発明の詳細な説明
本出願は、2010年4月9日に提出された米国仮出願第61/322、575号の利益を享受し、その全容を本明細書に参考のために示す。
本発明は、米国保健社会福祉省(HHS/OS/ASPR/BARDA)によって授与された助成金No.HHS010020080064Cおよび米国保健社会福祉省の国立衛生研究所の国立心肺血液研究所によって授与された助成金No.1RC2HL101844の下に政府の支援でなされたものである。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
1.発明の属する技術分野
本発明は、プール中のサンプルが患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならないように、患者への投与のために増殖ヒト臍帯血幹/前駆細胞サンプルプールを選択し、上記選択された増殖ヒト臍帯血幹/前駆細胞サンプルプールを患者に投与することによって、造血機能を必要とする人間の患者に造血機能を提供するための方法および組成物に関する。また、本明細書において、上記増殖ヒト臍帯血幹/前駆細胞サンプルプールを得るための方法、および凍結増殖ヒト臍帯血幹/前駆細胞サンプルプールのバンク、そのようなバンクを生成するための方法が提供される。
2.発明の背景
持続性汎血球減少症は、強化化学療法レジメン、造血細胞移植(hematopoietic cell transplantation;HCT)のための骨髄機能を廃絶する強度低下療法、および急性電離放射線への暴露の後によく見られる症状である。特に懸念されるのは、抗菌療法の向上にも関わらず感染の大きなリスクを招き、罹患率及び死亡率を増加させる好中球減少症である。従って、高用量化学療法および/または高線量放射線治療の後に見られる持続性汎血球減少症/好中球減少症を根絶し、より迅速な造血機能回復を潜在的に促すことのできる新規な治療法が必要とされている。
これまで臍帯血幹細胞の増殖技術が記載されている(例えば、米国特許第7,399,633号(Bernstein et al)およびDelaney et al,2010, Nature Med. 16(2): 232-236参照)。Delaney et alには、HLA適合に基づいて選択し、生体外で増殖させ、事前に低温保存しておいた臍帯血幹細胞を注入した後で迅速な生着が観察されたことが報告されている。
国際公報第WO2006/047569号には、通常はリンパ細胞系に分化せず、細胞のレシピエントに対してMHC不適合となり得る骨髄系前駆細胞を増殖させる方法が開示されている。
国際公報第WO2007/095594号には、臍帯血幹細胞移植片と併せて骨髄系前駆細胞を投与することによって臍帯血幹細胞の生着を促進する方法が開示されている。ここで、例えば、臍帯血幹細胞移植片は、レシピエント患者の細胞に対して二つ以上のMHC不適合を有しているため、部分的に最適化された状態となっている。
米国特許第5,004,681号(Boyse et al)には、造血機能を再構築するためにヒト臍帯血幹細胞を用いることが開示されている。
2.1 ヒト白血球抗原
ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen;HLA)とは、ヒトにおける主要組織適合複合体(major histocompatibility complex;MHC)の名称である。超遺伝子座には、ヒトにおける免疫系の機能に関連する遺伝子が多数含まれている。この遺伝子群は、染色体6に座乗し、細胞表面の抗原提示細胞及びその他たくさんの遺伝子をコードする。HLA遺伝子は、ほとんどの脊椎動物に見られ(よってMHC遺伝子の中で最も研究されている)ヒト版のMHC細胞である。HLA遺伝子によってコードされたタンパク質は、臓器移植要因としての歴史的発見により、抗原としても知られている。主要なHLA抗原は、免疫機能にとって必須要素であるとともに、異なるクラスがあり、それぞれに異なる機能がある。
クラスIHLA抗原(HLA−A、HLA−B、およびHLA−C)は、人体のほとんどすべての細胞(赤血球細胞と中枢神経系の細胞を除く)の表面上で発現し、細胞表面上にペプチドを呈する膜貫通タンパクであり、上記ペプチドは、プロテアソームで分解される消化タンパクから生成される。
クラスIIHLA抗原(HLA−DP、HLA−DM、HLA−DOA、HLA−DOB、HLA−DQ、およびHLA−DR)は、細胞の外部からTリンパ球にかけて抗原を呈する。これら特定の抗原により、ヘルパーT細胞の増殖が促進され、これらヘルパーT細胞により、抗体産生B細胞によるそれら特定の抗原に対する抗体の産生が促進される。自己抗原はサプレッサT細胞によって抑制される。
クラスIIIHLA抗原は、補体系の成分をコードする。
HLA抗原には他の役割がある。HLA抗原は、病気の防御に重要である。また、HLA抗原は、臓器移植拒否反応の原因であることが考えられる。また、HLA抗原は、癌を防ぐと考えられ、または(感染により下方制御された場合は)癌を防げないと考えられる。そして、HLA抗原は、I型糖尿病や腹腔病等の自己免疫疾患を媒介するとも考えられる。さらに、生殖の点から見て、HLA抗原は、人々の個々の臭いに関連し、伴侶の選択に関与しているとも考えられる。
ヒトの集団におけるHLAの多様性は、病気の防御の一面であり、結果として、二人の関係のない個人がすべての遺伝子座上で同一のHLA分子を有する可能性は非常に低い。従って、従来技術では、レシピエントがドナー組織に拒絶反応を示すのを避けるために、または、造血幹細胞移植の場合は、提供された造血幹細胞がレシピエントを攻撃する可能性を避けるために適切な対立遺伝子マッチングを決定するHLA適合試験が必要であった。ほとんどの組織適合試験は、識別されたHLA抗原に対して特異的な抗体を用いた血清学的方法によって行われる。HLA対立遺伝子適合試験には、HLA抗原をコードする遺伝子中で多型を検出するDNAに基づいた方法も用いられる。現在、臍帯血幹細胞移植の臨床現場では、ドナー組織とレシピエントとのHLA適合試験は、六つのHLA抗原または対立遺伝子を決定することによって行われ、通常これらは遺伝子座HLA−A、HLA−B、HLA−DRのそれぞれに二つずつ位置するか、遺伝子座HLA−A、HLA−B、HLA−C、HAL−DRB1、HLA−DQB1、HLA−DPB1のそれぞれに一つずつ位置する(例えば、Kawase et al, 2007, Blood 110:2235-2241参照)。HLA適合試験は、(1)HLA対立遺伝子を決定すること、および/または(2)HLA抗原を血清学的に決定することによって行われる。ここで、(1)は対立遺伝子に対して特異的な配列を決定することによってDNA配列レベルで行われ、(2)はHLA抗原に対して特異的な抗体を介して行われる。
2.2 造血幹細胞
造血幹細胞は、多能性であり、最終的に全種類の最終分化血液細胞を生み出す。造血幹細胞は、自己再生したり、より方向が決まった(committed)前駆細胞に分化したりすることができる。これらの前駆細胞は、ほんの数種類の血液細胞の原細胞であると不可逆的に決定される。例えば、造血幹細胞は、(i)最終的に単球、およびマクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞を生み出す骨髄前駆細胞、または、(ii)最終的にT細胞、B細胞、およびナチュラルキラー細胞(NK細胞)と呼ばれるリンパ球様細胞を生み出すリンパ球前駆細胞に分化することができる。幹細胞が骨髄前駆細胞に分化すると、その後代はリンパ球系細胞を生み出すことができない。同様に、リンパ球前駆細胞は骨髄系細胞を生み出すことができない。血液生成と造血幹細胞分化の一般的な説明については、Chapter 17, Differentiated Cells and the Maintenance of Tissues, Alberts et al, 1989, Molecular Biology of the Cell, 2nd Ed., Garland Publishing, New York, NY; Chapter 2 of Regenerative Medicine, Department of Health and Human Services, August 2006(http://stemcells.nih.gov/info/scireport/2006report.htm)、およびChapter 5 of Hematopoietic Stem Cells,2009,Stem Cell Information, Department of Health and Human Services (http://stemcells.nih.gov/info/scireport/chapter5.asp)を参照。
これまで、造血幹細胞の特性を明らかにするため、生体外および生体内検定法が開発されてきた。例として、脾臓コロニー形成(spleen colony forming;CFU−S)検定法と免疫不全マウスにおける再構成検定法が挙げられる。また、モノクローナル抗体認識によって規定される細胞表面タンパク質マーカーの有無によって造血幹細胞を認識し、単離することも行われてきた。上記マーカーとしては、特に限定されないが、Lin、CD34、CD38、CD43、CD45RO、CD45RA、CD59、CD90、CD109、CD117、CD133、CD166、HLA DR、およびこれらの組み合わせが挙げられる(Chapter 2 of Regenerative Medicine, Department of Health and Human Services, August 2006 (http://stemcells.nih.gov/info/scireport/2006report.htm)および上記文献で引用された参考文献参照)。
2.3 Notch経路
Notchファミリーのメンバーは、多くの無脊椎動物系における初期の発達段階で細胞間相互作用や細胞運命の決定において中心的な役割を担う巨大膜貫通タンパクコードする(Simpson, 1995, Nature 375:736-7; Artavanis-Tsakonis et al, 1995, Science. 268:225-232; Simpson, 1998, Semin. Cell Dev. Biol. 9:581-2; Go et al, 1998, Development. 125:2031-2040; Artavanis-Tsakonas and Simpson, 1991, Trends Genet. 7:403-408)。Notch受容体は、さまざまな種類の細胞が、直接隣接した細胞がとった分化経路に基づいて、選択的分化経路の中から分化経路を選択することを可能にする高度に保存された経路の一部である。この受容体は、明らかでない共通ステップを通して作用すると考えられる。この共通ステップは、方向が決まっていない細胞の反応性を阻害し2つの選択的運命のうち1つを選ぶことによって、方向が決まっていない(uncommitted)細胞の分化状態への進行を制御する。これによって、細胞は、分化を遅らせたり、適切な発生信号の存在下では、非抑制経路に沿って分化したりすることができる。
遺伝分子学的な研究により、Notchシグナリング経路の個別要素を規定する遺伝子群が同定された。これらさまざまな要素は、もっぱら初期のガイドとして遺伝子ツールを用いてショウジョウバエ(Drophilia)から同定されてきたが、後の研究により、ヒトを含む脊椎動物種における相同タンパク質が同定された。既知のNotch経路要素の分子関係ならびにそれらの細胞内局在は、Artavanis-Tsakonas et al, 1995, Science 268: 225-232; Artavanis-Tsakonas et al, 1999, Science 284: 770-776およびKopan et al, 2009, Cell 137: 216-233に記述されている。DeltaおよびSerrate(またはSerrateの哺乳類ホモログであるJagged)は、Notchの細胞外リガンドである。DeltaおよびSerrate(ここで「Serrate」は、Drophilia Serrateおよびその哺乳類ホモログであるJaggedの両方を意味する)におけるNotchへの結合に関与する部分は、DSLドメインと呼ばれる。このドメインは、タンパク質の細胞外ドメインに位置している。Notchの細胞外ドメインにおける上皮成長因子様リピート(epidermal growth factor-like repeats;ELRs)11および12は、Delta、Serrate、およびJaggedへの結合に関与している(Artavanis-Tsakonas et al, 1995, Science 268: 225-232およびKopan et al, 2009, Cell 137: 216-233参照)。
2.4 血液形成におけるNotch経路
ヒトCD34+前駆細胞におけるNotch−1 mRNA発現を根拠にして、血液形成におけるNotchシグナリングが果たす役割が推測された(Milner et al, 1994, Blood 3:2057-62)。このことは、Notch−1およびNotch−2タンパク質が造血前駆細胞中に存在し、T細胞、B細胞、および単球中により多く存在しているという実証と、造血基質におけるJagged−1タンパク質の実証とによって支持されている(Ohishi et al, 2000, Blood 95:2847-2854; Varnum-Finney et al, 1998, Blood 91:4084-91; Li et al, 1998, Immunity 8:43-55)。
Notchシグナリングが果たす生理学的な役割の最も明らかな証拠は、活性化されたNotch−1が、B細胞の成熟を抑制する一方で、T細胞の成熟を可能にするということを示したT細胞発生の研究によってもたらされた(Pui et al, 1999, Immunity 11:299-308)。これに対して、HES−1をノックアウトすることによるNotch−1の不活性化すなわちNotchを介したシグナリングの阻害によって、T細胞の発生は抑制されたが、B細胞の発生は可能になった(Radtke et al, 1999, Immunity 10: 47-58; Tomitaet al, 1999, Genes Dev. 13:1203-10)。T細胞およびB細胞の発生におけるNotc
h−1のこれらの相反する効果によって、Notch−1が共通のリンパ球前駆細胞による運命決定を調節している可能性が提起される。
遺伝子導入マウスの他の研究により、活性化されたNotch−1が、CD4表現型をとる細胞とCD8表現型をとる細胞ならびにαβ細胞への運命をとる細胞とγδ細胞への運命をとる細胞の割合に影響を及ぼすことが分かっている(Robey et al, 1996, Cell 87:483-92; Washburn et al, 1997, Cell 88:833-43)。このことは、一般的な前駆細胞による運命決定に対する効果を反映しているかもしれないが、より最近の研究により、これらの効果は、Notch−1の反アポトーシス効果に起因する可能性があることが示唆されている(Deftos et al , 1998, Immunity 9:777-86; Jehn et al, 1999, J Immunol. 162:635-8)。この反アポトーシス効果は、分化するT細胞の生存を可能にし、この効果がなければ、これらの細胞は死滅してしまう。
また、研究によれば、単離造血前駆細胞の分化は、リガンド誘導Notchシグナリングによって抑制できることが分かっている。マウス骨髄前駆細胞とヒトJagged−1を発現した3T3細胞とを共培養することにより、原始前駆細胞集団の形成において2〜3倍の増加がもたらされた(Varnum-Finney et al, 1998, Blood 91:4084-4991; Jones et al, 1998, Blood 92:1505-11)。ヒトJagged−1の精製細胞外ドメインで覆われたビーズで保存前駆細胞を培養することにより、前駆細胞の生成が強化された(Varnum-Finney et al, 1998, Blood 91:4084-91)。
ヒトCD34+細胞の研究では、Notch−1の細胞内ドメインの発現またはJagged−2を過剰発現した細胞への暴露によっても、前駆細胞の生成が強化され、CD34の発現が長期にわたって維持された(Carlesso et al, 1999, Blood 93:838-48)。別の研究では、Jagged−1を発現した細胞のCD34+細胞に対する効果が、培養物中に存在するサイトカインに影響され、付加成長因子がない場合は、細胞結合Jagged−1との相互作用により、CD34+細胞が非増殖、未分化状態で維持され、c−kitリガンドを付加した場合は、赤芽球コロニー形成細胞において2倍の増加がもたらされた(Walker et al, 1999, Stem Cells 17: 162-71)。
Varnum-Finney et al, 1993, Blood 101 :1784-1789によれば、固定化Notchリガンドによるマウス骨髄前駆細胞における内因性Notch受容体の活性化によって、前駆細胞の成長と分化に対する大きな影響が明らかになり、短期リンパ球・骨髄再構築能を有する前駆細胞の数の増加が観察されたということが示された。Delaney et al, 2005, Blood 106:2693-2699およびOhishi et al, 2002, J. Clin. Invest. 110:1165-1174によれば、固定化Notchリガンドの存在下でヒト臍帯血前駆細胞を培養することにより、免疫不全マウスモデルで決定した強化再構築能を有するCD34+細胞の数が約100倍増加したということが示された。また、米国特許第7,399,633号も参照。
Delaney et al, 2010, Nature Med. 16(2): 232-236によれば、凍結臍帯血サンプルから得られ、Notchリガンドの存在下で培養し、(その結果CD34+細胞の数が約100倍増加した)CD34+細胞の集団により、動態と規模を著しく強化した免疫不全マウスが再構築され、臨床段階1の臍帯血移植試験において、ヒトへのより迅速な骨髄生着が実現されたということが示された。
本出願の第2部または他の部における参照文献の引用または識別番号は、上記参考文献が本発明に対する先行技術として利用できることを認めるものと解釈されるものではない。
3.発明の概要
上記技術において、迅速に造血機能を再構成するための、製造後長期にわたって備蓄可能な「既製の(off-the-shelf)」製剤が必要とされている。本発明は、そのような必要を満たすものである。本発明は、造血機能を必要とする人間の患者に造血機能を提供するための方法であって、上記患者に増殖ヒト臍帯血幹/前駆細胞サンプルプールを投与する工程を含み、上記プール中の上記サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならない、方法を提供する。また、本発明は、造血機能を必要とする人間の患者に造血機能を提供するための方法であって、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールまたはそのアリコートを上記患者に投与する工程を含み、上記プールは、2つ以上の異なる増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを含み、上記プール中の各サンプルは、異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血から由来し、上記プール中の上記サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならない。ある具体的な実施形態では、上記プール中の2つ以上のサンプルは、患者によって確立しかつサンプルによって確立した1つまたは2つのHLA抗原または対立遺伝子の型で患者と不適合となる。他の具体的な実施形態では、上記プール中の2つ以上のサンプルは、患者によって確立した2つのHLA抗原または対立遺伝子の型で患者と不適合となる。
本発明はまた、造血機能を必要とする人間の患者に造血機能を提供するための方法であって、(a)増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールの複数のプールから上記患者に投与するための増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールを選択する工程と、(b)上記患者に上記選択したプールまたはそのアリコートを投与する工程とを含んでおり、上記プールは、2つ以上の異なる増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを含み、上記プール中の各サンプルは、異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血から由来し、上記プール中の上記サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならない。ある具体的な実施形態では、上記選択する工程は、さらに、患者によって確立したHLA抗原または対立遺伝子の型について患者と不適合となるHLA抗原または対立遺伝子が2つ以上あるサンプルを含む、サンプルプールを取り除く工程を含む。他の具体的な実施形態では、上記選択する工程は、さらに、患者によって確立したHLA抗原または対立遺伝子の型について患者と不適合となるHLA抗原または対立遺伝子が1つまたは2つあるサンプルを含む、サンプルプールを受入れる工程を含む。他の実施形態では、上記選択は、少なくとも50個の増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルの凍結プールの中から行われる。さらに他の実施形態では、患者に投与した増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルは、少なくとも7,500万個、好ましくは少なくとも2億5,000万個の生存CD34+細胞を含んでいる。
一実施形態では、本発明における上記増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルそれぞれには、増殖技術が施されており、この増殖技術によって、増殖技術が施されたヒト臍帯血幹細胞サンプルのアリコートにおける造血幹細胞、または造血幹前駆細胞は、増殖技術が施される前の上記ヒト臍帯血幹細胞サンプルのアリコートに対して、少なくとも50倍増加することが示される。造血幹細胞または造血幹前駆細胞は、他の種類の造血細胞と比較して、造血幹細胞または造血幹前駆細胞の濃度増加で発現する細胞表面マーカー(CD34、CD43、CD45RO、CD45RA、CD59、CD90、CD109、CD117、CD133、CD166、およびHLA DR)のいずれかに対して陽性、ならびに/またはLinおよび/もしくはCD38細胞表面マーカーに対して陰性であってもよい。好ましくは、造血幹細胞または造血幹前駆細胞は、CD34、CD133、またはCD90細胞表面マーカーのうち一つまたは複数に対して陽性である。好ましくは、本発明における上記増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルそれぞれには、増殖技術が施されており、この増殖技術によって、(i)増殖技術が施されたヒト臍帯血幹細胞サンプルのアリコートにおけるCD34+細胞は、増殖技術が施される前の上記ヒト臍帯血幹細胞サンプルのアリコートに対して、少なくとも50倍増加する、あるいは、(ii)増殖技術が施されたヒト臍帯血幹細胞サンプルにおけるSCID再構築細胞の数は、上記増殖技術が施される前の上記ヒト臍帯血幹細胞サンプルに対して、増加することが示される。
ある特定の実施形態では、上記ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールは、患者に投与する前に凍結・解凍される。ある実施形態では、上記プール内のサンプルはすべて同じ人種の人間の臍帯血および/または胎盤血に由来する。人種としては、例えば、アフリカ系アメリカ人、白人、アジア人、ヒスパニックカ系の人、アメリカ先住民、オーストラリア先住民、イヌイット族、太平洋諸島系の人が挙げられる。または、上記プール内のサンプルはすべて同じ民族の人間の臍帯血および/または胎盤血に由来する。民族としては、例えば、アイルランド人、イタリア人、インド人、日本人、中国人、ロシア人等が挙げられる。
さらに他の実施形態では、上記造血機能を提供するための方法は、それぞれが一人の人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血から得られ、単離されたヒト臍帯血幹細胞またはヒト臍帯血幹・前駆細胞を生体外で増殖させる工程と、増殖したサンプルをプールする工程とを上記投与の前に含む。好ましくは、上記増殖させる工程は、上記造血幹細胞または造血幹前駆細胞をNotch機能の作動物質に接触させる工程を含む。この作動物質は、Deltaタンパク質またはSerrateタンパク質であってもよく、Notchタンパク質に結合可能なDeltaタンパク質またはSerrateタンパク質の断片であってもよい。
本発明のある特定の実施形態では、造血機能を必要とする人間の患者に造血機能を提供するための方法であって、(a)それぞれが出生時の異なる人間から得られた少なくとも2つの臍帯血および/または胎盤血のサンプルをプールして、プールされた臍帯血を生成する工程と、(b)プールされた臍帯血から造血幹細胞または造血幹・前駆細胞を濃縮して、造血幹細胞または造血幹・前駆細胞が濃縮された集団を生成する工程と、(c)造血幹細胞または造血幹・前駆細胞が濃縮された集団を生体外で増殖させて、増殖幹細胞サンプルを生成する工程と、(d)造血機能を必要とする人間の患者に上記増殖幹細胞サンプルまたはそのアリコートを投与する工程とを含み、上記増殖幹細胞サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で不適合とならない方法が提供される。好ましい実施形態では、増殖細胞は、CD34+細胞である。別の好ましい実施形態では、増殖細胞は、CD133+細胞である。別の好ましい実施形態では、増殖細胞は、CD90+細胞である。さらに別の好ましい実施形態では、増殖細胞は、他の種類の造血細胞と比較して、造血幹細胞または造血幹前駆細胞の濃度増加で発現する細胞表面マーカー(CD34、CD43、CD45RO、CD45RA、CD59、CD90、CD109、CD117、CD133、CD166、およびHLA DR)のいずれかに対して陽性および/またはLinおよび/またはCD38細胞表面マーカーに対して陰性である。好ましくは、造血幹細胞または造血幹前駆細胞は、CD34、CD133、またはCD90細胞表面マーカーの一つまたは複数に対して陽性である。上記方法は、上記工程(c)の後かつ上記工程(d)の前に、上記増殖幹細胞サンプルを凍結・解凍する工程をさらに含にでもよい。ある実施形態では、上記患者は、汎血球減少症または好中球減少症に罹患しており、上記汎血球減少症または好中球減少症は、強化化学療法レジメン、集中的な化学療法、造血細胞移植のための骨髄機能廃絶療法、または急性電離放射線への暴露によって引き起こされる。
別の実施形態では、本発明は、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルの凍結バンクを生成するための方法であって、(a)出生時の2人以上の異なる人間から得られた臍帯血および/または胎盤血のプールから造血幹細胞または造血幹・前駆細胞が濃縮された集団に存在するヒト臍帯血幹細胞またはヒト臍帯血幹・前駆細胞を生体外で増殖させて、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを生成する工程と、(b)上記増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを凍結して、凍結された増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを生成する工程と、(c)上記凍結された増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを保存する工程と、(d)上記工程(a)〜(c)を少なくとも50回繰り返して、少なくとも50個の凍結保存された増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを生成する工程と、を含み、上記工程(a)〜(d)は、上記記載の順序で行われる方法を提供する。具体的な実施形態では、上記工程(a)〜(c)を少なくとも5、10、20、25、50、75、100、200、250、500、750、1,000、1,500、2,000、3,000、5,000、7,500、10,000、25,000、50,000、または100,000回繰り返して、対応する数の凍結保存された増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを生成する。ある実施形態では、上記方法は、各凍結された増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルに対して、上記凍結された増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを他の凍結された増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルから区別する識別子を割り当てる工程をさらに含む。別の実施形態では、上記方法は、一つまたは複数のコンピュータデータベースに上記識別子を格納する工程をさらに含み、上記格納された識別子は、上記識別子に対応する凍結された増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルが保存される上記バンク内の物理的な位置に関する情報に関連付けられている。また、本発明は、少なくとも50ユニットの凍結された増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールを含み、各プールは、2つ以上の異なる増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを含み、上記プール中の各サンプルは、異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血から由来し、上記プール中の上記サンプルは、各プール中のサンプルそれぞれによって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならない、血液バンクに関する。具体的な実施形態では、少なくとも5、10、20、25、50、75、100、200、250、500、750、1,000、1,500、2,000、3,000、5,000、7,500、10,000、25,000、50,000、または100,000ユニットの増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルの凍結プールを含む。
本発明の別の実施形態では、造血機能を必要とする人間の患者に造血機能を提供するために用いられる凍結された増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを選択するためのコンピュータで行われる方法であって、適切にプログラムされたコンピュータによって実行される次のステップを含む。すなわち、(a)コンピュータデータベースに格納されている少なくとも50個の複数の識別子から識別子を選択する工程と、(b)上記選択された識別子を出力または表示する工程とを含み、上記工程(a)において、各識別子は、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルの凍結保存プールを識別し、各プールは、2つ以上の異なる増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを含み、上記プール中の各サンプルは、異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血から由来し、選択された識別子によって識別されたプール中のサンプルは、患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならず、上記選択では、上記識別子によって識別されるプールまたはそのアリコートの、必要とする患者への投与のために、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールを識別する、コンピュータで行われる方法が提供される。具体的な実施形態では、上記識別子は、ユーザー、コンピュータの内部または外部コンポーネント、リモート・コンピュータに出力または表示されるか、コンピュータ読み取り可能な媒体に記憶される。別の具体的な実施形態では、上記出力または表示する工程は、上記識別子によって識別される各増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールの物理的な位置に関する情報をさらに出力または表示する。さらに別の実施形態では、上記コンピュータで行われる方法は、識別された凍結増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールのロボット検索を実行する工程をさらに含む。
本発明の別の実施形態では、コンピュータシステムと併用され、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とその中に埋め込まれたコンピュータプログラム機構とを含むコンピュータプログラムプロダクトであって、上記コンピュータプログラム機構は、(a)コンピュータデータベースに格納されている少なくとも50個の複数の識別子から識別子を選択するための実行可能な命令と、(b)上記選択された識別子を出力または表示するための実行可能な命令とを含み、上記実行可能な命令(a)において、各識別子は、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルの凍結保存プールを識別し、各プールは、2つ以上の異なる増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを含み、上記プール中の各サンプルは、異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血から由来し、選択された識別子によって識別されたプール中のサンプルは、患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならず、上記選択では、上記識別子によって識別されるプールまたはそのアリコートの、必要とする患者への投与のために、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールを識別する、コンピュータプログラムプロダクトが提供される。特定の実施形態では、上記識別子は、ユーザー、コンピュータの内部または外部コンポーネント、リモート・コンピュータに出力または表示されるか、コンピュータ読み取り可能な媒体に記憶される。
さらに別の実施形態では、本発明は、プロセッサと、上記プロセッサに結合され、モジュールを格納しているメモリとを備えた装置であって、上記モジュールは、(a)コンピュータデータベースに格納されている少なくとも50個の複数の識別子から識別子を選択するための実行可能な命令と、(b)上記選択された識別子を出力または表示するための実行可能な命令とを含み、上記実行可能な命令(a)において、各識別子は、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールを識別し、各プールは、2つ以上の異なる増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを含み、上記プール中の各サンプルは、異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血から由来し、選択された識別子によって識別されたプール中のサンプルは、患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならず、上記選択では、上記識別子によって識別されるプールまたはそのアリコートの、必要とする患者への投与のために、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールを識別する、装置を提供する。特定の実施形態では、上記識別子は、ユーザー、コンピュータの内部または外部コンポーネント、リモート・コンピュータに出力または表示されるか、コンピュータ読み取り可能な媒体に記憶される。
具体的な実施形態では、本発明の方法、コンピュータプログラムプロダクト、および装置において、上記選択する工程は、患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に不適合となるサンプルプールを識別する識別子を取り除く工程を含む。
4.定義
本明細書に記載された方法および材料に類似する、あるいは相当するいかなる方法および材料も本発明の実施および試験に用いることができるが、好ましい方法および材料を記載する。本発明のために、以下の用語を下記の通り定義する。
本明細書で用いられる「CB(cord blood;臍帯血)幹細胞」という用語は、「CB幹細胞サンプル」と同義的に用いられ、出生時の臍帯血および/または胎盤血に由来する造血幹細胞または造血幹前駆細胞を濃縮した集団を意味する。造血幹細胞または造血幹前駆細胞は、他の種類の造血細胞と比較して、造血幹細胞または造血幹前駆細胞の濃度増加で発現する特定のマーカーに対して陽性であってもよい。そのようなマーカーとしては、特に限定されないが、例えば、CD34、CD43、CD45RO、CD45RA、CD59、CD90、CD109、CD117、CD133、CD166、HLA DR、またはそれらの組み合わせが挙げられる。また、造血幹細胞または造血幹前駆細胞は、他の種類の造血細胞と比較して、発現マーカーに対して陰性であってもよい。そのようなマーカーとしては、特に限定されないが、例えば、Lin、CD38、またはそれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、造血幹細胞または造血幹前駆細胞は、CD34+細胞である。
本明細書で用いられる「増殖CB幹細胞」という用語は、「増殖CB幹細胞サンプル」と同義的に用いられ、造血幹細胞または造血幹前駆細胞の増殖技術が施されたCB幹細胞を意味する。上記増殖技術は、(i)上記増殖技術が施されていないサンプルのアリコートに対して、増殖サンプルのアリコートにおいて、造血幹細胞または造血幹前駆細胞の数の増加をもたらすこと、または、(ii)上記増殖技術が施されていないサンプルのアリコートに対して、増殖サンプルのアリコートを注入したNOD/SCIDマウスにおける生着の強化によって示す限定希釈分析によって決定したSCID再構築細胞の数の増加をもたらすことが分かっているものである。具体的な実施形態では、NOD/SCIDマウスにおける生着の強化は、増殖前のサンプルのアリコートを注入したマウスに対して、増殖サンプルのアリコートを注入したNOD/SCIDマウスの骨髄におけるヒトCD45+細胞のパーセンテージの増加を注入10日後、3週間後、または9週間後に検出することによって検出できる(Delaney et al., 2010, Nature Medicine 16(2): 232-236参照)。具体的な実施形態では、上記増殖技術は、増殖サンプルのアリコートにおいて、少なくとも50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、または500倍の造血幹細胞または造血幹前駆細胞の数の増加をもたらし、好ましくは、100〜200倍の増加をもたらす。
5.図面の簡単な説明
図1は、本発明の方法を実施するために有用なコンピュータシステムの例示的な実施形態を示す。
図2a〜図2bは、Delta1ext−IgGで培養した臍帯血細胞を出発細胞としたSCID再構築によってSRC出現率が顕著に増加し、総合的な生着率が向上することを示すグラフである。五つの独立した実験で、非培養CD34+臍帯血細胞またはDelta1ext−IgGもしくは対照ヒトIgG1で17日間培養したCD34+細胞の後代を亜致死量の放射線を照射したNOD/SCIDマウスに移植した。3週間後(膝関節から骨髄を穿刺吸引)および9週間後(マウスを犠牲死させ、両側の大腿骨と脛骨から骨髄を採取)に、ヒト生着率(CD45%)を測定した。図2aでは、上記のように限界希釈移植を行ってSRC出現率を計算した。ここで、SRC出現率は、出発細胞106個当たりのSRC出現率として示す。結果は平均値±標準誤差である。ここに示す*P値は、対照培養細胞または非培養細胞と比較したDelta1ext−IgG培養細胞を表す。図2bに、総CD45%、リンパ球系サブセットCD19+/CD45+細胞(黒色)、およびCD33+/CD45+二重陽性細胞の骨髄系サブセットによって測定したヒト生着率を示す。
図3は、初期生着の速度がDelta1ext−IgGでの培養に依存していることを示すグラフである。CD34+臍帯血前駆細胞をDelta1ext−IgGで培養し、NOD/SCID再増殖能を非培養細胞と比較した。細胞注入10日後と3週間後に、骨髄におけるヒト生着率(CD45%)を評価した。ここに示す結果は、平均CD45%±標準誤差であり、早期生着を評価した二つの実験の一つを表す。
図4a〜4cは、生体外(ex vivo)増殖臍帯血前駆細胞の低温保存によって生体内(in vivo)再構築能が損なわれないことを示す。縦軸は、レシピエントマウスの骨髄においてヒトCD45によって測定された総合的なヒト生着率を示す。実線は、ヒト生着率の平均値を示す。図4aは、注入前に低温保存した採取細胞との比較で、培養直後に注入した細胞を示す。ここに示すのは、注入4週間後の結果である。図4bでは、生体外で増殖させ、低温保存した前駆細胞を解凍し、注入した。図に示すのは、二つの実験の結果を組み合わせたものである。図4cでは、単一の臍帯血ユニットから得られたCD34+前駆細胞に由来する増殖後代を等しいグループに分割し、標準的技法に従って低温保存した。三つの方法で注入前解凍(1.解凍と洗浄、2.解凍と希釈(デキストラン/アルブミン希釈)、3.解凍と直接注入)を行い、生体内再構築能を比較した。
図5は、類似遺伝子型および異質遺伝子型の造血幹細胞移植物(hematopoietic stem cells transplants;HCTs)におけるDelta1ext−IgG培養細胞の生着の比較を示す。LSK細胞は、Dallas et al, 2007 Blood 109: 3579-3587に記載の方法で、Delta1ext−IgG上で4週間培養した。類似遺伝子型HCTでは、致死量(1000 cGY)の放射線を照射したC57(H−2d)マウスは、105個のC57全骨髄細胞ならびに106個のDelta1ext−IgG培養細胞を受容した。異種遺伝子型HCTでは、致死量(1000 cGY)の放射線を照射されたBALB.c(H−2d)のマウスは、105個のBALB.c全骨髄細胞ならびに106個のDelta1ext−IgG培養細胞を受容した。HCTの2、3、5、7週間後に、FACS分析によって血液を分析した。N=5〜7。
図6は、HLA不適合レシピエントにおける+106Delta1ext−IgG培養細胞の生着を示す。LSK細胞は、Ohisi et al, 2002, J. Clin. Invest. 110: 1165-1174およびDallas et al, 2007 Blood 109: 3579-3587に記載の方法で、Delta1ext−IgG上で4週間培養した。致死量の放射線を照射したBALB.c(H−2D、CD45.2)レシピエントは、106個のLy5.1(H−2b、CD45.1)Delta1ext−IgG培養LSK細胞ならびに103個のBALB.c(H−2d、CD45.2)LSK細胞、または、103個のLy5.1(H−2b、CD45.1)LSK細胞ならびに103個のBALB.c(H−2d、CD45.2)LSK細胞を受容した。3日目と7日目にマウスを犠牲死させた。FAC分析によって骨髄生着を決定した(n=5)。
図7は、増殖幹・前駆細胞と非増殖幹・前駆細胞とにおいて生着を比較することを目的とした、幹・前駆細胞の増殖および放射線照射マウスへの増殖細胞の注入のための実験プロトコルの概略図である。
図8a〜8bは、致死量の放射線を照射したマウスの骨髄と末梢血中で検出された不適合増殖幹・前駆細胞の生着を示すグラフである。
図9a〜9bは、事前に低温保存しておいた増殖幹・前駆細胞を注入した後に7.5Gyまたは8Gyの放射線を被曝させたマウスの全体的な生存率を、生理食塩水対照群を注入した場合と比較して示す。
図10は、(Delta誘導体で培養した)増殖幹・前駆細胞を注入した後に8Gyで照射したマウスの全生存率を、(IgGで培養した)非増殖幹・前駆細胞を注入した場合と比較して示す。
図11a〜11bは、放射線照射量の増加に伴い増殖マウス幹・前駆細胞(DXI)のドナーからの生着率が向上することを示す。
図12は、Delta1ext−IgGで臍帯血前駆細胞を臨床培養することにより、骨髄機能を廃絶するダブルユニットCBT環境において、CD34+細胞が生体内で著しく増殖し、好中球回復が早くなることを示す。CD34+臍帯血前駆細胞を濃縮し、106Delta1ext−IgGで培養した。二つの非操作ユニット(「従来」)と一つの生体外増殖ユニットおよび一つの非操作ユニット(「増殖」)とを対比して、ダブルユニット臍帯血移植を受けた患者が>500/μ1の絶対好中球計数数(absolute neutrophil count;ANC)に到達するまでの個々の時間とその中央値(実線)とを示す。
図13は、CD34+細胞の集団を濃縮し、濃縮した集団を増殖させるための例示的な手順を示すフローチャートである。
図14は、急性骨髄性白血病患者に対する導入療法の計画を示すフローチャートである。
図15は、治療を受けた患者の特性、注入された細胞計数、および好中球の回復時間を示す表である。
図16は、増殖臍帯血幹・前駆細胞サンプル注入後7日目におけるドナー細胞のパーセンテージとして表される増殖臍帯血幹・前駆細胞の生着率を示す表である。
図17は、臍帯血移植物と増殖臍帯血幹・前駆細胞サンプルとを投与することによって、急性骨髄性白血病等の血液悪性腫瘍を治療するためのプロトコルを示すフローチャートである。
図18は、100μl以上の絶対好中球計数(absolute neutrophil count;ANC)を達成するのに移植後に必要な時間を示す。
図19は、500μl以上の絶対好中球計数(absolute neutrophil count;ANC)を達成するのに移植後に必要な時間を示す。
図20は、注入7日目後の末梢血液細胞のDNAキメリズム解析の結果を示す表である(QNSは数量不足(quantity not sufficient)を意味する)。
6.発明の詳細な説明
本発明は、造血機能を必要とする人間の患者に造血機能を提供するための方法であって、上記患者に増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールを投与する工程を含み、上記プール中の上記サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならない。一実施形態では、上記増殖ヒト臍帯血幹細胞は骨髄球系細胞へ分化する。別の実施形態では、上記増殖ヒト臍帯血幹細胞はリンパ球系細胞へ分化する。
化学療法または放射線照射によって誘発された汎血球減少症の治療のための理想的な治療用製剤とは、注入時に、特に顆粒球の迅速な造血再構成をもたらすとともに、自己造血回復を促進する製剤である。さらに、上記治療用製剤は、迅速に提供されるように、生成(製造)後長期的に備蓄可能な「既製の」製剤として開発されることが不可欠である。仮定的には、骨髄または分離された(mobilized)末梢血幹細胞は、高用量の化学療法または高線量の放射線照射によって起こる汎血球減少症の緩和を促進するために注入される血球を一時的に再生することができる。しかし、これらの末梢血幹細胞を使用する際に、臍帯血移植体に対し直近で確立した6つのHLA抗原または対立遺伝子の型で適合していることが必要であり、また上記末梢血幹細胞の調達は容易ではなく、備蓄にも適していない。同様に、持続性好中球減少症に罹患している状態で起こる感染症の治療として顆粒球の輸血が行なわれるが、該顆粒球の収集や使用は有望ではない。最近判明した根拠によれば、顆粒球の輸血には比較的効果が低いか、あるいは全く効果がないことが示されている。その理由として、注入した細胞には寿命(時間)に限りがあり、付加的な細胞(細胞の再生可能なソースではない)が生体内で生成されないことが考えられる。
本発明の出願以前には、限られたHLAの適合でのみ、増殖CB幹細胞が人間の患者に対して造血効果をもたらすということは認識されていなかった。これは、移植片対宿主病(GVHD)によって上記の治療効果の可能性が消失してしまうと考えられていたためである。本発明によると、上記増殖CB幹細胞によって提供される迅速な造血効果を利用することで、該増殖CB幹細胞および人間の患者が2つ以下のHLA抗原または対立遺伝子で不適合である場合に患者にとって効果がある。いずれのメカニズムにも結び付けられていないが、不適合が限られた状況において上記増殖CB幹細胞が造血効果をもたらすと考えられる。これは、造血機能に有益となる効果が、上記増殖CB幹細胞の生着が迅速に行なわれることによって、GVHD(移植片対宿主病)が発症して上記効果が消失してしまう前に得られるからである。また、本明細書に記載される増殖方法によって増加した造血細胞の数(幹細胞および前駆細胞を含む)によって、少なくとも一時的に、異質細胞に対する宿主抵抗が克服されると考えられる。さらに、樹状細胞やナチュラルキラー(Natural killer:NK)細胞前駆体などの、増殖による構築において生成された別の種類の細胞は、宿主による注入細胞の拒絶を阻止すると考えられている。従って、不適合が限られた状況においても造血機能の提供を実現することができ、患者および増殖臍帯血幹細胞サンプルについて確立した2つ以下のHLA抗原または対立遺伝子の型で不適合であるか否かに関わらず、患者への投与が治療法となる。
頻繁に起こる感染症は、造血器悪性腫瘍の治療に用いられる誘導化学療法およびサルベージ療法の一般的な合併症であり、実際には治療が失敗する主な原因の一つである。また、化学療法の薬剤によって、重度の免疫抑制および/または高度の骨髄抑制が起こることがあり、持続性好中球減少症の期間の原因となる。本発明の増殖CB幹細胞を注入することで、好中球減少症が抑制され、感染性の合併症が予防され、化学療法後の宿主の造血回復が促進されることによって、これらの課題を克服する治療効果を提供することができる。
さらに、本発明によると、上記増殖CB幹細胞を治療目的で使用する際のHLA型の限られた適合のみが必要である。これにより、有用な量が実際に保存できることが本発明に教示されているため、増殖CB幹細胞または増殖CB幹細胞のプールの凍結保存が現在実際に行なわれている。従来技術において、治療に用いる増殖CB幹細胞の有効なサンプルを発見するために、レシピエントのHLAの適合が一般的に必要であると考えられていた。そのため、一般的に患者に適合する増殖CB幹細胞を見つけることが実現可能になるためには、実現不可能なくらい大量の異なる増殖CB幹細胞サンプルの保存が必要であった。しかし、大量の増殖CB幹細胞サンプルを保存することは、それらを保存するためにさらに大容量の貯蔵スペースが必要であったため、非現実的であった。一方、本発明によれば、HLAの適合は不要であるため、増殖させてから凍結保存したCB幹細胞の「バンク」の作成は、人類全体にとって幹細胞の移植に使用する上で有用であり、実現可能である。これは、上記バンクの増殖CB幹細胞サンプルが、本発明の治療方法を用いてどのようなレシピエントにでも将来的に使用される可能性があるためである。
6.1 臍帯血の採取
本発明によれば、ヒト臍帯血および/またはヒト胎盤血が、CB幹細胞の供給源である。このような血液は、上記技術分野において公知の方法によっても入手することができる。幹細胞の原料として臍帯血または胎盤血を使用することには、多くの利点がある。例えば、臍帯血および胎盤血の入手が容易であることや、ドナーに対する外傷がないことが挙げられる。例えば、人間の出産時に臍帯血および胎盤血を採取することを記載した、米国特許第5,004,681号を参照すればよい。一実施形態では、Goodmanらによる米国特許第7,147,626号B2に開示されている方法によって臍帯血が採取されている。
採取は滅菌条件下で行なわれなければならない。採取直後、抗凝固剤と混合しなければならない。このような抗凝固剤として、上記技術分野において公知の抗凝固剤が用いられる。例えば、CPD(クエン酸−リン酸−ブドウ糖)、ACD(酸−クエン酸−ブドウ糖)、Alsever液(Alsever et al., 1941, N. Y. St. J. Med. 41:126)、De Gowin液(De Gowin, et al., 1940, J. Am. Med. Ass. 114:850)、Edglugate−Mg(Smith, et al., 1959, J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 38:573)、Rous−Turner液(Rous and Turner, 1916, J. Exp. Med. 23:219)、その他グルコース混合物、ヘパリン、ビスクマ酢酸が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるわけではない。一実施形態では、ACDが使用される。
好ましくは、上記臍帯血は、臍帯から直接ドレナージュと、分娩した胎盤の根元および膨張させた静脈から針吸引の両方、またはいずれか一方の方法によって入手できる。概ね米国特許第5,004,681号を参照すればよい。採取したヒト臍帯血および/または胎盤血には異物が混入されていないことが好ましい。
ある実施形態では、採取した血液サンプルに関する以下のテストをルーチン的に行い、または臨床的に行なった。
(i)細菌培養:微生物の混入がないことを確認するために、好気性条件下および嫌気性条件下でルーチン的な細菌の院内培養等の、確立したアッセイを行なった。
(ii)病原性微生物の診断スクリーニング:特定の病原性微生物が存在しないことを確認するために、様々な診断テストを採用した。血液を介して多数の伝染性病原体の診断スクリーニングを定法により行なった。1つの例として、採取した血液サンプル(または母体の血液サンプル)に対して、ヒト免疫不全ウイルス−1または−2(HIV−1またはHIV−2)が存在していないかを調べる診断スクリーニングを行なった。ウイルス粒子、ウイルスをコードしたタンパク質、HIV特有の核酸、HIVタンパク質に対する抗体等に基づき、多数のアッセイシステムを用いることができる。また、採取した上記血液は、特に限定しないが、ヒトT−細胞リンパ球向性ウイルスIおよびII(HTLV−IおよびHTLV−II)、B型肝炎、C型肝炎、サイトメガロウイルス、梅毒、西ナイルウイルス等の、別の感染性の疾病についてもテストを行なう。
上記臍帯血の採取の前に、母体の病歴を確認し、その臍帯血細胞に、がん、白血病、免疫疾患、神経疾患、肝炎、エイズ等の遺伝性または感染性の疾病を伝染させる危険性がないか明確にすることが好ましい。採取した上記臍帯血に対して、細胞の生存度、HLA型、ABO/Rh型、CD34+細胞の数、および全有核細胞の数を調べるテストのうち、1以上のテストを行なう。
6.2 臍帯血幹細胞の濃縮
出生時の一人の人間から臍帯血か胎盤血のいずれか一方、またはその両方を採取した後、血液を処理して、濃縮した造血幹細胞の集団または濃縮した造血幹前駆細胞の集団を生成し、CB幹細胞集団を形成する。造血幹細胞または造血幹前駆細胞は、他の種類の造血細胞と比較して、造血幹細胞または造血幹前駆細胞の濃度増加で発現する特定のマーカーに対して陽性であってもよい。そのようなマーカーとしては、特に限定されないが、例えば、CD34、CD43、CD45RO、CD45RA、CD59、CD90、CD109、CD117、CD133、CD166、HLA DR、またはそれらの組み合わせが挙げられる。また、造血幹細胞または造血幹前駆細胞は、他の種類の造血細胞と比較して、発現マーカーに対して陰性であってもよい。そのようなマーカーとしては、特に限定されないが、例えば、Lin、CD38、またはそれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、造血幹細胞または造血幹前駆細胞は、CD34+細胞である。好ましくは、上記CB幹細胞集団は、CD34+幹細胞またはCD34+幹細胞・前駆細胞(したがって、T−細胞が欠乏している)である。従って、「濃縮」とは、(濃縮処理前のサンプル中の割合と比較して)サンプル中の造血幹細胞または造血幹前駆細胞の割合を増加させる処理を指す。精製は濃縮の一例である。ある特定の実施形態では、濃縮処理前のサンプルに対して、濃縮させたサンプル中の細胞の割合として、CD34+細胞(または他の好適な抗原陽性細胞)数の増加は、少なくとも25倍、50倍、75倍、100倍、150倍、200倍、250倍、300倍、350倍であり、好ましくは100倍から200倍である。好ましい実施形態では、磁気ビーズと共役させた、CD34に対するモノクローナル抗体、および上記CD34+細胞を分離する磁気細胞分離装置を用いて、上記CD34+細胞を濃縮する。
好ましい実施形態では、濃縮処理前に採取した臍帯血か胎盤血のいずれか一方、またはその両方は、新鮮であって、なおかつ事前に凍結保存されていない。
細胞分離/選別については、上記分野において任意の公知技術を用いて、造血幹細胞または造血幹前駆細胞の濃縮を行なってもよい。例えば、細胞表面マーカーの差示的な発現に基づく方法が用いられる。例えば、細胞表面マーカーCD34に対するモノクローナル抗体を用いて、CD34を発現する細胞を保持し、CD34を発現しない細胞は保持しないという方法で、CD34を発現する細胞を積極的に選択できる。さらに、採用される上記分離技術によって、選択される細胞の生存度を最大にさせるべきである。採用する特定の技術は、分離効率、方法論の細胞障害性、実行の容易さおよび速度、ならびに高度な装置および/または高度な技術的能力の必要性に基づいて決定される。
分離の手順には、抗体を被膜した磁気ビーズ、アフィニティークロマトグラフィー、例えば補体および細胞毒等のモノクローナル抗体と結合または共役させて用いる細胞毒性剤、および、例えばプレート等の堅固なマトリックスに付着させた抗体による「パニング」を用いた磁気的分離、あるいはその他簡便な技術を含む。分離/選別を正確に行なう技術として、蛍光標示式細胞分取器が挙げられ、上記蛍光標示式細胞分取器は、例えば複数の色チャンネル、小角および鈍角光散乱検出チャンネル、インピーダンスチャンネル等の、精巧さの程度が異なる。
上記抗体は、直接的な分離が可能となる磁気ビーズ、担体に結合させたアビジンやストレプトアビジンを用いて除去することができるビオチン、蛍光標示式細胞分取器とともに用いることができる蛍光色素等のマーカーで、共役させてもよい。これにより、特定の種類の細胞を容易に分離することができる。残存する細胞の生存能力を過度に損なうことがないのであれば、任意の技術を採用してもよい。
本発明の好ましい実施形態では、新鮮な臍帯血ユニットを処理して、例えば、CliniMACS(登録商標)細胞分離システム(Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, ドイツ)等の磁気細胞分離装置に関連する磁気粒子に直接的または間接的に共役させた抗CD34抗体を用いて、CD34+細胞を選別、つまりは濃縮する。上記CliniMACS(登録商標)細胞分離システムでは、特定のモノクローナル抗体と結びついた酸化鉄とデキストランとによって構成されるナノサイズの超常磁性の粒子を用いる。上記CliniMACS(登録商標)細胞分離システムは、閉鎖系滅菌システムであって、使い捨て可能なチューブセットを備えている。上記使い捨て可能なセットは、これを用いて、採取した臍帯血および/または胎盤血の単一ユニットを処理することでCD34+細胞を濃縮させた後に廃棄される。同様に、CD133+細胞は、抗CD133抗体を用いて濃縮される。ある具体的な実施形態では、CD34+CD90+細胞を濃縮する。同様に、CD43、CD45RO、CD45RA、CD59、CD90、CD109、CD117、CD166、HLA DR、またはそれらの組み合わせを発現する細胞を、抗原に対する抗体を用いて濃縮する。
一実施形態では、造血幹細胞または造血幹前駆細胞を濃縮する前に、1以上の臍帯血および/または胎盤血サンプルをプールしてもよい。別の実施形態では、造血幹細胞または造血幹前駆細胞を濃縮した後に、個々のCB幹細胞サンプルをプールしてもよい。ある具体的な実施形態では、プールされる臍帯血および/または胎盤血サンプル数、もしくはCB幹細胞サンプル数は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、または40個、あるいは少なくともこれらの個数のうちいずれかであって、好ましくは20個であり、臍帯血および/または胎盤血サンプル、もしくはCB幹細胞サンプルが、それぞれ20以下または25以下である。上記プール中の上記サンプルが、確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型によって上記プール中の他のサンプルと不適合とならないように、臍帯血/胎盤血サンプル、もしくはCB幹細胞サンプルをプールする。ある実施形態では、上記プール内のサンプルは同じ人種の人間の臍帯血および/または胎盤血に由来する。人種としては、例えば、アフリカ系アメリカ人、白人、アジア人、ヒスパニック系の人、アメリカ先住民、オーストラリア先住民、イヌイット族、太平洋諸島系の人が挙げられる。または、上記プール内のサンプルは同じ民族の人間の臍帯血および/または胎盤血に由来する。民族としては、例えば、アイルランド人、イタリア人、インド人、日本人、中国人、ロシア人等が挙げられる。
必要に応じて、上記造血幹細胞または造血幹前駆細胞を濃縮する前に、上記臍帯血の赤血球と白血球とを分離してもよい。赤血球と白血球とを分離したら、該赤血球のフラクションは廃棄し、該白血球のフラクションは上述のように磁気セルセパレータで処理する。赤血球のフラクションおよび白血球のフラクションは、上記技術分野において任意の公知方法によって分離され、該方法として遠心分離技術が挙げられる。別の分離方法として、市販の製品であるFICOLL(商標)、FICOLL−PAQUE(商標)、またはPERCOLL(商標)(いずれもニュージャージー州、ピスカタウェイにあるGEヘルスケアの製品)を用いる方法が挙げられる。FICOLL−PAQUE(商標)は、通常円錐形のチューブの底に配置され、血液全体を上に向かって層状にする。遠心分離した後、円錐状のチューブの中には、先端から底に向かって、プラズマおよび他の成分の層、末梢血の単核細胞(白血球)を含むバフィーコートと呼ばれる、単核細胞の層、FICOLL−PAQUE(商標)、ならびに赤血球および顆粒球の層が見える。上記赤血球および顆粒球の層はペレット状に現れる。
必要に応じて、CD34+細胞を選別する前に、新鮮な臍帯血ユニットのアリコート有核細胞の総数および/またはCD34+細胞の内容を確認してもよい。具体的な実施形態では、上記CD34+細胞の選別後、CD34+細胞(「CB幹細胞」)とCD34細胞フラクションとの両方が回収される。必要に応じて、本発明の方法に従って患者に対するHLAの適合が行なわれていなくても、初期のHLA型や将来的なキメリズムの研究のために、CD34細胞フラクションのサンプルからDNAを抽出してもよい。次に、上記CD34濃縮幹細胞フラクション(「CB幹細胞」)には、増殖前の処理が施され、例えば、輸送または保存用の適当な細胞培地の中で上記幹細胞を懸濁してもよい。好ましい実施形態では、上記細胞培地は、10ng/mlの組み換え型ヒトインターロイキン−3(rhIL−3)、50ng/mlの組み換え型ヒトインターロイキン−6(rhIL−6)、50ng/mlの組み換え型ヒト血小板産生因子(rhTPO)、50ng/mlの組み換え型ヒトFlt−3リガンド(rhFlt−3L)、および50ng/mlの組み換え型ヒト幹細胞因子(rhSCF)を追加したSTEMSPAN(商標)無血清増殖培地(ブリティッシュコロンビア州、バンクーバーにあるStemCell Technologies)からなる。
具体的な実施形態では、臍帯血および/または胎盤血のサンプルは、赤血球が欠乏しており、赤血球が欠乏しているフラクションにおけるCD34+細胞の数が算出される。好ましくは、350万個のCD34+細胞を含む臍帯血および/または胎盤血のサンプルを上記の濃縮方法によって濃縮する。
6.3 臍帯血幹細胞の増殖方法
上記の濃縮方法または上記技術分野における他の公知方法によって、出生時の一人以上の人間から採取したヒト臍帯血および/またはヒト胎盤血から、上記CB幹細胞を単離した後、例えばCD34+細胞等の、造血幹細胞または造血幹前駆細胞の数を増加させるために、上記CB幹細胞を増殖する。上記技術分野における任意の公知方法を用いて、増殖CB幹細胞を産生するCB幹細胞の数を増やすことができる。好ましくは、上記増殖CB幹細胞の集団を得るために、上記CB幹細胞を成長および***(増殖)させるような細胞成長条件下(例えば、有糸***を促進させる等)で、上記CB幹細胞を培養する。ある実施形態では、出生時の一人の人間の臍帯血および/または胎盤血に由来する各CB幹細胞の個体群を、増殖の前または後にプールする。別の実施形態では、増殖サンプルは、サンプルプールではない。好ましくは、増殖に用いる技術とは、(i)結果として、増殖前のCB幹細胞サンプルに対し、増殖サンプルにおいて、例えばCD34+細胞等の、造血幹細胞または造血幹前駆細胞の数を増加させる技術、または(ii)結果として、増殖前のサンプルによって見られるSCID再構築細胞に対して、増殖サンプルを注入したNOD/SCIDマウスにおける生着の強化によって示される、限定希釈分析によって決定した、上記増殖サンプル中のSCID再構築細胞の数を増加させる技術である。ただし、上記増殖サンプルおよび上記増殖前のサンプルは、同じサンプルの異なるアリコートに由来するものであり、上記増殖前のサンプルではなく、上記増殖サンプルには、上記増殖技術が施されている。ある実施形態では、上記増殖技術は、上記増殖させていないCB幹細胞サンプルに比べて、上記増殖サンプルにおいて、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、または500倍の造血幹細胞または造血幹前駆細胞の数の増加をもたらし、好ましくは、100〜200倍の増加をもたらす。上記造血幹細胞または造血幹前駆細胞は、CD34、CD43、CD45RO、CD45RA、CD59、CD90、CD109、CD117、CD133、CD166、およびHLA DRの1以上のものに対して陽性および/またはLinおよび/またはCD38に対して陰性であってもよい。ある具体的な実施形態では、上記生着の強化は、増殖前のサンプルのアリコートを注入したマウスに対して、増殖サンプルのアリコートを注入したマウスの骨髄におけるヒトCD45+細胞のパーセンテージの増加を、例えば注入10日後、3週間後、または9週間後に検出することによって検出できる(Delaney et al., 2010, Nature Medicine. 16(2): 232-236参照)。
そのような増殖技術としては、特に限定されないが、米国特許第7,399,633号B2、Delaney et al., 2010, Nature Medicine. 16(2): 232-236、Zhang et al., 2008, Blood 111:3415-3423、およびHimburg et al., 2010, Nature Medicine doi:10.1038/nm.2119 (advanced online publication)に記載される技術に加えて、以下に記載される技術が挙げられる。
本発明の一実施形態では、成長因子とともに上記CB幹細胞を培養し、上記幹細胞が増殖するような細胞成長条件(例えば、有糸***を促進させる等)に上記CB幹細胞をさらすことで、本発明による増殖CB幹細胞が得られる。本発明の好ましい実施形態では、分化抑制効果があるNotch機能を持つ、ある一定量のアゴニストとともに上記CB幹細胞を培養し、上記CB幹細胞が増殖するような細胞成長条件(例えば、有糸***を促進させる等)に上記CB幹細胞をさらすことで、本発明による増殖CB幹細胞の集団が得られる。さらに好ましい実施形態では、分化抑制効果があるNotch機能を持つ、ある一定量のアゴニストとともに上記CB幹細胞を成長因子存在下において培養し、上記CB幹細胞が増殖するような細胞成長条件(例えば、有糸***を促進させる等)に上記CB幹細胞をさらすことで、本発明による増殖CB幹細胞の集団が得られる。得られた増殖CB幹細胞の集団を冷凍し、例えば、人間の免疫不全の患者への造血機能の提供等、将来の使用に備えて保存される。必要に応じて、Notch経路アゴニストを不活性化し、患者への移植前に、上記増殖CB幹細胞集団からその不活性化したNotch経路アゴニストを(例えば、分離または希釈によって)除去する。
ある具体的な実施形態では、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25日間、もしくはそれ以上の日数で上記CB幹細胞を培養する。好ましくは、少なくとも10日間上記CB幹細胞を培養する。
上記CB幹細胞を増殖するための例示的な培養条件として、下記セクション7.1に記載されているものが含まれ、幹細胞因子、Flt−3受容体リガンド、血小板産生因子、インターロイキン−6、およびインターロイキン−3といったヒト成長因子を追加した無血清培地において、フィブロネクチンの断片、ならびにヒトIgG(Delta1ext−IgG)のFcドメインに注入したDeltaタンパク質の細胞外ドメインの存在下で、17〜21日間上記幹細胞を培養することが含まれる。好ましくは、上記の成長因子は、次に示す濃度で存在する。Flt−3受容体リガンド:50〜300ng/ml、血小板産生因子:50〜100ng/ml、インターロイキン−6:50〜100ng/ml、およびインターロイキン−3:10ng/ml。さらに具体的な実施形態では、300ng/mlの幹細胞因子、300ng/mlのFlt−3受容体リガンド、100ng/mlの血小板産生因子、100 ng/mlのインターロイキン−6、および10ng/mlのインターロイキン−3、あるいは、50ng/mlの幹細胞因子、50ng/mlのFlt−3受容体リガンド、50ng/mlの血小板産生因子、50ng/mlのインターロイキン−6、および10ng/mlのインターロイキン−3を用いる。好ましくは、細胞培養皿の表面上にDelta1ext−IgGを固定化する。ある具体的な実施形態では、上記CB幹細胞を加える前に、リン酸緩衝食塩水中の2.5μg/mlのDelta1ext−IgGおよび5g/mlのRetroNectin(組み換えヒトフィブロネクチンの断片)によって一晩4℃(または37℃で最低2時間)で上記細胞培養皿をコーティングする。
本発明のCB幹細胞を増殖するための他の例示的な培養条件として、Zhang et al., 2008, Blood 111:3415-3423に記載されているものが含まれる。ある具体的な実施形態では、ヘパリン、幹細胞因子、血小板産生因子、インスリン様成長因子−2(IGF−2)、線維芽細胞成長因子−1(FGF−1)、およびAngptl3またはAngptl5を追加した無血清培地において上記CB幹細胞を培養してもよい。ある具体的な実施形態では、10μg/mlのヘパリン、10ng/mlの幹細胞因子、20ng/mlの血小板産生因子、20ng/mlのIGF−2、10ng/mlのFGF−1、および100ng/mlのAngptl3またはAngptl5を上記培地に追加し、上記細胞を19〜23日間培養する。別の具体的な実施形態では、10μg/mlのヘパリン、10ng/mlの幹細胞因子、20ng/mlの血小板産生因子、10ng/mlのIGF−1、および100ng/mlのAngptl5を追加した上記培地で上記CB幹細胞を11〜19日間培養することで、上記CB幹細胞を増殖してもよい。別の具体的な実施形態では、50ng/mlの幹細胞因子、10ng/mlの血小板産生因子、50ng/mlのFlt−3受容体リガンド、および100ng/mlのインスリン様成長因子結合タンパク質−2(IGFBP2)または500ng/mlのAngptl5を追加した上記培地で上記CB幹細胞を10日間培養することで、上記CB幹細胞を増殖してもよい。さらに別の実施形態では、10μg/mlのヘパリン、10ng/mlの幹細胞因子、20ng/mlの血小板産生因子、10ng/mlのFGF−1、500ng/mlのAngptl5、および500ng/mlのIGFBP2を追加した上記培地で上記CB幹細胞を11日間培養することで、上記CB幹細胞を増殖してもよい。Zhang et al., 2008, Blood 111:3415-3423を参照すること。
本発明のCB幹細胞を増殖するための別の例示的な培養条件が、Himburg et al., 2010, Nature Medicine doi:10.1038/nm.2119 (advanced online publication)に記載されている。ある具体的な実施形態では、血小板産生因子、幹細胞因子、Flt−3受容体リガンド、およびプレイオトロフィンを追加した懸濁液培地において上記CB幹細胞を培養してもよい。ある具体的な実施形態では、20ng/mlの血小板産生因子、125ng/mlの幹細胞因子、50ng/mlのFlt−3受容体リガンド、および10、100、500、または1000ng/mlのプレイオトロフィンを上記懸濁液培地に追加し、上記CB幹細胞を7日間培養する。
本発明の好ましい実施形態では、上記CB幹細胞を増殖した後、造血機能を提供するサンプルの力価を測定するために、細胞総数および生存CD34+細胞数を求める。有核細胞の総量および幹細胞移植片におけるCD34+細胞の量は、移植の失敗および幹細胞の移植後に起こる移植関連の初期の合併症(主に、致死性の完成)の発生率だけでなく、好中球および血小板の移植と密接な相関関係にあることが、非常に多くの臨床研究から明らかである。例えば、増殖期間中培養開始後5〜8日目に、サンプルから生存有核細胞の数を求めてもよい。さらに、マルチパラメータのフローサイトメトリー法により、CD34+細胞の総数を求めてもよく、これによりサンプル中のCD34+細胞のパーセンテージが得られる。好ましくは、この時CD34+細胞の絶対数が少なくとも10倍に増加しなかった培地については、中断させる。同様に、凍結保存前または解凍後に、上記増殖CB幹細胞サンプル中の生存CD34+細胞総数を算出するために、上記増殖CB幹細胞サンプルのアリコートから有核細胞の総数および生存CD34+細胞のパーセンテージを求めてもよい。好ましい実施形態では、7,500万個未満の生存CD34+細胞を含む増殖CB幹細胞サンプルを廃棄する。
ある具体的な実施形態では、治療で使用する最終製品を販売するために、力価試験では生存CD34+細胞(または他の抗原陽性細胞)の総数を考慮する。生存度は上記技術分野の任意の公知方法によって求められ、例えば、トリパンブルー排除または7−AAD排除によって求められる。好ましくは、有核細胞数(total nucleated cell count:TNC)およびその他のデータを用いて製品の力価を算出する。フローサイトメトリー法および生細胞を除外する色素によって、生存CD34+細胞のパーセンテージを判定する。生存CD34+細胞のパーセンテージは、サンプルのアリコート中の7−AAD(またはその他の適当な色素)を除外したCD34+細胞の数を、上記アリコートのTNC(生細胞および非生細胞)によって除算することで求められる。サンプル中の生存CD34+細胞は、生存CD34+細胞=サンプルのTNC×サンプル中の生存CD34+細胞のパーセンテージ、によって算出できる。濃縮中または増殖中の生存CD34+細胞の比例的な増加は、生存CD34+細胞の総数+(培養後の細胞数÷培養前の生存CD34+細胞の総数)、によって算出できる。明らかなように、CD34以外の抗体、あるいはCD34に加えて他の抗体を用いてもよい。
6.3.1 Notchアゴニスト
本発明の好ましい実施形態では、Notch機能を持つアゴニスト、ならびに1以上の成長因子またはサイトカインの存在下において上記CB幹細胞を所定の時間培養することによって、上記CB幹細胞を増殖する。上記CB幹細胞の培養は、上記技術分野の任意の公知の培地/条件において行なわれる(Freshney Culture of Animal Cells, Wiley-Liss, Inc., New York, NY (1994)参照)。培養時間は、本明細書において定義されるように、増殖CB幹細胞集団を産生するのに十分な時間とする。例えば、上記CB幹細胞 Notch機能を持つアゴニスト、ならびに1以上の成長因子またはサイトカインの存在下において、上記CB幹細胞を、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25日間、好ましくは、少なくとも10日間培養する。必要に応じて、上記培養期間中の任意の時点で、培地を新鮮な培地と交換してもよいし、新鮮な培地を追加してもよい。
Notchアゴニストは、Notch経路機能の活性化を促進、つまり引き起こす、あるいは増加させる薬剤である。本明細書中で用いられる「Notch経路機能」という用語は、Notchシグナリング(信号伝達)経路によって媒介される機能という意味を持つものとする。Notch経路機能として、特に限定されないが、Notchの細胞内ドメインの核内移行;HairlessのRBP−Jκまたはそのショウジョウバエ相同体サプレッサの核内移行; 例えば、Mastermind等の、Split複合体のエンハンサーのbHLH遺伝子の活性化;HES−1遺伝子またはKBF2(CBF1とも呼ばれる)遺伝子の活性化;ショウジョウバエの神経芽細胞の分離阻害;およびDelta、Jagged/Serrate、Fringe、Deltex、若しくはHairlessのRBP−Jκ/サプレッサ、またはこれらの相同体若しくは類似体へのNotchの結合が挙げられる。活性化した際のNotch信号伝達経路およびその効果の考察については、Kopan et al., 2009, Cell 137: 216-233に記述の論文を概ね参照すること。また、Jarriault et al., 1998, Mol. Cell. Biol. 18:7423-7431を参照すること。
Notchの活性化は、Notchアゴニストに細胞を暴露することによって行なわれる。Notchアゴニストとして、特に限定されないが、溶解性の分子、組み換え技術によって細胞表面で発現する分子、前駆細胞が暴露される細胞の単分子膜上の分子、または固相上に固定化させた分子が用いられる。例示的なNotchアゴニストとは、Notchの細胞外ドメインに結合し、Notch信号伝達を活性化させる、細胞外結合リガンドである、DeltaおよびSerrateであるか、あるいはNotchの細胞外ドメインに結合し、Notch信号伝達を活性化させるDeltaまたはSerrateのフラグメントである。DeltaおよびSerrateの核酸配列およびアミノ酸配列は、上記技術分野において公知の、人間を含むいくつかの種属から単離されており、国際公報第WO93/12141号、WO96/27610号、およびWO97/01571号、ならびにGray et al., 1999, Am. J. Path. 154:785-794に開示されている。実施形態の好ましい態様では、上記Notchアゴニストは、mycエピトープタグを融合したDeltaタンパク質またはSerrateタンパク質の細胞外ドメインからなるDeltaタンパク質またはSerrateタンパク質の固定化フラグメント(Deltaext−mycまたはSerrateext−myc)であるか、あるいはIgGのFc部分を融合したDeltaタンパク質またはSerrateタンパク質の細胞外ドメインからなるDeltaタンパク質またはSerrateタンパク質の固定化フラグメント(Deltaext−IgGまたはSerrateext−IgG)である。本発明のNotchアゴニストとして、特に限定されないが、Notchタンパク質ならびにその相同体および誘導体(フラグメントを含む);Notch経路の他の要素であるタンパク質ならびにその相同体および誘導体(フラグメントを含む);Notchアゴニストに対する抗体、ならびにそのような抗体の結合領域を含む上記抗体のフラグメントまたはその他の誘導体;上記タンパク質および誘導体または相同体をコードする核酸;およびNotch経路の活性を促進させるようなNotch経路にあるNotchタンパク質または他のタンパク質と結合あるいは相互作用するタンパク質ならびにその誘導体および相同体が挙げられる。そのようなアゴニストとして、特に限定されないが、細胞内ドメインを含むNotchタンパク質およびその誘導体、上記Notchタンパク質をコードするNotch核酸、およびNotchリガンドのNotch相互作用ドメイン(例えば、DeltaまたはSerrateの細胞外ドメイン)を含むタンパク質が挙げられる。その他のアゴニストとして、特に限定されないが、HairlessまたはDeltexのRBPJκ/サプレッサが挙げられる。Fringeは、例えば、Deltaタンパク質と協同して、Notch活性を高めるために用いられる。これらのタンパク質ならびにそのフラグメントおよび誘導体は、組み換え技術によって発現・単離され得る、あるいは化学的に合成され得る。
別の具体的な実施形態では、上記Notchアゴニストは、組み換え技術によってNotchと拮抗する(agonize)タンパク質、またはそのフラグメントもしくは誘導体を発現させる細胞である。この細胞は、Notch信号伝達が活性化されるCB幹細胞に対し利用可能となるような状態、例えば、分泌される状態、細胞表面に発現される状態等で、上記Notchアゴニストを発現する。
さらに別の具体的な実施形態では、Notchの上記アゴニストは、Notchシグナリング経路のメンバーと結合する、ペプチド模倣物、ペプチド類似体または有機分子である。そのようなアゴニストは、例えばRebay et al., 1991, Cell 67:687-699および国際公報第WO92/19734号に記載された細胞凝集法等の、上記技術分野における公知方法から選ばれた結合方法によって同定される。
好ましい実施形態では、上記アゴニストは、少なくとも、Notchタンパク質またはNotchフラグメントへの結合を媒介するNotch相互作用遺伝子によってコードされるタンパク質フラグメントからなるタンパク質であり、上記Notchフラグメントは、アゴニストタンパク質との結合に応答可能なNotchの領域、例えばNotchの上皮成長因子様リピート11および12等を含む。本明細書中で用いられる「Notch相互作用遺伝子」という用語は、Notch遺伝子、Delta遺伝子、Serrate遺伝子、RBPJκ遺伝子、ならびにHairlessのサプレッサ遺伝子、およびDeltex遺伝子に加えて、配列相同性または遺伝子相互作用によって同定されるDelta/SerrateファミリーまたはDeltexファミリーの他のメンバーを意味し、より一般的には、遺伝子の「Notchカスケード」または「Notchグループ」のメンバーを意味し、これらは分子相互作用(例えば、生体内結合または(例えばショウジョウバエにおいて表現型的に示すような)遺伝子相互作用)によって同定される。Notchとの結合原因となる領域を含むNotch結合タンパク質の例示的なフラグメントは、米国特許第5,648,464号、第5,849,869号、および第5,856,441号に記載されている。
本発明の方法によって用いられるNotchアゴニストは、市販のものを入手することができ、組み換え発現による生成も可能であり、あるいは化学的に合成することも可能である。
ある具体的な実施形態では、Notchアゴニストへの細胞の暴露は、Notchリガンドを組み換え技術によって細胞の表面上に発現させる他の細胞とのインキュベーション(他の実施形態では、この方法が用いられるが)ではなく、例えば固相の表面上(例えば、組織培養皿の表面上)で固定化されている、無細胞Notchリガンドとのインキュベーション等の、無細胞Notchリガンドへの暴露によって行なわれる。
具体的な実施形態では、Notchリガンド(例えば、Delta、Serrate)のNotch受容体の細胞外部分への結合によって、Notchの活性が促進される。Notchの上記細胞外ドメインと、隣接する細胞と膜結合しているか、あるいは固体の表面上に固定されているリガンドとの物理的な相互作用が、Notchシグナリングの引き金となるようである。完全長のリガンドはNotchのアゴニストであり、1つの細胞上の上記リガンドの発現によって、上記Notch受容体を発現する隣接細胞における上記経路の活性化を誘因する。組織培養皿等の固体の表面上に固定化された、タンパク質の細胞外ドメインまたはそのNtch結合部分を含む溶解性の切断型DeltaまたはSerrate分子が、特に好ましいNotch経路アゴニストとされる。例えば、融合タンパク質としてDeltaまたはSerrateが発現するエピトープタグ(例えば、抗体9E10によって認識されるmycエピトープタグ)に関連する抗体、あるいは融合タンパク質としてDeltaまたはSerrateが発現するエピトープタグ(例えば、タンパク質Aによって結合させている免疫グロブリンのエピトープタグ)と相互作用するタンパク質等の、抗体または相互作用タンパク質によって、上記の溶解性タンパク質が固体の表面に固定化される。
別の具体的な実施形態では、Artavanis-Tsakonasらによる米国特許第5,780,300号に記載されているように、Notchアゴニストとして、Notchプロセシングに必要なフーリン様転換酵素、Kuzbanian、Notch経路の上流の活性化もしくはNotchとパラレルな活性に必要であるであると考えられるメタロプロテアーゼ−ジスインテグリン(ADAM)等の、NotchまたはNotch情報伝達経路の活性化に必要な成熟ステップあるいはプロセシングステップを仲介する細胞内プロセスを促進または活性化させる試薬が挙げられる(Schlondorff and Blobel, 1999, J. Cell Sci. 112:3603-3617)。より一般的には、細胞内の区画間の移動に必要なGTPaseのrabファミリー等の、細胞内輸送・プロセシングタンパク質が挙げられる(Rab GTPaseの概要説明については、Olkkonen and Stenmark, 1997, Int. Rev. Cytol. 176: 1-85を参照)。上記アゴニストは、フーリン、Kuzbanian、もしくはrabタンパク質、またはこれらのフラグメントもしくは誘導体、またはこれらのドミナント活性変異体をコードする核酸、または上記タンパク質と結合してその機能を活性化させるペプチド模倣物、ペプチド類似体、または有機分子等の、上記プロセスのうちのいずれか1つの活性を増加させる任意の分子であり得る。
さらに、米国特許第5,780,300号には、本発明を実施する際に上記Notch経路を活性化させるために用いられるNotchアゴニスト分子の分類(およびそれらの同定方法)が開示され、例えば、NotchアンキリンリピートとRBP−Jκとの結合解離の引き金となり、これによってRBP−Jκの細胞質から核への転位を促進する分子について開示されている。
6.3.2 成長因子/サイトカイン
本発明の好ましい実施形態では、上述したようにNotch機能を持つアゴニスト、および1以上の成長因子もしくはサイトカインの存在下で、上記CB幹細胞をある一定時間培養することによって、上記CB幹細胞を増殖する。あるいは、1以上の成長因子またはサイトカインの存在下で、上記CB幹細胞をある一定時間培養することによって、上記CB幹細胞を増殖する。分化させずに上記CB幹細胞を増殖させる場合、成長をサポートするが分化をサポートしない成長因子の存在下で本発明のCB幹細胞を培養させる。上記成長因子としては、例えばタンパク質や化学物質等、細胞の増殖および/または生存を促進させる任意の種類の分子が用いられる。
1以上の成長因子への上記CB幹細胞の暴露は、Notchアゴニストへの上記CB幹細胞の暴露の前、同時、または後に行なわれる。
具体的かつ例示的な実施形態では、上記増殖培地に存在する成長因子として、c−キットリガンドまたは肥満細胞成長因子としても知られる幹細胞因子(stem cell factor:SCF)、Flt−3リガンド(Flt−3L)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−1l(IL−1l)および血小板産生因子(thrombopoietin:TPO)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte-macrophage colony stimulating factor:GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony stimulating factor:G−CSF)、アンジオポエチン様タンパク質(Angptls)(Angptl2、Angptl3、Angptl5、Angptl7、およびMfap4)、インスリン成長因子−2(IFG−2)、および線維芽細胞成長因子−1(FGF−1)のうちの1以上の成長因子が含まれる。SCF、Flt−3L、IL−6、またはTPOの量は、10〜1000ng/mlの範囲であり、さらに好ましくは約50〜500ng/mlの範囲であり、最も好ましくは約100〜300ng/mlの範囲である。ある具体的な実施形態では、SCF、Flt−3L、IL−6、またはTPOの量は、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、または450ng/mlである。Il−3、IL−1l、G−CSF、またはGM−CSFの量は、2〜100ng/mlの範囲であり、さらに好ましくは約5〜50ng/mlの範囲であり、またさらに好ましくは約7.5〜25ng/mlの範囲であり、最も好ましくは約10〜15ng/mlの範囲である。ある具体的な実施形態では、Il−3、IL−1l、G−CSF、またはGM−CSFの量は、5、6、7、8、9、10、12.5、または15ng/mlである。
CB幹細胞を増殖させるための好ましい実施形態では、細胞外マトリックスタンパク質が結合している組織培養皿の中で上記細胞を培養する。実施形態の好ましい態様では、上記細胞外マトリックスタンパク質は、フィブロネクチン(fibronectin:FN)またはそのフラグメントである。そのようなフラグメントとして、特に限定されないが、CH−296(Dao et al., 1998, Blood 92(12):4612-21)またはRetroNectin(登録商標)(組み換えヒトフィブロネクチンフラグメント)(ウィスコンシン州、マディソンにあるClontecHLAboratories, Inc.)
本発明のCB幹細胞を増殖させるための具体的な実施形態では、100ng/mlのSCF、100ng/mlのTPO、および10ng/mlのGM−CSFの存在下、例えばDeltaの細胞外ドメイン等の固定化したDeltaリガンドとフィブロネクチンとを含むプラスチックの組織培養皿の上で上記細胞を培養する。CB幹細胞を増殖させるための別の具体的な実施形態では、100ng/mlのSCF、100ng/mlのFlt−3L、100ng/mlのTPO、100ng/mlのIL−6、および10ng/mlのIL−3の存在下、固定化したDeltaリガンドとフィブロネクチンとを含むプラスチックの組織培養皿の上で上記細胞を培養する。本発明の幹細胞を増殖させるための別の具体的な実施形態では、100ng/mlのSCF、100ng/mlのFlt−3L、10mg/mlのG−CSF、および10mg/mlのGM−CSFの存在下、固定化したDeltaリガンドとフィブロネクチンとを含むプラスチックの組織培養皿の上で上記細胞を培養する。CB幹細胞を増殖させるための別の具体的な実施形態では、100ng/mlのSCF、100ng/mlのFlt−3L、100ng/mlのTPO、および10mg/mlのGM−CSFの存在下、固定化したDeltaリガンドとフィブロネクチンとを含むプラスチックの組織培養皿の上で上記細胞を培養する。CB幹細胞を増殖させるためのさらに別の具体的な実施形態では、300ng/mlのSCF、300ng/mlのFlt−3L、100ng/mlのTPO、100ng/mlのIL−6、および10mg/mlのIL−3の存在下、固定化したDeltaリガンドとフィブロネクチンとを含むプラスチックの組織培養皿の上で上記細胞を培養する。本発明の幹細胞を増殖させるための別の具体的な実施形態では、100ng/mlのSCF、100ng/mlのFlt−3L、100ng/mlのTPO、10mg/mlのG−CSF、および10mg/mlのGM−CSFの存在下、固定化したDeltaリガンドとフィブロネクチンとを含むプラスチックの組織培養皿の上で上記細胞を培養する。上記培養条件に代わる別の実施形態では、フィブロネクチンは上記組織培養皿から除外され、別の細胞外マトリックスタンパク質に置き換えられる。CB幹細胞増殖のさらなる例示的な培養条件については、Bernsteinらによる米国特許第7,399,633号B2も参照するとよい。
本発明の方法で用いられる上記成長因子は、市販のものを入手することができるか、組み換え発現による生成が可能であるか、あるいは化学的に合成することが可能である。例えば、Flt−3L(ヒト)、IGF−1(ヒト)、IL−6(ヒトおよびマウス)、IL−1l(ヒト)、SCF(ヒト)、およびTPO(ヒトおよびマウス)は、Sigma(ミズーリ州、セントルイス)から購入できる。IL−6(ヒトおよびマウス)、IL−7(ヒトおよびマウス)、およびSCF(ヒト)はLife Technologies, Inc.(メリーランド州、ロックビル)から購入できる。
他の実施形態では、組み換え発現または化学的なペプチド合成によって(例えば、ペプチド合成機等を用いて)上記成長因子を生成する。成長因子の核酸配列およびペプチド配列は、一般的にGenBankから入手できる。
好ましくは、必ずしも必要ではないが、本発明の方法によってNotchアゴニストの存在下で上記CB幹細胞を増殖させるために用いられる上記成長因子は、上記CB幹細胞と同じ種属に由来するものである。
本発明のCB幹細胞を増殖させるために好適な成長因子の量または濃度は、成長因子製剤の活性度や、上記成長因子と上記CB幹細胞等との種属間の相関関係等によって決まる。一般的に、上記CB幹細胞と成長因子とが同じ種属同士である場合、培地における成長因子の総量は、1ng/mlから5μg/mlであり、さらに好ましくは5ng/mlから1μg/mlであり、最も好ましくは10ng/mlから200ng/mlの範囲である。ある実施形態では、上記CB幹細胞をNotchアゴニストおよび100ng/mlのSCFに暴露させることで上記CB幹細胞を増殖させる。別の実施形態では、上記CB幹細胞をNotchアゴニスト、ならびに100ng/mlのFlt−3L、100ng/mlのIL−6、100ng/mlのSCF、および10ng/mlのIL−1lに暴露させることで上記CB幹細胞を増殖させる。
6.4 凍結保存および解凍
6.4.1 凍結保存
臍帯血からCB幹細胞を増殖させて増殖CB幹細胞集団を得た後、上記増殖CB幹細胞集団を凍結保存する。ある実施形態では、プールする(および続いて解凍した状態でプールする)前に、上記増殖CB幹細胞集団を分離して、1以上の袋(または器具)の中で凍結させる。別の実施形態では、2以上の増殖CB幹細胞の集団をプールし凍結して、あるいは必要に応じてプールして別々のアリコートに分けた後、それぞれのアリコートを凍結させる。好ましい実施形態では、最大約40億個の有核細胞が1つの袋の中で冷凍されている。好ましい実施形態では、増殖CB幹細胞は新鮮である。つまり、増殖CB幹細胞は、増殖または凍結保存前に事前に冷凍させてある。「冷凍(frozen/freezing)」と「凍結保存(cryopreservaed/cryopreservation)」という用語は、本願において同義で使われる。凍結保存は、生存した状態で細胞を冷凍させる上記技術分野において任意の公知方法によって行なわれる。細胞の冷凍には、通常破壊性がある。冷却すると、細胞内の水が凍る。その後、細胞膜への浸透圧作用、細胞の脱水、溶質の濃縮、および氷の結晶の形成によって、損傷が起きる。上記細胞の外に氷が形成されると、有効水は、溶液から除去され、上記細胞から取り除かれる。これによって、浸透圧による脱水および溶質の濃度上昇が起こり、結果として上記細胞が破壊される。この説明については、Mazur, P., 1977, Cryobiology 14:251-272を参照するとよい。
損傷を引き起こすこれらの現象は、(a)凍結保護剤の使用、(b)冷凍速度の制御、および(c)十分に低い温度での保存によって回避することができ、分解反応が最小限に抑えられる。
使用する凍結保護剤として、特に限定されないが、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide:DMSO)(Lovelock and Bishop, 1959, Nature 183:1394-1395; Ashwood-Smith, 1961, Nature 190:1204-1205)、グリセリン、ポリビニルピロリジン(Rinfret, 1960, Ann. N.Y. Acad. Sci. 85:576)、ポリエチレングリコール(Sloviter and Ravdin, 1962, Nature 196:548)、アルブミン、デキストラン、ショ糖、エチレングリコール、i−エリスリトール、D−リビトール、D−マンニトール(Rowe et al., 1962, Fed. Proc. 21:157)、D−ソルビトール、i−イノシトール、D−ラクトース、塩化コリン(Bender et al., 1960, J. Appl. Physiol. 15:520)、アミノ酸(Phan The Tran and Bender, 1960, Exp. Cell Res. 20:651)、メタノール、アセトアミド、グリセリンモノアセテート(Lovelock, 1954, Biochem. J. 56:265)、および無機塩類(Phan The Tran and Bender, 1960, Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 104:388; Phan The Tran and Bender, 1961, in Radiobiology, Proceedings of the Third Australian Conference on Radiobiology, Ilbery ed., Butterworth, London, p. 59)が挙げられる。好ましい実施形態では、低濃度で細胞にとって毒性がない液体であるDMSOを使用する。DMSOは、小さい分子の状態で、自由に細胞に浸透し、水と結合して水の凍結能力を調整し、氷の形成による損傷を防ぐことで、細胞内の小器官を保護する。プラズマ(例えば、20〜25%の濃度)を加えると、DMSOの保護効果が高まる。DMSOは、その濃度が約1%である場合、約4℃の温度で毒性を持つため、DMSOを加えた後、細胞が凍るまで0℃で保たれなければならない。
低速で冷却制御することが重要となる。凍結保護剤(Rapatz et al., 1968, Cryobiology 5(1): 18-25)と細胞の種類がそれぞれ異なれば、最適な冷却速度も異なる(例えば、Rowe and Rinfret, 1962, Blood 20:636; Rowe, 1966, Cryobiology 3(1):12-18; Lewis, et al., 1967, Transfusion 7(1): 17-32; and Mazur, 1970, Science 168:939-949 foreffects of cooling velocity on survival of marrow-stem cells and on their transplantation potentialを参照)。水が氷に変わる際に生じる融解熱は、最小限でなければならない。例えばプログラム可能な冷凍装置またはメタノール浴処理によって、上記冷却処理を行なう。
プログラム可能な冷凍装置によって、最適な冷却速度が判断され、定法による再現冷却が容易となる。CryomedまたはPlanar等の、プログラム可能な、速度制御可能なフリーザーによって、凍結管理について望ましい冷却速度カーブに調整することが可能となる。例えば、10%DMSOおよび20%プラズマにおける骨髄細胞の場合、最適な速度は、0℃から−80℃の間で、毎分1〜3℃である。
好ましい実施形態では、本発明の新生児の細胞の場合に、この冷却速度で行なわれる。細胞を収容している容器は、低温貯蔵温度での安定性が必要であり、これにより冷凍および解凍の両方を効果的に制御するための急速な熱伝導が可能となる。複数個で少量ずつ(1〜2ml)の場合、プラスチック製の密閉バイアル(例えば、Nunc製やWheaton cryules製)またはガラス製のアンプルを用いる。一方、大量(100〜200ml)の場合、冷却時の熱伝導がよくなるように金属製の皿の間に挟んだポリオレフィン製の袋(例えば、Delmed製)の中で凍結させる。骨髄細胞が入った袋を、偶然にも毎分約3℃の冷却速度を持つ−80℃のフリーザーの中に入れておくことで、その凍結が成功した。
他の選択可能な実施形態では、冷却時のメタノール浴法を用いることができる。メタノール浴法は、多数の小さなものを大規模にルーチン凍結保存する場合に適している。この方法では、凍結速度の手動制御も、速度を監視するためのレコーダーも必要ない。好ましい実施形態では、DMSOで処理した細胞を氷上で予冷し、−80℃の機械冷凍庫(例えば、HarrisまたはRevco)の中に順番に配置されている冷却したメタノールを含むトレーに移す。上記メタノール浴およびサンプルの熱電対の測定値は、1〜3℃/分の所望の冷却速度を示す。少なくとも2時間後、上記試料は−80℃の温度に達し、永久保存するために液体窒素(−196℃)の中に直接置かれる。
十分冷凍した後、上記増殖CB幹細胞を素早く長期低温保存容器に移す。好ましい実施形態では、液体窒素(−196℃)又はその冷気(−165℃)の中で上記サンプルを極低温で保存する。大幅に熱漏洩及び窒素の損失が最小限に保たれるような、極めて低い真空度を持ち、なおかつ内部に超断熱材を持つ大きな魔法瓶の容器に似た、非常に効率的な液体窒素冷蔵庫を利用できると、上記のような保存が容易になる。
好適なラックシステムが市販されており、カタログ化、保存、および個々の試料の検索をするために用いることができる。
特に骨髄または末梢血からの造血幹細胞の操作、凍結保存、および長期保管のための検討および手順は、本発明の増殖CB幹細胞に主に適用できる。そのような説明は、例えばGorin, 1986, Clinics In Haematology 15(1):19-48およびMone-Marrow Conservation, Culture and Transplantation, Proceedings of a Panel, Moscow, July 22-26, 1968, International Atomic Energy Agency, Vienna, pp. 107-186の文献中に記載されており、参照として本明細書に含まれる。
生細胞の凍結保存のその他の方法、すなわち生細胞の凍結保存の変形例については、利用可能であり、使用に想定されている(例えば、低温金属ミラー技術については、Livesey and Linner, 1987, Nature 327:255、Linner et al, 1986, J. Histochem. Cytochem. 34(9): 1123-1135、またSenkanらによる米国特許第4,199,022号、Schwartzによる米国特許第3,753,357号,Fahyによる米国特許第4,559,298号についても参照。)。
6.4.2 解凍
凍結細胞は、急速に解凍され(例えば、37〜41℃の温度に保った水浴中に)、解凍後直ちに冷却されることが好ましい。ある特定の実施形態では、上記凍結細胞を含むバイアルを温水浴中にその首まで浸漬し、穏やかに回転させることで、解凍させながら細胞懸濁液が確実に混合するともに、該温水から内部の氷の塊への熱伝達が増大する。氷が完全に溶けたらすぐに、上記バイアルを速やかに氷上に置く。
本発明の実施形態では、解凍した増殖CB幹細胞サンプルまたはその一部を、造血機能を必要とする人間の患者に造血機能を提供するために注入することができる。解凍した細胞の処理に関係するいくつかの手順が利用可能であり、望ましいと判断した場合に用いることができる。
解凍時に細胞の凝集を防止するために、上記細胞を処理することが望ましい。凝集を防止するために用いられる様々な方法として、特に限定されないが、DNase(Spitzer et al., 1980, Cancer 45:3075-3085)、低分子デキストランおよびクエン酸塩、ヒドロキシエチルデンプン(Stiff et al., 1983, Cryobiology 20:17-24)等を、冷凍前および/または後に、追加することが挙げられる。
上記凍結保護剤は、人間にとって毒性がある場合、解凍した増殖CB幹細胞を治療に用いる前に除去しなければならない。上記凍結保護剤としてDMSOを用いる実施形態では、DMSOには深刻な毒性がないので、細胞の損失を避けるために、この工程を省略することが好ましい。しかし、上記凍結保護剤の除去が望ましい場合、上記除去は解凍時に行なわれることが好ましい。
上記凍結保護剤を除去する方法の1つとして、低濃度に希釈することが挙げられる。この工程は、培地を添加することによって実施可能であり、その後、必要であれば、細胞ペレットの遠心分離、上清の除去、および上記細胞の再懸濁を、1サイクル以上行なう。例えば、解凍した細胞の細胞内DMSOを、回収した細胞に悪影響を及ぼさないレベル(1%未満)に低下させてもよい。この工程はゆっくりと行なうことが好ましく、これにより、DMSOの除去中に発生し、損傷を招く可能性のある浸透圧勾配が最小限に抑えられる。
上記凍結保護剤を除去した後、細胞の生存を確認するために、細胞数の計数(例えば、血球計数器を用いて)および生存度試験(例えば、トリパンブルー排除によって、Kuchler, 1977, Biochemical Methods in Cell Culture and Virology, Dowden, Hutchinson & Ross, Stroudsburg, Pa., pp. 18-19; 1964, Methods in Medical Research, Eisen et al., eds., Vol. 10, Year Book Medical Publishers, Inc., Chicago, pp. 39-47)を行ってもよい。サンプル中の、生存抗原(例えば、CD34)に対して陽性反応を示す細胞のパーセンテージは、サンプルのアリコート中の、7−AAD(または生細胞によって除去された他の好適な色素)を除く抗原陽性細胞の数を、サンプルのアリコート中の有核細胞(TNC)(生細胞と非生細胞の両方)の総数で除算することによって求めることができる。次に、サンプル中の生存抗原陽性細胞の数は、生抗原陽性細胞のパーセンテージにサンプルのTNCを乗ずるによって求めることができる。
凍結保存前および/または解凍後、有核細胞の総数、または特定の実施形態ではCD34+細胞またはCD133+細胞の総数を求めることができる。例えば、血球計数器の使用およびトリパンブルー色素の除外によって、総有核細胞数の計数を達成することができる。高い細胞性を有する試料は、マニュアル計数に適切な濃度範囲に希釈される。生成物の最終細胞数は、任意の希釈係数によって補正される。総有核細胞数=1mLあたりの生有核細胞数×1mLあたりに含まれる生成物の量。例えば蛍光色素に共役された抗CD34または抗CD133モノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリー法により、サンプル中のCD34+細胞またはCD133+陽性細胞の数を求めることができる。
必要に応じて、凍結保存前および凍結保存・解凍後のいずれか、あるいは両方のタイミングで、上記増殖CB幹細胞サンプルに対してHLAタイピングを行ってもよい。HLAタイピングは、同定HLA抗原に特異的な抗体を用いた血清学的な方法、またはHLA対立遺伝子をタイピングするための、HLA抗原をコードする遺伝子において多型を検出するための、DNAを用いた方法によって行なわれる。ある特定の実施形態では、HLAタイピングは、HLA−AおよびHLA−Bのための、特定の配列用のオリゴヌクレオチドプローブ法を用いて中分解能で行うか、あるいはHLA−DRB1のための、配列を使用したタイピング法(対立遺伝子タイピング)を用いて高分解能で行なうことができる。
ある実施形態では、凍結保存前の、出発臍帯血および/若しくは胎盤血、CB幹細胞、増殖CB幹細胞、または解凍後の増殖CB幹細胞の同定および精製は、マルチパラメータのフローサイトメトリーによるイムノフェノタイピングによって行われる。これによりサンプル中に存在する生存抗原陽性細胞のパーセンテージを求める。各サンプルについて、蛍光色素に直接共役されるモノクローナル抗体のパネルを用いた次に示す細胞表現型のうち1以上の細胞表現型がないかどうか検査する。
1.CD34+HPC
2.T細胞(CD3+、CD4+およびCD8+サブセットの両方を含む)
3.B細胞(CD19+またはCD20+)
4.NK細胞(CD56+)
5.単球(CD14+)
6.骨髄単球(CD15+)
7.巨核球(CD41+)
8.樹状細胞(HLA−DRbrightおよびCD123brightに対して陰性を示す系統、またはHLA−DRbrightおよびCD11cbrightに対して陰性を示す系統)。
6.5 遺伝子組み換え幹細胞
好ましい実施形態では、上記患者に投与される上記増殖CB幹細胞は非組換え型である。しかしながら、他の実施形態では、増殖前の上記CB幹細胞または上記増殖CB幹細胞は、遺伝子を組み換えることで、被検者に対して移植する場合に有益な遺伝子産物を生成することができる。そのような遺伝子産物は、特に限定されないが、例えば抗TNF、抗IL−1、抗IL−2などの抗炎症性因子が含まれる。上記CB幹細胞は、遺伝子治療に用いるために遺伝子を組み換えることで、被検者の遺伝子活性の程度を調節することができる。これにより、移植を助け、または移植の結果を向上させ、もしくは、例えば組換え遺伝子における障害によって引き起こされる病気を治療する。上記CB幹細胞は、上記CB幹細胞または上記増殖CB幹細胞に対して組換え型の核酸を移入することにより、組換え型にする。
遺伝子治療とは、その最も広い意味において、被検者に対して核酸を投与することにより実施される治療を指す。上記核酸は、直接的または自身のコード化タンパク質を介して間接的に、上記被検者に対して治療効果をもたらす。本発明による遺伝子治療の方法では、(好ましくは人間に対して)治療効果を有するタンパク質をコード化する核酸を、上記核酸が上記CB幹細胞および/またはその後代によって発現できるように、増殖の前または後に上記幹細胞に移入し、その後、被検者に対して上記組換え型増殖CB幹細胞を投与する。
本発明の組換え型CB幹細胞は、上記分野において利用可能な遺伝子治療のいかなる方法においても用いることができる。よって、上記細胞に移入された上記核酸は、例えば病気または疾患によって欠損している、または機能不全のタンパク質などの、いかなる所望のタンパク質をコード化してもよい。以下の記載は、そのような方法を説明するものである。以下に説明する上記方法が、遺伝子治療において利用可能なすべての方法における単なる実例を示すことは、当業者にはたやすく理解されるであろう。
遺伝子治療の上記方法の概説については、以下を参照のこと。Gardlik et al, 2005, Med. Sci. Monit. 11:RA110-121; Lundstrom, 1999, J. Recept. Signal Transduct. Res. 19:673-686; Robbins and Ghivizzani, 1998, Pharmacol. Ther.80:35-47; Pelegrin etal, 1998, Hum. Gene Ther. 9:2165-2175; Harvey and Caskey, 1998, Curr. Opin. Chem. Biol. 2:512-518; Guntaka and Swamynathan, 1998, Indian J. Exp. Biol. 36:539-535; Desnick and Schuchman, 1998, Acta Paediatr. Jpn. 40:191-203; Vos, 1998, Curr. Opin. Genet. Dev. 8:351-359; Tarahovsky and Ivanitsky, 1998, Biochemistry (Mosc) 63:607-618; Morishita et al, 1998, Circ. Res. 2: 1023-1028; Vile et al, 1998, Mol. Med. Today 4:84-92; Branch and Klotman, 1998, Exp. Nephrol. 6:78-83; Ascenzioni et al, 1997, Cancer Lett. 118:135-142; Chan and Glazer, 1997, J. Mol. Med. 75:267-282。組換えDNA技術の分野において一般に知られている利用可能な方法は、Ausubel et al. (eds.), 1993, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley &Sons, NY; およびKriegler, 1990, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NYに記載されている。
組換え型CB幹細胞が遺伝子治療に用いられる実施形態では、被検者においてその発現が望まれる遺伝子が、上記遺伝子が上記CB幹細胞および/またはその後代によって発現できるように、上記CB幹細胞に移入され、その後、上記組換え型細胞は、治療効果を得るために生体内で投与される。
本開示を考慮する当業者によって認識されるように、組換え型増殖CB幹細胞は遺伝子治療におけるいかなる適切な方法においても用いることができる。被検者に対して組換え型細胞の集団を投与することで、結果として、上記被検者における予め選択した遺伝子を活性化または阻害する等の作用をもたらすことができ、これにより、上記被検者を苦しめる病的な状態を改善することができる。
本実施形態では、結果としての上記組換え型細胞を生体内で投与する前に、上記所望の遺伝子が上記CB幹細胞またはその後代に移入される。このような移入は、本技術において既知のいかなる方法によっても実行することができる。上記方法は、特に限定されないが、トランスフェクション、電気穿孔、微量注入、リポフェクション、リン酸カルシウム媒介のトランスフェクション、遺伝子配列を含むウイルス性ベクターまたはバクテリオファージベクターに対する感染、細胞融合、染色体媒介の遺伝子導入、マイクロセル媒介の遺伝子導入、スフェロプラスト融合等が含まれる。外来遺伝子の細胞への移入については、本技術において数多くの手法が既知であり(例えば、Loeffler and Behr, 1993, Meth. Enzymol. 217:599-618; Cohen et al, 1993, Meth. Enzymol. 217:618-644; Cline, 1985, Pharmac. Ther. 29:69-92を参照)、レシピエントの細胞の発育上および生理学上の必要な機能が破壊されない限り、上記手法を本発明に従って用いてもよい。上記手法は、上記遺伝子を上記細胞に対して安定して導入することを可能にするであろう。これにより、上記遺伝子は上記細胞によって発現でき、好ましくは、上記遺伝子は遺伝性であって、その細胞後代によって発現できる。通常、導入の方法は、選択可能なマーカーの上記細胞への導入を含んでいる。その後、上記細胞は選択処理が施されて、上記導入された遺伝子を受け取り発現している細胞を単離する。その後、これら細胞は被検者に送達される。
レトロウイルス性ベクターについてのさらなる詳細は、Boesen et al, 1994, Biotherapy 6:291-302, Clowes et al, 1994, J. Clin. Invest. 93:644-651; Kiem et al, 1994, Blood 83: 1467-1473; Salmons and Gunzberg, 1993, Human Gene Therapy 4:129-141; およびGrossman and Wilson, 1993, Curr. Opin. in Genetics and Devel. 3:110-114に記載されている。
アデノウイルスもまた、遺伝子治療において有用である。以下を参照のこと。Kozarskyand Wilson, 1993, Current Opinion in Genetics and Development 3:499-503, Rosenfeld et al, 1991, Science 252:431-434; Rosenfeld et al, 1992, Cell 68: 143-155;
およびMastrangeli et al, 1993, J. Clin. Invest. 91:225-234。
アデノ随伴ウイルス(AAV)を遺伝子治療に用いることが提案されている(Walsh etal, 1993, Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 204:289-300)。アルファウイルスを遺伝子治療に用いることも提案されている(Lundstrom, 1999, J. Recept. Signal Transduct. Res. 19:673-686)。
遺伝子治療における遺伝子送達の他の方法には、哺乳類人工染色体の利用(Vos, 1998, Curr. Op. Genet. Dev. 8:351-359)、リポソームの利用(Tarahovsky and Ivanitsky, 1998, Biochemistry (Mosc) 63:607-618)、リボザイムの利用(Branch and Klotman, 1998, Exp. Nephrol. 6:78-83)、および三重DNAの利用(Chan and Glazer, 1997, J. Mol. Med. 75:267-282)が含まれる。
所望の遺伝子は、相同組換えによって細胞内に移入し、CB幹細胞DNA内に組み込んで発現させることができる(Koller and Smithies, 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:8932-8935; Zijlstra et al, 1989, Nature 342:435-438)。
具体的な実施形態では、遺伝子治療を目的として移入される、上記CB幹細胞またはその後代において増殖後に組換えで発現される上記所望の遺伝子は、コード領域と結合する操作可能な誘導性プロモーターを含んでおり、上記組換え型遺伝子の発現が、適切な転写誘導物質の存在または欠如を制御することによって制御可能になっている。
6.6 増殖臍帯血細胞の選択
本発明に従って、増殖CB幹細胞サンプルプールが選択され、上記増殖CB幹細胞サンプルを必要とする人間の患者に対して、造血機能を提供するために投与される。ここで、上記プール中の上記サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならない。ここでいう「上記プール中の上記サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならない」は、上記プール中の上記サンプルにおける上記細胞すべてについて、上記患者によって確立したHLA型と適合しないHLA型を勘定したとき、2つ以上の不適合が存在しないことを意味する。例えば、6つのHLA抗原/対立遺伝子の型が上記患者によって決められ、上記プール中の1つのサンプルが2つの抗原/対立遺伝子で適合しないとき、上記プール中の他のサンプルは、抗原/対立遺伝子が適合する残りの任意の4つで不適合になり得ない(上記プール中の上記他のサンプルは、抗原/対立遺伝子が適合しない同じ2つのうち、0、1つ、または両方で不適合となり得る)。具体的な実施形態では、上記患者は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つのHLA抗原/対立遺伝子の型、より好ましくは少なくとも4つのHLA抗原/対立遺伝子の型、最も好ましくは6つのHLA抗原/対立遺伝子の型が決められる。
サンプルをプールする工程が凍結する工程(および一般的には患者の識別)の前に行われる実施形態では、プールするサンプルの選択は、凍結する工程の前に行われ、これらサンプルだけが、集合的にプールされたとき、プールするために選択されたサンプルにおいて、2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で適合していない。
サンプルをプールする工程が解凍する工程(および一般的には患者の識別)の後に行われる実施形態では、上記患者への投与のための、プールされたサンプルの選択は、ともにプールするサンプルを選択し上記プールを形成する工程を包含する。このような、サンプルを選択し上記プールを形成する工程は、プール中のサンプルが上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原/対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならないようにサンプルを選択する工程を含む。例えば、上記増殖臍帯血細胞サンプルによって決められたHLA抗原/対立遺伝子の型からの2つで異なるプールをするために第1のサンプルが受け付けられたとき、他のサンプルは、これら2つ以外のHLA抗原または対立遺伝子で異なるプールをするために受け付けられ得ない。他の例では、第1のサンプルが第1のHLA抗原/対立遺伝子で適合しないで受け付けられ、第2のサンプルが第1のHLA抗原/対立遺伝子と異なる第2のHLA抗原/対立遺伝子で適合しないで受け付けられたとき、プールするために受け付けられた他のサンプルは、第1および/または第2の抗原/対立遺伝子でのみ患者と不適合になり得る。
本発明のある実施形態では、造血機能を必要とする人間の患者に対して造血機能を提供する方法が提供される。上記方法は、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールの複数のプールから上記患者に投与するための増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールを選択する工程と、(b)上記患者に上記選択したプールまたはそのアリコートを投与する工程とを含んでおり、上記プールは、2つ以上の異なる増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを含み、上記プール中の各サンプルは、異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血から由来し、上記プール中の上記サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならない。好ましい実施形態では、上記選択は、好ましくはバンク内において凍結保存された、複数の異なるサンプルプール(例えば、少なくとも100、200、250、500、750、1000、1500、2,000、3,000、5,000、7,500、10,000、25,000、50,000、または100,000個の異なる増殖臍帯血幹細胞サンプルプール)から行われる。
本発明の治療の方法において用いる、プールされるサンプルの選択、または増殖CB幹細胞サンプルプールの選択の際に考慮する任意のパラメータは、特に限定されないが、合計有核細胞計数、合計CD34+(あるいは他の適切な抗原)細胞計数、サンプルの年齢、患者の年齢、ドナーの人種的または民族的背景、患者の体重、治療すべき病気の種類およびある特定の患者における上記病気の重症度、上記増殖CB幹細胞サンプルまたはそのプールにおけるCD3+細胞の存在、上記患者におけるパネル反応性抗体結果、等のうちの一つまたは複数が含まれる。例えば、具体的な実施形態では、(患者の体重)1kg当たり50万個を超えるCD3+細胞が上記プールに存在する場合、増殖CB幹細胞サンプルプールは拒絶されて(あるいは、使用するプールを形成するに際し、個々の増殖CB幹細胞サンプルが拒絶されて)、治療の方法における使用のために選択されることがないようにすることができる。
具体的な実施形態では、上記選択はコンピュータで行うことができる。この場合、例えば、一定の基準を満たしていないサンプル、例えば、閾値となる量のCD34+細胞(例えば、少なくとも7,500万個のCD34+細胞、好ましくは、少なくとも1億、1億5千万、2億、2億5,000万、3億、3億5,000万、最も好ましくは、少なくとも2億5,000万)を含んでいないサンプル、および/または閾値となる量を超えるCD3+細胞(例えば、患者の体重1kg当たり50万個を超えるCD3+)を含んでいるサンプルまたはサンプルプールを取り除く(除外する)ことによって、選択ソフトウェアは上記サンプルまたはサンプルプールを特徴づける上記情報のうちの任意の一つまたは複数を考慮に入れることができる。具体的な実施形態では、選別後に残されたサンプルプールは、例えば、最長期間保存されたサンプルを選ぶことによって、または無作為に、または熟練した開業医にとって有用な特性に基づいて、選択される。
上記サンプルの上記選択は、適切にプログラムされたコンピュータによって、それぞれが異なる凍結された増殖CB幹細胞サンプルまたはサンプルプールを識別する、コンピュータデータベースに格納されている複数の識別子の中から、凍結された増殖CB幹細胞サンプルまたはサンプルプールのための適切な識別子を選択することによって実行することができる。各識別子は、上述したように、対応するサンプルまたはサンプルプールのための上記情報(合計有核細胞計数、合計CD34+細胞計数等のうちの一つまたは複数)に関連付けられていることが好ましい。これにより、上記ソフトウェアは、上述したように、選択過程において上記情報を考慮に入れることができる。
6.7 治療法
上記増殖CB幹細胞サンプルプールは、所望の遺伝子を組換えで発現しているか否かに関わらず、上記技術において既知の、増殖CB幹細胞および移植サイトにとって適切な任意の方法によって、病気または損傷に対する治療もしくは遺伝子治療において造血機能を提供するために、上記増殖CB幹細胞集団を必要とする人間の患者に投与することができる。上記増殖CB幹細胞サンプルプールは、静脈内に移植する(注入する)ことが好ましい。ある実施形態では、上記増殖CB幹細胞サンプルは、患者の骨髄系細胞に分化する。別の実施形態では、上記増殖CB幹細胞サンプルは、患者のリンパ球系細胞に分化する。2つ以上の増殖CB幹細胞サンプルからなるプールの投与は、上記プール中の増殖CB幹細胞サンプルが、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならない場合にのみ行われる。ある実施形態では、増殖臍帯血幹細胞サンプルプールと、これらの間でHLA抗原または対立遺伝子の型が確立したレピシエント患者との間で、1つのHLA抗原または対立遺伝子が集合的に異なる。他の実施形態では、増殖臍帯血幹細胞サンプルプールと、これらの間でHLA抗原または対立遺伝子の型が確立したレピシエント患者との間で、2つのHLA抗原または対立遺伝子が集合的に異なる。
具体的な実施形態では、増殖CB幹細胞サンプルプールは、国際特許公報第WO2006/047569A2号および/またはWO2007/095594A2号に規定されるような骨髄系前駆細胞集団を投与してから12時間以内には、患者に投与されない。他の具体的な実施形態では、増殖CB幹細胞サンプルプールは、上記骨髄系前駆細胞集団を患者に投与してから18、24、36、48、72、または96時間以内、もしくは7、10、14、21、または30日以内には、患者に投与されない。
具体的な実施形態では、本明細書に記載される本発明の上記各方法には、増殖CB幹細胞サンプルプールの投与が含まれるが、一つまたは複数の臍帯血/胎盤血サンプル(以下、「移植片」または「臍帯血移植体」)の投与をさらに含んでいる。そのような移植片は、赤血球が除去されている点を除いて、人間からの臍帯血および/または胎盤血の全血サンプルであり、これらのサンプルは、さらなる分画はされておらず、増殖もされていない。具体的な実施形態では、上記移植片は低温保存されており、投与の前に解凍される。具体的な実施形態では、上記移植片における上記HLA抗原または対立遺伝子のうちの少なくとも4つについて、その型が確定されている。好ましい実施形態では、6つのHLA抗原または対立遺伝子(例えば、HLA−A、HLA−BおよびHLA−DR対立遺伝子の各々の2つずつ)について、その型が確定されている。好ましい実施形態では、上記患者に投与される上記一つまたは複数の移植片は、6つのHLA抗原または対立遺伝子のうちの少なくとも4つにおいて上記患者に適合する。具体的な実施形態では、上記移植片は、そのHLA型を患者のHLA型と適合させることなく投与される。上記移植片は、上記増殖CB幹細胞サンプルプールの患者への投与と同時に、上記投与に続いて、上記投与の前に、または上記投与の後に、投与することができる。具体的な実施形態では、上記患者に投与される上記増殖CB幹細胞サンプルプールは、上記一つまたは複数の移植片の投与から1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10日以内に投与される。具体的な実施形態では、上記増殖CB幹細胞サンプルプールは、上記一つまたは複数の移植片の投与前に投与される。別の具体的な実施形態では、上記増殖CB幹細胞サンプルプールは、上記一つまたは複数の移植片の投与後に投与される。具体的な実施形態では、上記増殖CB幹細胞サンプルプールは、上記一つまたは複数の移植片の投与から1〜24時間、2〜12時間、3〜8時間、または3〜5時間前または後に投与される。他の具体的な実施形態では、上記増殖CB幹細胞サンプルプールは、上記一つまたは複数の移植片の投与から約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、18、または24時間前または後に投与される。好ましい実施形態では、上記増殖CB幹細胞サンプルプールは、上記一つまたは複数の移植片の投与から約4時間後に投与される。具体的な実施形態では、一人の人間の臍帯血および/または胎盤血に由来する単一の移植片が投与される。具体的な実施形態では、それぞれ異なる人間の臍帯血および/または胎盤血に由来する2つの移植片が投与される。別の具体的な実施形態では、2人以上の異なる人間に由来する臍帯血および/または胎盤血を組み合わせた単一の移植片が投与される。上記各実施形態では、上記増殖CB幹細胞サンプルプールは、一時的な造血効果を患者に与えることを意図しており、一方上記移植片は、長期の生着を実現することを意図している。
上記増殖CB幹細胞サンプルまたはそのプールを投与する他の適切な方法も、本発明に含まれる。上記増殖CB幹細胞サンプルまたはそのプールは、任意の簡便な経路で、例えば注入またはボーラス投与によって、投与することができ、他の生物活性剤とともに投与してもよい。投与は、全身的または局所的に行うことができる。
特定の疾患または病態の治療において効果的な、投与される上記増殖CB幹細胞の滴定量は、上記疾患または病態の性質に依存し、標準の臨床手法によって決定することができる。さらに、最適な投与量範囲の確認に役立てるために、生体外および生体内検定法を任意で実施してもよい。製剤において採用すべき正確な投与量はまた、投与の経路と上記病気または疾患の重症度とに依存し、担当開業医の判断と各被検者の状況とによって決定されるべきである。具体的な実施形態では、投与される増殖CB幹細胞またはそのプールの適切な投与量は、概して、患者の体重1kg当たりおよそ少なくとも5×106、107、5×107、75×106、107、5×107、108、5×108、1×109、5×109、1×1010、5×1010、1×1011、5×1011、または1012個のCD34+細胞であり、最も好ましくは、患者の体重1kg当たり約107〜約1012個のCD34+細胞である。上記投与は、必要な頻度で間隔を置いて、一度、二度、三度、またはそれを超える回数だけ、患者に対して行うことができる。具体的な実施形態では、単一の増殖幹細胞サンプルで、一人の患者に対する一回分または複数回分の投与量が得られる。
上記患者は人間の患者であり、好ましくは、免疫不全を罹患する人間の患者である。
ある実施形態では、上記プール内の個々のサンプルは、すべて同じ人種の人間の臍帯血および/または胎盤血に由来する。人種としては、例えば、アフリカ系アメリカ人、白人、アジア人、ヒスパニッカ系の人、アメリカ先住民、オーストラリア先住民、イヌイット族、太平洋諸島系の人が挙げられる。または、上記プール内の個々のサンプルは、すべて同じ民族の人間の臍帯血および/または胎盤血に由来する。民族としては、例えば、アイルランド人、イタリア人、インド人、日本人、中国人、ロシア人等が挙げられる。
6.8 医薬組成物
本発明によれば、治療上効果的な量の、本明細書において上述される本発明の上記各方法によって生成される組換え型または非組換え型増殖CB幹細胞サンプルプールを含んでいる医薬(治療効果のある)組成物を患者に投与することで治療する方法が提供される。ここで、上記プール中の上記サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならない。上記増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールの上記投与から12時間以内には、骨髄系前駆細胞集団が上記患者に投与されないことが好ましく、上記骨髄系前駆細胞集団における細胞の大部分は細胞培養においてリンパ球系細胞を生成しない。他の実施形態では、上記増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールの上記投与から18、20、24、36、48、または72時間もしくは1週間以内には、骨髄系前駆細胞集団が上記患者に投与されず、上記骨髄系前駆細胞集団における細胞の大部分は細胞培養においてリンパ球系細胞を生成しない。具体的な実施形態では、上記骨髄系細胞集団における細胞の大部分は、細胞表面マーカーCD33を発現し、および/または細胞表面マーカーCD45RAを発現しない。
本発明によれば、医薬組成物が提供される。そのような組成物は、治療上効果的な量の増殖CB幹細胞サンプルまたはそのプールと、薬剤的に容認できる担体または賦形剤とを含んでいる。そのような担体は、特に限定されないが、生理食塩水、緩衝生理食塩水、ブドウ糖、水、グリセリン、エタノール、およびこれらの組み合わせとすることができる。上記担体および組成物は、無菌であることが好ましい。上記調合物は、投与の様式に適したものとすべきである。上記医薬組成物は、人間における治療上の利用が容認できるものである。上記組成物は、望ましければ、pH緩衝剤をさらに含むことができる。
好ましい実施形態では、上記組成物は、人間に対する静脈内投与に適応させた医薬組成物として、通例の手順に従って処方される。一般に、静脈内投与のための組成物は、無菌の等張性水性緩衝剤に含まれる溶液である。必要であれば、上記組成物は注入部位における痛みを緩和するために、可溶化剤と、リドカイン等の局所麻酔薬とをさらに含んでいてもよい。
さらに、本発明によると、本発明の上記各方法によって生成される上記幹細胞集団または増殖CB幹細胞集団のうちの一つまたは複数、および/または上記細胞のプールを調製するための試薬、もしくは上記細胞の遺伝子操作のための試薬、によって充填された一つまたは複数の容器を含む医薬用のパックまたはキットが提供される。
好ましい実施形態では、本発明のキットは、一つまたは複数の容器に、前駆細胞および精製Notchアゴニストの増殖を促進するがその分化は促進しない、一つまたは複数の精製成長因子を含んでいる。上記成長因子およびNotchアゴニストは、ともに用いた場合、培養においてそれらに被曝した幹細胞を効果的に増殖する。必要に応じて、細胞培地がさらに提供される。
医薬品または生物学的製剤の製造、使用または販売を管轄する官庁によって規定された形式による、人間への投与についての、製造、使用または販売を管轄する上記官庁による認可を示す表示を、上記容器に任意で関連付けておくことができる。
6.9 上記増殖CB幹細胞の治療上の使用
本発明の2つ以上の異なる増殖CB幹細胞サンプルプールは、上記増殖CB幹細胞を必要とする患者(好ましくは人間の患者)に造血機能を提供するために用いることができる。ここで、上記プール中の上記サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならない。上記増殖CB幹細胞を必要とする患者に投与する増殖CB幹細胞サンプルプールは、上述したように、少なくとも2人の異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血に由来するものとすることができる。ある実施形態では、本発明の増殖CB幹細胞サンプルプールの投与は、免疫不全症の治療のために行われる。好ましい実施形態では、本発明の増殖CB幹細胞サンプルプールの投与は、汎血球減少症の治療のため、または好中球減少症の治療のために行われる。患者の罹患する、汎血球減少症または好中球減少症等の免疫不全症は、強化化学療法レジメン、造血細胞移植(HCT)のための骨髄機能廃絶療法、または急性電離放射線への暴露、の結果であることがある。持続性汎血球減少症または持続性好中球減少症を引き起こすおそれがある化学療法薬の例は、特に限定されないが、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン等のアルキル化剤、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、およびイホスファミドが含まれる。持続性汎血球減少症または持続性好中球減少症を引き起こすおそれがある他の化学療法剤には、アザチオプリン、メルカプトプリン、並びにビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン、およびタキサン等のビンカアルカロイドが含まれる。特に、持続性汎血球減少症または持続性好中球減少症を引き起こすおそれがある化学療法レジメンは、クロファラビンおよびAra−Cの投与である。
ある実施形態では、上記患者は後天性または誘発性の再生不良状態にある。
患者の罹患する免疫不全症はまた、例えば、人口密集地域における「汚い」爆弾の爆発等の核兵器による攻撃に引き続く急性電離放射線への暴露、原子力発電所での放射能漏れによる電離放射線への暴露、または電離放射線源であるウラン鉱原料への暴露、によって引き起こされる可能性がある。
本発明の増殖CB幹細胞サンプルプールの移植は、造血性の疾患および病気の治療または予防に用いることができる。ある実施形態では、上記増殖CB幹細胞サンプルプールは、正常な血液細胞の生産および細胞成熟における障害または機能不全によって特徴づけられる造血性疾患または病気を治療または予防するために用いられる。別の実施形態では、上記増殖CB幹細胞サンプルプールは、造血性の悪性腫瘍によって生ずる造血性疾患または病気を治療または予防するために用いられる。さらに別の実施形態では、上記増殖CB幹細胞サンプルプールは、免疫抑制、特に悪性の固体腫瘍を患う被験者における免疫抑制によって生ずる造血性疾患または病気を治療または予防するために用いられる。さらに別の実施形態では、上記増殖CB幹細胞サンプルプールは、造血系を冒す自己免疫疾患を治療または予防するために用いられる。さらに別の実施形態では、上記増殖CB幹細胞サンプルプールは、遺伝的な、または先天性の造血性疾患または病気を治療または予防するために用いられる。
本発明の上記増殖CB幹細胞サンプルまたはそのプールによって治療することができる特定の造血性の病気および疾患の例は、特に限定されないが、下の表Iに列挙されている。
ある実施形態では、上記増殖CB幹細胞またはそのプールは、造血機能不全に罹患する患者に投与される。造血機能不全のうち、本発明の上記増殖CB幹細胞を用いた治療が本発明の上記各方法に含まれるところの造血機能不全は、特に限定されないが、表Iに列挙されるものを含む、造血系における骨髄系、赤血球系、リンパ球系、もしくは巨核球系の細胞、またはそれらの組み合わせの減少が含まれる。
本発明の上記増殖CB幹細胞またはそのプールを用いた治療で効果が得やすい病状には、末梢血中を循環する白血球細胞(白血球)の数の減少である白血球減少症がある。白血球減少症は、一定のウイルスまたは放射線への暴露によって誘発されることがある。白血球減少症は、例えば、化学療法剤や放射線への暴露等の多様な形態の癌治療、および感染または出血、の副作用であることが多い。
増殖CB幹細胞またはそのプールはまた、好中球減少症の治療または予防において用いることができ、例えば、再生不良性貧血、周期性好中球減少症、特発性好中球減少症、チェディアック・東症候群、全身性エリテマトーデス(SLE)、白血病、骨髄異形成症候群、骨髄線維症、血小板減少症等の病状に対する治療において用いることができる。重度の血小板減少症は、ファンコーニ貧血、ウィスコット・アルドリッチ症候群、またはメイ・ヘグリン症候群等の遺伝的な欠損や、化学療法および/または放射線治療もしくは癌によって生ずることもある。後天性の血小板減少症は、免疫性血小板減少性紫斑病、全身性狼瘡エリスロマトーシス( Systemic Lupus Erythromatosis)、溶血性貧血、または母子不適合( fetal maternal incompatibility)等における自己抗体または同種抗体によって生ずることもある。さらに、脾腫大、播種性血管内凝固症候群、血栓性血小板減少性紫斑病、感染、または心臓人工弁が、血小板減少症を生じさせることもある。血小板減少症はまた、癌腫、リンパ腫、白血病、または線維症による骨髄浸潤(marrow invasion)によって生ずることもある。
多くの薬品が、骨髄抑制または造血機能不全を引き起こす可能性がある。そのような薬品の例としては、化学療法において用いられるAZT、DDI、アルキル化剤、および代謝拮抗物質、クロラムフェニコール、ペニシリン、ガンシクロビル(gancyclovir)、ダウノマイシン、およびサルファ剤等の抗生物質、フェノチアジン( phenothiazones)、メプロバメート等の精神安定薬、アミノピリンおよびジピロン等の鎮痛剤、フェニトインまたはカルバマゼピン等の抗痙攣薬、プロピルチオウラシルおよびメチマゾール等の抗含甲状腺薬、ならびに利尿剤がある。上記増殖CB幹細胞またはそのプールの移植は、上記薬品を用いた治療を受けた被験者においてしばしば発症する骨髄抑制または造血機能不全を予防または治療するために用いることができる。
造血機能不全はまた、ウイルス性、微生物性、または寄生虫性の感染症の結果、および、例えば透析等の腎疾患または腎不全に対する治療の結果、発症することがある。増殖CB幹細胞サンプルまたはそのプールの移植は、そのような造血機能不全を治療する上で有用である可能性がある。
例えばTおよび/またはBリンパ球における様々な免疫不全、もしくは、例えばリウマチ性関節炎等の免疫不全もまた、上記増殖CB幹細胞またはそのプールを用いた治療が有益に働く可能性がある。免疫不全は、ウイルス性の感染(例えば、特に限定されないが、HIVI、HIVII、HTLVI、HTLVII、HTLVIII等)、放射線に対する重度の暴露、癌治療、もしくは他の治療の結果であることがある。
6.10 凍結増殖臍帯血幹細胞バンク
本発明によれば、上記増殖CB幹細胞を治療に使用する際に限られたHLA型の適合のみが必要である。したがって、本発明では、有用な量を実用的に保存することができると教示されるので、凍結された増殖CB幹細胞の保存は実用的になった。先行技術では、治療に使用する目的で増殖CB幹細胞の有用なサンプルを見つけるために、HLAをレシピエントに適合させることが概して必要になることが予期された。したがって、患者に適合するサンプルを見つけることを概して実行可能とするためには、入手不可能な多さの数の異なる増殖CB幹細胞サンプルを保存しなければならなかった。そのように多数であったので、さらに大きな保存スペースが、増殖ユニットを保存するために必要となって、増殖サンプルを保存することが非実用的となっていた。これに対して、本発明によると、限られたHLAの適合が必要であり、よって、一般的なヒトの集団にとって幹細胞移植において有用な、プールされ、増殖され、その後低温保存された、あるいは、増殖され、プールされ、その後低温保存されたCB幹細胞の「バンク」の生成が実行可能である。これは、本発明の治療の方法において、上記バンク内の任意の増殖CB幹細胞サンプルプールを多数のレシピエントに対して実行可能に用いることができるからである。なお、CB幹細胞サンプルプール、すなわち増殖CB幹細胞サンプルプールは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならない。
上記増殖CB幹細胞が得られ、低温保存されたら、上記低温保存されたサンプル、またはサンプルプールは、バンク(サンプルの収集物を貯蔵したもの)内に保存することができる。上記バンクは、一つまたは複数の物理的な位置から成ることができる。よって、本発明はまた、バンク内の凍結増殖CB幹細胞サンプルまたはサンプルプールの収集物にも関する。上記収集物は、それぞれのサンプルが出生時の人間の臍帯血および/または胎盤性の臍帯血に由来する、少なくとも50、100、200、250、300、400、500、600、700、750、800、1,000、2,000、3,000、5,000、7,500、10,000、25,000、50,000、または100,000個の増殖CB幹細胞サンプル、および/または上述のサンプル(このサンプルは、上記サンプルによって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならない。)のプールを含むことができる。具体的な実施形態では、上記バンクは、それぞれ異なるサンプルが、異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤性の臍帯血に由来する、例えば、上述したようにプールした、二つ以上の異なる増殖CB幹細胞サンプルの、凍結された混合物を含む。上記増殖CB幹細胞サンプルは、−20℃以下の温度で、好ましくは−80℃で、保存される。好ましい実施形態では、サンプルは液体窒素中で(−196℃)、またはその蒸気中で(−165℃)、極低温で保存することができる。
ある実施形態では、増殖CB幹細胞の個々のサンプルを、凍結保存前に混合することができる。
好ましい実施形態では、上記バンク内に存在する増殖CB幹細胞のサンプルのすべてもしくはほとんど、またはそのプールされたサンプルのすべてもしくはほとんどが、凍結保存前の測定において、7,500万を超える数の生存CD34+細胞を有する。
6.11 装置、コンピュータ、およびコンピュータプログラムプロダクトによる実施
上記患者に投与される、適切な凍結増殖CB幹細胞サンプルプールおよび/またはそのようにプールされたサンプルの選択は、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に埋め込まれたコンピュータプログラム機構を含むコンピュータプログラムプロダクトを用いて実施することができる。本発明のいくつかの実施形態では、識別子の選択および出力を行い、さらに、凍結保存された増殖CB幹細胞サンプル、またはサンプルプールに対して、任意でロボットを用いた検索を行うための命令をコード化または有するコンピュータシステムもしくはコンピュータプログラムプロダクトが提供される。上記識別子は、上述したように、特定の凍結増殖CB幹細胞サンプルまたは凍結増殖CB幹細胞サンプルの凍結プールを、凍結増殖CB幹細胞サンプルおよび/またはそのプールのバンクに保存された他の凍結増殖CB幹細胞サンプルおよび/またはそのプールと区別する。よって、上記識別子は、サンプルまたはプールごとに固有である。識別子の収集物は、一つまたは複数のコンピュータデータベースに格納されることが好ましく、この場合、各識別子は、好ましくは上記識別子に関連付けられている増殖CB幹細胞サンプル、または場合に応じて増殖CB幹細胞サンプルプールの物理的な位置に関する情報に関連付けられ、および/または上記プールまたはサンプルの一つまたは複数の他の特性に関する情報に関連付けられている。上記他の特性は、特に限定されないが、第6.6部に記載されているように、上記プールまたはサンプルの合計造血幹細胞または造血幹前駆細胞計数(例えば、合計CD34+細胞計数)、上記プールまたはサンプルの合計有核細胞計数、造血幹細胞または造血幹前駆細胞のパーセンテージ(例えば、CD34+細胞のパーセンテージ)、上記プールまたはサンプルの容積、ドナーの性別、上記プールまたはサンプルを凍結させた日、および上記プールまたはサンプルのHLA型、が含まれる。よって、一つまたは複数のデータベースが各凍結増殖CB幹細胞サンプルまたはサンプルプールに関するデータ格納する。上記データベースは、上記保存された凍結増殖CB幹細胞サンプルまたはサンプルプールに関する特性のうちの一つまたは複数を格納する。上記特性は、特に限定されないが、上記プールまたはサンプルの合計CD34+細胞計数、上記プールまたはサンプルの合計有核細胞計数、上記プールまたはサンプルの容積、ドナーの性別、上記プールまたはサンプルの人種または民族、上記プールまたはサンプルを凍結させた日、および上記プールまたはサンプルのHLA型、が含まれる。
識別子の選択および出力、ならびに/もしくは、サンプルのロボット検索を実行するための実行可能な命令は、CD−ROM、DVD、磁気ディスク格納製品、または他の任意のコンピュータ読み取り可能な、データまたはプログラムを格納するための製品に格納することができる。そのような方法は、ROM、一つまたは複数のプログラム可能なチップ、もしくは、一つまたは複数の特定用途向け集積回路(ASIC)等の永久記憶装置に埋め込むこともできる。そのような永久記憶装置は、サーバー、802.11アクセスポイント、802.11無線ブリッジ/無線局、中継器、ルーター、携帯電話、またはその他の電子装置に位置させることができる。上記コンピュータプログラムプロダクトにコードされた上記方法は、電子的に、インターネットまたはその他の媒体を介して、デジタルで、または搬送波によって、(ソフトウェアモジュールが埋め込まれた)コンピュータデータ信号を伝達することによって配布することもできる。
本発明のいくつかの実施形態では、図1に示すプログラムモジュールのうちの任意のモジュールまたはすべてのモジュールを含むコンピュータプログラムプロダクトが提供される。これらのプログラムモジュールは、CD−ROM、DVD、磁気ディスク格納製品、またはその他の任意のコンピュータ読み取り可能な、データまたはプログラムを格納するための製品に格納することができる。上記プログラムモジュールは、ROM、一つまたは複数のプログラム可能なチップ、もしくは、一つまたは複数の特定用途向け集積回路(ASIC)等の永久記憶装置に埋め込むこともできる。そのような永久記憶装置は、サーバー、802.11アクセスポイント、802.11無線ブリッジ/無線局、中継器、ルーター、携帯電話、またはその他の電子装置に位置することができる。上記コンピュータプログラムプロダクトのソフトウェアモジュールは、電子的に、インターネットまたはその他の媒体を介して、デジタルで、または搬送波によって、(ソフトウェアモジュールが埋め込まれた)コンピュータデータ信号を伝達することによって配布することもできる。
図1に、本発明のある実施形態に従って動作するシステム11を示す。システム11は、少なくとも一つのコンピュータ10を含んでいる。コンピュータ10は、中央処理装置22、メモリ36、プログラムおよびデータを格納するために制御器12を介してアクセスする不揮発性記憶装置14、ユーザー入出力装置32、コンピュータ10を通信網(例えば、広域網34)を介して他のコンピュータに接続するためのネットワーク・インタフェース20、電源24、上記各構成要素を相互接続する一つまたは複数のバス30などの、標準的な構成要素を含んでいる。ユーザー入出力装置32は、マウス、ディスプレイ26、キーボード28等のユーザー入出力用の構成要素を一つまたは複数含んでいる。
メモリ36は、本発明に従って用いられる複数のモジュールおよびデータ構造を含んでいる。上記システムの動作中における任意の時点で、メモリ36に格納された上記モジュールおよび/またはデータ構造の一部は、ランダムアクセスメモリに格納することができる一方、上記モジュールおよび/またはデータ構造の他の一部は、不揮発性記憶装置14に格納することができることが理解されるであろう。典型的な実施形態では、メモリ36はオペレーティングシステム40を含んでいる。オペレーティングシステム40は、多様な基本システムサービスを扱うための、またハードウェア依存タスクを実行するための、プロシージャを含んでいる。メモリ36はさらに、ファイル管理のためのファイルシステム42を含んでいる。いくつかの実施形態では、ファイルシステム42はオペレーティングシステム40の構成要素である。
メモリ36はさらに、選択モジュール70を含む複数のモジュールを開示する。選択モジュール70は、コンピュータデータベースに格納されている複数の(好ましくは、少なくとも50、100、200、250、500、750、1000、1500、2,000、3,000、5,000、7,500、10,000、25,000、50,000、または100,000個の)識別子から識別子を選択する。ここで、各識別子は、異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血に由来する凍結保存された増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプル、またはそのようなサンプルプールを識別する。メモリ36はさらに、出力/表示モジュール72を含んでいる。出力/表示モジュール72は、ユーザー、コンピュータの内部または外部コンポーネント、リモート・コンピュータ、またはコンピュータ読み取り可能な媒体の記憶場所に対して、上記識別子と、任意で関連付けられている情報とを出力または表示する。メモリ36はさらに、上記識別された凍結増殖臍帯血幹細胞サンプル、または増殖臍帯血幹細胞サンプルプールに対してロボット検索を実行する任意検索モジュール74を含んでいる。上記選択モジュールは、上記第6.6部に記載されているように、コンピュータを用いて選択を行うことができる。上記モジュールのうちの一つまたは複数が、コンピュータ10上で、またはコンピュータ10によってアドレスが参照できる他のコンピュータ上で、作動させることができる点が理解されるであろう。よって、本発明は、複数のコンピュータを有する複数のシステム11であって、上記コンピュータのそれぞれが、上記増殖CB幹細胞サンプルまたは増殖CB幹細胞サンプルプールのデータ44の一部またはすべてを任意で格納し、本明細書に開示される各方法のうちの任意の方法またはすべての方法を実施するシステム11を、その範疇に含んでいる。いくつかの実施形態では、システム11はコンピュータのクラスタである。
本発明のある実施形態では、免疫不全の人間の患者に造血機能を提供する際に利用する凍結増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを選択するための、コンピュータで行われる方法が提供される。上記方法は、適切にプログラムされたコンピュータによって実行される以下の各工程を含んでいる。すなわち、(a)コンピュータデータベースに格納されている少なくとも50、100、200、250、300、400、500、600、700、750、800、1,000、2,000、3,000、5,000、7,500、10,000、25,000、50,000、または100,000個の複数の識別子から識別子を選択する。ここで、各識別子は、異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血に由来する増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを識別し、上記サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならず、上記選択は、上記識別子によって識別される増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルまたはそのアリコートを、必要とする患者に投与するために行われる。さらに、(b)上記選択された識別子を出力または表示する。本発明の他の実施形態では、コンピュータで行われる方法は、適切にプログラムされたコンピュータによって実行される以下の各工程を含んでいる。すなわち、(a)コンピュータデータベースに格納されている少なくとも50、100、200、250、300、400、500、600、700、750、800、1,000、2,000、3,000、5,000、7,500、10,000、25,000、50,000、または100,000個の複数の識別子から識別子を選択する。ここで、各識別子は、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルの凍結保存プールを識別し、各プールは、異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血に由来する、2つ以上の異なる増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを含んでおり、上記サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならず、上記選択では、上記識別子によって識別されるプールまたはそのアリコートの、必要とする患者への投与のために、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールを識別する。さらに、(b)上記選択された識別子を出力または表示する。特定の実施形態では、上記識別子は、ユーザー、コンピュータの内部または外部コンポーネント、リモート・コンピュータ、またはコンピュータ読み取り可能な媒体の記憶場所に出力または表示される。上記出力/表示では、上記識別子によって識別される上記増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルまたはサンプルプールの物理的な位置に関する情報を出力または表示することもできる。具体的な実施形態では、上記方法は、上記識別された凍結増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルまたはサンプルプールに対してロボット検索を実行する工程をさらに含んでいる。
上記選択がすでにプールされたサンプルから行われる具体的な実施形態では、上記選択の工程は、さらに、少なくとも7,500万個のCD34+細胞を含んでいないサンプルプールを取り除く工程を含む。他の実施形態では、上記選択の工程は、さらに、患者の体重1kg当たり50万個を超えるCD3+細胞を含むサンプルプールを取り除く工程を含む。さらに他の実施形態では、上記選択の工程は、さらに、上記患者と、患者によって確立したHLA抗原または対立遺伝子の型のサンプルプールとの間でHLA抗原または対立遺伝子について集合的に1つまたは2つの不適合があるサンプルを含むサンプルプールを受入れる工程を含む。他の実施形態では、上記選択は、第6.6部に記載されるように行うことができる。
投与前の保存された個々のプールされるサンプル(プールされていない)から上記選択が行われる具体的な実施形態では、上記方法は、続いて、(a)上記プールが投与される患者によって確立したHLA抗原または対立遺伝子の型に対してプール内で2つ以上の集合的なHLA抗原または対立遺伝子が不適合となり、かつ(b)予め選択した最大数の個々のサンプルがプールを形成するのに用いられる以前に上記プールが到達するまでに、選択されプールされるサンプルを考慮する工程を含む。よって、上記最大数の個々のサンプルが上記プールを形成するために受入れられる前に、上記方法は、上記プールにサンプルが追加されれば、当該サンプルによって、上記患者によって確立したHLA抗原および対立遺伝子の型に対し2つ以上の集合的な不適合が上記プールにあるか否かを考慮するステップを含む。上記プールへサンプルを追加することによって2つ以上の集合的な不適合が上記プールにある場合、そのサンプルは取り除かれ、次のサンプルが考慮される。
本発明の別の実施形態では、コンピュータシステムと併用されるコンピュータプログラムプロダクトが提供される。上記コンピュータプログラムプロダクトは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とその中に埋め込まれたコンピュータプログラム機構とを含んでいる。上記コンピュータプログラムは、(a)コンピュータデータベースに格納されている少なくとも50、100、200、250、300、400、500、600、700、750、800、1,000、2,000、3,000、5,000、7,500、10,000、25,000、50,000、または100,000個の複数の識別子から識別子を選択するための実行可能な命令を含んでいる。ここで、各識別子は、異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血に由来する凍結保存された増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを識別し、上記サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならず、上記選択は、上記識別子によって識別される増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルまたはそのアリコートを、必要とする患者に投与するために行われる。上記コンピュータプログラムプロダクトはさらに、(b)上記選択された識別子を出力または表示するための実行可能な命令を含んでいる。本発明の他の実施形態では、コンピュータプログラムプロダクトは、(a)コンピュータデータベースに格納されている少なくとも50、100、200、250、300、400、500、600、700、750、800、1,000、2,000、3,000、5,000、7,500、10,000、25,000、50,000、または100,000個の複数の識別子から識別子を選択するための実行可能な命令を含んでいる。ここで、各識別子は、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルの凍結保存プールを識別し、各プールは、異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血に由来する、2つ以上の異なる増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを含んでおり、上記サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならず、上記選択では、上記識別子によって識別されるプールまたはそのアリコートの、必要とする患者への投与のために、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールを識別する。上記コンピュータプログラムプロダクトはさらに、(b)上記選択された識別子を出力または表示するための実行可能な命令を含んでいる。ある特定の実施形態では、上記識別子は、ユーザー、コンピュータの内部または外部コンポーネント、リモート・コンピュータ、またはコンピュータ読み取り可能な媒体の記憶場所に出力または表示される。具体的な実施形態では、上記コンピュータプログラムプロダクトは、上記識別された凍結増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルまたはサンプルプールに対してロボット検索を実行する工程を行うための実行可能な命令をさらに含んでいる。
上記選択がすでにプールされたサンプルから行われる具体的な実施形態では、上記選択は、さらに、少なくとも7,500万個のCD34+細胞を含んでいないサンプルプールの除去を含む。他の実施形態では、上記選択は、さらに、患者の体重1kg当たり50万個を超えるCD3+細胞を含むサンプルプールの除去を含む。さらに他の実施形態では、上記選択は、さらに、上記患者と、患者によって確立したHLA抗原または対立遺伝子の型のサンプルプールとの間でHLA抗原または対立遺伝子について集合的に0、1つまたは2つの不適合があるサンプルを含むサンプルプールの受入を含む。さらに他の実施形態では、上記選択は、さらに、上記患者と、患者によって確立したHLA抗原または対立遺伝子の型のサンプルプールとの間でHLA抗原または対立遺伝子について集合的に1つまたは2つの不適合があるサンプルを含むサンプルプールの受入を含む。他の実施形態では上記選択は、第6.6部に記載されるように行うことができる。
投与前の保存された個々のプールされるサンプル(プールされていない)から上記選択が行われる具体的な実施形態では、上記識別子を選択するための実行可能な命令は、続いて、(a)上記プールが投与される患者によって確立したHLA抗原または対立遺伝子の型に対してプール内で2つ以上の集合的なHLA抗原または対立遺伝子が不適合となり、かつ(b)予め選択した最大数の個々のサンプルがプールを形成するのに用いられる以前に上記プールが到達するまでに、選択されプールされるサンプルを考慮するための指令を含む。よって、上記最大数の個々のサンプルが上記プールを形成するために受入れられる前に、上記指令は、上記プールにサンプルが追加されれば、当該サンプルによって、上記患者によって確立したHLA抗原および対立遺伝子の型に対し2つ以上の集合的な不適合が上記プールにあるか否かを考慮するステップを含む。上記プールへサンプルを追加することによって2つ以上の集合的な不適合が上記プールにある場合、そのサンプルは取り除かれ、次のサンプルが考慮される。
さらに別の実施形態では、本発明によると、プロセッサと、上記プロセッサに結合されたメモリとを含む装置が提供される。上記メモリはモジュールを格納しており、上記モジュールは、(a)コンピュータデータベースに格納されている少なくとも50、100、200、250、300、400、500、600、700、750、800、1,000、2,000、3,000、5,000、7,500、10,000、25,000、50,000、または100,000個の複数の識別子から識別子を選択するための実行可能な命令を含んでいる。ここで、各識別子は、異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血に由来する凍結保存された増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを識別し、上記サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならず、上記選択は、上記識別子によって識別される増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルまたはそのアリコートを、必要とする患者に投与するために行われる。上記コンピュータプログラムはさらに、(b)上記選択された識別子を出力または表示するための実行可能な命令を含んでいる。他の実施形態では、上記装置は、プロセッサと、上記プロセッサに結合されたメモリとを含む。上記メモリはモジュールを格納しており、上記モジュールは、(a)コンピュータデータベースに格納されている少なくとも50、100、200、250、300、400、500、600、700、750、800、1,000、2,000、3,000、5,000、7,500、10,000、25,000、50,000、または100,000個の複数の識別子から識別子を選択するための実行可能な命令を含んでいる。ここで、各識別子は、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルの凍結保存プールを識別し、各プールは、異なる人間の出生時の臍帯血および/または胎盤血に由来する、2つ以上の異なる増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを含んでおり、上記サンプルは、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならず、上記選択では、上記識別子によって識別されるプールまたはそのアリコートの、必要とする患者への投与のために、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールを識別する。上記コンピュータプログラムプロダクトはさらに、(b)上記選択された識別子を出力または表示するための実行可能な命令を含んでいる。ある特定の実施形態では、上記識別子は、ユーザー、コンピュータの内部または外部コンポーネント、リモート・コンピュータ、またはコンピュータ読み取り可能な媒体の記憶場所に出力または表示される。具体的な実施形態では、上記装置は、上記識別された凍結増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルまたはサンプルプールに対してロボット検索を実行する工程を行うための実行可能な命令をさらに含んでいる。
上記選択がすでにプールされたサンプルから行われる具体的な実施形態では、上記選択は、さらに、少なくとも7,500万個のCD34+細胞を含んでいないサンプルプールの除去を含む。他の実施形態では、上記選択は、さらに、患者の体重1kg当たり50万個を超えるCD3+細胞を含むサンプルプールの除去を含む。さらに他の実施形態では、上記選択は、さらに、上記患者と、患者によって確立したHLA抗原または対立遺伝子の型のサンプルプールとの間でHLA抗原または対立遺伝子について集合的に0、1つまたは2つの不適合があるサンプルを含むサンプルプールの受入を含む。さらに他の実施形態では、上記選択は、さらに、上記患者と、患者によって確立したHLA抗原または対立遺伝子の型のサンプルプールとの間でHLA抗原または対立遺伝子について集合的に1つまたは2つの不適合があるサンプルを含むサンプルプールの受入を含む。他の実施形態では上記選択は、第6.6部に記載されるように行うことができる。
投与前の保存された個々のプールされるサンプル(プールされていない)から上記選択が行われる具体的な実施形態では、上記識別子を選択するための実行可能な命令は、続いて、(a)上記プールが投与される患者によって確立したHLA抗原または対立遺伝子の型に対してプール内で2つ以上の集合的なHLA抗原または対立遺伝子が不適合となり、かつ(b)予め選択した最大数の個々のサンプルがプールを形成するのに用いられる以前に上記プールが到達するまでに、選択されプールされるサンプルを考慮するための指令を含む。よって、上記最大数の個々のサンプルが上記プールを形成するために受入れられる前に、上記指令は、上記プールにサンプルが追加されれば、当該サンプルによって、上記患者によって確立したHLA抗原および対立遺伝子の型に対し2つ以上の集合的な不適合が上記プールにあるか否かを考慮するステップを含む。上記プールへサンプルを追加することによって2つ以上の集合的な不適合が上記プールにある場合、そのサンプルは取り除かれ、次のサンプルが考慮される。
本発明の上記各方法を実施するための、さらに本発明の上記幹細胞および増殖CB幹細胞集団またはそのプールを生成するための、他の実施形態は、当業者にとって明らかであろう。上記他の実施形態は、添付の請求項の示す範囲内で理解されるものである。以下の第7−10部に記載の各実験例は、例示のために記載されたものであり、本発明を上記各実験例に制限するために記載されたものではない。
7. 本発明の代替的な実施形態
ここに記述された本発明の全ての態様に適用可能な本発明の代替的な実施形態では、2つ以上の異なる増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルプールは、「上記プール中の上記サンプルが、上記患者によって確立した2つを超えるHLA抗原または対立遺伝子の型で集合的に上記患者と不適合とならない」ことを特徴とする代わりに、上記プール中の少なくとも1つのサンプルが、上記患者および上記サンプルによって確立した6つのHLA抗原または対立遺伝子の型のうち3つ、4つ、5つ、または6つで上記患者と適合することを特徴としている。このような代替的な実施形態では、上記プール中の他のサンプルは、もしあれば、上記患者のHLA抗原または対立遺伝子と適合せずに、あるいは適合について考慮せずに、投与される。
8.実施例:CD34+細胞の濃縮と増殖
本実施例に提示されたデータは、迅速かつ一過性の骨髄生着を提供し、免疫不全症患者の自己造血回復を促進する可能性がある既製のHLA不適合製剤として、Notch機能の作動物質を用いて生体外で増殖されたCD34+臍帯血幹細胞の有用性を支持するものである。従来技術においては、HLA適合が求められるため、個々の患者が適合するユニットを得るには、実現不可能な数の増殖前ユニットが必要となり、予め生体外増殖を行っておくことは不可能であった。一方、臍帯血幹細胞にHLA適合が不要または制限付HLA適合が必要である場合、増殖されていない低温保存の細胞の「バンク」を生成することができ、その製剤はすぐに利用できるであろう。
8.1 CD34+/CD38-とCD34+との比較
CD34+またはCD34+CD38-ヒト臍帯血前駆細胞集団から出発したSCID再構築細胞(SRC)の成長特性および生成が比較された。濃縮CD34+CD38-臍帯血前駆細胞は、Delaney et al(2005,Blood 106: 1784-1789)に記載されているように、Notchを介した増殖のための出発細胞集団として用いた。細胞は、シトキン(SCF
300ng/ml、Flt3L 300ng/ml、TPO 100ng/ml、IL-6 100ng/ml、IL-3 10ng/ml、「5GF」と称する)が補充された無血清状態で、フィブロネクチン断片と固定化培養Notchリガンド(Delta1ext-IgG)または対照ヒトIgGとの存在下で17〜21日間培養した。Delta1ext-IgGは、ヒトIgG1のFcドメインを融合したDelta1の細胞外ドメインからなる。CD34+出発細胞集団とCD34+CD38-出発細胞集団とにおいて、CD34+細胞増殖倍率138±64および163±64(平均±標準誤差、p=0.1612、データ不図示)での、それぞれの発生したCD34+細胞の絶対数には大きな差は見られなかった。しかしながら、注入後3週間、6週間、10週間の生体内NOD/SCID再構築力を評価したところ、CD34+出発細胞集団がCD34+CD38-出発細胞集団と比較して用いられた場合に、レシピエントマウスの骨髄においてヒト生着が向上していた(Delta1ext-IgGの存在下で培養された、CD34+出発細胞集団とCD34+CD38-出発細胞集団とにおいて、平均CD45%:3週間で6.7%対1.6%、p=0.02;10週間で1.0%対0.2%、p=0.1)。また、5GFの組み合わせは、CD34+細胞の生体内生成と、限界希釈法によって得られたSRC出現率とに対して少量のシトキンを利用した組み合わせより優れていた(データ不図示)。
8.2 Delta1ext-IgGとともに臍帯血前駆細胞を培養することにより、SCID再構築細胞(SRC)の出現率が増加する
UCB再構築細胞のNotchを介した生成のための最適条件を確認し、臍帯血幹・前駆細胞の発生のための閉鎖系を調べるための実験を行った。無血清培地においてシトキン(10ng/mlのIL-3、100ng/mlのIL-6およびTPO,300ng/mlのSCFおよびFlt3リガンド)と低濃度リポタンパク(20ng/mlのLDL)との存在下、CH−296フィブロネクチン断片とともに組織培養容器の表面に固定されたDelta1ext-IgGを用いて、ヒトCD34+臍帯血細胞を17日間培養した。再構築細胞の生成数は、定量限定希釈法によって求めた。ここで、8〜15匹のマウスが1.5×105、3×104、または6×103の非培養細胞あるいは3×104、6×103、または1.2×103の培養後代細胞を受容していた。ただし、非培養細胞を受容していたマウスは、アクセサリー細胞として放射線照射された2×105のCD34-細胞をも受容しており、生着が促進されていた。一方、そのようなアクセサリー細胞の機能は培養中に分化骨髄細胞によってもたらされるため、培養細胞はアクセサリー細胞を必要としない。
出発細胞集団中での再構築細胞の出現率は、L-CalcTMソフトウェアを用いたポアソン分析によって求められた。その結果、Delta1ext-IgG細胞は、細胞導入後3週間(p=0.0001)で非培養細胞の15.8倍のSRC出現率増加となり、また9週間で(p=0.0001)で非培養細胞の6.3倍のSRC出現率増加となっており(図2a参照)、Delta1ext-IgGを用いた培養によって再構築能が顕著に向上した。
さらに、ヒトCD34+細胞の系統評価(リンパと骨髄との対比)とともに、ヒトCD34+細胞の増殖倍率およびヒト生着率の生体内レベルが求められた。これら五つの実験において、CD34+細胞の平均増殖倍率は、Delta1ext-IgG培養細胞に対して230±53(平均±標準誤差)であり、対照培養細胞(p=0.03)に対しては65±31(平均±標準誤差)であった(データ不図示)。また、Delta1ext-IgG培養細胞からのCD33+骨髄細胞およびCD19+B細胞とともにヒトCD45+細胞の生着率が著しく増加していた(図2b参照)。Delta1ext-IgGを用いて培養された細胞は、3週間目と対比して9週間目での造血機能の再構築が全体として促進されたが、これは主として生着リンパ細胞の増加に起因するものであり、成熟細胞の増殖によるものと推定された。一方、骨髄生着の減少により、生着細胞の少なくとも一部が事実上短命であることが示唆された。
8.3 Delta1ext-IgG培養UCB前駆細胞の早期生着の可能性
三つの独立した実験において、上記8.2に示すように製造されたDelta1ext-IgG培養ヒト臍帯血幹・前駆細胞の生着を、Delta1ext-IgGで培養されていないヒト臍帯血幹・前駆細胞の生着と比較したところ、非培養臍帯血幹細胞を受容したマウスへの移植後10日での生着はほとんど見られなかった。一方、Delta1ext-IgG培養ヒト臍帯血幹・前駆細胞を受容したすべてのマウスにおいては、ヒト抗体CD33/CD45の共発現によって測定されたとき、>95%の骨髄性細胞からなるヒト生着が>0.5%の水準で生着した(図3参照)。よって、上記データを総合すれば明らかなように、Delta1ext-IgGを用いて臍帯血前駆細胞を培養することによって、NOD/SCID再構築細胞の生体内生成と出現率が著しく向上し、その結果、NOD/SCIDマウスモデルにおけるヒト生着の動態と水準とが向上する。
8.4 増殖細胞産物の低温保存後の生体内再構築能の維持
免疫不全マウスモデルを使って、低温保存された生体外増殖前駆細胞の生着能を評価した。低温保存された生体外増殖前駆細胞は、上記8.2に記載の方法に従って増殖した。最初の実験として、採取直後に免疫不全マウスに直接注入されたヒト増殖細胞と、増殖後に採取し、後の使用のために低温保存しておいたヒト増殖細胞とについて生体内再構築能を比較した。培養し、(造血細胞の低温保存に使用されるDMSO含有標準培地中にて)低温保存し、そして移植前に解凍した細胞と、培養の終了時に採取し、新鮮な状態で注入した増殖前駆細胞との生体内再構築能において、顕著な差は見られなかった(図4a参照)。また、実験をさらに行い、増殖細胞産物の再構築能は、低温保存後でも維持されることがわかった。図4bに示すように、ヒト増殖低温保存細胞を受容したすべてのマウスは、注入後2週間で8%、4週間で7%の総合的な平均ヒト生着率で生着した(骨髄中>0.5%のヒト抗体CD45で定義)。またさらに、個々に異なる三つの解凍方法(解凍と洗浄、解凍と多糖体/ヒト血清アルブミンでの希釈、解凍と直接注入)においても比較されたが、これら評価した三つの方法においても顕著な差は見られなかった(図4c参照)。
8.5 Delta1ext-IgG培養マウス造血前駆細胞による、H−2不適合レシピエントにおける短期生着および放射能照射後の自己回復の促進
以下で説明されるマウスモデルを用いた研究によれば、マウス造血前駆細胞(LSK細胞)に由来する前駆細胞の数を増やすことで、H−2不適合レシピエントに移植した場合に短期生着を提供することができるということが分かっている。C57BL/6.J Ly5.1(CD45.1)マウスのLSK細胞は、上述したようにDelta1ext-IgGを用いて4週間培養された(Dallas et al.,2007, Blood 109: 3579-3587参照)。類似遺伝子型移植については、致死量の放射能が照射されたC57BL/6(H−2b、CD45.1)マウスは、105個のC57BL/6(H−2b、CD45.1)同系の全骨髄とともに、106個のDelta1ext-IgG培養Ly5.2(H−2b、CD45.2)初代LSK細胞を受容した。一方、異質遺伝子型移植については、致死量の放射能が照射されたBALB.c(H−2d、CD45.1)レシピエントは、106個のBALB.c(H−2d、CD45.1)同系の全骨髄とともに、106個のLy5.2(H−2b、CD45.2)Delta1ext-IgG培養LSK細胞を受容した。マウスの末梢血に対して、移植後数回にわたってFACS分析を行い、ドナーキメリズムを評価した(図5参照)。データによれば、上記Delta培養細胞は、主なH−2不適合で移植した場合に短期ドナー生着を提供することができるとういことが分かる。
さらに、データによれば、競合再構築アッセイにおいて、上記Delta1ext-IgG培養細胞は、(移植片対宿主疾患を引き起こす可能性のあるT細胞を欠損した)LSK骨髄細胞に比べて、照射後早期に造血生着を高めたということが示されている。また、データによれば、非培養前駆細胞と比べて、Delta1ext-IgG培養細胞の注入後の早期骨髄再構築の水準が高くなることが明らかである。Delta1ext-IgG培養後に異質遺伝子型細胞を受容したマウスの骨髄は、非培養異質遺伝子型ドナーLSK細胞を受容したマウスに比べて、はるかに多い異質遺伝子型ドナー細胞を含んでいた。さらに、レシピエントマウスの生存を確実にするために、同系細胞に由来する生着の評価を行ったところ、Delta1ext-IgG培養異質遺伝子型細胞と同時に移植された場合に同系細胞の生着を促進することが明らかになった。ホストに由来する細胞の数は、非培養異質遺伝子型細胞に比べて、Delta1ext-IgG培養細胞を受容したレシピエントの方が多かった(図6参照)。このように、このデータによれば、培養細胞による生着が不適合環境にて起こり、Delta1ext-IgG培養細胞は同系細胞の生着を促進するとういことを示し、さらに、それらの細胞に、照射後に残存している自己幹細胞の回復を促進する可能性があるということを示唆している。
個別の実験において、流動細胞分類(103)によってC57黒マウスの骨髄から得られたLy5a Lin−Sca−1 c−kit+(H-2b、CD45.1)(「LSK)細胞は、成長培地固定化Delta1ext-IgGで培養することによって増殖した(増殖LSK細胞)。対照(非増殖)LSK細胞は、IgGで培養した。上記成長培地(イスコフ改変ダルベッコ培地)は、それぞれ100ng/mLのマウス幹細胞因子と、ヒトFlt-3リガンドと、ヒトIL-6と、10ng/mLのヒトIL-11からなる4成長因子(4GF)と、20%FBSとが補充された(PeproTech社製、ロッキーヒル、ニュージャージー州)。細胞密度は、最初の2週間3〜5日おきにより大きな容器に細胞を移すことで、1平方センチメートル当たり約2.5×105個の細胞に維持された(Dallas et al., 2007, Blood 109: 3579-3587参照)。14日間の培養後、上記細胞は採取され、放射能を照射されたBalb-c(H-2d,CD45.2)マウスに移植された。図7は本実験プロトコルの概略図である。図8aと図8bは、図7に図示したプロトコルを行った結果、致死量の放射能を照射されたBalb-cマウスの骨髄(図8a)と末梢血(図8b)とにおける増殖LSK細胞と非増殖LSK細胞それぞれの生着率をドナー率(免疫表現型検査とFACS分析とによって求められた骨髄または末梢血中のドナー細胞率)で示している。結果によれば、増殖幹・前駆細胞に放射能を1回照射した後、不適合環境で注入したときに効果的な生着が得られることが確認された。同様の実験では、上記のように増殖された5×106個の低温保存LSK細胞が、7.5Gyまたは8Gyの放射線を被曝したマウスに注入された。図9aと図9bに示すように、増殖LSK細胞(“Delta”として示す)を注入したマウスは、生理食塩水を注入した対照群と比べて、生存率が上昇した。8.5Gyの致死量の放射線を照射されたマウスの生存率は、1×106個または3×106個のIgG培養(非増殖)LSK細胞よりは、3×106個、5×106個または10×106個のDelta1ext-IgG培養(増殖)LSK細胞を注入した方が、上昇した(図10参照)。また、図7に記載のプロトコルの後に行った別の実験では、免疫表現型検査およびFACS分析によって骨髄と末梢血中のドナー細胞率(ドナー率)を測定したところ、不適合増殖LSK細胞(DXI)のドナー生着は、放射線照射量の増加に伴い向上した(図11aおよび11b参照)。
8.6 臨床CBT試験段階1の予備結果
上記を臨床的に直接解釈すると、骨髄機能廃絶移植前処置の後、進行中の臍帯血移植試験段階1(FHCRC Protocol 2044)に生体外増殖臍帯血前駆細胞を使用するとの結論に至った。上記試験段階1の結果、このプロトコルが安全であるということだけでなく、さらに重要なことに、生体外増殖造血前駆細胞による骨髄生着が迅速であったこと、そしてその結果、絶対好中球係数500/μlに到達するまでの中位時間がたった14日にまで大幅に減少したことが明らかになった。このことは、本研究機関にて同じ治療計画で二つの非操作臍帯血ユニットを用いて中央値26日で生着した患者群(N=20)と比較しても、統計的に有意な(p=0.002)生着時間の減少である(図12参照)。これら二つの群は、年齢、体重、診断、非操作臍帯血ユニットによる細胞注入量の点で、大きく異ならなかった。>100/μlのANC閾値は、異質遺伝子型幹細胞移植後の延命効果と強い相関があることが示唆された(Offner et al., 1996, Blood 88:4058参照)。登録患者のうち、>100/μlのANC閾値に到達するのに必要な時間の中央値は、(上述の)従来の設定(p=0.006、データ不図示)では19日であるのに対して、9日であった。
これまでの分析してきた11人の患者において、注入に使用可能なCD34+細胞の絶対数の生体外増殖に失敗したことがなかった。CD34+細胞の平均増殖倍率は、総細胞数に対して163倍(±43標準誤差、41〜471倍)と590倍(±124標準誤差、146〜1496倍)であった。上記平均増殖倍率は、1キログラム当たり非操作臍帯血移植片0.24×106個のCD34(0.06〜0.54×106の範囲)に対して、1kg当たり平均増殖臍帯血移植片6×106個のCD34(0.93〜13×106)に由来するCD34細胞注入量(レシピエントの総重量(kg)当たりのCD34+細胞数)の著しい増加と相関する。生体外増殖が施されたユニットは、CD34で選択され、ゆえにT細胞が培養開始前に枯渇しているということは特筆すべきことである。生存率や追加の免疫表現型検査を含む最終採取産物の追加の詳細を下記表IIに示す。表IIに示すように、CD3+/CD4+細胞もCD3+/CD8+細胞も同定されなかった。培養中は、成熟T細胞が生成されなかった。また、以下に記載されているように、増殖細胞がレシピエントに対して少なくとも4/6HLA適合した環境においても、上記増殖細胞はCD3の生着に寄与しない。CD4+/CD3-/CD8-細胞は、培養中に見られ、単球と一致していた。
上記増殖または非操作移植片に由来するドナー生着への寄与率は、末梢血分類細胞分画に移植後7日目を起点として最初の1ヶ月間週ごとに決定した。生着が見られた患者9人中8人は、評価に十分な数の末梢血分類骨髄細胞が存在し、これら8人の患者の一人ひとりにおいて、CD33細胞片とCD14細胞片との両方で増殖細胞移植片に由来するドナー細胞生着の優位性が認められた。7日目での早期骨髄回復に寄与したのは、ほぼ全面的に上記増殖細胞移植片に由来するものであるが、概して移植後14〜21日以上は持続しなかった。しかしながら、生着までの時間は著しく減少し、上記生体外増殖細胞が上記非操作ユニットに及ぼす潜在的促進効果を示唆した。1人の患者を除いたすべての患者において、予想通り、非操作ドナー移植片が持続的ドナー生着の要因となっていた。
上記増殖細胞移植片の長期生体内持続性は二人の患者に見られた。うち一人の患者を移植後240日目に検査したところ、ドナーCD14、CD56とCD19細胞の一部(10〜15%)は上記増殖細胞移植片に由来するものであったが、上記長期生体内持続性は1年と持たなかった。もう一人の患者を移植後180日目で検査したところ、CD33、CD14、CD56とCD19細胞における移植後180日目での上記増殖細胞移植片集団による生着への寄与率は、総ドナー生着の25〜66%であった。しかしながら、上記増殖細胞移植片はCD3+細胞の生着には寄与しなかった。
9.実施例:臨床濃縮および増殖
以下、図13のフローチャートを参照しながら、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルの製造と保存について説明する。
臍帯血/胎盤血ユニットは、出生時の一人の人間から採取され、凝固しないように抗凝血剤と混ぜられた。そして、監視付き冷蔵庫の中で、4℃で隔離保存した。こうして得られたユニットを評価し、増殖対象となるユニットを決定した。各ユニットについて、以下の情報、すなわち、取得日、ユニットの年齢、ドナーの在胎週齢、ドナーの性別、ユニットの容積を収集した。また、各ユニットの総有核細胞計数および総CD34+細胞計数を決定し、総有核細胞数に対するCD34+細胞の割合を求めた。350万個未満のCD34+細胞を含有するユニットは除外した。増殖対象として選ばれたユニットは、隔離が解かれ、固有のロット番号識別子が与えられた。そのロット番号は製造過程を通して保持されるものである。
増殖培養を計画的に開始する前に、まず初めに、組織培養容器を、4℃で一晩または37℃で少なくとも2時間、リン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline;PBS)中、2.5μg/mlのDelta1ext-IgGと5μg/mlのRetroNectin(登録商標)(ヒト組み換えフィブロネクチン断片)(ClontecHLAboratories(クロンテック社)製、マディソン、ウィスコンシン州)とで覆った。その後、PBSでフラスコを洗浄し、PBS2%ヒト血清アルブミン(HSA)でふさいだ。CliniMACS(登録商標)Plus細胞分離システムを用いて、CD34+細胞に対して選択を行うように新鮮な臍帯血ユニットを処理した。CD34選択の前に、上記新鮮な臍帯血ユニットのアリコートを、総細胞数とCD34含有量について調べた。CD34+およびCD34−細胞分画はともに処理後回復させた。濃縮後、サンプル中のCD34+細胞の割合が、濃縮前のサンプル中のCD34+細胞の割合に対して88〜223倍増加した。初期のHLA適合検査に対する上記CD34−細胞分画のサンプルからDNAを抽出した。濃縮CD34+細胞分画を最終培地にて再懸濁した。この最終培地は、rhIL−3(10ng/ml)と、rhIL−6(50ng/ml)と、rhTPO(50ng/ml)と、rhFlt−3L(50ng/ml)と、rhSCF(50ng/ml)とが補充されたSTEMSPAN(登録商標)無血清増殖培地(StemCell Technologies社製、バンクーバー、ブリティッシュコロンビア州)からなる。
特定のラベルを付し、用意しておいた上記組織培養容器に、上記組織培養容器の1平方センチメートル当たり1.8×104個以上の総有核細胞濃度でCD34+濃縮細胞を加え、上記ロットの製剤専用の監視/アラーム付き培養器に入れた。2〜4日間の培養後、(上記のような)新鮮な培地の原体積の50%を上記組織培養容器に加えた。上記細胞培養容器は定期的に(1〜3日ごとに)培養器から取り出し、倒立顕微鏡で細胞の成長や雑菌混入の兆候を調べた。5〜8日目に、上記容器の中の細胞を穏やかに攪拌し、そこから1mlのサンプルを取り出し、処理試験に供した。その細胞のサンプルを数え、CD34、CD7、CD14、CD15、CD56の発現について表現型を割り出した。培養期間中、細胞密度が1ml当たり8×105個に増加した場合、細胞を適宜新たなフラスコに移した。細胞を採取し低温保存する前日に、新鮮な培地を加えた。
14〜16日目に、増殖細胞集団を採取して、低温保存した。上記組織培養容器中の内容物を攪拌し、500mlの無菌遠心分離管に移した。採取された細胞を遠心分離し、PBS中で遠心分離することで一度洗浄し、HSAと、Normosol-R(Hospira社製、レイクフォレスト、イリノイ州)と、ジメチルスルホキシド(DMSO)とを含有する凍結防止溶液の中で再懸濁した。解縛試験を完了させるためにサンプルを取り出した。増殖CB幹細胞集団産物を温度制御機能付冷凍庫にて冷凍し、気相液体窒素(LN2)冷凍庫に移して保存した。
培養期間終了時に得られた細胞集団は、CD34、CD7、CD14、CD15、およびCD56抗原の存在に関する流動細胞分析から明らかなように、CD34+前駆細胞だけでなく、より成熟した骨髄/リンパ前駆細胞をも含有する異種細胞集団であった。以下、表IIIに、増殖期間終了時における増殖細胞の典型的な流動細胞特徴を示す。
表IIIから明らかなように、培養期間中にCD34+細胞数と総細胞数が著しく増加していた。具体的には、CD34+細胞増殖倍率は100〜387倍であり、総細胞増殖倍率は617〜3337倍であった(N=9:上述の最終臨床増殖手順に従って処理された個別の臍帯血ユニット)。免疫表現型検査によって計測したところ、T細胞は本質的に全く存在しなかった。機能上、これらの細胞は、上記のように、NOD/SCIDマウスモデルの中で多重系統ヒト造血生着ができる。
以下、表IVに、10回の本格的生体外増殖からのデータを示す。総細胞数の平均増殖倍率は1723±230(平均±標準誤差)であり、CD34+細胞数の平均増殖倍率は179±30(平均±標準誤差)であった。
表Vに、19の本格生体外増殖物に関する、増殖後の、総有核細胞およびCD34+細胞それぞれの開始数、終了数、増殖倍率を示す。
これら19の増殖ヒト臍帯血幹細胞を、一つまたは複数のバッグにて低温保存した。表VIに、低温保存前の各増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルに関する総有核細胞計数(TNC)とCD34+細胞計数と、低温保存前の細胞生存率と、各凍結バッグにおけるTNCとCD34+細胞計数とを示す。
また、12個の濃縮CD34+細胞の追加サンプルをDelta1ext-IgGで増殖したところ、低温保存前のCD34+細胞の平均倍率(標準誤差17)は、141倍であった。
10.実施例:急性骨髄性白血病(AML)患者の治療
10.1 設計
増殖ヒト臍帯血幹細胞の投与による、強化導入化学療を受けた急性骨髄性白血病(AML)患者における造血機能の急速な回復を目的とした、臨床実験の設計について説明すれば以下の通りである。本研究では、1群当たり10〜15人の患者からなる3群が登録される。各群に対して、病状に応じた個別の試験対象患者基準を設けた。A群にはまず合計10人の患者が登録された。安全基準を満たすのであれば、合計15人の患者でB群を構成する。さらに、安全基準が満たされるのであれば、合計15人の患者でC群を構成する。
A群:WHO基準で急性骨髄性白血病と診断。再発性または治療抵抗性。急性前骨髄球性白血病[t(15;17)(q22;q12)転座と変種を持つ急性前骨髄球性白血病]患者で三酸化ヒ素を用いた療法に効果のなかった患者はA群に含まれる。この群に属する患者は1年未満の初期寛解期を経ており、かつ救援化学療法は受けた経験がない。
B群:予後不良の細胞遺伝学的異常または分子的異常をもった未治療急性骨髄性白血病患者。
C群:予後中度の未治療急性骨髄性白血病患者。
上記病状基準に加えて、すべての患者は以下の試験対象患者基準を満たす必要がある。1.まず、各グループに3人の60歳未満の患者を登録する。その後、18歳以上70歳以下の患者を適格とする。
2.各グループの3患者は、ECOG一般状態が0〜1であり、その後、ECOG一般状態が0〜2であることが求められる。
3.患者は、以下の検査値で示されるような適切な腎臓機能および肝臓機能を有する。
a.血清クレアチニン≦1.0mg/dL。血清クレアチニン>1.0mg/dLの場合、推定糸球体濾過速度(glomerular filtration rate;GFR)は60mL/min/1.73m2より高くなければならない。推定糸球体濾過速度(GFR)は、Modification of Diet in Renal Diseaseの式によって求められる。上記式では、推定GFR(ml/min/1.73m2)=186×(血清クレアチニン)−1.154×(年齢)−0.023×0.742(女性患者の場合)×1.212(黒人患者の場合)で表される。
b.血清総または直接ビリルビン≦1.5×正常上限(upper limit of normal;ULN)、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)/アラニントランスアミナーゼ(ALT)≦2.5×ULN、アルカリン・ホスファターゼ≦2.5×ULN
4.研究の治験的性質、潜在的リスク、および利益への理解と、有効なインフォームド・コンセントの提示。
5.妊娠能力がある女性患者は、登録前2週間以内に行う血清娠検査で陰性であること。6.男性および女性患者とも治験中と治験後最低6ヶ月間は効果的な避妊方法をいとわずに用いなければならない。
7.パネル反応性抗体(panel reactive antibody;PRA)が陰性、あるいは臍帯血抗原に対してドナー指向でないことが特徴付けられ分かっている特異抗体を持っている。
以下に該当する患者は、この治験から除外される。
1.異質遺伝子型移植物のレシピエント。
2.現在、併用化学療法、放射線療法、または上記プロトコルに記載された以外の免疫療法を受けている者。
3.重度の併発症を患っている者、または心臓・腎臓・肺に関連する重度の臓器機能不全または疾患(症候性肺炎、肺静脈閉塞性疾患を含む)あるいはその他の臓器機能不全の病歴のある者。
4.制御不可能な全身系の真菌感染、細菌感染、ウイルス感染、あるいは他の感染を患っている者(適切な抗生物質や他の治療を施しているにもかかわらず、感染の兆候を示し回復の兆しのない者)。
5.妊婦または授乳中の女性。
6.患者の安全やコンプライアンスを脅かしたり、同意・治験への参加・フォローアップ・治験結果の解釈に影響を及ぼしたりする併発症または疾患、精神疾患を抱えている者。
本治験で使用される増殖臍帯血幹細胞は、臨床用に低温保存された増殖臍帯血前駆細胞のバンクから選択される。各前駆細胞産物は、上記のようにNotchリガンドの存在下で生体外増殖され低温保存された、CD34選択された(ゆえにT細胞が枯渇した)臍帯血ユニット(ドナー)に由来するものである。新鮮な臍帯血ユニットは、Puget Sound Blood Center/Northwest Tissue Center (PSBC/NTC)のCord Blood (CB) Programとの連携によって得られる。増殖臍帯血幹細胞の選定は、下記記載に基づいて行われる。
A.全登録患者に対してパネル反応性抗体(PRA)検査を行う。ドナー指向抗体が存在すれば、この抗体の特異性に基づいて製剤を選定。PRA陰性の患者に対しては、細胞投与量制限を満たす製剤を投与すればよい。HLA適合/不適合は、PRA陽性でない患者に対しては考慮しなくてよい。
1.2回目の増殖細胞製剤を投与する患者に対しては、その製剤の選定の前に再度パネル反応性抗体(PRA)検査を行う。
B.細胞投与量
1.レシピエントの体重(kg)当たりに注入される総有核細胞投与量は、1×108個を超えてはならない。
2.レシピエントの体重(kg)当たりに注入されるCD34+細胞数の上限はない。
3.すべての増殖細胞産物を、凍結前にCD3+細胞に対して、免疫表現型検査によって評価する。CD3+細胞集団の存在が確認されず、T細胞(CD3+)集団が確認された製剤は、CD3+細胞数がレシピエントの体重(kg)当たり5×105個未満でない限り、使用されない。
C.増殖前駆細胞の反復注入:反復注入に対して重度の拒絶反応を示す患者には適さない。
図14に、急性骨髄性白血病(AML)の登録患者の治療計画を示す。
急性骨髄性白血病の登録患者に対して、1回目の導入化学療法を施し、その後、増殖臍帯血前駆細胞を注入する。また、下記記載の条件を満たすのであれば、導入化学療法後21〜28日目で2回目の増殖細胞産物の注入が可能である。
1.形態学に基づいて骨髄芽球中に5%未満と定義される、残存白血病ではない。
2.これまで、髄外毒性のグレードが3〜4ではない。
3.好中球計数が500/μlにまで回復している(G-CSF上外に関係なく)
4.制御不可能な感染症に罹患していない。
5.初回の増殖細胞産物注入時に重度の拒絶反応を示していない。
地固め療法サイクル計画:図14に示すように、再寛解導入(増殖細胞なし)またはサイクル2(増殖細胞あり)後、寛解期(形態学に基づいて骨髄芽球中に5%未満と定義)に至った患者のみ、さらに地固め療法を受けることができる。適格者は、最大で2サイクル分の地固め療法を受けることができる。患者が地固め療法を受けるか否かは、幹細胞移植などの治療を別途今後受けるかどうかによって決まる。地固め療法は、増殖臍帯血前駆細胞を使用せずに行われる。
D.導入療法(図14も参照):
1.すべての患者に対して、1回目の導入サイクルを行い、その後、増殖臍帯血前駆細胞を注入する(図14の「サイクル1」参照)。適格者に対してのみ、図14の「導入サイクル2の連続増殖細胞導入適格」に示すように、導入サイクル2で2回目の増殖臍帯血前駆細胞の注入を行う。適格者以外のすべての患者に対しては、図14に示すように、増殖臍帯血前駆細胞を注入せず再寛解導入療法を行う。
2.患者が2回目の増殖前駆細胞の注入が適格かどうかにかかわらず、クロファラビン、Ara−C、G-CSFの投与量は導入サイクル1と2において同じである。
3.最も近いバイアルサイズに切り上げた5μg/kgのG-CSFを、化学療法の24時間前に皮下注入し、1日に1回5日目まで注入し続ける。増殖細胞製剤の注入を6日目に行い、その日にG-CSF行う。7日目にG-CSFの注入を再開し、2日連続で絶対好中球計数(ANC)が2000を超えるまでG-CSFを毎日継続する。
4.25mg/m2のクロファラビンを、1日に1回1時間かけて5日間静脈投与する。5.クロファラビン注入開始4時間後、2mg/m2のAra−Cを、1日に1回2時間かけて5日間静脈投与する。
6.本発明の増殖・低温保存臍帯血幹細胞を注入する。
a.増殖細胞産物の投与量と選定について:注入される総有核細胞計数(TNC)/kg細胞投与量は、レシピエントの体重(kg)当たり1×108個を超えてはならない。レシピエントの体重(kg)当たりに注入されるCD34細胞数の上限はない。すべての増殖細胞産物を、凍結前にCD3+細胞に対して、免疫表現型検査によって評価する。CD3+細胞集団の存在が確認されず、T細胞(CD3+)集団が確認された製剤は、CD3+細胞投与量がレシピエントの体重(kg)当たり5×105個未満でない限り、使用されない。
本発明の増殖臍帯血幹細胞の注入速度は、最初の4分間は1分当たり3〜5mlである。許容されるのであれば、注入速度を制限なく上げることも可能である。増殖細胞注入に使用されているカテーテルを使って投薬または液体投与を同時に行ってはならない。
E.地固め療法
1.幹細胞移植などの治療を別途今後受けるかどうかによって、寛解期(形態学に基づいて骨髄芽球中に5%未満と定義)にある患者に対して、2サイクル分の地固め療法を行うことができる。2サイクルの増殖細胞注入または増殖細胞注入なしの再導入を行ったあと治療抵抗性を示す患者は、本治験から除外される。
2.最も近いバイアルサイズに切り上げた5μg/kgのG-CSFを、化学療法の24時間前に皮下注入し、2日連続で絶対好中球計数(ANC)が2000を超えるまでG-CSFを毎日継続する。
3.20mg/m2のクロファラビンを、1日1回1時間かけて5日間静脈投与する。
4.クロファラビン注入開始4時間後に、2mg/m2のAra−Cを、1日1回2時間かけて5日間静脈投与する。幹細胞移植などの治療を別途今後受けるかどうかによって、寛解期(形態学に基づいて骨髄芽球中に5%未満と定義)にある患者に対して、2サイクル分の地固め療法を行うことができる。2サイクルの増殖細胞注入または増殖細胞注入なしの再導入を行ったあと治療抵抗性を示す患者は、本治験から除外される。
評価ガイドライン
A.治療前の評価
1.精密検査
2.病歴: 病歴、治療歴、治療成績に関する詳細な書類の作成
3.ECOG一般状態
4.12誘導心電図
5.血液学:分画と血小板数を含むCBC、および末梢血塗抹標本
6.血液生化学検査:電解質(ナトリウム、カリウム、塩素、重炭酸塩)、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン、グルコース、肝機能検査(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)かつ/またはアラニン・アミノトランスフェラーゼ(ALT)、アルカリホスファターゼ(ALP)、総ビリルビン、乳酸脱水素酵素(LDH))。
7.パネル反応性抗体(PRA)
8.G-CSF初回投与時からの有害事象評価
9.血液病理学、細胞遺伝学/FISH、フローサイトメトリーを含む、骨髄医療診断報告書の初期基準
10.移植後キメリズムを順次決定するために、患者からヘパリン添加末梢血を採取し、DNA鑑定によるキメリズム解析。
B.増殖前駆細胞注入の朝に終える評価
1.健康診断、および提供者によるシステムレビュー
2.看護師による体重測定(weight by nursing)
3. CBC[CBD](HCT、HGB、WBC、RBC、指数、血小板、分画/塗抹標本の評価を含む)
4.[SRFM]と[SHFL](マグネシウムを含む造血幹細胞移植(HSCT)腎機能パネル)と、乳酸脱水素酵素(LD)を含むHSCT肝機能パネル;SRFMはナトリウム、カリウム、塩素、二酸化炭素、グルコース、血中尿素窒素、クレアチニン、カルシウム、リン、アルブミン、マグネシウムを含む。SHFLは、ALT、AST、ALK、BILIT/D、トリポネーマパリダム(TP)、アルブミン、LDを含む)
5.精密尿検査。
C.生体外増殖臍帯血前駆細胞注入中の評価
1.生体外増殖臍帯血前駆細胞注入中は、正看護師(RN)が立会わなければならない。
2.入院患者ユニットに対して、医師(MD)またはフィジシャンアシスタント(PA)が対応可能でなければならない。
3.患者の心臓に異変があれば、医師に知らせ、心電図(ECG)をとる。
4.下記表中に記載の時点において、温度、血圧(BP)、脈拍(HR)、呼吸、酸素飽和などのバイタイルサインの取得・記録。
5.増殖細胞注入後24時間、排尿ごとにヘモグロビンとタンパク質の尿検査を行い、記録する。
D.生体外増殖臍帯血前駆細胞の注入24時間後の評価
1.CBC[CBD](HCT、HGB、WBC、RBC、指数、血小板、分画/塗抹標本の評価を含む)。
2.[SRFM]と[SHFL](マグネシウムを含む造血幹細胞移植(HSCT)腎機能パネル)と、乳酸脱水素酵素(LD)を含むHSCT肝機能パネル;SRFMはナトリウム、カリウム、塩素、二酸化炭素、グルコース、血中尿素窒素、クレアチニン、カルシウム、リン、アルブミン、マグネシウムを含む。SHFLは、ALT、AST、ALK、BILIT/D、トリポネーマパリダム(TP)、アルブミン、LDを含む)
3.精密的尿検査。
E.治療後の評価
1.生着率の研究:増殖細胞産物注入後7、14、21、28、56日目に(あるいは化学療法サイクルの13、20、27、34、62日目に)、増殖細胞産物による造血機能回復への寄与率を、選別された末梢血(CD3+、CD33+、CD14+、CD56+分画ごとに選別された細胞)から評価する。14日目時点で患者が100%ホストの場合は、それ以降の分析はその患者に対して一切行わない。注入された増殖細胞による生着が56日目においても持続していることが明らかな場合は、ドナーとホストの生着の動態を観察する必要に応じてドナーとホストのキメリズム解析を2〜4週間ごとに行う。ドナーとホストのキメリズムの割合は、ポリメラーゼ鎖反応(PCR)に基づいた反復配列多型分析(VNTR)配列の増殖によって評価される。VNTR配列はドナーとホスト固有のものであり、ホスホイメージ分析によって定量化される。
2.同種免疫:抗HLA抗体の発達を評価するために、計数回復時または化学療法の次サイクル前にPRAを繰り返し行う。
3.血液学:導入療法、再寛解導入療法、地固め療法サイクル中は、入院中かつ/または造血機能が回復するまで、さらに外来診療の度に分画と血小板数を含むCBCと、末梢血塗抹標本の評価とを毎日行う。
4.血液生化学検査:導入療法、再導入療法、地固め療法サイクル中は、入院中週2回電解質(ナトリウム、カリウム、塩素、重炭酸塩)、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン、グルコース、肝機能検査(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニン・アミノトランスフェラーゼ(ALT)、アルカリホスファターゼ(ALP)、総ビリルビン、乳酸脱水素酵素(LDH))を行い、その後週1回行う。
5.骨髄評価:導入サイクルまたは再寛解導入の後:増殖細胞導入後(必要であれば)8日目と15日目に(または、化学療法サイクルの14日目と(必要であれば)21日目に)血液病理学、細胞遺伝学/FISH、フローサイトメトリー、全骨髄キメリズム評価に基づいて骨髄評価を行う。臨床的示唆に基づいてさらに骨髄評価を行う。化学療法後42日目までに計数回復が見られなければ、血液病理学、細胞遺伝学/FISH、フローサイトメトリー、全骨髄キメリズム評価に基づいて骨髄評価を行い、持続性疾患または化学療法によって誘発された形成不全に対して、移植片対宿主現象によって引き起こされる形成不全を増殖細胞集団から排除する。地固め療法(行った場合)後:血液病理学、細胞遺伝学/FISH、フローサイトメトリーに基づいて、21日目または(必要であれば)造血機能回復時に骨髄評価を行う。
6.ホストとドナーの免疫学的相互反応の研究
a.化学療法開始前(かつ同意を得たあと):40mlの末梢血を上部が緑色の管に採集し、ドナー/ホスト免疫学的相互反応を評価する研究のためにEBV性トランスフォームLCL株を発生させる。
b.5回目までの増殖細胞注入後、30〜40mlの末梢血を上部が緑色の管に採取し、ホストとドナー間でおこる免疫媒介反応を評価する。治験者は、造血機能の回復がいったん見られたサンプルを得るために、また移植片対宿主病(GVHD)の治療にステロイドを使用していた患者からのサンプルは避けるように(ステロイドは本解析に支障を来たすため)、サンプルを得るタイミングを判断する。
c.サンプルは月曜から金曜までのみ採取される。
7.有害事象:有害事象を評価・記録する。
8.GVHD:すべての患者に対して、潜在的輸血関連GVHDの発生について調べる。患者に急性GVHDの兆候が見られた場合、その患者は付属物Cのように検査を受ける。GVHDの治療は制度的ガイドラインに従って行われる。しかし治療が行われるのは、GVHDが生検で明らかになった場合のみである。
9.6ヶ月間のフォローアップ。
a.臨床的理由により、6ヶ月間の完全血球算定、腎機能、肝機能検査を行う。必要に応じて毒性または反応期間を規定
b.最初の2年間は3〜6ヶ月ごとに、その後3年間は年1回担当医または患者と接触し、病気の発生の有無と生存率に関するデータを評価する。
F.対症療法ガイドライン
1.血液製剤:すべての血液製剤に対して放射線を照射し、白血球を減少させておく。また、CMV陰性患者に対して、制度的標準技法ガイドラインにしたがって、血液製剤を投与する。症候性貧血の場合、または臨床環境に対応した標準閾値を下回る場合には輸血を行う。
2.感染予防:好中球減少の期間中、予防薬であるアシクロビルとレボフロキサンを経口投与する。さらにすべての治療サイクルにおいてクロファラビンの投与中、腎細胞毒性物質(バンコマイシン、アンホテリシンBなど)と肝毒性物質(ボリコナゾール、サイクロスポリンなど)の使用は、できる限り避ける。
3.発熱と好中球減少症の治療:制度的ガイドラインに沿って標準的な診断学的検査を行う。経験的抗生物質適用範囲内で抗生物質の使用が可能である。陽性の培養物に対しては、特定の抗生物質を使用する。
4.コロニー刺激因子:上述の導入療法と地固め療法中は、プロトコルに従ってG-CSFを使用するが、赤血球生成促進剤は使用しない。
5.併用療法:白血病性髄膜炎に対するくも膜下療法は例外として、本治験中、併用細胞傷害性療法、治験療法とも行ってはならない。ただし、くも膜下療法は5日間のクロファラビン/シタラビン治療期間中のうち24時間は行ってはならない。
G.治療期間:患者は1〜4サイクル分の本治験の治療を受ける。下記1〜6に該当しなければ、増殖臍帯血前駆細胞は導入サイクル1と2で使用される。
1.増殖細胞産物の注入投与に対して重度の拒絶反応を示した場合。この場合、患者に対して増殖細胞産物をさらに投与することはできない。
2.患者の病気の進行が明らかな場合。
3.患者の様態の変化のため治療続行不可能であると治験者が判断した場合。
4.患者自身が治験対象から外れることを選択した場合。
5.患者が妊娠、あるいは妊娠する可能性があるにもかかわらず適切な避妊を怠った場合。
6.患者がプロトコル要件を満たすことができない場合。
10.2: 実施
感染症の頻発は、AML治療で用いられる導入化学療法および救助療法によく見られる合併症であり、実際、治療失敗の主な原因のひとつである。クロファラビンおよび高用量ara−cを顆粒細胞コロニー刺激因子(G−CSF)と組み合わせて用いることは、AML治療におけるI/II段階の試験(Becker et al., 2008, Blood 112 ASH Annual Meeting Abstracts)で研究されている(以下、このような化学治療サイクルを「GCLAC」と称する)。クロファラビンは強い抗白血病作用があり、クロファラビンおよび高用量ara−cをG−CSFと組み合わせることは、より一般的に使用されるイダルビシンとara−cとの組み合わせと少なくとも同等の効果を有するものと考えられる。しかしながら、クロファラビンはまた、3週間を超えるGCLACの後で持続性好中球減少症の期間を経ると、免疫抑制性が高く、ara−cと組み合わせると高い骨髄抑制効果を示す。クロファラビンにおける免疫抑制効果と骨髄抑制効果とが組み合わさること、および造血機能回復が遅れることによって、感染症が頻発し高用量治療の妨げになる。当センターで治療を受けた患者群のうち、50%未満にはGCLACの後で感染合併症がみられ、約13%には4級感染症がみられた(Becker et ah, 2008, Blood 112 ASH Annual Meeting Abstracts)。重要なことは、増殖ヒト臍帯血幹細胞および前駆細胞の注入によって上記双方の問題を解決できるということである。また、クロファラビンに基づいた療法による免疫抑制は、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルが一時的に生着し臨床的利点をもたらす可能性を高める。
これまで、上記10.1に記載されている基準に基づき、再発性(n=7)AMLまたは原発性難治性(n=2)AMLの成人患者が9人登録されている。年齢は44〜55歳であった。患者に第1回目の化学治療サイクルを施した。上記サイクルでは、クロファラビン1日当たり25mg/m2、ara−c1日当たり2gm/m2、G−CSF1日当たり5mcg/kgがそれぞれ、5日間、5日間、6日間投与し(「GCLAC」)、GCLACが完了してから約24時間後、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを注入した。増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルの注入は、そのHLA型を患者のHLA型に適合することを顧慮しないで行われた。増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルは、上記実施例9に記載されている方法に従って生成された。GCLACへの反応として形態的寛解を示した患者は、GCLACの2回目のGCLACサイクルおよび2回目の増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルの投与に適格とされた。
合計12の増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルが9人の患者に注入された。治療を受けた患者9人中4人はGCLAC治療が無効であったため、好中球回復については評価不可能であった。残り5人中3人は寛解期に達し、GCLACの2回目のサイクルおよび2回目の増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルの投与を受けた。5人中2人はGCLACの始めのサイクルおよび増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルの後に寛解期に達し、治療医によって決定された種類の造血幹細胞移植物が与えられた。上記残り5人(男性2人、女性3人)において好中球絶対数(ANC)がμl当たり500を超えるまでの平均時間は19日であり(図15参照)、増殖細胞の注入を行わずにGCLACを与えられた患者群の21日と比べて勝っていた。重要なことに、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプル注入に伴う安全問題や増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルに起因する重篤有害事象は、現時点で上記9人の患者に見られていない。
上記比較患者群の28人中17人に対して、登録患者9人中2人にのみ臨床的に重要な感染症(例えば、菌血症、真菌感染症、肺炎等)が見られた。最後に、GCLACの2回目のサイクルおよび2回目の増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルの投与を受けた患者3人全員において、(末梢血液細胞のDNAキメリズム解析で測定したところ)細胞注入1週間後に骨髄の回復に一時的なドナーの寄与があったことが分かった(CD33/CD14細胞系統におけるドナー寄与率は85〜100%であった。上記3人の患者においては、(細胞注入後7日目の)レシピエントの骨髄におけるドナー由来の一時的な骨髄生着の率が3〜15%であることから明らかなように、細胞が骨髄に定着することができた(図16)。
11.実施例:ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫患者の治療
増殖ヒト臍帯血幹細胞を投与することによって、自家移植に備えて強化化学療法および/または放射線治療を受けたホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫の患者に対して造血機能の迅速な回復を提供することを目的とした臨床実験の設計について説明すれば以下の通りである。本研究には、以下に挙げる特徴を有する患者が登録される。
ホジキン/非ホジキンリンパ腫および多発性骨髄腫患者。組織学的にホジキン型/非ホジキン型リンパ腫であると確認されており、少なくとも1回治療に失敗したことがある患者。組織学的に症候性多発性骨髄腫であることが確認されており、少なくとも1回従来の化学療法を受けたことがある患者。少なくとも1回の動員の試みの後、PBSCの最適数を得ることができなかった患者。本研究の目的のために、上記数は、3×106CD34+cells/kg未満に規定されるが、最初の3人の登録患者は、1〜2×106CD34+cells/kgとなる。合計投与量が3×106CD34+cells/kg未満である限り、動員の試みが2回以上行われてもよい。本実験に適格とされるためには、患者は少なくとも1×106CD34+cells/kgのPBSC産物を用意してある必要がある。
患者は18〜70歳であり、ECOGの一般状態の結果が0〜2である。また、患者は以下の検査値で示されるような適切な腎臓機能および肝臓機能を有する。
血清クレアチニン≦2.0mg/dL
血清クレアチニン>2.0mg/dlの場合、推定糸球体濾過量(glomerular filtration rate;GFR)は、Modification of Diet in Renal Diseaseの式で計算されるように60ml/min/1.73m2未満でなければならない。上記式では、推定GFR(ml/min/1.73m2)=186×(血清クレアチニン)−1.154×(年齢)−0.023×(0.724 女性患者の場合)×(1.212 黒人患者の場合)で表される。
血清総または直接ビリルビン≦1.5×正常値上限(upper limit of normal;ULN)
アスパラドン酸トランスアミナーセ(AST)/アラニントランスアミナーゼ(ALT)≦2.5×ULN、
アルカリホスファターゼ≦2.5×ULN。
患者は、研究の治験的性質、潜在的リスク、および利益を理解でき、十分な説明に基づいて効力のある同意をすることができる。妊娠能力がある女性患者は登録前2週間以内に行う血清妊娠検査で陰性でなければならない。男性および女性患者ともに治験中と治験後最低6ヶ月間は効果的な避妊方法をいとわずに用いなければならない。陰性または生成物選別に特徴付けられた特異抗体を有するパネル反応性抗体(panel reactive antibody;PRA)が(潜在的な臍帯血生成物に対するドナー指向抗体を避けるために)行われる。適格とされた患者全員に対して、生着不良の場合の(血縁ドナーまたは血縁関係を持たないドナーであって、適切な臍帯血ユニットを含む)潜在的なドナーを特定するために、治療開始前に事前ドナーサーチが行われる。
次に挙げるような患者は除外される。同種異系移植物のレシピエント。現在、併用化学治療、放射線治療、または上記プロトコルに記載された以外の免疫療法を受けている者。実験参加前の30日以内に他の治験薬を使用した、または実験参加前の2週間前に何らかの制癌治療を受けた者。他の除外要因には、次が挙げられる。重度の併発症を患っている者、または心臓・腎臓・肺に関連する重度の臓器機能不全または疾患(症候性肺炎、肺静脈閉塞性疾患を含む)あるいはその他の臓器機能不全の病歴のある者。HIV感染歴のある者。制御不可能な全身系の真菌感染、細菌感染、ウイルス感染、あるいは他の感染を患っている者(適切な抗生物質や他の治療を施しているにもかかわらず、感染の兆候を示し回復の兆しのない者)。妊婦または授乳中の女性。患者の安全やコンプライアンスを脅かしたり、同意・治験への参加・フォローアップ・治験結果の解釈に影響を及ぼしたりする併発症または疾患、精神疾患を抱えている者。悪性腫瘍を伴う中枢神経系障害を持つ者。生着不全の場合の同種移植の潜在ドナー(事前サーチに基づく)がいない患者。
本治験で使用される増殖臍帯血幹細胞は、臨床用に低温保存された増殖臍帯血前駆細胞のバンクから選択される。各前駆細胞産物は、上記8.のように、Notchリガンドの存在下で生体外増殖され低温保存されたCD34選択された(ゆえにT細胞が枯渇した)臍帯血ユニット(ドナー)に由来するものである。新鮮な臍帯血ユニットは、Puget Sound Blood Center/Northwest Tissue Center (PSBC/NTC)のCord Blood (CB) Programとの連携によって得られる。
増殖臍帯血幹細胞の選定は、下記記載に基づいて行われる。
A.全登録患者に対してパネル反応性抗体(PRA)検査を行う。ドナー指向抗体が存在すれば、この抗体の特異性に基づいて製剤を選定。PRA陰性の患者に対しては、細胞投与量制限を満たす製剤を投与すればよい。HLA適合/不適合は、PRA陽性でない患者に対しては考慮しなくてよい。
B.細胞投与量
1.細胞投与量を1×109TNC/kg以下に維持することを目的に解凍時約20%の細胞消失を見込んで、TNC/kg低温保存前細胞投与量は、レシピエントの体重(kg)当たりの総有核細胞計数は1.2×109個を超えてはならない。
2.レシピエントの体重(kg)当たりに注入されるCD34+細胞数の上限はない。
3.すべての増殖細胞産物を、凍結前にCD3+細胞に対して、免疫表現型検査によって評価する。CD3+細胞集団の存在が確認されず、T細胞(CD3+)集団が確認された製剤は、CD3+細胞投与量がレシピエントの体重(kg)当たり5×105個未満でない限り、使用されない。
患者はリンパ腫あるいは骨髄腫の治療へ回され、徹底的に調査される。プロトコルは患者および家族と十分に話し合われる。データ収集の要件や医療記録の公開について話し合われ、患者への重大なリスクで既知のものはすべて説明される。上記処置や代替治療についてはできる限り客観的に説明され、上記処置のリスクや危険性も患者に説明される。十分な説明に基づいた同意は、Fred Hutchinson Cancer Research Centerの治験審査委員会承認の書式を使用して得られる。話し合いの要約は、詳細まで医療記録に書き留められる。
患者は以下に示す計画に基づいて治療される。
A.末梢血幹細胞採取:末梢血幹細胞(peripheral blood stem cell;PBSC)は既知の動員方法の何れかを使用し、白血球除去療法によって採取される。少なくとも1.0×106CD34+cells/kgが移植に利用可能でなければならない。
B.高用量移植前処置療法
多発性骨髄腫患者
メルファラン200mg/m2を使用する標準移植前処置が全患者に使用される。
リンパ腫患者
全身被爆(total body irradiation: TBI)ベースの療法は、事前の高線量TBIを受けていない患者に行われる(何れのcritical normalの臓器(肺、肝臓、脊髄など)に対しても>20Gy)。
シクロホスファミド投与量:移植前処置2日目、シクロホスファミドが1日当たり100mg/kg静脈投与される。準備・投与・観察は標準的な方法による。IBWが100%を超える患者への投与は標準的技法による。膀胱予防(bladder prophylaxis)ために標準的技法に基づきMESNEが投与される。あるいは、医師の判断による継続的な膀胱洗浄が膀胱予防に用いられてもよい。水分補給および毒性の測定は標準的技法による。
全身被爆:全身被爆(TBI)、1.5GyBID×4日(計12Gy)が直線加速装置によって1分間に8Gy与えられる。
IV水分補給および制吐療法:IV水分補給は24時間当たり2リットル/m2与えられる。制吐薬の投与は標準的技法による。
BEAM移植前処置療法:TBIを用いた療法に適さない患者はBEAM移植前処置療法を用いた高用量治療を受ける。
BCNU(カルムスチン):
投与量:移植前処置7日目、300mg/m2のカルムスチンが3時間かけて1回静脈投与される。カルムスチンは、溶液と注入されたり重炭酸塩溶液を含んでいるまたは含んでいたチューブで注入されたりするべきではない。
化学的性質:ニトロソ尿素誘導剤であるカルムスチンは、一般にアルキル化剤と考えられている。カルムスチンは4℃で白い凍結乾燥粉末として入手可能である。カルムスチンは水中では溶けにくく、アルコール中では溶けやすく、脂質中では非常に溶けやすい。
投与:カルムスチンは滅菌粉末として100mgバイアルで入手できる。カルムスチンは滅菌脱水素(無水)アルコール3mlにおける100mgバイアルの内容物を溶解し、その後注射用の滅菌水27mlを添加することによって再構成される。その結果生じる溶液は、10%アルコールml当たりカルムスチンを3.3ml含む。上記溶液はさらに、0.9%の塩化ナトリウムまたは5%のグルコース注射によって、ガラス容器において0.2mg/mlの終濃度まで薄められてもよい。上記薬品の投与にはガラス容器の使用のみが推奨される。カルムスチンはpHが6を超える水溶液中で急速に分解する。
静脈投与後、カルムスチンは血漿から急速に除去され、15分後には元の薬品は検出されない。メカニズムは十分に解明されていないものの、カルムスチンは急速に分解される。代謝産物は主に尿で排出され、その中には活性であることが分かっている代謝産物もある。
持続的な水分補給:20mEqKCLを加えた通常の塩水が1日当たり2リットル/m2与えられる。上記水分補給はカルムスチンの前に開始されメルファランの最後の投与24時間後まで続けられる。
薬物動態:カルムスチンおよび/またはカルムスチンの代謝産物は脂質溶解度が高いので、血液脳関門を容易に越える。カルムスチン投与のほぼ直後に実質的なCSF凝縮が起き、放射標識されたBCNUのCSF凝縮体は、同時に起きる血漿凝縮体の15%から70%までの範囲であることが様々な報告でされている。カルムスチン代謝産物は母乳に広がるが、濃縮は母体の血漿に比べて低い。
エトポシド(VP−16、Vepesid):
投与量:移植前処置6、5、4、3日目、エトポシド100mg/m2が1日2回、2時間にわたり静脈投与される。通常の塩水500〜1000ccで投与され、計800mg/m2投与される。
化学的性質および作用のメカニズム:エトポシドは半合成ポドフィロトキシンである。エピポドフィロトキシンは、***中期(metaphase)停止を伴う期特異的な紡錘体阻害活性(phase-specific spindle poison activity)を示す。ビンカアルカロイドとは対照的に、エピポドフィロトキシンは細胞が***期に入らないよう阻止する働きも持つ。組織培養におけるヒト細胞へのトリチウムチミジン、ウリジン、ロイシンの取り込みを抑えることは、DNA,RNA、タンパク質の合成に対する効果を示唆する。
保管および安定性:未開封のVP−16のバイアルは常温で24か月間安定した状態を保つ。ガラスおよびプラスチック容器の蛍光照明のもとでの常温(25℃)において、推奨される通り0.2または0.4mg/mLの濃度まで薄められたバイアルはそれぞれ、96時間、24時間安定した状態を保つ。薄められていないVP−16でプラスチックの注射器に入れられているものは、最長5日間安定した状態を保つことが報告されている。
入手可能性、再構成、投与:エトポシドは100mg/5ml、150mg/7.5ml、500mg/25ml、1000mg/50mlの滅菌多回投与バイアルにて市販されている。VP−16は使用前に5%のブドウ糖注射USPまたは0.9%の塩化ナトリウム注射USPで、終濃度0.2または0.4mg/mlまで薄められるべきである。濃度0.4mg/mlを超える溶液では沈殿が起きる可能性がある。VP−16溶液は2時間にわたり静脈投与することが推奨される。しかし、大量の液体が注入される場合は、投与時間が長くなってもよい。VP−16は急速に注入されるべきではない。大量の注入を避けるために、特別な装置を使用して特に注意を払いながらVP−16を薄めずに投与することが可能である。IV−16が薄められずに投与される場合、4方向コックおよび「化学治療に抵抗力のある(chemo resistant)」プラスチック製チューブが使用されなければならない。薄められていないVP−16は、Hickmanカテーテルを通して同時に動脈投与される溶液なしでは注入することはできない。薄められていないVP−16のみを注入するとHickmanカテーテルの閉塞を引き起こす。
対症療法:注入開始前には適切な制吐薬と鎮静剤が与えられるべきである。アレルギー反応を予防するために、ジフェンヒドラミン25mgおよびハイドロコーチゾン100mgが注入開始前と開始後2時間にわたり患者に与えられる。20mEqKCLを加えた通常の塩水が1日当たり2リットル/m2続けられる。必要に応じて、排尿促進剤を与えてもよい。VP−16の高用量投与後に代謝アシドーシスがまれに観察されたので、追加的にNaHCO3が水分補給に加えられてもよい。このNaHCO3はVP−16注入中には注入されない。
シタラビン(Ara−C):
投与量:移植前処置6、5、4、3日目、1日2回シタラビン100mg/m2が3時間かけて静脈投与される。
化学的性質:シタラビンは合成ピリミジンヌクレオシドおよびピリミジン拮抗代謝抵抗物質(pyrimidine antagonist anti-metabolite)である。
入手可能性および投与:シタラビンは、ml当たりシタラビン20、50、100mgを含む溶液中で再構成の形態で入手可能である。上記溶液は0.945%のベンジルアルコールを含む注射用静菌性水を用いて滅菌粉末から再構成される。製造業者によると注射用の水を用いて再構成された溶液は0.9%の塩化ナトリウムまたは5%のブドウ糖で薄められてもよい。ml当たりシタラビン0.5mgを含む希薄溶液は常温で最長8日間安定した状態を保つ。
薬物動態:シタラビンは経口投与では効果がない。継続的な静脈投与によって、8〜24時間後に比較的一定の血漿濃度が得られる。シタラビンは急速かつ広く、肝臓・血漿・抹消血顆粒体などの組織や体液に広がり、限られた程度で血液脳関門を越える。シタラビンは胎盤を越えるようである。シタラビンが母乳に広がるかどうかは知られていない。急速な静脈投与の後、血漿薬物濃度は、初期の半減期が10分、末期の半減期が1〜3時間というように二相性的に減少するようである。シタラビンは、酵素シチジンデアミナーゼによって急速にかつ広範囲にわたって代謝され、不活性代謝産物のアラビノフラノシルウラシル(ara−U)を生成する。上記代謝は主に肝臓で行われ、腎臓や胃腸粘膜、顆粒体、より少ない程度で他の組織でも行われる。シタラビンおよびara−Uは尿中に***される。シタラビンの急速な静脈投与、筋肉内投与、皮下投与注射、脊椎腔内投与あるいは継続的な静脈投与の後、投与したシタラビンの約70〜80%は24時間以内に尿中に排出される。
メルファラン:
投与量:移植前処置2日目、メルファラン140mg/m2が1回、30分かけて静脈投与される。
化学的性質:メルファラン(Lフェニルアラニンマスタード)は静脈投与または経口投与できる典型的なアルキル化剤である。
投与:メルファランは50mgバイラルで入手可能であり、10mlの滅菌水で再構成されると濃度5mg/mlになる。再構成されたメルファランは通常の塩水250ccで濃度0.5mg/ml未満に薄められる。メルファランは15分かけて投与され、60分を超えない。
薬物動態:血漿メルファランのレベルは、血漿にメルファランが初めて見られる時間(範囲:0〜336分)および得られるピーク血漿濃度(範囲:0.166〜3.741mg/mL)の両方について、経口投与後に非常に変化しやすい。このような結果は、腸の吸収が不十分であること、「初回通過」肝代謝にむらがあること、加水分解が急速であることによる可能性がある。
C.細胞注入:
1.0日目の朝に自家PBSCが解凍され注入される。
2.増殖細胞注入:標準的ガイドラインに従って増殖細胞が解凍、注入される。自家幹細胞移植片注入の約4時間後に注入される。
D.対症療法:
G−CSF:自家幹細胞注入および増殖細胞注入の翌日より最も近いバイアルサイズに切り上げた5mcg/kgが皮下投与(SQ)される。G−CSFは2日間連続でANC>2000となるまで毎日継続される。
評価ガイドライン
A.移植前の評価
1.病歴、健康診断、カルノフスキー・スコア
2.CBC、血清ナトリウム、カリウム、CO2、BUN、クレアチニン、尿酸、LDH、カルシウム、ビリルビン、アルカリホスファターゼ、AST、ALT、肝炎検査、ABO/RH血液型、血液クロスマッチ、CMV、VZV、HSV、HIV、トキソプラズマ症血清学
3.CT/PET(リンパ腫)
4.骨格のMRI、病期診断に必要となる骨測量(骨髄腫)
5.骨髄穿刺吸引および生検、病理学・流動細胞計測・FISHを含む細胞遺伝学へのサンプル
6.血清タンパク質電気流動および免疫固定(骨髄腫)
7.定量的血清免疫グロブリンレベル、ベータ2ミクログロブリン
8.クレアチニンクリアランスおよびタンパク質総排出量を調べるための24時間にわたる採尿、尿タンパク質電気流動、定量的ベンス・ジョーンズ排出および免疫固定(骨髄腫)
9.肺機能検査(pulmonary function tests:PFTS)、マルチゲート収集法(multigated acquisition scan:MUGA)
10.臨床免疫再構築研究。
B.移植前処置中の評価:
1.最下点の後(following the nadir)、ANC>500/ul、血小板数>20,000/μlに到達するまでCBCを毎日実施
2.電解室パネル(ナトリウム、カリウム、クロライド、CO2、カルシウム、マグネシウム、リン、アルブミン、BUN クレアチニン)を少なくとも週3回
3.肝機能テスト(ALT,AST、ALKホスファターゼ、ビリルビン、LDH)を少なくとも週2回。
C.自家PBSCおよび増殖前駆細胞注入の朝に終える評価
1.健康診断、および提供者によるシステムレビュー
2.看護師による体重測定
3.CBC[CBD](HCT、HGB、WBC、RBC、指数、血小板、分画/塗抹標本の評価を含む)
4.[SRFM]と[SHFL](マグネシウムを含む造血幹細胞移植(HSCT)腎機能パネル)と、乳酸脱水素酵素(LD)を含むHSCT肝機能パネル;SRFMはナトリウム、カリウム、塩素、二酸化炭素、グルコース、血中尿素窒素、クレアチニン、カルシウム、リン、アルブミン、マグネシウムを含む。SHFLは、ALT、AST、ALK、BILIT/D、トリポネーマパリダム(TP)、アルブミン、LDを含む)
5.精密尿検査。
D. 生体外増殖臍帯血前駆細胞注入中の評価
1.注入中は正看護師(RN)が立ち会わなければならない。
2.入院患者ユニットに対して、医師(MD)またはフィジシャンアシスタント(PA)が対応可能でなければならない。
3.患者の心臓に異変があれば、医師に知らせ、心電図(ECG)をとる。
4.下記表中に記載の時点において、温度、血圧(BP)、脈拍(HR)、呼吸、酸素飽和などのバイタイルサインの取得・記録。
5.増殖細胞注入後24時間、排尿ごとにヘモグロビンとタンパク質の尿検査を行い、記録する。
E.増殖臍帯血前駆細胞の注入24時間後の評価
1.CBC[CBD](HCT、HGB、WBC、RBC、指数、血小板、分画/塗抹標本の評価を含む)。
2.[SRFM]と[SHFL](マグネシウムを含む造血幹細胞移植(HSCT)腎機能パネル)と、乳酸脱水素酵素(LD)を含むHSCT肝機能パネル;SRFMはナトリウム、カリウム、塩素、二酸化炭素、グルコース、血中尿素窒素、クレアチニン、カルシウム、リン、アルブミン、マグネシウムを含む。SHFLは、ALT、AST、ALK、BILIT/D、トリポネーマパリダム(TP)、アルブミン、LDを含む)。
3.精密尿検査。
F.0〜60日目の評価
1.最下点の後、ANC>500/ul、血小板数>20,000/μlに到達するまでCBCを毎日行う。その後の28日目までは週3回、60日目までは週2回CBCが行われる。
2.60日目まで、電解質パネル(ナトリウム、カリウム、クロライド、CO2、カルシウム、マグネシウム、リン、アルブミン、BUN クレアチニン)を週3回。
3.腎臓機能テスト(ALT,AST、ALKホスファターゼ、 ビリルビン、LDH)を、28日目までは週2回、その後60日目まで週1回。
4.生着率の研究:注入後7、14、21、28、60日目に、増殖細胞産物による造血性回復への寄与率を、選別された末梢血(CD3+、CD33+、CD14+、CD56+分画ごとに選別された細胞)から評価される。いずれかの時点で患者が100%ホストの場合は、それ以降の分析はその患者に対して一切行わない。増殖細胞産物による生着が60日目においても持続していることが明らかな場合は、患者が100%ホストになるまで2〜4週間おきにキメリズム解析が継続して行われる。ドナーとホストのキメリズムの割合は、ポリメラーゼ鎖反応(PCR)に基づいた反復配列多型分析(variable-number tandem repeat:VNTR)配列の増殖によって評価される。VNTR配列はドナーとホスト固有のものであり、ホスホイメージ分析によって定量化される。
5.同種免疫:抗HLA抗体の発達を評価するためのPRAが計数回復時に繰り返して行われる。
6.GVHD:すべての患者に対して、潜在的輸血関連GVHDの発生について調べる。患者に急性GVHDの兆候が見られた場合、その患者は検査を受ける。GVHDの治療は制度的ガイドラインに従って行われる。しかし治療が行われるのは、GVHDが生検で明らかになった場合のみである。
7.骨髄評価:14日目と(必要であれば)21日目(必要に応じて)に、血液病理学、細胞遺伝学/FISH、フローサイトメトリー、全骨髄キメリズム解析に基づいて骨髄評価を行う。生着不全の場合は、移植片対宿主効果による欠如症を除外するために骨髄検査が行う。補足的な骨髄評価が臨床的に示されている通りに行われる。
8.60日目の評価までの有害事象監視。
9.臨床免疫再構築研究。
G.60日目再病期診断評価
1.病歴、健康診断、カルノフスキー・スコア。
2.CBC、血清ナトリウム、カリウム、CO2、BUN、クレアチニン、尿酸、LDH、カルシウム、ビリルビン、アルカリ性ホスファターゼ、AST、ALT、肝炎検査。
3.CT/PET撮影(リンパ腫)。
4.再病期診断のための骨格測定(osseous survey for skeletal survey)、および骨格(骨髄腫)のMRI。
5.骨髄穿刺吸引および生検、病理学・流動細胞計測・FISHを含む細胞遺伝学へのサンプル。(末梢血キメリズム解析において示されるように)増殖臍帯血細胞が未だに存在する場合、全骨髄キメリズムについて骨髄が送られる。
6.定量的血清免疫グロブリンレベル。
7.血清タンパク質電気流動および免疫固定(骨髄腫)。
8.クレアチニンクリアランスおよびタンパク質総排出量を調べるための24時間にわたる採尿、尿タンパク質電気流動、定量的ベンス・ジョーンズ排出および免疫固定(骨髄腫)。
9.血清B2ミクログロブリン。
10.抗HLA抗体の発達を評価するためのPRAの繰り返し。
11.有害事象監視。
12.臨床免疫再構築研究。
H.免疫再構築
臨床研究(可能であれば行う)
1.28日目、60日目、100日目、6ヵ月目、1年目、2年目に定量的免疫グロブリンレベル(IgG、IgA,IgM)を評価する。
2.移植前、28日目、60日目、100日目、6ヵ月目、1年目、2年目にTリンパ細胞総数およびサブセット列挙(リンパ細胞パネル)を評価する。
I.フォローアップ
1.臨床的理由により、6ヶ月間の完全血球算定、腎機能、肝機能検査を行う。必要に応じて毒性または反応期間を規定。
2.最初の2年間は3〜6ヶ月ごとに、その後3年間は年1回担当医または患者と接触し、病気の発生の有無と生存率に関するデータを評価する。
J.補完ケアガイドライン
1.すべての血液製剤に対して放射線を照射し、白血球を減少させておく。また、CMV陰性の患者にはCMVに安全な血液産物が与えられる。症候性貧血の場合、または臨床設定に対応した標準閾値を下回る場合には輸血を行う。
2.感染予防:好中球減少の期間中、予防薬であるレボフロキサンを経口投与する。実施基準ガイドラインに基づき、アシクロビルおよびバクトリム予防法が使用される。
3.発熱と好中球減少症の治療:制度的ガイドラインに沿って標準的な診断学的検査を行う。経験的抗生物質適用範囲内で抗生物質の使用が可能である。陽性の培養物に対しては、特定の抗生物質を使用する。
4.コロニー刺激因子:上記で述べられたようにG−CSFを使用する。赤血球生成促進剤は使用されない。
5.併用療法:標準的技法ガイドラインに基づいたくも膜下療法は例外として、本治験中、併用細胞傷害性療法、治験療法とも行ってはならない。
12.実施例:増殖ヒト臍帯血幹細胞移植物を用いた急性骨髄性白血病患者の治療
このプロトコルは、人間の患者における急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)の治療のための本発明の増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルと併用した一つまたは複数の臍帯血/胎盤血ユニットの投与を含む。臍帯血移植物は、赤血球細胞を除去したことを除いて、臍帯および/または胎盤全血であった。
これまで、再発の危険性が高い6人の患者を登録し、図17に記載の治療プロトコルに従って治療を施してきた。ここで、図17に記載の治療プロトコルは、血液悪性腫瘍患者のための骨髄機能廃絶全身被曝(total-body irradiation;TBI)に基づく臍帯血移植(cord blood transplant;CBT)プロトコルである(ここで、「CSA/MMF」は、対宿主性移植片反応(graft versus host disease;GVDH)を防ぐための従来の免疫抑制治療である、サイクロスポリンとミコフェノール酸モフェチルを指す)。この研究における移植前処置および移植後免疫抑制療法は、上記セクション10に記載された生体外増殖試験と同じであり、骨髄機能廃絶臍帯血移植に対する注意義務の基準であると考えられている。事前に低温保存しておいた(赤血球細胞を枯渇させた)二つの臍帯血移植物と、上記セクション9に記載の方法で精製した一つの臍帯血幹細胞サンプルとを患者に移植した。ここで、上記二つの臍帯血移植物は、(細胞投与量とHLA適合試験のアルゴリズムに応じて)1キログラム当たりの総有核細胞数(total nucleated cells;TNC)が少なくとも1.5×107個であった。
これまで、治療したすべての患者に対して、ダブルユニット臍帯血移植(二人の異なる個人の臍帯血および/または胎盤血からの臍帯血移植)を行い、その後0日目に、HLA適合を顧慮しないで、事前に低温保存し、解凍しておいた増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを注入した。注入時に毒性は観察されず、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルに起因する重篤有害事象もこれまで発生していない。1番目の患者の注入日は2010年9月22日であり、6番目の患者は現在移植後2ヶ月である。注入したTNCとCD34+細胞投与量を下の表に示す。
造血機能回復の速度および増殖細胞と臍帯血移植細胞の生着への相対的寄与率の決定を移植後7日目に開始した。これまで治療したすべての患者に生着していた。これまでに示したとおり、ANC≧100が、造血細胞移植後100日目を迎える前に死亡する危険性を減らすための臨界閾値となっている(Offner et al, 1996, Blood 88:4058)。さらに、本発明者らによる臍帯血移植後の重篤な好中球減少症の単一施設分析によれば、ANC<100と時間依存性共変量としての生着までの時間とは、ともに、200日目の移植関連死亡率(transplant related mortality;TRM)と全生存率との両方と重要な相関関係がある。臍帯血移植を受けた88人の患者の分析によれば、任意の時点において、ANC<100は、ANC>100(1.74−13.11、p=0.002)と比べて、全死亡率の危険性の4.77倍の増加と関連し、200日目のTRMの危険性の8.95倍の増加と関連している(2.59−30.89、p=0.00095)。このことは、特定の時点における生着が、この時点における生着の欠如(0.08−0.62、p=0.004)と比べて、0.23倍の死亡率と関連し、0.11倍の200日目のTRMの危険性と関連している(0.03−0.38、p=0.0005)ような、生着までの時間(ANC>500)をモデリングした場合の結果と類似している。従って、HLA適合を顧慮しないで、事前に低温保存しておいた増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを投与しながら、骨髄機能廃絶ダブルユニット臍帯血移植を行った患者(既製+非操作)において、ANC≧100に到達するまでの時間とANC≧500に到達するまでの時間を評価し、(i)従来の骨髄機能廃絶ダブルユニット臍帯血移植(従来のdCBT)を同時に行った患者群および(ii)Delaney et al, 2010 Nature Med. 16:232-236に記載の方法で、低温保存しておかなかった一部HLA適合させた増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを投与しながら、骨髄機能廃絶ダブルユニット臍帯血移植を行った患者群(増殖+非操作)と比較した。
患者数こそ少なかったが、従来のダブルユニット臍帯血移植(従来のdCBT)と比べて、HLA適合を顧慮しないで、低温保存しておいた増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを用いてこれまで治療してきた患者(既製+非操作)および一部HLA適合させた増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを用いて治療してきた患者において、より早期の骨髄回復が示唆された(図18および19参照)。HLA適合を顧慮しないで増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを投与した6人の患者のうち一人は、前回56日目に検査したとき、増殖ヒト臍帯血幹細胞がいまだに生体内に生き残っていた。今考えると、この患者は偶然にも既製製剤に対して3/6のHLA抗原と適合していた。
7日目の早期骨髄回復は、そのほぼすべてが、HLA適合を顧慮しないで6人の患者に投与した事前に低温保存しておいた増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルによるものであったが、一般的に、そのような回復は移植後14日目を超えて持続しなかった(図20参照)。この結果は、Delaney et al, 2010 Nature Med. 16:232-236に記載の方法で、採取したての(低温保存していない)一部HLA適合させた増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルを注入した場合の結果と一致している。
今後の患者は、増殖ヒト臍帯血幹細胞サンプルに加えて、一つまたは二つまたは複数の臍帯血移植を受けることが想定される。
本発明は、本明細書に記載された具体的な実施形態のよって範囲を限定するものではない。実際、本明細書に記載されている本発明の変形例に加えて、さまざまな変形例が、上記の記載および添付の図面から、当業者にとって明らかになるであろう。
本明細書では、特許、特許出願公報、および科学文献を含むさまざまな文献が引用されているが、これらの開示内容は、その全容を本明細書に参考のために示す。
本発明の方法を実施するために有用なコンピュータシステムの例示的な実施形態を示す。
Delta1ext−IgGで培養した臍帯血細胞を出発細胞としたSCID再構築によってSRC出現率が顕著に増加し、総合的な生着率が向上することを示すグラフである。
Delta1ext−IgGで培養した臍帯血細胞を出発細胞としたSCID再構築によってSRC出現率が顕著に増加し、総合的な生着率が向上することを示すグラフである。
初期生着の速度がDelta1ext−IgGでの培養に依存していることを示すグラフである。
生体外増殖臍帯血前駆細胞の低温保存によって生体内(in vivo)再構築能が損なわれないことを示すグラフであり、注入前に低温保存した採取細胞との比較で、培養直後に注入した細胞を示す。ここに示すのは、注入4週間後の結果である。
生体外増殖臍帯血前駆細胞の低温保存によって生体内(in vivo)再構築能が損なわれないことを示すグラフであり、生体外で増殖させ、低温保存した前駆細胞を解凍し、注入した。ここに示すのは、二つの実験の結果を組み合わせたものである。
生体外増殖臍帯血前駆細胞の低温保存によって生体内(in vivo)再構築能が損なわれないことを示すグラフである。単一の臍帯血ユニットから得られたCD34+前駆細胞に由来する増殖後代を三つの方法で注入前解凍(1.解凍と洗浄、2.解凍と希釈(デキストラン/アルブミン希釈)、3.解凍と直接注入)を行い、生体内再構築能を比較した結果を示す。
類似遺伝子型および異質遺伝子型の造血幹細胞移植物(hematopoietic stemcells transplants;HCTs)におけるDelta1ext−IgG培養細胞の生着の比較を示すグラフである。
HLA不適合レシピエントにおける+106Delta1ext−IgG培養細胞の生着を示すグラフである。
増殖幹・前駆細胞と非増殖幹・前駆細胞とにおいて生着を比較することを目的とした、幹・前駆細胞の増殖および放射線照射マウスへの増殖細胞の注入のための実験プロトコルの概略図である。
図8aおよび図8bは、致死量の放射線を照射したマウスの骨髄と末梢血中で検出された不適合増殖幹・前駆細胞の生着を示すグラフである。
図9aおよび図9bは、事前に低温保存しておいた増殖幹・前駆細胞を注入した後に7.5Gyまたは8Gyの放射線を被曝させたマウスの全体的な生存率を、生理食塩水対照群を注入した場合と比較して示す図である。
(Delta誘導体で培養した)増殖幹・前駆細胞を注入した後に8Gyで照射したマウスの全生存率を、(IgGで培養した)非増殖幹・前駆細胞を注入した場合と比較して示すグラフである。
図11aおよび図11bは、放射線照射量の増加に伴い増殖マウス幹・前駆細胞(DXI)のドナーからの生着率が向上することを示すグラフである。
Delta1ext−IgGで臍帯血前駆細胞を臨床培養することにより、骨髄機能を廃絶するダブルユニットCBT環境において、CD34+細胞が生体内で著しく増殖し、好中球回復が早くなることを示すグラフである。
CD34+細胞の集団を濃縮し、濃縮した集団を増殖させるための例示的な手順を示すフローチャートである。
急性骨髄性白血病患者に対する導入療法の計画を示すフローチャートである。
治療を受けた患者の特性、注入された細胞計数、および好中球の回復時間を示す表である。
増殖臍帯血幹・前駆細胞サンプル注入後7日目におけるドナー細胞のパーセンテージとして表される増殖臍帯血幹・前駆細胞の生着率を示す表である。
臍帯血移植物と増殖臍帯血幹・前駆細胞サンプルとを投与することによって、急性骨髄性白血病等の血液悪性腫瘍を治療するためのプロトコルを示すフローチャートである。
100μl以上の絶対好中球計数(absolute neutrophil count;ANC)を達成するのに移植後に必要な時間を示すグラフである。
500μl以上の絶対好中球計数(absolute neutrophil count;ANC)を達成するのに移植後に必要な時間を示すグラフである。
注入7日目後の末梢血液細胞のDNAキメリズム解析の結果を示す表である。