JP2023009974A - ホウ素とヨウ素を含有する化合物又はその塩並びにそれらの用途 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明はホウ素とヨウ素を含有する化合物又はその塩に関するものであり、より詳細には、ホウ素中性子捕捉療法に用いられる化合物又はその塩に関する。
ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capturing Therapy、以下「BNCT」ということがある。)は、ホウ素の同位体であるホウ素10(10B)を、腫瘍疾患を患う患者に投与し、その後、中性子線を照射して腫瘍細胞のみを死滅させる治療法であり、治療後のQOLも優れていることから、近年、低侵襲のがん治療法として注目を浴びている。ホウ素10(10B)は、低エネルギーの熱中性子を吸収し、核***反応(10B(n,α)7Li反応)により、α線(ヘリウム原子核)と7Li核を放出する。熱中性子は低エネルギー(0.025MeV)であり人体に対する傷害性が低いが、その一方で上記核***反応により生じるα線と7Li核は細胞を破壊するのに十分なエネルギー(2.4MeV)を有する。また、上記核***反応により放出されるα線の飛程は約9μm程度、7Li核の飛程は約4μm程度と短いため、10Bを腫瘍組織に予め集積させ、そこに熱中性子を照射すれば、腫瘍組織近傍においてのみ高エネルギーの放射線が発生し、腫瘍細胞のみを選択的に破壊することができる。ホウ素中性子捕捉療法は、特に、癌細胞と正常細胞が混在している悪性度の高い脳腫瘍などの頭頸部癌や、メラノーマの治療に効果的であることが知られている。
ホウ素中性子捕捉療法においては、腫瘍組織にホウ素10を導入するためホウ素含有化合物が用いられる。ホウ素含有化合物は、十分に腫瘍細胞を破壊するとともに正常組織への影響を最低限にとどめるという観点から、腫瘍組織に選択的且つ多量に集積するものであることが望ましく、治療対象となる腫瘍組織における10B濃度を20ppm以上(20μg/gに相当)とすることが望ましいとされている。この濃度は、ホウ素の分子量を約10としてモル濃度に換算すると、およそ2mMに相当することからわかるとおり、通常、μM(マイクロモーラー)からnM(ナノモーラー)オーダーの低濃度で用いられる低分子医薬品に比べて極めて高い濃度である。
臨床研究を含め、ホウ素中性子捕捉療法での利用に耐えうるホウ素含有化合物はL-BPA(化合物1a、4-borono-L-phenylalanine(10B)、CAS RN:80994-59-8)、その18F標識体である[18F]F-BPA(化合物1b、18F-fluoro-borono-L-phenylalanine)、ホウ酸、BSH(化合物2、Sodium mercaptododecaborate(10B)、CAS RN:12448-24-7)に限られる。なお、L-BPA(化合物1a)は、BNCT用の薬剤として2020年に日本で上市されている(非特許文献1)。
L-BPA(化合物1a)は、その安全性に基づき、BNCT用薬剤として使用されているが、腫瘍におけるホウ素濃度20ppm以上を達成するためには、500mg/kg体重(体重60kgの場合、30gに相当する)という投与量にて、大量のL-BPAが点滴投与される。一方、BSH(化合物2)は、1分子あたり12個のホウ素原子を有する二価の陰イオンクラスターであり、1分子あたりのホウ素含有量が高いものの、水溶性が高く、細胞への透過性が極めて低い。このようにBNCTに用いられている既存のホウ素含有化合物、すなわち、BNCT用薬剤は、いずれも腫瘍への集積性に改善の余地があり、治療効果の向上、副作用の低減などの観点から、腫瘍組織に選択的かつ大量に取り込まれるホウ素含有化合物の開発が強く望まれている。
BSHは1分子あたり最大12個もの10B原子を有することから、その腫瘍への集積性を高めることができれば、細胞内ホウ素濃度の飛躍的な向上が期待される。このような観点から、BSHの腫瘍への集積性を高める技術が数多く報告されており、例えば、非特許文献2及び特許文献1には、細胞透過性ペプチドを使用する方法が記載されている。しかしながら、非特許文献2によれば、細胞透過性ペプチドを用いた場合であっても、細胞内ホウ素濃度20ppm(およそ2000ng/106cellsに相当する)を与えるためには依然として1mM以上という高濃度のBSHの投与が必要である。
他方、ホウ素中性子捕捉療法においては、治療対象となる腫瘍組織において腫瘍細胞を破壊するために十分な線量の放射線を発生させる一方で、正常組織に対する影響は最小限に留めることが望ましい。ホウ素のみならず、生体中に存在する元素、特に、生体中に多量に存在する水素や窒素も中性子を吸収して放射線を生じる性質があり、これらの元素からの影響を最小限にとどめるためにも、過度の中性子線の照射は好ましくなく、腫瘍におけるホウ素濃度に基づいて必要十分な量の中性子線を照射することが極めて重要である。しかしながら、腫瘍内のホウ素濃度を測定する方法については、現段階で未だ確立された手法がなく、例えば、非特許文献1及び3に示されるように、腫瘍内のホウ素濃度を直接測定する代わりに、その代替指標として全血中ホウ素濃度が用いられているのが現状である。
腫瘍内におけるホウ素の蓄積量を測定する方法として、陽電子放出断層画像法(Positron Emission Tomography、以下、単に「PET」ということがある。)の利用が試みられており(非特許文献4)、PETにてイメージングが可能なホウ素含有化合物として18F-FBPA(18F-fluoro-borono-L-phenylalanine)が知られている。しかしながら、PETイメージングによるホウ素蓄積量の測定は、診断から治療までに時間を要し、患者の負担が大きい。また、PETイメージングは放射性薬剤(例えば、18F)の取り扱いを必要とするため、医療従事者の被ばくは避けられない。
ステボロニン点滴静注バッグ 9000mg/300mL、医薬品インタビューフォーム、2020年5月改訂(第2版)
Michiue H, et al. Journal of Controlled Release, 330, 788-796(2021)
Ono K, et al. Advancein Neutoron Capture Therapy 2006, 27-30
高井良尋著、「ホウ素中性子捕捉療法と分子イメージング-18F-FBPA-PETの意味するもの・期待すること-」、RADIOISOTOPES、68、25―35(2019)
本発明は上記のような従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、一側面において、ホウ素中性子捕捉療法に用いることができるとともに、腫瘍内における蓄積量を容易に測定可能なホウ素含有化合物を提供することを課題とする。また、他の一側面においては、さらに、少量の投与にて腫瘍組織において高い10B-ホウ素濃度を与えるホウ素含有化合物を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決しようと鋭意研究努力を重ねる過程において、ホウ素中性子捕捉療法において用いられるホウ素含有化合物と同程度の濃度で用いられる医療用の薬剤として、X線造影用として用いられるヨウ素薬剤があることに着目した。そして、一つの分子内にX線造影能のあるヨウ素とホウ素中性子捕捉療法に用いられる10Bの双方を有する化合物を創出すれば、ホウ素濃度よりも測定が容易なヨウ素濃度を測定し、測定されたヨウ素濃度をホウ素濃度に換算することにより、生体の任意の部位におけるホウ素濃度を簡単かつ迅速に把握できること、かつ、また、ホウ素に加えて、脂溶性に優れるヨウ素を有する化合物を用いることにより、当該化合物の細胞膜に対する透過性が高められ、細胞内のホウ素濃度を飛躍的に高めることができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]を提供することにより上記課題を解決するものである。
[1]、下記式(I)で表されることを特徴とするホウ素とヨウ素を含有する化合物又はその塩。なお、下記式(I)において、Xはホウ素10(10B)を含有する基、Lはリンカー、Yはヨウ素を含有する基を表す。
[2]、上記式(I)におけるXが、ホウ素10(10B)を含有するホウ素クラスターを含む基であることを特徴とする上記[1]に記載の化合物又はその塩。
[3]、上記式(I)におけるXが、下記式(XI)で表される基であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の化合物又はその塩。なお、下記式(XI)において、黒丸はBH、白丸はBを表し、*は隣接する原子との結合手を表す。
[4]、上記式(I)におけるYが、下記式(YI)で表される基であることを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の化合物又はその塩。なお、下記式(YI)において、R1はハロゲン原子、又は置換されていてもよい一価の有機基を表し、aは、1~5の整数を表し、R1が複数ある場合、それらはそれぞれ独立であり、*は、隣接する原子との結合手を表す。ただし、下記式(YI)で表される基には、少なくとも1つ以上のヨウ素原子が含まれる。
[5]、上記式(I)におけるYが、下記式(YII)で表される基であることを特徴とする上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の化合物又はその塩。なお、下記式(YII)において、R2はヨウ素原子を表し、R3は、置換されていてもよい一価のアルキル基又は置換されていてもよい一価のハロゲン化アルキル基を表し、bは1~4の整数を表し、*は、隣接する原子との結合手を表す。
[6]、上記式(I)におけるYが、下記式(YIII)で表される基であることを特徴とする上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の化合物又はその塩。なお、下記式(YIII)において、R3は、置換されていてもよい一価のアルキル基又は置換されていてもよい一価のハロゲン化アルキル基を表し、*は、隣接する原子との結合手を表す。
[7]、上記式(I)におけるYが、下記式(YIV)で表される基であることを特徴とする上記[1]乃至[6]のいずれかに記載の化合物又はその塩。なお、下記式(YIV)において、*は、隣接する原子との結合手を表す。
[8]、上記式(I)におけるLが、下記式(LI)で表される基であることを特徴とする上記[1]乃至[7]のいずれかに記載の化合物又はその塩。なお、下記式(LI)において、*は、隣接する原子との結合手を表す。
上記[1]~[8]のいずれかに記載の化合物又はその塩は、その基本骨格中にホウ素10Bを含有しているため、ホウ素中性子捕捉療法におけるホウ素薬剤として好適に用いることができる。すなわち、本発明によれば、さらに、以下の[9]乃至[11]が提供される。
[9]、上記[1]~[8]のいずれかに記載の化合物又はその塩を含む、医薬組成物。
[10]、ホウ素中性子捕捉療法用であることを特徴とする上記[9]に記載の医薬組成物。
[11]、上記[1]~[8]のいずれかに記載の化合物又はその塩を患者に投与する工程、及び、前記患者に中性子線を照射する工程を含む、腫瘍疾患の治療方法。
また、ホウ素とヨウ素の双方を含有する化合物又はその塩をBNCT用の薬剤として用いる場合には、生体内の任意の部位、例えば腫瘍、におけるホウ素濃度を、ホウ素濃度よりも測定が容易なヨウ素濃度を測定し、測定されたヨウ素濃度をホウ素濃度に換算することにより、簡単かつ迅速に得ることができる。すなわち、本発明によれば、さらに以下の[12]が提供される。
[12]、上記[1]~[8]のいずれかに記載の化合物又はその塩を患者に投与する工程、前記患者の腫瘍におけるヨウ素濃度を測定する工程、測定された前記ヨウ素濃度に基づいて腫瘍におけるホウ素濃度を推定する工程、及び、推定された前記ホウ素濃度に基づいて前記患者に中性子線を照射する工程を含む、腫瘍疾患の治療方法。
本発明に係る化合物又はその塩、及びこれらを含有する医薬組成物によれば、生体内のホウ素濃度を、ホウ素濃度よりも測定が容易なヨウ素濃度を測定することにより簡単かつ迅速に得ることができる。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明に係る化合物又はその塩は、上述したとおり、下記式(I)で表されることを特徴とする化合物又はその塩である。
上記式(I)中、Xはホウ素10(10B)を含有する基、Lはリンカー、Yはヨウ素を含有する基を表す。ホウ素10とは、質量数10のホウ素の同位体であり、10Bと表される。天然にはホウ素10(10B)とホウ素11(11B)の2つの安定同位体が存在し、ホウ素10は天然に存在するホウ素の約19.9%、ホウ素11は約80.1%を占める。ホウ素中性子捕捉療法は、これらのホウ素の同位体のうち、10Bが起こす核***反応を用いるものである。
上記式(I)中のXは、10Bを含有する基である限りにおいて、基本的にどのようなものであってもよく、例えば、前述したL-BPA(化合物1a)のように1つのホウ素原子を含む基であってもよいが、2つ以上のホウ素原子を含む基であることが好ましく、3つ以上のホウ素原子を含む基であることがより好ましく、6つ以上のホウ素原子を含む基であることがさらに好ましく、特に、ホウ素クラスターを含む基であることが好ましい。
本明細書において「ホウ素クラスター」とは、主として複数のホウ素原子が集合して形成される多面体構造を有する分子を意味し、好ましくは3~20個のホウ素原子を含有するホウ素クラスターであり、より好ましくは10~20個のホウ素原子を含有するホウ素クラスターであり、さらに好ましくは10~12個のホウ素原子を含有するホウ素クラスターであある。ホウ素クラスターとしては、例えば、Decaborane(B10H14)、Decahydrodecaborate([B10H10]2-)、Dodecaborate([B12H12]2-)、nido,nido-Octadecaborane(22)(B18H22、CAS RN:21107-56-2)のような水素化ホウ素化合物が挙げられるが、これに限定されない。
例えば、ホウ素クラスターは、それを構成する骨格原子として、ホウ素原子以外に炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を含んでいてもよい。ホウ素クラスターが含有するホウ素原子以外の原子の数は、好ましくは0~5個であり、より好ましくは0~2個である。基本骨格にホウ素原子以外の原子を含むホウ素クラスターとしては、例えば、ホウ素原子と炭素原子を含むカルボラン(carborane)が挙げられる。カルボランとしては、例えば、炭素原子を1つ含むcloso-carborane([CB11H12]-)、炭素原子を2つ含むcloso-carborane(C2B10H12)やnido-carborane([C2B9H11]-)、及び、例えば、分子式がM(C2B9H10)2で表されるサンドイッチ型のものなどが知られているが、これらに限定されない。なお、前記分子式において、Mは遷移金属元素を表し、例えば、Fe、Ni、Co、Moなどであり得る。すなわち、ホウ素クラスターは、Fe、Ni、Co、Moなどの遷移金属との金属錯体であってもよい。
本発明に用いられるホウ素クラスターは、基本的にどのようなホウ素クラスターであってもよいが、本発明に係る化合物又はその塩の水への溶解性を高めるという観点からは、イオン性のホウ素クラスター又は水溶性のホウ素クラスターであることが好ましい。イオン性又は水溶性のホウ素クラスターとしては、例えば、下記の構造式で表される、Dodecaborate([B12H12]2-)、チオール基を有するDodecaborate([B12H11SH]2-、BSH)、水酸基を有するDodecaborate([B12H11OH]2-)、アミノ基を有するDodecaborate([B12H11NH3]-)などが知られている。
ある好適な一態様において、上記式(I)におけるXはホウ素クラスターを含む基であり、より好適には、ホウ素クラスターからなる一価の基である。ホウ素クラスターからなる一価の基とは、ホウ素クラスターを構成する任意の一つのHを除いてなる基を意味する。例えば、ホウ素クラスターが前述したDodecaborate([B12H12]2-)である場合には、ホウ素クラスターからなる一価の基は下記式(XI)で表される基である。なお、下記式(XI)において、黒丸はBH、白丸はBを表し、*は隣接する原子との結合手を表す。すなわち、ホウ素クラスターからなる一価の基は、*を介してリンカーLと共有結合している。
本発明に係る化合物又はその塩は、ある好適な一態様において、ホウ素中性子捕捉療法に用いられる。したがって、上記式(I)中のXにおける10Bの同位体比率は、19%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがよりさらに好ましい。ホウ素含有化合物の10Bの同位体比率は、10B含有量を高めたホウ素(10B濃縮ホウ素)を原料として用いることで高めることができる。10B濃縮ホウ素を製造する方法としては、例えば、化学交換蒸留法が知られている。
一方、上記式(I)中のYは、ヨウ素原子を含有する基である。Yは、少なくとも1つ以上のヨウ素原子を含有する限りにおいて、基本的にどのような基であってもよいが、本発明に係る化合物又はその塩のX線CT又は蛍光X線CTにおける造影能を高めるという観点及び/又は本発明に係る化合物又はその塩の脂溶性を高め細胞膜の透過性を向上させるという観点からは、2つ以上のヨウ素原子を含有する基であることが好ましい。
また、本発明に係る化合物又はその塩の脂溶性を高め細胞膜の透過性を向上させるという観点から、上記式(I)中のYは、少なくとも1つ以上のフェニル環を有する基であることが好ましく、例えば、ある好適な一態様において、上記式(I)中のYは、下記式(YI)で表される基であり得る。
上記式(YI)中、R1はハロゲン原子、又は置換されていてもよい一価の有機基を表す。aは、1~5の整数を表す。R1が複数ある場合、それらはそれぞれ独立である。すなわち、R1は全て同一でも異なってもよい。ただし、上記式(YI)で示される構造には、少なくとも1つ以上のヨウ素原子が含まれる。なお、*は、隣接する原子との結合手を表す。
R1において、一価の有機基とは、例えば、炭素原子数1~10の一価の基である。一価の有機基は、基本的にどのようなものであってもよいが、例えば、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、アミノ基、イミノ基、チオアルキル基、アリル基等を挙げることができる。これらの基は、置換基により置換されていてもよい。
本明細書において、「置換されていてもよい」とは、当該基を構成する置換可能な水素原子が置換されていない場合と置換されている場合の双方を含む。置換可能な水素原子が置換されていない場合とは、置換可能な水素原子が全て水素原子であることを意味する。一方、置換可能な水素原子が置換されている場合とは、置換可能な水素原子が、水素原子以外の置換基に置換されていることを意味する。置換基の例としては、例えば、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アセチル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基等が挙げられるが、これらに限定されない。置換基が複数であってもよい。置換基が複数ある場合には、それらの置換基は同一であっても異なっていてもよい。
ある好適な一態様において、上記式(I)中のYは、下記式(YII)で表される基である。
上記式(YII)中、R2はヨウ素原子を表し、R3は、置換されていてもよい一価のアルキル基又は置換されていてもよい一価のハロゲン化アルキル基を表す。bは1~4の整数を表す。*は、隣接する原子との結合手を表す。
R2において、一価のアルキル基とは、例えば、炭素原子数1~10の一価のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~8、さらに好ましくは炭素原子数1~5、よりさらに好ましくは炭素原子数1~2の一価のアルキル基である。
一方、R3において、一価のハロゲン化アルキル基とは、例えば、炭素原子数1~10の一価のハロゲン化アルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~8、さらに好ましくは炭素原子数1~5、よりさらに好ましくは炭素原子数1~2の一価のハロゲン化アルキル基である。アルキル基及びハロゲン化アルキル基は直鎖状であっても分岐構造を有するものであってもよい。ここで、ハロゲン化アルキル基とは、アルキル基に含まれる1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換された基をいう。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及びアンチモン原子が挙げられる。なお、炭素原子数1~10のアルキル基中の1つの水素原子がハロゲン原子に置換されたハロゲン化アルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、2-フルオロエチル基、3-フルオロプロピル基、クロロメチル基、2-クロロエチル基、3-クロロプロピル基、ブロモメチル基、2-ブロモメチル基、3-ブロモプロピル基が挙げられるが、これらに限定されない。一方、炭素原子数1~10のアルキル基中の2つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換されたハロゲン化アルキル基としては、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、テトラフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、テトラクロロエチル基、ペンタクロロエチル基などが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明に係る化合物又はその塩のX線CT又は蛍光X線CTにおける造影能を高めるという観点及び/又は本発明に係る化合物又はその塩の脂溶性を高め細胞膜の透過性を向上させるという観点からは、上記式(YII)で表される基は、2つ以上のヨウ素原子を含有する基であることが好ましく、下記式(YIII)で表される基であることが特に好ましい。なお、下記式(YIII)中、R3は、置換されていてもよい一価のアルキル基又は置換されていてもよい一価のハロゲン化アルキル基を表す。また、*は、隣接する原子との結合手を表す。
また、ある好適な一態様において、上記式(YIII)におけるハロゲン化アルキル基は2-フルオロエチル基である。換言すれば、ある好適な一態様において、式(I)におけるYは下記式(YIV)で表される基である。後述する実験例に示すとおり、下記式(YIV)で表される基を含むホウ素含有化合物を用いることにより、細胞内ホウ素濃度を飛躍的に高めることができる。
また、本発明の化合物はXとYとの間に、リンカーLを有している。本明細書において「リンカー」とは、ホウ素を含有する基であるXとヨウ素を含有する基であるYとを連結する基であり、このような役割を果たすことができる基であれば、基本的にどのようなものであってもよい。例えば、炭素原子、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選ばれる1又は複数の原子から構成される基本骨格を有する二価の基であり得る。より好ましくは、炭素原子、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選ばれる2種以上の原子から構成される複素環を有する二価の基であり得る。
より具体的には、Lは、例えば、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-CH2-、-CH2O-、-OCH2-、-(CH2O)n-、-NHCO-、-CONH-、-OCO-、-COO-、-SCO-、-COS-、-NHCONH-、-NHCOO-、-SCH2CONH-、-SCH2COO-、-Ph-、-OPh-、-PhO-、-SPh-、-PhS-、-NHPh-、-PhNH-、-複素環-、-O-複素環-、-複素環-O-、-O-複素環-O-、-S-複素環-、-複素環-S-、-S-複素環-S-、-NH-複素環-、-複素環-NH-、-NH-複素環-NH-、-S-複素環-O-、-S-複素環-NH-、-O-複素環-S-、-O-複素環-NH-、-NH-複素環-S-、-NH-複素環-O-などであり得るが、これらに限定されない。なお、上記式においてPhは、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン又は1,4-フェニレンを表す。
前述したとおり、ある好適な一態様において、式(I)におけるXはホウ素クラスターからなる一価の基であり、このような基を与える典型的な物質としては、dodecaborate([B12H12]2-)の誘導体であって、チオール基を有するBSH([B12H11SH]2-)、化合物2)が知られている。したがって、ある好適な一態様において、式(I)におけるLは、チオール基とチオール反応性の官能基に由来する基である。このような基としては、チオエーテルを含む基、チオエステルを含む基、又はジスルフィドを含む基が含まれる。より具体的には、例えば、下記式(LI)に記載されるようなチオエーテルを含む基が挙げられるが、これに限定されない。
以上説明したX、Y、Lを有する式(I)で表される化合物の具体例としては、例えば、後述する実験例に示す化合物3a乃至化合物3cが例示されるが、これらに限定されない。
本発明の化合物の塩の種類に特段の制限はなく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩などの金属塩であってもよく、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩などのアンモニウム塩であってもよく、また、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミンなどの有機塩基との塩であってもよい。しかしながら、これらに限定されず、薬学的に許容される塩であれば基本的にどのようなものであってもよい。
本発明に係る化合物又はその塩を含む組成物は、医薬組成物、特に、ホウ素中性子捕捉療法用の医薬組成物として提供され得る。したがって、本発明は、他の一側面において、医薬組成物、特に、ホウ素中性子捕捉療法用の医薬組成物を製造するための本発明に係る化合物又はその塩の使用をも包含する。
本発明に係る化合物又はその塩、及びそれらを含有する医薬組成物は、特に、腫瘍疾患の治療に好適に用いられる。本発明に係る医薬組成物が用いられるホウ素中性子捕捉療法が適用される腫瘍疾患の種類に特段の制限はないが、例えば、脳腫瘍(髄膜腫、神経膠腫、下垂体腫瘍、聴神経腫瘍、多型性膠芽腫など)、悪性黒色腫、頭頸部癌、肺癌、肝臓癌、甲状腺癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、膵臓癌、大腸癌、膀胱癌、髄膜腫、中皮腫、肉腫、胃癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸癌、咽頭癌、喉頭癌などを含む固形癌が含まれる。
本発明に係る化合物又はその塩、及びそれらを含有する医薬組成物の投与方法に特段の制限はなく、適用対象に応じて適宜の投与方法を選択すれば良い。例えば、経口投与、舌下投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与、腫瘍内投与を含む局所投与、点滴投与等が例示されるが、これらに限定されない。
本発明に係る医薬組成物の剤型は特に限定されず、適用対象や投与方法に応じて適宜の剤型とすればよい。例えば、注射剤、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、カプセル剤などの剤型とすることができるが、これらに限定されない。また、用時調整型の製剤としてもよい。本発明に係る医薬組成物は、その剤型や投与方法に応じて、さらに、薬学的に許容される賦形剤、溶媒、結合剤、安定化剤、分散剤等を含んでいてもよいことは言うまでもない。
また、本発明に係る医薬組成物は、さらに、薬物送達剤を含んでいてもよい。ここで、薬物送達剤とは、それを含む医薬組成物の有効成分である化合物又はその塩の薬物動態、より具体的には、血中滞留性、標的組織への分布、又は標的細胞への透過性を、薬物送達剤を含有しない場合と比較して高めることができる化学物質をいう。本発明に係る医薬組成物に配合される薬物送達剤の種類に特段の制限はないが、例えば、脂質、ビタミン、糖質、タンパク質、抗体、ペプチド、ペプチド模倣体、核酸、核酸模倣体、ポリアミン、合成又は天然のポリマー又はオリゴマー、微粒子、並びにそれらの組み合わせが挙げられる。ホウ素含有化合物に用いられる薬物送達剤に関しては、例えば、「福田 寛著「ホウ素化合物を用いる癌の中性子捕捉療法(BNCT)、東北薬科大学研究誌、62、1-11(2015)」「中村浩之著「ホウ素中性子捕捉療法:がん細胞内でα線を発生させる次世代放射線治療、Drug Delivery System 35-2、2020」「Michiue H, et al. Journal of Controlled Release, 330, 788-796(2021)」などに記載されている。
ある好適な一態様において、本発明に係る医薬組成物が含有する薬物送達剤は、細胞透過性ペプチドである。細胞透過性ペプチドは、細胞、特に、ヒト細胞の細胞膜を透過する性質を有するペプチドである。
ある好適な一態様において、本発明に係る医薬組成物が含有する細胞透過性ペプチドは、疎水性アミノ酸残基と塩基性アミノ酸残基を含むペプチドであり得る。疎水性アミノ酸残基と塩基性アミノ酸残基を含むペプチドとしては、例えば、特許文献1や非特許文献2に記載されているAAAAAAK(本明細書において、「A6K」ということもある。なお、AはL-アラニン、KはL-リジンを表す。)及びAAAAAAR(本明細書において、「A6R」ということもある。なお、AはL-アラニン、RはL-アルギニンを表す。)を用いることができる。後述する実験例に示すとおり、本発明に係る化合物又はその塩と、疎水性アミノ酸残基と塩基性アミノ酸残基を含む細胞透過性ペプチドを併用することにより、細胞内ホウ素濃度を飛躍的に高めることができる。前記併用に際し、本発明に係る化合物又はその塩と、疎水性アミノ酸残基と塩基性アミノ酸残基を含む細胞透透過性ペプチドとの割合は適宜、設定できるが、通常、モル比で、20:1~1:10、好適には10:1~1:1、より好適には5:1~1:1の範囲を例示できる。なお、ここで、「~」で示す数値範囲は上限と下限を含む数値範囲を意味する。
本発明に係る化合物又はその塩、並びにそれらを含有する医薬組成物は、ホウ素中性子捕捉療法に好適に用いられる。したがって、本発明は、他の一側面において、本発明に係る化合物又はその塩を含む医薬組成物を患者に投与する工程を含む、腫瘍疾患の治療方法をも包含するものである。本発明に係る腫瘍疾患の治療方法が適用される前記患者は、腫瘍疾患を患うヒト又はヒトを除く動物であり得る。
本発明に係る腫瘍疾患の治療方法は、例えば、本発明に係る化合物又はその塩を含む医薬組成物を、腫瘍疾患を患う患者に投与した後、熱中性子線または熱外中性子線などの低エネルギー中性子線を前記患者に照射することにより行われる。このように、本発明に係る腫瘍疾患の治療方法は、ある好適な一態様において、本発明に係る化合物又はその塩を患者に投与する工程、及び、中性子線を前記患者に照射する工程を含む、腫瘍疾患の治療方法であり得る。
熱中性子線または熱外中性子線などの低エネルギー中性子線の照射は、本発明の化合物又はその塩が治療すべき部位に到達した後に行うことが好ましく、例えば、本発明の化合物又はその塩を投与して、所定の時間が経過した後に行うことができる。しかしながら、本発明の化合物又はその塩は、必ずしも低エネルギー中性子線の照射に先立って投与される必要はなく、低エネルギー中性子線の照射中に投与してもよいし、本発明の化合物又はその塩を投与しながら低エネルギー中性子線を照射してもよい。なお、後述するとおり、本発明の化合物又はその塩の治療すべき部位への集積の程度は、ヨウ素原子濃度をX線CTや蛍光X線CTなどで測定することにより把握することができる。
低エネルギー中性子線の照射方法にも特段の制限はなく、治療対象となる腫瘍の種類、治療すべき部位の位置などに応じて、適宜の手法で照射を行えばよい。例えば、治療対象となる腫瘍が皮膚癌など表面に露出している場合には、直接、その部位に低エネルギー中性子線を照射すればよい。一方、治療対象となる腫瘍が表面に露出していない場合には、皮膚を通して低エネルギー中性子線を照射してもよいし、その部位を完全に又は部分的に露出させて低エネルギー中性子線を照射してもよい。なお、照射される低エネルギー中性子線の種類に特段の制限はないが、例えば、深部に位置する腫瘍を治療するにあたっては、低エネルギー中性子線として、生体内で熱中性子に変わる熱外中性子線が好適に用いられ、特に、エネルギー範囲0.6~40keV程度の熱外中性子線が好適に用いられる。
また、中性子線の照射回数は1回であっても複数回であってもよく、治療対象となる腫瘍疾患の部位や状態に応じて、或いは、対象者の年齢、性別、治療期間などを勘案し、医療従事者が適宜の回数を選択すればよい。
中性子線の発生源は特に限定されず、原子炉を用いてもよいし、サイクロトロン、線形加速器、静電加速器などの加速器を用いてもよいし、それらを組み合わせて用いてもよい。
また、本発明に係る腫瘍疾患の治療方法は、単独の治療として行われてもよいし、外科手術及び/又は化学療法と併用してもよい。
一方、ホウ素とヨウ素を含有する化合物又はその塩は、ホウ素に加えて、X線CTにおける造影剤として機能するヨウ素を含有するため、ホウ素の腫瘍への蓄積量又は分布状態を、ホウ素よりも測定が容易であるヨウ素の腫瘍への蓄積量又は分布状態を測定し、得られたヨウ素濃度をホウ素濃度に換算することによって把握することができる。このように、本発明は、ある他の一側面において、ホウ素とヨウ素を含有する化合物又はその塩を患者に投与する工程、前記患者の腫瘍におけるヨウ素濃度を測定する工程、測定された前記ヨウ素濃度に基づいて前記患者の腫瘍におけるホウ素濃度を推定する工程を含む、腫瘍におけるホウ素濃度の定量方法を提供するものである。ホウ素とヨウ素を含有する上記化合物は、上記[1]~[8]に示したような本発明に係る化合物又はその塩であり得る。また、前記患者は、ヒト又はヒト以外の動物であり得る。腫瘍の種類、化合物の投与方法等については、既に本発明に係る腫瘍疾患の治療方法について述べたと同様である。
本発明に係る腫瘍疾患の治療方法は、上記ホウ素濃度の定量方法を含んでいてもよいことは言うまでもない。すなわち、本発明に係る腫瘍疾患の治療方法は、ある好適な一態様において、本発明に係る化合物又はその塩を患者に投与する工程、前記患者の腫瘍におけるヨウ素濃度を測定する工程、測定された前記ヨウ素濃度に基づいて前記患者の腫瘍におけるホウ素濃度を推定する工程、及び、推定された前記ホウ素濃度に基づいて前記患者に中性子線を照射する工程を含む、腫瘍疾患の治療方法であり得る。推定されたホウ素濃度に基づいて前記患者に中性子線を照射するとは、患者に照射される中性子線の種類、強度、照射時間、回数、照射方向など中性子線の照射条件を、推定されたホウ素濃度に基づいて設定し、設定された照射条件に従って中性子線を患者に照射することを意味する。
ヨウ素濃度を測定する方法はどのようなものであってもよいが、例えば、X線CTを用いることができる。また、X線CTに限らず、蛍光X線CTにより行ってもよい。蛍光X線CTによれば、腫瘍組織をはじめとする生体内におけるヨウ素の分布を、より優れた空間分解能で画像化及び/又は定量評価することができる。
適宜の方法により測定された細胞内ヨウ素濃度は、例えば、以下に示す式に従って細胞内ホウ素濃度に換算することができる。なお、以下の式において「1分子当たりのヨウ素原子数」は、患者に投与されるホウ素とヨウ素を含有する化合物又はその塩の1分子当たりに含まれるヨウ素原子の数を意味し、「1分子当たりのホウ素原子数」は、患者に投与されるホウ素とヨウ素を含有する化合物又はその塩の1分子当たりに含まれるヨウ素原子の数を意味する。
このように本発明に係る化合物又はその塩を用いれば、従来測定が困難であった生体内におけるホウ素濃度を、ホウ素濃度よりも測定が容易なヨウ素濃度の測定値に基づいて精度よく把握することが可能となる。したがって、患者に投与するホウ素含有化合物の投与量、患者に照射する中性子線の線量等の照射条件をより適切に設定することができ、これによりホウ素中性子捕捉療法の治療効果の向上、副作用の低減が期待できる。
なお、本発明に係る化合物又はその塩が含有するヨウ素原子はヨウ素123(123I)であってもよく、本発明に係る化合物又はその塩が、123Iを含有する場合には、ヨウ素或いは本発明に係る化合物又はその塩の腫瘍組織への蓄積量をSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)を用いて測定、可視化してもよい。
また、本発明に係る化合物又はその塩が、フッ素を含む化合物又はその塩である場合には、そのフッ素原子は18Fであってもよい。本発明に係る化合物又はその塩が18Fを含む場合には、PET(Positron Emission Tomography)によって、本発明に係る化合物又はその塩の腫瘍組織への蓄積量を測定してもよい。
本明細書において引用されたすべての文献の開示内容は、全体として明細書に参照により組み込まれる。また、本明細書全体において、単数形の「a」、「an」、および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものを含むものとする。
以下、具体例を参照しながら本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの具体例に限定されない。
(実験1) 化合物の合成
(実験1-0)方法及び機器の説明
以下に示す合成反応において、全ての反応の進行状況は、0.2 mm厚のTLCプレート(Merck社製;ガラスバック、製品名「TLCガラスプレート シリカゲル60 F254」)を用いてモニターした。
フラッシュカラムクロマトグラフィーにはシリカゲル60(粒子径0.035-0.070mm)を用いた。
1H NMRおよび13C NMRスペクトルは、Varian VXR-400分光器(1H 400 MHz,13C 100 MHz)を用いて,室温にて測定した。NMR溶媒としては、後述するとおり、重水素化クロロホルム(CDCl3)、メタノール-d4(CD3OD)、又はアセトニトリル-d3(CD3CN)を使用した。また、ケミカルシフトは、重水素化溶媒のピーク(CDCl3:1H δ 7.26 ppm,13C δ 77.11 ppm,CD3OD: 1H δ 3.31 ppm,13C δ 49.00 ppm,CD3CN:1H δ 1.94 ppm,13C δ 1.32および118.26 ppm)に対する相対的なppmで示した。カップリング定数の単位はHzである。
融点は柳本製作所のホットステージ式融点測定装置で測定し、無補正で表示した。
以下に示す合成反応において、全ての反応の進行状況は、0.2 mm厚のTLCプレート(Merck社製;ガラスバック、製品名「TLCガラスプレート シリカゲル60 F254」)を用いてモニターした。
フラッシュカラムクロマトグラフィーにはシリカゲル60(粒子径0.035-0.070mm)を用いた。
1H NMRおよび13C NMRスペクトルは、Varian VXR-400分光器(1H 400 MHz,13C 100 MHz)を用いて,室温にて測定した。NMR溶媒としては、後述するとおり、重水素化クロロホルム(CDCl3)、メタノール-d4(CD3OD)、又はアセトニトリル-d3(CD3CN)を使用した。また、ケミカルシフトは、重水素化溶媒のピーク(CDCl3:1H δ 7.26 ppm,13C δ 77.11 ppm,CD3OD: 1H δ 3.31 ppm,13C δ 49.00 ppm,CD3CN:1H δ 1.94 ppm,13C δ 1.32および118.26 ppm)に対する相対的なppmで示した。カップリング定数の単位はHzである。
融点は柳本製作所のホットステージ式融点測定装置で測定し、無補正で表示した。
また、各工程において合成した化合物の純度は、分析用HPLCにて確認した。本実験で使用したHPLCシステムは、LC-20ATポンプ、SPD-20A紫外可視分光光度計、CTO-10ASvpカラムオーブン、およびLabSolutionsソフトウェアから構成される株式会社島津製作所製の液体クロマトグラフィーシステムである。サンプル(各20μL)は、リン酸緩衝液(pH2)を移動相とし、40℃でガードカラムを備えたInertsil ODS-3カラム(4.6 i.d.×100 mm, 3μm, GL Sciences)に注入した。流速は0.7 mL/minで、230 nmの吸光度をモニターした。溶媒はすべて分析グレードのものを精製することなく使用した。HPLCで確認したところ、試験したすべての化合物の純度は95%以上であった。
(実験1-1) 2,6-ジイオド-4-ニトロフェノール(化合物5)の合成
2,6-ジイオド-4-ニトロフェノール(化合物5)の合成は、Thomas M. Beale et al. ACS. Med. Chem. Lett. 2012, 3, 177-181.に記載の方法に従って行った。すなわち、亜塩素酸ナトリウム(約80%、1.6 g、14 mmol)とヨウ化ナトリウム(4.3 g、29 mmol)をH2O(100 mL)に溶解し,氷浴上で溶液を冷却した(当該溶液を「溶液A」という。)。次に、4-ニトロフェノール(1.0 g、7.19 mmol、化合物4)をメタノール(100 mL)に溶解し、氷浴上で冷却した(当該溶液を「溶液B」という。)。溶液Aに、溶液Bと濃縮塩酸(1.34 mL)を、アルゴン雰囲気下、氷浴上で加えた後、反応混合物を室温で24時間撹拌した。反応混合物をpH3に調整し、酢酸エチル(100 mL×2)で抽出した。有機層を回収し、Na2S2O3飽和水溶液(50 mL)で洗浄した。さらに、有機層をH2O(50 mL×2)、ブライン(50 mL)で洗浄し、減圧下で溶媒留去した。その後、酢酸エチルより再結晶を行い、化合物5(2.57 g、 7.06 mmol、収率98%)を黄色の固体として得た。また、酢酸エチルより再結晶を施すことで、化合物5の黄色針状晶を得た。得られた化合物5の1H NMR測定結果は次のとおりである:1H NMR(CDCl3、 400 MHz) δ: 8.60(2H,s),6.38(1H,s)。
(実験1-2) 1,3-ジイオド-2-メトキシ-5-ニトロベンゼン(化合物6a)の合成
1,3-ジイオド-2-メトキシ-5-ニトロベンゼン(化合物6a)の合成は、Thomas M. Beale et al. ACS. Med. Chem. Lett. 2012, 3, 177-181.に記載の方法に従って行った。すなわち、2,6-ジイオド-4-ニトロフェノール(化合物5)(1.35 g,3.46 mmol)をアセトン(20 mL)に溶解し、炭酸カリウム(1.43 g,10.4 mmol)および硫酸ジメチル(0.98 mL,10.4 mmol)を加えた。この反応混合物を19時間還流させた。氷浴上の反応混合物にアンモニア水(28% in water, 10 mL)を加え、10分間撹拌した。反応混合物を酢酸エチル(100 mL×2)で抽出した。有機層を回収し、ブライン(50 mL)で洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、減圧下で溶媒留去し、化合物6a(1.26 g,3.12 mmol,収率91%)を白色固体として得た。得られた化合物6aの1H NMR測定結果は次のとおりである:1H NMR(CDCl3、 400 MHz) δ: 8.64(2H,s), 3.94(3H,s)。
(実験1-3) 1,3-ジイオド-2-エトキシ-5-ニトロベンゼン(化合物6b)の合成
1,3-ジイオド-2-エトキシ-5-ニトロベンゼンの合成は、上述した化合物6aの合成方法に準じて行った。すなわち、化合物5(586 mg,1.50 mmol)をアセトン(10 mL)に溶解し、炭酸カリウム(622 mg,4.50 mmol)および硫酸ジエチル(588 μL,4.50 mmol)を加えた。反応混合物を18時間還流した。氷浴上の反応混合物にアンモニア水(28% in water, 10 mL)を加え、10分間撹拌した。反応混合物をEtOAc(50 mL×2)で抽出した。有機層を回収し、ブライン(50 mL)で洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、減圧下で溶媒留去し固体を658 mg得た。この固体をEtOAc/n-Hexane=1/20の溶離液を用いたクロマトグラフィーで精製し、化合物6b(534mg,1.27mmol,収率85%)を黄色の固体として得た。得られた化合物6bの1H NMR測定結果は次のとおりである:1H NMR(CDCl3、 400 MHz) δ: 8.64(2H,s),4.13 (2H,q,J=6.8 Hz), 1.58(3H,t,J=6.8 Hz)。
(実験1-4) 4-アミノ-2,6-ジイオドフェノール(化合物7)の合成
4-アミノ-2,6-ジイオドフェノール(化合物7)の合成は、2,6-ジイオド-4-ニトロフェノール(化合物5)のニトロ基の還元反応により行った。すなわち、化合物5(1.17 g,3.00 mmol)をエタノール(15 mL)と酢酸エチル(15 mL)の混合溶液に溶解し、次いで塩化スズ(II)(2.84 g, 15.0 mmol)を加えた。反応混合物を70℃で18時間撹拌した。反応混合物にNaHCO3飽和水溶液(20 mL)を加え、セライトでろ過した。濾液を酢酸エチル(50 mL×2)で抽出した。有機層を回収し、ブライン(40 mL)で洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、減圧下で溶媒留去し、酢酸エチルより再結晶を行うことで、化合物7(883 g,2.45 mmol,収率82%)を黄色の固体として得た。得られた化合物7の1H NMR測定結果は次のとおりである:1H NMR(CDCl3、 400 MHz) δ: 7.15(2H,s)。
(実験1-5) 1,3-ジイオド-2-メトキシ-5-アミノベンゼン(化合物8a)の合成
1,3-ジイオド-2-メトキシ-5-アミノベンゼン(化合物8a)の合成は、1,3-ジイオド-2-メトキシ-5-ニトロベンゼン(化合物6a)のニトロ基の還元反応により行った。化合物6a(802 mg, 1.99 mmol)をエタノール(10 mL)と酢酸エチル(10 mL)の混合溶液に溶解し、次いで塩化スズ(II)(1.886 g, 9.95 mmol)を加えた。反応混合物を70℃で6.5時間撹拌した。反応混合物にNaHCO3飽和水溶液(20 mL)を加え、セライトでろ過した。濾液を酢酸エチル(40 mL×2)で抽出した。有機層を回収し、ブライン(50 mL×2)で洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、減圧下で溶媒留去し、酢酸エチルより再結晶を行うことで、化合物8a(756 mg, 1.99 mmol, q.y.)を固体として得た。得られた化合物8aは、そのまま、次の工程に用いた。
(実験1-6) 1,3-ジイオド-2-エトキシ-5-アミノベンゼン(化合物8b)の合成
1,3-ジイオド-2-エトキシ-5-アミノベンゼン(化合物8b)の合成は、1,3-ジイオド-2-エトキシ-5-ニトロベンゼン(化合物6b)のニトロ基の還元反応により行った。すなわち、化合物6b(419 mg, 1.0 mmol)をエタノール(5 mL)と酢酸エチル(5 mL)の混合溶液に溶解し、次いで塩化スズ(II)(948 mg,5.0 mmol)を加えた。反応混合物を70℃で2.5時間撹拌した。反応混合物にNaHCO3飽和水溶液(10 mL)を加え、セライトでろ過した。濾液を酢酸エチル(40 mL×2)で抽出した。有機層を回収し、ブライン(50 mL×2)で洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、減圧下で溶媒留去し、酢酸エチルより再結晶を行うことで、化合物8b(376 mg, 0.97 mmol, 収率97%)を固体として得た。得られた化合物8bは、そのまま、次の工程に用いた。
(実験1-7) 2-(2-フルオロエトキシ)-1,3-ジイオド-5-アミノベンゼン(化合物8c)の合成
化合物7(310 mg、0.86 mmol)をアセトン(9 mL)に溶解し、炭酸カリウム(238 mg、1.72 mmol)と1-フルオロ-2-ヨードエタン(83 μL、1.03 mmol)を加えた。反応混合物を室温で21時間撹拌した。水(50 mL)を反応混合物に注ぎ、酢酸エチル(40 mL×3)で抽出した。有機層を回収し、水(30 mL×2)で洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、減圧下で溶媒留去し、化合物8c(306 mg、0.75 mmol、収率87%)を緑色の固体として得た。得られた化合物8cの1H NMR及び13C NMRの測定結果は次のとおりである:1H NMR(CD3OD,400 MHz) δ:7.14(2H,s),4.77(2H,dt,J=47.6,4.0 Hz),4.12(2H,dt,J=47.6,4.0 Hz);13C NMR(CD3OD,100 MHz) δ:148.36, 147.28, 125.13,89.48, 83.06, 81.37, 71.97, 71.77。
(実験1-8) 1-(3,5-ジイオド-4-メトキシフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン(化合物9a)の合成
1-(3,5-ジイオド-4-メトキシフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン(化合物9a)の合成は、Hongjuan Tong et al. Chem. Common., 2017, 53, 3583-3586.に記載されている手法にしたがって行った。まず、化合物8a(781 mg,2.00 mmol)のアセトン溶液(25 mL)に、無水マレイン酸(235 mg,2.40 mmol)を加えた。この反応混合物を30℃で6.5時間撹拌した後、減圧下で溶媒留去した。ついで、酢酸ナトリウム(197 mg,2.40 mmol)と無水酢酸(25 mL)を加え、アルゴン雰囲気下、75℃で15時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、析出した固体を回収した。この固体をEtOAc/n-Hexane=1/5の溶離液を用いたクロマトグラフィーで精製し、酢酸エチルより再結晶することで、化合物9a(634 mg,1.39 mmol,収率70%)を黄色固体として得た。得られた化合物9aの1H NMR及び13C NMRの測定結果は次のとおりである:1H NMR(CDCl3, 400 MHz) δ:7.78(2H,s), 6.86(2H,s),3.88(3H,s);13C NMR(CDCl3, 100 MHz) δ: 168.88, 158.74, 137.12, 134.47, 129.18, 89.94, 60.92。
(実験1-9) 1-(3,5-ジイオド-4-エトキシフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン(化合物9b)の合成
1-(3,5-ジイオド-4-エトキシフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオンは、上述した化合物9aの合成方法に準じて合成した。すなわち、無水マレイン酸(114 mg、1.17 mmol)を、化合物8b(376 mg、0.97 mmol)のアセトン溶液(10 mL)に加えた。この反応混合物を室温で14時間撹拌した後、減圧下で溶媒留去した。ついで、酢酸ナトリウム(96 mg、1.17 mmol)と無水酢酸(10 mL)を加えた。アルゴン雰囲気下、75℃で24時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、析出した固体を回収して、化合物9b(318 mg,0.68 mmol, 収率:70%)を白色固体として得た。得られた化合物9bの1H NMR及び13C NMRの測定結果は次のとおりである:1H NMR(CDCl3, 400 MHz) δ:7.77(2H,s), 6.86(2H,s),4.06(2H,q,J=7.0 Hz),1.54(3H,t,J=7.0 Hz);13C NMR(CDCl3, 100 MHz) δ:168.75, 157.86, 136.90, 134.29, 128.76, 90.24, 69.48, 15.47。
(実験1-10) 1-(4-(2-フルオロエトキシ)-3,5-ジイオドフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン(化合物9c)の合成
無水マレイン酸(0.11 g,1.17 mmol)を、化合物8c(293 mg,0.72 mmol)のアセトン溶液(8 mL)に加えた。この反応混合物を室温で16時間撹拌し後、減圧下で溶媒留去し、緑色の固形物を389 mgで得た。ついで、酢酸ナトリウム(70 mg,0.86 mmol)と無水酢酸(8 mL)を加えた。アルゴン雰囲気下、75℃で2時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、析出した固体を回収して、化合物9c(241 mg, 0.495 mmol,収率69%)を白色固体として得た。得られた化合物9cの1H NMRの測定結果は次のとおりである:1H NMR(CDCl3, 400 MHz)δ: 7.81(2H,s),6.87(2H,s),4.88(2H,dt,J=4.0,4.7 Hz),4.28(2H,dt,J=4.0,4.7 Hz)。
(実験1-11) 化合物3a(BS-DIP-OMe)の合成
化合物9a(455 mg,1.00 mmol)をクロロホルム(10 mL)とアセトニトリル(10 mL)に溶解し、硫酸マグネシウム(10 mg)、次にn-BSH(220 mg, 1.00 mmol)を加えた。反応混合物を60℃で72時間撹拌した。濾過後、溶媒を減圧下で除去し、残渣をEtOAc/n-Hexane=1/5の溶離液を用いたクロマトグラフィーで精製し、化合物3a(439 mg,0.65 mmol,収率65%)を黄色固体として得た。得られた化合物3aの1H NMRの測定結果は次のとおりである:1H NMR (CD3CN,400 MHz) δ:7.78(2H,s),3.90(1H,dd,J=8.0,4.0 Hz),3.85(3H,s),3.25(1H,dd,J=19.0,8.6 Hz),3.11(1H,dd,J=19.0,4.0 Hz),1.80-0.50(11H,br)。また、HPLCで測定した化合物3aの純度は97%であった(HPLC測定条件:溶離液20 mM phosphate buffer/H2O=50/50;カラム:ODS-3;検出波長:230 nm;温度:40℃;保持時間2.566分)。
(実験1-12) 化合物3b(BS-DIP-OEt)の合成
化合物9b(305 mg,0.65 mmol)をクロロホルム(5 mL)とアセトニトリル(5 mL)に溶解し、硫酸マグネシウム(10 mg)、次にn-BSH(143 mg,0.65 mmol)を加えた。反応混合物を60℃で38時間撹拌した。濾過後、溶媒を減圧下で除去し、残渣をEtOAc/n-Hexane=1/5の溶離液を用いたクロマトグラフィーで精製し、化合物3b(240 mg,0.35 mmol,収率54%)を白色固体として得た。また、EtOH/DCMより再結晶を施し、白色針状晶を得た。得られた化合物3bの1H NMRの測定結果は次のとおりである:1H NMR (CD3CN,400 MHz)δ:7.75(2H,s),4.03(2H,q,J=7.0 Hz),3.88(1H,dd,J=8.8,4.0 Hz),3.25(1H,dd,J=16.0, 8.8 Hz),3.07(1H,dd,J=16.0,4.0 Hz),1.46(3H,t,J=7.0 Hz),1.70-0.50(11H,br)。また、HPLCで測定した化合物3bの純度は96%であった(HPLC測定条件:溶離液10 mM phosphate buffer;カラム:ODS-3;検出波長:230 nm;温度:40℃;保持時間8.893分)。また、得られた化合物3bの融点は252.1-263.5℃であった。
(実験1-13) 化合物3c(BS-DIP-OEF)の合成
化合物9c(213 mg,0.436 mmol)をクロロホルム(4.36 mL)とアセトニトリル(4.36 mL)に溶解し、硫酸ナトリウム(310 mg,2.18 mmol)、n-BSH(92 mg,0.436 mmol)を加えた。反応混合物を60℃で17時間撹拌した。濾過後、溶媒を減圧下で除去し、残渣をMeOH/DCM=1/8の溶離液を用いたクロマトグラフィーで精製し、化合物3c(113 mg,0.16 mmol,収率:37%)を白色固体として得た。得られた化合物3cの1H NMRの測定結果は次のとおりである:1H NMR (CD3CN, 400 MHz) δ:7.80(2H,s),4.85(2H,dt,J=47.0,4.0 Hz),4.27(2H,dt,J=30.0,4.0 Hz),3.92(1H,dd,J=8.6,4.0 Hz),3.27(1H,dd,J=19.0,8.6 Hz),3.14(1H,dd,J=19.0,4.0 Hz),1.70-0.50(11H,br)。また、HPLCで測定した化合物3bの純度は95%であった(HPLC測定条件:溶離液 アセトニトリル/過塩素酸ナトリウム(50 mM)バッファー=65/35;カラム:ODS-3;検出波長:230 nm;温度:40℃;保持時間1.446分)。
(実験2) 細胞内取り込み濃度の測定
(実験2-1) ホウ素含有化合物を含むストック溶液Aの調製
化合物3c(BS-DIP-OEF(F.W. 698.16))を14.04mg、2mLエッペンドルフチューブに量り取った。なお、化合物3cをはじめ、本実験で用いるホウ素含有化合物は吸湿性に富むことから、これらの化合物の秤量は、窒素雰囲気、湿度40%以下に調整されたグローブボックス内にて行った。なお、グローブボックス内で化合物3cを秤量する前に、グローブボックス外の精密天秤にて予め空の2 mLエッペンドルフチューブの重さ(風袋)を測っておき、グローブボックス内で当該エッペンドルフチューブに化合物3cを量り取った。量り取った化合物3cを含むエッペンドルフチューブの重さを、グローブボックス外の精密天秤にて測り、秤量前後での重さの増加分を量り取った化合物3cの重さとした。
化合物3c(BS-DIP-OEF(F.W. 698.16))を14.04mg、2mLエッペンドルフチューブに量り取った。なお、化合物3cをはじめ、本実験で用いるホウ素含有化合物は吸湿性に富むことから、これらの化合物の秤量は、窒素雰囲気、湿度40%以下に調整されたグローブボックス内にて行った。なお、グローブボックス内で化合物3cを秤量する前に、グローブボックス外の精密天秤にて予め空の2 mLエッペンドルフチューブの重さ(風袋)を測っておき、グローブボックス内で当該エッペンドルフチューブに化合物3cを量り取った。量り取った化合物3cを含むエッペンドルフチューブの重さを、グローブボックス外の精密天秤にて測り、秤量前後での重さの増加分を量り取った化合物3cの重さとした。
次いで、化合物3cを量り取った2mLエッペンドルフチューブ中に、滅菌Milli-Q水を1005.5 μL加えて、化合物3cの濃度が20 mMの溶液を調製した。得られた溶液は、超音波水浴に10分かけ、0.2 μmの滅菌フィルターにより滅菌状態とした。Milli-Q水にて2倍に希釈し、化合物3cの濃度を10 mMとしたものをストック溶液Aとした。
化合物3cについて説明した上記手順にしたがって、化合物3a、3b及びn-BSHについても同様に、濃度10mMのストック溶液Aを調製した。
(実験2-2) 細胞処置液の調製
従来のホウ素クラスターBSH(n-BSH)とホウ素含有化合物(化合物3a、3b、3c)の濃度が、1,000 μM(1 mM)となるようにストック溶液A、Milli-Q水、及びRPMI培地(RPMI-1640(シグマアルドリッチ、カタログ番号:R8758)、supplemented with 10% fetal bovine serum (FBS)、0.5% antibiotics(penicillin 50,000 U/L、streptomycin 50,000 μg/L))を混合し、細胞処置液1~4を調製した。細胞処置液の調製は、15mL遠沈管に、ホウ素含有化合物を含むストック溶液A、Milli-Q水、及びRPMI培地をこの順番で加えることにより行った。また、この際、ストック溶液A及びMilli-Q水を混合した後、30℃を超えないように氷で冷却しながら超音波水浴に10分間かけた後に、RPMI培地を加えた。各細胞処置液はそれぞれ4 mLずつ調製した。計4mLの細胞処置液を調製するのに混合した各溶液の添加量は以下の表1に示すとおりである。
従来のホウ素クラスターBSH(n-BSH)とホウ素含有化合物(化合物3a、3b、3c)の濃度が、1,000 μM(1 mM)となるようにストック溶液A、Milli-Q水、及びRPMI培地(RPMI-1640(シグマアルドリッチ、カタログ番号:R8758)、supplemented with 10% fetal bovine serum (FBS)、0.5% antibiotics(penicillin 50,000 U/L、streptomycin 50,000 μg/L))を混合し、細胞処置液1~4を調製した。細胞処置液の調製は、15mL遠沈管に、ホウ素含有化合物を含むストック溶液A、Milli-Q水、及びRPMI培地をこの順番で加えることにより行った。また、この際、ストック溶液A及びMilli-Q水を混合した後、30℃を超えないように氷で冷却しながら超音波水浴に10分間かけた後に、RPMI培地を加えた。各細胞処置液はそれぞれ4 mLずつ調製した。計4mLの細胞処置液を調製するのに混合した各溶液の添加量は以下の表1に示すとおりである。
(実験2-3) 細胞培養・化合物処置・細胞溶解液の調製
マウスメラノーマ細胞であるB16/BL6細胞(理化学研究所より購入、細胞番号:RCB2638)を、35mmディッシュ(Falcon セルカルチャーディッシュ、製品番号:353001)に細胞数が60×104cells/2mLとなるように播種し、5%CO2、37℃の条件で48時間培養した。その後、各ディッシュから培地を1mLずつ除去し、上で調製した細胞処置液1~4を1mL添加した。表1に示したとおり、細胞処置液2~4を添加したディッシュにおけるホウ素含有化合物の濃度は、およそ500μM(0.5mM)である。5%CO2、37℃の条件で2時間インキュベートした後、ディッシュ中の培地を可能な限りアスピレーターで除去し、冷却した生理食塩水(1 mL、株式会社大塚製薬製、以下同じ。)を用いて、常法に従って洗浄した。その後に、各ディッシュに冷却した生理食塩水1mLを加え、スクレーパーを用いて各ディッシュから細胞を剥離し懸濁させた。このようにして得られた懸濁液から、10μLをとり、トリパンブルーにて2倍希釈し、血球計算盤を用いて細胞数をカウントした。一方、各ディッシュにつき、残りの懸濁液全量を2mLエッペンドルフチューブに移し、4℃、1,800rpmの条件で3min遠心し、遠心後、上清を取り除いた。その後、RIPA Buffer(富士フィルム和光純薬株式会社、カタログ番号:182-02451)を0.5mLずつ加え、数回ピペッティングした。10分間、氷上でインキュベートし、細胞を溶解し、細胞溶解液(ライセート)を得た。得られた細胞溶解液は4℃で保存した。また、得られた細胞溶解液のタンパク定量は、BCA Protein Assay Kit(タカラバイオ株式会社製)を用いて行なった。
マウスメラノーマ細胞であるB16/BL6細胞(理化学研究所より購入、細胞番号:RCB2638)を、35mmディッシュ(Falcon セルカルチャーディッシュ、製品番号:353001)に細胞数が60×104cells/2mLとなるように播種し、5%CO2、37℃の条件で48時間培養した。その後、各ディッシュから培地を1mLずつ除去し、上で調製した細胞処置液1~4を1mL添加した。表1に示したとおり、細胞処置液2~4を添加したディッシュにおけるホウ素含有化合物の濃度は、およそ500μM(0.5mM)である。5%CO2、37℃の条件で2時間インキュベートした後、ディッシュ中の培地を可能な限りアスピレーターで除去し、冷却した生理食塩水(1 mL、株式会社大塚製薬製、以下同じ。)を用いて、常法に従って洗浄した。その後に、各ディッシュに冷却した生理食塩水1mLを加え、スクレーパーを用いて各ディッシュから細胞を剥離し懸濁させた。このようにして得られた懸濁液から、10μLをとり、トリパンブルーにて2倍希釈し、血球計算盤を用いて細胞数をカウントした。一方、各ディッシュにつき、残りの懸濁液全量を2mLエッペンドルフチューブに移し、4℃、1,800rpmの条件で3min遠心し、遠心後、上清を取り除いた。その後、RIPA Buffer(富士フィルム和光純薬株式会社、カタログ番号:182-02451)を0.5mLずつ加え、数回ピペッティングした。10分間、氷上でインキュベートし、細胞を溶解し、細胞溶解液(ライセート)を得た。得られた細胞溶解液は4℃で保存した。また、得られた細胞溶解液のタンパク定量は、BCA Protein Assay Kit(タカラバイオ株式会社製)を用いて行なった。
細胞内ホウ素濃度及び細胞内ヨウ素濃度の測定は、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)により行った。具体的な手順は以下に示すとおりである。
まず、上述した手順で得た細胞溶解液の全量を0.5mLシリンジに取り、シリンジフィルター(Millex Syringe Filter(0.22 μm)、メルク株式会社製)を装着してろ過し、ろ過サンプルを1.5mLエッペンドルフチューブに得た。得られたろ過サンプルのうち20μLを別のエッペンドルフチューブに取り分け、ここにLCMS用展開溶媒180μLを加え、10倍希釈した。希釈したサンプルをオートサンプラー用サンプルカップに100μL分注した。なお、展開溶媒の組成は次のとおりである:5 mM DHAA アセトニトリル溶液/5 mM DHAA Milli-Q水溶液=65/35;DHAA(Dihexylammonium acetate、CAS RN:366793-17-1)は東京化成工業株式会社より購入したもの(製品コード:A5705)を、アセトニトリルはメルク株式会社より購入したもの(製品コード:114291)を用いた。
一方、検量線用の化合物溶液として、化合物3a乃至3cを10,000、1,000、100、10、1、0.1nMを目安に展開溶媒に溶解し、各化合物について検量線用希釈系列を作製した。なお、各サンプルについて測定された化合物濃度が上記範囲内に収まらない場合は、その濃度が検量線用希釈系列の濃度範囲内に収まるように、追加の検量線用希釈系列を作製した。
LC-MSシステムとしては、LC-20ADポンプ、SPD-20AV UV-Vis分光光度検出器、およびCTO-20ACカラムオーブン(株式会社島津製作所)で構成されるAPI4000 LC-MS/MSシステム(Applied Biosystem社、トロント、オンタリオ州、カナダ)を用いた。なお、測定条件は次のとおりである:展開溶媒 5 mM DHAA アセトニトリル溶液/5 mM DHAA Milli-Q水溶液=65/35;流速 0.2 mL/min;UV 230 nm;オートサンプラー温度 15℃;カラムオーブン温度 40℃;カラム Tosoh ODS-100V、5 cm。
各サンプルについて、得られた化合物3a乃至3cのピークと検量線に基づいて、細胞内化合物濃度を得た。得られた細胞内化合物濃度に基づいて、各サンプルにおける細胞内ホウ素濃度及び細胞内ヨウ素濃度を得た。
以上のようにして得られた各サンプルの細胞内ホウ素濃度の測定結果を図2に示す。なお、図2において、測定結果は、各サンプルについて独立した3回の試験から得られた値の平均値±標準偏差として示した。
図2に示すとおり、化合物3a(細胞処置液2)、化合物3b(細胞処置液3)及び化合物3c(細胞処置液4)はいずれも細胞内に取り込まれ、特に、化合物3aおよび化合物3bと比較して、フッ素を有する化合物3cが約40ppmと顕著に高い細胞内ホウ素濃度を与えた。なお、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)においては20乃至40ppm程度の細胞内ホウ素濃度が要求されるところ、BSHを単独で用いても、20乃至40ppmの細胞内ホウ素濃度は得られないことが報告されている(例えば、非特許文献2:Journal of Controlled Release, 330, 788-796(2021))。これに対して、フッ素を含有する化合物3cが、処置濃度500μMというBNCT用ホウ素薬剤としては著しく低い濃度で使用した場合であっても、約40ppmという高い細胞内ホウ素濃度を与えたことは驚くべき顕著な効果といえる。以上の結果から、化合物3cは、細胞内ホウ素濃度を高める、特に優れた作用を有していることが示された。
(実験3) 細胞透過性ペプチドとの併用実験
以上のように化合物3cを用いることにより、化合物3a及び化合物3b並びに従来のホウ素クラスターBSHと比較して高い細胞内ホウ素濃度を達成することができた。そこで、化合物3cについて、化合物3cを単独で用いるだけでなく、ホウ素クラスターの細胞内取り込みを高める効果があることが報告されている細胞透過性ペプチドA6Kペプチド(例えば、特許掲載公報第6548060号、Journal of Controlled Release, 330, 788-796(2021))との併用について検討した。
以上のように化合物3cを用いることにより、化合物3a及び化合物3b並びに従来のホウ素クラスターBSHと比較して高い細胞内ホウ素濃度を達成することができた。そこで、化合物3cについて、化合物3cを単独で用いるだけでなく、ホウ素クラスターの細胞内取り込みを高める効果があることが報告されている細胞透過性ペプチドA6Kペプチド(例えば、特許掲載公報第6548060号、Journal of Controlled Release, 330, 788-796(2021))との併用について検討した。
(実験3-1) 細胞透過性ペプチドA6Kを含むストック溶液Bの調製
A6Kペプチド塩酸塩(Ac-A6-K-NH2・HCl、株式会社バイオロジカにて受託合成、FW=613.71+36.46=650.17、AはL-アラニン、KはL-リジンを表す。)(8.912 mg、0.005 mmol)を2mLエッペンドルフチューブに量り取った。なお、A6Kペプチド塩酸塩は静電気が発生しやすいため、A6Kペプチド塩酸塩を量り取る際は、薬包紙の上で量り取った。A6K塩酸塩を量り取った2mLエッペンドルフチューブ中に、クリーンベンチ内で滅菌Milli-Q水を1370.72 μL加えて、濃度10 mMの溶液とした。なお、A6K塩酸塩を溶解する際は、超音波水浴を用いて、完全に溶解させるようにした。得られた溶液は、0.2μmの滅菌フィルターにより滅菌状態とした。これは細菌などによるA6Kペプチドの分解を避けるためである。このようにして得られた溶液をストック溶液Bとした。ストック溶液Bは、4℃で保管し、使用前には再度超音波水浴にかけてから使用した。
A6Kペプチド塩酸塩(Ac-A6-K-NH2・HCl、株式会社バイオロジカにて受託合成、FW=613.71+36.46=650.17、AはL-アラニン、KはL-リジンを表す。)(8.912 mg、0.005 mmol)を2mLエッペンドルフチューブに量り取った。なお、A6Kペプチド塩酸塩は静電気が発生しやすいため、A6Kペプチド塩酸塩を量り取る際は、薬包紙の上で量り取った。A6K塩酸塩を量り取った2mLエッペンドルフチューブ中に、クリーンベンチ内で滅菌Milli-Q水を1370.72 μL加えて、濃度10 mMの溶液とした。なお、A6K塩酸塩を溶解する際は、超音波水浴を用いて、完全に溶解させるようにした。得られた溶液は、0.2μmの滅菌フィルターにより滅菌状態とした。これは細菌などによるA6Kペプチドの分解を避けるためである。このようにして得られた溶液をストック溶液Bとした。ストック溶液Bは、4℃で保管し、使用前には再度超音波水浴にかけてから使用した。
(3-2) 細胞処置液の調製
A6Kペプチド/ホウ素含有化合物(化合物3c)の濃度が、それぞれ0 μM/1,000 μM、50 μM/1,000 μM、100 μM/1,000 μM、200 μM/1,000μ mMとなるようにストック溶液A、ストック溶液B、Milli-Q水、及びRPMI培地(RPMI-1640(シグマアルドリッチ、カタログ番号:R8758)、supplemented with 10% fetal bovine serum (FBS)、0.5% antibiotics(penicillin 50,000 U/L、streptomycin 50,000 μg/L))を混合し、細胞処置液5~7を調製した。なお、細胞処置液5~7の調製は、15mL遠沈管に、ホウ素含有化合物(化合物3c)を含むストック溶液A、A6Kペプチドを含むストック溶液B、Milli-Q水、及びRPMI培地をこの順番で加えることにより行った。また、この際、ストック溶液A、ストック溶液B及びMilli-Q水を混合した後、30℃を超えないように氷で冷却しながら超音波水浴に10分間かけた後に、RPMI培地を加えた。なお、各細胞処置液はそれぞれ4 mLずつ調製した。計4mLの細胞処置液を調製するのに混合した各溶液の添加量は以下の表2に示すとおりである。比較対象である細胞処置液1及び細胞処置液4の調製方法については、表1から抜粋して再掲した。
A6Kペプチド/ホウ素含有化合物(化合物3c)の濃度が、それぞれ0 μM/1,000 μM、50 μM/1,000 μM、100 μM/1,000 μM、200 μM/1,000μ mMとなるようにストック溶液A、ストック溶液B、Milli-Q水、及びRPMI培地(RPMI-1640(シグマアルドリッチ、カタログ番号:R8758)、supplemented with 10% fetal bovine serum (FBS)、0.5% antibiotics(penicillin 50,000 U/L、streptomycin 50,000 μg/L))を混合し、細胞処置液5~7を調製した。なお、細胞処置液5~7の調製は、15mL遠沈管に、ホウ素含有化合物(化合物3c)を含むストック溶液A、A6Kペプチドを含むストック溶液B、Milli-Q水、及びRPMI培地をこの順番で加えることにより行った。また、この際、ストック溶液A、ストック溶液B及びMilli-Q水を混合した後、30℃を超えないように氷で冷却しながら超音波水浴に10分間かけた後に、RPMI培地を加えた。なお、各細胞処置液はそれぞれ4 mLずつ調製した。計4mLの細胞処置液を調製するのに混合した各溶液の添加量は以下の表2に示すとおりである。比較対象である細胞処置液1及び細胞処置液4の調製方法については、表1から抜粋して再掲した。
(実験3-3) 細胞培養・化合物処置・細胞溶解液の調製
(実験2-3)で示したと同様の手順にて、細胞培養、細胞処置液による細胞の処理、及び細胞溶解液の調製を行った。すなわち、マウスメラノーマ細胞であるB16/BL6細胞(理化学研究所より購入、細胞番号:RCB2638)を、35mmディッシュ(Falcon セルカルチャーディッシュ、製品番号:353001)に細胞数が60×104cells/2mLとなるように播種し、5%CO2、37℃の条件で48時間培養した。その後、各ディッシュから培地を1mLずつ除去し、細胞処置液1、2又は5~7を1mL添加した。表2に示すおり、細胞処置液2又は5~7を添加したディッシュにおけるホウ素含有化合物の濃度は、およそ500μM(0.5mM)である。5%CO2、37℃の条件で2時間インキュベートした後、ディッシュ中の培地を可能な限りアスピレーターで除去し、冷却した生理食塩水(1 mL、株式会社大塚製薬製、以下同じ。)を用いて、常法に従って洗浄した。その後に、各ディッシュに冷却した生理食塩水1mLを加え、スクレーパーを用いて各ディッシュから細胞を剥離し懸濁させた。このようにして得られた懸濁液から、10μLをとり、トリパンブルーにて2倍希釈し、血球計算盤を用いて細胞数をカウントした。一方、各ディッシュにつき、残りの懸濁液全量を2mLエッペンドルフチューブに移し、4℃、1,800rpmの条件で3min遠心し、遠心後、上清を取り除いた。その後、RIPA Buffer(富士フィルム和光純薬株式会社、カタログ番号:182-02451)を0.5mLずつ加え、数回ピペッティングした。10分間、氷上でインキュベートし、細胞を溶解し、細胞溶解液(ライセート)を得た。得られた細胞溶解液は4℃で保存した。また、得られた細胞溶解液のタンパク定量は、BCA Protein Assay Kit(タカラバイオ株式会社製)を用いて行なった。
(実験2-3)で示したと同様の手順にて、細胞培養、細胞処置液による細胞の処理、及び細胞溶解液の調製を行った。すなわち、マウスメラノーマ細胞であるB16/BL6細胞(理化学研究所より購入、細胞番号:RCB2638)を、35mmディッシュ(Falcon セルカルチャーディッシュ、製品番号:353001)に細胞数が60×104cells/2mLとなるように播種し、5%CO2、37℃の条件で48時間培養した。その後、各ディッシュから培地を1mLずつ除去し、細胞処置液1、2又は5~7を1mL添加した。表2に示すおり、細胞処置液2又は5~7を添加したディッシュにおけるホウ素含有化合物の濃度は、およそ500μM(0.5mM)である。5%CO2、37℃の条件で2時間インキュベートした後、ディッシュ中の培地を可能な限りアスピレーターで除去し、冷却した生理食塩水(1 mL、株式会社大塚製薬製、以下同じ。)を用いて、常法に従って洗浄した。その後に、各ディッシュに冷却した生理食塩水1mLを加え、スクレーパーを用いて各ディッシュから細胞を剥離し懸濁させた。このようにして得られた懸濁液から、10μLをとり、トリパンブルーにて2倍希釈し、血球計算盤を用いて細胞数をカウントした。一方、各ディッシュにつき、残りの懸濁液全量を2mLエッペンドルフチューブに移し、4℃、1,800rpmの条件で3min遠心し、遠心後、上清を取り除いた。その後、RIPA Buffer(富士フィルム和光純薬株式会社、カタログ番号:182-02451)を0.5mLずつ加え、数回ピペッティングした。10分間、氷上でインキュベートし、細胞を溶解し、細胞溶解液(ライセート)を得た。得られた細胞溶解液は4℃で保存した。また、得られた細胞溶解液のタンパク定量は、BCA Protein Assay Kit(タカラバイオ株式会社製)を用いて行なった。
(実験2-3)に示したと同様の手順にて、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)を用いて、細胞内ホウ素濃度及び細胞内ヨウ素濃度の測定を行った。得られた結果を表3に示す。
表3に示されるとおり、化合物3cを単独で使用した場合(細胞処置液4)、化合物3cの濃度500μMで2時間インキュベートした後の細胞内ホウ素濃度は39±13ppmであったところ、25μM、50μM、100μMのA6Kペプチドと併用することにより、同じ条件でインキュベートした後の細胞内ホウ素濃度は57±4ppm、63±38ppm、402±103ppmまで高まった。これは前述したホウ素中性子捕捉療法に通常必要とされる細胞内ホウ素濃度である40ppmをはるかに上回るものである。なお、非特許文献2によれば、従来のホウ素クラスターであるBSH(500μM)とA6Kペプチド(100μM)を併用した場合、細胞内ホウ素濃度は約2,000 ng/106cellsとなることが報告されている(非特許文献2、Figure2B)。これに対して、化合物3c(500μM)とA6Kペプチド(100μM)を併用した場合、細胞内ホウ素濃度は3200±828ng/106cellsであり、従来のホウ素クラスターであるBSHと比較して、およそ1.6倍も高い細胞内ホウ素濃度が得られることが分かった。このようにホウ素とヨウ素を含有する化合物と細胞透過性ペプチドを併用することで、細胞内ホウ素濃度を顕著に高められることが示された。
本発明に係る化合物又はその塩、並びにこれらを含有する医薬組成物によれば、ホウ素濃度に代えて、より測定がし易いヨウ素濃度を測定することにより、患部のホウ素濃度を定量的に得ることができるので、現在、得ることが非常に困難であった患部におけるホウ素濃度についての情報を容易に得ることが可能となり、また、好適な一態様において、本発明に係る化合物又はその塩、並びにこれらを含有する医薬組成物によれば、従来のホウ素含有化合物と比較して高い細胞内ホウ素濃度を達成することができる。したがって、本発明によれば、ホウ素中性子捕捉療法の治療効果の向上、副作用の低減が期待される。このように本発明は、腫瘍性疾患の治療におけるホウ素中性子捕捉療法の応用に資するものであり、その産業上の利用可能性は大きい。
Claims (14)
- 式(I)におけるXが、10Bを含有するホウ素クラスターを含む基であることを特徴とする請求項1に記載の化合物又はその塩。
- 請求項1乃至8のいずれか一項に記載の化合物又はその塩を含む、医薬組成物。
- さらに、細胞透過性ペプチドを含む請求項9に記載の医薬組成物。
- 前記細胞透過性ペプチドが、A6Kペプチド又はA6Rペプチドであることを特徴とする請求項10に記載の医薬組成物。
- ホウ素中性子捕捉療法用であることを特徴とする請求項9~11に記載の医薬組成物。
- 請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物又はその塩を患者に投与する工程を含む、腫瘍疾患の治療方法。
- 請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物又はその塩を患者に投与する工程、
前記患者の腫瘍におけるヨウ素濃度を測定する工程、
測定された前記ヨウ素濃度に基づいて腫瘍におけるホウ素濃度を推定する工程、及び、
推定された前記ホウ素濃度に基づいて前記患者に中性子線を照射する工程
を含む、腫瘍疾患の治療方法。
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