PCA31およびSK-PCA60)上に発現している細胞表面GPC3の定量化。データを、1個の細胞当たりに発現している表面GPC3の数として示した。
態様の説明
本明細書において記載または参照される技法および手順は、概して十分に理解されており、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3d edition (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.;Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel, et al. eds., (2003));the series Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.):PCR 2: A Practical Approach (M.J. MacPherson, B.D. Hames and G.R. Taylor eds. (1995))、Harlow and Lane, eds. (1988) Antibodies, A Laboratory Manual、およびAnimal Cell Culture (R.I. Freshney, ed. (1987));Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait, ed., 1984);Methods in Molecular Biology, Humana Press;Cell Biology: A Laboratory Notebook (J.E. Cellis, ed., 1998) Academic Press;Animal Cell Culture (R.I. Freshney), ed., 1987);Introduction to Cell and Tissue Culture (J. P. Mather and P.E. Roberts, 1998) Plenum Press;Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J.B. Griffiths, and D.G. Newell, eds., 1993-8) J. Wiley and Sons;Handbook of Experimental Immunology (D.M. Weir and C.C. Blackwell, eds.);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J.M. Miller and M.P. Calos, eds., 1987);PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis et al., eds., 1994);Current Protocols in Immunology (J.E. Coligan et al., eds., 1991);Short Protocols in Molecular Biology (Wiley and Sons, 1999);Immunobiology (C.A. Janeway and P. Travers, 1997);Antibodies (P. Finch, 1997);Antibodies: A Practical Approach (D. Catty., ed., IRL Press, 1988-1989);Monoclonal Antibodies: A Practical Approach (P. Shepherd and C. Dean, eds., Oxford University Press, 2000);Using Antibodies: A Laboratory Manual (E. Harlow and D. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999);The Antibodies (M. Zanetti and J. D. Capra, eds., Harwood Academic Publishers, 1995);ならびにCancer: Principles and Practice of Oncology (V.T. DeVita et al., eds., J.B. Lippincott Company, 1993) に記載される広く利用されている方法論などの従来の方法論を使用して当業者によって一般的に用いられるものである。
以下の定義および詳細な説明は、本明細書において説明する本開示の理解を容易にするために提供される。
定義
アミノ酸
本明細書において、アミノ酸は、1文字コードもしくは3文字コードまたはその両方、例えば、Ala/A、Leu/L、Arg/R、Lys/K、Asn/N、Met/M、Asp/D、Phe/F、Cys/C、Pro/P、Gln/Q、Ser/S、Glu/E、Thr/T、Gly/G、Trp/W、His/H、Tyr/Y、Ile/I、またはVal/Vによって記載される。
アミノ酸の改変
抗原結合分子のアミノ酸配列中のアミノ酸改変(本明細書において「アミノ酸置換」または「アミノ酸変異」とも記載される)のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))および重複伸長PCRなどの公知の方法が適宜採用され得る。さらに、非天然アミノ酸に置換するためのアミノ酸改変方法として、いくつかの公知の方法もまた採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249;およびProc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合したtRNAを含む無細胞翻訳系 (Clover Direct (Protein Express)) を用いることが適切である。
本明細書において、アミノ酸改変の部位を記載する際の用語「および/または」の意味は、「および」と「または」が適切に組み合わされたあらゆる組合せを含む。具体的には、例えば、「33位、55位、および/または96位のアミノ酸が置換される」は、アミノ酸改変の以下のバリエーションを含む:(a) 33位、(b) 55位、(c) 96位、(d) 33位および55位、(e) 33位および96位、(f) 55位および96位、ならびに (g) 33位、55位、および96位のアミノ酸。
さらに、本明細書において、アミノ酸の改変を示す表現として、特定の位置を表す数字の前および後に、それぞれ改変前および改変後のアミノ酸の1文字コードまたは3文字コードを示す表現が、適宜使用され得る。例えば、抗体可変領域中に含まれるアミノ酸を置換する際に用いられるN100bLまたはAsn100bLeuという改変は、100b位(Kabatナンバリングによる)におけるAsnの、Leuによる置換を表す。すなわち、数字はKabatナンバリングによるアミノ酸の位置を示し、数字の前に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換前のアミノ酸を示し、数字の後に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換後のアミノ酸を示す。同様に、抗体定常領域中に含まれるFc領域のアミノ酸を置換する際に用いられるP238DまたはPro238Aspという改変は、238位(EUナンバリングによる)におけるProの、Aspによる置換を表す。すなわち、数字はEUナンバリングによるアミノ酸の位置を示し、数字の前に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換前のアミノ酸を示し、数字の後に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換後のアミノ酸を示す。
ポリペプチド
本明細書で用いられる用語「ポリペプチド」は、アミド結合(ペプチド結合としても知られる)によって直鎖状に連結された単量体(アミノ酸)で構成される分子を指す。用語「ポリペプチド」は、2アミノ酸以上の任意の鎖を指し、特定の長さの産物を指すものではない。よって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、または2アミノ酸以上の鎖を指すために用いられる任意の他の用語は、「ポリペプチド」の定義内に含まれ、用語「ポリペプチド」は、これらの用語のいずれかの代わりにまたは相互に交換可能に用いられてもよい。用語「ポリペプチド」はまた、限定されないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、公知の保護基/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質切断、または非天然アミノ酸による修飾を含む、ポリペプチドの発現後修飾の産物を指すことも意図する。ポリペプチドは、天然の生物学的供給源に由来してもよく、または組換え技術によって産生されてもよいが、必ずしも指定の核酸から翻訳される必要はない。それは、化学合成を含む、任意の方法で生成されてもよい。本明細書において記載されるポリペプチドは、約3アミノ酸以上、5アミノ酸以上、10アミノ酸以上、20アミノ酸以上、25アミノ酸以上、50アミノ酸以上、75アミノ酸以上、100アミノ酸以上、200アミノ酸以上、500アミノ酸以上、1,000アミノ酸以上、または2,000アミノ酸以上のサイズのものであってもよい。ポリペプチドは規定された三次元構造を有し得るが、それらは必ずしもそのような構造を有する必要はない。規定された三次元構造を有するポリペプチドは、折り畳まれたと称され、規定された三次元構造をもたないが多数の異なる立体構造をとり得るポリペプチドは、折り畳まれていないと称される。
パーセント (%) アミノ酸配列同一性
参照ポリペプチド配列に対する「パーセント (%) アミノ酸配列同一性」は、最大のパーセント配列同一性を得るように配列を整列させてかつ必要ならギャップを導入した後の、かつ、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとしたときの、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の、百分率比として定義される。%アミノ酸配列同一性を決める目的のアラインメントは、当該技術分野における技術の範囲内にある種々の方法、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign (DNASTAR) ソフトウェアなどの、公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントをとるための適切なパラメーターを決定することができる。しかしながら、本明細書における目的のために、%アミノ酸配列同一性値は、配列比較コンピュータプログラムであるALIGN-2を使用して生成される。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、ジェネンテック社の著作であり、そのソースコードは米国著作権庁 (U.S. Copyright Office, Wasington D.C., 20559) に使用者用書類と共に提出され、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、ジェネンテック社 (Genentech, Inc., South San Francisco, California) から公に入手可能であるし、ソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN-2プログラムは、Digital UNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティングシステム上での使用のためにコンパイルされる。すべての配列比較パラメーターは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Aの、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する、ある%アミノ酸配列同一性を有するまたは含む所与のアミノ酸配列A、ということもできる)は、次のように計算される:分率X/Yの100倍。ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、当該プログラムのAおよびBのアラインメントにおいて同一である一致としてスコアされたアミノ酸残基の数であり、YはB中のアミノ酸残基の全数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、AのBへの%アミノ酸配列同一性は、BのAへの%アミノ酸配列同一性と等しくないことが、理解されるであろう。別段特に明示しない限り、本明細書で用いられるすべての%アミノ酸配列同一性値は、直前の段落で述べたとおりALIGN-2コンピュータプログラムを用いて得られるものである。
組換えの方法および構成
例えば、米国特許第4,816,567号に記載されるとおり、抗体および抗原結合分子は組換えの方法や構成を用いて産生することができる。1つの態様において、本明細書に記載の抗体をコードする、単離された核酸が提供される。そのような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列および/またはVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖および/または重鎖)をコードしてもよい。さらなる態様において、このような核酸を含む1つまたは複数のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。さらなる態様において、このような核酸を含む宿主細胞が提供される。このような態様の1つでは、宿主細胞は、(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列および抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、または、(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1のベクターと抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2のベクターを含む(例えば、形質転換されている)。1つの態様において、宿主細胞は、真核性である(例えば、チャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞)またはリンパ系の細胞(例えば、Y0、NS0、Sp2/0細胞))。1つの態様において、抗体の発現に好適な条件下で、上述のとおり当該抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養すること、および任意で、当該抗体を宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から回収することを含む、本開示の多重特異性抗原結合分子を作製する方法が提供される。
本明細書において記載される抗体の組換え産生のために、(例えば、上述したものなどの)抗体をコードする核酸を単離し、さらなるクローニングおよび/または宿主細胞中での発現のために、1つまたは複数のベクターに挿入する。そのような核酸は、従来の手順を用いて容易に単離および配列決定されるだろう(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることで)。
抗体をコードするベクターのクローニングまたは発現に好適な宿主細胞は、本明細書に記載の原核細胞または真核細胞を含む。例えば、抗体は、特にグリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合は、細菌で産生してもよい。細菌での抗体断片およびポリペプチドの発現に関して、例えば、米国特許第5,648,237号、第5,789,199号、および第5,840,523号を参照のこと。(加えて、大腸菌 (E. coli) における抗体断片の発現について記載したCharlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp.245-254も参照のこと。)発現後、抗体は細菌細胞ペーストから可溶性フラクション中に単離されてもよく、またさらに精製することができる。
原核生物に加え、部分的なまたは完全なヒトのグリコシル化パターンを伴う抗体の産生をもたらす、グリコシル化経路が「ヒト化」されている菌類および酵母の株を含む、糸状菌または酵母などの真核性の微生物は、抗体コードベクターの好適なクローニングまたは発現宿主である。Gerngross, Nat. Biotech. 22:1409-1414 (2004)および Li et al., Nat. Biotech. 24:210-215 (2006) を参照のこと。
多細胞生物(無脊椎生物および脊椎生物)に由来するものもまた、グリコシル化された抗体の発現のために好適な宿主細胞である。無脊椎生物細胞の例は、植物および昆虫細胞を含む。昆虫細胞との接合、特にSpodoptera frugiperda細胞の形質転換に用いられる、数多くのバキュロウイルス株が同定されている。
植物細胞培養物も、宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5,959,177号、第6,040,498号、第6,420,548号、第7,125,978号、および第6,417,429号(トランスジェニック植物で抗体を産生するための、PLANTIBODIES(商標)技術を記載)を参照のこと。
脊椎動物細胞もまた宿主として使用できる。例えば、浮遊状態で増殖するように適応された哺乳動物細胞株は、有用であろう。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40で形質転換されたサル腎CV1株 (COS-7);ヒト胎児性腎株(Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977) などに記載の293または293細胞);仔ハムスター腎細胞 (BHK);マウスセルトリ細胞(Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980) などに記載のTM4細胞);サル腎細胞 (CV1);アフリカミドリザル腎細胞 (VERO-76);ヒト子宮頸部癌細胞 (HELA);イヌ腎細胞 (MDCK);Buffalo系ラット肝細胞 (BRL 3A);ヒト肺細胞 (W138);ヒト肝細胞 (Hep G2);マウス乳癌 (MMT 060562);TRI細胞(例えば、Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982) に記載);MRC5細胞;および、FS4細胞などである。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、DHFR- CHO細胞 (Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980)) を含むチャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞;およびY0、NS0、およびSp2/0などの骨髄腫細胞株を含む。抗体産生に好適な特定の哺乳動物宿主細胞株の総説として、例えば、Yazaki and Wu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), pp. 255-268 (2003) を参照のこと。
本明細書において記載される抗原結合分子の組換え産生は、抗原結合分子全体または抗原結合分子の一部を含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む1つまたは複数のベクターを含む(例えば、それによって形質転換されている)宿主細胞を用いることによって、上記に記載されたものと同様の方法で行うことができる。
抗原結合分子および多重特異性抗原結合分子
本明細書で用いられる用語「抗原結合分子」は、抗原結合部位を含む任意の分子、または抗原に対する結合活性を有する任意の分子を指し、約5アミノ酸以上の長さを有するペプチドまたはタンパク質などの分子をさらに指し得る。ペプチドおよびタンパク質は、生物に由来するものに限定されず、例えば、それらは、人工的に設計された配列から産生されたポリペプチドであってもよい。それらは、いかなる天然ポリペプチド、合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等であってもよい。スキャフォールドとしてα/βバレルなどの公知の安定な立体構造を含み、分子の一部が抗原結合部位になる、スキャフォールド分子もまた、本明細書において記載される抗原結合分子の一態様である。
「多重特異性抗原結合分子」は、2つ以上の抗原に特異的に結合する抗原結合分子を指す。用語「二重特異性」は、抗原結合分子が、少なくとも2種類の異なる抗原決定基に特異的に結合することができることを意味する。用語「三重特異性」は、抗原結合分子が少なくとも3種類の異なる抗原決定基に特異的に結合することができることを意味する。
ある特定の態様において、本願の多重特異性抗原結合分子は、二重特異性抗原結合分子、すなわち、第1の標的細胞上のNotch受容体に特異的に結合し、かつ第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する、二重特異性抗原結合分子である。
ある特定の態様において、Notch受容体を発現する第1の標的細胞と、アンカー抗原を発現する第2の標的細胞は、異なる細胞である。
ある特定の態様において、本願の多重特異性抗原結合分子は、三重特異性抗原結合分子、すなわち、第1の標的細胞上のNotch受容体に特異的に結合し、第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合し、かつ第3の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する、三重特異性抗原結合分子である。
ある特定の態様において、Notch受容体を発現する第1の標的細胞と、アンカー抗原を発現する第2の標的細胞は、異なる細胞であり、かつアンカー抗原を発現する第2の標的細胞と、アンカー抗原を発現する第3の標的細胞は、異なる細胞または同じ細胞である。ある特定の態様において、Notch受容体を発現する第1の標的細胞と、アンカー抗原を発現する第3の標的細胞は、異なる細胞である。
本開示の多重特異性抗原結合分子の構成成分は、様々な構成で相互に融合させることができる。例示的な構成を図1に図示する。
いくつかの局面において、本発明の多重特異性抗原結合分子は、少なくとも1つの第1の抗原結合部分(例えば、Notchアゴニストドメイン)、例えば、1つまたは2つの第1の抗原結合部分を含む。いくつかの局面において、本発明の多重特異性抗原結合分子は、少なくとも1つの第2の抗原結合部分(例えば、部位特異的結合ドメイン)、例えば、1つまたは2つの第2の抗原結合部分を含む。
1つの局面において、本開示は、
(i)第1の標的細胞上のNotch受容体に特異的に結合する第1の抗原結合部分、および
(ii)第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗原結合分子であって、第1の標的細胞と第2の標的細胞が異なる細胞であり、かつ該多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する、多重特異性抗原結合分子を提供する。
1つの局面において、「多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する」という特徴は、代替的に以下のように言及される:「多重特異性抗原結合分子が第2の標的細胞上のアンカー抗原に結合している場合に(またはその場合にのみ)、該多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化する」。好ましくは、第2の標的細胞上のアンカー抗原は、第1の標的細胞において発現していない(または有意に/実質的に/特異的には発現していない)。
1つの局面において、本開示は、
(i)第1の標的細胞上のNotch受容体に特異的に結合する第1の抗原結合部分、および
(ii)第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗原結合分子であって、第1の標的細胞と第2の標的細胞が異なる細胞である、多重特異性抗原結合分子を提供する。
ある特定の局面において、本開示は、Fc領域をさらに含む多重特異性抗原結合分子を提供する。
ある特定の態様において、Fc領域は、天然型ヒトIgG1 Fcドメインと比較して、ヒトFcγ受容体に対する低下した結合アフィニティを示すFc領域であり得る。ある特定の態様において、Fc領域は、多重特異性抗原結合分子と同じアイソタイプの野生型IgG抗体のFc領域がFcγ受容体に結合する能力と比較して低下している、Fcγ受容体に結合する能力を示す、改変されたFc領域であり得る。
1つの局面において、本開示は、
(i)第1の標的細胞上のNotch受容体に特異的に結合する第1の抗原結合部分、および
(ii)第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗原結合分子であって、第1の標的細胞と第2の標的細胞が異なる細胞であり、かつ該多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する、多重特異性抗原結合分子を提供する。
1つの局面において、「多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する」という特徴は、代替的に以下のように言及される:「多重特異性抗原結合分子が第2の標的細胞上のアンカー抗原に結合している場合に(またはその場合にのみ)、該多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化する」。好ましくは、第2の標的細胞上のアンカー抗原は、第1の標的細胞において発現していない(または有意に/実質的に/特異的には発現していない)。
1つの態様において、第2の抗原結合部分は、第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する改変されたFc領域を含む。1つの態様において、第2の抗原結合部分は、アンカー抗原としてのFcgRIIBに特異的に結合する改変されたFc領域を含む。ある特定の態様において、多重特異性抗原結合分子は、第1の抗原結合部分をもう一つさらに含む。
1つの局面において、本開示は、
(i)第1の標的細胞上のNotch受容体に特異的に結合する第1の抗原結合部分、および
(ii)第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗原結合分子であって、第1の標的細胞と第2の標的細胞が異なる細胞であり、かつ該多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する、多重特異性抗原結合分子を提供する。
1つの局面において、「多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する」という特徴は、代替的に以下のように言及される:「多重特異性抗原結合分子が第2の標的細胞上のアンカー抗原に結合している場合に(またはその場合にのみ)、該多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化する」。好ましくは、第2の標的細胞上のアンカー抗原は、第1の標的細胞において発現していない(または有意に/実質的に/特異的には発現していない)。
1つの態様において、第2の抗原結合部分は、第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する改変されたFc領域を含む。1つの態様において、第2の抗原結合部分は、アンカー抗原としてのFcgRIIBに特異的に結合する改変されたFc領域に含む。1つの態様において、多重特異性抗原結合分子は、第3の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第3の抗原結合部分をさらに含む。
ある特定の態様において、第2の標的細胞と第3の標的細胞は、異なる細胞であっても、または同じ細胞であってもよい。ある特定の態様において、Notch受容体を発現する第1の標的細胞と、アンカー抗原を発現する第3の標的細胞は、異なる細胞である。
上記態様のいずれかによれば、多重特異性抗原結合分子の構成成分(例えば、 抗原結合部分、Fc領域(「Fcドメイン」))は、直接的に、または種々のリンカー、特に、本明細書において記載されているかまたは当技術分野において公知である1つもしくは複数のアミノ酸、典型的には約2~20個のアミノ酸を含むペプチドリンカーを通じて、融合させてもよい。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば、(G4S)n、(SG4)n、(G4S)n、またはG4(SG4)nペプチドリンカーが含まれ、ここで、nは概して1~10、典型的には2~4の数である。
1つの局面において、本開示は、
(i)Notch受容体に特異的に結合する第1の抗原結合部分、および
(ii)アンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗原結合分子であって、第1の抗原結合部分および第2の抗原結合部分がそれぞれ抗体可変領域を含み、第1の抗原結合部分の第1の抗体可変領域が第1の重鎖定常領域に融合されており、第1の抗原結合部分の第2の抗体可変領域が第1の軽鎖定常領域に融合されており、第2の抗原結合部分の第3の抗体可変領域が第2の重鎖定常領域に融合されており、第2の抗原結合部分の第4の抗体可変領域が第2の軽鎖定常領域に融合されている、多重特異性抗原結合分子を提供する。
ピログルタミル化
抗体が細胞において発現した場合、抗体は翻訳後に修飾されることが知られている。翻訳後修飾の例としては、重鎖のC末端にあるリジンの、カルボキシペプチダーゼによる切断;重鎖および軽鎖のN末端にあるグルタミンまたはグルタミン酸の、ピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾;グリコシル化;酸化;脱アミド;および糖化が挙げられ、そのような翻訳後修飾は種々の抗体で生じることが公知である(Journal of Pharmaceutical Sciences, 2008, Vol. 97, p. 2426-2447)。
本開示の多重特異性抗原結合分子には、翻訳後修飾を受けている多重特異性抗体も含まれる。翻訳後修飾を受ける本開示のその多重特異性抗原結合分子の例としては、重鎖可変領域のN末端でのピログルタミル化および/または重鎖のC末端でのリジンの欠失を受けている多重特異性抗体が挙げられる。当分野において、N末端でのピログルタミル化およびC末端でのリジンの欠失によるそのような翻訳後修飾が、抗体の活性に何ら影響を有さないことは公知である(Analytical Biochemistry, 2006, Vol. 348, p. 24-39)。
Notch受容体に特異的に結合する抗原結合部分
本明細書において用いられる場合、用語「抗原結合部分」は、抗原に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。1つの態様において、抗原結合部分は、それが付着している実体を、標的部位、例えば、Notch受容体を発現する特定の種類の細胞へと方向付けることができる。
別の態様において、Notch受容体に特異的に結合する抗原結合部分は、Notch受容体を介するシグナル伝達を、例えば、Notchシグナル伝達経路を、アンカー抗原依存的様式で活性化することができる。抗原結合部分には、本明細書においてさらに定義される抗体、その断片、リガンドが含まれ得る。ある特定の態様において、抗原結合部分には、抗体重鎖可変領域および抗体軽鎖可変領域を含む、抗体の抗原結合ドメインまたは抗体可変領域が含まれ得る。ある特定の態様において、抗原結合部分は、本明細書においてさらに定義されかつ当技術分野において公知である抗体定常領域を含んでもよい。有用な重鎖定常領域には、5つのアイソタイプ:α、δ、ε、γ、またはμのいずれかが含まれる。有用な軽鎖定常領域には、2つのアイソタイプ:κおよびλのいずれかが含まれる。
1つの局面において、本開示は、
(i)第1の標的細胞上のNotch受容体に特異的に結合する第1の抗原結合部分、および
(ii)第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗原結合分子であって、第1の標的細胞と第2の標的細胞が異なる細胞であり、かつ該多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する、多重特異性抗原結合分子を提供する。
1つの局面において、「多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する」という特徴は、代替的に以下のように言及される:「多重特異性抗原結合分子が第2の標的細胞上のアンカー抗原に結合している場合に(またはその場合にのみ)、該多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化する」。好ましくは、第2の標的細胞上のアンカー抗原は、第1の標的細胞において発現していない(または有意に/実質的に/特異的には発現していない)。
抗原結合部分等に関して、本明細書で用いられる用語「第1の」、「第2の」、および「第3の」は、2種類以上の種類別の部分等が存在する場合に区別するという利便性のために用いられる。これらの用語の使用は、別段明示しない限り、多重特異性抗原結合分子の特定の順序または向きを付与することを意図しない。
1つの局面において、本開示のNotch受容体に特異的に結合する第1の抗原結合部分には、足場依存的様式(すなわち、部位特異的結合ドメインの、そのアンカー抗原への同時結合)で結合することができかつ第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達を活性化することができる任意のポリペプチドが含まれる。
ある特定の態様において、Notch受容体抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」)は概して、Fab分子、特に従来のFab分子である。ある特定の態様において、Notch受容体抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」)は、「単鎖Fv(scFv)」、「単鎖抗体」、「Fv」、「単鎖Fv2(scFv2)」、「Fab」、「F(ab')2」、VHH、VL、VH、シングルドメイン抗体、または任意の抗体断片である。
ある特定の態様において、Notch受容体抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」)は、Notch受容体リガンドのNotch結合ドメインを含む。ある特定の態様において、Notch受容体リガンドは、Notch1、Notch2、Notch3、またはNotch4受容体に対するリガンドである。本明細書の以下において、GenbankまたはRefSeq登録番号を括弧内に示す。ある特定の態様において、ヒトNotch受容体のRefSeq登録番号は以下の通りである:Notch1(NP_060087.3またはP46531)、Notch2(NP_077719.2(アイソフォーム1)またはNP_001186930.1(アイソフォーム2))、Notch3(NP_000426.2)、またはNotch4(NP_004548.3またはQ99466)。ある特定の態様において、Notch受容体リガンドは、Deltaタンパク質またはJaggedタンパク質である。ある特定の態様において、本明細書において開示されるリガンドのいずれかの細胞外ドメイン(ECD)をNotch結合ドメインとして用いることができる。ある特定の態様において、Deltaタンパク質は、Delta様リガンド1(DLL1)(GenBankアクセッション番号ABC26875またはNP005609;RefSeq NP_005609.3)、DLL3(GenBankアクセッション番号/RefSeq NP_982353.1またはNP_058637.1)、もしくはDLL4(GenBankアクセッション番号NP_982353.1;RefSeq NP_061947.1)、そのホモログ、または機能的(Notch結合)バリアント、断片、もしくは誘導体である。ある特定の態様において、Deltaタンパク質は、Delta様リガンド1(DLL1)またはDLL4である。ある特定の態様において、Jaggedタンパク質は、Jagged 1(GenBankアクセッション番号AAC51731;RefSeq NP_000205.1)もしくはJagged 2(GenBankアクセッション番号AAD15562;RefSeq NP_002217.3(アイソフォームA)またはNP_660142.1(アイソフォームB))、そのホモログ、または機能的(Notch結合)バリアント、断片、もしくは誘導体である。ある特定の態様において、配列番号:3または4の部分配列として示されるヒトJagged 1 ECDは、Notch結合ドメインとして用いることができる。
ある特定の態様において、Notch受容体抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」)は、Notch受容体の部分ペプチドの全体または一部に特異的に結合する。特定の態様において、Notch受容体は、ヒトNotch受容体またはカニクイザルNotch受容体またはマウスNotch受容体、特にヒトNotch受容体である。特定の態様において、Notch受容体抗原結合部分(「第1の抗原結合部分」)は、ヒトおよびカニクイザルNotch受容体に対して交差反応性である(すなわち、それらに特異的に結合する)。
本開示の多重特異性抗原結合分子には、翻訳後修飾を受けている多重特異性抗体も含まれる。翻訳後修飾を受ける本開示のその多重特異性抗原結合分子の例としては、重鎖可変領域のN末端でのピログルタミル化および/または重鎖のC末端でのリジンの欠失を受けている多重特異性抗原結合分子が挙げられる。当分野において、N末端でのピログルタミル化およびC末端でのリジンの欠失によるそのような翻訳後修飾が、抗体の活性に何ら影響を有さないことは公知である(Analytical Biochemistry, 2006, Vol. 348, p. 24-39)。
アンカー抗原に特異的に結合する抗原結合部分
1つの局面において、本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子は、アンカー抗原に結合することができる少なくとも1つの抗原結合部分(本明細書において「アンカー抗原結合部分」または「第2の抗原結合部分」とも呼ばれる)を含む。ある特定の態様において、多重特異性抗原結合分子は、電位開口型カルシウムチャネルサブユニットα1 S(CACNA1S)、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、グリピカン-3(GPC3)、またはFcγRIIB(CD32B)に結合することができる抗原結合部分を1つ含む。
1つの局面において、本開示のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分には、本開示の多重特異性抗原結合分子が第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化することができる限りは、アンカー抗原に結合することができるいかなるポリペプチドも含まれる。
ある特定の態様において、アンカー抗原結合部分(「第2の抗原結合部分」)は概して、Fab分子、特に従来のFab分子である。ある特定の態様において、アンカー抗原結合部分(「第2の抗原結合部分」)は、抗体軽鎖および重鎖可変領域(VLおよびVH)を含むドメインである。ある特定の態様において、アンカー抗原結合部分(「第2の抗原結合部分」)は、「単鎖Fv(scFv)」、「単鎖抗体」、「Fv」、「単鎖Fv2(scFv2)」、「Fab」、「F(ab')2」、VHH、VL、VH、シングルドメイン抗体、または任意の抗体断片である。
ある特定の態様において、アンカー抗原結合部分(「第2の抗原結合部分」)は、アンカー抗原の部分ペプチドの全体または一部に特異的に結合する。特定の態様において、アンカー抗原は、ヒトアンカー抗原またはカニクイザルアンカー抗原またはマウスアンカー抗原、特にヒトアンカー抗原である。特定の態様において、アンカー抗原結合部分(「第2の抗原結合部分」)は、ヒトおよびカニクイザルアンカー抗原に対して交差反応性である(すなわち、それらに特異的に結合する)。
1つの局面において、本開示は、
(i)第1の標的細胞上のNotch受容体に特異的に結合する第1の抗原結合部分、および
(ii)第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗原結合分子であって、第1の標的細胞と第2の標的細胞が異なる細胞であり、かつ該多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する、多重特異性抗原結合分子を提供する。
1つの局面において、「多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する」という特徴は、代替的に以下のように言及される:「多重特異性抗原結合分子が第2の標的細胞上のアンカー抗原に結合している場合に(またはその場合にのみ)、該多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化する」。好ましくは、第2の標的細胞上のアンカー抗原は、第1の標的細胞において発現していない(または有意に/実質的に/特異的には発現していない)。
特定の態様において、本開示の第2の抗原結合部分はGPC3に特異的に結合し、かつGPC3抗原結合部分(「第2の抗原結合部分」)は、H鎖CDR 1、CDR 2、およびCDR 3、ならびにL鎖CDR 1、CDR 2、およびCDR 3の、以下の(b1)の組み合わせ:
(b1)配列番号:7に含まれる、相補性決定領域(CDR) 1、CDR 2、およびCDR 3を含む重鎖可変領域、ならびに配列番号:8に含まれる、CDR 1、CDR 2、およびCDR 3を含む軽鎖可変領域
を含む。
特定の態様において、GPC3抗原結合部分(「第2の抗原結合部分」)は、ヒト抗体フレームワークまたはヒト化抗体フレームワークを含む抗体可変領域を含む。
特定の態様において、GPC3抗原結合部分(「第2の抗原結合部分」)は、以下の(d1):
(d1)配列番号:7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む。
1つの態様において、GPC3抗原結合部分(「第2の抗原結合部分」)は、配列番号:7に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である重鎖可変領域配列、および配列番号:8に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である軽鎖可変領域配列を含む。
特定の態様において、本発明の抗原結合分子は、
配列番号:5の配列(可変重鎖ドメイン(VH)および定常重鎖ドメイン1(CH1)(部位特異的結合ドメイン)、ならびにFc領域を含む「鎖1」);
配列番号:6の配列(可変軽鎖ドメイン(VL)(部位特異的結合ドメイン)および定常軽鎖ドメイン(CL)を含む「鎖2」);および
配列番号:3の配列(Jag1 ECDおよびFc領域を含む「鎖3」)
を含む。
特定の態様において、本発明の抗原結合分子は、
配列番号:5の配列(可変重鎖ドメイン(VH)および定常重鎖ドメイン1(CH1)(部位特異的結合ドメイン)、ならびにFc領域を含む「鎖1」);
配列番号:6の配列(可変軽鎖ドメイン(VL)(部位特異的結合ドメイン)および定常軽鎖ドメイン(CL)を含む「鎖2」);および
配列番号:25の配列(Jag2 ECDおよびFc領域を含む「鎖3」)
を含む。
特定の態様において、本発明の抗原結合分子は、
配列番号:5の配列(可変重鎖ドメイン(VH)および定常重鎖ドメイン1(CH1)(部位特異的結合ドメイン)、ならびにFc領域を含む「鎖1」);
配列番号:6の配列(可変軽鎖ドメイン(VL)(部位特異的結合ドメイン)および定常軽鎖ドメイン(CL)を含む「鎖2」);および
配列番号:26の配列(DLL1 ECDおよびFc領域を含む「鎖3」)
を含む。
特定の態様において、本発明の抗原結合分子は、
配列番号:5の配列(可変重鎖ドメイン(VH)および定常重鎖ドメイン1(CH1)(部位特異的結合ドメイン)、ならびにFc領域を含む「鎖1」);
配列番号:6の配列(可変軽鎖ドメイン(VL)(部位特異的結合ドメイン)および定常軽鎖ドメイン(CL)を含む「鎖2」);および
配列番号:27の配列(DLL3 ECDおよびFc領域を含む「鎖3」)
を含む。
特定の態様において、本発明の抗原結合分子は、
配列番号:5の配列(可変重鎖ドメイン(VH)および定常重鎖ドメイン1(CH1)(部位特異的結合ドメイン)、ならびにFc領域を含む「鎖1」);
配列番号:6の配列(可変軽鎖ドメイン(VL)(部位特異的結合ドメイン)および定常軽鎖ドメイン(CL)を含む「鎖2」);および
配列番号:28の配列(DLL4 ECDおよびFc領域を含む「鎖3」)
を含む。
特定の態様において、本開示の第2の抗原結合部分はFAPに特異的に結合し、かつFAP抗原結合部分(「第2の抗原結合部分」)は、H鎖CDR 1、CDR 2、およびCDR 3ならびにL鎖CDR 1、CDR 2、およびCDR 3の、以下の(b1)の組み合わせ:
(b1)配列番号:31に含まれる、相補性決定領域(CDR) 1、CDR 2、およびCDR 3を含む重鎖可変領域、ならびに配列番号:32に含まれる、CDR 1、CDR 2、およびCDR 3を含む軽鎖可変領域
を含む。
特定の態様において、FAP抗原結合部分(「第2の抗原結合部分」)は、ヒト抗体フレームワークまたはヒト化抗体フレームワークを含む抗体可変領域を含む。
特定の態様において、FAP抗原結合部分(「第2の抗原結合部分」)は、以下の(d1):
(d1)配列番号:31のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号:32のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む。
1つの態様において、FAP抗原結合部分(「第2の抗原結合部分」)は、配列番号:31に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である重鎖可変領域配列、および配列番号:32に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である軽鎖可変領域配列を含む。
特定の態様において、本発明の抗原結合分子は、
配列番号:22の配列(可変重鎖ドメイン(VH)および定常重鎖ドメイン1(CH1)(部位特異的結合ドメイン)、ならびにFc領域を含む「鎖1」);
配列番号:23の配列(可変軽鎖ドメイン(VL)(部位特異的結合ドメイン)および定常軽鎖ドメイン(CL)を含む「鎖2」);および
配列番号:3の配列(Jag1 ECDおよびFc領域を含む「鎖3」)
を含む。
特定の態様において、本開示の第2の抗原結合部分は、FcγRIIBに特異的に結合し、かつ以下の(d1):
(d1)配列番号:30に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるアミノ酸配列;または
(d2)配列番号:30のアミノ酸配列
を含む。
本開示の多重特異性抗原結合分子には、翻訳後修飾を受けている多重特異性抗体も含まれる。翻訳後修飾を受ける本開示のその多重特異性抗原結合分子の例としては、重鎖可変領域のN末端でのピログルタミル化および/または重鎖のC末端でのリジンの欠失を受けている多重特異性抗体が挙げられる。当分野において、N末端でのピログルタミル化およびC末端でのリジンの欠失によるそのような翻訳後修飾が、抗体の活性に何ら影響を有さないことは公知である(Analytical Biochemistry, 2006, Vol. 348, p. 24-39)。
抗原
本明細書で用いられる用語「抗原」は、抗原結合部分が結合するポリペプチド巨大分子の全体または該分子上の部位(例えば、連続した一続きのアミノ酸、または非連続アミノ酸の別々の領域から構成される立体構造)を指し、抗原結合部分-抗原複合体を形成する。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面上に、ウイルス感染細胞の表面上に、他の疾患細胞の表面上に、免疫細胞の表面上に、血清中に遊離した状態で、および/または細胞外基質(ECM)中に見出すことができる。別段示さない限り、本明細書において抗原と称されるタンパク質(例えば、Notch1、Notch2、Notch3、およびNotch4などのNotch受容体、電位開口型カルシウムチャネルサブユニットα1 S(CACNA1S)、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、グリピカン-3(GPC3)、ならびにFcγRIIB(CD32B)など)は、霊長類(例えば、ヒト)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物供給源由来のタンパク質の任意の天然形態であり得る。特定の態様において、抗原はヒトNotch受容体、ヒトCACNA1S、ヒトFAP、ヒトGPC3、またはヒトCD32Bである。本明細書において特定のタンパク質への言及がなされる場合、該用語は、「全長」の、プロセシングを受けていないタンパク質、ならびに細胞中でのプロセシングによって生じるタンパク質の任意の形態を包含する。該用語はまた、タンパク質の天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアントまたは対立遺伝子バリアントも包含する。
Notch受容体
用語「Notch受容体」は、本明細書において用いられる場合、別段示さない限り、霊長類(例えば、ヒト)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物供給源に由来する当業者に公知である任意の天然型Notch受容体およびそのホモログを指す。ヒトNotch受容体1(Notch1とも呼ばれる)のアミノ酸配列はGenbankアクセッション番号P46531に示され、ヒトNotch受容体2(Notch2とも呼ばれる)のアミノ酸配列はGenbankアクセッション番号AAH71562.2に示され、ヒトNotch受容体3(Notch3とも呼ばれる)のアミノ酸配列はGenbankアクセッション番号AAB91371.1に示され、ヒトNotch受容体4(Notch4とも呼ばれる)のアミノ酸配列はGenbankアクセッション番号AAC63097.1に示される。
用語「Notchシグナル伝達経路」は、本明細書において用いられる場合、Notchタンパク質とJaggedまたはDeltaタンパク質などの関連タンパク質との間の相互作用を原因とする、細胞膜において発現した成熟Notch受容体のタンパク質分解切断から生じる細胞シグナル伝達カスケードを指す。
1つの態様において、第2の標的細胞上のアンカー抗原は、多重特異性抗原結合分子が第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化することができる限り、いかなる関連抗原であってもよい。
1つの態様において、第2の標的細胞上のアンカー抗原は好ましくは、第1の標的細胞上に発現していない。いくつかの態様において、第2の標的細胞上のアンカー抗原は好ましくは、第1の標的細胞上に有意に/実質的に/特異的には発現していない。
「有意に/実質的に/特異的には発現していない」という語句は、本明細書において用いられる場合、有意ではない、実質的ではない、特異的ではない、またはバックグラウンドの発現を含むが、有意な、実質的な、または特異的な発現を含まない、発現のレベルでの、アンカー抗原などのタンパク質の発現を指す。発現が有意である、実質的である、特異的である、またはバックグラウンドであるか否かは、当業者が適切に測定することができる。有意ではない、実質的ではない、特異的ではない、またはバックグラウンドの発現のレベルは、ゼロであってもよく、またはゼロではないがゼロ近くであってもよく、または当業者が技術的に無視するのに十分なほど非常に低くてもよい。当業者にとって、「発現していない」という語句は、「有意に/実質的に/特異的には発現していない」という語句と同じ意味を有し得る。
いくつかの態様において、本開示の多重特異性抗原結合分子についてのアゴニスト活性を示すことができる、第1の標的細胞上の第1の抗原対アンカー抗原の適切な比率は、本明細書において提供される開示および当技術分野で利用可能な知識を踏まえ、決定することができる。したがって、本明細書において明示されていないが、第1の標的細胞上の第1の抗原とアンカー抗原とのいかなる比率も、そのような比率が、第1の抗原およびアンカー抗原のいずれか一方に特異的な抗原結合部分を用いた場合と比較して、標的シグナル伝達経路の調節において多重特異性抗原結合分子の活性の改善(例えば、少なくとも 2.5倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、150倍、200倍、250倍、300倍、400倍、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、1,000倍、またはそれ以上)をもたらすことができる限り、依然として本開示の範囲内とみなすべきである。
第1の標的細胞上の第1の抗原対アンカー抗原の比率のいくつかの例は、約1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1、11:1、12:1、13:1、14:1、15:1、16:1、17:1、18:1、19:1、20:1、50:1、100:1、200:1、500:1、もしくは1000:1、またはそれ以上に及ぶ。
ある特定の態様において、本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子は、異なる種に由来するNotch受容体タンパク質間、CACNA1Sタンパク質間、FAPタンパク質間、GPC3タンパク質間、またはCD32Bタンパク質間で保存されているNotch受容体、CACNA1S、FAP、GPC3、またはCD32Bのエピトープに結合する。
CACNA1S(Cav1.1、カルシウムチャネル、電位依存性、L型、α1Sサブユニット)
CACNA1Sは、カルシウムチャネル、電位依存性、L型、α1Sサブユニット、(Cav1.1)としても公知であり、ヒトではCACNA1S遺伝子によってコードされるタンパク質である。それは、CACNL1A3およびジヒドロピリジン受容体(DHPR、これに対してDHPが有する遮断作用のためにそのように名付けられている)としても公知である。この遺伝子は、骨格筋細胞における不活性化の遅いL型電位依存性カルシウムチャネルの5つのサブユニットのうちの1つをコードする。この遺伝子における変異は、低カリウム血性周期性四肢麻痺、甲状腺中毒性周期性四肢麻痺、および悪性高熱症の感受性に関連している。Cav1.1は、筋肉の横行小管に認められる電位依存性カルシウムチャネルである。骨格筋では、それは、力学的な連結を介して筋小胞体のリアノジン受容体RyR1と会合する。それは、神経刺激による終板電位によって引き起こされ、かつT管に対する活動電位としてナトリウムチャネルによって伝搬される、電位の変化を感知する。
FAP(線維芽細胞活性化タンパク質、α)
線維芽細胞活性化タンパク質α(FAP-α)は、プロリルエンドペプチダーゼFAPとしても公知であり、ヒトではFAP遺伝子によってコードされる酵素である。プロリルエンドペプチダーゼFAPは170 kDaの膜結合型ゼラチナーゼである。FAPは760アミノ酸長のII型膜貫通糖タンパク質である。それは、非常に短い細胞質N末端部分(アミノ酸6個)、膜貫通領域(アミノ酸7~26個)、ならびにα/βヒドロラーゼドメインと8枚羽根のβプロペラドメインとを有する大きな細胞外部分を含む。細胞内部分および膜貫通部分を欠く、FAPの可溶型は、血漿中に存在する。FAPは非古典的セリンプロテアーゼであり、S9Bプロリルオリゴペプチダーゼサブファミリーに属する。
GPC3
GPC3遺伝子はそのヌクレオチド配列がRefSeqアクセッション番号NM_001164617.1に開示されており、GPC3タンパク質はRefSeqアクセッション番号NP_001158089.1に示されている。
所望の結合活性を有する抗体を産生するための方法は当業者に公知である。以下は、GPIアンカー受容体ファミリーに属する、グリピカン-3(以下、GPC3とも呼ばれる)に結合する抗体(抗GPC3抗体)を産生するための方法を記載する例である(Int J Cancer. (2003) 103(4), 455-65)。特に、モノクローナル抗体が以下に記述するように調製される。抗GPC3抗体は、公知の方法を用いて、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体として得ることができる。好ましく産生される抗GPC3抗体は、哺乳動物に由来するモノクローナル抗体である。そのような哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を保有する発現ベクターで形質転換されたハイブリドーマまたは宿主細胞によって産生される抗体が含まれる。
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、例えば以下に記載されるような、公知の技術を用いて産生することができる。具体的には、GPC3タンパク質を感作抗原として用いて、従来の免疫方法によって哺乳動物を免疫化する。その結果生じた免疫細胞を、従来の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させる。次いで、従来のスクリーニング方法を用いてモノクローナル抗体産生細胞についてスクリーニングすることによって、抗GPC3抗体を産生するハイブリドーマを選択することができる。
第3の標的細胞上のアンカー抗原
本発明の多重特異性抗原結合分子は、第3の標的細胞上のアンカー抗原に結合する第3の抗原結合部分をさらに含んでもよい。本明細書において記述するように、Notchシグナル伝達経路活性化の組織/部位特異性は、目的の組織または細胞集団における特異的、独占的、または限定的発現を有するアンカー抗原への、特定の結合ドメインの選択的結合によって達成される。第3の抗原結合部分の目的は、足場依存的様式でNotchシグナル伝達経路活性化の特異性をさらに増加させることである。第3の標的細胞および第3の標的細胞上のアンカー抗原は、上記目的を達成するように、当業者によって適切に選択され得る。いくつかの態様において、第2の標的細胞と第3の標的細胞は異なる細胞であり、かつ第2の標的細胞上のアンカー抗原は第3の標的細胞上のアンカー抗原と異なる。いくつかの態様において、第2の標的細胞と第3の標的細胞は同じ細胞であり、かつ第2の標的細胞上のアンカー抗原は第3の標的細胞上のアンカー抗原と異なる。いくつかの態様において、Notch受容体を発現する第1の標的細胞とアンカー抗原を発現する第3の標的細胞は異なる細胞である。
トランス活性化
「トランス活性化」、「トランス活性化する」、および「トランス活性化すること」(および他の文法上の変化形)等の用語は、多重特異性抗原結合分子が第2の標的細胞上に発現しているアンカー抗原に結合している場合に(またはその場合にのみ)、該多重特異性抗原結合分子が第1の標的細胞上でNotchシグナル活性化を引き起こすことができる、本発明の多重特異性抗原結合分子の特徴を指す。Notchシグナル伝達は、2種類の細胞、すなわち、第1および第2の標的細胞が多重特異性抗原結合分子と空間的に「連結」または「接続」されている場合に達成される(すなわち、「トランス」という語はこの空間的「連結」または「接続」を含意する)という概念である。好ましくは、第2の標的細胞上に発現しているアンカー抗原は、第1の標的細胞上に発現していない(または有意に/実質的に/特異的には発現していない)。いくつかの態様において、多重特異性抗原結合分子は、該多重特異性抗原結合分子が第2の標的細胞上のアンカー抗原、好ましくは第1の標的細胞上に発現していない(または有意に/実質的に/特異的には発現していない)アンカー抗原、に結合している場合に(またはその場合にのみ)第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する。上記記載は、第2の標的細胞上のアンカー抗原に依拠するNotchシグナル伝達活性化(すなわち、Notchシグナル伝達経路の「足場依存性」トランス活性化)に焦点を当てているが、同じことは、足場のための標的細胞上の他のアンカー抗原、例えば第3の標的細胞上のアンカー抗原にも適用することができる。
いくつかの局面において、本開示の多重特異性抗原結合分子は、アゴニストとして機能し、かつ目的のシグナル伝達経路(または標的シグナル伝達経路)を活性化する。ある特定の態様において、標的シグナル伝達経路のアゴニストとして機能する多重特異性抗原結合分子は、第1および第2の抗原のいずれか一方に特異的な抗原結合部分の使用と比較して、少なくとも 2.5倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、150倍、200倍、250倍、300倍、400倍、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、1,000倍、もしくはそれ以上の倍率、またはそれらの間の任意の値の倍率だけ、標的シグナル伝達経路の活性を上方制御する(例えば、刺激する、増強する、促進する、または増加させる)。標的シグナル伝達の活性は、いくつかの態様において、シグナル伝達経路の活性化に応答性であるレポーターアッセイを介して測定することができる。
いくつかの態様において、本開示の多重特異性抗原結合分子活性についてのアゴニスト活性を示すことができる、第2の標的細胞(または第3の標的細胞)の表面上の第2の抗原(または第3の抗原)発現の適切な閾値レベルは、本明細書に提供される開示および当技術分野において利用可能な知識を踏まえ、決定することができる。したがって、本明細書において明示されていないが、第2の標的細胞(または第3の標的細胞)上の第2の抗原(または第3の抗原)の発現のいかなるレベルも、そのような閾値が第1の抗原および第2の抗原(または第3の抗原)のいずれか一方に特異的な抗原結合部分のものと比較して、標的シグナル伝達経路の調節における多重特異性抗原結合分子の活性の改善(例えば、少なくとも2.5倍以上)をもたらすことができる限り、依然として本開示の範囲内とみなされるべきである。第2の標的細胞(または第3の標的細胞)の表面上の第2の抗原(または第3の抗原)の閾値発現レベルのいくつかの例は、1個の細胞当たり、約100、500、1,000、1,500、2,000、2,500、3,000、3,500、4,000、4,500、5,000、5,500、6,000、6,500、7,000、7,500、8,000、8,500、9,000、9,500、10,000、11,000、12,000、13,000、14,000、15,000、16,000、17,000、18,000、19,000、20,000、25,000、30,000、40,000、50,000、100,000、200,000、500,000、もしくはそれ以上のコピー数、またはそれらの間の任意のコピー数に及ぶ。
標的細胞およびアンカー抗原
Notchシグナル伝達経路活性化の組織または部位特異性は、第1の標的細胞上の目的の分子(例えば、Notch受容体)(第1の抗原結合部分を介する)、および第2の標的細胞上のアンカー抗原(第2の抗原結合部分を介する)、ならびに任意で、第3の標的細胞上のアンカー抗原(第3の抗原結合部分を介する)等への多重特異性抗原結合分子の特異的結合によって達成することができる。好ましくは、アンカー抗原の発現は、第2の(または第3の)標的細胞に特異的、独占的、または限定的である。シグナル伝達経路の組織/部位特異的トランス活性化は、本明細書において記載されるような標的細胞とアンカー抗原との組み合わせを適切に選択することによって達成することができる。いくつかの態様において、第1の標的細胞または第2の標的細胞のどちらも腫瘍微小環境中にない、すなわち、第1の標的細胞および第2の標的細胞の両方とも非腫瘍微小環境中にある。いくつかの態様において、第1の標的細胞または第2の標的細胞のどちらも腫瘍細胞ではない、すなわち、第1の標的細胞および第2の標的細胞の両方とも非腫瘍細胞である。いくつかの態様において、第1の標的細胞または第2の標的細胞のどちらも腫瘍微小環境内の非腫瘍細胞ではない、すなわち、第1の標的細胞および第2の標的細胞の両方とも非腫瘍環境中の非腫瘍細胞である。いくつかの態様において、Notchシグナル伝達経路はがん抑制性(anti-oncogenic)ではない、すなわち、Notchシグナル伝達経路は非がん抑制性である。いくつかの態様において、notchシグナル伝達経路は抗炎症性である、すなわち、notchシグナル伝達経路は炎症促進性ではない、すなわち、Notchシグナル伝達経路は非炎症性である。用語「腫瘍微小環境」は、腫瘍細胞を囲む正常な細胞、分子、および血管を含む小環境を指し、腫瘍細胞の成長、増殖、および/または遊走に影響を与えることができる。いくつかの態様において、本発明の第2の抗原結合部分によって結合されるアンカー抗原は、腫瘍細胞に特異的な抗原、例えば、CD33でも、CD326でも、CD133でも、メソテリンでもない。いくつかの態様において、本発明の第2の抗原結合部分によって結合されるアンカー抗原は、腫瘍微小環境中に存在する細胞外抗原でも、基質、例えばコラーゲンでもない。
1つの局面において、多重特異性抗原結合分子は、
(i)第1の標的細胞上のNotch受容体に特異的に結合する第1の抗原結合部分、および
(ii)第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分
を含み、第1の標的細胞と第2の標的細胞は異なる細胞であり、かつ該多重特異性抗原結合分子は、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する。
1つの局面において、「多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する」という特徴は、代替的に以下のように言及される:「多重特異性抗原結合分子が第2の標的細胞上のアンカー抗原に結合している場合に(またはその場合にのみ)、該多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化する」。好ましくは、第2の標的細胞上のアンカー抗原は、第1の標的細胞において発現していない(または有意に/実質的に/特異的には発現していない)。
1つの態様において、Notch受容体を発現する第1の標的細胞は、多重特異性抗原結合分子が第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化することができる限り、いかなる関連細胞であってもよい。
いくつかの態様において、Notch受容体を発現する第1の標的細胞は、組織幹細胞(「組織特異的幹細胞」または「成体幹細胞」としても知られる)、活性化CD4 Tリンパ球、線維化促進因子分泌細胞、または腫瘍微小環境中の腫瘍形成促進性(pro-tumorigenic)細胞である。1つのそのような態様において、組織幹細胞は、衛星細胞、成体腸幹細胞、または陰窩基底部円柱(CBC)細胞である。
1つの局面において、第2の抗原結合部分は、第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する。
1つの態様において、アンカー抗原を発現する第2の標的細胞は、多重特異性抗原結合分子が第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をアンカー抗原依存的様式でトランス活性化することができる限り、いかなる関連細胞であってもよい。
1つの態様において、第2の標的細胞は、衛星細胞ではない筋細胞、活性化線維芽細胞、FcgRIIBを発現する免疫細胞、GPC3発現がん細胞、および腸陰窩中の細胞からなる群より選択される。
いくつかの態様において、FcgRIIBを発現する免疫細胞は、循環Bリンパ球、単球、好中球、リンパ系樹状細胞、および骨髄樹状細胞からなる群より選択される。
当業者は、技術常識に従って、第2の抗原結合部分の設計および実行のための任意の適切なアンカー抗原および第2の標的細胞を容易に選択することができる。
当業者は、技術常識に従って、第3の(またはさらなる)抗原結合部分の設計および実行のための任意の適切なアンカー抗原および第3の(またはさらなる)標的細胞を容易に選択することができる。
いくつかの態様において、多重特異性抗原結合分子が第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する、第1の標的細胞および第2の標的細胞の組み合わせの例は、以下の通りである:
(1)衛星細胞(Notch活性化のための第1の標的)および分化中の筋芽細胞および分化した筋小管細胞(アンカー抗原、例えばCACNA1S を発現する第2の標的細胞)
(2)線維化促進因子分泌細胞(第1の標的細胞)、および例えば、活性組織再構築の領域、例えば腫瘍間質または治癒中の創傷においてFAP(線維芽細胞活性化タンパク質)を発現する、任意の線維芽細胞(第2の標的細胞)。例えば、リウマチ性筋線維芽細胞様滑膜細胞、および筋線維芽細胞。
(3)活性化CD4-T細胞(第1の標的細胞)、および例えば炎症部位でFcgRIIBを発現する、免疫細胞(例えば、B細胞、形質細胞、マクロファージ、単球、好酸球、好中球、樹状細胞、マスト細胞)(第2の標的細胞)。
(4)Notch活性化が抗がん作用(例えば、増殖抑制またはアポトーシス誘導)を誘導し得る腫瘍微小環境中の腫瘍形成促進性細胞(第1の標的細胞)およびGPC3発現がん細胞(第2の標的細胞)。
(5)成体腸幹細胞または陰窩基底部円柱(CBC)細胞(第1の標的細胞)および腸陰窩中の隣接細胞(第2の標的細胞)(例えば、パネート細胞、+4細胞、一過性増殖細胞)。
成体腸幹細胞または陰窩基底部円柱(CBC)細胞に関連する潜在的アンカー抗原(第2の標的細胞)は、上記の目的を達成するように、当業者により適切に選択され得る。
1つのそのような態様において、第2の(およびさらなる)抗原結合部分の設計および実行のための任意の適切なアンカー抗原は、(1)~(5)から選択される少なくとも1つの判断基準により選択することができる。
1)全身性曝露を限定しかつNotch活性化による毒性のリスクを最小化するために、アンカー抗原の空間的発現は、目的の細胞型または組織に限定されるか、またはそれらによって独占的に発現されるべきである。
2)アンカー抗原の一時性の発現は注意深く検討されるべきである。例えば、一部のアンカー抗原は幹細胞においてのみ発現し、分化へのコミットメント後に失われる。異なる発達段階でのNotch活性化はまた、トランスジェニックマウスにおいて異なる表現型をもたらす。初期のNotch活性化は、胚性致死および筋発達障害を引き起こす。一方、出生後のトランスジェニックマウスにおけるNotch活性化は、老化した筋肉を改善しかつ筋再生を増大させるのを助ける。
3)アンカー抗原は、細胞上で安定的な発現を有するか、または緩徐な内部移行により細胞表面に係留されるべきである。
4)アンカー抗原は、目的の細胞または組織の大多数において均一に、Notchシグナル伝達の均一でない活性化を最小化するように低い不均一性で、発現するべきである。
5)アンカー抗原は、病的状態においてでさえ十分なレベルで発現し、二重特異性Notchアゴニスト抗体の十分な保持を確実にするべきである。
いくつかの態様において、本開示は、本開示の多重特異性抗原結合分子の第2の抗原結合部分のためのアンカー抗原についてスクリーニングする方法であって、
(i)候補アンカー抗原が、上記に記載される1)~5)から選択される少なくとも1つの判断基準を満たしているかどうかを評価する段階、および
(ii)少なくとも1つの判断基準が満たされている場合に、第2の抗原結合部分のためのアンカー抗原を選択する段階
を含む、方法を提供する。
いくつかの態様において、本開示は、第1の抗原結合部分と第2の抗原結合部分とを含む多重特異性抗原結合分子を産生する方法であって、
(i)候補アンカー抗原が、上記に記載される1)~5)から選択される少なくとも1つの判断基準を満たしているかどうかを評価する段階、および
(ii)少なくとも1つの判断基準が満たされている場合に、第2の抗原結合部分のためのアンカー抗原を選択する段階、
(iii)第1の標的細胞上のNotch受容体に特異的に結合する第1の抗原結合部分と第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分とを含む多重特異性抗原結合分子をコードする核酸を調製する段階、および
(iv)多重特異性抗原結合分子を産生するために核酸を発現させる段階
を含み、多重特異性抗原結合分子が第2の標的細胞上のアンカー抗原に結合している場合に、該多重特異性抗原結合分子が第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化する、方法を提供する。
いくつかの態様において、本開示は、第1の抗原結合部分と第2の抗原結合部分とを含む多重特異性抗原結合分子を産生する方法であって、
(i)候補アンカー抗原が、上記に記載される1)~5)から選択される少なくとも1つの判断基準を満たしているかどうかを評価する段階、および
(ii)少なくとも1つの判断基準が満たされている場合に、第2の抗原結合部分のためのアンカー抗原を選択する段階、
(iii)第1の標的細胞上のNotch受容体に特異的に結合する第1の抗原結合部分と第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分とを含む多重特異性抗原結合分子をコードする核酸を調製する段階、および
(iv)多重特異性抗原結合分子を産生するために核酸を発現させる段階
を含む、方法を提供する。
以下のリストは、候補アンカー抗原、またはアンカー抗原に優先的に結合する改変されたFc(例えば、FcγRIIB選択的結合技術およびFcγRIIB)を示す。
Figure 2023530797000001
Figure 2023530797000002
Figure 2023530797000003
Figure 2023530797000004
1つの局面において、本開示は、
(i)組織幹細胞上の抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分、および
(ii)第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗原結合分子であって、組織幹細胞と第2の標的細胞が異なる細胞であり、かつ該多重特異性抗原結合分子が、組織幹細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する、多重特異性抗原結合分子を提供する。
1つの局面において、「多重特異性抗原結合分子が、組織幹細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する」という特徴は、代替的に以下のように言及される:「多重特異性抗原結合分子が第2の標的細胞上のアンカー抗原に結合している場合に(またはその場合にのみ)、該多重特異性抗原結合分子が、組織幹細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化する」。好ましくは、第2の標的細胞上のアンカー抗原は、組織幹細胞において発現していない(または有意に/実質的に/特異的には発現していない)。
1つの局面において、本開示は、
(i)衛星細胞上の抗原に特異的に結合する第1の抗原結合部分、および
(ii)第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗原結合分子であって、衛星細胞と第2の標的細胞が異なる細胞であり、かつ該多重特異性抗原結合分子が、衛星細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する、多重特異性抗原結合分子を提供する。
1つの局面において、「多重特異性抗原結合分子が、衛星細胞においてNotchシグナル伝達経路をトランス活性化する」という特徴は、代替的に以下のように言及される:「多重特異性抗原結合分子が第2の標的細胞上のアンカー抗原に結合している場合に(またはその場合にのみ)、該多重特異性抗原結合分子が、衛星細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化する」。好ましくは、第2の標的細胞上のアンカー抗原は、衛星細胞において発現していない(または有意に/実質的に/特異的には発現していない)。
抗原結合ドメイン
用語「抗原結合ドメイン」は、抗原の一部またはすべてに特異的に結合しかつそれに相補的である領域を含む抗体の一部を指す。抗原結合ドメインは、例えば、1つまたは複数の抗体可変ドメイン(抗体可変領域とも呼ばれる)によってもたらされてもよい。好ましくは、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変領域(VL)および抗体重鎖可変領域(VH)の両方を含む。そのような好ましい抗原結合ドメインには、例えば、「単鎖Fv(scFv)」、「単鎖抗体」、「Fv」、「単鎖Fv2(scFv2)」、「Fab」、および「F(ab')2」が含まれる。抗原結合ドメインはまた、シングルドメイン抗体によってもたらされてもよい。
シングルドメイン抗体
本明細書において、用語「シングルドメイン抗体」は、該ドメインがそれ単独で抗原結合活性を発揮できる限りは、その構造によって限定されない。一般的な抗体、例えば、IgG抗体は、可変領域がVHおよびVLのペアリングによって形成されている状態で抗原結合活性を示すのに対して、シングルドメイン抗体のそれ自体のドメイン構造は、別のドメインとのペアリングなしにそれ単独で抗原結合活性を発揮できることが公知である。通常、シングルドメイン抗体は、比較的低い分子量を有し、単量体の形態で存在する。
シングルドメイン抗体の例としては、これらに限定されないが、軽鎖を生来欠いているラクダ科の動物のVHHおよびサメVNARなどの抗原結合分子、および抗体VHドメインの全体もしくは一部または抗体VLドメインの全体もしくは一部を含有する抗体断片が挙げられる。抗体VHドメインまたは抗体VLドメインの全体または一部を含有する抗体断片であるシングルドメイン抗体の例としては、これらに限定されないが、米国特許第6,248,516号B1などに記載されているようなヒト抗体VHまたはヒト抗体VLを起源とする、人工的に調製したシングルドメイン抗体が挙げられる。本発明のいくつかの態様において、1つのシングルドメイン抗体は、3種類のCDR(CDR1、CDR2、およびCDR3)を有する。
シングルドメイン抗体は、シングルドメイン抗体を産生できる動物から、またはシングルドメイン抗体を産生できる動物の免疫化によって、得ることができる。シングルドメイン抗体を産生できる動物の例としては、これらに限定されないが、ラクダ科の動物、およびシングルドメイン抗体を生じさせることができる遺伝子を保有するトランスジェニック動物が挙げられる。ラクダ科の動物には、ラクダ、ラマ、アルパカ、ヒトコブラクダ、およびグアナコ等が含まれる。シングルドメイン抗体を生じさせることができる遺伝子を保有するトランスジェニック動物の例としては、これらに限定されないが、国際公開公報番号WO2015/143414および米国特許公報番号US2011/0123527 A1に記載のトランスジェニック動物が挙げられる。該動物から得られたシングルドメイン抗体のフレームワーク配列は、ヒト化シングルドメイン抗体を得るために、ヒト生殖系列配列またはそれに類似する配列に変換されてもよい。ヒト化シングルドメイン抗体(例えば、ヒト化VHH)もまた、本発明のシングルドメイン抗体の一態様である。
あるいは、シングルドメイン抗体は、シングルドメイン抗体を含有するポリペプチドライブラリからELISAまたはパニング等によって得ることができる。シングルドメイン抗体を含有するポリペプチドライブラリの例としては、これらに限定されないが、種々の動物またはヒトから得られたナイーブ抗体ライブラリ(例えば、Methods in Molecular Biology 2012 911 (65-78);およびBiochimica et Biophysica Acta - Proteins and Proteomics 2006 1764: 8 (1307-1319))、種々の動物の免疫化によって得られた抗体ライブラリ(例えば、Journal of Applied Microbiology 2014 117: 2 (528-536))、および種々の動物またはヒトの抗体遺伝子から調製した合成抗体ライブラリ(例えば、Journal of Biomolecular Screening 2016 21: 1 (35-43); Journal of Biological Chemistry 2016 291:24 (12641-12657);およびAIDS 2016 30: 11 (1691-1701))が挙げられる。
可変領域
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体を抗原へと結合させることに関与する、抗体の重鎖または軽鎖のドメインを指す。天然型抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は、通常、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域 (FR) および3つの超可変領域 (HVR) を含む、類似の構造を有する。(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007) 参照。)1つのVHまたはVLドメインで、抗原結合特異性を与えるに充分であろう。さらに、ある特定の抗原に結合する抗体は、当該抗原に結合する抗体からのVHまたはVLドメインを使ってそれぞれVLまたはVHドメインの相補的ライブラリをスクリーニングして、単離されてもよい。例えばPortolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993); Clarkson et al., Nature 352:624-628 (1991) 参照。
HVRまたはCDR
本明細書で用いられる用語「超可変領域」または「HVR」は、配列において超可変であり(「相補性決定領域」または「CDR」(complementarity determining region))、および/または構造的に定まったループ(「超可変ループ」)を形成し、および/または抗原接触残基(「抗原接触」)を含む、抗体の可変ドメインの各領域を指す。超可変領域(HVR)は、「相補性決定領域」(CDR)とも称され、これらの用語は、本明細書では、抗原結合領域を形成する可変領域の部分に関して相互に交換可能に用いられる。通常、抗体は6つのHVRを含む:VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)である。本明細書での例示的なHVRは、以下のものを含む:
(a) アミノ酸残基26-32 (L1)、50-52 (L2)、91-96 (L3)、26-32 (H1)、53-55 (H2)、および96-101 (H3)のところで生じる超可変ループ (Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b) アミノ酸残基24-34 (L1)、50-56 (L2)、89-97 (L3)、31-35b (H1)、50-65 (H2)、 および95-102 (H3)のところで生じるCDR (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c) アミノ酸残基27c-36 (L1)、46-55 (L2)、89-96 (L3)、30-35b (H1)、47-58 (H2)、および93-101 (H3) のところで生じる抗原接触 (MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに、
(d) HVRアミノ酸残基46-56 (L2)、47-56 (L2)、48-56 (L2)、49-56 (L2)、26-35 (H1)、26-35b (H1)、49-65 (H2)、93-102 (H3)、および94-102 (H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組合せ。
別段示さない限り、HVR残基および可変ドメイン中の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書では上記のKabatらに従ってナンバリングされる。
HVR-H1、HVR-H2、HVR-H3、HVR-L1、HVR-L2、およびHVR-L3は、それぞれ、「H-CDR1」、「H-CDR2」、「H-CDR3」、「L-CDR1」、「L-CDR2」、および「L-CDR3」とも記載される。
Fab分子
「Fab分子」は、免疫グロブリンの重鎖のVHおよびCH1ドメイン(「Fab重鎖」)ならびに軽鎖のVLおよびCLドメイン(「Fab軽鎖」)からなるタンパク質を指す。
融合される
「融合される」は、構成成分(例えば、Fab分子およびFcドメインサブユニット)が、直接的に、または1つもしくは複数のペプチドリンカーを介して、ペプチド結合によって連結されることを意味する。
「クロスオーバー」Fab
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」とも呼ばれる)は、Fab重鎖およびFab軽鎖の可変領域または定常領域のいずれかが交換されている、Fab分子を意味し、すなわち、クロスオーバーFab分子は、軽鎖可変領域および重鎖定常領域で構成されたペプチド鎖と、重鎖可変領域および軽鎖定常領域で構成されたペプチド鎖とを含む。明確にするために記すと、Fab軽鎖およびFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子では、重鎖定常領域を含むペプチド鎖が、本明細書において、クロスオーバーFab分子の「重鎖」と称される。反対に、Fab軽鎖およびFab重鎖の定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子では、重鎖可変領域を含むペプチド鎖が、本明細書において、クロスオーバーFab分子の「重鎖」と称される。
「従来の」Fab
それに対して、「従来の」Fab分子は、その天然の形式でのFab分子、すなわち、重鎖の可変領域および定常領域で構成された重鎖(VH-CH1)、ならびに軽鎖の可変領域および定常領域で構成された軽鎖(VL-CL)を含むFab分子を意味する。用語「免疫グロブリン分子」は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、ジスルフィド結合で結合された2つの軽鎖および2つの重鎖で構成された、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各重鎖は、N末端からC末端へ、可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)と、その後に続く重鎖定常領域とも呼ばれる3種類の定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)とを有する。同様に、各軽鎖は、N末端からC末端へ、可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)と、その後に続く軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインとを有する。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)、またはμ(IgM)と呼ばれる5つのタイプのうちの1つに割り当てられてもよく、それらの一部は、サブタイプ、例えば、γ1(IgG1)、γ2(IgG2)、γ3(IgG3)、γ4(IgG4)、α1(IgA1)、およびα2(IgA2)にさらに分類されてもよい。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、κおよびλと呼ばれる2つのタイプのうちの1つに割り当てられもよい。免疫グロブリンは、免疫グロブリンヒンジ領域を介して連結された、2つのFab分子およびFcドメインから本質的になる。
アフィニティ/アビディティ
「アフィニティ」は、分子(例えば、抗原結合分子または抗体)の結合部位1個と、分子の結合パートナー(例えば、抗原)との間の、非共有結合的な相互作用の合計の強度を指す。別段示さない限り、本明細書で用いられる「結合アフィニティ」は、ある結合対のメンバー(例えば、抗原結合分子と抗原、または抗体と抗原)の間の1:1相互作用を反映する、固有の結合アフィニティを指す。分子Xの、そのパートナーYに対するアフィニティは、一般的に、解離速度定数と会合速度定数(それぞれkoffおよびkon)との比である、解離定数(KD)により表すことができる。したがって、速度定数の比が同じままである限り、等価のアフィニティは異なる速度定数を含んでもよい。アフィニティは、本明細書に記載のものを含む、当技術分野において公知の確立した方法によって測定することができる。アフィニティを測定するための具体的な方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
エピトープに結合する抗体の抗原結合ドメインの構造は、パラトープと呼ばれる。パラトープは、エピトープとパラトープとの間に作用する水素結合、静電力、ファンデルワールス力、または疎水結合等を通じてエピトープに安定的に結合する。このエピトープとパラトープとの間の結合力は「アフィニティ」と呼ばれる(上記も参照)。複数の抗原結合ドメインが複数の抗原に結合する場合の総結合力は「アビディティ」と呼ばれる。アフィニティは、例えば、複数の抗原結合ドメインを含む抗体(すなわち、多価抗体)が複数のエピトープに結合する場合に相乗的に働き、アビディティはアフィニティより高くなる可能性がある。
アフィニティを決定する方法
特定の態様において、本明細書で提供される抗原結合分子または抗体は、その抗原に対して、≦1μM、≦120nM、≦100nM、≦80nM、≦70nM、≦50nM、≦40nM、≦30nM、≦20nM、≦10nM、≦2nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nMまたは≦0.001nM(例えば、10-8M以下、10-8M~10-13M、10-9M~10-13M)の解離定数 (KD) を有する。特定の態様において、Notch受容体またはアンカー抗原に対する、抗体/抗原結合分子のKD値は、1~40、1~50、1~70、1~80、30~50、30~70、30~80、40~70、40~80、または60~80nMの範囲内に入る。
1つの態様において、KDは、放射性標識抗原結合測定法 (radiolabeled antigen binding assay: RIA) によって測定される。1つの態様において、RIAは、目的の抗体のFabバージョンおよびその抗原を用いて実施される。例えば、抗原に対するFabの溶液中結合アフィニティは、非標識抗原の漸増量系列の存在下で最小濃度の (125I) 標識抗原によりFabを平衡化させ、次いで結合した抗原を抗Fab抗体でコーティングされたプレートにより捕捉することによって測定される。(例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881(1999) を参照のこと)。測定条件を構築するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート (Thermo Scientific) を50mM炭酸ナトリウム (pH9.6) 中5μg/mlの捕捉用抗Fab抗体 (Cappel Labs) で一晩コーティングし、その後に室温(およそ23℃)で2~5時間、PBS中2% (w/v) ウシ血清アルブミンでブロックする。非吸着プレート (Nunc #269620) において、100 pMまたは26 pMの [125I]-抗原を、(例えば、Presta et al., Cancer Res. 57:4593-4599 (1997) における抗VEGF抗体、Fab-12の評価と同じように)目的のFabの段階希釈物と混合する。次いで、目的のFabを一晩インキュベートするが、このインキュベーションは、平衡が確実に達成されるよう、より長時間(例えば、約65時間)継続され得る。その後、混合物を、室温でのインキュベーション(例えば、1時間)のために捕捉プレートに移す。次いで溶液を除去し、プレートをPBS中0.1%のポリソルベート20(TWEEN-20(登録商標))で8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μl/ウェルのシンチラント(MICROSCINT-20(商標)、Packard)を添加し、TOPCOUNT(商標)ガンマカウンター (Packard) においてプレートを10分間カウントする。最大結合の20%以下を与える各Fabの濃度を、競合結合アッセイにおいて使用するために選択する。
別の態様によれば、Kdは、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定される。例えば、BIACORE(登録商標)-2000またはBIACORE(登録商標)-3000 (BIAcore, Inc., Piscataway, NJ) を用いる測定法が、およそ10反応単位 (response unit: RU) の抗原が固定されたCM5チップを用いて25℃で実施される。1つの態様において、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ (CM5、BIACORE, Inc.) は、供給元の指示に従いN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミドヒドロクロリド (EDC) およびN-ヒドロキシスクシンイミド (NHS) を用いて活性化される。抗原は、およそ10反応単位 (RU) のタンパク質の結合を達成するよう、5μl/分の流速で注入される前に、10mM酢酸ナトリウム、pH4.8を用いて5μg/ml(およそ0.2μM)に希釈される。抗原の注入後、未反応基をブロックするために1Mエタノールアミンが注入される。キネティクスの測定のために、25℃、およそ25μl/分の流速で、0.05%ポリソルベート20(TWEEN-20(商標))界面活性剤含有PBS (PBST) 中のFabの2倍段階希釈物 (0.78nM~500nM) が注入される。会合速度 (kon) および解離速度 (koff) は、単純な1対1ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)評価ソフトウェアバージョン3.2)を用いて、会合および解離のセンサーグラムを同時にフィッティングすることによって計算される。平衡解離定数 (Kd) は、koff/kon比として計算される。例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881 (1999) を参照のこと。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによってオン速度が106M-1s-1を超える場合、オン速度は、分光計(例えばストップフロー式分光光度計 (Aviv Instruments) または撹拌キュベットを用いる8000シリーズのSLM-AMINCO(商標)分光光度計 (ThermoSpectronic))において測定される、漸増濃度の抗原の存在下でのPBS、pH7.2中20nMの抗抗原抗体(Fab形態)の25℃での蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、バンドパス16nm)の増加または減少を測定する蛍光消光技術を用いることによって決定され得る。
抗原結合分子または抗体のアフィニティを測定するための上記の方法に従って、当業者は、様々な抗原に対する他の抗原結合分子または抗体のアフィニティ測定を行うことができる。
抗体
本明細書で用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、所望の抗原結合活性を示す限りは、これらに限定されるものではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体断片を含む、種々の抗体構造を包含する。
抗体のクラス
抗体の「クラス」は、抗体の重鎖に備わる定常ドメインまたは定常領域のタイプを指す。抗体には5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMである。そして、このうちいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)に分けられてもよい。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2である。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインを、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ぶ。
別段示さない限り、軽鎖定常領域中のアミノ酸残基は、本明細書ではKabatらに従ってナンバリングされ、重鎖定常領域中のアミノ酸残基のナンバリングは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991に記載されているような、EUインデックスとも呼ばれる、EUナンバリングシステムに従う。
フレームワーク
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域 (HVR) 残基以外の、可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、通常4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。それに応じて、HVRおよびFRの配列は、通常次の順序でVH(またはVL)に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
ヒトコンセンサスフレームワーク
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVLまたはVHフレームワーク配列の選択群において最も共通して生じるアミノ酸残基を示すフレームワークである。通常、ヒト免疫グロブリンVLまたはVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。通常、配列のサブグループは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 91-3242, Bethesda MD (1991), vols. 1-3におけるサブグループである。1つの態様において、VLについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループκIである。1つの態様において、VHについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループIIIである。
キメラ抗体
用語「キメラ」抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖および/または軽鎖の残りの部分が異なった供給源または種に由来する抗体を指す。同様に、用語「キメラ抗体可変ドメイン」は、重鎖および/または軽鎖可変領域の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖および/または軽鎖可変領域の残りの部分が異なった供給源または種に由来する抗体可変領域を指す。
ヒト化抗体
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基およびヒトFRからのアミノ酸残基を含む、キメラ抗体を指す。ある態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、当該可変領域においては、すべてのもしくは実質的にすべてのHVR(例えばCDR)は非ヒト抗体のものに対応し、かつ、すべてのもしくは実質的にすべてのFRはヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意で、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部分を含んでもよい。抗体(例えば、非ヒト抗体)の「ヒト化された形態」は、ヒト化を経た抗体を指す。「ヒト化抗体可変領域」は、ヒト化抗体の可変領域を指す。
ヒト抗体
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生された抗体またはヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を用いる非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を備える抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒトの抗原結合残基を含むヒト化抗体を、明確に除外するものである。「ヒト抗体可変領域」は、ヒト抗体の可変領域を指す。
ポリヌクレオチド(核酸)
本明細書で相互に交換可能に使用される「ポリヌクレオチド」または「核酸」は、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを指し、DNAおよびRNAを含む。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドもしくは塩基、および/またはそれらのアナログ、またはDNAもしくはRNAポリメラーゼによってまたは合成反応によってポリマーに組み込まれ得る任意の物質であり得る。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびそれらのアナログなどの修飾ヌクレオチドを含み得る。ヌクレオチドの配列に、非ヌクレオチド成分が割り込んでいてもよい。ポリヌクレオチドは、標識へのコンジュゲーションなどの、合成後になされる修飾を含み得る。他のタイプの修飾は、例えば、「キャップ」、1つまたは複数の天然に存在するヌクレオチドとアナログとの置換、ヌクレオチド間修飾、例えば、非荷電連結(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミド酸、カルバメート等)および荷電連結(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート等)を伴うもの、例えばタンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジン等)などのペンダント部分を含むもの、インターカレート剤(例えば、アクリジン、ソラレン等)を伴うもの、キレート剤(例えば、金属、放射性金属、ホウ素、酸化金属等)を含むもの、アルキル化剤を含むもの、修飾連結(例えば、アルファアノマー核酸等)や非修飾形態のポリヌクレオチドを伴うものを含む。さらに、通常糖に存在する任意のヒドロキシル基は、例えば、ホスホネート基、ホスフェート基によって置き換えられ得、標準的な保護基によって保護され得、もしくはさらなるヌクレオチドへのさらなる連結を調製するよう活性化され得、または固体もしくは半固体支持体にコンジュゲートされ得る。5’および3’末端のOHは、リン酸化またはアミンもしくは1~20炭素原子の有機キャップ基部分で置換され得る。他のヒドロキシルもまた、標準的な保護基に誘導体化され得る。ポリヌクレオチドはまた、例えば以下のものを含む、当技術分野で一般に公知となっているリボースまたはデオキシリボース糖の類似形態を含み得る:2'-O-メチル-、2'-O-アリル-、2'-フルオロ-、または2'-アジド-リボース、炭素環式糖アナログ、α-アノマー糖、アラビノースまたはキシロースまたはリキソースなどのエピマー糖、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環式アナログ、およびメチルリボシドなどの塩基性ヌクレオシドアナログ。1つまたは複数のホスホジエステル結合は、代替の連結基によって置き換えられ得る。これらの代替の連結基は、これらに限定されるものではないが、ホスフェートが以下のものによって置き換えられている態様を含む:P(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、(O)NR2(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR'、CO、またはCH2(「ホルムアセタール」)、ここで、各RまたはR'は独立してH、または、任意でエーテル(-O-)連結、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、もしくはアラルジルを含む置換もしくは非置換アルキル(1~20C)である。ポリヌクレオチド中のすべての連結が同一である必要はない。上記の説明は、RNAおよびDNAを含む本明細書で言及されるすべてのポリヌクレオチドに適用される。
単離された(核酸)
「単離された」核酸分子は、そのもともとの環境の成分から分離されたものを指す。単離された核酸分子はさらに、その核酸分子を通常含む細胞の中に含まれた核酸分子を含むが、その核酸分子は染色体外に存在しているかまたは本来の染色体上の位置とは異なる染色体上の位置に存在している。
ベクター
本明細書で用いられる用語「ベクター」は、それが連結されたもう1つの核酸を増やすことができる、核酸分子を指す。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、および、それが導入された宿主細胞のゲノム中に組み入れられるベクターを含む。あるベクターは、自身が動作的に連結された核酸の、発現をもたらすことができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」とも称される。ベクターは、ウイルスまたはエレクトロポレーションを用いて宿主細胞に導入することができる。しかしながら、ベクターの導入は、インビトロでの方法に限定されない。例えば、ベクターは、インビボでの方法を用いて対象に直接導入することもできる。
宿主細胞
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」、および「宿主細胞培養物」は、相互に交換可能に用いられ、外来核酸を導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)を指す。宿主細胞は「形質転換体」および「形質転換細胞」を含み、これには初代の形質転換細胞および継代数によらずその細胞に由来する子孫を含む。子孫は、親細胞と核酸の内容において完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。オリジナルの形質転換細胞がスクリーニングされたまたは選択された際に用いられたものと同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫も、本明細書では含まれる。
特異性
「特異的」とは、1つまたは複数の結合パートナーに特異的に結合する分子が、該パートナー以外の分子に対して何ら有意な結合を示さないことを意味する。さらに、「特異的」はまた、抗原結合部位が、抗原中に含まれる複数のエピトープのうちの特定のエピトープに特異的である場合にも用いられる。抗原結合分子が抗原に特異的に結合する場合、それは「抗原結合分子が、抗原に/抗原に対して特異性を有する/示す」とも記載される。抗原結合部位が結合するエピトープが複数の異なる抗原中に含まれる場合、該抗原結合部位を含む抗原結合分子は、該エピトープを有する様々な抗原に結合し得る。
抗体断片
「抗体断片」は、完全抗体が結合する抗原に結合する当該完全抗体の一部分を含む、当該完全抗体以外の分子を指す。抗体断片の例は、これらに限定されるものではないが、Fv、Fab、Fab'、Fab’-SH、F(ab')2、ダイアボディ、線状抗体、単鎖抗体分子(例えば、scFv)、およびシングルドメイン抗体を含む。特定の抗体断片についての総説として、Hudson et al., Nat Med 9, 129-134 (2003) を参照のこと。scFv断片の総説として、例えば、Pluckthun, in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp.269-315 (1994);加えて、WO93/16185;ならびに米国特許第5,571,894号および第5,587,458号を参照のこと。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含みインビボにおける半減期の長くなったFabおよびF(ab')2断片についての論説として、米国特許第5,869,046号を参照のこと。ダイアボディは、二価または二重特異的であってよい、抗原結合部位を2つ伴う抗体断片である。例えば、EP404,097; WO1993/01161; Hudson et al., Nat Med 9, 129-134 (2003); Hollinger et al., Proc Natl Acad Sci USA 90, 6444-6448 (1993) 参照。トリアボディ (triabody) やテトラボディ (tetrabody) も、Hudson et al., Nat Med 9, 129-134 (2003) に記載されている。シングルドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインのすべてもしくは一部分、または軽鎖可変ドメインのすべてもしくは一部分を含む、抗体断片である。特定の態様において、シングルドメイン抗体は、ヒトシングルドメイン抗体である(Domantis, Inc., Waltham, MA;例えば、米国特許第6,248,516号B1参照)。抗体断片は、これらに限定されるものではないが、本明細書に記載の、完全抗体のタンパク質分解的消化、組換え宿主細胞(例えば、大腸菌またはファージ)による産生を含む、種々の手法により作ることができる。
可変断片(Fv)
本明細書において、用語「可変断片(Fv)」は、抗体の軽鎖可変領域(VL)と抗体の重鎖可変領域(VH)とのペアから構成される抗体由来の抗原結合部位の最小単位を指す。1988年にSkerraとPluckthunは、細菌のシグナル配列の下流に抗体遺伝子を挿入し大腸菌中で当該遺伝子の発現を誘導することによって、均一でかつ活性な抗体が大腸菌のペリプラズム画分から調製され得ることを見出した(Science (1988) 240 (4855), 1038-1041)。ペリプラズム画分から調製されたFvにおいては、抗原に結合するような様式でVHとVLが会合している。
scFv、単鎖抗体、およびsc(Fv) 2
本明細書において、用語「scFv」、「単鎖抗体」、および「sc(Fv)2」はいずれも、重鎖および軽鎖に由来する可変領域を含むが、定常領域を含まない、単一ポリペプチド鎖の抗体断片を指す。一般に、単鎖抗体は、抗原結合を可能にすると思われる所望の構造の形成を可能にする、VHドメインとVLドメインの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。単鎖抗体は、「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore, eds., Springer-Verlag, New York, 269-315 (1994)」においてPluckthunによって詳細に考察されている。同様に、国際公開公報WO1988/001649、米国特許第4,946,778号および同第5,260,203号を参照のこと。特定の態様において、単鎖抗体は、二重特異性でありかつ/またはヒト化され得る。
scFvはFvを形成するVHとVLとがペプチドリンカーによって共に連結された単鎖低分子量抗体である(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85 (16), 5879-5883)。当該ペプチドリンカーによってVHとVLとが近接した状態に保持され得る。
sc(Fv)2は、2つのVLと2つのVHの4つの可変領域がペプチドリンカー等のリンカーによって連結され一本鎖を形成する単鎖抗体である(J Immunol. Methods (1999) 231 (1-2), 177-189)。この2つのVHと2つのVLは異なるモノクローナル抗体に由来してもよい。そのようなsc(Fv)2としては、例えば、Journal of Immunology (1994) 152 (11), 5368-5374に開示されるような、単一抗原中に存在する2つのエピトープを認識する二重特異性sc(Fv)2が好適に挙げられる。sc(Fv)2は、当業者に公知の方法によって産生され得る。例えば、sc(Fv)2は、scFvをペプチドリンカー等のリンカーで連結することによって産生され得る。
本明細書において、sc(Fv)2は、一本鎖ポリペプチドのN末端を基点としてVH、VL、VH、VL([VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL])の順に並んでいる2つのVH単位および2つのVL単位を含む。2つのVH単位と2つのVL単位の順序は上記の構成に限定されず、どのような順序で並べられていてもよい。構成の例を以下に列挙する。
[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]
[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]
[VH]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VL]
[VL]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VH]
[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]
sc(Fv)2の分子形態についてはWO2006/132352においても詳細に記載されている。当業者であればこれらの記載に従って、本明細書で開示されるポリペプチド複合体を産生するために所望のsc(Fv)2を適宜調製することが可能である。
さらに本開示の抗原結合分子または抗体に、PEG等の担体高分子や抗がん剤等の有機化合物をコンジュゲートしてもよい。あるいは、糖鎖が所望の効果をもたらすように、糖鎖付加配列が抗原結合分子または抗体に好適に挿入される。
抗体の可変領域の連結に使用するリンカーは、遺伝子工学により導入され得る任意のペプチドリンカー、合成リンカー、および例えばProtein Engineering, 9 (3), 299-305, 1996に開示されるリンカーを含む。しかしながら、本開示においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能である。長さは、好ましくは5アミノ酸以上(特に限定されないが、上限は通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。sc(Fv)2に3つのペプチドリンカーが含まれる場合には、それらの長さはすべて同じであってもよいし異なってもよい。
例えば、そのようなペプチドリンカーには以下のものが含まれる:
Ser、
Gly-Ser、
Gly-Gly-Ser、
Ser-Gly-Gly、
Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:9)、
Ser-Gly-Gly-Gly(配列番号:10)、
Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:11)、
Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号:12)、
Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:13)、
Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号:14)、
Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:15)、
Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号:16)、
(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:11))n、および
(Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号:12))n。
ここでnは1以上の整数である。ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
合成リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられており、例としては、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ-EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ-DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、およびビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)が挙げられる。これらの架橋剤は市販されている。
4つの抗体可変領域を連結するには、通常、3つのリンカーが必要となる。用いられるリンカーは、同じ種類のものであっても異なる種類のものであってもよい。
Fab、F(ab') 2 、およびFab'
「Fab」は、1本の軽鎖、ならびに1本の重鎖のCH1ドメインおよび可変領域からなる。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成できない。
「F(ab')2」または「Fab」は、免疫グロブリン(モノクローナル抗体)をペプシンおよびパパイン等のプロテアーゼで処理することにより産生され、免疫グロブリン(モノクローナル抗体)を2本の各H鎖のヒンジ領域間に存在するジスルフィド結合の近くで消化することによって生成される抗体断片を指す。例えばパパインは、IgGを、2本の各H鎖のヒンジ領域間に存在するジスルフィド結合の上流で切断し、VL(L鎖可変領域)およびCL(L鎖定常領域)を含むL鎖がVH(H鎖可変領域)およびCHγ1(H鎖定常領域中のγ1領域)を含むH鎖断片とそれらのC末端領域でジスルフィド結合により連結されている、相同な2つの抗体断片を生成する。これら2つの相同な抗体断片はそれぞれFab'と呼ばれる。
「F(ab')2」は、2本の軽鎖、ならびにジスルフィド結合が2本の重鎖間で形成されるようにCH1ドメインおよびCH2ドメインの一部分の定常領域を含む2本の重鎖からなる。本明細書において開示されるF(ab')2は、次のように好適に産生され得る。所望の抗原結合部位を含むモノクローナル全部抗体等を、ペプシン等のプロテアーゼで部分消化し、Fc断片をプロテインAカラムに吸着させることにより除去する。プロテアーゼは、pH等の適切な設定酵素反応条件下で選択的にF(ab')2をもたらすように全部抗体を切断し得るものである限り、特に限定はされない。例えば、そのようなプロテアーゼにはペプシンおよびフィシンが含まれる。
Fc領域
本発明において、用語「Fc領域」または「Fcドメイン」は、抗体分子中の、ヒンジまたはその一部、ならびにCH2およびCH3ドメインからなる断片を含む領域を指す。IgGクラスのFc領域は、例えば、システイン226(EU ナンバリング(本明細書においてEUインデックスとも称される))からC末端まで、またはプロリン230(EUナンバリング)からC末端までの領域を意味するが、それに限定されない。Fc領域は、好ましくは、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体を、ペプシンなどのタンパク質分解酵素で部分消化した後に、プロテインAカラムまたはプロテインGカラムに吸着された画分を再溶出することによって取得することができる。そのようなタンパク質分解酵素は、適宜設定される酵素の反応条件(例えば、pH)の下で制限的にFabまたはF(ab')2を形成するように全長抗体を消化することができる限り、特に限定されない。その例には、ペプシンおよびパパインが含まれ得る。
本発明において、例えば、天然型IgGに由来するFc領域を、本開示の「Fc領域」として用いることができる。ここで、天然型IgGとは、天然に見出されるIgGと同一のアミノ酸配列を含有し、免疫グロブリンγ遺伝子により実質的にコードされる抗体のクラスに属するポリペプチドを意味する。天然型ヒトIgGとは、例えば、天然型ヒトIgG1、天然型ヒトIgG2、天然型ヒトIgG3、または天然型ヒトIgG4を意味する。天然型IgGにはまた、自然発生的にそれに由来するバリアントなども含まれる。遺伝子多型に基づく複数のアロタイプ配列が、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、およびヒトIgG4抗体の定常領域としてSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242に記載されており、それらはいずれも、本開示において用いることができる。特に、ヒトIgG1の配列は、EUナンバリング356~358位のアミノ酸配列として、DELまたはEEMを有してもよい。
ある特定の態様において、1つまたは複数のアミノ酸置換が、本明細書において提供される抗体のFc領域に導入され、それによってFc領域バリアントを生成してもよい。Fc領域バリアントは、1つまたは複数のアミノ酸位置にアミノ酸置換を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4 Fc領域)を含んでもよい。
例えば、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、およびヒトIgG4の重鎖定常領域はそれぞれ、配列番号:18~21に示される。例えば、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、およびヒトIgG4のFc領域は、配列番号:18~21の部分配列として示される。
いくつかの態様において、多重特異性抗原結合分子のFcドメインは、免疫グロブリン分子の重鎖ドメインを含むポリペプチド鎖の対からなる。例えば、免疫グロブリンG(IgG)分子のFcドメインは、その各サブユニットがCH2およびCH3 IgG重鎖定常ドメインを含む、二量体である。Fcドメインの2つのサブユニットは、相互に安定的に会合することができる。1つの態様において、本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子は、1つ以下のFcドメインを含む。
本明細書において記載される1つの態様において、多重特異性抗原結合分子のFcドメインはIgG Fcドメインである。特定の態様において、FcドメインはIgG1 Fcドメインである。別の態様において、FcドメインはIgG1 Fcドメインである。さらなる特定の態様において、FcドメインはヒトIgG1 Fc領域である。
1つの局面において、本開示は、
(i)天然型ヒトIgG1 Fcドメインと比較して、ヒトFcγ受容体に対する低下した結合アフィニティを示す、Fcドメイン
をさらに含む、多重特異性抗原結合分子であって、Fcドメインが、安定に会合することができる第1の Fc領域サブユニットと第2の Fc領域サブユニットとで構成される、多重特異性抗原結合分子を提供する。
1つの局面において、本開示は、
(i)天然型ヒトIgG1 Fcドメインと比較して、ヒトFcγ受容体に対する低下した結合アフィニティを示す、Fcドメイン
をさらに含む、多重特異性抗原結合分子であって、Fcドメインが、以下の(e1)または(e2):
(e1)349位にCys、366位にSer、368位にAla、および407位にValを含む第1の Fc領域サブユニット、ならびに354位にCysおよび366位にTrpを含む第2の Fc領域;
(e2)439位にGluを含む第1の Fc領域サブユニット、および356位にLysを含む第2の Fc領域
を含み、アミノ酸位置がEUインデックスによりナンバリングされる、多重特異性抗原結合分子を提供する。
1つの局面において、本開示は、
(i)天然型ヒトIgG1 Fcドメインと比較して、ヒトFcγ受容体に対する低下した結合アフィニティを示す、Fcドメイン
をさらに含む、多重特異性抗原結合分子であって、Fcドメインに含まれる第1および/または第2の Fc領域サブユニットが、以下の(f1)または(f2):
(f1)234位にAlaおよび235位にAla;
(f2)234位にAla、235位にAla、および297位にAla
を含み、アミノ酸位置がEUインデックスによりナンバリングされる、多重特異性抗原結合分子を提供する。
1つの局面において、本開示は、
(i)天然型ヒトIgG1 Fcドメインと比較して、ヒトFcγ受容体に対する低下した結合アフィニティを示すFcドメイン
をさらに含む、多重特異性抗原結合分子であって、該Fcドメインが、天然型ヒトIgG1 Fcドメインと比較して、ヒトFcRnに対するより強力なFcRn結合アフィニティをさらに示す、多重特異性抗原結合分子を提供する。
1つの局面において、本開示は、
(i)天然型ヒトIgG1 Fcドメインと比較して、ヒトFcγ受容体に対する低下した結合アフィニティを示すFcドメイン
をさらに含む、多重特異性抗原結合分子であって、該Fcドメインに含まれる第1および/またはFc領域サブユニットが、428位にLeu、434位にAla、438位にArg、および440位にGluを含み、アミノ酸位置がEUインデックスによりナンバリングされる、多重特異性抗原結合分子を提供する。
低下したFc受容体(Fcγ受容体)結合活性を有するFc領域
特定の態様において、本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子のFcドメインは、天然型IgG1 Fcドメインと比較して、Fc受容体に対する低下した結合アフィニティを示す。1つのそのような態様において、Fcドメイン(または該Fcドメインを含む多重特異性抗原結合分子)は、天然型IgG1 Fcドメイン(または天然型IgG1 Fcドメインを含む多重特異性抗原結合分子)と比較して、50%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満、および最も好ましくは5%未満のFc受容体に対する結合アフィニティを示す。1つの態様において、Fcドメイン(または該Fcドメインを含む多重特異性抗原結合分子)は、Fc受容体に実質的に結合しない。特定の態様において、Fc受容体はFcγ受容体である。1つの態様において、Fc受容体はヒトFc受容体である。1つの態様において、Fc受容体は活性化Fc受容体である。特定の態様において、Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体、より具体的にはヒトFcγ RIIIa、Fcγ RI、またはFcγ RIIa、最も具体的にはヒトFcγ RIIIaである。
特定の態様において、多重特異性抗原結合分子のFcドメインは、Fc受容体に対するFcドメインの結合アフィニティを低下させる1つまたは複数のアミノ酸変異を含む。典型的には、同じ1つまたは複数のアミノ酸変異が、Fcドメインの2つのサブユニットの各々に存在する。1つの態様において、アミノ酸変異は、Fc受容体に対するFcドメインの結合アフィニティを低下させる。1つの態様において、アミノ酸変異は、Fc受容体に対するFcドメインの結合アフィニティを少なくとも2分の1、少なくとも5分の1、または少なくとも10分の1に低下させる。Fc受容体に対するFcドメインの結合アフィニティを低下させる2つ以上のアミノ酸変異が存在する態様において、これらのアミノ酸変異の組み合わせは、Fc受容体に対するFcドメインの結合アフィニティを少なくとも10分の1、少なくとも20分の1、またはさらには少なくとも50分の1に低下させ得る。1つの態様において、改変されたFcドメインを含む多重特異性抗原結合分子は、改変されていないFcドメインを含む多重特異性抗原結合分子と比較して、20%未満、具体的には10%未満、より具体的には5%未満のFc受容体に対する結合アフィニティを示す。特定の態様において、Fc受容体はFcγ受容体である。いくつかの態様において、Fc受容体はヒトFc受容体である。いくつかの態様において、Fc受容体は活性化Fc受容体である。特定の態様において、Fc受容体は活性化ヒトFcγ受容体、より具体的にはヒトFcγ RIIIa、Fcγ RI、または Fcγ RIIa、最も具体的にはヒトFcγ RIIIaである。好ましくは、これらの受容体の各々に対する結合が低下する。
1つの態様において、Fc受容体に対するFcドメインの結合アフィニティを低下させるアミノ酸変異はアミノ酸置換である。1つの態様において、Fcドメインは、E233、L234、L235、N297、P331、およびP329の群より選択される位置でのアミノ酸置換を含む。より特定の態様において、Fcドメインは、L234、L235、およびP329の群より選択される位置でのアミノ酸置換を含む。いくつかの態様において、Fcドメインはアミノ酸置換L234AおよびL235Aを含む。1つのそのような態様において、Fcドメインは、IgG1 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである。1つの態様において、Fcドメインは、P329位でのアミノ酸置換を含む。より特定の態様において、アミノ酸置換は、P329AまたはP329G、特にP329Gである。1つの態様において、Fcドメインは、P329位でのアミノ酸置換、およびE233、L234、L235、N297、およびP331から選択される位置でのさらなるアミノ酸置換を含む。より特定の態様において、さらなるアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D、またはP331Sである。特定の態様において、Fcドメインは、P329位、L234位、およびL235位でのアミノ酸置換を含む。より特定の態様において、Fcドメインは、アミノ酸変異L234A、L235A、およびP329G(「P329G LALA」)を含む。1つのそのような態様において、Fcドメインは、IgG1 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである。アミノ酸置換の「P329G LALA」の組み合わせは、PCT公報番号WO2012/130831に記載されているように、ヒトIgG1 FcドメインのFcγ受容体(ならびに補体)結合をほぼ完全に消失させる。WO2012/130831はまた、そのような変異Fcドメインを調製する方法、およびFc受容体結合またはエフェクター機能などのその特性を判定するための方法も記載している。
IgG4抗体は、IgG1抗体と比較して、Fc受容体に対する低下した結合アフィニティおよび低下したエフェクター機能を示す。したがって、いくつかの態様において、本明細書において記載されるT細胞を活性化する二重特異性抗原結合分子のFcドメインは、IgG4 Fcドメイン、特にヒトIgG4 Fcドメインである。1つの態様において、IgG4 Fcドメインは、S228位でのアミノ酸置換、特にアミノ酸置換S228Pを含む。Fc受容体に対するその結合アフィニティおよび/またはそのエフェクター機能をさらに低下させるために、1つの態様において、IgG4 Fcドメインは、L235位でのアミノ酸置換、特にアミノ酸置換L235Eを含む。別の態様において、IgG4 Fcドメインは、P329位でのアミノ酸置換、特にアミノ酸置換P329Gを含む。特定の態様において、IgG4 Fcドメインは、S228位、L235位、およびP329位でのアミノ酸置換、特にアミノ酸置換S228P、L235E、およびP329Gを含む。そのようなIgG4 Fcドメイン変異体およびそれらのFcγ受容体結合特性は、PCT公報番号WO2012/130831に記載されている。
特定の態様において、FcドメインのN-グリコシル化は除去されている。1つのそのような態様において、Fcドメインは、N297位でのアミノ酸変異、特に、アスパラギンをアラニン(N297A)またはアスパラギン酸(N297D)によって置換するアミノ酸置換を含む。
特に好ましい態様において、天然型IgG1 Fcドメインと比較して、Fc受容体に対する低下した結合アフィニティを示すFcドメインは、アミノ酸置換L234A、L235A、およびN297Aを含むヒトIgG1 Fcドメインである。
変異体Fcドメインは、当技術分野において周知の遺伝学的方法または化学的方法を用いて、アミノ酸の欠失、置換、挿入、または改変によって調製することができる。遺伝学的方法には、コードDNA配列の部位特異的変異誘発、PCR、および遺伝子合成等が含まれ得る。正確なヌクレオチドの変化は、例えば配列決定によって検証することができる。
Fc受容体への結合は、例えば、ELISAによって、またはBIAcore機器(GE Healthcare)などの標準的な機器装置を用いる表面プラズモン共鳴(SPR)によって容易に決定することができ、Fc受容体等は、組換え発現によって得られてもよい。適切なそのような結合アッセイが本明細書において記載される。あるいは、Fc受容体に対するFcドメインの結合アフィニティまたはFcドメインを含む細胞活性化二重特異性抗原結合分子の結合アフィニティは、特定のFc受容体を発現することが公知の細胞株、例えばFcγ IIIa受容体を発現するヒトNK細胞を用いて評価され得る。
Fc受容体
用語「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を指す。いくつかの態様において、FcRは、天然型ヒトFcRである。いくつかの態様において、FcRは、IgG抗体に結合するもの(ガンマ受容体)であり、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIサブクラスの受容体を、これらの受容体の対立遺伝子バリアントおよび選択的スプライシングによる形態を含めて、含む。FcγRII受容体は、FcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「阻害受容体」)を含み、これらは主としてその細胞質ドメインにおいて相違する類似のアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン活性化モチーフ (immunoreceptor tyrosine-based activation motif: ITAM) を含む。阻害受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン阻害モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif: ITIM)を含む。(例えば、Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15:203-234 (1997) を参照のこと。)FcRは、例えば、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991);Capel et al., Immunomethods 4:25-34 (1994);およびde Haas et al., J. Lab. Clin. Med 126:330-41 (1995)において総説されている。将来同定されるものを含む他のFcRも、本明細書の用語「FcR」に包含される。
用語「Fc受容体」または「FcR」はまた、母体のIgGの胎児への移動(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976)およびKim et al., J. Immunol. 24:249 (1994))ならびに免疫グロブリンのホメオスタシスの調節を担う、新生児型受容体FcRnを含む。FcRnへの結合を測定する方法は公知である(例えば、Ghetie and Ward., Immunol. Today 18(12):592-598 (1997); Ghetie et al., Nature Biotechnology, 15(7):637-640 (1997); Hinton et al., J. Biol. Chem. 279(8):6213-6216 (2004); WO2004/92219 (Hinton et al.)を参照のこと)。
インビボでのヒトFcRnへの結合およびヒトFcRn高アフィニティ結合ポリペプチドの血漿半減期は、例えばヒトFcRnを発現するトランスジェニックマウスもしくはトランスフェクトされたヒト細胞株においてまたはバリアントFc領域を伴うポリペプチドが投与される霊長類において測定され得る。WO2000/42072 (Presta) は、FcRに対する結合が増加したまたは減少した抗体バリアントを記載している。例えば、Shields et al. J. Biol. Chem. 9(2):6591-6604 (2001) も参照のこと。
Fcγ受容体
Fcγ受容体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体のFcドメインに結合し得る受容体を指し、これにはFcγ受容体遺伝子によって実質的にコードされるタンパク質のファミリーに属するすべてのメンバーが含まれる。ヒトにおいて、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIcを含むFcγRI (CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)、およびFcγRIIcを含むFcγRII (CD32);ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII (CD16);ならびに未同定のヒトFcγ受容体、Fcγ受容体アイソフォーム、およびそれらのアロタイプのすべてが含まれる。しかしながら、Fcγ受容体はこれらの例に限定されない。Fcγ受容体には、これらに限定されないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサルに由来するものが含まれる。Fcγ受容体は任意の生物に由来してよい。マウスFcγ受容体には、これらに限定されないが、FcγRI (CD64)、FcγRII (CD32)、FcγRIII (CD16)、およびFcγRIII-2 (CD16-2)、ならびに未同定のマウスFcγ受容体、Fcγ受容体アイソフォーム、およびそれらのアロタイプのすべてが含まれる。そのような好ましいFcγ受容体には、例えば、ヒトFcγRI (CD64)、FcγRIIA (CD32)、FcγRIIB (CD32)、FcγRIIIA (CD16)、および/またはFcγRIIIB (CD16) が含まれる。FcγRIのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれRefSeq登録番号NM_000566.3およびRefSeq登録番号NP_000557.1に示され;FcγRIIAのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれRefSeq登録番号BC020823.1およびRefSeq登録番号AAH20823.1に示され;FcγRIIBのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれRefSeq登録番号BC146678.1およびRefSeq登録番号AAI46679.1に示され;FcγRIIIAのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれRefSeq登録番号BC033678.1およびRefSeq登録番号AAH33678.1に示され;ならびにFcγRIIIBのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれRefSeq登録番号BC128562.1およびRefSeq登録番号AAI28563.1に示される。Fcγ受容体がIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体のFcドメインに対する結合活性を有するかどうかは、上記のFACSおよびELISAフォーマットに加えて、ALPHAスクリーン(増幅発光近接ホモジニアスアッセイ)、表面プラズモン共鳴 (SPR) ベースのBIACORE法、およびその他によって評価することができる (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
その一方で、「Fcリガンド」または「エフェクターリガンド」は、抗体Fcドメインに結合してFc/Fcリガンド複合体を形成する分子、および好ましくはポリペプチドを指す。該分子は任意の生物に由来してよい。FcリガンドのFcへの結合は、好ましくは1つまたは複数のエフェクター機能を誘導する。そのようなFcリガンドには、Fc受容体、Fcγ受容体、Fcα受容体、Fcβ受容体、FcRn、C1q、およびC3、マンナン結合レクチン、マンノース受容体、スタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインA、スタフィロコッカスプロテインG、ならびにウイルスFcγ受容体が含まれるが、これらに限定されない。Fcリガンドには、Fcγ受容体と相同なFc受容体のファミリーであるFc受容体ホモログ (FcRH) (Davis et al., (2002) Immunological Reviews 190, 123-136) もまた含まれる。Fcリガンドには、Fcに結合する未同定の分子もまた含まれる。
Fcγ受容体結合活性
FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIA、および/またはFcγRIIIBのいずれかのFcγ受容体に対するFcドメインの結合活性が損なわれていることは、上記のFACSおよびELISAフォーマット、ならびにALPHAスクリーン(増幅発光近接ホモジニアスアッセイ)および表面プラズモン共鳴 (SPR) ベースのBIACORE法を用いることによって評価することができる (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
ALPHAスクリーンは、2種類のビーズ:ドナービーズおよびアクセプタービーズを用いる、下記の原理に基づいたALPHA技術によって実施される。ドナービーズに連結された分子がアクセプタービーズに連結された分子と生物学的に相互作用し、かつ2つのビーズが近接して位置する場合にのみ、発光シグナルが検出される。ドナービーズ内の光増感剤は、レーザー光によって励起されて、ビーズ周辺の酸素を励起状態の一重項酸素に変換する。一重項酸素がドナービーズ周辺に拡散し、近接して位置するアクセプタービーズに到達すると、アクセプタービーズ内の化学発光反応が誘導される。この反応によって最終的に光が放出される。ドナービーズに連結された分子がアクセプタービーズに連結された分子と相互作用しないのであれば、ドナービーズによって生成される一重項酸素はアクセプタービーズに到達せず、化学発光反応は起こらない。
例えば、ビオチン標識された抗原結合分子または抗体をドナービーズに固定化し、グルタチオンSトランスフェラーゼ (GST) でタグ付けされたFcγ受容体をアクセプタービーズに固定化する。競合的変異Fcドメインを含む抗原結合分子または抗体の非存在下では、Fcγ受容体は、野生型Fcドメインを含む抗原結合分子または抗体と相互作用し、結果として520~620 nmのシグナルを誘導する。タグ付けされていない変異Fcドメインを有する抗原結合分子または抗体は、野生型Fcドメインを含む抗原結合分子または抗体と、Fcγ受容体との相互作用に関して競合する。競合の結果としての蛍光の減少を定量化することによって、相対的結合アフィニティを決定することができる。Sulfo-NHS-ビオチンなどを用いて抗体などの抗原結合分子または抗体をビオチン化するための方法は公知である。GSTタグをFcγ受容体に付加するための適切な方法には、Fcγ受容体をコードするポリペプチドとGSTをコードするポリペプチドをインフレームで融合し、該融合遺伝子を保有するベクターが導入された細胞を用いて該遺伝子を発現させ、次いでグルタチオンカラムを用いて精製することを伴う方法が含まれる。誘導されたシグナルは好ましくは、例えば、GRAPHPAD PRISM(GraphPad;San Diego)などのソフトウェアを用いて非線形回帰分析に基づく一部位競合モデルに適合させることにより、解析することができる。
相互作用を観察するための物質の一方を、リガンドとしてセンサーチップの金薄膜上に固定化する。金薄膜とガラスとの境界面で全反射が起こるようにセンサーチップの裏面から光を当てると、ある特定の部位において反射光の強度が部分的に低下する(SPRシグナル)。相互作用を観察するための他方の物質を、分析物としてセンサーチップの表面上に注入する。分析物がリガンドに結合すると、固定化リガンド分子の質量が増加する。これにより、センサーチップの表面上の溶媒の屈折率が変化する。屈折率の変化は、SPRシグナルの位置のシフトを引き起こす(逆に、解離するとシグナルは元の位置にシフトして戻る)。Biacoreシステムでは、上記のシフトの量(すなわち、センサーチップ表面上での質量の変化)を縦軸にプロットし、そのようにして経時的な質量の変化を測定データとして表示する(センサーグラム)。センサーグラムの曲線から動態パラメーター(会合速度定数 (ka) および解離速度定数 (kd))が決定され、これら2つの定数の比率からアフィニティ (KD) が決定される。BIACORE法では、阻害アッセイが好ましく用いられる。そのような阻害アッセイの例は、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103(11), 4005-4010に記載されている。
FcγRIIbに特異的に結合する改変されたFc領域(「Fc領域バリアント」)
1つの局面において、本開示の多重特異性抗原結合分子は、第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する改変されたFc領域(「Fc領域バリアント」)を含む第2の抗原結合部分を含む。
1つの局面において、本開示の多重特異性抗原結合分子は、FcgRIIBに特異的に結合する改変されたFc領域(「Fc領域バリアント」)を含む第2の抗原結合部分を含む。
1つの態様において、FcgRIIBに特異的に結合する改変されたFc領域は、天然型IgG抗体Fc領域を含有するポリペプチドと比較して、FcγRIIb結合活性を維持しつつ、全ての活性化FcγR、特にFcγRIIa(R型)への結合活性を低下させることができる。
より具体的には、本発明は、EUナンバリングによる238位でのアミノ酸改変が他の特定のアミノ酸改変と組み合わされているアミノ酸配列を含む、Fc領域バリアントを提供する。
さらに、本発明は、天然型IgG抗体Fc領域を含有するポリペプチドのものと比較して、そのFcγRIIb結合活性を維持しつつ、全ての活性化FcγR、特にFcγRIIa(R型)へのその結合活性を減少させるために、アミノ酸改変をFc領域に導入する方法を提供する。
いくつかの態様において、本開示のFcγRIIbに特異的に結合する改変されたFc領域(「Fc領域バリアント」)は、ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)のFc領域において、EUナンバリングによる238位でのアミノ酸から別のアミノ酸への改変と、以下の(a)~(k)のアミノ酸のいずれか1つから別のアミノ酸への改変とを組み合わせるアミノ酸改変を含む、Fc領域バリアントを含む。Fc領域への改変の導入は、天然型IgGのFc領域を含むポリペプチドのものと比較してFcγRIIb結合活性を維持しつつ、全ての活性化FcγR、特にFcγRIIa(R型)への低下した結合活性を有するFc領域バリアントを含むポリペプチドを提供することができる:
(a)EUナンバリングによるFc領域の235位のアミノ酸;
(b)EUナンバリングによるFc領域の237位のアミノ酸;
(c)EUナンバリングによるFc領域の241位のアミノ酸;
(d)EUナンバリングによるFc領域の268位のアミノ酸;
(e)EUナンバリングによるFc領域の295位のアミノ酸;
(f)EUナンバリングによるFc領域の296位のアミノ酸;
(g)EUナンバリングによるFc領域の298位のアミノ酸;
(h)EUナンバリングによるFc領域の323位のアミノ酸;
(i)EUナンバリングによるFc領域の324位のアミノ酸;
(j)EUナンバリングによるFc領域の330位のアミノ酸;および
(k)(a)~(j)から選択される少なくとも2つのアミノ酸。
所望の結合活性を有する抗体を産生するための方法
所望の結合活性を有する抗体を産生するための方法は当業者に公知である。以下は、Notch受容体に結合する抗体(抗Notch受容体抗体)を産生するための方法を記載する例である。
第2の標的細胞または第3の標的細胞上のアンカー抗原に結合する抗体もまた、以下に記載される例により産生することができる。
抗Notch受容体抗体は、公知の方法を用いてポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体として得ることができる。好適に産生される抗Notch受容体抗体は、哺乳動物に由来するモノクローナル抗体である。そのような哺乳動物由来のモノクローナル抗体には、遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を保有する発現ベクターで形質転換されたハイブリドーマまたは宿主細胞によって産生された抗体が含まれる。
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、例えば以下に記載されるような、公知の技術を用いて産生することができる。具体的には、Notch受容体タンパク質を感作抗原として用いて、従来の免疫方法によって哺乳動物を免疫化する。その結果生じた免疫細胞を、従来の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させる。次いで、従来のスクリーニング方法を用いてモノクローナル抗体産生細胞についてスクリーニングすることによって、抗Notch受容体抗体を産生するハイブリドーマを選択することができる。
具体的には、モノクローナル抗体は以下に記述されるように調製される。まず、Notch1(NP_060087.3または P46531)、Notch2(NP_077719.2(アイソフォーム1)もしくはNP_001186930.1(アイソフォーム2))、Notch3(NP_000426.2)、またはNotch4(NP_004548.3またはQ99466)のRefSeqアクセッション番号にそのヌクレオチド配列が開示されているNotch受容体遺伝子を発現させて、以下のように示されるNotch受容体タンパク質を産生することができる。(ヒトNotch受容体1のアミノ酸配列:Genbankアクセッション番号P46531、ヒトNotch受容体2:Genbankアクセッション番号AAH71562.2、ヒトNotch受容体3:Genbankアクセッション番号AAB91371.1、ヒトNotch受容体4:Genbankアクセッション番号AAC63097.1.)。
これらのタンパク質は、抗体調製のための感作抗原として用いられる。あるいは、Notch受容体の細胞外ドメイン(ECD)をコードするヌクレオチドを発現させて、Notch受容体 ECD含有タンパク質を産生することができる。すなわち、全長Notch受容体またはNotch受容体 ECDをコードする遺伝子配列が、公知の発現ベクターに挿入され、適切な宿主細胞がこのベクターによって形質転換される。Notch受容体の細胞外ドメインを用いることができる。所望のヒト全長Notch受容体またはNotch受容体 ECDタンパク質は、公知の方法によって宿主細胞またはそれらの培養上清から精製される。あるいは、精製された天然型Notch受容体タンパク質を感作抗原として用いることが可能である。
精製された全長Notch受容体またはNotch受容体 ECDタンパク質は、哺乳動物の免疫化における使用のための感作抗原として用いることができる。全長Notch受容体またはNotch受容体 ECDの部分ペプチドもまた、感作抗原として用いることができる。この場合、部分ペプチドは、ヒトNotch受容体アミノ酸配列からの化学合成によって得てもよい。さらに、それらは、Notch受容体遺伝子の一部を発現ベクターに組み入れて、それを発現させることによって得てもよい。さらに、それらは、プロテアーゼを用いてNotch受容体タンパク質を分解することによって得てもよいが、部分ペプチドとして用いるNotch受容体ペプチドの領域およびサイズは、特別な態様に特に限定されない。
あるいは、全長Notch受容体またはNotch受容体ECDタンパク質の所望の部分ポリペプチドまたはペプチドを異なるポリペプチドと融合することによって調製された融合タンパク質を感作抗原として用いることも可能である。例えば、感作抗原として用いられる融合タンパク質を産生するために、抗体のFc断片およびペプチドタグが好適に用いられる。そのような融合タンパク質を発現させるためのベクターは、2つまたはそれ以上の所望のポリペプチド断片をコードする遺伝子をインフレームで融合し、該融合遺伝子を上記のように発現ベクターに挿入することによって構築することができる。融合タンパク質を産生するための方法は、Molecular Cloning 2nd ed. (Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58(1989)Cold Spring Harbor Lab. Press) に記載されている。感作抗原として用いられるNotch受容体を調製するための方法およびNotch受容体を用いた免疫方法はまた、一般に公知である。
該感作抗原で免疫化される哺乳動物について、特に限定はない。しかしながら、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して哺乳動物を選択するのが好ましい。一般的には、げっ歯類、例えばマウス、ラット、およびハムスター、ウサギ、ならびにサルが好適に使用される。
公知の方法によって上記の動物が感作抗原により免疫化される。例えば、一般的に実施される免疫方法は、哺乳動物への感作抗原の腹腔内注射または皮下注射を含む。具体的には、感作抗原は、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)、生理食塩水等で適当に希釈される。所望により、従来のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントが該抗原と混合され、該混合物が乳化される。次いで、該感作抗原が哺乳動物に4~21日毎に数回投与される。感作抗原による免疫化においては適当な担体が使用され得る。特に低分子量の部分ペプチドが感作抗原として用いられる場合には、免疫化のためにアルブミンまたはキーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と該感作抗原ペプチドを結合させることが望ましい場合もある。
あるいは、所望の抗体を産生するハイブリドーマを、以下のようにDNA免疫を使用して調製することができる。DNA免疫とは、抗原タンパク質をコードする遺伝子が動物中で発現され得るように構築されたベクターDNAを投与することにより免疫化動物中で感作抗原を発現させることによって、免疫刺激が与えられる免疫方法である。タンパク質抗原が免疫化動物に投与される従来の免疫方法と比べて、DNA免疫は、次の点で優位性が期待される:
-Notch受容体のような膜タンパク質の構造を維持しながら免疫刺激が与えられ得る;および
-免疫化のための抗原を精製する必要が無い。
DNA免疫を用いて本発明のモノクローナル抗体を調製するために、まず、Notch受容体タンパク質を発現するDNAが免疫化動物に投与される。Notch受容体をコードするDNAは、PCRなどの公知の方法によって合成され得る。得られたDNAが適当な発現ベクターに挿入され、次いでこのベクターが免疫化動物に投与される。好適に使用される発現ベクターとしては、例えば、pcDNA3.1などの市販の発現ベクターが挙げられる。ベクターは、従来の方法を用いて生物に投与され得る。例えば、遺伝子銃を用いて、発現ベクターでコーティングされた金粒子を免疫化動物の体内の細胞内に導入することによって、DNA免疫が実施される。また、Notch受容体を認識した抗体は、WO2003/104453に記載された方法によっても産生され得る。
上記のように哺乳動物が免疫化された後、血清中でNotch受容体結合抗体の力価の上昇が確認される。その後、哺乳動物から免疫細胞が採取され、次いで細胞融合に供される。特に脾細胞が免疫細胞として好適に使用される。
上記免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーは、細胞に、特定の培養条件の下で生存する(あるいは死滅する)ための特質を与える。選択マーカーとしては、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下HGPRT欠損と省略する)、およびチミジンキナーゼ欠損(以下TK欠損と省略する)が公知である。HGPRTまたはTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン感受性(以下HAT感受性と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができないため死滅する。しかしながら、該細胞が正常な細胞と融合すると、正常細胞のサルベージ経路を利用してDNAの合成を継続することができるため、該細胞はHAT選択培地中であっても増殖できる。
HGPRT欠損およびTK欠損の細胞は、それぞれ、6-チオグアニン、8-アザグアニン(以下8AGと省略する)、あるいは5'-ブロモデオキシウリジンを含む培地中で選択され得る。正常な細胞は、これらのピリミジンアナログをDNA中に取り込むため、死滅する。一方、これらの酵素を欠損した細胞は、これらのピリミジンアナログを取り込めないため、選択培地中で生存することができる。さらに、ネオマイシン耐性遺伝子によってもたらされるG418耐性と呼ばれる選択マーカーは、2-デオキシストレプタミン抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。
例えば、以下の細胞を含むミエローマ細胞が好適に使用され得る:P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol. (1979) 123 (4), 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology (1978)81, 1-7)、NS-1(C. Eur. J. Immunol. (1976)6 (7), 511-519)、MPC-11(Cell (1976) 8 (3), 405-415)、SP2/0(Nature (1978) 276 (5685), 269-270)、FO(J. Immunol. Methods (1980) 35 (1-2), 1-21)、S194/5.XX0.BU.1(J. Exp. Med. (1978) 148 (1), 313-323)、R210(Nature (1979) 277 (5692), 131-133)等。
基本的には、公知の方法、例えば、KohlerおよびMilsteinらの方法(Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46)を用いて、免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合が行われる。
より具体的には、例えば、細胞融合促進剤の存在下で従来の培地中で、細胞融合が行われ得る。融合促進剤には、例えばポリエチレングリコール(PEG)およびセンダイウイルス(HVJ)が含まれる。必要に応じて、融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助物質も添加される。
免疫細胞とミエローマ細胞の割合は任意に設定され得、例えば、免疫細胞1~10に対してミエローマ細胞1が好ましい。細胞融合に用いる培地としては、例えば、RPMI1640培地およびMEM培地等のミエローマ細胞株の増殖に好適な培地、ならびにこの種の細胞培養に用いられる他の従来の培地が挙げられる。さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液が培地に好適に添加され得る。
細胞融合のためには、上記免疫細胞とミエローマ細胞の所定量を上記培地中でよく混合する。次いで、予め37℃程度に加温されたPEG溶液(例えば平均分子量が1000から6000程度)を通常30%~60%(w/v)の濃度でそこに添加する。これを緩やかに混合すると所望の融合細胞(ハイブリドーマ)が産生される。次いで、上記の適当な培地が細胞に逐次添加され、これを繰り返し遠心して上清を除去する。このようにして、ハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去され得る。
このようにして得られたハイブリドーマは、従来の選択培地、例えばHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培地)を用いて培養することにより選択され得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)は、上記HAT培地中での培養を十分な期間継続することによって死滅し得る。通常、この期間は数日から数週間である。次いで、従来の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングおよび単一クローニングする。
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに基づく選択培地を用いて選択され得る。例えばHGPRT欠損細胞またはTK欠損細胞は、HAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培地)を用いて培養することにより選択され得る。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、正常細胞との融合に成功した細胞がHAT培地中で選択的に増殖し得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)は、上記HAT培地中での培養を十分な期間継続することによって死滅し得る。具体的には、一般的に数日から数週間の培養によって、所望のハイブリドーマが選択され得る。次いで、従来の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングおよび単一クローニングする。
所望の抗体は、公知の抗原/抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に選択および単一クローニングされ得る。例えば、Notch受容体に結合するモノクローナル抗体は、細胞表面上に発現したNotch受容体に結合することができる。そのようなモノクローナル抗体は、蛍光活性化細胞選別(FACS)によってスクリーニングされ得る。FACSは、蛍光抗体と接触させた細胞をレーザー光で解析し、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって細胞または細胞表面への抗体の結合を評価するシステムである。
FACSによって本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングするためには、まずNotch受容体を発現する細胞を調製する。スクリーニングのために好適に用いられる細胞は、Notch受容体を強制発現させた哺乳動物細胞である。対照としては、宿主細胞としての形質転換されていない哺乳動物細胞を用いて、細胞表面のNotch受容体に対する抗体の結合活性が選択的に検出され得る。すなわち、Notch受容体強制発現細胞には結合するが宿主細胞には結合しない抗体を産生するハイブリドーマを選択することによって、抗Notch受容体モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが単離され得る。
あるいは、固定化したNotch受容体発現細胞に対する抗体の結合活性がELISAの原理に基づいて評価され得る。例えば、ELISAプレートのウェルにNotch受容体発現細胞が固定化される。ハイブリドーマの培養上清をウェル内の固定化細胞に接触させ、固定化細胞に結合する抗体が検出される。モノクローナル抗体がマウス由来の場合、細胞に結合した抗体は、抗マウス免疫グロブリン抗体を用いて検出され得る。抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマは上記のスクリーニングによって選択され、これらは限界希釈法等によりクローニングされ得る。
このようにして調製されるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマは従来の培地中で継代培養され得、液体窒素中で長期にわたって保存され得る。
上記ハイブリドーマを従来の方法によって培養し、その培養上清から所望のモノクローナル抗体が調製され得る。あるいはハイブリドーマを、適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水からモノクローナル抗体が調製される。前者の方法は、高純度の抗体を調製するのに好適である。
上記のハイブリドーマ等の抗体産生細胞からクローニングされる抗体遺伝子によってコードされる抗体も好適に利用され得る。クローニングした抗体遺伝子を適当なベクターに挿入し、これを宿主に導入して、当該遺伝子によってコードされる抗体を発現させる。抗体遺伝子の単離、当該遺伝子のベクターへの挿入、および宿主細胞の形質転換のための方法は、例えばVandammeらによって既に確立されている(Eur.J. Biochem. (1990) 192(3), 767-775)。下記に述べるように組換え抗体を産生するための方法もまた公知である。
好ましくは、本発明は、本発明の多重特異性抗原結合分子をコードする核酸を提供する。本発明はまた、該多重特異性抗原結合分子をコードする核酸が導入されたベクター、すなわち該核酸を含むベクターを提供する。さらに、本発明は、該核酸または該ベクターを含む細胞を提供する。本発明はまた、該細胞を培養することによって、該多重特異性抗原結合分子を産生するための方法を提供する。本発明はさらに、該方法によって産生された多重特異性抗原結合分子を提供する。
例えば、抗Notch受容体抗体を発現するハイブリドーマ細胞から、抗Notch受容体抗体の可変領域(V領域)をコードするcDNAが調製される。そのために、まずハイブリドーマから全RNAが抽出される。細胞からmRNAを抽出するために用いられる方法としては、例えば次のものが挙げられる:
-グアニジン超遠心法(Biochemistry (1979) 18(24), 5294-5299)、および
-AGPC法(Anal. Biochem. (1987) 162(1), 156-159)。
抽出されたmRNAは、mRNA Purification Kit(GE Healthcare Bioscience)等を使用して精製され得る。あるいは、QuickPrep mRNA Purification Kit (GE Healthcare Bioscience)などの、細胞から直接全mRNAを抽出するためのキットも市販されている。そのようなキットを用いて、ハイブリドーマからmRNAが調製され得る。調製されたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域をコードするcDNAが合成され得る。cDNAは、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社)等を用いて合成され得る。また、cDNAの合成および増幅のために、SMART RACE cDNA 増幅キット(Clontech)およびPCRに基づく5'-RACE法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1988) 85(23), 8998-9002、Nucleic Acids Res. (1989) 17(8), 2919-2932)が適宜利用され得る。こうしたcDNAの合成の過程において、後述する適切な制限酵素サイトがcDNAの両末端に導入され得る。
得られたPCR産物から目的とするcDNA断片が精製され、次いでベクターDNAと連結される。このように組換えベクターが構築され、大腸菌(E.coli)等に導入される。コロニーが選択された後に、該コロニーを形成した大腸菌から所望の組換えベクターが調製され得る。そして、該組換えベクターが目的とするcDNAヌクレオチド配列を有しているかどうかについて、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法により試験される。
可変領域をコードする遺伝子を単離するためには、プライマーを用いて可変領域遺伝子を増幅する5'-RACE法が簡便に用いられる。まず、ハイブリドーマ細胞より抽出されたRNAを鋳型として用いたcDNA合成によって、5'-RACE cDNAライブラリが構築される。5'-RACE cDNAライブラリの合成にはSMART RACE cDNA 増幅キットなど市販のキットが適宜用いられる。
調製された5'-RACE cDNAライブラリを鋳型として用いたPCRによって抗体遺伝子が増幅される。公知の抗体遺伝子配列に基づき、マウス抗体遺伝子増幅用のプライマーがデザインされ得る。これらのプライマーのヌクレオチド配列は、免疫グロブリンのサブクラスごとに異なる。したがって、Iso Stripマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(Roche Diagnostics)などの市販キットを用いてサブクラスを予め決定しておくことが好ましい。
具体的には、例えば、マウスIgGをコードする遺伝子を単離するためには、γ1、γ2a、γ2bおよびγ3重鎖、ならびにκおよびλ軽鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーが利用される。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に、3'側のプライマーとして、可変領域に近い定常領域部位にアニールするプライマーが利用される。一方5'側のプライマーとしては、5' RACE cDNAライブラリ構築キットに付属するプライマーが利用される。
こうして増幅されたPCR産物を利用して、重鎖と軽鎖の組合せからなる免疫グロブリンが再構成される。再構成された免疫グロブリンのNotch受容体結合活性を指標として用いて、所望の抗体が選択され得る。例えばNotch受容体に対する抗体の単離を目的とするとき、抗体のNotch受容体への結合は、特異的であることがさらに好ましい。Notch受容体に結合する抗体は、例えば次の工程によってスクリーニングされ得る:
(1)ハイブリドーマから単離されたcDNAによってコードされるV領域を含む抗体をNotch受容体発現細胞に接触させる工程、
(2)Notch受容体発現細胞と抗体との結合を検出する工程、および
(3)Notch受容体発現細胞に結合する抗体を選択する工程。
抗体とNotch受容体発現細胞との結合を検出するための方法は公知である。具体的には、先に述べたFACSなどの手法によって、抗体とNotch受容体発現細胞との結合が検出され得る。抗体の結合活性を評価するためにNotch受容体発現細胞の固定試料が適宜利用される。
結合活性を指標として用いる好ましい抗体スクリーニング方法としては、ファージベクターを利用したパニング法も挙げられる。抗体遺伝子をポリクローナルな抗体発現細胞集団からの重鎖と軽鎖のサブクラスのライブラリより単離した場合には、ファージベクターを利用したスクリーニング方法が有利である。重鎖と軽鎖の可変領域をコードする遺伝子は、適当なリンカー配列で連結して単鎖Fv(scFv)を形成することができる。scFvをコードする遺伝子をファージベクターに挿入することにより、scFvを表面に提示するファージが産生され得る。このファージを目的の抗原と接触させる。その後、抗原に結合したファージを回収することによって、目的の結合活性を有するscFvをコードするDNAが単離され得る。この過程を必要に応じて繰り返すことにより、所望の結合活性を有するscFvが濃縮され得る。
目的とする抗Notch受容体抗体のV領域をコードするcDNAが単離された後に、当該cDNAの両末端に導入した制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗体遺伝子のヌクレオチド配列において出現する頻度が低いヌクレオチド配列を認識して切断する。さらに、1コピーの消化断片を正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える酵素の制限酵素サイトをベクターに導入するのが好ましい。抗Notch受容体抗体のV領域をコードするcDNAを上記のように消化し、適当な発現ベクターに挿入することによって、抗体発現ベクターが構築される。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記V領域をコードする遺伝子とがインフレームで融合されれば、キメラ抗体が取得される。ここで、「キメラ抗体」とは、定常領域の起源が可変領域の起源とは異なることを意味する。したがって、マウス/ヒト異種キメラ抗体に加え、ヒト/ヒト同種キメラ抗体も、本発明のキメラ抗体に含まれる。予め定常領域を有する発現ベクターに、前記V領域遺伝子を挿入することによって、キメラ抗体発現ベクターが構築され得る。具体的には、例えば、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを保有する発現ベクターの5'側に、前記V領域遺伝子を切除する制限酵素の認識配列が適宜配置され得る。同じ組合せの制限酵素で消化された両遺伝子がインフレームで融合されることによって、キメラ抗体発現ベクターが構築される。
抗Notch受容体モノクローナル抗体を産生するために、抗体遺伝子が発現制御領域による制御の下で発現するように発現ベクターに挿入される。抗体を発現するための発現制御領域には、例えば、エンハンサーおよびプロモーターが含まれる。さらに、発現した抗体が細胞外に分泌されるように、適切なシグナル配列がアミノ末端に付加され得る。後に記載される実施例では、アミノ酸配列MGWSCIILFLVATATGVHS(配列番号:17)を有するペプチドをシグナル配列として使用している。一方、他の適切なシグナル配列が付加されてもよい。発現されたポリペプチドは上記配列のカルボキシル末端で切断され、その結果生じたポリペプチドが成熟ポリペプチドとして細胞外に分泌される。次いで、この発現ベクターによって適当な宿主細胞が形質転換され、抗Notch受容体抗体をコードするDNAを発現する組換え細胞が取得される。
抗体遺伝子の発現のために、抗体重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)をコードするDNAが、別々に異なる発現ベクターに挿入される。H鎖遺伝子およびL鎖遺伝子がそれぞれ挿入されたベクターによって、同じ宿主細胞が同時にトランスフェクト(co-transfect)されることによって、H鎖とL鎖を備えた抗体分子が発現され得る。あるいは、H鎖およびL鎖をコードするDNAが挿入された単一の発現ベクターによって、宿主細胞が形質転換され得る(WO94/11523を参照のこと)。
単離された抗体遺伝子を適当な宿主に導入することによって抗体を調製するための宿主細胞/発現ベクターの様々な組合せが公知である。これらの発現系は、いずれも本発明の抗体可変領域を含むドメインを単離するのに応用され得る。宿主細胞として使用される適当な真核細胞としては、動物細胞、植物細胞、および真菌細胞が挙げられる。具体的には、動物細胞としては、例えば次のような細胞が挙げられる。
(1)哺乳動物細胞:CHO、COS、ミエローマ、仔ハムスター腎細胞(BHK)、HeLa、Veroなど;
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など;および
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など。
さらに、植物細胞としては、ニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)などのニコティアナ(Nicotiana)属由来の細胞を用いた抗体遺伝子発現系が公知である。植物細胞の形質転換には、カルス培養した細胞が適宜利用され得る。
さらに真菌細胞としては、次のような細胞を利用することができる。
酵母:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces)属、およびピキア・パストリス(Pichia pastoris)などのピキア(Pichia)属;および
糸状菌:アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus)属。
さらに、原核細胞を利用した抗体遺伝子発現系も公知である。例えば、細菌細胞を用いる場合、大腸菌細胞、枯草菌(Bacillus subtilis)細胞などが本発明において適宜利用され得る。これらの細胞中に、目的とする抗体遺伝子を保有する発現ベクターがトランスフェクションによって導入される。トランスフェクトされた細胞をインビトロで培養し、当該形質転換細胞の培養物から所望の抗体が調製され得る。
組換え抗体の産生には、上記宿主細胞に加えて、トランスジェニック動物も利用され得る。すなわち目的の抗体をコードする遺伝子が導入された動物から、当該抗体を得ることができる。例えば、抗体遺伝子は、乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子の内部にインフレームで挿入することによって融合遺伝子として構築され得る。乳汁中に分泌されるタンパク質として、例えば、ヤギβカゼインなどが利用され得る。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片はヤギの胚へ注入され、次いでこの胚が雌のヤギへ導入される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ(またはその子孫)が産生する乳汁から、所望の抗体が乳汁タンパク質との融合タンパク質として取得され得る。また、トランスジェニックヤギにより産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、必要に応じてホルモンがトランスジェニックヤギに対して投与され得る(Ebert, K. M. et al., Bio/Technology (1994) 12 (7), 699-702)。
ヒト化抗体を産生するための方法
本明細書において記載される抗原結合分子がヒトに投与される場合、当該抗原結合分子の抗体可変領域を含むドメインとして、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体由来のドメインが適宜使用され得る。そのような遺伝子組換え型抗体には、例えば、ヒト化抗体が含まれる。これらの改変抗体は、公知の方法により適宜産生される。さらに、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を他の抗体に導入することができる。
具体的には、非ヒト動物の抗体、例えばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植することによって調製したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子工学的手法も公知である。具体的には、マウス抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、例えばオーバーラップエクステンションPCRが公知である。オーバーラップエクステンションPCRにおいては、ヒト抗体のFRを合成するためのプライマーに、移植すべきマウス抗体のCDRをコードするヌクレオチド配列が付加される。プライマーは4つのFRのそれぞれについて用意される。一般に、マウスCDRのヒトFRへの移植においては、マウスのFRと同一性の高いヒトFRを選択するのが、CDRの機能の維持において有利であるとされている。すなわち、一般に、移植すべきマウスCDRに隣接しているFRのアミノ酸配列と同一性の高いアミノ酸配列を含むヒトFRを利用するのが好ましい。
連結されるヌクレオチド配列は、互いにインフレームで接続されるようにデザインされる。それぞれのプライマーを用いてヒトFRが個別に合成される。その結果、FRをコードする各DNAにマウスCDRをコードするDNAが付加された産物が得られる。各産物のマウスCDRをコードするヌクレオチド配列は、互いにオーバーラップするようにデザインされている。続いて、相補鎖合成反応が行われ、ヒト抗体遺伝子を鋳型として用いて合成された産物のオーバーラップしたCDR領域をアニールさせる。この反応によって、ヒトFRがマウスCDR配列を介して連結される。
最終的に3つのCDRと4つのFRが連結された全長V領域遺伝子は、その5'末端または3'末端にアニールするプライマーを用いて増幅され、該末端には適当な制限酵素認識配列が付加される。上記のように得られたDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとをインフレームで連結するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト化抗体用発現ベクターを産生することができる。該組換えベクターを宿主にトランスフェクトして組換え細胞を樹立した後に、該組換え細胞を培養し、該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、該ヒト化抗体が該細胞培養物中に産生される(欧州特許出願公開EP 239400、および国際公開公報WO1996/002576参照)。
上記のように産生されたヒト化抗体の抗原結合活性を定性的または定量的に測定し評価することによって、CDRを介してヒト抗体FRが連結されたときに該CDRが良好な抗原結合部位を形成可能であるヒト抗体FRを、好適に選択できる。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。例えば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。より具体的には、FRにアニールするプライマーに部分的なヌクレオチド配列の変異を導入することができる。そのようなプライマーを用いて合成されたFRには、ヌクレオチド配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原への結合活性を上記の方法で測定し評価することによって、所望の性質を有する変異FR配列が選択され得る(Sato, K. et al., Cancer Res. (1993) 53: 851-856)。
ヒト抗体を産生するための方法
または、DNA免疫により、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物(WO1993/012227、WO1992/003918、WO1994/002602、WO1994/025585、WO1996/034096、WO1996/033735参照)を免疫化することによって、所望のヒト抗体が取得され得る。
さらに、ヒト抗体ライブラリを用いて、パニングによりヒト抗体を調製する技術も公知である。例えば、ヒト抗体のV領域が単鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現される。抗原に結合するscFvを発現するファージが選択され得る。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列が決定される。当該V領域配列を所望のヒト抗体のC領域配列とインフレームで融合させ、適当な発現ベクターに挿入することによって、発現ベクターが調製される。当該発現ベクターを、上記の細胞のような発現に好適な細胞中に導入する。該ヒト抗体をコードする遺伝子を該細胞中で発現させることにより当該ヒト抗体が産生される。これらの方法は既に公知である(WO1992/001047、WO1992/020791、WO1993/006213、WO1993/011236、WO1993/019172、WO1995/001438、WO1995/015388参照)。
エピトープ
「エピトープ」は、抗原中の抗原決定基を意味し、本明細書において開示される抗原結合分子または抗体の抗原結合ドメインが結合する抗原上の部位のことをいう。よって、例えば、エピトープは、その構造によって定義され得る。あるいは、当該エピトープを認識する抗原結合分子または抗体の抗原結合活性によって当該エピトープが定義され得る。抗原がペプチドまたはポリペプチドである場合には、エピトープを形成するアミノ酸残基によってエピトープを特定することも可能である。あるいは、エピトープが糖鎖である場合には、特定の糖鎖構造によってエピトープを特定することも可能である。
直線状エピトープは、そのアミノ酸一次配列が認識されるエピトープを含むエピトープである。そのような直線状エピトープは、典型的には、少なくとも3つ、および最も普通には少なくとも5つ、例えば約8~10個または6~20個のアミノ酸を、その固有の配列中に含む。
「立体構造エピトープ」は、直線状エピトープとは対照的に、エピトープを含むアミノ酸一次配列が、認識されるエピトープの単一の決定因子ではないエピトープである(例えば、立体構造エピトープのアミノ酸一次配列は、必ずしも、エピトープを規定する抗体により認識されない)。立体構造エピトープは、直線状エピトープと比べて増大した数のアミノ酸を包含してもよい。立体構造エピトープを認識する抗原結合ドメインは、ペプチドまたはタンパク質の三次元構造を認識する。例えば、タンパク質分子が折り畳まれて三次元構造を形成する場合には、立体構造エピトープを形成するアミノ酸および/またはポリペプチド主鎖は、並列となり、エピトープは、抗原結合ドメインにより認識可能となる。エピトープの立体構造を決定するための方法には、例えばX線結晶学、二次元核磁気共鳴、部位特異的なスピン標識および電子常磁性共鳴が含まれるが、これらには限定されない。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology (1996), Vol. 66, Morris (ed.)を参照されたい。
抗Notch受容体抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体によるエピトープ結合を評価するための方法の例が、以下に記載される。以下の例に従って、Notch受容体以外の抗原に対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体によるエピトープ結合を評価する方法もまた、適宜行うことができる。
例えば、抗Notch受容体抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体が、Notch受容体分子中の直線状エピトープを認識するかどうかは、例えば下記のように確認することができる。上記の目的のために、Notch受容体の細胞外ドメインを形成するアミノ酸配列を含む線状ペプチドを合成する。該ペプチドは化学的に合成することができ、またはNotch受容体cDNA中の細胞外ドメインに相当するアミノ酸配列をコードする領域を用いて遺伝子工学的手法によって得ることができる。次いで、抗Notch受容体抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体を、該細胞外ドメインを形成するアミノ酸配列を含む線状ペプチドに対するその結合活性について評価する。例えば、ELISAによって、固定化した線状ペプチドを抗原として用いて、該ペプチドに対するポリペプチド複合体の結合活性を評価することができる。あるいは、線状ペプチドが、Notch受容体発現細胞に対する抗原結合分子または抗体の結合を阻害するレベルに基づいて、線状ペプチドに対する結合活性を評価することもできる。これらの試験によって、線状ペプチドに対する抗原結合分子または抗体の結合活性が実証され得る。
抗Notch受容体抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体が立体構造エピトープを認識するかどうかは、以下のように評価することができる。上記の目的のために、Notch受容体発現細胞を調製する。抗Notch受容体抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体が、接触した際にNotch受容体発現細胞には強く結合するが、Notch受容体の細胞外ドメインを形成するアミノ酸配列を含む固定化線状ペプチドには実質的に結合しない場合、それは立体構造エピトープを認識すると判定され得る。本明細書において、「実質的に結合しない」とは、結合活性が、Notch受容体を発現する細胞に対する結合活性と比較して80%以下、一般的に50%以下、好ましくは30%以下、および特に好ましくは15%以下であることを意味する。
抗Notch受容体抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体のNotch受容体発現細胞に対する結合活性をアッセイするための方法には、例えば、Antibodies: A Laboratory Manual (Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988) 359-420) に記載される方法が含まれる。具体的には、評価は、Notch受容体発現細胞を抗原として用いて、ELISAまたは蛍光活性化細胞選別 (FACS) の原理に基づいて行うことができる。
ELISAフォーマットにおいて、抗Notch受容体抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体のNotch受容体発現細胞に対する結合活性は、酵素反応によって生じるシグナルのレベルを比較することによって定量的に評価することができる。具体的には、被験ポリペプチド複合体を、Notch受容体発現細胞が固定化されたELISAプレートに添加する。次いで、細胞に結合している被験抗原結合分子または抗体を、該被験抗原結合分子または抗体を認識する酵素標識抗体を用いて検出する。あるいは、FACSが用いられる場合には、被験抗原結合分子または抗体の希釈系列を調製し、Notch受容体発現細胞に対する抗体結合力価を決定して、Notch受容体発現細胞に対する被験抗原結合分子または抗体の結合活性を比較することができる。
緩衝液等に懸濁された細胞または細胞表面上に発現している抗原に対する被験抗原結合分子または抗体の結合は、フローサイトメーターを用いて検出することができる。公知のフローサイトメーターには、例えば以下の装置が含まれる:
FACSCanto(商標)II
FACSAria(商標)
FACSArray(商標)
FACSVantage(商標)SE
FACSCalibur(商標)(いずれもBD Biosciencesの商品名)
EPICS ALTRA HyPerSort
Cytomics FC 500
EPICS XL-MCL ADC EPICS XL ADC
Cell Lab Quanta/Cell Lab Quanta SC(いずれもBeckman Coulterの商品名)。
抗Notch受容体抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体の抗原に対する結合活性をアッセイするための好ましい方法には、例えば以下の方法が含まれる。最初に、Notch受容体発現細胞を被験抗原結合分子または抗体と反応させ、次いで該抗原結合分子または抗体を認識するFITC標識二次抗体でこれを染色する。被験抗原結合分子または抗体は、所望の濃度の抗原結合分子または抗体を調製するために、適切な緩衝液で適宜希釈する。例えば、抗原結合分子または抗体は、10μg/ml~10 ng/mlの範囲内の濃度で用いることができる。次いで、FACSCalibur (BD) を用いて、蛍光強度および細胞数を決定する。CELL QUEST Software (BD) を用いた解析によって得られた蛍光強度、すなわち幾何平均値は、細胞に結合している抗体の量を反映する。すなわち、幾何平均(Geo-mean)値を測定することにより、結合している被験抗原結合分子または抗体の量によって表される被験抗原結合分子または抗体の結合活性を決定することができる。
抗Notch受容体抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体が、別の抗原結合分子または抗体と共通のエピトープを共有するかどうかは、同じエピトープに対する2つの抗原結合分子または抗体間の競合に基づいて評価することができる。抗原結合分子または抗体間の競合は、交叉ブロッキングアッセイ等によって検出することができる。例えば、競合ELISAアッセイは好ましい交叉ブロッキングアッセイである。
具体的には、交叉ブロッキングアッセイでは、マイクロタイタープレートのウェルに固定化されたNotch受容体タンパク質を、候補競合物の抗原結合分子もしくは抗体の存在下または非存在下でプレインキュベートし、次いで被験抗原結合分子または抗体をそこへ添加する。ウェル中のNotch受容体タンパク質に結合している被験抗原結合分子または抗体の量は、同じエピトープへの結合に関して競合する候補競合物抗原結合分子または抗体の結合能と間接的に相関する。すなわち、同じエピトープに対する競合物抗原結合分子または抗体のアフィニティが高ければ高いほど、被験抗原結合分子または抗体のNotch受容体タンパク質コーティングウェルに対する結合活性はより低くなる。
Notch受容体タンパク質を介してウェルに結合している被験抗原結合分子または抗体の量は、該抗原結合分子または抗体を予め標識しておくことにより、容易に決定することができる。例えば、ビオチン標識された抗原結合分子または抗体は、アビジン/ペルオキシダーゼコンジュゲートおよび適切な基質を用いて測定される。特に、ペルオキシダーゼなどの酵素標識を用いる交叉ブロッキングアッセイは、「競合ELISAアッセイ」と称される。抗原結合分子または抗体はまた、検出または測定を可能にする他の標識物質で標識することもできる。具体的には、放射標識、蛍光標識等が公知である。
候補競合物の抗原結合分子または抗体が、該競合物抗原結合分子または抗体の非存在下で行われた対照実験における結合活性と比較して、抗Notch受容体抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体による結合を少なくとも20%、好ましくは少なくとも20~50%、およびより好ましくは少なくとも50%ブロックし得る場合、該被験抗原結合分子または抗体は、該競合物抗原結合分子または抗体が結合する同じエピトープに実質的に結合するか、または同じエピトープへの結合に関して競合すると判定される。
抗Notch受容体抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体が結合するエピトープの構造が既に同定されている場合、被験抗原結合分子または抗体と対照抗原結合分子または抗体が共通のエピトープを共有するかどうかは、該エピトープを形成するペプチドにアミノ酸変異を導入することによって調製されたペプチドに対する両者の抗原結合分子または抗体の結合活性を比較することによって評価することができる。
上記の結合活性を測定するには、例えば、上記のELISAフォーマットにおいて、変異が導入された線状ペプチドに対する被験抗原結合分子または抗体と対照抗原結合分子または抗体の結合活性を比較する。ELISA法に加えて、カラムに被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体を流し、次いで溶出液中に溶出された抗原結合分子または抗体を定量化することによって、カラムに結合している変異ペプチドに対する結合活性を決定することもできる。例えばGST融合ペプチドの形態で、変異ペプチドをカラムに吸着させるための方法は公知である。
あるいは、同定されたエピトープが立体構造エピトープである場合、被験抗原結合分子または抗体と対照抗原結合分子または抗体が共通のエピトープを共有するかどうかは、以下の方法によって評価することができる。最初に、Notch受容体発現細胞、およびエピトープに変異が導入されたNotch受容体を発現する細胞を調製する。これらの細胞をPBSなどの適切な緩衝液に懸濁することによって調製された細胞懸濁液に、被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体を添加する。次いで、細胞懸濁液を緩衝液で適宜洗浄し、該被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体を認識するFITC標識抗体をそこへ添加する。FACSCalibur (BD) を用いて、標識抗体で染色された細胞の蛍光強度および数を決定する。被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体は、適切な緩衝液を用いて適宜希釈し、所望の濃度で使用する。例えば、それらは10μg/ml~10 ng/mlの範囲内の濃度で用いることができる。CELL QUEST Software (BD) を用いた解析によって決定された蛍光強度、すなわち幾何平均値は、細胞に結合している標識抗体の量を反映する。すなわち、幾何平均値を測定することにより、結合している標識抗体の量によって表される被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体の結合活性を決定することができる。
上記の方法において、抗原結合分子または抗体が「変異Notch受容体を発現する細胞に実質的に結合しない」かどうかは、例えば以下の方法によって評価することができる。最初に、変異Notch受容体を発現する細胞に結合している被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体を、標識抗体で染色する。次いで、細胞の蛍光強度を決定する。フローサイトメトリーによる蛍光検出にFACSCaliburが用いられる場合、決定された蛍光強度は、CELL QUEST Softwareを用いて解析することができる。抗原結合分子または抗体の存在下および非存在下における幾何平均値から、以下の式に従って比較値(ΔGeo-Mean)を算出して、抗原結合分子または抗体による結合の結果としての蛍光強度の増加率を決定することができる。
ΔGeo-Mean = Geo-Mean(抗原結合分子または抗体の存在下)/Geo-Mean(抗原結合分子または抗体の非存在下)
変異Notch受容体を発現する細胞に結合している被験抗原結合分子または抗体の量を反映する、上記の解析によって決定された幾何平均比較値(変異Notch受容体分子に対するΔGeo-Mean値)を、Notch受容体発現細胞に結合している被験抗原結合分子または抗体の量を反映するΔGeo-Mean比較値と比較する。この場合、Notch受容体発現細胞および変異Notch受容体を発現する細胞に対するΔGeo-Mean比較値を決定するために用いられる被験抗原結合分子または抗体の濃度は、等しいかまたは実質的に等しくなるように調整されることが特に好ましい。Notch受容体中のエピトープを認識することが確認されている抗原結合分子または抗体が、対照抗原結合分子または抗体として用いられる。
変異Notch受容体を発現する細胞に対する被験抗原結合分子または抗体のΔGeo-Mean比較値が、Notch受容体発現細胞に対する被験抗原結合分子または抗体のΔGeo-Mean比較値よりも少なくとも80%、好ましくは50%、より好ましくは30%、および特に好ましくは15%小さいのであれば、被験抗原結合分子または抗体は、「変異Notch受容体を発現する細胞に実質的に結合しない」。Geo-Mean(幾何平均)値を決定するための式は、CELL QUEST Software User's Guide (BD biosciences) に記載されている。比較によって比較値が実質的に等しいことが示される場合、被験抗原結合分子または抗体と対照抗原結合分子または抗体のエピトープは同じであると判定され得る。
多重特異性抗原結合分子の産生および精製
いくつかの態様において、本開示の多重特異性抗原結合分子は、単離された多重特異性抗原結合分子である。
1つの態様において、本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子は、Fcドメインの2つのサブユニットの一方またはもう一方に融合された、2種類の異なる抗原結合部分(例えば、「第1の抗原結合部分」および「第2の抗原結合部分」)を含み、よって、Fcドメインの2つのサブユニットは典型的には、2本の同一でないポリペプチド鎖に含まれる。これらのポリペプチドの組換え同時発現および続いての二量体化は、2つのポリペプチドの複数の組み合わせの可能性をもたらす。よって、組換え産生における多重特異性抗原結合分子の収量および純度を改善するために、所望のポリペプチドの会合を促進する改変を多重特異性抗原結合分子のFcドメイン中に導入することは有利となる。
したがって、特定の態様において、本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子のFcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する改変を含む。ヒトIgG Fcドメインの2つのサブユニット間での最も広範囲のタンパク質-タンパク質相互作用の部位は、FcドメインのCH3ドメイン中にある。したがって、1つの態様において、該改変はFcドメインのCH3ドメイン中にある。
特定の態様において、該改変は、Fcドメインの2つサブユニットの一方における「ノブ」改変と、Fcドメインの2つのサブユニットのもう一方における「ホール」改変とを含む、いわゆる「ノブ-イントゥ-ホール」改変である。
ノブ-イントゥ-ホール技術は、例えば、米国特許第5,731,168号;米国特許第7,695,936号;Ridgway et al., Prot Eng 9, 617-621 (1996);およびCarter, J Immunol Meth 248, 7-15 (2001)に記載されている。一般に、方法は、突起(「ノブ」)が空隙(「ホール」)中に位置し、ヘテロ二量体の形成を促進しかつホモ二量体の形成を妨げることができるように、突起を第1のポリペプチドの界面に、および対応する空隙を第2のポリペプチドの界面に導入する段階を伴う。突起は、第1のポリペプチドの界面の小さなアミノ酸側鎖を、より大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置き換えることによって構築される。突起と同じまたは同様のサイズの補償的な空隙は、大きなアミノ酸側鎖をより小さなもの(例えば、アラニンまたはスレオニン)で置き換えることによって第2のポリペプチドの界面に作られる。
したがって、特定の態様においては、多重特異性抗原結合分子のFcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基は、より大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それによって、第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空隙中に位置することができる第1のサブユニットのCH3ドメイン内の突起が生成され、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基は、より小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それによって、第1のサブユニットのCH3ドメイン内の突起が位置することができる第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空隙が生成される。
突起および空隙は、ポリペプチドをコードする核酸を例えば部位特異的変異誘発によって変更することによって、またはペプチド合成によって、作ることができる。
特定の態様において、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおいて、366位のスレオニン残基は、トリプトファン残基で置き換えられ(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおいて、407位のチロシン残基は、バリン残基で置き換えられる(Y407V)。1つの態様において、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、さらに、366位のスレオニン残基は、セリン残基で置き換えられ(T366S)、368位のロイシン残基は、アラニン残基で置き換えられる(L368A)。
なおさらなる態様において、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、さらに、354位のセリン残基は、システイン残基で置き換えられ(S354C)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、さらに、349位のチロシン残基は、システイン残基によって置き換えられる(Y349C)。これらの2つのシステイン残基の導入は、Fcドメインの2つのサブユニット間にジスルフィド架橋の形成をもたらし、二量体をさらに安定化する(Carter, J Immunol Methods 248, 7-15 (2001))。
他の態様において、本開示の多重特異性抗原結合分子には、所望の組合せを有するH鎖間およびL鎖H鎖間の会合を促進するための他の技術を適用することができる。
例えば、多重特異性抗体の会合には、抗体H鎖の第2の定常領域または第3の定常領域(CH2またはCH3)の界面に静電気的反発を導入することにより望ましくないH鎖会合を抑制する技術を適用することができる(WO2006/106905)。
CH2またはCH3の界面に静電気的反発を導入することにより意図しないH鎖会合を抑制する技術において、H鎖の他方の定常領域の界面で接触するアミノ酸残基の例には、CH3領域におけるEUナンバリング位置356位、439位、357位、370位、399位、および409位の残基に対応する領域が含まれる。
より具体的には、2種のH鎖CH3領域を含む抗体であって、第1のH鎖CH3領域における、以下の(1)~(3)に示すアミノ酸残基の対から選択される1~3対のアミノ酸残基が同種の電荷を有する抗体が、例として挙げられる:(1)H鎖CH3領域に含まれる、EUナンバリング位置356位および439位のアミノ酸残基、(2)H鎖CH3領域に含まれる、EUナンバリング位置357位および370位のアミノ酸残基、ならびに(3)H鎖CH3領域に含まれる、EUナンバリング位置399位および409位のアミノ酸残基。
さらに、該抗体は、上記第1のH鎖CH3領域とは異なる第2のH鎖CH3領域におけるアミノ酸残基の対が、前記(1)~(3)のアミノ酸残基の対から選択され、前記第1のH鎖CH3領域において同種の電荷を有する前記(1)~(3)のアミノ酸残基の対に対応する1~3対のアミノ酸残基が、前記第1のH鎖CH3領域における対応するアミノ酸残基とは反対の電荷を有する抗体であってもよい。
上記(1)~(3)に示されるそれぞれのアミノ酸残基は、会合した際に互いに接近している。当業者であれば、所望のH鎖CH3領域またはH鎖定常領域において、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、上記(1)~(3)のアミノ酸残基に対応する位置を見出すことができ、適宜、これらの位置のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。
上記抗体において、「電荷を有するアミノ酸残基」は、例えば、以下の群のいずれか1つに含まれるアミノ酸残基から選択されることが好ましい:
(a) グルタミン酸(E)およびアスパラギン酸(D)、ならびに
(b) リジン(K)、アルギニン(R)、およびヒスチジン(H)。
上記抗体において、語句「同じ電荷を有する」とは、例えば、2つ以上のアミノ酸残基のいずれもが、上記の群(a)および(b)のうちいずれか1つに含まれるアミノ酸残基から選択されることを意味する。語句「反対の電荷を有する」とは、例えば、2つ以上のアミノ酸残基のうちの少なくとも1つのアミノ酸残基が、上記の群(a)および(b)のうちいずれか1つに含まれるアミノ酸残基から選択される場合に、残りのアミノ酸残基が他の群に含まれるアミノ酸残基から選択されることを意味する。
好ましい態様において上記抗体は、その第1のH鎖CH3領域と第2のH鎖CH3領域がジスルフィド結合により架橋されていてもよい。
本開示において、改変に供するアミノ酸残基は、上述した抗体可変領域または抗体定常領域のアミノ酸残基に限られない。当業者であれば、変異ポリペプチドまたは異種多量体において、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、界面を形成するアミノ酸残基を同定することができ、次いでこれらの位置のアミノ酸残基を、会合を制御するように改変に供することが可能である。
加えて、本開示の多重特異性抗原結合分子の形成には他の公知技術を用いることもできる。抗体の一方のH鎖CH3の一部を対応するIgA由来の配列に変え、対応するIgA由来の配列を他方のH鎖CH3の相補的な部分に導入することにより産生された鎖交換操作ドメインCH3(strand-exchange engineered domain CH3)を用いて、異なる配列を有するポリペプチドの会合をCH3の相補的な会合によって効率的に誘導することができる (Protein Engineering Design & Selection, 23; 195-202, 2010)。この公知技術を用いて効率的に目的の多重特異性抗原結合分子を形成させることもできる。
加えて、多重特異性抗原結合分子の形成には、WO2011/028952、WO2014/018572およびNat Biotechnol. 2014 Feb;32(2):191-8に記載されるような抗体のCH1とCLの会合およびVHとVLの会合を利用した抗体産生技術、WO2008/119353およびWO2011/131746に記載されるような別々に調製したモノクローナル抗体を組み合わせて使用して二重特異性抗体を産生する技術(Fab Arm Exchange)、WO2012/058768およびWO2013/063702に記載されるような抗体重鎖CH3間の会合を制御する技術、WO2012/023053に記載されるような2種類の軽鎖と1種類の重鎖とから構成される多重特異性抗体を産生する技術、Christophら(Nature Biotechnology Vol. 31, p 753-758 (2013))によって記載されるような1本のH鎖と1本のL鎖を含む抗体の片鎖をそれぞれ発現する2つの細菌細胞株を利用した多重特異性抗体を産生する技術等を用いてもよい。
あるいは、目的の多重特異性抗原結合分子を効率的に形成させることができない場合であっても、産生された分子から目的の多重特異性抗原結合分子を分離し精製することによって、本開示の多重特異性抗原結合分子を得ることが可能である。例えば、2種類のH鎖の可変領域にアミノ酸置換を導入することにより等電点の差を付与することで、2種類のホモ体と目的のヘテロ抗体をイオン交換クロマトグラフィーで精製することを可能にするための方法が報告されている(WO2007114325)。ヘテロ抗体を精製するための方法として、これまでに、プロテインAに結合するマウスIgG2aのH鎖とプロテインAに結合しないラットIgG2bのH鎖とを含むヘテロ二量化抗体を、プロテインAを用いて精製する方法が報告されている(WO98050431およびWO95033844)。さらに、IgGとプロテインAの結合部位であるEUナンバリング位置435位および436位のアミノ酸残基を、異なるプロテインAアフィニティをもたらすアミノ酸であるTyr、Hisなどに置換したH鎖を用いて、あるいは、異なるプロテインAアフィニティを有するH鎖を用いて、各H鎖とプロテインAとの相互作用を変化させ、次いでプロテインAカラムを用いることにより、ヘテロ二量化抗体のみを効率的に精製することができる。
さらに、本開示のFc領域として、Fc領域のC末端のヘテロジェニティーが改善されたFc領域が適宜使用され得る。より具体的には、本開示は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4由来のFc領域を構成する2つのポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングによって特定される446位のグリシンおよび447位のリジンを欠失させることにより産生されたFc領域を提供する。
本明細書において記載されるように調製された多重特異性抗原結合分子は、例えば、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、およびサイズ排除クロマトグラフィー等の当技術分野において公知の技術によって精製されてもよい。特定のタンパク質を精製するために用いられる実際の条件は、正味電荷、疎水性、親水性等の因子に一部依存し、当業者に明らかである。アフィニティークロマトグラフィー精製では、多重特異性抗原結合分子が結合する、抗体、リガンド、受容体、または抗原を用いることができる。例えば、本発明の多重特異性抗原結合分子のアフィニティークロマトグラフィー精製では、プロテインAまたはプロテインGを有するマトリックスが用いられてもよい。多重特異性抗原結合分子を単離するために、連続したプロテインAまたはGアフィニティークロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーを用いることができる。多重特異性抗原結合分子の純度は、ゲル電気泳動および高圧液体クロマトグラフィー等を含む、さまざまな周知の分析方法のいずれかによって決定することができる。
医薬組成物
1つの局面において、本開示は、本開示の多重特異性抗原結合分子を含む医薬組成物を提供する。
ある特定の態様において、本開示の医薬組成物は、目的の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路に対してトランス活性化を誘導する、換言すると、本開示の医薬組成物は、Notchシグナル伝達経路の(トランス)活性化を介してNotch受容体媒介性疾患または障害を治療または予防することにおいて使用するための治療剤である。ある特定の態様において、本開示の医薬組成物は筋再生を増強する、および/または筋機能を維持する。ある特定の態様において、本開示の医薬組成物は、筋衛星細胞の増殖および分化を増強する。
ある特定の態様において、本開示の医薬組成物は、筋ジストロフィー、組織線維化、自己免疫疾患(例えば、 SLE(全身性エリテマトーデス)、RA(関節リウマチ)、MS(多発性硬化症)等)の治療および/または予防に使用される医薬組成物である。ある特定の態様において、本開示の医薬組成物は細胞増殖抑制剤である。ある特定の態様において、本開示の医薬組成物は、Notchアゴニストから利益を得ることができる任意のがんおよび悪性腫瘍(すなわち、Notchシグナル伝達の下方制御を有するがん)の治療および/または予防に使用される医薬組成物である。ある特定の態様において、本開示の医薬組成物は、Notchアゴニストから利益を得ることができる胃腸がんおよび悪性腫瘍(すなわち、Notchシグナル伝達の下方制御を有するがん)の治療および/または予防に使用される医薬組成物である。ある特定の態様において、本開示の医薬組成物は、DMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)の治療および/または予防に使用される医薬組成物である。ある特定の態様において、本開示の医薬組成物は、DMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)の進行を予防することにおいて使用される医薬組成物である。ある特定の態様において、本開示の医薬組成物は、lgr5+ CBCの自己再生および/または増殖を促進するのに使用される医薬組成物である。ある特定の態様において、本開示の医薬組成物は、胃腸(GI)管疾患、例えば、クローン病および潰瘍性大腸炎、IBS、または腸損傷をもたらす任意の疾患の治療および/または予防に使用される医薬組成物である。ある特定の態様において、本開示の医薬組成物は、腸修復を促進するのに使用される医薬組成物である。
本明細書に記載の抗原結合分子または抗体を含む医薬組成物は、所望の純度を有する抗原結合分子または抗体を、1つまたは複数の任意の薬学的に許容される担体 (Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)) と混合することによって、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、調製される。薬学的に許容される担体は、概して、用いられる際の投与量および濃度ではレシピエントに対して非毒性であり、これらに限定されるものではないが、以下のものを含む:リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む、抗酸化剤;保存料(オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル、またはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む、単糖、二糖、および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビトールなどの、砂糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン類;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および/またはポリエチレングリコール (PEG) などの非イオン系表面活性剤。本明細書の例示的な薬学的に許容される担体は、さらに、可溶性中性活性型ヒアルロニダーゼ糖タンパク質 (sHASEGP)(例えば、rHuPH20 (HYLENEX(登録商標)、Baxter International, Inc.) などのヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質)などの間質性薬剤分散剤を含む。特定の例示的sHASEGPおよびその使用方法は(rHuPH20を含む)、米国特許出願公開第2005/0260186号および第2006/0104968号に記載されている。1つの局面において、sHASEGPは、コンドロイチナーゼなどの1つまたは複数の追加的なグリコサミノグリカナーゼと組み合わせられる。
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水溶液抗体製剤は、米国特許第6,171,586号およびWO2006/044908に記載のものを含み、後者の製剤はヒスチジン-アセテート緩衝液を含んでいる。
本明細書の製剤は、治療される特定の適応症のために必要であれば1つより多くの有効成分を含んでもよい。互いに悪影響を与えあわない相補的な活性を伴うものが好ましい。このような有効成分は、意図された目的のために有効である量で、好適に組み合わせられて存在する。
必要に応じて、本開示の抗原結合分子または抗体は、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリレート]などから作製されたマイクロカプセル)中に封入してもよく、コロイド薬物送達系(リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセル)の構成成分としてもよい(例えば、「Remington's Pharmaceutical Science 16th edition」、Oslo Ed. (1980)を参照)。さらに、薬剤を徐放性薬剤として調製するための方法も公知であり、これらは本開示の抗原結合分子に適用することができる(J. Biomed. Mater. Res. (1981) 15, 267-277; Chemtech. (1982) 12, 98-105;米国特許第3773719号;欧州特許出願 (EP)番号EP58481およびEP133988;Biopolymers (1983) 22, 547-556)。
必要に応じて、本開示の抗原結合分子または抗体を対象内で直接発現させるために、本開示の多重特異性抗原結合分子をコードする核酸分子を含むベクターを、対象に導入してもよい。使用することが可能なベクターの例としては、アデノウイルスであるが、これに限定されない。本開示の抗原結合分子または抗体をコードする核酸分子を対象に直接投与すること、またはエレクトロポレーションを介して本開示の抗原結合分子または抗体をコードする核酸分子を対象に移入すること、または発現および分泌させるべき本開示の抗原結合分子または抗体をコードする核酸分子を含む細胞を対象に投与して、対象において本開示の抗原結合分子または抗体を連続的に発現および分泌させることも可能である。
本開示の医薬組成物は、経口または非経口のいずれかで患者に投与され得る。非経口投与が好ましい。具体的には、そのような投与法には、注射、経鼻投与、経肺投与、および経皮投与が含まれる。注射には、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、および皮下注射が含まれる。例えば、本開示の医薬組成物、細胞傷害を誘導するための治療剤、細胞増殖抑制剤、または抗がん剤は、注射により局所的にまたは全身的に投与することができる。さらに、適切な投与方法が患者の年齢および症状に応じて選択することができる。投与用量は、例えば、各投与につき体重1 kgあたり0.0001 mg~1,000 mgの範囲から選択することができる。あるいは、用量は、例えば、1患者あたり0.001 mg~100,000 mgの範囲から選択することができる。しかしながら、本開示の医薬組成物の用量は、これらの用量に限定されない。
本開示において、「接触」は、例えば、インビトロで培養されたCLDN6を発現する細胞の培地に本開示の抗原結合分子を添加することによって行うことができる。この場合、添加すべき抗原結合分子は、溶液、または凍結乾燥等によって調製された固体などの適切な形態で用いることができる。本開示の抗原結合分子を水溶液として添加する場合、該溶液は、抗原結合分子を単独で含有する純粋な水溶液、または例えば上記の界面活性剤、賦形剤、着色剤、着香剤、保存剤、安定化剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、および矯味剤を含有する溶液であってよい。添加濃度は特に限定されない;しかしながら、培地中の最終濃度は、好ましくは1 pg/ml~1 g/mlの範囲内、より好ましくは1 ng/ml~1 mg/ml、およびさらにより好ましくは1μg/ml~1 mg/mlの範囲内である。
1つの局面において、本開示は、第1の標的細胞を、有効量の本開示の任意の局面/態様の多重特異性抗原結合分子と接触させる段階を含む、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化するための方法を提供する。1つの態様において、第1の標的細胞はインビボで哺乳動物対象中にある。さらなる態様において、対象はヒトである。いくつかの態様において、対象は非ヒト哺乳動物である。いくつかの態様において、方法は、Notchシグナル伝達経路をインビボで活性化するための方法である。いくつかの態様において、方法は、Notchシグナル伝達経路をインビトロで活性化するための方法である。
ある局面において、本開示は、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化することにおいて使用するための本開示の任意の局面/態様の多重特異性抗原結合分子を提供する。
ある局面において、本開示は、第1の標的細胞を、有効量の多重特異性抗原結合分子と接触させる段階を含む、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化するための方法における使用のための本開示の任意の局面/態様の多重特異性抗原結合分子を提供する。
ある局面において、本開示は、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化するための剤または組成物(治療剤または医薬組成物を含む)の製造における本開示の任意の局面/態様の多重特異性抗原結合分子の使用を提供する。
ある局面において、本開示は、第1の標的細胞を、有効量の多重特異性抗原結合分子と接触させる段階を含む、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化するための方法における使用のための剤または組成物(治療剤または医薬組成物を含む)の製造における本開示の任意の局面/態様の多重特異性抗原結合分子を提供する。
ある局面において、本開示は、第1の標的細胞を、有効量の多重特異性抗原結合分子と接触させる段階を含む、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化するための本開示の任意の局面/態様の多重特異性抗原結合分子の使用を提供する。
本開示の別の態様において、「接触」はまた、インビボでのNotch受容体発現細胞を移植された非ヒト動物への投与、Notch受容体を内因的に発現する細胞を有する動物への投与、またはNotch受容体発現細胞を用いたインビトロ条件での投与によって行うこともできる。投与方法は、経口または非経口であってよい。非経口投与が特に好ましい。具体的には、非経口投与方法には、注射、経鼻投与、経肺投与、および経皮投与が含まれる。注射には、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、および皮下注射が含まれる。例えば、本開示の医薬組成物、細胞傷害を誘導するための治療剤、細胞増殖抑制剤、または抗がん剤は、注射によって局所投与または全身投与することができる。さらに、適切な投与方法は、動物対象の年齢および症状に応じて選択することができる。抗原結合分子を水溶液として投与する場合、該溶液は、抗原結合分子を単独で含有する純粋な水溶液、または例えば上記の界面活性剤、賦形剤、着色剤、着香剤、保存剤、安定化剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、および矯味剤を含有する溶液であってよい。投与用量は、例えば、各投与につき体重1 kgあたり0.0001~1,000 mgの範囲から選択することができる。あるいは、用量は、例えば、各患者につき0.001~100,000 mgの範囲から選択することができる。しかしながら、本開示の抗原結合分子の用量は、これらの例に限定されない。
本開示はまた、本開示の抗原結合分子または本開示の方法によって産生された抗原結合分子を含有する、本開示の方法において使用するためのキットも提供する。該キットは、追加の薬学的に許容される担体もしくは媒体、またはキットの使用方法を記載した取扱説明書等と共に包装され得る。
本発明の別の局面において、Notchシグナル伝達経路の活性化、または上述の障害の治療、予防、および/もしくは診断に有用な器材を含んだ製品が、提供される。製品は、容器、および当該容器上のラベルまたは当該容器に付属する添付文書を含む。好ましい容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグなどが含まれる。容器類は、ガラスやプラスチックなどの、様々な材料から形成されていてよい。容器は組成物を単体で保持してもよいし、症状の治療、予防、および/または診断のために有効な別の組成物と組み合わせて保持してもよく、また、無菌的なアクセスポートを有していてもよい(例えば、容器は、皮下注射針によって突き通すことのできるストッパーを有する静脈内投与用溶液バッグまたはバイアルであってよい)。組成物中の少なくとも1つの有効成分は、本発明の抗体である。ラベルまたは添付文書は、組成物が選ばれた症状を治療するために使用されるものであることを示す。さらに製品は、(a)第1の容器であって、その中に収められた本発明の抗体を含む組成物を伴う、第1の容器;および、(b)第2の容器であって、その中に収められたさらなる細胞傷害剤またはそれ以外で治療的な剤を含む組成物を伴う、第2の容器を含んでもよい。本発明のこの態様における製品は、さらに、組成物が特定の症状を治療するために使用され得ることを示す、添付文書を含んでもよい。あるいはまたは加えて、製品はさらに、注射用制菌水 (BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、およびデキストロース溶液などの、薬学的に許容される緩衝液を含む、第2の(または第3の)容器を含んでもよい。他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、およびシリンジなどの、他の商業的観点またはユーザの立場から望ましい器材をさらに含んでもよい。
添付文書
用語「添付文書」は、治療用製品の市販パッケージに通常含まれる説明書を指すために用いられ、そのような治療用製品の使用に関する適応症、用法、投与量、投与方法、併用療法、禁忌、および/または警告についての情報を含む。
医薬製剤
用語「医薬製剤」または「医薬組成物」は、その中に含まれた有効成分の生物学的活性が効果を発揮し得るような形態にある調製物であって、かつ製剤が投与される対象に許容できない程度に毒性のある追加の要素を含んでいない、調製物を指す。
薬学的に許容される担体
「薬学的に許容される担体」は、対象に対して無毒な、医薬製剤中の有効成分以外の成分を指す。薬学的に許容される担体は、これらに限定されるものではないが、緩衝液、賦形剤、安定化剤、または保存剤を含む。
治療
本明細書で用いられる「治療」(および、その文法上の派生語、例えば「治療する」、「治療すること」など)は、治療される個体の自然経過を改変することを企図した臨床的介入を意味し、予防のためにも、臨床的病態の経過の間にも実施され得る。治療の望ましい効果は、これらに限定されるものではないが、疾患の発生または再発の防止、症状の軽減、疾患による任意の直接的または間接的な病理的影響の減弱、転移の防止、疾患の進行速度の低減、疾患状態の回復または緩和、および寛解または改善された予後を含む。いくつかの態様において、本開示の抗原結合分子または抗体は、疾患の発症を遅らせる、または疾患の進行を遅くするために用いられる。
他の剤および治療
本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子は、治療において1つまたは複数の他の剤との組み合わせで投与されてもよい。例えば、本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子は、少なくとも1つの追加の治療剤と同時投与されてもよい。用語「治療剤」は、そのような治療の必要がある個体において症状または疾患を治療するために投与される任意の剤を包含する。そのような追加治療剤は、治療される特定の適応症に適している任意の有効成分、好ましくは、互いに悪影響を与えあわない相補的な活性を伴うものを含み得る。特定の態様において、追加治療剤は、免疫調節剤、細胞***阻害剤、細胞接着の阻害剤、細胞傷害剤、細胞アポトーシスの活性化剤、またはアポトーシス誘導因子に対する細胞の感受性を増加させる剤である。特定の態様において、追加治療剤は、抗がん剤、例えば、微小管破壊剤、抗代謝剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNAインターカレート剤、アルキル化剤、ホルモン療法、キナーゼ阻害剤、受容体アンタゴニスト、腫瘍細胞アポトーシスの活性化剤、または抗血管新生剤である。
そのような他の剤は、意図された目的のために有効である量で、好適に組み合わせられて存在する。そのような他の剤の有効量は、用いられる多重特異性抗原結合分子の量、障害または治療の種類、および上で論じた他の要因に依存する。多重特異性抗原結合分子は概して、本明細書に記載されるものと同じ投与量および投与経路で、または本明細書に記載される投与量の約1から99%で、または経験的/臨床的に適切と判断される任意の投与量および任意の経路で用いられる。
上記のそのような併用療法は、併用投与(2種類以上の治療剤が同じまたは別々の組成物中に含まれている)、および個別投与を包含し、個別投与の場合、本明細書に記載される多重特異性抗原結合分子の投与が追加治療剤および/またはアジュバントの投与に先立って、と同時に、および/または、続いて、行われ得る。本明細書において記載される多重特異性抗原結合分子はまた、放射線療法との組み合わせで用いることができる。
本明細書において引用したすべての文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
以下は、本開示の方法および組成物の実施例である。上述の一般的な記載に照らし、種々の他の態様が実施され得ることが、理解されるであろう。
以下は、本発明の方法および組成物の実施例である。上述の一般的な記載に照らし、種々の他の態様が実施され得ることが、理解されるであろう。
実施例1
Notchアゴニストドメインは、部位特異的結合ドメインによるNotchレポーターへの結合とアンカー抗原への結合との同時結合時に、Notchシグナル伝達を活性化することができる(図1A~C)。Notchアゴニストドメインには、足場依存的様式(すなわち、部位特異的結合ドメインの、そのアンカー抗原への同時結合)で結合することができかつNotchシグナル伝達を活性化することができる、任意のポリペプチドが含まれる。Notchアゴニストドメインには、Jagged1、Jagged2、DLL1、DLL3、およびDLL4などのNotchリガンドの細胞外ドメイン、またはNotchアゴニスト抗体アームが含まれる。結合時に受容体を活性化することができる従来のアゴニスト抗体またはリガンドとは異なり、本発明の抗原結合分子は、細胞もしくは細胞表面上に発現しているかまたはスキャフォールドに固定されているアンカー抗原に結合している場合にのみ、Notch活性化をもたらすことができる。
組織または部位特異性は、目的の組織または細胞集団に独占的または限定的に発現する特有のアンカー抗原への、部位特異的結合ドメインの選択的結合によって付与される。部位特異的Notchトランス活性化の概念は、図1に図示するような種々の多重特異性抗体フォーマットの採用およびアンカー抗原の選択によって達成することができる。実施例に記載されるNotchアゴニスト抗体の大多数は、アンカー抗原(例えば、GPC3、CACNA1S、およびFAP)に対して結合特異性を有する抗体アームを有する、図1Aに図示されるような抗体フォーマットを採用している。
Fabアームによって付与される部位特異性とは別に、アンカー抗原への増強された結合アフィニティを有する改変されたFcもまた、Notch受容体のトランス活性化に必要とされる足場を提供することができる(図1B)。例えば、FcγRIIB選択的結合技術は、リンパ系細胞および骨髄系細胞によって発現される膜タンパク質であるFcγRIIBに対する選択的結合を増強するようにFcを改変するために適用することができる(図2;例えば、WO2012/115241、WO2014/030728、WO2014/163101、WO2013/002362、WO2014/030750、WO2014/104165を参照)。FcγRIIBを発現する免疫細胞、例えば、樹状細胞(DC)、マクロファージ、活性化好中球、マスト細胞、および好塩基球は多くの場合、ケモカインに応答して炎症部位に動員される。これらの免疫細胞が炎症促進性サイトカインを分泌し続けることから、炎症性微小環境は、正のフィードバックループにより持続される。活性化CD4 Tリンパ球におけるNotch活性化は、活性化CD4-Tリンパ球を調節し、抗炎症性サイトカインを放出できるTreg細胞になることが報告されている(Brandstadter and Maillard (2019); Ferrandino et al (2018) Tindemans et al (2017))。Notchアゴニスト抗体に適用されたFcγRIIB選択的結合技術により、活性化CD4 Tリンパ球のNotch活性化は、活性化CD4 Tリンパ球に近接して存在するFcgRIIB発現細胞により濃縮された炎症部位に局在化され、炎症促進性微小環境を調節することができる(図2)。さらに、追加的部位特異性は、第2のアンカー抗原に結合する第2の抗体Fabアームを有することによって達成することができる(図1C)。これは、第2のアンカー抗原が、目的の細胞集団によって独占的に発現されている場合に、微小環境内の特定の細胞集団に対する局在化Notch トランス活性化をさらに増強することができる。
(表1A)組織または部位特異性を規定するアンカー抗原候補のリスト
Figure 2023530797000005
(表1B)特定の組織における独占的または限定的発現を有する細胞外タンパク質のリスト
Figure 2023530797000006
Figure 2023530797000007
Figure 2023530797000008
アンカー抗原の選択で考慮すべき複数の判断基準が存在する。表1A(候補アンカー抗原のリスト)、表1B(その発現が特定の組織に独占的または限定的である、細胞外タンパク質のリスト)、またはアンカー抗原への優先的結合を有する改変されたFc(例えば、 FcγRIIB選択的結合技術およびFcγRIIB)を参照のこと。
1)全身性曝露を限定しかつNotch活性化による毒性のリスクを最小化するために、アンカー抗原の空間的発現は、目的の細胞型または組織に限定されるか、またはそれらによって独占的に発現されるべきである。
2)アンカー抗原の一時性の発現は注意深く検討されるべきである。例えば、一部のアンカー抗原は幹細胞においてのみ発現し、分化へのコミットメント後に失われる。異なる発達段階でのNotch活性化はまた、トランスジェニックマウスにおいて異なる表現型をもたらす。初期のNotch活性化は、胚性致死および筋発達障害を引き起こす。一方、出生後のトランスジェニックマウスにおけるNotch活性化は、老化した筋肉を改善しかつ筋再生を増大させるのを助ける。
3)アンカー抗原は、細胞上で安定的な発現を有するか、または緩徐な内部移行により細胞表面に係留されるべきである。
4)アンカー抗原は、目的の細胞または組織の大多数において均一に、Notchシグナル伝達の均一でない活性化を最小化するように低い不均一性で、発現するべきである。
5)アンカー抗原は、病的状態においてでさえ十分なレベルで発現し、二重特異性Notchアゴニスト抗体の十分な保持を確実にするべきである。
実施例2. 多重特異性Notchアゴニスト抗体の調製
図3Aは、FcγR結合を欠くFc、ヒトJag1細胞外ドメイン(ECD)、およびGPC3などのアンカー抗原に結合するFabからなる、アンカー抗原を標的とする一方のアームとNotch受容体を標的とするもう一方のアームとを有する抗AA//Jag-Fcである、二重特異性分子の例を示す。ヘテロ二量体化および正しいアセンブリは、Fcにおけるノブ-イントゥ-ホール(kih)変異によって達成される。分子設計および命名規則を図3Aに示し、配列ID(配列番号)を表2Aに示す。
図3Bは、FcγR結合を欠くFc、および2つのヒトJag1細胞外ドメイン(ECD)からなる、Notch受容体に対する二価結合を有する分子、Jag1//Jag1-Fcである、別の例を示す。分子設計および命名規則を図3Bに示し、配列ID(配列番号)を表2Bに示す。図3Aに示すように、「鎖1」は、可変重鎖ドメイン(VH)および定常重鎖ドメイン1(CH1)(部位特異的結合ドメイン)、ならびにFc領域を含み;「鎖2」は、可変軽鎖ドメイン(VL)(部位特異的結合ドメイン)および定常軽鎖ドメイン(CL)を含み;かつ「鎖3」は、Notchアゴニストドメイン(この例ではJag1 ECD)およびFc領域を含む。
(表2)図4に表される分子の配列IDを示す表
Figure 2023530797000009
(表3)図4および表2に表される分子のアミノ酸配列を示す表
Figure 2023530797000010
実施例3. 多重特異性Notchアゴニスト抗体の精製
組換え多重特異性Notchアゴニスト抗体を、HEK293細胞を用いて一過性に発現させた。抗体を発現する条件培地を、プロテインA樹脂を充填したカラムに添加し、酸性溶液で溶出した。抗体を含有する画分を収集し、続いて、ヒスチジン緩衝液で平衡化したゲルろ過カラムに供した。次いで、抗体を含有する画分をプールし、-80℃で保管した。
実施例4
Notchアゴニスト抗体はNotch受容体を活性化するのに足場を必要とするという仮説を証明するために、Notchアゴニスト抗体を、吸着によって培養プレートに直接固定化したか、または抗ヒトκ軽鎖抗体によって捕捉した(図4A)。足場の非存在下では、非固定化Notchアゴニスト抗体は、処置の48時間後でさえ、C2C12レポーター細胞においてNotchシグナル伝達を活性化しなかった。反対に、Notchアゴニスト抗体を培養プレートに固定化したか、または抗ヒトκ軽鎖抗体によって捕捉した場合、C2C12レポーター細胞において有意なNotch活性化が観察された。Jag1//Jag1-Fcがヒトκ軽鎖を欠く場合、固定化抗ヒトκ軽鎖抗体は、Jag1//Jag1-Fcを捕捉せず、C2C12レポーター細胞におけるNotchシグナル伝達の活性化の失敗をもたらした。この観察は、Notchアゴニスト抗体によって誘導されるNotchシグナル伝達の活性化が足場に依存することを示唆する。
Notchアゴニスト抗体によって誘導されるNotch活性化が、固定化抗IgG抗体による抗体のクラスター化ではなく足場に依存するという作用機序をさらに解明するために、抗ヒトIgG Fc特異的抗体を、吸着によって培養プレート上に固定化したか、またはNotchアゴニスト抗体と共に培養培地に添加した(図4B)。一貫して、アイソタイプ対照を除くすべてのNotchアゴニスト抗体は、培養プレートに吸着されたかまたは固定化抗ヒトIgG Fc抗体によって捕捉された場合に、Notch活性化を誘導することに成功した。興味深いことに、Notchアゴニスト抗体と共に抗ヒトFc抗体を添加した場合、Notchシグナル伝達は活性化されなかった。この観察は、抗ヒトIgG Fc抗体によるNotch抗体のクラスター化またはオリゴマー化は、Notchアゴニスト抗体が固定化抗ヒトIgG Fc抗体によって係留された場合に、該Notchアゴニスト抗体によって誘導されるNotchシグナル伝達の活性化に寄与する可能性があることを示唆する。同様に、Jag1//Jag1-Fcが、2つの異なる細胞上に発現しているNotch受容体を同時に架橋して、トランス活性化を誘導できる可能性も低い(図4B)。結果は、Notchアゴニスト抗体がNotchシグナル伝達のトランス活性化を誘導するためには、足場が重要であることを実証した。
抗体固定化アッセイのための方法
吸着を介したNotchアゴニスト抗体の直接的な固定化では、最初に、96ウェルプレートを、10 mcg/mLの濃度の抗体で4℃にて16時間コーティングした。抗体捕捉条件では、最初に、抗ヒトκ軽鎖抗体(図4A;10 mcg/mL)または抗ヒトIgG Fc特異的抗体(図4B;10 mcg/mL)のいずれかを上記と同じ条件でコーティングした。抗体コーティング後、培養プレートを細胞培養培地で洗浄し、その後5% FBS溶液で室温にて2時間ブロッキングした。抗体捕捉条件では、Notchアゴニスト抗体(10 mcg/mL)を添加し、37℃にて1時間インキュベートした。その後、C2C12 Notchレポーター細胞を1ウェル当たり3×104細胞で播種し、37℃にて48時間インキュベートした後に、製造者のプロトコール(Promega)に従ってdual-gloルシフェラーゼアッセイを実施した。ルシフェラーゼシグナルをホタル/ウミシイタケシグナルとして表し、その比をアイソタイプ対照の比に対してさらに正規化した。
実施例5
十分に特徴付けされた抗グリピカン 3(GPC3)抗体の利用可能性および種々のGPC3発現レベルを有する一群のトランスフェクタント細胞株に起因して、GPC3を、Notchシグナル伝達のトランス活性化を誘導する足場に対する依存性を実証するモデルアンカー抗原として選択した。最初に、アンカー抗原発現細胞SK-PCa60を種々の細胞密度で、抗GPC3//Jag1-Fcまたはアイソタイプ対照抗体のいずれかで処理したC2C12 Notchレポーター細胞と共に共培養した(図5A)。結果は、ルシフェラーゼ活性によって示されるNotch活性化のレベルがGPC3発現細胞の数に依存したことを示す。注目すべきことに、不十分なアンカー抗原発現細胞が存在する(すなわち、5E3/ウェル)場合、抗GPC3//Jag1 Fcは、C2C12レポーター細胞においてNotchシグナル伝達のトランス活性化を誘導しなかった。
Notchシグナル伝達の足場依存性トランス活性化におけるアンカー抗原発現の重要性をさらに検証するために、種々のレベルのGPC3発現を有する安定にトランスフェクトされたSK-HEP1細胞を、抗GPC3//Jag1-Fcで処理したC2C12レポーター細胞と共培養した。図5Aでの観察と一致して、SK-PCa60細胞(高GPC3発現を有する)のみが、抗GPC3//Jag1-Fc処理後にC2C12レポーター細胞においてNotch活性化を首尾よく誘導した(図5B)。
共培養Notchレポーターアッセイための方法
アンカー抗原発現細胞(すなわち、GPC3過剰発現細胞)を1ウェル当たり1×105細胞の密度で播種し、37℃にて16時間インキュベートした。抗GPC3//Jag1-Fc二重特異性抗体またはIgG1アイソタイプ対照抗体を1ウェル当たり250 mcg/mLで添加し、1時間インキュベートした後に、3×104個のC2C12 Notchレポーター細胞をウェルに播種した。37℃にて24時間のインキュベーション後、dual-gloルシフェラーゼアッセイを製造者のプロトコール(Promega)に従って実行した。ルシフェラーゼシグナルをホタル/ウミシイタケシグナルとして表し、その比をアイソタイプ対照の比に対してさらに正規化した。
実施例6
抗GPC//Jag1-Fcによって誘導されるNotchシグナル伝達活性化の特異性を検証するために、親C2C12細胞を播種する前に、最初に抗体を吸着によって培養プレートに固定化した(図6)。細胞を、対照としてのDMSO、または結果としてNotchシグナル伝達経路を阻害するγセクレターゼ阻害剤であるDAPT(10マイクロモル)のいずれかで処理した。一貫して、固定化抗GPC3//Jag1-Fcを伴うC2C12細胞は、処理の24時間後にNotch標的遺伝子であるHEY1およびNRARPの強い上方制御を示した。したがって、DAPT処理したC2C12細胞は、抗GPC3//Jag1-Fcによって誘導されるNotch活性化を完全に抑止し、活性化がNotchシグナル伝達に特異的であったことを示した。
実施例7
実施例4において、Jag1 ECDと抗GPC3結合アームとを有する二重特異性抗体は、Notchシグナル伝達の足場依存性トランス活性化を示した。Notchシグナル伝達の足場依存性トランス活性化が他のアンカー抗原に適用可能であることを実証するために、発明者らは、Jag1 ECDならびに他のアンカー抗原、例えば、線維芽細胞関連タンパク質(FAP)およびFcγ受容体 IIB(FcγRIIB)に結合する二重特異性抗体を調製した。Jag1 ECDと抗FAP抗体アームとを有する二重特異性抗体(「抗FAP//Jag1-Fc」)を生成し、FAPを過剰発現するNIH-3T3細胞に結合することを示した(図7A)。Notchシグナル伝達が足場依存性であるという実施例4における発明者らの観察と一致して、NIH3T3-FAP細胞をNotchレポーター細胞と共培養した場合に、抗FAP//Jag1-Fcは、C2C12 Notchレポーター細胞においてNotch活性化を誘導することができたが、NIH3T3-FAP細胞上に結合できないKLH//Jag1-FcもKLH//KLH-Fcも誘導することができなかった(図7B)。
加えて、図3Bに示されるような両アーム上のJag1 ECDと、Fcγ受容体 IIBに優先的に結合する改変Fcとからなる二重特異性抗体(「Jag1//Jag1-Fc*)も調製した。Fcγ受容体 IIBを過剰発現した安定細胞株を用いると、Jag1//Jag1-Fc*処理はNotch受容体細胞のNotch活性化を誘導することができた(図7C)。データは、抗体Fabアームの代わりにFcによってもたらされる足場が、Notch活性化を誘導することができたことを示した。まとめると、発明者らのデータは、二重特異性抗体によって誘導される足場依存性Notch活性化の概念は、あらゆるアンカー抗原およびフォーマットにわたって適用できることを示唆した。
実施例8
哺乳動物のNotch受容体ファミリーは、4つのヘテロ二量体パラログ(Notch 1~4)からなり、それらは、Jagged(Jag1およびJag2)およびDelta様(DLL1、DLL3、およびDLL4)ファミリー中の5つのNotchリガンドと相互作用する。シグナル伝達経路の天然アンタゴニストとして機能すると考えられるDLL3を除く、大多数のNotchリガンドは、Notchシグナル伝達を活性化する(Kopan and Ilagan, 2009)。Notchリガンド ECDからなる二重特異性抗体は、Notchレポーター細胞を添加する前に、培養プレートに固定化したか、または培養培地に直接添加(すなわち、非固定化)した。一貫して、DLL3を除く全てのNotchリガンド二重特異性抗体では、固定化した場合にのみ、Notchレポーターの足場依存性活性化が観察された(図8A)。
抗体誘導性Notch活性化での足場の重要性を実証するために、2種類の異なるレベルのアンカー抗原GPC3を発現するSK-HEP1細胞を用いた(図8B)。抗GPC3結合アームからなる二重特異性抗体は、Notchレポーター細胞を活性化することができたが、GPC3発現細胞に結合しない抗KLH含有二重特異性抗体は活性化することができなかった。加えて、抗GPC3二重特異性抗体によって誘導されるNotch活性化は、GPC3を過剰発現する細胞(SK-PCA31およびSK-PCA60)においてのみ観察された。注目すべきことに、SK-PCA31(GPC3低)とSK-PCA60(GPC高)とでNotch活性化のレベルは同等のままであり、細胞1個当たりの表面アンカー抗原発現に置き換えた場合の足場依存性Notch活性化に必要とされる閾値は低いことが示唆された(SK-PAC31では細胞1個当たり2,672の表面アンカー抗原 対 SK-PCA60では細胞1個当たり120,762の表面アンカー抗原)(図6C)。これは、十分な数のアンカー抗原が細胞上に発現している限り、トランス結合を介するNotch活性化を達成できることを示唆する(図8C)。
抗体固定化アッセイのための方法
吸着を介したNotchリガンド二重特異性抗体の直接的な固定化では、最初に、96ウェルプレートを、10 μg/mLの濃度の抗体で4℃にて16時間コーティングした。抗体コーティング後、培養プレートを細胞培養培地で洗浄し、その後5% FBS溶液で室温にて2時間ブロッキングした。その後、C2C12 Notchレポーター細胞を1ウェル当たり3×104細胞で播種し、37℃にて48時間インキュベートした後に、製造者のプロトコール(Promega)に従ってdual-gloルシフェラーゼアッセイを実施した。非固定化条件では、C2C12 Notchレポーター細胞を播種する直前に、抗体を添加した。ルシフェラーゼシグナルを相対的ルシフェラーゼ単位(RLU)として表し、抗KLHアイソタイプ対照のRLUに対してさらに正規化した。
共培養Notchレポーターアッセイための方法
アンカー抗原発現細胞(すなわち、GPC3/FAP/CD32過剰発現細胞)を1ウェル当たり1×105細胞の密度で播種し、37℃にて16時間インキュベートした。抗GPC3//Notchリガンド-Fc二重特異性抗体または抗KLH IgG1アイソタイプ対照抗体を1ウェル当たり250 μg/mLで添加し、1時間インキュベートした後に、3×104個のC2C12 Notchレポーター細胞をウェルに播種した。37℃にて24時間のインキュベーション後、dual-gloルシフェラーゼアッセイを製造者のプロトコール(Promega)に従って実行した。ルシフェラーゼシグナルを相対的ルシフェラーゼ単位として表し、抗KLHアイソタイプ対照のRLUに対してさらに正規化した。
細胞表面GPC3定量化のための方法
GPC3の細胞表面発現を、製造者の推奨プロトコールに従ってQuantum Simply Cellular、抗ヒトキット(Bangs Laboratories)を用いて定量化した。簡単に述べると、10,000個の細胞を調製し、抗GPC3抗体で氷上にて30分間染色した。96ウェルプレートをHEPES-BSA緩衝液で2回洗浄し、ヤギ抗ヒトκPE二次抗体(Southern Biotech)を添加し、氷上で30分間インキュベートした。プレートを2回洗浄した後、サンプルをPEシグナルについてフローサイトメーター(BD, Fortessa)で分析した。標準曲線を、様々なレベルの抗ヒトIgGをコンジュゲートさせたマイクロスフェアにより生成した。細胞表面GPC3の算出を、製造者によって提供されたQuickCal v2.3ツールを用いて行った。
(表4)図7および8に表される分子の配列IDを示す表
Figure 2023530797000011
(表5)図7および8ならびに表4に表される分子のアミノ酸配列を示す表
Figure 2023530797000012
Figure 2023530797000013
Figure 2023530797000014
Figure 2023530797000015

Claims (27)

  1. (i)第1の標的細胞上のNotch受容体に特異的に結合する第1の抗原結合部分、および
    (ii)第2の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第2の抗原結合部分
    を含む、多重特異性抗原結合分子であって、
    第1の標的細胞と第2の標的細胞が異なる細胞であり、かつ
    該多重特異性抗原結合分子が第2の標的細胞上のアンカー抗原に結合している場合に、該多重特異性抗原結合分子が、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化する、
    多重特異性抗原結合分子。
  2. 第1の標的細胞が、組織幹細胞、活性化CD4 Tリンパ球、線維化促進因子分泌細胞、または腫瘍微小環境中の腫瘍形成促進性(pro-tumorigenic)細胞である、請求項1記載の多重特異性抗原結合分子。
  3. 組織幹細胞が、衛星細胞、成体腸幹細胞、または陰窩基底部円柱(CBC)細胞である、請求項2記載の多重特異性抗原結合分子。
  4. 第1の結合部分が、Notch受容体リガンドのNotch結合ドメインを含む、請求項1~3のいずれか一項記載の多重特異性抗原結合分子。
  5. Notch受容体リガンドが、Notch1、Notch2、Notch3、またはNotch4受容体に対するリガンドである、請求項4記載の多重特異性抗原結合分子。
  6. Notch受容体リガンドが、Deltaタンパク質またはJaggedタンパク質である、請求項4または5記載の多重特異性抗原結合分子。
  7. Deltaタンパク質が、Delta様リガンド 1(DLL1)、DLL3、またはDLL4である、請求項6記載の多重特異性抗原結合分子。
  8. Jaggedタンパク質がJagged 1またはJagged 2である、請求項6記載の多重特異性抗原結合分子。
  9. 第1の抗原結合部分が、Notch受容体に特異的に結合するFab、scFv、VHH、VL、VH、またはシングルドメイン抗体を含む、請求項1~3のいずれか一項記載の多重特異性抗原結合分子。
  10. 第2の標的細胞が、衛星細胞ではない筋細胞、活性化線維芽細胞、FcgRIIBを発現する免疫細胞、GPC3発現がん細胞、および腸陰窩中の細胞からなる群より選択される、請求項1~9のいずれか一項記載の多重特異性抗原結合分子。
  11. FcgRIIBを発現する免疫細胞が、循環Bリンパ球、単球、好中球、リンパ系樹状細胞、および骨髄樹状細胞からなる群より選択される、請求項10記載の多重特異性抗原結合分子。
  12. 第2の標的細胞上のアンカー抗原が、電位開口型カルシウムチャネルサブユニットα1 S(CACNA1S)、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、グリピカン-3(GPC3)、およびFcγRIIB(CD32B)からなる群より選択される、請求項10記載の多重特異性抗原結合分子。
  13. 第2の抗原結合部分が、アンカー抗原に特異的に結合するFab、scFv、VHH、VL、VH、シングルドメイン抗体、リガンド、または改変されたFc領域を含む、請求項1~12のいずれか一項記載の多重特異性抗原結合分子。
  14. Fc領域をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項記載の多重特異性抗原結合分子。
  15. Fc領域が、
    天然型ヒトIgG1 Fcドメインと比較して、ヒトFcγ受容体に対する低下した結合アフィニティを示す、改変されたFc領域
    である、請求項14記載の多重特異性抗原結合分子。
  16. 第2の抗原結合部分が、FcgRIIBに特異的に結合する改変されたFc領域を含む、請求項13~15のいずれか一項記載の多重特異性抗原結合分子。
  17. 第1の抗原結合部分をもう一つさらに含む、請求項16記載の多重特異性抗原結合分子。
  18. 第3の標的細胞上のアンカー抗原に特異的に結合する第3の抗原結合部分をさらに含む、請求項16記載の多重特異性抗原結合分子。
  19. 第2の標的細胞と第3の標的細胞が、異なる細胞または同じ細胞である、請求項18記載の多重特異性抗原結合分子。
  20. 請求項1~19のいずれか一項記載の多重特異性抗原結合分子と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
  21. 第1の標的細胞を、有効量の請求項1~19のいずれか一項記載の多重特異性抗原結合分子または請求項20記載の医薬組成物と接触させる段階を含む、第1の標的細胞においてNotchシグナル伝達経路を活性化するための方法。
  22. 第1の標的細胞がインビボで哺乳動物対象中にある、請求項21記載の方法。
  23. 対象がヒトである、請求項22記載の方法。
  24. 請求項1~19のいずれか一項記載の多重特異性抗原結合分子をコードする、単離された核酸。
  25. 請求項24記載の核酸を含む、ベクター。
  26. 請求項24記載の核酸または請求項25記載のベクターを含む、宿主細胞。
  27. 請求項26記載の宿主細胞を培養する段階を含む、請求項1~19のいずれか一項記載の多重特異性抗原結合分子を産生する方法。
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