以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の実施例1に係る電子制御装置100が搭載されるハイブリッド車両10の概略構成図であると共に、ハイブリッド車両10における各種制御の為の制御機能の要部を表す機能ブロック図である。ハイブリッド車両10(以下、「車両10」と記す。)は、エンジン12、第1回転機MG1、第2回転機MG2、動力伝達装置14、及び駆動輪16を備える。
図2は、図1に示すエンジン12の概略構成を説明する図である。エンジン12は、車両10の走行用の動力源であり、過給機18を有するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関、すなわち過給機18付きエンジンである。エンジン12の吸気系には吸気管20が設けられており、吸気管20はエンジン本体12aに取り付けられた吸気マニホールド22に接続されている。エンジン12の排気系には排気管24が設けられており、排気管24はエンジン本体12aに取り付けられた排気マニホールド26に接続されている。過給機18は、吸気管20に設けられたコンプレッサー18cと排気管24に設けられたタービン18tとを有する、公知の排気タービン式の過給機すなわちターボチャージャーである。タービン18tは、排出ガスすなわち排気の流れにより回転駆動させられる。コンプレッサー18cは、タービン18tに連結されている。タービン18tによってコンプレッサー18cが回転駆動させられることで、エンジン12への吸入空気すなわち吸気が圧縮される。
排気管24には、タービン18tの上流側から下流側へタービン18tを迂回して排気を流す為の排気バイパス28が設けられている。排気バイパス28には、タービン18tを通過する排気と排気バイパス28を通過する排気との割合を連続的に制御する為のウェイストゲートバルブ30(以下、「WGV30」と記す。)が設けられている。WGV30は、後述する電子制御装置100によって不図示のアクチュエータが作動させられることにより弁開度が連続的に調節される。WGV30の弁開度が大きいほど、エンジン12の排気は排気バイパス28を通って排出され易くなる。したがって、過給機18の過給作用が効くエンジン12の過給状態において、過給機18による過給圧Pchg[Pa]はWGV30の弁開度が大きいほど低くなる。過給機18による過給圧Pchgは、吸気の圧力であり、吸気管20内でのコンプレッサー18cの下流側気圧である。なお、過給圧Pchgの低い側は、例えば過給機18の過給作用が全く効いていないエンジン12の非過給状態における吸気の圧力となる側、見方を換えれば過給機18を有していないエンジンにおける吸気の圧力となる側である。
吸気管20の入口にはエアクリーナ32が設けられ、エアクリーナ32よりも下流であってコンプレッサー18cよりも上流の吸気管20には、エンジン12の吸入空気量を測定するエアフローメータ34が設けられている。コンプレッサー18cよりも下流の吸気管20には、吸気と外気又は冷却水との間で熱交換を行って過給機18により圧縮された吸気を冷却する熱交換器であるインタークーラ36が設けられている。インタークーラ36よりも下流であって吸気マニホールド22よりも上流の吸気管20には、後述する電子制御装置100によって不図示のスロットルアクチュエータが作動させられることにより開閉制御される電子スロットル弁38が設けられている。インタークーラ36と電子スロットル弁38との間の吸気管20には、過給機18による過給圧Pchgを検出する過給圧センサ40、吸気の温度である吸気温度を検出する吸気温センサ42が設けられている。電子スロットル弁38の近傍例えばスロットルアクチュエータには、電子スロットル弁38の開度であるスロットル弁開度θth[%]を検出するスロットル弁開度センサ44が設けられている。
吸気管20には、コンプレッサー18cの下流側から上流側へコンプレッサー18cを迂回して空気を再循環させる為の空気再循環バイパス46が設けられている。空気再循環バイパス46には、例えば電子スロットル弁38の急閉時に開弁させられることによりサージの発生を抑制してコンプレッサー18cを保護する為のエアバイパスバルブ48が設けられている。
エンジン12は、後述する電子制御装置100によって、電子スロットル弁38や燃料噴射装置や点火装置やWGV30等を含むエンジン制御装置50(図1参照)が制御されることによりエンジン12から出力されるエンジントルクTe[Nm]が制御される。
図1に戻り、第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、車両10の走行用の動力源となり得る。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、後述する電子制御装置100によってインバータ52が制御されることにより、第1回転機MG1から出力されるMG1トルクTg[Nm]及び第2回転機MG2から出力されるMG2トルクTm[Nm]が制御される。回転機から出力されるトルクは、例えば正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ54は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する。バッテリ54は、例えばリチウムイオン組電池やニッケル水素組電池などの充放電可能な2次電池である。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース56内に設けられている。なお、バッテリ54は、本発明における「蓄電装置」に相当し、MG1トルクTg及びMG2トルクTmは、それぞれ本発明における「第1回転機のトルク」及び「第2回転機のトルク」に相当する。
動力伝達装置14は、ケース56内に、変速部58、差動部60、ドリブンギヤ62、ドリブン軸64、ファイナルギヤ66、ディファレンシャルギヤ68、リダクションギヤ70等を備える。変速部58と差動部60とは、変速部58の入力回転部材である入力軸72と同軸心に配置されている。変速部58は、入力軸72などを介してエンジン12に連結されている。差動部60は、変速部58と直列に連結されている。ドリブンギヤ62は、差動部60の出力回転部材であるドライブギヤ74と噛み合っている。ドリブン軸64は、ドリブンギヤ62とファイナルギヤ66とを各々相対回転不能に固設する。ファイナルギヤ66は、ドリブンギヤ62よりも小径である。ディファレンシャルギヤ68は、デフリングギヤ68aを介してファイナルギヤ66と噛み合っている。リダクションギヤ70は、ドリブンギヤ62よりも小径であって、ドリブンギヤ62と噛み合っている。リダクションギヤ70には、入力軸72とは別にその入力軸72と平行に配置された、第2回転機MG2のロータ軸76が連結されており、第2回転機MG2がドリブンギヤ62に動力伝達可能に接続されている。動力伝達装置14は、ディファレンシャルギヤ68に連結された車軸78等を備える。
このように構成された動力伝達装置14は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式或いはRR(リヤエンジン・リヤドライブ)方式の車両に好適に用いられる。動力伝達装置14では、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2から各々出力される動力は、ドリブンギヤ62へ伝達される。ドリブンギヤ62へ伝達された動力は、ファイナルギヤ66、ディファレンシャルギヤ68、車軸78等を順次介して駆動輪16へ伝達される。動力伝達装置14における変速部58、差動部60、ドリブンギヤ62、ドリブン軸64、ファイナルギヤ66、ディファレンシャルギヤ68、及び車軸78が、エンジン12と駆動輪16との間に設けられた動力伝達経路PTを構成している。このように、第2回転機MG2はリダクションギヤ70を介して動力伝達経路PTに動力伝達可能に接続され、第2回転機MG2は駆動輪16に動力伝達可能に接続されている。
ところで、動力伝達経路PTにはガタが存在する。ガタとは、動力伝達経路PTにおいて回転方向において形成されるギヤやスプライン嵌合部での接触面の隙間のことである。後述する動力伝達経路PTを経由して駆動輪16に出力される出力トルクTout[Nm]が負の値から正の値へと変化する加速要求によって、出力トルクToutが0を横切る場合、動力伝達経路PTに存在するガタによって動力伝達が一時的に途切れた後、動力伝達が再開される際にガタ中で蓄積された運動エネルギーがガタの詰めによって急激に伝達されて車両10に所謂ガタ打ちショックを発生させる。なお、機械的な引き摺りなどによりガタ打ちショックが発生する出力トルクToutが厳密には0から少しずれる場合があるが、本発明における「出力トルクが0になる」とは、そのような場合においては出力トルクToutがその少しずれたトルク値になることを意味する。
変速部58は、第1遊星歯車機構80、クラッチC1、及びブレーキB1を備える。第1遊星歯車機構80は、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置である。差動部60は、第2遊星歯車機構82を備える。第2遊星歯車機構82は、サンギヤS1、キャリアCA1、及びリングギヤR1を備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置である。
クラッチC1及びブレーキB1は、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。このクラッチC1及びブレーキB1は、車両10に備えられた油圧制御回路84が後述する電子制御装置100によって制御されることにより、油圧制御回路84から出力される調圧された各油圧に応じて、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。
第1遊星歯車機構80、第2遊星歯車機構82、クラッチC1、及びブレーキB1は、図1に示すように連結されている。
クラッチC1及びブレーキB1が共に解放された状態においては、第1遊星歯車機構80の差動が許容される。この状態では、サンギヤS0にてエンジントルクTeの反力トルクが取れない為、変速部58は機械的な動力伝達が不能な中立状態すなわちニュートラル状態とされる。クラッチC1が係合され且つブレーキB1が解放された状態においては、第1遊星歯車機構80は各回転要素が一体となって回転させられる。この状態では、エンジン12の回転は等速でリングギヤR0からキャリアCA1へ伝達される。クラッチC1が解放され且つブレーキB1が係合された状態においては、第1遊星歯車機構80はサンギヤS0の回転が止められ、リングギヤR0の回転がキャリアCA0の回転よりも増速される。この状態では、エンジン12の回転は増速されてリングギヤR0から出力される。
このように、変速部58は、その変速比が「1.0」の直結状態となるローギヤと、その変速比が例えば「0.7」のオーバードライブ状態となるハイギヤと、に切り替え可能な2段の有段変速機として機能する。クラッチC1及びブレーキB1が共に係合された状態においては、第1遊星歯車機構80は各回転要素の回転が止められる。この状態では、変速部58の出力回転部材であるリングギヤR0の回転が停止させられることで、差動部60の入力回転部材であるキャリアCA1の回転が停止させられる。
第2遊星歯車機構82において、キャリアCA1は、変速部58の出力回転部材であるリングギヤR0に連結された回転要素であり、差動部60の入力回転部材として機能する。サンギヤS1は、第1回転機MG1のロータ軸86に一体的に連結されており、第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された回転要素である。リングギヤR1は、ドライブギヤ74に一体的に連結されており、駆動輪16に動力伝達可能に連結された回転要素であり、且つ、差動部60の出力回転部材として機能する。
第2遊星歯車機構82は、変速部58を介してキャリアCA1に入力されるエンジン12の動力を第1回転機MG1及びドライブギヤ74に機械的に分割する動力分割機構である。つまり、第2遊星歯車機構82は、エンジン12の動力を駆動輪16と第1回転機MG1とに分割して伝達する差動機構である。第2遊星歯車機構82において、キャリアCA1は入力要素として機能し、サンギヤS1は反力要素として機能し、リングギヤR1は出力要素として機能する。差動部60は、第2遊星歯車機構82に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより第2遊星歯車機構82の差動状態(すなわち差動部60の差動状態)が制御される電気式変速機構例えば電気式無段変速機を構成する。無段変速機である差動部60は、動力伝達経路PTに設けられている。第1回転機MG1は、エンジン12の動力が伝達される回転機である。変速部58はオーバードライブであるので、第1回転機MG1の高トルク化が抑制される。
図3は、図1に示す差動部60における各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図3において、3本の縦線Y1、Y2、Y3は、差動部60を構成する第2遊星歯車機構82の3つの回転要素に対応している。縦線Y1は、第1回転機MG1(図3に示す「MG1」参照)が連結された第2回転要素RE2であるサンギヤS1の回転速度を表している。縦線Y2は、変速部58を介してエンジン12(図3に示す「ENG」参照)が連結された第1回転要素RE1であるキャリアCA1の回転速度を表している。縦線Y3は、ドライブギヤ74(図3に示す「OUT」参照)と一体的に連結された第3回転要素RE3であるリングギヤR1の回転速度を表している。ドライブギヤ74と噛み合うドリブンギヤ62には、リダクションギヤ70等を介して第2回転機MG2(図3に示す「MG2」参照)が連結されている。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、第2遊星歯車機構82の歯車比ρ(=サンギヤS1の歯数/リングギヤR1の歯数)に応じて定められる。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤS1とキャリアCA1との間が「1」に対応する間隔とされると、キャリアCA1とリングギヤR1との間が歯車比ρに対応する間隔とされる。
キャリアCA1には、車両10に備えられた機械式のオイルポンプ(図3に示す「MOP」参照)が連結されている。この機械式のオイルポンプは、キャリアCA1の回転に伴って駆動されることで、クラッチC1及びブレーキB1の各係合作動や各部の潤滑及び冷却に用いられるオイルを供給する。キャリアCA1の回転が停止される場合には、車両10に備えられた電動式のオイルポンプ(不図示)によりオイルが供給される。
図3の実線Lefは、少なくともエンジン12を動力源として走行するHV走行(ハイブリッド走行)が可能な走行モードであるHV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度の一例を示している。HV走行モードでは、エンジン12が主たる動力源とされ、第1回転機MG1及び第2回転機MG2が必要に応じて補助的な動力源とされる。図3の実線Lerは、HV走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度の一例を示している。
HV走行モードでは、第2遊星歯車機構82において、例えば変速部58を介してキャリアCA1に入力された正トルクであるエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクである反力トルクとなるMG1トルクTgがサンギヤS1に入力されると、リングギヤR1には正トルクであるエンジン直達トルクTd[Nm]が現れる。例えば、クラッチC1が係合され且つブレーキB1が解放されて変速部58が変速比「1.0」の直結状態とされている場合、キャリアCA1に入力されるエンジントルクTeに対して、反力トルクとなるMG1トルクTg{=−ρ/(1+ρ)×Te}がサンギヤS1に入力されると、リングギヤR1にはエンジン直達トルクTd{=Te/(1+ρ)=−(1/ρ)×Tg}が現れる。そして、要求駆動力Pwdem[N]に応じて、ドリブンギヤ62に各々伝達されるエンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両10の駆動トルクTw[Nm]として駆動輪16へ伝達され得る。駆動トルクTwは、動力伝達経路PTを経由して駆動輪16に出力トルクToutとして出力される。駆動トルクTwと出力トルクToutとは、同義である。
第1回転機MG1は、正回転にて負トルクを発生する場合には発電機として機能する。第1回転機MG1による発電電力Wg[W]は、バッテリ54に充電されたり、第2回転機MG2にて消費されたりする。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ54からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。前進走行時のMG2トルクTmは正回転の正トルクとなる力行トルクであり、後進走行時のMG2トルクTmは負回転の負トルクとなる力行トルクである。
差動部60は、電気的な無段変速機として作動させられ得る。例えば、HV走行モードにおいて、駆動輪16の回転に拘束されるドライブギヤ74の回転速度である出力回転速度No[rpm]に対して、第1回転機MG1の運転状態が制御されることによって第1回転機MG1の回転速度つまりサンギヤS1の回転速度が上昇或いは低下させられると、キャリアCA1の回転速度が上昇或いは低下させられる。キャリアCA1は変速部58を介してエンジン12と連結されているので、キャリアCA1の回転速度が上昇或いは低下させられることで、エンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne[rpm]が上昇或いは下降させられる。したがって、HV走行では、エンジン動作点OPengを効率の良い動作点に設定する制御を行うことが可能である。この種のハイブリッド形式は、機械分割式或いはスプリットタイプと称される。第1回転機MG1は、エンジン回転速度Neを制御可能な回転機である。なお、エンジン動作点OPengは、エンジン回転速度NeとエンジントルクTeとで表されるエンジン12の運転点である。なお、エンジン回転速度Neは、本発明における「エンジンの回転速度」に相当する。
図3の破線Lm1は、エンジン12の運転を停止した状態で第2回転機MG2のみを動力源とするEV走行(モータ走行)が可能な単独駆動EV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度の一例を示している。単独駆動EV走行モードでは、クラッチC1及びブレーキB1が共に解放されて変速部58がニュートラル状態とされることで差動部60もニュートラル状態とされ、この状態でMG2トルクTmが車両10の駆動トルクTwとして駆動輪16へ伝達され得る。単独駆動EV走行モードでは、例えば第1回転機MG1における引き摺り損失等を低減する為に、第1回転機MG1はゼロ回転に維持される。例えば、第1回転機MG1をゼロ回転に維持する制御が行われても、差動部60はニュートラル状態にあるので、駆動トルクTwは影響を受けない。
図3の破線Lm2は、エンジン12の運転を停止した状態で第1回転機MG1及び第2回転機MG2の両方を動力源とするEV走行が可能な両駆動EV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度の一例を示している。両駆動EV走行モードでは、クラッチC1及びブレーキB1が共に係合されて第1遊星歯車機構80の各回転要素の回転が止められることでキャリアCA1はゼロ回転で停止状態とされ、この状態でMG1トルクTg及びMG2トルクTmが車両10の駆動トルクTwとして駆動輪16へ伝達され得る。
図4は、エンジン回転速度Ne及びエンジントルクTeを変数とする二次元座標上に、最適エンジン動作点OPengfの一例を示す図である。図4において、最大効率線Lengは、最適エンジン動作点OPengfの集まりを示している。最適エンジン動作点OPengfは、例えば要求エンジンパワーPedem[W]を実現するときに、エンジン12単体の燃費にバッテリ54における充放電効率等を考慮した車両10におけるトータル燃費が最も良くなるエンジン動作点OPengとして予め定められている。つまり、最適エンジン動作点OPengfにおけるエンジン回転速度Neは、エンジン12が要求エンジンパワーPedemを最も効率よく出力可能な最適燃費回転速度Neeffである。
等エンジンパワー線Lpw1,Lpw2,Lpw3は、各々、要求エンジンパワーPedemがエンジンパワーPe1,Pe2,Pe3であるときの一例を示している。点Aは、エンジンパワーPe1を最適エンジン動作点OPengf上で実現するときのエンジン動作点OPengAであり、点Bは、エンジンパワーPe3を最適エンジン動作点OPengf上で実現するときのエンジン動作点OPengBである。点A,Bは、各々、目標エンジン回転速度Netgt[rpm]と目標エンジントルクTetgt[Nm]とで表されるエンジン動作点OPengの目標値すなわち目標エンジン動作点OPengtgtでもある。つまり、目標エンジン回転速度Netgtは、エンジン回転速度Neの目標値であり、目標エンジントルクTetgtは、エンジントルクTeの目標値である。エンジンパワーPe[W]はエンジン12から出力されるパワーである。
アクセル開度Acc[%]の増加(例えば、運転者による不図示のアクセルペダルの踏み増し操作に基づくアクセル開度Accの増加)により、例えば目標エンジン動作点OPengtgtが点Aから点Bへ変化させられる場合、最大効率線Leng上を通る経路aでエンジン動作点OPengが変化させられる。
図4では不図示であったが、厳密には、過給機18付きエンジン12においては、燃費が最大となる最適エンジン動作点OPengfは、エンジン回転速度Ne及びエンジントルクTeの他に、過給圧Pchgも変数として予め記憶されている。最適エンジン動作点OPengf上で要求エンジンパワーPedemを実現するときの過給圧Pchgが、目標過給圧Pchgtgt[Pa]である。
図5は、EV走行とHV走行との切替制御に用いる動力源切替マップの一例を示す図である。図5において、実線Lswpは、EV走行とHV走行とを切り替える為のEV走行領域とHV走行領域との境界線である。車速V[km/h]が比較的低く且つ要求駆動トルクTwdem[Nm]が比較的低い(すなわち要求駆動力Pwdemが比較的小さい)領域が、EV走行領域に予め定められている。車速Vが比較的高く又は要求駆動トルクTwdemが比較的高い(すなわち要求駆動力Pwdemが比較的大きい)領域が、HV走行領域に予め定められている。要求駆動トルクTwdemは、車両10に対して要求される駆動トルクTwである。なお、後述のバッテリ54の充電状態値SOC[%]が所定の判定値Sj未満の低い場合又はエンジン12の暖機が必要な場合には、図5におけるEV走行領域がHV走行領域に変更されても良い。この所定の判定値Sjは、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
図6は、各走行モードとそれに用いられるクラッチC1及びブレーキB1の作動状態の組み合わせとの関係を説明する係合作動表である。図6において、「○」は係合状態を示し、「空欄」は解放状態を示し、「△」は回転停止状態のエンジン12を連れ回し状態とするエンジンブレーキの併用時にクラッチC1及びブレーキB1のいずれか一方を係合状態とすることを示している。また、「G」は第1回転機MG1を主にジェネレータとして機能させることを示し、「M」は第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々を駆動時には主にモータとして機能させ、回生制御時には主にジェネレータとして機能させることを示している。車両10は、走行モードとして、EV走行モード及びHV走行モードを選択的に実現することができる。EV走行モードは、単独駆動EV走行モードと両駆動EV走行モードとの2つのモードを有している。
単独駆動EV走行モードは、クラッチC1及びブレーキB1が共に解放された状態で実現される。単独駆動EV走行モードでは、クラッチC1及びブレーキB1が解放されることで、変速部58がニュートラル状態とされる。変速部58がニュートラル状態とされると、差動部60はリングギヤR0に連結されたキャリアCA1にてMG1トルクTgの反力トルクが取れないニュートラル状態とされる。この状態で、電子制御装置100は、第2回転機MG2から走行用のMG2トルクTmを出力させる(図3に示す破線Lm1参照)。単独駆動EV走行モードでは、前進走行時に対して第2回転機MG2を逆回転させて後進走行することも可能である。
単独駆動EV走行モードでは、リングギヤR0はキャリアCA1に連れ回されるが、変速部58はニュートラル状態にあるので、エンジン12は連れ回されずゼロ回転で停止状態とされる。よって、単独駆動EV走行モードでの走行中に第2回転機MG2にて回生制御を行う場合、回生電力量を大きく取ることができる。単独駆動EV走行モードでの走行時に、バッテリ54が満充電状態となり回生エネルギーが取れない場合、エンジンブレーキを併用することが考えられる。エンジンブレーキを併用する場合は、ブレーキB1又はクラッチC1が係合される(図6に示す「エンブレ併用」参照)。ブレーキB1又はクラッチC1が係合されると、エンジン12は連れ回し状態とされて、エンジンブレーキが作用させられる。
両駆動EV走行モードは、クラッチC1及びブレーキB1が共に係合された状態で実現される。両駆動EV走行モードでは、クラッチC1及びブレーキB1が係合されることで、第1遊星歯車機構80の各回転要素の回転が停止させられ、エンジン12がゼロ回転で停止状態とされ且つリングギヤR0に連結されたキャリアCA1の回転が停止させられる。キャリアCA1の回転が停止させられると、キャリアCA1にてMG1トルクTgの反力トルクが取れる為、MG1トルクTgがリングギヤR1から機械的に出力されて駆動輪16へ伝達され得る。この状態で、電子制御装置100は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2から各々走行用のMG1トルクTg及びMG2トルクTmを出力させる(図3に示す破線Lm2参照)。両駆動EV走行モードでは、前進走行時に対して第1回転機MG1及び第2回転機MG2が共に逆回転とされて後進走行とすることも可能である。
HV走行モードのロー状態は、クラッチC1が係合された状態且つブレーキB1が解放された状態で実現される。HV走行モードのロー状態では、クラッチC1が係合されることで、第1遊星歯車機構80の回転要素が一体回転させられ、変速部58は直結状態とされる。そのため、エンジン12の回転は等速でリングギヤR0からキャリアCA1へ伝達される。HV走行モードのハイ状態は、ブレーキB1が係合された状態且つクラッチC1が解放された状態で実現される。HV走行モードのハイ状態では、ブレーキB1が係合されることで、サンギヤS0の回転が停止させられ、変速部58はオーバードライブ状態とされる。そのため、エンジン12の回転が増速されてリングギヤR0からキャリアCA1へ伝達される。HV走行モードにおいて、電子制御装置100は、エンジントルクTeに対する反力トルクとなるMG1トルクTgを第1回転機MG1の発電により出力させると共に、第1回転機MG1による発電電力Wgにより第2回転機MG2からMG2トルクTmを出力させる(図3に示す実線Lef参照)。HV走行モードでは例えばHV走行モードのロー状態では、前進走行時に対して第2回転機MG2が逆回転とされて後進走行とすることも可能である(図3に示す実線Ler参照)。HV走行モードでは、バッテリ54からの電力を用いたMG2トルクTmを更に付加して走行することも可能である。HV走行モードでは、例えば車速Vが比較的高く且つ要求駆動トルクTwdemが比較的低い場合には、HV走行モードのうちのハイ状態が成立させられる。
図1に戻り、車両10は、更に、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置100を備える。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置100は、必要に応じてエンジン制御用、回転機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。なお、電子制御装置100は、本発明における「制御装置」に相当する。
電子制御装置100には、車両10に備えられた各種センサ等(例えば、過給圧センサ40、スロットル弁開度センサ44、エンジン回転速度センサ88、出力回転速度センサ90、MG1回転速度センサ92、MG2回転速度センサ94、アクセル開度センサ96、バッテリセンサ98など)による検出値に基づく各種信号等(例えば、過給圧Pchg、スロットル弁開度θth、エンジン回転速度Ne、車速Vに対応する出力回転速度No、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng[rpm]、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度Nm[rpm]、例えば運転者による加速操作の大きさを表すアクセル操作量であるアクセル開度Acc、バッテリ54のバッテリ温度THbat[℃]やバッテリ充放電電流Ibat[mA]やバッテリ電圧Vbat[V]など)が、それぞれ入力される。なお、アクセル開度Accは、本発明における「アクセル操作量」に相当する。
電子制御装置100からは、車両10に備えられた各装置(例えば、エンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路84など)に各種指令信号(例えば、エンジン12を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を各々制御する指令信号である回転機制御指令信号Smg、クラッチC1及びブレーキB1の各々の作動状態を制御する指令信号である油圧制御指令信号Spなど)が、それぞれ出力される。
電子制御装置100は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ54の充電状態を示す値としての充電状態値SOCを算出する。バッテリ54が満充電状態の場合には、充電状態値SOCは100[%]である。電子制御装置100は、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電状態値SOCに基づいて、バッテリ54のパワーであるバッテリパワーPbat[W]の使用可能な範囲を規定する充電可能電力Win[W]及び放電可能電力Wout[W]を算出する。充電可能電力Win及び放電可能電力Woutは、バッテリ54の劣化を抑制する目的で設定されるものである。充電可能電力Winは、バッテリ54への充電電力の制限を規定する入力可能電力であり、放電可能電力Woutは、バッテリ54からの放電電力の制限を規定する出力可能電力である。したがって、バッテリ54への充電電力が充電可能電力Winを長い期間超えたり、バッテリ54からの放電電力が放電可能電力Woutを長い期間を超えたりすることは、バッテリ54の劣化の観点から好ましくない。充電可能電力Win及び放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbatが常用域より低い低温域ではバッテリ温度THbatが低いほど小さくされ、バッテリ温度THbatが常用域より高い高温域ではバッテリ温度THbatが高いほど小さくされる。充電可能電力Winは、例えば充電状態値SOCが高い領域では充電状態値SOCが高いほど小さくされる。放電可能電力Woutは、例えば充電状態値SOCが低い領域では充電状態値SOCが低いほど小さくされる。
電子制御装置100は、加速要求判定部102、変化速度判定部104、及び回転機制御部106を機能的に備える。
加速要求判定部102は、動力伝達経路PTを経由して駆動輪16に出力される出力トルクToutが負の値から正の値へと変化する加速要求がされたか否かを判定する。加速要求がされたか否かは、出力トルクToutが負の値から正の値へ変化させられる状態にあるか否かで判定される。例えば、要求される出力トルクToutが負の値であったものが正の値へ変化するアクセルペダルの踏み増し操作が運転者によってなされたことに基づいて加速要求がされたと判定される。また、例えばそのアクセルペダルの踏み増し操作がなされた後であって、踏み増し操作後のアクセル開度Accに対応した後述する要求出力トルクTodemに向かって出力トルクToutが変化させられる状態にある場合には、加速要求がされたと判定される。例えば、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた)アクセル開度Acc及び車速Vと要求駆動トルクTwdemとの関係(例えば、駆動力マップ)に、実際のアクセル開度Acc及び車速Vを適用することで、要求駆動トルクTwdemが算出される。要求駆動トルクTwdemは、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動力Pwdemである。なお、駆動力マップは、車速Vに替えて出力回転速度Noなどが適用されても良い。要求駆動トルクTwdemは、動力伝達経路PTを経由して駆動輪16に出力される出力トルクToutについて要求される要求出力トルクTodem[Nm]と同義であるため、要求駆動トルクTwdemが負の値から正の値へと変化した場合には、出力トルクToutが負の値から正の値へと変化する加速要求がされたと判定される。
加速要求判定部102により加速要求があったと判定された場合、変化速度判定部104は、この加速要求におけるアクセル開度Accの変化速度Vacc[%/ms]が所定の判定値V1よりも大きいか否かを判定する。変化速度Vaccは、例えば後述する図8に示すように、加速要求された期間dt[ms]に対するアクセル開度の変化量ΔAcc[%]、すなわちアクセル開度Accの変化速度Vacc(=ΔAcc/dt)である。変化速度Vaccが所定の判定値V1よりも大きい場合には、速やかに加速することが要求されていると思われる一方、変化速度Vaccが所定の判定値V1以下の場合には、緩やかに加速することが要求されていると思われる。所定の判定値V1は、速やかに加速することが要求されていると判定する変化速度Vaccの下限側の閾値であって、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶されている。なお、所定の判定値V1は、本発明における「所定値」に相当する。
変化速度判定部104により加速要求の変化速度Vaccが所定の判定値V1よりも大きいと判定された場合、回転機制御部106は、Ne早期上昇制御を実行する。Ne早期上昇制御は、出力トルクToutが負の値から0になるまではMG1トルクTgによりエンジン回転速度Neの上昇速度Vne[rpm/ms]を増大させるようにMG1トルクTgを増大制御し且つ第2回転機MG2を回生制御し、出力トルクToutが0になった以降にMG2トルクTmにより出力トルクToutを補助する(アシストする)ようにMG2トルクTmを増大制御し且つMG2トルクTmを増大制御することに伴ってMG1トルクTgを減少制御するものである。例えば、出力トルクToutが0になった以降に過給応答遅れによるエンジン12の出力不足がMG2トルクTmにより補助され、出力トルクToutの不足が低減される。なお、上昇速度Vneは、本発明における「エンジン回転速度の上昇速度」に相当し、Ne早期上昇制御は、本発明における「早期上昇制御」に相当する。
Ne早期上昇制御において、回転機制御部106は、出力トルクToutが負の値又は0であるか否かを判定する。出力トルクToutは、例えばMG1トルクTgとMG2トルクTmとの合算から推定したり、MG1回転速度Ngの変化量及びMG2回転速度Nmの変化量から推定値を算出したりすることが可能である。
回転機制御部106は、出力トルクToutが負の値又は0であると判定した場合(すなわち出力トルクToutが負の値から0になるまでの期間)、MG1トルクTgによりエンジン回転速度Neの上昇速度Vneを増大させるようにMG1トルクTgを増大制御し且つ第2回転機MG2を回生制御する。MG1トルクTgが増大制御されることで、MG1トルクTgは、エンジン回転速度Neの上昇速度Vneを増大させられる所定のトルク値Tginc(図8参照)未満の状態からその所定のトルク値Tginc以上の状態に増大させられる。差動部60のサンギヤS1に入力されるMG1トルクTgが増大させられることで、エンジン回転速度Neの上昇速度Vneが増大されてエンジン回転速度Neが早期に上昇し過給応答遅れが低減される。過給応答遅れが低減されることにより、エンジントルクTeの増大の応答性が向上する。なお、第1回転機MG1は、MG1トルクTgが制御されることによってエンジン回転速度Neを調整可能である。回転機制御部106は、エンジントルクTeの増大に応じて第2回転機MG2を回生制御する。具体的には、回転機制御部106は、エンジントルクTeの増大に基づく出力トルクToutの増大分を打ち消すように第2回転機MG2の回生トルクを増大させる、すなわちMG2トルクTm(負トルク)を減少させる。
回転機制御部106は、出力トルクToutが負の値から0になるまでは、バッテリ54から第1回転機MG1への第1放電電力Wmg1[W](第1回転機MG1での消費電力)がバッテリ54における放電可能電力Woutによる制限を受けるようにする。「第1放電電力Wmg1がバッテリ54における放電可能電力Woutによる制限を受ける」とは、第1放電電力Wmg1が放電可能電力Woutを超えないようにするということである。なお、第2回転機MG2が回生制御されているので、バッテリ54から第2回転機MG2への第2放電電力Wmg2[W](第2回転機MG2での消費電力)は零であり、放電可能電力Woutによる制限には影響を与えない。
ここで、第1回転機MG1から出力されるMG1トルクTgに基づいた出力トルクToutの増加分をアシストトルク量Tomg1[Nm]といい、第2回転機MG2から出力されるMG2トルクTmに基づいた出力トルクToutの増加分をアシストトルク量Tomg2[Nm]ということとする。出力トルクToutが負の値から0になるまでは、アシストトルク量Tomg1は正の値であり且つアシストトルク量Tomg2は負の値である。
回転機制御部106は、出力トルクToutが正の値であると判定した場合(すなわち出力トルクToutが0になった以降の期間)、MG2トルクTmにより出力トルクToutをアシストするようにMG2トルクTmを増大制御し且つMG2トルクTmを増大制御することに伴ってMG1トルクTgを減少制御する。すなわち、回転機制御部106は、出力トルクToutが0になった以降に、MG2トルクTmにより出力トルクToutをアシストするようにMG2トルクTmを増大制御し且つMG2トルクTmを増大制御することに伴ってMG1トルクTgを減少制御する。MG2トルクTmが増大制御されることで、MG2トルクTmは、ガタの詰めが完了した時点(詳細は図8を用いて後述する)よりもトルク値が増大された状態となり、MG1トルクTgが減少制御されることで、MG1トルクTgは、ガタの詰めが完了した時点よりもトルク値が減少された状態となる。MG2トルクTmが増大制御されることで、出力トルクToutが増大するようにMG2トルクTmが増大された状態となり、MG1トルクTgが減少制御されることで、MG1トルクTgが減少された状態となる。このMG2トルクTmを増大制御し且つMG1トルクTgを減少制御する場合には、出力トルクToutが0から要求出力トルクTodemに向かって次第に増大するようにMG2トルクTm及びMG1トルクTgが制御される。
回転機制御部106は、出力トルクToutが0になった以降、バッテリ54から第1回転機MG1への第1放電電力Wmg1及びバッテリ54から第2回転機MG2への第2放電電力Wmg2の合計Wsum[W](=Wmg1+Wmg2)がバッテリ54における放電可能電力Woutによる制限を受けるようにし、且つ、第1放電電力Wmg1によって発生するMG1トルクTgに基づいたアシストトルク量Tomg1を減少させつつ第2放電電力Wmg2によって発生するMG2トルクTmに基づいたアシストトルク量Tomg2を増加させる。「第1放電電力Wmg1及び第2放電電力Wmg2の合計Wsumがバッテリ54における放電可能電力Woutによる制限を受ける」とは、合計Wsumが放電可能電力Woutを超えないようにするということである。
加速要求判定部102により加速要求がなかったと判定された場合又は変化速度判定部104により加速要求の変化速度Vaccが所定の判定値V1以下であると判定された場合、回転機制御部106は、Ne早期上昇制御を実行しない。
Ne早期上昇制御を実行しない場合には、回転機制御部106は、例えばMG1トルクTgによってエンジン回転速度Neの上昇速度Vneを増大させることなく、エンジン12から出力されるエンジントルクTeの増大により出力トルクToutを増大させ、必要に応じて第2回転機MG2から出力されるMG2トルクTmにより出力トルクToutをアシストさせる。
図7は、電子制御装置100の制御作動の要部を説明するフローチャートの一例である。図7のフローチャートは、繰り返し実行される。
まず、加速要求判定部102の機能に対応するステップS10において、出力トルクToutが負の値であったものが正の値へ変化するアクセルペダルの踏み増し操作がなされたか、又は、そのアクセルペダルの踏み増し操作がなされた後であって踏み増し操作後のアクセル開度Accに対応した要求出力トルクTodemに向かって出力トルクToutが変化させられる状態にあるか否かが判定される。ステップS10の判定が肯定された場合、ステップS20が実行される。ステップS10の判定が否定された場合、ステップS60が実行される。
変化速度判定部104の機能に対応するステップS20において、加速要求におけるアクセル開度Accの変化速度Vaccが所定の判定値V1よりも大きいか否かが判定される。ステップS20の判定が肯定された場合、ステップS30が実行される。ステップS20の判定が否定された場合、ステップS60が実行される。
回転機制御部106の機能に対応するステップS30において、出力トルクToutが正の値であるか否かが判定される。ステップS30の判定が肯定された場合、ステップS50が実行される。ステップS30の判定が否定された場合、ステップS40が実行される。
回転機制御部106の機能に対応するステップS40において、MG1トルクTgによりエンジン回転速度Neの上昇速度Vneを増大させるようにMG1トルクTgが増大制御され且つ第2回転機MG2が回生制御される。そしてリターンとなる。
回転機制御部106の機能に対応するステップS50において、MG2トルクTmにより出力トルクToutをアシストするようにMG2トルクTmが増大制御され且つMG2トルクTmが増大制御されることに伴ってMG1トルクTgが減少制御される。そしてリターンとなる。なお、上述したステップS30乃至ステップS50の一連のステップの実行が、Ne早期上昇制御の実行である。
回転機制御部106の機能に対応するステップS60において、Ne早期上昇制御が実行されない。そしてリターンとなる。
図8は、図7に示す電子制御装置100の制御作動が実行された場合のタイムチャートの一例である。図8において、Ne早期上昇制御が実行された場合が実線で示され、Ne早期上昇制御が実行されない場合が破線で示されている。
図8において、横軸は時間t[ms]であり、縦軸は上から順にアクセル開度Acc、出力トルクTout、エンジン回転速度Ne、エンジントルクTe、MG1トルクTg、及びMG2トルクTmである。
まず、Ne早期上昇制御が実行された場合(図8に示す実線)について説明する。
時刻t1以前の時刻においては、アクセル開度Accが開度値A1(=0)であり且つ出力トルクToutがトルク値To1(<0)である。エンジン12は、エンジン回転速度Neが回転速度値Ne1(>0)、エンジントルクTeがトルク値Te1(>0)となるように制御され、第1回転機MG1及び第2回転機MG2はそれぞれMG1トルクTgがトルク値Tg1(=0)、MG2トルクTmがトルク値Tm1(<0)となるように制御されている。第2回転機MG2が回生制御されることでMG2トルクTmが負の値になっており、また、反力トルクとなるMG1トルクTgが0であることからエンジントルクTeが正の値であっても、出力トルクToutとしては負の値になっている。例えば、前述したようにバッテリ54の充電状態値SOCが所定の判定値Sj未満と低い場合又はエンジン12の暖機が必要な場合であってエンジン12が運転されている状態において、車両10が減速している状況である。
時刻t1から時刻t2までの間において、アクセル開度Accが開度値A1から開度値A2(>0)まで増加する加速要求がされる。時刻t2におけるアクセル開度Accである開度値A2に応じて要求される出力トルクToutのトルク値To4(>0)は、要求出力トルクTodemである。したがって、上記加速要求は、出力トルクToutが負の値から正の値へと変化する加速要求である。この加速要求の変化速度Vaccは、加速要求におけるアクセル開度の変化量ΔAccをアクセル開度Accが増加している期間dtで除したもの(=ΔAcc/dt)である。
時刻t2以降の時刻においては、アクセル開度Accが時刻t2における開度値A2が維持される。
時刻t1において出力トルクToutが負の値から正の値へと変化する加速要求がされることにより、出力トルクToutが負の値である時刻t1から0になる時刻t3までの期間は、MG1トルクTgがトルク値Tg1(=0)からトルク値Tg2(>0)まで一定の上昇レートで増大させられる。このMG1トルクTgの増大により、エンジン回転速度Neが回転速度値Ne1から回転速度値Ne2(>Ne1)まで増大し、過給応答遅れが低減される。また、エンジントルクTeがトルク値Te1からトルク値Te2(>Te1)まで増加している。この期間において、エンジントルクTeのトルク値Te1からトルク値Te2までの増加分を打ち消すようにMG2トルクTmがトルク値Tm1(<0)からトルク値Tm2(<Tm1)に減少させられる。これにより、エンジントルクTeがトルク値Te1からトルク値Te2まで増加しているけれども、MG2トルクTmの減少により、出力トルクToutの立ち上がり(増大速度)が速くなることが抑制されている。なお、MG1トルクTgが増大させられるトルク値Tg2は、エンジン回転速度Neの上昇速度Vneを増大させるように、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶されている所定のトルク値Tginc以上の値である。
出力トルクToutが0になった時刻t3以降、その出力トルクToutが0に維持されている時刻t4までの期間では、MG1トルクTgが増大した状態のトルク値Tg2に維持され、MG2トルクTmがトルク値Tm2に維持されている。この期間において、エンジン回転速度Neがさらに増大している一方、エンジントルクTeは緩やかにしか増大していない。エンジントルクTeの緩やかな増大によって、出力トルクToutも緩やかに増大している。図8においては、時刻t3から時刻t4までの期間における出力トルクToutが一定値(=0)となっているが、厳密には出力トルクToutは緩やかに増大しており、時刻t3から時刻t4までの間の時点において、ガタの詰めが完了する。これにより、動力伝達経路PTに存在するガタ(バックラッシュ)が駆動輪16側から動力源であるエンジン12側へ緩やかに詰められるため、ガタ打ちショックが抑制される。
時刻t4において、第2回転機MG2の回生制御が終了し、MG2トルクTmが一旦0まで増大させられる。この増大により、出力トルクToutが0からトルク値To2(>0)まで増大している。
時刻t4から時刻t5までの期間では、MG2トルクTmが0からトルク値Tm3まで一定の上昇レートで増大し且つMG1トルクTgがトルク値Tg2からトルク値Tg1(=0)まで一定の下降レートで減少している。また、エンジン回転速度Neが既に増大し過給応答遅れが低減されているため、エンジントルクTeも速やかに増大している。これにより、出力トルクToutがトルク値To2からトルク値To3(>To2)まで速やかに増大している。
時刻t5から時刻t6までの期間では、MG2トルクTmがトルク値Tm3からトルク値Tm4まで一定の上昇レートで増大し且つMG1トルクTgがトルク値Tg1(=0)からトルク値Tg3(<0)まで一定の下降レートで減少している。MG1トルクTgが負トルクであって減少しており、且つ、MG2トルクTmが増大することにより、出力トルクToutがトルク値To3からトルク値To4(>To3)まで増大している。また、エンジン回転速度Neが増大し、エンジントルクTeも増大している。なお、MG2トルクTmの増大において、時刻t5から時刻t6までの期間の一定の上昇レートは、時刻t4から時刻t5までの期間の一定の上昇レートよりも小さい。
時刻t6から時刻t8までの期間では、MG2トルクTmがトルク値Tm4に維持され且つMG1トルクTgがトルク値Tg3に維持されている。これにより、出力トルクToutがトルク値To4に維持されている。また、エンジン回転速度Neが増大し、エンジントルクTeも増大している。
時刻t4以降、MG2トルクTmは、時刻t3から時刻t4までの間のガタの詰めが完了した時点でのトルク値Tm2よりもトルク値が増大された状態となり、MG1トルクTgは、上記ガタの詰めが完了した時点でのトルク値Tg2よりもトルク値が減少された状態となっている。
次に、比較例としてNe早期上昇制御が実行されない場合(図8に示す破線)について説明する。この比較例の場合には、ガタ打ちショックの抑制は、エンジントルクTeが緩やかに増大させられることで実現される。なお、Ne早期上昇制御が実行された場合と同様の部分については、説明を適宜省略する。
出力トルクToutが負の値から正の値へと変化する加速要求がされた時刻t1において、MG1トルクTgが前述のNe早期上昇制御が実行された場合と同様にトルク値Tg1(=0)から一定の上昇レートで増大させられるが、この増大はトルク値Tg4(>0)で終了する。このトルク値Tg4は、第2回転機MG2の回生トルク(負トルク)の変化量、すなわちトルク値Tm1からトルク値Tm2への変化量(=|Tm2−Tm1|)に基づいた出力トルクToutにおける減少分を補償するためのものである。すなわち、第2回転機MG2の回生トルク(負トルク)の変化に基づく出力トルクToutの減少分が、第1回転機MG1のMG1トルクTgの増大に基づく出力トルクToutの増加分で補償され、これにより出力トルクToutの急減が抑制される。MG1トルクTgは後述の時刻t6までトルク値Tg4が維持される。時刻t1から時刻t4までの期間では、MG2トルクTmは前述のNe早期上昇制御が実行された場合と同様である。この期間におけるMG1トルクTgの増大された力行トルク(正トルク)であるトルク値Tg4は、MG2トルクTmの回生トルク(負トルク)を補償するのにとどまるものであり、所定のトルク値Tginc未満の値である。そのため、トルク値Tg4に増大されたMG1トルクTgは、エンジン回転速度Neの上昇速度Vneの増大には寄与しないので、過給応答遅れのためにエンジントルクTeの増大は緩やかである。このエンジントルクTeの緩やかな増大に応じて出力トルクToutが0に向かって緩やかに増大している。
出力トルクToutが0になった時刻t4において、第2回転機MG2への回生制御が終了し、MG2トルクTmが一旦トルク値Tm5まで増大させられる。時刻t4から時刻t6までの期間では、MG1トルクTgがトルク値Tg4に維持され、MG2トルクTmがトルク値Tm5に維持される。この期間においては、エンジン回転速度Ne及びエンジントルクTeが緩やかに増大している。これにより、出力トルクToutが時刻t4において緩やかに0を超える。
時刻t6から時刻t7までの期間では、MG2トルクTmがトルク値Tm5からトルク値Tm4まで一定の上昇レートで増大し且つMG1トルクTgがトルク値Tg4からトルク値Tg3(<0)まで一定の下降レートで減少している。この期間においては、エンジン回転速度Neの増大により過給効果が発揮されてエンジントルクTeの増加率が時刻t4から時刻t6までの期間よりも大きくなる。これにより、時刻t6から時刻t7までの期間における出力トルクToutの増加率が、時刻t4から時刻t6までの期間に比べて大きくなっている。
時刻t7から時刻t8までの期間では、MG2トルクTmがトルク値Tm4に維持され且つMG1トルクTgがトルク値Tg3に維持されている。エンジントルクTeの増大により出力トルクToutがさらに増大し、時刻t8において出力トルクToutがトルク値To4となっている。
本実施例によれば、動力伝達経路PTを経由して駆動輪16に出力される出力トルクToutが負の値から正の値へと変化する加速要求がされた場合、出力トルクToutが負の値から0になるまでは第1回転機MG1から出力されるMG1トルクTgによりエンジン回転速度Neの上昇速度Vneを増大させるように第1回転機MG1のMG1トルクTgを増大制御し且つ第2回転機MG2を回生制御するとともに、出力トルクToutが0になった以降に第2回転機MG2から出力されるMG2トルクTmにより出力トルクToutをアシストするようにMG2トルクTmを増大制御し且つMG2トルクTmを増大制御することに伴って第1回転機MG1から出力されるMG1トルクTgを減少制御するNe早期上昇制御を実行する回転機制御部106が備えられる。動力伝達経路PTを経由して駆動輪16に出力される出力トルクToutが負の値から0になるまでは第1回転機MG1のMG1トルクTgが増大制御されることによりエンジン回転速度Neの上昇速度Vneが増大させられ、過給応答遅れが低減される。第1回転機MG1のMG1トルクTgが増大制御されることによりエンジントルクTeの立ち上がりが速いと、それに伴って出力トルクToutの立ち上がりが速くなってガタ打ちショックが大きくなるが、第2回転機MG2が回生制御されることで出力トルクToutの立ち上がりが速くなることが抑制されて、ガタ打ちショックが抑制される。出力トルクToutが0になった以降に、第2回転機MG2のMG2トルクTmが増大制御され且つ第1回転機MG1のMG1トルクTgが減少制御されることによって出力トルクToutが第2回転機MG2のMG2トルクTmによりアシストされるので、ガタ打ちショックが抑制される。このように、ガタ打ちショックが抑制されつつ、過給応答遅れの低減により加速応答性の低下が抑制される。
本実施例によれば、加速要求におけるアクセル開度Accの変化速度Vaccが所定の判定値V1よりも大きい場合に、回転機制御部106はNe早期上昇制御を実行する。アクセル開度Accの変化速度Vaccが大きい場合には、小さい場合に比べて速やかに加速すること(出力トルクToutが速やかに立ち上げられること)が要求されていると考えられるがガタ打ちショックが大きくなりやすいため、Ne早期上昇制御の実行によりガタ打ちショックが抑制されつつ、過給応答遅れの低減により加速応答性の低下が抑制される。
本実施例によれば、回転機制御部106は、出力トルクToutが0になった以降に、バッテリ54から第1回転機MG1への第1放電電力Wmg1及びバッテリ54から第2回転機MG2への第2放電電力Wmg2の合計Wsumがバッテリ54における放電可能電力Woutによる制限を受けるようにし、且つ、第1放電電力Wmg1によって発生する第1回転機MG1のMG1トルクTgに基づいたアシストトルク量Tomg1を減少させつつ第2放電電力Wmg2によって発生する第2回転機MG2のMG2トルクTmに基づいたアシストトルク量Tomg2を増加させる。このように、バッテリ54における放電可能電力Woutによる制限下において、出力トルクToutへのトルクアシストの主体が、第1回転機MG1からその第1回転機MG1に比べて出力トルクToutを増大させやすい第2回転機MG2へ移行させられる。これにより、出力トルクToutが速やかに立ち上げられて加速応答性の低下が抑制される。
図9は、本発明の実施例2に係る電子制御装置200が搭載されるハイブリッド車両210の概略構成図であると共に、ハイブリッド車両210における各種制御の為の制御機能の要部を表す機能ブロック図である。ハイブリッド車両210(以下。「車両210」と記す。)は、エンジン12、第1回転機MG1、第2回転機MG2、動力伝達装置214、及び駆動輪16を備える。実施例2について、前述の実施例1と機能において実質的に共通する部分には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
エンジン12は、後述する電子制御装置200によって車両210に備えられたエンジン制御装置50が制御されることにより、エンジントルクTeが制御される。
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両210に備えられたインバータ252を介して、車両210に備えられたバッテリ54に接続されている。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、後述する電子制御装置200によってインバータ252が制御されることにより、MG1トルクTg及びMG2トルクTmが制御される。
動力伝達装置214は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース256内において共通の軸心上に直列に配設された、電気式の無段変速部258及び機械式の有段変速部260等を備える。無段変速部258は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン12に連結されている。有段変速部260は、無段変速部258の出力側に連結されている。動力伝達装置214は、有段変速部260の出力回転部材である出力軸274に連結されたディファレンシャルギヤ68、ディファレンシャルギヤ68に連結された一対の車軸78等を備える。動力伝達装置214において、エンジン12や第2回転機MG2から出力される動力は、有段変速部260へ伝達される。有段変速部260へ伝達された動力は、ディファレンシャルギヤ68等を介して駆動輪16へ伝達される。このように構成された動力伝達装置214は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)方式の車両に好適に用いられる。無段変速部258や有段変速部260等は上記共通の軸心に対して略対称的に構成されており、図9ではその軸心の下半分が省略されている。上記共通の軸心は、エンジン12のクランク軸やクランク軸に連結された入力軸272などの軸心である。動力伝達装置214における無段変速部258、有段変速部260、ディファレンシャルギヤ68、及び車軸78が、エンジン12と駆動輪16との間に設けられた動力伝達経路PTを構成している。
無段変速部258は、エンジン12の動力を第1回転機MG1及び無段変速部258の出力回転部材である中間伝達部材276に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構280を備える。第1回転機MG1は、エンジン12の動力が伝達される回転機である。中間伝達部材276には第2回転機MG2が動力伝達可能に接続されている。中間伝達部材276は、有段変速部260を介して駆動輪16に連結されているので、第2回転機MG2は動力伝達経路PTに動力伝達可能に接続され、第2回転機MG2は駆動輪16に動力伝達可能に接続された回転機である。差動機構280は、エンジン12の動力を駆動輪16と第1回転機MG1とに分割して伝達する差動機構である。無段変速部258は、差動機構280に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構280の差動状態(すなわち無段変速部258の差動状態)が制御される電気式の無段変速機である。第1回転機MG1は、エンジン回転速度Neを制御可能な回転機である。
差動機構280は、サンギヤS1、キャリアCA1、及びリングギヤR1を備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置である。
有段変速部260は、中間伝達部材276と駆動輪16との間の動力伝達経路PTの一部を構成する有段変速機としての機械式変速機構、つまり差動機構280と駆動輪16との間の動力伝達経路PTの一部を構成する自動変速機である。中間伝達部材276は、有段変速部260の入力回転部材としても機能する。有段変速部260は、例えば第1遊星歯車装置282A及び第2遊星歯車装置282Bの複数の遊星歯車装置と、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2、及びワンウェイクラッチF1の複数の係合装置と、を備える、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。第1遊星歯車装置282Aは、サンギヤS2、キャリアCA2、及びリングギヤR2を備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置である。第2遊星歯車装置282Bは、サンギヤS3、キャリアCA3、及びリングギヤR3を備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置である。
差動機構280、第1遊星歯車装置282A、第2遊星歯車装置282B、係合装置CB、ワンウェイクラッチF1、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2は、図9に示すように連結されている。差動機構280において、キャリアCA1は入力要素として機能し、サンギヤS1は反力要素として機能し、リングギヤR1は出力要素として機能する。
係合装置CBは、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両210に備えられた油圧制御回路284内のソレノイドバルブSL1−SL4等から各々出力される調圧された各係合油圧により、係合装置CBのそれぞれのトルク容量である係合トルクが変化させられる。これにより、係合装置CBは、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。
有段変速部260は、複数の係合装置CBの作動状態の組み合わせが切り替えられることによって、変速比γat(=AT入力回転速度Nati[rpm]/AT出力回転速度Nato[rpm])が異なる複数のギヤ段のうちのいずれかのギヤ段が形成される。本実施例では、有段変速部260にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Natiは、有段変速部260の入力回転速度であって、中間伝達部材276の回転速度と同値であり且つMG2回転速度Nmと同値である。AT出力回転速度Natoは、有段変速部260の出力回転部材である出力軸274の回転速度であって、無段変速部258と有段変速部260とを合わせた全体の変速機である複合変速機262の出力回転速度でもある。
図10は、図9に示す有段変速部260の変速作動とそれに用いられる係合装置CBの作動状態の組み合わせとの関係を説明する係合作動表である。有段変速部260は、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図10に示す「1st」)−AT4速ギヤ段(図10に示す「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段ほど、変速比γatが小さくなる。後進用のATギヤ段(図10に示す「Rev」)は、例えばクラッチC1が係合され且つブレーキB2が係合されることによって形成される。つまり、後述するように、後進走行を行う際には、例えばAT1速ギヤ段が形成される。図10において、「○」は係合状態、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部260のコーストダウンシフト時における係合状態、「空欄」は解放状態、をそれぞれ表している。コーストダウンシフトとは、例えばアクセルオフ(アクセル開度Accが零又は略零)の減速走行中における車速Vの低下によって実行されるダウンシフトのうちで、アクセルオフの減速走行状態のまま実行されるダウンシフトである。
有段変速部260は、後述する電子制御装置200によって、例えば運転者によるアクセル操作量であるアクセル開度Accや車速V等に応じて形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。例えば、有段変速部260の変速制御においては、係合装置CBのいずれかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切り替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。
車両210は、更に、ワンウェイクラッチF0(図9参照)を備える。ワンウェイクラッチF0は、キャリアCA1を回転不能に固定することができるロック機構である。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12のクランク軸と連結された、キャリアCA1と一体的に回転する入力軸272を、ケース256に対して固定することができるロック機構である。ワンウェイクラッチF0は、相対回転可能な2つの部材のうちの一方の部材が入力軸272に一体的に連結され、他方の部材がケース256に一体的に連結されている。ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の運転時の回転方向である正回転方向に対して空転する一方で、エンジン12の運転時とは逆の回転方向に対して自動係合する。したがって、ワンウェイクラッチF0の空転時には、エンジン12はケース256に対して相対回転可能な状態とされる。一方で、ワンウェイクラッチF0の係合時には、エンジン12はケース256に対して相対回転不能な状態とされる。すなわち、ワンウェイクラッチF0の係合により、エンジン12はケース256に固定される。このように、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の運転時の回転方向となるキャリアCA1の正回転方向の回転を許容し且つキャリアCA1の負回転方向の回転を阻止する。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の正回転方向の回転を許容し且つ負回転方向の回転を阻止することができるロック機構である。
車両210は、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2などの制御に関連する車両210の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置200を備える。電子制御装置200は、前述の実施例1で示した電子制御装置100と同様の構成である。電子制御装置200には、電子制御装置100に入力されるのと同様の各種信号等が入力される(本実施例では、例えば車速Vに対応する出力軸274の回転速度が出力回転速度No[rpm]として検出されて入力される)。電子制御装置200からは、電子制御装置100が出力するのと同様の各種指令信号が出力される。電子制御装置200は、電子制御装置100と同様に、加速要求判定部102、変化速度判定部104、及び回転機制御部106の各機能と同等の機能を有している。したがって、前述の実施例1と同様に、動力伝達経路PTを経由して駆動輪16に出力される出力トルクToutが負の値から正の値へと変化する加速要求がされた場合、出力トルクToutが負の値から0になるまでは第1回転機MG1から出力されるMG1トルクTgによりエンジン回転速度Neの上昇速度Vneを増大させるように第1回転機MG1のMG1トルクTgを増大制御し且つ第2回転機MG2を回生制御するとともに出力トルクToutが0になった以降に第2回転機MG2から出力されるMG2トルクTmにより出力トルクToutをアシストするようにMG2トルクTmを増大制御し且つMG2トルクTmを増大制御することに伴って第1回転機MG1から出力されるMG1トルクTgを減少制御するNe早期上昇制御を実行する回転機制御部106が備えられる。これにより、ガタ打ちショックが抑制されつつ、過給応答遅れの低減により加速応答性の低下が抑制される。なお、第1回転機MG1は、MG1トルクTgが制御されることによってエンジン回転速度Neを調整可能である。電子制御装置200は、本発明における「制御装置」に相当する。
本実施例によれば、前述の実施例1と同様の効果が得られる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
前述の実施例1,2におけるNe早期上昇制御では、出力トルクToutが負の値から0になるまではMG1トルクTgによりエンジン回転速度Neの上昇速度Vneを増大させるように第1回転機MG1のMG1トルクTgが増大制御され、且つ、第2回転機MG2が回生制御されていたが、必ずしも第2回転機MG2は回生制御されていなくとも良い。例えば、第2回転機MG2が回生制御されておらず、第2回転機MG2によって出力トルクToutがトルクアシストされていても良い。ただし、回転機制御部106は、出力トルクToutが負の値から0になるまでは、バッテリ54から第1回転機MG1への第1放電電力Wmg1及びバッテリ54から第2回転機MG2への第2放電電力Wmg2の合計Wsumがバッテリ54における放電可能電力Woutによる制限を受けるようにし、且つ、第1放電電力Wmg1を第2放電電力Wmg2よりも大きくする。「第1放電電力Wmg1及び第2放電電力Wmg2の合計Wsumがバッテリ54における放電可能電力Woutによる制限を受ける」とは、合計Wsumが放電可能電力Woutを超えないようにするということである。このようにバッテリ54における放電可能電力Woutによる制限下において、第2回転機MG2に比べてエンジン回転速度Neの上昇速度Vneを増大させやすい第1回転機MG1に優先的にバッテリ54からの放電電力が配分される。これにより、第1放電電力Wmg1による第1回転機MG1のMG1トルクTgの増大によりエンジン回転速度Neの上昇速度Vneが増大させられて過給応答遅れが低減される。
前述の実施例1において、車両10は、変速部58を備えずエンジン12が差動部60に連結される車両であっても良い。また、差動部60は、第2遊星歯車機構82の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により差動作用が制限され得る機構であっても良い。また、第2遊星歯車機構82は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置であっても良い。また、第2遊星歯車機構82は、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であっても良い。また、第2遊星歯車機構82は、エンジン12によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車に第1回転機MG1及びドライブギヤ74が各々連結された差動歯車装置であっても良い。また、第2遊星歯車機構82は、2以上の遊星歯車装置がそれらを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、それらの遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン12、第1回転機MG1、駆動輪16が動力伝達可能に連結される機構であっても良い。
前述の実施例2では、キャリアCA1を回転不能に固定することができるロック機構としてワンウェイクラッチF0を例示したが、この態様に限らない。このロック機構は、例えば入力軸272とケース256とを選択的に連結する、噛合式クラッチ、クラッチやブレーキなどの油圧式摩擦係合装置、乾式の係合装置、電磁式摩擦係合装置、磁粉式クラッチなどの係合装置であっても良い。或いは、車両210は、必ずしもワンウェイクラッチF0を備える必要はない。
前述の実施例1〜2では、過給機18は、公知の排気タービン式の過給機であったが、この態様に限らない。例えば、過給機18は、エンジン或いは電動機によって回転駆動される機械ポンプ式の過給機であっても良い。また、過給機として、排気タービン式の過給機と機械ポンプ式の過給機とが併用で設けられても良い。
なお、上述したのはあくまでも本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。