JP2019210245A - Ｃｘｃｌ１２発現促進剤 - Google Patents

Abstract

【課題】色素幹細胞のニッチを構成し、色素幹細胞の分化抑制に関与するＣＸＣＬ１２を生体の外部から制御できる物質を見出し、これを、白髪を根本的にかつ効率的に予防及び／又は改善するための薬剤として提供すること。【解決手段】トリュフの抽出物、及び蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理されたオタネニンジンの抽出物から選ばれる１種又は２種の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、ＣＸＣＬ１２（ｓｔｒｏｍａｌ ｃｅｌｌ-ｄｅｒｉｖｅｄ ｆａｃｔｏｒ−１）の発現促進剤、及び色素幹細胞の分化抑制剤。【選択図】なし

Description

本発明は、ＣＸＣＬ１２発現促進剤、及び色素幹細胞の分化抑制剤に関する。

皮膚や毛髪の色は、メラノサイトによって産生されるメラニンにより、大きく左右される。生体内のメラノサイトの起源は、毛包内バルジ領域に存在する色素幹細胞であることが知られている。色素幹細胞から分化したメラノブラストは、表皮や毛球へと移動し、Ｔｙｒｏｓｉｎａｓｅ（ＴＹＲ）、ＴＹＲ−ｒｅｌａｔｅｄ ｐｒｏｔｅｉｎ−１（ＴＹＲＰ１）及びＤｏｐａｃｈｒｏｍｅ ｔａｕｔｏｍｅｒａｓｅ（ＤＣＴ）などの一連のメラニン合成関連酵素の発現を獲得し、メラニン合成能を持った成熟したメラノサイトへ分化することで、それぞれ皮膚や毛髪の色素産生に関わる（非特許文献１）。したがって、色素幹細胞の維持や分化における異常は、白髪の原因となる。例えば、白髪化のメカニズムの一つとして、バルジ領域において色素幹細胞がメラノサイトへ異所性に分化してしまうことで、色素幹細胞が枯渇し、メラノサイトの供給源がなくなってしまうことが明らかになっている（非特許文献２）。

従来、白髪の改善方法は、毛包内に存在するメラノサイトを活性化し、メラニン生成やメラノサイトの増殖を促進する方法が主流であった。しかしながら、かかる方法は、メラノサイトの起源となる色素幹細胞を制御するものでなく、限定的又は対処療法的であり、根本的な白髪の改善は望めない。

一般的に、幹細胞は、ニッチと呼ばれる幹細胞の周囲を取り巻く微小環境によって制御されている（非特許文献３）。毛包内バルジ領域において、毛包幹細胞は色素幹細胞の周囲を取り囲むように存在し、色素幹細胞のニッチ細胞として機能している。よって、毛包幹細胞の性質に着目し、色素幹細胞のニッチを適切に制御できれば、従来のメラノサイトの活性化や増殖促進による方法と比べて、白髪を根本的に改善する方法として極めて有効といえる。

一方、本発明者らによるこれまでの研究で、ケモカインの一種であるＣＸＣＬ１２（別名ｓｔｒｏｍａｌ ｃｅｌｌ−ｄｅｒｉｖｅｄ ｆａｃｔｏｒ−１：ＳＤＦ−１）が、毛包内バルジ領域の毛包幹細胞において特異的に発現し、その発現量は黒髪の毛根部よりも白髪の毛根部で低いこと、毛包幹細胞により産生されたＣＸＣＬ１２が色素幹細胞の異所性の分化を抑制するとともに、メラノサイトの分化関連遺伝子の発現を抑制することが明らかとなっている（特許文献１）。よって、このメラノサイトの起源となる色素幹細胞のニッチを構成するＣＸＣＬ１２を制御することができれば、メラノサイトのみをターゲットとする従来のアプローチよりも、根本的かつ効果的な白髪の予防及び／又は改善効果が期待できる。また、ＣＸＣＬ１２のような因子を生体内で制御することは困難であるため、外部から制御できる薬剤の開発が待たれている。

特開2018-027920号公報

Nishimura EK, Jordan SA, Oshima H, Yoshida H, Osawa M, Moriyama M, Jackson IJ, Barrandon Y, Miyachi Y, Nishikawa S, Dominant role of the niche in melanocyte stem-cell fate determination, Nature. 2002 Apr 25;416(6883):854-60. Nishimura EK, Granter SR, Fisher DE, Mechanisms of hair graying: incomplete melanocyte stem cell maintenance in the niche, Science. 2005 Feb 4;307(5710):720-4. Epub 2004 Dec 23. Mesa KR, Rompolas P, Greco V., The Dynamic Duo: Niche/Stem Cell Interdependency, Stem Cell Reports. 2015 Jun 9;4(6):961-6.

従って、本発明は、色素幹細胞のニッチを構成し、色素幹細胞の分化抑制に関与するＣＸＣＬ１２を生体の外部から制御できる物質を見出し、これを、白髪を根本的にかつ効率的に予防及び／又は改善するための薬剤として提供することを課題とする。

本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究をした結果、トリュフの抽出物、所定の前処理をしたオタネニンジンの抽出物、及びこれらの混合物が、毛包幹細胞におけるＣＸＣＬ１２の発現を有意に増加させることを見出し、本発明を完成させるに至った。

すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
（１）トリュフの抽出物、及び蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理されたオタネニンジンの抽出物から選ばれる１種又は２種の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、ＣＸＣＬ１２（ｓｔｒｏｍａｌ ｃｅｌｌ-ｄｅｒｉｖｅｄ ｆａｃｔｏｒ−１）の発現促進剤。
（２）トリュフの抽出物、及び蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理されたオタネニンジンの抽出物から選ばれる１種又は２種の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、色素幹細胞の分化抑制剤。
（３）前記オタネニンジンが、乾燥又は生のオタネニンジンである、（１）又は（２）に記載の剤。

本発明のＣＸＣＬ１２発現促進剤は、色素幹細胞の分化抑制に関与するＣＸＣＬ１２の発現を有意に増加させることができるので、白髪の根本的な予防及び／又は改善に有効である。

本発明のＣＸＣＬ１２発現促進剤は、トリュフの抽出物、及び蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理されたオタネニンジンの抽出物から選ばれる１種又は２種の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。本発明における「ＣＸＣＬ１２発現促進」とは、生体レベルまたは培養レベルでＣＸＣＬ１２の発現を促進することをいう。

ＣＸＣＬ１２（別名ｓｔｒｏｍａｌ ｃｅｌｌ−ｄｅｒｉｖｅｄ ｆａｃｔｏｒ−１）は、Ｇタンパク質共役受容体（ＧＰＣＲ）であるケモカイン受容体ＣＸＣＲ４，７のリガンドである。前述のように、ＣＸＣＬ１２は、色素幹細胞のニッチ（幹細胞の生態的適所）である毛包内バルジ領域の毛包幹細胞において特異的に発現し、毛包幹細胞により産生されたＣＸＣＬ１２は毛包内バルジ領域における色素幹細胞の分化を抑制するとともに、メラノサイトの分化関連遺伝子の発現を抑制する作用を有することが知られている（特開２０１８−０２７９２０号公報）。後述の実施例に示されるように、トリュフの抽出物、蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理されたオタネニンジン（以下、「修治オタネニンジン」と記載する場合がある）の抽出物、及びこれらの混合物は、ＣＸＣＬ１２発現促進効果を有する。よって、トリュフの抽出物及び修治オタネニンジンの抽出物から選ばれる１種又は２種の抽出物は、ＣＸＣＬ１２の発現を促進することで、色素幹細胞のニッチである毛包内バルジ領域の色素幹細胞の分化抑制が可能となるので、色素幹細胞の分化抑制剤の有効成分とすることができる。本発明において「色素幹細胞の分化抑制」とは、本来未分化な状態で維持される毛包内バルジ領域（ニッチ）における色素幹細胞の異所性分化の抑制、単離された色素幹細胞の生体外での分化の抑制、及び生体レベル又は培養レベルでの未分化性の維持を意味する。よって、本発明の色素幹細胞の分化抑制剤は、色素幹細胞の未分化状態維持剤、機能維持剤ともいうことができる。

また、ＣＸＣＬ１２は、毛包内バルジ領域における色素幹細胞の異所性分化の抑制により、メラノサイトの供給源となる色素幹細胞の減少又は枯渇を阻止できるので、トリュフの抽出物及び修治オタネニンジンの抽出物から選ばれる１種又は２種の抽出物は、白髪の予防及び／又は改善剤の有効成分としても利用できる。本発明において、「白髪の予防及び／又は改善」には、白髪発生の阻止、白髪の程度（本数や範囲）の改善、白髪化の進行速度の低下、白髪から黒髪への変化、白髪に伴う脱毛の抑制、白髪に伴う毛髪の光沢や弾性の減少の抑制などが含まれる。また、白髪の予防及び／又は改善効果は、頭髪に直接な作用機序を示す場合と頭部における経皮的な作用機序を示す場合の両方を含む。

本発明に用いるトリュフ（学名：Tuber spp.)は、セイヨウショウロ目（Tuberales)、セイヨウショウロ科（Tuberaceae)に属する子嚢菌であり、塊状で地中に発生し、子実層は外に開いていない。子実体の多くは強い香りを持ち、リスやウサギのような動物が掘り出して食用とする。トリュフは、世界３大珍味のひとつであり高級フランス料理に使用される。本発明に用いるトリュフの種類としては、白トリュフ（Tuber magnatum Pico）、黒トリュフ（Tuber melanosporum Vitt）が好ましい。

本発明において、トリュフの抽出物は、子実体または菌糸体の抽出物をいうが、子実体の抽出物が好ましい。また、抽出には、子実体または菌糸体をそのまま使用してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。

抽出方法は、特に限定されないが、水もしくは熱水、または水と有機溶媒の混合溶媒を用い、攪拌またはカラム抽出する方法により行うことができる。有機溶媒としては、低級アルコール類（メタノール、エタノール、１−プロパノール、２−プロパノール、１−ブタノール、２−ブタノール等）、液状多価アルコール類（１，３−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等）、ケトン類（アセトン、メチルエチルケトン等）、アセトニトリル、エステル類（酢酸エチル、酢酸ブチル等）、炭化水素類（ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等）、エーテル類（エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等）が挙げられる。なかでも、低級アルコール、液状多価アルコール等の極性溶媒が好ましく、エタノール、１，３−ブチレングリコール、プロピレングリコール等の水溶性有機溶媒がより好ましく、これらの一種又は二種以上を用いてもよい。特に好ましい抽出溶媒としては、水、または水−エタノール系の混合極性溶媒が挙げられる。溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば上記トリュフ（乾燥重量）に対し、１０倍以上、好ましくは２０倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行なったり、単離したりする場合の操作の便宜上１００倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類によるが、例えば、１０〜１００℃、好ましくは３０〜９０℃で、３０分〜２４時間、好ましくは１〜１０時間を例示することができる。また、抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮（有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮）、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。

本発明において用いるオタネニンジン（学名：Panax ginseng C.A.Mey、別名：高麗人参、朝鮮人参、薬用人参）は、ウコギ科(Araliaceae)トチバニンジン属（Panax）に属する多年草で、生薬の「ニンジン」（和名：人参、学名：Ginseng Radix)の基原植物である。オタネニンジンの根を乾燥させたものが生薬として用いられているが、その製造方法の違いから、根の皮を剥ぎ、乾燥させた「白参」と、皮を付けたまま蒸して乾燥させた「紅参」に大別される。

本発明において、オタネニンジンは、その葉、茎、果実、果皮、花、花芽、種子、全草、根、根茎等の植物体の一部又は植物体全体、それらの混合物のいずれも用いることができるが、根(特に、側根）、葉、茎が好ましい。

本発明においてオタネニンジンは、乾燥オタネニンジン又は生のオタネニンジンのいずれも用いることができるが、乾燥オタネニンジンが好ましい。乾燥オタネニンジンの場合、水分含量が２０％以下、好ましくは１０％以下となるまで乾燥させたものが好ましい。水分含量は、日本薬局方の乾燥減量などの方法を用いて測定することができる。乾燥方法としては、植物体の乾燥方法として通常用いられ、水分含量が上記の範囲となる方法であれば特に限定はされないが、例えば、自然乾燥（風乾）、天日乾燥、通風乾燥、熱風乾燥、噴霧乾燥、減圧乾燥、真空乾燥等が挙げられる。

本発明において、上記の乾燥オタネニンジン又は生のオタネニンジンを抽出する前に、生薬の加工の際に行われる修治処理（蒸して乾かすという加工処理）に相当する蒸気加熱処理と加熱乾燥処理を行う。蒸気加熱処理は、熱水、飽和水蒸気、過熱蒸気、減圧（真空）蒸気等を熱媒体とし、高湿度雰囲気下、例えば、湿度８０％以上の雰囲気下で対象物を加熱する処理をいう。蒸気加熱は熱媒体を対象物に直接接触させることによって行ってもよく、または対象物を、熱交換機を通じて間接的に加熱してもよい。また加熱は常圧下および加圧下のいずれで行ってもよい。蒸気加熱処理の条件としては、温度は、７０〜１８０℃が好ましく、１００〜１５０℃がより好ましく、１００〜１２０℃がさらに好ましい。時間は、温度によって異なるが、１〜１５時間が好ましく、２〜１０時間がより好ましく、４〜８時間がさらに好ましい。これらの温度及び時間の条件はあくまで例示であり、温度及び時間の相互の関係で適宜変更できる。また、本発明における蒸気加熱処理は、連続式またはバッチ式のスチーマー（蒸し機）やオートクレーブなどを用いて行えばよい。

蒸気加熱処理されたオタネニンジンは、水分を含んでいるため、加熱乾燥処理を行なう。加熱乾燥の温度としては、４０〜８５℃が好ましく、５０〜７０℃がより好ましい。乾燥方法としては、通風乾燥、熱風乾燥、マイクロ波乾燥等を用いることができる。乾燥時間（加熱時間）は、加熱温度、蒸気加熱処理後のオタネニンジンの水分含量、乾燥する総量によって異なり、特定はできないが、約６〜２４時間の範囲である。

上記のようにして蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理を施したオタネニンジン（修治オタネニンジン）を抽出する。抽出方法は、特に限定されないが、水もしくは熱水、または水と有機溶媒の混合溶媒を用い、攪拌またはカラム抽出する方法により行うことができる。有機溶媒としては、低級アルコール類（メタノール、エタノール、１−プロパノール、２−プロパノール、１−ブタノール、２−ブタノール等）、液状多価アルコール類（１，３−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等）、ケトン類（アセトン、メチルエチルケトン等）、アセトニトリル、エステル類（酢酸エチル、酢酸ブチル等）、炭化水素類（ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等）、エーテル類（エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等）が挙げられる。なかでも、低級アルコール、液状多価アルコール等の極性溶媒が好ましく、エタノール、１，３−ブチレングリコール、プロピレングリコール等の水溶性有機溶媒がより好ましく、これらの一種又は二種以上を用いてもよい。特に好ましい抽出溶媒としては、水、または水−エタノール系の混合極性溶媒、１，３−ブチレングリコールが挙げられる。溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば上記オタネニンジン（乾燥重量）に対し、１０倍以上、好ましくは２０倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行なったり、単離したりする場合の操作の便宜上１００倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類によるが、例えば、１０〜１００℃、好ましくは３０〜９０℃で、３０分〜２４時間、好ましくは１〜１０時間を例示することができる。また、抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮（有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮）、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。

本発明において、トリュフの抽出物及び修治オタネニンジンの抽出物は、いずれか１種を用いてもよいが、両者を併用するとＣＸＣＬ１２発現促進効果が増強するので好ましい。トリュフの抽出物と修治オタネニンジンの抽出物を併用する場合、混合比率は限定されないが、好ましくは１：１０〜１０：１であり、より好ましくは１：５〜５：１であり、さらに好ましくは１：２〜２：１であり、最も好ましくは１：１である。

トリュフの抽出物及び修治オタネニンジンの抽出物から選ばれる１種又は２種の抽出物を、白髪の予防及び／又は改善剤として用いる場合は、そのまま使用することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物等と混合し、白髪の予防及び／又は改善用の化粧品、医薬部外品、医薬品などの組成物の形態とすることができる。なかでも、頭皮や毛髪に使用するのに適した製剤形態に製剤化した毛髪用組成物が好ましい。

毛髪用組成物は、皮膚外用組成物において通常使用されている各種の成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。配合する成分、添加剤、基剤としては、例えば、希釈剤（精製水、エタノール等）、油脂類（オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等）、ロウ類（ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等）、炭化水素類（流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等）、脂肪酸類（ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等）、高級アルコール類（ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等）、エステル類（ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等）、有機酸類（クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等）、糖類（マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等）、界面活性剤、シリコーン油、保湿剤、増粘剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、清涼化剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、消炎剤、殺菌剤、香料、着色料等が挙げられる。

また、上記毛髪用組成物には、本発明の効果に悪影響を及ぼさない限り、育毛・養毛に効果的な成分として従来より知られている成分を含めてもよい。例えば、センブリエキス、柑橘類エキス等の植物抽出エキス、ビタミンＢ_６、ビタミンＥ及びその誘導体、ビオチン等のビタミン類、パントテン酸及びその誘導体、グリチルリチン酸及びその誘導体、ニコチン酸エステル、セリン、メチオニン等のアミノ酸類、セフォランチン、塩化カルプロニウム、ミノキシジル、ニコランジル、アセチルコリン誘導体、サイクロスポリン類、及びエストラジオール等の女性ホルモン剤等、ならびにこれらの混合物が挙げられる。

本発明において、毛髪用組成物は、頭皮や毛髪に使用するものを広く指し、頭皮や毛髪に適用可能なものであればいずれでもよく、剤型は特に問わない。例えば、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。具体的な製品形態としては、クリーム、ローション、乳剤、軟膏、ゲル、ヘアシャンプー、ヘアリンス、ヘアトリートメント、ヘアコンディショナー、スカルプトリートメント、ヘアスプレー、ヘアパック、ヘアエッセンス、ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアムースなどが挙げられる。

これらの製品形態をとる毛髪用組成物中のトリュフの抽出物及び修治オタネニンジンの抽出物から選ばれる１種又は２種の抽出物の含有量は、形態に応じて異なるので特定することはできないが、一般に、当該組成物の総重量に対し、０．０００１〜２０重量％（ｗ／ｗ）、好ましくは０．００１〜１０重量％（ｗ／ｗ）である。トリュフの抽出物及び修治オタネニンジンの抽出物から選ばれる１種又は２種の抽出物の添加の方法については、予め加えておいても、製造途中で添加しても良く、作業性を考えて適宜選択すれば良い。

トリュフの抽出物及び修治オタネニンジンの抽出物から選ばれる１種又は２種の抽出物はまた、色素幹細胞を再生医療に使用するために培養する際に、当該細胞の未分化状態を維持するための培地添加剤としても使用することができる。当該培地添加剤を添加した培地で培養した色素幹細胞は、未分化性を保持しつつ、一定期間生存可能である。細胞の未分化状態維持期間は、培養目的、基礎培地の種類、培養温度などに応じて、適宜変更することができる。

以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。

[実施例１] トリュフ、オタネニンジンの抽出物の製造例
トリュフ、オタネニンジンの抽出物を以下のとおり製造した。

（製造例１）トリュフの熱水抽出物の調製
トリュフの粉砕物１００ｇに精製水１Ｌを加え、９０〜１００℃で２時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してトリュフの熱水抽出物を５．１ｇ得た。

（製造例２）生オタネニンジンの根（修治処理／蒸気加熱：１０５℃、加熱乾燥：５０℃）の熱水抽出物の調製
収穫後の生のオタネニンジン（水分量８０％）を１０５℃で８時間蒸した後、５０℃で乾燥させた（日本薬局方の「紅参」に適合）。このオタネニンジンの乾燥物４０ｇに精製水８００ｍＬを加え、９５〜１００℃で２時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、蒸気加熱処理（１０５℃）された生オタネニンジンの根の熱水抽出物を１７．５ｇ得た。

（製造例３）乾燥オタネニンジンの根（修治処理／蒸気加熱：１０５℃、加熱乾燥：５０℃）の熱水抽出物の調製
乾燥したオタネニンジンの根（水分量９％）を１０５℃で８時間蒸した後、５０℃で乾燥させた。このオタネニンジンの乾燥物４０ｇに精製水８００ｍＬを加え、９５〜１００℃で２時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して蒸気加熱処理（１０５℃）された乾燥オタネニンジンの根の熱水抽出物を１８．７ｇ得た。

（製造例４）乾燥オタネニンジンの根（修治処理／蒸気加熱：１０５℃、加熱乾燥：７０℃）の５０％エタノール抽出物の調製
乾燥したオタネニンジンの根（水分量９％）を１０５℃で８時間蒸した後、７０℃で乾燥させた。このオタネニンジンの乾燥物１００ｇに精製水５００ｍＬ及びエタノール５００ｍＬを加え、常温で７日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、蒸気加熱処理（１０５℃）された乾燥オタネニンジンの根の５０％エタノール抽出物を４３ｇ得た。

（製造例５）乾燥オタネニンジンの葉及び茎（修治処理／蒸気加熱：１００℃、加熱乾燥：６０℃）の１，３−ブチレングリコール抽出物の調製
乾燥したオタネニンジンの葉及び茎（水分量１０％）を１００℃で４時間蒸した後、６０℃で乾燥させた。このオタネニンジンの乾燥物２０ｇに１，３−ブチレングリコール２００ｍＬを加え、常温で７日間抽出した後、濾過し、蒸気加熱処理（１００℃）された乾燥オタネニンジンの根及び茎の１，３−ブチレングリコール抽出物を１４１ｇ得た。

（比較製造例１）生オタネニンジンの根（未修治／蒸気加熱処理なし）の熱水抽出物の調製
収穫後の生のオタネニンジンの根を６５℃で乾燥させたもの（白参）４０ｇに精製水８００ｍＬを加え、９５〜１００℃で２時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して生オタネニンジンの根の熱水抽出物を１２．５ｇ得た。

[実施例２] トリュフ、オタネニンジンＣＸＣＬ１２発現促進効果
実施例１の各製造剤で製造したトリュフの抽出物、オタネニンジンの各抽出物が、色素幹細胞のニッチを構成し、維持を担う、毛包幹細胞のＣＸＣＬ１２にどのような影響を与えるかを解析するために、毛包幹細胞にこれらの抽出物を作用させ、その際のＣＸＣＬ１２の遺伝子発現量について解析を行った。

（１）ヒト毛包幹細胞の培養
ヒトの毛髪を毛抜きで採取し、メス等を用いて毛包組織のバルジ領域を含む組織を回収した。ＰＢＳ（−）にて洗浄した後、トリプシン(ＢＤ Ｂｉｏｓｃｉｅｎｃｅｓ社製)処理を行った。その後、セルストレイナー(ＦＡＬＣＯＮ社製)を用いて、細胞を単離し、回収した。回収した細胞を培養プレートに播種し、ＫＧ２培地(ＫＵＲＡＢＯ社製)を用いてコンフルエントになるまで維持した。コンフルエントになった細胞を回収し、培養プレートに再び播種し、その後生着し、増殖している細胞を毛包幹細胞として以下の試験に用いた。

（２）毛包幹細胞におけるＣＸＣＬ１２発現促進効果
毛包幹細胞に対して上記製造例で得られた各抽出物を最終濃度が１００μｇ／ｍＬとなるように添加した。ただし、トリュフの抽出物とオタネニンジンの抽出物の混合抽出物については２種の抽出物を５０μｇ／ｍＬずつ添加し、混合抽出物の最終濃度が１００μｇ／ｍＬとなるようにした。抽出物を添加して、４８時間後の細胞を回収し、毛包幹細胞におけるＣＸＣＬ１２の遺伝子発現量を解析した。

ＣＸＣＬ１２遺伝子発現解析は次の通り行った。抽出物添加後の毛包幹細胞をＰＢＳ（−）にて２回洗浄した後、Trizol Reagent(Invitrogen社製)によって細胞からＲＮＡを抽出した。２−ＳＴＥＰリアルタイムＰＣＲキット(Applied Biosystems社製)を用いて、抽出したＲＮＡをｃＤＮＡに逆転写した後、ＡＢＩ７３００(Applied Biosystems社製)により、下記プライマーセットを用いてリアルタイムＰＣＲ（９５℃：１５秒間、６０℃：３０秒間、４０ｃｙｃｌｅｓ）を実施し、ＣＸＣＬ１２の発現を確認した。その他の操作は定められた方法に従って実施した。

ＣＸＣＬ１２用プライマーセット：
５’−ＣＡＴＧＣＣＧＡＴＴＣＴＴＣＧＡＡＡＧＣ−３’（配列番号１）
５’−ＣＧＡＧＴＧＧＧＴＣＴＡＧＣＧＧＡＡＡＧ−３’（配列番号２）
１８ｓｒＲＮＡ（内部標準）用プライマーセット：
５’−ＣＣＧＡＧＣＣＧＣＣＴＧＧＡＴＡＣ−３’（配列番号３）
５’−ＣＡＧＴＴＣＣＧＡＡＡＡＣＣＡＡＣＡＡＡＡＴＡＧＡ−３’(配列番号４）

ＣＸＣＬ１２の発現促進効果については、抽出物を添加せずに培養した毛包幹細胞（コントロール）におけるＣＸＣＬ１２のｍＲＮＡの発現量を内部標準である１８ｓ ｒｉｂｏｓｏｍａｌ ＲＮＡ（１８ｓｒＲＮＡ）の発現量に対する割合として算出したＣＸＣＬ１２遺伝子相対発現量（ＣＸＣＬ１２遺伝子発現量／１８ｓｒＲＮＡ遺伝子発現量）の値を１とし、これに対し、抽出物を添加して培養した毛包幹細胞におけるＣＸＣＬ１２の遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。その結果を下記の表１に示す。

表１に示すように、トリュフの抽出物（製造例１）、蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理を行った(修治)オタネニンジンの抽出物（製造例２〜５）を添加した培地で培養した毛包幹細胞では、未修治オタネニンジン（白参）の抽出物（比較製造例１）に比べ、ＣＸＣＬ１２遺伝子の発現量が亢進し、ＣＸＣＬ１２遺伝子の発現促進効果を有することが示された。また、蒸気加熱処理前に乾燥させたオタネニンジンの抽出物（製造例３〜５）は、生のオタネニンジン（紅参）の抽出物（製造例２）よりも当該効果が高かった。さらに、トリュフの抽出物（製造例１）とオタネニンジンの抽出物（製造例２〜５）を併用すると、格別に効果が高まることが確認できた。よって、トリュフの抽出物、修治オタネニンジンの抽出物、及びこれらの混合物は、ＣＸＣＬ１２遺伝子の発現促進作用に基づき、毛包内バルジ領域における色素幹細胞の異所性分化を抑制して未分化な状態を維持するとともに、メラノサイトの分化関連遺伝子の発現を抑制することができるので、白髪化を根本的に抑制及び阻止できるものといえる。

本発明は、白髪の予防及び／又は改善を目的とした化粧品や医薬部外品の製造分野において利用できる。

Claims (3)

1. トリュフの抽出物、及び蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理されたオタネニンジンの抽出物から選ばれる１種又は２種の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、ＣＸＣＬ１２（ｓｔｒｏｍａｌ ｃｅｌｌ-ｄｅｒｉｖｅｄ ｆａｃｔｏｒ−１）の発現促進剤。
2. トリュフの抽出物、及び蒸気加熱処理後、加熱乾燥処理されたオタネニンジンの抽出物から選ばれる１種又は２種の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、色素幹細胞の分化抑制剤。
3. 前記オタネニンジンが、乾燥又は生のオタネニンジンである、請求項１又は２に記載の剤。