JP2022152427A - 二相ステンレス鋼鍛造材およびその製造方法 - Google Patents

二相ステンレス鋼鍛造材およびその製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2022152427A
JP2022152427A JP2021055199A JP2021055199A JP2022152427A JP 2022152427 A JP2022152427 A JP 2022152427A JP 2021055199 A JP2021055199 A JP 2021055199A JP 2021055199 A JP2021055199 A JP 2021055199A JP 2022152427 A JP2022152427 A JP 2022152427A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
less
stainless steel
forging
duplex stainless
content
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2021055199A
Other languages
English (en)
Inventor
雄介 及川
Yusuke Oikawa
信二 柘植
Shinji Tsuge
文則 江目
Fuminori Gounome
豊彦 柿原
Toyohiko Kakihara
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Steel Stainless Steel Corp
Original Assignee
Nippon Steel Stainless Steel Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nippon Steel Stainless Steel Corp filed Critical Nippon Steel Stainless Steel Corp
Priority to JP2021055199A priority Critical patent/JP2022152427A/ja
Publication of JP2022152427A publication Critical patent/JP2022152427A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Landscapes

  • Heat Treatment Of Steel (AREA)

Abstract

【課題】二相ステンレス鋼鍛造材で見られるシグマ相起因の鍛造割れを抑制でき、再加熱を行うことなく鍛造ができるため、製造性が非常に良好であり、かつ寸法精度が向上し研削歩留を低減することができ、溶接部を含めてSUS316Lと同等以上の十分な耐食性を有する二相ステンレス鋼鍛造材を提供することを目的とする。【解決手段】下記式1で表されるPRENが28.0~35.0を満足し、オーステナイト量が30面積%以上70面積%以下で、フェライト相に分配された各成分を用いて計算した下記式2で表されるシグマ相析出温度推定式TSIGMAが900℃以下であることを特徴とする二相ステンレス鋼鍛造材。PREN=Cr+3.3Mo+16N・・・[式1]TSIGMA=12Crα+6Niα+54Moα+23Siα-15Mnα+465・・・[式2]【選択図】なし

Description

本発明は、耐食性が良好で熱間鍛造における成形性に優れた二相ステンレス鋼鍛造材およびその製造方法に関するものである。
食品や薬品等の製造設備や貯蔵タンク等の素材には、当該品への金属混入を抑止するため、耐食性の良好なステンレス鋼を使用することが多い。食品には塩分が含まれていることが多いことから、ステンレス鋼の中でも耐食性の良好なSUS316Lが用いられることが多い。
一方、最近、汎用的に使われているオーステナイト系ステンレス鋼を代替して、二相ステンレス鋼を適用することが多くなってきている。二相ステンレス鋼はフェライト相とオーステナイト相をおおよそ等量含むステンレス鋼で、耐食性に加え、強度が他のステンレス鋼や炭素鋼より高く薄肉軽量化できることに加え、高価なニッケルの使用量が少ないというメリットがあり、例えば水門やダムのような大型構造物などに広く用いられるようになってきている。
二相ステンレス鋼のJIS鋼種は、SUS821L1、SUS323L、SUS329J1、SUS329J3L、SUS329J4L、SUS327Lの6鋼種がある。そのうちSUS821L1はSUS304、SUS323LはSUS316Lの代替として開発された鋼種であり、SUS329J3L、SUS329J4L、SUS327Lはそれより過酷な環境においても耐食性を有する高耐食鋼種である。
ところで、鋼を加工成型する手法の一つに熱間鍛造がある。当該法は素材を加熱し叩くことで成型するものであり、冷間鍛造では強度が高く成型しがたい鋼も比較的容易に成型できるうえ、圧延法と比べ大型部品を製造するのに優れた手法である。
食品、薬品の製造設備において、配管等をつなぐ際にフランジが使用される。このフランジは複雑な形状を有していることが多く、製造法として熱間鍛造を用いることが多々ある。
二相ステンレス鋼の加工に熱間鍛造法を適用する場合の課題として、シグマ相の析出がある。シグマ相はFeにCr、Mo等が濃化した金属間化合物で、800℃~900℃付近に一定時間保持されることで析出するものであり、数%程度でも析出すると、熱間延性が低下し鍛造時に大きな割れを生じることに加え、材料の靭性、耐食性が極端に低下する。熱間鍛造は、一般に熱間圧延と比べ加工に要する時間が長く、加工途中に温度が低下して900℃を下回ることが容易に起きる。
この場合、熱間割れを回避するために改めて再加熱する必要があり、製造効率を大きく損なう。さらに、鍛造温度が高くなるほど、素材が軟質となるため変形しやすいこと、室温までの熱収縮量が大きくなることから、寸法精度が低下し、結果、加工後の研削代が大きくなり、コスト、作業性を損ねる。
二相ステンレス鋼の鋼種のうちSUS329J3L、SUS329J4L、SUS327Lは、非常に優れた耐食性を有するが、いずれも900℃以下の低温で鍛造するとシグマ相が析出する問題を有する。
この課題に対し、特許文献1では、鍛造後に熱処理を行うが、その際に冷却条件を適正化(1000℃以上に加熱後500℃まで5~12.5℃/分で、その後10℃/分以上で冷却)することでフェライト相の平均粒径を50μm以上と粗大化させシグマ相の析出を抑制する技術が開示されている。
また、特許文献2では、SiやMnを、0.005~0.1%と極小化することでシグマ相の析出を抑制する技術が開示されている。
フランジ用の素材としてもう一つ考慮すべき特性として、溶接部の靭性、耐食性がある。フランジは多くの場合、配管等に周溶接して取り付けるからである。二相ステンレス鋼に含有されたNは、溶接時の加熱冷却によってCr窒化物として析出する。この窒化物は、割れの伝播を促進することで靭性を低下させ、また、析出によりCrが消費されいわゆるCr欠乏層を生じることで耐食性を低下させる。
二相ステンレス鋼の鋼種のうちSUS323Lは、母材の耐食性はSUS316L同等以上であり、シグマ相の析出もほとんどない鋼種であるが、溶接の条件によってはSUS316Lの耐食性レベルを下回ることがある課題をもつ。SUS821L1もシグマ相の析出は少なく、溶接部の耐食性低下も少ない成分系であるが、SUS304代替鋼のため当該用途には不向きである。
一方、特許文献3では、汽水や海水に近い塩化物イオン濃度が高い環境で優れた耐食性を示しかつ経済性の高い二相ステンレス鋼材として、合金成分をC:0.001~0.03%、Si:0.05~1.5%、Mn:0.1~2.0%未満、Cr:20.0~26.0%、Ni:2.0~7.0%、Mo:0.5~3.0%、N:0.10~0.25%、Al:0.003~0.05%に調整したうえで、Nbを0.005~0.10%と微量含有しかつ抽出残渣中の[Nb]、[Cr]量を最適化した二相ステンレス鋼が開示されている。
特開平9-217149号 特開平11-50199号 国際公開第2018/181990号
本発明者は、従来技術を検討した結果、解決すべき課題があることを見出した。特許文献1は鍛造後の熱処理による改善であり、鍛造時のシグマ相析出による鍛造割れの回避およびそれに伴う作業性の低下改善、さらに寸法精度の向上に寄与するものではない。
特許文献2は、Si、Mnの極低化は原料を高純化する必要があり多大なコストを有する。SUS323L、SUS821L1はシグマ相析出による課題は回避できるが、溶接部の耐食性の課題を回避できない。
特許文献3の鋼については溶接部の耐食性の課題はクリアでき、耐食性に関してはSUS316Lのフランジを代替しうる可能性はあるが、シグマ相析出の課題をクリアできるかは明確でない。
結局、低コストで、溶接部を含めてSUS316L並み以上の耐食性を確保しつつ、鍛造の煩雑さ、寸法精度の低さを回避する技術は開示されていない。本発明は、二相ステンレス鋼鍛造材において鋼材成分や製造条件を見直し、耐食性を確保しつつシグマ相の析出を抑制し、鍛造製品の寸法精度を向上させることを課題とする。
シグマ相は一般に高Cr、Mo、Niの二相ステンレス鋼で生じやすいとされている。これら元素を低減すると、シグマ相が析出する温度が低下する。発明者らは、このシグマ相析出開始温度を求め、これが900℃以下の場合製造時に実質的にシグマ相の悪影響を被ることなく鍛造を完成しうることを見出した。これは、シグマ相形成には拡散速度の比較的遅いMoが移動することが必要であるが、シグマ相析出開始温度TSIGMAが低いと、TSIGMA以下においても析出駆動力となる過冷度が低いため、拡散速度が遅くなる低温で析出を生じるのに相当な長時間を要するためである。
一方、Cr、Moは鋼の耐食性を向上させるのに重要な元素である。そこで本発明者らは、耐食性の低下は最小限にとどめたうえで、シグマ相実質的に熱間鍛造に悪影響を及ぼさない成分範囲および製造方法について鋭意検討し、本発明に至ったものである。
具体的には、鋼の成分に加えPREN(耐孔食指数)を規定して耐食性を担保するとともに、二相ステンレス鋼においてシグマ相析出の発生源となるフェライト相の成分を測定してその成分範囲を基にシグマ相析出開始温度を900℃以下に規定することにした。
さらに製造法として、鋼の成分と素材加熱温度を規定することによって当該フェライト相の成分を得る方法を見出し、本発明に至ったものである。
これらの知見から、本発明のその要旨とするところは以下の通りである。
[1]
化学組成が、質量%で、
C:0.001~0.050%、
Si:0.05~0.80%、
Mn:0.10%~3.00%、
Cr:21.5~26.0%、
Ni:3.0~6.0%、
Mo:0.5~2.5%、
N:0.10~0.25%を含有し、
さらに
Al:0~0.05%、
Nb:0~0.15%、
Ti:0~0.020%、
Ta:0~0.20%、
Zr:0~0.05%、
Hf:0~0.08%、
Sn:0~0.10%、
W:0~1.0%、
Co:0~1.0%、
Cu:0~3.0%、
V:0~0.30%、
B:0~0.0050%、
Ca:0~0.0050%、
Mg:0~0.0050%、
REM:0~0.050%、
のうち1種または2種以上を含有し、
残部がFeおよび不純物であり、
不純物のうち
O:0.006%以下、
P:0.05%以下、
S:0.0050%以下、に制限し、
下記式1で表されるPRENが28.0~35.0を満足し、
オーステナイト量が30面積%以上70面積%以下で、
フェライト相に分配された各成分を用いて計算した下記式2で表されるシグマ相析出予測温度TSIGMAが900℃以下である
ことを特徴とする二相ステンレス鋼鍛造材
PREN=Cr+3.3Mo+16N・・・(式1)
SIGMA=12Crα+6Niα
+54Moα+23Siα-15Mnα+465・・・(式2)
但し、式1中における元素記号は、前記二相ステンレス鋼鍛造材中のそれぞれの元素の含有量(質量%)を、式2中におけるαを付した元素記号は前記二相ステンレス鋼鍛造材中のフェライト相に分配されたそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
[2]
さらに化学組成が、質量%で、
Al:0.003~0.05%、
Nb:0.005~0.15%、
Ti:0.003~0.020%、
Ta:0.005~0.20%、
Zr:0.001~0.05%、
Hf:0.001~0.08%、
Sn:0.005~0.10%、
W:0.01~1.0%、
Co:0.01~1.0%、
Cu:0.01~3.0%、
V:0.01~0.30%、
B:0.0001~0.0050%、
Ca:0.0005~0.0050%、
Mg:0.0005~0.0050%、
REM:0.005~0.050%、
のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする[1]に記載の二相ステンレス鋼鍛造材。
[3]
前記[1]または[2]に記載の成分組成を有し、下記式3で表されるシグマ相析出予測温度TSIGMA2が890℃以下である二相ステンレス鋼材を1150℃以上1350℃以下に加熱した後、熱間鍛造することを特徴とする請求項1に記載の二相ステンレス鋼鍛造材の製造方法
SIGMA2=4Cr+28Ni+55Mo+5Si-6Mn-30N+560・・・(式3)
但し、式3中における元素記号は、前記二相ステンレス鋼鍛造材中のそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
[4]
前記熱間鍛造において、前記二相ステンレス鋼材の前記熱間鍛造の最終表面温度が900℃未満となることを特徴とする[3]に記載の二相ステンレス鋼鍛造材の製造方法
[5]
[1]または[2]に記載の二相ステンレス鋼鍛造材を用いたフランジ。
[6]
食品および薬品の製造設備に用いられる[5]に記載のフランジ。
[7]
前記[1]または[2]に記載の二相ステンレス鋼鍛造材を用いた溶接構造物。
本発明により得られる鍛造材は、十分な耐食性を有し、さらに高強度による軽量化を図れ、さらに鍛造の回数を最小限にできるとともに、鍛造時の寸法精度が優れ研削歩留を低減できることで、コストを最小限に抑制できる。
[二相ステンレス鋼の組成]
以下に、まず本発明を構成する二相ステンレス鋼鍛造材の組成および組織の限定理由について説明する。なお本明細書において特に断りのない限り成分に関する%は質量%を表す。
Cは、0.050%を超えて含有させると熱間圧延時にCr炭化物が生成して、耐食性が劣化する。そのため含有量を0.050%以下にするとよい。好ましくは、0.030%以下であり、さらに好ましくは0.025%以下にするとよい。
一方、下限は特に限定しないが、C量を低減するコストの観点から0.001%を下限とする。好ましくは0.025%、または0.005%にするとよい。
Siは、脱酸のため0.05%以上含有するとよい。好ましくは、0.10%以上、さらに好ましくは0.20%以上にするとよい。
一方、過剰な含有は靭性を劣化させるとともにシグマ相の析出を促進するため、0.80%以下にするとよい。好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.40%以下にするとよい。
Mnはオーステナイト相を増加させ靭性を改善する効果を有する。そのため0.10%以上含有するとよい。好ましくは0.30%以上、さらに好ましくは0.50%以上にするとよい。
一方、Mnはステンレス鋼の耐食性を低下する元素であるので、その含有量を3.00%以下にするとよい。好ましくは2.00%以下、さらに好ましくは1.50%以下にするとよい。
Crは、本発明鋼の基本的な耐食性を確保するため21.50%以上含有させるとよい。好ましくは23.00%以上、さらに好ましくは23.40%以上にするとよい。
一方で、Crを、26.00%を超えて含有させるとシグマ相の析出を促進しTSIGMAおよびTSIGMA2を上昇させる。またフェライト相分率が増加し靭性および溶接を行った場合の溶接部の耐食性を阻害する。このためCrの含有量を26.00%以下にするとよい。好ましくは25.00%以下、さらに好ましくは24.50%以下にするとよい。
Niは、オーステナイト組織を安定にし、各種酸に対する耐食性、さらに靭性を改善するため3.0%以上含有させるとよい。好ましくは、4.0%以上、さらに好ましくは4.5%以上にするとよい。
一方、Niはシグマ相の析出を促進しTSIGMAおよびTSIGMA2を上昇させるうえ、高価であるため、Niは6.0%以下の含有量にするとよい。
Moは、耐食性を高める非常に有効な元素であり、耐食性を確保するために0.5%以上含有させるとよい。好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.2%以上にするとよい。
一方、Moは高価であるうえ、シグマ相の析出促進に大きく寄与し、TSIGMAおよびTSIGMA2を大きく上昇させる元素であるため、可能な限り抑制することが望ましい。そのため、Mo含有量は2.5%以下とするとよい。好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.8%以下、より好ましくは1.6%以下にするとよい。
Nは、強力なオーステナイト生成元素であるとともに、オーステナイト相に固溶して二相ステンレス鋼の強度、耐食性を高める非常に有効な元素であり、さらにはシグマ相の析出抑制効果の高い元素であるため、0.10%以上含有させるとよい。好ましくは0.12%以上、さらに好ましくは0.15%以上にするとよい。
一方、Nの固溶限度はCr含有量に応じて高くなるので、上記Cr含有量との関係から0.25%超含有させるとCr窒化物を析出して靭性および耐食性を阻害するようになる。そのため、N含有量を0.25%以下にするとよい。好ましくは0.22%以下、さらに好ましくは0.20%以下にするとよい。
O(酸素)は、不純物であり、ステンレス鋼の熱間加工性、靱性、耐食性を阻害する元素であるため、できるだけ少なくすることが好ましい。そのため、O含有量は0.006%以下にするとよい。また、O含有量の下限は特に限定しないが、酸素を極端に低減するには精錬に非常に大きなコストが必要となるため、経済性を考慮すると酸素量は0.001%以上あってもよい。
Pは原料から不可避に混入する元素であり、熱間加工性および靱性を劣化させるため、できるだけ少ない方がよく、0.05%以下にするとよい。好ましくは、0.04%以下にするとよい。P含有量の下限は特に限定しないが、Pを極低量に低減するには、精錬時のコストが高くなる。このため、経済的観点よりP量の下限を0.01%にするとよい。
Sは原料から不可避に混入する元素であり、熱間加工性を阻害し鍛造時の割れを助長するとともに、靱性および耐食性をも劣化させるため、できるだけ少ない方がよく、上限を0.0050%以下にするとよい。好ましくは、0.0020%以下、さらに好ましくは0.0010%以下にするとよい。S含有量の下限は特に限定しないが、Sを極低量に低減するには、精錬時のコストが高くなる。このため、経済的観点よりS量の下限を0.0001%にするとよい。
残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物とは、原料中に含まれる元素や、製造中に意図せず含有される元素などである。
さらに、本発明の一実施形態として、Feに代わり以下の元素のうち1種または2種以上を含有してもよい。これら元素は特に含有しなくてもよく含有量の範囲は0%も含み、含有しない場合であっても本発明の課題解決には影響しない。
Alは、鋼の脱酸効果がある元素であり、また本鋼の介在物の組成を制御するため、CaおよびMgとともに含有してもよい。Alは鋼中の酸素を低減するためにSiとあわせて含有させてもよい。Alは介在物の組成を制御し耐孔食性を高める効果もあり、その効果をより確実にするために0.003%以上含有してもよい。好ましくは0.005%以上にするとよい。
一方、AlはNとの親和力が比較的大きな元素であり、過剰に含有するとAlの窒化物を生じてステンレス鋼の靭性を阻害する。その程度はN含有量にも依存するが、Alが0.05%を超えると靭性低下が著しくなるためその含有量を0.05%以下にするとよい。好ましくは0.04%以下、より好ましくは0.03%以下にするとよい。
Nbは、Nと親和力が強く、クロム窒化物の析出速度をさらに低下する作用を有する元素である。このため、0.005%以上含有してもよい。好ましくは0.010%以上、さらに好ましくは0.020%以上、より好ましくは0.030%以上にするとよい。
一方、Nbを過剰に含有するとNbの窒化物が多量に析出し、靱性を阻害するようになることから、その含有量を0.15%以下にするとよい。好ましくは0.09%以下、さらに好ましくは0.07%以下、より好ましくは0.05%以下にするとよい。
なお、Nbは高価な元素であるが、品位の低いスクラップに含有されるNbを積極的に利用することで、ステンレス溶解原料コストを安価にすることができる。このような方法により、Nb含有鋼の溶解コストの低減を図ることが好ましい。
Tiは、Nとの間に非常に強い親和力があり、鋼中でTiの窒化物を形成することから含有させてもよい。但し粗大な窒化物を形成しやすく、0.020%を超えて含有させるとTiの窒化物により靱性を阻害するようになることから、その含有量を0.020%以下、好ましくは0.015%以下、さらに好ましくは0.010%以下にするとよい。Tiを含有する場合、その効果をより確実に得るため0.003%以上含有するとよく、好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.006%以上にするとよい。
Taは、介在物の改質により耐食性を向上させる元素であり含有してもよい。但し、Ta量が0.200%超の場合、常温延性の低下や靭性の低下を招くため、Ta含有量は、好ましくは0.200%以下にするとよく、より好ましくは0.100%以下である。少量のTa量で効果を発現させる場合には、Ta量を0.050%以下とすることが好ましい。
Taを含有する場合、その効果をより確実にするため、好ましくはTa量を0.005%以上とするとよい。
Zr、Hfは、熱間加工性や鋼の清浄度を向上ならびに耐酸化性改善に対して有効な元素である。Snは耐酸性を向上させる効果があるため含有してもよい。
一方、これらの元素の過度な含有は粒界強度低下による粒界破壊を助長するため、Zr:0.05%以下、Hf:0.08%以下、Sn:0.10%以下とする必要がある。これらの効果をより確実に得るため、好ましくはZr:0.001%以上、Hf:0.001%以上、Sn:0.005%以上を含有するとよい。
Wは、Moと同様にステンレス鋼の耐食性を向上させる元素であり、含有してもよい。しかし、高価な元素であるので1.00%以下にするとよい。好ましくは0.70%以下、さらに好ましくは0.50%以下にするとよい。含有する場合、その効果をより確実に得るため0.01%以上含有するとよく、好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上にするとよい。
Coは、鋼の靭性と耐食性を高めるために有効な元素であり、含有してもよい。Coは、高価な元素であるため1.0%以下含有するとよい。好ましくは0.7%以下、さらに好ましくは0.5%以下含有するとよい。Coを含有する場合、その効果をより確実に得るため0.01%以上含有するとよく、好ましくは0.03%以上、さらに好ましくは0.10%以上にするとよい。
Cuは、ステンレス鋼の酸に対する耐食性を付加的に高める元素であり、かつ靭性を改善する作用を有するため、含有してもよい。Cuを3.0%超含有させると熱間圧延後の冷却時に固溶度を超えてεCuが析出し脆化するので3.00%以下含有するとよい。好ましくは1.70%以下、さらに好ましくは1.5%以下含有するとよい。Cuを含有する場合、0.01%以上、好ましくは0.33%以上、さらに好ましくは0.45%以上含有させるとよい。
Vは、Nと親和力があり、クロム窒化物の析出速度を低下する作用を有する元素である。このため、含有させてもよい。しかし、0.30%を越えて含有させるとVの窒化物が多量に析出し、靱性を阻害するようになることから、Vの含有量は0.30%以下、好ましくは0.25%以下、さらに好ましくは0.20%以下にするとよい。Vを含有する場合、その効果をより確実に得るため0.01%以上含有するとよく、好ましくは0.03%以上、さらに好ましくは0.08%以上にするとよい。
Bは、鋼の熱間加工性を改善する元素である。また、Nとの親和力が非常に強い元素であり、多量に含有させるとBの窒化物が析出して、靱性を阻害するようになる。このため、その含有量を0.0050%以下、好ましくは0.0040%以下、さらに好ましくは0.0030%以下にするとよい。Bを含有する場合、その効果をより確実に得るため0.0001%以上含有するとよく、好ましくは0.0005%以上、さらに好ましくは0.0014%以上にするとよい。
CaおよびMgは介在物の組成を制御し、耐孔食性と熱間加工性を高めるために含有してもよい。
一方、CaおよびMgは、いずれも過剰な含有は逆に熱間加工性および靭性を低下するため、Caについては0.0050%以下、Mgについては0.0050%以下にするとよい。好ましくはCaを0.0040%以下、Mgを0.0025%以下、さらに好ましくはCaを0.0035%以下、Mgを0.0020%以下にするとよい。
CaおよびMgを含有する場合、0.003%以上0.050%以下のAlとともに溶解原料を用いて含有され、もしくは脱酸および脱硫操業を通じてその含有量が調整され、Caの含有量を0.0005%以上、Mgの含有量を0.0005%以上にするとよい。好ましくはCaを0.0010%以上、Mgを0.0010%以上、さらに好ましくはCaを0.0015%以上、Mgを0.0015%以上にするとよい。
REMは鋼の熱間加工性を改善する元素であり、その目的で含有してもよい。一方で過剰な含有は逆に熱間加工性および靭性を低下するため、0.050%以下含有するとよい。好ましくは0.040%以下、さらに好ましくは0.030%以下にするとよい。REMを含有する場合は、その効果をより確実にするため0.005%以上含有するとよい。好ましくは0.010%以上、さらに好ましくは0.020%以上含有するとよい。
ここでREMは、スカンジウムSc、イットリウムY、およびランタンLaやセリウムCe等のランタノイド系希土類元素を指し、REM含有量とは、REMに属する各元素の含有量の総和とする。
[オーステナイト量が30面積%以上70面積%以下]
一般に二相ステンレス鋼においてオーステナイト量は、フェライト量と等量に近い方が望ましい。フェライト過多の場合は靭性が低下し、またCr窒化物の析出が起こりやすくなる。一方、オーステナイト過多の場合は熱間加工性を阻害し鍛造時の割れを助長し、また応力腐食割れが起きやすくなる。さらにいずれの場合もフェライト相、オーステナイト相間の成分差が激しくなり、どちらかの相で耐食性が低下する。そこで、オーステナイト量として30面積%以上70面積%以下にするとよい。オーステナイト量とフェライト量はできるだけ等量であることが好ましいので、オーステナイト量は好ましくは35%以上、40%以上、または45%以上にするとよく、同様に65%以下、60%以下、または55%以下にするとよい。
オーステナイト量は、鋼材断面を鏡面研磨したものを用いて、エッチング処理、光学顕微鏡による観察および画像解析を行うことにより、オーステナイト面積率を測定することによって求める。鋼材断面は、鋼材の厚さ方向(鋼材表面に垂直方向)であれば任意の断面でよい。加工の影響を避ける観点から、断面内の中央部付近で測定することが望ましい。
[28.0≦PREN≦35.0]
二相ステンレス鋼の場合、溶接を行った場合のCr窒化物析出による耐食性低下を考慮して、同等の耐食性を狙う場合にオーステナイト系より高めのPRENを確保することが多い。実験を行った結果、耐孔食性の指標である下記式1で定義されるPRENが28.0未満になると、二相ステンレス鋼母材のオーステナイト量が30~70面積%であっても汽水環境下において溶接熱影響部でSUS316Lを下回る耐食性となった。
PREN=Cr+3.3Mo+16N・・・(式1)
但し、式1中における元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
また、二相ステンレス鋼母材のPRENを高めるためにCr、Moの含有量を過大にすると、後述するTSIGMAおよびTSIGMA2を上昇させ、シグマ相が生成されやすくなるだけでなく、合金コストの増加や金属間化合物の生成を招く。一方Nの含有量を過大にすると靱性が悪化する等の悪影響が現れる。
以上より、本発明ではオーステナイト量を30~70面積%、かつ二相ステンレス鋼母材の上記式(1)で定義されるPREN値を28.0以上35.0以下とするとよい。PREN値は、好ましくは29.0以上、30.0以上、30.5以上、または31.0以上にするとよく、また34.5以下、34.0以下、33.5以下、または33.0以下にするとよい。
[TSIGMA≦900℃]
従来型の二相ステンレス鋼では鍛造に時間を要して表面温度が約900℃を下回ると、金属間化合物であるシグマ相が析出し、熱間延性および靭性を大きく低下させるため、材料割れの原因となる。このことから、表面温度が900℃を下回った時点で再加熱を必要としていた。しかしながら、材料の成分を最適化しシグマ相の析出を抑制することで、二相ステンレス鋼であっても鍛造時にシグマ相析出による特性低下を起こさない材料を得ることができることを見出した。
二相ステンレス鋼においてシグマ相は、フェライト相が相変態することによってもたらされるので、フェライト相とオーステナイト相に成分分配が起きることに鑑み発明者らは鋭意検討の結果、シグマ相の平衡析出温度であるTSIGMAをフェライト相に分配される成分含有量から導くことができることを見出し、これに基づきシグマ相析出を抑制しうる材料が得られることが分かった。
具体的には、二相ステンレス鋼鍛造材について、フェライト相の成分を測定し、それらフェライト相の成分含有量を下記式2に代入してシグマ相の平衡析出温度であるTSIGMAを計算し、これが900℃以下とするとよいことを見出した。即ち、TSIGMAは、シグマ相の平衡析出温度の予測温度であり、式2はその予測式である。TSIGMA以下にならない限りシグマ相が析出しないと予測されるから、TSIGMAが低くなるように成分を調整すれば、温度低下による再加熱までの鍛造時間を確保することができる。それだけでなく、温度が低下するとシグマ相析出に必要な元素の拡散が低下するため、析出速度自体が抑制される。式2は、サーモカルク社の熱力学計算ソフト「Thermo-Calc」(登録商標)を用いた平衡計算より求めた式を基本とし、さらに本発明者らの実験により修正を加えたものである。
SIGMA=12Crα+6Niα
+54Moα+23Siα-15Mnα+465・・・(式2)
式2中におけるαが付いた元素記号はフェライト相に分配されたそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
フェライト相の成分は、鋼材断面を鏡面研磨したものを用いて、EPMAを用い厚さ方向に線分析を行うと、フェライト相とオーステナイト相に対応してCr、Moが高い部分と低い部分に明確に分かれるので、高い部分をフェライト相として、その数値データを平均することで求められる。あるいはCr、Moが濃化しているフェライト相を判定したうえで、フェライト相上の複数箇所を点分析して平均してもよい。
鋼材断面は、オーステナイト量の測定と同様、鋼材の任意断面でよく、断面中の中央部で測定するとよい。
[本発明の鍛造材の製造方法]
次に、本発明の鍛造材の製造方法について説明する。
上記した成分組成の鋼を溶製して、鍛造用の鋼塊を製造する。鋼の溶製方法、鋼塊の製造方法は特に限定しない。既存の常法により鍛造用鋼塊を製造することができる。
上記TSIGMAは、鍛造材(鍛造された鋼材)中のフェライトに配分された成分含有量から求まる予想温度である。従って、鍛造後のフェライト相中の成分を予測しなければならない。そこで、本発明者らは、鍛造用鋼塊の段階でも、鍛造後の鍛造材中のフェライト相の成分含有量を推定し、シグマ相へ移行析出温度を予測することを発想し、TSIGMA2を見出した。
[TSIGMA2≦890℃]
SIGMA2は、TSIGMAと異なり鋼の元素含有量より計算される式である。TSIGMAと同様に、TSIGMA2はシグマ相の平衡析出温度の予測温度であり、式3はその予測式である。本発明者らは、鋼中の元素含有量と加熱温度とを組み合わせることでフェライト相とオーステナイト相への成分の分配状況まで予測することができることを見出し導いた。即ち、TSIGMAのように鋼中のフェライト相へ分配された成分含有量を測定する必要がなく、熱間鍛造前の熱処理の加熱温度が1150~1350℃の範囲であれば、鋼中の成分含有量からシグマ相の平衡析出温度を予測するものである。具体的には、二相ステンレス鋼鍛造材の鋼の成分を測定し各元素の含有量を(予め成分含有量が既知であれば、測定することなく、その含有量を)、式3に代入してシグマ相の平衡析出温度であるTSIGMA2を計算したものである。TSIGMA2はTSIGMAと同様に扱える指標である。即ち、TSIGMA2以下の温度にならない限りシグマ相が析出しないと予測されるため、再加熱までの鍛造時間を延長することができる。それだけでなく、TSIGMA2が低い場合はシグマ相析出に必要な元素の拡散が低下するため、析出速度自体が抑制される。式3は、TSIGMAと同様、サーモカルク社の熱力学計算ソフト「Thermo-Calc」(登録商標)を用いた平衡計算より求めた式を基本とし、さらに本発明者らの実験により修正を加えたものである。
SIGMA2の上限は、実際のTSIGMAとのバラツキを考慮して890℃とし、好ましくは880℃、870℃、860℃または850℃にするとよい。
SIGMA2=4Cr+28Ni+55Mo+5Si-6Mn-30N+560・・・(式3)
但し、式3中における元素記号は、鋼中のそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
[素材の加熱温度:1150~1350℃]
さらに、鍛造材製造時の素材の加熱温度を1150℃以上、1350℃以下と規定する。加熱温度を高めることによって、素材のCrやMoの偏析が緩和されることに加え、フェライト相へのCr、Moへの分配が少なくなる効果があり、結果としてフェライト相からシグマ相への変態が抑制される。この効果を有するには加熱温度を1150℃超にするとよい。好ましくは1170℃超、より好ましくは1200℃超、さらに好ましくは1220℃以上にするとよい。一方、加熱温度が高すぎると、炉の損傷が激しくなることから1350℃以下にするとよい。好ましくは1300℃以下である。
[熱間鍛造の表面温度における最終温度:900℃未満]
SIGMAやTSIGMA2が900℃以下であれば表面温度が900℃未満となっても、シグマ相の析出による熱間割れを回避する必要がないため、再加熱を不要とできる。それにより、再加熱の回数を大きく低減することができ、製造性が非常に向上する。さらに低い温度で鍛造することで、低強度による加工時の変形および冷却時の熱収縮による変形を抑制できることから寸法精度が向上する。結果として、研削の工数や、研削ロスを低減することができる。
本発明者らの知見では、表面温度が800℃未満でも問題なく鍛造可能で、さらに寸法精度を高めることができる。一方、表面温度が500℃未満になると、熱間強度が高くなりすぎて、加工を行うのが困難になる。そのため熱間鍛造する際に表面温度は、好ましくは500℃以上とするよい。
以下、実施例にて本発明を説明する。
表1に、サンプルとなる二相ステンレス鋼の成分を示す。各サンプルの成分になるように調整した鋼を実験室の25~75kg真空誘導炉によりMgOるつぼ中で溶製し、厚さと幅が約100mmの角鋼塊に鋳造した。なお、表1において、空欄は、該当する成分が含有されていないことを示す。鋼塊の本体部分より約20kgの熱間鍛造用素材を加工し、これを1250℃の温度に加熱し2h保持した後、20mm厚までハンマー鍛造して鍛造材(一回鍛造材)を得た。その際、表面温度は約650℃まで低下した。
表2に、鍛造材の評価結果を示す。まず、鍛造材の外観観察を行い、研削で除去できないレベルである数mm深さの割れが生じたものを×、生じなかったものを〇とした。また、鍛造材の四隅の厚さを測定し、狙い値20mmとの最大差を寸法誤差(mm)とした。
次に、鍛造材の表層部より組織観察用試料を採取し、断面を鏡面研磨し、EPMAを用いて観察した。観察試料の厚さ方向に1μmピッチで1mm長さの線分析を行い、Cr、Moが高い部分と低い部分に二分化しているうち高い部分をフェライト相として、その数値データを平均してフェライト相の成分を求めた。
また、割れ判定が〇となったサンプルを1060℃で1時間保持後に水冷する溶体化熱処理を行い、当該材の表層の1mm下より孔食試験片を採取した。耐食性評価として、溶体化熱処理したサンプルを50℃の3.5%NaCl溶液中にて孔食電位の測定をJIS G0577に規定される方法に準拠して実施した。また、靭性評価として、溶体化熱処理したサンプルの表層1mm下よりJIS Z 2202に規定に準拠してVノッチ試験片を採取し、試験温度-20℃でシャルピー衝撃試験を実施した。
さらに、パイプの差し込み溶接を模擬すべく、以下のような溶接試験体を作成した。当該材の表面を研磨したのち20mm厚×50mm×100mmと5mm厚×50mm×100mmに切断し、前者の20mm×100mmの面と後者の50mm×100mmの面が接触し、前者の50mm×100mmの面と後者の5mm×100mmの切断面が同一平面になるように直角に組み合わせ、接触部両側をタングステンアーク溶接(GTAW)で溶接して溶接継手を作製した。溶接条件は、1.2mmφ径のSUS329J3L系の溶接ワイヤを使用し、溶接電流:200A、アーク電圧:12V、溶接速度:20cm/min、100%Arシールドガス流量:15リットル/minである。
溶接部の耐食性評価として、当該材の断面より、溶接熱影響部および溶接金属を全て含むように、孔食試験片を採取し、50℃の3.5%NaCl溶液中にて孔食電位の測定をJIS G0577に規定される方法に準拠して実施した。
表2には、各鍛造材のフェライト相成分分析結果、オーステナイト相面積率、鍛造時の割れの有無、寸法誤差、母材の耐食性および靭性評価、さらに溶接部の耐食性評価結果を示す。
本発明例の鍛造材は、いずれも大きな割れを生じず、寸法誤差が1.0mm以下であり、50℃における母材の孔食電位が0.3V vsSSE以上、溶接部の孔食電位が0.28V vsSSE以上で-20℃の衝撃値が100J/cm以上と良好な特性を示した。
一方、比較例のNo.14、16は、それぞれCr、Moが過多のため、TSIGMAが900℃を超え、その結果鍛造中にシグマ相が析出し、割れが生じた。TSIGMA2が900℃を超えたNo.21も同様だった。No.9、11、13、15、19はそれぞれC過多、Mn過多、Cr過少、Mo過少、PREN過少のため耐食性が不良であった。No.17はN過少のため、溶接部でCr窒化物が析出し、耐食性不良であった。No.18はN過多のため、Cr窒化物が析出し、靭性、耐食性ともに不良であった。No.12、20はそれぞれNi過少、フェライト過多のため靭性が不良であった。
次に、表3に、途中で再加熱せずに一気に鍛造した鍛造材(一回鍛造材)と、途中再加熱した鍛造材(再加熱付加材)を対比した結果と示す。
上記サンプルと同様、No.5、7、21の鋼材、1250℃の温度に加熱して2h保持した後、20mm厚までハンマー鍛造し鍛造用素材を加工した。その際、900℃に達した場合に1250℃で再加熱する工程を二度加え、900℃超で鍛造が完了するようにして鍛造材(再加熱付加材)を得た。当該材について外観観察を行い、研削で除去できないレベルである数mm深さの割れが生じたものを×、生じなかったものを〇とした。また、鍛造材の四隅の厚さを測定し、狙い値20mmとの最大差を寸法誤差(mm)とした。
再加熱付加材と一回鍛造材それぞれの割れ状況および寸法精度を表3に示す。なお、ア、ウ、オはそれぞれ表2と同じである。No.5、7を一回鍛造した場合、割れの問題はなく、寸法精度は良好であった。No.21を一回鍛造した場合、大きな割れを生じ製品を採取できなかった。再加熱付加材の3サンプルは、ともに最低温度900℃狙いで鍛造しているので割れの問題なく製造可能であるが、寸法誤差が1.0mmを超過し、後工程の研削の負荷が非常に大きくなった。
さらに、表4には、加熱温度の影響について調べた結果を示す。上記サンプルと同様、No.5、7、21の鋼材より同様に鍛造用素材を加工し、加熱温度を1130~1320℃の間で変え、その温度で2h保持した後、20mm厚までハンマー鍛造した鍛造材(一回鍛造材)を得た。その際、鍛造完了時の表面温度は約600~880℃くらいまで低下した。当該材を1060℃×1時間に加熱保持後水冷して溶体化熱処理を行って評価をした。
表4のc、h、kは表2と同じである。加熱温度が低くなるに従いTsigmaが高温化しているが、いずれもTsigmaが900℃以下の場合に割れを生じていないことが判る。その境界温度は鋼材の成分より計算したTsigma2の差異によって変化するが、No.21のようにTsigma2が元々890℃超の場合、1150℃以上の加熱を行えばTsigmaが900℃を超えることはない。

Figure 2022152427000001
Figure 2022152427000002
Figure 2022152427000003
Figure 2022152427000004
本発明により得られる二相ステンレス鋼鍛造材は、製造時のシグマ相の析出をほぼ抑制することにより、再加熱を行うことなく鍛造割れを防止でき、製造性が非常に良好である。また、鍛造温度を低くできることから寸法精度が向上し、研削歩留を低減することができる。また、溶接部を含めてSUS316Lと同等以上の十分な耐食性を有し、さらに高強度による軽量化を図れ、さらに鍛造に要するコストも最小限に抑制できることから、大幅なコスト削減、高効率化に寄与することができ、産業面、環境面に寄与するところは極めて大である。
例えば、食品や薬品等の製造設備や貯蔵タンク等のフラン素材に、現行SUS316Lの代替素材として適用が想定される。

Claims (7)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.001~0.050%、
    Si:0.05~0.80%、
    Mn:0.10%~3.00%、
    Cr:21.5~26.0%、
    Ni:3.0~6.0%、
    Mo:0.5~2.5%、
    N:0.10~0.25%を含有し、
    さらに
    Al:0~0.05%、
    Nb:0~0.15%、
    Ti:0~0.020%、
    Ta:0~0.20%、
    Zr:0~0.05%、
    Hf:0~0.08%、
    Sn:0~0.10%、
    W:0~1.0%、
    Co:0~1.0%、
    Cu:0~3.0%、
    V:0~0.30%、
    B:0~0.0050%、
    Ca:0~0.0050%、
    Mg:0~0.0050%、
    REM:0~0.050%、
    のうち1種または2種以上を含有し、
    残部がFeおよび不純物であり、
    不純物のうち
    O:0.006%以下、
    P:0.05%以下、
    S:0.0050%以下、に制限し、
    下記式1で表されるPRENが28.0~35.0を満足し、
    オーステナイト量が30面積%以上70面積%以下で、
    フェライト相に分配された各成分を用いて計算した下記式2で表されるシグマ相析出予測温度TSIGMAが900℃以下である
    ことを特徴とする二相ステンレス鋼鍛造材。
    PREN=Cr+3.3Mo+16N・・・(式1)
    SIGMA=12Crα+6Niα
    +54Moα+23Siα-15Mnα+465・・・(式2)
    但し、式1中における元素記号は、前記二相ステンレス鋼鍛造材中のそれぞれの元素の含有量(質量%)を、式2中におけるαを付した元素記号は前記二相ステンレス鋼鍛造材中のフェライト相に分配されたそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
  2. さらに化学組成が、質量%で、
    Al:0.003~0.05%、
    Nb:0.005~0.15%、
    Ti:0.003~0.020%、
    Ta:0.005~0.20%、
    Zr:0.001~0.05%、
    Hf:0.001~0.08%、
    Sn:0.005~0.10%、
    W:0.01~1.0%、
    Co:0.01~1.0%、
    Cu:0.01~3.0%、
    V:0.01~0.30%、
    B:0.0001~0.0050%、
    Ca:0.0005~0.0050%、
    Mg:0.0005~0.0050%、
    REM:0.005~0.050%、
    のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の二相ステンレス鋼鍛造材。
  3. 請求項1または2に記載の成分組成を有し、下記式3で表されるシグマ相析出予測温度TSIGMA2が890℃以下である鋼材を1150℃以上1350℃以下に加熱した後、熱間鍛造することを特徴とする請求項1または2に記載の二相ステンレス鋼鍛造材の製造方法。
    SIGMA2=4Cr+28Ni+55Mo+5Si-6Mn-30N+560・・・(式3)
    但し、式3中における元素記号は、前記二相ステンレス鋼鍛造材中のそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
  4. 前記熱間鍛造において、前記二相ステンレス鋼材の前記熱間鍛造の最終表面温度が900℃未満となることを特徴とする請求項3に記載の二相ステンレス鋼鍛造材の製造方法
  5. 請求項1または2に記載の二相ステンレス鋼鍛造材を用いたフランジ。
  6. 食品および薬品の製造設備に用いられる請求項5に記載のフランジ。
  7. 請求項1または2に記載の二相ステンレス鋼鍛造材を用いた溶接構造物。
JP2021055199A 2021-03-29 2021-03-29 二相ステンレス鋼鍛造材およびその製造方法 Pending JP2022152427A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2021055199A JP2022152427A (ja) 2021-03-29 2021-03-29 二相ステンレス鋼鍛造材およびその製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2021055199A JP2022152427A (ja) 2021-03-29 2021-03-29 二相ステンレス鋼鍛造材およびその製造方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2022152427A true JP2022152427A (ja) 2022-10-12

Family

ID=83555660

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2021055199A Pending JP2022152427A (ja) 2021-03-29 2021-03-29 二相ステンレス鋼鍛造材およびその製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2022152427A (ja)

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP6437062B2 (ja) クラッド鋼用二相ステンレス鋼及びクラッド鋼
JP6969666B2 (ja) オーステナイト系ステンレス鋼溶接継手
JP5072285B2 (ja) 二相ステンレス鋼
JP5124857B2 (ja) マルテンサイト系ステンレス鋼
CN110225989B (zh) 双相不锈钢包层钢及其制造方法
WO2012111537A1 (ja) 二相ステンレス鋼
JP5170351B1 (ja) 二相ステンレス鋼
WO2014112445A1 (ja) 二相ステンレス鋼材および二相ステンレス鋼管
KR20180005713A (ko) 오스테나이트계 내열합금 및 용접 구조물
CN111041358A (zh) 双相铁素体奥氏体不锈钢
KR20180012813A (ko) 오스테나이트계 내열합금 및 용접 구조물
KR101539520B1 (ko) 2상 스테인리스강
JP7511480B2 (ja) 溶接構造物及びその製造方法
JP5329632B2 (ja) 二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼鋳片、および、二相ステンレス鋼鋼材
JP6870748B2 (ja) オーステナイト系ステンレス鋼
CN102933732B (zh) 焊接部耐腐蚀性优异的结构用不锈钢板及其制造方法
JP7272438B2 (ja) 鋼材およびその製造方法、ならびにタンク
JP2017088957A (ja) オーステナイト系耐熱鋼
JP7469707B2 (ja) 二相ステンレス鋼溶接継手
CN113631732B (zh) 双相不锈钢焊接接头及其制造方法
JP2022152427A (ja) 二相ステンレス鋼鍛造材およびその製造方法
JP7226019B2 (ja) オーステナイト系耐熱鋼
JP7109333B2 (ja) 耐食性に優れた省資源型二相ステンレス鋼
JPS6199661A (ja) ラインパイプ用高強度高靭性溶接クラツド鋼管
JP3567603B2 (ja) Pwht後の、靭性、溶接継手のクリープ特性および熱間加工性に優れた高クロムフェライト鋼

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20231129