JP2023025533A - 前駆脂肪細胞分化抑制剤、該前駆脂肪細胞分化抑制剤を含有する飲食品、医薬品、および化粧料、並びに肥満またはメタボリックシンドロームの予防または治療方法 - Google Patents

前駆脂肪細胞分化抑制剤、該前駆脂肪細胞分化抑制剤を含有する飲食品、医薬品、および化粧料、並びに肥満またはメタボリックシンドロームの予防または治療方法 Download PDF

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Abstract

【課題】前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を抑制する分化抑制剤、該分化抑制剤を含む抗メタボリックシンドローム用飲食品、医薬品、および化粧料、ならびにメタボリックシンドロームの予防または治療方法を提供する。【解決手段】メラニンを有効成分とする、前駆脂肪細胞分化抑制剤、好ましくは、イカスミ由来のメラニン及びメラノプロテインを含有する前駆脂肪細胞分化抑制剤、特に好ましくは、酵素処理されたイカスミ由来のメラニン、及び/又は、酵素処理されたメラノプロテインを含有する、該前駆脂肪細胞分化抑制剤を提供する。【選択図】なし

Description

本技術は、前駆脂肪細胞分化抑制剤に関する。詳しくは、本技術は、前駆脂肪細胞分化抑制剤、該前駆脂肪細胞分化抑制剤を含有する抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用飲食品、抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用医薬品、および抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用化粧料、並びに肥満またはメタボリックシンドロームの予防または治療方法に関する。
脂肪細胞は、脂肪組織に存在する主要な細胞種である。中胚葉系多能性幹細胞から発生し、脂肪芽細胞、前駆脂肪細胞、未熟脂肪細胞を経て成熟脂肪細胞へと分化する細胞であり、脂肪の合成、貯蔵、放出を担う白色脂肪細胞と、脂肪を分解して熱を発生させる褐色脂肪細胞に分類される。
肥満は、糖尿病や脂質代謝異常症、高血圧症のほか、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群、そして様々な癌のリスクファクターと考えられている。また、肥満は白色脂肪細胞の肥大化が強く関与しており、過剰なエネルギーを蓄積した脂肪滴が形成され、様々な生理活性物質の分泌量の質的変化を来す。
このような背景の下、肥満を解消、防止する種々技術が提案されている。例えば、特許文献1では、全身もしくは局所の脂肪組織の減少を促進することによる肥満体質の改善、又は同組織の増大を防止することによる肥満の抑制もしくは防止に有効な脂肪分解促進剤が開示されている。
一方、脂肪細胞の肥大化に加えて、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化による脂肪細胞数の増加そのものも肥満形成の大きな要因であることが分かってきた。実際、成人期以降においても白色脂肪細胞が増加し、肥満進行に関わることが指摘されている。従って、前駆白色脂肪細胞の分化を抑制し、成熟白色脂肪細胞数の増加を抑制することは肥満改善に貢献すると期待される。
脂肪細胞の分化を抑制することで抗肥満効果を導く技術としては、例えば、特許文献2では、海洋細菌シュードモナス・エスピーが生産する酸性ムコ多糖類WAK-1-AのO-アシル誘導体を有効成分とする前駆脂肪細胞分化抑制剤が開示されている。また、例えば、特許文献3では、4.2質量ppm以上のヨウ素を含有する鳥卵を有効成分とする、脂肪蓄積抑制剤、脂肪前駆細胞の分化抑制剤、内臓脂肪低減剤、及び内臓脂肪低減用飲食品が開示されている。また、特許文献4では、カワラタケ、カノコソウ等のキノコ、植物又は植物の部位群より選ばれる少なくとも1種を含有する前駆脂肪細胞の分化抑制剤が開示されている。
ここで、本技術に関わるメラニンについて説明する。メラニンは、生体内ではアミノ酸であるチロシンからL-Dopaを経て酵素的に酸化され重合反応によって生成する天然物である。ヒトの髪の毛や、紫外線照射によって皮膚でできる黒色色素であるが、イカスミの主要色素成分でもある。ドーパメラニンはL-Dopaを初期物質としてアルカリ溶液中で重合してできる黒色物質であり、人工的なメラニンと考えられている。天然メラニンも合成ドーパメラニンも正確な構造が明らかになっていないが推定構造は提唱されている。
メラニンを用いた技術として、例えば、特許文献5では、可溶化メラニン又は分散化メラニンを有効成分として含む抗アレルギー剤が開示されている。また、特許文献6では、可溶化メラニン又は分散化メラニンを有効成分として含む細胞増殖抑制剤が開示されている。
特開2000-169325号公報 特開2007-77025号公報 国際公開第2018/051471号パンフレット 特開2004-75640号公報 特開2018-2663号公報 特開2018-20991号公報
上記のように、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を抑制することができれば、肥満の予防や肥満の進展を防止することができ、さらには、肥満による糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の悪化やこれらの病気が重複して発症するメタボリックシンドロームの予防等にも貢献できることが期待される。
そこで、本技術では、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を抑制する技術を提供することを主目的とする。
本願発明者らは、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を抑制する技術について、鋭意研究を行った結果、メラニンに前駆脂肪細胞分化抑制作用があることを見出し、本技術を完成させるに至った。
即ち、本技術では、まず、メラニンを有効成分とする、前駆脂肪細胞分化抑制剤を提供する。
本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤は、イカスミ由来のメラニンおよびメラノプロテインを含んでいてもよい。
この場合、酵素処理したイカスミ由来のメラニン、および/または、酵素処理されたメラノプロテインを用いることができる。
本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤は、合成メラニンを含んでいてもよい。
本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤は、コロイド状で存在するメラニン、および/または、コロイド状で存在するメラノプロテインを含んでいてもよい。
本技術では、次に、本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤を含有する抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用飲食品を提供する。
また、本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤を含有する抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用医薬品も提供する。
さらに、本技術では、本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤を含有する抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用化粧料も提供する。
本技術では、さらに、メラニンを投与する工程を含む、肥満またはメタボリックシンドロームの予防または治療方法(ヒトに対する医療行為を除く)を提供する。
なお、本技術において、「メラノプロテイン」とは、メラニン含有タンパク質複合体を示す技術用語である。メラニンは、様々な動物や植物、昆虫、菌類、真正細菌等が産生する天然色素であり、人工的に合成して出来るメラニンとは異なり、生体内ではタンパク質をバックボーンとしたメラニン-タンパク質複合体、すなわちメラノプロテインを形成して存在している。即ち、「メラノプロテイン」とは、メラニンと結合しているタンパク質の総称である。メラノプロテインのアミノ酸残基は、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸の他、ヒドロキシル基、スルフヒドリル基(チオール基)を側鎖に持つアミノ酸が含まれる。メラノプロテインは、天然には、例えば、イカスミやヒトを含めた動物の毛髪中など、生物界に広く存在している。生物種によりそのタンパク質組成や構成は異なり、例えば、イカスミ由来のメラノプロテインはヒト毛髪由来のメラノプロテインと比べてアルカリ溶液やリン酸バッファーへの溶解度が非常に低く、より強く凝集した粒子であると考えられている。メラノプロテインは、直径がおよそ100nm~400nmの球形粒子であり、会合数が様々な凝集体として存在する。
なお、メイラード反応と呼ばれるアミノ酸と糖の反応により生成する茶褐色の物質であるメラノイジン(味噌や醤油の褐色成分)がタンパク質と結合したものを、メラノプロテインと表現する場合があるが、本技術における「メラノプロテイン」とは、全く異なるものである。即ち、本技術における「メラノプロテイン」は、メラノイジン含有タンパク質は包含しない。
脂肪細胞の分化のメカニズムを示す概念図である。 イカスミの主要成分割合を示す円グラフである。 実施例(2)合成メラニンによる脂肪細胞の分化抑制における分化誘導スケジュールと合成メラニンの投与期間のパターンを示す概念図である。 図3に示すパターンa~cのエンドポイントにおけるマウス前駆脂肪細胞3T3-L1の油滴染色像とその定量結果を示すグラフである。 実施例(3)イカスミによる脂肪細胞分化抑制において、エンドポイントにおけるマウス前駆脂肪細胞3T3-L1の定量結果を示すグラフである。 実施例(4)脂肪細胞分化関連因子の遺伝子レベルでの発現解析において、分化関連遺伝子の発現結果を示すグラフである。 実施例(5)脂肪細胞分化関連因子のタンパク質レベルでの発現解析における分化関連タンパク質のバンドシグナル像である。 実施例(6)TNF-α刺激で応答する遺伝子に対するメラニンの効果の検討において、TNF-α刺激で応答する遺伝子の発現結果を示すグラフである。 実施例(7)セルカルチャーインサートを用いたマクロファージ遊走試験の結果を示す写真およびグラフである。 実施例(8)高脂肪食負荷による肥満モデルに対するメラニンの効果において、図10Aは、実験期間における各群の摂食量の推移を示す結果であり、図10Bは、実験期間における各群の体重の推移を示す結果である。
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
1.前駆脂肪細胞分化抑制剤
図1は、脂肪細胞の分化のメカニズムを示す概念図である。脂肪細胞は、中胚葉系多能性幹細胞から発生し、脂肪芽細胞を経て、前駆脂肪細胞が分化した細胞であり、脂肪細胞からは様々なアディポサイトカインが分泌されている。例えば、小型脂肪細胞からは善玉サイトカインであるアディポネクチン等が分泌され、インスリン感受性の向上、脂肪燃焼促進、動脈硬化の予防作用等を発揮する。
しかしながら、運動不足やカロリーの過剰摂取により、脂肪細胞は次第に肥大化していき、肥大化脂肪細胞となると、アディポサイトカイン産生調節の破綻が生じてしまう。具体的には、悪玉サイトカインであるMCP-1(monocyte chemoattractant protein-1)、TNF-α(tumor necrosis factor alpha)、IL-6(interleukin-6)、遊離脂肪酸(FFA:Free Fatty Acid)など炎症促進因子の産生が増加する一方で、善玉サイトカインであるアディポネクチンなどの炎症抑制因子の産生が減少し、結果的に炎症が促進される。
本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤は、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を抑制する作用を持つ。また、後述する実施例で示す通り、善玉サイトカインであるアディポネクチンの発現低下を抑制する作用も持つ。
前記特許文献6では、可溶化メラニン又は分散化メラニンに癌細胞の増殖を抑制する効果がある旨が記載されているが、癌細胞の増殖と前駆脂肪細胞の分化とは、全く異なる概念である。即ち、癌細胞の増殖とは、未分化の細胞が異常に増殖するものであり、分化を促すことで、癌細胞の増殖は止まる。従って、分化を促すことによって、癌細胞の増殖を抑制することが可能である。逆に言うと、分化を抑制することにより、癌細胞の増殖が促進される可能性がある。
一般的に、前駆脂肪細胞の分化抑制は、毒性を伴うことが多く、細胞の安全性を担保したまま前駆脂肪細胞の分化を完全に抑制することは困難である。一方、本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤は、後述する実施例で示す通り、細胞毒性をほとんど示すことなく、ほぼ100%の前駆脂肪細胞の分化を抑制することができる。
また、本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤は、後述する実施例で示す通り、脂肪細胞の肥大化は抑制しない。即ち、健常体に必要な量の脂肪細胞の機能を阻害するものではない。
本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤を用いて、前記脂肪細胞の分化を抑制することにより、脂肪細胞の増加によって発症する疾患または症状を、予防または治療することができる。具体的には、本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤を用いれば、肥満、メタボリックシンドローム等の予防または治療を行うことができる。
本技術において、疾患または症状の「予防」とは、疾患または症状の発生を防止すること、該発生を遅延させること、発生の危険性を低下させることを含む。また、すでに疾患または症状が発生(罹患、発症)している場合であっても、疾患または症状のさらなる進行を抑制することも、「予防」に包含されてもよい。「治療」とは、疾患または症状の軽減、緩和若しくは進行速度の低下を意味する。従って、本技術において、「予防」および「治療」の技術的意味は、互いに重複する場合がある。
本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤は、メラニンを有効成分とする。本技術で用いる技術用語「メラニン」は、構造の類似する各種メラニン(ユーメラニン、フェオメラニン、ニューロメラニン、アロメラニン、フィトメラニン等)を包括する用語として用いられる。メラニンは、様々な動物や植物、昆虫、菌類、真正細菌等に認められる色素である。本技術におけるメラニンの由来は特に限定されない。メラニンは、化学合成(例えば特表2003-509529号公報を参照)、酵素合成(例えば特開平07-313155号公報を参照)、天然物(例えばイカスミ、タコスミ、キノコ、バナナ、アサガオ種子など)からの抽出および/または精製、メラニン産生細胞(マウスB16、B16F10、シリアンハムスターRPMI 1846、ヒトHMY-1、MNT-1、HM3KO、A375、SK-Mel-28など)からの抽出および/または精製によって調製することができる。また、各種メラニンが市販されており(例えば、Sigma-Aldrichが提供するチロシンの過酸化水素処理により酸化的に合成されたメラニン、MP-Biochemicalsが提供するチロシンの過硫酸処理により酸化的に合成されたメラニン)などを用いてもよい。
メラニンの純度ないし精製度も特に限定されない。従って、期待される作用効果、即ち、前駆脂肪細胞分化抑制活性を示す限り、例えば、メラニンを含有する天然物自体(例えば、イカスミ等の天然物そのままの状態)、天然物由来の粗精製メラニンなど、未精製のメラニンや精製度の比較的低いメラニンを用いることも可能である。
本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤中のメラニンの形態は特に限定されず、前述のようなメラニンを含有する天然物自体、メラニン単体、メラニンと他の物質(例えば、タンパク質等)との複合体(例えば、メラノプロテイン等)、およびこれらを組み合わせた状態で含有させることができる。
本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤には、イカスミ由来メラニン、メラノプロテイン、および合成メラニンから選択される1以上を用いることが好ましい。構造および/または分子量の点で異なる、二種以上のメラニンが混在した状態のものを有効成分としてもよい。
合成メラニンとしては、ユーメラニン、すなわち5,6-ジヒドロキシインドール(DHI)、インドール-5,6-キノン(IQ)、5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸(DHICA)、インドール-5,6-キノン-2-カルボン酸(IQCA)、がモノマーとして含まれるポリマーを用いることが好ましい。
イカスミ由来メラニン、および/または、メラノプロテインとしては、消化酵素で処理されたイカスミ由来メラニン、および/または、酵素処理されたメラノプロテインを用いることが好ましい。後述する実施例で示す通り、イカスミ由来メラニン、および/または、メラノプロテインを消化酵素で処理することにより、前駆脂肪細胞分化抑制効果をより向上させることができる。
イカスミ由来メラニン、および/または、メラノプロテインを処理する消化酵素の種類は特に限定されない。例えば、タンパク質分解酵素、脂質分解酵素、糖質分解酵素などが挙げられ、本技術では、これらを1種または2種以上選択して用いることができる。本技術では、タンパク質分解能を有する消化酵素を用いることが好ましい。図2に示すように、イカスミの成分は、約75%が水分であり、水分を除くと、メラニンが約62%、タンパク質が約25%、脂質が約12%である。イカスミの成分中、メラニンの次に多いのがタンパク質であるため、タンパク質を分解することで、メラニンによる前駆脂肪細胞分化抑制効果をより向上させることができる。
また、本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤中のメラニンや、メラノプロテインは、コロイド状で存在することが好ましい。コロイド状で存在することにより、前駆脂肪細胞分化抑制効果をより向上させることができる。
本発明に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤は、本技術の効果を損なわない限り、最終製品に応じた各種成分を1種または2種以上、自由に選択して含有させることもできる。例えば、保存剤、安定剤、防腐剤、乳化剤、pH調整剤、増粘剤、香辛料、調味料、酵素、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料等の成分を用いることができる。
2.抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用飲食品
本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤は、その前駆脂肪細胞分化抑制作用を利用して、抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用飲食品に用いることができる。本技術に係る飲食品は、公知の飲食品に本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤を添加して調製することもできるし、飲食品の原料中に本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤を混合して新たな飲食品を製造することもできる。
本技術に係る抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用飲食品は、液状、ペースト状、固体、粉末等の形態を問わず、錠菓、流動食等のほか、例えば、小麦粉製品、即席食品、農産加工品、水産加工品、畜産加工品、乳・乳製品、油脂類、基礎調味料、複合調味料・食品類、冷凍食品、菓子類、飲料およびこれら以外の市販品が挙げられる。
また、本技術に係る抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用飲食品は、特定の用途(特に保健の用途)や機能が表示された飲食品として提供・販売することも可能である。例えば、健康食品、機能性食品、病者用食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品、医薬用部外品等として提供・販売することができる。
本技術に係る抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用飲食品は、肥満またはメタボリックシンドロームの予防または治療に必要な量のメラニンの量を含む。本技術に係る抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用飲食品中のメラニンの量は、本技術の効果を損なわない限り、自由に設定することができるが、0.1~95重量%の範囲に設定することが好ましい。
本技術に係る抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用飲食品は、ヒト及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)用の飲食品として提供することができる。
3.抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用医薬品
本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤は、その前駆脂肪細胞分化抑制作用を利用して、抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用医薬品に用いることができる。本技術に係る医薬品は、公知の医薬品に本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤を添加して調製することもできるし、医薬品の原料中に本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤を混合して新たな医薬品を製造することもできる。
本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤を用いた医薬品の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
また、本技術の抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用医薬品には、メラニンの他に、他の有効成分を含有させることも可能である。例えば、メラニンと脂肪分解作用を有する有効成分を含有させることにより、脂肪細胞の分化を抑制して脂肪細胞の数の増加を抑制しつつ、既に存在する脂肪細胞の分解を促進することで、肥満やメタボリックシンドロームの予防および治療に貢献することができる。また、糖尿病予防または治療剤、高血圧予防または治療剤、高脂血症予防または治療剤等と合剤とすることで、多面的にメタボリックシンドロームを予防または治療することが可能となる。
製剤化する場合の剤型も特に限定されず、例えば、点鼻剤、点眼剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤等に製剤化することができる。
本技術に係る抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用医薬品は、肥満またはメタボリックシンドロームの予防または治療に必要な量のメラニンの量を含む。本技術に係る抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用医薬品中のメラニンの量は、本技術の効果を損なわない限り、自由に設定することができるが、0.1~95重量%の範囲に設定することが好ましい。
本技術に係る抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用医薬品は、その剤型・形態に応じて経口または非経口(静脈内、動脈内、皮下、筋肉、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜、塗布など)で対象に適用される。ここでの「対象」は特に限定されず、ヒト及びヒト以外の動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。
本技術に係る抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用医薬品の投与量・使用量は、本技術の効果を損なわない限り、自由に設定することができる。有効な投与量の設定においては一般に適用対象の症状、年齢、性別、体重などが考慮される。なお、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。投与スケジュールとしては、例えば、1日1回~数回、2日に1回、或いは3日に1回などを採用できる。投与・使用スケジュールの作成においては、適用対象の症状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
4.抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用化粧料
本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤は、その前駆脂肪細胞分化抑制作用を利用して、抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用化粧料に用いることができる。本技術に係る化粧料は、公知の化粧料に本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤を添加して調製することもできるし、化粧料の原料中に本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤を混合して新たな化粧料を製造することもできる。
本技術に係る抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用化粧料は、本技術に係る前駆脂肪細胞分化抑制剤と、化粧料に通常使用される成分・基材(例えば、各種油脂、ミネラルオイル、ワセリン、スクワラン、ラノリン、ミツロウ、変性アルコール、パルミチン酸デキストリン、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、エチレングリコール、パラベン、カンフル、メントール、各種ビタミン、酸化亜鉛、酸化チタン、安息香酸、エデト酸、カミツレ油、カラギーナン、キチン末、キトサン、香料、着色料など)を配合することによって得ることができる。
本技術に係る抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用化粧料の実施形態としては、フェイスまたはボディー用の乳液、化粧水、クリーム、ローション、エッセンス、オイル、パック、シート、洗浄料などの形態とすることができる。
本技術に係る抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用化粧料は、肥満またはメタボリックシンドロームの予防または治療に必要な量のメラニンの量を含む。本技術に係る抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用化粧料中のメラニンの量は、本技術の効果を損なわない限り、自由に設定することができるが、0.1~60重量%の範囲に設定することが好ましい。
5.肥満またはメタボリックシンドロームの予防または治療方法
メラニンの前駆脂肪細胞分化抑制作用を利用して、本技術では、肥満またはメタボリックシンドロームの予防または治療方法を提供する。本技術に係る肥満またはメタボリックシンドロームの予防または治療方法は、メラニンを投与する工程を含む方法である。
メラニンの投与方法は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されない。投与方法および投与対象の具体例は、前記医薬品の適用方法および適用対象と同一であるため、ここでは説明を割愛する。
メラニンの投与量、投与スケジュール等も、本技術の効果を損なわない限り、自由に設定することができる。投与量および投与スケジュールの具体例も、前記医薬品の投与量・使用量および投与スケジュールと同一であるため、ここでは説明を割愛する。
以下、実施例に基づいて本技術を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
(1)材料と方法
[メラニンの合成]
L-Dopa(Sigma)2gに対し、超純水を780mL加え、1NのNaOH(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation)を20mL添加後、エアーポンプを用いて通気しながら3日間室温で撹拌しながらインキュベートした。反応溶液45mLに対し濃塩酸を0.2mL加え、3000rpm,5分間遠心して沈殿物を得た。上清を廃棄し、沈殿に対して超純水40mLと濃塩酸0.1mLを添加して混ぜ、3000rpm,5分間遠心した。同操作を合計4回繰り返した後、上清を廃棄し、0.025NのNaOHを2mL添加し、全ての試料をまとめ、1NのNaOH溶液でpHを7.4へ調整した。それを透析チューブ(スペクトラム CE 透析チューブ, MWCO 20,000, 面積幅31mm)へ約80mL入れ、脱イオン水10L液中にて2日間脱塩・透析した。透析試料を回収し、凍結乾燥後、冷凍保存、もしくは任意の濃度となるように超純水またはHepes-KOH buffer(500mM, pH7.4)に溶解して4℃保存した。
[細胞と培養]
脂肪細胞はマウス前駆脂肪細胞株3T3-L1細胞(ヒューマンサイエンス研究資源バンクから入手)を用い、ウシ胎児血清10%、ペニシリン(100IU/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)を添加した低グルコースDMEM培地(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation, 041-29775)で継代培養した。マクロファージ細胞はマウスRAW264細胞(RIKEN BRCより入手)を用い、ウシ胎児血清10%、ペニシリン(100IU/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)を添加したRPMI培地(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation, 189-02025)で継代培養した。培養は5%CO2、37℃のインキュベーター(SANYO)にて行った。
[脂肪細胞の分化誘導法]
10cmディッシュにてセミコンフルエントとなった3T3-L1細胞をトリプシンで剥離し、高グルコースDMEM培地(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation, 043-30085)を用いて細胞を24穴培養ディッシュに播種し、3日間培養してコンフルエントとなったことを確認後、更に1日培養した。分化誘導初日に、高グルコースDMEM培地へ1μM Dexamethasone、250μM 3-Isobutyl 1-methylxanthine, 2μM insulinを添加した分化誘導培地に置換し、3日間培養した。3日目に2μM insulinのみを添加した高グルコースDMEM培地に置換し、以後、2日おきに同培地に置換して培養を行った。
[オイルレッドO染色、定量]
細胞をPBSで3回洗浄後、固定液(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation, 10%中性ホルムアルデヒド溶液)を用いて室温で10分間、固定処理した。固定液を除去してPBSで2回洗浄後、60%イソプロパノールで1分間処理し、除去後直ちにオイルレッドO (Sigma)染色液を添加した。室温で20分間処理後、染色液を除去し、60%イソプロパノールで1回、PBSで2回洗浄後、明視野にて顕微鏡観察を行った。染色した細胞からPBSを除去し、イソプロパノールを加え室温で1h処理した。オイルレッドO溶液を抽出し、490nmの吸光度を測定した。
[細胞遊走試験(マイグレーションアッセイ)]
RAW264細胞を血清なしの培地で1晩培養した(スタベーション)。マイグレーションアッセイ用24wellプレートを用い、各ウェルに、必要に応じて誘引物質(MCP-1あるいはTNF-αなどのサイトカイン)を希釈した1%FBS-RPMI1640培地を0.8mL添加した。そこへインサート(ポアサイズ8μm)を入れ、1%FBS-RPMI1640培地に6.6×105/mLとなるように懸濁したRAW264細胞を0.3mL添加し(2×105個/well)、CO2インキュベーターへ入れて培養した。なお、必要に応じてインサート側へメラニンを各濃度添加した。24時間後、4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液に20分間浸し、0.1%クリスタルバイオレット溶液で60分間染色した。超純水に置換して1時間静置した後、遊走によりインサート外側へ移動した細胞のみ検出するためにインサート内側の細胞を綿棒でやさしく掻き取った後、風乾し、インサートのメンブレン部分のみをはがし、プレパラートを作製し、顕微鏡観察した。
[ウェスタンブロッティング]
細胞をPBSで3回洗浄後、リシスバッファー(30 mM Tris-HCl (pH 8.0), 1% Triton X-100, 150mM NaCl, 1mM EDTA, protease inhibitor cocktails)に細胞を懸濁し、超音波処理により細胞を破壊後、20000×gで4℃にて30分間遠心し、上清を回収した。各サンプルのタンパク質濃度をBCA法により市販キット(PierceTM BCA Protein Assay Kit, Thermo Fisher Scientific)を用いて定量後、全てのサンプルのタンパク質濃度を一定に合わせた。各サンプルへ3-メルカプト-1,2-プロパンジオール含有4×sample buffer (FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation)を添加し、100℃、5分間加熱処理し、-30℃にて保存した。
サンプルのタンパク質は5-20%グラジェントゲル(SuperSepTM Ace, FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation)を用いたSDS-PAGEで分離した。なお、各レーンあたり、タンパク質量として10-20μgとなるようにアプライした。SDS-PAGE電気泳動後、タンパク質をセミドライ式ブロット装置(ホライズブロット、ATTO)を用いてpolyvinylidene difluoride membrane (Merck Millipore)へ転写した。メンブレンを5%スキムミルク(PBS-T)でブロッキング処理し(室温、1時間)、特異的抗体を用いて4℃にて一晩反応させた。メンブレンをPBS-Tで洗浄後、対応する二次抗体を用いて室温にて1時間処理した。メンブレンをPBS-Tで洗浄後、化学発光試薬(Western Lightning Plus-ECL, PerkinElmer)を処理し、Light-Capture (ATTO)を用いてバンドシグナルを検出した。
[リアルタイムPCR法による遺伝子発現定量]
市販のRNA抽出キット(NucleoSpin(登録商標) RNA, Macherey-Nagel)を用いて細胞からRNAを抽出した。各サンプルのRNA濃度を定量し一定濃度に揃えた後、市販のキット(ReverTra Ace(登録商標), TOYOBO)を用いてcDNAを合成した。次に、PCR試薬 (THUNDERBIRD(登録商標) SYBR qPCR Mix, TOYOBO)と遺伝子特異的プライマーを混和し、専用サーマルサイクラー (Applied Biosystems(登録商標) 7500リアルタイムPCRシステム, Thermo Fisher ScientificもしくはCFX96 Touch Deep Well リアルタイムPCR解析システム, BioRad)を用いてリアルタイムPCRを行った。使用したプライマーセットを下記の表1に示す。
Figure 2023025533000001
[イカスミの酵素処理]
イカスミはイカスミパウダー(日本葉緑素株式会社)を用いた。2% (w/v)となるようにイカスミパウダーを超純水に懸濁した。酵素は天野エンザイム株式会社のペプチダーゼR、プロテアーゼA「アマノ」SDを用いた。もしくは人工腸液(50mM, KH2PO4, pH6.8)へ懸濁し、ここへ酵素を任意の濃度(0.1~1%(w/v))となるように添加し、37℃で3日間振とうしながらインキュベートした。100℃で10分処理し、酵素を不活化し、30秒インターバルで合計5分間超音波処理後、4℃にて保存した。
[動物実験]
4週齢、オスのC57BL/6Jマウス(日本エスエルシー株式会社)を入手し、2週間馴化飼育した。体重を測定した後、群あたり6匹とし、バートレット検定およびOne-way ANOVAにて群間での体重有意差がないことを確認し、各ケージへ2匹ずつ分け飼育を開始した。実験動物は12時間毎の明暗制御飼育室にて、湿度50±10%、温度22±2℃、SPF環境下で飼育された。コントロール食にはAIN-93M、高脂肪食はHFD-60(株式会社オリエンタルバイオサービス)を用いた。
[高脂肪食モデルを用いたメラニンの効果]
4週齢マウスを2週間馴化飼育した後、通常食コントロール群、(AIN93M+H2O)、通常食メラニン投与群(AIN93M+DM)、高脂肪食コントロール群(HFD60+H2O)、高脂肪食メラニン投与群(HFD60+DM)の4群に分けた。メラニンは100mg/mLを調製し、1日おきにゾンデ(シナノ製作所)を用いて、H2O(0.2mL)またはメラニン(100mg/mL,0.2mL)を胃内強制投与した。投与量はメラニン量として1,000mg/kgとなるようにした。1日おきにマウスの体重を測定し、その都度、餌を換え、与えた量と残量を記録した。ケージ交換は週に1回実施した。記録は12週(84日)行った(n=5/群)。
(2)合成メラニンによる脂肪細胞の分化抑制
[分化誘導スケジュールと合成メラニンの投与期間]
図3に、分化誘導スケジュールと合成メラニンの投与期間のパターンを示す。まず、メラニンが脂肪細胞の分化誘導を抑制するかどうか調べるため、メラニンを分化誘導刺激と同時に添加するパターンを調べた(パターンa)。具体的に、パターンaでは、合成メラニンを、分化誘導剤と同時に3日間投与し、その後7日間培養した。
次に、メラニンが肥大化の抑制に寄与できるかどうか調べるため、前駆脂肪細胞が小型脂肪細胞に分化した後に合成メラニンを投与し、分化誘導開始から28日目の細胞内油滴の形成を評価した(パターンbおよびc)。具体的に、パターンbでは、合成メラニンを、分化誘導刺激後の7日目から3日間投与し、その後、細胞は通常のインスリン添加培地で28日目まで培養した。また、パターンcでは、合成メラニンを、分化誘導刺激後の7日目から投与し、28日目まで培養した。
なお、パターンa~cのいずれにおいても、分化誘導開始から3日以降、培地にはインスリンのみ添加し、3日おきに培地を交換しながら、エンドポイントまで培養した。また、合成メラニンは、0.062,0.125,0.25mg/mLとなるように投与した。
[油滴染色像とその定量]
パターンa~cのそれぞれのエンドポイントにおいて、前記(1)材料と方法の[オイルレッドO染色、定量]に記載した方法を用いて、オイルレッドOの色素を抽出後、吸光度を測定した。なお、分化誘導のみのサンプルの吸光度を100とし相対吸光度として示した。
[結果]
図4に、パターンa~cのエンドポイントにおけるマウス前駆脂肪細胞3T3-L1の油滴染色像とその定量結果を示す。図4のaに示すように、合成メラニンを3種混合分化誘導剤とともに3日添加した場合、分化誘導開始から7日目における細胞内油滴の形成はメラニンの処理濃度依存性に抑制された。
図4のbおよびcに示すように、合成メラニンを分化誘導開始から7日目に3日間投与した場合、および合成メラニンを分化誘導7日目から28日まで投与し続けた場合、いずれの場合においても28日目における油滴量の変化は認められなかった。すなわち、脂肪細胞の肥大化は抑制されなかった。
以上の結果から、メラニンは分化した脂肪細胞の肥大化は抑制せず、分化誘導を抑制することが示された。
(3)イカスミによる脂肪細胞分化抑制
次に、イカスミ、および食品加工用酵素処理したイカスミが脂肪細胞の分化を抑制できるかかどうか調べた。
[分化誘導スケジュールとイカスミ、および食品加工用酵素処理したイカスミの投与期間]
前記パターンaと同様に、イカスミ、および食品加工用酵素処理したイカスミの投与は3種混合分化誘導剤添加と同時に行い、3日間培養後、インスリン添加培地へ交換し、2日おきに培地を交換し、7日間培養した。
[油滴染色像とその定量]
培養7日目に、前記(1)材料と方法の[オイルレッドO染色、定量]に記載した方法を用いて、オイルレッドO染色後、色素を抽出し490nmの吸光度を測定した。なお、分化誘導のみのサンプルの吸光度を100とし相対吸光度として示した。
[結果]
図5に、エンドポイントにおけるマウス前駆脂肪細胞3T3-L1の定量結果を示す。図5Aに示すように、イカスミは酵素処理しない場合でも、陽性対照(PC)に対して、84%と有意に抑制された。また、2種類の代表的な食品加工用消化酵素、それぞれ0.1%もしくは1%の重量%濃度において処理したイカスミを投与した場合、イカスミ自体を投与した場合に対して、分化誘導抑制効果が有意に認められた。なお、酵素の重量%濃度は0.1%であっても1%であっても大差は見られなかった。
図5Bは、未処理のイカスミと酵素処理したイカスミを、それぞれイカスミ濃度として0.4、0.8、1.6mg/mLの各濃度で分化誘導剤と同時投与した場合の結果である。酵素処理しない場合には処理濃度依存性に分化が有意に抑制され(Dunnett test)、酵素処理したイカスミでは、同じ濃度の酵素処理しないイカスミに比べ、より強く分化を抑制した(Student t-test)。
以上の結果から、イカスミは酵素処理しない場合でも脂肪細胞の分化を有意に抑制するが、酵素処理することでより強く分化を抑制することが示された。
酵素処理することによる分化抑制効果の向上のメカニズムは明らかではないが、イカスミに含まれるメラノプロテインのタンパク質が酵素処理によって分解され、メラノプロテインに内包されたメラニンが露出したり、あるいは、メラノプロテインの立体構造が変化(分解・変形等)したり、あるいは、粒子数がより少なくなったメラノプロテインの凝集体が生成することにより、メラニンおよび/またはメラノプロテインが脂肪細胞内に取り込まれたり、脂肪細胞に結合し易くなったりすることで、脂肪細胞分化の抑制に寄与するのではないかと推定された。
(4)脂肪細胞分化関連因子の遺伝子レベルでの発現解析
メラニンによる脂肪細胞分化誘導抑制現象を遺伝子レベルで調べるため、3種混合分化誘導刺激と同時にメラニン(0.062,0.125,0.25mg/mL)を3日間投与した後、前記(1)材料と方法の[リアルタイムPCR法による遺伝子発現定量]に記載した方法を用いて、分化関連遺伝子発現を定量的PCR法により調べた。なお、内在性コントロール遺伝子としてRsp16(40S ribosomal protein S16)を用いた。
結果を図6に示す。図6に示すように、脂肪滴形成において調節的役割を担うFABP4(fatty acid binding protein 4)、脂肪細胞の分化を制御する転写因子C/EBP α(CCAAT/enhancer-binding protein alpha)、 脂肪酸を合成する役割を持つ酵素タンパク質Fasn (Fatty acid synthase)、脂肪酸のβ酸化の律速酵素をコードするAcox1(acyl-CoA oxidase 1)、主に脂肪細胞から分泌され、グルコース代謝や脂肪酸酸化の制御に関わるAdiponectinの全てについて、メラニンの濃度依存性に発現誘導が抑制された。
(5)脂肪細胞分化関連因子のタンパク質レベルでの発現解析
メラニンによる脂肪細胞分化誘導抑制現象をタンパク質レベルで調べるため、3種混合分化誘導刺激と同時にメラニン(0.031,0.062,0.125,0.25mg/mL)を3日間投与した後、前記(1)材料と方法の[ウェスタンブロッティング]に記載した方法を用いて、分化関連タンパク質の発現解析を行った。なお、ローディングコントロールとしてβアクチンを用いた。
結果を、図7に示す。脂肪酸合成と脂肪酸β酸化の制御に関わるACC(acetyl-CoA carboxylase)はメラニンの処理濃度依存性に発現量が低下した。ACCの不活性化マーカーであるSer79のリン酸化は、ACCタンパク質レベルと相関していたことから、メラニンにより当該タンパク質の活性化が抑制されているのではなく、タンパク質発現そのものが抑制されていることが示唆された。また、PPARγ(The peroxisome proliferator-activated receptors gamma)、とC/EBPαは、前駆細胞から脂肪細胞への分化に関わるマスターレギュレーターと呼ばれ、脂肪細胞に特徴的なタンパク質発現の転写因子として働くが、メラニンはこれらマスターレギュレーターのタンパク質発現レベルを処理濃度依存性に抑制した。*マークは非特異的バンドシグナルを示す。
以上の結果から、メラニンは脂肪酸合成タンパク質の活性化を抑制するのではなく、分化関連遺伝子の発現を抑制することで、脂肪細胞の分化と油滴形成、すなわちアディポジェネシスを抑制していることが強く示唆された。
(6)TNF-α刺激で応答する遺伝子に対するメラニンの効果の検討
分化した脂肪細胞に対するメラニンの効果について検討した。白色脂肪細胞は様々な有益な生理活性物質を分泌するが、そのうちの一つがアディポネクチンである。しかし、肥満に伴い、自身やマクロファージが産生するTNF-αによりその発現は抑制され、TNF-αは脂肪細胞から炎症性サイトカインであるMCP-1を惹起し、更なる炎症性マクロファージの遊走や血流へ放出され、動脈硬化症の発症、増悪に寄与すると言われている。
図8Aは、分化した脂肪細胞にTNF-αを処理し、アディポネクチンの発現を調べた結果を示す。分化した脂肪細胞にTNF-αを処理した場合、TNF-αの処理濃度依存性にアディポネクチン遺伝子は抑制されていた。
図8Bは、分化した脂肪細胞にTNF-αを処理し、MCP-1の遺伝子の発現を調べた結果を示す。分化した脂肪細胞にTNF-αを処理した場合、MCP-1遺伝子発現は増大した(Dunnett test)。
図8Cは、分化した脂肪細胞にメラニン0.125mg/mLを事前投与した後、分化した脂肪細胞にTNF-αを処理し、アディポネクチンの発現を調べた結果を示す。メラニンの事前投与によって、TNF-αによるアディポネクチン遺伝子発現の低下は抑制された。前述の通り、メラニン単独処理によりアディポネクチン遺伝子発現が上昇したことから、アディポネクチンの見た目の発現低下の抑制は、メラニンによるアディポネクチンの発現上昇がTNF-αによる遺伝子発現低下を上回った結果であると推定された。
図8Dは、分化した脂肪細胞にメラニン0.5mg/mLを事前投与した後、分化した脂肪細胞にTNF-αを処理し、MCP-1の遺伝子の発現を調べた結果を示す。メラニンはTNF-αによるMCP-1の発現上昇を抑制することはなかった。
以上のことから、メラニンは肥大化していない分化脂肪細胞において、TNF-αによるアディポネクチンの発現の低下は結果的に抑制されるが、炎症惹起ケモカインのMCP-1の発現は抑制できない可能性が示された。
(7)セルカルチャーインサートを用いたマクロファージ遊走試験
3種混合分化誘導刺激と同時に図9に示す量のメラニン(0.0312,0.0625mg/mL)を3日間投与した後、前記(1)材料と方法の[細胞遊走試験(マイグレーションアッセイ)]に記載した方法を用いて、マクロファージの遊走に対するメラニンの効果を確かめた。
図9Aは、分化脂肪細胞をTNF-αで処理した培養上清(コンディションドメディウム)を誘引物質として用い、一定数のマクロファージを各濃度のメラニンとともに培養し遊走細胞を計測した結果である。メラニンを処理しない場合には多数のマクロファージが遊走したのに対し、メラニン処理した細胞では処理濃度依存的に遊走が抑制された。
図9Bは、誘引物質としてレコンビナントのMCP-1のみを培地に添加し、応答して遊走するマクロファージ細胞を調べた結果である。メラニンの処理濃度依存性にマクロファージの遊走は強く抑制された。
以上の結果から、MCP-1を含む、TNF-αに応答して産生される脂肪細胞由来の走化性質によるマクロファージの遊走を、メラニンは抑制することが示された。前記図8と図9の結果から、メラニンは分化白色脂肪細胞においてはTNF-αにより産生低下するアディポネクチンの発現を回復する一方で、マクロファージを誘引するMCP-1の発現は抑制できないが、マクロファージに対するMCP-1応答を抑制することで、炎症の遷延が抑制されうることが示唆された。
(8)高脂肪食負荷による肥満モデルに対するメラニンの効果
前記(1)材料と方法の[動物実験]および[高脂肪食モデルを用いたメラニンの効果]に記載した方法を用いて、高脂肪食負荷による肥満モデルマウスに対するメラニンの投与効果について検討した。
図10Aは、実験期間における各群の摂食量の推移を示す結果である。群間に摂食量の有意差は認められなかった。
図10Bは、実験期間における各群の体重の推移を示す結果である。通常食群間において、水投与群とメラニン投与群とに有意差は見られなかった。一方、高脂肪食負荷群において、メラニン投与群では体重増加が投与7週目(49日)以降で有意な体重抑制効果が見られた(Student t-test)。

Claims (9)

  1. メラニンを有効成分とする、前駆脂肪細胞分化抑制剤。
  2. イカスミ由来のメラニンおよびメラノプロテインを含有する、請求項1に記載の前駆脂肪細胞分化抑制剤。
  3. 酵素処理されたイカスミ由来のメラニン、および/または、酵素処理されたメラノプロテインを含有する、請求項2に記載の前駆脂肪細胞分化抑制剤。
  4. 合成メラニンを含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の前駆脂肪細胞分化抑制剤。
  5. コロイド状で存在するメラニン、および/または、コロイド状で存在するメラノプロテインを含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の前駆脂肪細胞分化抑制剤。
  6. 請求項1から5のいずれか一項に記載の前駆脂肪細胞分化抑制剤を含有する、抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用飲食品。
  7. 請求項1から5のいずれか一項に記載の前駆脂肪細胞分化抑制剤を含有する、抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用医薬品。
  8. 請求項1から5のいずれか一項に記載の前駆脂肪細胞分化抑制剤を含有する、抗肥満用または抗メタボリックシンドローム用化粧料。
  9. メラニンを投与する工程を含む、肥満またはメタボリックシンドロームの予防または治療方法(ヒトに対する医療行為を除く)。
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