JP2022080398A - 鋼材、及び、浸炭鋼部品 - Google Patents

鋼材、及び、浸炭鋼部品 Download PDF

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孝典 岩橋
Takanori Iwahashi
雅之 堀本
Masayuki Horimoto
崇秀 梅原
Takahide Umehara
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Abstract

【課題】ガス浸炭処理を実施して浸炭鋼部品とした場合に、優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度(ピッチング特性)が得られる鋼材を提供する。【解決手段】本実施形態の鋼材は、化学組成が質量%で、C:0.10~0.35%、Si:0.45~1.00%、Mn:0.40~1.30%、P:0.030%以下、S:0.001~0.100%、Cr:1.63~2.10%、Al:0.010~0.100%、N:0.0250%以下、及び、Mo:0.02~0.60%、を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)~式(3)を満たす。6.1≦(Mn+3Cr+2Mo)/Si≦12.0 (1)3.0≦Cr/Mn (2)24≦Mn/S≦60 (3)ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。【選択図】なし

Description

本開示は、浸炭鋼部品の素材に適した鋼材、及び、浸炭鋼部品に関する。
近年のエンジンやモータといったパワーユニットの高出力化及び小型化に伴い、パワーユニット及びパワーユニット周辺に利用される機械部品には、優れた曲げ疲労強度が求められている。これらの機械部品のうち、自動車や建設車両等に用いられる歯車では、短い周期で歯面同士が摺動する。そのため、歯面では、ピッチングの抑制が求められる。つまり、自動車や建設車両等に用いられる歯車に代表される機械部品では、曲げ疲労強度だけでなく、面疲労強度(ピッチング特性)も求められる。
機械部品の曲げ疲労強度及び面疲労強度を高める方法として、ガス浸炭処理が知られている。本明細書でいうガス浸炭処理は、ガス浸炭処理だけでなく、ガス浸炭窒化処理も含む。ガス浸炭処理では、機械部品の表層に硬化層(浸炭層又は浸炭窒化層)が形成される。この硬化層により、機械部品の曲げ疲労強度及び面疲労強度が高まることが知られている。そこで、浸炭鋼部品の素材となる鋼材には、ガス浸炭処理を実施して機械部品(浸炭鋼部品)とした場合に、曲げ疲労強度及び面疲労強度をより高めることができることが求められる。
ガス浸炭処理を実施して浸炭鋼部品としたときに曲げ疲労強度及び面疲労強度を高めることができる鋼材が、特開2010-185123号公報(特許文献1)及び特開2017-214642号公報(特許文献2)に提案されている。
特許文献1に開示された鋼材は、質量%で、C:0.15~0.25%、Si:0.40~0.80%、Mn:0.20~1.0%、P:0.030%以下、S:0.10%以下、Cu:0.30%以下、Ni:0.30%以下、Cr:0.8~1.8%、Mo:0.60%以下、Al:0.02~0.10%、N:0.005~0.03%、O:0.003%以下を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、以下の式(1)及び式(2)を満たす。
1.8≦2×[Si]+[Cr]≦3.5 (1)
114×[Si]+2×[Cr]+68×[Mo]≧50 (2)
特許文献2に開示された鋼材は、質量%で、C:0.15~0.30%、Si:0.80%~2.00%、Mn:0.20~0.80%、P:0.003~0.030%、S:0.005~0.050%、Cr:1.00~1.80%未満、Mo:0.03~0.30%、Al:0.020~0.060%、N:0.0060~0.0300%、及び、O:0.0003~0.0025%を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなり、以下の式(1)~式(3)を満たす。
〔%Si〕+(〔%Mn〕+〔%Cr〕+〔%Mo〕)/3≧1.5 (1)
180-45〔%Mn〕-14〔%Cr〕-51〔%Mo〕+5〔%Si〕≧125 (2)
√I≦80 (3)
ここで、Iは、鋼材に浸炭焼入れ及び焼戻しを施し、その後回転曲げ疲労試験を行った後の破面における、フィッシュアイ中心部に位置する酸化物系介在物の面積(μm)を示す。
特開2010-185123号公報 特開2017-214642号公報
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に提案された鋼材と異なる手段により、ガス浸炭処理を実施して浸炭鋼部品とした場合に優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度が得られてもよい。
本開示の目的は、ガス浸炭処理を実施して浸炭鋼部品とした場合に、優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度(ピッチング特性)が得られる鋼材、及び、浸炭鋼部品を提供することである。
本開示による鋼材は、
化学組成が質量%で、
C:0.10~0.35%、
Si:0.45~1.00%、
Mn:0.40~1.30%、
P:0.030%以下、
S:0.001~0.100%、
Cr:1.63~2.10%、
Al:0.010~0.100%、
N:0.0250%以下、及び、
Mo:0.02~0.60%、
を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)~式(3)を満たす。
6.1≦(Mn+3Cr+2Mo)/Si≦12.0 (1)
3.0≦Cr/Mn (2)
24.0≦Mn/S≦60.0 (3)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
本開示による浸炭鋼部品は、
硬化層と、
前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
C:0.10~0.35%、
Si:0.45~1.00%、
Mn:0.40~1.30%、
P:0.030%以下、
S:0.001~0.100%、
Cr:1.63~2.10%、
Al:0.010~0.100%、
N:0.0250%以下、及び、
Mo:0.02~0.60%、
を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)~式(3)を満たし、
前記浸炭鋼部品の表面から50μm深さまでの領域におけるC濃度は、質量%で0.60%以上であり、
前記浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置でのミクロ組織は、マルテンサイトからなり、又は、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなり、残留オーステナイトの体積率は0~40%である。
6.1≦(Mn+3Cr+2Mo)/Si≦12.0 (1)
3.0≦Cr/Mn (2)
24.0≦Mn/S≦60.0 (3)
本開示による鋼材は、ガス浸炭処理を実施して浸炭鋼部品とした場合に、優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度(ピッチング特性)が得られる。本開示による浸炭鋼部品は、優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度を有する。
図1は、ガス浸炭処理(ガス浸炭工程及び焼入れ工程)でのヒートパターンの一例を示す図である。 図2は、実施例で作製した小ローラ試験片の側面図である。 図3は、実施例で作製した回転曲げ疲労試験片の側面図である。 図4は、実施例で作製した大ローラ試験片の正面図である。 図5は、実施例における二円筒転がり疲労試験の模式図である。
本発明者らは、ガス浸炭処理(ガス浸炭処理又はガス浸炭窒化処理)を施して浸炭鋼部品としたときに優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度(ピッチング特性)が得られる鋼材について、検討を行った。このような鋼材には、浸炭鋼部品の製造工程において、例えば、上述のとおりガス浸炭処理が実施される。ガス浸炭処理では、鋼材をAc3変態点温度以上に加熱するため、鋼材のミクロ組織はオーステナイトに変態し、前組織の影響がなくなる。そのため、本発明者らは、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度及び面疲労強度を高める手段を、鋼材のミクロ組織の観点から検討するのではなく、ガス浸炭処理を実施しても変更されることのない化学組成の観点から検討した。その結果、本発明者らは、面疲労強度(ピッチング特性)を高めるために、焼戻し軟化抵抗を高めるSi、Cr、Mn及びMoの含有量を高めることが有効であると考えた。そして、曲げ疲労強度と面疲労強度との両立を化学組成の観点で検討した結果、質量%で、C:0.10~0.35%、Si:0.45~1.00%、Mn:0.40~1.30%、P:0.030%以下、S:0.001~0.100%、Cr:1.63~2.10%、Al:0.010~0.100%、N:0.0250%以下、Mo:0.02~0.60%、V:0~0.50%、Nb:0~0.100%、Ti:0~0.200%、Cu:0~0.50%、Ni:0~0.30%、W:0~0.50%、Co:0~0.50%、B:0~0.0050%、Ca:0~0.0014%、Mg:0~0.010%、希土類元素:0~0.0100%、Te:0~0.100%、Bi:0~0.500%、Pb:0~0.09%、Sn:0~0.014%、及び、Sb:0~0.0018%からなる化学組成を有する鋼材であれば、ガス浸炭処理を実施して浸炭鋼部品を製造した場合に、優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度が得られると考えた。
しかしながら、化学組成における各元素含有量が上述の範囲内である鋼材であっても、ガス浸炭処理を実施して浸炭鋼部品としたときに、曲げ疲労強度及び面疲労強度が十分に得られない場合があった。そこで、本発明者らはさらに調査及び検討を進めた。その結果、本発明者らは次の知見を得た。
(A)Si、Cr、Mn及びMoはいずれも、鋼材の焼戻し軟化抵抗を高めて、面疲労強度(ピッチング特性)を高める元素である。ここで、Mn、Cr及びMoは、ガス浸炭処理を実施する温度域において、鋼材表層の炭素(C)の化学ポテンシャルを低くする。一方、Siは、ガス浸炭処理を実施する温度域において、鋼材表層のCの化学ポテンシャルを高くする。
ガス浸炭処理を実施する温度域において鋼材表層のCの化学ポテンシャルが高いほど、雰囲気中のCが鋼材表層に侵入しにくい。したがって、Si、Cr、Mn及びMoはいずれも焼戻し軟化抵抗を高める元素ではあるものの、Mn、Cr及びMoの含有量に対してSi含有量が高すぎれば、ガス浸炭処理を実施する温度域において鋼材表層のCの化学ポテンシャルを高くなりすぎ、Cが鋼材に侵入しにくくなる。そのため、浸炭鋼部品の面疲労強度がかえって低下してしまう。一方、Si含有量に対してMn、Cr及びMoの含有量が高すぎれば、ガス浸炭処理を実施する温度域において、鋼材表層の炭素(C)の化学ポテンシャルが低くなりすぎ、Cが鋼材に過剰に侵入する。この場合、鋼材中のセメンタイトが多数生成する。セメンタイトは曲げ疲労において割れの起点となるため、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度がかえって低下してしまう。
Mn、Cr及びMoの含有量とSi含有量との比を適切な範囲とすれば、ガス浸炭処理を実施する温度域において鋼材表層のCの化学ポテンシャルが適切な範囲となり、鋼材中に侵入するC濃度が適切な範囲となる。その結果、浸炭鋼部品の表層に、セメンタイトの生成を抑制しつつ、十分なC濃度の硬化層を形成することができる。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度及び面疲労強度を高めることができる。
F1=(Mn+3Cr+2Mo)/Siと定義する。F1が6.1~12.0であれば、つまり、以下に示す式(1)を満たせば、Mn、Cr、Moの含有量に対するSi含有量が適切な範囲であるため、ガス浸炭処理中におけるCの化学ポテンシャルが適切な範囲となる。そのため、ガス浸炭処理において、適量のCが鋼材内に侵入及び拡散する。その結果、化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であって、後述の式(2)及び式(3)を満たすことを前提として、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品において、優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度が得られる。
6.1≦(Mn+3Cr+2Mo)/Si≦12.0 (1)
(B)化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内である場合、Cr及びMnはいずれも、ガス浸炭処理中において、鋼材の表層にCr酸化層及びMn酸化層を形成する。Mn酸化層はCr酸化層よりも鋼材の深い位置まで形成されやすい。そのため、曲げ疲労において、Mn酸化層はCr酸化層よりも割れの起点となりやすい。したがって、Mn酸化層の形成を抑制できれば、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を高めることができる。Mn含有量に対するCr含有量の比率を高めれば、ガス浸炭処理中において、Mn酸化層よりもCr酸化層が優先して形成されやすい。その結果、Mn酸化層の形成を抑制できる。
F2=Cr/Mnと定義する。F2が3.0以上であれば、つまり、以下に示す式(2)を満たせば、Mn酸化層の形成を有効に抑制することができる。その結果、化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であって、式(1)及び後述の式(3)を満たすことを前提として、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品において、優れた曲げ疲労強度が得られる。
3.0≦Cr/Mn (2)
(C)化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内である場合、MnはSと結合してMnSを形成する。MnSは鋼材の被削性を高める。しかしながら、粗大なMnSは、浸炭鋼部品の曲げ疲労において、割れの起点となる。そのため、粗大なMnSが多く形成されれば、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。したがって、Mn含有量とS含有量との比を適切に調整して、粗大なMnSが形成されるのを抑制できれば、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を高めることができる。
F3=Mn/Sと定義する。F3が24.0~60.0であれば、粗大なMnSの形成を有効に抑制することができる。その結果、化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であって、式(1)及び式(2)を満たすことを前提として、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品において、十分な曲げ疲労強度が得られる。
本実施形態の鋼材は、以上の技術思想に基づいて完成したものであり、次の構成を有する。
[1]
化学組成が質量%で、
C:0.10~0.35%、
Si:0.45~1.00%、
Mn:0.40~1.30%、
P:0.030%以下、
S:0.001~0.100%、
Cr:1.63~2.10%、
Al:0.010~0.100%、
N:0.0250%以下、及び、
Mo:0.02~0.60%、
を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)~式(3)を満たす、
鋼材。
6.1≦(Mn+3Cr+2Mo)/Si≦12.0 (1)
3.0≦Cr/Mn (2)
24.0≦Mn/S≦60.0 (3)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
[2]
[1]に記載の鋼材であって、
前記化学組成は、Feの一部に代えて、
V:0.50%以下、
Nb:0.100%以下、
Ti:0.200%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.30%以下、
W:0.50%以下、
Co:0.50%以下、及び、
B:0.0050%以下、
からなる群から選択される1種以上を含有する、
鋼材。
[3]
[1]又は[2]に記載の鋼材であって、
前記化学組成は、Feの一部に代えて、
Ca:0.0014%以下、
Mg:0.010%以下、及び、
希土類元素:0.0100%以下、
からなる群から選択される1種以上を含有する、
鋼材。
[4]
[1]~[3]のいずれか1項に記載の鋼材であって、
前記化学組成は、Feの一部に代えて、
Te:0.100%以下、
Bi:0.500%以下、
Pb:0.09%以下、
Sn:0.014%以下、及び、
Sb:0.0018%以下、
からなる群から選択される1種以上を含有する、
鋼材。
[5]
浸炭鋼部品であって、
硬化層と、
前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
C:0.10~0.35%、
Si:0.45~1.00%、
Mn:0.40~1.30%、
P:0.030%以下、
S:0.001~0.100%、
Cr:1.63~2.10%、
Al:0.010~0.100%、
N:0.0250%以下、及び、
Mo:0.02~0.60%、
を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)~式(3)を満たし、
前記浸炭鋼部品の表面から50μm深さまでの領域におけるC濃度は、質量%で0.60%以上であり、
前記浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置でのミクロ組織は、マルテンサイトからなり、又は、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなり、残留オーステナイトの体積率は0~40%である、
浸炭鋼部品。
6.1≦(Mn+3Cr+2Mo)/Si≦12.0 (1)
3.0≦Cr/Mn (2)
24.0≦Mn/S≦60.0 (3)
[6]
[5]に記載の浸炭鋼部品であって、
前記芯部の前記化学組成は、Feの一部に代えて、
V:0.50%以下、
Nb:0.100%以下、
Ti:0.200%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.30%以下、
W:0.50%以下、
Co:0.50%以下、及び、
B:0.0050%以下、
からなる群から選択される1種以上を含有する、
浸炭鋼部品。
[7]
[5]又は[6]に記載の浸炭鋼部品であって、
前記芯部の前記化学組成は、Feの一部に代えて、
Ca:0.0014%以下、
Mg:0.010%以下、及び、
希土類元素:0.0100%以下、
からなる群から選択される1種以上を含有する、
浸炭鋼部品。
[8]
[5]~[7]のいずれか1項に記載の浸炭鋼部品であって、
前記芯部の前記化学組成は、Feの一部に代えて、
Te:0.100%以下、
Bi:0.500%以下、
Pb:0.09%以下、
Sn:0.014%以下、及び、
Sb:0.0018%以下、
からなる群から選択される1種以上を含有する、
浸炭鋼部品。
以下、本実施形態の鋼材及びその鋼材を素材として製造される浸炭鋼部品について詳述する。各元素の含有量の「%」は特に断りが無い限り「質量%」を意味する。
[鋼材の用途]
本実施形態の鋼材は、浸炭鋼部品の素材に適する。具体的には、本実施形態の鋼材は、ガス浸炭処理を実施して製造される浸炭鋼部品の素材に適する。なお、本明細書において、ガス浸炭処理とは、ガス浸炭窒化処理も含む。
[鋼材の化学組成]
本実施形態の鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.10~0.35%
炭素(C)は、鋼の焼入れ性を高め、鋼材を素材として製造される浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。そのため、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を高める。C含有量が0.10%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.35%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の被削性が低下する。したがって、C含有量は0.10~0.35%である。C含有量の好ましい下限は0.11%であり、さらに好ましくは0.12%であり、さらに好ましくは0.13%である。C含有量の好ましい上限は0.32%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.28%である。
Si:0.45~1.00%
シリコン(Si)は、鋼の焼戻し軟化抵抗を高め、その結果、鋼材を素材として製造される浸炭鋼部品の面疲労強度(ピッチング特性)を高める。Si含有量が0.45%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、ガス浸炭処理の温度域における鋼材表層のCの化学ポテンシャルを過剰に高める。この場合、ガス浸炭処理中において、Cの鋼材への侵入が抑制される。そのため、浸炭鋼部品の表層(硬化層)の深さが低下し、面疲労強度が低下する。したがって、Si含有量は0.45~1.00%である。Si含有量の好ましい下限は0.50%であり、さらに好ましくは0.55%であり、さらに好ましくは0.60%である。Si含有量の好ましい上限は0.95%であり、さらに好ましくは0.92%であり、さらに好ましくは0.90%である。
Mn:0.40~1.30%
マンガン(Mn)は、鋼の焼入れ性を高め、鋼材を素材として製造される浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。そのため、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を高める。Mnはさらに、鋼の焼戻し軟化抵抗を高め、その結果、鋼材を素材として製造される浸炭鋼部品の面疲労強度(ピッチング特性)を高める。Mn含有量が0.40%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が1.30%を超えれば、ガス浸炭処理の温度域における鋼材表層のCの化学ポテンシャルが過剰に低下し、ガス浸炭処理においてCが過剰に鋼材に侵入及び拡散する。そのため、浸炭鋼部品にセメンタイトが過剰に生成する。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。したがって、Mn含有量は0.40~1.30%である。Mn含有量の好ましい下限は、0.41%であり、さらに好ましくは0.42%であり、さらに好ましくは0.43%である。Mn含有量の好ましい上限は1.00%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.68%であり、さらに好ましくは0.65%であり、さらに好ましくは0.62%である。
P:0.030%以下
リン(P)は不純物である。Pは、鋼材を素材として浸炭鋼部品を製造する場合のガス浸炭処理工程において、オーステナイト粒界に偏析して、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を低下する。P含有量が0.030%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が顕著に低下する。したがって、P含有量は0.030%以下である。P含有量の好ましい上限は0.029%であり、さらに好ましくは0.028%であり、さらに好ましくは0.025%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は、製造コストを高くする。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
S:0.001~0.100%
硫黄(S)はMnと結合してMnSを形成して、鋼材の被削性を高める。S含有量が0.001%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、S含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、硫化物が粗大化する。この場合、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。したがって、S含有量は0.001~0.100%である。S含有量の好ましい下限は0.002%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.007%である。S含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.060%である。
Cr:1.63~2.10%
クロム(Cr)は、鋼の焼戻し軟化抵抗を高め、その結果、鋼材を素材として製造される浸炭鋼部品の面疲労強度(ピッチング特性)を高める。Cr含有量が1.63%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が2.10%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、ガス浸炭処理の温度域における鋼材表層のCの化学ポテンシャルが過剰に低下し、ガス浸炭処理においてCが過剰に鋼材に侵入及び拡散する。そのため、浸炭鋼部品にセメンタイトが過剰に生成する。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。したがって、Cr含有量は1.63~2.10%である。Cr含有量の好ましい下限は1.64%であり、さらに好ましくは1.65%であり、さらに好ましくは1.68%であり、さらに好ましくは1.70%であり、さらに好ましくは1.75%である。Cr含有量の好ましい上限は2.05%であり、さらに好ましくは2.04%であり、さらに好ましくは2.03%であり、さらに好ましくは2.02%であり、さらに好ましくは2.00%である。
Al:0.010~0.100%
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する。Al含有量が0.010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Al含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な酸化物系介在物が生成する。粗大な酸化物系介在物は、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を低下する。したがって、Al含有量は0.010~0.100%である。Al含有量の好ましい下限は0.013%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.018%である。Al含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.070%である。
N:0.0250%以下
窒素(N)は不純物である。N含有量が0.0250%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な窒化物が生成する。粗大な窒化物は、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を低下する。したがって、N含有量は0.0250%以下である。N含有量の好ましい上限は0.0230%であり、さらに好ましくは0.0210%であり、さらに好ましくは0.0200%である。N含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、N含有量を過剰に低減すれば、製造コストが高くなる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、N含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
Mo:0.02~0.60%
モリブデン(Mo)は、鋼の焼戻し軟化抵抗を高め、その結果、鋼材を素材として製造される浸炭鋼部品の面疲労強度(ピッチング特性)を高める。Mo含有量が0.02%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mo含有量が0.60%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、ガス浸炭処理の温度域における鋼材表層のCの化学ポテンシャルが過剰に低下し、ガス浸炭処理においてCが過剰に鋼材に侵入及び拡散する。そのため、浸炭鋼部品にセメンタイトが過剰に生成する。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。したがって、Mo含有量は0.02~0.60%である。Mo含有量の好ましい下限は0.03%であり、さらに好ましくは0.04%であり、さらに好ましくは0.05%である。Mo含有量の好ましい上限は0.55%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.45%である。
本実施の形態による鋼材の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態の鋼材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素について]
本実施形態の鋼材はさらに、Feの一部に代えて、V、Nb、Ti、Cu、Ni、W、Co及びBからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を高める。
V:0.50%以下
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、V含有量が0%超の場合、Vは析出物(炭化物、窒化物、炭窒化物等)を形成し、ピンニング効果により、ガス浸炭処理時における鋼材の結晶粒の粗大化を抑制する。その結果、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を高める。Vが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、V含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の硬さが過剰に高くなる。この場合、鋼材の被削性が低下する。したがって、V含有量は0~0.50%であり、含有される場合、0.50%以下である。V含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。V含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%である。
Nb:0.100%以下
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Nb含有量が0%超の場合、Nbは析出物(炭化物、炭窒化物等)を形成し、ピンニング効果により、ガス浸炭処理時における鋼材の結晶粒の粗大化を抑制する。その結果、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を高める。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Nb含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Nb析出物が粗大化して、ピンニング効果が得られなくなる。したがって、Nb含有量は0~0.100%であり、含有される場合、0.100%以下である。Nb含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.005%である。Nb含有量の好ましい上限は0.060%であり、さらに好ましくは0.050%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
Ti:0.200%以下
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Ti含有量が0%超の場合、Tiは析出物(炭化物、窒化物、炭窒化物等)を形成し、ピンニング効果により、ガス浸炭処理時における鋼材の結晶粒の粗大化を抑制する。その結果、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を高める。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ti含有量が0.200%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Ti析出物が粗大化して、ピンニング効果が得られなくなる。したがって、Ti含有量は0~0.200%であり、含有される場合、0.200%以下である。Ti含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。Ti含有量の好ましい上限は0.150%であり、さらに好ましくは0.120%である。
Cu:0.50%以下
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Cu含有量が0%超の場合、Cuは鋼の焼入れ性を高めて、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。一方、Cu含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は0~0.50%であり、含有される場合、0.50%以下である。Cu含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.10%である。Cu含有量の好ましい上限は0.48%であり、さらに好ましくは0.46%である。
Ni:0.30%以下
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Ni含有量が0%超の場合、Niは鋼の焼入れ性を高めて、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Niが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ni含有量が0.30%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が過剰に高くなる。この場合、鋼材の被削性が低下する。したがって、Ni含有量は0~0.30%であり、含有される場合、0.30%以下である。Ni含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Ni含有量の好ましい上限は0.29%であり、さらに好ましくは0.28%であり、さらに好ましくは0.27%である。
W:0.50%以下
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、W含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、W含有量が0%超の場合、Wは鋼の焼入れ性を高めて、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Wが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。一方、W含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が過剰に高くなる。この場合、鋼材の被削性が低下する。したがって、W含有量は0~0.50%であり、含有される場合、0.50%以下である。W含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.08%である。W含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%である。
Co:0.50%以下
コバルト(Co)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Co含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Co含有量が0%超の場合、Coは鋼の焼入れ性を高めて、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Coが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。一方、Co含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が過剰に高くなる。この場合、鋼材の被削性が低下する。したがって、Co含有量は0~0.50%であり、含有される場合、0.50%以下である。Co含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.08%である。Co含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%である。
B:0.0050%以下
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、B含有量が0%超の場合、Bは鋼の焼入れ性を高めて、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。一方、B含有量が0.0050%を超えれば、その効果が飽和する。したがって、B含有量は0~0.0050%であり、含有される場合、0.0050%以下である。B含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0003%である。B含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0015%である。
本実施形態の鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Ca、Mg、及び、希土類元素(REM)からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を高める。
Ca:0.0014%以下
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Ca含有量が0%超の場合、Caは鋼材中の硫化物を改質し、熱間加工時において硫化物が延伸するのを抑制する。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ca含有量が0.0014%を超えれば、上記効果が飽和する。したがって、Ca含有量は0~0.0014%であり、含有される場合、0.0014%以下である。Ca含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0012%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
Mg:0.010%以下
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Mg含有量が0%超の場合、Mgは鋼材中の硫化物を改質し、熱間加工時において硫化物が延伸するのを抑制する。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mg含有量が0.010%を超えれば、上記効果が飽和する。したがって、Mg含有量は0~0.010%であり、含有される場合、0.010%以下である。Mg含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。Mg含有量の好ましい上限は0.009%であり、さらに好ましくは0.008%である。
希土類元素:0.0100%以下
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、REM含有量が0%超の場合、REMは鋼材中の硫化物を改質し、熱間加工時において硫化物が延伸するのを抑制する。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。REMが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、REM含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な酸化物の形成が促進される。この場合、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。したがって、REM含有量は0~0.0100%であり、含有される場合、0.0100%以下である。REM含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0020%である。REM含有量の好ましい上限は0.0098%であり、さらに好ましくは0.0097%である。
本実施形態の鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Te、Bi、Pb、Sn及びSbからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材の被削性を高める。
Te:0.100%以下
テルル(Te)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Te含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Te含有量が0%超の場合、Teは鋼材の被削性を高める。Teが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Te含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Te含有量は0~0.100%であり、含有される場合、0.100%以下である。Te含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。Te含有量の好ましい上限は0.095%であり、さらに好ましくは0.090%である。
Bi:0.500%以下
ビスマス(Bi)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Bi含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Bi含有量が0%超の場合、Biは鋼の被削性を高める。Biが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Bi含有量が0.500%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Bi含有量は0~0.500%であり、含有される場合0.500%以下である。Bi含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。Bi含有量の好ましい上限は0.400%であり、さらに好ましくは0.300%であり、さらに好ましくは0.200%であり、さらに好ましくは0.100%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.070%である。
Pb:0.09%以下
鉛(Pb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Pb含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Pb含有量が0%超の場合、Pbは鋼材の被削性を高める。Pbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Pb含有量が0.09%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Pb含有量は0~0.09%であり、含有される場合、0.09%以下である。Pb含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Pb含有量の好ましい上限は0.08%であり、さらに好ましくは0.07%である。
Sn:0.014%以下
すず(Sn)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sn含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Sn含有量が0%超の場合、Snは鋼材の被削性を高める。Snが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Sn含有量が0.014%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Sn含有量は0~0.014%であり、含有される場合、0.014%以下である。Sn含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.005%である。Sn含有量の好ましい上限は0.013%であり、さらに好ましくは0.010%である。
Sb:0.0018%以下
アンチモン(Sb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sb含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Sb含有量が0%超の場合、Sbは鋼材の被削性を高める。Sbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Sb含有量が0.0018%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Sb含有量は0~0.0018%であり、含有される場合、0.0018%以下である。Sb含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%である。Sb含有量の好ましい上限は0.0017%であり、さらに好ましくは0.0016%である。
[式(1)~式(3)について]
本実施形態の鋼材の化学組成は、各元素含有量が上述の本実施形態の範囲内であることを前提として、さらに、式(1)~式(3)を満たす。
6.1≦(Mn+3Cr+2Mo)/Si≦12.0 (1)
3.0≦Cr/Mn (2)
24.0≦Mn/S≦60.0 (3)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
以下、各式について説明する。
[式(1)について]
F1=(Mn+3Cr+2Mo)/Siと定義する。F1は、鋼材を素材として浸炭鋼部品を製造する製造工程中のガス浸炭処理において、鋼材への炭素(C)の侵入のしやすさを示す指標である。本実施形態の鋼材の化学組成において、Mn、Cr及びMoはいずれも、ガス浸炭処理の温度域において、Cの化学ポテンシャルを下げて、Cを鋼材に侵入しやすくする。一方、Siは、ガス浸炭処理の温度域において、Cの化学ポテンシャルを上げて、Cを鋼材に侵入しにくくする。したがって、本実施形態の鋼材の化学組成において、各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、Mn、Cr、Mo及びSiの含有量を適切に調整することにより、ガス浸炭処理におけるCの鋼材への侵入量を調整できる。
本実施形態の鋼材の化学組成において、各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、F1が6.1未満である場合、Mn、Cr及びMoの含有量に対して、Si含有量が過剰に高い。この場合、ガス浸炭処理中において、Cの化学ポテンシャルが過剰に高くなる。そのため、ガス浸炭処理におけるCの鋼材への侵入量が不足する。その結果、浸炭鋼部品の表層の硬さが低くなり、面疲労強度(ピッチング特性)が低下する。
一方、本実施形態の鋼材の化学組成において、各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、F1が12.0を超える場合、Si含有量に対して、Mn、Cr及びMoの含有量が高い。この場合、ガス浸炭処理中において、Cの化学ポテンシャルが過剰に低くなる。この場合、ガス浸炭処理中におけるCの鋼材への侵入量が過剰に多くなる。その結果、鋼材中にセメンタイトが生成する。セメンタイトは割れの発生起点となりやすい。そのため、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。
F1が6.1~12.0であれば、Mn、Cr、Moの含有量に対するSi含有量が適切な範囲であるため、ガス浸炭処理中におけるCの化学ポテンシャルが適切な範囲となる。そのため、ガス浸炭処理において、Cが適量鋼材内に侵入、拡散する。その結果、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品は、高い曲げ疲労強度及び高い面疲労強度を有する。
F1の好ましい下限は6.2であり、さらに好ましくは6.4であり、さらに好ましくは6.5である。F1の好ましい上限は11.9であり、さらに好ましくは11.8であり、さらに好ましくは11.5であり、さらに好ましくは11.0であり、さらに好ましくは10.5であり、さらに好ましくは10.0であり、さらに好ましくは9.5であり、さらに好ましくは9.0である。なお、F1は計算により得られた値の小数第二位を四捨五入して得られた値である。
[式(2)について]
F2=Cr/Mnと定義する。F2は、曲げ疲労強度に影響する酸化層に関する指標である。Cr及びMnはいずれも、ガス浸炭処理中において、鋼材の表層にCr酸化層及びMn酸化層を形成する。Mn酸化層はCr酸化層よりも鋼材の深い位置まで形成されやすい。そのため、曲げ疲労において、Mn酸化層はCr酸化層よりも割れの起点となりやすく、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を低下する。一方、Mn含有量に対してCr含有量が高ければ、MnよりもCrが優先して酸化層を形成する。上述のとおり、Cr酸化層はMn酸化層よりも浅く形成されるため、曲げ疲労強度への影響が小さい。
本実施形態の鋼材の化学組成において、各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、F2が3.0未満である場合、鋼材中のMn含有量に対してCr含有量が低すぎる。この場合、ガス浸炭処理において、Mn酸化層が過剰に生成する。そのため、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。
本実施形態の鋼材の化学組成において、各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、F2が3.0以上であれば、鋼材中のMn含有量に対してCr含有量が高い。そのため、ガス浸炭処理において、Mn酸化層の生成を十分に抑制できる。その結果、浸炭鋼部品において、十分な曲げ疲労強度が得られる。
F2の好ましい下限は3.1であり、さらに好ましくは3.2であり、さらに好ましくは3.3である。F2の上限は特に限定されないが、本実施形態の化学組成中のCr含有量の上限、及びMn含有量の下限を考慮すれば、F2の好ましい上限は10.5である。なお、F2は計算により得られた値の小数第二位を四捨五入して得られた値である。
[式(3)について]
F3=Mn/Sと定義する。F3は、曲げ疲労強度に影響するMnSに関する指標である。MnSは鋼材の被削性を高める。しかしながら、粗大なMnSは、浸炭鋼部品の曲げ疲労において、割れの起点となる。そのため、粗大なMnSが多く形成されれば、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。
本実施形態の鋼材の化学組成において、各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、F3が24.0未満であれば、鋼材中のMn含有量に対してS含有量が過剰に高い。この場合、粗大なMnSが過剰に形成される。そのため、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。
一方、本実施形態の鋼材の化学組成において、各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、F3が60.0を超えれば、鋼材中のS含有量に対してMn含有量が過剰に高い。この場合、Mnが鋼材の中心軸付近に偏析する。そのため、この中心偏析部において、粗大なMnSが過剰に形成される。その結果、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。
本実施形態の鋼材の化学組成において、各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、F3が24.0~60.0であれば、Mn含有量とS含有量との関係が適切である。そのため、粗大なMnSが過剰に生成するのを抑制できる。その結果、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品において、十分な曲げ疲労強度が得られる。
F3の好ましい下限は24.5であり、さらに好ましくは25.0であり、さらに好ましくは25.5であり、さらに好ましくは26.0である。F3の好ましい上限は58.0であり、さらに好ましくは56.0であり、さらに好ましくは54.0であり、さらに好ましくは52.0であり、さらに好ましくは50.0であり、さらに好ましくは46.0であり、さらに好ましくは44.0である。なお、F3は計算により得られた値の小数第二位を四捨五入して得られた値である。
[鋼材のミクロ組織について]
本実施形態の鋼材のミクロ組織は特に限定されない。本実施形態の鋼材の課題は、鋼材を素材として製造される浸炭鋼部品において、高い曲げ疲労強度及び高い面疲労強度を得ることである。そして、鋼材を素材として浸炭鋼部品を製造する製造工程において、後述するとおり、例えば、鋼材に対してガス浸炭処理が実施される。ガス浸炭処理では鋼材をAc3変態点温度以上に加熱するため、鋼材のミクロ組織はオーステナイトに変態し、前組織の影響がなくなる。そのため、浸炭鋼部品の素材である鋼材のミクロ組織は特に限定されない。本実施形態の鋼材は、化学組成中の各元素含有量が上述の範囲であって、さらに、式(1)~式(3)を満たす。そのため、本実施形態の鋼材を素材として、ガス浸炭処理を実施して浸炭鋼部品を製造した場合、浸炭鋼部品において、高い曲げ疲労強度及び面疲労強度(ピッチング特性)が得られる。
[本実施形態の鋼材の用途]
本実施形態の鋼材は、ガス浸炭処理を施して製造される浸炭鋼部品の素材として好適である。特に、自動車や建設車両等の機械製品に利用される歯車に代表される、曲げ疲労強度と面疲労強度(ピッチング特性)とを求められる浸炭鋼部品の素材として好適である。
[本実施形態の鋼材の製造方法]
本実施形態の鋼材の製造方法の一例を説明する。以降に説明する鋼材の製造方法は、本実施形態の鋼材を製造するための一例である。したがって、上述の構成を有する鋼材は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の鋼材の製造方法の好ましい一例である。
本実施形態の鋼材の製造方法の一例は、素材を準備する工程(素材準備工程)と、素材を熱間加工して鋼材を製造する工程(熱間加工工程)とを備える。以下、各工程について説明する。
[素材準備工程]
素材準備工程では、本実施形態の鋼材の素材を準備する。具体的には、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、かつ、式(1)~式(3)を満たす溶鋼を製造する。精錬方法は特に限定されず、周知の方法を用いればよい。例えば、周知の方法で製造された溶銑に対して転炉での精錬(一次精錬)を実施する。転炉から出鋼した溶鋼に対して、周知の二次精錬を実施する。二次精錬において、成分調整の合金元素の添加を実施して、各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、かつ、式(1)~式(3)を満たす化学組成を有する溶鋼を製造する。
上述の精錬方法により製造された溶鋼を用いて、周知の鋳造法により素材を製造する。例えば、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造する。また、溶鋼を用いて連続鋳造法によりブルームを製造してもよい。以上の方法により、素材(インゴット又はブルーム)を製造する。
[熱間加工工程]
熱間加工工程では、素材準備工程にて準備された素材(インゴット又はブルーム)に対して、熱間加工を実施して、本実施形態の鋼材(棒鋼)を製造する。熱間加工方法は、熱間鍛造でもよいし、熱間圧延でもよい。以下の説明では、熱間加工が熱間圧延である場合について説明する。この場合、熱間加工工程は例えば、分塊圧延工程と、仕上げ圧延工程とを含む。
[分塊圧延工程]
分塊圧延工程では、素材を熱間圧延してビレットを製造する。具体的には、分塊圧延工程では、分塊圧延機により素材に対して熱間圧延(分塊圧延)を実施して、ビレットを製造する。分塊圧延機の下流に連続圧延機が配置されている場合、分塊圧延後のビレットに対してさらに、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、さらにサイズの小さいビレットを製造してもよい。分塊圧延工程での加熱温度は周知の範囲で足りる。加熱温度は例えば、1000~1300℃である。
[仕上げ圧延工程]
仕上げ圧延工程では、分塊圧延工程で製造されたビレットに対して連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、鋼材である棒鋼を製造する。仕上げ圧延工程での加熱温度は周知の温度で足りる。加熱温度は例えば900~1250℃である。熱間圧延後の鋼材を常温まで冷却する。冷却方法は特に限定されないが、例えば、放冷である。
以上の製造方法により、本実施形態の鋼材が製造される。なお、上述の製造方法は、本実施形態の鋼材を製造するための製造方法の一例である。したがって、上述の製造方法以外の他の方法により、本実施形態の鋼材を製造してもよい。つまり、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、式(1)~式(3)を満たす鋼材であれば、製造方法は限定されない。
上述の製造方法の一例では、素材準備工程を実施した後、熱間加工工程を実施している。しかしながら、本実施形態の鋼材の製造方法は、素材準備工程を実施した後、熱間加工工程を実施しなくてもよい。つまり、本実施形態の鋼材は、鋳造材(インゴット又はブルーム、ビレット)であってもよい。
また、素材準備工程後の鋼材、又は、熱間加工工程後の鋼材に対して、周知の焼準処理、及び/又は、周知の球状化焼鈍を実施してもよい。球状化焼鈍では例えば、焼鈍温度を720~780℃とし、焼鈍温度での保持時間を3~8時間とする。さらに、焼鈍温度から600℃までの冷却時間を4時間以上(8時間以下)とする。その後、放冷する。
[浸炭鋼部品の構成]
本実施形態の浸炭鋼部品は、上述の本実施形態の鋼材を素材としてガス浸炭処理(ガス浸炭処理又はガス浸炭窒化処理)を施して製造される。浸炭鋼部品は、例えば、自動車及び建設車両等に用いられる機械部品であり、例えば、歯車である。
本実施形態の浸炭鋼部品は、硬化層と、硬化層よりも内部の芯部とを備える。硬化層は、ガス浸炭処理によりCが侵入して硬化した層である。具体的には、ガス浸炭処理を実施した場合、硬化層は浸炭層に相当し、ガス浸炭窒化処理を実施した場合、硬化層は浸炭窒化層に相当する。芯部は、硬化層よりも内部の部分であって、ガス浸炭によるCの侵入及び拡散の影響がない領域である。硬化層と芯部とは周知のミクロ組織観察により区別可能であることは、当業者において周知の技術事項である。
[芯部について]
本実施形態の浸炭鋼部品の芯部の化学組成は、上述の本実施形態の鋼材の化学組成と同じである。具体的には、本実施形態の浸炭鋼部品の芯部の化学組成は、質量%で、C:0.10~0.35%、Si:0.45~1.00%、Mn:0.40~1.30%、P:0.030%以下、S:0.001~0.100%、Cr:1.63~2.10%、Al:0.010~0.100%、N:0.0250%以下、及び、Mo:0.02~0.60%、を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)~式(3)を満たす。
6.1≦(Mn+3Cr+2Mo)/Si≦12.0 (1)
3.0≦Cr/Mn (2)
24.0≦Mn/S≦60.0 (3)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
芯部の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、V:0.50%以下、Nb:0.100%以下、Ti:0.200%以下、Cu:0.50%以下、Ni:0.30%以下、W:0.50%以下、Co:0.50%以下、及び、B:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
芯部の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ca:0.0014%以下、Mg:0.010%以下、及び、希土類元素:0.0100%以下、からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
芯部の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Te:0.100%以下、Bi:0.500%以下、Pb:0.09%以下、Sn:0.014%以下、及び、Sb:0.0018%以下、からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
[硬化層について]
硬化層の構成は次のとおりである。
(1)浸炭鋼部品の表面から50μm深さまでの領域でのC濃度が質量%で0.60%以上である。
(2)浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置でのミクロ組織はマルテンサイトからなり、又は、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなり、残留オーステナイトの体積率は0~40%である。
以下、各構成について説明する。
[表層のC濃度について]
浸炭鋼部品の表面から50μm深さまでの領域(以下、表層領域という)は、硬化層に含まれる。表層領域でのC濃度は質量%で0.60%以上である。硬化層のC濃度は芯部のC濃度よりも高い。表層領域でのC濃度が質量%で0.60%以上であれば、硬化層の硬さが十分に硬い。そのため、浸炭鋼部品において、十分な面疲労強度及び十分な曲げ疲労強度が得られる。
表層領域でのC濃度の好ましい下限は0.65%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.75%である。表層領域でのC濃度の上限は特に限定されない。表層領域でのC濃度の好ましい上限は例えば、1.30%であり、さらに好ましくは1.20%であり、さらに好ましくは1.10%である。
[表層のC濃度の測定方法]
表層領域のC濃度は次の方法で測定できる。浸炭鋼部品の表面から50μm深さまで切削加工を実施して、表面から50μm深さまでの表層領域の切粉を採取する。採取した切粉を用いて化学分析を実施する。具体的には、採取した切粉に対して、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)を実施して、C濃度を得る。具体的には、上述の切粉を酸素気流中で高周波誘導加熱により燃焼して、発生した二酸化炭素,一酸化炭素を検出し、C濃度(質量%)を求める。得られたC濃度(質量%)を、浸炭鋼部品の表面から50μm深さまでの領域(表層領域)におけるC濃度(質量%)と定義する。
[硬化層のミクロ組織について]
浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置は、硬化層に含まれる。浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置でのミクロ組織は、マルテンサイトからなり、又は、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなり、残留オーステナイトの体積率は0~40%である。つまり、ミクロ組織がマルテンサイト及び残留オーステナイトからなる場合、残留オーステナイトの体積率は40%以下である。なお、硬化層におけるミクロ組織が主としてマルテンサイトとなることは技術常識である。
浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置での残留オーステナイトの体積率が40%を超えれば、硬化層の硬さが低すぎる。この場合、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低くなる。浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置での残留オーステナイトの体積率が40%以下であれば、硬化層が十分な硬さを有する。そのため、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。炭鋼部品の表面から20μm深さ位置での残留オーステナイトの体積率の好ましい上限は35%であり、さらに好ましくは30%であり、さらに好ましくは28%である。残留オーステナイトの体積率は低い方が好ましい。しかしながら、残留オーステナイトを0%にすることは困難で、製造コストも高くなる。したがって、工業生産を考慮した場合、残留オーステナイトの好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは1%である。
[残留オーステナイトの体積率の測定方法]
残留オーステナイトの体積率は,次の方法で測定される。浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置まで電解研磨で研磨して、表面から20μm深さ位置を露出させる。X線回折装置を用いて、露出させた面の任意の位置にX線を照射して、残留オーステナイトの体積率(%)を測定する。残留オーステナイトの体積率はX線回折で得られた(211)bccの回折ピークの積分強度と、(220)fccの回折ピークの積分強度との比(積分強度比)から算出する。具体的には、残留オーステナイトの体積率(%)は、(211)bcc(α相)の積分強度をIαとし、(220)fcc(γ相)の積分強度をIγとしたとき、次の式から求めることができる。
残留オーステナイトの体積率=Iγ/(RIα+Iγ)
ここで、R=0.36746である。
以上の構成を有する浸炭鋼部品は、芯部の化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であり、かつ、式(1)~式(3)を満たす。さらに、浸炭鋼部品の表面から50μm深さまでの領域(表層領域)でのC濃度が0.60%以上であり、浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置でのミクロ組織はマルテンサイトからなり、又は、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなり、残留オーステナイトの体積率は0~40%である。そのため、本実施形態の浸炭鋼部品は高い曲げ疲労強度及び高い面疲労強度を有する。
[浸炭鋼部品の製造方法]
本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法の一例を説明する。以降に説明する浸炭鋼部品の製造方法は、本実施形態の浸炭鋼部品を製造するための一例である。したがって、上述の構成を有する浸炭鋼部品は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法の好ましい一例である。
浸炭鋼部品は、熱間加工工程又は冷間加工工程と、切削加工工程と、熱処理工程とを備える。熱間加工工程及び冷間加工工程は、いずれかの工程が実施される。
[熱間加工工程]
熱間加工工程が実施される場合、本実施形態の鋼材に対して熱間加工を実施する。熱間加工は例えば、周知の熱間鍛造である。熱間加工工程での加熱温度は例えば、1000~1300℃である。熱間加工後の鋼材は放冷(空冷)される。
[冷間加工工程]
冷間加工工程が実施される場合、本実施形態の鋼材に対して周知の球状化焼鈍を実施した後、冷間加工を実施する。冷間加工の条件は特に制限されない。
[切削加工工程]
切削加工工程では、熱間加工工程後の鋼材に対して、切削加工を実施して、所定形状の中間品を製造する。切削加工を実施することにより、熱間加工工程又は冷間加工工程だけでは困難な、精密形状を浸炭鋼部品に付与することができる。
[熱処理工程]
切削加工工程後の中間品に対して、熱処理を実施する。ここで、「熱処理」とは、周知のガス浸炭処理工程と、周知の焼戻し工程とを含む。ガス浸炭処理工程は、ガス浸炭工程及び焼入れ工程を含む。ガス浸炭処理工程において、周知の条件を適宜調整して、浸炭鋼部品の硬化層のC濃度及びミクロ組織を調整することは、当業者に周知の技術事項である。以下、熱処理工程の一例として、周知のガス浸炭処理工程を説明する。
[ガス浸炭処理工程]
ガス浸炭処理工程は、ガス浸炭工程と、焼入れ(急冷)工程とを含む。以下、ガス浸炭工程、焼入れ工程について説明する。
[ガス浸炭工程]
図1は、ガス浸炭工程S10及び焼入れ工程S20でのヒートパターンの一例を示す図である。図1の縦軸はガス浸炭処理時における処理温度(℃)であり、横軸は時間(分)である。図1を参照して、ガス浸炭工程S10は、加熱工程S0と、浸炭工程S1と、拡散工程S2とを含む。
加熱工程S0では、炉内に装入された中間品を浸炭温度Tcまで加熱する。加熱工程S0での浸炭温度Tcは、例えば900~1100℃である。
浸炭工程S1では、所定のカーボンポテンシャルCP1の雰囲気中において、上記浸炭温度Tcで中間品を所定時間(保持時間t1)保持して、浸炭処理を実施する。浸炭工程S1におけるカーボンポテンシャルCP1は、例えば0.6~1.3%であり、浸炭温度Tcでの保持時間t1は、例えば60分以上である。
拡散工程S2では、所定のカーボンポテンシャルCP2の雰囲気中において、浸炭温度Tcで所定時間(保持時間t2)保持する。ここで、拡散工程S2でのカーボンポテンシャルCP2は例えば0.6~1.3%であり、浸炭温度Tcでの保持時間t2は、例えば30分以上である。拡散工程S2でのカーボンポテンシャルCP2は、浸炭工程S1でのカーボンポテンシャルCP1よりも低くする方が好ましい。
[焼入れ工程]
ガス浸炭工程S10後の中間品に対して焼入れ工程S20を実施する。焼入れ工程S20では、ガス浸炭工程S10後の中間品をAr3点以上の焼入れ温度で保持後、中間品を急冷して焼入れする。焼入れ温度Tsでの保持時間t3は特に限定されないが、例えば、15~60分である。焼入れ温度Tsは、浸炭温度Tcよりも低い方が好ましい。焼入れ処理における冷却方法は、油冷又は水冷である。具体的には、冷却媒体である油又は水を入れた冷却浴に、焼入れ温度に保持された中間品を浸漬して急冷する。
[焼戻し工程]
焼入れ工程後の中間品に対して、周知の焼戻し工程を実施する。焼戻し温度は例えば、100~200℃である。焼戻し温度での保持時間は例えば、90~150分である。
[その他の工程]
本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法はさらに、ショットピーニング工程及び仕上げ研削加工工程を含んでもよい。これらの工程は任意の工程である。
[ショットピーニング工程]
ショットピーニング工程は任意の工程であり、実施しなくてもよい。実施する場合、ショットピーニング工程では、熱処理工程後の中間品に対して、ショットピーニング処理を実施する。ショットピーニング処理を実施することにより、浸炭鋼部品の硬化層中の残留オーステナイトが加工誘起変態してマルテンサイトとなる。その結果、硬化層中の残留オーステナイト体積率が低下する。ショットピーニング処理は例えば、直径が1.0mm以下のカットワイヤ又はショット粒を用い、アークハイトが0.3mmA以上とし、カバレージを300%以上とするのが好ましい。
[仕上げ研削加工工程]
仕上げ研削加工工程は任意の工程であり、実施しなくてもよい。実施する場合、仕上げ研削加工工程では、熱処理工程後又はショットピーニング工程後の中間品に対して、仕上げ研削加工を実施して、表面性状を整える。
以上の製造工程により、本実施形態の浸炭鋼部品を製造できる。なお、上述の製造方法は、本実施形態の浸炭鋼部品を製造するための製造方法の一例である。したがって、上述の製造方法以外の他の方法により、本実施形態の浸炭鋼部品を製造してもよい。つまり、浸炭鋼部品の芯部の化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、式(1)~式(3)を満たし、浸炭鋼部品の表面から50μm深さまでの領域でのC濃度が0.60%以上であり、浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置でのミクロ組織はマルテンサイトからなり、又は、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなり、残留オーステナイトの体積率は0~40%であれば、浸炭鋼部品の製造方法は特に限定されない。
以下、実施例により本実施形態の鋼材及び浸炭鋼部品の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の鋼材及び浸炭鋼部品の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の鋼材及び浸炭鋼部品はこの一条件例に限定されない。
[鋼材の製造]
表1に示す化学組成を有する溶鋼を製造した。
Figure 2022080398000001
表1の溶鋼を用いて、造塊法によりインゴットを製造した。インゴットの長手方向に垂直な断面は180mm×180mmの矩形であった。製造したインゴットを常温まで放冷した。
インゴットを1200℃で2時間加熱した。加熱後のインゴットに対して熱間加工(熱間鍛伸)を実施して、直径40mm、長さ1000mmの鋼材(棒鋼)を製造した。熱間加工後の鋼材を常温まで放冷した。放冷後の鋼材に対して、焼準処理を実施した。焼準処理での処理温度は925℃とし、処理温度での保持時間は90分であった。保持時間経過後の鋼材を放冷した。放冷時の鋼材の冷却速度は0.3~0.9℃/秒であった。以上の工程により、各試験番号の鋼材(棒鋼)を製造した。
なお、試験番号37の鋼材は、JIS G 4805(2019)に規定されたSCr420に相当する化学組成を有した。試験番号37の鋼材を「基準鋼材」とした。
[評価試験]
[浸炭鋼部品試験片の製造]
製造された各試験番号の鋼材を用いて、各試験番号において、次の3種類の浸炭鋼部品試験片を作製した。
(1)小ローラ試験片
図2に本実施例で作製した小ローラ試験片の側面図を示す。図2中の数字は、寸法(単位はmm)を示す。図2中の「φ」は直径を意味する。図2中の逆三角形の記号は、JIS B 0601(1982)の解説表1に記載されている表面粗さを示す「仕上げ記号」を意味する。仕上げ記号に付した「G」は、JIS B 0122(1978)に規定の研削を示す加工方法の略号を意味する。小ローラ試験片は、面疲労強度を測定するための試験片である。小ローラ試験片は各試験番号で複数本用意した。
(2)回転曲げ疲労試験片
図3に本実施例で作製した回転曲げ疲労試験片の側面図を示す。図3中の数字は、寸法(単位はmm)を示す。図3中の「φ」は直径を意味する。図3中の「R」は曲率半径を意味する。回転曲げ疲労試験片は、回転曲げ疲労強度を測定するための試験片である。
(3)硬化層調査用試験片
硬化層調査用試験片は各試験番号で2本用意した。硬化層調査用試験片は直径26mm長さ100mmの円柱状の試験片とした。
各浸炭鋼部品試験片を次の方法で作製した。
[小ローラ試験片]
各試験番号の鋼材を機械加工して、小ローラ試験片の粗形状を有する粗試験片を製造した。粗試験片に対して、ガス浸炭処理(ガス浸炭焼入れ及び焼戻し)を実施した。具体的には、カーボンポテンシャルCPが1.0%の雰囲気中において、試験片を930℃で180分保持した(浸炭工程)。その後、カーボンポテンシャルCPを0.8%とし、930℃で120分保持した(拡散工程)。その後、870℃まで降温し、870℃で30分保持した後、60℃の油で油冷した(焼入れ工程)。油冷後の粗試験片に対して、焼戻し処理を実施した。焼戻し温度は180℃であり、焼戻し温度での保持時間は120分であった。その後、粗試験片の中央部の円筒部に対して研削加工を実施して、図2に示す直径26mmの円筒部に仕上げた。このとき、JIS B 0601(2001)に準拠した、算術平均粗さRaが0.6~0.8μmとなり、最大高さRzが2.0~4.0μmとなるように、直径26mmの円筒部の表面を仕上げた。研削深さは約10μmであった。
さらに、一部の試験番号の粗試験片に対して、ショットピーニングを実施した(表2中の「ショットピーニング」欄で「有」と記載)。ショットピーニングでは、市販の直径0.6mmのラウンドカットワイヤを投射材とした。さらに、アークハイトを0.4mmAとし、カバレージを300%とした。ショットピーニングは、図2に示す直径26mmの円筒部の外周面に対して実施した。残りの試験番号の粗試験片に対しては、ショットピーニングを実施しなかった(表2中の「ショットピーニング」欄で「無」と記載)。以上の製造工程により、小ローラ試験片を作製した。
[回転曲げ疲労試験片]
各試験番号の鋼材を機械加工して、回転曲げ疲労試験片の粗試験片を製造した。粗試験片に対して、ガス浸炭処理(ガス浸炭焼入れ及び焼戻し)を実施した。具体的には、カーボンポテンシャルCPが1.0%の雰囲気中において、試験片を930℃で180分保持した(浸炭工程)。その後、カーボンポテンシャルCPを0.8%とし、930℃で120分保持した(拡散工程)。その後、870℃まで降温し、870℃で30分保持した後、60℃の油で油冷した(焼入れ工程)。油冷後の粗試験片に対して、焼戻し処理を実施した。焼戻し温度は180℃であり、焼戻し温度での保持時間は120分であった。一部の試験番号に対して、焼戻し後の粗試験片に対して、ショットピーニング処理を実施した(表2中の「ショットピーニング」欄で「有」と記載)。ショットピーニング処理では、市販の直径0.6mmのラウンドカットワイヤを投射材とした。さらに、アークハイトを0.4mmAとし、カバレージを300%とした。ショットピーニング処理は、回転曲げ試験片の切り欠き部に対して実施した。残りの試験番号の粗試験片に対しては、ショットピーニング処理を実施しなかった(表2中の「ショットピーニング」欄で「無」と記載)。
ショットピーニング処理後、又は、焼戻し処理後の粗試験片の表面に対して切削加工を実施して、図3に示す寸法の回転曲げ疲労試験片を作製した。なお、回転曲げ疲労試験片の長手方向中央位置に形成された切り欠き部には、表面性状を整える切削加工は実施しなかった。以上の製造工程により、回転曲げ疲労試験片を作製した。
[硬化層調査用試験片]
各試験番号の鋼材を機械加工して、直径26mm、長さ100mmの円柱状の粗試験片を2本作製した。粗試験片に対して、ガス浸炭処理(ガス浸炭焼入れ及び焼戻し)を実施した。具体的には、カーボンポテンシャルCPが1.0%の雰囲気中において、試験片を930℃で180分保持した(浸炭工程)。その後、カーボンポテンシャルCPを0.8%とし、930℃で120分保持した(拡散工程)。その後、870℃まで降温し、870℃で30分保持した後、60℃の油で油冷した(焼入れ工程)。油冷後の粗試験片に対して、焼戻し処理を実施した。焼戻し温度は180℃であり、焼戻し温度での保持時間は120分であった。その後、小ローラ試験片と同様に、粗試験片の外周面に対して研削加工を実施して、外周面を仕上げた。このとき、JIS B 0601(2001)に準拠した、算術平均粗さRaが0.6~0.8μmとなり、最大高さRzが2.0~4.0μmとなるように、直径26mmの粗試験片の外周面を仕上げた。研削深さは約10μmであった。
さらに、一部の試験番号の粗試験片に対して、ショットピーニング処理を実施した(表2中の「ショットピーニング」欄で「有」と記載)。ショットピーニング処理では、市販の直径0.6mmのラウンドカットワイヤを投射材とした。さらに、アークハイトを0.4mmAとし、カバレージを300%とした。ショットピーニング処理は、粗試験片の外周面に対して実施した。残りの試験番号の粗試験片に対しては、ショットピーニング処理を実施しなかった(表2中の「ショットピーニング」欄で「無」と記載)。以上の製造工程により、硬化層調査用試験片を作製した。
[二円筒転がり疲労試験に用いる大ローラ試験片の製造]
面疲労強度を測定するための二円筒転がり疲労試験に用いる大ローラ試験片を次の方法で製造した。JIS G 4805(2008)に規定のSUJ2に相当する化学組成を有する、直径140mmの円柱素材から、図4に示す形状を有する大ローラ試験片の粗試験片を切り出した。図4中の数値は、寸法(単位はmm)を示す。また、図4中の逆三角形の記号は、JIS B 0601(1982)の解説表1に記載されている表面粗さを示す「仕上げ記号」を意味する。仕上げ記号に付した「G」は、JIS B 0122(1978)に規定の研削を示す加工方法の略号を意味する。
切り出した粗試験片に対して、焼入れを実施した。焼入れ温度は870℃とし、焼入れ温度での保持時間は90分とした。保持時間経過後、60℃の油で急冷した。焼入れ後の粗試験片の外周面に対して切削加工を実施して仕上げた。算術平均粗さRaが0.6~0.8μmとなり、最大高さRzが2.0~4.0μmとなるように、外周面を仕上げた。以上の製造工程により、大ローラ試験片を作製した。
[浸炭鋼部品試験片の硬化層のC濃度測定試験]
各試験番号の硬化層調査用試験片を用いて、浸炭鋼部品の表面から50μm深さまでの領域におけるC濃度を次の方法で測定した。硬化層調査用試験片の表面から50μm深さまで旋削加工を実施して、切粉を採取した。採取した切粉を用いて化学分析を実施した。具体的には、採取した切粉を酸に溶解させて溶液を得た。得られた溶液に対して、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)を実施して、C濃度を得た。具体的には、上述の溶液を酸素気流中で高周波誘導加熱により燃焼して、発生した二酸化炭素を検出し、C濃度(質量%)を求めた。得られたC濃度(質量%)を、浸炭鋼部品の表面から50μm深さまでの領域(表層領域)におけるC濃度(質量%)と定義した。
[浸炭鋼部品試験片の硬化層の残留オーステナイト体積率測定試験]
各試験番号の硬化層調査用試験片を用いて、浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置での残留オーステナイトの体積率を次の方法で求めた。浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置まで電解研磨で研磨して、表面から20μm深さ位置を露出させた。X線回折装置を用いて、露出させた面の任意の位置にX線を照射して、残留オーステナイトの体積率(%)を測定した。残留オーステナイトの体積率はX線回折で得られた(211)bccの回折ピークの積分強度と、(220)fccの回折ピークの積分強度との比(積分強度比)から算出した。具体的には、残留オーステナイトの体積率(%)は、(211)bcc(α相)の積分強度をIαとし、(220)fcc(γ相)の積分強度をIγとしたとき、次の式から求めた。
残留オーステナイトの体積率=Iγ/(RIα+Iγ)
ここで、R=0.36746とした。
[面疲労強度測定試験(二円筒転がり疲労試験)]
小ローラ試験片及び大ローラ試験片を用いた二円筒転がり疲労試験を実施して、面疲労強度を次のとおり求めた。試験機として、コマツエンジニアリング社製のRP201を用いた。図5に示すとおり、小ローラ試験片10の直径26mmの円筒部と、大ローラ試験片20の外周面中央位置(直径130mmの外周部分)とを接触させながら転動させた。接触時の面圧はヘルツ面圧で3.4GPaとした。小ローラ試験片の回転数を1500rpmとした。小ローラ試験片の周速は123m/分とし、大ローラ試験片の周速は172m/分とした。試験中、小ローラ試験片と大ローラ試験片との接触部分に潤滑油を供給した。潤滑油はオートマチック用オイルとし、油温を100℃、油量を1.0L/分とした。小ローラ試験片の円筒部の接触部分で疲労剥離(ピッチング損傷)が生じるまでの転動繰り返し数(サイクル回数)を測定した。試験は3本の小ローラ試験片で実施し、転動繰り返し数の算術平均値を、その試験番号の平均転動繰り返し数とした。平均転動繰り返し数が、基準鋼材である試験番号37の平均転動繰り返し数の1.3倍以上であれば、面疲労強度に優れると判断した(表2中の「面疲労強度」欄で「○」)。一方、平均転動繰り返し数が、基準鋼材である試験番号37の平均転動繰り返し数の1.3倍未満であれば、面疲労強度が低いと判断した(表2中の「面疲労強度」欄で「×」)。
[回転曲げ強度測定試験(回転曲げ疲労試験)]
回転曲げ疲労試験片を用いて、JIS Z 2274(1978)に規定の「金属材料の回転曲げ疲れ試験方法」に準拠した回転曲げ疲労試験を実施した。種々の条件で回転曲げ疲労試験片が破断するまで、回転曲げ疲労試験を実施し、繰り返し数2×10回での曲げ疲労強度(MPa)を算出した。得られた曲げ疲労強度が、基準鋼材である試験番号37の曲げ疲労強度の1.15倍以上であれば、曲げ疲労強度に優れると判断した(表2中の「曲げ疲労強度」欄で「○」)。一方、得られた曲げ疲労強度が、基準鋼材である試験番号37の曲げ疲労強度の1.15倍未満であれば、曲げ疲労強度が低いと判断した(表2中の「曲げ疲労強度」欄で「×」)。
[評価結果]
試験結果を表2に示す。
Figure 2022080398000002
表2を参照して、試験番号1~22の鋼材の化学組成中の各元素含有量は適切であり、さらに、F1~F3が式(1)~式(3)を満たした。そのため、ガス浸炭処理して製造した浸炭鋼部品では、浸炭鋼部品の表面から50μm深さまでの領域におけるC濃度が質量%で0.60%以上であり、浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置でのミクロ組織は、マルテンサイトと残留オーステナイトとからなり、残留オーステナイトの体積率は40%以下であった。その結果、優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度が得られた。
一方、試験番号23では、C含有量が低すぎた。そのため、面疲労強度が低かった。
試験番号24では、Si含有量が高すぎた。そのため、そのため、表層のC含有量が低すぎ、面疲労強度が低かった。
試験番号25では、Si含有量が低すぎた。そのため、面疲労強度が低かった。
試験番号26では、Mn含有量が高すぎた。そのため、曲げ疲労強度が低かった。なお、Mn含有量が高すぎたため、浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置でのミクロ組織において、残留オーステナイトの体積率が40%を超えた。
試験番号27では、Mn含有量が低すぎた。そのため、曲げ疲労強度及び面疲労強度が低かった。
試験番号28では、P含有量が高すぎた。そのため、曲げ疲労強度が低かった。
試験番号29では、S含有量が高すぎた。そのため、曲げ疲労強度が低かった。
試験番号30では、Cr含有量が高すぎた。そのため、曲げ疲労強度が低かった。
試験番号31では、Cr含有量が低すぎた。そのため、面疲労強度が低かった。
試験番号32では、鋼材の化学組成中の各元素含有量は適切であったものの、F3が式(3)の下限未満であった。そのため、曲げ疲労強度が低かった。
試験番号33では、N含有量が高すぎた。そのため、面疲労強度及び曲げ疲労強度が低かった。
試験番号34では、鋼材の化学組成中の各元素含有量は適切であったものの、F1が式(1)の上限を超えた。その結果、曲げ疲労強度が低かった。
試験番号35では、鋼材の化学組成中の各元素含有量は適切であったものの、F1が式(1)の下限未満であった。その結果、面疲労強度が低かった。
試験番号36では、鋼材の化学組成中の各元素含有量は適切であったものの、F2が式(1)の下限未満であった。その結果、曲げ疲労強度が低かった。
試験番号38では、鋼材の化学組成中の各元素含有量は適切であったものの、F3が式(3)の上限を超えた。その結果、曲げ疲労強度が低かった。
試験番号39では、鋼材の化学組成中の各元素含有量は適切であったものの、F3が式(3)の下限未満であった。その結果、曲げ疲労強度が低かった。
試験番号40では、鋼材の化学組成中の各元素含有量は適切であったものの、F1が式(1)の下限未満であった。その結果、面疲労強度が低かった。
試験番号41では、鋼材の化学組成中の各元素含有量は適切であったものの、F1が式(1)の上限を超えた。その結果、曲げ疲労強度が低かった。
試験番号42では、鋼材の化学組成中の各元素含有量は適切であったものの、F2が式(2)の下限未満であった。その結果、曲げ疲労強度が低かった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (8)

  1. 化学組成が質量%で、
    C:0.10~0.35%、
    Si:0.45~1.00%、
    Mn:0.40~1.30%、
    P:0.030%以下、
    S:0.001~0.100%、
    Cr:1.63~2.10%、
    Al:0.010~0.100%、
    N:0.0250%以下、及び、
    Mo:0.02~0.60%、
    を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)~式(3)を満たす、
    鋼材。
    6.1≦(Mn+3Cr+2Mo)/Si≦12.0 (1)
    3.0≦Cr/Mn (2)
    24.0≦Mn/S≦60.0 (3)
    ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
  2. 請求項1に記載の鋼材であって、^
    前記化学組成は、Feの一部に代えて、
    V:0.50%以下、
    Nb:0.100%以下、
    Ti:0.200%以下、
    Cu:0.50%以下、
    Ni:0.30%以下、
    W:0.50%以下、
    Co:0.50%以下、及び、
    B:0.0050%以下、
    からなる群から選択される1種以上を含有する、
    鋼材。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の鋼材であって、
    前記化学組成は、Feの一部に代えて、
    Ca:0.0014%以下、
    Mg:0.010%以下、及び、
    希土類元素:0.0100%以下、
    からなる群から選択される1種以上を含有する、
    鋼材。
  4. 請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の鋼材であって、
    前記化学組成は、Feの一部に代えて、
    Te:0.100%以下、
    Bi:0.500%以下、
    Pb:0.09%以下、
    Sn:0.014%以下、及び、
    Sb:0.0018%以下、
    からなる群から選択される1種以上を含有する、
    鋼材。
  5. 浸炭鋼部品であって、
    硬化層と、
    前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
    前記芯部の化学組成は、質量%で、
    C:0.10~0.35%、
    Si:0.45~1.00%、
    Mn:0.40~1.30%、
    P:0.030%以下、
    S:0.001~0.100%、
    Cr:1.63~2.10%、
    Al:0.010~0.100%、
    N:0.0250%以下、及び、
    Mo:0.02~0.60%、
    を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)~式(3)を満たし、
    前記浸炭鋼部品の表面から50μm深さまでの領域におけるC濃度は、質量%で0.60%以上であり、
    前記浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置でのミクロ組織は、マルテンサイトからなり、又は、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなり、残留オーステナイトの体積率は0~40%である、
    浸炭鋼部品。
    6.1≦(Mn+3Cr+2Mo)/Si≦12.0 (1)
    3.0≦Cr/Mn (2)
    24.0≦Mn/S≦60.0 (3)
  6. 請求項5に記載の浸炭鋼部品であって、
    前記芯部の前記化学組成は、Feの一部に代えて、
    V:0.50%以下、
    Nb:0.100%以下、
    Ti:0.200%以下、
    Cu:0.50%以下、
    Ni:0.30%以下、
    W:0.50%以下、
    Co:0.50%以下、及び、
    B:0.0050%以下、
    からなる群から選択される1種以上を含有する、
    浸炭鋼部品。
  7. 請求項5又は請求項6に記載の浸炭鋼部品であって、
    前記芯部の前記化学組成は、Feの一部に代えて、
    Ca:0.0014%以下、
    Mg:0.010%以下、及び、
    希土類元素:0.0100%以下、
    からなる群から選択される1種以上を含有する、
    浸炭鋼部品。
  8. 請求項5~請求項7のいずれか1項に記載の浸炭鋼部品であって、
    前記芯部の前記化学組成は、Feの一部に代えて、
    Te:0.100%以下、
    Bi:0.500%以下、
    Pb:0.09%以下、
    Sn:0.014%以下、及び、
    Sb:0.0018%以下、
    からなる群から選択される1種以上を含有する、
    浸炭鋼部品。
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