以下、実施形態による電動ブレーキ装置を、4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、図4に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用いる(例えば、ステップ1=「S1」とする)。
図1において、車両のボディを構成する車体1の下側(路面側)には、例えば左右の前輪2(FL,FR)と左右の後輪3(RL,RR)とからなる合計4個の車輪が設けられている。車輪(各前輪2、各後輪3)は、車体1と共に車両を構成している。車両には、制動力を付与するためのブレーキシステムが搭載されている。以下、車両のブレーキシステムについて説明する。
前輪2および後輪3には、それぞれの車輪(各前輪2、各後輪3)と共に回転する被制動部材(回転部材)としてのディスクロータ4が設けられている。前輪2用のディスクロータ4は、液圧式のディスクブレーキである前輪側ディスクブレーキ5により制動力が付与される。後輪3用のディスクロータ4は、電動パーキングブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキである後輪側ディスクブレーキ6により制動力が付与される。
左右の後輪3に対応してそれぞれ設けられた一対(一組)の後輪側ディスクブレーキ6は、液圧によりブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧して制動力を付与する液圧式のブレーキ機構(液圧ブレーキ)である。図2に示すように、後輪側ディスクブレーキ6は、例えば、キャリアと呼ばれる取付部材6Aと、ホイルシリンダとしてのキャリパ6Bと、制動部材(摩擦部材、摩擦パッド)としての一対のブレーキパッド6Cと、押圧部材としてのピストン6Dとを備えている。この場合、キャリパ6Bとピストン6Dは、シリンダ機構、即ち、液圧によって移動してブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧するシリンダ機構を構成している。
取付部材6Aは、車両の非回転部に固定され、ディスクロータ4の外周側を跨いで形成されている。キャリパ6Bは、取付部材6Aにディスクロータ4の軸方向への移動を可能に設けられている。キャリパ6Bは、シリンダ本体部6B1と、爪部6B2と、これらを接続するブリッジ部6B3とを含んで構成されている。シリンダ本体部6B1には、シリンダ(シリンダ穴)6B4が設けられており、シリンダ6B4内にはピストン6Dが挿嵌されている。ブレーキパッド6Cは、取付部材6Aに移動可能に取付けられ、ディスクロータ4に当接可能に配置されている。ピストン6Dは、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧する。
ここで、キャリパ6Bは、ブレーキペダル9の操作等に基づいてシリンダ6B4内に液圧(ブレーキ液圧)が供給(付加)されることにより、ブレーキパッド6Cをピストン6Dで推進する。このとき、ブレーキパッド6Cは、キャリパ6Bの爪部6B2とピストン6Dとによりディスクロータ4の両面に押圧される。これにより、ディスクロータ4と共に回転する後輪3に制動力が付与される。
さらに、後輪側ディスクブレーキ6は、電動アクチュエータ7と回転直動変換機構8とを備えている。電動アクチュエータ7は、電動機としての電動モータ7Aと、該電動モータ7Aの回転を減速する減速機(図示せず)等を含んで構成されている。電動モータ7Aは、ピストン6Dを推進するための推進源(駆動源)となるものである。回転直動変換機構8は、ブレーキパッド6Cの押圧力を保持する保持機構(押圧部材保持機構)を構成している。
この場合、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転をピストン6Dの軸方向の変位(直動変位)に変換すると共に該ピストン6Dを推進する回転直動部材8Aを含んで構成されている。回転直動部材8Aは、例えば、雄ねじが形成された棒状体からなるねじ部材8A1と、雌ねじ穴が内周側に形成された推進部材となる直動部材8A2とにより構成されている。
回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転をピストン6Dの軸方向の変位に変換すると共に、電動モータ7Aにより推進したピストン6Dを保持する。即ち、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aによりピストン6Dに推力を与え、該ピストン6Dによりブレーキパッド6Cを推進してディスクロータ4を押圧し、該ピストン6Dの推力を保持する。
回転直動変換機構8は、電動モータ7A、減速機と共に、電動パーキングブレーキの電動機構を構成している。電動機構は、電動モータ7Aの回転力を減速機と回転直動変換機構8とを介して推力に変換し、ピストン6Dを推進(変位)することにより、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧して車両の制動状態を保持する。このような電動機構(即ち、電動モータ7A、減速機および回転直動変換機構8)は、後述のパーキングブレーキ制御装置24と共に、電動ブレーキ装置を構成している。
後輪側ディスクブレーキ6は、ブレーキペダル9の操作等に基づいて発生するブレーキ液圧によりピストン6Dを推進させ、ブレーキパッド6Cでディスクロータ4を押圧することにより、車輪(後輪3)延いては車両に制動力を付与する。これに加えて、後輪側ディスクブレーキ6は、後述するように、パーキングブレーキスイッチ23からの信号等に基づく作動要求に応じて、電動モータ7Aにより回転直動変換機構8を介してピストン6Dを推進させ、車両に制動力(パーキングブレーキ、必要に応じて補助ブレーキ)を付与する。
即ち、後輪側ディスクブレーキ6は、電動モータ7Aを駆動し、回転直動部材8Aによりピストン6Dを推進することにより、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧して保持する。この場合、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキ(駐車ブレーキ)を付与するためのアプライ要求となるパーキングブレーキ要求信号(アプライ要求信号)に応じて、ピストン6Dを電動モータ7Aで推進して車両の制動を保持することが可能となっている。これと共に、後輪側ディスクブレーキ6は、ブレーキペダル9の操作に応じて、液圧源(後述のマスタシリンダ12、必要に応じて液圧供給装置16)からの液圧供給により車両の制動が可能となっている。
このように、後輪側ディスクブレーキ6は、電動モータ7Aによりディスクロータ4にブレーキパッド6Cを押圧し該ブレーキパッド6Cの押圧力を保持する回転直動変換機構8を有し、かつ、電動モータ7Aによる押圧とは別に付加される液圧によりディスクロータ4にブレーキパッド6Cを押圧可能に構成されている。
一方、左右の前輪2に対応してそれぞれ設けられた一対(一組)の前輪側ディスクブレーキ5は、パーキングブレーキの動作に関連する機構を除いて、後輪側ディスクブレーキ6とほぼ同様に構成されている。即ち、図1に示すように、前輪側ディスクブレーキ5は、取付部材(図示せず)、キャリパ5A、ブレーキパッド(図示せず)、ピストン5B等を備えているが、パーキングブレーキの作動、解除を行うための電動アクチュエータ7(電動モータ7A)、回転直動変換機構8等を備えていない。しかし、前輪側ディスクブレーキ5は、ブレーキペダル9の操作等に基づいて発生する液圧によりピストン5Bを推進させ、車輪(前輪2)延いては車両に制動力を付与する点で、後輪側ディスクブレーキ6と同様である。即ち、前輪側ディスクブレーキ5は、液圧によりブレーキパッドをディスクロータ4に押圧して制動力を付与する液圧式のブレーキ機構(液圧ブレーキ)である。
なお、前輪側ディスクブレーキ5は、後輪側ディスクブレーキ6と同様に、電動パーキングブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよい。また、実施形態では、電動ブレーキ機構(電動パーキングブレーキ)として、電動モータ7Aを備えた液圧式のディスクブレーキ6を用いている。しかし、これに限定されず、電動ブレーキ機構は、例えば、電動キャリパを備えた電動式ディスクブレーキ、電動モータによりシューをドラムに押付けて制動力を付与する電動式ドラムブレーキ、電動ドラム式のパーキングブレーキを備えたディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることによりパーキングブレーキをアプライ作動させるケーブルプラー式電動パーキングブレーキ等を用いてもよい。即ち、電動ブレーキ機構は、電動モータ(電動アクチュエータ)の駆動に基づいて摩擦部材(パッド、シュー)を回転部材(ロータ、ドラム)に押圧(推進)し、その押圧力の保持と解除とを行うことができる構成であれば、各種の電動ブレーキ機構を用いることができる。
車体1のフロントボード側には、ブレーキペダル9が設けられている。ブレーキペダル9は、車両のブレーキ操作時に運転者(ドライバ)によって踏込み操作される。この操作に基づいて、各ディスクブレーキ5,6は、常用ブレーキ(サービスブレーキ)としての制動力の付与および解除が行われる。ブレーキペダル9には、ブレーキランプスイッチ、ペダルスイッチ(ブレーキスイッチ)、ペダルストロークセンサ等のブレーキ操作検出センサ(ブレーキセンサ)10が設けられている。
ブレーキ操作検出センサ10は、ブレーキペダル9の踏込み操作の有無、または、その操作量を検出し、その検出信号をESC制御装置17に出力する。ブレーキ操作検出センサ10の検出信号は、例えば、車両データバス20、または、ESC制御装置17とパーキングブレーキ制御装置24とを接続する通信線(図示せず)を介して伝送される(パーキングブレーキ制御装置24に出力される)。
ブレーキペダル9の踏込み操作は、倍力装置11を介して、油圧源(液圧源)として機能するマスタシリンダ12に伝達される。倍力装置11は、ブレーキペダル9とマスタシリンダ12との間に設けられた負圧ブースタ(気圧倍力装置)または電動ブースタ(電動倍力装置)として構成されている。倍力装置11は、ブレーキペダル9の踏込み操作時に、踏力を増力してマスタシリンダ12に伝える。
このとき、マスタシリンダ12は、マスタリザーバ13から供給(補充)されるブレーキ液により液圧を発生させる。マスタリザーバ13は、ブレーキ液が収容された作動液タンクとなるものである。ブレーキペダル9により液圧を発生する機構は、上記の構成に限られるものではなく、ブレーキペダル9の操作に応じて液圧を発生する機構、例えば、ブレーキバイワイヤ方式の機構等であってもよい。
マスタシリンダ12内に発生した液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管14A,14Bを介して、液圧供給装置16(以下、ESC16という)に送られる。ESC16は、各ディスクブレーキ5,6とマスタシリンダ12との間に配置されている。ESC16は、マスタシリンダ12からシリンダ側液圧配管14A,14Bを介して出力される液圧を、ブレーキ側配管部15A,15B,15C,15Dを介して各ディスクブレーキ5,6に分配、供給する。即ち、ESC16は、ブレーキペダル9の操作に応じた液圧(ブレーキ液圧)を、各車輪(各前輪2、各後輪3)に設けられたディスクブレーキ5,6(キャリパ5A,6B)へ供給するためのものである。これにより、車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力を付与することができる。
ここで、ESC16は、液圧ブレーキ(前輪側ディスクブレーキ5、後輪側ディスクブレーキ6)の液圧を制御する液圧制御装置である。このために、ESC16は、複数の制御弁と、ブレーキ液圧を加圧する液圧ポンプと、該液圧ポンプを駆動する電動モータと、余剰のブレーキ液を一時的に貯留する液圧制御用リザーバ(いずれも図示せず)とを含んで構成されている。ESC16の各制御弁および電動モータは、ESC制御装置17と接続されており、ESC16は、ESC制御装置17を含んで構成されている。
ESC16の各制御弁の開閉と電動モータの駆動は、ESC制御装置17により制御される。即ち、ESC制御装置17は、ESC16の制御を行うESC用コントロールユニット(ESC用ECU)である。ESC制御装置17は、マイクロコンピュータを含んで構成され、ESC16(の各制御弁のソレノイド、電動モータ)を電気的に駆動制御する。この場合、ESC制御装置17は、例えば、ESC16の液圧供給を制御し、かつ、ESC16の故障を検出する演算回路、電動モータおよび各制御弁を駆動する駆動回路(いずれも図示せず)等が内蔵されている。
ESC制御装置17は、ESC16の各制御弁(のソレノイド)、液圧ポンプ用の電動モータを個別に駆動制御する。これにより、ESC制御装置17は、ブレーキ側配管部15A−15Dを通じて各ディスクブレーキ5,6に供給するブレーキ液圧(ホイルシリンダ液圧)を減圧、保持、増圧または加圧する制御を、それぞれのディスクブレーキ5,6毎に個別に行う。
この場合、ESC制御装置17は、ESC16を作動制御することにより、例えば以下の(1)−(8)等の制御を実行することができる。
(1)車両の制動時に接地荷重等に応じて各車輪2,3に適切に制動力を配分する制動力配分制御。
(2)制動時に各車輪2,3の制動力を自動的に調整して各車輪2,3のロック(スリップ)を防止するアンチロックブレーキ制御(液圧ABS制御)。
(3)走行中の各車輪2,3の横滑りを検知してブレーキペダル9の操作量に拘わらず各車輪2,3に付与する制動力を適宜自動的に制御しつつ、アンダーステアおよびオーバーステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定化制御。
(4)坂道(特に上り坂)において制動状態を保持して発進を補助する坂道発進補助制御。
(5)発進時等において各車輪2,3の空転を防止するトラクション制御。
(6)先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御。
(7)走行車線を保持する車線逸脱回避制御。
(8)車両進行方向の障害物との衡突を回避する障害物回避制御(自動ブレーキ制御、衝突被害軽減ブレーキ制御)。
ESC16は、運転者のブレーキ操作による通常の動作時においては、マスタシリンダ12で発生した液圧を、ディスクブレーキ5,6(のキャリパ5A,6B)に直接供給する。これに対し、例えば、アンチロックブレーキ制御等を実行する場合は、増圧用の制御弁を閉じてディスクブレーキ5,6の液圧を保持し、ディスクブレーキ5,6の液圧を減圧するときには、減圧用の制御弁を開いてディスクブレーキ5,6の液圧を液圧制御用リザーバに逃がすように排出する。
さらに、車両走行時の安定化制御(横滑り防止制御)等を行うため、ディスクブレーキ5,6に供給する液圧を増圧または加圧するときは、供給用の制御弁を閉弁した状態で電動モータにより液圧ポンプを作動させ、該液圧ポンプから吐出したブレーキ液をディスクブレーキ5,6に供給する。このとき、液圧ポンプの吸込み側には、マスタシリンダ12側からマスタリザーバ13内のブレーキ液が供給される。
ESC制御装置17には、車両電源となるバッテリ18(ないしエンジンによって駆動されるジェネレータ)からの電力が、電源ライン19を通じて給電される。図1に示すように、ESC制御装置17は、車両データバス20に接続されている。なお、ESC16の代わりに、公知のABSユニットを用いることも可能である。さらに、ESC16を設けずに(即ち、省略し)、マスタシリンダ12とブレーキ側配管部15A−15Dとを直接的に接続することも可能である。
車両データバス20は、車体1に搭載されたシリアル通信部としてのCAN(Controller Area Network)を構成している。車両に搭載された多数の電子機器(例えば、ESC制御装置17、パーキングブレーキ制御装置24等を含む各種のECU)は、車両データバス20により、それぞれの間で車両内の多重通信を行う。この場合、車両データバス20に送られる車両情報としては、例えば、ブレーキ操作検出センサ10、イグニッションスイッチ、シートベルトセンサ、ドアロックセンサ、ドア開センサ、着座センサ、車速センサ、操舵角センサ、アクセルセンサ(アクセル操作センサ)、スロットルセンサ、エンジン回転センサ、デジタルカメラ(ステレオカメラを含む)、ミリ波レーダ、勾配センサ(傾斜センサ)、シフトセンサ(トランスミッションデータ)、加速度センサ(Gセンサ)、車輪速センサ、車両のピッチ方向の動きを検知するピッチセンサ等からの検出信号(出力信号)による情報(車両情報)が挙げられる。
さらに、車両データバス20に送られる車両情報としては、ホイルシリンダ圧を検出するW/C圧力センサ21、マスタシリンダ圧を検出するM/C圧力センサ22からの検出信号(情報)も挙げられる。W/C圧力センサ21およびM/C圧力センサ22は、例えば、ブレーキ操作検出センサ10と同様に、ESC制御装置17に接続されている。W/C圧力センサ21およびM/C圧力センサ22の検出信号は、W/C液圧、M/C液圧の情報として、ESC制御装置17から車両データバス20に送られる。車両に搭載された多数の電子機器(各種のECU)は、W/C液圧、M/C液圧を含む各種の車両情報を、車両データバス20を通じて入手することができる。
次に、パーキングブレーキスイッチ23およびパーキングブレーキ制御装置24について説明する。
車体1内には、運転席(図示せず)の近傍となる位置に、電動パーキングブレーキ(電動駐車ブレーキ)のスイッチとしてのパーキングブレーキスイッチ(PKB−SW)23が設けられている。パーキングブレーキスイッチ23は、運転者によって操作される操作指示部となるものである。パーキングブレーキスイッチ23は、運転者の操作指示に応じたパーキングブレーキの作動要求(保持要求となるアプライ要求、解除要求となるリリース要求)に対応する信号(作動要求信号)を、パーキングブレーキ制御装置24へ伝達する。即ち、パーキングブレーキスイッチ23は、電動モータ7Aの駆動(回転)に基づいてピストン6D延いてはブレーキパッド6Cをアプライ作動(保持作動)またはリリース作動(解除作動)させるための作動要求信号(保持要求信号となるアプライ要求信号、解除要求信号となるリリース要求信号)を、パーキングブレーキ制御装置24に出力する。パーキングブレーキ制御装置24は、パーキングブレーキ用コントロールユニット(パーキングブレーキ用ECU)である。
運転者によりパーキングブレーキスイッチ23が制動側(アプライ側)に操作されたとき、即ち、車両に制動力を付与するためのアプライ要求(制動保持要求)があったときは、パーキングブレーキスイッチ23からアプライ要求信号(パーキングブレーキ要求信号、アプライ指令)が出力される。この場合は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに、該電動モータ7Aを制動側に回転させるための電力が、パーキングブレーキ制御装置24を介して給電される。このとき、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転に基づいてピストン6Dをディスクロータ4側に推進(押圧)し、推進したピストン6Dを保持する。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力が付与された状態、即ち、アプライ状態(制動保持状態)となる。
一方、運転者によりパーキングブレーキスイッチ23が制動解除側(リリース側)に操作されたとき、即ち、車両の制動力を解除するためのリリース要求(制動解除要求)があったときは、パーキングブレーキスイッチ23からリリース要求信号(パーキングブレーキ解除要求信号、リリース指令)が出力される。この場合は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに、該電動モータ7Aを制動側とは逆方向に回転させるための電力が、パーキングブレーキ制御装置24を介して給電される。このとき、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転によりピストン6Dの保持を解除する(ピストン6Dによる押圧力を解除する)。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力の付与が解除された状態、即ち、リリース状態(制動解除状態)となる。
パーキングブレーキは、例えば車両が所定時間停止したとき(例えば、走行中に減速に伴って、車速センサの検出速度が5km/h未満の状態が所定時間継続したときに停止と判断)、エンジンが停止したとき、シフトレバーをPに操作したとき、ドアが開いたとき、シートベルトが解除されたとき等、パーキングブレーキ制御装置24でのパーキングブレーキのアプライ判断ロジックによる自動的なアプライ要求に基づいて、自動的に付与(オートアプライ)する構成とすることができる。また、パーキングブレーキは、例えば車両が走行したとき(例えば、停車から増速に伴って、車速センサの検出速度が6km/h以上の状態が所定時間継続したときに走行と判断)、アクセルペダルが操作されたとき、クラッチペダルが操作されたとき、シフトレバーがP、N以外に操作されたとき等、パーキングブレーキ制御装置24でのパーキングブレーキのリリース判断ロジックによる自動的なリリース要求に基づいて、自動的に解除(オートリリース)する構成とすることができる。オートアプライ、オートリリースは、パーキングブレーキスイッチ23が故障したときに、自動的に制動力の付与または解除を行うスイッチ故障時補助機能として構成することができる。
さらに、車両の走行時にパーキングブレーキスイッチ23の操作があった場合、より具体的には、走行中に緊急的にパーキングブレーキを補助ブレーキとして用いる等の動的パーキングブレーキ(動的アプライ)の要求があった場合は、例えば、パーキングブレーキスイッチ23の操作に応じてESC16による制動力の付与と解除を行うようにすることができる。この場合は、例えば、パーキングブレーキ制御装置24は、パーキングブレーキスイッチ23の操作に応じた制動指令(例えば、液圧要求信号、目標液圧信号)を、車両データバス20または前記通信線を介して、ESC制御装置17に出力する。これにより、ESC16は、パーキングブレーキ制御装置24から制動指令に基づいて、パーキングブレーキスイッチ23が制動側に操作されている間(制動側への操作が継続している間)液圧による制動力を付与し、その操作が終了すると液圧による制動力の付与を解除する。
一方、車両の走行時にパーキングブレーキスイッチ23の操作があった場合に、ESC16による制動力の付与と解除に代えて、例えば、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aの駆動による制動力の付与と解除を行うようにすることができる。この場合は、例えば、パーキングブレーキ制御装置24は、パーキングブレーキスイッチ23が制動側に操作されている間(制動側への操作が継続している間)制動力を付与し、その操作が終了すると制動力の付与を解除する。このとき、パーキングブレーキ制御装置24は、車輪(各後輪3)の状態、即ち、車輪がロック(スリップ)するか否かに応じて、自動的に制動力の付与と解除(ABS制御)を行う構成とすることができる。
制御装置(電動ブレーキ制御装置)としてのパーキングブレーキ制御装置24は、後輪側ディスクブレーキ6(の電動モータ7Aおよび回転直動変換機構8)と共に、電動ブレーキ装置を構成している。パーキングブレーキ制御装置24は、車両のディスクロータ4にブレーキパッド6Cを押圧して制動状態を保持する電動機構における電動モータ7Aを制御する。即ち、パーキングブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aの駆動を制御する。このために、図3に示すように、パーキングブレーキ制御装置24は、マイクロコンピュータ等によって構成される演算回路(CPU)25およびメモリ26を有している。パーキングブレーキ制御装置24には、バッテリ18(ないしエンジンによって駆動されるジェネレータ)からの電力が電源ライン19を通じて給電される。
パーキングブレーキ制御装置24は、後輪側ディスクブレーキ6,6の電動モータ7A,7Aの駆動を制御し、車両の駐車、停車時(必要に応じて走行時)に制動力(パーキングブレーキ、補助ブレーキ)を発生させる。即ち、パーキングブレーキ制御装置24は、左右の電動モータ7A,7Aを駆動することにより、ディスクブレーキ6,6をパーキングブレーキ(必要に応じて補助ブレーキ)として作動(アプライ・リリース)させる。このために、パーキングブレーキ制御装置24は、入力側がパーキングブレーキスイッチ23に接続され、出力側は各ディスクブレーキ6,6の電動モータ7A,7Aに接続されている。そして、パーキングブレーキ制御装置24は、運転者の操作(パーキングブレーキスイッチ23の操作)の検出、電動モータ7A,7Aの駆動可否判定、電動モータ7A,7Aの停止の判定等を行うための演算回路25と、電動モータ7A,7Aを制御するためのモータ駆動回路28,28を内蔵している。
即ち、パーキングブレーキ制御装置24は、運転者のパーキングブレーキスイッチ23の操作による作動要求(アプライ要求、リリース要求)、パーキングブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックによる作動要求、ABS制御による作動要求に基づいて、左右の電動モータ7A,7Aを駆動し、左右のディスクブレーキ6,6のアプライ(保持)またはリリース(解除)を行う。このとき、後輪側ディスクブレーキ6では、各電動モータ7Aの駆動に基づいて、回転直動変換機構8によるピストン6Dおよびブレーキパッド6Cの保持または解除が行われる。このように、パーキングブレーキ制御装置24は、ピストン6D(延いてはブレーキパッド6C)の保持作動(アプライ)または解除作動(リリース)のための作動要求信号に応じて、ピストン6D(延いてはブレーキパッド6C)を推進するべく電動モータ7Aを駆動制御する。
図3に示すように、パーキングブレーキ制御装置24の演算回路25には、記憶部としてのメモリ26に加えて、パーキングブレーキスイッチ23、車両データバス20、電圧センサ部27、モータ駆動回路28、電流センサ部29等が接続されている。車両データバス20からは、パーキングブレーキの制御(作動)に必要な車両の各種状態量、即ち、各種車両情報を取得することができる。また、パーキングブレーキ制御装置24は、車両データバス20または前記通信線を介して、ESC制御装置17を含む各種ECUに情報や指令を出力することができる。
なお、車両データバス20から取得する車両情報は、その情報を検出するセンサをパーキングブレーキ制御装置24(の演算回路25)に直接的に接続することにより取得する構成としてもよい。また、パーキングブレーキ制御装置24の演算回路25は、車両データバス20に接続された他の制御装置(例えばESC制御装置17)から前述の判断ロジックやABS制御に基づく作動要求が入力されるように構成してもよい。この場合は、前述の判断ロジックによるパーキングブレーキのアプライ・リリースの判定やABSの制御を、パーキングブレーキ制御装置24に代えて、他の制御装置、例えばESC制御装置17で行う構成とすることができる。即ち、ESC制御装置17にパーキングブレーキ制御装置24の制御内容を統合することが可能である。
パーキングブレーキ制御装置24は、例えばフラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなる記憶部としてのメモリ26を備えている。メモリ26には、前述のパーキングブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックやABSの制御のプログラムが格納されている。これに加え、メモリ26には、後述の図4に示す処理フローを実行するための処理プログラム、即ち、電動パーキングブレーキのリリースの制御処理に用いる処理プログラム等が格納されている。
なお、実施形態では、パーキングブレーキ制御装置24をESC制御装置17と別体としたが、パーキングブレーキ制御装置24とESC制御装置17とを一体に(即ち、1個の制動用制御装置により一体に)構成してもよい。また、パーキングブレーキ制御装置24は、左右で2つの後輪側ディスクブレーキ6,6を制御するようにしているが、左右の後輪側ディスクブレーキ6,6毎に設けるようにしてもよく、この場合には、それぞれのパーキングブレーキ制御装置24を後輪側ディスクブレーキ6に一体的に設けることもできる。
図3に示すように、パーキングブレーキ制御装置24には、電源ライン19からの電圧を検出する電圧センサ部27、左右の電動モータ7A,7Aをそれぞれ駆動する左右のモータ駆動回路28,28、左右の電動モータ7A,7Aのそれぞれのモータ電流を検出する左右の電流センサ部29,29等が内蔵されている。これら電圧センサ部27、モータ駆動回路28、電流センサ部29は、それぞれ演算回路25に接続されている。これにより、パーキングブレーキ制御装置24の演算回路25では、アプライまたはリリースを行うときに、電流センサ部29により検出される電動モータ7Aの電流値(の変化)に基づいて、ディスクロータ4とブレーキパッド6Cとの当接・離接の判定、電動モータ7Aの駆動の停止の判定(アプライ完了の判定、リリース完了の判定)等を行うことができる。
例えば、電動モータ7Aをアプライ方向に駆動しているときに、電動モータ7Aの電流値がアプライ完了の電流閾値(保持電流閾値)に達したときに、アプライ完了と判定し、電動モータ7Aの駆動を停止することができる。また、例えば、電動モータ7Aをリリース方向に駆動しているときに、電動モータ7Aの電流値がリリース完了の電流閾値(解除電流閾値)に達したときに、リリース完了と判定し、電動モータ7Aの駆動を停止することができる。このように、パーキングブレーキ制御装置24は、電流センサ部29により検出される電動モータ7Aの電流値(の変化)に基づいて電動モータ7Aの駆動を制御することができる。
ところで、前述した特許文献1の技術は、リリースのときに電動モータをリリース方向に駆動する時間、即ち、電動モータの駆動を開始してから停止するまでの時間(解除所要時間)を、アプライに要した時間(係止所要時間)から決定する。しかし、例えば、アプライしてからリリースまでに長い時間が経過した場合には、アプライ完了時点とリリース開始時点とで推力状態、剛性、電動モータの状態等に差異が生じる可能性がある。このため、この差異に伴って、例えば、リリース時の電動モータの回転量(解除量)が不足する可能性がある。これにより、リリース完了後のブレーキパッドとディスクロータと間に必要な隙間(クリアランス)を確保できなくなる可能性がある。
一方、特許文献2の技術は、リリース中にブレーキパッドがディスクロータから離間したことを検知してからモータ回転速度を積分し、この積分値が所定値以上になったときにリリースを完了する。しかし、この技術は、ブレーキパッドとディスクロータとが離間したことを正しく検知する必要がある。ここで、ブレーキパッドがディスクロータから離間したこと、即ち、推力が解除されたことは、例えば、モータ電流値から判断することが考えられる。しかし、リリース中の電圧変動やブレーキ液圧付加といった外乱、構成機器の回転摺動抵抗の変化の影響を受けた場合には、モータ電流値からブレーキパッドとディスクロータとが離間したことを正しく検知できない可能性がある。これにより、ブレーキパッドとディスクロータとの間に所望の隙間を確保できなくなる可能性がある。また、リリース作動時の残存推力とモータ電流値に相関関係がない構成の場合は、推力解除の検知が困難になる。さらに、例えば、リリース中に電圧変動等の要因によりリリース動作が停止(中断)し、その後再開した場合は、ブレーキパッドとディスクロータとが離れたことの検知を再び行う必要があり、これにより動作時間が長くなる可能性もある。例えば、再開のときに、一度アプライ方向に駆動してからリリース方向に駆動することにより、その分、リリース完了までの動作時間が長くなる可能性がある。
このように、従来技術の場合は、ブレーキパッドとディスクロータとの間に所望の隙間を確保することが難しい。そこで、実施形態では、リリースを開始したら(即ち、リリース方向に電動モータの駆動を開始したら)、モータ電流値と電圧値とに基づきモータ回転量を推定し、積算する。そして、リリースを開始してからのモータ回転量の積算値が所定値に到達したら、リリース完了と判定し、電動モータを停止する。これにより、ブレーキパッドとディスクロータとの間に所望の隙間を確保できるようにしている。
即ち、実施形態では、パーキングブレーキ制御装置24は、電動機構における電動モータ7Aの駆動を制御する。電動機構は、車両のディスクロータ4にブレーキパッド6Cを押圧して制動状態を保持するものであり、例えば、減速機、回転直動変換機構8、電動モータ7A等により構成されている。パーキングブレーキ制御装置24は、制動状態の保持を解除(リリース)する場合、電動モータ7Aに供給される電流値と電圧値とに基づいて得られる回転量(モータ回転量)を電動モータ7Aの駆動開始から積算する。そして、パーキングブレーキ制御装置24は、駆動開始からの電動モータ7Aの回転量積算値(モータ回転量積算値)が所定値に到達することで、電動モータ7Aの駆動を停止する。
換言すれば、パーキングブレーキ制御装置24は、制動状態の保持を解除する指令、即ち、パーキングブレーキスイッチ23やパーキングブレーキのリリース判断ロジック等から出力されるリリース指令により、電動モータ7Aの駆動を開始し、電動モータ7Aに供給される電流値と電圧値から得られる回転量(モータ回転量)を電動モータ7Aの駆動開始から積算する。そして、パーキングブレーキ制御装置24は、駆動開始からの電動モータ7Aの回転量積算値(モータ回転量積算値)が所定値に到達したときに、電動モータ7Aの駆動を停止する。
ここで、モータ回転量積算値は、パーキングブレーキ制御装置24で制御周期毎のモータ回転量を積算することにより求める。即ち、パーキングブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aのリアルタイムの電流および電圧と、モータ固有の係数(モータ回転量係数)とを用いて毎周期にモータ回転量を算出し、それを積算することにより、リリース開始からの総モータ回転量となるモータ回転量積算値を求める。モータ回転量は、例えば、下記の数1式により算出する。パーキングブレーキ制御装置24は、今回の周期で算出したモータ回転量を、前回の周期で算出されたモータ回転量積算値に加算(積算)することにより、モータ回転量積算値を求める。この場合、モータ誤差を考慮してモータ回転量を算出してもよい。
このように、パーキングブレーキ制御装置24は、リリース開始からのモータ回転量積算値を算出(推定)する。そして、パーキングブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aをリリース方向に駆動しているときに、駆動開始からの電動モータ7Aの回転量積算値が所定値Rtoに到達したときに、リリース完了と判定し、電動モータ7Aの駆動を停止する。この場合、電動モータ7Aの駆動を停止する所定値Rto、即ち、リリース完了の回転量閾値(解除回転量閾値)Rtoは、例えば、所定値Roと所定値Rcとを用いて下記の数2式で表すことができる。
図6は、推力とモータ回転量(総回転量)との関係の一例を示している。この図6に示すように、所定値Roは、例えば、ブレーキパッド6Cとディスクロータ4とが触れた状態(推力0で当接している状態)から所定の推力(例えば、フルクランプ力)を得るために必要な総回転量に相当する。即ち、所定値Roは、所定の推力(例えば、フルクランプ力)を得るために必要な「推力発生ピストン変位量相当分回転量Ro」に対応する。所定の推力は、例えば、車両の停車を維持するために必要な推力であり、車両の仕様、電動モータ7Aの仕様、後輪側ディスクブレーキ6の仕様等に応じて設定することができる。所定値Roは、所定の推力が発生した状態から推力が0になるまでの回転量となるように、車両の仕様、電動モータ7Aの仕様、後輪側ディスクブレーキ6の仕様等を考慮して設定する。この場合、所定値Roは、例えば、計算、実験、シミュレーション等により求めることができる。また、所定値Roは、キャリパ6B、ブレーキパッド6Cの剛性のばらつきや推力のばらつきを考慮して設定する。さらに、所定値Roは、例えば、今回のリリースの前に行われたアプライのときの回転量に応じて可変に調整してもよい。
一方、所定値Rcは、例えば、ブレーキパッド6Cとディスクロータ4とが触れた状態(推力0で当接している状態)からこれらの間に所望の隙間を得るために必要な総回転量に相当する。即ち、所定値Rcは、推力解除後に確保必要な「クリアランス量相当分回転量Rc」に対応する。所定値Rcは、例えば、下記の数3式により算出される。
即ち、所定値Rcは、必要クリアランスをネジリードと減速比から算出した値となる。必要クリアランスは、推力を解除した状態から引き摺りを起こさないためにさらに必要なクリアランス量に対応する。所定値Rcは、適切なクリアランス量となるように、車両の仕様、電動モータ7Aの仕様、後輪側ディスクブレーキ6の仕様等を考慮して設定する。この場合、所定値Rcは、例えば、計算、実験、シミュレーション等により求めることができる。
図5は、電動モータ7Aの電流と回転量(回転量積算値)とパーキングブレーキの状態の時間変化の一例を示している。図5中の「A」の区間は、電動モータ7Aのアプライ駆動中に対応し、「S」の区間は、電動モータ7Aの停止中に対応し、「R」の区間は、電動モータ7Aのリリース駆動中に対応する。この図5に示すように、実施形態では、リリースのときに、パーキングブレーキ制御装置24は、電動モータ7Aの駆動開始からの制御周期毎の回転量(モータ回転量)の積算値である回転量積算値(総モータ回転量)を算出する。そして、パーキングブレーキ制御装置24は、回転量積算値が所定値Rto(=Ro+Rc)に到達したときに、電動モータ7Aの駆動を停止する。このようなパーキングブレーキ制御装置24によるリリース制御、即ち、図4に示す制御処理については、後で詳しく述べる。
実施形態による4輪自動車のブレーキシステムは、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
車両の運転者がブレーキペダル9を踏込み操作すると、その踏力が倍力装置11を介してマスタシリンダ12に伝達され、マスタシリンダ12によってブレーキ液圧が発生する。マスタシリンダ12内で発生したブレーキ液圧は、シリンダ側液圧配管14A,14B、ESC16およびブレーキ側配管部15A,15B,15C,15Dを介して各ディスクブレーキ5,6に分配され、左右の前輪2と左右の後輪3とにそれぞれ制動力が付与される。
この場合、各ディスクブレーキ5,6では、キャリパ5A,6B内のブレーキ液圧の上昇に従ってピストン5B,6Dがブレーキパッド6Cに向けて摺動的に変位し、ブレーキパッド6Cがディスクロータ4,4に押し付けられる。これにより、ブレーキ液圧に基づく制動力が付与される。一方、ブレーキ操作が解除されたときには、キャリパ5A,6B内へのブレーキ液圧の供給が停止されることにより、ピストン5B,6Dがディスクロータ4,4から離れる(後退する)ように変位する。これによって、ブレーキパッド6Cがディスクロータ4,4から離間し、車両は非制動状態に戻される。
次に、車両の運転者がパーキングブレーキスイッチ23を制動側(アプライ側)に操作したときは、パーキングブレーキ制御装置24から左右の後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに給電が行われ、電動モータ7Aが回転駆動される。後輪側ディスクブレーキ6では、電動モータ7Aの回転運動が回転直動変換機構8により直線運動に変換され、回転直動部材8Aによりピストン6Dが推進する。これにより、ブレーキパッド6Cによりディスクロータ4が押圧される。このとき、回転直動変換機構8(直動部材8A2)は、例えば、螺合による摩擦力(保持力)により制動状態を保持される。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキとして作動(アプライ)される。即ち、電動モータ7Aへの給電を停止した後にも、回転直動変換機構8により、ピストン6Dは制動位置に保持される。
一方、運転者がパーキングブレーキスイッチ23を制動解除側(リリース側)に操作したときには、パーキングブレーキ制御装置24から電動モータ7Aに対してモータが逆転するように給電される。この給電により、電動モータ7Aがパーキングブレーキの作動時(アプライ時)と逆方向に回転される。このとき、回転直動変換機構8による制動力の保持が解除され、ピストン6Dがディスクロータ4から離れる方向に変位することが可能になる。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキとしての作動が解除(リリース)される。
次に、パーキングブレーキ制御装置24の演算回路25で行われる制御処理(即ち、リリース時の制御処理)について、図4を参照しつつ説明する。なお、図4の制御処理は、例えば、パーキングブレーキ制御装置24に通電している間、所定の制御周期(例えば、10msec)で繰り返し実行される。また、左後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aと右後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aは、それぞれ同じ内容の制御処理を行う。このため、以下、一方の電動モータ7Aの制御処理について説明する。
ECUであるパーキングブレーキ制御装置24が起動すると、図4の制御処理が開始される。パーキングブレーキ制御装置24は、例えば、運転席のドアが開いたとき(ドア開)、または、イグニションON(アクセサリON)されたときに起動する。パーキングブレーキ制御装置24は、S1で、パーキングブレーキ(PKB)がロック状態であるか否かを判定する。ここで、図5に示すように、ロック状態(lock)は、アプライ駆動の終了(アプライのための電流供給の停止)からリリース駆動の終了(リリースのための電流供給の停止)までの状態に対応し、非ロック状態(unlock)は、リリース駆動の終了からアプライ駆動の終了までの状態に対応する。
S1で「NO」、即ち、ロック状態でないと判定された場合は、エンド(終了)に進む。即ち、エンドを介してスタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。一方、S1で「YES」、即ち、ロック状態であると判定された場合は、S2に進む。S2では、リリース作動が開始されたか否かを判定する。具体的には、S2では、パーキングブレーキスイッチ23やパーキングブレーキのリリース判断ロジック等からリリース指令が出力され、このリリース指令に基づいて電動モータ7Aのリリース方向への駆動を開始したか否かを判定する。S2で「NO」、即ち、リリース作動が開始されていないと判定された場合は、エンドに進む。即ち、エンドを介してスタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。
一方、S2で「YES」、即ち、リリース作動が開始された(リリース方向への電動モータ7Aの駆動が開始された)と判定された場合は、S3に進む。S3では、電動モータ7Aの端子間電圧(モータ端子間電圧)、電流値(モータ電流値)を取得する。この場合、電動モータ7Aの電圧値であるモータ端子間電圧は、電圧センサ部27により検出され、電動モータ7Aの電流値であるモータ電流値は、電流センサ部29により検出される。S3に続くS4では、S3で取得したモータ端子間電圧とモータ電流値から、前述の数1式を用いて、電動モータ7Aの回転量(モータ回転量)を算出する。この場合、現在の制御周期で算出された回転量を、前回の制御周期で算出された回転量(または、前回の制御周期までに積算された回転量)に加算(積算)することにより、電動モータ7Aの駆動開始からの総モータ回転量となるモータ回転量積算値を算出する。
S4に続くS5では、S4で算出したモータ回転量積算値が、電動モータ7Aの駆動を停止する所定値Rto以上であるか否かを判定する。即ち、S5では、S4で算出したモータ回転量積算値とリリース完了の閾値となる所定値Rtoとを比較する。所定値Rtoは、前述したように、アプライのときに必要な推力を得るために必要な総回転量(推力発生ピストン変位量相当分回転量Ro)と所望の隙間を得るために必要な総回転量(クリアランス量相当分回転量Rc)との和に対応する。
S5で「NO」、即ち、モータ回転量積算値が所定値Rto未満であると判定された場合は、S3に戻り、S3以降の処理を繰り返す。S5で「YES」、即ち、モータ回転量積算値が所定値Rto以上であると判定された場合は、S6に進む。S6では、リリース駆動中の電動モータ7Aを停止(OFF)する。S6で、電動モータ7Aを停止(OFF)したら、エンドに進む。即ち、即ち、エンドを介してスタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。
以上のように、実施形態では、パーキングブレーキ制御装置24は、制動状態の保持を解除(リリース)するときに、電動モータ7Aの駆動開始からの回転量積算値に基づいて、電動モータ7Aの駆動の停止を判定する。このため、アプライ時点とその後のリリース時点とで推力状態、剛性、電動モータ7Aの状態等に差異があっても、一定の回転量(所定値Rto)でリリースの制御を完了することができる。このため、アプライ時点とリリース時点との差異に拘わらず、リリースが完了したときのブレーキパッド6Cとディスクロータ4との間の隙間(クリアランス)を精度よく規制することができる。
また、電動モータ7Aの駆動の停止の判定に回転量積算値を用いているため、リリースするときの残存推力とモータ電流値とに相関関係がない場合でも、電動モータ7Aの駆動を停止する制御を行うことができる。さらに、モータ回転量は、制御周期毎にその時点の電流値と電圧値とから得ることができ、この制御周期毎のモータ回転量を積算したモータ回転量積算値を電動モータ7Aの駆動の停止の判定に用いる。このため、リリース中の電圧変動や液圧付加といった外乱、構成機器の回転摺動抵抗の変化の影響を補正することができる(即ち、制御周期毎にその変化を反映させることができる)。これにより、この面からも、リリースが完了したときのブレーキパッド6Cとディスクロータ4との間の隙間を精度よく規制することができる。
この結果、例えば、隙間が過小になることにより、ブレーキパッド6Cの引き摺りが発生することを抑制できる。また、隙間が過大になることにより、次のアプライを行うときの応答性が低下することを抑制できる。しかも、電動モータ7Aの電流値と電圧値とに基づいて回転量を算出するため、例えば、ブレーキパッド6Cがディスクロータ4から離間したことを検出するための推力センサ、回転センサ、変位センサ等の別のセンサを新たに設ける必要もない。このため、このセンサのための故障判断機能を実装する必要がなくなり、機能安全の観点からも優位となる。
なお、実施形態では、図4のS5で「YES」、即ち、モータ回転量積算値が所定値Rto以上であると判定されると、続くS6の処理により、電動モータ7Aの駆動を停止する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、パーキングブレーキ制御装置24は、回転量積算値が所定値Rtoに到達し、かつ、電動モータ7Aの電流値が閾値以下である場合に、電動モータ7Aの駆動を停止する構成としてもよい。即ち、パーキングブレーキ制御装置24は、例えば、図4のS5の処理で、回転量積算値が所定値Rtoに到達し、かつ、電動モータ7Aの電流値が予め設定した所定の閾値(電流閾値)以下であると判定された場合に、S6に進み、電動モータ7Aを停止するようにしてもよい。この場合、電流値の閾値(電流閾値)は、例えば、ブレーキパッド6Cとディスクロータ4とが離間していると判定できる電流値として設定することができる。このような場合、即ち、回転量積算値だけでなく、回転量積算値と電流値との両方を用いて電動モータ7Aの駆動の停止を判定する場合は、リリースが完了したときのブレーキパッド6Cとディスクロータ4との間の隙間(クリアランス)をより精度よく規制することができる。
実施形態では、後輪側ディスクブレーキ6を電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとすると共に、前輪側ディスクブレーキ5を電動パーキングブレーキ機能が付いていない液圧式ディスクブレーキとした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、後輪側ディスクブレーキ6を電動パーキングブレーキ機能が付いていない液圧式ディスクブレーキとすると共に、前輪側ディスクブレーキ5を電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとしてもよい。さらに、前輪側ディスクブレーキ5と後輪側ディスクブレーキ6との両方を、電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとしてもよい。要するに、車両の車輪のうち少なくとも左右一対の車輪のブレーキを電動パーキングブレーキにより構成することができる。
実施形態では、ブレーキ機構として、電動パーキングブレーキ付の液圧式ディスクブレーキ6を例に挙げて説明した。しかし、ディスクブレーキ式のブレーキ機構に限らず、ドラムブレーキ式のブレーキ機構として構成してもよい。さらに、ディスクブレーキにドラム式の電動パーキングブレーキを設けたドラムインディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることによりパーキングブレーキの保持を行う構成等、電動パーキングブレーキの構成は各種のものを採用することができる。
以上説明した実施形態に基づく電動ブレーキ装置および電動ブレーキ制御装置として、例えば下記に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様としては、電動機の回転力を減速機と回転直動変換機構とを介して推力に変換し、ピストンを推進することにより制動部材を被制動部材に押圧して車両の制動状態を保持する電動機構と、前記電動機の駆動を制御する制御装置と、を備える電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、制動状態の保持を解除する場合、前記電動機に供給される電流値と電圧値とに基づいて得られる回転量を前記電動機の駆動開始から積算し、前記電動機の回転量積算値が所定値に到達することで、前記電動機の駆動を停止する。
この第1の態様によれば、制動状態の保持を解除(リリース)するときに、電動機の駆動開始からの回転量積算値に基づいて、電動機の駆動の停止を判定する。このため、制動状態を保持した時点(アプライ終了時点)とその後に解除した時点(リリース開始時点)とで推力状態、剛性、電動機の状態等に差異があっても、一定の回転量で解除の制御を完了することができる。このため、制動状態の保持の時点と解除の時点との差異に拘わらず、制動状態の保持の解除が完了したときの制動部材と被制動部材との間の隙間(クリアランス)を精度よく規制することができる。また、電動機の駆動の停止の判定に回転量積算値を用いているため、制動状態の保持を解除するときの残存推力とモータ電流値とに相関関係がない場合でも、電動機の駆動を停止する制御を行うことができる。さらに、回転量は、制御周期毎にその時点の電流値と電圧値とから得ることができ、この制御周期毎の回転量を積算した回転量積算値を電動機の駆動の停止の判定に用いる。このため、制動状態の保持を解除している最中の電圧変動や液圧付加といった外乱、構成機器の回転摺動抵抗の変化の影響を補正することができる。これにより、この面からも、制動状態の保持の解除が完了したときの制動部材と被制動部材との間の隙間を精度よく規制することができる。この結果、例えば、隙間が過小になることにより、引き摺りが発生することを抑制できる。また、隙間が過大になることにより、次の制動状態の保持(アプライ)を行うときの応答性が低下することを抑制できる。しかも、電動機の電流値と電圧値とに基づいて回転量を得るため、例えば、制動部材が被制動部材から離間したことを検出するための推力センサ、回転センサ、変位センサ等の別のセンサを新たに設ける必要もない。このため、このセンサのための故障判断機能を実装する必要がなくなり、機能安全の観点からも優位となる。
第2の態様としては、第1の態様において、前記制御装置は、前記回転量積算値が所定値に到達し、かつ、前記電動機の電流値が閾値以下である場合に、前記電動機の駆動を停止する。この第2の態様によれば、回転量積算値と電流値との両方を用いて電動機の駆動の停止を判定する。このため、制動状態の保持の解除が完了したときの制動部材と被制動部材との間の隙間(クリアランス)をより精度よく規制することができる。
第3の態様としては、車両の被制動部材に制動部材を押圧して制動状態を保持する電動機構における電動機を制御する電動ブレーキ制御装置であって、制動状態の保持を解除する指令により、前記電動機の駆動を開始し、前記電動機に供給される電流値と電圧値から得られる回転量を前記電動機の駆動開始から積算し、前記電動機の回転量積算値が所定値に到達したときに、前記電動機の駆動を停止する。
この第3の態様によれば、制動状態の保持を解除(リリース)するときに、電動機の駆動開始からの回転量積算値に基づいて、電動機の駆動の停止を判定する。このため、制動状態を保持した時点(アプライ終了時点)とその後に解除した時点(アプライ開始時点)とで推力状態、剛性、電動機の状態等に差異があっても、一定の回転量で解除の制御を完了することができる。このため、制動状態の保持の時点と解除の時点との差異に拘わらず、制動状態の保持の解除が完了したときの制動部材と被制動部材との間の隙間(クリアランス)を精度よく規制することができる。また、電動機の駆動の停止の判定に回転量積算値を用いているため、制動状態の保持を解除するときの残存推力とモータ電流値とに相関関係がない場合でも、電動機の駆動を停止する制御を行うことができる。さらに、回転量は、制御周期毎にその時点の電流値と電圧値とから得ることができ、この制御周期毎の回転量を積算した回転量積算値を電動機の駆動の停止の判定に用いる。このため、制動状態の保持を解除している最中の電圧変動や液圧付加といった外乱、構成機器の回転摺動抵抗の変化の影響を補正することができる。これにより、この面からも、制動状態の保持の解除が完了したときの制動部材と被制動部材との間の隙間を精度よく規制することができる。この結果、例えば、隙間が過小になることにより、引き摺りが発生することを抑制できる。また、隙間が過大になることにより、次の制動状態の保持(アプライ)を行うときの応答性が低下することを抑制できる。しかも、電動機の電流値と電圧値とに基づいて回転量を得るため、例えば、制動部材が被制動部材から離間したことを検出するための推力センサ、回転センサ、変位センサ等の別のセンサを新たに設ける必要もない。このため、このセンサのための故障判断機能を実装する必要がなくなり、機能安全の観点からも優位となる。