JP2021155632A - 多層フィルム - Google Patents

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Abstract

【課題】薬品付着時に熱可塑性ポリウレタン層の膨潤を防いで外観変化がない耐薬品性に優れる多層フィルムを提供する。【解決手段】多層フィルムの熱可塑性ポリウレタン層の表面コート層と隣接する層を、水添キシリレンジイソシアネート(1,4−H6XDI)を用いた反応生成物である熱可塑性ポリウレタンにより構成し、この層が単層の場合はショアA硬度90〜ショアD硬度65、複数層の場合はショアA硬度95〜ショアD硬度65とする。これにより、薬品付着時に熱可塑性ポリウレタン層の膨潤を防いで外観変化がない耐薬品性に優れる多層フィルムとすることができる。【選択図】なし

Description

本発明は、熱可塑性ポリウレタン層および表面コート層を有する多層フィルムに関する。
自動車等の乗り物外装部の擦り傷、飛び石による傷防止や、天候による劣化防止のための塗装保護シートあるいは表面保護シートとして用いられる粘着シートは、自動車の塗装面、ヘッドライト、窓ガラス等の保護として用いられるため、段差や三次元曲面の厳しい部位にも沿って貼付ける必要がある。このことから、追従性、延伸性が求められ、熱可塑性のポリウレタンフィルムをベースにすることが多く、通常、ポリエステル系、ポリカプロラクトン系、ポリカーボネート系等、ポリオールの種類によって定義され得る。
このポリウレタンフィルムはベタつきがあり、屋外環境で使用した場合、表面に砂、埃等の汚れが付着すると、汚れが定着し除去できないことから、上述した保護シートは、ポリウレタンフィルムの表面に汚れ防止のコート層を設けて多層フィルムとすることが一般的である(たとえば特許文献1〜6参照)。
この多層フィルムにおいても、様々な検討がなされており、たとえば特許文献7では、施工時のハンドリング性の向上を目的として、表面保護層に高硬度の熱可塑性ポリエステル系ポリウレタンを用いることが提案されている。
特開2005−272558号公報 特表2008−539107号公報 特開2015−98574号公報 特開2015−52100号公報 特開2014−166748号公報 特開2018−53193号公報 特開2019−1015号公報
ところで、自動車に貼り付けられた保護シートでは、薬品が付着することがある。詳しくは、エンジンクリーナーや、エンジンコンディショナーと呼ばれる洗浄剤であり、エンジンルームのみならず、ホイール回りなど様々な部位の清掃に使用される。この薬品が保護シートに付着した場合、コート層を透過してポリウレタンフィルムまで到達し、フィルムが薬品で溶けたり、フィルムが膨潤したのち乾燥することで、外観を損なうことがある。
そのため、表面コート層にエンジンクリーナーを滴下した際に染み込むことで生じる熱可塑性ポリウレタン層の膨潤がなく、外観変化が生じないことが望まれていた。
ここで、多層構成の熱可塑性のポリウレタンフィルムについて言及している特許文献7においては、耐薬品性については記載も示唆もされていない。
また、耐薬品性については特許文献3で言及があるが、表面に付着する薬品としてガソリン等の有機溶剤を対象としており、エンジンクリーナーの成分であるジクロロメタンのような溶解性の高い薬品については想定されていないし、薬品が付着した際の外観変化については言及していない。
本発明の目的は、耐薬品性に優れる多層フィルムを提供することにある。
本発明者は、上述の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、次の知見を得た。
つまり、熱可塑性ポリウレタン層の表面コート層と隣接する層を、水添キシリレンジイソシアネート(1,4−HXDI)を用いた反応生成物である熱可塑性ポリウレタンにより構成し、この層が単層の場合はショアA硬度90〜ショアD硬度65、複数層の場合はショアA硬度95〜ショアD硬度65であると、耐薬品性に優れる多層フィルムとすることができると言う知見である。
本発明は、この本発明者の知見に基づき、上述の課題を解決するための手段は以下の通りである。
<1> 熱可塑性ポリウレタン層および表面コート層を有する多層フィルムであって、前記熱可塑性ポリウレタン層は、単層または複数層からなり、一層が前記表面コート層と隣接して、水添キシリレンジイソシアネート(1,4−HXDI)を用いた反応生成物である熱可塑性ポリウレタンを含み、この層のJIS K7311にしたがって測定される硬度が、単層からなる場合はショアA硬度90〜ショアD硬度65であり、複数層からなる場合はショアA硬度95〜ショアD硬度65であることを特徴とする多層フィルムである。
<2> 前記熱可塑性ポリウレタン層が複数層からなる場合は、前記表面コート層と隣接する層の厚さが5μm以上である<1>に記載の多層フィルムである。
<3> 前記熱可塑性ポリウレタン層が複数層からなる場合に、前記熱可塑性ポリウレタン層は、前記表面コート層と隣接する層と、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)を用いた反応生成物である熱可塑性ポリウレタンからなる層とから構成される<1>または<2>に記載の多層フィルムである。
<4> 前記表面コート層がウレタン結合を有する<1>から<3>のいずれかに記載の多層フィルムである。
<5> 10%伸長時の応力が20N/25mm以下、40%伸ばした状態で停止してから30秒経過後の負荷(残留応力)が25N/25mm以下である<1>から<4>のいずれかに記載の多層フィルムである。
<6> JIS K7361−1による全光線透過率が90%以上である<1>から<5>のいずれかに記載の多層フィルムである。
<7> JIS K7361−1による全光線透過率が92%以上である<6>に記載の多層フィルムである。
<8> JIS K7136によるヘイズ値が3.0%以下である<1>から<7>のいずれかに記載の多層フィルムである。
<9> JIS K7136によるヘイズ値が2.0%以下である<8>に記載の多層フィルムである。
<10> 曲面を有する被着体を保護するために用いられる<1>から<9>のいずれかに記載の多層フィルムである。
本発明の多層フィルムは、熱可塑性ポリウレタン層の表面コート層と隣接する層を、水添キシリレンジイソシアネート(1,4−HXDI)を用いた反応生成物である熱可塑性ポリウレタンにより構成し、単層の場合はショアA硬度90〜ショアD硬度65、複数層の場合はショアA硬度95〜ショアD硬度65とした。これにより、耐薬品性を優れたものとすることが可能となる。
図1は、本発明の多層フィルムの層構成の一形態を示す断面図である。 図2は、図1の多層フィルムの被着体への貼付け例を示す図である。 図3は、図1の多層フィルムの被着体への他の貼付け例を示す図である。 図4は、本発明の多層フィルムの層構成の他の形態を示す断面図である。 図5は、図4の多層フィルムの被着体への貼付け例を示す図である。 図6は、図4の多層フィルムの被着体への他の貼付け例を示す図である。 図7は、実施例1の耐エンジンクリーナー性評価の結果を示す写真である。 図8は、比較例3の耐エンジンクリーナー性評価の結果を示す写真である。 図9は、実施例8の自動車ドアミラーへの貼付け作業性の結果を示す写真である。 図10は、実施例9の段差を有する塗装鋼鈑への貼付け作業性の結果を示す写真である。
本発明の多層フィルムは、少なくとも熱可塑性ポリウレタン層および表面コート層を有する。
図1は本発明の多層フィルムの層構成の一形態例を示した図、図2は図1の多層フィルムの被着体への貼付け例を示す図、図3は図1の被着体への他の貼付け例を示す図である。また、図4は本発明の多層フィルムの層構成の他の形態例を示した図、図5は図4の多層フィルムの被着体への貼付け例を示す図、図6は図4の多層フィルムの被着体への他の貼付け例を示す図である。
図1に示す多層フィルム10は、中央の熱可塑性ポリウレタン層11と、この表面に隣接するように形成された表面コート層12とから構成されている。
多層フィルム10は、保護対象物への貼付けの際には、熱可塑性ポリウレタン層11および表面コート層12を基材として、図2に示すように、表面コート層のない反対面の熱可塑性ポリウレタン面に粘着層13を設けて、被着体aに貼り付ける。これにより、たとえば自動車の塗装面、ヘッドライト、窓ガラス等の乗り物外装部などの保護対象物の傷防止や劣化防止をするために用いられる。
また、多層フィルム10は、ポリウレタンが熱可塑性であり、熱溶融により接着性も得られることから、図3に示すように、粘着層を設けずに、被着体aに直接、熱溶融しながら貼り付けて使用することもできる。
一方、図4に示す多層フィルム20は、中央の熱可塑性ポリウレタン層21が、表面コート層12に隣接する側から順に、第1のポリウレタン層22と、第2のポリウレタン層23との二層構成となっている。
多層フィルム20では、熱可塑性ポリウレタン層21を二層構成とすることで、第2のポリウレタン層23により第1のポリウレタン層22の貼付け作業性の向上を図れるようになる。なお、熱可塑性ポリウレタン層21の表面に表面コート層12が形成されることは、図1の多層フィルム10と同様である。
また、多層フィルム20は、図1の多層フィルム10と同様に、図5に示すように、表面コート層のない反対面の熱可塑性ポリウレタン面に粘着層13を設けて、保護対象物の被着体aに貼り付けて用いられ、図6に示すように、粘着層を設けずに、被着体aに直接、熱溶融しながら貼り付けて使用することもできる。
つづいて、本発明の多層フィルムを構成する各層の成分について説明する。
<熱可塑性ポリウレタン層>
本発明において、熱可塑性ポリウレタンとは、ポリイソシアネートと、鎖延長剤およびポリオールを重合することで得られるブロック共重合体を意味し、熱可塑性ポリウレタン層とは、熱可塑性ポリウレタンからなる単層体または複数層からなる積層体を意味する。
本発明では、熱可塑性ポリウレタン層を構成する成分として、脂環式イソシアネートである水添キシリレンジイソシアネート(以下、「1,4−HXDI」とも言う。)を用いた反応生成物である熱可塑性ポリウレタン(以下、「1,4−HXDI−TPU」とも言う。)を使用することによって、耐薬品性に優れたフィルムとすることができる。
本発明で使用する1,4−HXDI−TPUのポリイソシアネート成分は、1,4−HXDI−TPUのみから構成されることが好ましいが、本発明の効果が損なわれない範囲内で、他のポリイソシアネートを重合成分として含めることができる。
熱可塑性ポリウレタンのポリイソシアネートは、表面コート層と隣接する層に1,4−HXDIが主成分として含まれていれば特に制限はないが、たとえば、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、ポリイソシアネートと活性水素基含有化合物との反応によるイソシアネート基末端化合物、ポリイソシアネートの反応によるポリイソシアネート変性体、活性水素を分子内に1個有するブロック剤で一部を安定化したポリイソシアネートが挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとしては、たとえば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカンジイソシアネート、トリメチル−ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。脂環式ジイソシアネートとしては、たとえば、シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナン−ジイソシアネートメチルなどが挙げられる。ポリイソシアネートの反応としては、たとえば、カルボジイミド化反応などが挙げられる。活性水素を分子内に1個有するブロック剤としては、たとえば、メタノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、アセト酢酸エチル、ε−カプロラクタム、メチルエチルケトンオキシム、フェノール、クレゾールなどが挙げられる。
熱可塑性ポリウレタンの鎖延長剤としては、特に制限はないが、分子量500以下の化合物が挙げられる。このような化合物としては、たとえば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、N−フェニルジイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジプロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどが挙げられる。
熱可塑性ポリウレタンのポリオールは、1分子中に2個の水酸基を有する分子量200〜10,000程度の化合物であれば特に制限はなく、たとえば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオールなどが挙げられる。
具体的には、ポリエーテルジオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール(PPG)、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)などが挙げられる。
ポリエステルジオールとしては、ポリ(エチレンアジペート)ジオール、ポリ(プロピレンアジペート)ジオール、ポリ(ブチレンアジペート)ジオール(PBA)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)ジオール、ポリ(ブチレンイソフタレート)ジオール、ポリ−ε−カプロラクトンジオール(PCL)などが挙げられる。
ポリカーボネートジオールとしては、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(PHC)、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールと他のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエーテル・エステルジオールとの共縮合物等が挙げられる。なお、これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
熱可塑性ポリウレタンは、ワンショット法、プレポリマー法等の公知の方法によって合成され、バッチ反応法、連続反応法等の公知の方法によってペレット状に製造可能である。
1,4−HXDI−TPUの市販品としては、たとえば、三井化学株式会社製の商品名「フォルティモ(登録商標)」シリーズなどを使用することができる。
熱可塑性ポリウレタンフィルムの硬度は、単層の場合は、ショアA硬度90〜ショアD硬度65であり、ショアA硬度が95〜ショアD硬度60が好ましい。また、複数層の場合は、1,4−HXDIを用いて反応生成された熱可塑性ポリウレタンを含む層のショアA硬度が95〜ショアD硬度65である。単層の場合にショアA硬度が90未満であったり、複数層の場合にショアA硬度が95未満であったりすると、多層フィルムとした際に、洗浄剤等の薬品滴下により薬品が浸み込んで外観変化が生じて所望の耐薬品性が得られ難くなる。一方、ショアD硬度65より大きいと、フィルムを40%伸ばした状態で停止してから30秒経過後の負荷(残留応力)や、フィルムを10%伸ばした状態の応力値が高くなり、多層フィルムを作製した際の貼付け時に、フィルムが硬く、曲面追従性が得られないおそれがある。
熱可塑性ポリウレタンフィルムが複数層の場合、単層の場合よりも当該フィルムが薄い分、薬品が浸み込むことが容易になるため、より耐薬品性に優れることが望まれる。その複数層において、単層の場合よりも高い硬度が求められるのは、ジイソシアネート成分に由来するハードセグメント量が多くなることで、硬度が高くなり、耐薬品性に優れるためであると考えられる。なお、ショアA硬度は一般ゴムの硬さを測定する規格で、ショアD硬度はショアA硬度95を超える高硬度のゴム用の同様の規格であり、いずれも、デュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)を用い、JIS K7311にしたがって測定することができる。
熱可塑性ポリウレタン層が1,4−HXDI−TPUのみ、つまり不純物や添加物等の微量の成分を除き、1,4−HXDI−TPUを100質量%含む場合、ゴム弾性的性質が強いことがある。そのため、段差や三次元曲面を有する被着体への貼付け作業性を向上させるべく、耐薬品性が損なわれない範囲で、貼付け作業性に優れる樹脂との多層構成としてもよいし、この樹脂を混合してもよい。なお、この貼付け作業性に優れる樹脂との多層構成とした場合、貼付け作業性に優れる樹脂の層が、図4に示す第2のポリウレタン層23に相当する。
貼付け作業性に優れる樹脂としては、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを用いて反応生成された熱可塑性ポリウレタン(以下、「H12MDI−TPU」と言う。)が、好適に挙げられる。
12MDI−TPUの市販品としては、たとえば、ルーブリゾール(Lubrizol)社の商品名「ESTANE(登録商標)」シリーズ、BASFジャパン社の「エラストラン(登録商標)」シリーズ、ハンツマン(Huntsman)社の商品名「KRYSTALGRAN」シリーズなどを使用することができる。
熱可塑性ポリウレタン層を複数層とする場合、表面コート層と隣接する1,4−HXDI−TPU層は、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。5μm未満の場合、耐薬品性に優れないことがある。
また、このように複数層とする場合、1,4−HXDI−TPUを含む層は、不純物や添加物等の微量の成分を除けば、1,4−HXDI−TPUのみ、つまりHDI−TPUを100質量%含むことが好ましい。
ここで、熱可塑性ポリウレタン層の厚さは、市販の膜厚測定器を用いてJIS K7130に準じて測定することができる。また、各層の厚さは、たとえば、その断面の3か所(両端と中央部)を顕微鏡で観察することによって測定することができる。
貼付け作業性に優れる樹脂と混合する場合、1,4−HXDI−TPUと貼付け作業性に優れる樹脂との質量での配合比は、通常3:7よりも1,4−HXDI−TPUが多く、4:6以上が好ましく、5:5以上がより好ましい。つまり1,4−HXDI−TPUは、熱可塑性ポリウレタン層中、30質量%より多く含み、40質量以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことが、より好ましい。1,4−HXDI−TPUを50質量%以上含むと、極めて耐薬品性に優れたものとすることができる。
熱可塑性ポリウレタン層は、単層および複数層のいずれの場合も、たとえば、Tダイキャスト成形法、Tダイニップ成形法、インフレーション成形法、カレンダー成形法等の公知の方法によって形成可能であるが、特にTダイニップ法が好ましい。
また、貼付け作業性に優れる樹脂と複数層構成とする場合、共押出成形、熱融着及び押出ラミネート等のように直接積層する方法、ドライラミネート等のように接着剤を利用して間接的に積層する方法などを適宜選択して行うことができる。これらの中でも、複数の樹脂層をTダイから共押出して複数層のフィルムを形成することが好ましい。
熱可塑性ポリウレタン層は、Tダイニップ法で形成する場合、フラットダイから押し出された溶融状態の熱可塑性ポリウレタンの片面もしくは両面に、フィルム状(またはシート状)のセパレーターを添わせて冷却ロールを通過させて製造することができる。
セパレーターを形成する材料としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、紙などが挙げられる。
熱可塑性ポリウレタン層は、通常、セパレーター上に溶融状態の熱可塑性ポリウレタンを一旦積層させ、熱可塑性ポリウレタンが冷却硬化した後にセパレーターを剥離して得る。これらのセパレーターと熱可塑性ポリウレタンとの積層フィルムから、セパレーターを容易に剥離できない場合は、セパレーターの表面が、さらに剥離処理されたものを用いることが好ましい。剥離処理の方法としては、たとえば、シリコーン系、フッ素系、アクリル系、メラミン系、アルキド系等の剥離剤をコーティングする方法、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂をラミネートする方法が挙げられる。特に、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルムの表面が剥離剤によって処理されたものがセパレーターとして好適に用いられる。
なお、後工程で熱可塑性ポリウレタン層に表面コート層形成のための膜形成用樹脂組成物や粘着剤を塗布する場合、シリコーン系の剥離剤を使用すると、熱可塑性ポリウレタン層表面に剥離剤が移行して、熱可塑性ポリウレタン層と被着体の他、粘着剤等の成分との密着ないしは接着を阻害するおそれがあるので、非シリコーン系の剥離剤が好ましい。
熱可塑性ポリウレタン層の厚さは、特に制限はないが、単層および複数層いずれの場合も、通常は全層を合計した厚さが50〜500μmであり、好ましくは100〜300μm、より好ましくは100〜200μmである。50μmよりも薄いと、貼付けの際に取扱い難くなり、飛び石による傷がつきやすくなるおそれがある。500μmよりも厚いと、貼り付け難く、段差や三次元曲面への追従性が得られないおそれがある。
熱可塑性ポリウレタン層の光学特性は、多層フィルムとした際に保護対象物の視認に影響が及ばないようにするには、全光線透過率は90%以上であり、好ましくは92%以上であり、ヘイズ値は3.0%以下、好ましくは2.0%以下である。全光線透過率が90%より小さく、ヘイズ値が3.0%より大きくなると、自動車等の光沢のある塗装面に貼り付けた際、白っぽく見えることがある。なお、全光線透過率およびヘイズ値の測定は、ヘイズメーターを用い、全光線透過率はJIS K7361−1、ヘイズ値はJIS K7136にしたがって測定することができる。
熱可塑性ポリウレタン層は、23℃±2℃の温度条件下にて、フィルムを10%伸ばした状態の応力値が、20N/25mm以下であることが好ましく、15N/25mm以下であることが、より好ましい。この応力値が20N/25mmよりも大きくなると、フィルムが硬く、引き伸ばしにくく、シワになるなど、貼付け作業性が悪くなることがある。
また、熱可塑性ポリウレタン層は、23℃±2℃の温度条件下で、40%伸ばした状態で停止してから30秒経過後の負荷(残留応力)が通常25N/25mm以下であり、20N/25mm以下が好ましく、16N/25mm以下が、より好ましい。多層フィルムを作製し、段差や三次元曲面に貼り付ける際には、一部分を被着体に貼り付けた後、片手でフィルムを引き伸ばしながら段差や三次元曲面に沿わせ、反対の手に持ったスキージーによって被着体とフィルムを密着させる。この際に、残留応力が25N/25mmより大きいと、貼付け時にフィルムの引き戻す力が大きく、片手でフィルムを延伸させた状態で位置を固定することが困難であったり、糊ずれが起こったりして、取扱い難くなるおそれがある。
なお、これらの応力は、たとえば、サンプルを適度な大きさに切り出し、市販の引張り試験機にて所定の長さに伸ばすことで測定することができる。
また、熱可塑性ポリウレタン層は、紫外線吸収剤を含むことが好ましい。紫外線吸収剤を含むことで、屋外で使用した際に、ポリウレタン層の劣化や粘着剤等を塗布して使用する際の粘着剤の劣化などを軽減することができる。
紫外線吸収剤としては、従来公知のものであれば特に制限されないが、例えば、ベンゾトリアゾ−ル系、トリアジン系、ベンゾフェノン系のものが好ましい。
ベンゾトリアゾ−ル系としては、たとえば、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)−5,6−ジクロルベンゾトリアゾ−ル)、2−(2′−ヒドロキシ−5′−t−ブチルフェニル)、ベンゾトリアゾ−ル、2−(2′−ヒドロキシ−3′−メチル−5′−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロル−ベンゾトリアゾ−ル、2−(2′−ヒドロキシ−5′−フェニルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾ−ル、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロロベンゾトリアゾ−ル、2−(2′−ヒドロキシ−3′−t−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾ−ル、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2′−ヒドロキシ−5′−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−{2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル}ベンゾトリアゾ−ル、2−{2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α′−ジメチルベンジル)フェニル}−2−ヒドロキシベンゾトリアゾ−ル等や、これらの混合物、変性物、重合物、誘導体が挙げられる。
トリアジン系としては、たとえば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−イソ−オクチルオキシフェニル)−s−トリアジン等やこれらの混合物、変性物、重合物、誘導体が挙げられる。
ベンゾフェノン系としては、たとえば、2,3′−ジヒドロキシ−4,4′− ジメトキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2′,4,4′−テトラヒドロキシベンゾフェノン等が挙げられる。
また、熱可塑性ポリウレタンフィルムには、これらの紫外線吸収剤に光安定剤や酸化防止剤を併用することが好ましい。
光安定剤としては、たとえば、ポリ〔{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ビス(1−オクチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート等のヒンダードアミン系光安定剤が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン酸系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが使用でき、たとえば、BASFジャパン株式会社製、商品名イルガノックス1010、イルガノックス1076等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、株式会社ADEKA製、商品名アデカスタブPEP8等のリン系酸化防止剤などが挙げられる。
熱可塑性ポリウレタン層は、JIS R3106に準拠して自記分光光度計で測定したデータを、JIS S3107に準拠して算出した光線透過率が、300〜380nmの波長の透過率が25%以下であり、15%以下であることが好ましく、10%以下であることが、より好ましい。このように紫外線領域の光線の透過を抑制することによって、紫外線を遮断することが必要とされる農業用のフィルムや、紫外線を視認可能な鳥獣類が引き起こす種々の被害を防止するためのフィルムとして、使用することができる。
<表面コート層>
本発明における表面コート層は、通常、主鎖中にウレタン結合を含有する。ウレタン結合を含有することで、段差や三次元曲面への貼付け時に、熱可塑性ポリウレタン層の伸びに表面コート層が追従し易くなるとともに、フィルムを伸長した際の表面コート層の割れ(クラック)を防ぐことができる。
表面コート層の延伸性は、多層フィルムを伸長させることで確認できる。具体的には、熱可塑性ポリウレタン層に表面コート層を形成して得られた多層フィルムを短冊状に切り出した後、引張試験機に固定して伸長させると、表面コート層にクラックが生じることが視認される。この表面コート層にクラックが入り始める伸び率を表面コート層割れ伸度とする。表面コート層割れ伸度は、特に限定されないが、通常は60%以上であり、好ましくは80%以上、より好ましくは100%以上である。
表面コート層に用いられる膜形成用樹脂組成物としては、ウレタン結合を含んでいれば特に制限はないが、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物を使用時に混合させて得られる2液硬化型が好ましく、熱硬化型がより好ましい。
ポリイソシアネート化合物としては、たとえば、脂肪族ジイソシアネート、環状脂肪族ジイソシアネート、3官能以上のイソシアネート化合物等が挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとしては、たとえば、リジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。環状脂肪族ジイソシアネートとしては、たとえば、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,4−(または2,6)−ジイソシアネート、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,3−(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。3官能以上のものとしては、たとえばリジントリイソシアネート等が挙げられる。
また、ポリイソシアネート化合物としては、いわゆるイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体、アロファネート体などのイソシアネート多量体や、イソシアネート化合物を多価アルコールまたは低分子量ポリエステル樹脂に付加したものを挙げることもできる。
なお、ポリイソシアネート化合物は、ジオールと反応する限り、いわゆるブロックイソシアネートの形態であってもよい。
ポリオール化合物は、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカプロラクタムポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールおよびフッ素ポリオールからなる群より選択される少なくともいずれかであることが好ましい。
また、ポリオール化合物にフッ素成分、シリコーン成分などを共重合したブロック重合体や、フッ素成分やシリコーン成分などを側鎖として結合させたグラフト重合体や、それらを組み合わせたブロック・グラフト重合体も膜形成用樹脂組成物として挙げられる。
表面コート層に用いられる膜形成用樹脂組成物には、熱可塑性ポリウレタン層と同様の紫外線吸収剤、光安定剤や酸化防止剤を適宜に添加することができる。
表面コート層に用いられる塗膜形成用樹脂組成物の市販品としては、たとえば、大日精化工業株式会社、株式会社トクシキ、荒川化学工業株式会社などから商業的に入手可能である。
表面コート層は、膜形成用樹脂組成物を、塗布前に適宜に溶剤や水で希釈して粘度を調整し、熱可塑性ポリウレタン層の表面に塗布した後、溶剤や水を乾燥させ、公知の方法で硬化させることができる。
この希釈溶媒としては、特に制限はないが、たとえば、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン(MEK)、トルエンなどが好適に挙げられる。
また、硬化の方法としては、たとえば、熱硬化、光硬化、電子線硬化、湿気硬化、酸化硬化などが挙げられる。ここで、光硬化は、紫外線によって硬化させるUV硬化も可能であるが、屋外で使用する際は紫外線吸収剤等の耐候剤を使用する必要があり、その使用が制限されることがある。そのため、これらの中でも、特に、加熱することにより架橋構造を形成し、硬化させる熱硬化が好ましい。
塗布の方法としては特に制限はなく、たとえば、バーコーター、スプレーコーター、エアーナイフコーター、キスロールコーター、メタリングバーコーター、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、ディップコーター、ダイコーター等の公知の塗工装置を用いて塗布することができる。また、乾燥の方法も特に制限はなく、たとえば、公知のフィルム塗工の乾燥技術を、適宜に用いることができる。
熱硬化の温度や時間は、熱可塑性ポリウレタン層の変形などがない範囲で適宜に設定すればよい。温度は、たとえば40〜120℃、時間は、たとえば10分〜1週間である。熱硬化の方法としては、熱風や、公知のコーティングマシンの乾燥炉(ドライヤー)、エージングルームを用いる等の方法を挙げることができる。
表面コート層の厚さは特に限定されないが、好ましくは3〜50μm、より好ましくは5〜20μmである。厚さが、3μm未満であると、表面コート層が所望の性能が得られないことがあり、50μmよりも厚いと、段差や三次元曲面への貼付け時に、熱可塑性ポリウレタン層の伸びに表面コート層が追従せず、表面コート層が割れてしまうことがある。
表面コート層には、表面コート層の保護と表面コート層の表面に平滑性を付与することを目的として、表面コート層を構成する膜形成用樹脂組成物の塗布後に、当該膜形成用樹脂組成物の表面にフィルム状(またはシート状)のセパレーターが貼り付けられていることが好ましい。
セパレーターを形成する材料としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、紙などが挙げられる。
セパレーターは、上述した材料からなるフィルムの表面が、さらに剥離処理されたものを用いることが好ましい。剥離処理の方法としては、たとえば、シリコーン系、フッ素系、アクリル系、メラミン系、アルキド系等の剥離剤をコーティングする方法、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂をラミネートする方法が挙げられる。特に、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルムの表面が剥離剤により処理されたものがセパレーターとして好適に用いられる。
セパレーターは、表面が平滑であることが望ましい。セパレーターの表面コート層が隣接する面の表面粗さRa(算術平均粗さ)は、20nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがさらに好ましい。この表面粗さRaが20nmよりも大きいと、自動車等の光沢のある塗装面に貼り付けた際、白っぽく見えることがある。また、貼り付け後、白っぽく見えるか否かは、目視による評価だけでなく、反射ヘイズによっても評価することができる。反射ヘイズは、コニカミノルタジャパン(株)製の表面分析計「Rhopoint IQ−S」などで測定することができる。反射ヘイズは2.0%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましい。
<粘着層>
粘着層を設けて使用する場合は、公知の粘着剤を用いることができる。粘着剤としては、たとえば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤等、一般的なものを使用できる。これらの中でも、好適な粘着力、耐久性等を発揮し得るアクリル系粘着剤が好ましい。
また、熱可塑性ポリウレタン層、表面コート層、粘着層には、上述した成分以外にも、たとえば、難燃剤、耐熱向上剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、導電付与剤、着色剤、無機および有機充填剤、繊維系補強剤、反応遅延剤など、通常、上述した成分に添加され得る材料を、物性に影響を与えない範囲で添加してもよい。
得られた多層フィルムは、10%伸長時の応力が20N/25mm以下であり、40%伸ばした状態で停止してから30秒経過後の負荷(残留応力)が25N/25mm以下であることが好ましい。10%伸長時の応力が20N/25mm以下、40%伸ばした状態で停止してから30秒経過後の負荷(残留応力)が25N/25mm以下であると、熱可塑性ポリウレタン層が適度の延伸性を示すとともに、表面コート層の熱可塑性ポリウレタン層への追従性が良好になり、保護対象物への貼付け作業性を良好にすることができる。
また、得られた多層フィルムの光学特性は、熱可塑性ポリウレタン層と同様に、全光線透過率は90%以上であり、92%以上が好ましく、ヘイズ値は3.0%以下であり、2.0%以下が好ましい。
本発明の多層フィルムは、熱可塑性ポリウレタン層に、1,4−HXDI−TPUを用いることで耐薬品性に優れ、外観変化や接着強度の低下を防ぐことができる。また、ウレタン結合を含む表面コート層を有することで、適度な延伸性が得られ、熱可塑性ポリウレタン層への追従性が良好となり、保護対象物への貼付けをスムーズに行うことができる。
そのため、本発明の多層フィルムは、自動車等の乗り物外装部の擦り傷、飛び石による傷防止や、天候による劣化防止のための塗装保護シートあるいは表面保護シートはもとより、フレキシブル液晶等の曲面部に貼り付けて画面を保護するフィルムと言った、段差や三次元曲面を有する被着体を保護するために広く用いることができる。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
検証1.熱可塑性ポリウレタン層が単層の場合の物性について
まず、本発明者は、熱可塑性ポリウレタン層を単層とした場合(図1参照)に、1,4−HXDIを用いて反応生成された熱可塑性ポリウレタン層の硬度により、どのように物性が変化するかを、下記のように検証した。
(実施例1)
ポリイソシアネート成分としての水添キシリレンジイソシアネート(以下、「1,4−HXDI」とも言う。)と、ポリオール成分としてのポリカーボネートポリオールとの共重合により反応生成した熱可塑性ポリウレタンを押出機に供給し、溶融および混練後、押出機の先端に取り付けたTダイから押し出した。その両面をセパレーターとしてのポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と言う。)フィルムで挟んだ状態でニップし、厚さ150μmの層状の熱可塑性ポリウレタン(以下、「TPU」とも言う。)フィルム(熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。
この作製した熱可塑性ポリウレタンフィルムから、PETフィルムを両側とも剥離し、下記のようにして、熱可塑性ポリウレタンフィルムの硬度、応力緩和性、引張特性、および光学特性を測定した。結果を表1に示す。
一方、表面コート層の膜形成用樹脂組成物の塗布液として、フッ素変性アクリルポリオール(固形分率35%)に、イソシアネート系硬化剤(固形分率60%)と、希釈溶媒として酢酸エチルとを39:19:42の質量分率で配合したフッ素変性アクリルウレタン樹脂Aの塗布液を調製した。
この表面コート層用塗布液を、作製したTPU層の片側のPETフィルムを剥離し、乾燥後の厚みが10μmとなるよう塗布して、実施例1の多層フィルムを作製し、下記のように耐薬品性の指標としての耐エンジンクリーナー性を評価した。結果を表1に示す。
[各物性の測定]
<硬度>
デュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)を用い、JIS K7311にしたがって測定した。
<応力緩和性>
測定用サンプルを幅25mm、長さ150mmに切り出し、チャック間の距離が100mmになるように、引張り試験機(オートグラフAG−X:(株)島津製作所製)に固定した。つづいて、23℃±2℃の温度条件下で、速度200mm/分で引っ張り、チャック間距離が140mmとなって40%伸ばした状態(最初の長さの1.4倍の伸張状態)としてから停止し、その停止から30秒経過後の負荷(残留応力)をN単位で測定した。
<引張特性>
測定用サンプルを幅25mm、長さ100mmに切り出し、チャック間の距離が50mmになるように、引張り試験機(オートグラフAG−X:(株)島津製作所製)に固定した。つづいて、23℃±2℃の温度条件下で、速度300mm/分で引っ張り、10%伸ばした状態の応力をN単位で測定した。
<光学特性>
ヘイズメーター(NDH7000:日本電色工業(株)製)を用いて、JIS K7361−1:1997に準じて全光線透過率(%)を測定するとともに、JIS K7136:2000に準じてヘイズ値(%)を測定した。
<耐エンジンクリーナー性>
ジクロロメタンとメタノールをメスシリンダーで同体積はかりとり、エンジンクリーナーとして調製し、これを耐薬品性試験用の混合液とした。測定用サンプルの表面コート層上に、この混合液を1滴だけ滴下した後、5秒、60秒が経過するまで、それぞれ静置した。その後、滴下面を紙製ウエスで拭き取り、外観異常がないか目視で確認した。評価基準は以下の通りとした。
○:60秒経過後、外観に変化なし。
△:5秒間経過後は外観に変化ないが、60秒経過後は外観が白っぽく変化する。
×:5秒間経過後、外観が白っぽく変化する。
なお、例として、実施例1の結果写真を図7に示す。
(実施例2)
実施例1において、ポリオール成分をポリカプロラクトンポリオールとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)および多層フィルムを作製した。実施例1と同様に、熱可塑性ポリウレタン層について、硬度、応力緩和性、引張特性、および光学特性を、多層フィルムについて耐エンジンクリーナー性を、それぞれ測定した。結果を表1に示す。
(実施例3および比較例1)
実施例1において、硬度の異なる熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)および多層フィルムを作製した。実施例1と同様に、熱可塑性ポリウレタン層について、硬度、応力緩和性、引張特性、および光学特性を、多層フィルムについて耐エンジンクリーナー性を、それぞれ測定した。結果を表1に示す。
(比較例2)
比較例1において、ポリオール成分をポリエーテルポリオールとした以外は、比較例1と同様にして、比較例2の熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)および多層フィルムを作製した。実施例1と同様に、熱可塑性ポリウレタン層について、硬度、応力緩和性、引張特性、および光学特性を、多層フィルムについて耐エンジンクリーナー性を、それぞれ測定した。結果を表1に示す。
Figure 2021155632
表1の結果から明らかなように、本発明である実施例1〜3のショアA硬度90以上の熱可塑性ポリウレタン層を用いた反応生成物からなる多層フィルムでは、表面コート層にエンジンクリーナーを滴下しても、これが熱可塑性ポリウレタン層を膨潤させず、外観に変化がなく、耐薬品性に優れていた(図7参照)。これに対し、比較例の硬度90未満の熱可塑性ポリウレタン層を用いた反応生成物からなる多層フィルムは、当該エンジンクリーナーが熱可塑性ポリウレタン層を膨潤させ、外観が白っぽく変化してしまい、耐薬品性に劣っていた。このことから、熱可塑性ポリウレタン層を単層とした場合に、耐薬品性を良好にするには、1,4−HXDIを用いて反応生成された熱可塑性ポリウレタン層の硬度はショアA硬度90以上とし、ショアA硬度95以上とするのが好ましいことがわかった。また、光学特性については、全光線透過率92%以上、ヘイズ値2.0%以下であり、いずれの例も良好であった。
一方、熱可塑性ポリウレタン層の応力緩和性を示す値は25N/25mm以上、引張特性を示す値は20N/25mm以上となる例があったため、多層フィルムの貼付け作業性を考慮すると、さらなる検討が望まれた。
検証2.熱可塑性ポリウレタン層が複数層の場合の物性について
次に、本発明者は、耐薬品性とともに、貼付け作業性についても良好な結果を得るべく、熱可塑性ポリウレタン層を1,4−HXDI−TPUからなる層と、貼付け作業性に優れる熱可塑性ポリウレタンであるH12MDI−TPUかからなる層との複数層とし(図4参照)、層の厚さを変えた場合に、どのように物性が変化するか検証した。
(実施例4)
ポリイソシアネート成分としての1,4−HXDIと、ポリオール成分としてのポリカーボネートポリオールとの共重合により反応生成した熱可塑性ポリウレタンを押出機に供給し、溶融および混練後、押出機の先端に取り付けたTダイから押し出した。その一方の片面をPETフィルム、他方の片面をマット調の二軸延伸ポリプロピレン(以下、「OPP」と言う。)フィルムで挟んだ状態でニップし、厚さ25μmの層状の熱可塑性ポリウレタンフィルム(第1の熱可塑性ポリウレタン層)を得た。得られた熱可塑性ポリウレタンフィルムを1日ほど養生し、OPPフィルムのみを剥離した。
ポリイソシアネート成分としてのH12MDIと、ポリオール成分としてのポリカプロラクトンポリオールとの共重合により反応生成した熱可塑性ポリウレタンを押出機に供給し、溶融および混練後、押出機の先端に取り付けたTダイから厚さ125μmとなるよう押し出した(第2の熱可塑性ポリウレタン層)。その一方の片面をPETフィルム、他方の片面を上述した第1の熱可塑性ポリウレタン層に相当する熱可塑性ポリウレタンフィルムで挟んだ状態でニップし、合計の厚さ150μmの熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。この作製した熱可塑性ポリウレタンフィルムの構成は、PET/1,4−HXDI−TPU 25μm/H12MDI−TPU 125μm/PETとなっている(記号「/」は層間を表し、PETとTPUは手で剥離することができる。)。この状態において、第1の熱可塑性ポリウレタン層は、100質量%1,4−HXDI−TPUからなる。
なお、積層前の1,4−HXDI−TPU層と積層後の熱可塑性ポリウレタンフィルム(1,4−HXDI−TPU 25μm/H12MDI−TPU 125μm)の厚さは、株式会社尾崎製作所製の定圧厚み測定器「FFA−1 1.25N」を用いてJIS K7130に準じて測定した。具体的には、得られた幅300mmのフィルムにおいて、幅方向に10か所を測定して算出した平均値を採用した。
この作製した熱可塑性ポリウレタンフィルムから、PETフィルムを剥離し、実施例1と同様に、熱可塑性ポリウレタンフィルムの応力緩和性、引張特性、および光学特性を測定した。結果を表2に示す。なお、表中の第1の熱可塑性ポリウレタン層の硬度については、検証1で測定した値を記載している(以後の実施例および比較例も同様)。
また、作製した熱可塑性ポリウレタン層の1,4−HXDI−TPU側のPETフィルムを剥離し、1,4−HXDI−TPU面に、実施例1のフッ素変性アクリルウレタン樹脂Aの塗布液を乾燥後の厚さが10μmとなるよう塗布して、実施例4の多層フィルムを作製した。この多層フィルムについて、断面を顕微鏡(株式会社キーエンス製デジタルマイクロスコープVHX−6000)で観察し、1,4−HXDI−TPU層が25μmであることを確認した。その断面を切り出した近辺で、実施例1と同様に、耐エンジンクリーナー性を評価した。結果を表2に示す。
(実施例5)
実施例4において、第1の熱可塑性ポリウレタン層の1,4−HXDI−TPUの層の厚さを20μmとする一方、第2の熱可塑性ポリウレタン層のH12MDI−TPUの層の厚さを130μmとした以外は、実施例4と同様にして、熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)および多層フィルムを作製した。実施例4と同様に、熱可塑性ポリウレタン層について、応力緩和性、引張特性、および光学特性を、多層フィルムについて耐エンジンクリーナー性を、それぞれ測定した。結果を表2に示す。
(実施例6)
実施例4において、第1の熱可塑性ポリウレタン層の1,4−HXDI−TPUの層の厚さを15μmとする一方、第2の熱可塑性ポリウレタン層のH12MDI−TPUの層の厚さを135μmとした以外は、実施例4と同様にして、熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)および多層フィルムを作製した。実施例4と同様に、熱可塑性ポリウレタン層について、応力緩和性、引張特性、および光学特性を、多層フィルムについて耐エンジンクリーナー性を、それぞれ測定した。結果を表2に示す。
(実施例7)
実施例4において、第1の熱可塑性ポリウレタン層の1,4−HXDI−TPUの層の厚さを10μmとする一方、第2の熱可塑性ポリウレタン層のH12MDI−TPUの層の厚さを140μmとした以外は、実施例4と同様にして、熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)および多層フィルムを作製した。実施例4と同様に、熱可塑性ポリウレタン層について、応力緩和性、引張特性、および光学特性を、多層フィルムについて耐エンジンクリーナー性を、それぞれ測定した。結果を表2に示す。
(比較例3)
実施例4において、第1の熱可塑性ポリウレタン層のポリオール成分をポリカプロラクトンポリオールとした以外は、実施例4と同様にして、比較例3の熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)および多層フィルムを作製した。実施例4と同様に、熱可塑性ポリウレタン層について、応力緩和性、引張特性、および光学特性を、多層フィルムについて耐エンジンクリーナー性を、それぞれ測定した。結果を表3に示す。また、耐エンジンクリーナー性評価後の結果写真を図8に示す。
(比較例4)
比較例3において、第1の熱可塑性ポリウレタン層の1,4−HXDI−TPUの層の厚さを20μmとする一方、第2の熱可塑性ポリウレタン層のH12MDI−TPUの層の厚さを130μmとした以外は、比較例3と同様にして、熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)および多層フィルムを作製した。実施例4と同様に、熱可塑性ポリウレタン層について、応力緩和性、引張特性、および光学特性を、多層フィルムについて耐エンジンクリーナー性を、それぞれ測定した。結果を表3に示す。
(比較例5)
比較例3において、第1の熱可塑性ポリウレタン層の1,4−HXDI−TPUの層の厚さを15μmとする一方、第2の熱可塑性ポリウレタン層のH12MDI−TPUの層の厚さを135μmとした以外は、比較例3と同様にして、熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)および多層フィルムを作製した。実施例4と同様に、熱可塑性ポリウレタン層について、応力緩和性、引張特性、および光学特性を、多層フィルムについて耐エンジンクリーナー性を、それぞれ測定した。結果を表3に示す。
(比較例6)
比較例3において、第1の熱可塑性ポリウレタン層の1,4−HXDI−TPUの層の厚さを10μmとする一方、第2の熱可塑性ポリウレタン層のH12MDI−TPUの層の厚さを140μmとした以外は、比較例3と同様にして、熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)および多層フィルムを作製した。実施例4と同様に、熱可塑性ポリウレタン層について、応力緩和性、引張特性、および光学特性を、多層フィルムについて耐エンジンクリーナー性を、それぞれ測定した。結果を表3に示す。
(比較例7)
比較例3において、ポリウレタン層を、厚さ150μmのH12MDI−TPUの層のみとした以外は、比較例3と同様にして、熱可塑性ポリウレタンフィルム(熱可塑性ポリウレタン層)および多層フィルムを作製した。実施例4と同様に、熱可塑性ポリウレタン層について、応力緩和性、引張特性、および光学特性を、多層フィルムについて耐エンジンクリーナー性を、それぞれ測定した。結果を表3に示す。
Figure 2021155632
Figure 2021155632
表2および表3の結果から明らかなように、本発明である実施例4〜7のショアA硬度95以上の1,4−HXDI−TPU層からなる多層フィルムでは、表面コート層にエンジンクリーナーを滴下しても、これが熱可塑性ポリウレタン層を膨潤させることなく、外観に変化がなく、耐薬品性に優れていた。これに対し、比較例3〜6の硬度95未満の1,4−HXDI−TPUを用いた反応生成物からなる多層フィルムは、当該エンジンクリーナーが熱可塑性ポリウレタン層を膨潤させ、外観が白っぽく変化してしまい、耐薬品性に劣っていた(図8参照)。このことから、熱可塑性ポリウレタン層を複数層とした場合に、耐薬品性を良好にするには、1,4−HXDIを用いて反応生成された熱可塑性ポリウレタン層の硬度はショアA硬度95以上とすべきことがわかった。ここで、耐薬品性が得られる熱可塑性ポリウレタン層の硬度が単層の場合よりも高くなったのは、複数層の場合の方が1,4−HXDI−TPU層が薄い分、薬品が浸み込み易く、H12MDI−TPU層に到達したためと考えられる。実際に、H12MDI−TPU層のみからなる比較例7においても耐薬品性に劣る結果となり、このことが裏付けられた。
なお、熱可塑性ポリウレタン層の応力緩和性を示す値と引張特性を示す値は、いずれも15N/25mm以下であり、保護シートとして表面シートを良好に追従させ得るために極めて好ましい延伸性を有していると推測された。また、光学特性についても、全光線透過率92%以上、ヘイズ値3.0%以下であり、概ね良好であった。
検証3.貼付け作業性について
さらに、熱可塑性ポリウレタン層を、1,4−HXDI−TPU層の単層とした場合と、1,4−HXDI−TPU層とH12MDI−TPU層との複数層とした場合と、の貼付け作業性を確認するため、下記のように検証した。
(実施例8)
表面コート層の塗膜形成用塗布液として、フッ素変性アクリルポリオール(固形分率30%)にイソシアネート系硬化剤(固形分率60%)と、希釈溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を38:23:39の質量分率で配合したフッ素変性アクリルウレタン樹脂Bの塗布液を調製した。
つづいて、実施例7で作製した熱可塑性ポリウレタン層の第1の熱可塑性ポリウレタン層である1,4−HXDI−TPU側のPETフィルムを剥離し、1,4−HXDI−TPU面に、フッ素変性アクリルウレタン樹脂Bの塗布液を、乾燥後の厚さが10μmとなるよう塗布して、実施例8の多層フィルムを作製した。
作製した多層フィルムのH12MDI−TPU側のPETフィルムを剥離し、実施例1と同様に、基材層の応力緩和性、引張特性、および光学特性を測定した。また、耐エンジンクリーナー性についても実施例1と同様に評価するとともに、下記のように貼付け作業性を評価した。結果を表4に示す。
<貼付け作業性>
作製した多層フィルムのサンプルをA4サイズに切り出し、熱可塑性ポリウレタン層側のPETを剥がしてアクリル粘着剤を施した後、モニターに、保護対象物としての自動車のドアミラーの曲面および段差を有する塗装鋼鈑に、それぞれ貼り付けてもらった。貼付けの難易度としては、三次元曲面を有するドアミラーの方が段差を有する塗装鋼鈑よりも高いため、評価基準は以下の通りとした。
○:多層フィルムにシワを発生させることなく自動車のドアミラーに貼り付けることができた。
△:自動車のドアミラーに貼り付けた際はシワが発生したものの、段差を有する塗装鋼鈑にはシワを発生させずに貼り付けることができた。
×:段差を有する塗装鋼鈑に貼り付けた際もシワが発生した。
なお、例として、実施例8の自動車ドアミラーへの貼付け作業性の結果写真を図9に、実施例9の段差を有する塗装鋼鈑への貼付け作業性の結果写真を図10に、それぞれ示す。
(実施例9)
実施例8において、熱可塑性ポリウレタン層を実施例1で作製したフィルムに代えた以外は、実施例8と同様にして、実施例9の多層フィルム(基材層)を作製した。この多層フィルムの基材層について、実施例8と同様に、応力緩和性、引張特性、および光学特性を測定するとともに、多層フィルムの耐エンジンクリーナー性および貼付け作業性を評価した。結果を表4に示す。
(実施例10)
実施例8において、熱可塑性ポリウレタン層を実施例2で作製したフィルムに代えた以外は、実施例8と同様にして、実施例10の多層フィルム(基材層)を作製した。この多層フィルムの基材層について、実施例8と同様に、応力緩和性、引張特性、および光学特性を測定するとともに、多層フィルムの耐エンジンクリーナー性および貼付け作業性を評価した。結果を表4に示す。
(比較例8)
実施例8において、熱可塑性ポリウレタン層を比較例7で作製したフィルムに代えた以外は、実施例8と同様にして、比較例8の多層フィルム(基材層)を作製した。この多層フィルムの基材層について、実施例8と同様に、応力緩和性、引張特性、および光学特性を測定するとともに、多層フィルムの耐エンジンクリーナー性および貼付け作業性を評価した。結果を表4に示す。
Figure 2021155632
表4の結果から明らかなように、本発明の実施例8〜10の多層フィルムでは、いずれも耐薬品性に優れていた。ただし、貼付け時に、実施例8では、自動車のドアミラーおよび段差を有する塗装鋼板のいずれに貼り付けた場合も、シワが発生しなかった(図9参照)のに対し、実施例9および10では、段差を有する塗装鋼板ではシワが発生しなかったものの(図10参照)、自動車のドアミラーではシワが発生した。そのため、耐薬品性を有し、かつ優れた貼付け作業性を得るには、実施例8のように、1,4−HXDI−TPU樹脂とH12MDI−TPU樹脂とを組み合わせることが望まれた。
また、実施例8では、応力緩和性および引張特性のいずれの値も20N/25mm以下で良好であったが、実施例9および10では、その応力緩和性を示す値は25N/25mmを、引張特性を示す値は20N/25mmを、それぞれ超えていた。そのため、これらの応力値を好適な範囲とし、多層フィルムを適度な延伸性とすることが、優れた貼付け作業性とするためには必要であり、実施例8のように、1,4−HXDI−TPUの樹脂とH12MDI−TPU樹脂とを組み合わせることが望まれることがわかった。
一方、比較例8では、TPU層がH12MDI−TPUのみからなるため、貼付け作業性は良好であったが、耐薬品性に劣っていた。
なお、光学特性については、全光線透過率92%以上、ヘイズ値2.0%以下であり、いずれの例も良好であった。
以上、本発明の実施の形態および実施例を詳細に説明したが、本発明の多層フィルムは、上記実施の形態に限定されず、その範囲内で想定されるあらゆる技術的思想を含んでもよい。
本発明は、自動車等の乗り物外装部の擦り傷、飛び石による傷防止や、天候による劣化防止のための塗装保護シートあるいは表面保護シート、フレキシブル液晶等の曲面部に貼り付けて画面を保護するフィルムなど、段差や三次元曲面を有する被着体を保護するために用いることができる。
10,20 多層フィルム
11,21 熱可塑性ポリウレタン層
12 表面コート層
13 粘着層
22 第1の熱可塑性ポリウレタン層
23 第2の熱可塑性ポリウレタン層
a 被着体

Claims (8)

  1. 熱可塑性ポリウレタン層および表面コート層を有する多層フィルムであって、
    前記熱可塑性ポリウレタン層は、単層または複数層からなり、一層が前記表面コート層と隣接して、水添キシリレンジイソシアネート(1,4−HXDI)を用いた反応生成物である熱可塑性ポリウレタンを含み、この層のJIS K7311にしたがって測定される硬度が、単層からなる場合はショアA硬度90〜ショアD硬度65であり、複数層からなる場合はショアA硬度95〜ショアD硬度65であることを特徴とする多層フィルム。
  2. 前記熱可塑性ポリウレタン層が複数層からなる場合は、前記表面コート層と隣接する層の厚さが5μm以上である請求項1に記載の多層フィルム。
  3. 前記熱可塑性ポリウレタン層が複数層からなる場合に、前記熱可塑性ポリウレタン層は、前記表面コート層と隣接する層と、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)を用いた反応生成物である熱可塑性ポリウレタンからなる層とから構成される請求項1または2に記載の多層フィルム。
  4. 前記表面コート層がウレタン結合を有する請求項1から3のいずれかに記載の多層フィルム。
  5. 10%伸長時の応力が20N/25mm以下、40%伸ばした状態で停止してから30秒経過後の負荷(残留応力)が25N/25mm以下である請求項1から4のいずれかに記載の多層フィルム。
  6. JIS K7361−1による全光線透過率が90%以上である請求項1から5のいずれかに記載の多層フィルム。
  7. JIS K7136によるヘイズ値が3.0%以下である請求項1から6のいずれかに記載の多層フィルム。
  8. 曲面を有する被着体を保護するために用いられる請求項1から7のいずれかに記載の多層フィルム。
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