JP2021510064A - 細胞傷害誘導治療剤 - Google Patents
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Abstract
本発明者らは、クローディン6に結合する第1抗体可変領域を含む第1ドメインと、T細胞受容体複合体に結合する第2抗体可変領域を含む第2ドメインとを含む、細胞傷害性が優れかつ安定性が高い、新規な多重特異性抗原結合分子を発見した。本発明の分子は、クローディン6を発現する細胞および組織に対して強力な細胞傷害性を示すことから、様々ながんを治療または予防するための、多重特異性抗原結合分子を含む新規な医薬組成物を製造することが可能である。
Description
本発明は、ヒトクローディン6 (CLDN6) に結合する第1抗体可変領域を含む第1ドメインと、T細胞受容体複合体に結合する第2抗体可変領域を含む第2ドメインと、Fc領域を含む第3ドメインとを含む、多重特異性抗原結合分子、およびその使用等に関する。
がんは世界中で主な死亡原因の一つである。ある特定のがん腫を除いて、腫瘍は発見された時点で手術不可能である場合が多い。従来のがん治療には、放射線療法、化学療法、および免疫療法が含まれる。これらの治療は十分に効果的でない場合が多く、最終的に治療後にがんの再発または転移が生じる。腫瘍特異性の欠如が、最大限の有効性を限定する要因の一つである;したがって、より腫瘍特異的な分子標的療法が、がん治療におけるさらなる実行可能な選択肢となっている。
抗体は血漿中での安定性が高く、かつ副作用が少ないことから、医薬として注目されている。複数の治療用抗体の中で、いくつかの種類の抗体は、抗腫瘍応答をもたらすためにエフェクター細胞を必要とする。抗体依存性細胞媒介性細胞傷害 (ADCC) は、抗体のFc領域が、NK細胞およびマクロファージ上に存在するFc受容体に結合することにより、抗体が結合した細胞に対してエフェクター細胞が示す細胞傷害である。今日までに、ADCCを誘導して抗腫瘍効果を発揮し得る複数の治療用抗体が、がんを治療するための医薬として開発されている(非特許文献1)。腫瘍特異的に発現される抗原を従来の治療用抗体を用いて標的化する治療法は、優れた抗腫瘍活性を示すものの、そのような抗体の投与は、必ずしも満足のいく結果をもたらし得るとは限らない。
NK細胞またはマクロファージをエフェクター細胞として動員することによりADCCを採用する抗体に加えて、T細胞をエフェクター細胞として動員することにより細胞傷害を採用するT細胞動員抗体(TR抗体)が、1980年代から知られている(非特許文献2〜4)。TR抗体は、T細胞上のT細胞受容体複合体を形成するサブユニットのいずれか一つ、特にCD3ε鎖、およびがん細胞上の抗原を認識し、それらに結合する二重特異性抗体である。いくつかのTR抗体が、現在開発されている。EpCAMに対するTR抗体であるカツマキソマブが、悪性腹水の治療に関してEUで認可された。さらに、「二重特異性T細胞誘導体 (bispecific T-cell engager; BiTE)」と称されるTR抗体の一種が、強力な抗腫瘍活性を示すことが最近見出された(非特許文献5および6)。CD19に対するBiTE分子であるブリナツモマブは、2014年に初めてFDAの認可を受けた。ブリナツモマブは、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害 (ADCC) および補体依存性細胞傷害 (CDC) を誘導するリツキシマブと比較して、インビトロでCD19/CD20陽性がん細胞に対してはるかにより強力な細胞傷害活性を示すことが判明した(非特許文献7)。
しかしながら、三機能性 (trifunctional) 抗体は、がん抗原非依存的に、T細胞、およびNK細胞またはマクロファージなどの細胞の両方に同時に結合し、その結果、これらの細胞に発現する受容体が架橋され、がん抗原非依存的に様々なサイトカインの発現が誘導されることが知られている。三機能性抗体の全身投与は、こうしたサイトカイン発現の誘導の結果、サイトカインストーム様の副作用を引き起こすと考えられる。実際、第一相臨床試験においては、非小細胞肺がん患者に対するカツマキソマブの全身投与の場合、5μg/身体という極めて低い用量が最大耐量であり、それ以上の用量の投与により様々な重篤な副作用が起こることが報告されている(非特許文献8)。こうした低い用量の投与の場合、カツマキソマブはその有効血中濃度には到底達し得ない。すなわち、こうした低い用量のカツマキソマブの投与によっては期待される抗腫瘍作用が得られない。
一方、BiTEは、カツマキソマブとは異なり、Fcγ受容体結合部位を持たないため、T細胞およびNK細胞やマクロファージなどの細胞に発現する受容体をがん抗原非依存的に架橋することはない。そのため、BiTEは、カツマキソマブが投与された場合に観察されるがん抗原非依存的なサイトカインの誘導を引き起こさないことが示されている。しかしながら、BiTEはFc領域を欠く低分子量型の改変抗体分子であるために、治療用抗体として従来用いられるIgG型抗体と比較して、患者に投与された後の血中半減期が著しく短いという問題点が存在する。実際、生体に投与されたBiTEの血中半減期は数時間程度であることが報告されている(非特許文献9および10)。ブリナツモマブの臨床試験においてはミニポンプを用いた持続静脈内注入により投与が行なわれている。こうした投与方法は患者にとって著しく利便性が悪いだけでなく、機器の故障などによる医療事故のリスクも潜在する。そのため、こうした投与方法は望ましいとはいえない。
クローディンファミリーは、4つの膜貫通ドメインを有し、タイトジャンクションを構成する、分子量およそ23 kDの細胞膜タンパク質のファミリーである。クローディンファミリーは、ヒトおよびマウスにおいて24種類のメンバーを含み、クローディンの各メンバーは、各上皮細胞型に応じて非常にユニークな発現パターンを示すことが公知である(非特許文献11〜14)。上皮細胞のシートにおいては、物質が細胞間隙に漏出(拡散)するのを防ぐようにある機構が働き、タイトジャンクションと称される細胞間接着システムは、この漏出を防ぐ機構において「バリア」としての中心的役割を実際に果たすことが示されている。
抗CLDN6抗体に関して、CLDN6に対する単一特異性抗体は、CLDN6陽性がん細胞株に対してADCC活性または内部移行活性を有することが報告された(特許文献1〜5)。CLDN6を標的とする二重特異性分子がBiTEの分子形式で作製されたが(特許文献6〜7)、上述のように、BiTEはFc領域を欠く低分子量型の改変抗体分子であり、IgG型の抗体と比較して著しく短い血中半減期を示し、このことは治療薬として用いるのに不都合を生じる。
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本発明の目的は、T細胞をCLDN6発現細胞に近接させ、CLDN6発現がん細胞に対するT細胞の細胞傷害性を用いることによってがんの治療を可能にする多重特異性抗原結合分子、該多重特異性抗原結合分子を製造する方法、およびそのような多重特異性抗原結合分子を有効成分として含む、細胞傷害性を誘導するための治療剤を提供することである。本発明の別の目的は、上述の抗原結合分子のうちの1つを有効成分として含む、様々ながんを治療または予防することにおける使用のための医薬組成物、および該医薬組成物を用いる治療法を提供することである。
本発明者らは、ヒトCLDN6に結合する第1抗体可変領域を含む第1ドメインとT細胞受容体複合体に結合する第2抗体可変領域を含む第2ドメインとを含む多重特異性抗原結合分子が、CLDN6を発現する細胞を損傷し、優れた細胞傷害/抗腫瘍活性を発揮し得ることを見出した。本発明者らは、該多重特異性抗原結合分子、および該抗原結合分子を有効成分として含むことにより、様々ながん、特に、CLDN6陽性腫瘍などのCLDN6と関連したがんを治療し得る医薬組成物を提供する。
より具体的には、本発明は以下のものを提供する:
[1] (1) ヒトCLDN6に結合する第1抗原結合ドメインを含む、第1ドメイン、
(2) T細胞受容体複合体に結合する第2抗原結合ドメインを含む、第2ドメイン、および
(3) Fc領域を含む、第3ドメイン
を含む、多重特異性抗原結合分子。
[2] 細胞傷害活性を有する、[1] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[3] 前記細胞傷害活性がT細胞依存性細胞傷害活性である、[2] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[4] (1) の第1抗原結合ドメインがヒトCLDN6に特異的に結合する、[1]〜[3] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[5] (1) の第1抗原結合ドメインが、ヒトCLDN9、ヒトCLDN4、およびヒトCLDN3より選択される少なくとも1つに実質的に結合しない、[1]〜[4] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[6] (1) の第1抗原結合ドメインが、配列番号:53に規定されるCLDN6変異体に実質的に結合しない、[1]〜[5] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[7] (2) の第2抗原結合ドメインがT細胞受容体に結合する、[1]〜[6] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[8] (2) の第2抗原結合ドメインがCD3ε鎖に結合する、[1]〜[6] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[9] 第1抗原結合ドメインもしくは第2抗原結合ドメインが抗体可変断片であるか、または第1抗原結合ドメインおよび第2抗原結合ドメインの両方が抗体可変断片である、[1]〜[8] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[10] 前記抗体可変断片がFabである、[9] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[11] (1) の第1抗原結合ドメインが、以下の (a1)〜(a6) のうちのいずれか1つである、[1]〜[10] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子:
(a1) 配列番号:1のHVR-H1配列、配列番号:2のHVR-H2配列、配列番号:3のHVR-H3配列、配列番号:4のHVR-L1配列、配列番号:5のHVR-L2配列、および配列番号:6のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a2) 配列番号:9のHVR-H1配列、配列番号:10のHVR-H2配列、配列番号:11のHVR-H3配列、配列番号:12のHVR-L1配列、配列番号:13のHVR-L2配列、および配列番号:14のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a3) 配列番号:17のHVR-H1配列、配列番号:18のHVR-H2配列、配列番号:19のHVR-H3配列、配列番号:20のHVR-L1配列、配列番号:21のHVR-L2配列、および配列番号:22のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a4) 配列番号:25のHVR-H1配列、配列番号:26のHVR-H2配列、配列番号:27のHVR-H3配列、配列番号:28のHVR-L1配列、配列番号:29のHVR-L2配列、および配列番号:30のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a5) (a1)〜(a4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つと同じエピトープに結合する、抗体可変領域;
(a6) (a1)〜(a4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つとヒトCLDN6への結合に関して競合する、抗体可変領域。
[12] (1) の第1抗体可変領域が、以下の (b1)〜(b6) のうちのいずれか1つである、[1]〜[10] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子:
(b1) 配列番号:7中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:7中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:7中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:8中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:8中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:8中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b2) 配列番号:15中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:15中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:15中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:16中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:16中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:16中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b3) 配列番号:23中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:23中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:23中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:24中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:24中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:24中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b4) 配列番号:31中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:31中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:31中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:32中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:32中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:32中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b5) (b1)〜(b4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つと同じエピトープに結合する、抗体可変領域;
(b6) (b1)〜(b4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つとヒトCLDN6への結合に関して競合する、抗体可変領域。
[13] (2) の第2抗体可変領域が、以下の (c1)〜(c3) のうちのいずれか1つである、[1]〜[12] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子:
(c1) 配列番号:33のHVR-H1配列、配列番号:34のHVR-H2配列、配列番号:35のHVR-H3配列、配列番号:36のHVR-L1配列、配列番号:37のHVR-L2配列、および配列番号:38のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(c2) (c1) の抗体可変領域と同じエピトープに結合する、抗体可変領域;
(c3) (c1) の抗体可変領域とCD3ε鎖への結合に関して競合する、抗体可変領域。
[14] (1) ヒトCLDN6に結合する第1抗原結合ドメインを含む、第1ドメイン、および
(2) T細胞受容体複合体に結合する第2抗原結合ドメインを含む、第2ドメイン
を含む、多重特異性抗原結合分子であって、
(1) の第1抗体可変領域が、以下の (a1)〜(a6) のうちのいずれか1つである、
多重特異性抗原結合分子:
(a1) 配列番号:1のHVR-H1配列、配列番号:2のHVR-H2配列、配列番号:3のHVR-H3配列、配列番号:4のHVR-L1配列、配列番号:5のHVR-L2配列、および配列番号:6のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a2) 配列番号:9のHVR-H1配列、配列番号:10のHVR-H2配列、配列番号:11のHVR-H3配列、配列番号:12のHVR-L1配列、配列番号:13のHVR-L2配列、および配列番号:14のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a3) 配列番号:17のHVR-H1配列、配列番号:18のHVR-H2配列、配列番号:19のHVR-H3配列、配列番号:20のHVR-L1配列、配列番号:21のHVR-L2配列、および配列番号:22のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a4) 配列番号:25のHVR-H1配列、配列番号:26のHVR-H2配列、配列番号:27のHVR-H3配列、配列番号:28のHVR-L1配列、配列番号:29のHVR-L2配列、および配列番号:30のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a5) (a1)〜(a4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つと同じエピトープに結合する、抗体可変領域;
(a6) (a1)〜(a4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つとヒトCLDN6への結合に関して競合する、抗体可変領域。
[15] (1) ヒトCLDN6に結合する第1抗原結合ドメインを含む、第1ドメイン、および
(2) T細胞受容体複合体に結合する第2抗原結合ドメインを含む、第2ドメイン
を含む、多重特異性抗原結合分子であって、
(1) の第1抗体可変領域が、以下の (b1)〜(b6) のうちのいずれか1つである、
多重特異性抗原結合分子:
(b1) 配列番号:7中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:7中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:7中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:8中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:8中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:8中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b2) 配列番号:15中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:15中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:15中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:16中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:16中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:16中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b3) 配列番号:23中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:23中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:23中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:24中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:24中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:24中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b4) 配列番号:31中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:31中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:31中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:32中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:32中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:32中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b5) (b1)〜(b4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つと同じエピトープに結合する、抗体可変領域;
(b6) (b1)〜(b4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つとヒトCLDN6への結合に関して競合する、抗体可変領域。
[16] 細胞傷害活性を有する、[14] または [15] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[17] 前記細胞傷害活性がT細胞依存性細胞傷害活性である、[16] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[18] (1) の第1抗原結合ドメインがヒトCLDN6に特異的に結合する、[14]〜[17] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[19] 第1抗原結合ドメイン (1) が、ヒトCLDN9、ヒトCLDN4、およびヒトCLDN3より選択される少なくとも1つに実質的に結合しない、[14]〜[18] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[20] (1) の第1抗原結合ドメインが、配列番号:53に規定されるCLDN6変異体に実質的に結合しない、[14]〜[19] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[21] (2) の第2抗原結合ドメインがT細胞受容体に結合する、[14]〜[20] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[22] (2) の第2抗原結合ドメインがCD3ε鎖に結合する、[14]〜[20] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[23] 第1抗原結合ドメインまたは第2抗原結合ドメインが抗体可変断片を含む、[14]〜[22] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[24] 前記抗体可変断片がFabである、[23] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[25] (2) の第2抗原結合ドメインが、以下の (c1)〜(c3) のうちのいずれか1つである、[14]〜[24] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子:
(c1) 配列番号:33のHVR-H1配列、配列番号:34のHVR-H2配列、配列番号:35のHVR-H3配列、配列番号:36のHVR-L1配列、配列番号:37のHVR-L2配列、および配列番号:38のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(c2) (c1) の抗体可変領域と同じエピトープに結合する、抗体可変領域;
(c3) (c1) の抗体可変領域とCD3ε鎖への結合に関して競合する、抗体可変領域。
[26] (3) のFc領域が、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である、[1]〜[13] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[27] 前記Fc領域が、配列番号:62〜65(IgG1〜IgG4)のFc領域構成アミノ酸のうちのいずれかにおいて少なくとも1つのアミノ酸変異を有するFc領域である、[26] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[28] 前記Fc領域が、EUナンバリングによって指定される以下のアミノ酸位置:
220位、226位、229位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、264位、265位、266位、267位、269位、270位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、325位、327位、328位、329位、330位、331位、および332位
より選択される少なくとも1つのアミノ酸の変異を有するFc領域である、[26] または [27] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[29] 二重特異性抗体である、[1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[30] [1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体をコードする、単離された核酸。
[31] [30] に記載の核酸を含む宿主細胞。
[32] 多重特異性抗原結合分子または二重特異性抗体が産生されるように、[31] に記載の宿主細胞を培養する段階を含む、多重特異性抗原結合分子または二重特異性抗体を製造する方法。
[33] 宿主細胞から前記多重特異性抗原結合分子または二重特異性抗体を回収する段階をさらに含む、[32] に記載の方法。
[34] [1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
[35] T細胞依存性細胞傷害性を誘導する、[34] に記載の医薬組成物。
[36] 医薬としての使用のための、[1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体。
[37] がんの治療における使用のための、[1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体。
[38] 卵巣がん、非小細胞肺がん、胃がん、または肝がんの治療における使用のための、[1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体。
[39] 医薬の製造における、[1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体の使用。
[40] がんの治療のための医薬の製造における、[1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体の使用。
[41] 卵巣がん、非小細胞肺がん、胃がん、または肝がんの治療のための医薬の製造における、[1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体の使用。
[42] [1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体の有効量を個体に投与する段階を含む、がんを有する個体を治療する方法。
[43] [1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体の有効量を個体に投与する段階を含む、卵巣がん、非小細胞肺がん、胃がん、または肝がんを有する個体を治療する方法。
[44] [1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体と、使用説明書とを含む、キット。
[1] (1) ヒトCLDN6に結合する第1抗原結合ドメインを含む、第1ドメイン、
(2) T細胞受容体複合体に結合する第2抗原結合ドメインを含む、第2ドメイン、および
(3) Fc領域を含む、第3ドメイン
を含む、多重特異性抗原結合分子。
[2] 細胞傷害活性を有する、[1] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[3] 前記細胞傷害活性がT細胞依存性細胞傷害活性である、[2] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[4] (1) の第1抗原結合ドメインがヒトCLDN6に特異的に結合する、[1]〜[3] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[5] (1) の第1抗原結合ドメインが、ヒトCLDN9、ヒトCLDN4、およびヒトCLDN3より選択される少なくとも1つに実質的に結合しない、[1]〜[4] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[6] (1) の第1抗原結合ドメインが、配列番号:53に規定されるCLDN6変異体に実質的に結合しない、[1]〜[5] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[7] (2) の第2抗原結合ドメインがT細胞受容体に結合する、[1]〜[6] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[8] (2) の第2抗原結合ドメインがCD3ε鎖に結合する、[1]〜[6] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[9] 第1抗原結合ドメインもしくは第2抗原結合ドメインが抗体可変断片であるか、または第1抗原結合ドメインおよび第2抗原結合ドメインの両方が抗体可変断片である、[1]〜[8] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[10] 前記抗体可変断片がFabである、[9] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[11] (1) の第1抗原結合ドメインが、以下の (a1)〜(a6) のうちのいずれか1つである、[1]〜[10] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子:
(a1) 配列番号:1のHVR-H1配列、配列番号:2のHVR-H2配列、配列番号:3のHVR-H3配列、配列番号:4のHVR-L1配列、配列番号:5のHVR-L2配列、および配列番号:6のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a2) 配列番号:9のHVR-H1配列、配列番号:10のHVR-H2配列、配列番号:11のHVR-H3配列、配列番号:12のHVR-L1配列、配列番号:13のHVR-L2配列、および配列番号:14のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a3) 配列番号:17のHVR-H1配列、配列番号:18のHVR-H2配列、配列番号:19のHVR-H3配列、配列番号:20のHVR-L1配列、配列番号:21のHVR-L2配列、および配列番号:22のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a4) 配列番号:25のHVR-H1配列、配列番号:26のHVR-H2配列、配列番号:27のHVR-H3配列、配列番号:28のHVR-L1配列、配列番号:29のHVR-L2配列、および配列番号:30のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a5) (a1)〜(a4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つと同じエピトープに結合する、抗体可変領域;
(a6) (a1)〜(a4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つとヒトCLDN6への結合に関して競合する、抗体可変領域。
[12] (1) の第1抗体可変領域が、以下の (b1)〜(b6) のうちのいずれか1つである、[1]〜[10] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子:
(b1) 配列番号:7中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:7中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:7中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:8中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:8中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:8中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b2) 配列番号:15中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:15中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:15中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:16中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:16中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:16中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b3) 配列番号:23中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:23中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:23中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:24中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:24中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:24中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b4) 配列番号:31中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:31中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:31中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:32中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:32中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:32中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b5) (b1)〜(b4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つと同じエピトープに結合する、抗体可変領域;
(b6) (b1)〜(b4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つとヒトCLDN6への結合に関して競合する、抗体可変領域。
[13] (2) の第2抗体可変領域が、以下の (c1)〜(c3) のうちのいずれか1つである、[1]〜[12] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子:
(c1) 配列番号:33のHVR-H1配列、配列番号:34のHVR-H2配列、配列番号:35のHVR-H3配列、配列番号:36のHVR-L1配列、配列番号:37のHVR-L2配列、および配列番号:38のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(c2) (c1) の抗体可変領域と同じエピトープに結合する、抗体可変領域;
(c3) (c1) の抗体可変領域とCD3ε鎖への結合に関して競合する、抗体可変領域。
[14] (1) ヒトCLDN6に結合する第1抗原結合ドメインを含む、第1ドメイン、および
(2) T細胞受容体複合体に結合する第2抗原結合ドメインを含む、第2ドメイン
を含む、多重特異性抗原結合分子であって、
(1) の第1抗体可変領域が、以下の (a1)〜(a6) のうちのいずれか1つである、
多重特異性抗原結合分子:
(a1) 配列番号:1のHVR-H1配列、配列番号:2のHVR-H2配列、配列番号:3のHVR-H3配列、配列番号:4のHVR-L1配列、配列番号:5のHVR-L2配列、および配列番号:6のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a2) 配列番号:9のHVR-H1配列、配列番号:10のHVR-H2配列、配列番号:11のHVR-H3配列、配列番号:12のHVR-L1配列、配列番号:13のHVR-L2配列、および配列番号:14のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a3) 配列番号:17のHVR-H1配列、配列番号:18のHVR-H2配列、配列番号:19のHVR-H3配列、配列番号:20のHVR-L1配列、配列番号:21のHVR-L2配列、および配列番号:22のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a4) 配列番号:25のHVR-H1配列、配列番号:26のHVR-H2配列、配列番号:27のHVR-H3配列、配列番号:28のHVR-L1配列、配列番号:29のHVR-L2配列、および配列番号:30のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a5) (a1)〜(a4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つと同じエピトープに結合する、抗体可変領域;
(a6) (a1)〜(a4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つとヒトCLDN6への結合に関して競合する、抗体可変領域。
[15] (1) ヒトCLDN6に結合する第1抗原結合ドメインを含む、第1ドメイン、および
(2) T細胞受容体複合体に結合する第2抗原結合ドメインを含む、第2ドメイン
を含む、多重特異性抗原結合分子であって、
(1) の第1抗体可変領域が、以下の (b1)〜(b6) のうちのいずれか1つである、
多重特異性抗原結合分子:
(b1) 配列番号:7中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:7中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:7中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:8中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:8中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:8中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b2) 配列番号:15中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:15中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:15中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:16中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:16中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:16中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b3) 配列番号:23中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:23中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:23中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:24中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:24中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:24中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b4) 配列番号:31中に含まれるHVR-H1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H1配列、配列番号:31中に含まれるHVR-H2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H2配列、配列番号:31中に含まれるHVR-H3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-H3配列、配列番号:32中に含まれるHVR-L1領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L1配列、配列番号:32中に含まれるHVR-L2領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L2配列、および配列番号:32中に含まれるHVR-L3領域のアミノ酸配列と同一であるHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(b5) (b1)〜(b4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つと同じエピトープに結合する、抗体可変領域;
(b6) (b1)〜(b4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つとヒトCLDN6への結合に関して競合する、抗体可変領域。
[16] 細胞傷害活性を有する、[14] または [15] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[17] 前記細胞傷害活性がT細胞依存性細胞傷害活性である、[16] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[18] (1) の第1抗原結合ドメインがヒトCLDN6に特異的に結合する、[14]〜[17] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[19] 第1抗原結合ドメイン (1) が、ヒトCLDN9、ヒトCLDN4、およびヒトCLDN3より選択される少なくとも1つに実質的に結合しない、[14]〜[18] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[20] (1) の第1抗原結合ドメインが、配列番号:53に規定されるCLDN6変異体に実質的に結合しない、[14]〜[19] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[21] (2) の第2抗原結合ドメインがT細胞受容体に結合する、[14]〜[20] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[22] (2) の第2抗原結合ドメインがCD3ε鎖に結合する、[14]〜[20] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[23] 第1抗原結合ドメインまたは第2抗原結合ドメインが抗体可変断片を含む、[14]〜[22] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[24] 前記抗体可変断片がFabである、[23] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[25] (2) の第2抗原結合ドメインが、以下の (c1)〜(c3) のうちのいずれか1つである、[14]〜[24] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子:
(c1) 配列番号:33のHVR-H1配列、配列番号:34のHVR-H2配列、配列番号:35のHVR-H3配列、配列番号:36のHVR-L1配列、配列番号:37のHVR-L2配列、および配列番号:38のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(c2) (c1) の抗体可変領域と同じエピトープに結合する、抗体可変領域;
(c3) (c1) の抗体可変領域とCD3ε鎖への結合に関して競合する、抗体可変領域。
[26] (3) のFc領域が、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である、[1]〜[13] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[27] 前記Fc領域が、配列番号:62〜65(IgG1〜IgG4)のFc領域構成アミノ酸のうちのいずれかにおいて少なくとも1つのアミノ酸変異を有するFc領域である、[26] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[28] 前記Fc領域が、EUナンバリングによって指定される以下のアミノ酸位置:
220位、226位、229位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、264位、265位、266位、267位、269位、270位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、325位、327位、328位、329位、330位、331位、および332位
より選択される少なくとも1つのアミノ酸の変異を有するFc領域である、[26] または [27] に記載の多重特異性抗原結合分子。
[29] 二重特異性抗体である、[1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子。
[30] [1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体をコードする、単離された核酸。
[31] [30] に記載の核酸を含む宿主細胞。
[32] 多重特異性抗原結合分子または二重特異性抗体が産生されるように、[31] に記載の宿主細胞を培養する段階を含む、多重特異性抗原結合分子または二重特異性抗体を製造する方法。
[33] 宿主細胞から前記多重特異性抗原結合分子または二重特異性抗体を回収する段階をさらに含む、[32] に記載の方法。
[34] [1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
[35] T細胞依存性細胞傷害性を誘導する、[34] に記載の医薬組成物。
[36] 医薬としての使用のための、[1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体。
[37] がんの治療における使用のための、[1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体。
[38] 卵巣がん、非小細胞肺がん、胃がん、または肝がんの治療における使用のための、[1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体。
[39] 医薬の製造における、[1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体の使用。
[40] がんの治療のための医薬の製造における、[1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体の使用。
[41] 卵巣がん、非小細胞肺がん、胃がん、または肝がんの治療のための医薬の製造における、[1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体の使用。
[42] [1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体の有効量を個体に投与する段階を含む、がんを有する個体を治療する方法。
[43] [1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体の有効量を個体に投与する段階を含む、卵巣がん、非小細胞肺がん、胃がん、または肝がんを有する個体を治療する方法。
[44] [1]〜[28] のいずれか1つに記載の多重特異性抗原結合分子または [29] に記載の二重特異性抗体と、使用説明書とを含む、キット。
本発明は、がん治療の新たなアプローチとして、T細胞をCLDN6発現細胞に近接させ、CLDN6発現がん細胞に対するT細胞の細胞傷害性を用いることによってがんの治療を可能にする多重特異性抗原結合分子、該多重特異性抗原結合分子を製造する方法、およびそのような多重特異性抗原結合分子を有効成分として含有する、細胞傷害を誘導するための治療剤を提供する。本発明の多重特異性抗原結合分子は、強力な抗腫瘍活性を有して細胞傷害を誘導し、CLDN6発現細胞を標的としかつ損傷することができ、したがって様々ながんの治療および予防を可能にする。さらに、本発明の多重特異性抗原結合分子は長い血中半減期を有し、かつがん抗原非依存的なサイトカインストーム等を誘導しないという優れた安全性特性を有する。これにより、安全性および利便性が高い望ましい治療が可能になり、患者の身体的負担が軽減される。
態様の説明
本明細書において記載または参照される技法および手順は、概して十分に理解されており、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3d edition (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.;Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel, et al. eds., (2003));the series Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.):PCR 2: A Practical Approach (M.J. MacPherson, B.D. Hames and G.R. Taylor eds. (1995))、Harlow and Lane, eds. (1988) Antibodies, A Laboratory Manual、およびAnimal Cell Culture (R.I. Freshney, ed. (1987));Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait, ed., 1984);Methods in Molecular Biology, Humana Press;Cell Biology: A Laboratory Notebook (J.E. Cellis, ed., 1998) Academic Press;Animal Cell Culture (R.I. Freshney), ed., 1987);Introduction to Cell and Tissue Culture (J. P. Mather and P.E. Roberts, 1998) Plenum Press;Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J.B. Griffiths, and D.G. Newell, eds., 1993-8) J. Wiley and Sons;Handbook of Experimental Immunology (D.M. Weir and C.C. Blackwell, eds.);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J.M. Miller and M.P. Calos, eds., 1987);PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis et al., eds., 1994);Current Protocols in Immunology (J.E. Coligan et al., eds., 1991);Short Protocols in Molecular Biology (Wiley and Sons, 1999);Immunobiology (C.A. Janeway and P. Travers, 1997);Antibodies (P. Finch, 1997);Antibodies: A Practical Approach (D. Catty., ed., IRL Press, 1988-1989);Monoclonal Antibodies: A Practical Approach (P. Shepherd and C. Dean, eds., Oxford University Press, 2000);Using Antibodies: A Laboratory Manual (E. Harlow and D. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999);The Antibodies (M. Zanetti and J. D. Capra, eds., Harwood Academic Publishers, 1995);ならびにCancer: Principles and Practice of Oncology (V.T. DeVita et al., eds., J.B. Lippincott Company, 1993) に記載される広く利用されている方法論などの従来の方法論を使用して当業者によって一般的に用いられるものである。
本明細書において記載または参照される技法および手順は、概して十分に理解されており、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3d edition (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.;Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel, et al. eds., (2003));the series Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.):PCR 2: A Practical Approach (M.J. MacPherson, B.D. Hames and G.R. Taylor eds. (1995))、Harlow and Lane, eds. (1988) Antibodies, A Laboratory Manual、およびAnimal Cell Culture (R.I. Freshney, ed. (1987));Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait, ed., 1984);Methods in Molecular Biology, Humana Press;Cell Biology: A Laboratory Notebook (J.E. Cellis, ed., 1998) Academic Press;Animal Cell Culture (R.I. Freshney), ed., 1987);Introduction to Cell and Tissue Culture (J. P. Mather and P.E. Roberts, 1998) Plenum Press;Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J.B. Griffiths, and D.G. Newell, eds., 1993-8) J. Wiley and Sons;Handbook of Experimental Immunology (D.M. Weir and C.C. Blackwell, eds.);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J.M. Miller and M.P. Calos, eds., 1987);PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis et al., eds., 1994);Current Protocols in Immunology (J.E. Coligan et al., eds., 1991);Short Protocols in Molecular Biology (Wiley and Sons, 1999);Immunobiology (C.A. Janeway and P. Travers, 1997);Antibodies (P. Finch, 1997);Antibodies: A Practical Approach (D. Catty., ed., IRL Press, 1988-1989);Monoclonal Antibodies: A Practical Approach (P. Shepherd and C. Dean, eds., Oxford University Press, 2000);Using Antibodies: A Laboratory Manual (E. Harlow and D. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999);The Antibodies (M. Zanetti and J. D. Capra, eds., Harwood Academic Publishers, 1995);ならびにCancer: Principles and Practice of Oncology (V.T. DeVita et al., eds., J.B. Lippincott Company, 1993) に記載される広く利用されている方法論などの従来の方法論を使用して当業者によって一般的に用いられるものである。
以下の定義および詳細な説明は、本明細書において説明する本発明の理解を容易にするために提供される。
アミノ酸
本明細書において、アミノ酸は、1文字コードもしくは3文字コードまたはその両方、例えば、Ala/A、Leu/L、Arg/R、Lys/K、Asn/N、Met/M、Asp/D、Phe/F、Cys/C、Pro/P、Gln/Q、Ser/S、Glu/E、Thr/T、Gly/G、Trp/W、His/H、Tyr/Y、Ile/I、またはVal/Vによって記載される。
本明細書において、アミノ酸は、1文字コードもしくは3文字コードまたはその両方、例えば、Ala/A、Leu/L、Arg/R、Lys/K、Asn/N、Met/M、Asp/D、Phe/F、Cys/C、Pro/P、Gln/Q、Ser/S、Glu/E、Thr/T、Gly/G、Trp/W、His/H、Tyr/Y、Ile/I、またはVal/Vによって記載される。
アミノ酸の改変
抗原結合分子のアミノ酸配列中のアミノ酸改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))および重複伸長PCRなどの公知の方法が適宜採用され得る。さらに、非天然アミノ酸に置換するためのアミノ酸改変方法として、いくつかの公知の方法もまた採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249;およびProc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合したtRNAを含む無細胞翻訳系 (Clover Direct (Protein Express)) を用いることが適切である。
抗原結合分子のアミノ酸配列中のアミノ酸改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))および重複伸長PCRなどの公知の方法が適宜採用され得る。さらに、非天然アミノ酸に置換するためのアミノ酸改変方法として、いくつかの公知の方法もまた採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249;およびProc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合したtRNAを含む無細胞翻訳系 (Clover Direct (Protein Express)) を用いることが適切である。
本明細書において、アミノ酸改変の部位を記載する際の用語「および/または」の意味は、「および」と「または」が適切に組み合わされたあらゆる組合せを含む。具体的には、例えば、「33位、55位、および/または96位のアミノ酸が置換される」は、アミノ酸改変の以下のバリエーションを含む:(a) 33位、(b) 55位、(c) 96位、(d) 33位および55位、(e) 33位および96位、(f) 55位および96位、ならびに (g) 33位、55位、および96位のアミノ酸。
さらに、本明細書において、アミノ酸の改変を示す表現として、特定の位置を表す数字の前および後に、それぞれ改変前および改変後のアミノ酸の1文字コードまたは3文字コードを示す表現が、適宜使用され得る。例えば、抗体可変領域中に含まれるアミノ酸を置換する際に用いられるN100bLまたはAsn100bLeuという改変は、100b位(Kabatナンバリングによる)におけるAsnの、Leuによる置換を表す。すなわち、数字はKabatナンバリングによるアミノ酸の位置を示し、数字の前に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換前のアミノ酸を示し、数字の後に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換後のアミノ酸を示す。同様に、抗体定常領域中に含まれるFc領域のアミノ酸を置換する際に用いられるP238DまたはPro238Aspという改変は、238位(EUナンバリングによる)におけるProの、Aspによる置換を表す。すなわち、数字はEUナンバリングによるアミノ酸の位置を示し、数字の前に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換前のアミノ酸を示し、数字の後に記載される1文字または3文字のアミノ酸コードは置換後のアミノ酸を示す。
抗原結合分子
本明細書で用いられる用語「抗原結合分子」は、抗原結合ドメインを含む任意の分子または抗原に対する結合活性を有する任意の分子のことをいい、さらに、約5アミノ酸またはそれ以上の長さを有するペプチドまたはタンパク質などの分子のことをいい得る。ペプチドおよびタンパク質は、生物由来のものに限定されず、例えば人工的に設計された配列から製造されたポリペプチドであってもよい。それらはまた、天然ポリペプチド、合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等のいずれかであってもよい。
本明細書で用いられる用語「抗原結合分子」は、抗原結合ドメインを含む任意の分子または抗原に対する結合活性を有する任意の分子のことをいい、さらに、約5アミノ酸またはそれ以上の長さを有するペプチドまたはタンパク質などの分子のことをいい得る。ペプチドおよびタンパク質は、生物由来のものに限定されず、例えば人工的に設計された配列から製造されたポリペプチドであってもよい。それらはまた、天然ポリペプチド、合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等のいずれかであってもよい。
本発明の抗原結合分子の好ましい例は、複数の抗原結合ドメインを含む抗原結合分子である。特定の態様において、本発明の抗原結合分子は、抗原結合特異性が異なる2つの抗原結合ドメインを含む抗原結合分子である。特定の態様において、本発明の抗原結合分子は、抗原結合特異性が異なる2つの抗原結合ドメインと、抗体のFc領域中に含まれるFcRn結合ドメインとを含む2つの抗原結合分子を含む抗原結合分子である。生体に投与されたタンパク質の血中半減期を延ばす方法として、目的のタンパク質に抗体のFcRn結合ドメインを付加し、FcRnを介したリサイクリングの機能を利用する方法が周知である。
抗原結合ドメイン
本明細書で用いられる用語「抗原結合ドメイン」は、抗原の全体または一部に特異的に結合しかつ相補的である領域を含む抗体の部分のことをいう。抗原の分子量が大きい場合、抗体は抗原の特定部分にのみ結合し得る。該特定部分は「エピトープ」と称される。抗原結合ドメインは、1つまたは複数の抗体可変ドメインより提供され得る。好ましくは、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変領域 (VL) および抗体重鎖可変領域 (VH) の両方を含む抗体可変領域を含む。そのような好ましい抗原結合ドメインには、例えば、「単鎖Fv (scFv)」、「単鎖抗体」、「Fv」、「単鎖Fv2 (scFv2)」、「Fab」、および「F(ab')2」が含まれる。
本明細書で用いられる用語「抗原結合ドメイン」は、抗原の全体または一部に特異的に結合しかつ相補的である領域を含む抗体の部分のことをいう。抗原の分子量が大きい場合、抗体は抗原の特定部分にのみ結合し得る。該特定部分は「エピトープ」と称される。抗原結合ドメインは、1つまたは複数の抗体可変ドメインより提供され得る。好ましくは、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変領域 (VL) および抗体重鎖可変領域 (VH) の両方を含む抗体可変領域を含む。そのような好ましい抗原結合ドメインには、例えば、「単鎖Fv (scFv)」、「単鎖抗体」、「Fv」、「単鎖Fv2 (scFv2)」、「Fab」、および「F(ab')2」が含まれる。
本発明の抗原結合分子の抗原結合ドメインは、同じエピトープに結合してよい。エピトープは、配列番号:44、45、または61のアミノ酸配列を含むタンパク質中に存在し得る。あるいは、本発明のポリペプチド複合体の抗原結合ドメインは、個々に異なるエピトープに結合してよい。エピトープは、配列番号:44、45、または61のアミノ酸配列を含むタンパク質中に存在し得る。
本発明の抗原結合分子の抗原結合ドメインは、「CLDN6またはT細胞受容体複合体に結合する」。すなわち、CLDN6およびT細胞受容体複合体が、目的の好ましい抗原であり、抗原結合ドメインは、その目的の抗原に対する結合活性を有する。本明細書で用いられる語句「結合活性を有する」は、抗原結合ドメイン、抗体、抗原結合分子、抗体可変断片等(以後、「抗原結合ドメイン等」)が、非特異的結合またはバックグラウンド結合のレベルよりも高い特異的結合のレベルで目的の抗原に結合する活性のことをいう。言い換えると、そのような抗原結合ドメイン等は、目的の抗原に対して「特異的な/有意な結合活性を有する」。特異性は、本明細書において言及されるかまたは当技術分野で公知のアフィニティまたは結合活性を検出するための任意の方法によって測定することができる。上記の特異的結合のレベルは、当業者によって有意であると認識されるのに十分なほど高くてよい。例えば、当業者が、適切な結合アッセイにおいて、抗原結合ドメイン等と目的の抗原との間の結合について任意の有意なまたは比較的強いシグナルまたは値を検出または観察することができる場合に、抗原結合ドメイン等は目的の抗原に対して「特異的な/有意な結合活性」を有するということができる。あるいは、「特異的な/有意な結合活性を有する」は、(目的の抗原に)「特異的に/有意に結合する」と言い換えることができる。場合によっては、語句「結合活性を有する」は、当技術分野において語句「特異的な/有意な結合活性を有する」と実質的に同じ意味を有する。
クローディン6(CLDN6)
本明細書でいう用語「CLDN6」は、別段示さない限り、霊長類(例えば、ヒト)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物供給源からの任意の天然型クローディン6のことをいう。
本明細書でいう用語「CLDN6」は、別段示さない限り、霊長類(例えば、ヒト)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物供給源からの任意の天然型クローディン6のことをいう。
アフィニティ
「アフィニティ」は、分子(例えば、抗原結合分子または抗体)の結合部位1個と、分子の結合パートナー(例えば、抗原)との間の、非共有結合的な相互作用の合計の強度のことをいう。別段示さない限り、本明細書で用いられる「結合アフィニティ」は、ある結合対のメンバー(例えば、抗原結合分子と抗原、または抗体と抗原)の間の1:1相互作用を反映する、固有の結合アフィニティのことをいう。分子XのそのパートナーYに対するアフィニティは、一般的に、解離定数 (Kd) により表すことができる。アフィニティは、本明細書に記載のものを含む、当該技術分野において知られた通常の方法によって測定され得る。結合アフィニティを測定するための具体的な実例となるおよび例示的な態様については、下で述べる。
「アフィニティ」は、分子(例えば、抗原結合分子または抗体)の結合部位1個と、分子の結合パートナー(例えば、抗原)との間の、非共有結合的な相互作用の合計の強度のことをいう。別段示さない限り、本明細書で用いられる「結合アフィニティ」は、ある結合対のメンバー(例えば、抗原結合分子と抗原、または抗体と抗原)の間の1:1相互作用を反映する、固有の結合アフィニティのことをいう。分子XのそのパートナーYに対するアフィニティは、一般的に、解離定数 (Kd) により表すことができる。アフィニティは、本明細書に記載のものを含む、当該技術分野において知られた通常の方法によって測定され得る。結合アフィニティを測定するための具体的な実例となるおよび例示的な態様については、下で述べる。
アフィニティを決定する方法
特定の態様において、本明細書で提供される抗原結合分子または抗体の抗原結合ドメインは、その抗原に対して、≦1μM、≦120nM、≦100nM、≦80nM、≦70nM、≦50nM、≦40nM、≦30nM、≦20nM、≦10nM、≦2nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nMまたは≦0.001nM(例えば、10-8M以下、10-8M〜10-13M、10-9M〜10-13M)の解離定数 (Kd) を有する。特定の態様において、CLDN6に対する、抗体/抗原結合分子の第1抗原結合ドメインのKd値は、1〜40、1〜50、1〜70、1〜80、30〜50、30〜70、30〜80、40〜70、40〜80、または60〜80nMの範囲内に入る。
特定の態様において、本明細書で提供される抗原結合分子または抗体の抗原結合ドメインは、その抗原に対して、≦1μM、≦120nM、≦100nM、≦80nM、≦70nM、≦50nM、≦40nM、≦30nM、≦20nM、≦10nM、≦2nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nMまたは≦0.001nM(例えば、10-8M以下、10-8M〜10-13M、10-9M〜10-13M)の解離定数 (Kd) を有する。特定の態様において、CLDN6に対する、抗体/抗原結合分子の第1抗原結合ドメインのKd値は、1〜40、1〜50、1〜70、1〜80、30〜50、30〜70、30〜80、40〜70、40〜80、または60〜80nMの範囲内に入る。
一態様において、Kdは、放射性標識抗原結合測定法 (radiolabeled antigen binding assay: RIA) によって測定される。一態様において、RIAは、目的の抗体のFabバージョンおよびその抗原を用いて実施される。例えば、抗原に対するFabの溶液中結合アフィニティは、非標識抗原の漸増量系列の存在下で最小濃度の (125I) 標識抗原によりFabを平衡化させ、次いで結合した抗原を抗Fab抗体でコーティングされたプレートにより捕捉することによって測定される。(例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881(1999) を参照のこと)。測定条件を構築するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート (Thermo Scientific) を50mM炭酸ナトリウム (pH9.6) 中5μg/mlの捕捉用抗Fab抗体 (Cappel Labs) で一晩コーティングし、その後に室温(およそ23℃)で2〜5時間、PBS中2% (w/v) ウシ血清アルブミンでブロックする。非吸着プレート (Nunc #269620) において、100 pMまたは26 pMの [125I]-抗原を、(例えば、Presta et al., Cancer Res. 57:4593-4599 (1997) における抗VEGF抗体、Fab-12の評価と同じように)目的のFabの段階希釈物と混合する。次いで、目的のFabを一晩インキュベートするが、このインキュベーションは、平衡が確実に達成されるよう、より長時間(例えば、約65時間)継続され得る。その後、混合物を、室温でのインキュベーション(例えば、1時間)のために捕捉プレートに移す。次いで溶液を除去し、プレートをPBS中0.1%のポリソルベート20(TWEEN-20(登録商標))で8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μl/ウェルのシンチラント(MICROSCINT-20(商標)、Packard)を添加し、TOPCOUNT(商標)ガンマカウンター (Packard) においてプレートを10分間カウントする。最大結合の20%以下を与える各Fabの濃度を、競合結合アッセイにおいて使用するために選択する。
別の態様によれば、Kdは、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定される。例えば、BIACORE(登録商標)-2000またはBIACORE(登録商標)-3000 (BIAcore, Inc., Piscataway, NJ) を用いる測定法が、およそ10反応単位 (response unit: RU) の抗原が固定されたCM5チップを用いて25℃で実施される。一態様において、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ (CM5、BIACORE, Inc.) は、供給元の指示にしたがいN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミドヒドロクロリド (EDC) およびN-ヒドロキシスクシンイミド (NHS) を用いて活性化される。抗原は、およそ10反応単位 (RU) のタンパク質の結合を達成するよう、5μl/分の流速で注入される前に、10mM酢酸ナトリウム、pH4.8を用いて5μg/ml(およそ0.2μM)に希釈される。抗原の注入後、未反応基をブロックするために1Mエタノールアミンが注入される。キネティクスの測定のために、25℃、およそ25μl/分の流速で、0.05%ポリソルベート20(TWEEN-20(商標))界面活性剤含有PBS (PBST) 中のFabの2倍段階希釈物 (0.78nM〜500nM) が注入される。結合速度 (kon) および解離速度 (koff) は、単純な1対1ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)評価ソフトウェアバージョン3.2)を用いて、結合および解離のセンサーグラムを同時にフィッティングすることによって計算される。平衡解離定数 (Kd) は、koff/kon比として計算される。例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881 (1999) を参照のこと。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによってオン速度が106M-1s-1を超える場合、オン速度は、分光計(例えばストップフロー式分光光度計 (Aviv Instruments) または撹拌キュベットを用いる8000シリーズのSLM-AMINCO(商標)分光光度計 (ThermoSpectronic))において測定される、漸増濃度の抗原の存在下でのPBS、pH7.2中20nMの抗抗原抗体(Fab形態)の25℃での蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、バンドパス16nm)の増加または減少を測定する蛍光消光技術を用いることによって決定され得る。
抗体の抗原結合ドメインのアフィニティを測定する方法は上に述べられており、当業者は他の抗原結合ドメインのアフィニティ測定を行うことができる。
抗体
本明細書で用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、所望の抗原結合活性を示す限りは、これらに限定されるものではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体断片を含む、種々の抗体構造を包含する。
本明細書で用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、所望の抗原結合活性を示す限りは、これらに限定されるものではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体断片を含む、種々の抗体構造を包含する。
抗体のクラス
抗体の「クラス」は、抗体の重鎖に備わる定常ドメインまたは定常領域のタイプのことをいう。抗体には5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMである。そして、このうちいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)に分けられてもよい。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2である。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインを、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ぶ。
抗体の「クラス」は、抗体の重鎖に備わる定常ドメインまたは定常領域のタイプのことをいう。抗体には5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMである。そして、このうちいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)に分けられてもよい。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2である。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインを、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ぶ。
フレームワーク
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域 (HVR) 残基以外の、可変ドメイン残基のことをいう。可変ドメインのFRは、通常4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。それに応じて、HVRおよびFRの配列は、通常次の順序でVH(またはVL)に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域 (HVR) 残基以外の、可変ドメイン残基のことをいう。可変ドメインのFRは、通常4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。それに応じて、HVRおよびFRの配列は、通常次の順序でVH(またはVL)に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
ヒトコンセンサスフレームワーク
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVLまたはVHフレームワーク配列の選択群において最も共通して生じるアミノ酸残基を示すフレームワークである。通常、ヒト免疫グロブリンVLまたはVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。通常、配列のサブグループは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 91-3242, Bethesda MD (1991), vols. 1-3におけるサブグループである。一態様において、VLについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループκIである。一態様において、VHについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループIIIである。
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVLまたはVHフレームワーク配列の選択群において最も共通して生じるアミノ酸残基を示すフレームワークである。通常、ヒト免疫グロブリンVLまたはVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。通常、配列のサブグループは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 91-3242, Bethesda MD (1991), vols. 1-3におけるサブグループである。一態様において、VLについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループκIである。一態様において、VHについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループIIIである。
HVR
本明細書で用いられる用語「超可変領域」または「HVR」は、配列において超可変であり(「相補性決定領域」または「CDR」(complementarity determining region))、および/または構造的に定まったループ(「超可変ループ」)を形成し、および/または抗原接触残基(「抗原接触」)を含む、抗体の可変ドメインの各領域のことをいう。通常、抗体は6つのHVRを含む:VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)である。本明細書での例示的なHVRは、以下のものを含む:
(a) アミノ酸残基26-32 (L1)、50-52 (L2)、91-96 (L3)、26-32 (H1)、53-55 (H2)、および96-101 (H3)のところで生じる超可変ループ (Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b) アミノ酸残基24-34 (L1)、50-56 (L2)、89-97 (L3)、31-35b (H1)、50-65 (H2)、 および95-102 (H3)のところで生じるCDR (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c) アミノ酸残基27c-36 (L1)、46-55 (L2)、89-96 (L3)、30-35b (H1)、47-58 (H2)、および93-101 (H3) のところで生じる抗原接触 (MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに、
(d) HVRアミノ酸残基46-56 (L2)、47-56 (L2)、48-56 (L2)、49-56 (L2)、26-35 (H1)、26-35b (H1)、49-65 (H2)、93-102 (H3)、および94-102 (H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組合せ。
別段示さない限り、HVR残基および可変ドメイン中の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書では上記のKabatらにしたがって番号付けされる。
HVR-H1、HVR-H2、HVR-H3、HVR-L1、HVR-L2、およびHVR-L3は、それぞれ「HCDR1」、「HCDR2」、「HCDR3」、「LCDR1」、「LCDR2」、および「LCDR3」ともいわれる。
本明細書で用いられる用語「超可変領域」または「HVR」は、配列において超可変であり(「相補性決定領域」または「CDR」(complementarity determining region))、および/または構造的に定まったループ(「超可変ループ」)を形成し、および/または抗原接触残基(「抗原接触」)を含む、抗体の可変ドメインの各領域のことをいう。通常、抗体は6つのHVRを含む:VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)である。本明細書での例示的なHVRは、以下のものを含む:
(a) アミノ酸残基26-32 (L1)、50-52 (L2)、91-96 (L3)、26-32 (H1)、53-55 (H2)、および96-101 (H3)のところで生じる超可変ループ (Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b) アミノ酸残基24-34 (L1)、50-56 (L2)、89-97 (L3)、31-35b (H1)、50-65 (H2)、 および95-102 (H3)のところで生じるCDR (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c) アミノ酸残基27c-36 (L1)、46-55 (L2)、89-96 (L3)、30-35b (H1)、47-58 (H2)、および93-101 (H3) のところで生じる抗原接触 (MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに、
(d) HVRアミノ酸残基46-56 (L2)、47-56 (L2)、48-56 (L2)、49-56 (L2)、26-35 (H1)、26-35b (H1)、49-65 (H2)、93-102 (H3)、および94-102 (H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組合せ。
別段示さない限り、HVR残基および可変ドメイン中の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書では上記のKabatらにしたがって番号付けされる。
HVR-H1、HVR-H2、HVR-H3、HVR-L1、HVR-L2、およびHVR-L3は、それぞれ「HCDR1」、「HCDR2」、「HCDR3」、「LCDR1」、「LCDR2」、および「LCDR3」ともいわれる。
可変領域
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体を抗原へと結合させることに関与する、抗体の重鎖または軽鎖のドメインのことをいう。天然型抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は、通常、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域 (FR) および3つの超可変領域 (HVR) を含む、類似の構造を有する。(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007) 参照。)1つのVHまたはVLドメインで、抗原結合特異性を与えるに充分であろう。さらに、ある特定の抗原に結合する抗体は、当該抗原に結合する抗体からのVHまたはVLドメインを使ってそれぞれVLまたはVHドメインの相補的ライブラリをスクリーニングして、単離されてもよい。例えばPortolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993); Clarkson et al., Nature 352:624-628 (1991) 参照。
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体を抗原へと結合させることに関与する、抗体の重鎖または軽鎖のドメインのことをいう。天然型抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は、通常、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域 (FR) および3つの超可変領域 (HVR) を含む、類似の構造を有する。(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007) 参照。)1つのVHまたはVLドメインで、抗原結合特異性を与えるに充分であろう。さらに、ある特定の抗原に結合する抗体は、当該抗原に結合する抗体からのVHまたはVLドメインを使ってそれぞれVLまたはVHドメインの相補的ライブラリをスクリーニングして、単離されてもよい。例えばPortolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993); Clarkson et al., Nature 352:624-628 (1991) 参照。
同一性(配列同一性)
参照ポリペプチド配列に対する「パーセント (%) アミノ酸配列同一性」は、最大のパーセント配列同一性を得るように配列を整列させてかつ必要ならギャップを導入した後の、かつ、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとしたときの、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の、百分率比として定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決める目的のアラインメントは、当該技術分野における技術の範囲内にある種々の方法、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、Megalign (DNASTAR) ソフトウェア、またはGENETYX(登録商標)(株式会社ゼネティックス)などの、公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントをとるための適切なパラメーターを決定することができる。
参照ポリペプチド配列に対する「パーセント (%) アミノ酸配列同一性」は、最大のパーセント配列同一性を得るように配列を整列させてかつ必要ならギャップを導入した後の、かつ、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとしたときの、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の、百分率比として定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決める目的のアラインメントは、当該技術分野における技術の範囲内にある種々の方法、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、Megalign (DNASTAR) ソフトウェア、またはGENETYX(登録商標)(株式会社ゼネティックス)などの、公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントをとるための適切なパラメーターを決定することができる。
ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、ジェネンテック社の著作であり、そのソースコードは米国著作権庁 (U.S. Copyright Office, Wasington D.C., 20559) に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、ジェネンテック社 (Genentech, Inc., South San Francisco, California) から公に入手可能であるし、ソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN-2プログラムは、Digital UNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティングシステム上での使用のためにコンパイルされる。すべての配列比較パラメーターは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Aの、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する、ある%アミノ酸配列同一性を有するまたは含む所与のアミノ酸配列A、ということもできる)は、次のように計算される:分率X/Yの100倍。ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、当該プログラムのAおよびBのアラインメントにおいて同一である一致としてスコアされたアミノ酸残基の数であり、YはB中のアミノ酸残基の全数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、AのBへの%アミノ酸配列同一性は、BのAへの%アミノ酸配列同一性と等しくないことが、理解されるであろう。別段特に明示しない限り、本明細書で用いられるすべての%アミノ酸配列同一性値は、直前の段落で述べたとおりALIGN-2コンピュータプログラムを用いて得られるものである。
アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Aの、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する、ある%アミノ酸配列同一性を有するまたは含む所与のアミノ酸配列A、ということもできる)は、次のように計算される:分率X/Yの100倍。ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、当該プログラムのAおよびBのアラインメントにおいて同一である一致としてスコアされたアミノ酸残基の数であり、YはB中のアミノ酸残基の全数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、AのBへの%アミノ酸配列同一性は、BのAへの%アミノ酸配列同一性と等しくないことが、理解されるであろう。別段特に明示しない限り、本明細書で用いられるすべての%アミノ酸配列同一性値は、直前の段落で述べたとおりALIGN-2コンピュータプログラムを用いて得られるものである。
キメラ抗体
用語「キメラ」抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖および/または軽鎖の残りの部分が異なった供給源または種に由来する抗体のことをいう。同様に、用語「キメラ抗体可変ドメイン」は、重鎖および/または軽鎖可変領域の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖および/または軽鎖可変領域の残りの部分が異なった供給源または種に由来する抗体可変領域のことをいう。
用語「キメラ」抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖および/または軽鎖の残りの部分が異なった供給源または種に由来する抗体のことをいう。同様に、用語「キメラ抗体可変ドメイン」は、重鎖および/または軽鎖可変領域の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖および/または軽鎖可変領域の残りの部分が異なった供給源または種に由来する抗体可変領域のことをいう。
ヒト化抗体
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基およびヒトFRからのアミノ酸残基を含む、キメラ抗体のことをいう。ある態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、当該可変領域においては、すべてのもしくは実質的にすべてのHVR(例えばCDR)は非ヒト抗体のものに対応し、かつ、すべてのもしくは実質的にすべてのFRはヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意で、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部分を含んでもよい。抗体(例えば、非ヒト抗体)の「ヒト化された形態」は、ヒト化を経た抗体のことをいう。「ヒト化抗体可変領域」は、ヒト化抗体の可変領域のことをいう。
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基およびヒトFRからのアミノ酸残基を含む、キメラ抗体のことをいう。ある態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、当該可変領域においては、すべてのもしくは実質的にすべてのHVR(例えばCDR)は非ヒト抗体のものに対応し、かつ、すべてのもしくは実質的にすべてのFRはヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意で、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部分を含んでもよい。抗体(例えば、非ヒト抗体)の「ヒト化された形態」は、ヒト化を経た抗体のことをいう。「ヒト化抗体可変領域」は、ヒト化抗体の可変領域のことをいう。
ヒト抗体
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生された抗体またはヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を用いる非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を備える抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒトの抗原結合残基を含むヒト化抗体を、明確に除外するものである。「ヒト抗体可変領域」は、ヒト抗体の可変領域のことをいう。
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生された抗体またはヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を用いる非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を備える抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒトの抗原結合残基を含むヒト化抗体を、明確に除外するものである。「ヒト抗体可変領域」は、ヒト抗体の可変領域のことをいう。
所望の結合活性を有する抗体を製造する方法
所望の結合活性を有する抗体を製造する方法は、当業者に公知である。以下は、クローディン6(以後、CLDN6とも称される)に結合する抗体(抗CLDN6抗体)を製造する方法を記載した例である。T細胞受容体複合体などに結合する抗体も、以下に記載される例に従って製造することができる。
所望の結合活性を有する抗体を製造する方法は、当業者に公知である。以下は、クローディン6(以後、CLDN6とも称される)に結合する抗体(抗CLDN6抗体)を製造する方法を記載した例である。T細胞受容体複合体などに結合する抗体も、以下に記載される例に従って製造することができる。
抗CLDN6抗体は、公知の方法を用いてポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体として得ることができる。好適に製造される抗CLDN6抗体は、哺乳動物由来のモノクローナル抗体である。そのような哺乳動物由来のモノクローナル抗体には、ハイブリドーマによって産生された抗体、または遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を保有する発現ベクターで形質転換された宿主細胞によって産生された抗体が含まれる。
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、例えば以下に記載されるように、公知の技法を用いて製造することができる。具体的には、CLDN6タンパク質を感作抗原として用いて、従来の免疫方法によって哺乳動物を免疫化する。得られた免疫細胞を、従来の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させる。次いで、従来のスクリーニング法を用いてモノクローナル抗体産生細胞についてスクリーニングすることにより、抗CLDN6抗体を産生するハイブリドーマを選択することができる。
具体的には、モノクローナル抗体は下記のように調製される。まず、RefSeq登録番号NM_021195.4またはBC008934.2にそのヌクレオチド配列が開示されているCLDN6遺伝子を発現させて、Genbank登録番号NP_067018.2(配列番号:45)またはAAH08934.1(配列番号:44)に示されるCLDN6タンパク質を生成することができ、それが抗体調製用の感作抗原として用いられる。あるいは、CLDN6の第1または第2の細胞外ドメイン (ECD) をコードするヌクレオチドを発現させて、CLDN6 ECD含有タンパク質を生成することもできる。すなわち、全長CLDN6またはCLDN6 ECDをコードする遺伝子配列を公知の発現ベクターに挿入し、このベクターで適切な宿主細胞を形質転換する。CLDN6の第1または第2のどちらの細胞外ドメインを用いてもよい。公知の方法によって、宿主細胞またはその培養上清から所望のヒト全長CLDN6またはCLDN6 ECDタンパク質を精製する。あるいは、精製された天然のCLDN6タンパク質を感作抗原として用いることも可能である。
哺乳動物の免疫化に使用するための感作抗原として、精製された全長CLDN6またはCLDN6 ECDタンパク質を用いることができる。全長CLDN6またはCLDN6 ECDの部分ペプチドを感作抗原として用いることもできる。この場合、部分ペプチドは、ヒトCLDN6アミノ酸配列から化学合成によって得てもよい。さらに、部分ペプチドは、CLDN6遺伝子の一部を発現ベクターに組み込み、それを発現させることによって得てもよい。その上、部分ペプチドは、プロテアーゼを用いてCLDN6タンパク質を分解することによって得てもよいが、部分ペプチドとして用いられるCLDN6ペプチドの領域およびサイズは、特に特別の態様に限定されない。好ましい領域として、配列番号:44または45のアミノ酸配列中の29〜81位のアミノ酸または138〜159位のアミノ酸に相当するアミノ酸配列からの任意の配列が選択され得る。感作抗原として用いられるペプチドを構成するアミノ酸の数は、少なくとも5個以上、または好ましくは例えば6個以上もしくは7個以上である。より具体的には、8〜50残基または好ましくは10〜30残基からなるペプチドが、感作抗原として用いられ得る。
あるいは、全長CLDN6またはCLDN6 ECDタンパク質の所望の部分ポリペプチドまたはペプチドを異なるポリペプチドと融合することによって調製された融合タンパク質を感作抗原として用いることも可能である。例えば、感作抗原として用いられる融合タンパク質を生成するために、抗体のFc断片およびペプチドタグが好適に用いられる。そのような融合タンパク質を発現させるためのベクターは、2つまたはそれ以上の所望のポリペプチド断片をコードする遺伝子をインフレームで融合し、該融合遺伝子を上記のように発現ベクターに挿入することによって構築することができる。融合タンパク質を生成する方法は、Molecular Cloning 2nd ed. (Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58(1989)Cold Spring Harbor Lab. Press) に記載されている。感作抗原として用いられるCLDN6を調製する方法およびCLDN6を用いた免疫方法は、後に本明細書の実施例においても記載される。
該感作抗原で免疫化される哺乳動物について、特に限定はない。しかしながら、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して哺乳動物を選択するのが好ましい。一般的には、げっ歯類、例えばマウス、ラット、およびハムスター、ウサギ、ならびにサルが好適に使用される。
公知の方法によって上記の動物が感作抗原により免疫化される。例えば、一般的に実施される免疫方法は、哺乳動物への感作抗原の腹腔内注射または皮下注射を含む。具体的には、感作抗原は、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)、生理食塩水等で適当に希釈される。所望により、従来のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントが該抗原と混合され、該混合物が乳化される。次いで、該感作抗原が哺乳動物に4〜21日毎に数回投与される。感作抗原による免疫化においては適当な担体が使用され得る。特に低分子量の部分ペプチドが感作抗原として用いられる場合には、免疫化のためにアルブミンまたはキーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と該感作抗原ペプチドを結合させることが望ましい場合もある。
あるいは、所望の抗体を産生するハイブリドーマを、以下のようにDNA免疫を使用して調製することができる。DNA免疫とは、抗原タンパク質をコードする遺伝子が動物中で発現され得るように構築されたベクターDNAを投与することにより免疫化動物中で感作抗原を発現させることによって、免疫刺激が与えられる免疫方法である。タンパク質抗原が免疫化動物に投与される従来の免疫方法と比べて、DNA免疫は、次の点で優位性が期待される:
−CLDN6のような膜タンパク質の構造を維持しながら免疫刺激が与えられ得る;および
−免疫化のための抗原を精製する必要が無い。
−CLDN6のような膜タンパク質の構造を維持しながら免疫刺激が与えられ得る;および
−免疫化のための抗原を精製する必要が無い。
DNA免疫を用いて本発明のモノクローナル抗体を調製するために、まず、CLDN6タンパク質を発現するDNAが免疫化動物に投与される。CLDN6をコードするDNAは、PCRなどの公知の方法によって合成され得る。得られたDNAが適当な発現ベクターに挿入され、次いでこのベクターが免疫化動物に投与される。好適に使用される発現ベクターとしては、例えば、pcDNA3.1などの市販の発現ベクターが挙げられる。ベクターは、従来の方法を用いて生物に投与され得る。例えば、遺伝子銃を用いて、発現ベクターでコーティングされた金粒子を免疫化動物の体内の細胞内に導入することによって、DNA免疫が実施される。また、CLDN6を認識した抗体は、WO2003/104453に記載された方法によっても製造され得る。
上記のように哺乳動物が免疫化された後、血清中でCLDN6結合抗体の力価の上昇が確認される。その後、哺乳動物から免疫細胞が採取され、次いで細胞融合に供される。特に脾細胞が免疫細胞として好適に使用される。
上記免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーは、細胞に、特定の培養条件の下で生存する(あるいは死滅する)ための特質を与える。選択マーカーとしては、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下HGPRT欠損と省略する)、およびチミジンキナーゼ欠損(以下TK欠損と省略する)が公知である。HGPRTまたはTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン感受性(以下HAT感受性と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができないため死滅する。しかし、該細胞が正常な細胞と融合すると、正常細胞のサルベージ経路を利用してDNAの合成を継続することができるため、該細胞はHAT選択培地中であっても増殖できる。
HGPRT欠損およびTK欠損の細胞は、それぞれ、6-チオグアニン、8-アザグアニン(以下8AGと省略する)、あるいは5'-ブロモデオキシウリジンを含む培地中で選択され得る。正常な細胞は、これらのピリミジンアナログをDNA中に取り込むため、死滅する。一方、これらの酵素を欠損した細胞は、これらのピリミジンアナログを取り込めないため、選択培地中で生存することができる。さらに、ネオマイシン耐性遺伝子によってもたらされるG418耐性と呼ばれる選択マーカーは、2-デオキシストレプタミン抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。
例えば、以下の細胞を含むミエローマ細胞が好適に使用され得る:P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol. (1979) 123 (4), 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology (1978)81, 1-7)、NS-1(C. Eur. J. Immunol. (1976)6 (7), 511-519)、MPC-11(Cell (1976) 8 (3), 405-415)、SP2/0(Nature (1978) 276 (5685), 269-270)、FO(J. Immunol. Methods (1980) 35 (1-2), 1-21)、S194/5.XX0.BU.1(J. Exp. Med. (1978) 148 (1), 313-323)、R210(Nature (1979) 277 (5692), 131-133)等。
基本的には、公知の方法、例えば、KohlerおよびMilsteinらの方法(Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46)を用いて、免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合が行われる。
より具体的には、例えば、細胞融合促進剤の存在下で従来の培地中で、細胞融合が行われ得る。融合促進剤には、例えばポリエチレングリコール(PEG)およびセンダイウイルス(HVJ)が含まれる。必要に応じて、融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助物質も添加される。
より具体的には、例えば、細胞融合促進剤の存在下で従来の培地中で、細胞融合が行われ得る。融合促進剤には、例えばポリエチレングリコール(PEG)およびセンダイウイルス(HVJ)が含まれる。必要に応じて、融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助物質も添加される。
免疫細胞とミエローマ細胞の割合は任意に設定され得、例えば、免疫細胞1〜10に対してミエローマ細胞1が好ましい。細胞融合に用いる培地としては、例えば、RPMI1640培地およびMEM培地等のミエローマ細胞株の増殖に好適な培地、ならびにこの種の細胞培養に用いられる他の従来の培地が挙げられる。さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液が培地に好適に添加され得る。
細胞融合のためには、上記免疫細胞とミエローマ細胞の所定量を上記培地中でよく混合する。次いで、予め37℃程度に加温されたPEG溶液(例えば平均分子量が1000から6000程度)を通常30%〜60%(w/v)の濃度でそこに添加する。これを緩やかに混合すると所望の融合細胞(ハイブリドーマ)が生成される。次いで、上記の適当な培地が細胞に逐次添加され、これを繰り返し遠心して上清を除去する。このようにして、ハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去され得る。
このようにして得られたハイブリドーマは、従来の選択培地、例えばHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培地)を用いて培養することにより選択され得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)は、上記HAT培地中での培養を十分な期間継続することによって死滅し得る。通常、この期間は数日から数週間である。次いで、従来の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングおよび単一クローニングする。
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに基づく選択培地を用いて選択され得る。例えばHGPRT欠損細胞またはTK欠損細胞は、HAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培地)を用いて培養することにより選択され得る。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、正常細胞との融合に成功した細胞がHAT培地中で選択的に増殖し得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)は、上記HAT培地中での培養を十分な期間継続することによって死滅し得る。具体的には、一般的に数日から数週間の培養によって、所望のハイブリドーマが選択され得る。次いで、従来の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングおよび単一クローニングする。
所望の抗体は、公知の抗原/抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に選択および単一クローニングされ得る。例えば、CLDN6に結合するモノクローナル抗体は、細胞表面上に発現したCLDN6に結合することができる。そのようなモノクローナル抗体は、蛍光活性化細胞選別(FACS)によってスクリーニングされ得る。FACSは、蛍光抗体と接触させた細胞をレーザー光で解析し、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって細胞表面への抗体の結合を評価するシステムである。
FACSによって本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングするためには、まずCLDN6を発現する細胞を調製する。スクリーニングのために好適に用いられる細胞は、CLDN6を強制発現させた哺乳動物細胞である。対照としては、宿主細胞としての形質転換されていない哺乳動物細胞を用いて、細胞表面のCLDN6に対する抗体の結合活性が選択的に検出され得る。すなわち、CLDN6強制発現細胞には結合するが宿主細胞には結合しない抗体を産生するハイブリドーマを選択することによって、抗CLDN6モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが単離され得る。
あるいは、固定化したCLDN6発現細胞に対する抗体の結合活性がELISAの原理に基づいて評価され得る。例えば、ELISAプレートのウェルにCLDN6発現細胞が固定化される。ハイブリドーマの培養上清をウェル内の固定化細胞に接触させ、固定化細胞に結合する抗体が検出される。モノクローナル抗体がマウス由来の場合、細胞に結合した抗体は、抗マウス免疫グロブリン抗体を用いて検出され得る。抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマは上記のスクリーニングによって選択され、これらは限界希釈法等によりクローニングされ得る。
このようにして調製されるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマは従来の培地中で継代培養され得、液体窒素中で長期にわたって保存され得る。
上記ハイブリドーマを従来の方法によって培養し、その培養上清から所望のモノクローナル抗体が調製され得る。あるいはハイブリドーマを、適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水からモノクローナル抗体が調製される。前者の方法は、高純度の抗体を調製するのに好適である。
上記のハイブリドーマ等の抗体産生細胞からクローニングされる抗体遺伝子によってコードされる抗体も好適に利用され得る。クローニングした抗体遺伝子を適当なベクターに挿入し、これを宿主に導入して、当該遺伝子によってコードされる抗体を発現させる。抗体遺伝子の単離、当該遺伝子のベクターへの挿入、および宿主細胞の形質転換のための方法は、例えばVandammeらによって既に確立されている(Eur.J. Biochem. (1990) 192(3), 767-775)。下記に述べるように組換え抗体の製造方法もまた公知である。
好ましくは、本発明は、本発明の多重特異性抗原結合分子をコードする核酸を提供する。本発明はまた、該多重特異性抗原結合分子をコードする核酸が導入されたベクター、すなわち該核酸を含むベクターを提供する。さらに、本発明は、該核酸または該ベクターを含む細胞を提供する。本発明はまた、該細胞を培養することによって、該多重特異性抗原結合分子を製造する方法を提供する。本発明はさらに、該方法によって製造された多重特異性抗原結合分子を提供する。
例えば、抗CLDN6抗体を発現するハイブリドーマ細胞から、抗CLDN6抗体の可変領域(V領域)をコードするcDNAが調製される。そのために、まずハイブリドーマから全RNAが抽出される。細胞からmRNAを抽出するために用いられる方法としては、例えば次のものが挙げられる。
−グアニジン超遠心法(Biochemistry (1979) 18(24), 5294-5299)、および
−AGPC法(Anal. Biochem. (1987) 162(1), 156-159)
−グアニジン超遠心法(Biochemistry (1979) 18(24), 5294-5299)、および
−AGPC法(Anal. Biochem. (1987) 162(1), 156-159)
抽出されたmRNAは、mRNA Purification Kit(GE Healthcare Bioscience)等を使用して精製され得る。あるいは、QuickPrep mRNA Purification Kit (GE Healthcare Bioscience)などの、細胞から直接全mRNAを抽出するためのキットも市販されている。そのようなキットを用いて、ハイブリドーマからmRNAが調製され得る。調製されたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域をコードするcDNAが合成され得る。cDNAは、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社)等を用いて合成され得る。また、cDNAの合成および増幅のために、SMART RACE cDNA 増幅キット(Clontech)およびPCRに基づく5'-RACE法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1988) 85(23), 8998-9002、Nucleic Acids Res. (1989) 17(8), 2919-2932)が適宜利用され得る。こうしたcDNAの合成の過程において、後述する適切な制限酵素サイトがcDNAの両末端に導入され得る。
得られたPCR産物から目的とするcDNA断片が精製され、次いでベクターDNAと連結される。このように組換えベクターが構築され、大腸菌(E.coli)等に導入される。コロニーが選択された後に、該コロニーを形成した大腸菌から所望の組換えベクターが調製され得る。そして、該組換えベクターが目的とするcDNAヌクレオチド配列を有しているかどうかについて、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法により試験される。
可変領域をコードする遺伝子を単離するためには、プライマーを用いて可変領域遺伝子を増幅する5'-RACE法が簡便に用いられる。まず、ハイブリドーマ細胞より抽出されたRNAを鋳型として用いたcDNA合成によって、5'-RACE cDNAライブラリが構築される。5'-RACE cDNAライブラリの合成にはSMART RACE cDNA 増幅キットなど市販のキットが適宜用いられる。
調製された5'-RACE cDNAライブラリを鋳型として用いたPCRによって抗体遺伝子が増幅される。公知の抗体遺伝子配列に基づき、マウス抗体遺伝子増幅用のプライマーがデザインされ得る。これらのプライマーのヌクレオチド配列は、免疫グロブリンのサブクラスごとに異なる。したがって、Iso Stripマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(Roche Diagnostics)などの市販キットを用いてサブクラスを予め決定しておくことが好ましい。
具体的には、例えば、マウスIgGをコードする遺伝子を単離するためには、γ1、γ2a、γ2bおよびγ3重鎖、ならびにκおよびλ軽鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーが利用される。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に、3'側のプライマーとして、可変領域に近い定常領域部位にアニールするプライマーが利用される。一方5'側のプライマーとしては、5' RACE cDNAライブラリ構築キットに付属するプライマーが利用される。
こうして増幅されたPCR産物を利用して、重鎖と軽鎖の組合せからなる免疫グロブリンが再構成される。再構成された免疫グロブリンのCLDN6結合活性を指標として用いて、所望の抗体が選択され得る。例えばCLDN6に対する抗体の単離を目的とするとき、抗体のCLDN6への結合は、特異的であることがさらに好ましい。CLDN6に結合する抗体は、例えば次の工程によってスクリーニングされ得る:
(1)ハイブリドーマから単離されたcDNAによってコードされるV領域を含む抗体をCLDN6発現細胞に接触させる工程、
(2)CLDN6発現細胞と抗体との結合を検出する工程、および
(3)CLDN6発現細胞に結合する抗体を選択する工程。
(1)ハイブリドーマから単離されたcDNAによってコードされるV領域を含む抗体をCLDN6発現細胞に接触させる工程、
(2)CLDN6発現細胞と抗体との結合を検出する工程、および
(3)CLDN6発現細胞に結合する抗体を選択する工程。
抗体とCLDN6発現細胞との結合を検出する方法は公知である。具体的には、先に述べたFACSなどの手法によって、抗体とCLDN6発現細胞との結合が検出され得る。抗体の結合活性を評価するためにCLDN6発現細胞の固定試料が適宜利用される。
結合活性を指標として用いる好ましい抗体スクリーニング方法としては、ファージベクターを利用したパニング法も挙げられる。抗体遺伝子をポリクローナルな抗体発現細胞集団からの重鎖と軽鎖のサブクラスのライブラリより単離した場合には、ファージベクターを利用したスクリーニング方法が有利である。重鎖と軽鎖の可変領域をコードする遺伝子は、適当なリンカー配列で連結して単鎖Fv(scFv)を形成することができる。scFvをコードする遺伝子をファージベクターに挿入することにより、scFvを表面に提示するファージが生成され得る。このファージを目的の抗原と接触させる。その後、抗原に結合したファージを回収することによって、目的の結合活性を有するscFvをコードするDNAが単離され得る。この過程を必要に応じて繰り返すことにより、所望の結合活性を有するscFvが濃縮され得る。
目的とする抗CLDN6抗体のV領域をコードするcDNAが単離された後に、当該cDNAの両末端に導入した制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗体遺伝子のヌクレオチド配列において出現する頻度が低いヌクレオチド配列を認識して切断する。さらに、1コピーの消化断片を正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える酵素の制限酵素サイトをベクターに導入するのが好ましい。抗CLDN6抗体のV領域をコードするcDNAを上記のように消化し、適当な発現ベクターに挿入することによって、抗体発現ベクターが構築される。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記V領域をコードする遺伝子とがインフレームで融合されれば、キメラ抗体が取得される。ここで、「キメラ抗体」とは、定常領域の起源が可変領域の起源とは異なることを意味する。したがって、マウス/ヒト異種キメラ抗体に加え、ヒト/ヒト同種キメラ抗体も、本発明のキメラ抗体に含まれる。予め定常領域を有する発現ベクターに、前記V領域遺伝子を挿入することによって、キメラ抗体発現ベクターが構築され得る。具体的には、例えば、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを保有する発現ベクターの5'側に、前記V領域遺伝子を切除する制限酵素の認識配列が適宜配置され得る。同じ組合せの制限酵素で消化された両遺伝子がインフレームで融合されることによって、キメラ抗体発現ベクターが構築される。
抗CLDN6モノクローナル抗体を製造するために、抗体遺伝子が発現制御領域による制御の下で発現するように発現ベクターに挿入される。抗体を発現するための発現制御領域には、例えば、エンハンサーおよびプロモーターが含まれる。さらに、発現した抗体が細胞外に分泌されるように、適切なシグナル配列がアミノ末端に付加され得る。後に記載される実施例では、アミノ酸配列MGWSCIILFLVATATGVHS(配列番号:79)を有するペプチドをシグナル配列として使用している。一方、他の適切なシグナル配列が付加されてもよい。発現されたポリペプチドは上記配列のカルボキシル末端で切断され、その結果生じたポリペプチドが成熟ポリペプチドとして細胞外に分泌される。次いで、この発現ベクターによって適当な宿主細胞が形質転換され、抗CLDN6抗体をコードするDNAを発現する組換え細胞が取得される。
抗体遺伝子の発現のために、抗体重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)をコードするDNAが、別々に異なる発現ベクターに挿入される。H鎖遺伝子およびL鎖遺伝子がそれぞれ挿入されたベクターによって、同じ宿主細胞が同時にトランスフェクト(co-transfect)されることによって、H鎖とL鎖を備えた抗体分子が発現され得る。あるいは、H鎖およびL鎖をコードするDNAが挿入された単一の発現ベクターによって、宿主細胞が形質転換され得る(WO94/11523を参照のこと)。
単離された抗体遺伝子を適当な宿主に導入することによって抗体を調製するための宿主細胞/発現ベクターの様々な組合せが公知である。これらの発現系は、いずれも本発明の抗体可変領域を含むドメインを単離するのに応用され得る。宿主細胞として使用される適当な真核細胞としては、動物細胞、植物細胞、および真菌細胞が挙げられる。具体的には、動物細胞としては、例えば次のような細胞が挙げられる。
(1)哺乳動物細胞:CHO、COS、ミエローマ、仔ハムスター腎細胞(BHK)、HeLa、Veroなど;
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など;および
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など。
(1)哺乳動物細胞:CHO、COS、ミエローマ、仔ハムスター腎細胞(BHK)、HeLa、Veroなど;
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など;および
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など。
さらに、植物細胞としては、ニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)などのニコティアナ(Nicotiana)属由来の細胞を用いた抗体遺伝子発現系が公知である。植物細胞の形質転換には、カルス培養した細胞が適宜利用され得る。
さらに真菌細胞としては、次のような細胞を利用することができる。
酵母:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces)属、およびピキア・パストリス(Pichia pastoris)などのピキア(Pichia)属;および
糸状菌:アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus)属。
酵母:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces)属、およびピキア・パストリス(Pichia pastoris)などのピキア(Pichia)属;および
糸状菌:アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus)属。
さらに、原核細胞を利用した抗体遺伝子発現系も公知である。例えば、細菌細胞を用いる場合、大腸菌細胞、枯草菌(Bacillus subtilis)細胞などが本発明において適宜利用され得る。これらの細胞中に、目的とする抗体遺伝子を保有する発現ベクターがトランスフェクションによって導入される。トランスフェクトされた細胞をインビトロで培養し、当該形質転換細胞の培養物から所望の抗体が調製され得る。
組換え抗体の製造には、上記宿主細胞に加えて、トランスジェニック動物も利用され得る。すなわち目的の抗体をコードする遺伝子が導入された動物から、当該抗体を得ることができる。例えば、抗体遺伝子は、乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子の内部にインフレームで挿入することによって融合遺伝子として構築され得る。乳汁中に分泌されるタンパク質として、例えば、ヤギβカゼインなどが利用され得る。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片はヤギの胚へ注入され、次いでこの胚が雌のヤギへ導入される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ(またはその子孫)が産生する乳汁から、所望の抗体が乳汁タンパク質との融合タンパク質として取得され得る。また、トランスジェニックヤギにより産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、必要に応じてホルモンがトランスジェニックヤギに対して投与され得る(Ebert, K. M. et al., Bio/Technology (1994) 12 (7), 699-702)。
ヒト化抗体を製造する方法
本明細書において記載される抗原結合分子がヒトに投与される場合、当該抗原結合分子の抗体可変領域を含むドメインとして、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体由来のドメインが適宜使用され得る。そのような遺伝子組換え型抗体には、例えば、ヒト化抗体が含まれる。これらの改変抗体は、公知の方法により適宜製造される。さらに、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を他の抗体に導入することができる。
本明細書において記載される抗原結合分子がヒトに投与される場合、当該抗原結合分子の抗体可変領域を含むドメインとして、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体由来のドメインが適宜使用され得る。そのような遺伝子組換え型抗体には、例えば、ヒト化抗体が含まれる。これらの改変抗体は、公知の方法により適宜製造される。さらに、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を他の抗体に導入することができる。
具体的には、非ヒト動物の抗体、例えばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植することによって調製したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子工学的手法も公知である。具体的には、マウス抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、例えばオーバーラップエクステンションPCRが公知である。オーバーラップエクステンションPCRにおいては、ヒト抗体のFRを合成するためのプライマーに、移植すべきマウス抗体のCDRをコードするヌクレオチド配列が付加される。プライマーは4つのFRのそれぞれについて用意される。一般に、マウスCDRのヒトFRへの移植においては、マウスのFRと同一性の高いヒトFRを選択するのが、CDRの機能の維持において有利であるとされている。すなわち、一般に、移植すべきマウスCDRに隣接しているFRのアミノ酸配列と同一性の高いアミノ酸配列を含むヒトFRを利用するのが好ましい。
連結されるヌクレオチド配列は、互いにインフレームで接続されるようにデザインされる。それぞれのプライマーを用いてヒトFRが個別に合成される。その結果、FRをコードする各DNAにマウスCDRをコードするDNAが付加された産物が得られる。各産物のマウスCDRをコードするヌクレオチド配列は、互いにオーバーラップするようにデザインされている。続いて、相補鎖合成反応が行われ、ヒト抗体遺伝子を鋳型として用いて合成された産物のオーバーラップしたCDR領域をアニールさせる。この反応によって、ヒトFRがマウスCDR配列を介して連結される。
最終的に3つのCDRと4つのFRが連結された全長V領域遺伝子は、その5'末端または3'末端にアニールするプライマーを用いて増幅され、該末端には適当な制限酵素認識配列が付加される。上記のように得られたDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとをインフレームで連結するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト化抗体用発現ベクターを生成することができる。該組換えベクターを宿主にトランスフェクトして組換え細胞を樹立した後に、該組換え細胞を培養し、該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、該ヒト化抗体が該細胞培養物中に産生される(欧州特許出願公開EP 239400、および国際公開公報WO1996/002576参照)。
上記のように製造されたヒト化抗体の抗原結合活性を定性的または定量的に測定し評価することによって、CDRを介してヒト抗体FRが連結されたときに該CDRが良好な抗原結合部位を形成可能であるヒト抗体FRを、好適に選択できる。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。例えば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。より具体的には、FRにアニールするプライマーに部分的なヌクレオチド配列の変異を導入することができる。そのようなプライマーを用いて合成されたFRには、ヌクレオチド配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原への結合活性を上記の方法で測定し評価することによって、所望の性質を有する変異FR配列が選択され得る(Sato, K. et al., Cancer Res. (1993) 53: 851-856)。
ヒト抗体を製造する方法
または、DNA免疫により、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物(WO1993/012227、WO1992/003918、WO1994/002602、WO1994/025585、WO1996/034096、WO1996/033735参照)を免疫化することによって、所望のヒト抗体が取得され得る。
または、DNA免疫により、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物(WO1993/012227、WO1992/003918、WO1994/002602、WO1994/025585、WO1996/034096、WO1996/033735参照)を免疫化することによって、所望のヒト抗体が取得され得る。
さらに、ヒト抗体ライブラリを用いて、パニングによりヒト抗体を調製する技術も公知である。例えば、ヒト抗体のV領域が単鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現される。抗原に結合するscFvを発現するファージが選択され得る。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列が決定される。当該V領域配列を所望のヒト抗体のC領域配列とインフレームで融合させ、適当な発現ベクターに挿入することによって、発現ベクターが調製される。当該発現ベクターを、上記の細胞のような発現に好適な細胞中に導入する。該ヒト抗体をコードする遺伝子を該細胞中で発現させることにより当該ヒト抗体が産生される。これらの方法は既に公知である(WO1992/001047、WO1992/020791、WO1993/006213、WO1993/011236、WO1993/019172、WO1995/001438、WO1995/015388参照)。
ベクター
本明細書で用いられる用語「ベクター」は、それが連結されたもう1つの核酸を増やすことができる、核酸分子のことをいう。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、および、それが導入された宿主細胞のゲノム中に組み入れられるベクターを含む。あるベクターは、自身が動作的に連結された核酸の、発現をもたらすことができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」とも称される。
本明細書で用いられる用語「ベクター」は、それが連結されたもう1つの核酸を増やすことができる、核酸分子のことをいう。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、および、それが導入された宿主細胞のゲノム中に組み入れられるベクターを含む。あるベクターは、自身が動作的に連結された核酸の、発現をもたらすことができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」とも称される。
宿主細胞
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」、および「宿主細胞培養物」は、相互に交換可能に用いられ、外来核酸を導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)のことをいう。宿主細胞は「形質転換体」および「形質転換細胞」を含み、これには初代の形質転換細胞および継代数によらずその細胞に由来する子孫を含む。子孫は、親細胞と核酸の内容において完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。オリジナルの形質転換細胞がスクリーニングされたまたは選択された際に用いられたものと同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫も、本明細書では含まれる。
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」、および「宿主細胞培養物」は、相互に交換可能に用いられ、外来核酸を導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)のことをいう。宿主細胞は「形質転換体」および「形質転換細胞」を含み、これには初代の形質転換細胞および継代数によらずその細胞に由来する子孫を含む。子孫は、親細胞と核酸の内容において完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。オリジナルの形質転換細胞がスクリーニングされたまたは選択された際に用いられたものと同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫も、本明細書では含まれる。
エピトープ
「エピトープ」は、抗原中の抗原決定基を意味し、本明細書において開示される抗原結合分子または抗体の抗原結合ドメインが結合する抗原上の部位のことをいう。よって、例えば、エピトープは、その構造によって定義され得る。あるいは、当該エピトープを認識する抗原結合分子または抗体の抗原結合活性によって当該エピトープが定義され得る。抗原がペプチドまたはポリペプチドである場合には、エピトープを形成するアミノ酸残基によってエピトープを特定することも可能である。あるいは、エピトープが糖鎖である場合には、特定の糖鎖構造によってエピトープを特定することも可能である。
「エピトープ」は、抗原中の抗原決定基を意味し、本明細書において開示される抗原結合分子または抗体の抗原結合ドメインが結合する抗原上の部位のことをいう。よって、例えば、エピトープは、その構造によって定義され得る。あるいは、当該エピトープを認識する抗原結合分子または抗体の抗原結合活性によって当該エピトープが定義され得る。抗原がペプチドまたはポリペプチドである場合には、エピトープを形成するアミノ酸残基によってエピトープを特定することも可能である。あるいは、エピトープが糖鎖である場合には、特定の糖鎖構造によってエピトープを特定することも可能である。
直線状エピトープは、そのアミノ酸一次配列が認識されるエピトープを含むエピトープである。そのような直線状エピトープは、典型的には、少なくとも3つ、および最も普通には少なくとも5つ、例えば約8〜10個または6〜20個のアミノ酸を、その固有の配列中に含む。
「立体構造エピトープ」は、直線状エピトープとは対照的に、エピトープを含むアミノ酸一次配列が、認識されるエピトープの単一の決定因子ではないエピトープである(例えば、立体構造エピトープのアミノ酸一次配列は、必ずしも、エピトープを規定する抗体により認識されない)。立体構造エピトープは、直線状エピトープと比べて増大した数のアミノ酸を包含してもよい。立体構造エピトープを認識する抗原結合ドメインは、ペプチドまたはタンパク質の三次元構造を認識する。例えば、タンパク質分子が折り畳まれて三次元構造を形成する場合には、立体構造エピトープを形成するアミノ酸および/またはポリペプチド主鎖は、並列となり、エピトープは、抗原結合ドメインにより認識可能となる。エピトープの立体構造を決定する方法には、例えばX線結晶学、二次元核磁気共鳴、部位特異的なスピン標識および電子常磁性共鳴が含まれるが、これらには限定されない。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology (1996), Vol. 66, Morris (ed.)を参照されたい。
抗CLDN6抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体によるエピトープ結合を評価する方法の例が、以下に記載される。以下の例に従って、CLDN6以外の抗原に対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体によるエピトープ結合を評価する方法もまた、適宜行うことができる。
例えば、抗CLDN6抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体が、CLDN6分子中の直線状エピトープを認識するかどうかは、例えば下記のように確認することができる。上記の目的のために、CLDN6の細胞外ドメインを形成するアミノ酸配列を含む線状ペプチドを合成する。該ペプチドは化学的に合成することができ、またはCLDN6 cDNA中の細胞外ドメインに相当するアミノ酸配列をコードする領域を用いて遺伝子工学的手法によって得ることができる。次いで、抗CLDN6抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体を、該細胞外ドメインを形成するアミノ酸配列を含む線状ペプチドに対するその結合活性について評価する。例えば、ELISAによって、固定化した線状ペプチドを抗原として用いて、該ペプチドに対するポリペプチド複合体の結合活性を評価することができる。あるいは、線状ペプチドが、CLDN6発現細胞に対する抗原結合分子または抗体の結合を阻害するレベルに基づいて、線状ペプチドに対する結合活性を評価することもできる。これらの試験によって、線状ペプチドに対する抗原結合分子または抗体の結合活性が実証され得る。
抗CLDN6抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体が立体構造エピトープを認識するかどうかは、以下のように評価することができる。上記の目的のために、CLDN6発現細胞を調製する。抗CLDN6抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体が、接触した際にCLDN6発現細胞には強く結合するが、CLDN6の細胞外ドメインを形成するアミノ酸配列を含む固定化線状ペプチドには実質的に結合しない場合、それは立体構造エピトープを認識すると判定され得る。本明細書において、「実質的に結合しない」とは、結合活性が、CLDN6を発現する細胞に対する結合活性と比較して80%以下、一般的に50%以下、好ましくは30%以下、および特に好ましくは15%以下であることを意味する。
抗CLDN6抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体のCLDN6発現細胞に対する結合活性をアッセイする方法には、例えば、Antibodies: A Laboratory Manual (Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988) 359-420) に記載される方法が含まれる。具体的には、評価は、CLDN6発現細胞を抗原として用いて、ELISAまたは蛍光活性化細胞選別 (FACS) の原理に基づいて行うことができる。
ELISAフォーマットにおいて、抗CLDN6抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体のCLDN6発現細胞に対する結合活性は、酵素反応によって生じるシグナルのレベルを比較することによって定量的に評価することができる。具体的には、被験ポリペプチド複合体を、CLDN6発現細胞が固定化されたELISAプレートに添加する。次いで、細胞に結合している被験抗原結合分子または抗体を、該被験抗原結合分子または抗体を認識する酵素標識抗体を用いて検出する。あるいは、FACSが用いられる場合には、被験抗原結合分子または抗体の希釈系列を調製し、CLDN6発現細胞に対する抗体結合力価を決定して、CLDN6発現細胞に対する被験抗原結合分子または抗体の結合活性を比較することができる。
緩衝液等に懸濁された細胞の表面上に発現している抗原に対する被験抗原結合分子または抗体の結合は、フローサイトメーターを用いて検出することができる。公知のフローサイトメーターには、例えば以下の装置が含まれる:
FACSCanto(商標)II
FACSAria(商標)
FACSArray(商標)
FACSVantage(商標)SE
FACSCalibur(商標)(いずれもBD Biosciencesの商品名)
EPICS ALTRA HyPerSort
Cytomics FC 500
EPICS XL-MCL ADC EPICS XL ADC
Cell Lab Quanta/Cell Lab Quanta SC(いずれもBeckman Coulterの商品名)
FACSCanto(商標)II
FACSAria(商標)
FACSArray(商標)
FACSVantage(商標)SE
FACSCalibur(商標)(いずれもBD Biosciencesの商品名)
EPICS ALTRA HyPerSort
Cytomics FC 500
EPICS XL-MCL ADC EPICS XL ADC
Cell Lab Quanta/Cell Lab Quanta SC(いずれもBeckman Coulterの商品名)
抗CLDN6抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体の抗原に対する結合活性をアッセイするための好ましい方法には、例えば以下の方法が含まれる。最初に、CLDN6発現細胞を被験抗原結合分子または抗体と反応させ、次いで該抗原結合分子または抗体を認識するFITC標識二次抗体でこれを染色する。被験抗原結合分子または抗体は、所望の濃度の抗原結合分子または抗体を調製するために、適切な緩衝液で適宜希釈する。例えば、抗原結合分子または抗体は、10μg/ml〜10 ng/mlの範囲内の濃度で用いることができる。次いで、FACSCalibur (BD) を用いて、蛍光強度および細胞数を決定する。CELL QUEST Software (BD) を用いた解析によって得られた蛍光強度、すなわち幾何平均値は、細胞に結合している抗体の量を反映する。すなわち、幾何平均(Geo-mean)値を測定することにより、結合している被験抗原結合分子または抗体の量によって表される被験抗原結合分子または抗体の結合活性を決定することができる。
抗CLDN6抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体が、別の抗原結合分子または抗体と共通のエピトープを共有するかどうかは、同じエピトープに対する2つの抗原結合分子または抗体間の競合に基づいて評価することができる。抗原結合分子または抗体間の競合は、交叉ブロッキングアッセイ等によって検出することができる。例えば、競合ELISAアッセイは好ましい交叉ブロッキングアッセイである。
具体的には、交叉ブロッキングアッセイでは、マイクロタイタープレートのウェルに固定化されたCLDN6タンパク質を、候補競合物の抗原結合分子もしくは抗体の存在下または非存在下でプレインキュベートし、次いで被験抗原結合分子または抗体をそこへ添加する。ウェル中のCLDN6タンパク質に結合している被験抗原結合分子または抗体の量は、同じエピトープへの結合に関して競合する候補競合物抗原結合分子または抗体の結合能と間接的に相関する。すなわち、同じエピトープに対する競合物抗原結合分子または抗体のアフィニティが高ければ高いほど、被験抗原結合分子または抗体のCLDN6タンパク質コーティングウェルに対する結合活性はより低くなる。
CLDN6タンパク質を介してウェルに結合している被験抗原結合分子または抗体の量は、該抗原結合分子または抗体を予め標識しておくことにより、容易に決定することができる。例えば、ビオチン標識された抗原結合分子または抗体は、アビジン/ペルオキシダーゼコンジュゲートおよび適切な基質を用いて測定される。特に、ペルオキシダーゼなどの酵素標識を用いる交叉ブロッキングアッセイは、「競合ELISAアッセイ」と称される。抗原結合分子または抗体はまた、検出または測定を可能にする他の標識物質で標識することもできる。具体的には、放射標識、蛍光標識等が公知である。
候補競合物の抗原結合分子または抗体が、該競合物抗原結合分子または抗体の非存在下で行われた対照実験における結合活性と比較して、抗CLDN6抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体による結合を少なくとも20%、好ましくは少なくとも20〜50%、およびより好ましくは少なくとも50%ブロックし得る場合、該被験抗原結合分子または抗体は、該競合物抗原結合分子または抗体が結合する同じエピトープに実質的に結合するか、または同じエピトープへの結合に関して競合すると判定される。
抗CLDN6抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子または抗体が結合するエピトープの構造が既に同定されている場合、被験抗原結合分子または抗体と対照抗原結合分子または抗体が共通のエピトープを共有するかどうかは、該エピトープを形成するペプチドにアミノ酸変異を導入することによって調製されたペプチドに対する両者の抗原結合分子または抗体の結合活性を比較することによって評価することができる。
上記の結合活性を測定するには、例えば、上記のELISAフォーマットにおいて、変異が導入された線状ペプチドに対する被験抗原結合分子または抗体と対照抗原結合分子または抗体の結合活性を比較する。ELISA法に加えて、カラムに被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体を流し、次いで溶出液中に溶出された抗原結合分子または抗体を定量化することによって、カラムに結合している変異ペプチドに対する結合活性を決定することもできる。例えばGST融合ペプチドの形態で、変異ペプチドをカラムに吸着させる方法は公知である。
あるいは、同定されたエピトープが立体構造エピトープである場合、被験抗原結合分子または抗体と対照抗原結合分子または抗体が共通のエピトープを共有するかどうかは、以下の方法によって評価することができる。最初に、CLDN6発現細胞、およびエピトープに変異が導入されたCLDN6を発現する細胞を調製する。これらの細胞をPBSなどの適切な緩衝液に懸濁することによって調製された細胞懸濁液に、被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体を添加する。次いで、細胞懸濁液を緩衝液で適宜洗浄し、該被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体を認識するFITC標識抗体をそこへ添加する。FACSCalibur (BD) を用いて、標識抗体で染色された細胞の蛍光強度および数を決定する。被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体は、適切な緩衝液を用いて適宜希釈し、所望の濃度で使用する。例えば、それらは10μg/ml〜10 ng/mlの範囲内の濃度で用いることができる。CELL QUEST Software (BD) を用いた解析によって決定された蛍光強度、すなわち幾何平均値は、細胞に結合している標識抗体の量を反映する。すなわち、幾何平均値を測定することにより、結合している標識抗体の量によって表される被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体の結合活性を決定することができる。
上記の方法において、抗原結合分子または抗体が「変異CLDN6を発現する細胞に実質的に結合しない」かどうかは、例えば以下の方法によって評価することができる。最初に、変異CLDN6を発現する細胞に結合している被験抗原結合分子または抗体および対照抗原結合分子または抗体を、標識抗体で染色する。次いで、細胞の蛍光強度を決定する。フローサイトメトリーによる蛍光検出にFACSCaliburが用いられる場合、決定された蛍光強度は、CELL QUEST Softwareを用いて解析することができる。抗原結合分子または抗体の存在下および非存在下における幾何平均値から、以下の式に従って比較値(ΔGeo-Mean)を算出して、抗原結合分子または抗体による結合の結果としての蛍光強度の増加率を決定することができる。
ΔGeo-Mean = Geo-Mean(抗原結合分子または抗体の存在下)/Geo-Mean(抗原結合分子または抗体の非存在下)
ΔGeo-Mean = Geo-Mean(抗原結合分子または抗体の存在下)/Geo-Mean(抗原結合分子または抗体の非存在下)
変異CLDN6を発現する細胞に結合している被験抗原結合分子または抗体の量を反映する、上記の解析によって決定された幾何平均比較値(変異CLDN6分子に対するΔGeo-Mean値)を、CLDN6発現細胞に結合している被験抗原結合分子または抗体の量を反映するΔGeo-Mean比較値と比較する。この場合、CLDN6発現細胞および変異CLDN6を発現する細胞に対するΔGeo-Mean比較値を決定するために用いられる被験抗原結合分子または抗体の濃度は、等しいかまたは実質的に等しくなるように調整されることが特に好ましい。CLDN6中のエピトープを認識することが確認されている抗原結合分子または抗体が、対照抗原結合分子または抗体として用いられる。
変異CLDN6を発現する細胞に対する被験抗原結合分子または抗体のΔGeo-Mean比較値が、CLDN6発現細胞に対する被験抗原結合分子または抗体のΔGeo-Mean比較値よりも少なくとも80%、好ましくは50%、より好ましくは30%、および特に好ましくは15%小さいのであれば、被験抗原結合分子または抗体は、「変異CLDN6を発現する細胞に実質的に結合しない」。Geo-Mean(幾何平均)値を決定するための式は、CELL QUEST Software User's Guide (BD biosciences) に記載されている。比較によって比較値が実質的に等しいことが示される場合、被験抗原結合分子または抗体と対照抗原結合分子または抗体のエピトープは同じであると判定され得る。
特異性
「特異的」とは、1つまたは複数の結合パートナーに特異的に結合する分子が、該パートナー以外の分子に対して何ら有意な結合を示さないことを意味する。さらに、「特異的」とはまた、抗原結合ドメインが、抗原中に含まれる複数のエピトープのうちの特定のエピトープに特異的である場合にも用いられる。抗原結合ドメインが結合するエピトープが複数の異なる抗原中に含まれる場合、該抗原結合ドメインを含む抗原結合分子は、該エピトープを有する様々な抗原に結合し得る。
「特異的」とは、1つまたは複数の結合パートナーに特異的に結合する分子が、該パートナー以外の分子に対して何ら有意な結合を示さないことを意味する。さらに、「特異的」とはまた、抗原結合ドメインが、抗原中に含まれる複数のエピトープのうちの特定のエピトープに特異的である場合にも用いられる。抗原結合ドメインが結合するエピトープが複数の異なる抗原中に含まれる場合、該抗原結合ドメインを含む抗原結合分子は、該エピトープを有する様々な抗原に結合し得る。
単一特異性抗原結合分子
用語「単一特異性抗原結合分子」は、1種類の抗原にのみ特異的に結合する抗原結合分子を指すために用いられる。単一特異性抗原結合分子の好ましい例は、単一種類の抗原結合ドメインを含む抗原結合分子である。単一特異性抗原結合分子は、単一の抗原結合ドメインまたは同じ種類の複数の抗原結合ドメインを含み得る。単一特異性抗原結合分子の好ましい例は単一特異性抗体である。単一特異性抗原結合分子がIgG型の単一特異性抗体である場合、該単一特異性抗体は、同じ抗原結合特異性を有する2つの抗体可変断片を含む。
用語「単一特異性抗原結合分子」は、1種類の抗原にのみ特異的に結合する抗原結合分子を指すために用いられる。単一特異性抗原結合分子の好ましい例は、単一種類の抗原結合ドメインを含む抗原結合分子である。単一特異性抗原結合分子は、単一の抗原結合ドメインまたは同じ種類の複数の抗原結合ドメインを含み得る。単一特異性抗原結合分子の好ましい例は単一特異性抗体である。単一特異性抗原結合分子がIgG型の単一特異性抗体である場合、該単一特異性抗体は、同じ抗原結合特異性を有する2つの抗体可変断片を含む。
抗体断片
「抗体断片」は、完全抗体が結合する抗原に結合する当該完全抗体の一部分を含む、当該完全抗体以外の分子のことをいう。抗体断片の例は、これらに限定されるものではないが、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv);および、抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。
「抗体断片」は、完全抗体が結合する抗原に結合する当該完全抗体の一部分を含む、当該完全抗体以外の分子のことをいう。抗体断片の例は、これらに限定されるものではないが、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv);および、抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。
用語「全長抗体」、「完全抗体」、および「全部抗体」は、本明細書では相互に交換可能に用いられ、天然型抗体構造に実質的に類似した構造を有する、または本明細書で定義するFc領域を含む重鎖を有する抗体のことをいう。
可変断片(Fv)
本明細書において、用語「可変断片(Fv)」は、抗体の軽鎖可変領域(VL)と抗体の重鎖可変領域(VH)とのペアから構成される抗体由来の抗原結合ドメインの最小単位のことをいう。1988年にSkerraとPluckthunは、細菌のシグナル配列の下流に抗体遺伝子を挿入し大腸菌中で当該遺伝子の発現を誘導することによって、均一でかつ活性な抗体が大腸菌のペリプラズム画分から調製され得ることを見出した(Science (1988) 240 (4855), 1038-1041)。ペリプラズム画分から調製されたFvにおいては、抗原に結合するような様式でVHとVLが会合している。
本明細書において、用語「可変断片(Fv)」は、抗体の軽鎖可変領域(VL)と抗体の重鎖可変領域(VH)とのペアから構成される抗体由来の抗原結合ドメインの最小単位のことをいう。1988年にSkerraとPluckthunは、細菌のシグナル配列の下流に抗体遺伝子を挿入し大腸菌中で当該遺伝子の発現を誘導することによって、均一でかつ活性な抗体が大腸菌のペリプラズム画分から調製され得ることを見出した(Science (1988) 240 (4855), 1038-1041)。ペリプラズム画分から調製されたFvにおいては、抗原に結合するような様式でVHとVLが会合している。
scFv、単鎖抗体、およびsc(Fv) 2
本明細書において、用語「scFv」、「単鎖抗体」、および「sc(Fv)2」はいずれも、重鎖および軽鎖に由来する可変領域を含むが、定常領域を含まない、単一ポリペプチド鎖の抗体断片のことをいう。一般に、単鎖抗体は、抗原結合を可能にすると思われる所望の構造の形成を可能にする、VHドメインとVLドメインの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。単鎖抗体は、「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore, eds., Springer-Verlag, New York, 269-315 (1994)」においてPluckthunによって詳細に考察されている。同様に、国際公開公報WO1988/001649、米国特許第4,946,778号および同第5,260,203号を参照のこと。特定の態様において、単鎖抗体は、二重特異性でありかつ/またはヒト化され得る。
本明細書において、用語「scFv」、「単鎖抗体」、および「sc(Fv)2」はいずれも、重鎖および軽鎖に由来する可変領域を含むが、定常領域を含まない、単一ポリペプチド鎖の抗体断片のことをいう。一般に、単鎖抗体は、抗原結合を可能にすると思われる所望の構造の形成を可能にする、VHドメインとVLドメインの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。単鎖抗体は、「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore, eds., Springer-Verlag, New York, 269-315 (1994)」においてPluckthunによって詳細に考察されている。同様に、国際公開公報WO1988/001649、米国特許第4,946,778号および同第5,260,203号を参照のこと。特定の態様において、単鎖抗体は、二重特異性でありかつ/またはヒト化され得る。
scFvはFvを形成するVHとVLとがペプチドリンカーによって連結された抗原結合ドメインである(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85 (16), 5879-5883)。当該ペプチドリンカーによってVHとVLとが近接した状態に保持され得る。
sc(Fv)2は、2つのVLと2つのVHの4つの可変領域がペプチドリンカー等のリンカーによって連結され一本鎖を形成する単鎖抗体である(J Immunol. Methods (1999) 231 (1-2), 177-189)。この2つのVHと2つのVLは異なるモノクローナル抗体に由来してもよい。そのようなsc(Fv)2としては、例えば、Journal of Immunology (1994) 152 (11), 5368-5374に開示されるような、単一抗原中に存在する2つのエピトープを認識する二重特異性sc(Fv)2が好適に挙げられる。sc(Fv)2は、当業者に公知の方法によって製造され得る。例えば、sc(Fv)2は、scFvをペプチドリンカー等のリンカーで連結することによって製造され得る。
本明細書において、sc(Fv)2を形成する抗原結合ドメインの構成としては、2つのVH単位および2つのVL単位が、一本鎖ポリペプチドのN末端を基点としてVH、VL、VH、VL([VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL])の順に並んでいる抗体が挙げられる。2つのVH単位と2つのVL単位の順序は上記の構成に限定されず、どのような順序で並べられていてもよい。構成の例を以下に列挙する。
[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]
[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]
[VH]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VL]
[VL]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VH]
[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]
[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]
[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]
[VH]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VL]
[VL]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VH]
[VL]-リンカー-[VH]-リンカー-[VL]-リンカー-[VH]
sc(Fv)2の分子形態についてはWO2006/132352においても詳細に記載されている。当業者であればこれらの記載に従って、本明細書で開示されるポリペプチド複合体を製造するために所望のsc(Fv)2を適宜調製することが可能である。
さらに本発明の抗原結合分子または抗体に、PEG等の担体高分子や抗がん剤等の有機化合物をコンジュゲートしてもよい。あるいは、糖鎖が所望の効果をもたらすように、糖鎖付加配列が抗原結合分子または抗体に好適に挿入される。
抗体の可変領域の連結に使用するリンカーは、遺伝子工学により導入され得る任意のペプチドリンカー、合成リンカー、および例えばProtein Engineering, 9 (3), 299-305, 1996に開示されるリンカーを含む。しかしながら、本発明においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能である。長さは、好ましくは5アミノ酸以上(特に限定されないが、上限は通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。sc(Fv)2に3つのペプチドリンカーが含まれる場合には、それらの長さは全て同じであってもよいし異なってもよい。
例えば、そのようなペプチドリンカーには以下のものが含まれる:
Ser
Gly Ser
Gly Gly Ser
Ser Gly Gly
Gly Gly Gly Ser(配列番号:66)
Ser Gly Gly Gly(配列番号:67)
Gly Gly Gly Gly Ser(配列番号:68)
Ser Gly Gly Gly Gly(配列番号:69)
Gly Gly Gly Gly Gly Ser(配列番号:70)
Ser Gly Gly Gly Gly Gly(配列番号:71)
Gly Gly Gly Gly Gly Gly Ser(配列番号:72)
Ser Gly Gly Gly Gly Gly Gly(配列番号:73)
(Gly Gly Gly Gly Ser(配列番号:68))n
(Ser Gly Gly Gly Gly(配列番号:69))n
ここでnは1以上の整数である。ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
Ser
Gly Ser
Gly Gly Ser
Ser Gly Gly
Gly Gly Gly Ser(配列番号:66)
Ser Gly Gly Gly(配列番号:67)
Gly Gly Gly Gly Ser(配列番号:68)
Ser Gly Gly Gly Gly(配列番号:69)
Gly Gly Gly Gly Gly Ser(配列番号:70)
Ser Gly Gly Gly Gly Gly(配列番号:71)
Gly Gly Gly Gly Gly Gly Ser(配列番号:72)
Ser Gly Gly Gly Gly Gly Gly(配列番号:73)
(Gly Gly Gly Gly Ser(配列番号:68))n
(Ser Gly Gly Gly Gly(配列番号:69))n
ここでnは1以上の整数である。ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
合成リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられており、例としては、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ−EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ−DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、およびビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)が挙げられる。これらの架橋剤は市販されている。
4つの抗体可変領域を連結するには、通常、3つのリンカーが必要となる。用いられるリンカーは、同じ種類のものであっても異なる種類のものであってもよい。
Fab、F(ab') 2 、およびFab'
「Fab」は、1本の軽鎖、ならびに1本の重鎖のCH1ドメインおよび可変領域からなる。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成できない。
「Fab」は、1本の軽鎖、ならびに1本の重鎖のCH1ドメインおよび可変領域からなる。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成できない。
「F(ab')2」または「Fab」は、免疫グロブリン(モノクローナル抗体)をペプシンおよびパパイン等のプロテアーゼで処理することにより製造され、免疫グロブリン(モノクローナル抗体)を2本の各H鎖のヒンジ領域間に存在するジスルフィド結合の近くで消化することによって生成される抗体断片のことをいう。例えばパパインは、IgGを、2本の各H鎖のヒンジ領域間に存在するジスルフィド結合の上流で切断し、VL(L鎖可変領域)およびCL(L鎖定常領域)を含むL鎖がVH(H鎖可変領域)およびCHγ1(H鎖定常領域中のγ1領域)を含むH鎖断片とそれらのC末端領域でジスルフィド結合により連結されている、相同な2つの抗体断片を生成する。これら2つの相同な抗体断片はそれぞれFab'といわれる。
「F(ab')2」は、2本の軽鎖、ならびにジスルフィド結合が2本の重鎖間で形成されるようにCH1ドメインおよびCH2ドメインの一部分の定常領域を含む2本の重鎖からなる。本明細書において開示されるF(ab')2は、次のように好適に製造され得る。所望の抗原結合ドメインを含むモノクローナル全部抗体等を、ペプシン等のプロテアーゼで部分消化し、Fc断片をプロテインAカラムに吸着させることにより除去する。プロテアーゼは、pH等の適切な設定酵素反応条件下で選択的にF(ab')2を生じるように全部抗体を切断し得るものである限り、特に限定はされない。例えば、そのようなプロテアーゼにはペプシンおよびフィシンが含まれる。
Fc領域
本明細書で用語「Fc領域」または「Fcドメイン」は、少なくとも定常領域の一部分を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために用いられる。この用語は、天然型配列のFc領域および変異体Fc領域を含む。一態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226から、またはPro230から、重鎖のカルボキシル末端まで延びる。ただし、Fc領域のC末端のリジン (Lys447) またはグリシン‐リジン(Gly446-Lys447)は、存在していてもしていなくてもよい。本明細書では別段特定しない限り、Fc領域または定常領域中のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD 1991 に記載の、EUナンバリングシステム(EUインデックスとも呼ばれる)にしたがう。
本明細書で用語「Fc領域」または「Fcドメイン」は、少なくとも定常領域の一部分を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために用いられる。この用語は、天然型配列のFc領域および変異体Fc領域を含む。一態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226から、またはPro230から、重鎖のカルボキシル末端まで延びる。ただし、Fc領域のC末端のリジン (Lys447) またはグリシン‐リジン(Gly446-Lys447)は、存在していてもしていなくてもよい。本明細書では別段特定しない限り、Fc領域または定常領域中のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD 1991 に記載の、EUナンバリングシステム(EUインデックスとも呼ばれる)にしたがう。
Fc受容体
用語「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体のことをいう。いくつかの態様において、FcRは、天然型ヒトFcRである。いくつかの態様において、FcRは、IgG抗体に結合するもの(ガンマ受容体)であり、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIサブクラスの受容体を、これらの受容体の対立遺伝子変異体および選択的スプライシングによる形態を含めて、含む。FcγRII受容体は、FcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「阻害受容体」)を含み、これらは主としてその細胞質ドメインにおいて相違する類似のアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン活性化モチーフ (immunoreceptor tyrosine-based activation motif: ITAM) を含む。阻害受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン阻害モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif: ITIM)を含む。(例えば、Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15:203-234 (1997) を参照のこと。)FcRは、例えば、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991);Capel et al., Immunomethods 4:25-34 (1994);およびde Haas et al., J. Lab. Clin. Med 126:330-41 (1995)において総説されている。将来同定されるものを含む他のFcRも、本明細書の用語「FcR」に包含される。
用語「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体のことをいう。いくつかの態様において、FcRは、天然型ヒトFcRである。いくつかの態様において、FcRは、IgG抗体に結合するもの(ガンマ受容体)であり、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIサブクラスの受容体を、これらの受容体の対立遺伝子変異体および選択的スプライシングによる形態を含めて、含む。FcγRII受容体は、FcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「阻害受容体」)を含み、これらは主としてその細胞質ドメインにおいて相違する類似のアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン活性化モチーフ (immunoreceptor tyrosine-based activation motif: ITAM) を含む。阻害受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン阻害モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif: ITIM)を含む。(例えば、Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15:203-234 (1997) を参照のこと。)FcRは、例えば、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991);Capel et al., Immunomethods 4:25-34 (1994);およびde Haas et al., J. Lab. Clin. Med 126:330-41 (1995)において総説されている。将来同定されるものを含む他のFcRも、本明細書の用語「FcR」に包含される。
用語「Fc受容体」または「FcR」はまた、母体のIgGの胎児への移動(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976)およびKim et al., J. Immunol. 24:249 (1994))ならびに免疫グロブリンのホメオスタシスの調節を担う、新生児型受容体FcRnを含む。FcRnへの結合を測定する方法は公知である(例えば、Ghetie and Ward., Immunol. Today 18(12):592-598 (1997); Ghetie et al., Nature Biotechnology, 15(7):637-640 (1997); Hinton et al., J. Biol. Chem. 279(8):6213-6216 (2004); WO2004/92219 (Hinton et al.)を参照のこと)。
インビボでのヒトFcRnへの結合およびヒトFcRn高アフィニティ結合ポリペプチドの血漿半減期は、例えばヒトFcRnを発現するトランスジェニックマウスもしくはトランスフェクトされたヒト細胞株においてまたは変異Fc領域を伴うポリペプチドが投与される霊長類において測定され得る。WO2000/42072 (Presta) は、FcRに対する結合が増加したまたは減少した抗体変異体を記載している。例えば、Shields et al. J. Biol. Chem. 9(2):6591-6604 (2001) も参照のこと。
Fcγ受容体
Fcγ受容体とは、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体のFcドメインに結合し得る受容体のことをいい、これにはFcγ受容体遺伝子によって実質的にコードされるタンパク質のファミリーに属するすべてのメンバーが含まれる。ヒトにおいて、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIcを含むFcγRI (CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)、およびFcγRIIcを含むFcγRII (CD32);ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII (CD16);ならびに未同定のヒトFcγ受容体、Fcγ受容体アイソフォーム、およびそれらのアロタイプのすべてが含まれる。しかしながら、Fcγ受容体はこれらの例に限定されない。これらに限定されるわけではないが、Fcγ受容体には、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサルに由来するものが含まれる。Fcγ受容体は任意の生物に由来してよい。マウスFcγ受容体には、これらに限定されないが、FcγRI (CD64)、FcγRII (CD32)、FcγRIII (CD16)、およびFcγRIII-2 (CD16-2)、ならびに未同定のマウスFcγ受容体、Fcγ受容体アイソフォーム、およびそれらのアロタイプのすべてが含まれる。そのような好ましいFcγ受容体には、例えば、ヒトFcγRI (CD64)、FcγRIIA (CD32)、FcγRIIB (CD32)、FcγRIIIA (CD16)、および/またはFcγRIIIB (CD16) が含まれる。FcγRIのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:80 (NM_000566.3) および74 (NP_000557.1) に示され;FcγRIIAのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:81 (BC020823.1) および75 (AAH20823.1) に示され;FcγRIIBのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:82 (BC146678.1) および76 (AAI46679.1) に示され;FcγRIIIAのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:83 (BC033678.1) および77 (AAH33678.1) に示され;ならびにFcγRIIIBのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:84 (BC128562.1) および78 (AAI28563.1) に示される(RefSeq登録番号はそれぞれのカッコ内に示される)。Fcγ受容体がIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体のFcドメインに対する結合活性を有するかどうかは、上記のFACSおよびELISAフォーマットに加えて、ALPHAスクリーン(増幅発光近接ホモジニアスアッセイ)、表面プラズモン共鳴 (SPR) ベースのBIACORE法、およびその他によって評価することができる (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
Fcγ受容体とは、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体のFcドメインに結合し得る受容体のことをいい、これにはFcγ受容体遺伝子によって実質的にコードされるタンパク質のファミリーに属するすべてのメンバーが含まれる。ヒトにおいて、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIcを含むFcγRI (CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)、およびFcγRIIcを含むFcγRII (CD32);ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII (CD16);ならびに未同定のヒトFcγ受容体、Fcγ受容体アイソフォーム、およびそれらのアロタイプのすべてが含まれる。しかしながら、Fcγ受容体はこれらの例に限定されない。これらに限定されるわけではないが、Fcγ受容体には、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサルに由来するものが含まれる。Fcγ受容体は任意の生物に由来してよい。マウスFcγ受容体には、これらに限定されないが、FcγRI (CD64)、FcγRII (CD32)、FcγRIII (CD16)、およびFcγRIII-2 (CD16-2)、ならびに未同定のマウスFcγ受容体、Fcγ受容体アイソフォーム、およびそれらのアロタイプのすべてが含まれる。そのような好ましいFcγ受容体には、例えば、ヒトFcγRI (CD64)、FcγRIIA (CD32)、FcγRIIB (CD32)、FcγRIIIA (CD16)、および/またはFcγRIIIB (CD16) が含まれる。FcγRIのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:80 (NM_000566.3) および74 (NP_000557.1) に示され;FcγRIIAのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:81 (BC020823.1) および75 (AAH20823.1) に示され;FcγRIIBのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:82 (BC146678.1) および76 (AAI46679.1) に示され;FcγRIIIAのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:83 (BC033678.1) および77 (AAH33678.1) に示され;ならびにFcγRIIIBのポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:84 (BC128562.1) および78 (AAI28563.1) に示される(RefSeq登録番号はそれぞれのカッコ内に示される)。Fcγ受容体がIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体のFcドメインに対する結合活性を有するかどうかは、上記のFACSおよびELISAフォーマットに加えて、ALPHAスクリーン(増幅発光近接ホモジニアスアッセイ)、表面プラズモン共鳴 (SPR) ベースのBIACORE法、およびその他によって評価することができる (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
その一方で、「Fcリガンド」または「エフェクターリガンド」とは、抗体Fcドメインに結合してFc/Fcリガンド複合体を形成する分子、および好ましくはポリペプチドのことをいう。該分子は任意の生物に由来してよい。FcリガンドのFcへの結合は、好ましくは1つまたは複数のエフェクター機能を誘導する。そのようなFcリガンドには、Fc受容体、Fcγ受容体、Fcα受容体、Fcβ受容体、FcRn、C1q、およびC3、マンナン結合レクチン、マンノース受容体、スタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインA、スタフィロコッカスプロテインG、ならびにウイルスFcγ受容体が含まれるが、これらに限定されない。Fcリガンドには、Fcγ受容体と相同なFc受容体のファミリーであるFc受容体相同体 (FcRH) (Davis et al., (2002) Immunological Reviews 190, 123-136) もまた含まれる。Fcリガンドには、Fcに結合する未同定の分子もまた含まれる。
Fcγ受容体結合活性
FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIA、および/またはFcγRIIIBのいずれかのFcγ受容体に対するFcドメインの結合活性が損なわれていることは、上記のFACSおよびELISAフォーマット、ならびにALPHAスクリーン(増幅発光近接ホモジニアスアッセイ)および表面プラズモン共鳴 (SPR) ベースのBIACORE法を用いることによって評価することができる (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIA、および/またはFcγRIIIBのいずれかのFcγ受容体に対するFcドメインの結合活性が損なわれていることは、上記のFACSおよびELISAフォーマット、ならびにALPHAスクリーン(増幅発光近接ホモジニアスアッセイ)および表面プラズモン共鳴 (SPR) ベースのBIACORE法を用いることによって評価することができる (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
ALPHAスクリーンは、2種類のビーズ:ドナービーズおよびアクセプタービーズを用いる、下記の原理に基づいたALPHA技術によって実施される。ドナービーズに連結された分子がアクセプタービーズに連結された分子と生物学的に相互作用し、かつ2つのビーズが近接して位置する場合にのみ、発光シグナルが検出される。ドナービーズ内の光増感剤は、レーザー光によって励起されて、ビーズ周辺の酸素を励起状態の一重項酸素に変換する。一重項酸素がドナービーズ周辺に拡散し、近接して位置するアクセプタービーズに到達すると、アクセプタービーズ内の化学発光反応が誘導される。この反応によって最終的に光が放出される。ドナービーズに連結された分子がアクセプタービーズに連結された分子と相互作用しないのであれば、ドナービーズによって生成される一重項酸素はアクセプタービーズに到達せず、化学発光反応は起こらない。
例えば、ビオチン標識された抗原結合分子または抗体をドナービーズに固定化し、グルタチオンSトランスフェラーゼ (GST) でタグ化されたFcγ受容体をアクセプタービーズに固定化する。競合的変異Fcドメインを含む抗原結合分子または抗体の非存在下では、Fcγ受容体は、野生型Fcドメインを含む抗原結合分子または抗体と相互作用し、結果として520〜620 nmのシグナルを誘導する。タグ化されていない変異Fcドメインを有する抗原結合分子または抗体は、野生型Fcドメインを含む抗原結合分子または抗体と、Fcγ受容体との相互作用に関して競合する。競合の結果としての蛍光の減少を定量化することによって、相対的結合アフィニティを決定することができる。Sulfo-NHS-ビオチンなどを用いて抗体などの抗原結合分子または抗体をビオチン化する方法は公知である。GSTタグをFcγ受容体に付加するための適切な方法には、Fcγ受容体をコードするポリペプチドとGSTをコードするポリペプチドをインフレームで融合し、該融合遺伝子を保有するベクターが導入された細胞を用いて該遺伝子を発現させ、次いでグルタチオンカラムを用いて精製することを伴う方法が含まれる。誘導されたシグナルは好ましくは、例えば、GRAPHPAD PRISM(GraphPad;San Diego)などのソフトウェアを用いて非線形回帰分析に基づく一部位競合モデルに適合させることにより、解析することができる。
相互作用を観察するための物質の一方を、リガンドとしてセンサーチップの金薄膜上に固定化する。金薄膜とガラスとの境界面で全反射が起こるようにセンサーチップの裏面から光を当てると、ある特定の部位において反射光の強度が部分的に低下する(SPRシグナル)。相互作用を観察するための他方の物質を、分析物としてセンサーチップの表面上に注入する。分析物がリガンドに結合すると、固定化リガンド分子の質量が増加する。これにより、センサーチップの表面上の溶媒の屈折率が変化する。屈折率の変化は、SPRシグナルの位置のシフトを引き起こす(逆に、解離するとシグナルは元の位置にシフトして戻る)。Biacoreシステムでは、上記のシフトの量(すなわち、センサーチップ表面上での質量の変化)を縦軸にプロットし、そのようにして経時的な質量の変化を測定データとして表示する(センサーグラム)。センサーグラムの曲線から動態パラメーター(結合速度定数 (ka) および解離速度定数 (kd))が決定され、これら2つの定数の比率からアフィニティ (KD) が決定される。BIACORE法では、阻害アッセイが好ましく用いられる。そのような阻害アッセイの例は、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103(11), 4005-4010に記載されている。
Fcγ受容体結合活性が低下したFc領域
本明細書において、「Fcγ受容体結合活性が低下している」とは、例えば、上記の解析方法に基づいて、被験抗原結合分子または抗体の競合活性が、対照抗原結合分子または抗体の競合活性の50%以下、好ましくは45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、20%以下、または15%以下、および特に好ましくは10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、または1%以下であることを意味する。
本明細書において、「Fcγ受容体結合活性が低下している」とは、例えば、上記の解析方法に基づいて、被験抗原結合分子または抗体の競合活性が、対照抗原結合分子または抗体の競合活性の50%以下、好ましくは45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、20%以下、または15%以下、および特に好ましくは10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、または1%以下であることを意味する。
IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体のFcドメインを含む抗原結合分子または抗体を、対照抗原結合分子または抗体として適宜用いることができる。Fcドメイン構造は、配列番号:62(RefSeq登録番号AAC82527.1のN末端にAが付加されている)、63(RefSeq登録番号AAB59393.1のN末端にAが付加されている)、64(RefSeq登録番号CAA27268.1のN末端にAが付加されている)、および65(RefSeq登録番号AAB59394.1のN末端にAが付加されている)に示されている。さらに、特定のアイソタイプの抗体のFcドメイン変異体を含む抗原結合分子または抗体が被験物質として用いられる場合には、同じアイソタイプのFcドメインを含む抗原結合分子または抗体を対照として用いて、Fcγ受容体結合活性に及ぼす該変異体の変異の影響を評価する。上記のようにして、Fcγ受容体結合活性が低下していると判断されたFcドメイン変異体を含む抗原結合分子または抗体が、適宜調製される。
そのような公知の変異体には、例えば、アミノ酸231A〜238S(EUナンバリング)が欠失している変異体 (WO2009/011941)、ならびに変異体C226S、C229S、P238S、(C220S) (J. Rheumatol (2007) 34, 11);C226SおよびC229S (Hum. Antibod. Hybridomas (1990) 1(1), 47-54);C226S、C229S、E233P、L234V、およびL235A (Blood (2007) 109, 1185-1192) が含まれる。
具体的には、好ましい抗原結合分子または抗体には、特定のアイソタイプの抗体のFcドメインを形成するアミノ酸において、以下のアミノ酸位置:220位、226位、229位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、264位、265位、266位、267位、269位、270位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、325位、327位、328位、329位、330位、331位、または332位(EUナンバリング)より選択される少なくとも1つのアミノ酸の変異(置換など)を有するFcドメインを含むものが含まれる。Fcドメインの起源である抗体のアイソタイプは特に限定されず、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体に由来する適切なFcドメインを用いることが可能である。IgG1抗体に由来するFcドメインを用いることが好ましい。
好ましい抗原結合分子または抗体には、例えば、IgG1抗体のFcドメインを形成するアミノ酸において、その位置がEUナンバリングに従って特定される、以下に示される置換(各数字はEUナンバリングでのアミノ酸残基の位置を表し;かつ数字の前の一文字アミノ酸記号は置換前のアミノ酸残基を表し、数字の後の一文字アミノ酸記号は置換後のアミノ酸残基を表す)のうちのいずれか1つを有するFcドメインを含むもの:
(a) L234F、L235E、P331S;
(b) C226S、C229S、P238S;
(c) C226S、C229S;または
(d) C226S、C229S、E233P、L234V、L235A;
ならびに、231〜238位のアミノ酸配列が欠失しているFcドメインを有するものが含まれる。
(a) L234F、L235E、P331S;
(b) C226S、C229S、P238S;
(c) C226S、C229S;または
(d) C226S、C229S、E233P、L234V、L235A;
ならびに、231〜238位のアミノ酸配列が欠失しているFcドメインを有するものが含まれる。
さらに、好ましい抗原結合分子または抗体には、IgG2抗体のFcドメインを形成するアミノ酸において、その位置がEUナンバリングに従って特定される、以下に示される置換のうちのいずれか1つを有するFcドメインを含むものもまた含まれる:
(e) H268Q、V309L、A330S、およびP331S;
(f) V234A;
(g) G237A;
(h) V234AおよびG237A;
(i) A235EおよびG237A;または
(j) V234A、A235E、およびG237A。各数字はEUナンバリングでのアミノ酸残基の位置を表し;かつ数字の前の一文字アミノ酸記号は置換前のアミノ酸残基を表し、数字の後の一文字アミノ酸記号は置換後のアミノ酸残基を表す。
(e) H268Q、V309L、A330S、およびP331S;
(f) V234A;
(g) G237A;
(h) V234AおよびG237A;
(i) A235EおよびG237A;または
(j) V234A、A235E、およびG237A。各数字はEUナンバリングでのアミノ酸残基の位置を表し;かつ数字の前の一文字アミノ酸記号は置換前のアミノ酸残基を表し、数字の後の一文字アミノ酸記号は置換後のアミノ酸残基を表す。
さらに、好ましい抗原結合分子または抗体には、IgG3抗体のFcドメインを形成するアミノ酸において、その位置がEUナンバリングに従って特定される、以下に示される置換のうちのいずれか1つを有するFcドメインを含むものもまた含まれる:
(k) F241A;
(l) D265A;または
(m) V264A。各数字はEUナンバリングでのアミノ酸残基の位置を表し;かつ数字の前の一文字アミノ酸記号は置換前のアミノ酸残基を表し、数字の後の一文字アミノ酸記号は置換後のアミノ酸残基を表す。
(k) F241A;
(l) D265A;または
(m) V264A。各数字はEUナンバリングでのアミノ酸残基の位置を表し;かつ数字の前の一文字アミノ酸記号は置換前のアミノ酸残基を表し、数字の後の一文字アミノ酸記号は置換後のアミノ酸残基を表す。
さらに、好ましい抗原結合分子または抗体には、IgG4抗体のFcドメインを形成するアミノ酸において、その位置がEUナンバリングに従って特定される、以下に示される置換のうちのいずれか1つを有するFcドメインを含むものもまた含まれる:
(n) L235A、G237A、およびE318A;
(o) L235E;または
(p) F234AおよびL235A。各数字はEUナンバリングでのアミノ酸残基の位置を表し;かつ数字の前の一文字アミノ酸記号は置換前のアミノ酸残基を表し、数字の後の一文字アミノ酸記号は置換後のアミノ酸残基を表す。
(n) L235A、G237A、およびE318A;
(o) L235E;または
(p) F234AおよびL235A。各数字はEUナンバリングでのアミノ酸残基の位置を表し;かつ数字の前の一文字アミノ酸記号は置換前のアミノ酸残基を表し、数字の後の一文字アミノ酸記号は置換後のアミノ酸残基を表す。
その他の好ましい抗原結合分子または抗体には、例えば、IgG1抗体のFcドメインを形成するアミノ酸における、233位、234位、235位、236位、237位、327位、330位、または331位(EUナンバリング)のいずれかのアミノ酸が、対応するIgG2またはIgG4における対応するEUナンバリング位置のアミノ酸に置換されたFcドメインを含むものが含まれる。
好ましい抗原結合分子または抗体には、例えば、IgG1抗体のFcドメインを形成するアミノ酸における、234位、235位、および297位(EUナンバリング)のアミノ酸のうちのいずれか1つまたは複数が、他のアミノ酸に置換されたFcドメインを含むものもまた含まれる。置換後のアミノ酸の種類は特に限定されない;しかしながら、234位、235位、および297位のアミノ酸のうちのいずれか1つまたは複数がアラニンに置換されたFcドメインを含む抗原結合分子または抗体が、特に好ましい。
好ましい抗原結合分子または抗体には、例えば、IgG1抗体のFcドメインを形成するアミノ酸における265位(EUナンバリング)のアミノ酸が別のアミノ酸に置換されたFcドメインを含むものもまた含まれる。置換後のアミノ酸の種類は特に限定されない;しかしながら、265位のアミノ酸がアラニンに置換されたFcドメインを含む抗原結合分子または抗体が、特に好ましい。
CLDN6に結合する抗原結合ドメイン
本明細書で用いられる語句「CLDN6に結合する抗原結合ドメイン」または「抗CLDN6抗原結合ドメイン」は、上述のCLDN6タンパク質、またはCLDN6タンパク質の部分ペプチドの全体もしくは一部に特異的に結合する抗原結合ドメインのことをいう。
本明細書で用いられる語句「CLDN6に結合する抗原結合ドメイン」または「抗CLDN6抗原結合ドメイン」は、上述のCLDN6タンパク質、またはCLDN6タンパク質の部分ペプチドの全体もしくは一部に特異的に結合する抗原結合ドメインのことをいう。
特定の態様において、CLDN6に結合する抗原結合ドメインは、抗体の可変領域(抗体の軽鎖および重鎖の可変領域(VLおよびVH))を含むドメインである。抗体の軽鎖および重鎖の可変領域を含むそのようなドメインの適切な例には、「単鎖Fv (scFv)」、「単鎖抗体」、「Fv」、「単鎖Fv2 (scFv2)」、「Fab」、「F(ab')2」等が含まれる。具体的な態様において、CLDN6に結合する抗原結合ドメインは、抗体可変断片を含むドメインである。抗体可変断片を含むドメインは、1つまたは複数の抗体の可変ドメインから提供され得る。
特定の態様において、CLDN6に結合する抗原結合ドメインは、抗CLDN6抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む。特定の態様において、CLDN6に結合する抗原結合ドメインは、Fab構造を含むドメインである。
好ましくは、抗CLDN6抗体は、配列番号:7、15、23、または31のうちのいずれか1つのアミノ酸配列(H鎖可変領域)を含むH鎖、および配列番号:8、16、24、または32のうちのいずれか1つのアミノ酸配列(L鎖可変領域)を含むL鎖を、それぞれ含む。
いくつかの態様において、抗CLDN6抗原結合ドメインは、CLDN6の第1細胞外ドメイン(配列番号:44もしくは45のアミノ酸29〜81)またはCLDN6の第2細胞外ドメイン(配列番号:44もしくは45のアミノ酸138〜159)に特異的に結合する。いくつかの態様において、抗CLDN6抗原結合ドメインは、CLDN6の第1細胞外ドメイン(配列番号:44もしくは45のアミノ酸29〜81)またはCLDN6の第2細胞外ドメイン(配列番号:44もしくは45のアミノ酸138〜159)内のエピトープに特異的に結合する。いくつかの態様において、抗CLDN6抗原結合ドメインは、ヒトCLDN9、好ましくは真核細胞の表面上に発現されたヒトCLDN9に実質的に結合しないか;またはヒトCLDN3、好ましくは真核細胞の表面上に発現されたヒトCLDN3に実質的に結合しないか;またはヒトCLDN4、好ましくは真核細胞の表面上に発現されたヒトCLDN4に実質的に結合しない。いくつかの態様において、抗CLDN6抗原結合ドメインは、配列番号:53に規定されるCLDN6変異体、好ましくは真核細胞の表面上に発現されたCLDN6変異体に実質的に結合しない。いくつかの態様において、抗CLDN6抗原結合ドメインは、真核細胞の表面上に発現されたCLDN6タンパク質に結合する。いくつかの態様において、抗CLDN6抗原結合ドメインは、がん細胞の表面上に発現されたCLDN6タンパク質に結合する。
具体的な態様において、CLDN6に結合する抗原結合ドメインは、以下の表1に示される抗体可変断片のうちのいずれか1つを含む。
具体的な態様において、CLDN6に結合する抗原結合ドメインは、表1に示される抗体可変断片のうちのいずれか1つとヒトCLDN6への結合に関して競合する抗体可変断片を含むドメインである。具体的な態様において、CLDN6に結合する抗原結合ドメインは、表1に示される抗体可変断片のうちのいずれか1つと同じヒトCLDN6内エピトープに結合する抗体可変断片を含むドメインである。
あるいは、CLDN6に結合する抗原結合ドメインは、上記の抗体可変断片のうちのいずれか1つとヒトCLDN6への結合に関して競合する抗体可変断片を含む。あるいは、CLDN6に結合する抗原結合ドメインは、上記の抗体可変断片のうちのいずれか1つがヒトCLDN6上で結合するのと同じエピトープに結合する抗体可変断片を含む。
T細胞受容体複合体に結合する抗原結合ドメイン
本明細書で用いられる語句「T細胞受容体複合体に結合する抗原結合ドメイン」または「抗T細胞受容体複合体抗原結合ドメイン」は、T細胞受容体複合体の部分ペプチドの全体または一部に特異的に結合する抗原結合ドメインのことをいう。T細胞受容体複合体は、T細胞受容体自体であってもよいし、またはT細胞受容体と共にT細胞受容体複合体を構成するアダプター分子であってもよい。CD3はアダプター分子として適している。
本明細書で用いられる語句「T細胞受容体複合体に結合する抗原結合ドメイン」または「抗T細胞受容体複合体抗原結合ドメイン」は、T細胞受容体複合体の部分ペプチドの全体または一部に特異的に結合する抗原結合ドメインのことをいう。T細胞受容体複合体は、T細胞受容体自体であってもよいし、またはT細胞受容体と共にT細胞受容体複合体を構成するアダプター分子であってもよい。CD3はアダプター分子として適している。
特定の態様において、T細胞受容体複合体に結合する抗原結合ドメインは、抗体の可変領域(抗体の軽鎖および重鎖の可変領域(VLおよびVH))を含むドメインである。抗体の軽鎖および重鎖の可変領域を含むそのようなドメインの適切な例には、「単鎖Fv (scFv)」、「単鎖抗体」、「Fv」、「単鎖Fv2 (scFv2)」、「Fab」、「F(ab')2」等が含まれる。具体的な態様において、T細胞受容体複合体に結合する抗原結合ドメインは、抗体可変断片を含むドメインである。抗体可変断片を含むドメインは、1つまたは複数の抗体の可変ドメインから提供され得る。
特定の態様において、T細胞受容体複合体に結合する抗原結合ドメインは、抗T細胞受容体複合体抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む。特定の態様において、T細胞受容体複合体に結合する抗原結合ドメインは、Fab構造を含むドメインである。
T細胞受容体に結合する抗原結合ドメイン
本明細書で用いられる語句「T細胞受容体に結合する抗原結合ドメイン」または「抗T細胞受容体抗原結合ドメイン」は、T細胞受容体の部分ペプチドの全体または一部に特異的に結合する抗原結合ドメインのことをいう。該抗原結合ドメインが結合するT細胞受容体の部分は、T細胞受容体の可変領域またはT細胞受容体の定常領域であってよい;しかしながら、定常領域に存在するエピトープが好ましい。定常領域配列の例には、RefSeq登録番号CAA26636.1のT細胞受容体α鎖 (配列番号:54)、RefSeq登録番号C25777のT細胞受容体β鎖 (配列番号:55)、RefSeq登録番号A26659のT細胞受容体γ1鎖 (配列番号:56)、RefSeq登録番号AAB63312.1のT細胞受容体γ2鎖 (配列番号:57)、およびRefSeq登録番号AAA61033.1のT細胞受容体δ鎖 (配列番号:58) が含まれる。
本明細書で用いられる語句「T細胞受容体に結合する抗原結合ドメイン」または「抗T細胞受容体抗原結合ドメイン」は、T細胞受容体の部分ペプチドの全体または一部に特異的に結合する抗原結合ドメインのことをいう。該抗原結合ドメインが結合するT細胞受容体の部分は、T細胞受容体の可変領域またはT細胞受容体の定常領域であってよい;しかしながら、定常領域に存在するエピトープが好ましい。定常領域配列の例には、RefSeq登録番号CAA26636.1のT細胞受容体α鎖 (配列番号:54)、RefSeq登録番号C25777のT細胞受容体β鎖 (配列番号:55)、RefSeq登録番号A26659のT細胞受容体γ1鎖 (配列番号:56)、RefSeq登録番号AAB63312.1のT細胞受容体γ2鎖 (配列番号:57)、およびRefSeq登録番号AAA61033.1のT細胞受容体δ鎖 (配列番号:58) が含まれる。
特定の態様において、T細胞受容体に結合する抗原結合ドメインは、抗体の可変領域(抗体の軽鎖および重鎖の可変領域(VLおよびVH)を含むドメインである。抗体の軽鎖および重鎖の可変領域を含むそのようなドメインの適切な例には、「単鎖Fv (scFv)」、「単鎖抗体」、「Fv」、「単鎖Fv2 (scFv2)」、「Fab」、「F(ab')2」等が含まれる。具体的な態様において、T細胞受容体に結合する抗原結合ドメインは、抗体可変断片を含むドメインである。抗体可変断片を含むドメインは、1つまたは複数の抗体の可変ドメインから提供され得る。
特定の態様において、T細胞受容体に結合する抗原結合ドメインは、抗T細胞受容体抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む。特定の態様において、T細胞受容体に結合する抗原結合ドメインは、Fab構造を含むドメインである。
CD3に結合する抗原結合ドメイン
本明細書で用いられる語句「CD3に結合する抗原結合ドメイン」または「抗CD3抗原結合ドメイン」は、CD3の部分ペプチドの全体または一部に特異的に結合する抗原結合ドメインのことをいう。CD3に結合する抗原結合ドメインは、エピトープが、ヒトCD3を構成するγ鎖、δ鎖、またはε鎖配列に存在する限り、任意のエピトープ結合ドメインであってよい。CD3を構成するγ鎖、δ鎖、またはε鎖の構造に関して、それらのポリヌクレオチド配列は、RefSeq登録番号NM_000073.2、NM_000732.4、およびNM_000733.3に開示されており、ならびにそれらのポリペプチド配列は、配列番号:59 (NP_000064.1)、60 (NP_000723.1)、および61 (NP_000724.1) に示されており、この場合RefSeq登録番号はカッコ内に示される。
本明細書で用いられる語句「CD3に結合する抗原結合ドメイン」または「抗CD3抗原結合ドメイン」は、CD3の部分ペプチドの全体または一部に特異的に結合する抗原結合ドメインのことをいう。CD3に結合する抗原結合ドメインは、エピトープが、ヒトCD3を構成するγ鎖、δ鎖、またはε鎖配列に存在する限り、任意のエピトープ結合ドメインであってよい。CD3を構成するγ鎖、δ鎖、またはε鎖の構造に関して、それらのポリヌクレオチド配列は、RefSeq登録番号NM_000073.2、NM_000732.4、およびNM_000733.3に開示されており、ならびにそれらのポリペプチド配列は、配列番号:59 (NP_000064.1)、60 (NP_000723.1)、および61 (NP_000724.1) に示されており、この場合RefSeq登録番号はカッコ内に示される。
特定の態様において、CD3に結合する抗原結合ドメインは、抗体の軽鎖および重鎖の可変領域(VLおよびVH)を含むドメインである。抗体の軽鎖および重鎖の可変領域を含むそのようなドメインの適切な例には、「単鎖Fv (scFv)」、「単鎖抗体」、「Fv」、「単鎖Fv2 (scFv2)」、「Fab」、「F(ab')2」等が含まれる。具体的な態様において、CD3に結合する抗原結合ドメインは、抗体可変断片を含むドメインである。抗体可変断片を含むドメインは、1つまたは複数の抗体の可変ドメインから提供され得る。
特定の態様において、CD3に結合する抗原結合ドメインは、抗CD3抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む。特定の態様において、CD3に結合する抗原結合ドメインは、Fab構造を含むドメインである。
本発明のCD3に結合する抗原結合ドメインは、エピトープが、ヒトCD3を形成するγ鎖、δ鎖、またはε鎖配列内に位置する限り、任意のエピトープに結合し得る。本発明において、CD3に結合する好ましい抗原結合ドメインには、ヒトCD3複合体のε鎖の細胞外ドメイン内のエピトープに結合する、CD3抗体軽鎖可変領域 (VL) およびCD3抗体重鎖可変領域 (VH) を含むものが含まれる。CD3に結合するそのような好ましい抗原結合ドメインには、OKT3抗体 (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1980) 77, 4914-4917)、またはNCBI登録番号AAB24132の軽鎖可変領域 (VL) およびNCBI登録番号AAB24133の重鎖可変領域 (VH) を有する抗体 (Int. J. Cancer Suppl. 7, 45-50 (1992)) などの様々な公知のCD3抗体のCD3抗体軽鎖可変領域 (VL) およびCD3抗体重鎖可変領域 (VH) を含むものが含まれる。さらに、CD3に結合するそのような適切な抗原結合ドメインには、前記の方法により、ヒトCD3を形成するγ鎖、δ鎖、またはε鎖で所望の動物を免疫化することによって得られた、所望の特徴を有するCD3抗体に由来するものが含まれる。CD3に結合する抗原結合ドメインの起源となる適切な抗CD3抗体には、ヒト抗体、および上記のように適宜ヒト化された抗体が含まれる。
多重特異性抗原結合分子
「多重特異性抗原結合分子」とは、2種類以上の抗原に特異的に結合する抗原結合分子のことをいう。好ましい態様において、本発明の多重特異性抗原結合分子は、2つまたはそれ以上の抗原結合ドメインを含み、異なる抗原結合ドメインは異なる抗原に特異的に結合する。
「多重特異性抗原結合分子」とは、2種類以上の抗原に特異的に結合する抗原結合分子のことをいう。好ましい態様において、本発明の多重特異性抗原結合分子は、2つまたはそれ以上の抗原結合ドメインを含み、異なる抗原結合ドメインは異なる抗原に特異的に結合する。
本発明の多重特異性抗原結合分子は、CLDN6に結合する第1抗原結合ドメイン、およびT細胞受容体複合体に結合する第2抗原結合ドメインを含む。上記の「CLDN6に結合する抗原結合ドメイン」において記載されるものより選択される、CLDN6に結合する抗原結合ドメインと、上記の「T細胞受容体複合体に結合する抗原結合ドメイン」から「CD3に結合する抗原結合ドメイン」において記載されるものより選択される、T細胞受容体複合体に結合する抗原結合ドメインとの組合せを用いることができる。
例えば、第1抗原結合ドメインは、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域を含むドメインであり、かつ/または第2抗原結合ドメインは、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域を含むドメインである。あるいは、第1抗原結合ドメインは、抗体可変断片を含むドメインであり、かつ/または第2抗原結合ドメインは、抗体可変断片を含むドメインである。あるいは、第1抗原結合ドメインは、Fab構造を含むドメインであり、かつ/または第2抗原結合ドメインは、Fab構造を含むドメインである。
特定の態様において、本発明は、抗体可変断片を含みかつCLDN6に結合する第1抗原結合ドメインと、抗体可変断片を含みかつT細胞受容体複合体に結合する第2抗原結合ドメインとを含む多重特異性抗原結合分子を提供する。特定の態様において、本発明は、CLDN6に結合する第1抗原結合ドメインと、T細胞受容体複合体に結合する第2抗原結合ドメインと、Fcγ受容体結合活性が低下したFc領域を含む第3ドメインとを含む二重特異性抗原結合分子を提供する。該Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4抗体のFcドメインと比較して低下したFcγ受容体結合活性を有し得る。1つの態様において、該Fc領域は、配列番号:62〜65(IgG1〜IgG4)のFc領域構成アミノ酸のうちのいずれかにおいてアミノ酸変異を有するFc領域である。
特定の態様において、本発明は、ヒトCLDN6に結合する第1抗体可変断片と、CD3に結合する第2抗体可変断片とを含む二重特異性抗体を提供する。特定の態様において、本発明は、ヒトCLDN6に結合する第1抗体可変断片、CD3に結合する第2抗体可変断片、およびFcγ受容体結合活性が低下したFc領域を含む、二重特異性抗体を提供する。特定の態様において、本発明は、ヒトCLDN6に結合する第1抗体可変断片、CD3ε鎖に結合する第2抗体可変断片、および天然IgG Fc領域と比較して低下したFcγ受容体結合活性を有するFc領域を含む、二重特異性抗体を提供する。
本発明の「多重特異性抗原結合分子」の好ましい態様の例としては、多重特異性抗体が挙げられる。多重特異性抗体のFc領域として、Fcγ受容体結合活性が低下しているFc領域を用いる場合、多重特異性抗体由来のFc領域が適宜使用されてもよい。本発明の多重特異性抗体としては、特に二重特異性抗体が好ましい。ここで、二重特異性抗体とは、2つの異なる特異性を有する抗体である。IgG型の二重特異性抗体は、IgG抗体を産生するハイブリドーマ2種を融合することによって生成されたハイブリッドハイブリドーマ(クアドローマ)から分泌させることができる(Milstein et al., Nature (1983) 305, 537-540)。
さらに、IgG型の二重特異性抗体は、目的の2種のIgGを構成するL鎖およびH鎖の遺伝子、すなわち合計4種の遺伝子を細胞に導入しそれらを共発現させることによって分泌される。しかし、これらの方法で産生され得るIgGのH鎖とL鎖の組合せの数は、理論上10通りである。したがって、10種類のIgGから、所望の組合せのH鎖およびL鎖を含むIgGを精製することは困難である。さらに、所望の組合せを有するIgGの分泌量も理論上著しく低下するため、大規模培養が必要になり、製造上のコストはさらに増大する。
そのため、本発明の多重特異性抗原結合分子には、所望の組合せを有するH鎖間およびL鎖H鎖間の会合を促進するための技術を適用することができる。
例えば、多重特異性抗体の会合化には、抗体H鎖の第2の定常領域または第3の定常領域(CH2またはCH3)の界面に静電気的反発を導入することにより望ましくないH鎖会合を抑制する技術を適用することができる(WO2006/106905)。
CH2またはCH3の界面に静電気的反発を導入することにより意図しないH鎖会合を抑制する技術において、H鎖の他方の定常領域の界面で接触するアミノ酸残基の例には、CH3領域におけるEUナンバリング位置356位、439位、357位、370位、399位、および409位の残基に対応する領域が含まれる。
より具体的には、2種のH鎖CH3領域を含む抗体であって、第1のH鎖CH3領域における、以下の(1)〜(3)に示すアミノ酸残基の対から選択される1〜3対のアミノ酸残基が同種の電荷を有する抗体が、例として挙げられる:(1)H鎖CH3領域に含まれる、EUナンバリング位置356位および439位のアミノ酸残基、(2)H鎖CH3領域に含まれる、EUナンバリング位置357位および370位のアミノ酸残基、ならびに(3)H鎖CH3領域に含まれる、EUナンバリング位置399位および409位のアミノ酸残基。
さらに、該抗体は、上記第1のH鎖CH3領域とは異なる第2のH鎖CH3領域におけるアミノ酸残基の対が、前記(1)〜(3)のアミノ酸残基の対から選択され、前記第1のH鎖CH3領域において同種の電荷を有する前記(1)〜(3)のアミノ酸残基の対に対応する1〜3対のアミノ酸残基が、前記第1のH鎖CH3領域における対応するアミノ酸残基とは反対の電荷を有する抗体であってもよい。
上記(1)〜(3)に示されるそれぞれのアミノ酸残基は、会合した際に互いに接近している。当業者であれば、所望のH鎖CH3領域またはH鎖定常領域において、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、上記(1)〜(3)のアミノ酸残基に対応する位置を見出すことができ、適宜、これらの位置のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。
上記抗体において、「電荷を有するアミノ酸残基」は、例えば、以下の群のいずれか1つに含まれるアミノ酸残基から選択されることが好ましい:
(a) グルタミン酸(E)およびアスパラギン酸(D)、ならびに
(b) リジン(K)、アルギニン(R)、およびヒスチジン(H)。
(a) グルタミン酸(E)およびアスパラギン酸(D)、ならびに
(b) リジン(K)、アルギニン(R)、およびヒスチジン(H)。
上記抗体において、語句「同じ電荷を有する」とは、例えば、2つ以上のアミノ酸残基のいずれもが、上記の群(a)および(b)のうちいずれか1つに含まれるアミノ酸残基から選択されることを意味する。語句「反対の電荷を有する」とは、例えば、2つ以上のアミノ酸残基のうちの少なくとも1つのアミノ酸残基が、上記の群(a)および(b)のうちいずれか1つに含まれるアミノ酸残基から選択される場合に、残りのアミノ酸残基が他の群に含まれるアミノ酸残基から選択されることを意味する。
好ましい態様において上記抗体は、その第1のH鎖CH3領域と第2のH鎖CH3領域がジスルフィド結合により架橋されていてもよい。
本発明において改変に供するアミノ酸残基は、上述した抗体可変領域または抗体定常領域のアミノ酸残基に限られない。当業者であれば、変異ポリペプチドまたは異種多量体において、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、界面を形成するアミノ酸残基を同定することができ、次いでこれらの位置のアミノ酸残基を、会合を制御するように改変に供することが可能である。
また、本発明の多重特異性抗体の会合化には他の公知技術を用いることもできる。抗体の一方のH鎖Fc領域に存在するアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(knob; 突起)に置換し、他方のH鎖の相対するFc領域に存在するアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(hole; 空隙)に置換して、突起が空隙内に配置され得るようにすることにより、異なるアミノ酸を含むFc領域含有ポリペプチド同士を効率的に会合させることができる(WO1996/027011、Ridgway JB et al., Protein Engineering (1996) 9, 617-621、Merchant A.M. et al. Nature Biotechnology (1998) 16, 677-681、およびUS20130336973)。
加えて、本発明の多重特異性抗体の形成には他の公知技術を用いることもできる。抗体の一方のH鎖CH3の一部を対応するIgA由来の配列に変え、対応するIgA由来の配列を他方のH鎖CH3の相補的な部分に導入することにより生成された鎖交換操作ドメインCH3(strand-exchange engineered domain CH3)を用いて、異なる配列を有するポリペプチドの会合化をCH3の相補的な会合化によって効率的に誘導することができる (Protein Engineering Design & Selection, 23; 195-202, 2010)。この公知技術を用いて効率的に目的の多重特異性抗体を形成させることもできる。
加えて、多重特異性抗体の形成には、WO2011/028952、WO2014/018572およびNat Biotechnol. 2014 Feb;32(2):191-8に記載されるような抗体のCH1とCLの会合化およびVHとVLの会合化を利用した抗体製造技術、WO2008/119353およびWO2011/131746に記載されるような別々に調製したモノクローナル抗体を組み合わせて使用して二重特異性抗体を製造する技術(Fab Arm Exchange)、WO2012/058768およびWO2013/063702に記載されるような抗体重鎖CH3間の会合を制御する技術、WO2012/023053に記載されるような2種類の軽鎖と1種類の重鎖とから構成される二重特異性抗体を製造する技術、Christophら(Nature Biotechnology Vol. 31, p 753-758 (2013))によって記載されるような1本のH鎖と1本のL鎖を含む抗体の片鎖をそれぞれ発現する2つの細菌細胞株を利用した二重特異性抗体を製造する技術等を用いてもよい。
あるいは、目的の多重特異性抗体を効率的に形成させることができない場合であっても、産生された抗体から目的の多重特異性抗体を分離し精製することによって、本発明の多重特異性抗体を得ることが可能である。例えば、2種類のH鎖の可変領域にアミノ酸置換を導入することにより等電点の差を付与することで、2種類のホモ体と目的のヘテロ抗体をイオン交換クロマトグラフィーで精製することを可能にする方法が報告されている(WO2007114325)。ヘテロ抗体を精製する方法として、これまでに、プロテインAに結合するマウスIgG2aのH鎖とプロテインAに結合しないラットIgG2bのH鎖とを含むヘテロ二量化抗体を、プロテインAを用いて精製する方法が報告されている(WO98050431およびWO95033844)。さらに、IgGとプロテインAの結合部位であるEUナンバリング位置435位および436位のアミノ酸残基を、異なるプロテインAアフィニティをもたらすアミノ酸であるTyr、Hisなどに置換したH鎖を用いて、あるいは、異なるプロテインAアフィニティを有するH鎖を用いて、各H鎖とプロテインAとの相互作用を変化させ、次いでプロテインAカラムを用いることにより、ヘテロ二量化抗体のみを効率的に精製することができる。
さらに、本発明のFc領域として、Fc領域のC末端のヘテロジェニティーが改善されたFc領域が適宜使用され得る。より具体的には、本発明は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4由来のFc領域を構成する2つのポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングによって特定される446位のグリシンおよび447位のリジンを欠失させることにより生成されたFc領域を提供する。
これらの技術を複数、例えば2つ以上組み合わせて用いることができる。さらに、これらの技術は、会合させたい2つのH鎖に適宜別々に適用させることができる。さらに、これらの技術は、上述のFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域と組み合わせて用いることができる。さらに、本発明の抗原結合分子は、上記改変に供された抗原結合分子をベースにして、同一のアミノ酸配列を有するように別途製造した分子であってもよい。
好ましくは、本発明の抗原結合分子は、CLDN6に結合する第1抗原結合ドメインと、T細胞受容体複合体に結合する第2抗原結合ドメインとを含み得る。1つの態様において、第2抗原結合ドメインはT細胞受容体に結合する。別の態様において、第2抗原結合ドメインはCD3ε鎖に結合する。1つの態様において、第1抗原結合ドメインはヒトCLDN6に結合する。さらなる態様において、第1抗原結合ドメインは、真核細胞の表面上のCLDN6に結合する。1つの態様において、第1抗原結合ドメインは、がん細胞を含む真核細胞の表面上のヒトCLDN6に結合する。
本明細書における語句「抗CLDN6アーム」は、二重特異性抗体における、CLDN6に結合する抗体重鎖および抗体軽鎖のことをいう。本明細書における語句「抗CD3アーム」は、二重特異性抗体における、CD3に結合する抗体重鎖および抗体軽鎖のことをいう。
好ましくは、本発明の抗原結合分子は細胞傷害性 (cellular cytotoxicity)(「細胞傷害性 (cytotoxicity)」とも称される)を有し得る。1つの態様において、細胞傷害性はT細胞依存性の細胞傷害性 (TDCC) である。別の態様において、細胞傷害性は、CLDN6をその表面上に発現する細胞に対する細胞傷害性である。CLDN6発現細胞はがん細胞であってよい。
好ましい局面において、本発明の抗体(または抗原結合分子)は、がん細胞などのCLDN6発現細胞に対する細胞傷害性 (cytotoxicity)(もしくは細胞傷害性 (cellular cytotoxicity))、または好ましくはT細胞依存性の細胞傷害性 (TDCC) を有する。CLDN6は、そのような細胞の表面上に発現され得る。本発明の抗体(または抗原結合分子)の細胞傷害性またはTDCCは、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって評価することができる。例えば、TDCCは、実施例3に記載されるように、乳酸脱水素酵素 (LDH) 放出アッセイによって測定することができる。このアッセイでは、標的細胞(例えば、CLDN6発現細胞)を被験抗体の存在下でT細胞(例えば、PBMC)と共にインキュベートし、T細胞によって死滅した標的細胞から放出されたLDHの活性を、適切な試薬を用いて測定する。典型的には、細胞傷害活性は、(例えば、Triton-Xでの処理によって溶解された)標的細胞の100%の死滅によって生じたLDH活性に対する、抗体とのインキュベーションによって生じたLDH活性の割合として算出される。上述のように算出された細胞傷害活性がより高い場合、被験抗体は、より高いTDCCを有すると判定される。加えてまたはその代わりに、例えば、TDCCは、実施例5に記載されるように、リアルタイム細胞増殖阻害アッセイによって測定することもできる。このアッセイでは、96ウェルプレートにおいて、標的細胞(例えば、CLDN6発現細胞)を被験抗体の存在下でT細胞(例えば、PBMC)と共にインキュベートし、当技術分野で公知の方法によって、例えば適切な分析機器(例えば、xCELLigenceリアルタイム細胞分析装置)を用いることによって、標的細胞の増殖をモニターする。細胞増殖阻害率 (CGI:%) を、CGI (%) = 100 - (CIAb×100 / CINoAb) として与えられる式に従って、Cell Indexから決定する。「CIAb」は、特定の実験時間における、抗体ありのウェルのCell Indexを表し、「CINoAb」は、抗体なしのウェルの平均Cell Indexを表す。抗体のCGI率が高い、すなわち有意な正の値を有する場合、その抗体はTDCC活性を有し、本発明においてより好ましいということができる。
好ましい局面において、本発明の抗体(または抗原結合分子)はT細胞活性化活性を有する。T細胞活性化は、その活性化に応答してレポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ)を発現する改変T細胞株(例えば、Jurkat / NFAT-REレポーター細胞株(T細胞活性化バイオアッセイ、Promega))を用いる方法などの、当技術分野で公知の方法によってアッセイすることができる。この方法では、標的細胞(例えば、CLDN6発現細胞)を被験抗体の存在下でT細胞と共に培養し、次いでレポーター遺伝子の発現産物のレベルまたは活性を、T細胞活性化の指標として適切な方法によって測定する。レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である場合、ルシフェラーゼとその基質との反応によって生じた発光を、T細胞活性化の指標として測定することができる。上記のように測定されたT細胞活性化がより高い場合、被験抗体は、より高いT細胞活性化活性を有すると判定される。
がん
用語「がん」および「がん性」は、調節されない細胞成長/増殖によって典型的に特徴づけられる哺乳動物における生理学的状態のことをいうまたは説明するものである。がんの例は、がん腫、リンパ腫(例えば、ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫)、芽細胞腫、肉腫、および白血病を含むが、これらに限定されない。そのようながんのより詳細な例は、扁平上皮細胞がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺がん、肺の扁平上皮がん、腹膜のがん、肝細胞がん、消化管がん、膵がん、神経膠腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝がん、膀胱がん、ヘパトーマ、乳がん、結腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜または子宮がん、唾液腺がん、腎がん、肝がん、前立腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝細胞がん、白血病および他のリンパ球増殖性障害、ならびに様々なタイプの頭頸部がんを含む。
用語「がん」および「がん性」は、調節されない細胞成長/増殖によって典型的に特徴づけられる哺乳動物における生理学的状態のことをいうまたは説明するものである。がんの例は、がん腫、リンパ腫(例えば、ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫)、芽細胞腫、肉腫、および白血病を含むが、これらに限定されない。そのようながんのより詳細な例は、扁平上皮細胞がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺がん、肺の扁平上皮がん、腹膜のがん、肝細胞がん、消化管がん、膵がん、神経膠腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝がん、膀胱がん、ヘパトーマ、乳がん、結腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜または子宮がん、唾液腺がん、腎がん、肝がん、前立腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝細胞がん、白血病および他のリンパ球増殖性障害、ならびに様々なタイプの頭頸部がんを含む。
腫瘍
用語「腫瘍」は、悪性か良性かによらず、すべての新生物性細胞成長および増殖ならびにすべての前がん性およびがん性細胞および組織のことをいう。用語「がん」、「がん性」、「細胞増殖性障害」、「増殖性障害」および「腫瘍」は、本明細書でいう場合、相互に排他的でない。
用語「腫瘍」は、悪性か良性かによらず、すべての新生物性細胞成長および増殖ならびにすべての前がん性およびがん性細胞および組織のことをいう。用語「がん」、「がん性」、「細胞増殖性障害」、「増殖性障害」および「腫瘍」は、本明細書でいう場合、相互に排他的でない。
卵巣がん
「卵巣がん」は、卵巣に由来する悪性腫瘍の不均一性の群のことをいう。悪性卵巣腫瘍のおよそ90%は起源が上皮であり、残りは生殖細胞および間質腫瘍である。上皮性卵巣腫瘍は、以下の組織学的サブタイプに分類される:漿液性腺がん(上皮性卵巣腫瘍の約50%を構成する);類内膜腺がん(約20%);粘液性腺がん(約10%);明細胞がん(約5〜10%);ブレンナー(移行細胞)腫瘍(比較的まれ)。女性で6番目に多く見られるがんである卵巣がんの予後は通常悪く、5年生存率は5〜30%の範囲である。卵巣がんの総説については、Fox et al. (2002) 「Pathology of epithelial ovarian cancer」 in Ovarian Cancer ch. 9 (Jacobs et al., eds., Oxford University Press, New York);Morin et al. (2001) 「Ovarian Cancer」 in Encyclopedic Reference of Cancer, pp.654-656 (Schwab, ed., Springer-Verlag, New York) を参照されたい。本発明は、上記の上皮性卵巣腫瘍サブタイプのいずれか、特に漿液性腺がんサブタイプを診断または治療する方法を企図する。
「卵巣がん」は、卵巣に由来する悪性腫瘍の不均一性の群のことをいう。悪性卵巣腫瘍のおよそ90%は起源が上皮であり、残りは生殖細胞および間質腫瘍である。上皮性卵巣腫瘍は、以下の組織学的サブタイプに分類される:漿液性腺がん(上皮性卵巣腫瘍の約50%を構成する);類内膜腺がん(約20%);粘液性腺がん(約10%);明細胞がん(約5〜10%);ブレンナー(移行細胞)腫瘍(比較的まれ)。女性で6番目に多く見られるがんである卵巣がんの予後は通常悪く、5年生存率は5〜30%の範囲である。卵巣がんの総説については、Fox et al. (2002) 「Pathology of epithelial ovarian cancer」 in Ovarian Cancer ch. 9 (Jacobs et al., eds., Oxford University Press, New York);Morin et al. (2001) 「Ovarian Cancer」 in Encyclopedic Reference of Cancer, pp.654-656 (Schwab, ed., Springer-Verlag, New York) を参照されたい。本発明は、上記の上皮性卵巣腫瘍サブタイプのいずれか、特に漿液性腺がんサブタイプを診断または治療する方法を企図する。
胃がん(gastric cancer)
用語「胃がん(gastric cancer)」または「胃腫瘍(gastric tumor)」または「胃腫瘍(stomach tumor)」または「胃がん(stomach cancer)」は、胃の任意の腫瘍またはがん(例えば腺がん(例えば、びまん型および腸型)ならびにリンパ腫、平滑筋肉腫、および扁平上皮細胞がんなどのより一般的でない形態を含む)のことをいう。
用語「胃がん(gastric cancer)」または「胃腫瘍(gastric tumor)」または「胃腫瘍(stomach tumor)」または「胃がん(stomach cancer)」は、胃の任意の腫瘍またはがん(例えば腺がん(例えば、びまん型および腸型)ならびにリンパ腫、平滑筋肉腫、および扁平上皮細胞がんなどのより一般的でない形態を含む)のことをいう。
薬学的製剤
用語「薬学的製剤」は、その中に含まれた有効成分の生物学的活性が効果を発揮し得るような形態にある調製物であって、かつ製剤が投与される被験体に許容できない程度に毒性のある追加の要素を含んでいない、調製物のことをいう。
用語「薬学的製剤」は、その中に含まれた有効成分の生物学的活性が効果を発揮し得るような形態にある調製物であって、かつ製剤が投与される被験体に許容できない程度に毒性のある追加の要素を含んでいない、調製物のことをいう。
薬学的に許容される担体
「薬学的に許容される担体」は、被験体に対して無毒な、薬学的製剤中の有効成分以外の成分のことをいう。薬学的に許容される担体は、これらに限定されるものではないが、緩衝液、賦形剤、安定化剤、または保存剤を含む。
「薬学的に許容される担体」は、被験体に対して無毒な、薬学的製剤中の有効成分以外の成分のことをいう。薬学的に許容される担体は、これらに限定されるものではないが、緩衝液、賦形剤、安定化剤、または保存剤を含む。
治療
本明細書で用いられる「治療」(および、その文法上の派生語、例えば「治療する」、「治療すること」など)は、治療される個体の自然経過を改変することを企図した臨床的介入を意味し、予防のためにも、臨床的病態の経過の間にも実施され得る。治療の望ましい効果は、これらに限定されるものではないが、疾患の発生または再発の防止、症状の軽減、疾患による任意の直接的または間接的な病理的影響の減弱、転移の防止、疾患の進行速度の低減、疾患状態の回復または緩和、および寛解または改善された予後を含む。いくつかの態様において、本発明の抗体は、疾患の発症を遅らせる、または疾患の進行を遅くするために用いられる。
本明細書で用いられる「治療」(および、その文法上の派生語、例えば「治療する」、「治療すること」など)は、治療される個体の自然経過を改変することを企図した臨床的介入を意味し、予防のためにも、臨床的病態の経過の間にも実施され得る。治療の望ましい効果は、これらに限定されるものではないが、疾患の発生または再発の防止、症状の軽減、疾患による任意の直接的または間接的な病理的影響の減弱、転移の防止、疾患の進行速度の低減、疾患状態の回復または緩和、および寛解または改善された予後を含む。いくつかの態様において、本発明の抗体は、疾患の発症を遅らせる、または疾患の進行を遅くするために用いられる。
1つの局面において、本発明は一部には、CLDN6に結合する第1抗体可変領域を含む第1ドメインと、T細胞受容体複合体に結合する第2抗体可変領域含む第2ドメインとを含む、多重特異性抗原結合分子、ならびにその使用に基づく。本発明の抗原結合分子および抗体は、例えば、がん、特に、卵巣腫瘍、非小細胞肺がん、胃がん、および肝がんの診断または治療に有用である。
医薬組成物
本発明の医薬組成物、本発明の、細胞傷害を誘導するための治療剤、細胞増殖抑制剤、または抗がん剤は、必要に応じて、異なる種類の多重特異性抗原結合分子と共に製剤化することができる。例えば、本発明の複数の多重特異性抗原結合分子のカクテルによって、ある抗原を発現する細胞に対する細胞傷害作用を強化することができる。
本発明の医薬組成物、本発明の、細胞傷害を誘導するための治療剤、細胞増殖抑制剤、または抗がん剤は、必要に応じて、異なる種類の多重特異性抗原結合分子と共に製剤化することができる。例えば、本発明の複数の多重特異性抗原結合分子のカクテルによって、ある抗原を発現する細胞に対する細胞傷害作用を強化することができる。
必要に応じて、本発明の多重特異性抗原結合分子をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]などから作製されたマイクロカプセル)中に封入し、コロイド薬物送達系(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセル)の成分にしてもよい(例えば、「Remington's Pharmaceutical Science 16th edition」, Oslo Ed. (1980) を参照されたい)。その上、薬剤を徐放性薬剤として調製する方法も公知であり、これらを本発明の多重特異性抗原結合分子に適用することができる(J. Biomed. Mater. Res. (1981) 15, 267-277;Chemtech. (1982) 12, 98-105;米国特許第3773719号;欧州特許出願 (EP) 第EP58481号および第EP133988号;Biopolymers (1983) 22, 547-556)。
本発明の医薬組成物、細胞増殖抑制剤、または抗がん剤は、経口または非経口のいずれかによって患者に投与してもよい。非経口投与が好ましい。具体的には、そのような投与方法には、注射、経鼻投与、経肺投与、および経皮投与が含まれる。注射には、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、および皮下注射が含まれる。例えば、本発明の医薬組成物、細胞傷害を誘導するための治療剤、細胞増殖抑制剤、または抗がん剤は、注射によって局所投与または全身投与することができる。さらに、適切な投与方法は、患者の年齢および症状に従って選択することができる。投与量は、例えば、各投与につき体重1 kgあたり0.0001 mg〜1,000 mgの範囲から選択され得る。あるいは、用量は、例えば、患者あたり0.001 mg/身体〜100,000 mg/身体の範囲から選択され得る。しかしながら、本発明の医薬組成物の用量は、これらの用量に限定されない。
本発明の医薬組成物は、従来の方法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)、薬学的に許容される担体または添加物を含んでもよい。例としては、限定されるものではないが、界面活性剤、賦形剤、着色剤、着香剤、保存剤、安定化剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、および矯味剤が挙げられ、その他一般的に用いられる担体を適宜使用できる。担体の具体的な例としては、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等が挙げられる。
好ましくは、本発明の医薬組成物は、本発明の多重特異性抗原結合分子を含む。1つの局面において、該組成物は、細胞傷害の誘導における使用のための医薬組成物である。別の局面において、該組成物は、がんの治療または予防における使用のための医薬組成物である。好ましくは、がんは結腸直腸がんまたは胃がんである。本発明の医薬組成物は、がんを治療または予防するために用いることができる。したがって、本発明は、本発明の多重特異性抗原結合分子がそれを必要とする患者に投与される、がんを治療または予防する方法を提供する。
本発明はまた、CLDN6を発現する細胞を、CLDN6に結合する本発明の多重特異性抗原結合分子と接触させることにより、CLDN6を発現する細胞を損傷する、または細胞増殖を抑制する方法を提供する。CLDN6に結合するモノクローナル抗体は、本発明の多重特異性抗原結合分子として上記されており、これは、本発明の、細胞傷害を誘導するための治療剤、細胞増殖抑制剤、および抗がん剤中に含まれる。本発明の多重特異性抗原結合分子が結合する細胞は、それらがCLDN6を発現する限り、特に限定されない。具体的には、本発明において、好ましいがん抗原発現細胞には、卵巣がん細胞、前立腺がん細胞、乳がん細胞、子宮がん細胞、肝がん細胞、肺がん細胞、膵がん細胞、胃がん細胞、膀胱がん細胞、および結腸がん細胞が含まれる。
本発明において、「接触」は、例えば、インビトロで培養されたCLDN6を発現する細胞の培地に本発明の多重特異性抗原結合分子を添加することによって行うことができる。この場合、添加されるべき多重特異性抗原結合分子は、溶液、または凍結乾燥等によって調製された固体などの適切な形態で用いることができる。本発明の多重特異性抗原結合分子が水溶液として添加される場合、該溶液は、多重特異性抗原結合分子を単独で含有する純粋な水溶液、または例えば上記の界面活性剤、賦形剤、着色剤、着香剤、保存剤、安定化剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、および矯味剤を含有する溶液であってよい。添加濃度は特に限定されない;しかしながら、培地中の最終濃度は、好ましくは1 pg/ml〜1 g/ml、より好ましくは1 ng/ml〜1 mg/ml、およびさらにより好ましくは1μg/ml〜1 mg/mlの範囲内である。
本発明の別の態様において「接触」はまた、CLDN6発現細胞をインビボに移植された非ヒト動物、または内因的にCLDN6を発現するがん細胞を有する動物に投与することによって行うこともできる。投与方法は、経口または非経口であってよい。非経口投与が特に好ましい。具体的には、非経口投与方法には、注射、経鼻投与、経肺投与、および経皮投与が含まれる。注射には、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、および皮下注射が含まれる。例えば、本発明の医薬組成物、細胞傷害を誘導するための治療剤、細胞増殖抑制剤、または抗がん剤は、注射によって局所投与または全身投与することができる。さらに、適切な投与方法は、動物対象の年齢および症状に従って選択され得る。多重特異性抗原結合分子が水溶液として投与される場合、該溶液は、多重特異性抗原結合分子を単独で含有する純粋な水溶液、または例えば上記の界面活性剤、賦形剤、着色剤、着香剤、保存剤、安定化剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、および矯味剤を含有する溶液であってよい。投与量は、例えば、各投与につき体重1 kgあたり0.0001〜1,000 mgの範囲から選択され得る。あるいは、用量は、例えば、各患者につき0.001〜100,000 mg/身体の範囲から選択され得る。しかしながら、本発明の多重特異性抗原結合分子の用量は、これらの例に限定されない。
本発明の多重特異性抗原結合分子を、本発明の多重特異性抗原結合分子を形成する抗原結合ドメインが結合するCLDN6発現細胞と接触させることによって生じた細胞傷害を評価または決定する方法として、下記の方法が好ましく用いられる。インビトロで細胞傷害活性を評価または決定する方法には、細胞傷害性T細胞の活性等を決定する方法が含まれる。本発明の多重特異性抗原結合分子が、T細胞媒介性の細胞傷害を誘導する活性を有するかどうかは、公知の方法によって決定することができる(例えば、Current protocols in Immunology, Chapter 7. Immunologic studies in humans, Editor, John E, Coligan et al., John Wiley & Sons, Inc., (1993) を参照されたい)。細胞傷害性アッセイでは、その抗原結合ドメインが、CLDN6とは異なる抗原であって前記細胞において発現されていない抗原に結合する多重特異性抗原結合分子が、対照多重特異性抗原結合分子として用いられる。対照多重特異性抗原結合分子を、同様の様式でアッセイする。次いで、本発明の多重特異性抗原結合分子が、対照多重特異性抗原結合分子のものよりも強い細胞傷害活性を示すかどうかを試験することによって、活性が評価される。
その一方で、インビボ抗腫瘍効果は、例えば以下の手順によって評価または決定される。本発明の多重特異性抗原結合分子を形成する抗原結合ドメインが結合する抗原を発現する細胞を、非ヒト動物対象の皮内または皮下に移植する。次いで、移植の日またはその後から、被験多重特異性抗原結合分子を静脈または腹腔内に毎日または数日間隔で投与する。腫瘍サイズを経時的に測定する。腫瘍サイズの変化の差が、細胞傷害活性と規定され得る。インビトロアッセイと同様に、対照多重特異性抗原結合分子を投与する。腫瘍サイズが、対照多重特異性抗原結合分子を投与された群よりも本発明の多重特異性抗原結合分子を投与された群においてより小さい場合、本発明の多重特異性抗原結合分子は細胞傷害活性を有すると判断され得る。
本発明の多重特異性抗原結合分子と接触させて、該多重特異性抗原結合分子を形成する抗原結合ドメインが結合する抗原を発現する細胞の増殖を抑制する効果を評価または決定するためには、MTT法、および同位体標識されたチミジンの細胞への取込みの測定が好ましく用いられる。その一方で、インビボで細胞増殖を抑制する活性を評価または決定するためには、インビボ細胞傷害活性を評価または決定するための上記の方法と同じ方法が好ましく用いられ得る。
本発明はまた、本発明の多重特異性抗原結合分子または本発明の方法によって製造された多重特異性抗原結合分子を含む、本発明の方法において用いるためのキットを提供する。該キットは、薬学的に許容される付加的な担体もしくは媒体、またはキットの使用方法を記載した取り扱い説明書等と共に包装され得る。
加えて、本発明は、本発明の方法において用いるための、本発明の多重特異性抗原結合分子または本発明の方法によって製造された多重特異性抗原結合分子に関する。
本明細書において引用された文献はすべて、参照により本明細書に組み入れられる。
以下は、本発明の方法および組成物の実施例である。上述の一般的な記載に照らし、種々の他の態様が実施され得ることが、理解されるであろう。
実施例1. CLDN6を標的とするT細胞リダイレクティング二重特異性抗体 (CLDN6-TRAB) の作製
CLDN6に対するT細胞リダイレクティング二重特異性抗体を作製した。CLDN6を標的とするT細胞リダイレクティング二重特異性抗体(以後、CLDN6-TRABと称する)を作製するために、4種の抗CLDN6二価抗体(CH01、CH02、CH03、CH04)をCLDN6-TRABのCLDN6結合アームに使用し、1種の抗CD3二価抗体をCLDN6-TRABのCD3結合アームに使用した。可変領域およびヒトIgG1定常領域を含む抗体をコードするcDNAを合成し、標準的な哺乳動物発現ベクターにクローニングした。抗CLDN6二価抗体および抗CD3二価抗体のそれぞれを、Expi293発現系 (Thermo Fisher Scientific) を用いて一過性にトランスフェクトし、発現させた。培養上清を回収し、MabSelect SuRe pccアフィニティークロマトグラフィー (GE Healthcare) で精製を行い、その後にSuperdex200 (GE Healthcare) を使用したゲル浸透クロマトグラフィーを行うことにより、上清から抗体を精製した。CLDN6-TRABを作製するために、精製された4種の抗CLDN6二価抗体CH01、CH02、CH03、およびCH04を、上述の抗CD3二価抗体と共に、(WO2015/046467に記載されているように)Fab Arm Exchangeに供した。4種のCLDN6-TRABが作製され、それぞれCH01/CD3、CH02/CD3、CH03/CD3、およびCH04/CD3と命名した。CLDN6-TRABの概要および配列を表2に示す。
CLDN6に対するT細胞リダイレクティング二重特異性抗体を作製した。CLDN6を標的とするT細胞リダイレクティング二重特異性抗体(以後、CLDN6-TRABと称する)を作製するために、4種の抗CLDN6二価抗体(CH01、CH02、CH03、CH04)をCLDN6-TRABのCLDN6結合アームに使用し、1種の抗CD3二価抗体をCLDN6-TRABのCD3結合アームに使用した。可変領域およびヒトIgG1定常領域を含む抗体をコードするcDNAを合成し、標準的な哺乳動物発現ベクターにクローニングした。抗CLDN6二価抗体および抗CD3二価抗体のそれぞれを、Expi293発現系 (Thermo Fisher Scientific) を用いて一過性にトランスフェクトし、発現させた。培養上清を回収し、MabSelect SuRe pccアフィニティークロマトグラフィー (GE Healthcare) で精製を行い、その後にSuperdex200 (GE Healthcare) を使用したゲル浸透クロマトグラフィーを行うことにより、上清から抗体を精製した。CLDN6-TRABを作製するために、精製された4種の抗CLDN6二価抗体CH01、CH02、CH03、およびCH04を、上述の抗CD3二価抗体と共に、(WO2015/046467に記載されているように)Fab Arm Exchangeに供した。4種のCLDN6-TRABが作製され、それぞれCH01/CD3、CH02/CD3、CH03/CD3、およびCH04/CD3と命名した。CLDN6-TRABの概要および配列を表2に示す。
実施例2. CLDN6-TRABの結合活性および特異性
作製されたCLDN6-TRABの、CLDN6および他のクローディンファミリー抗原に対する結合活性および特異性を評価するために、以下のようにFACS解析を行った。ヒトCLDN3 (hCLDN3)、ヒトCLDN4 (hCLDN4)、ヒトCLDN6 (hCLDN6)、ヒトCLDN9 (hCLDN9)、マウスCLDN3 (mCLDN3)、マウスCLDN4 (mCLDN4)、およびマウスCLDN6 (mCLDN6) より選択される1種類のタンパク質を安定して発現するBa/F3トランスフェクタントを、WO2008/087978に記載されている方法と類似の方法を用いて作製し、それぞれBaF3_hCLDN3、BaF3_hCLDN4、BaF3_hCLDN6、BaF3_hCLDN9、BaF3_mCLDN3、BaF3_mCLDN4、BaF3_mCLDN6と命名した。CLDN6-TRAB(CH01/CD3、CH02/CD3、CH03/CD3、CH04/CD3)のそれぞれを、FACS緩衝液(0.5% BSA含有autoMACSリンス溶液、Miltenyl Biotec)中、20μg/mlの抗体濃度で、Ba/F3トランスフェクタントと共にインキュベートした。クローディンファミリータンパク質(hCLDN3、hCLDN4、hCLDN6、hCLDN9、mCLDN3、mCLDN4、mCLDN6)に対する各CLDN6-TRABの結合活性を、FITC結合ヤギ抗ヒトIgG (BeckmanCoulter) のインキュベーションによって調べ、Geo-mean値として表した。検体は、FACSVerse (BD) で解析処理を行った。
作製されたCLDN6-TRABの、CLDN6および他のクローディンファミリー抗原に対する結合活性および特異性を評価するために、以下のようにFACS解析を行った。ヒトCLDN3 (hCLDN3)、ヒトCLDN4 (hCLDN4)、ヒトCLDN6 (hCLDN6)、ヒトCLDN9 (hCLDN9)、マウスCLDN3 (mCLDN3)、マウスCLDN4 (mCLDN4)、およびマウスCLDN6 (mCLDN6) より選択される1種類のタンパク質を安定して発現するBa/F3トランスフェクタントを、WO2008/087978に記載されている方法と類似の方法を用いて作製し、それぞれBaF3_hCLDN3、BaF3_hCLDN4、BaF3_hCLDN6、BaF3_hCLDN9、BaF3_mCLDN3、BaF3_mCLDN4、BaF3_mCLDN6と命名した。CLDN6-TRAB(CH01/CD3、CH02/CD3、CH03/CD3、CH04/CD3)のそれぞれを、FACS緩衝液(0.5% BSA含有autoMACSリンス溶液、Miltenyl Biotec)中、20μg/mlの抗体濃度で、Ba/F3トランスフェクタントと共にインキュベートした。クローディンファミリータンパク質(hCLDN3、hCLDN4、hCLDN6、hCLDN9、mCLDN3、mCLDN4、mCLDN6)に対する各CLDN6-TRABの結合活性を、FITC結合ヤギ抗ヒトIgG (BeckmanCoulter) のインキュベーションによって調べ、Geo-mean値として表した。検体は、FACSVerse (BD) で解析処理を行った。
図1および表3に示されるように、すべてのCLDN6-TRABが、Ba/F3の細胞表面上に発現されたヒトまたはマウスCLDN6に結合する。マウスCLDN9に対する被験抗体の結合は、マウスCLDN9の細胞外ドメインのアミノ酸配列が、ヒトCLDN9細胞外ドメインのものと完全に同じであることから、ヒトCLDN9に対するそれら抗体の結合結果から予測できる。
クローディンファミリータンパク質は、2つの細胞外ドメインを有する。ヒトCLDN9における第1細胞外ドメインの配列は、ヒトCLDN6の第1細胞外ドメインと比較してほぼ同じである。ヒトCLDN9の第2細胞外ドメインについては、ヒトCLDN6の対応する位置のアミノ酸と異なるアミノ酸が2つのみ存在する(図2)。ヒトクローディン6の156位(配列番号:44または45に示される配列の156位)のグルタミンをロイシンに置換して、156位においてヒトクローディン9と同じアミノ酸を含むヒトCLDN6変異体を作製した。このヒトCLDN6変異体をhCLDN6(Q156L) (配列番号:53) と命名した。hCLDN6(Q156L) を安定して発現するBa/F3トランスフェクタントを、WO2008/087978に記載されている方法と類似の方法を用いて作製した。樹立されたBa/F3トランスフェクタントをBaF3_hCLDN6(Q156L) と命名した。作製されたCLDN6-TRABの、BaF3_hCLDN6(Q156L) に対する結合活性を、上述のFACS法を用いて測定した。結果を図1および表3に示す。
実施例3. 乳酸脱水素酵素放出を用いる細胞傷害活性のインビトロアッセイ
CLDN6-TRABの細胞傷害活性を、乳酸脱水素酵素 (LDH) 放出アッセイにより評価した。
CLDN6-TRABの細胞傷害活性を、乳酸脱水素酵素 (LDH) 放出アッセイにより評価した。
ヒトCLDN6を発現するヒト卵巣がん細胞株OV-90 (ATCC) を、標的細胞として使用した。
500μLの1,000単位/mLヘパリン溶液 (NovoNordisk) が予め注入されているシリンジによって、50 mLの末梢血を健常な成人ボランティアから採取した。Leucosepリンパ球分離チューブ (Greiner Bio-One) 中、PBS (-) で希釈して4等分した末梢血に15 mLのFicoll-Paque PLUSを注入し、遠心分離した。分離チューブを遠心分離(2150 rpmで室温にて10分間)した後、末梢血単核細胞(以後、PBMCと称する)画分層を分けた。PBMCを、10% FBSを含有するRPMI-1640培地 (SIGMA)(10% FBS/RPMIと呼ぶ)で1度洗浄した後、PBMCを細胞2×106個/mLとなるように調整した。これらのPBMCをエフェクター細胞として使用した。
標的細胞を培養フラスコから剥離し、平底透明96ウェルプレート (Corning) に、細胞1×104個を含む100μL/ウェルで播種した。50μLのヒトPMBC溶液(細胞2×105個)、および0.004、0.04、0.4、4、40 nMより選択される濃度で調製された50μLの抗体を、それぞれウェルに添加した。37℃で一晩インキュベートした後、プレートを遠心分離し、各ウェルからの100μL培養上清を新たな平底透明96ウェルプレートに移した。次いで100μLのLDH検出試薬(触媒を含有する色素溶液、TaKaRa)を各ウェルに添加し、続いて室温で30分間インキュベートした。1N HCl (Wako Pure Chemical Industries) を添加してLDH酵素反応を停止させた後、490 nmおよび620 nmにおける吸光度をEnVision (PerkinElmer Japan) により測定した。
以下の式に従って、490 nmと620 nmの吸光度の差から、細胞傷害活性率 (%) を算出した。
細胞傷害活性 (%) = {(AbAb - Abspon)×100 / (AbTritonX - Abspon)} - {(AbNoAb - Abspon)×100 / (AbTritonX - Abspon)}
「AbAb」は、抗体を含むウェルの490 nmと620 nmの吸光度の差を表し、「Abspon」は、抗体およびエフェクター細胞なしのウェルの平均吸光度値を表し、「AbTritonX」は、一晩培養した後に20% Triton-Xを添加したウェルの平均値を表し、「AbNoAb」は、抗体なしのウェルの平均吸光度値を表す。吸光度値はすべて、培養液ウェルの平均吸光度値を差し引いた。
細胞傷害活性 (%) = {(AbAb - Abspon)×100 / (AbTritonX - Abspon)} - {(AbNoAb - Abspon)×100 / (AbTritonX - Abspon)}
「AbAb」は、抗体を含むウェルの490 nmと620 nmの吸光度の差を表し、「Abspon」は、抗体およびエフェクター細胞なしのウェルの平均吸光度値を表し、「AbTritonX」は、一晩培養した後に20% Triton-Xを添加したウェルの平均値を表し、「AbNoAb」は、抗体なしのウェルの平均吸光度値を表す。吸光度値はすべて、培養液ウェルの平均吸光度値を差し引いた。
結果を図3に示す。
実施例4. Jurkatレポーター遺伝子アッセイを用いるT細胞活性化アッセイ
CLDN6-TRABのT細胞活性化活性を、Jurkat / NFAT-REレポーター細胞株(T細胞活性化バイオアッセイ、Promega)を用いて評価した。ヒト肺腺がん細胞株ABC-1 (Health Science Research Resources Bank)、ヒト奇形がん腫細胞株PA-1 (ATCC)、ヒト胃絨毛がん細胞株SCH (Health Science Research Resources Bank)、ヒト肝細胞がん細胞株HuH-7 (Health Science Research Resources Bank)、およびヒト卵巣がん細胞株OV-90 (ATCC) を含む、ヒトクローディン6を内因的に発現するヒトがん細胞株を、標的細胞として使用した。これらのがん細胞株に加えて、ヒトCLDN6、CLDN9、またはCLDN6(Q156L) を安定して発現するBa/F3トランスフェクタント(BaF3_hCLDN6、BaF3_hCLDN9、BaF3_hCLDN6(Q156L))もまた、標的細胞として使用した。以下のようにアッセイを実施した。最初に、標的細胞を培養フラスコから剥離または収集し、白色平底96ウェルプレート (Corning) に25μL/ウェル(細胞2×104個)でプレーティングした。次に、1×105個のJurkat / NFAT-REレポーター細胞株を、0.003、0.03、0.3、3、および30 nMより選択される濃度の抗体と共に、それぞれ25μL/ウェルで添加した。37℃で一晩培養した後、Bio-Glo試薬 (Promega) を75μL/ウェルで添加し、続いて室温で10分間さらにインキュベートした。次いで、Jurkat細胞の活性化によって生じた発光を、EnVision (PerkinElmer Japan) により測定した。抗体ありのウェルと抗体なしのウェルを比較することにより、各ウェルの発光率を算出した。
CLDN6-TRABのT細胞活性化活性を、Jurkat / NFAT-REレポーター細胞株(T細胞活性化バイオアッセイ、Promega)を用いて評価した。ヒト肺腺がん細胞株ABC-1 (Health Science Research Resources Bank)、ヒト奇形がん腫細胞株PA-1 (ATCC)、ヒト胃絨毛がん細胞株SCH (Health Science Research Resources Bank)、ヒト肝細胞がん細胞株HuH-7 (Health Science Research Resources Bank)、およびヒト卵巣がん細胞株OV-90 (ATCC) を含む、ヒトクローディン6を内因的に発現するヒトがん細胞株を、標的細胞として使用した。これらのがん細胞株に加えて、ヒトCLDN6、CLDN9、またはCLDN6(Q156L) を安定して発現するBa/F3トランスフェクタント(BaF3_hCLDN6、BaF3_hCLDN9、BaF3_hCLDN6(Q156L))もまた、標的細胞として使用した。以下のようにアッセイを実施した。最初に、標的細胞を培養フラスコから剥離または収集し、白色平底96ウェルプレート (Corning) に25μL/ウェル(細胞2×104個)でプレーティングした。次に、1×105個のJurkat / NFAT-REレポーター細胞株を、0.003、0.03、0.3、3、および30 nMより選択される濃度の抗体と共に、それぞれ25μL/ウェルで添加した。37℃で一晩培養した後、Bio-Glo試薬 (Promega) を75μL/ウェルで添加し、続いて室温で10分間さらにインキュベートした。次いで、Jurkat細胞の活性化によって生じた発光を、EnVision (PerkinElmer Japan) により測定した。抗体ありのウェルと抗体なしのウェルを比較することにより、各ウェルの発光率を算出した。
CLDN6発現ヒト細胞株(ABC-1、SCH、PA-1、HuH-7、およびOV-90)を標的細胞として用いたT細胞活性化の結果を、図4A〜図4Eに示す。Ba/F3トランスフェクタント(BaF3_hCLDN6、BaF3_hCLDN9、およびBaF3_hCLDN6(Q156L))を標的細胞として用いた結果を、図4F〜図4Hに示す。
実施例5. リアルタイム細胞増殖阻害アッセイ(xCELLigenceアッセイ)
CLDN6-TRABによって媒介されるT細胞依存性増殖阻害を、xCELLigence RTCA MP機器 (ACEA Biosciences) を用いる細胞増殖アッセイによって評価した。CLDN6 発現がん細胞株であるHuH-7およびOV-90を、標的細胞として使用した。エフェクター細胞としてのT細胞の拡大は、ヒトPBMC (AllCells) およびT細胞活性化/拡大キット (Miltenyi Biotec) を用いて行った。1×104個のHuH-7またはOV-90を、E-Plate 96プレート (Roche Diagnostics) に100μL/ウェルでプレーティングした。一晩培養した後、2×104個のT細胞を、0.004、0.04、0.4、4、または40 nMより選択される濃度の抗体と共に、それぞれ50μL/ウェルで添加した。プレートのインキュベーション中の72時間にわたって、xCELLigenceを用いて、細胞増殖を15分ごとにモニターした。細胞増殖阻害率 (CGI:%) を、CGI (%) = 100 - (CIAb×100 / CINoAb) として与えられる式に従って、Cell Indexから決定した。「CIAb」は、特定の実験時間における、抗体ありのウェルのCell Indexを表し、「CINoAb」は、抗体なしのウェルの平均Cell Indexを表す。
CLDN6-TRABによって媒介されるT細胞依存性増殖阻害を、xCELLigence RTCA MP機器 (ACEA Biosciences) を用いる細胞増殖アッセイによって評価した。CLDN6 発現がん細胞株であるHuH-7およびOV-90を、標的細胞として使用した。エフェクター細胞としてのT細胞の拡大は、ヒトPBMC (AllCells) およびT細胞活性化/拡大キット (Miltenyi Biotec) を用いて行った。1×104個のHuH-7またはOV-90を、E-Plate 96プレート (Roche Diagnostics) に100μL/ウェルでプレーティングした。一晩培養した後、2×104個のT細胞を、0.004、0.04、0.4、4、または40 nMより選択される濃度の抗体と共に、それぞれ50μL/ウェルで添加した。プレートのインキュベーション中の72時間にわたって、xCELLigenceを用いて、細胞増殖を15分ごとにモニターした。細胞増殖阻害率 (CGI:%) を、CGI (%) = 100 - (CIAb×100 / CINoAb) として与えられる式に従って、Cell Indexから決定した。「CIAb」は、特定の実験時間における、抗体ありのウェルのCell Indexを表し、「CINoAb」は、抗体なしのウェルの平均Cell Indexを表す。
結果は、すべてのCLDN6-TRABが、用量依存的にCLDN6発現がん細胞株の増殖を阻害したことを示す(図5)。
実施例6. インビボ抗腫瘍効果試験
CLDN6-TRABのインビボ抗腫瘍効果を、腫瘍保有マウスモデルを用いて評価した。ヒトCLDN6を発現するヒトがん細胞株(HuH-7またはOV-90)をNOD/ShiJic-scidマウスの皮下に移植し、そのマウスにヒトPBMCを注入した(いわゆるT細胞注入モデル)。腫瘍保有マウスを無作為に処置群に割り当てて、腫瘍移植から14日目に、抗体の投与または対照としての溶媒の投与を行った。
CLDN6-TRABのインビボ抗腫瘍効果を、腫瘍保有マウスモデルを用いて評価した。ヒトCLDN6を発現するヒトがん細胞株(HuH-7またはOV-90)をNOD/ShiJic-scidマウスの皮下に移植し、そのマウスにヒトPBMCを注入した(いわゆるT細胞注入モデル)。腫瘍保有マウスを無作為に処置群に割り当てて、腫瘍移植から14日目に、抗体の投与または対照としての溶媒の投与を行った。
より具体的には、HuH-7またはOV-90 T細胞注入モデルを用いる有効性試験において、以下の試験を行った。T細胞の拡大は、ヒトPBMC (AllCells) およびT細胞活性化/拡大キット (Miltenyi Biotec) を用いて行った。細胞1×107個のHuH-7または細胞5×106個のOV-90をマトリゲル基底膜マトリックス (BD) と混合し、NOD/ShiJic-scidマウス(CLEA Japan、雌、6週齢)の側腹部の皮下に移植した。移植の日を0日目と規定した。移植後14日目に、腫瘍サイズおよび体重に従って無作為化および群分けした後、抗アシアロGM1抗体 (Wako Pure Chemical Industries) を0.2 mg/マウスで腹腔内投与した。翌日、拡大培養によって得られたT細胞を、細胞3×107個/マウスで腹腔内注射することにより移植した。群の詳細を表4に示す。T細胞移植のおよそ4時間後に、CLDN6-TRAB(CH01/CD3、CH02/CD3、CH03/CD3、およびCH04/CD3)を静脈内投与した。CLDN6-TRABは1回のみ投与した。腫瘍塊の長さ (L) および幅 (W) を測定し、腫瘍体積 (TV) をTV = (L×W×W) / 2として算出した。
溶媒投与対照群と比較してCLDN6-TRAB投与群において、抗腫瘍効果が認められた(図6)。特に、HuH-7モデルのCH1/CD3で処置したマウスにおいて、腫瘍増殖の顕著な阻害が認められた。
実施例7. マウスにおけるCLDN6-TRABの薬物動態
CLDN6-TRABの薬物動態を以下のように評価した。CLDN6-TRABを、5mg/kgの用量でマウスに静脈内注射した。HuH-7移植モデルにおいては抗体投与後の3、7、13日目に、およびOV-90移植モデルにおいては抗体投与後の3、6、14日目に、3匹のマウスから血液を採取した。10,000×gで4℃にて5分間遠心分離することによりヘパリン血漿試料を得た。マウス血漿中のCLDN6-TRABの濃度を、ELISAによって測定した。抗ヒトIgG抗体 (Sigma) をNunc-ImmunoPlate MaxiSorp (Thermo Fisher) に分注し、室温で1時間静置して、抗ヒトIgG固定化プレートを調製した。検量用の8、4、2、1、0.5、0.25、または0.125 ng/mLの抗体濃度を有する試料、および400倍またはそれ以上希釈したマウス血漿試料を調製した。試料を抗ヒトIgG固定化プレートに分注し、室温で1時間インキュベーションした。次いで、ビオチン化抗Fc特異的抗体 (CHUGAI) を添加して、室温で1時間反応させた。ストレプトアビジン-PolyHRP80 (Stereospecific Detection Technologies) を添加して、室温で1時間反応させ、基質としてABTS (Roche) を用いて発色反応を行った。次いで、405 nm(650 nmを参照とする)における吸光度を、マイクロプレートリーダーによって測定した。マウス血漿中の抗体濃度を、解析用ソフトウェアSOFTmax PRO (Molecular Devices) を用いて、検量線の吸光度から算出した。静脈内投与後のマウス血漿中のCLDN6-TRAB(CH01/CD3、CH02/CD3、CH03/CD3、およびCH04/CD3)濃度の継時変化を、図7に示す。CLDN6-TRABの半減期 (T1/2) は、HuH-7移植モデルの血漿中でおよそ3.44〜4.46日であり、OV-90移植モデルでおよそ2.77〜3.22日である。試験したCLDN6-TRABの中で、CH04/CD3は両モデルにおいて最も短い半減期を示した。CH04/CD3の、ゼロから無限時間までの抗体濃度-時間曲線下面積 (AUCinf) は、HuH7移植モデルおよびOV90移植モデルの両方において最も低かった。
CLDN6-TRABの薬物動態を以下のように評価した。CLDN6-TRABを、5mg/kgの用量でマウスに静脈内注射した。HuH-7移植モデルにおいては抗体投与後の3、7、13日目に、およびOV-90移植モデルにおいては抗体投与後の3、6、14日目に、3匹のマウスから血液を採取した。10,000×gで4℃にて5分間遠心分離することによりヘパリン血漿試料を得た。マウス血漿中のCLDN6-TRABの濃度を、ELISAによって測定した。抗ヒトIgG抗体 (Sigma) をNunc-ImmunoPlate MaxiSorp (Thermo Fisher) に分注し、室温で1時間静置して、抗ヒトIgG固定化プレートを調製した。検量用の8、4、2、1、0.5、0.25、または0.125 ng/mLの抗体濃度を有する試料、および400倍またはそれ以上希釈したマウス血漿試料を調製した。試料を抗ヒトIgG固定化プレートに分注し、室温で1時間インキュベーションした。次いで、ビオチン化抗Fc特異的抗体 (CHUGAI) を添加して、室温で1時間反応させた。ストレプトアビジン-PolyHRP80 (Stereospecific Detection Technologies) を添加して、室温で1時間反応させ、基質としてABTS (Roche) を用いて発色反応を行った。次いで、405 nm(650 nmを参照とする)における吸光度を、マイクロプレートリーダーによって測定した。マウス血漿中の抗体濃度を、解析用ソフトウェアSOFTmax PRO (Molecular Devices) を用いて、検量線の吸光度から算出した。静脈内投与後のマウス血漿中のCLDN6-TRAB(CH01/CD3、CH02/CD3、CH03/CD3、およびCH04/CD3)濃度の継時変化を、図7に示す。CLDN6-TRABの半減期 (T1/2) は、HuH-7移植モデルの血漿中でおよそ3.44〜4.46日であり、OV-90移植モデルでおよそ2.77〜3.22日である。試験したCLDN6-TRABの中で、CH04/CD3は両モデルにおいて最も短い半減期を示した。CH04/CD3の、ゼロから無限時間までの抗体濃度-時間曲線下面積 (AUCinf) は、HuH7移植モデルおよびOV90移植モデルの両方において最も低かった。
前述の発明は、明確な理解を助ける目的のもと、実例および例示を用いて詳細に記載したが、本明細書における記載および例示は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本明細書で引用したすべての特許文献および科学文献の開示は、その全体にわたって、参照により明示的に本明細書に組み入れられる。
産業上の利用可能性
本発明は、強力な抗腫瘍活性、およびがん抗原に非依存的なサイトカインストーム等を誘導しないという優れた安全性特性、および長い血中半減期を有する、新規な多重特異性抗原結合分子を提供する。本発明の抗原結合分子を有効成分として含む細胞傷害誘導剤は、CLDN6発現細胞、およびこれらの細胞を含有する腫瘍組織を標的化し、細胞損傷を誘導し得る。本発明の多重特異性抗原結合分子を患者に投与することにより、安全性のレベルが高いばかりでなく、身体的負担が軽減されかつ利便性が高い、望ましい治療が可能になる。
本発明は、強力な抗腫瘍活性、およびがん抗原に非依存的なサイトカインストーム等を誘導しないという優れた安全性特性、および長い血中半減期を有する、新規な多重特異性抗原結合分子を提供する。本発明の抗原結合分子を有効成分として含む細胞傷害誘導剤は、CLDN6発現細胞、およびこれらの細胞を含有する腫瘍組織を標的化し、細胞損傷を誘導し得る。本発明の多重特異性抗原結合分子を患者に投与することにより、安全性のレベルが高いばかりでなく、身体的負担が軽減されかつ利便性が高い、望ましい治療が可能になる。
Claims (15)
- (1) ヒトCLDN6に結合する第1抗原結合ドメインを含む、第1ドメイン、
(2) T細胞受容体複合体に結合する第2抗原結合ドメインを含む、第2ドメイン、および
(3) Fc領域を含む、第3ドメイン
を含む、多重特異性抗原結合分子。 - 細胞傷害活性を有する、請求項1に記載の多重特異性抗原結合分子。
- 前記細胞傷害活性がT細胞依存性細胞傷害活性である、請求項2に記載の多重特異性抗原結合分子。
- (1) の第1抗原結合ドメインがヒトCLDN6に特異的に結合する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
- (1) の第1抗原結合ドメインが、ヒトCLDN9、ヒトCLDN4、およびヒトCLDN3より選択される少なくとも1つに実質的に結合しない、請求項1〜4のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
- (1) の第1抗原結合ドメインが、配列番号:53に規定されるCLDN6変異体に実質的に結合しない、請求項1〜5のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
- (2) の第2抗原結合ドメインがT細胞受容体に結合する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
- (2) の第2抗原結合ドメインがCD3ε鎖に結合する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
- 第1抗原結合ドメインもしくは第2抗原結合ドメインが抗体可変断片であるか、または第1抗原結合ドメインおよび第2抗原結合ドメインの両方が抗体可変断片である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
- 前記抗体可変断片がFabである、請求項9に記載の多重特異性抗原結合分子。
- (1) の第1抗原結合ドメインが、以下の (a1)〜(a6) のうちのいずれか1つである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子:
(a1) 配列番号:1のHVR-H1配列、配列番号:2のHVR-H2配列、配列番号:3のHVR-H3配列、配列番号:4のHVR-L1配列、配列番号:5のHVR-L2配列、および配列番号:6のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a2) 配列番号:9のHVR-H1配列、配列番号:10のHVR-H2配列、配列番号:11のHVR-H3配列、配列番号:12のHVR-L1配列、配列番号:13のHVR-L2配列、および配列番号:14のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a3) 配列番号:17のHVR-H1配列、配列番号:18のHVR-H2配列、配列番号:19のHVR-H3配列、配列番号:20のHVR-L1配列、配列番号:21のHVR-L2配列、および配列番号:22のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a4) 配列番号:25のHVR-H1配列、配列番号:26のHVR-H2配列、配列番号:27のHVR-H3配列、配列番号:28のHVR-L1配列、配列番号:29のHVR-L2配列、および配列番号:30のHVR-L3配列を含む、抗体可変領域;
(a5) (a1)〜(a4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つと同じエピトープに結合する、抗体可変領域;
(a6) (a1)〜(a4) より選択される抗体可変領域のうちのいずれか1つとヒトCLDN6への結合に関して競合する、抗体可変領域。 - (3) のFc領域が、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
- 前記Fc領域が、配列番号:62〜65(IgG1〜IgG4)のFc領域構成アミノ酸のうちのいずれかにおいて少なくとも1つのアミノ酸変異を有するFc領域である、請求項12に記載の多重特異性抗原結合分子。
- 二重特異性抗体である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子。
- 請求項1〜13のいずれか一項に記載の多重特異性抗原結合分子または請求項14に記載の二重特異性抗体と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
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