本発明は、造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物およびその製造方法に関する。
造血細胞移植は、白血病等の血液悪性腫瘍および先天性免疫不全症等の多くの難治疾患に対する根治療法として行われている。造血幹細胞移植の細胞源としては、長期骨髄再構築能と多分化能とを兼ね備える造血幹細胞を含む細胞源が用いられる。特にさい帯血は、非侵襲的に得られること、造血幹細胞の活性が高いこと、および急性移植片対宿主病(急性GVHD)反応が他のソースの移植と比べて弱いこと等の理由からその需要が増加している。
さい帯血を用いた造血幹細胞移植では、患者の体重当り2×107〜3×107細胞の有核細胞を含むさい帯血が必要とされる(すなわち、70kgの体重の成人患者では一人当り約1×109〜2×109細胞)。しかしながら、1回の出産に伴い得られるさい帯血の量は限られ、平均的には、含有有核細胞数は、1さい帯血当り約7×108〜8×108細胞(すなわち、70kgの体重の成人患者では体重当り約1×107細胞)に過ぎない。
このため、多くのさい帯血は移植に使用されずにデッドストックとなっているのが現状である。また、十分なさい帯血量を確保できる見込みが無い場合には、さい帯血を保存しないで廃棄することもある。従って、十分な有核細胞を含まないさい帯血を造血幹細胞移植に利用する方法を開発することが必要である。
この問題を克服するために、複数のさい帯血ユニットを混合して移植する試みがなされているが、いずれのさい帯血ユニットについても、レシピエントとの間でHLA抗原を4抗原以上適合させることが必要である(非特許文献1)。そのため、依然として上記の状況を改善するには至っていない。
また、最低限の必要細胞数(患者の体重当り2×107〜3×107細胞)を移植した場合でも、さい帯血移植後のレシピエントにおける好中球数および血小板数等の造血回復は、骨髄または末梢血造血幹前駆細胞の移植と比較して遅いことが知られている。従って、造血回復を促進し致死的合併症を回避しうる方法の開発が、さい帯血移植における喫緊の課題となっている。
L.R. Fanning et al., Leukemia, 2008, 22: 1786-1790
本発明は、造血幹細胞移植を補助することに用いるための細胞製剤およびその製造方法を提供する。
本発明者らは、造血幹細胞をトロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)存在下で培養して得た培養物が、骨髄移植やさい帯血移植の成功率を向上させること、より具体的には、造血幹細胞移植後のレシピエントにおいて、移植した骨髄やさい帯血による造血が立ち上がるまでの期間、早期造血を支え、かつ、造血立ち上がり後は排除され得ることを明らかにした。本発明は、このような知見に基づいてなされた発明である。
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物であって、
造血幹細胞をトロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)存在下で培養して得られる細胞を含んでなる、医薬組成物。
(2)造血幹細胞をTPOおよびSCF存在下で5〜10日間培養して得られる細胞を含んでなる、上記(1)に記載の医薬組成物。
(3)造血幹細胞をTPOおよびSCF存在下で7日間培養して得られる細胞を含んでなる、上記(2)に記載の医薬組成物。
(4)さい帯血または骨髄と、
上記(1)〜(3)のいずれかに記載の医薬組成物とを含んでなる、移植材料。
(5)造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤であって、
レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血と、
少なくとも1人の個体のさい帯血であって、少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血をトロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)存在下で培養して得られる細胞と
の組合せを含んでなる、組合せ細胞製剤。
(6)上記培養して得られる細胞が、さい帯血から得られる造血幹細胞分画をトロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)存在下で培養して得られる細胞である、上記(5)に記載の組合せ細胞製剤。
(7)上記培養して得られる細胞が、ドナーのさい帯血と3〜6抗原不一致のいずれかである、上記(5)または(6)に記載の組合せ細胞製剤。
(8)任意の2つの個体間のMHC適合度が、いずれも独立して3〜6抗原不一致のいずれかである、上記(5)〜(7)のいずれかに記載の組合せ細胞製剤。
(9)造血幹細胞を含んでなる細胞分画が、さい帯血からCD34陽性細胞またはCD34陽性かつCD38陰性の細胞を回収することにより、得られたものである、上記(5)〜(8)のいずれかに記載の組合せ細胞製剤。
(10)個体が、2〜5個体からなる、上記(5)〜(9)のいずれかに記載の組合せ細胞製剤。
(11)さい帯血がヒトのさい帯血である、上記(5)〜(10)のいずれかに記載の組合せ細胞製剤。
(12)上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の医薬組成物を製造する方法であって、
骨髄またはさい帯血から造血幹細胞分画を得ることと、
造血幹細胞分画をTPOおよびSCF存在下で培養して細胞を得ることと
を含んでなる方法。
(13)造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤の製造方法であって、
(a)複数個体のさい帯血をさい帯血のストックから選択すること(但し、すべてのさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかである場合を除く)と、
(b)(a)で選択されたすべての個体のさい帯血それぞれから免疫細胞を実質的に除去して、トロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)存在下で培養することと、
(c)1のドナーのさい帯血を、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるさい帯血から選択すること
を含んでなる方法。
(14)工程(b)が、(a)で選択されたすべての個体のさい帯血それぞれからCD34陽性細胞またはCD34陽性かつCD38陰性の細胞を回収し、その後、得られた細胞をトロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)存在下で培養すること
により行われる、上記(12)に記載の方法。
(15)さい帯血がヒトのさい帯血である、上記(12)または(13)に記載の方法。
(16)ヒトにおける造血幹細胞移植用の細胞製剤であって、
レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血と、
少なくとも1人のさい帯血であって、少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血と
の組合せを含んでなる、細胞製剤。
(17)上記(16)に記載の細胞製剤であって、
少なくとも1人のさい帯血であって、少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血が、さい帯血から得られる造血幹細胞画分である、細胞製剤。
(18)レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血のみが、レシピエントの長期造血に寄与する、上記(16)または(17)に記載の細胞製剤。
(19)少なくとも2人のさい帯血であって、少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血の組合せであって、造血幹細胞移植の際にドナーのさい帯血のレシピエントへの生着を促進するためにレシピエントに投与することに用いるための組合せ。
(20)少なくとも2人のさい帯血であって、少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血が、造血幹細胞画分である、上記(19)に記載の組合せ。
図1は、造血回復(生存)に必要な造血幹細胞数を決定するための移植実験のスキームを示す。
図2は、造血回復(生存)に必要な造血幹細胞数を求める実験の結果である。
図3は、造血回復(生存)に必要な全骨髄細胞数を求める実験の結果である。
図4は、レシピエントと異なるMHC抗原を有する造血幹細胞を移植した場合のレシピエントの造血回復(生存)の結果を示す。
図5は、レシピエントと異なるMHC抗原を有する造血幹細胞を複数種混合して移植した場合のレシピエントの造血回復(生存)の結果を示す。
図6は、レシピエントとそれぞれ異なるMHC抗原型を有する造血幹細胞を複数種混合して移植した場合のレシピエントにおける白血球細胞数および血小板数の移植後の推移を示す。
図7は、レシピエントで構築された造血系に対する様々なMHC抗原型を有する造血幹細胞の寄与を示す図である。
図8は、レシピエントと同一のMHC抗原型を有する全骨髄細胞と、レシピエントと異なるMHC抗原型を有する造血幹細胞4系統とを混合して移植した場合の、レシピエントの造血回復(生存)の結果を示す。
図9は、レシピエントで構築された造血系に対する様々なMHC抗原型を有する造血幹細胞の寄与を示す図である。
図10は、造血幹細胞を造血因子存在下で培養して得た培養物を全骨髄と一緒に投与するスキームを示す図である。
図11は、造血幹細胞を造血因子存在下で培養して得た培養物の分析結果を示す図である。
図12は、全骨髄移植後レシピエントにおける、得られた培養物由来の血球のキメラ率の推移を示す図である。
図13は、造血因子存在下で培養した造血幹細胞の早期造血への寄与を示す図である。
図14は、移植後レシピエントにおけるキメリズムの決定因子を調べた結果を示す図である。
図15は、4種のアロの造血幹細胞を造血因子存在下で培養して得た培養物の混合物の骨髄移植への影響を示す図である。
図16は、移植後レシピエントの赤血球における、培養物由来の細胞の寄与率の推移を示す図である。
図17は、移植後レシピエントの血小板における、培養物由来の細胞の寄与率の推移を示す図である。
図18は、移植後レシピエントの好中球における、培養物由来の細胞の寄与率の推移を示す図である。
図19は、移植片対宿主反応(GVH)および宿主対移植片反応(HVG)の双方が生じる系における、造血因子存在下で培養して得た培養物の移植結果に及ぼす影響を示す図である。
図20は、図19Aに示す実験系の移植後レシピエントの好中球における、培養物由来の細胞の寄与率の推移を示す図である。
図21は、ヒトさい帯血を用いた移植実験のスキームを示す図である。
図22は、亜致死量放射線照射した免疫不全マウスに対してヒトさい帯血移植を行った後の骨髄におけるヒト細胞の割合(%)を示す図(図22A)およびヒト細胞における各さい帯血のキメリズムを示す図(図22B)である。
図23は、造血幹細胞を補助するために用いたHLA−A2陽性の細胞のヒト細胞中でのキメラ率の経時変化を示す図である。
発明の具体的説明
本明細書では、「さい帯血」は、胎児と母体とをつなぐさい帯から得られる血およびその構成成分を意味する。「さい帯」とは、哺乳類において胎児と胎盤とを連絡する索をいう。さい帯血は、造血幹細胞を多く含むため、造血幹細胞移植の際に好ましく用いられる。しかしながら、さい帯血は、成人に投与するために十分な量得られることは少なく、さい帯血採取技術が向上した近年では成人での移植例も増加しているものの、成人移植例では小児と異なり細胞数不足が移植施行上の最大の障壁の一つとなっている。
本明細書では、「さい帯血のストック」は、さい帯血バンクに保存されたさい帯血を意味する。多くの場合、さい帯血のストックは、出産の際に採取されたさい帯血が凍結保存されたものである。本発明では、さい帯血のストックには、凍害保存剤を添加してもよい。本発明では、さい帯血のストックに加えて、新たに採取されたさい帯血を用いることができる。
本明細書では、「造血幹細胞」は、血球系細胞に分化する多分化能と自己複製能を有する細胞である。ヒト造血幹細胞は、例えば、さい帯血からCD34陽性細胞として分画して得ることができる。ヒト造血幹細胞はまた、例えば、CD34陽性細胞からさらにCD38陰性の細胞(CD34+CD38-)として分画して得ることもできる。また、マウス造血幹細胞は、例えば、骨髄からリニエージマーカー(lineage marker)陰性、c−kit陽性、Sca−1陽性の細胞(以下、「KSL細胞」という)として分画して得られる。リニエージマーカーは、各系統(lineage)の成熟血球細胞(リンパ球、赤血球、好中球およびマクロファージなど)において特異的に発現するマーカー分子の総称である。
リニエージマーカーとしては、CD2、CD3、CD4、CD5、CD8、NK1.1、B220、TER−119およびGr−1などが挙げられる。当業者であれば、リニエージマーカーの発現に基づいてKSL細胞を分画することが容易にできる。マウス造血幹細胞はまた、CD34の発現を指標としてCD34陰性のKSL細胞またはCD34LowのKSL細胞として分画しても得られる(Science, 1996, 12;273(5272):242-5)。そして、上記のようにして造血幹細胞を分画すると、少なくとも免疫細胞に関しては実質的に除去されることになる。上記マーカーを利用して細胞を分画する方法は、血液学の分野において周知である。
本明細書では、「造血幹細胞分画」とは、さい帯血や骨髄などから得られる造血幹細胞分画を意味し、例えば、ヒトでは、CD34陽性細胞として得られる分画、またはCD34陽性CD38陰性細胞として得られる分画を意味する。これらの分画は、当業者に周知の方法により得ることができ、例えば、セルソーター技術を用いて得ることができる。
本明細書では、「移植造血幹細胞」とは、レシピエントに移植された造血幹細胞を意味する。
本明細書では、「造血幹細胞移植」とは、提供者(ドナー)の造血幹細胞を患者(レシピエント)に対して移植することを意味する。造血幹細胞移植としては、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、およびさい帯血移植が挙げられる。造血幹細胞移植においては、通常、骨髄抑制を引き起こす処理を移植前に行って、患者の骨髄と、場合によって悪性腫瘍の壊滅を引き起こし、その後、造血幹細胞を移植することにより行われる。骨髄抑制を引き起こす処理としては、放射線照射や抗癌剤の投与が挙げられる。さい帯血移植におけるレシピエントとしては、白血病患者、再生不良性貧血患者、先天性免疫不全症患者、およびムコ多糖症や副腎白質ジストロフィーなどの先天性代謝異常疾患患者が挙げられる。造血幹細胞移植は、哺乳類、特にヒトにおいて行われる。一般的には、移植する骨髄、末梢血またはさい帯血は、免疫細胞を含む状態で移植される。
「さい帯血移植」は、造血幹細胞移植の一種であり、造血幹細胞の細胞源としてさい帯血を移植することを意味する。
本明細書では、「MHC」とは、主要組織適合遺伝子複合体を意味する。MHCは、移植免疫において移植片拒絶反応を引き起こす細胞表面の抗原群であり、マウスではH−2抗原、ヒトではHLA抗原として知られている。ヒトの造血幹細胞移植の際には、HLAの遺伝子座のうち、父方および母方それぞれのA座、B座およびDR座の遺伝子によりコードされる6つのHLA抗原の型を、ドナーとレシピエントとの間で可能な限り一致させることが望ましいとされている。
本明細書では、「MHC適合度」とは、MHCにおける抗原型が、ドナーとレシピエントとの間でいくつ不一致であるかを意味する。特にヒトの場合では、「MHC適合度」はHLA適合度を意味し、ドナーとレシピエントとの間で6つのHLA抗原のうちいくつが不一致であるかを意味する。適合度が高いとは、不一致の抗原数が少ないことを意味し、適合度が低いとは不一致の抗原数が多いことを意味する。抗原の一致とは、血清型が一致することを意味する。
さい帯血移植では、ドナーとレシピエントが、同種同系または同種異系の関係で施行されうる。現在の移植実務によれば、さい帯血移植では、一般的には、ドナーとレシピエントとの間で2抗原以下の不一致が許容される。すなわち、ドナーとレシピエントとの間で、例えば、2抗原不一致(すなわち、4抗原一致)、1抗原不一致(すなわち、5抗原一致)および0抗原不一致(すなわち、6抗原一致)のいずれかであれば、移植することが可能である。そして、移植片対腫瘍反応(GVL効果)を考慮しない場合には、GVHD反応や拒絶反応を避ける観点では、ドナーとレシピエントとのMHC抗原の適合度は高いほど好ましく、例えば、1抗原不一致がより好ましく、0抗原不一致が最も好ましい。逆に、ドナーとレシピエントとの間で、例えば、3抗原不一致(すなわち、3抗原一致)、4抗原不一致(すなわち、2抗原一致)、5抗原不一致(すなわち、1抗原一致)および6抗原不一致(すなわち、0抗原一致)の場合には、適合度が低くなるにつれてさい帯血移植はより困難になる。HLA一致度の意義は、基礎疾患によって異なり、再生不良性貧血や第一寛解期急性骨髄性白血病ではHLA一致度が高い方が移植成績は良いが、非寛解期急性白血病などのハイリスク症例ではHLA不一致でもGVL効果による再発抑制などにより生存率が高いとする報告もある。
本明細書では、「免疫細胞が実質的に除去された」とは、免疫細胞が実質的に除去される処理がなされていることを意味し、別の何らかの処理に付された結果、免疫細胞が実質的に除去されたことも含む意味で用いられる。本明細書では、「免疫細胞が実質的に除去された」とは、免疫細胞数が、例えば、除去前と比較して30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、3%以下または1%以下に低減していることをいう。本明細書では、「少なくとも免疫細胞が実質的に除去された」とは、造血幹細胞が残存し、かつ免疫細胞が実質的に除去されている限り、免疫細胞以外の細胞が除去されていてもよいことを意味する。従って、「少なくとも免疫細胞が実質的に除去された」とは、造血幹細胞を分画すること(これにより結果として免疫細胞が実質的に除去される)を含む意味で用いられる。造血幹細胞を分画する方法は上述した通りである。例えば、ヒトさい帯血から造血幹細胞および造血前駆細胞を取得する場合には、CD34陽性細胞またはCD34陽性CD38陰性細胞を採取することで、免疫細胞は実質的に除去される。CD34陽性細胞またはCD34陽性CD38陰性細胞の採取または分画は、当業者であれば常法に従って行うことができる。従って、「少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血」としては、例えば、さい帯血から得られる造血幹細胞を含んでなる細胞分画(例えば、ヒトCD34陽性細胞およびヒトCD34陽性CD38陰性の細胞)が好ましく用いられ得る。
本明細書では、「組合せ」とは、2以上の物の組合せを意味する。組合せでは、組合せの対象物が混合された状態(例えば、混合物や組成物)で提供されてもよいし、組合せの対象物が混合されずに互いに分離した形態(例えば、キット)で提供されてもよい。
本発明の組合せ細胞製剤は、複数の個体由来の少なくとも免疫細胞が除去されたさい帯血、または複数の個体由来の造血幹細胞分画を、トロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)の存在下で培養して得られた培養物を含んでなる。従って、本明細書では、「組合せ細胞製剤」とは、複数の個体由来のさい帯血由来の造血幹細胞分画をトロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)の存在下で培養して得られた培養物の組合せを含んでなる細胞製剤であり得る。本発明の組合せ細胞製剤では、複数の個体由来の少なくとも免疫細胞が除去されたさい帯血、または複数の個体由来の造血幹細胞分画を含んでなるものであってもよい。すなわち、本発明の組合せ細胞製剤では、複数の個体由来の少なくとも免疫細胞が除去されたさい帯血、または複数の個体由来の造血幹細胞分画をトロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)の存在下で培養して細胞製剤に用いてもよいし、培養しないで細胞製剤に用いてもよい。
本明細書では、「生着促進剤」とは、造血幹細胞移植後に移植造血幹細胞がレシピエント体内に生着することを促進させる作用剤を意味する。本明細書では、「生着」とは、移植造血幹細胞がレシピエントの体内で血液細胞を作り始めることを意味する。現在の医療実務では、生着は、好中球の回復により判断することが一般的であり、具体的には、ヒトでは、好中球数が3日連続して500個/μLを超えた場合に、500個/μLを超えた第1日目に生着したと判断することができる。本明細書では、「生着促進」とは、生着を示すレシピエントの割合を高めることを意味する。
現在、さい帯血移植による造血幹細胞移植が行われている。ヒトのさい帯血に含まれる有核細胞の数は、1単位あたり約7×108〜8×108細胞をピークとして分散している。成人の移植には、1×109〜2×109細胞(kg体重当り2×107〜3×107細胞程度)が推奨されているが、この細胞数を超える細胞を含むさい帯血は多くない。そして、有核細胞数がこの推奨細胞数に満たない多くのさい帯血は、利用されないままデッドストックとして保管され続けるか、または廃棄される。
本発明によれば、移植するドナーのさい帯血に、そのドナーとは同種異系の関係である他の個体のさい帯血(但し、免疫細胞は実質的に除去されている)の造血幹細胞、または該造血幹細胞をトロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)存在下で培養して得た培養物を混合することにより、ドナーのさい帯血が単独での移植に必要な細胞数を含んでいない場合であっても、ドナー由来の移植造血幹細胞を生着させ得ることを見出した。従って、本発明によれば、細胞数が不足しているために利用され得なかったさい帯血が、他の個体のさい帯血由来の培養物と混合することにより、活用されることになる。このような事情から、下記に説明するように、例えば、本発明では、早産(在胎週数が22〜36週)や低出生体重児の場合のさい帯血であっても用いることができる。また、本発明によれば、レシピエントとの関係ではMHC適合度を気にすることなく、さい帯血を選択することが可能であり、さい帯血の利用の幅がさらに広がることになる。
従って、本発明のある側面では、造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤であって、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血と、少なくとも1人の個体のさい帯血であって、少なくとも免疫細胞が実質的に除去され、その後、トロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)存在下で培養して得られる細胞(細胞培養物)との組合せを含んでなる、組合せ細胞製剤が提供される。ここで、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血には、T細胞が含まれていることが好ましい。さい帯血にT細胞が含まれることにより、該ドナーの造血が立ち上がるにつれて、他の個体に由来する造血を免疫学的に徐々に排除することができ、最終的なレシピエントの造血系を、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナー由来の造血系により立ち上げることが可能となるからである。ある態様では、少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血由来の細胞または該細胞を培養して得られる細胞は、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかである。本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤では、一過的には、すべての個体由来の造血幹細胞がレシピエントの造血に寄与し得、レシピエントの造血を一過的に支えるが、最終的には、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血がレシピエントの造血系に寄与し、MHC適合度の低い他の個体由来の細胞は除去され得る。
ある態様では、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ製剤は、該MHC適合度が4〜6抗原不一致のいずれか、または5抗原不一致若しくは6抗原不一致であるドナーのさい帯血から少なくとも免疫細胞が実質的に除去され、その後、トロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)存在下で培養して得られる細胞を組合せとして含む。ある態様では、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ製剤は、1人のドナーを除いて残りのすべての個体とレシピエントとのMHC適合度がそれぞれ3〜6抗原不一致のいずれかである。
本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤が、さい帯血を2以上含む場合には、個体間のMHC適合度は、3〜6抗原不一致であってもよい。従って、この態様では、ドナーのさい帯血は、個体同士間のMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかでなければならないとの条件には拘束されずに、選択することができる。
ある態様では、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤は、特に限定されないが、2〜10個体の個体由来の細胞を含み、2〜5個体の個体由来の細胞または3〜5個体の個体由来の細胞を組合せとして含む。
ある態様では、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかのドナーのさい帯血からも免疫細胞が実質的に除去されているが該ドナー由来のT細胞が混入されている。また、ある態様では、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかドナーのさい帯血をそのまま移植する。これらの態様では、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかである個体のさい帯血は、ドナーの造血が立ち上がるまでの早期の造血に寄与した後は、レシピエント体内から除去される。
ある態様では、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤において、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血は、さい帯血採取時に測定した細胞数で、2×108〜1×109細胞、場合によっては2×108〜5×108細胞の有核細胞しか含まない。従って、本発明によれば、正期産に加えて、早産の産児の出産時に得られるさい帯血を用いることができる。
従って、ある態様では、本発明の組合せ細胞製剤において、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血は、正期産または早産の産児の出産時に得られるさい帯血であり得る。「正期産」とは、妊娠37週0日〜妊娠41週6日までの出産をいう。「早産」とは、正期産以前の出産、すなわち妊娠22週0日〜妊娠36週6日までの出産をいう。
同様に、ある態様では、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤において、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血は、3000g以下の出生体重の産児または低出生体重児の出産時に得られるさい帯血である。「低出生体重児」とは、出生体重が2500g未満の産児をいう。
本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤に用いるさい帯血が由来する個体の数は以下を指標に決定することができる。すなわち、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤において組み合わせるさい帯血に含まれる細胞数は、さい帯血採取時点の有核細胞の総数で、好ましくは1×109細胞以上、より好ましくは2×109細胞以上、さらに好ましくは3×109細胞以上、さらにより好ましくは4×109細胞以上である。有核細胞数が増えるほど、移植細胞の生着率は向上する。
従って、ある態様では、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤において、ドナーのさい帯血は、さい帯血採取時に測定した有核細胞の総数で、2×108細胞以上、5×108細胞以上、1×109細胞以上、2×109細胞以上、3×109細胞以上、または4×109細胞以上の有核細胞を含む。
本発明は、上述のように含有有核細胞数の少ないさい帯血であっても造血幹細胞移植製剤として利用する途を切り拓くものである。さい帯血の造血幹細胞移植で問題となるのは、さい帯血中に含有有核細胞数が移植に十分な量含まれていないことが多いことである。しかし、本発明では、MHC適合度に依らず、ドナーのさい帯血と、複数個体の少なくとも免疫細胞が除去されたさい帯血または造血幹細胞分画または該造血幹細胞分画をTPOおよびSCF存在下で培養して得られる細胞培養物とを組み合わせて移植することにより、含有有核細胞数の少ないさい帯血を用いても造血幹細胞移植が生着し得る。
従って、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤において、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーは、レシピエントとのMHC適合度が1抗原不一致であるドナーとすることができ、より好ましくは0抗原不一致であるドナーとすることができる。ある態様では、レシピエントとのMHC適合度が0抗原不一致または1抗原不一致であるドナー由来のさい帯血は、2×108〜1×109細胞、場合によっては2×108〜5×108細胞の有核細胞しか含まない。
ある態様では、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤は、ヒトに投与することが意図されている。本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤は、好ましくは、ドナーおよびレシピエントが共にヒトである。
ある側面では、本発明は、造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物を提供する。本発明の造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物は、造血幹細胞または免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血をトロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)存在下で培養して得られる細胞を含んでなる。本明細書では「造血幹細胞移植を補助すること」とは、造血幹細胞移植において、移植後のレシピエントにおける移植細胞の生着率を向上させることを意味する。本明細書では「造血幹細胞移植を補助すること」には、本発明の医薬組成物に含まれる細胞がレシピエントに生着することを必要としないことが含まれる。本発明のある態様では、本発明の医薬組成物に含まれる細胞は、移植した骨髄やさい帯血によりレシピエントの体内から除去される。
本明細書では、「造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物」とは、「生着促進剤」という意味で用いられるか、または造血幹細胞移植後の移植造血幹細胞がレシピエントに生着するまでの期間、レシピエントの造血を維持するために用いる医薬組成物という意味で用いられる。本明細書では、「造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物」とは、造血幹細胞移植後のレシピエントの生存率を高めるが、組成物に含まれる細胞自体は、レシピエントの長期造血(例えば、さい帯血や骨髄が造血に寄与した後の造血)に生着することのない医薬組成物をも意味する。長期造血とは、例えば、移植後4週間以降、5週間以降、6週間以降、2月以降、半年以降、または1年以降の造血である。
本発明のある態様では、本発明の医薬組成物は、造血幹細胞または免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血をTPOおよびSCF存在下で6〜8日間培養して得られる細胞を含む。本発明のさらに特定の態様では、本発明の医薬組成物は、造血幹細胞をTPOおよびSCF存在下で5〜10日間(例えば、7日間)培養して得られる細胞を含む。
本発明のある態様では、TPO濃度は、20〜200ng/mLであり、より好ましくは30〜150ng/mLであり、さらに好ましくは、40〜100ng/mLであり、
例えば、50ng/mLとすることができる。
本発明のある態様では、SCF濃度は、20〜200ng/mLであり、より好ましくは30〜150ng/mLであり、さらに好ましくは、40〜100ng/mLであり、例えば、約50ng/mLとすることができる。
本発明のある態様では、TPO濃度およびSCF濃度は、20〜200ng/mLであり、より好ましくは30〜150ng/mLであり、さらに好ましくは、40〜100ng/mLであり、例えば、約50ng/mLとすることができる。
本発明の造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物は、骨髄移植の際に、またはさい帯血移植の際に、骨髄またはさい帯血と組み合わせてレシピエントに投与するものである。本発明の造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物において、免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血または造血幹細胞またはこれらのいずれかをTPOおよびSCF存在下で培養して得られる細胞は、移植された骨髄またはさい帯血による造血が立ち上がるまでの期間(例えば、移植から2〜4週間程度)のレシピエントの造血を支えることができる。
本発明の造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物においては、培養される造血幹細胞は、移植される骨髄またはさい帯血とアロの関係であってもよい。アロの関係である場合は、培養された造血幹細胞に由来する細胞成分は、移植された骨髄またはさい帯血による造血が立ち上がる過程で、レシピエント体内から除去されるためである。以下の理論に拘束されるものではないが、この体内からの細胞の除去には、移植された骨髄またはさい帯血由来のT細胞が関与する可能性が示唆される。本発明のある態様では、培養される造血幹細胞は、移植骨髄またはさい帯血と、MHC適合度において3〜6抗原不一致であってもよく、ドナーに含まれる免疫細胞(特にT細胞)によりドナー由来の造血が確立すると共にレシピエント体内から除去される。
従って、本発明の造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物は、T細胞、具体的には、該医薬組成物に含まれる造血幹細胞を免疫学的に排除することのできるT細胞を含む組成物と組み合わせてレシピエントに投与することができる。該細胞製剤を免疫学的に排除することのできるT細胞は、培養される造血幹細胞とはアロのT細胞とすることができる。当然ながら、組み合わせうるT細胞は、ドナーと免疫学的に適合するものであり、長期造血に寄与するドナーのさい帯血由来の造血幹細胞からの造血を阻害しないものとすることができる。
上述の通り、本発明の造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物においては、培養される造血幹細胞は、移植される骨髄またはさい帯血とアロの関係であってもよい。このことから、本発明の造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物は、単一ロットで大量に作製して、MHC適合度によらず様々なレシピエントに投与することも可能である。
ある態様では、本発明の造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物は、骨髄移植の際に、またはさい帯血移植の際に、免疫細胞が除去された骨髄またはさい帯血と、該医薬組成物に含まれる造血系細胞を免疫学的に排除することのできるT細胞と、組み合わせてレシピエントに投与することができる。
本明細書では、「組み合わせて投与する」とは、同時に投与すること、および、逐次的に投与することの両方を含む。同時に投与する場合には、レシピエントは、混合物として投与されてもよく、別々の組成物として投与されてもよい。
細胞製剤は、細胞の他に緩衝液などの賦形剤を含んでいてもよい。
また、本発明の造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物は、骨髄またはさい帯と組み合わせてレシピエントに投与され得る。従って、本発明のある側面では、さい帯血または骨髄と、本発明の造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物とを含んでなる、移植材料が提供される。本発明の移植材料は、造血幹細胞移植のための移植材料である。
ある態様では、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤において、少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血か、若しくはさい帯血から得られる造血幹細胞分画、またはこれらのいずれかを、トロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)存在下で培養して得られる細胞としてもよい。造血幹細胞の培養条件、例えば、培養日数や各因子の濃度は上記で説明した通りである。
後述の実施例によれば、複数個体由来のさい帯血由来の造血幹細胞を組み合わせて得た細胞製剤は、レシピエントとのMHC適合度には無関係にレシピエントの造血を活性化させた。従って、本発明によれば、造血幹細胞活性化のための細胞製剤が提供される。
より具体的には、造血幹細胞活性化のための細胞製剤であって、さい帯血を含んでなり、該さい帯血から少なくとも免疫細胞が実質的に除去されている細胞製剤が提供される。ある態様では、さい帯血が由来する個体とレシピエントとのMHC適合度は3〜6抗原不一致のいずれかである。
本明細書では、造血幹細胞の活性化とは、造血幹細胞の増殖および/または分化を活性化することを意味する。
本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、MHC適合度に関係なく投与できる点で有利である。すなわち、本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、量産することができ、MHC適合度に関係なく様々な患者に投与することが可能である。
ある態様では、本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、更なる1以上の個体由来の少なくとも免疫細胞が除去されたさい帯血を、若しくは、更なる1以上の個体のさい帯血から得られる造血幹細胞分画を含むか、または、該さい帯血若しくは造血幹細胞分画をTPOおよびSCF存在下で培養して得られる細胞培養物を含んでなる。ある態様では、本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかである複数の個体由来の少なくとも免疫細胞が除去されたさい帯血か、または該さい帯血をTPOおよびSCF存在下で培養して得られる細胞培養物を含んでなる、組合せ細胞製剤である。ある態様では、本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、2〜10個体、2〜5個体、または3〜5個体のさい帯血由来の細胞培養物を含む。
本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤が、2個体以上のさい帯血またはその培養物を含む場合には、いずれの2個体間のMHC適合度も、3〜6抗原不一致であってもよい。
本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、移植造血幹細胞を活性化させることができる。従って、ある態様では、本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、造血幹細胞移植用の細胞製剤と組合せて使用される。すなわち、この態様における本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、移植増殖幹細胞の生着促進剤である。ここで、組み合わせて使用される造血幹細胞移植用の細胞製剤は、好ましくは、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかである個体の少なくとも免疫細胞が除去されたさい帯血若しくは造血幹細胞分画、またはこれらのいずれかをTPOおよびSCF存在下で培養して得られる細胞培養物を含んでなる。本発明の移植増殖幹細胞の生着促進剤は、ドナーのさい帯血と混ぜてレシピエントに投与してもよいし、ドナーのさい帯血を移植する前に、同時に、または後にレシピエントに投与してもよい。本発明のある態様では、本発明の生着促進剤に含まれる細胞は、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかであったとしても、レシピエントの早期造血に一時的に寄与し、ドナーのさい帯血による造血系の構築を補助するが、最終的にはドナーのさい帯血により構築された免疫系によりレシピエントの体内から消失し得る。
本発明の医薬組成物、組合せ細胞製剤および細胞製剤は、免疫抑制剤の併用を意図したものであってもよいし、免疫抑制剤の併用を意図しないものであってもよい。
本発明の医薬組成物、組合せ細胞製剤および細胞製剤は、1以上の薬学的に許容可能な担体を含んでいてもよい。
本発明の医薬組成物、組合せ細胞製剤および細胞製剤は、造血幹細胞移植を受ける対象(すなわち、レシピエント)、特に限定されないが例えば、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、若年性骨髄単球性白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、副腎皮質ジストロフィー、骨髄巨核球造血不全性血小板減少症、先天性赤芽球ろう、ファンコニー貧血などの再生不良性貧血、遺伝性ニューロパチー、ムコ多糖症、先天性好中球減少症、サラセミア、X染色体性リンパ増殖性症候群のレシピエントに投与することができる。
本発明では、造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物を製造する方法であって、
骨髄またはさい帯血から造血幹細胞分画を得ることと、
造血幹細胞分画をTPOおよびSCF存在下で培養して細胞を得ることと
を含んでなる方法が提供される。
本発明では、造血幹細胞移植を補助することに用いるための医薬組成物を製造する方法であって、
骨髄またはさい帯血から少なくとも免疫細胞を除去することと、
得られた骨髄またはさい帯血をTPOおよびSCF存在下で培養して細胞を得ることとを含んでなる方法が提供される。
造血幹細胞分画は、例えば、ヒトCD34陽性細胞およびヒトCD34陽性CD38陰性の細胞として当業者に周知の方法により得ることができる。TPOおよびSCF存在下での培養は、造血幹細胞移植を補助することに用いるための細胞製剤の説明の箇所で説明した通りである。
本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤では、1個体のドナーのさい帯血はレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血とし、その他の個体のさい帯血は、レシピエントとのMHC適合度に関係なく選択することができる。この場合、製造された組合せ細胞製剤は、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナー由来の移植造血幹細胞をレシピエントにおいて生着させ得る。これは、ドナー由来の移植造血幹細胞にT細胞が含まれ、長期的にはレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナー由来の移植造血幹細胞以外のさい帯血からの造血を抑制するからであると考えられる。
従って、本発明のさらなる側面では、造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤の製造方法が提供される。すなわち、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤の製造方法では、下記(a)で選択され免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血に、下記(c)で選択されるさい帯血をさらに組み合わせることができる。
具体的には、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤の製造方法は、
(a)複数個体のさい帯血をさい帯血のストックから選択すること(但し、すべてのさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかである場合を除く)と、
(b)(a)で選択されたすべての個体のさい帯血それぞれから免疫細胞を実質的に除去して、トロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)存在下で培養することと、
(c)1個体のドナーのさい帯血を、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血から選択すること
を含んでなる方法である。この方法で得られる組合せ細胞製剤は、(c)で選択されたさい帯血由来の造血幹細胞を生着させることができ、造血幹細胞移植用に用いられ得る。
上記工程(a)では、選択されるさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致でなければならないとの条件には拘束されずに、複数個体のさい帯血をさい帯血のストックから選択することができる。
ある態様では、上記工程(a)では、すべてのさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかである場合に加えて、すべてのさい帯血間のMHC適合度が0抗原不一致、0〜1抗原不一致のいずれか、または0〜2抗原不一致のいずれかである場合が除かれる。
ある態様では、上記工程(b)は、(a)で選択されたすべてのドナーのさい帯血それぞれからCD34陽性細胞またはCD34陽性CD38陰性細胞を回収し、その後、得られた細胞をトロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)存在下で培養することにより行われる。
本発明によれば、造血幹細胞活性化のための組合せ細胞製剤を作製するためには、レシピエントとのMHC適合度に関係なくさい帯血を選択することができる。従って、すべてのさい帯血が、レシピエントとのMHC適合度も0〜2抗原不一致のいずれかでなければならないとの条件を満たす必要はない。特に、いずれのさい帯血も、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致であってもよい。
従って、本発明のさらなる側面では、造血幹細胞活性化のための組合せ細胞製剤の製造方法であって、
(a)複数個体のさい帯血をさい帯血のストックから選択すること(但し、すべてのさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかである場合を除く)と、
(b)(a)で選択されたすべての個体のさい帯血それぞれから免疫細胞を実質的に除去して、トロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)存在下で培養することを含んでなる方法が提供される。
上記工程(a)では、選択されるさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致でなければならないとの条件には拘束されずに、複数個体のさい帯血をさい帯血のストックから選択することができる。この場合、製造された組合せ細胞製剤は、MHC適合度に関係なく投与できる点で有利である。
ある態様では、上記工程(a)では、すべてのさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかである場合が除かれ、かつ、すべてのさい帯血間のMHC適合度が0抗原不一致、0〜1抗原不一致のいずれか、または0〜2抗原不一致のいずれかである場合が除かれる。
ある態様では、上記工程(b)では、免疫細胞が、CD34陽性細胞またはCD34陽性かつCD38陰性の細胞を回収することにより、除去される。ある態様では、上記工程(b)では、免疫細胞が、CD34陽性細胞またはCD34陽性かつCD38陰性の細胞を回収することにより、除去されたのちに、
得られた細胞をトロンボポイエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)存在下で培養してもよい。
ある態様では、本発明の上記製造方法は、本発明の医薬組成物および組合せ細胞製剤を製造するために用いることができる。
ある態様では、本発明の製造方法は、移植造血幹細胞活性化のための組合せ細胞製剤の製造方法である。ある態様では、本発明の製造方法は、投与対象における自己造血幹細胞活性化のための組合せ細胞製剤の製造方法である。ある態様では、投与対象は、再生不良性貧血の患者である。
本明細書で用いられる「レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致でなければならないとの条件には拘束されずに」とは、この条件に拘束されない限りどのような条件に拘束されてもよいことを意味する。例えば、本発明の医薬組成物、細胞製剤または造血幹細胞活性化のための組合せ細胞製剤は、(a)においてさい帯血のMHC抗原型を調べずにまたは知らずにさい帯血を選択してもよい。あるいは、本発明の造血幹細胞移植用または造血幹細胞活性化のための組合せ細胞製剤は、(a)において他のいかなる条件に基づいて選択してもよい。例えば、ドナーはレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致とし、その他は特にMHC適合度を意識せずに選択してもよい。
本発明のさらなる側面では、その必要のある対象に造血幹細胞を投与する方法であって、該対象とのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血と、少なくとも1人の個体の少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血若しくは造血幹細胞分画、またはこれらのいずれかをTPOおよびSCF存在下で培養して得られる細胞培養物との組合せを投与することを含んでなる方法が提供される。ある態様では、細胞培養物は、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかである。対象は、造血幹細胞移植を受ける対象(すなわち、レシピエント)、特に限定されないが例えば、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、若年性骨髄単球性白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、副腎皮質ジストロフィー、骨髄巨核球造血不全性血小板減少症、先天性赤芽球ろう、ファンコニー貧血などの再生不良性貧血、遺伝性ニューロパチー、ムコ多糖症、先天性好中球減少症、サラセミア、X染色体性リンパ増殖性症候群の患者である。対象がリンパ腫や白血病などの癌を患っている場合には、造血幹細胞を移植する前に、対象に対して外科的療法、化学療法および/または放射線療法を行うことにより癌細胞を体内から除去することができる。対象はヒトであり得る。
ある態様では、移植造血幹細胞を活性化させる方法であって、その必要のある対象に少なくとも1人の個体のさい帯血であって、少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血、若しくはさい帯血に由来する造血幹細胞分画、またはこれらのいずれかをTPOおよびSCF存在下で培養して得られる細胞培養物を投与することを含んでなる方法が提供される。ある態様では、細胞培養物は、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかである。対象は、造血幹細胞移植を受ける対象(すなわち、レシピエント)、特に限定されないが例えば、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、若年性骨髄単球性白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、副腎皮質ジストロフィー、骨髄巨核球造血不全性血小板減少症、先天性赤芽球ろう、ファンコニー貧血などの再生不良性貧血、遺伝性ニューロパチー、ムコ多糖症、先天性好中球減少症、サラセミア、X染色体性リンパ増殖性症候群の患者である。対象がリンパ腫や白血病などの癌を患っている場合には、造血幹細胞を移植する前に、対象に対して外科的療法、化学療法および/または放射線療法を行うことにより癌細胞を体内から除去することができる。対象はヒトであり得る。
本発明のある態様では、投与するさい帯血は、本発明の細胞製剤または組合せ細胞製剤である。本発明のある態様では、さい帯血は、本発明の医薬組成物と共に要とされる。
本発明のある態様では、投与するさい帯血の組合せは、別々に投与する、例えば、同時投与、逐次投与または連続投与することができる。
実施例1:致死量の放射線照射マウスの生存に必要なKSL細胞および全骨髄細胞の必要細胞数の算出
4.9Gyの放射線を2回照射したマウスは、骨髄抑制を引き起こし死亡する。本実施例では、9.8Gyの放射線を照射したマウスにさい帯血移植のモデルとして造血幹細胞であるKSL細胞または全骨髄細胞をそれぞれ移植してマウスの生存に必要な細胞数を調べた。
マウスの各系統は以下の通り入手した。C57BL/6 (B6, H2b, CD45.2), CBF1 (Balb/c
× B6 F1, H2b/d, CD45.2), DBA/2 (H2d, CD45.2), B6C3F1(B6 × C3HHe F1, H2b/k, CD45.2) 系統は、日本SLCより購入した。また、B6-CD45.1 (H2b) 及び B6-CD45.1/45.2 (H2b)系統は三共ラボサービスより購入し、DBA/1 (H2q, CD45.2)系統は日本チャールズリバーより購入した。B6D1F1 (H2b/q, CD45.2)系統は、オスDBA/1とメスB6-CD45.2との交配により作製し、BDF1 (H2b/d, CD45.1/CD45.2)系統は、オスB6-CD45.1 とメスDBA2の交配によりそれぞれ作製した。全ての動物実験は東京大学医科学研究所動物実験委員会のガイドラインに従って作製し、実験に用いた。
レシピエントマウスとしては、C57BL/6 (B6, H2b, CD45.2)を用いた。レシピエントマ
ウスには、移植日の7日前から酸性水(pH2.5)を摂取させ、移植当日に4.9Gyの放射線を2回(合計9.8Gy)照射して、その後、ドナー骨髄細胞を静脈内投与した。
ドナー骨髄細胞としては、マウスKSL細胞または全骨髄細胞を用いた。マウスKSL細胞は、c−Kit陽性、Sca−1陽性、かつリニエージマーカー(Lineage marker)陰性の細胞であり、全骨髄細胞中に存在する。
まず、常法により、各系統の8〜12週齢オスマウスの大腿骨、脛骨および骨盤から全骨髄細胞を得た。次に、マウスKSL細胞は、全骨髄細胞から以下の方法で回収した。MACS(商標)LSカラムとc−Kitマイクロビーズ(Miltenyi Biotech, Bergisch Gladbach, ドイツ)を用いてc−Kit陽性細胞を選択した。次いで、c−Kit陽性細
胞を、リニエージマーカーとしてCD4、CD8、B220、IL−7R、Gr−1、Mac−1およびTer−119をビオチン化モノクローナル抗体カクテルを用いて染色し、PE−Sca−1、APC−c−Kit、APC−シアニン7−ストレプトアビジンでさらに染色した(Biolegend およびe-Bioscience)。死細胞をヨウ化プロピジウム染色により除去した後に、FACS AriaII(ベクトンディキンソン社製)を用いて、c−Kit陽性、Sca−1陽性、かつリニエージマーカー陰性を指標として、96穴プレート上にKSL細胞を回収した。
まず、図1に示すように、放射線照射したレシピエントマウスB6(CD45.2)に250個、500個、1000個または2000個のドナーマウスB6(CD45.1)由来のKSL細胞を移植してレシピエントマウスの生存率を確認した。
その結果、500個以下のKSL細胞を移植した群のマウスはすべて死亡したが、2000個以上のKSL細胞を移植した群のマウスは100%の生存率を示した(図2)。従って、この実験系では、マウスの生存には、2000個のKSL細胞が必要であることが明らかとなった。
次に、放射線照射したレシピエントマウスB6(CD45.2)にドナーマウスB6(CD45.1)由来の全骨髄細胞を移植してレシピエントマウスの生存率を確認した。その結果、1×105個以下の細胞を移植した群のマウスはすべて死亡したが、2×105個の細胞を移植した群のマウスは、100%の生存率を示した(図3)。従って、この実験系では、マウスの生存には、2×105個の全骨髄細胞が必要であることが明らかとなった。
さらに、CBF1 (Balb/c × B6 F1, H2b/d, CD45.2)系統、B6C3F1(B6 × C3HHe F1, H2b/k, CD45.2)系統、B6D1F1 (H2b/q, CD45.2)系統およびBDF1 (H2b/d, CD45.1/CD45.2)系統
(これらはすべてレシピエントマウスと同種異系である)から得たそれぞれ500個のKSL細胞をレシピエントマウスに移植したところ、いずれの系統のKSL細胞を移植した群においてもすべてのマウスが死亡した(図4)。この実験系では、ドナー細胞が由来するいずれの系統もレシピエントと同一のMHCを有するため、レシピエントに対してGVHDを起こすことがない。一方で、ドナー細胞はレシピエントが有さないMHCを有するため、レシピエントによる攻撃を受けうるため、宿主対移植片反応(HVGR)を引き起こし得る。従って、本実験系は、移植したドナー細胞の生着の観点では厳しい条件である。
ヒトのさい帯血移植では、2×107〜3×107細胞/kg体重が必要とされている。ヒトのさい帯血から得られる細胞は、多くの場合、7×108細胞程度であるが、70k
gの体重の成人に投与すると、1×107細胞/kg体重程度と計算され、さい帯血移植
に必要な細胞数に満たない。すなわち、70kgの体重の成人へのさい帯血移植には、2〜3単位以上のさい帯血が必要である。
本実施例によれば、放射線照射レシピエントマウスは、2000個以上のKSL細胞の移植により致死性を回避できた。また、500個のKSLでは、移植には十分ではなかった。
同様に、本実施例によれば、放射線照射レシピエントマウスは、2×105細胞の全骨
髄細胞の移植により致死性を回避できた。また、5×104細胞の全骨髄細胞では、移植
には十分ではなかった。
ところで、ヒトさい帯血の移植には、70kgの体重を有する成人に対して1×109細胞以上の有核細胞を含むさい帯血が必要とされる。しかし、多くの場合、ヒトさい帯血に含まれる有核細胞は、その1/4〜1/3程度の量である。ヒトさい帯血移植のこの状況を模倣するため、必要細胞数の1/4を一人から得られる造血幹細胞単位とみなして以降の実験を行った。すなわち、以降の実施例では、500個のKSL細胞を1単位とし、同様に5×104細胞の全骨髄細胞を1単位として実験を行った。
実施例2:異なる系統のマウスに由来するKSL細胞の混合物の致死量の放射線照射マウスの生存に対する影響
実施例1では、致死量の放射線照射マウスの生存に、単一の系統に由来する4単位(2,000個)のKSL細胞が必要であることが示された。本実施例では、異なる系統のマウスに由来するKSL細胞を1単位ずつ混合して計5単位(2,500個)を致死量の放射線照射マウスに移植してその生存に対する影響を確認した。
具体的には、本実施例では、C57BL/6 (B6, H2b, CD45.1)系統、CBF1 (Balb/c × B6 F1, H2b/d, CD45.2)系統、B6C3F1(B6 × C3HHe F1, H2b/k, CD45.2)系統、B6D1F1 (H2b/q, CD45.2)系統およびBDF1 (H2b/d, CD45.1/CD45.2)系統から得られたそれぞれ500個のKSL細胞を混合して、実施例1に記載の方法で得たレシピエントマウスに移植した。正の対照として、レシピエントと完全同一のMHC抗原型を有するC57BL/6 (B6, H2b, CD45.1)系統の2,500個のKSL細胞を実施例1に記載の方法で得たレシピエントマウスに移植した。
その結果、驚くべきことに、上記5系統由来のKSL細胞を混合して得られた5系統混合KSL細胞を移植したマウスは、正の対照と同じレベルの生存率を示した(図5)。
そこで、移植後のレシピエントマウスの白血球および血小板の回復を調べた。マウスの白血球数および血小板数は、常法によりマウスから得た末梢血を全自動血球係数器MEK−6450セルタックα(日本光電社製)を用いて測定することにより求めた。
その結果、5系統由来のKSL細胞を混合して得られたKSL細胞は、白血球および血小板に関して正の対照と同じレベルの回復を見せた(図6)。すなわち、通常は、4単位のKSL細胞が必要とされるところ、移植した同種同系のKSL細胞は1単位のみであったにも関わらず、マウスの造血回復が見られることが分かった。この造血回復は、レシピエントのMHC抗原型と完全に不一致の抗原型を有する4系統由来のKSL細胞によるものと考えられる。
造血幹細胞移植では、一般的には、ドナーとレシピエントとでHLAの抗原型が一致していることが要求され、例えば、骨髄移植では、1抗原不一致または抗原の完全な一致が要求され、さい帯血移植では、2抗原不一致、1抗原不一致または抗原の完全な一致が要求される。しかしながら、今回の結果によれば、いずれの系統のドナーマウスも、レシピエントマウスとはMHCの抗原型のすべてが不一致(フルアロ)であったにも関わらず、レシピエントにおいて造血回復を引き起こし、移植造血幹細胞がレシピエント内で定着することが示された。
実施例3:5系統由来のKSL細胞を混合して得られたKSL細胞のレシピエントへの寄与
実施例1で説明したように、本実験系は、宿主対移植片反応(HVGR)を引き起こし得る系であり、同種異系の細胞はレシピエントにより排除され得る。従って、レシピエントマウスに対して同種同系の1系統および同種異系の4系統に由来するKSL細胞を混合して用いた場合、同種異系の4系統に由来するKSL細胞は宿主対移植片反応(HVGR)により排除され造血系に寄与できないと考えられた。このことを確認するため、本実施例では、レシピエントで生着した移植造血幹細胞のキメリズム解析を行った。
5系統由来のKSL細胞を混合して得られたKSL細胞は、実施例4に記載の通りにレシピエント内に導入した。造血細胞への各系統の寄与を調べるために、レシピエントから末梢血を採取し、ACK溶解緩衝液(NH4Cl 8,024mg/L、KHCO3 1,001mg/L、EDTA二ナトリウム二水和物 3.722mg/L)で処理した後に、以下の抗体を用いて染色を行った:Brilliant Violet 570−Ly−6G/6C (Gr−1)、PE−Cyanin5−CD45R/B220、Alexa Flour 700−CD4、Alexa Flour 700−CD8a、PE−シアニン7−CD45.1、APC−cyanin7−CD45.2、Pacific Blue−H2Kd、FITC−H2Kk、PE−H2KbおよびAlexa Flour647−H2Kq(Biolegend社製)。このようにして各系統の細胞を異なる色素で染色した後に、FACS Aria II(ベクトンディキンソン社製)を用いて分析し、FlowJoソフトウェア(TreeStar, Ashland, OR,USA)を用いて各系統の造血細胞への寄与を調べた。
その結果、予想と反して、すべての系統に由来するKSL細胞がレシピエントに寄与していることが明らかとなった(図7)。上述の通り、本実験系は、同種異系の系統に由来するKSL細胞は宿主対移植片反応(HVGR)により排除され得ると考えられるため、すべての系統の細胞が同等にレシピエントに寄与したことは非常に驚くべきことである。
本実施例の結果から、KSL細胞は、同種異系の系統に由来するものであっても、免疫細胞を除去し、複数の系統の混合物として移植することにより、レシピエントの造血細胞に寄与できることが明らかとなった。
実施例4:1単位の同種同系の全骨髄と4単位の同種異系のKSL細胞を用いた造血系の回復
上記実施例では、移植した同種異系のKSL細胞がほぼ同等にレシピエントマウスの造血系に寄与することが示された。本実施例では、1系統は同種同系の全骨髄とし、他は同種異系のKSL細胞とした場合の造血系の回復を確認した。
同種同系の全骨髄は、実施例1に記載の方法に従ってC57BL/6 (B6, H2b, CD45.1)系統
のマウスから調製した。同種異系のKSL細胞は、CBF1 (Balb/c × B6 F1, H2b/d, CD45.2)系統、B6C3F1(B6 × C3HHe F1, H2b/k, CD45.2)系統、B6D1F1 (H2b/q, CD45.2)系統およびBDF1 (H2b/d, CD45.1/CD45.2)系統から実施例1に記載の方法で調製した。得られた同種同系の1系統の全骨髄(有核細胞数:5×104細胞)に、得られた4系統のKSL細胞を1単位(500個)ずつ混合して、全骨髄1単位とKSL細胞4単位の混合物を得た。レシピエントマウスとしては、C57BL/6 (B6, H2b, CD45.2)を用い、実施例1に記載の通りに照射した。
得られた全骨髄とKSL細胞との混合物を静脈投与によりレシピエントマウスに移植して移植後のマウスの生存率を確認したところ、全骨髄5×104個のみを投与した群では、すべてのマウスが死亡したが、全骨髄とKSL細胞との混合物を投与した群では、すべてのマウスが生存した(図8)。すなわち、造血幹細胞移植には、4単位の全骨髄が必要であるところ、1単位の全骨髄と、同種異系のKSL細胞との混合物で、マウスの造血回復が見られることが分かった。このことから、必要細胞数の少なくとも1/4程度の細胞を含む全骨髄が得られれば、それをKSL細胞などの造血幹細胞と混合することにより、造血幹細胞移植に用いることができることが明らかとなった。しかも、混合するKSL細胞は、レシピエントとのMHC適合度に関係なく用いることができた。
また、生存したレシピエントマウスの末梢血を採取し、実施例3に記載の方法で各系統由来の細胞の造血系への寄与を調べた。すると、全骨髄に複数系統由来のKSL細胞を混ぜてレシピエントマウスに導入したにもかかわらず、実質的に全骨髄由来の細胞のみ(約94.7%±2.5%)が造血系に寄与していることが明らかとなった(図9、B6(CD45.1); H2b)。また、レシピエントマウス由来の細胞はほぼ見られなかった(図9、B6(CD45.2); H2b)。これは、移植直後には、KSL細胞はレシピエントの造血系に寄与し得るものの、レシピエント内での造血回復後は、移植した全骨髄に由来する免疫系により、KSL細胞が排除されたことによると思われた。本実施例により、KSL細胞などの造血幹細胞は、細胞生着促進作用を有することが示された。
上記実施例は、骨髄細胞由来の造血幹細胞をモデルとして用いたが、さい帯血由来の造血幹細胞を用いた場合にも同様であることは当業者であれば十分に理解できるであろう。骨髄よりもHLA適合度が低くても移植が可能である点で、さい帯血はより効果的な造血幹細胞移植を可能とする。
実施例5A:造血幹細胞移植補助のための細胞成分
本実施例では、造血幹細胞の培養物を造血幹細胞移植の補助剤として用いることを試みた。
実験のデザインは、図10Aに示される通りであり、全骨髄との競合条件下で、造血幹細胞(CD34-KSL細胞)を特定造血因子の存在下で培養して得た培養物をレシピエントに移植し、移植後の造血系への細胞の寄与を調べた。
マウス全骨髄は、週齢8週〜12週の雄マウスの大腿骨、脛骨および骨盤から採取した。本実施例では、造血幹細胞としてCD34-KSL細胞を常法により得て、50ng/mLトロンボポイエチン(TPO、ペプロテック社製)および50ng/mL幹細胞因子(SCF、ペプロテック社製)存在下で各ウェル50個の造血幹細胞を培養した。抗CD34抗体としては、FITC−抗CD34抗体(Biolegend社製)を用いた。培地は、s−clone培地(Eidia Co.,Ltd.)に10%ウシ血清アルブミン(SigmaAldrich, A4503)と1%ペニシリン−ストレプトマイシン−グルタミン(ギブコ社製, 10378)を添加したものを用いた。
培養7日後、12日後または14日後の細胞は、図10Bの写真で示される通りであった。
得られた培養物のc−kit、Lin、Sca1およびCD48の発現を確認した。表面抗原は、ビオチン化リニエージマーカー、ストレプトアビジンAPC−Cy7、PE−CD48、APC−c−kit、PE−シアニン7−Sca1−(バイオレジェンド社製)で染色し、FACS AriaIIで解析した。培養後の細胞数は、Flow−Count(商標) Fluorospheres(ベックマンコールター社製)を用いてFACS AriaIIで測定した。
結果は図11に示される通りであり、7日間の培養では、Lin−かつc−kit+の分画の細胞集団が選択的に増幅していた。
上記造血因子存在下で培養(以下「誘導」ともいう)した細胞または培養しなかった細胞を指定された数レシピエントマウスに移植して、競合実験を行った。
競合的造血再構築アッセイはマウスのCD45サブタイプを利用して、移植片の造血能力を計量化する実験系である。B6−CD45.1由来のCD34-KSL細胞や培養した造血細胞をB6−CD45.1/45.2マウスの全骨骨髄細胞(細胞数1×106細胞)と共に致死量(9.8Gy)を放射線照射されたB6−CD45.2レシピエントマウスに移植し、その後のレシピエント末梢血を経時的に解析した。レシピエントの末梢血は、ACK溶血剤にて処理した後に、FITC−Ly5.2、PE−シアニン7−Ly5.1、PE−Mac1、PE−Gr1、APC−シアニン7−CD45R/B220、APC−CD4およびAPC−CD8a抗体により染色し、FACS AriaIIを用いて解析した。各血球系統におけるCD45.1細胞の割合を測定することで、骨髄球系細胞におけるドナー由来の細胞頻度を検出した。
結果は図12に示される通りであった。7日間培養した細胞は、移植後1週間で顕著に高いキメラ率を示し、移植後初期の好中球の造血に寄与する能力を有することが明らかとなった。一方で、7日間誘導した細胞は、4週にはキメラ率が大きく低下し、全骨髄由来の細胞が大半を占めるようになった。このことは、7日間誘導した細胞が、造血移植後初期の造血系の立ち上がりを助ける能力があり、かつ、造血系が立ち上がったのちには消滅することを意味する。造血系が立ち上がったのちには、消滅してくれるので、この誘導細胞はレシピエントに対してアロ移植片とすることができるという大きな利点を有している。
実施例6A:TPOおよびSCF誘導造血幹細胞培養物の赤血球および血小板造血能力の検討
本実施例では、さらに詳細に実施例5Aの方法で得られる造血幹細胞培養物の赤血球や血小板への寄与を確認した。
まず、図13に実験のデザインの概略を示す。ドナーマウスはクサビラオレンジで血球系細胞が標識されたマウスを用いる。骨髄から得られた500個のKSL細胞、50個の造血幹細胞(CD34-KSL細胞)、および実施例5Aの条件で7日間誘導した50個の造血幹細胞(CD34-KSL細胞)を、競合条件下でB6(CD45.1/45.2)マウスの全骨髄(細胞数1×106細胞)と共に9.8Gyで照射したレシピエントマウスに移植した。移植14日後に末梢血を回収し、KuOの蛍光を指標として赤血球と血小板における細胞培養物の寄与率を確認した。
クサビラオレンジ(KuO)標識マウスは、S. Hamanaka et al., Biochem Biophys Res Commun 435, 586 (2013)に記載された通りに作製したマウスを、B6−CD45.1マウスと7回戻し交配をして得たマウスを実験に用いた。
結果は、図13B〜Dに示される通りであった、図13B〜Dに示されるように、TPOとSCFで7日間誘導した造血幹細胞は、骨髄、赤血球および血小板のいずれに対しても、特に移植後早期の時期に優れた寄与率を示した。このことは、TPOとSCFで誘導した造血幹細胞が血球3系統(好中球、赤血球および血小板)の早期の造血回復を補助する高い能力を有していることを意味する。
実施例7A:細胞の最終的な生着を決定する要因
本実施例では、誘導した細胞培養物が最終的に除去される要因を調べた。
この目的で、BDF1(45.1/45.2)マウスのKSL細胞2000細胞のレシピエント内でのキメラ率を競合条件下で調べた。
競合させる細胞は、
No.1として、WT-B6(45.1) 全骨髄2.0 x 105 細胞、
No.2として、WT-B6(45.1) KSL 2,000細胞、
No.3として、Rag2KO-B6(45.1) 全骨髄 2.0 x 105細胞、
No.4として、Rag2KO-B6(45.1) 全骨髄 2.0 x 105細胞に4,000個のT細胞を加えてもの、
No.5として、Rag2KO-B6(45.1) 全骨髄 2.0 x 105細胞に40,000個のB細胞を加えたものとした。
なお、Rag2ノックアウト(Rag2KO)マウスは、成熟B細胞、成熟T細胞および成熟NKT細胞を欠損する。
結果は図14に示される通りであった。すなわち、No.3において、Rag2KOマウスの全骨髄と競合させると、BDF1(45.1/45.2)マウスのKSL細胞は、レシピエントに寄与したが、No.4においてT細胞を含むRag2KOマウスの全骨髄と競合させると、BDF1(45.1/45.2)マウスのKSL細胞は、レシピエントに寄与することが出来なかった。また、No.5においてB細胞を含むRag2KOマウスの全骨髄と競合させても、BDF1(45.1/45.2)マウスのKSL細胞はレシピエントに寄与した。このことは、T細胞がレシピエントにおける造血のキメリズムの決定要因であることを示唆する。
実施例8A:アロ造血幹細胞の培養物を用いたドナー造血幹細胞の移植実験
本実施例では、TPOとSCFで誘導した造血幹細胞を複数系統のマウスから得て、混合して得られる細胞を、全骨髄を含むドナーと共に9.8Gy照射マウスに移植してその後の生存を確認した。
対照群1は、B6 (Ly45.1/45.2) H2b 全骨髄 1x105細胞のみを移植する群、
試験群2は、前記全骨髄に、B6 (Ly45.1) H2bマウス由来の造血幹細胞をTPOとSCFで誘導して得た培養物80細胞を混合したものを移植する群、
試験群3は、前記全骨髄に、B6 (Ly45.1) H2bマウス由来の造血幹細胞をTPOとSCFで誘導して得た培養物200細胞を混合したものを移植する群、
試験群4は、前記全骨髄に、KuO-B6C3F1 (Ly45.1/45.2) H2b/k マウス由来造血幹細胞をTPOとSCFで誘導して得た培養物50細胞を混合したものを移植する群、
試験群5は、前記全骨髄に、4つのアロの系統に由来する造血幹細胞をTPOとSCFで誘導して得た培養物20細胞ずつを混合したものを移植する群、
試験群6は、前記全骨髄に、4つのアロの系統に由来する造血幹細胞をTPOとSCFで誘導して得た培養物50細胞ずつを混合したものを移植する群、
とした。用いた4つの系統は、KuO-B6C3F1 (Ly45.1/45.2) H2b/k、B6D1F1 (Ly45.2) H2b/q、BDF1 (Ly45.1/45.2) H2b/dおよびCBF1 (Ly 45.2) H2b/dとした。KuO-B6C3F1 (Ly45.1/45.2) H2b/k系統は、日本SLC社から購入したC3HHeJ(C3H, H2k, CD45.2)マウスとKuO-CD45.1マウスとを掛け合わせて作製した。
すると、早期造血回復を補助する細胞を用いない対照群1においては、大半のマウスが数日内で死亡した。一方で、TPOおよびSCFで7日間誘導した造血幹細胞を混合した試験群2〜6では、いずれも100%の生存率を達成した。ここで、アロのマウス由来の培養物を混合した群(試験群4〜6)とコンジェニックマウス由来の培養物を混合した群(試験群2および3)とで結果に違いは認められなかった。
移植後の赤血球におけるキメラ率の推移を移植8週間後まで調べた。結果は、図16に示される通りであった。すなわち、図16に示されるように、アロのマウス由来の移植片は、移植後2週間〜3週間の早期造血に寄与することができる一方で、移植8週間後には造血への寄与が見られなくなった。また、血小板におけるキメラ率の推移を同様に調べたがほぼ同様に移植後2週間〜3週間の早期造血に寄与することができる一方で、移植8週間後には造血への寄与が見られなくなった(図17)。また、好中球におけるキメラ率に関しても、アロのマウス由来の移植片は同様に移植後2週間〜3週間の早期造血に寄与する事が出来る一方で、移植後30日ほどで全骨髄を含むドナー由来の細胞の造血への寄与がほぼ100%になった(図18)。
実施例9A:GVHおよびHVG両反応存在下での移植実験
これまでの移植実験では、宿主対移植片(HVG)の反応のみが生じる系で実験が行われていた。具体的には、レシピエントマウスと他の系統のマウスのF1マウスに由来する細胞を移植細胞とする系で実験を行っていた。本実施例では、この実験系を改変し、移植片対宿主(GVH)の反応も同時に生じるドナーを用いて同様の移植実験を行った。
DBA/1JJmsSlc (DBA/1, H2q, CD45.2)、DBA/2CrSlc (DBA/2, H2d, CD45.2)およびC3HHeJ (C3H, H2k, CD45.2)の系統のマウスを日本SLCから購入して本実施例で用いた。実験のデザインは図19Aに示される通りである。上記マウスの骨髄から得られた造血幹細胞を実施例5Aと同じ方法で7日間培養して培養物を得て、これをドナー全骨髄(B6 (Ly45.1/45.2) H2b)と混ぜて、9.8Gyを照射したレシピエント(B6, CD45.2)に移植した。
対照群11は、B6 (Ly45.1/45.2) H2bマウスの全骨髄1×105細胞を移植した群、
試験群12は、前記全骨髄に加えて、B6 (Ly45.1) H2bマウスから得られた造血幹細胞を誘導して得られた細胞60個を移植した群、
試験群13は、前記全骨髄に加えて、B6 (Ly45.1) H2bマウスから得られた造血幹細胞を誘導して得られた細胞150個を移植した群、
試験群14は、前記全骨髄に加えて、DBA2 (Ly45.2) H2dマウスから得られた造血幹細胞を誘導して得られた細胞50個を移植した群、
試験群15は、前記全骨髄に加えて、DBA1 (Ly45.2) H2qマウス、DBA2 (Ly45.2) H2dマウスおよびC3H (Ly45.2) H2kマウスから得られた造血幹細胞を誘導して得られた細胞それぞれを20個移植した群、
試験群16は、前記全骨髄に加えて、DBA1 (Ly45.2) H2qマウス、DBA2 (Ly45.2) H2dマウスおよびC3H (Ly45.2) H2kマウスから得られた造血幹細胞を誘導して得られた細胞それぞれを50個移植した群
とした。
移植後の生存曲線は、図19Bに示される通りであった。全骨髄のみを移植した対照群11では、7〜14日以内で大半のマウスが死亡した。一方で、GVHおよびHVGの両方の反応を生じ得る試験群14〜16では、移植細胞数依存的にマウスの生存率が改善した。
次に移植後のレシピエント体内の好中球における細胞の寄与を経時的に観察した。すると、図20に示されるように、移植7日目では、誘導して得た細胞の造血系への寄与が認められたが(No.3〜5)、移植28日後には、誘導して得た細胞の造血系への寄与は認められなかった(No.3〜5)。
このように、造血幹細胞をTPOおよびSCFで7日間培養して得た細胞は、全骨髄を含むドナー由来の造血が十分に立ち上がるまでの早期の段階の造血をきわめて良好に支え、全骨髄を含むドナー由来の造血が立ち上がった後は迅速に消え、自身がレシピエントの造血に寄与することが無いという性質を有した。そして、このことは、造血幹細胞をTPOおよびSCFで7日間培養して得た細胞は、各ドナーやレシピエントと完全なアロの関係であってもよいことを意味するものであり、実際、複数のアロ移植片の混合物を用いても、それぞれが全骨髄を含むドナー由来の造血を補助することができた。
実施例10B:ヒトさい帯血を用いた移植実験
本実施例は、ヒトさい帯血を用いて、上記実施例の結果がヒトにおいても同様に成立することを確認した。
(ヒトさい帯血)
関東甲信越ブロック血液センター(日本赤十字社関東甲信越さい帯血バンク)から供与されたHLA及び血液型が既知の凍結さい帯血を使用した。用いた4種類の凍結さい帯血それぞれのHLA型と血液型は表1に示される通りであった。
(造血幹/幹前駆細胞の純化)
凍結さい帯血は移植当日に37℃の温浴で融解後、無菌的状態のままCliniMACS Prodigy (Miltenyi Biotech)を用いて単核球細胞を分離した。分離時にFicoll Paque Premium 1.084 (GE Healthcare)、DNase I (Roche Applied Science)を同機内にて作用させた。複数ユニットの凍結さい帯血を用いる実験ではCliniMACS Prodigyの作動直前に混合して、同機を使用した。得られた単核球細胞は、CD34 Microbeads Kit及びCD3 Microbeads Kit(共にMiltenyi Biotech)を用いて、それぞれCD34陽性細胞、及びCD3陽性細胞を純化した。CD34陽性細胞及びCD3陽性細胞は、 CD45-APCCy7ないしPacific Blue, CD3-PE-Cyanine 7, CD4-PE, CD8a-APC, Lineage-FITC, 及びCD34-Pacific Blue ないしAPC (Biolegend) により染色し、FACS Canto (BD, Bioscience)で解析し、純化されたことを確認した。
用いた凍結さい帯血中には、抗A IgM抗体および抗B IgM抗体が少ない量でしか含まれておらず、しかも、含まれるT細胞はナイーブT細胞が主であった。このことから、血液型及びHLAが互いに異なる複数のさい帯血を用いる場合には、上記純化工程の直前に複数のさい帯血の混合物を作製することでユニット間の凝集反応などを起こさせず、その後、造血幹/幹前駆細胞を純化した。
(移植実験)
移植実験の概要を図21に示した。図21は、凍結さい帯血をCliniMACS Prodigyで処理し、単核球細胞を分離してから、CD34 Microbeads KitまたはCD3 Microbeads Kitを用いて、CD34陽性細胞またはCD3陽性細胞を純化し、1.2Gyの放射線照射した免疫不全マウス(NOGマウス)に経静脈的に移植した様子を示す概略図である。
具体的には、 レシピエントには移植日より7日以上前から酸性水(pH2.5)を摂取させ、移植当日に1.2 Gyの放射線照射を行い、経静脈的にドナー骨髄細胞を移植した。酸性水 200mLあたり340μLのエンロフロキサシン(バイトリル(商標)10%注射液)を混入したものを移植当日より摂取させた。
(FACS解析)
レシピエントマウスにおける造血細胞のキメリズムを解析する為、レシピエントより骨髄を採取し、ACK lysis buffer (NH4Cl 8,024 mg/l, KHCO3 1,001 mg/l, EDTA.Na2.2H2O 3.722 mg/l)で処理した後に、以下の抗体で染色を行った;HLA-A2-PE, human CD45-PB, mouse CD45-PE-Cyanin7, CD19-FITC, CD3-APC, Streptoavidin-APCCy7 (Biolegend) , HLA-A30A31-biotin (One Lambda) and CD33-PerCP5.5 (BD, Bioscience)。これらの細胞はFACS Aria (Becton Dickinson, San Jose, CA)を用いて解析し、その結果はFlowJo software (TreeStar, Ashland, OR,USA)を用いてデータ処理を行った。
(結果)
実験結果は図22に示す通り、4単位のさい帯血から成る混合CD34陽性細胞 計1.28×105を移植したレシピエントマウスにおいては、1単位のさい帯血から採取したCD34+細胞 3.2×104に比較して高いヒト造血細胞キメリズムが認められた。さらにこの4単位混合のCD34陽性細胞群において、そのうちの1単位からCD3陽性T細胞を抽出して加えたところ、CD3陽性T細胞を含むユニットが選択的に生存し、単一キメリズムに収束した。
なお、図22の上段左端は、Unit Aから3.2×104のCD34陽性細胞を移植した群である。上段左から2列目は、Unit A由来のCD34陽性細胞3.2×104に、Unit B、CおよびDの3単位を混合したCD34陽性細胞を加え、計1.28×105の細胞を移植した群である。上段左から3列目はUnit A由来のCD34陽性細胞を1.28×105移植した群である。上段左から4列目は、Unit A由来のCD34陽性細胞3.2×104にUnit B、CおよびDの3単位を混合したCD34陽性細胞を加え、計1.28×105の細胞としたところにUnit AのCD3陽性T細胞を3.2×105を追加した群である。なお、マウス骨髄中のヒト造血細胞キメリズムを比較したところ、混合さい帯血ユニットは、1単位由来の十分数(1.28×105)のヒト造血幹細胞を移植した群と同等レベルのキメリズムを呈した。
さらにこれらの群における造血細胞への各ドナーさい帯血の寄与率を調べたところ、移植後21日の時点においては、複数の臍帯血に由来するCD34陽性細胞を混合して移植した群(図22の左から2列目)では複数のドナー由来の細胞が造血に寄与していたが、そこに1ユニット由来のCD3陽性T細胞を加えた群では、T細胞を含む単一のドナー由来の細胞だけが造血に寄与していた(図22の左から4列目)。
図23ではHLA−A2をメルクマールとして用い、レシピエントにおけるヒト造血細胞のキメリズムを経時的に追跡した結果を示す。図23に示されるとおり、CD34陽性細胞のみを混合して移植した群(左から2列目)では混合キメリズムを形成していており、HLA−A2が陽性のさい帯血ユニットが造血に寄与していると認められる。一方で、HLA−A2陰性の1ユニット由来のCD3陽性T細胞を加えた群でのHLA−A2陽性率は、移植後15日目では一定の割合で認めており混合キメリズムを形成していると考えられるが、その後、移植後21日目にかけて低下し、最終的には単一キメリズムに収束していていた(左から4列目)。
本移植モデルでもこれまでの我々の報告と同様に、造血に最終的に寄与させたい1種類のさい帯血ユニット(Unit A)にそのさい帯血由来のT細胞を含有させる事によって、移植直後の混合キメリズム(すなわち、複数のさい帯血由来の細胞が造血に寄与した状態)が一過性に形成されながらも最終的には単一ドナーキメリズム(すなわち、1つのさい帯血由来の細胞のみが造血に寄与した状態)に収束した。
以上の結果より、ヒトさい帯血細胞を用いても同種異系のさい帯血由来の造血幹細胞を混合して投与する手法の有効性を検証することができた。さらにこのモデルでも同様に複数さい帯血由来のCD34陽性細胞が移植後早期(21日目)において互いに協調的にヒト造血細胞キメリズムに寄与することが判明した。この場合でも、複数さい帯血移植後の早期には混合キメリズムを形成し、最終的には少量のT細胞を含むドナー由来の単一キメリズムに収束することが観察された。