JP2020117779A - 鋼板及び鋼板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
これらの用途に適用される鋼板は、脆性破壊を抑制するために、良好な溶接熱影響部(HAZ:Heat Affected Zone)靭性が求められるとともに、万が一、脆性き裂が溶接継手箇所に発生した場合でも、脆性き裂を母材で停止させる脆性き裂伝播停止特性(BCA:Brittle Crack Arrest;以下、「アレスト性」と称する場合がある。)が求められる。
質量%で、
C :0.040%〜0.160%、
Si:0.01%〜0.50%、
Mn:0.70%〜2.50%、
P :0.030%以下、
S :0.020%以下、
Nb:0.003%〜0.050%、
Ti:0.003%〜0.050%、
Al:0.001%〜0.100%、
N :0.0010%〜0.0080%、
を含み、残部として、Fe及び不純物からなる化学組成を有し、
鋼板表面から1mmの位置と鋼板表面から5mmの位置との間における、圧延方向に平行な板厚方向断面の金属組織が、面積分率で、加工フェライト相30%〜90%、ベイナイト相10%〜60%、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びマルテンサイト・オーステナイト混合相の合計30%以下から構成され、
鋼板表面から1mmの位置と鋼板表面から5mmの位置との間における、圧延方向に平行な板厚方向断面の加工フェライト相のアスペクト比が、2.0以上であり、
鋼板表面から1mmの位置と鋼板表面から5mmの位置との間における、圧延方向に垂直な断面の、加工フェライト相、ベイナイト相、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びマルテンサイト・オーステナイト混合相を、電子線後方散乱回折法により測定したときの平均粒径(直径)が25μm以下であり、
鋼板表面から1mmの位置と鋼板表面から5mmの位置との間における、圧延面及び圧延方向に対する{hkl}面及び<uvw>方向の集合組織強度比I{hkl}<uvw>のうち、I{001}<110>、I{113}<110>、及びI{112}<110>の平均値が3.0以上であり、
鋼板表面から板厚方向の1/2位置における、圧延方向に垂直な断面の、加工フェライト相、ベイナイト相、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びマルテンサイト・オーステナイト混合相を、電子線後方散乱回折法により測定したときの平均粒径(直径)が30μm以下であり、
鋼板表面から板厚方向の1/2位置における、圧延面及び圧延方向に対する{hkl}面及び<uvw>方向の集合組織強度比I{hkl}<uvw>のうち、I{001}<110>、I{112}<110>、及びI{332}<113>の平均値が2.0以上である鋼板。
<2>
前記化学組成が、さらに、
Cu :0.01%〜1.50%、
Ni :0.01%〜2.50%、
Cr :0.01%〜1.00%、
Mo :0.01%〜1.00%、
V :0.001%〜0.150%
B :0.0001%〜0.0050%、
からなる群から選択される少なくとも1種を含む<1>に記載の鋼板。
<3>
前記化学組成が、さらに、
Mg :0.0001%〜0.0100%、
Ca :0.0001%〜0.0100%、
REM:0.0001%〜0.0100%、
からなる群から選択される少なくとも1種を含む<1>又は<2>に記載の鋼板。
<4>
前記化学組成が、さらに、
Zr :0.0001%〜0.0100%、
Te :0.0001%〜0.0100%、
からなる群から選択される少なくとも1種を含む<1>〜<3>のいずれか1項に記載の鋼板。
<5>
下記式(1)で表される炭素当量Ceq.が、0.30%〜0.55%である<1>〜<4>のいずれか1項に記載の鋼板。
式(1) Ceq.=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
(ただし、式(1)中のC、Mn、Cr、Mo、V、Cu、及びNiは、鋼板に含まれる各元素の含有量(質量%)を表す。)
<6>
<1>〜<5>のいずれか1項に記載の鋼板を製造する方法であって、
<1>〜<5>のいずれか1項に記載の化学組成を有する鋼片を、950℃〜1150℃の温度域で加熱する工程と、
前記加熱後の鋼片を、鋼板の表面温度が再結晶温度Trex〜1050℃の温度域で、累積圧下率が10%〜75%で粗圧延を行う工程と、
前記粗圧延後の鋼板を、鋼板表面から1mmの位置での温度が、Ar3点〜1050℃の冷却開始温度から、500℃〜(Ar3点−30℃)の冷却停止温度まで、35℃/秒〜100℃/秒の平均冷却速度で一次冷却する工程と、
前記一次冷却後の鋼板を、鋼板の表面温度が600℃〜800℃の温度域で、累積圧下率が50%〜75%で仕上圧延を行う工程と、
前記仕上圧延後の鋼板を、鋼板表面から板厚方向の1/4位置での温度が、600℃〜800℃の冷却開始温度から、0℃〜550℃の冷却停止温度まで、1℃/秒〜20℃/秒の平均冷却速度で二次冷却する工程と、
を有する、鋼板の製造方法。
<7>
さらに、前記二次冷却後の鋼板を、350℃〜650℃の温度域で焼戻し熱処理を行う工程を有する、<6>に記載の鋼板の製造方法。
なお、本明細書中において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書中において、成分(元素)の含有量について、例えば、C(炭素)の含有量の場合、「C量」と表記することがある。また、他の元素の含有量についても同様に表記することがある。
本明細書中において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書中において、圧延方向に垂直な断面の鋼板表面から板厚方向の1/4位置を、「1/4位置」、圧延方向に垂直な断面の鋼板表面から板厚方向の1/2位置を、「1/2位置」と称する場合がある。
本実施形態に係る鋼板は、質量%で、C :0.040%〜0.160%、Si:0.01%〜0.50%、Mn:0.70%〜2.50%、P :0.030%以下、S :0.020%以下、Nb:0.003%〜0.050%、Ti:0.003%〜0.050%、Al:0.001%〜0.100%、N :0.0010%〜0.0080%、を含み、残部として、Fe及び不純物からなる化学組成を有する。
また、鋼板表面から1mmの位置と鋼板表面から5mmの位置との間における、圧延方向に平行な断面の金属組織が、加工フェライト相、ベイナイト相、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びマルテンサイト・オーステナイト混合相から構成される。それぞれの面積分率が、加工フェライト相30%〜90%、ベイナイト相10%〜60%、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びマルテンサイト・オーステナイト混合相の合計30%以下である。
さらに、鋼板表面から1mmの位置と鋼板表面から5mmの位置との間における、圧延方向に平行な断面の加工フェライト相のアスペクト比が、2.0以上である。
鋼板表面から1mmの位置と鋼板表面から5mmの位置との間における、圧延方向に垂直な断面の、加工フェライト相、ベイナイト相、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びマルテンサイト・オーステナイト混合相を、電子線後方散乱回折法により測定したときの平均粒径(直径)が25μm以下である。
そして、鋼板表面から1mmの位置と鋼板表面から5mmの位置との間における、圧延面及び圧延方向に対する{hkl}面及び<uvw>方向の集合組織強度比I{hkl}<uvw>のうち、I{001}<110>、I{113}<110>、及びI{112}<110>の平均値が3.0以上である。
鋼板表面から板厚方向の1/2位置における、圧延方向に垂直な断面の、加工フェライト相、ベイナイト相、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びマルテンサイト・オーステナイト混合相を、電子線後方散乱回折法により測定したときの平均粒径(直径)が30μm以下である。
鋼板表面から板厚方向の1/2位置における、圧延面及び圧延方向に対する{hkl}面及び<uvw>方向の集合組織強度比I{hkl}<uvw>のうち、I{001}<110>、I{112}<110>、及びI{332}<113>の平均値が2.0以上である。
以下の説明において、各元素の説明における「%」は「質量%」を意味する。
Cは、強度を確保するために必要な元素である。C量が0.040%未満では必要とする鋼板(以下、「母材」とも称する)の強度を確保することができない。しかし、C量が0.160%を超えると、アレスト性及びHAZ靭性が劣位となる。そのため、C量は、0.040%〜0.160%とする。C量の好ましい下限は0.050%、より好ましい下限は0.060%である。C量の好ましい上限は0.140%、より好ましい上限は0.120%である。
Siは、脱酸元素であり、固溶強化に有効な元素である。Si量が0.01%未満では、Siを含有する効果が得られない。一方、Si量が0.50%を超えると、HAZ靭性が劣位となる。そのため、Si量は、0.01%〜0.50%とする。Si量の好ましい下限は0.03%、より好ましい下限は0.05%である。Si量の好ましい上限は0.40%、より好ましい上限は0.35%である。
Mnは、母材の強度及びアレスト性を向上させる有効な元素である。Mn量が0.70%未満では、Mnを含有する効果が得られない。一方、Mn量が2.50%を超えると、HAZ靭性が劣位となる。そのため、Mn量は、0.70%〜2.50%とする。Mn量の好ましい下限は0.90%、より好ましい下限は1.20%である。Mn量の好ましい上限は2.20%、より好ましい上限は2.00%である。
Pは、不純物として鋼板に存在する。しかし、P量が過剰になると、アレスト性及びHAZ靭性が劣位となる。そのため、P量の上限を0.030%とする。P量の好ましい上限は0.020%、より好ましい上限は0.010%である。P量は少ないほど好ましいため下限は特に限定されず、製造コストの観点から、0.001%以上であってもよい。
Sは、不純物として鋼板に存在する。しかし、S量が過剰になると、硫化物、及び酸硫化物の介在物が多量に生成してアレスト性及びHAZ靭性が劣位となる。このためS量の上限を0.020%とする。S量の好ましい上限は0.010%、より好ましい上限は0.005%である。S量は少ないほど好ましいため下限は特に限定されず、製造コストの観点から、0.001%以上であってもよい。
Nbは、再結晶を抑制し、微量の添加により組織微細化に寄与し、母材の強度及びアレスト性の確保に有効な元素である。Nb量が0.003%未満であると、Nbを含有する効果が得られない。Nb量が0.050%を超えると、HAZ靭性が劣位となる。そのため、Nb量は0.003%〜0.050%とする。Nb量の好ましい下限は0.005%、より好ましい下限は0.008%である。Nb量の好ましい上限は0.035%、より好ましい上限は0.025%である。
Tiは、微量の添加により母材と溶接部の組織微細化を通じて、アレスト性及びHAZ靭性向上に寄与する元素である。また、Tiは脱酸元素としても機能する。一方、Tiを過剰に添加すると溶接部を硬化させ著しく靭性を劣化させ、HAZ靭性が劣位となる。そのため、Ti量は0.003%〜0.050%とする。Ti量の好ましい下限は0.006%、より好ましい下限は0.010%である。Ti量の好ましい上限は0.035%、より好ましい上限は0.020%である。
Alは、脱酸元素であるため、Al量は0.001%以上とする。一方、Alを過剰に添加すると、鋼片の表面品位を損ない、アレスト性及びHAZ靭性に有害な介在物を形成するため、Al量の上限は0.100%とする。そのため、Al量は0.001%〜0.100%とする。Al量の好ましい下限は0.010%、より好ましい下限は0.015%である。Al量の好ましい上限は0.080%、より好ましい上限は0.050%である。
Nは、Ti及びAlと共に窒化物を形成し継手靭性を向上させるため、N量の下限を0.0010%とする。しかし、Nの含有量が過剰であると、固溶Nによるアレスト性及び母材の伸びの低下が生じるため、N量の上限を0.0080%とする。そのため、N量は0.0010%〜0.0080%とする。N量の好ましい下限は0.0015%、より好ましい下限は0.0020%である。N量の好ましい上限は0.0070%、より好ましい上限は0.0060%である。
Cuは、焼入れ性を向上させ、母材の高強度化に有効な元素である。したがって、Cuを含有させてもよい。しかしながら、Cu量が1.50%を超えると、継手の硬さの上昇に伴い靭性が低下する。上記作用による効果をより確実に得るには、Cu量の下限は0.01%とすることが好ましい。したがって、Cuを含有する場合、Cu量は、0.01%〜1.50%とする。Cu量のより好ましい上限は、0.80%、さらに好ましい上限は0.50%である。Cu量のより好ましい下限は、0.05%、さらに好ましい下限は0.10%である。
Niは、母材の強度及びアレスト性の向上に有効な元素である。したがって、Niを含有させてもよい。しかしながら、Ni量が2.50%を超えても、Niを含有する効果は飽和し、コストが上昇する。上記作用による効果をより確実に得るには、Ni量の下限は0.01%以上とすることが好ましい。したがって、Niを含有する場合、Ni量は、0.01%〜2.50%とする。Ni量のより好ましい上限は、1.50%、さらに好ましい上限は1.00%である。Ni量のより好ましい下限は、0.10%、さらに好ましい下限は0.20%である。
Crは、焼入れ性を向上させ、母材の高強度化に有効な元素である。したがって、Crを含有させてもよい。しかしながら、Cr量が1.00%を超えると、継手の硬さの上昇に伴い靭性が低下する。上記作用による効果をより確実に得るには、Cr量の下限は0.01%とすることが好ましい。したがって、Crを含有する場合、Cr量は、0.01%〜1.00%とする。Cr量のより好ましい上限は、0.80%、さらに好ましい上限は0.60%である。Cr量のより好ましい下限は、0.05%、さらに好ましい下限は0.10%である。
Moは、焼入れ性を向上させ、母材の高強度化に有効な元素である。したがって、Moを含有させてもよい。しかしながら、Mo量が1.00%を超えると、継手の硬さの上昇に伴い靭性が低下する。上記作用による効果をより確実に得るには、Mo量の下限は0.01%とすることが好ましい。したがって、Moを含有する場合、Mo量は、0.01%〜1.00%とする。Mo量のより好ましい上限は、0.60%、さらに好ましい上限は0.40%である。Mo量のより好ましい下限は、0.05%、さらに好ましい下限は0.10%である。
Vは、析出強化により母材の強度上昇に寄与する元素である。したがって、Vを含有させてもよい。しかしながら、V量が0.150%を超えると、継手靭性を損なう。上記作用による効果をより確実に得るには、V量の下限は0.001%とすることが好ましい。したがって、Vを含有する場合、V量は、0.001%〜0.150%とする。V量のより好ましい上限は、0.100%、さらに好ましい上限は0.080%である。V量のより好ましい下限は、0.010%、さらに好ましい下限は0.020%である。
Bは、微量の添加により焼き入れ性を高め母材の強度向上に寄与する元素である。したがって、Bを含有させてもよい。B量が0.0050%を超えると、アレスト性及びHAZ靭性が低下する。上記作用による効果をより確実に得るには、B量の下限は0.0001%とすることが好ましい。したがって、Bを含有する場合、B量は、0.0001%〜0.0050%とする。B量のより好ましい上限は、0.0040%、さらに好ましい上限は0.0030%である。B量のより好ましい下限は、0.0005%、さらに好ましい下限は0.0010%である。
Mgは、脱酸元素であり、硫化物を形成することで粗大な介在物の生成を抑制し、微細な酸化物を形成して、有害な介在物の生成を抑制する元素である。したがって、Mgを含有させてもよい。しかしながら、Mg量が0.0100%を超えると、粗大な酸化物、硫化物、及び酸硫化物が形成されやすくなり、アレスト性及びHAZ靭性が低下する。上記作用による効果をより確実に得るには、Mg量の下限は0.0001%とすることが好ましい。したがって、Mgを含有する場合、Mg量は、0.0001%〜0.0100%とする。Mg量のより好ましい上限は、0.0070%、さらに好ましい上限は0.0050%である。Mg量のより好ましい下限は、0.0005%、さらに好ましい下限は0.0010%である。
Caは、脱酸元素であり、硫化物を形成することで粗大な介在物の生成を抑制し、微細な酸化物を形成して、有害な介在物の生成を抑制する元素である。したがって、Caを含有させてもよい。しかしながら、Ca量が0.0100%を超えると、粗大な酸化物、硫化物、及び酸硫化物が形成されやすくなり、アレスト性及びHAZ靭性が低下する。上記作用による効果をより確実に得るには、Ca量の下限は0.0001%とすることが好ましい。したがって、Caを含有する場合、Ca量は、0.0001%〜0.0100%とする。Ca量のより好ましい上限は、0.0070%、さらに好ましい上限は0.0050%である。Ca量のより好ましい下限は、0.0005%、さらに好ましい下限は0.0010%である。
REMは、脱酸元素であり、硫化物を形成することで粗大な介在物の生成を抑制し、微細な酸化物を形成して、有害な介在物の生成を抑制する元素である。したがって、REMを含有させてもよい。しかしながら、REM量が0.0100%を超えると、粗大な酸化物、硫化物、及び酸硫化物が形成されやすくなり、アレスト性及びHAZ靭性が低下する。上記作用による効果をより確実に得るには、REM量の下限は0.0001%とすることが好ましい。したがって、REMを含有する場合、REM量は、0.0001%〜0.0100%とする。REM量のより好ましい上限は、0.0070%、さらに好ましい上限は0.0050%である。REM量のより好ましい下限は、0.0005%、さらに好ましい下限は0.0010%である。
ここで、「REM」とはSc、Y、及びランタノイドの合計17元素の総称である。REMとしては、合計17元素のうちの1種又は2種以上の元素を含んでいればよい。REMの含有量はこれら元素の合計含有量を指す。
Zrは、微量の添加により母材と溶接部の組織微細化を通じて靭性向上に寄与する元素である。また、Zrは脱酸元素としても機能する。したがって、Zrを含有させてもよい。Zr量が0.0100%を超えると、HAZ靭性の低下がする。上記作用による効果をより確実に得るには、Zr量の下限は0.0001%とすることが好ましい。したがって、Zrを含有する場合、Zr量は、0.0001%〜0.0100%とする。Zr量のより好ましい上限は、0.0070%、さらに好ましい上限は0.0050%である。Zr量のより好ましい下限は、0.0005%、さらに好ましい下限は0.0010%である。
Teは、組織微細化により靭性の向上に寄与する元素である。したがって、Teを含有させてもよい。Te量が0.0100%を超えても、上記作用による効果は飽和する。上記作用による効果をより確実に得るには、Te量の下限は0.0001%とすることが好ましい。したがって、Teを含有する場合、Te量は、0.0001%〜0.0100%とする。Te量のより好ましい上限は、0.0070%、さらに好ましい上限は0.0050%である。Te量のより好ましい下限は、0.0005%、さらに好ましくい下限は0.0010%である。
残部はFe及び不純物である。不純物とは、原材料に含まれる成分、又は、製造の過程で混入する成分であって、意図的に鋼板に含有させたものではない成分を指す。
本実施形態に係る鋼板は、下記式(1)により求められる炭素当量Ceq.が、0.30%〜0.55%であることが好ましい。
式(1) Ceq.=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
ただし、式(1)中のC、Mn、Cr、Mo、V、Cu、及びNiは、鋼板に含まれる各元素の含有量(質量%)を表す。
なお、含有量が0質量%の元素がある場合には、式(1)中の該当する元素の含有量として0質量%を代入して計算する。
次に、本実施形態に係る鋼板の表裏層における金属組織(ミクロ組織)の限定理由について説明する。
加工フェライト相は、アレスト性に寄与する。加工フェライト相の面積が、90%を超えると、母材の強度が不十分となる場合がある。一方、加工フェライト相の面積分率が30%未満であると、アレスト性が劣位となる。そのため、フェライト相の面積分率は、30%〜90%とする。加工フェライト相の面積分率の好ましい上限は、85%、より好ましい上限は、80%である。また、加工フェライト相の面積分率の好ましい下限は、35%、より好ましい下限は、40%である。
ベイナイト相は、主に母材の強度に寄与する。ベイナイト相の面積分率が10%未満であると、母材の強度が劣位となる。一方、ベイナイト相の面積分率が60%を超えると、アレスト性が劣位となる。そのため、ベイナイト相の面積分率は、10%〜60%とする。ベイナイト相の面積分率の好ましい上限は、55%、より好ましい上限は、50%である。また、ベイナイト相の面積分率の好ましい下限は、15%、より好ましい下限は、20%である。
ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びマルテンサイト・オーステナイト混合相(MA相)の合計の面積分率が30%を超えると、軟質相であるポリゴナルフェライト相による母材強度の低下、又は脆化相であるパーライト相及びMA相によるアレスト性の低下が顕著となる。そのため、これら各相(ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びMA相)の合計の面積分率は、母材の強度とアレスト性の両特性を確保する観点で、30%以下とする。これらの合計の面積分率の好ましい上限は、25%以下である。これらの合計の面積分率は少ないほうが好ましく、下限値は特に限定されるものではない。例えば、これら各相の合計の面積分率は0%であってもよい。また、0%超であってもよく、1%以上であってもよい。
表裏層における加工フェライト相のアスペクト比が2.0以上であることで、アレスト性が向上する。表裏層における加工フェライト相のアスペクト比は、好ましくは2.5以上、より好ましくは3.0以上である。表裏層における加工フェライト相のアスペクト比の上限は特に限定されず、例えば、10.0以下であってもよい。表裏層における加工フェライト相は、面積分率で30%〜90%であり、かつ、アスペクト比が2.0以上を満足していると、アレスト性向上が向上する。
ここで、本明細書中において、表裏層における加工フェライト相のアスペクト比は、一つの加工フェライト相において、長軸の最大長さと、長軸方向と直交する短軸方向の短軸の最大長さとの比(長軸最大長さ/最大短軸長さ)で表される。加工フェライト相は、圧延方向に伸びた形状を示すので、長軸の長さは、圧延方向に伸びる長さとなり、短軸は、板厚方向(いわゆるND方向)の長さとなる。なお、アスペクト比は、表裏層における各相の面積分率を測定する際に測定する、鋼板の圧延方向と平行な断面(いわゆるL断面)の試料を用いて測定する。表裏層における試料にナイタールエッチングを行い、ナイタールエッチングで白色に見えた部分についてEBSPにてGOS値を求め、GOS値が4°を超える部分を加工フェライト相として画像解析して求める。画像解析は、例えば、面積0.05mm2以上の視野を8視野以上(合計0.40mm2以上)について行い、平均値を求めればよい。
加工フェライト相、ベイナイト相、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びMA相の全相の組織微細化はアレスト性の向上に寄与する。表裏層における各相(加工フェライト相、ベイナイト相、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びマルテンサイト・オーステナイト混合相)を、電子線後方散乱回折法により測定したときの平均粒径(直径)が25μm以下であることで、アレスト性が向上する。表裏層における各相の平均粒径は、小さいほうが好ましく、下限値は特に限定されるものではない。例えば、表裏層における各相の平均粒径は、1μm以上であってもよく、5μm以上であってもよい。表裏層における各相の平均粒径の測定方法は後述する。
表裏層における圧延面及び圧延方向に対する{hkl}面及び<uvw>方向の集合組織強度比I{hkl}<uvw>のうち、I{001}<110>、I{113}<110>、及びI{112}<110>の平均値(以下、「集合組織強度比A」と称する場合がある。)が3.0以上であると、アレスト性が向上する。集合組織強度比Aは、ポリゴナルフェライト相を加工したときの集合組織の強度比の平均値を表しており、α−fiberの3つの代表組織を表している。集合組織強度比Aが3.0以上であることは、α−fiberが増加していることを表している。前述のように、α−fiberは、アレスト性の評価において、き裂伝播方向にBCC構造のへき開面である{100}面が配置されない。そのため、集合組織強度比Aは高いほどアレスト性が向上する。集合組織強度比Aは3.3以上であることが好ましく、3.5以上であることがより好ましい。集合組織強度比Aの上限は特に限定されず、例えば、10.0以下であってもよい。集合組織強度比Aの測定方法は後述する。
次に、本実施形態に係る鋼板の板厚方向の1/2位置における金属組織(ミクロ組織)の限定理由について説明する。
1/2位置においても、加工フェライト相、ベイナイト相、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びMA相の全相の組織微細化はアレスト性の向上に寄与する。1/2位置における各相(加工フェライト相、ベイナイト相、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びマルテンサイト・オーステナイト混合相)を、電子線後方散乱回折法により測定したときの平均粒径(直径)が30μm以下であることで、アレスト性が向上する。表裏層における各相の平均粒径は、小さいほうが好ましく、下限値は特に限定されるものではない。例えば、表裏層における各相の平均粒径は、1μm以上であってもよく、5μm以上であってもよい。
1/2位置における圧延面及び圧延方向に対する{hkl}面及び<uvw>方向の集合組織強度比I{hkl}<uvw>のうち、I{001}<110>、I{112}<110>、及びI{332}<113>の平均値(以下、「集合組織強度比B」と称する場合がある。)が2.0以上であると、アレスト性が向上する。集合組織強度比Bは、圧縮加工を受けたオーステナイト相が変態した場合の典型的な変態集合組織の強度比の平均値を表している。表裏層における集合組織を3.0以上とするだけでなく、1/2位置における集合組織強度比Bが2.0以上であることにより、アレスト性が向上する。集合組織強度比Bは2.3以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましい。集合組織強度比Bの上限は特に限定されず、例えば、10.0以下であってもよい。
表裏層における各相の面積分率の測定方法は、以下のとおりである。
表裏層において測定用試料を採取する。採取したそれぞれの試料について、光学顕微鏡により、鋼板の圧延方向と平行な断面(いわゆるL断面)の金属組織を写真撮影し、画像解析することによって求める。
具体的には、まず、鋼板の圧延方向と平行な方向の断面の、表裏層であって、鋼板の幅方向端面から1/4位置になる部分において、試料を採取する。
次に、採取した試料をナイタールエッチングし、エッチング後に、光学顕微鏡を用いて、L方向の断面の8視野を500倍で撮影する。そして、得られた組織写真に対し、画像解析ソフトにより二値化処理を行い、画像解析を行う。白色に見える相を加工フェライト相、又はポリゴナルフェライト相、黒色に見える相をパーライト相、灰色に見える相をベイナイト相、又はMA相(マルテンサイト・オーステナイト混合相)として、それぞれの面積率を求める。
次に、ナイタールエッチングした部分をEBSPにて測定し、ナイタールエッチングで白色に見えた部分についてGOS値を求め、GOS値が4°を超える部分を加工フェライト相の面積率とし、GOS値が4°以下の部分をポリゴナルフェライト相の面積率とする。
さらに、ナイタールエッチングした部分をレペラエッチングし、ナイタールエッチングで灰色に見えた部分について画像解析を行い、白色に見えるものをMA相(マルテンサイト・オーステナイト混合相)とし面積率を求める。
そして、ナイタールエッチングして灰色に見えた面積率から、上記のMA相(マルテンサイト・オーステナイト混合相)の面積率を引いたものを、ベイナイト相の面積率とする。
なお、加工フェライト相、ベイナイト相、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びMA相の面積分率の合計は、100%である。
表裏層及び1/2位置における各相の平均粒径の測定方法は、以下のとおりである。
表裏層及び1/2位置において、鋼板の圧延方向と垂直な断面(いわゆるC断面)の測定用試料を採取する。全相の平均粒径は、結晶方位の情報を広い視野で精度良く測定できる、EBSPにより測定する。EBSPを用いれば、ベイナイト相のような複雑な組織の結晶粒径の測定も可能である。具体的には、以下の方法によって測定する。EBSPにより、表裏層の500μm×500μmの領域を、測定位置を1μmずつ動かしながら繰り返し測定する。1/2位置についても同様に測定する。ここで、隣接粒との結晶方位差が15°以上の境界を結晶粒界と定義し、この結晶粒界に囲まれた円相当径(直径)の加重平均値を求め、これを平均粒径とする。
具体的に、加重平均値は、下記の式(D1)、式(D2)及び式(D3)によって算出する。
式(D1) p=(DMAX−DMIN)/N
式(D2) Dk=DMIN+p×(k−1/2)
式(D3) DAVE=(Σ[k=1、N](Dk×Sk))/(Σ[k=1、N]Sk)
Dkは、k番目の分割範囲の結晶粒径の中央値で、kは1以上、分割数N以下の整数を用いて、式(D2)により求めることができる。Skは、k番目の分割範囲の結晶粒の面積で、電子線後方散乱回折法(EBSP法)を用いて測定した、(DMIN+p×(k−1))μm以上、(DMIN+p×k)μm未満の円相当径を有する結晶粒の合計面積を表す。
加重平均値DAVEは、式(D3)のように、k番目の分割範囲の結晶粒径の中央値Dkと、k番目の分割範囲内にある結晶粒径を有する結晶粒の合計面積Skとを掛けた値、(DK×SK)を算出し、kが1から分割数Nまでの間の(DK×SK)を合計したものを、kが1から分割数Nまでの間のSKの合計で割ったものである。すなわち、加重平均値は、D1×S1〜DN×SNを合計したものを、S1〜SNを合計したもので除算することで計算できる。
表裏層おける集合組織強度比A及び1/2位置における集合組織強度比Bの測定方法は、以下のとおりである。
集合組織強度比は、種々のプロセスによって製造した鋼板を用いて、アレスト性に及ぼす鋼板の集合組織の影響を明確化するために、EBSPによる解析を実施する。測定面は圧延方向(RD)を法線とする、鋼板の圧延方向と垂直な断面(いわゆるC断面)とし、測定位置は、表裏層と、1/2位置とする。測定は1.5mm×1mmの領域を3μm間隔で行い、結晶方位分布関数(Crystallite Orientation Distribution Function;ODF)を作成した上で、ランダム強度に対する特定の集合組織強度の比を読み取った。本実施形態に係る鋼板において、集合組織の解析には、(株)TSLソリューションズ製のソフトウェア「OIM Analysis(ver.7)」を使用した。
本実施形態に係る鋼板の板厚としては、特に限定されず、例えば、50mm以上であることが挙げられ、さらに、50mm〜100mmであることが挙げられる。
ここで、本実施形態に係る鋼板の引張強さ(TS)は、JIS Z 2241(2011)の1B号引張試験片を用いて測定する。また、降伏応力(YP)は、JIS Z 2241(2011)の永久伸び0.2%時の永久伸び法の耐力を意味する。
アレスト靱性値Kca−10℃は、NK船級協会 鋼船規則検査要領 K編 付属書 K3.12.2−1.(2016年)の「温度勾配型ESSO試験及び温度勾配型二重引張試験に関する検査要領」に準拠して測定を行う。
無延性遷移温度(NDT温度;Nil−Ductility−Transition Temperature)は、ASTM E208−06で規定された、NRL(Naval Research Laboratory)落重試験法に準拠して試験を行うことで求める。試験片は、P−3タイプ(T:16mm,L:130mm,W:50mm)とし、鋼板の最表面を含むようにして、板厚方向に16mmの位置までを採取する。試験片は、圧延方向(L方向)に採取し、試験片の最表面にL方向に溶接ビードを設け、クラックスターターとして圧延方向に垂直な方向(C方向)に切り欠きを設ける。
次に、本実施形態に係る鋼板を得るための好ましい製造方法の一例について説明する。
前述の化学組成を有する鋼片を、950℃〜1150℃の温度域で加熱する工程(加熱工程)、
前記加熱後の鋼片を、鋼板の表面温度が再結晶温度Trex〜1050℃の温度域で、累積圧下率が10%〜75%で粗圧延を行う工程(粗圧延工程)、
前記粗圧延後の鋼板を、鋼板表面から1mmの位置での温度が、Ar3点〜1050℃の冷却開始温度から、500℃〜(Ar3点−30℃)の冷却停止温度まで、35℃/秒〜100℃/秒の平均冷却速度で一次冷却する工程(一次冷却工程)、
前記一次冷却後の鋼板を、鋼板の表面温度が600℃〜800℃の温度域で、累積圧下率が50%〜75%で仕上圧延を行う工程(仕上圧延工程)、
前記仕上圧延後の鋼板を、鋼板表面から板厚方向の1/4位置での温度が、600℃〜800℃の冷却開始温度から、0℃〜550℃の冷却停止温度まで、1℃/秒〜20℃/秒の平均冷却速度で二次冷却する工程(二次冷却工程)。
前述の化学組成を有する鋼片を所定の温度で加熱する工程である。この工程は、鋼片の加熱により、オーステナイト相の組織制御に寄与する工程である。所定の化学組成を有する鋼片を、950℃〜1150℃の温度域で加熱する。鋼片の加熱温度を950℃以上とすることで、オーステナイト化が十分となり、微細なオーステナイト相が得られる。一方、鋼片の加熱温度を1150℃以下とすることで、オーステナイト相の粗大化が抑制され、微細なオーステナイト相が得られる。
粗圧延では、加熱後の鋼片を、鋼片(鋼板)の表面温度が再結晶温度Trex〜1050℃の温度域で、累積圧下率が10%〜75%の範囲となるように施す。
上記の条件とすることで、圧延により発生した転位のエネルギーで、オーステナイト相が再結晶することで、オーステナイト相が微細化し、アレスト性が向上した鋼板が得られる。
式(R1) 粗圧延の累積圧下率={(粗圧延前の板厚−粗圧延後の板厚)/粗圧延前の板厚}×100
なお、粗圧延前の板厚とは、加熱炉から鋼片を抽出した後、鋼片(鋼板)の表面温度が再結晶温度Trex〜1050℃の温度域で圧延した際の圧延前の板厚の最大値である。
粗圧延後の板厚とは、鋼片(鋼板)の表面温度が再結晶温度Trex〜1050℃の温度域で圧延した際の圧延後の板厚の最小値である。
一次冷却は、粗圧延後の鋼板を、鋼板表面から1mmの位置での温度が、Ar3点〜1050℃の冷却開始温度から、500℃〜(Ar3点−30℃)の冷却停止温度まで、冷却する。そして、冷却している間の平均冷却速が35℃/秒〜100℃/秒である。一次冷却の条件として、上記のように、高い冷却速度とし、高い冷却停止温度とすることで、仕上圧延前におけるポリゴナルフェライト相を十分に確保する。一次冷却工程で、十分にポリゴナルフェライト相を確保することは、仕上圧延において、加工フェライト相を生成させるうえで重要な工程である。なお、冷却速度及び冷却停止温度は、鋼板表面から1mmの位置における計算冷却速度及び計算冷却停止温度である。冷却速度は、冷却している間の平均冷却速度である。
仕上圧延は、鋼板の表面温度が600℃〜800℃の温度域で、累積圧下率が50%〜75%となるように行う。鋼板の表面温度が600℃〜800℃の温度域で仕上圧延を行うことで、一次冷却工程で生成したポリゴナルフェライト相が圧延加工を受け、圧延方向に伸長した加工フェライト相が生成する。
式(R2) 仕上圧延の累積圧下率={(粗圧延後の板厚−仕上圧延後の板厚)/粗圧延後の板厚}×100
なお、粗圧延後の板厚は、仕上圧延を開始するときの板厚と同じである。
式(T1) Ar3=910−310[C]+65[Si]−80[Mn]−20[Cu]−55[Ni]−15[Cr]−80[Mo]
式(T2) Trex=−91900[Nb*]2+9400[Nb*]+770
(ただし、式(T2)中、[Nb*]は、下記式(T3−1)及び下記式(T3−2)で表される。
式(T3−1) [Nb]≧[Sol.Nb]の場合、[Nb*]=[Sol.Nb]
式(T3−2) [Nb]<[Sol.Nb]の場合、[Nb*]=[Nb]
ここで、[Nb]は、Nb含有量(質量%)を表し、[Sol.Nb]は、下記式(T4)で求めるSol.Nb(固溶Nb)(質量%)を表す。
式(T4) Sol.Nb=(10(−6770/(T+273)+2.26))/(C+12/14×N)
なお、式(T4)中、Tは鋼片の加熱温度で、単位は摂氏温度(℃)であり、C、Nは、それぞれ、C、Nの含有量(質量%)である。)
次に、仕上圧延を施した後の鋼板を、所定の冷却速度で、所定の温度になるまで冷却する(二次冷却)。この条件での冷却により、金属組織が微細化されるとともに、組織形態(前述の全相の面積分率)が制御される。この工程は、母材の強度及びアレスト性に影響を及ぼす。
なお、冷却速度及び冷却停止温度は、1/4位置における計算冷却速度及び計算冷却停止温度である。冷却速度は、冷却している間の平均冷却速度である。
鋼板の冷却後に、必要に応じて、350℃〜650℃(好ましくは450℃〜550℃)の温度域で焼戻し熱処理を行い、鋼板の強度と靭性を調整してもよい。焼戻し熱処理を行う場合、熱処理の温度が350℃以上であると、ひずみ除去によるアレスト性改善効果が高まる。一方、熱処理の温度が650℃を超えると、強度が低下する場合がある。
表1及び表2に鋼板の化学成分を示す。表1及び表2に示す化学組成を有する鋼種A〜Z及びAA〜AGを、表3〜表6に示す条件で加熱、粗圧延、一次冷却、仕上圧延、二次冷却、及び必要に応じて行う熱処理の各工程を経て製造することにより、No.1〜No.49の鋼板を得た。得られた各鋼板の下記特性について測定した結果を表7及び表8に示す。
「DF分率」は加工フェライト相の面積分率を、「B分率」はベイナイト相の面積分率を、「PF分率」はポリゴナルフェライト相の面積分率を、それぞれ表す。
「PF+P+MA」は、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びマルテンサイト・オーステナイト混合相の面積分率の合計を表す。
「平均粒径」は、加工フェライト相、ベイナイト相、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びマルテンサイト・オーステナイト混合相の全相の平均粒径(直径)を表す。
「DFアスペクト比」は加工フェライト相のアスペクト比を表す。
「集合組織強度比A」は、表裏層における集合組織強度比I{001}<110>、I{113}<110>、及びI{112}<110>の平均値を表す。
「集合組織強度比B」は、1/2位置における集合組織強度比I{001}<110>、I{112}<110>、及びI{332}<113>の平均値を表す。
「Kca−10℃」は、−10℃でのアレスト靭性値を、「NDT温度」は、無延性遷移温度を、それぞれ表す。
これに対し、本実施形態に係る鋼板の化学組成及びミクロ組織の条件を満たしている発明例は、アレスト性及び強度のいずれの特性も優れた鋼板であった。
Claims (7)
- 質量%で、
C :0.040%〜0.160%、
Si:0.01%〜0.50%、
Mn:0.70%〜2.50%、
P :0.030%以下、
S :0.020%以下、
Nb:0.003%〜0.050%、
Ti:0.003%〜0.050%、
Al:0.001%〜0.100%、
N :0.0010%〜0.0080%、
を含み、残部として、Fe及び不純物からなる化学組成を有し、
鋼板表面から1mmの位置と鋼板表面から5mmの位置との間における、圧延方向に平行な板厚方向断面の金属組織が、面積分率で、加工フェライト相30%〜90%、ベイナイト相10%〜60%、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びマルテンサイト・オーステナイト混合相の合計30%以下から構成され、
鋼板表面から1mmの位置と鋼板表面から5mmの位置との間における、圧延方向に平行な板厚方向断面の加工フェライト相のアスペクト比が、2.0以上であり、
鋼板表面から1mmの位置と鋼板表面から5mmの位置との間における、圧延方向に垂直な断面の、加工フェライト相、ベイナイト相、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びマルテンサイト・オーステナイト混合相を、電子線後方散乱回折法により測定したときの平均粒径(直径)が25μm以下であり、
鋼板表面から1mmの位置と鋼板表面から5mmの位置との間における、圧延面及び圧延方向に対する{hkl}面及び<uvw>方向の集合組織強度比I{hkl}<uvw>のうち、I{001}<110>、I{113}<110>、及びI{112}<110>の平均値が3.0以上であり、
鋼板表面から板厚方向の1/2位置における、圧延方向に垂直な断面の、加工フェライト相、ベイナイト相、ポリゴナルフェライト相、パーライト相、及びマルテンサイト・オーステナイト混合相を、電子線後方散乱回折法により測定したときの平均粒径(直径)が30μm以下であり、
鋼板表面から板厚方向の1/2位置における、圧延面及び圧延方向に対する{hkl}面及び<uvw>方向の集合組織強度比I{hkl}<uvw>のうち、I{001}<110>、I{112}<110>、及びI{332}<113>の平均値が2.0以上である鋼板。 - 前記化学組成が、さらに、
Cu :0.01%〜1.50%、
Ni :0.01%〜2.50%、
Cr :0.01%〜1.00%、
Mo :0.01%〜1.00%、
V :0.001%〜0.150%
B :0.0001%〜0.0050%、
からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載の鋼板。 - 前記化学組成が、さらに、
Mg :0.0001%〜0.0100%、
Ca :0.0001%〜0.0100%、
REM:0.0001%〜0.0100%、
からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1又は請求項2に記載の鋼板。 - 前記化学組成が、さらに、
Zr :0.0001%〜0.0100%、
Te :0.0001%〜0.0100%、
からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の鋼板。 - 下記式(1)で表される炭素当量Ceq.が、0.30%〜0.55%である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の鋼板。
式(1) Ceq.=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
(ただし、式(1)中のC、Mn、Cr、Mo、V、Cu、及びNiは、鋼板に含まれる各元素の含有量(質量%)を表す。) - 請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の鋼板を製造する方法であって、
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の化学組成を有する鋼片を、950℃〜1150℃の温度域で加熱する工程と、
前記加熱後の鋼片を、鋼板の表面温度が再結晶温度Trex〜1050℃の温度域で、累積圧下率が10%〜75%で粗圧延を行う工程と、
前記粗圧延後の鋼板を、鋼板表面から1mmの位置での温度が、Ar3点〜1050℃の冷却開始温度から、500℃〜(Ar3点−30℃)の冷却停止温度まで、35℃/秒〜100℃/秒の平均冷却速度で一次冷却する工程と、
前記一次冷却後の鋼板を、鋼板の表面温度が600℃〜800℃の温度域で、累積圧下率が50%〜75%で仕上圧延を行う工程と、
前記仕上圧延後の鋼板を、鋼板表面から板厚方向の1/4位置での温度が、600℃〜800℃の冷却開始温度から、0℃〜550℃の冷却停止温度まで、1℃/秒〜20℃/秒の平均冷却速度で二次冷却する工程と、
を有する、鋼板の製造方法。 - さらに、前記二次冷却後の鋼板を、350℃〜650℃の温度域で焼戻し熱処理を行う工程を有する、請求項6に記載の鋼板の製造方法。
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