JP2023086705A - 筋疲労/筋損傷の細胞モデル、その製造方法及びその用途 - Google Patents

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英俊 櫻井
Hidetoshi Sakurai
智也 内村
Tomoya Uchimura
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Kyoto University NUC
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Abstract

【課題】ミオパチーにおける筋疲労や筋損傷の病態を忠実に再現することができ、ミオパチーの病因解明や治療薬の探索・薬効評価に有用な新規の筋疲労及び/又は筋損傷の細胞モデル、並びにその作製方法の提供。上記細胞モデルを用いたミオパチーの治療又は予防薬のスクリーニング・薬効評価系の提供。【解決手段】筋疲労又は筋損傷の細胞モデルの製造方法であって、以下の工程:(1)ミオパチーの哺乳動物由来であるかミオパチーの原因遺伝子変異を有する多能性幹細胞から分化させた骨格筋細胞を提供する工程;及び(2)該骨格筋細胞を、強縮を生じさせる条件で電気的又は光遺伝学的に刺激する工程を含む方法。【選択図】なし

Description

本発明は、筋疲労/筋損傷の細胞モデル、その製造方法及びその用途に関する。より詳細には、本発明は、多能性幹細胞から分化させた骨格筋細胞に強縮刺激を加えることにより、筋疲労又は筋損傷の状態を再現する細胞モデルの製造方法、該製造方法により得られる筋疲労又は筋損傷の細胞モデル、並びに該細胞モデルを用いたミオパチーの治療又は予防薬のスクリーニング方法に関する。
(発明の背景)
筋疾患は非常に多くの病気を含んでいるが、それらの症状の大半は筋肉の萎縮とそれに伴う筋力の低下である。筋肉の萎縮の原因には、筋肉自体に異常がある場合と筋肉を動かす神経に異常がある場合とがあり、前者を筋原性疾患(ミオパチー)、後者を神経原性疾患という。ミオパチーの代表的なものとして、筋ジストロフィーが知られており、そのうち最も患者数の多いデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、原因遺伝子であるジストロフィン遺伝子の変異により、正常なジストロフィンタンパク質が合成されないために生ずる病気である。DMDを含む多くのミオパチーに対する良好な治療手段は未だなく、治療法の開発が望まれている。
治療薬を開発する上では、ヒトでの病態を反映したin vitroモデルが必要となる。近年、種々の疾患において、患者自身の細胞から作製された人工多能性幹(iPS)細胞(疾患特異的iPS細胞)がin vitroヒト病態モデルとして利用されている。ミオパチーについても、患者由来のiPS細胞から病態を再現し得る骨格筋細胞を分化誘導するために様々な努力がなされている。本発明者らは以前、薬剤誘導性の転写因子(MyoD又はMyf5)を多能性幹細胞に導入し、分化誘導開始後に薬剤を添加して該転写因子を継続的に発現させることで、多能性幹細胞を骨格筋細胞へと分化誘導できること(特許文献1)、該方法によりDMD患者由来iPS細胞から分化させた骨格筋細胞は電気刺激により顕著なカルシウムイオン流入を示すこと(非特許文献1)を報告した。さらに本発明者らは、当該方法を改良し、分化誘導開始3~4日目に、5% Knockout Serum Replacement(KSR)を含む培地中に細胞を再播種することで、ハイスループットな薬剤スクリーニングにたえ得るように高効率かつ再現性よく骨格筋細胞へと分化誘導できることを報告している(非特許文献2)。
ところが、これらの方法で作製された骨格筋細胞は長期間培養することが困難であり、また成熟度も低いという問題があった。そこで、本発明者らは、分化誘導条件をより好適化するとともに、電気刺激又は光遺伝学的刺激により膜の脱分極及び興奮収縮連関を誘発し、筋管の成熟化を促進することにより、より成熟度の高い骨格筋細胞を誘導することに成功した(特許文献2、非特許文献3)。電気刺激を長期間継続して与えると、DMDのジストロフィン変異を有するヒトiPS細胞由来の骨格筋細胞では、isogenicなコントロール細胞と比較して、収縮速度が時間とともに低下し、筋疲労に類似した表現型を示した(特許文献2、非特許文献3)。
しかしながら、当該刺激モデルでも、DMD患者でみられる筋疲労の現象を再現できているとはいえず、また、筋損傷の表現型は認められていない。
国際公開第2013/073246号 国際公開第2020/090836号
Shoji E. et al., Scientific Reports, 5:12831 (2015) Uchimura T. et al., Stem Cell Research, 25:98-106 (2017) Uchimura T. et al., Cell Reports Medicine, 2:100298 (2021)
従って、本発明の目的は、DMDをはじめとするミオパチーにおける筋疲労や筋損傷の病態を忠実に再現することができ、ミオパチーの病因解明や治療薬の探索・薬効評価に有用な新規の筋疲労及び/又は筋損傷の細胞モデル、並びにその作製方法を提供することである。本発明の別の目的は、上記細胞モデルを用いたミオパチーの治療又は予防薬のスクリーニング・薬効評価系を提供することである。
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ヒトiPS細胞由来の骨格筋細胞に対して、従来の刺激モデルとは異なる特有の電気刺激(又は光遺伝学的刺激)、即ち、強縮を誘発する条件での刺激を加えることにより、DMD患者由来iPS細胞及びDMDのジストロフィン変異を導入したヒトiPS細胞(DMD-iPSC)から分化させた筋管において、低電圧の刺激では、収縮力が徐々に低下し、高電圧での刺激では、収縮力の著しい低下とクレアチンキナーゼの漏出とが認められた。以上のことから、強縮を生じさせる条件の刺激をDMD-iPSCに与えると、低電圧では筋疲労の細胞モデルとなり、高電圧では筋損傷の細胞モデルとなることが明らかとなった。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
[1] 筋疲労又は筋損傷の細胞モデルの製造方法であって、以下の工程:
(1)ミオパチーの哺乳動物由来であるか又はミオパチーの原因遺伝子変異を有する多能性幹細胞から分化させた骨格筋細胞を提供する工程;及び
(2)該骨格筋細胞を、強縮を生じさせる条件で電気的又は光遺伝学的に刺激する工程を含む方法。
[2] 工程(2)における刺激が電気刺激である、[1]に記載の方法。
[3] 電気刺激が以下の条件:
(a)電圧:10~40 V;
(b)周波数:10~100 Hz;及び
(c)パルス幅:0.4~16 msec
で行われる、[2]に記載の方法。
[4] 1~10秒間の電気刺激を、1~10秒間隔で計1~300秒間与える、[2]又は[3]に記載の方法。
[5] 工程(2)における刺激が光遺伝学的刺激である、[1]に記載の方法。
[6] 光遺伝学的刺激が、細胞内で強制発現させた光活性化タンパク質を活性化波長の光を照射して活性化させ、膜の脱分極を生じさせることである、[5]に記載の方法。
[7] 光活性化タンパク質がチャネルロドプシン2(ChR2)又はその改変体である、[6]に記載の方法。
[8] 骨格筋細胞が、電気刺激又は光遺伝学的刺激により成熟化されたものである、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 骨格筋細胞が、多能性幹細胞において外因性のMyoD及び/又はMyf5を発現させることにより分化誘導されたものである、[8]に記載の方法。
[10] 多能性幹細胞が人工多能性幹(iPS)細胞である、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11] 哺乳動物がヒトである、[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12] ミオパチーの哺乳動物由来であるかミオパチーの原因遺伝子変異を有する多能性幹細胞から分化させた骨格筋細胞であって、強縮を生じさせる条件での電気刺激又は光遺伝学的刺激に応答して、筋疲労又は筋損傷の病態を発現する細胞モデル。
[13] 筋疲労又は筋損傷の病態を改善し得る物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
(1)ミオパチーの哺乳動物由来であるかミオパチーの原因遺伝子変異を有する多能性幹細胞から分化させた骨格筋細胞を提供する工程;
(2)該骨格筋細胞を、被検物質の存在下、強縮を生じさせる条件で電気的又は光遺伝学的に刺激する工程;及び
(3)被検物質の非存在下と比較して、該骨格筋細胞の収縮能力の低下を改善、及び/又は該骨格筋細胞からのクレアチンキナーゼの漏出を抑制した被検物質を、筋疲労又は筋損傷の病態を改善し得る物質の候補として選択する工程
を含む方法。
[14] ミオパチーの治療又は予防薬のスクリーニングのための、[13]に記載の方法。
本発明によれば、ミオパチーにおける筋疲労や筋損傷の病態を忠実に再現することができるので、ミオパチーの病因解明やより精度の高い創薬スクリーニングのためのリサーチツールが提供される。
図1Aは、本発明で用いたテトラサイクリン応答性MyoD強制発現ベクター(pB-EF1α-MyoD-IRES-puro)および光活性化タンパク質強制発現ベクター(pB-EF1α-CatCh+-IRES-Bsr)の構造を模式的に示す。図1Bは、本発明の培養方法のプロトコルの概略図を示す。HS: ウマ血清,Dox: ドキシサイクリン,Y: ROCK阻害剤/Y-27632,EFS: 電場刺激 図2は、電気刺激成熟誘導分化方法で骨格筋分化誘導させた細胞株を、本発明の方法である強縮刺激(15V, 2msec, 50Hzを160秒間)で細胞を収縮運動させ、動画解析装置SI8000で解析した結果を示す。左図と中央図は収縮速度の結果を表し、右図は、左図と中央図の細胞培養培地に含まれるクレアチンキナーゼ (CK)の値を測定した結果を示す。 図3は、電気刺激成熟誘導分化方法で骨格筋分化誘導させた細胞株を、本発明の方法である強縮刺激(20V, 2msec, 50Hzを160秒間)で細胞を収縮運動させ、動画解析装置SI8000で解析した結果を示す。左図と中央図は収縮速度の結果を表し、右図は、左図と中央図の細胞培養培地に含まれるクレアチンキナーゼ (CK)の値を測定した結果を示す。 図4は、電気刺激成熟誘導分化方法で骨格筋分化誘導させた細胞株に、溶媒コントロールであるDMSOまたはJasplakinolideを1μMを添加し、4時間後に本発明の方法である強縮刺激(15V, 2msec, 50Hzを160秒間)で細胞を収縮運動させ、動画解析装置SI8000で解析した結果を示す。図は収縮速度の結果を示す。 図5は、電気刺激成熟誘導分化方法で骨格筋分化誘導させた細胞株に、溶媒コントロールであるDMSOまたはJasplakinolideを1μMを添加し、4時間後に本発明の方法である強縮刺激(20V, 2msec, 50Hzを160秒間)で細胞を収縮運動させ、動画解析装置SI8000で解析した結果を示す。左上、右上、左下図は収縮速度の結果を表し、右下図は、それぞれの図の細胞培養培地に含まれるクレアチンキナーゼ (CK)の値を測定した結果を示す。 図6は、電気刺激成熟誘導分化方法で骨格筋分化誘導させた細胞株を、本発明の方法である強縮刺激(10V, 2msec, 50Hzを160秒間)で細胞を収縮運動させ、動画解析装置SI8000で解析した結果(収縮速度の経時変化)を示す。 図7は、電気刺激成熟誘導分化方法で骨格筋分化誘導させた細胞株を、本発明の方法である強縮刺激(17V, 2msec, 50Hzを160秒間)で細胞を収縮運動させ、動画解析装置SI8000で解析した結果(収縮速度の経時変化)を示す。 図8は、電気刺激成熟誘導分化方法で骨格筋分化誘導させた細胞株を、本発明の方法である強縮刺激(25V, 2msec, 50Hzを160秒間)で細胞を収縮運動させ、動画解析装置SI8000で解析した結果(収縮速度の経時変化)を示す。 図9は、電気刺激成熟誘導分化方法で骨格筋分化誘導させた細胞株を、本発明の方法である強縮刺激(20V, 10msec, 10Hzを160秒間)で細胞を収縮運動させ、動画解析装置SI8000で解析した結果(収縮速度の経時変化)を示す。
(発明の詳細な説明)
1.筋疲労又は筋損傷の細胞モデルの製造方法
本発明は、筋疲労又は筋損傷の細胞モデルの製造方法(以下、「本発明の製法」ともいう)を提供する。本発明の製法は、以下の工程:
(1)ミオパチーの哺乳動物由来であるかミオパチーの原因遺伝子変異を有する多能性幹細胞から分化させた骨格筋細胞を提供する工程;及び
(2)該骨格筋細胞を、強縮を生じさせる条件で電気的又は光遺伝学的に刺激する工程を含む。
(A)多能性幹細胞
本明細書で使用する「多能性幹細胞」とは、自己複製能と分化多能性(pluripotency)を有する細胞のことをいい、例えば、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹細胞(nuclear transfer Embryonic stem cell:ntES細胞)、多能性生殖幹細胞(multipotent germline stem cell)(「mGS細胞」)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、Muse細胞(multi-lineage differentiating stress enduring cell)が挙げられるが、好ましくはiPS細胞(より好ましくはヒトiPS細胞)である。上記多能性幹細胞がES細胞又はヒト胚に由来する任意の細胞である場合、その細胞は胚を破壊して作製された細胞であっても、胚を破壊することなく作製された細胞であってもよいが、好ましくは、胚を破壊することなく作製された細胞である。
iPS細胞は、特定の初期化因子を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(Takahashi K. and Yamanaka S.(2006)Cell, 126:663-676; Takahashi K. et al.(2007), Cell, 131:861-872; Yu J. et al.(2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa M. et al.(2008), Nat. Biotechnol., 26:101-106;WO 2007/069666)。iPS細胞を用いる場合、該iPS細胞は、自体公知の方法により体細胞から作製してもよいし、既に樹立され、ストックされているiPS細胞を用いてもよい。初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物若しくはノンコーディング(non-coding)RNA又はES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物若しくはノンコーディングRNA、或いは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3又はGlis1等が例示される。これらの初期化因子は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。初期化因子の組み合わせとしては、WO 2007/069666、WO 2008/118820、WO 2009/007852、WO 2009/032194、WO 2009/058413、WO 2009/057831、WO 2009/075119、WO 2009/079007、WO 2009/091659、WO 2009/101084、WO 2009/101407、WO 2009/102983、WO 2009/114949、WO 2009/117439、WO 2009/126250、WO 2009/126251、WO 2009/126655、WO 2009/157593、WO 2010/009015、WO 2010/033906、WO 2010/033920、WO 2010/042800、WO 2010/050626、WO 2010/056831、WO 2010/068955、WO 2010/098419、WO 2010/102267、WO 2010/111409、WO 2010/111422、WO 2010/115050、WO 2010/124290、WO 2010/147395、WO 2010/147612、Huangfu D, et al.(2008), Nat. Biotechnol., 26:795-797、Shi Y, et al.(2008), Cell Stem Cell, 2:525-528、Eminli S, et al.(2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D, et al.(2008), Nat Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al.(2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al.(2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A,(2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al.(2009), Nat Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al.,(2009), Nat. Biotech., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al.(2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al.(2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al.(2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al.(2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al.(2010), Nature. 463:1096-100、Mali P, et al.(2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al.(2011), Nature. 474:225-9に記載の組み合わせが例示される。
上記初期化因子には、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸(VPA)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNA及びshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool(Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1(OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、MEK阻害剤(例えば、PD184352、PD98059、U0126、SL327及びPD0325901)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3阻害剤(例えば、Bio及びCHIR99021)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、5-アザシチジン)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、BIX-01294等の低分子阻害剤、Suv39hl、Suv39h2、SetDBl及びG9aに対するsiRNA及びshRNA等の核酸性発現阻害剤など)、L-チャネルカルシウムアゴニスト(例えばBayk8644)、酪酸、TGFβ阻害剤又はALK5阻害剤(例えば、LY364947、SB431542、616453及びA-83-01)、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNA及びshRNA)、ARID3A阻害剤(例えば、ARID3Aに対するsiRNA及びshRNA)、miR-291-3p、miR-294、miR-295及びmir-302などのmiRNA、Wntシグナリング(例えば可溶性Wnt3a)、神経ペプチドY、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンE2及びプロスタグランジンJ2)、hTERT、SV40LT、UTF1、IRX6、GLISl、PITX2、DMRTBl等の樹立効率を高めることを目的として用いられる因子も含まれるが、それらに限定されない。本明細書においては、これらの樹立効率を高めることを目的として用いられる因子についても初期化因子と別段の区別をしないものとする。
本明細書において、「体細胞」とは、卵子、卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞又は分化全能性細胞を除くあらゆる動物細胞(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物細胞)を意味する。体細胞としては、特に限定されないが、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、及び成熟した健全な若しくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、及び株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞及び脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物の初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。ES細胞は、マウスで1981年に発見され(M.J. Evans and M.H. Kaufman(1981), Nature 292:154-156)、その後、ヒト、サルなどの霊長類でもES細胞株が樹立された(J.A. Thomson et al.(1998), Science 282:1145-1147; J.A. Thomson et al.(1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848; J.A. Thomson et al.(1996), Biol. Reprod., 55:254-259; J.A. Thomson and V.S. Marshall(1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)。ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。ヒト及びサルのES細胞の樹立と維持の方法については、例えば、USP5,843,780; Thomson JA, et al.(1995), Proc Natl. Acad. Sci. U S A. 92:7844-7848;Thomson JA, et al.(1998), Science. 282:1145-1147; Suemori H. et al.(2006), Biochem. Biophys. Res. Commun., 345:926-932; Ueno M. et al.(2006), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:9554-9559;Suemori H. et al.(2001), Dev. Dyn., 222:273-279; Kawasaki H. et al.(2002), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:1580-1585;Klimanskaya I. et al.(2006), Nature. 444:481-485などに記載されている。或いは、ES細胞は、胚盤胞期以前の卵割期の胚の単一割球のみを用いて樹立することもできるし(Chung Y. et al. (2008), Cell Stem Cell 2: 113-117)、発生停止した胚を用いて樹立することもできる(Zhang X. et al. (2006), Stem Cells 24: 2669-2676.)。
nt ES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(Wakayama T. et al.(2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al.(2005), Biol. Reprod., 72:932-936; Byrne J. et al.(2007), Nature, 450:497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がnt ES(nuclear transfer ES)細胞である。nt ES細胞の作製のためには、核移植技術(Cibelli J.B. et al.(1998), Nature Biotechnol., 16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008), 実験医学, 26巻, 5号(増刊), 47~52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化することができる。
mGS細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、***形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(Kanatsu-Shinohara M. et al.(2003)Biol. Reprod., 69:612-616; Shinohara K. et al.(2004), Cell, 119:1001-1012)。神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor(GDNF))を含む培養液で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、生殖幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008), 実験医学, 26巻, 5号(増刊), 41~46頁, 羊土社(東京、日本))。
EG細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞である。LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立し得る(Matsui Y. et al.(1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al.(1992), Nature, 359:550-551)。
Muse細胞は、生体に内在する非腫瘍性の多能性幹細胞であり、例えば、WO 2011/007900に記載された方法にて製造することができる。詳細には、線維芽細胞又は骨髄間質細胞を長時間トリプシン処理、好ましくは8時間又は16時間トリプシン処理した後、浮遊培養することで得られる多能性を有した細胞がMuse細胞であり、SSEA-3及びCD105が陽性である。
本発明の方法において用いられる多能性幹細胞は、ミオパチーの哺乳動物由来であるか、正常な多能性幹細胞にミオパチーの原因遺伝子変異を導入したものであり得る。哺乳動物としては、いずれかの多能性幹細胞の樹立方法が確立しているものであれば特に制限はないが、例えばヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ等であり、好ましくはヒトである。
ミオパチーとしては、その病態の1つとして筋疲労及び/又は筋損傷を示す疾患であれば特に制限はなく、例えば、筋ジストロフィー(例:デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、眼筋咽頭型筋ジストロフィー、エメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー等)、遠位型ミオパチー(例:三好型ミオパチー、GNEミオパチー、眼咽頭型遠位型ミオパチー等)、先天性ミオパチー(例:ネマリンミオパチー、セントラルコア病等)、糖原病、周期性四肢麻痺、ミトコンドリアミオパチーなどが挙げられる。例えば、後述の実施例で使用したエクソン44を欠失したDMD患者やエクソン46及び47を欠失したDMD患者由来のiPS細胞(上記非特許文献1を参照)等が好ましく用いられる。
筋ジストロフィーは、ジストロフィンタンパク質の欠損又は変異と関連する病態である。三好型ミオパチーは、ジスフェリンの変異と関連する病態であり、GNEミオパチーは、GNE(UDP-N-acetylglucosamine 2-epimerase/N-acetylmannosamine kinase)の変異と関連する病態である。また、セントラルコア病は、リアノジン受容体(RYR1)の変異と、糖原病は、グリコーゲン代謝酵素の変異と関連する病態である。従って、これらの原因遺伝子変異を、ゲノム編集等の自体公知の遺伝子改変技術により、正常な多能性幹細胞に導入することにより、ミオパチー特異的多能性幹細胞を作製することができる。例えば、CRISPR/Cas9を用いてDMD遺伝子のエクソン44を欠失させたiPS細胞(上記非特許文献3を参照)等が好ましく用いられる。
(B)多能性幹細胞から骨格筋細胞への分化誘導法
本発明の製法において用いられる骨格筋細胞は、上記(A)の多能性幹細胞から自体公知の分化誘導法を用いて取得することができる。例えば、上記特許文献1及び2、非特許文献1~3に記載される、骨格筋分化に重要な転写因子(MyoD及び/又はMyf5)を外因的に発現させる方法、低分子や増殖因子を組み合わせた方法(例えば、Hicks et al., (2018) Nat. Cell Biol, 20: 46-57、Shelton et al., (2014) Stem Cell Reports, 3: 516-529、Zhao et al., Stem Cell Reports, (2020) 15: 80-94、Nalbandian et al., Stem Cell Reports, (2021) 16: 883-898等を参照)などが挙げられるが、それらに限定されない。好ましくは、例えば、上記特許文献2及び非特許文献3に記載の方法を用いることができる。当該方法につき、以下に具体的に説明する。
即ち、好ましい一実施態様において、本発明の製法に用いられる骨格筋細胞は、
(i)MyoD及びMyf5から選ばれる1以上の外因性因子(以下、「骨格筋細胞誘導因子」ともいう)を発現させる条件で細胞を培養する工程、
(ii)工程(i)で得られた又は培養された細胞を、該外因性因子を発現させない条件で培養する工程、並びに
(iii)工程(ii)で得られた又は培養された細胞を、1以上の骨格筋細胞誘導因子を発現させる条件で培養する工程を実施することにより提供され得る。当該方法はさらに、
(iv)工程(iii)で得られた細胞を、該外因性因子を発現させない条件で培養する工程を含んでいてもよい。
上記方法により提供される骨格筋細胞集団は、複数の核を有する細胞、特に3つ以上の核を持つ細胞数の割合が顕著に高いことが示されている。また、当該方法により提供される骨格筋細胞は、骨格筋細胞の成熟度の指標となる骨格筋マーカー(例:MYOD、MYH3、MYH8、MYH1、MYH2、MYH7)の発現が認められ、前記骨格筋細胞は、長期間の培養(少なくとも2週間以上)が可能である。
本明細書において、「骨格筋細胞を製造する」とは、少なくとも骨格筋細胞を含有する細胞集団を得ることを意味する。好ましくは、骨格筋細胞を50%以上(例:50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上)含有する細胞集団を得ることである。また本明細書において、「骨格筋細胞」とは、ミオゲニン及び/又はミオシン重鎖(MHC)を発現している細胞を意味し、多核細胞であっても単核細胞であってもよい。
上述の通り、骨格筋細胞誘導因子としてMyoDを用いると、長期培養が可能な、成熟度が高い骨格筋細胞を製造することが可能である。従って、骨格筋細胞誘導因子として、MyoDを用いることが好ましい。また、特許文献1に記載されているように、MyoDの代わりにMyf5を用いた場合でも、多能性幹細胞から骨格筋細胞を効率良く製造できること、MyoDを用いた場合と同様に、内在性のMyoDやミオゲニンの発現が誘導されることを本発明者らは以前報告している。そのため、骨格筋細胞誘導因子としてMyf5を用いた場合も、MyoDを用いた場合と同様に、長期培養が可能な、成熟度が高い骨格筋細胞を製造し得る。
骨格筋細胞誘導因子は、1種のみを用いてもよく、複数種類用いてもよい。また、工程(i)で発現させる骨格筋細胞誘導因子と、工程(iii)で発現させる骨格筋細胞誘導因子とは、異なるものであってもよいが、同一のものであることが好ましい。
骨格筋細胞誘導因子としては、例えば、任意の哺乳動物(例:ヒト、マウス、ラット、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ等)由来のMyoD若しくはMyf5タンパク質又はそれをコードする核酸等を用いることができるが、好ましくはヒトである。対象となる多能性幹細胞の由来と同一種のものが好ましい。
本発明で用いるMyoDとしては、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるヒトmyogenic differentiation 1(MyoD1)(NCBIにアクセッション番号:NP_002469として登録されている)、及び他の哺乳動物におけるそのオルソログ、並びにそれらの転写変異体、スプライシング変異体などが挙げられる。或いは、上記いずれかのタンパク質と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上のアミノ酸同一性を有し、且つ該タンパク質と同等の機能(例、筋特異的プロモーターの転写活性化など)を有するタンパク質であってもよい。ここでアミノ酸配列の同一性はNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)のblastpプログラムを用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。
本発明で用いるMyf5としては、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるヒトmyogenic factor 5(MYF5)(NCBIにアクセッション番号:NP_005584として登録されている)、及び他の哺乳動物におけるそのオルソログ、並びにそれらの転写変異体、スプライシング変異体などが挙げられる。或いは、上記のタンパク質と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上のアミノ酸同一性を有し、且つ該タンパク質と同等の機能(例、筋特異的プロモーターの転写活性化など)を有するタンパク質であってもよい。ここでアミノ酸配列の同一性は上記と同様にして計算することができる。
骨格筋細胞誘導因子は、該因子をコードする核酸として細胞に導入することができる。MyoDをコードする核酸としては、配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなるヒトmyogenic differentiation 1(MyoD1)cDNA(NCBIにアクセッション番号:NP_002478として登録されている)、及び他の哺乳動物におけるそのオルソログ、並びにそれらの転写変異体、スプライシング変異体などが挙げられる。或いは、上記いずれかの核酸と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上のヌクレオチド同一性を有し、且つ該核酸にコードされるタンパク質と同等の機能(例、筋特異的プロモーターの転写活性化など)を有するタンパク質をコードする核酸であってもよい。ここでヌクレオチド配列の同一性はNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)のblastnプログラムを用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。或いは、上記いずれかの核酸の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有する正鎖を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel(1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA)に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に限定されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度の洗浄条件、さらに厳しくは「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件で洗浄しても正鎖と相補鎖とがハイブリダイズ状態を維持する条件を挙げることができる。
Myf5をコードする核酸としては、配列番号3で表されるヌクレオチド配列からなるヒトmyogenic factor 5(Myf5)cDNA(NCBIにアクセッション番号:NM_005593として登録されている)、及び他の哺乳動物におけるそのオルソログ、並びにそれらの転写変異体、スプライシング変異体などが挙げられる。或いは、上記いずれかの核酸と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上のヌクレオチド同一性を有し、且つ該核酸にコードされるタンパク質と同等の機能(例、筋特異的プロモーターの転写活性化など)を有するタンパク質をコードする核酸であってもよい。ここでヌクレオチド配列の同一性は上記と同様にして計算することができる。或いは、上記いずれかの核酸の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有する正鎖を有するものであってもよい。ここでストリンジェントな条件は上記と同義である。
MyoD若しくはMyf5をコードする核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、或いはDNA/RNAキメラであってもよい。また、該核酸は、一本鎖であっても、二本鎖DNA、二本鎖RNA若しくはDNA:RNAハイブリッドであってもよい。好ましくは二本鎖DNA若しくは一本鎖RNAである。一本鎖RNAを用いる場合、分解を抑制するため、5-メチルシチジン及びシュードウリジン(pseudouridine)(TriLink Biotechnologies)を取り込ませたRNAを用いてもよく、フォスファターゼ処理による修飾RNAを用いてもよい。
MyoD及びMyf5並びにそれらをコードするDNAは、例えば、上記ヒトMyoD1及びヒトMyf5のcDNA配列情報に基づいて容易に各タンパク質をコードするDNAを単離することができ、或いは化学的に合成することもできる。MyoD又はMyf5をコードするRNAは、例えば、それぞれのタンパク質をコードするDNAを含むベクターを鋳型として、自体公知のin vitro転写系にてmRNAに転写することにより調製することができる。
骨格筋細胞誘導因子がDNAの形態の場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクターをリポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、ヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが例示される。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドが例示される。ベクターには、MyoD又はMyf5をコードするDNAが発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、蛍光タンパク質、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。プロモーターとして、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(cytomegalovirus)プロモーター、RSV(Rous sarcoma virus)プロモーター、MoMuLV(Moloney mouse leukemia virus)LTR、HSV-TK(herpes simplex virus thymidine kinase)プロモーター、EF-αプロモーター、CAGプロモーター及びTREプロモーター(tetO配列が7回連続したTet応答配列をもつCMV最小プロモーター)が例示される。TREプロモーターを用いた場合、同一の細胞において、tetR及びVP16ADとの融合タンパク質又はリバース(reverse)tetR(rtetR)及びVP16ADとの融合タンパク質を同時に発現させることが望ましい。
また、上記ベクターには、プロモーターとそれに結合するMyoD又はMyf5をコードするDNAからなる発現カセットを、細胞の染色体へ取り込み、さらに必要に応じて切除するために、この発現カセットの前後にトランスポゾン配列を有していてもよい。トランスポゾン配列として特に限定されないが、piggyBacが例示される。他の態様として、発現カセットを除去する目的のため、発現カセットの前後にLoxP配列又はFRT配列を有してもよい。
別の好ましい非組込み型ベクターとして、染色体外で自律複製可能なエピソーマルベクターが挙げられる。エピソーマルベクターを用いる具体的手段は、Yu et al., Science, (2009) 324: 797-801に開示されている。必要に応じて、エピソーマルベクターの複製に必要なベクター要素の5’側及び3’側に、loxP配列を同方向に配置したエピソーマルベクターに、骨格筋細胞誘導因子をコードする核酸を挿入した発現ベクターを構築し、これを体細胞に導入することもできる。上記エピソーマルベクターとしては、例えば、EBV、SV40等に由来する自律複製に必要な配列をベクター要素として含むベクターが挙げられる。自律複製に必要なベクター要素としては、具体的には、複製開始点と、複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子であり、例えば、EBVにあっては複製開始点oriPとEBNA-1遺伝子、SV40にあっては複製開始点oriとSV40 large T antigen遺伝子が挙げられる。
本明細書において、TREプロモーターを有しリバースtetR(rtetR)及びVP16ADとの融合タンパク質、又はTREプロモーターを有しtetR及びVP16ADとの融合タンパク質を発現させることが可能なベクターを、薬剤応答性誘導ベクターと称する。上記ベクターにおいて、発現誘導に用いる薬剤(「ベクターと対応する薬剤」ともいう)としては、例えば、ドキシサイクリン(Dox)、テトラサイクリン又はそれらの誘導体(「Dox等」と略記する)が挙げられる。また、メタロチオネインプロモーターを含有するベクター(ベクターと対応する薬剤:重金属イオン)、ステロイド応答性プロモーターを含有するベクター(ベクターと対応する薬剤:ステロイドホルモン又はその誘導体)も、薬剤応答性誘導ベクターに包含されるものとする。さらに、光応答性プロモーター(光で誘導)、ヒートショックタンパク質プロモーター(ヒートショックで誘導)を含有するベクターなどの、刺激によりプロモーターに連結した核酸の発現が誘導されるベクターを用いてもよく、これらと薬剤応答性誘導ベクターをまとめて、誘導ベクターと称する。本発明の好ましい態様において、工程(i)及び(iii)は、骨格筋細胞誘導因子をコードする核酸を含む誘導ベクター、好ましくは薬剤応答性誘導ベクターを導入した細胞を、該ベクターと対応する薬剤又は刺激の存在下で培養することにより行う。
骨格筋細胞誘導因子がRNAの形態の場合、例えばエレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって細胞内に導入してもよい。
本発明において、工程(i)の前に、多能性幹細胞を、胚様体を形成させず、特定の細胞種への誘導条件ではない接着培養条件下で培養(以下、「前培養」ともいう)することが好ましい。この培養方法として、例えば、マトリゲル(BD)、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、又はエンタクチン、及びこれらの組み合わせ(「マトリゲル等」ともいう)を用いてコーティング処理された培養皿へ接着させ、動物細胞の培養に用いられる培地を基本培地として、細胞を培養する方法が挙げられる。この時、bFGFを含有する培地を用いてもよいが、bFGFを含有していない培地であることが望ましい。bFGFを含有する培地を用いる場合であっても、前培養の途中でbFGFを含有していない培地に交換することが望ましい。ここで、基本培地としては、例えば、StemFit(例:StemFit AK03N、StemFit AK02N)(味の素社)、PECM(Primate ES Cell Medium)、GMEM(グラスゴー最小必須培地:Glasgow Minimum Essential Medium)、IMDM(イスコフ改変ダルベッコ培地:Iscove's Modified Dulbecco's Medium)、199培地、イーグル最小必須培地(Eagle’s Minimum Essential Medium)(EMEM)、αMEM、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle’s Medium)(DMEM)、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、フィッシャー培地(Fischer’s medium)、及びこれらの混合培地などが包含される。
基本培地には、ROCK阻害剤(例:Y-27632、Fasudil/HA1077、SR3677、GSK269962、H-1152、Wf-536等)、血清(例:ウシ胎仔血清(FBS)、ヒト血清、ウマ血清等)若しくは血清代替物、インスリン、各種ビタミン、L-グルタミン、非必須アミノ酸等の各種アミノ酸、2-メルカプトエタノール、各種サイトカイン(インターロイキン類(IL-2、IL-7、IL-15等)、幹細胞因子(SCF (Stem cell factor))、アクチビンなど)、各種ホルモン、各種増殖因子(白血病抑制因子(LIF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、TGF-β等)、各種細胞外マトリックス、各種細胞接着分子、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン等の抗生物質、フェノールレッド等のpH指示薬などを適宜添加することができる。血清代替物として、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、Knockout Serum Replacement(KSR)、ITS-サプリメント及びこれらの混合物などが包含される。
好ましい前培養条件は、マトリゲルでコーティングされた培養皿に接着させた多能性幹細胞を、ROCK阻害剤を含有するStemFit中で培養した後に、ROCK阻害剤を含有するPECMに培地を交換して培養する条件である。
上記前培養を行う場合の期間としては、1日間~3日間以下行うことが好ましく、2日間行うことがより好ましい。培養温度は、特に限定されないが、約30~約40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の存在下で培養が行われ、CO2濃度は、好ましくは約2~5%である。
本明細書において、「骨格筋細胞誘導因子を発現させる」とは、特にことわらない限り、少なくとも骨格筋細胞誘導因子(タンパク質)を産生させることを含む意味で用いられるが、好ましくは、さらに骨格筋細胞誘導因子(mRNA)を産生させることをも含む意味で用いられる。本明細書において、「骨格筋細胞誘導因子を発現させる条件」とは、骨格筋細胞誘導因子の発現を誘導する、下記に記載の物質の存在下で継続して細胞を培養すること、或いは骨格筋細胞誘導因子の発現誘導を阻害する物質の非存在下で継続して培養することで、骨格筋細胞誘導因子の発現が維持される条件を意味する。また、本明細書において、「骨格筋細胞誘導因子を発現させない条件」とは、上記の骨格筋細胞誘導因子の発現を誘導する物質の非存在下で継続して細胞を培養すること、或いは骨格筋細胞誘導因子の発現を阻害する物質の存在下で継続して細胞を培養することで、骨格筋細胞誘導因子の発現が停止される条件を意味し、mRNAレベル及びタンパク質レベルで完全に骨格筋細胞誘導因子の発現が認められない条件のみを意味するものではない。
骨格筋細胞誘導因子の発現を維持する方法としては、特に限定されないが、骨格筋細胞誘導因子がRNAの場合、所望の期間において、該RNAの導入を複数回行うことで実施可能であり、一方で、該RNAを含まない培地に培地交換することで、該骨格筋細胞誘導因子の発現を停止することができる。骨格筋細胞誘導因子がDNAの場合、例えば、薬剤応答性誘導ベクターを用いて、所望の期間Dox等を含む培地で細胞を培養する(Tet-onシステムの場合)、或いはDox等を含まない培地で細胞を培養する(Tet-offシステムの場合)ことで、該骨格筋細胞誘導因子の発現を維持することができ、一方で、Dox等を含まない培地(Tet-onシステムの場合)、或いはDox等を含む培地(Tet-offシステムの場合)に培地交換することで、発現を停止することができる。その他の誘導ベクターを用いた場合も、同様に発現を維持又は停止することができる。或いは、トランスポゾン配列を有するベクター又はLoxP配列若しくはFRT配列を有するベクターを用いる場合には、該ベクターを導入した細胞を所望の期間培養することで骨格筋細胞誘導因子の発現を維持することができ、一方で、所望の期間経過後、トランスポゼース又はCre若しくはFlpを細胞内に導入することで、発現を停止することができる。
工程(i)の培養期間は特に限定されないが、3日間以下であることが好ましく、また、1日間以上であることが好ましい。好ましい実施態様において、工程(i)の期間は2日間である。また、工程(iii)の培養期間も特に限定されないが、Myotubeが形成されるまで骨格筋細胞誘導因子の発現を維持することが好ましく、具体的な日数の目安としては、2日間以上、10日間以下(例:10日間、9日間、8日間、7日間、6日間、5日間又はそれ以下)が挙げられる。4日間骨格筋細胞誘導因子の発現を維持することで明確なMyotubeの形成が認められるので、好ましい目安として4日間が挙げられる。Myotubeの形成は、電子顕微鏡により確認することができる。薬剤応答性誘導ベクターを用いる場合、工程(i)又は(iii)の培地中におけるベクターと対応する薬剤の濃度は、細胞において骨格筋細胞誘導因子が発現される限り特に限定されない。例えば、Doxを用いる場合には、0.4μg/mL~1.5μg/mL程度が好ましく、Dox以外を用いる場合も、当業者であれば適宜濃度を設定することができる。
工程(ii)の培養期間は特に限定されないが、8日間以下(例:8日間、7日間、6日間、5日間、4日間又はそれ以下)であることが好ましく、また、1日間以上であることが好ましい。好ましい実施態様において、工程(ii)の期間は2日間である。また、工程(iv)の培養期間も特に限定されないが、典型的には、2日間~7日間程度であるが、これを超えて培養してもよい。
工程(i)~(iv)の培養における、基本培地や、ROCK阻害剤、血清、血清代替物などの各添加物については、上記前培養に記載のものと同様のものを用いることができる。培養条件(温度、CO2濃度)についても、上記前培養に記載のものと同様の条件が挙げられる。例えば、工程(ii)の培地には、ROCK阻害剤を含んでいてもよいが、含んでいないことが好ましい。ROCK阻害剤を含む場合、培地におけるその濃度は、10μM未満(例:9μM、5μM、4μM、3μM、2μM、1μM又はそれ未満)であることが好ましく、より好ましくは0.3μM以下(例:0.3μM、0.2μM、0.1μM又はそれ以下)である。工程(ii)以降の培養は、KSRを含まない培地で行うことが好ましい。下述の実施例で示す通り、ROCK阻害剤の濃度を減らすことで、未分化多能性幹細胞の混入を減らすことが可能となる。また、工程(ii)以降の培養は、5%(v/v)未満(例:4%、3%、2%、1%又はそれ未満)のウマ血清を含む培地で行うことが好ましく、より好ましくは2%(v/v)のウマ血清を含む培地で行なうことが好ましい。具体的な基本培地としては、例えば、工程(i)はPECM、工程(ii)以降はαMEMが挙げられる。また、工程(ii)以降の培養は低酸素条件下で行うことが好ましい。低酸素条件としては、例えば1~10%、好ましくは2~5%を挙げることができる。
骨格筋細胞への誘導効率の均一性及び細胞生存率の向上の観点から、工程(ii)の開始前後に、工程(i)で培養した細胞を一度はがし、別の培養皿やプレート(例:96ウェルプレート、384ウェルプレート)に撒き直すこと(以下、「再播種(Replating)」ともいう)を行うことが好ましい。前記培養皿やプレートは、マトリゲル等でコーティングされていることが好ましい。再播種の具体的な方法や、培養皿等のコーティング方法は、非特許文献2を適宜参酌することができる。好ましい実施態様において、上記コーティングは、αMEMで100倍に希釈したマトリゲル(BD社)を、前記培養皿やプレート上に加え、4℃で24時間以上インキュベートすることにより行う。
(C)骨格筋細胞の成熟化方法
工程(iii)により得られた細胞に対して、電気刺激又は光遺伝学的刺激を与えることで、ダイナミックかつ広い面積で収縮活動を示し、また収縮速度及び収縮距離も増加した骨格筋細胞を作製することができる。また、明確なサルコメア構造も認められる。さらに、刺激を与えない場合に加えてさらに長期間培養可能である。このように、電気刺激又は光遺伝学的刺激を与えることで、より成熟した、さらに長期間培養可能な骨格筋細胞を製造することが可能である。従って、本発明の製法に用いる骨格筋細胞は、工程(i)~工程(iv)のいずれかの段階で得られる細胞に対して、電気刺激又は光遺伝学的刺激を与える工程をさらに含むことにより提供されるのが好ましい。別の態様においては、工程(i)~(iv)のいずれかの段階で得られる骨格筋細胞(骨格筋前駆細胞を含む)に対し、電気刺激又は光遺伝学的刺激を与える工程を含む。
本明細書において、「骨格筋細胞の成熟化」とは、長期間細胞を分化培養する事により、該細胞の(1)骨格筋成熟化マーカー(速筋マーカー(例:MYH1、2)、遅筋マーカー(例:MYH7))、未成熟な骨格筋細胞で発現するマーカー(胎児(仔)マーカー(例:MYH3)、幼児(仔)マーカー(例:MYH8))、骨格筋マーカー(MyoD、CKM、MHC、Myogenin)の発現が増幅する、(2)サルコメア構造が電子顕微鏡解析で確認出来る、(3)外部からの刺激(例、電気刺激、光遺伝学的刺激)に応答して収縮活動が認められる、等のいずれかを満たす事を意味する。これらの指標は自体公知の方法により確認できる。また、本明細書において、「長期培養」とは、2週間以上細胞形態に弱体化等での変化が無く、上記骨格筋マーカーの発現の著しい減少が見られない条件で培養可能であることを意味する。これらの指標も自体公知の方法により確認できる。本明細書において、「骨格筋成熟化マーカー」は、非特許文献2に記載の方法により作製した骨格筋細胞では発現が見られないマーカーを意味し、一方で「未成熟な骨格筋細胞で発現するマーカー」は、非特許文献2に記載の方法により作製した骨格筋細胞でも見られるマーカーを意味する。また、「骨格筋マーカー」は、非特許文献2に記載の方法により作製した骨格筋細胞では、培養を続けることで発現量が低下するマーカーを意味する。
電気刺激又は光遺伝学的刺激工程は、工程(i)~工程(iv)のいずれかの段階で得られる細胞に対して行うことができるが、工程(ii)の前後(即ち、再播種するタイミング)から、工程(iii)の終了までの間の段階の細胞に対して刺激を開始することが好ましい。具体的には、刺激工程の開始日としては、例えば、多能性幹細胞の培養開始から4日目以降(例:4日目、5日目、6日目又はそれ以降)が挙げられ、典型的には4日目~14日目であり、好ましくは5日目~12日目であり、より好ましくは6日目~10日目である。刺激工程において、刺激条件を段階的に変化させることができる。例えば、電気刺激の場合、一定の電気刺激を与えてもよいが、段階的に電気刺激の電圧を上げることが好ましい。
電気刺激の条件は、細胞死や培地の電気分解による毒性を引き起こさない限り特に限定されないが、電圧は、例えば、0.5V以上(例:0.5V、1V、1.5V、1.6V、1.7V、1.8V、1.9V、2V又はそれ以上)であることが好ましく、また、20V以下(例:20V、15V、14V、13V、12V、11V、10V又はそれ以下)であることが好ましい。段階的に電圧を上げる場合には、前記の範囲内、例えば、0.5V~20Vの範囲内で、好ましくは2V~10Vの範囲内で段階的に上げる(例えば、2V→5V→10Vと段階的に上げる)ことが望ましい。周波数は、例えば、0.1Hz以上(例:0.1、0.2、0.3、0.4又はそれ以上)であることが好ましく、また、1Hz以下(例:1Hz、0.9Hz、0.8Hz、0.7Hz、0.6Hz、0.5Hz又はそれ以下)であることが好ましいが、好適な実施態様において、周波数は0.5~1Hzである。電気刺激は、間隔を開けて(例えば、1~10分間)与えてもよいし、連続して与えてもよいが、連続して与えることが好ましい。細胞に電気刺激を与える期間は、5日以上(例:Day10から連続して5日以上)が好ましく、1度細胞に収縮活動が確認できたら、収縮活動が確認できるレベルの大きさで(例:10V、5V、2V)、絶えず電気刺激を与え続けることが好ましい。具体的には、電気刺激工程の開始日としては、例えば、多能性幹細胞の培養開始から4日目以降(例:4日目、5日目、6日目又はそれ以降)が挙げられ、典型的には4日目~18日目であり、好ましくは5日目~14日目であり、より好ましくは6日目~10日目である。細胞に電気刺激を与えて培養を行う期間としては、例えば、10日間以上(例:10日間、15日間、20日間、25日間、26日間又はそれ以上)が挙げられ、典型的には10日間~40日間であり、好ましくは20日間~35日間であり、より好ましくは26日間~30日間である。
本明細書において「光遺伝学的刺激」とは、細胞内で強制発現させた光活性化タンパク質を活性化波長の光を照射して活性化させ、形質膜の脱分極を生じさせることである。脱分極が起こるとそれに引き続いて骨格筋細胞の収縮が起こる。
光活性化タンパク質としては、光刺激に応答して形質膜の脱分極を引き起こすものであれば特に制限はないが、好ましくはチャネルロドプシン2(chR2)又はその改変体を挙げることができる。chR2としては、例えば、緑藻類クラミドモナス由来のタンパク質で470nmの青色光によって最も強く活性化するものが挙げられる。本発明で用いるchR2としては、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるChlamydomonas reinhardtii由来chR2(NCBIにアクセッション番号:XP_001701725として登録されている)、及び他の微生物におけるそのオルソログ、並びにそれらの改変体などが挙げられる。当該オルソログとしては、例えばボルボックスチャネルロドプシン1(VChR1)等が挙げられる。また、当該改変体としては、chR2のH134R変異体、E123T変異体(ChETA)、L132C変異体(CatCh)、L322C/T159C変異体(CatCh+)、C128A変異体、C128S変異体、D156変異体、chR1とのキメラタンパク質(ChIEP、ChRGR等)が挙げられるが、それらに限定されない。或いは、上記いずれかのタンパク質と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上のアミノ酸同一性を有し、且つ該タンパク質と同等の機能を有するタンパク質であってもよい。
光活性化タンパク質は、それをコードする核酸として細胞に導入することができる。chR2をコードする核酸としては、配列番号5で表されるヌクレオチド配列からなるChlamydomonas reinhardtii由来chR2(NCBIにアクセッション番号:XM_001701673として登録されている)、及び他の微生物におけるそのオルソログ、並びにそれらの改変体などが挙げられる。或いは、上記いずれかの核酸と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上のヌクレオチド同一性を有し、且つ該核酸にコードされるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードする核酸であってもよい。
光活性化タンパク質をコードする核酸は、上記骨格筋細胞誘導因子をコードする核酸と同様の方法で多能性幹細胞に導入することができる。
光刺激は、導入した光活性化タンパク質の種類に応じて、活性化波長の光を光源装置から照射することにより行うことができる。例えば、Chlamydomonas reinhardtii由来chR2の場合、470nmの青色光を5~10mV/mm2の強度で1回 0.4~ 16m秒間、0.4~100Hzの頻度で、電気刺激と同様の期間、継続的に照射することができる。
刺激工程を行う場合、プラスチック上に蒔かれた細胞では、接地面が硬く刺激に耐えられない、或いは細胞の収縮活動が困難であることが予期されるため、細胞をハイドロゲル上に播種することが好ましい。本発明に用いるハイドロゲルとしては、例えば、ゼラチンハイドロゲル、コラーゲンハイドロゲル、デンプンハイドロゲル、ペクチンハイドロゲル、ヒアルロン酸ハイドロゲル、キチンハイドロゲル、キトサンハイドロゲル又はアルギン酸ハイドロゲルなどを挙げることができる。中でも、コラーゲンハイドロゲル又はゼラチンハイドロゲルが好ましい。ハイドロゲルのゲル硬度(弾力係数)としては、10kPa以上(例:10kPa、11kPa、12kPa、13kPa、14kPa、15kPa又はそれ以上)であることが好ましく、25kPa以下(例:25kPa、20kPa、19kPa、18kPa、17kPa、16kPa、15kPa又はそれ以下)であることが好ましく、好適な実施態様において、12kPaである。細胞をハイドロゲル上に播種するタイミングは、特に限定されないが、電気刺激を与える前にハイドロゲル上に播種することが好ましく、再播種するタイミングでハイドロゲル上に播種することがより好ましい。
このようにして得られた骨格筋細胞は、単離又は精製して用いてもよい。単離又は精製の方法は、当業者に周知の方法を適宜用いることができ、例えば、指標とする分子に対する抗体により標識し、フローサイトメトリーやマスサイトメトリーを用いた方法、磁気細胞分離法、又は所望の抗原を固定化したアフィニティカラム等を用いて精製する方法が挙げられる。
(D)強縮刺激による筋疲労/筋損傷の病態の発現方法
本発明の製法は、上記のようにして提供された骨格筋細胞を、強縮を生じさせる条件で電気的又は光遺伝学的に刺激することにより、筋疲労又は筋損傷の病態を発現させる工程を含む。「強縮」とは、反復刺激により単収縮が連続して発生する現象をいう。前の単収縮が終わらない間に次の刺激が加えられると2つの単収縮が重なり、単収縮よりも張力が強くなる(収縮の加重)。刺激と刺激の間に弛緩が生じないものを完全強縮、不完全ではあるが弛緩が生じるものを不完全強縮といい、本明細書においては両方を包含する意味で用いるが、好ましくは、骨格筋細胞は、完全強縮を生じさせる条件で刺激される。
電気刺激を用いる場合、その条件は、骨格筋細胞に強縮を生じさせ得る限り特に制限はない。例えば、電圧、周波数、パルス幅、刺激持続時間、刺激間の間隔、合計の刺激時間(刺激休止期を含む)等を適宜選択することにより、好ましい強縮刺激を与えることができる。
電圧は、例えば、10V以上(例:10V、11V、12V、13V、14V、15V、16V、17V、18V、19V、20V又はそれ以上)であることが好ましく、また、40V以下(例:40V、35V、30V、29V、28V、27V、26V、25V又はそれ以下)であることが好ましい。より好ましくは10~40V、10~35V、10~30V等の範囲を挙げることができる。
周波数は、例えば、10Hz以上(例:10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20Hz又はそれ以上)であることが好ましく、また、200Hz以下(例:200、150、140、130、120、110、100、90、80、70、60、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50Hz又はそれ以下)であることが好ましい。より好ましくは、15~100Hz、20~100Hz、20~50Hz等の範囲を挙げることができる。
パルス幅は、0.4msec以上(例:0.4、0.5、0.6、1、1.5、2、2.5、3.5msec又はそれ以上)であることが好ましく、また、16msec以下(例:16、15、14、10、9、8、7.5、7、6.5、6、5.5、5msec又はそれ以下)であることが好ましい。より好ましくは、1~10msec、2~10msec、2~5msec等の範囲を挙げることができる。
強縮刺激をどの程度与えるかについても、骨格筋細胞に筋疲労又は筋損傷の病態を発現させ得る限り特に制限はないが、例えば、1~10秒間の電気刺激を、1~10秒間隔で計4~300秒間与えることができる。
電気刺激により骨格筋細胞が筋疲労もしくは筋損傷いずれの病態を発現するかは、上記の種々の刺激条件によって変化するが、電圧条件の影響が大きいと考えられる。一般的には、低電圧で筋疲労、高電圧で筋損傷の病態を発現し得ると考えられ、例えば、筋疲労を誘発する条件として10~20V、筋損傷を誘発する条件として15~40Vを挙げることができるが、この限りではなく、用いる骨格筋細胞によっても変動する。
光遺伝学的刺激を用いる場合も、その条件は、骨格筋細胞に強縮を生じさせ得る限り特に制限はない。用いる光活性化タンパク質の種類に応じて、照射光の波長、1回の照射持続時間、照射頻度を適宜選択することにより、好ましい強縮刺激を与えることができる。
例えば、光活性化タンパク質としてChlamydomonas reinhardtii由来chR2を用いる場合、470nmの青色光を5~10mV/mm2の強度で1回0.4~16m秒間、0.4~100Hzの頻度の条件で照射することができる。
2.本発明の細胞モデル
本発明はまた、本発明の製法により得られる筋疲労又は筋損傷の細胞モデル(以下、「本発明の細胞モデル」ともいう)を提供する。本発明の細胞モデルは、骨格筋細胞に上記の強縮刺激を与えることにより、筋疲労モデルにおいては、時間とともに収縮能力の低下を示し、筋損傷モデルにおいては、収縮能力の著明な低下とクレアチンキナーゼの漏出を示す。従って、強縮刺激により得られる表現型が筋疲労モデルであるか筋損傷モデルであるかは、例えば、培地中のクレアチンキナーゼを常法により測定することによって確認することができる。
3.筋疲労/筋損傷を改善し得る物質(ミオパチー治療又は予防薬)のスクリーニング方法
本発明は、筋疲労及び/又は筋損傷を改善し得る物質、従って、ミオパチーの治療又は予防薬として有用な候補物質をスクリーニングする方法(以下、「本発明のスクリーニング方法」ともいう)を提供する。当該方法は、以下の工程:
(1)ミオパチーの哺乳動物由来であるかミオパチーの原因遺伝子変異を有する多能性幹細胞から分化させた骨格筋細胞を提供する工程;
(2)該骨格筋細胞を、被検物質の存在下、強縮を生じさせる条件で電気的又は光遺伝学的に刺激する工程;及び
(3)被検物質の非存在下と比較して、該骨格筋細胞の収縮能力の低下を改善、及び/又は該骨格筋細胞からのクレアチンキナーゼの漏出を抑制した被検物質を、筋疲労又は筋損傷の病態を改善し得る物質の候補として選択する工程
を含む。
工程(1)は、上記「1.筋疲労又は筋損傷の細胞モデルの製造方法」における工程(1)と同様である。
工程(2)は、被検物質の存在下で、上記「1.筋疲労又は筋損傷の細胞モデルの製造方法」における工程(2)を実施することにより行われる。被験物質は、骨格筋細胞の培地に添加することにより、該骨格筋細胞と接触させることができる。
工程(3)における評価は、常法により、該骨格筋細胞における収縮速度を測定する、及び/又は骨格筋細胞の培地中のクレアチンキナーゼを測定することにより行うことができる。被検物質を添加しない条件下と比較して、被検物質の存在下で収縮速度の低下が有意に改善された場合、該被検物質を筋疲労の病態を改善し得る物質(ミオパチーの治療又は予防薬の候補物質)として選択することができる。また、被検物質を添加しない条件下と比較して、被検物質の存在下でクレアチンキナーゼの培地への漏出が有意に低減された場合、該被検物質を筋損傷の病態を改善し得る物質(ミオパチーの治療又は予防薬の候補物質)として選択することができる。
上記ミオパチーとしては、例えば、筋ジストロフィー(例:デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、眼筋咽頭型筋ジストロフィー、エメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー等)、遠位型ミオパチー(例:三好型ミオパチー、GNEミオパチー、眼咽頭型遠位型ミオパチー等)、先天性ミオパチー(例:ネマリンミオパチー、セントラルコア病等)、糖原病、周期性四肢麻痺、ミトコンドリアミオパチーなどが挙げられる。
被検物質としては、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、海洋生物由来の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質又は粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、及び天然化合物が挙げられる。
被検物質はまた、(1)生物学的ライブラリー、(2)デコンヴォルーションを用いる合成ライブラリー法、(3)「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、及び(4)アフィニティクロマトグラフィー選別を使用する合成ライブラリー法を含む当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多くのアプローチのいずれかを使用して得ることができる。アフィニティクロマトグラフィー選別を使用する生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、その他の4つのアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマー、又は化合物の低分子化合物ライブラリーに適用できる(Lam(1997)Anticancer Drug Des. 12:145-67)。分子ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において見出され得る(DeWitt et al.(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909-13; Erb et al.(1994)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422-6; Zuckermann et al.(1994)J. Med. Chem. 37:2678-85; Cho et al.(1993)Science 261:1303-5; Carell et al.(1994)Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059; Carell et al.(1994)Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061; Gallop et al.(1994)J. Med. Chem. 37:1233-51)。化合物ライブラリーは、溶液(Houghten(1992)Bio/Techniques 13:412-21を参照のこと)又はビーズ(Lam(1991)Nature 354:82-4)、チップ(Fodor(1993)Nature 364:555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、及び同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al.(1992)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:1865-9)若しくはファージ(Scott and Smith(1990)Science 249:386-90; Devlin(1990)Science 249:404-6; Cwirla et al.(1990)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6378-82; Felici(1991)J. Mol. Biol. 222:301-10; 米国特許出願公開第2002/103360号)として作製され得る。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって本発明はこれらに限定されない。
<方法>
1.ヒトiPS細胞の培養
DMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)iPS細胞株(クローンID:CiRA00499、以下「DMDΔ46-47」と記載する;上記非特許文献1参照)は、ジストロフィン遺伝子のエクソン46および47が欠失したDMD患者の皮膚線維芽細胞から、エピゾーマルベクターシステム(Okita et al., (2012) Stem Cells,31:458-466)によって樹立された。Isogenicなコントロールとして、CRISPR/Cas9技術を用いてDMDΔ46-47にエクソン46および47をノックインした細胞株(以下「DMDΔ46-47-ctrl」と記載する;上記非特許文献3参照)を用いた。ヒトiPS細胞の維持培養は、フィーダーフリーの状態で実施した。維持培地はStemFit(味の素社)500mLに50mU/Lペニシリン・50μg/Lストレプトマイシン(Invitrogen社)を加えたものを用いた。Tetベクター(後述)およびChR2ベクター(後述)導入後のヒトiPS細胞の維持培養には、さらに100μg/mLのピューロマイシンとブラストサイジン(Invitrogen社)を添加した培地を使用した。細胞継代は細胞コロニーが80~90%コンフルエントになった時点で行った。細胞解離液Accutase(フナコシ社)で細胞を剥がし、その後スクレイパーで細胞を回収し、新しくラミニンコート(ニッピ社)されたプレートにROCK阻害薬Y-27632(ナカライテスク社)(以下、[ROCK阻害薬Y]と記す)添加培地で播種し、37℃、5% CO2、100%湿度環境のインキュベータで培養した。
2.テトラサイクリン応答性遺伝子強制発現ベクター(Tetベクター)の作製
テトラサイクリン応答性遺伝子強制発現piggyBacベクターは、Woltjenら(Woltjen K. et al., (2009) Nature 458, 766)が開発したKW111(Addgene Plasmid #80475)またはKW879(Addgene Plasmid #80478, Induced Pluripotent Stem (iPS) Cells pp111-131参照)を用いて構築した。このベクターは、reverse tetracycline transactivator(rtTA)とテトラサイクリン応答性領域(TRE)を両方組み込んだものである。KW879はピューロマイシン耐性遺伝子により薬剤選別が可能である。これらのベクターとpENTR/D-TOPO-MyoD(またはMyf5)エントリーベクターとを混合し、LRクロナーゼ(Invitrogen社)を用いた組換え反応により、テトラサイクリン応答性MyoD強制発現piggyBacベクター(pB-EF1α-MyoD-IRES-puro(図1A上)、以下「pB-Tet-MyoD」と記す)を作製した。pENTR/D-TOPO-MyoDエントリーベクターおよびpENTR/D-TOPO-Myf5エントリーベクターは、pENTR/D-TOPO(Thermo Fisher Scientific製、カタログ番号K240020)に、それぞれMyoDもしくはMyf5のcDNAを組み込んだエントリーベクターである。
3.光活性化タンパク質CatCh + 強制発現ベクター(ChR2ベクター)の作製
Chlamydomonas reinhardtii由来chR2のL322C/T159C変異体(CatCh+)強制発現piggyBacベクターは、pB-EF1α-MCS-IRES-GFP(PB530A-2;System Biosciences社)のGFP遺伝子をブラストサイジン耐性遺伝子(Bsr)に置換し、マルチクローニングサイト(MCS)にCatCh+遺伝子(Prigge, M. et al., (2012) J. Biol. Chem., 287:31804-31812)を挿入することにより作製した(pB-EF1α-CatCh+-IRES-Bsr(図1A下)、以下「pB-ChR」と記す)。
4.iPS細胞へのベクター導入および形質転換細胞の選別
DMD患者由来のiPS細胞クローン(DMD-Δ46-47)およびコントロール(DMD-Δ46-47-ctrl)は10cmディッシュ1枚分の細胞を準備した。ベクター導入の前日よりROCK阻害薬Y含有培地で培養した後、維持培養と同様に、播種した細胞とベクターのエレクトロポレーション法によるトランスフェクションを行った。pB-Tet-MyoD、pB-ChR、およびEF1α-プロモーターの下流にTransposaseを組み込んだベクター(EF1α-PBase)をそれぞれ5μg準備し、100μLのOpti-MEM(Invitrogen社)に溶解した。1.0×106の細胞を、ベクターを含有するOpti-MEMで懸濁し、NEPA21エレクトロポレーター(Nepagene社)を用いて、ベクターを表1の条件でトランスフェクションした。トランスフェクションした細胞を、1.0×103~5.0×104 cells/well の条件で6ウェルプレートに播種した。48時間後に100μg/mLのブラストサイジンおよびピューロマイシン(ナカライテスク社)含有培地に交換した。その後は2日おきに薬剤含有培地への培地交換を行い、薬剤耐性に形質転換した細胞を選別した。
Figure 2023086705000001
5.形質転換細胞クローンの選別
得られたクローンを、培地にて100倍に希釈したマトリゲル(Invitrogen社)でコートした6ウェルプレートに播種した。播種した細胞数は1.0×103~5.0×104 cells/wellであった。48時間後にドキシサイクリン(Dox; LKT Laboratories社)を1μg/mLにて培地に添加した。Dox添加の4日間後、骨格筋細胞に誘導された細胞のうち、分化効率の良いクローンを、筋管細胞の特徴である複数の核を持ち細長い形態になっている細胞の状態に基づいて選別した。
6.Tet-MyoD iPS細胞の骨格筋細胞への分化誘導(図1参照)
上記5で選別したクローン(Tet-MyoD iPS細胞)を、マトリゲルコートされたプレートへ、ROCK阻害薬Yを含むStemFit培地を用いて播種した(0日目)。播種した細胞数は1.0×103~5.0×104 cells/wellであった。1日目にROCK阻害薬Yを添加したPECM培地(Reprocell)に交換し、2日目に0.4μg/mLから1.5μg/mLのDoxを添加したPECM培地に交換した。その48時間後の4日目に、再播種をアッセイに適合した目的のプレート(collagen gel(Nippi社))に行った。その際はαMEM(ナカライテスク社)に2%(v/v)ウマ血清(HS: Invitrogen社)、100μM 2-メルカプトエタノール、インスリン、SB431542(以上、富士フイルム和光純薬社)、グルコース(Invitrogen社)、50mU/Lペニシリン・50μg/Lストレプトマイシンを添加した培地を使用した。再播種後2日間はDox非添加の培地で培養し、その後1μg/mLのDoxを再添加した(6~10日目)。
7.分化骨格筋細胞の電気刺激による成熟化促進培養
上記6で分化誘導した細胞について、6日目から電気刺激による成熟化促進を行い18日目に各試験を行った。電気刺激装置はC-Pace EPとC-Dish(IonOptix社)を用いて周波数0.5Hz, パルス幅2msec, 電圧2V~20Vの刺激を24時間、期間中毎日連続で与え続けた。培地は最低でも2日に1回交換した。
8.分化骨格筋細胞の光刺激による成熟化促進培養
上記6で分化誘導した細胞について、6日目から光刺激による成熟化促進を行い18日目に各試験を行う。光源装置はX-Cite(登録商標)XLED1光源(Excelitas Technologies社)を用いて。470nmの青色光を7mV/mm2の強度で、1回10msecの刺激を0.5Hzの頻度で24時間連続で与え続ける。培地は最低でも2日に1回交換する。
9.SI8000動画解析装置を用いた電気刺激による強縮刺激解析
分化した骨格筋細胞の収縮活動の解析には、SI8000動画解析装置(SONY社)を用いた。電気刺激による強縮活動には、C-Pace EPとC-Dishシステムを用いて、以下のいずれかの条件:
(1)周波数50Hz, パルス幅2msec, 電圧10V(筋疲労)
(2)周波数50Hz, パルス幅2msec, 電圧15V(筋疲労)
(3)周波数50Hz, パルス幅2msec, 電圧17V(筋疲労と筋損傷)
(4)周波数50Hz, パルス幅2msec, 電圧20V(筋損傷)
(5)周波数50Hz, パルス幅2msec, 電圧25V(筋損傷)
(6)周波数20Hz, パルス幅10msec, 電圧20V(筋損傷)
で1秒間刺激、1秒間休止の刺激サイクルを60又は160秒間与えた。SI8000を用いて、60又は160秒間撮影しSI8000のソフトウェアで収縮活動時の速度及び距離を解析した。
10.SI8000動画解析装置を用いた光刺激による強縮刺激解析
光刺激による強縮活動には、X-Cite(登録商標)XLED1光源(Excelitas Technologies社)を用いて、470nmの青色光を、以下のいずれかの条件:
(A)強度7mV/mm2, 1回照射時間0.4msec、照射頻度100Hz
(B)強度7mV/mm2, 1回照射時間10msec、照射頻度0.5Hz
(C)強度7mV/mm2, 1回照射時間16msec、照射頻度0.4Hz
(D)強度5mV/mm2, 1回照射時間10msec、照射頻度0.5Hz
(E)強度10mV/mm2, 1回照射時間10msec、照射頻度0.5Hz
で、60又は160秒間照射する。上記LED光源を搭載したECLIPSE Ti倒立蛍光顕微鏡(Excelitas Technologies社)を装備したSI8000を用いて、60又は160秒間撮影しSI8000のソフトウェアで収縮活動時の速度及び距離を解析する。
〔実験結果〕
培養18日目の骨格筋細胞の、強収縮刺激(低電圧と高電圧)による収縮力変化を、コントロール株と疾患株を用いて比較した。成熟化/トレーニングのための電気刺激はC-Pace EM(IonOptics社製)とC-Dish 6ウェルプレート(IonOptics社製)を用いて培養6日目から、周波数0.5Hz、パルス幅2msecで電気刺激を開始した。播種した細胞数は1.0x10^5~5.0x10^5 cells/wellであった。電圧は徐々に上げていき、最終的に20Vで刺激した。具体的には、最初の48時間は2V、次の48時間は5V、次の72時間は10V、次の72時間は15V、その後は培養18日目まで20Vで連続刺激した(図1B)。
低電圧(15V;条件(2))と高電圧(20V;条件(4))で刺激した結果をそれぞれ図2及び図3に示した。図2は低電圧の結果、図3は高電圧の結果である。いずれの図も左側がコントロール株(DMDΔ46-47-ctrl)の結果、真ん中が疾患株(DMDΔ46-47)の結果、そして右側が培養培地中に含まれるCKの値を測定した結果である。低電圧で刺激した図2では、コントロール株では収縮速度が一定値から低下する事が無いが、疾患株では徐々に収縮速度が低下している現象が認められた。また、培養培地中にはCKが漏出していない事が分かる事から、細胞ダメージを伴わない収縮力低下という事が分かる。つまり、これはジストロフィンタンパクが欠失していることによる、筋疲労を再現している事が示された。
一方で、高電圧で刺激した図3では、コントロール株では収縮速度が低下する事は認められなかったが、疾患株では著しく低下している事が判明した。低電圧と比較して、培養培地にCKが漏出している事からも細胞ダメージによる筋力低下、すなわち筋損傷である事が示された。
次に、化合物による筋疲労抑制と筋損傷阻害の評価が可能かを検証した。筋疲労モデルにおいて、既知のアクチン重合・安定化促進物質であるJasplakinolide (CAS: 102396-24-7) 1μMを強収縮刺激4時間前に添加した時、DMSO溶媒コントロールと比較して、収縮力の低下が抑制される事が判明した(図4)。また一方で、筋損傷モデルでも同様の実験を行った所、DMSO溶媒コントロールでは強収縮刺激ののち急激に収縮力が低下するが、Jasplakinolide添加細胞では収縮力低下が抑制される事が分かった(図5)。また、培養培地中のCKの漏出も検知限界以下まで抑制されている事が示された。
条件(1)(3)(5)及び条件(6)で刺激した結果をそれぞれ図6から図9に示した。条件(2)で刺激した場合と同様に、コントロール株では収縮速度が一定値から低下する事が無いが、疾患株では徐々に収縮速度が低下している現象が認められた。
本発明の製法により作製された細胞モデルは、従来の方法により作製された細胞と比較して、ミオパチーにおける筋疲労及び筋損傷の病態をより忠実に再現することができるので、ミオパチーの病因解明やミオパチーに対する創薬スクリーニングのためのin vitroリサーチツールとして極めて有用である。
本出願は、日本で出願された特願2021-201111(出願日:令和3年12月10日)を基礎としており、その内容はすべて本明細書に包含されるものとする。

Claims (14)

  1. 筋疲労又は筋損傷の細胞モデルの製造方法であって、以下の工程:
    (1)ミオパチーの哺乳動物由来であるか又はミオパチーの原因遺伝子変異を有する多能性幹細胞から分化させた骨格筋細胞を提供する工程;及び
    (2)該骨格筋細胞を、強縮を生じさせる条件で電気的又は光遺伝学的に刺激する工程を含む方法。
  2. 工程(2)における刺激が電気刺激である、請求項1に記載の方法。
  3. 電気刺激が以下の条件:
    (a)電圧:10~40 V;
    (b)周波数:10~100 Hz;及び
    (c)パルス幅:0.4~16 msec
    で行われる、請求項2に記載の方法。
  4. 1~10秒間の電気刺激を、1~10秒間隔で計1~300秒間与える、請求項2又は3に記載の方法。
  5. 工程(2)における刺激が光遺伝学的刺激である、請求項1に記載の方法。
  6. 光遺伝学的刺激が、細胞内で強制発現させた光活性化タンパク質を活性化波長の光を照射して活性化させ、膜の脱分極を生じさせることである、請求項5に記載の方法。
  7. 光活性化タンパク質がチャネルロドプシン2(ChR2)又はその改変体である、請求項6に記載の方法。
  8. 骨格筋細胞が、電気刺激又は光遺伝学的刺激により成熟化されたものである、請求項1~3および5~7のいずれか1項に記載の方法。
  9. 骨格筋細胞が、多能性幹細胞において外因性のMyoD及び/又はMyf5を発現させることにより分化誘導されたものである、請求項8に記載の方法。
  10. 多能性幹細胞が人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項1~3および5~7のいずれか1項に記載の方法。
  11. 哺乳動物がヒトである、請求項1~3および5~7のいずれか1項に記載の方法。
  12. ミオパチーの哺乳動物由来であるかミオパチーの原因遺伝子変異を有する多能性幹細胞から分化させた骨格筋細胞であって、強縮を生じさせる条件での電気刺激又は光遺伝学的刺激に応答して、筋疲労又は筋損傷の病態を発現する細胞モデル。
  13. 筋疲労又は筋損傷の病態を改善し得る物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
    (1)ミオパチーの哺乳動物由来であるかミオパチーの原因遺伝子変異を有する多能性幹細胞から分化させた骨格筋細胞を提供する工程;
    (2)該骨格筋細胞を、被検物質の存在下、強縮を生じさせる条件で電気的又は光遺伝学的に刺激する工程;及び
    (3)被検物質の非存在下と比較して、該骨格筋細胞の収縮能力の低下を改善、及び/又は該骨格筋細胞からのクレアチンキナーゼの漏出を抑制した被検物質を、筋疲労又は筋損傷の病態を改善し得る物質の候補として選択する工程
    を含む方法。
  14. ミオパチーの治療又は予防薬のスクリーニングのための、請求項13に記載の方法。
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