JP2019110909A - 細胞傷害性t細胞エピトープペプチド及びその用途 - Google Patents

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一絵 中野
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Abstract

【課題】エプスタイン-バールウイルス(Epstein-Barr virus、以後EBVと記載する)の感染および同ウイルス陽性の癌を治療又は予防するワクチン、EBVに対する受動免疫療法剤、およびEBVに特異的なCTLの定量方法を提供する。【解決手段】EBVに特異的な細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte、CTL)エピトープペプチド。細胞骨格関連タンパク質(cytoskeleton-associated protein 4:以下CKAP4、別名:CLIMP-63、ERGIC-63、P63)由来であって、IYTEVRELVの配列からなるHLA-A*24:02拘束性エピトープペプチド。該ペプチド特異的な細胞傷害性T細胞は、CKAP4を高発現する悪性腫瘍細胞を攻撃できる。【選択図】なし

Description

本発明は、エプスタイン-バールウイルス(Epstein-Barr virus、以後EBVと記載する)に特異的な細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte、以後、CTLと称する)エピトープペプチド、該ペプチドを用いたEBVの感染および同ウイルス陽性の癌を治療又は予防するワクチン、EBVに対する受動免疫療法剤、およびEBVに特異的なCTLの定量方法に関する。さらに、本発明は、がん細胞を標的とするCTLを誘導することができるペプチドに関する。また本発明は、前記ペプチドを含むがんワクチン及び抗がん剤に関する。更に本発明は、がん細胞を標的とするCTLを誘導するための前記ペプチドの使用、得られたCTL及び前記CTLを含む抗がん剤に関する。
1964年、EpsteinとBarrによってバーキットリンパ腫組織由来の培養細胞から新しいヘルペスウイルスが発見され、Epstein-Barr virus(EBV)と命名された(非特許文献1)。EBVは8種類あるヒトヘルペスウイルス(HHV)のひとつであるHHV-4に分類され、全世界で広範に潜伏感染しているウイルスである(非特許文献2)。通常小児期に唾液を介して口腔・咽頭粘膜に感染が成立し、口腔・咽頭粘膜上皮細胞で産生されたウイルスは、さらに上皮間を通過するB細胞に感染して全身に広がる。主に細胞傷害性T細胞(CTL)による免疫監視機構により感染B細胞は傷害をうけて殺傷排除されるが、一部はウイルスを産生しない潜伏感染状態となる。
1970年に鼻咽頭癌の組織からEBVウイルス由来のDNA断片が見つかったことから、ヒトに感染するウイルスの中で、EBVが初めての腫瘍ウイルスと呼ばれるようになった(非特許文献3、4)。EBVの他にも腫瘍ウイルスの代表的な例としては、肝癌の原因となるC型肝炎ウイルス(HCV)、子宮頸癌の原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)、成人T細胞白血病の原因となるヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)などが挙げられる。
EBVはヒトのリンパ球成分の一つであるB細胞に主に感染するが、B細胞以外に上皮細胞、T細胞、NK細胞などにも感染し、その多様な細胞向性が多彩な腫瘍発生と関わっていると考えられている。例えば、EBV感染が原因と考えられている癌は、バーキットリンパ腫(BL)、ホジキンリンパ腫(HL)、NK/T細胞リンパ腫、鼻咽頭癌(NPC)、胃癌(MK)などの悪性腫瘍が挙げられる。また、EBVは複数の免疫不全疾患にも深く関わっており、例えばリンパ球増殖性疾患(LPD)、伝染性単核球症(IM)、移植後リンパ球増殖性疾患(PTLD)などが知られている(非特許文献4)。
最近の研究によって、EBVは自己免疫疾患にも関与することが明らかになりつつある。多発性硬化症(MS)、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、シェーグレン症候群(SS)などの患者では、EBVのウイルス量の高値化が報告されている。また、EBV由来の小分子 RNA(EBV encoded small RNA, EBER)やいくつかのタンパク質が、自己免疫疾患の発症と進行に深く関連していると考えられており、そのメカニズムの解明が進められている(非特許文献5、6、7)。
このように、EBVが癌及び免疫不全疾患と密接に関連していると考えられている事から、EBVをターゲットにした免疫細胞療法の臨床研究はここ十数年で大きく進展し、輝かしい成果が収められている。例えば、EBV関連のリンパ球増殖性疾患(LPD)、移植後リンパ球増殖性疾患(PTLD)に対し、原因となるウイルス感染細胞を排除し得る免疫担当細胞を患者体内に輸注する、いわゆる免疫細胞療法が実施され、その治療効果が証明された(非特許文献8、9、10)。また、ホジキンリンパ腫や、鼻咽頭癌等のEBV関連悪性腫瘍に対しても免疫細胞療法の有効性が報告されている(非特許文献11、12、13、14、15)。
それらの効果的な臨床研究によって、免疫細胞療法は新たな癌治療戦略として大きな関心が寄せられている。従来の外科的措置、放射線療法、化学療法では難治性の悪性腫瘍、免疫不全疾患において、免疫細胞療法は有力な治療法になりうると考えられている。
免疫細胞療法は患者に備わっている免疫力を賦活化させ、標的となる癌細胞あるいはウイルス感染細胞を特異的に攻撃・排除することを利用した治療方法であり、従来の治療方法にない特徴がある。これらの標的となる細胞を特異的に攻撃する中心的な役割を果たしているのは細胞傷害性T細胞(CTL)である。CTLが癌細胞あるいはウイルス感染細胞といった標的細胞を認識する際には、CTL細胞膜表面上に発現しているT細胞受容体(TCR)が重要な役割を担っている。TCRは癌抗原分子やウイルス粒子そのものを直接認識するわけではなく、標的細胞の膜表面上に発現しているHLA(ヒト白血球型抗原)と、腫瘍細胞の場合は癌抗原由来の、或いはウイルス感染細胞の場合はウイルス由来の8〜10個のアミノ酸からなるペプチド(エピトープペプチド)との複合体に結合することでCTLは標的細胞を認識して殺傷効果を発揮する。HLAはクラス Iとクラス IIに大別され、HLA クラス Iとペプチドの複合体はCD8陽性T細胞に発現するTCRに認識され、HLA クラス IIとペプチドの複合体はCD4陽性T細胞に発現するTCRに認識されて免疫応答が惹起される。HLA クラス Iは更にHLA-A, B, Cと呼ばれる古典的分類と、HLA-E, F, Gと呼ばれる非古典的分類に区別される。移植医療におけるドナーとレシピエントのHLA適合性は、HLA-A, BとHLA クラス IIに分類されるHLA-DRBの6座適合性が重要であり、特に非血縁者間での移植では、拒絶におけるリスクファクターとして考えられている。現在IMGTのHLAデータベース(http://www.imgt.org/)によると、HLA-Aは2,041種類、HLA-Bは2,688種類、HLA-Cは1,677種類のタンパク質が登録されている。しかしながら人種間で偏りがあることが知られており、例えば日本人の約60%の人がHLA-A24を保持しており、HLA-A2は白人の50%以上で、日本人も約20%が保持している。発明者らが同定したEBV由来LMP2およびEBNA1特異的CTLエピトープペプチドはHLA-A11に特異的に結合し、これを認識するCTLによってEBV感染細胞は殺傷排除される。HLA-A11の保有率は日本人では約10%であるが、東南アジアでは保有率第3位のアリルとして広い人口分布を示す。東南アジアにおけるHLA-A24、 HLA-A2及びHLA-A11のアリル頻度は、それぞれ32.1%、24.5%、23.7%である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/gv/mhc/ihwg.cgi)。
これまで報告されている免疫細胞療法の多くは、世界的にはHLA-A2を対象とした臨床試験が最も多く、日本国内ではHLA-A24を対象者としている場合が多い。アジア圏では平均寿命の延伸によりさらに癌患者が増加すると予想されおり、免疫細胞療法はこれまで以上に治療対象となるHLA型を多くすることが求められている。これまでに報告されたHLA-A11拘束性のCTLエピトープ数は、HLA-A2やHLA-A24に比べて極端に少なく、HLA-A11を保有する患者を対象者とした臨床試験の報告例が殆ど存在しない事からも、本発明のHLA-A11拘束性を示すEBV LMP2およびEBV EBNA1特異的CTLエピトープの同定の意義は大きいと思われる。
EBV関連悪性腫瘍において、特筆すべきは鼻咽頭癌(Nasopharyngeal Carcinoma、以後NPCと記載する)である。NPCは中国南部、香港地域、シンガポール、ベトナム、マレーシア、フィリピンなどを含む東南アジアで高い発症率を有する。また、北アフリカなどの地域でも比較的高い発症率である。2012年には世界中で新規に86,691人がNPCと診断され、死亡数は50,828人にも及んでいる(GLOBOCAN2012)。また、放射線治療後、1,3,5,10年生存率はそれぞれ、89.86%,60.60%,47%,33.03%だったことが報告されている(非特許文献18)。興味深いことに、NPCの発症リスクのひとつとしてHLA型が報告されている(非特許文献17)。例えば、NPC患者のHLA-A型の頻度を統計学的に分析した結果で上位を示したHLA-A型の頻度は、A11保持者が50 %、A2保持者が50 %、A24保持者が30 %、B40保持者32%であったと報告されている(非特許文献15)。または、違う研究グループの調査結果では、A11保持者が58%、A2保持者が53%、A24保持者が30%、B40保持者が43%であったと報告されている(非特許文献16)。最近になって、次世代シークエンサー技術を用いて、HLAのアミノ酸配列のバリアントとSNPsを網羅的に調べた結果、HLA-A11がNPCの発症と深く関わるHLA型として報告されている(非特許文献19)。この様にNPCではHLA-A11保持者の発症率が高く、本発明のHLA-A11拘束性を示すEBV LMP2およびEBV EBNA1特異的CTLエピトープを用いた治療法を提供できる意義は深いと思われる。
NPCは難治性の悪性腫瘍であることから、外科的措置、化学療法、放射線療法に続く第4の治療法としてインビトロで活性化されたEBV特異的CTLを利用した免疫細胞治療に対する関心は非常に大きくなっており、複数の臨床試験で有効性が報告されている。しかしながら、それらの臨床試験で使用されているCTLエピトープペプチドは、主にHLA-A2、HLA-A24拘束性のペプチドであり、HLA-A11拘束性CTLエピトープペプチドの臨床試験報告例はほとんど存在しない。その理由として、HLA-A11拘束性CTLエピトープペプチドの同定が世界的にも殆ど試みられていなかった事と、NPCで発現しているEBNA1由来のCTLエピトープの同定が非常に困難であることなどが挙げられる。
本発明では後述の同定手法を用い、EBV関連悪性腫瘍、特にNPC患者で最も保有率の高いHLA-A11に対して拘束性を示すCTLエピトープペプチドの同定を鋭意検討した。
EBVは約85個の遺伝子産物をコードする約170kbpの2本鎖DNAを持っているが、NPCの癌患部では、EBV由来のタンパク質であるLMP1、LMP2、EBNA1の発現が報告されている。LMP1は一部の患者でしか検出できないのに対し、LMP2とEBNA1はNPCで恒常的に発現しており(非特許文献20、21)、この二つのタンパク質は細胞傷害性T細胞エピトープペプチド同定のための魅力的な標的である。しかしながら、これまでの報告では、CTLの免疫応答はLMP2に優先的に向けられ、EBNA1はCTLに認識されないと信じられてきた(非特許文献22、23、24、25)。その理由は、EBNA1は全長641個のアミノ酸で構成されているが、その中心領域(101番目から324番目のアミノ酸)に約200個のアミノ酸からなるグリシン−アラニン反復配列(GAr)が存在しており、MHCクラス Iエピトープを産生する主要な触媒機構であるプロテアソームによる処理を妨げることが判明している(非特許文献26、27、28)。さらに、同じ中心領域がEBNA1 mRNAの翻訳を妨げることが明らかとなっており、EBNA1タンパク質の発現そのものが低い事が報告されているからである(非特許文献29、30)。
一方で、LMP2のCTLエピトープは、複数の研究グループから報告されている。全長497アミノ酸(B95.8株由来)で構成されるLMP2タンパク質に対してオーバーラッピングペプチドライブラリーを作製し、HLA-A2、HLA-A24、HLA-A11等を標的としたCTLエピトープ探索が行われ、HLA-A2、HLA-A24拘束性のペプチドが数多く同定されたのに対し、HLA-A11拘束性のペプチドは今日にいたるまで、1つしか同定されていなかった(非特許文献15)。EBVは全世界で成人の90%以上に潜伏感染しているウイルスであるにもかかわらず、NPCの罹患率には強い地域性が存在している。たとえば、東南アジア、北アフリカ、アラスカなどの地域では、NPCの発生率は他の地域の100倍ほど高いことが疫学調査により明らかになっている(Rickinson, A. B., and E. Kieff. 1996. Epstein-Barr virus, p. 2397-2446. In B. N. Fields, D. M. Knipe, and P. M. Howley (ed.), Fields virology, 3rd ed.,vol. 2. Lippincott-Raven, Philadelphia, Pa)。この強い地域性が生じる原因には、環境、遺伝、生活習慣などの要因が挙げられてきたが、EBV株の違いにより、発癌性タンパク質の発現量の違いや、アミノ酸の変異による免疫応答の違いも考えられ、感染株の違いがNPCの発症に関わるもう一つの重要な因子であろうと考えられる。注目すべき点は、NPCの罹患率が非常に高い地域のひとつは中国の広東省でり、ここで広く伝播しているEBV株の一種はGD1であることである(Zeng MS, Li DJ, Liu QL, Song LB, Li MZ, Zhang RH, Yu XJ, Wang HM, Ernberg I, Zeng YX. Genomic sequence analysis of Epstein-Barr virus strain GD1 from a nasopharyngeal carcinoma patient. J Virol. 2005 Dec;79(24):15323-30)。ここで、EBV株間、例えば、B95.8株とGD1株では、特異的CTLエピトープペプチドに相当する配列が異なる場合があり、そのことによりCTL誘導能やMHC−テトラマー試薬での検出能が影響を受ける可能性がある。このことは、2種類以上のペプチドを混合して誘導されたCTLを治療に利用する事で、感染者の株種に依存しない治療用のCTLを調製できる事を意味している。
一方、細胞性免疫を担うCTLが、様々なウイルスや病原菌感染細胞を特異的に認識し、これを攻撃・排除することは古くから知られている。これは、感染細胞が主要組織適合性抗原複合体(major histocompatibility complex, 以下MHC、ヒトではHLA)を介してウイルス、病原菌由来の抗原ペプチドを提示し、それをT細胞が認識して、免疫応答が惹起されるためである。具体的には、MHCにはclass Iとclass IIがあり、MHC class I(以下MHC-I)はすべての有核細胞の細胞膜表面に発現して、主にウイルスタンパク質由来の非自己ペプチドをCTLに提示して活性化させる。一方で、MHC class II(以下MHC-II)は樹状細胞などの抗原提示細胞の細胞膜表面に発現し、非自己ペプチドをCD4+ T細胞に提示して、サイトカインの分泌・抗体の産生を誘導する。つまり、生体を感染から防御する機構として、MHC-I−CTLとMHC-II−CD4+ T細胞の二つの経路が備わっている。
1991年に、悪性黒色腫に特異的に発現しているMAGE抗原由来のペプチドが、CTLに認識されることが報告された(非特許文献31)。これは、MHC-Iが、がん細胞由来の自己の抗原ペプチドをCTLに提示し、特異的に細胞傷害活性を誘導することを初めて示した例である。つまり、CTLは自己抗原にも反応でき、そのはたらきを利用することで、がんを治療できる可能性が示されたことになる。それ以降、がんに特異的に発現しているタンパク質(以下がん抗原)と、そのタンパク質由来のペプチド断片の同定が盛んに進められている。これらの発見と並行し、がん免疫療法の開発が盛んに進められている。がん免疫療法とは、がん細胞を殺傷・排除するCTLなどの免疫担当細胞を生体内外で増殖させ、がんの治療を行う方法である。がん免疫療法には幾つかの方法が考えられる。
1.患者のがん組織を液体窒素等で粉砕処理し、これを免疫賦活剤と共に患者に接種する自己がん免疫療法
2.患者のがん組織を液体窒素等で粉砕処理し、これを患者末梢血から分離培養した樹状細胞と共培養後、患者に接種する自己がん樹状細胞療法
3.患者のがん組織を液体窒素等で粉砕処理し、これを患者末梢血から分離培養したリンパ球と混合培養し、患者体内に戻す自己がん感作リンパ球移入療法
1〜3は、必ずしもがん抗原特異的な免疫応答が惹起されているとは言えず、非特異的ながん免疫療法である。また、がん患者からがん患部を切除するなどの外科的処置が必要になるという欠点がある。
4.がん抗原特異的CTLエピトープペプチドと免疫賦活剤を患者に接種するがんペプチドワクチン療法
5.がん抗原特異的CTLエピトープペプチドを患者末梢血から分離培養した樹状細胞にパルス後、患者に接種するペプチドパルス樹状細胞療法
6.がん抗原特異的CTLエピトープペプチドを用いて患者末梢血から分離培養したリンパ球を刺激培養し特異的CTLを誘導し、これを患者体内に戻すCTL移入療法
7.4と6のコンビネーション療法。がん抗原特異的CTLエピトープペプチドと免疫賦活剤を患者に接種する。この患者末梢血から分離したリンパ球をがん抗原特異的CTLエピトープペプチドで刺激培養する事で特異的CTLを誘導し、これを患者体内に戻す方法。
8.がん抗原特異的CTLからT細胞受容体(TCR)遺伝子を抽出し、これを患者末梢血から分離培養したリンパ球に遺伝子導入する事で人工CTLを作製し、患者体内に戻す人工CTL移入療法。
4〜8は、いずれもがん抗原特異的な免疫応答を惹起・利用するものであり、特異的ながん免疫療法である。ただし、これらを実施するためには、がん抗原特異的CTLエピトープを同定し、これを認識するCTLの存在を証明することが第一の要件である。
上記の通り、がん抗原特異的な免疫応答を惹起・利用する様々ながん免疫療法が開発されているが、それらの治療効果は必ずしも高くはなく、多くの臨床試験が第II相、第III相で失敗している。これらの失敗から、がん免疫療法の実施にあたり以下の注意点が考えられる。
(1)適切なCTLモニタリング
がん免疫療法は、生体内でがんを認識して、攻撃するCTLの増幅を期待して行われる治療法であり、効果成分であるCTLのモニタリングが重要である。CTLのモニタリング法としては、細胞内サイトカイン染色法や、細胞傷害活性の測定などがあるが、これらはCTLを間接的に検出する方法である。例えば、細胞内サイトカイン染色法はペプチド刺激に対するIFNγ(interferon gamma)やTNFα(tumor necrosis factor-alpha)の産生を測定する方法であり、抗原ペプチド特異的な免疫応答以外の反応も検出する可能性がある。一方で、より適切な方法として、MHC−テトラマー試薬を用いた方法がある。MHC−テトラマー試薬は、MHCとβ2−ミクログロブリン(以下、β2m)及びペプチド断片の3者複合体(MHC−モノマー)を試験管内で製造し、MHC−モノマーを4量体化した試薬である。
この試薬がなぜCTLのモニタリングに適切であるかを以下に説明する。MHC−モノマーを構成するMHCは多様性に富む分子であり、IMGTのHLAデータベース(http://hla.alleles.org/nomenclature/stats.html)によると、HLA-Aは2077種類、HLA-Bは2741種類、HLA-Cは1739種類のタンパク質が登録されている(2014年10月時点)。また、それぞれのMHCのアリル型によって、結合するペプチド断片(8〜12アミノ酸残基長)の特徴も異なる。つまり、MHC/ペプチド複合体の組み合わせは、MHCのアリル型と、ペプチド断片の種類だけあり、膨大な数が存在する。一方で、CTLは、MHC-Iが提示するペプチドをTCRで認識する。個々のTCRは、TCR遺伝子の再編成により生み出され、1個体におけるTCRのレパートリー数は1018にも上ると言われている。つまり、標的細胞のMHC/ペプチド複合体と、CTL側のTCRは、ともに膨大な多様性を備えている。そして、個々のCTLは一般的に一種類のTCRを細胞膜表面上に発現し、それに対する特異的なMHC/ペプチド複合体のみを認識して活性化する。MHC−テトラマー試薬はこの仕組みを利用した試薬である。すなわち、MHC−テトラマー試薬は、標的細胞膜上のMHC/ペプチド複合体の構造を模倣した試薬であり、それによって特異的なTCRをもつCTLのみを選択的に検出できるのである。この点から、MHC−テトラマー試薬は、CTLのモニタリングには理想的な試薬であると考えられる。なお、MHC−モノマーを4量体化しているのは、CTLが発現するTCRとの結合力を増強し、フローサイトメーターなどの機器で検出できるようにするためである。
(2)がん細胞の抗原提示分子(HLAおよびβ2m)の変異
がん細胞のHLAとβ2mの変異は、がん細胞の免疫逃避機構として知られている。これらが生じると、がん細胞が抗原ペプチドを提示しなくなるため、CTLはがん細胞を認識できず、攻撃できない。HLAの変異としては、同一遺伝子座の片側が欠損するLOH型変異(loss of heterozygosity)が知られている。また、β2mの変異はフレームシフト変異などが知られている。β2mの変異に対しては、β2m遺伝子をアデノウイルスベクターにより遺伝子導入することで、β2mの発現を補い、がん細胞に抗原ペプチドを提示させる試みがなされている。
(3)がん細胞の標的抗原の発現
がん抗原には、様々な種類があり、どのがん抗原を発現しているかは、がん種や、個人によって差がある。このため、がん免疫療法を行うにあたり、患者のがん抗原の発現を確認することは非常に重要である。例えば、ペプチドワクチンの由来のがん抗原が患者のがん患部において全く発現していない場合は、がん細胞を標的にできないため、がんペプチドワクチン療法の治療効果は望めない。近年では、幾つかのがんペプチドワクチン療法の臨床試験において、がん抗原特異的抗体を用いた組織染色などにより、患者のがん細胞がペプチドワクチンの由来抗原を発現しているか確認している。一方で、悪性神経膠芽腫などの場合、がん細胞サンプルの取得が難しいため、がん患部でのがん抗原の発現を確認することは難しい。
(4)免疫抑制分子の作用
CTLは標的細胞が提示する抗原ペプチドを特異的に認識すると活性化し、細胞傷害活性を発揮する。一方で、CTLの活性化を阻害する分子の存在が知られており、TGFβ、PD-1、CTLA-4などがある。TGFβはがん細胞が分泌する抑制性のサイトカインであり、CTLやCD4+T細胞の増殖・分化が阻害される。PD-1、CTLA-4は共にT細胞の細胞膜上の分子であり、それぞれがん細胞が発現するリガンドと結合すると、抑制性のシグナルが伝達され、CTLが不活性化される。近年、抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体により、これらの免疫抑制分子のはたらきを阻害することで、CTLのはたらきが促進されることが報告されている。
(5)患者のHLA型
エピトープペプチドは、基本的に1種類のHLAにしか提示されない。これをHLA拘束性という。このため、エピトープペプチドを提示できるHLA型を保有しない患者に対して、がん免疫療法を行っても、その患者においてがん細胞がエピトープペプチドを提示しないため、治療効果は望めない。つまり、がん免疫療法の対象患者は、使用するエピトープペプチドのHLA拘束性に限定される。実際、がん免疫療法の臨床試験においては、抗HLA抗体を用いた血清型判定や遺伝子型判定により患者のHLA型が事前に判定され、使用されるエピトープのHLA拘束性に合う患者が試験に登録される。
以上から、がん免疫療法によって治療効果を得るためには、適切なCTLモニタリングを実施すること、抗原提示分子の発現を確認すること、がん患部におけるがん抗原の発現を確認すること、免疫抑制分子のはたらきを阻害すること、患者のHLA型に適合するがん抗原エピトープペプチドを選択することが重要である。中でも、患者のHLA型に適合するがん抗原エピトープペプチドを選択するためには、様々なHLA拘束性エピトープペプチドが同定されていることが前提となる。従って、多様ながん患者に幅広く対応するためには、複数のがん抗原においてできるだけ複数のHLA拘束性のエピトープペプチドが同定されていることが望ましい。このため、エピトープペプチドの同定には多大な意義がある。HLA-A*24:02は日本人において最も保有率の高いHLA-Aアリルであり、約60%が保有する。そこで、本発明では特異的ながん免疫療法に使用しうるHLA-A*24:02拘束性の新規がん抗原エピトープペプチド、それを用いたがんワクチン及び抗がん剤、およびエピトープペプチド特異的CTLを検出する試薬を提供することを目的とする。
CKAP4は分子量63 kDa、全長602個のアミノ酸で構成されるII型膜貫通タンパク質である。N末端側から、106個のアミノ酸で構成される細胞質内領域、21個のアミノ酸で構成される膜貫通領域、475個のアミノ酸で構成される細胞外領域の3つの領域が存在する(非特許文献32)。CKAP4は、細胞周期の間期において、細胞質内領域で、小胞体と微小管に結合し、小胞体を微小管に固着させる機能をもつ(非特許文献33)。細胞が有糸***に入る前には、CKAP4のN末端側から100番目のアミノ酸であるシステイン残基が、可逆的にパルミトイル化され(非特許文献34)、このパルミトイル化により、CKAP4の局在が細胞膜へと変わり(非特許文献35)、微小管との相互作用が阻害される。また、有糸***期にCKAP4はリン酸化され、微小管との結合能を失うことも報告されている(非特許文献36)。一方で、微小管は有糸***期に染色体を分配して細胞を正しく二分する役割を持つ紡錘体を構成することが知られている。これらから、CKAP4は有糸***期において、適切に微小管と解離することで正常な有糸***の制御に関与すると考えられている。また、CKAP4は、肺胞細胞の表面において界面活性剤(肺表面活性物質)の除去を担うsurfactant protein-A (以下、SP-A)の受容体としてもはたらくことが知られている(非特許文献32)。肺胞細胞表面において、脂質から成る界面活性剤は、表面を覆う水分の表面張力を減少させることで、肺胞の伸展に寄与する。SP-Aは界面活性剤を除去する機能をもち、受容体であるCKAP4と共に機能することで、肺胞細胞の恒常性の維持を担っている。
CKAP4は正常細胞でも発現しているが、乳がん、中枢神経系腫瘍、肺がん、腎臓がん、悪性黒色腫など様々ながん由来の細胞株で高発現している(http://129.187.44.58:7070/NCI60/protein/show/10796)。また、CKAP4は、骨肉腫患者において高発現であること(http://www.ebi.ac.uk/gxa/experiments/E-MEXP-3628?geneQuery=ENSG00000136026&queryFactorValues=g2_g1&_specific=on)や、肝臓がん患者において高発現であることが報告されている(非特許文献37)。これらから、CKAP4はがん細胞で高発現する過剰発現型のがん抗原である可能性が考えられる(非特許文献38)。過剰発現型のがん抗原としては、例えばHer-2などが知られており、Her-2由来ペプチドを用いたがんペプチドワクチンの臨床試験も実施されている(非特許文献39、40)。
上記の通り、CKAP4は様々ながんで高発現していると考えられるが、CKAP4のがん細胞における抗原性については明らかにされていない。すなわち、CKAP4ががん抗原として免疫系の標的になっているのかどうか、つまり、CKAP4由来のペプチドががん細胞表面のHLAに提示され、これを特異的に認識するCTLによってがん細胞が攻撃されているかどうかという点については不明である。
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本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、標的をEBVのLMP2とEBNA1に絞り、その目的は、LMP2特異的な細胞傷害性T細胞エピトープペプチド、およびEBNA1特異的な細胞傷害性T細胞エピトープペプチドを同定し、該ペプチドを用いたNPCをはじめとするEBV関連悪性腫瘍および免疫不全を治療又は予防するワクチン、EBVに対する受動免疫療法剤、およびEBVに特異的な細胞傷害性T細胞の定量方法を提供することにある。また、本発明者等は、種々のCKAP4由来のペプチドについてがん抗原性、すなわちCTL誘導能について鋭意検討を重ねた。その結果、配列番号:43に示す、CKAP4の細胞外領域内の特定のペプチドがHLA-A*24:02拘束性のCKAP4特異的CTLを誘導し、該特異的CTLが細胞傷害活性を示すことを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいてなされたものである。
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、具体的な態様において、例えば以下の発明に関する。
〔1〕Epstein-Barr virus(EBV)に特異的な細胞傷害性T細胞の誘導活性を有する、エピトープペプチドであって、ここで、該エピトープペプチドが、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:26、配列番号:27及び配列番号:28からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる、エピトープペプチド、
〔2〕Epstein-Barr virus(EBV)に特異的な細胞傷害性T細胞の誘導活性を有する、エピトープペプチドであって、ここで、該エピトープペプチドが、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:26、配列番号:27又は配列番号:28に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加された、エピトープペプチド、
〔3〕〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドをコードする核酸、
〔4〕〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドをコードする核酸を含む発現ベクター、
〔5〕〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドを有効成分として含む、EBVの感染又はEBV陽性の癌を治療、又は予防するためのワクチン、
〔6〕EBVが、AKata株、GD1株、GD2株、HKNPC1株、AG876株、Mutu株及びB95.8株から選択される、〔5〕記載のワクチン、
〔7〕〔3〕〜〔4〕のいずれかに記載の核酸又は発現ベクターを有効成分として含む、EBVの感染又はEBV陽性の癌を治療、又は予防するためのワクチン、
〔8〕EBVが、AKata株、GD1株、GD2株、HKNPC1株、AG876株、Mutu株及びB95.8株から選択される、〔7〕記載のワクチン、
〔9〕〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞を有効成分として含む、EBVの感染又はEBVウイルス陽性の癌を治療、又は予防するためのワクチン、
〔10〕EBVが、AKata株、GD1株、GD2株、HKNPC1株、AG876株、Mutu株及びB95.8株から選択される、〔9〕記載のワクチン、
〔11〕〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチド又は該エピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激して得られるEBV特異的な細胞傷害性T細胞を含む、EBVに対する受動免疫療法剤、
〔12〕〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドから調製した主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体-テトラマーと末梢血リンパ球とを接触させ、該主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーに細胞傷害性T細胞が結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られる細胞傷害性T細胞を含む、EBVに対する受動免疫療法剤、
〔13〕〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドで対象由来の末梢血を刺激する工程、
前記工程により生じたEBV特異的な細胞傷害性T細胞を得る工程、及び
得られた細胞傷害性T細胞が産生するサイトカイン及び/又はケモカイン及び/又は細胞表面分子を測定する工程
を含む、EBVに特異的な細胞傷害性T細胞の定量方法、
〔14〕〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドと主要組織適合性抗原複合体とβ2-ミクログロブリンを混合する工程及び
調製した主要組織適合性抗原複合体−テトラマーと対象由来の末梢血とを接触させる工程
を含む、該末梢血中のEBVに特異的な細胞傷害性T細胞の定量方法、
〔15〕〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドと抗原提示細胞を接触させる工程を含む、EBVに特異的な細胞傷害性T細胞の誘導方法、
〔16〕〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドを構成要素として含む、細胞傷害性T細胞の誘導のためのキット、
〔17〕〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のペプチドと、末梢血単核球を、血漿を含む培地中で接触させる工程を含む、EBV特異的CTLを生産する方法、
〔18〕配列番号:43に記載のアミノ酸配列からなる、CKAP4に特異的なCTLエピトープペプチド、
〔19〕配列番号:43に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加された、CKAP4に特異的なCTLエピトープペプチド、
〔20〕HLA-A*24:02分子拘束性の抗原ペプチドであって、HLA-A*24:02分子との複合体を細胞表面に提示する細胞を特異的に認識するT細胞受容体を有するCTLを誘導することを特徴とする、〔18〕又は〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチド、
〔21〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドをコードする核酸、〔22〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドをコードする核酸を含む発現ベクター、
〔23〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドを有効成分として含む、がん治療および予防のためのワクチン、
〔24〕〔21〕〜〔22〕のいずれかに記載の核酸を有効成分として含む、がん治療又は予防のためのワクチン、
〔25〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞を有効成分として含む、がん治療又は予防のためのワクチン、
〔26〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドもしくは該エピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激して得られるCKAP4特異的なCTLを有効成分として含む、がん治療のための受動免疫療法剤、
〔27〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドから調製した主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーと末梢血リンパ球とを接触させ、該主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーにCTLが結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られるCTLを有効成分として含む、がん治療のための受動免疫療法剤、
〔28〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドで対象由来の末梢血を刺激する工程、
前記工程により生じたCKAP4に特異的なCTLを取得する工程、及び
該取得したCTLが産生するサイトカイン及び/又はケモカイン及び/又は細胞表面分子を測定する工程、
を含む、CKAP4に特異的なCTLの定量方法、
〔29〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドから主要組織適合性抗原複合体−テトラマーを調製する工程、及び
主要組織適合性抗原複合体−テトラマーと対象由来の末梢血とを接触させる工程
を含む、該末梢血中のCKAP4に特異的なCTLの定量方法、
〔30〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドと、対象由来の末梢血単核球を接触させる工程を含む、CKAP4特異的CTLの誘導方法、
〔31〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドもしくは該エピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激してCKAP4特異的なCTLを取得する工程を含む、がん治療のための受動免疫療法剤の製造方法、
〔32〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドから調製した主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーと末梢血リンパ球とを接触させる工程、
該主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーにCTLが結合した結合体を形成させる工程、及び
該結合体から単離して得られるCTLを取得する工程
を含む、がん治療のための受動免疫療法剤の製造方法、
〔33〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドから調製した主要組織適合性抗原複合体に特異的な抗体、
〔A1〕EBVの感染又はEBV陽性の癌を治療、又は予防するための薬剤の製造における、〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドの使用、
〔A2〕EBVが、AKata株、GD1株、GD2株、HKNPC1株、AG876株、Mutu株及びB95.8株から選択される、〔A1〕記載の使用、
〔A3〕EBVの感染又はEBV陽性の癌を治療、又は予防するための薬剤の製造における、〔3〕〜〔4〕のいずれかに記載の核酸又は発現ベクターの使用、
〔A4〕EBVが、AKata株、GD1株、GD2株、HKNPC1株、AG876株、Mutu株及びB95.8株から選択される、〔A3〕記載の使用、
〔A5〕EBVの感染又はEBVウイルス陽性の癌を治療、又は予防するための薬剤の製造における、〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞の使用、
〔A6〕EBVが、AKata株、GD1株、GD2株、HKNPC1株、AG876株、Mutu株及びB95.8株から選択される、〔A5〕記載の使用、
〔A7〕EBVに対する受動免疫療法剤の製造のための、〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチド又は該エピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激して得られるEBV特異的な細胞傷害性T細胞の使用、
〔A8〕EBVに対する受動免疫療法剤の製造における、〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドから調製した主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体-テトラマーと末梢血リンパ球とを接触させ、該主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーに細胞傷害性T細胞が結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られる細胞傷害性T細胞の使用、
〔A9〕がん治療又は予防のための薬剤の製造における、〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドの使用、
〔A10〕がん治療又は予防のための薬剤の製造における、〔21〕〜〔22〕のいずれかに記載の核酸又は発現ベクターの使用、
〔A11〕がん治療又は予防のための薬剤の製造における、〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞の使用、
〔A12〕がん治療のための受動免疫療法剤の製造における、〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドもしくは該エピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激して得られるCKAP4特異的なCTLの使用、
〔A13〕がん治療のための受動免疫療法剤の製造における、〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドから調製した主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーと末梢血リンパ球とを接触させ、該主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーにCTLが結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られるCTLの使用、
〔B1〕EBVの感染又はEBV陽性の癌を治療、又は予防するための、〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドを有効成分として含む、ワクチン組成物、
〔B2〕EBVが、AKata株、GD1株、GD2株、HKNPC1株、AG876株、Mutu株及びB95.8株から選択される、〔B1〕記載のワクチン組成物、
〔B3〕EBVの感染又はEBV陽性の癌を治療、又は予防するための、〔3〕〜〔4〕のいずれかに記載の核酸又は発現ベクターを有効成分として含む、ワクチン組成物、
〔B4〕EBVが、AKata株、GD1株、GD2株、HKNPC1株、AG876株、Mutu株及びB95.8株から選択される、〔B3〕記載のワクチン組成物、
〔B5〕EBVの感染又はEBVウイルス陽性の癌を治療、又は予防するための、〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞を有効成分として含む、ワクチン組成物、
〔B6〕EBVが、AKata株、GD1株、GD2株、HKNPC1株、AG876株、Mutu株及びB95.8株から選択される、〔B5〕記載のワクチン組成物、
〔B7〕EBVに対する受動免疫療法のための、〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチド又は該エピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激して得られるEBV特異的な細胞傷害性T細胞を含む、組成物、
〔B8〕EBVに対する受動免疫療法のための、〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドから調製した主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体-テトラマーと末梢血リンパ球とを接触させ、該主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーに細胞傷害性T細胞が結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られる細胞傷害性T細胞を含む、組成物、
〔B9〕がん治療又は予防のための、〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドを有効成分として含む、ワクチン組成物、
〔B10〕がん治療又は予防のための、〔21〕〜〔22〕のいずれかに記載の核酸又は発現ベクターを有効成分として含む、ワクチン組成物、
〔B11〕がん治療又は予防のための、〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞を有効成分として含む、ワクチン組成物、
〔B12〕受動免疫療法によりがんを治療のための、〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドもしくは該エピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激して得られるCKAP4特異的なCTLを有効成分として含む、組成物、
〔B13〕受動免疫療法によりがんを治療のための、〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドから調製した主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーと末梢血リンパ球とを接触させ、該主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーにCTLが結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られるCTLを有効成分として含む、組成物、
〔C1〕〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドを、それを必要とする個体へ投与する工程を含む、EBVの感染又はEBV陽性の癌を治療、又は予防するための方法、
〔C2〕EBVが、AKata株、GD1株、GD2株、HKNPC1株、AG876株、Mutu株及びB95.8株から選択される、〔C1〕記載の方法、
〔C3〕〔3〕〜〔4〕のいずれかに記載の核酸又は発現ベクターを、それを必要とする個体へ投与する工程を含む、EBVの感染又はEBV陽性の癌を治療、又は予防するための方法、〔C4〕EBVが、AKata株、GD1株、GD2株、HKNPC1株、AG876株、Mutu株及びB95.8株から選択される、〔C3〕記載の方法、
〔C5〕〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞を、それを必要とする個体へ投与する工程を含む、EBVの感染又はEBVウイルス陽性の癌を治療、又は予防するための方法、
〔C6〕EBVが、AKata株、GD1株、GD2株、HKNPC1株、AG876株、Mutu株及びB95.8株から選択される、〔C5〕記載の方法、
〔C7〕〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチド又は該エピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激して得られるEBV特異的な細胞傷害性T細胞を、それを必要とする個体へ投与する工程を含む、EBVに対する受動免疫療法、
〔C8〕〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載のエピトープペプチドから調製した主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体-テトラマーと末梢血リンパ球とを接触させる工程、
該主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーに細胞傷害性T細胞が結合した結合体を形成させる工程、
該結合体から単離して得られる細胞傷害性T細胞を、それを必要とする個体へ投与する工程を含む、EBVに対する受動免疫療法、
〔C9〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドを、それを必要とする個体へ投与する工程を含む、がん治療又は予防のための方法、
〔C10〕〔21〕〜〔22〕のいずれかに記載の核酸又は発現ベクターを、それを必要とする個体へ投与する工程を含む、がん治療又は予防のための方法、
〔C11〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞を、それを必要とする個体へ投与する工程を含む、がん治療又は予防のための方法、
〔C12〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドもしくは該エピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激して得られるCKAP4特異的なCTLを、それを必要とする個体へ投与する工程を含む、がん治療のための受動免疫療法、
〔C13〕〔18〕〜〔19〕のいずれかに記載のエピトープペプチドから調製した主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーと末梢血リンパ球とを接触させる工程、
該主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーにCTLが結合した結合体を形成させる工程、
該結合体から単離して得られるCTLを、それを必要とする個体へ投与する工程を含む、がん治療のための受動免疫療法。
MHC-モノマー形成が認められる場合の代表的なゲル濾過カラム分析例を示す図である。 EBV LMP2特異的CTLエピトープ候補ペプチドのフォールディングテスト結果を示す図である。 EBV EBNA1特異的CTLエピトープ候補ペプチドのフォールディングテスト結果を示す図である。 コントロールペプチドを用いた細胞内IFNγ産生細胞定量法の検討結果を示す図である。 細胞内IFNγ産生細胞定量法によるEBV LMP2特異的CTL誘導を確認し、CD8陽性細胞中に存在するIFNγ産生生細胞の割合を数値化した図である。 細胞内IFNγ産生細胞定量法によるLMP2特異的CTL誘導を確認した(ドナー ID *11-11)。X軸にCD8、Y軸にIFNγに対する蛍光強度をlogスケールで示したドットプロット展開図で、誘導に用いたペプチドと同じペプチドを用いて再刺激して細胞内IFNγ産生細胞を定量した結果を示した図である。 作製したMHC−テトラマー試薬によるLMP2特異的CTLの検出結果を示す図である(ドナー ID *11-11)。 作製したMHC−テトラマー試薬によるEBNA1特異的CTLの検出結果 (1) を示す図である。 作製したMHC−テトラマー試薬によるEBNA1特異的CTLの検出結果 (2) を示す図である。 細胞内IFNγ産生細胞定量法によるEBNA1特異的CTL誘導の確認結果を示す図である(ドナー ID *11-8)。 ASS(10mer)のN末端とC末端のアミノ酸を欠失したことによるMHC親和性の変化を示す図である。 ASS(10mer)のN末端とC末端のアミノ酸を欠失したことによるCTL誘導能の変化を示す図である(ドナー ID *11-11)。 ASS(10mer)のN末端とC末端のアミノ酸を欠失したことによるTCR結合性の変化を示す図である(ドナー ID *11-11)。 ASS(10mer)およびHRGのEBV株間のアミノ酸の変異比較を示す図である。 ASS(10mer) CTLエピトープのシークエンスの結果を示す図である。 ASS(10mer)のアミノ酸変異による誘導能の違いを示す図である(ドナー ID:*11-11)。 ASS(10mer)のアミノ酸置換によるTCR結合性の変化を示す図である(ドナー ID:*11-11)。 培養バッグを用いたCTLの大量培養(1)の結果を示す図である。 培養バッグを用いたCTLの大量培養(2)の結果を示す図である。 培養バッグを用いたCTLの大量培養(3)の結果を示す図である。 MHC−モノマー形成が認められる場合の代表的なゲル濾過カラム分析例を示す図である。 CKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドのフォールディングテスト結果を示す図である。 CKAP4特異的CTLの誘導結果を示す図である(検体番号;A24-37, 1段階目)。 CKAP4特異的CTLの誘導結果を示す図である(検体番号;A24-37, 2段階目, lane 7)。 CKAP4特異的CTLの誘導結果を示す図である(検体番号;A24-39, 1段階目)。 CKAP4特異的CTLの誘導結果を示す図である(検体番号;A24-39, 2段階目, lane 10・11)。 CKAP4特異的CTLにおけるIFNγ産生細胞の定量結果を示す図である。
本発明についてさらに詳細に説明する。
〔エピトープペプチド〕
本発明でいうペプチドは、生理活性を有し、隣接するアミノ酸残基のα-アミノ基とカルボキシル基間のペプチド結合により相互に結合した線状のアミノ酸の分子鎖を意味する。ペプチドは特定長のものを意味するものではなく、種々の長さであり得る。また、無電荷又は塩の形態であってもよく、場合によっては、グリコシル化、アミド化、ホスホリル化、カルボキシル化、リン酸化等により修飾されていてもよい。さらには、本発明のエピトープペプチドは、生理活性及び免疫活性を実質的に改変せず、投与した場合に有害な活性を有するものでない限り、1個又は数個(例えば、1〜10個)のアミノ酸またはアミノ酸アナログの挿入、付加、置換、欠失等が生じたペプチドも本発明に含まれる。このようなアミノ酸の変更目的は、例えば、
1.HLAとの親和性を高める為の変更(Rosenberg SA, Yang JC, Schwartzentruber DJ, Hwu P, Marincola FM, Topalian SL, Restifo NP, Dudley ME, Schwarz SL, Spiess PJ, Wunderlich JR, Parkhurst MR, Kawakami Y, Seipp CA, Einhorn JH, White DE. Immunologic and therapeutic evaluation of a synthetic peptide vaccine for the treatment of patients with metastatic melanoma. Nat Med. 1998;4:321-327、Berzofsky JA, Ahlers JD, Belyakov IM. Strategies for designing and optimizing new generation vaccines. Nat Rev Immunol. 2001;1:209-219)、
2.TCRの認識性を向上させるための変更(Fong L, Hou Y, Rivas A, Benike C, Yuen A, Fisher GA, Davis MM, Engleman EG. Altered peptide ligand vaccination with Flt3 ligand expanded dendritic cells for tumor immunotherapy. Proc Natl Acad Sci U S A. 2001;98:8809-8814、Rivoltini L, Squarcina P, Loftus DJ, Castelli C, Tarsini P, Mazzocchi A, Rini F, Viggiano V, Belli F, Parmiani G. A superagonist variant of peptide MART1/Melan A27-35 elicits anti-melanoma CD8+ T cells with enhanced functional characteristics: implication for more effective immunotherapy. Cancer Res. 1999;59:301-306)、
3.血清中のペプチド分解酵素等による代謝を回避する為の変更(Berzofsky JA, Ahlers JD, Belyakov IM. Strategies for designing and optimizing new generation vaccines. Nat Rev Immunol. 2001;1:209-219、 Parmiani G, Castelli C, Dalerba P, Mortarini R, Rivoltini L, Marincola FM, Anichini A. Cancer immunotherapy with peptide-based vaccines: what have we achieved? Where are we going? J Natl Cancer Inst. 2002;94:805-818、Brinckerhoff LH, Kalashnikov VV, Thompson LW, Yamshchikov GV, Pierce RA, Galavotti HS, Engelhard VH, Slingluff CL Jr. Terminal modifications inhibit proteolytic degradation of an immunogenic MART-1(27-35) peptide: implications for peptide vaccines. Int J Cancer. 1999;83:326-334)等が挙げられる。
このような目的の為にペプチドのN末端又はC末端に付加的アミノ酸配列が介在するものも含まれる。また、本発明のペプチドは、糖類、ポリエチレングリコール、脂質等が付加された複合体、放射性同位元素等による誘導体、あるいは重合体等の形態として用いることができる。前記アミノ酸アナログとしては、種々のアミノ酸のN-アシル化物、O-アシル化物、エステル化物、酸アミド化物、アルキル化物等が挙げられる。
また、HLA分子とβ2-ミクログロブリン、エピトープペプチドとの3者複合体を細胞表面に提示する細胞を、CTLが特異的に認識できる範囲内であれば、抗原ペプチドのN末端や遊離のアミノ基には、ホルミル基、アセチル基、t-ブトキシカルボニル(t-Boc)基等が結合していてもよく、抗原ペプチドのC末端や遊離のカルボキシル基には、メチル基、エチル基、t-ブチル基、ベンジル基等が結合していてもよい。
また、本発明のエピトープペプチドは、生体内への導入を容易にしうる各種修飾を施されたものであってもよい。生体内への導入を容易にしうる各種修飾の例としては、PT(Protein Transduction)ドメインが有名である。HIVのPTドメインは、Tatタンパク質の49〜57番目のアミノ酸(Arg Lys Lys Arg Arg Gln Arg Arg Arg)で構成されたペプチドである。このPTドメインを目的とするタンパク質あるいはペプチドのN末端とC末端の両方、またはいずれかに付加することで、容易に細胞内に導入できることが報告されている(Ryu J, Han K, Park J, Choi SY. Enhanced uptake of a heterologous protein with an HIV-1 Tat protein transduction domains (PTD) at both termini. Mol Cells. 2003;16:385-391、Kim DT, Mitchell DJ, Brockstedt DG, Fong L, Nolan GP, Fathman CG, Engleman EG, Rothbard JB. Introduction of soluble proteins into the MHC class I pathway by conjugation to an HIV tat peptide. J Immunol. 1997;159:1666-1668)。
HLAクラスI分子を介して提示されるほとんどの抗原は、細胞質内のプロテアソームにより分解された後、TAP(transporter in antigen processing)へと移送され、粗面小胞体内においてTAPに会合しているHLAクラス I分子とβ2-ミクログロブリンの複合体と結合し、ゴルジ装置を経てエクソサイトーシスにより細胞表面へと運搬される。これら一連の抗原提示経路にて作用するシャペロンであるHSP(heat shock prtein)70やHSP90、またはgp96と目的とするペプチドやタンパク質を融合させることで、効率的に抗原提示させることが可能である(Basu S, Binder RJ, Ramalingam T, Srivastava PK. CD91 is a common receptor for heat shock proteins gp96, hsp90, hsp70, and calreticulin. Immunity. 2001;14:303-313)。
〔エピトープペプチドをコードする核酸〕
エピトープペプチドをコードする核酸は、遺伝子組換え技術を用いて、エピトープペプチドを宿主内で産生させる為に重要である。この場合、宿主間でアミノ酸コドンの使用頻度(codon usage)が異なる為、産生させる宿主のcodon usageに適合するようアミノ酸のコドンを変更することが望ましい。エピトープペプチドをコードする核酸は、ワクチンとしても重要で、むき出しの核酸として移送することも、適切なウイルスもしくは細菌ベクターを用いて移送することもできる(Berzofsky JA, Ahlers JD, Janik J, Morris J, Oh S, Terabe M, Belyakov IM Progress on new vaccine strategies against chronic viral infections. J Clin Invest. 2004;114:450-462、Berzofsky JA, Terabe M, Oh S, Belyakov IM, Ahlers JD, Janik JE, Morris JC. Progress on new vaccine strategies for the immunotherapy and prevention of cancer. J Clin Invest. 2004;113:1515-1525)。適切な細菌ベクターはサルモネラ属亜種の細菌である。適切なウイルスベクターは、例えば、レトロウイルスベクター、EBVベクター、ワクシニアベクター、センダイウイルスベクター、レンチウイルスベクターである。適切なワクシニアベクターの1例は、改変ワクシニア・アンカラベクターである。
〔CTLエピトープ候補ペプチドの選択〕
1.コンピュータ予測アルゴリズムを用いた分析
本発明のEBV に特異的なCTLエピトープ候補ペプチドは、LMP2およびEBNA1のアミノ酸配列について、目的とするHLAクラス I分子に対して結合モチーフを有する8〜10個のアミノ酸よりなるペプチドを検索し得る、インターネット上に公開されている複数のエピトープ予測ソフトウェア(Pingping Guan, Irini A. Doytchinova, Christianna Zygouri, and Darren R. Flower MHCPred: a server for quantitative prediction of peptide? MHC binding Nucleic Acids Res., 2003;31:3621-3624、Karosiene E, Lundegaard C, Lund O, Nielsen M. NetMHCcons: a consensus method for the major histocompatibility complex class I predictions. Immunogenetics. 2012 Mar;64(3):177-86. 、Jorgensen KW, Rasmussen M, Buus S, Nielsen M.NetMHCstab - predicting stability of peptide-MHC-I complexes; impacts for cytotoxic T lymphocyte epitope discovery. Immunology. 2014 Jan;141(1):18-26. )に照合して選択することができる。
2.アンカーモチーフを用いた検討
HLAクラスI分子は、主としてHLA-A、HLA-B、HLA-Cがあり、これらに結合して提示されるエピトープペプチドは、8〜10個のアミノ酸からなる。エピトープペプチドのN末端側から2番目と、9あるいは10番目のアミノ酸はHLAクラスI分子との結合に対して最も重要なアミノ酸であり、アンカーモチーフと呼ばれている。このアンカーモチーフは、各々のHLAクラスI分子の種類によって異なることが報告されている。例えば、世界的に最も研究が進められているHLA-A2に結合するペプチドとしては、N末端より2番目の位置にLeuが配置され、9あるいは10番目の位置にLeu又はValが配置されたペプチドであって、9〜10個のアミノ酸からなるペプチドが最も良く知られている(T Sudo, N Kamikawaji, A Kimura, Y Date, CJ Savoie, H Nakashima, E Furuichi, S Kuhara, and T Sasazuki Differences in MHC class I self peptide repertoires among HLA-A2 subtypes J. Immunol., 1995;155:4749-4756)。また、日本人を含む東南アジアの人種に多いHLA-A11(Chang CX, Tan AT, Or MY, Toh KY, Lim PY, Chia AS, Froesig TM, Nadua KD, Oh HL, Leong HN, Hadrup SR, Gehring AJ, Tan YJ, Bertoletti A, Grotenbreg GM. Conditional ligands for Asian HLA variants facilitate the definition of CD8+ T-cell responses in acute and chronic viral diseases. Eur J Immunol. 2013 Apr;43(4):1109-20. )に結合するペプチドとしては、N末端より2番目の位置にIle、Met、Ser、Thr、又はValのいずれかが配置され、9あるいは10番目の位置にLys又はArgのいずれかが配置されたペプチドであって、9〜10個のアミノ酸からなるペプチドが最もよく知られている(Rapin N, Hoof I, Lund O, Nielsen M. The MHC motif viewer: a visualization tool for MHC binding motifs. Curr Protoc Immunol. 2010 Feb;Chapter 18:Unit 18.17. )。タンパク質のアミノ酸配列中からこのアンカーモチーフを有する8〜10個のアミノ酸配列を検索し、CTLエピトープ候補ペプチドを選択することができる。
3.ペプチドライブラリーの作製
EBVを構成するタンパク質のうち、目的とするタンパク質全体を網羅する20個程度のアミノ酸配列よりなるペプチドライブラリーを合成する。20個程度のアミノ酸のうち、10個程度のアミノ酸配列は、前後のペプチドと重複するようにライブラリーを作製する。これによりタンパク質全体を網羅的に検索することが可能になり、一度ライブラリーを作製すればHLA拘束性も網羅的に検討することが可能になる。
〔ペプチドの合成〕
本発明の配列番号:1〜35に示されるCTLエピトープ候補ペプチドは、従来の各種のペプチド合成方法によって調製され得る。例えば、固相ペプチド合成法等の有機化学的合成法、あるいは、ペプチドをコードする核酸を調製し、組換えDNA技術を用いて調製することも可能である。また、市販の化学合成装置(例えば、アプライドバイオシステムズ社のペプチド合成装置)による合成も可能である。
〔CTLエピトープ候補ペプチドの検討〕
前述の方法にて選択されたCTLエピトープ候補ペプチドは必ずしもCTLエピトープペプチドになり得る訳ではなく、以下に示す検討を経て初めてEBV LMP2特異的CTLエピトープペプチドおよびEBV EBNA1特異的CTLエピトープペプチドになり得る。
(1)培養細胞株を用いた検討
プロテアソームによるタンパク質分解で生じたペプチド断片はTAP(transporter associated with antigen processing)分子により小胞体内腔へと導かれ、HLAクラスI分子とβ2−ミクログロブリンとの複合体に結合し、細胞膜表面へ輸送される。このTAP分子を欠損した、TAP遺伝子欠損細胞株は、内在性タンパク質の分解産物であるペプチド断片を細胞膜表面に発現できない。また、代表的なTAP遺伝子欠損細胞株であるヒトリンパ芽球様細胞株T2、あるいはT2にHLA-A11分子を遺伝子導入した細胞株(T2-A11)のHLA分子は、細胞膜表面上での発現が非常に不安定である。しかし、外部から供給したペプチドと結合した場合、HLA分子は細胞膜表面上で安定化する。この性質を利用して、TAP遺伝子欠損細胞株は、HLA分子と外部から供給したペプチドの結合性を検証する実験に使用することが可能である。具体的には、TAP遺伝子欠損細胞株とCTLエピトープ候補ペプチドを混合培養後、抗HLA抗体で染色し、フローサイトメトリーでHLA分子の発現強度の変化を算出することで、目的とするHLA分子とCTLエピトープ候補ペプチドの結合性を検討できる。TAP遺伝子欠損細胞株が発現するHLA分子に添加したCTLエピトープ候補ペプチドが結合した場合、HLA分子とペプチドの複合体は細胞膜表面上で安定化し、抗HLA抗体で染色した場合、HLA分子の発現増強が観察される。一方、添加したCTLエピトープ候補ペプチドがHLA分子と結合性を示さない場合は、細胞膜表面上のHLA分子は不安定であり、抗HLA抗体で染色してもHLA分子の発現増強は確認されない。この様な方法を用いて、HLA分子とCTLエピトープ候補ペプチドの結合性を検証することが可能である。
(2)フォールディングテスト
MHC−テトラマー試薬は、MHC(ヒトの場合はHLA)とβ2−ミクログロブリン及びペプチド断片の3者複合体(MHC−モノマー)を試験管内で製造し、MHC−モノマーを4量体化した試薬である。MHC−テトラマー試薬は、MHC拘束性を示す抗原特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)を選択的に検出できる唯一の試薬である。またMHC−テトラマー試薬は、抗CD(cluster of differentiation)抗体や抗サイトカイン抗体等と共染色後、フローサイトメトリーで分析することでCTLの数を定量できるだけでなく、その活性化状態や分化段階を一つ一つの細胞毎に評価することが可能である。MHC−テトラマー試薬製造の最初のステップは、原料であるMHCとβ2−ミクログロブリンとペプチドを試験管内の適切な溶液中で混合するフォールディングから始まる。フォールディング溶液中では、この3種類の原料の会合反応により3者複合体(MHC−モノマー)を形成する。この際、MHCとペプチドの結合力が高ければ、この会合反応はスムーズに進行し、ゲル濾過カラムで分析することで、3種類の原料の複合体(MHC−モノマー)の検出が可能になる。一方、MHCとペプチドの結合力が無い場合は、MHC−モノマーは殆ど検出されない。従って、フォールディング溶液を経時的に分析することで、或いは熱処理等を行うことで、MHCとペプチドの結合性と安定性を検証することが可能である。
(3)エピトープペプチド特異的CTLの検出
(3−1)エピトープペプチド決定方法
EBV感染歴がある人から分離した末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cells;PBMC)、あるいはPBMCから分離したT細胞を適切な培地に0.1〜2×106/mL の細胞濃度で浮遊させる。これに同じ人からあらかじめ分離培養しておいたEBV感染細胞1×105/mLを加え、5% 炭酸ガス(CO2)恒温槽にて37℃で7日間培養する。培養7日後にEBV感染細胞とインターロイキン2(IL-2)を添加し、以後、EBV感染細胞とIL-2による刺激を毎週繰返すことによりCTLを誘導する。このようにして誘導したCTLがエピトープ候補ペプチドに対して特異性があるかどうかの検討は、MHC−テトラマー法、エリスポットアッセイ、クロムリリースアッセイ、細胞内サイトカイン染色法等で判定する(Current Protocols in Immunology Edited by: John E. Coligan, Ada M. Kruisbeek, David H. Margulies, Ethan M. Shevach, Warren Strober 6.19 ELISPOT Assay to Detect Cytokine-Secreting Murine and Human Cells 6.24 Detection of Intracellular Cytokines by Flow Cytometry published by John Wiley & Sons, Inc.)。
(3−2)エピトープペプチド決定方法2
EBV感染歴がある人から分離したPBMCを適切な培地に0.1〜2×106/mL の細胞濃度で浮遊させ、これにエピトープ候補ペプチドの任意の1種を0.01〜100 μg/mLの濃度で加える。5% CO2恒温槽にて37℃で培養し、2日後にIL-2を添加する。以後、前記ペプチドとIL-2による刺激を週に1度あるいは2週間に1度繰返すことによりCTLを誘導する。このようにして誘導したCTLがエピトープ候補ペプチドに対して特異性があるかどうかの検討は、MHC−テトラマー法、エリスポットアッセイ、クロムリリースアッセイ、細胞内サイトカイン染色法等で判定する。
(3−3)エピトープペプチド決定方法3
EBV感染歴がある人から分離したPBMCを適切な培地に0.1〜2×106/mL の細胞濃度で浮遊させ、これに合成したペプチドライブラリーを適当な数(例えば10種類ずつ)にプールした物を加える。5% CO2恒温槽にて37℃で培養し、2日後にIL-2を添加する。以後、プールペプチドとIL-2による刺激を週に1度あるいは2週間に1度繰返すことにより、CTLを誘導する。このようにして誘導したCTLがエピトープ候補ペプチドに対して特異性があるかどうかの検討は、エリスポットアッセイ、クロムリリースアッセイ、細胞内サイトカイン染色法等で判定する。良好な結果を示したプールペプチドに対しては、1種類ずつペプチドを加えて上記実験を繰返せば、CTL誘導能を有するペプチドを選択することが可能である。反応したペプチドについて順次短くし、最終的に8〜10個のアミノ酸からなるエピトープペプチドを得て本発明のエピトープペプチドとする。
〔EBV LMP2とEBNA1特異的MHC−モノマー及びMHC−テトラマー試薬の製造〕
EBV LMP2特異的CTLエピトープ候補ペプチドとEBV EBNA1特異的CTLエピトープ候補ペプチドを使用したMHC−モノマー及びMHC−テトラマー試薬は、公知の方法(US Patent Number 5,635,363、French Application Number FR9911133)により調製することができる。タンパク質発現用の遺伝子組換え宿主から精製したHLAクラス I分子、β2−ミクログロブリン及び本発明のLMP2特異的CTLエピトープ候補ペプチド、またはEBNA1特異的CTLエピトープ候補ペプチドの3者の複合体であるMHC−モノマーをフォールディング溶液内で形成させる。組換えHLAクラスI分子のC末端には予めビオチン結合部位を付加しておき、MHC−モノマー形成後この部位にビオチンを付加する。市販の色素標識されたストレプトアビジンとビオチン化MHC−モノマーをモル比1:4で混合することによってMHC−テトラマー試薬を製造することができる。MHC−テトラマー試薬と細胞表面タンパク質に対する抗体(CD62L、CCR7やCD45RA等)と組み合わせて用いることで、CTLの分化段階を調べることができる(Seder RA, Ahmed R. Similarities and differences in CD4+ and CD8+ effector and memory T cell generation. Nat Immunol. 2003;4:835-842.)。あるいは細胞内サイトカイン染色法と組み合わせることで、CTLの機能性評価に用いることも可能である。例えば、C型肝炎では持続感染が維持される原因のひとつとして、HCV(Hepatitis C virus)に対するCTLは存在するが、CTLがサイトカイン等を産生していない、あるいは産生するCTLの割合が極めて低く免疫学的に不応答性(anergy)になっている可能性が報告されている(Gruener NH, Lechner F, Jung MC, Diepolder H, Gerlach T, Lauer G, Walker B, Sullivan J, Phillips R, Pape GR, Klenerman P. Sustained dysfunction of antiviral CD8+ T lymphocytes after infection with hepatitis C virus. J Virol. 2001;75:5550-5558.)。また骨髄移植後のCMV特異的CTLについては、そのCTL存在の有無を調べるだけでなく、サイトカイン産生能の強弱を調べることが、抗ウイルス薬投与等のタイミングを計るために有効であると考えられ始めている(Ozdemir E, St John LS, Gillespie G, Rowland-Jones S, Champlin RE, Molldrem JJ, Komanduri KV. Cytomegalovirus reactivation following allogeneic stem cell transplantation is associated with the presence of dysfunctional antigen-specific CD8+ T cells. Blood. 2002 ;100 : 3690-3697.)。このように特異的なCTLエピトープペプチドを同定し、MHC−テトラマー試薬を製造すれば、特異的なCTLの定量と定性が可能になり、診断情報を得る上で多大な貢献が可能になる。
〔能動免疫ワクチン〕
ペプチドワクチン
本発明のCTLエピトープペプチドは、能動免疫療法においてペプチドワクチンとして用いることができる。すなわち、本発明のCTLエピトープペプチドを含んでなるワクチンを患者に投与し、EBV LMP2特異的CTLあるいはEBV EBNA1特異的CTLを体内で増殖させ、感染に対する予防、及び感染症並びにEBV陽性腫瘍に対する治療に役立てることができる。使用するエピトープペプチドは1種のみの使用であっても、あるいはワクチンの使用目的に応じて2種以上のペプチドを組み合わせ、混合して使用することもできる。
抗原提示細胞を利用したワクチン
本発明のCTLエピトープペプチドが提示された抗原提示細胞は、能動免疫療法においてワクチンとして用いることができる。CTLエピトープペプチドが提示された抗原提示細胞とは、
1.適当な培養液中で、抗原提示細胞とCTLエピトープペプチドを30分から1時間混合したCTLエピトープペプチドパルス抗原提示細胞
2.CTLエピトープペプチドをコードする核酸を用い、遺伝子導入等で抗原提示細胞にCTLエピトープペプチドを提示させた細胞
3.人工的に調製した抗原提示能を有する人工抗原提示細胞
を意味する。抗原提示細胞とは、例えば、樹状細胞、B細胞、マクロファージ、ある種のT細胞等を意味するが、該ペプチドが結合し得るHLA分子をその細胞表面上に発現する細胞であって、CTL刺激能を有するものを意味する。人工的に調製した抗原提示能を有する人工抗原提示細胞とは、例えば脂質二重膜やプラスティックあるいはラテックス等のビーズにHLA分子とCTLエピトープペプチドとβ2-ミクログロブリンとの三者複合体を固定し、CTLを刺激し得るCD80、CD83やCD86等の共刺激分子を固定するか、もしくは、共刺激分子と結合するT細胞側のリガンドであるCD28に対してアゴニスティックに作用する抗体等を固定することで調製可能である(Oelke M, Maus MV, Didiano D, June CH, Mackensen A, Schneck JP. Ex vivo induction and expansion of antigen-specific cytotoxic T cells by HLA-Ig-coated artificial antigen-presenting cells. Nat Med. 2003;9:619-624、Walter S, Herrgen L, Schoor O, Jung G, Wernet D, Buhring HJ, Rammensee HG, Stevanovic S. Cutting edge: predetermined avidity of human CD8 T cells expanded on calibrated MHC/anti-CD28-coated microspheres. J Immunol. 2003;171:4974-4978、Oosten LE, Blokland E, van Halteren AG, Curtsinger J, Mescher MF, Falkenburg JH, Mutis T, Goulmy E. Artificial antigen-presenting constructs efficiently stimulate minor histocompatibility antigen-specific cytotoxic T lymphocytes. Blood. 2004;104:224-226)。
遺伝子ワクチン
本発明のCTLエピトープペプチドの核酸は、能動免疫療法においてDNAワクチンや組換えウイルスベクターワクチン等に用いることができる。この場合、CTLエピトープペプチドの核酸配列は、組換えワクチンや、組換えウイルスワクチンを産生させる宿主に適合したcodon usageに変更することが望ましい(Casimiro, D.R. et al. Comparative Immunogenicity in Rhesus Monkeys of DNA Plasmid, Recombinant Vaccinia Virus, and Replication-Defective Adenovirus Vectors Expressing a Human Immunodeficiency Virus Type 1 gag Gene J. Virol., 2003;77:6305-6313、Berzofsky JA, Ahlers JD, Janik J, Morris J, Oh S, Terabe M, Belyakov IM. Progress on new vaccine strategies against chronic viral infections. J Clin Invest. 2004;114:450-462)。
本発明のCTLエピトープペプチド、又はCTLエピトープペプチドが提示された抗原提示細胞を含んでなるワクチンは、当分野において公知の方法を用いて調製することができる。例えば、かかるワクチンとしては、本発明のCTLエピトープペプチドを有効成分として含有する注射剤又は固形剤等がある。CTLエピトープペプチドは、中性又は塩の形態で処方することができ、例えば、薬学上許容され得る塩としては、塩酸、リン酸などの無機塩、又は、酢酸、酒石酸などの有機酸が挙げられる。また、本発明のCTLエピトープペプチドが提示された抗原提示細胞は、製薬上許容され、該ペプチド又は該細胞の活性と相容性を有する賦形剤、例えば、水、食塩水、デキストロース、エタノール、グリセロール、DMSO(dimethyl sulphoxide)、及びその他のアジュバント等、又はこれらの組み合わせと混合して用いることができる。さらに、必要に応じて、アルブミン、湿潤剤、乳化剤等の補助剤を添加してもよい。
本発明のワクチンは、非経口投与及び経口投与により投与することができるが、一般的には非経口投与が好ましい。非経口投与としては経鼻投与や皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射等の注射剤、座薬等がある。また、経口投与としては、スターチ、マンニトール、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、セルロース等の賦形剤との混合物として調製することができる。
本発明のワクチンは、治療上有効な量で投与する。投与される量は、治療対象、免疫系に依存し、必要とする投与量は臨床医の判断により決定される。通常、適当な投与量は、患者一人当たり、CTLエピトープペプチドは1〜100 mg、CTLエピトープペプチドパルス細胞では106〜109個の含有量とする。また、投与間隔は、対象、目的により設定することができる。
〔受動免疫ワクチン〕
本発明のCTLエピトープペプチドは、受動免疫治療剤の調製に用いることができる。下記のようにして得られたEBV LMP2に特異的なCTLまたはEBV EBNA1に特異的なCTLはヒトアルブミン含有PBS等に懸濁させて、EBVに対する受動免疫療法剤とすることができる。受動免疫療法剤に含まれるEBVに特異的なCTLは、以下のような調製方法によって得ることができ、CTLの純度を高める為に精製して用いることも可能である。
CTL調製方法1
PBMCと、適当な濃度のEBV特異的MHC−テトラマー試薬を反応させる。MHC−テトラマー試薬と結合したEBV特異的CTLは標識色素により染色されるので、セルソーター、顕微鏡などを用いて染色されたCTLのみを単離する。このようにして単離されたEBV特異的なCTLは、抗CD3抗体、PHA、IL-2等のT細胞刺激薬剤や、X線照射あるいはマイトマイシン処理等で増殖能を損失させた抗原提示細胞で刺激増殖させ、受動免疫療法に必要な細胞数を確保する。
CTL調製方法2
EBV特異的MHC−モノマー及び/又はMHC−テトラマー試薬を無菌プレートなどに固相化し、PBMCを固相化プレートで培養する。プレートに固相化されたMHC−モノマー及び/又はMHC−テトラマー試薬に結合したEBV特異的CTLを単離するためには、結合せずに浮遊している他の細胞を洗い流した後に、プレート上に残った特異的CTLだけを新しい培地に懸濁する。このようにして単離されたEBV特異的CTLは、抗CD3抗体、PHA、IL-2等のT細胞刺激薬剤や、X線照射あるいはマイトマイシン処理等で増殖能を損失させた抗原提示細胞で刺激増殖させ、受動免疫療法に必要な細胞数を確保する。
CTL調製方法3
EBV特異的MHC−モノマー及び/又はMHC−テトラマー試薬と、CD80、CD83、CD86等の共刺激分子か、もしくは、共刺激分子と結合するT細胞側のリガンドであるCD28に対してアゴニスティックに作用する抗体等を無菌プレートなどに固相化し、PBMCを固相化プレートで培養する。2日後にIL-2を培地に添加し5% CO2恒温槽にて37℃で7〜14日培養する。培養した細胞を回収し新たな固相化プレート上で培養を続ける。この操作を繰り返すことで受動免疫療法に必要な細胞数のCTLを確保する。
CTL調製方法4
PBMCあるいはT細胞を本発明のCTLエピトープペプチドで直接刺激するか、該ペプチドをパルスした抗原提示細胞、遺伝子導入した抗原提示細胞、または人工的に調製した抗原提示能を有する人工抗原提示細胞で刺激する。刺激は、in vitroですることができるが、in vivoでしてもよい。in vitroで刺激した場合は、刺激によって誘導されたCTLを5% CO2恒温槽にて37℃で7〜14日培養する。培養においてCTLエピトープペプチドとIL-2、又は抗原提示細胞とIL-2による刺激を週に1度繰り返すことで受動免疫療法に必要な細胞数のCTLを確保する。
CTLの精製法
CTL調製方法において、特異的CTLの割合が低い場合は、随時以下の方法を用いることで特異的CTLを高純度で回収することが可能である。
MHC−テトラマー試薬による精製
EBV特異的MHC−テトラマー試薬と、CTL調製方法にて誘導されたCTLを反応させ、MHC−テトラマー試薬を標識している標識色素に対する抗体等を磁気標識した2次抗体を用いて分離することが可能である。このような磁気標識した2次抗体と、磁気標識細胞分離装置は、例えばDynal社やMiltenyi Biotec GmbH社から入手可能である。このようにして単離されたEBV特異的CTLは、抗CD3抗体、PHA、IL-2等のT細胞刺激薬剤で刺激増殖させ、受動免疫療法に必要な細胞数を確保する。
分泌されるサイトカインによる精製
EBV特異的CTLが、放出するサイトカイン等を利用して、EBV特異的CTLを精製することができる。例えば、Miltenyi Biotec GmbH社から入手可能なキットを用いることで、CTLから放出されるサイトカインを細胞表面で特異抗体により捕捉し、抗サイトカイン標識抗体で染色し、続いて磁気標識した標識物質特異的な抗体で反応させた後、磁気標識細胞分離装置を用いて精製することも可能である。このようにして単離されたEBV特異的CTLは、抗CD3抗体、PHA、IL-2等のT細胞刺激薬剤で刺激増殖させ、受動免疫療法に必要な細胞数を確保する。
細胞表面タンパク質特異的抗体を用いた精製
特異的CTLの細胞表面では、特異的刺激により発現が増強する細胞表面タンパク質(例えばCD137、CD107a、CD107b、CD63、CD69など)が報告されている(Betts MR, Brenchley JM, Price DA, De Rosa SC, Douek DC, Roederer M, Koup RA. Sensitive and viable identification of antigen-specific CD8+ T cells by a flow cytometric assay for degranulation. J Immunol Methods. 2003;281:65-78、Trimble LA, Shankar P, Patterson M, Daily JP, Lieberman J. Human immunodeficiency virus-specific circulating CD8 T lymphocytes have down-modulated CD3zeta and CD28, key signaling molecules for T-cell activation. J Virol. 2000;74:7320-7330)。このようなタンパク質の特異抗体を磁気標識することで、磁気分離装置等を用いてCTLを精製することが可能である。また、このような特異抗体に対する抗IgG抗体等を磁気標識することでも同様にCTLの精製が可能である。あるいは、これら特異抗体を培養用のプラスティックプレートにコートし、このプレートを用いて刺激を加えたPBMCを培養し、プレートに結合しなかった細胞集団を洗い流すことで特異的CTLを精製することも可能である。このようにして単離されたEBV特異的CTLは、抗CD3抗体、PHA、IL-2等のT細胞刺激薬剤で刺激増殖させ、受動免疫療法に必要な細胞数を確保する。
〔EBV特異的CTLの定量〕
EBV特異的CTLが、癌患者の末梢血に存在するか否か、あるいはその量の変動を知ることは、EBV特異的CTLエピトープペプチドを予測するために重要な情報である。EBV特異的CTLの定量は、本発明のCTLエピトープペプチドを用いた以下の3つの方法によって行うことができる。
定量方法1(MHC−テトラマー法)
本発明のCTLエピトープペプチドを使用して製造したMHC−テトラマー試薬を用いて、末梢血中のEBVに特異的なCTLを定量することができる。定量は、例えば、以下のようにして実施することができる。末梢血あるいはPBMCを、適当な濃度のMHC−テトラマー試薬と反応させる。該MHC−テトラマー試薬と結合したCTLは標識色素により染色されるので、フローサイトメーター、顕微鏡等を用いてカウントする。MHC−テトラマー試薬と反応させる時に、MHC−テトラマー試薬と異なる色素で標識された抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体等を反応させることで、EBV特異的なCTLのT細胞サブセットも同時に判定できる。
定量方法2
PBMCを本発明のCTLエピトープペプチドで刺激することによってCTLが産生するIFNγ(interferon gamma)、TNFα(tumor necrosis factor alpha)、インターロイキン等のサイトカイン及び/又はケモカインを定量する方法である。以下にIFNγを例にとり具体的に方法を示す。
2−1 サイトカイン定量による方法1(細胞内IFNγ産生細胞定量法)
PBMCを適当な培地におよそ2×106/mLの細胞濃度で浮遊させ、本発明のCTLエピトープペプチドを加える。さらに細胞内タンパク質輸送阻止剤(例えば、Brefeldin AやMonensin等)を加え、5% CO2恒温槽にて37℃で5〜16時間培養する。培養後、T細胞マーカー抗体(抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体)あるいは、MHC−テトラマー試薬と反応させ、細胞を固定後、膜透過処理を行い、色素標識抗IFNγ抗体を反応させる。フローサイトメーター等を用いて解析し、全細胞中、T細胞中あるいはMHC−テトラマー試薬陽性細胞中のIFNγ陽性細胞率を定量する。
2−2 サイトカイン定量による方法2(エリスポットアッセイ)
抗IFNγ抗体を固相化した96ウェルMultiScreen-HAプレート (Millipore社)にPBMCをまく。その後、CTLエピトープペプチドを各ウェルに入れ37℃の5% CO2恒温槽培養器にて20時間培養する。翌日、プレートを洗浄し、抗IFNγ抗体、ペルオキシダーゼ標識抗IgG抗体の順で反応させる。さらにペルオキシダーゼの基質を加え、発色によりIFNγスポットを可視化し、実体顕微鏡かELISPOTアナライザー(C.T.L.社)を用いてカウントすることで定量する。
2−3 サイトカイン定量による方法3(培養上清中に分泌されたIFNγを定量する方法)
PBMCを適当な培地におよそ2×106/mLの細胞濃度で浮遊させ、本発明のCTLエピトープペプチドを加える。5% CO2恒温槽にて37℃で24〜48時間培養する。培養後、上清を回収し、その中に含まれるIFNγ濃度を市販のELISAキット(例えばR&Dシステムズ社のQuantikine ELISA Human IFNγ Immunoassay)を使用して定量する。
定量方法3
細胞表面タンパク質特異的抗体を用いて定量を行う。CTLエピトープペプチドに特異的なCTLは、特異的刺激により細胞表面タンパク質(例えばCD137、CD107a、CD107b、CD63、CD69など)の発現が増強することが報告されている。従って、CTLエピトープペプチド等で刺激したPBMCと細胞表面タンパク質を特異的に認識する標識抗体を混合することで、CTLは標識抗体と結合し、標識色素により染色される。染色されたCTLは、フローサイトメーター、顕微鏡等を用いてカウントし、定量することができる。さらに、標識抗体と異なる色素で標識された抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体等を加えることで、特異的CTLのT細胞サブセットも同時に判定できる。
〔培養バックを用いたCTL大量培養〕
本培養工程は従来法である抗原特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導に樹状細胞を利用せず、自己血漿を用いることから安価にかつ簡便な操作で大量のCTLを調製できる事を特徴とする。技術の詳細は発明者らの出願特許に詳しく記載されている(特許出願第2009-166630号)。
HLA-A11陽性健康成人末梢血20〜200 mLをヘパリン採血管に採取し、室温で3,000 rpmで10分間遠心処理する。上清の血漿を分取し、非働化処理(56℃、20分間)する。再度室温で3,000 rpmで10分間遠心処理し上清を回収後、小分け分注して-30℃に保存して随時溶解して培養用血漿として用いる。上清の血漿を分取した残りは、RPMI1640培地を等量加えフィコール比重遠心分離法にてPBMCを単離する。細胞数を計測し、10/11量の細胞をRPMI1640培地に懸濁させ、培養用血漿を終濃度10%になるように加える。続けてCTLエピトープペプチドを添加して、ルアーロックシリンジを用いて培養用バッグ(CultiLife215 TAKARA BIO社)に注入し37℃、5% CO2のCO2恒温槽にて静置する(CTL誘導バッグ)。1/11量の細胞はRPMI1640培地に懸濁させ、培養用血漿を終濃度10%になるように加え、抗CD3抗体を終濃度1μg/mLとなるように添加した後にルアーロックシリンジを用いて培養用バッグに注入し37℃、5% CO2のCO2恒温槽にて静置する(抗原提示細胞誘導バッグ)。2日後に等量のIL-2含有培地(RPMI1640 IL-2 100 IU/mL)を培養用バッグに注入する。CO2恒温槽内で5日間培養した後、等量のIL-2含有培地(AlyS505N IL-2 100 IU/mL)を培養用バッグに注入する。その後、3日おきに、等量のIL-2含有培地(AlyS505N IL-2 100 IU/mL)を注入する(ここでの間隔を必ずしも統一する必要はない)。以上の操作によって、培養開始から約14日間で抗原特異的CTLと抗原提示細胞の両者を誘導できる。およそ14日後に抗原提示細胞誘導バッグの細胞を回収し細胞数を数えて遠心処理後、RPMI1640培地に懸濁し、CTLエピトープペプチドを添加して1時間室温にて培養する。遠心後上清を吸引除去し、IL-2含有培地(AlyS505N IL-2 100 IU/mL 10%血漿)に懸濁する(ペプチドパルス抗原提示細胞)。同じくCTL誘導バッグの細胞を回収し細胞数を数えて遠心処理後、上清を吸引除去し細胞はIL-2含有培地(AlyS505N IL-2 100 IU/mL 10%血漿)に懸濁する。CTL誘導バッグの細胞数と等量のペプチドパルス抗原提示細胞を混合しルアーロックシリンジを用いて、培養用バッグに注入する。その後、培養用バッグを37℃、5% CO2のCO2恒温槽内に移し、培養開始させる。1日後に培養用バッグに増殖用培地(AlyS505N IL-2 1000 IU/mL)を追加する。CO2恒温槽内で3日間培養した後、増殖用培地を培養用バッグに追加する。その後、2日おきに、増殖用培地の追加を行う。以上の操作により、培養開始から約20〜24日間という短時間で抗原特異的CTLが得られる。
〔CTLエピトープ候補ペプチドの選択〕
1.コンピュータを用いた分析
本発明のCKAP4に特異的なCTLエピトープ候補ペプチドは、CKAP4タンパク質のアミノ酸配列について、目的とするHLAクラスI分子に対して結合モチーフを有する8〜12個のアミノ酸よりなるペプチドを検索し得る、インターネット上に公開されている複数のソフトウェア(Lundegaard C, Lund O, Buus S, Nielsen M, Major histocompatibility complex class I binding predictions as a tool in epitope discovery. Immunology., 2010;130:309-318)に照合して選択する事ができる。
2.アンカーモチーフを用いた検討
HLAクラスI分子は、主としてHLA-A、HLA-B、HLA-Cがあり、これらに結合して提示されるエピトープペプチドは、8〜10個のアミノ酸からなる。エピトープペプチドのN末端側から2番目と、9あるいは10番目のアミノ酸はHLAクラスI分子との結合に対して最も重要なアミノ酸であり、アンカーモチーフと呼ばれている。このアンカーモチーフは、各々のHLAクラスI分子の種類によって異なることが報告されている。例えば、世界的に最も研究が進められているHLA-A2分子に結合するペプチドとしては、N末端より2番目の位置にLeuが配置され、9あるいは10番目の位置にLeu又はValが配置されたペプチドであって、9〜10個のアミノ酸からなるペプチドが最も良く知られている(T Sudo, N Kamikawaji, A Kimura, Y Date, CJ Savoie, H Nakashima, E Furuichi, S Kuhara, and T Sasazuki Differences in MHC class I self peptide repertoires among HLA-A2 subtypes. J. Immunol., 1995;155:4749-4756)。また、日本人を含むアジアの人種に多いHLA-A24分子に結合するペプチドとしては、N末端より2番目の位置にTyr、Phe、Met又はTrpのいずれかが配置され、9あるいは10番目の位置にLeu、Ile、Trp又はPheのいずれかが配置されたペプチドであって、9〜10個のアミノ酸からなるペプチドが最もよく知られている(A Kondo, J Sidney, S Southwood, MF del Guercio, E Appella, H Sakamoto, E Celis, HM Grey, RW Chesnut, and RT Kubo, Prominent roles of secondary anchor residues in peptide binding to HLA-A24 human class I molecules., J. Immunol., 1995;155:4307-4312)。タンパク質のアミノ酸配列中からこのアンカーモチーフを有する8〜12個のアミノ酸からなる配列を検索し、CTLエピトープ候補ペプチドを選択する事ができる。
〔ペプチドの合成〕
本発明の配列番号:36〜47に示されるCTLエピトープ候補ペプチドは、従来の各種のペプチド合成方法によって調製され得る。例えば、固相ペプチド合成法等の有機化学的合成法、あるいは、ペプチドをコードする核酸を調製し、組換えDNA技術を用いて調製することも可能である。また、市販の化学合成装置(例えば、アプライドバイオシステムズ社のペプチド合成装置)による合成も可能である。
〔CTLエピトープ候補ペプチドの検討〕
上記の通り、予測ソフトを用いることで、タンパク質を構成するアミノ酸配列を短時間で分析し、CTLエピトープ候補ペプチドとHLAとの結合力や解離の半減期を予測する事が可能である。しかしながら、この様な予測ソフトを用いて得られた候補ペプチドは、必ずしもCTLエピトープとして生体内で機能しているわけではない。
第一の理由として、これらの分析ソフトが、タンパク質の分解によるペプチド断片産生の効率をほとんど加味していないことが挙げられる。CTLエピトープは8〜12アミノ酸残基長のペプチド断片で構成されるが、これらは細胞内で抗原タンパク質が種々の分解を受けて産生される。具体的には、まず抗原タンパク質が細胞質内でプロテアソームにより分解を受けて、ペプチドのC末端が形成される。その後、TAP(transporter associated with antigen processing)分子により小胞体内腔に輸送され、そこでさらにERAP1というプロテアーゼによりN末端が形成されてはじめて、8〜12アミノ酸残基長のペプチド断片になる。CTLエピトープ候補ペプチドの予測には、これらの細胞内におけるペプチド断片の産生過程・効率が考慮されなければならないが、現在これを正確に予測することはできない。このため、予測ソフトを用いて得られた候補ペプチドの中には、実際には細胞内で8〜12アミノ酸残基長のペプチド断片を構成できないものが含まれる。
第二の理由は、T細胞の選択的分化過程にある。がん抗原は自己抗原であり、自己抗原由来のペプチド断片に強く反応するT細胞はネガティブセレクションにより胸腺内でアポトーシスが誘導され、排除される。一方で、外来抗原に反応するT細胞はポジティブセレクションにより選択される。この様なT細胞の分化過程から、自己抗原由来のペプチド断片と反応するT細胞は、通常は胸腺で除去されており、末梢血中にはごく一部しか存在しないと考えられている。また、全ての有核細胞、血小板の膜表面に発現しているHLA分子には自己抗原由来のペプチド断片が提示されており、HLAに結合するペプチド断片は無数に存在する。つまり、細胞膜表面上でHLAが提示する自己抗原由来のペプチド断片のうち、CTLが認識するものはほんの一部にすぎず、予測ソフトによるCTLエピトープ候補ペプチドのほとんどは、CTLによって認識されないものであると考えられている。即ち、抗原性が無いと考えられている。
これらの理由から、単に予測ソフトでCTLエピトープ候補ペプチドを得る事と、免疫応答を担うCTLエピトープペプチドを同定する事は大きく異なるといえる。発明者らは、MHC−テトラマー試薬を用いて、候補ペプチドに特異的な生体内のCTLを直接的に検出する手法によりCTLエピトープペプチドの同定を行っている。すなわち、末梢血などの試料から、MHC−テトラマー試薬によって特異的CTLが検出されるという事は、候補ペプチド特異的な免疫応答が生体内で惹起されている事を意味し、候補ペプチドがCTLエピトープペプチドである事を示す。
以上から、前述の方法にて選択されたCTLエピトープ候補ペプチドは、以下に示す(1)〜(3)の検討を経て初めてCKAP4特異的CTLエピトープペプチドになり得る。
(1)培養細胞株を用いた検討
プロテアソームによるタンパク質分解で生じたペプチド断片はTAP分子により小胞体内腔へと導かれ、HLAクラスI分子とβ2−ミクログロブリンとの複合体に結合し、細胞膜表面へ輸送される。このTAP分子を欠損した、TAP遺伝子欠損細胞株は、内在性タンパク質の分解産物であるペプチド断片を細胞膜表面に発現できない。また、代表的なTAP遺伝子欠損細胞株であるヒトリンパ芽球様細胞株T2、あるいはT2にHLA-A24分子を遺伝子導入した細胞株(T2-A24)のHLA分子は、細胞膜表面上での発現が非常に不安定である。しかし、外部から供給したペプチドと結合した場合、HLA分子は細胞膜表面上で安定化する。この性質を利用して、TAP遺伝子欠損細胞株は、HLA分子と外部から供給したペプチドの結合性を検証する実験に使用する事が可能である。具体的には、TAP遺伝子欠損細胞株とCTLエピトープ候補ペプチドを混合培養後、抗HLA抗体で染色し、フローサイトメトリーでHLA分子の発現強度の変化を算出する事で、目的とするHLA分子とCTLエピトープ候補ペプチドの結合性を検討できる。TAP遺伝子欠損細胞株が発現するHLA分子に添加したCTLエピトープ候補ペプチドが結合した場合、HLA分子とペプチドの複合体は細胞膜表面上で安定化し、抗HLA抗体で染色した場合、HLA分子の発現増強が観察される。一方、添加したCTLエピトープ候補ペプチドがHLA分子と結合性を示さない場合は、細胞膜表面上のHLA分子は不安定であり、抗HLA抗体で染色してもHLA分子の発現増強は確認されない。この様な方法を用いて、HLA分子とCTLエピトープ候補ペプチドの結合性を検証する事が可能である。
(2)フォールディングテスト
MHC−テトラマー試薬は、MHC(ヒトの場合はHLA)とβ2−ミクログロブリン及びペプチド断片の3者複合体(MHC−モノマー)を試験管内で製造し、MHC−モノマーを4量体化した試薬である。MHC−テトラマー試薬は、MHC拘束性を示す抗原特異的なCTLを選択的に検出できる唯一の試薬である。またMHC−テトラマー試薬は、抗CD(cluster of differentiation)抗体や抗サイトカイン抗体等と共染色後、フローサイトメトリーで分析する事でCTLの量を定量できるだけでなく、その活性化状態や分化段階を一つ一つの細胞毎に評価する事が可能である。MHC−テトラマー試薬製造の最初のステップは、原料であるMHCとβ2−ミクログロブリンとペプチドを試験管内の適切な溶液中で混合するフォールディングから始まる。フォールディング溶液中では、この3種類の原料の会合反応により3者複合体(MHC−モノマー)を形成する。この際、MHCとペプチドの結合力が高ければ、この会合反応はスムーズに進行し、ゲル濾過カラムで分析する事で、3種類の原料の複合体(MHC−モノマー)の検出が可能になる。一方、MHCとペプチドの結合力が無い場合は、MHC−モノマーは殆ど検出されない。従って、フォールディング溶液を経時的に分析する事で、或いは熱処理等を行う事で、MHCとペプチドの結合性と安定性を検証する事が可能である。
(3)エピトープペプチド特異的CTLの検出
健常人から分離した末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cells;PBMC)を適切な培地に1〜3×106/mLの細胞濃度で浮遊させ、これに合成したCTLエピトープ候補ペプチド(配列番号:36〜47)のいずれか、または数種類を1〜100 μg/mLの濃度となるように加え、96ウェル培養プレートに100μL/ウェルとなるように分注する。5% CO2恒温槽にて37℃で培養し、2日後にIL-2を添加する。以後、ペプチドとIL-2による刺激を7〜14日に1度行うことによりCTLを誘導する。このようにして誘導したCTLがCTLエピトープ候補ペプチドに対して特異性があるかどうかの検討は、MHC−テトラマー法で判定する。MHC−テトラマー試薬で染色可能なCTLが検出された場合、使用したCTLエピトープ候補ペプチドはCTL誘導能を有する抗原性ペプチド(エピトープペプチド)と同定する事が可能である。一般的に胸腺から移出したT細胞(ナイーブT細胞)は樹状細胞やマクロファージ等の抗原提示細胞による抗原刺激を受けて初めて活性化してエフェクターT細胞に分化する。単純にPBMCとペプチドを混合培養するこの方法では、特に人為的に調製した抗原提示細胞を用いていないため、末梢血のナイーブT細胞が分化している可能性は低く、PBMCに存在していたエフェクター/メモリーT細胞がペプチド刺激により増殖していると考えられる。従って、MHC−テトラマー試薬で染色可能なCTLが検出された場合は、もともと供血者末梢血PBMCにエフェクター/メモリータイプのCTLが存在している事を意味しており、恒常的に抗原性ペプチドを介する免疫応答が生体内で惹起されていることを示唆している。
〔CKAP4特異的MHC−モノマー及びMHC−テトラマー試薬の製造〕
CKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドを使用したMHC−モノマー及びMHC−テトラマー試薬は、公知の方法(US Patent Number 5,635,363、French Application Number FR9911133)により調製することができる。タンパク質発現用の遺伝子組換え宿主から精製したHLAクラスI分子、β2−ミクログロブリン及び本発明のCKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドの3者の複合体であるMHC−モノマーをフォールディング溶液内で形成させる。組換えHLAクラスI分子のC末端には予めビオチン結合部位を付加しておき、MHC−モノマー形成後この部位にビオチンを付加する。市販の色素標識されたストレプトアビジンとビオチン化MHC−モノマーをモル比1:4で混合することによってMHC−テトラマー試薬を製造することができる。また細胞表面タンパク質に対する抗体(CD62L、CCR7やCD45RA等)と組み合わせて用いる事で、CTLの分化段階を調べる事ができる(Seder RA, Ahmed R. Similarities and differences in CD4+ and CD8+ effector and memory T cell generation. Nat Immunol. 2003;4:835-842)。あるいは細胞内サイトカイン染色法と組み合わせることで、CTLの機能性評価に用いる事も可能である。例えば、C型肝炎では持続感染が維持される原因のひとつとして、HCV(Hepatitis C virus)に対するCTLは存在するが、CTLがサイトカイン等を産生していない、あるいは産生するCTLの割合が極めて低く免疫学的に不応答性(anergy)になっている可能性が報告されている(Gruener NH, Lechner F, Jung MC, Diepolder H, Gerlach T, Lauer G, Walker B, Sullivan J, Phillips R, Pape GR, Klenerman P. Sustained dysfunction of antiviral CD8+ T lymphocytes after infection with hepatitis C virus. J Virol. 2001;75:5550-5558)。また骨髄移植後のHCMV特異的CTLについては、そのCTL存在の有無を調べるだけでなく、サイトカイン産生能の強弱を調べる事が、抗ウイルス薬投与等のタイミングを計るために有効であると考えられ始めている(Ozdemir E, St John LS, Gillespie G, Rowland-Jones S, Champlin RE, Molldrem JJ, Komanduri KV. Cytomegalovirus reactivation following allogeneic stem cell transplantation is associated with the presence of dysfunctional antigen-specific CD8+ T cells. Blood. 2002;100:3690-3697)。このように特異的なCTLエピトープペプチドを同定し、MHC−テトラマー試薬を製造すれば、特異的なCTLの定量と定性が可能になり、診断情報を得る上で多大な貢献が可能になる。
〔能動免疫ワクチン〕
ペプチドワクチン
本発明のCTLエピトープペプチドは、能動免疫療法においてペプチドワクチンとして用いることができる。すなわち、本発明のCTLエピトープペプチドを含んでなるワクチンを患者に投与し、CKAP4特異的CTLを体内で増殖させ、悪性腫瘍に対する治療が期待できる。
抗原提示細胞を利用したワクチン
本発明のCTLエピトープペプチドが提示された抗原提示細胞は、能動免疫療法においてワクチンとして用いることができる。CTLエピトープペプチドが提示された抗原提示細胞とは、
1.適当な培養液中で、抗原提示細胞とCTLエピトープペプチドを30分から1時間混合したCTLエピトープペプチドパルス抗原提示細胞
2.CTLエピトープペプチドをコードする核酸を用い、遺伝子導入等で抗原提示細胞にCTLエピトープペプチドを提示させた細胞
3.人工的に調製した抗原提示能を有する人工抗原提示細胞
を意味する。抗原提示細胞とは、例えば、樹状細胞、B細胞、マクロファージ、ある種のT細胞等を意味するが、該ペプチドが結合し得るHLA分子をその細胞膜表面上に発現する細胞であって、CTL刺激能を有するものを意味する。人工的に調製した抗原提示能を有する人工抗原提示細胞とは、例えば脂質二重膜やプラスティックあるいはラテックス等のビーズにHLA分子とCTLエピトープペプチドとβ2-ミクログロブリンとの3者複合体を固定し、CTLを刺激し得るCD80、CD83やCD86等の共刺激分子を固定するか、もしくは、共刺激分子と結合するT細胞側のリガンドであるCD28に対してアゴニスティックに作用する抗体等を固定することで調製可能である(Oelke M, Maus MV, Didiano D, June CH, Mackensen A, Schneck JP. Ex vivo induction and expansion of antigen-specific cytotoxic T cells by HLA-Ig-coated artificial antigen-presenting cells. Nat Med. 2003;9:619-624、Walter S, Herrgen L, Schoor O, Jung G, Wernet D, Buhring HJ, Rammensee HG, Stevanovic S. Cutting edge: predetermined avidity of human CD8 T cells expanded on calibrated MHC/anti-CD28-coated microspheres. J Immunol. 2003;171:4974-4978、Oosten LE, Blokland E, van Halteren AG, Curtsinger J, Mescher MF, Falkenburg JH, Mutis T, Goulmy E. Artificial antigen-presenting constructs efficiently stimulate minor histocompatibility antigen-specific cytotoxic T lymphocytes. Blood. 2004;104:224-226)。
遺伝子ワクチン
本発明のCTLエピトープペプチドの核酸は、能動免疫療法においてDNAワクチンや組換えウイルスベクターワクチン等に用いる事ができる。この場合、CTLエピトープペプチドの核酸配列は、組換えワクチンや、組換えウイルスワクチンを産生させる宿主に適合したcodon usageに変更する事が望ましい(Casimiro, D.R. et al. Comparative Immunogenicity in Rhesus Monkeys of DNA Plasmid, Recombinant Vaccinia Virus, and Replication-Defective Adenovirus Vectors Expressing a Human Immunodeficiency Virus Type 1 gag Gene. J. Virol., 2003;77:6305-6313、Berzofsky JA, Ahlers JD, Janik J, Morris J, Oh S, Terabe M, Belyakov IM. Progress on new vaccine strategies against chronic viral infections. J Clin Invest. 2004;114:450-462)。
本発明のCTLエピトープペプチド、又はCTLエピトープペプチドが提示された抗原提示細胞を含んでなるワクチンは、当分野において公知の方法を用いて調製することができる。例えば、かかるワクチンとしては、本発明のCTLエピトープペプチドを有効成分として含有する注射剤又は固形剤等がある。CTLエピトープペプチドは、中性又は塩の形態で処方することができ、例えば、薬学上許容され得る塩としては、塩酸、リン酸などの無機塩、又は、酢酸、酒石酸などの有機酸が挙げられる。また、本発明のCTLエピトープペプチドが提示された抗原提示細胞は、製薬上許容され、該ペプチド又は該細胞の活性と相容性を有する賦形剤、例えば、水、食塩水、デキストロース、エタノール、グリセロール、DMSO(dimethyl sulphoxide)、及びその他のアジュバント等、又はこれらの組み合わせと混合して用いることができる。さらに、必要に応じて、アルブミン、湿潤剤、乳化剤等の補助剤を添加してもよい。
本発明のワクチンは、非経口投与及び経口投与により投与することができるが、一般的には非経口投与が好ましい。非経口投与としては経鼻投与や皮下・皮内注射、筋肉内注射、静脈内注射等の注射剤、座薬等がある。また、経口投与としては、スターチ、マンニトール、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、セルロース等の賦形剤との混合物として調製することができる。
本発明のワクチンは、治療上有効な量で投与する。投与される量は、治療対象、免疫系に依存し、必要とする投与量は臨床医の判断により決定される。通常、適当な投与量は、患者一人当たり、CTLエピトープペプチドは1〜100 mg、CTLエピトープペプチドパルス細胞では106〜109個の含有量とする。また、投与間隔は、対象、目的により設定することができる。
〔受動免疫ワクチン〕
本発明のCTLエピトープペプチドは、受動免疫治療剤の調製に用いることができる。下記のようにして得られたCKAP4に特異的なCTLはヒトアルブミン含有PBS等に懸濁させて、CKAP4を発現している悪性腫瘍に対する受動免疫療法剤とすることができる。受動免疫療法剤に含まれるCKAP4に特異的なCTLは、以下のような調製方法によって得ることができ、CTLの純度を高める為に精製して用いる事も可能である。
CTL調製方法1
PBMCと、適当な濃度のCKAP4特異的MHC−テトラマー試薬を反応させる。MHC−テトラマー試薬と結合したCKAP4特異的CTLは標識色素により染色されるので、セルソーター、顕微鏡などを用いて染色されたCTLのみを単離する。このようにして単離されたCKAP4特異的なCTLは、抗CD3抗体、PHA、IL-2等のT細胞刺激薬剤や、X線照射あるいはマイトマイシン処理等で増殖能を損失させた抗原提示細胞で刺激増殖させ、受動免疫療法に必要な細胞数を確保する。
CTL調製方法2
CKAP4特異的MHC−モノマー及び/又はMHC−テトラマー試薬を無菌プレートなどに固相化し、PBMCを固相化プレートで培養する。プレートに固相化されたMHC−モノマー及び/又はMHC−テトラマー試薬に結合したCKAP4特異的CTLを単離するためには、結合せずに浮遊している他の細胞を洗い流した後に、プレート上に残ったCKAP4特異的CTLだけを新しい培地に懸濁する。このようにして単離されたCKAP4特異的CTLは、抗CD3抗体、PHA、IL-2等のT細胞刺激薬剤や、X照射あるいはマイトマイシン処理等で増殖能を損失させた抗原提示細胞で刺激増殖させ、受動免疫療法に必要な細胞数を確保する。
CTL調製方法3
CKAP4特異的MHC−モノマー及び/又はMHC−テトラマー試薬と、CD80、CD83、CD86等の共刺激分子か、もしくは、共刺激分子と結合するT細胞側のリガンドであるCD28に対してアゴニスティックに作用する抗体等を無菌プレートなどに固相化し、PBMCを固相化プレートで培養する。2日後にIL-2を培地に添加し5% CO2恒温槽にて37℃で7〜10日培養する。培養した細胞を回収し、新たな固相化プレート上で培養を続ける。この操作を繰り返す事で受動免疫療法に必要な細胞数のCTLを確保する。
CTL調製方法4
PBMCあるいはT細胞を本発明のCTLエピトープペプチドで直接刺激するか、該ペプチドをパルスした抗原提示細胞、遺伝子導入した抗原提示細胞、または人工的に調製した抗原提示能を有する人工抗原提示細胞で刺激する。刺激は、in vitroですることができるが、in vivoでしてもよい。in vitroで刺激した場合は、刺激によって誘導されたCTLを5% CO2恒温槽にて37℃で7〜14日培養する。培養においてCTLエピトープペプチドとIL-2、又は抗原提示細胞とIL-2による刺激を週に1度繰り返す事で受動免疫療法に必要な細胞数のCTLを確保する。
CTLの精製法
CTL調製方法において、特異的CTLの割合が低い場合は、随時以下の方法を用いる事で特異的CTLを高純度で回収する事が可能である。
MHC−テトラマー試薬による精製
CKAP4特異的MHC−テトラマー試薬と、CTL調製方法にて誘導されたCTLを反応させ、MHC−テトラマー試薬を標識している標識色素に対する抗体等を磁気標識した2次抗体を用いて分離する事が可能である。このような磁気標識した2次抗体と、磁気標識細胞分離装置は、例えばDynal社やMiltenyi Biotec GmbH社から入手可能である。このようにして単離されたCKAP4特異的CTLは、抗CD3抗体、PHA、IL-2等のT細胞刺激薬剤で刺激増殖させ、受動免疫療法に必要な細胞数を確保する。
分泌されるサイトカインによる精製
CKAP4特異的CTLが、放出するサイトカイン等を利用して、CKAP4特異的CTLを精製する事ができる。例えば、Miltenyi Biotec GmbH社から入手可能なキットを用いる事で、CTLから放出されるサイトカインを細胞表面で特異抗体により補足し、サイトカイン特異的な標識抗体で染色し、続いて磁気標識した標識物質特異的な抗体を反応させた後、磁気標識細胞分離装置を用いて精製する事も可能である。このようにして単離されたCKAP4特異的CTLは、抗CD3抗体、PHA、IL-2等のT細胞刺激薬剤で刺激増殖させ、受動免疫療法に必要な細胞数を確保する。
細胞表面タンパク質特異的抗体を用いた精製
特異的CTLの細胞表面では、特異的刺激により発現が増強する細胞表面タンパク質(例えばCD137, CD107a、CD107b、CD63、CD69など)が報告されている(Betts MR, Brenchley JM, Price DA, De Rosa SC, Douek DC, Roederer M, Koup RA. Sensitive and viable identification of antigen-specific CD8+ T cells by a flow cytometric assay for degranulation. J Immunol Methods. 2003;281:65-78、Trimble LA, Shankar P, Patterson M, Daily JP, Lieberman J. Human immunodeficiency virus-specific circulating CD8 T lymphocytes have down-modulated CD3zeta and CD28, key signaling molecules for T-cell activation. J Virol. 2000;74:7320-7330、Watanabe K, Suzuki S, Kamei M, Toji S, Kawase T, Takahashi T, Kuzushima K, and Akatsuka Y. CD137-guided isolation and expansion of antigen-specific CD8 cells for potential use in adoptive immunotherapy. Int J Hematol, 2008;88;311-320)。このようなタンパク質に対する特異抗体を磁気標識する事で、磁気分離装置等を用いてCKAP4特異的CTLを精製する事が可能である。また、このような特異抗体に対する抗IgG抗体等を磁気標識する事でも同様にCKAP4特異的CTLの精製が可能である。あるいは、これら特異抗体を培養用のプラスティックプレートにコートし、このプレートを用いて刺激を加えたPBMCを培養し、プレートに結合しなかった細胞集団を洗い流す事でCKAP4特異的CTLを精製することも可能である。このようにして単離されたCKAP4特異的CTLは、抗CD3抗体、PHA、IL-2等のT細胞刺激薬剤で刺激増殖させ、受動免疫療法に必要な細胞数を確保する。
〔CKAP4特異的CTLの定量〕
CKAP4特異的CTLが、がん患者の末梢血に存在するか否か、あるいはその量の変動を知ることは、CKAP4 特異的CTLエピトープペプチドを利用した能動免疫および受動免疫ワクチンの有効性を予測するために重要な情報である。また受動免疫ワクチンでは製剤中のCKAP4特異的CTLの含有量をあらかじめ測定する必要がある。CKAP4特異的CTLの定量は、本発明のCTLエピトープペプチドを用いた以下の3つの方法によって行うことができる。
定量方法1(MHC−テトラマー法)
本発明のCTLエピトープペプチドを使用して製造したMHC−テトラマー試薬を用いて、末梢血中のCKAP4に特異的なCTLを定量することができる。定量は、例えば、以下のようにして実施することができる。末梢血あるいはPBMCを、適当な濃度のMHC−テトラマー試薬と反応させる。該MHC−テトラマー試薬と結合したCTLは標識色素により染色されるので、フローサイトメーター、顕微鏡等を用いてカウントする。MHC−テトラマー試薬と反応させる時に、MHC−テトラマー試薬と異なる色素で標識された抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体等を反応させる事で、CKAP4特異的なCTLのT細胞サブセットも同時に判定できる。
定量方法2
PBMCを本発明のCTLエピトープペプチドで刺激することによってCTLが産生するIFNγ(interferon gamma)、TNFα(tumor necrosis factor alpha)、インターロイキン等のサイトカイン及び/又はケモカインを定量する方法である。以下にIFNγを例にとり具体的に方法を示す。
2−1 サイトカイン定量による方法1(細胞内IFNγ産生細胞定量法)
PBMCを適当な培地におよそ2×106/mLの細胞濃度で浮遊させ、本発明のCTLエピトープペプチドを加える。さらに細胞内蛋白輸送阻止剤(例えば、Brefeldin AやMonensin等)を加え、5% CO2恒温槽にて37℃で5〜16時間培養する。培養後、T細胞マーカー抗体(抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体)あるいは、MHC−テトラマー試薬と反応させ、細胞を固定後、膜透過処理を行い、色素標識抗IFNγ抗体を反応させる。フローサイトメーター等を用いて解析し、全細胞中、T細胞中あるいはMHC−テトラマー試薬陽性細胞中のIFNγ陽性細胞率を定量する。
2−2 サイトカイン定量による方法2(エリスポットアッセイ)
抗IFNγ抗体を固相化した96ウェルMultiScreen-HAプレート(Millipore社)にPBMCをまく。その後、CTLエピトープペプチドを各ウェルに入れ37℃の5% CO2恒温槽培養器にて20時間培養する。翌日、プレートを洗浄し、抗IFNγ抗体、ペルオキシダーゼ標識抗IgG抗体の順で反応させる。さらにペルオキシダーゼの基質を加え、発色によりIFNγスポットを可視化し、実体顕微鏡かELISPOTアナライザー(C.T.L.社)を用いてカウントすることで定量する。
2−3 サイトカイン定量による方法3(培養上清中に分泌されたIFNγを定量する方法)
PBMCを適当な培地におよそ2×106/mLの細胞濃度で浮遊させ、本発明のCTLエピトープペプチドを加える。5% CO2恒温槽にて37℃で24〜48時間培養する。培養後、上清を回収し、その中に含まれるIFNγ濃度を市販のELISAキット(例えばR&Dシステムズ社のQuantikine ELISA Human IFNγ Immunoassay)を使用して定量する。
定量方法3
細胞表面タンパク質特異的抗体を用いて定量を行う。CTLエピトープペプチドに特異的なCTLは、特異的刺激により細胞表面タンパク質(例えばCD137, CD107a、CD107b、CD63、CD69など)の発現が増強する事が報告されている(Watanabe K, Suzuki S, Kamei M, Toji S, Kawase T, Takahashi T, Kuzushima K, and Akatsuka Y. CD137-guided isolation and expansion of antigen-specific CD8 cells for potential use in adoptive immunotherapy. Int J Hematol, 2008;88;311-320)。従って、CTLエピトープペプチド等で刺激したPBMCと細胞表面タンパク質を特異的に認識する標識抗体を混合することで、CTLは、標識抗体と結合し標識色素により染色される。染色されたCTLは、フローサイトメーター、顕微鏡等を用いてカウントし、定量することができる。さらに、標識抗体と異なる色素で標識された抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体等を加える事で、特異的CTLのT細胞サブセットも同時に判定できる。
〔ペプチド−MHC複合体に特異的な抗体〕
同定したがん抗原エピトープペプチドとMHCの複合体に特異的なモノクローナル抗体(以下pMHC抗体)は、エピトープペプチドを細胞膜表面に提示するがん細胞を特異的に検出することができる。このため、pMHC抗体はがん免疫療法の診断薬として使用できるほか、抗体依存性細胞傷害活性(以下ADCC活性)や抗がん剤を結合させることなどにより、特異性の高い治療用抗体としても有用性がある。pMHC抗体の取得は一般的に、ファージディスプレイ法によって行われる。ファージディスプレイ法とは、ファージの感染力を失わせないように外来遺伝子を融合タンパク質として発現させるシステムのことである。これを利用し、ファージに抗体可変領域を発現させスクリーニングすることで、特異的なモノクローナル抗体を分離できることが知られている(Tsukahara T, Emori M, Murata K, Hirano T, Muroi N, Kyono M, Toji S, Watanabe K, Torigoe T, Kochin V, Asanuma H, Matsumiya H, Yamashita K, Himi T, Ichimiya S, Wada T, Yamashita T, Hasegawa T, Sato N. Specific targeting of a naturally presented osteosarcoma antigen, papillomavirus binding factor peptide, using an artificial monoclonal antibody. J Biol Chem. 2014;289(32):22035-22047)。pMHC抗体の取得は、抗体ライブラリーの作製、パニング、抗体の単離、評価といった流れで行われる。パニングには、がん抗原エピトープペプチドとMHCの複合体(MHC−モノマー)をELISAプレートなどに固相化、あるいはビオチン−アビジン結合で固定したものを使用し、これにファージライブラリーを反応させ、洗浄・溶出を繰り返すことで、エピトープペプチドとMHCの複合体に特異的な、結合力の高い抗体を単離できる。得られた抗体は、前述のTAP遺伝子欠損株T2にエピトープペプチドを添加し、抗体を反応させ、FCMで平均蛍光強度を測定することなどにより評価可能である。
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断りがない限り、実験法は成書(免疫実験操作法、右田俊介、紺田進、本庶佑、濱岡利之、南江堂 1995)を参考に行った。
〔実施例1〕
〔EBV特異的CTLエピトープ候補ペプチドの選択〕
EBVは、発現するタンパクの違いなどによって、タイプ1とタイプ2に分類されている。ヒトに感染・潜伏しているのはほとんどがタイプ1であり、AG876をはじめとするタイプ2の感染はアジアでは稀である(Dambaugh T, Hennessy K, Chamnankit L, Kieff E. U2 region of Epstein-Barr virus DNA may encode Epstein-Barr nuclear antigen 2. Proc Natl Acad Sci U S A. 1984 Dec;81(23):7632-6)。しかし、同一個体でのEBVの共感染例も報告されており、EBV感染株の人種・地域依存的な多様性が報告されている(Apolloni A, Sculley TB. Detection of A-type and B-type Epstein-Barr virus in throat washings and lymphocytes. Virology. 1994 Aug 1;202(2):978-81、Correa RM, Fellner MD, Alonio LV, Durand K, Teyssie AR, Picconi MA. Epstein-barr virus (EBV) in healthy carriers: Distribution of genotypes and 30 bp deletion in latent membrane protein-1 (LMP-1) oncogene. J Med Virol. 2004 Aug;73(4):583-8、 Klemenc P, Marin J, Soba E, Gale N, Koren S, Strojan P. Distribution of Epstein-Barr virus genotypes in throat washings, sera, peripheral blood lymphocytes and in EBV positive tumor biopsies from Slovenian patients with nasopharyngeal carcinoma. J Med Virol. 2006 Aug;78(8):1083-90、Trimeche M, Bonnet C, Korbi S, Boniver J, de Leval L. Association between Epstein-Barr virus and Hodgkin's lymphoma in Belgium: a pathological and virological study. Leuk Lymphoma. 2007 Jul;48(7):1323-31、Tiwawech D, Srivatanakul P, Karalak A, Ishida T. Association between EBNA2 and LMP1 subtypes of Epstein-Barr virus and nasopharyngeal carcinoma in Thais.
J Clin Virol. 2008 May;42(1):1-6. )。これまでに、複数のEBV株が単離されているが、共感染や株の多様性の問題で、塩基配列の解析に困難をきたし、全塩基配列が決定されたのはB95.8, AG876, MUTU, GD1, GD2, HKNPC1およびAKATAの計7種の株のみである(Baer R, Bankier AT, Biggin MD, Deininger PL, Farrell PJ, Gibson TJ, Hatfull G, Hudson GS, Satchwell SC, Seguin C, et al. DNA sequence and expression of the B95-8 Epstein-Barr virus genome. Nature. 1984 Jul 19-25;310(5974):207-11、Zeng MS, Li DJ, Liu QL, Song LB, Li MZ, Zhang RH, Yu XJ, Wang HM, Ernberg I, Zeng YX. Genomic sequence analysis of Epstein-Barr virus strain GD1 from a nasopharyngeal carcinoma patient. J Virol. 2005 Dec;79(24):15323-30、Dolan A, Addison C, Gatherer D, Davison AJ, McGeoch DJ. The genome of Epstein-Barr virus type 2 strain AG876.
Virology. 2006 Jun 20;350(1):164-70、Liu P, Fang X, Feng Z, Guo YM, Peng RJ, Liu T, Huang Z, Feng Y, Sun X, Xiong Z, Guo X, Pang SS, Wang B, Lv X, Feng FT, Li DJ, Chen LZ, Feng QS, Huang WL, Zeng MS, Bei JX, Zhang Y, Zeng YX. Direct sequencing and characterization of a clinical isolate of Epstein-Barr virus from nasopharyngeal carcinoma tissue by using next-generation sequencing technology. J Virol. 2011 Nov;85(21):11291-9. 、Kwok H, Tong AH, Lin CH, Lok S, Farrell PJ, Kwong DL, Chiang AK. Genomic sequencing and comparative analysis of Epstein-Barr virus genome isolated from primary nasopharyngeal carcinoma biopsy. PLoS One. 2012;7(5):e36939. 、Lin Z, Wang X, Strong MJ, Concha M, Baddoo M, Xu G, Baribault C, Fewell C, Hulme W, Hedges D, Taylor CM, Flemington EK. Whole-genome sequencing of the Akata and Mutu Epstein-Barr virus strains. J Virol. 2013 Jan;87(2):1172-82. )。
それらの株間における主なタンパク質の発現の違い、アミノ酸配列の相違が部分的に解析されており、LMP2とEBNA1についてもいくつかの報告がなされている(Midgley RS, Bell AI, Yao QY, Croom-Carter D, Hislop AD, Whitney BM, Chan AT, Johnson PJ, Rickinson AB. HLA-A11-restricted epitope polymorphism among Epstein-Barr virus strains in the highly HLA-A11-positive Chinese population: incidence and immunogenicity of variant epitope sequences. J Virol. 2003 Nov;77(21):11507-16、Wang X, Liu X, Jia Y, Chao Y, Xing X, Wang Y, Luo B. Widespread sequence variation in the Epstein-Barr virus latent membrane protein 2A gene among northern Chinese isolates. J Gen Virol. 2010 Oct;91(Pt 10):2564-73. 、Han J, Chen JN, Zhang ZG, Li HG, Ding YG, Du H, Shao CK. Sequence variations of latent membrane protein 2A in Epstein-Barr virus-associated gastric carcinomas from Guangzhou, southern China. PLoS One. 2012;7(3):e34276. )。
本発明のLMP2およびEBNA1特異的なCTLエピトープ候補ペプチドの選択は、EBVタイプ1に属する最も代表的な株であるB95.8(GenBank:V01555.2)のアミノ酸配列をもとに、他の株におけるアミノ酸の変異を参照したうえで実施した。具体的には、HLA-A11分子に対して結合モチーフを有する8〜10個のアミノ酸よりなるCTLエピトープ候補ペプチドを検索し得る、インターネット上に公開されている複数のソフトウェアに照合して実施した。その結果、EBV LMP2およびEBNA1のアミノ酸配列よりHLA-A11分子の結合モチーフを有する9個または10個のアミノ酸よりなるCTLエピトープ候補ペプチドを、LMP2では22種類、EBNA1では11種類の合計33種類選択し、これらのペプチドを合成し、以下にCTLエピトープ候補ペプチドとして示した。異なるEBV株でのアミノ酸変異箇所を下線で示した。本発明ではB95.8株を野生株とし、他の株でのアミノ酸の置換を変異と呼ぶ。陽性コントロール用のペプチドとしてはhuman cytomegalovirus(CMV)のpp65タンパク質由来のHLA-A*11:01拘束性エピトープペプチド(ATVQGQNLK、配列番号:34)を合成した。陰性コントロール用のペプチドとしては、survivin-2BのHLA-A*24:02拘束性エピトープペプチド(AYACNTSTL、配列番号:35)を合成した。
(1)合成したEBV LMP2由来のHLA-A*11:01拘束性CTLエピトープペプチド候補
Ala Ser Ser Tyr Ala Ala Ala Gln Arg Lys(配列番号:1)
Ala Asn Ser Tyr Ala Ala Ala Gln Arg Lys(配列番号:2)
Ala Ser Ser Ser Ala Ala Ala Gln Arg Lys(配列番号:3)
Ala Asn Ser Ser Ala Ala Ala Gln Arg Lys(配列番号:4)
Ala Ser Ser Tyr Ala Ala Ala Gln Arg(配列番号:5)
Ser Ser Tyr Ala Ala Ala Gln Arg Lys(配列番号:6)
Val Met Leu Val Leu Leu Ile Leu Ala Tyr(配列番号:7)
Leu Val Leu Leu Ile Leu Ala Tyr Arg(配列番号:8)
Leu Val Leu Leu Ile Leu Ala Tyr Arg Arg(配列番号:9)
Leu Ala Tyr Arg Arg Arg Trp Arg Arg(配列番号:10)
Thr Thr Met Phe Leu Leu Met Leu Leu(配列番号:11)
Lys Ile Leu Leu Ala Arg Leu Phe Leu Tyr(配列番号:12)
Lys Val Leu Leu Ala Arg Leu Phe Leu Tyr(配列番号:13)
Ile Leu Leu Ala Arg Leu Phe Leu Tyr(配列番号:14)
Val Leu Leu Ala Arg Leu Phe Leu Tyr(配列番号:15)
Gly Ser Ile Leu Gln Thr Asn Phe Lys(配列番号:16)
Leu Thr Glu Trp Gly Ser Gly Asn Arg(配列番号:17)
Arg Thr Tyr Gly Pro Val Phe Met Cys Leu(配列番号:18)
Arg Thr Tyr Gly Pro Val Phe Met Ser Leu(配列番号:19)
Thr Val Met Ser Asn Thr Leu Leu Ser(配列番号:20)
Thr Val Met Thr Asn Thr Leu Leu Ser(配列番号:21)
Ala Leu Phe Gly Val Ile Arg Cys Cys Arg(配列番号:22)
(2)合成したEBV EBNA1由来のHLA-A*11:01拘束性CTLエピトープペプチド候補
Gly Pro Gly Asn Gly Leu Gly Glu Lys(配列番号:23)
Ser Ser Ser Ser Gly Ser Pro Pro Arg Arg(配列番号:24)
Gly Gln Gly Asp Gly Gly Arg Arg Lys(配列番号:25)
His Arg Gly Gln Gly Gly Ser Asn Pro Lys(配列番号:26)
His Arg Gly Glu Gly Gly Ser Ser Gln Lys(配列番号:27)
His Arg Gly Gln Gly Gly Ser Asn Gln Lys(配列番号:28)
Gly Val Phe Val Tyr Gly Gly Ser Lys(配列番号:29)
Lys Thr Ser Leu Tyr Asn Leu Arg Arg(配列番号:30)
Gln Thr His Ile Phe Ala Glu Val Leu Lys(配列番号:31)
Gly Arg Gly Arg Gly Arg Gly Glu Lys(配列番号:32)
Ala Ile Lys Asp Leu Val Met Thr Lys(配列番号:33)
(3)コントロール用に合成したプペプチド
Ala Thr Val Gln Gly Gln Asn Leu Lys(配列番号:34)
Ala Tyr Ala Cys Asn Thr Ser Thr Leu(配列番号:35)
表1、表2、表3に合成したLMP2およびEBNA1のHLA-A11:01拘束性CTLエピトープペプチド候補とコントロール用に合成したペプチドの特徴を示す。ペプチド名は合成したペプチドのN末端側から3つのアミノ酸配列で示す。左から、ペプチド名(表中a)、アミノ酸配列(表中b)、由来タンパク質のアミノ酸配列上の位置、アミノ酸数、解析に用いたNetMHC3.4(http://www.cbs.dtu.dk/services/NetMHC/)のHLA Peptide Binding Predictions (Nielsen M, Lundegaard C, Worning P, Lauemoller SL, Lamberth K, Buus S, Brunak S, Lund O. Reliable prediction of T-cell epitopes using neural networks with novel sequence representations. Protein Sci. 2003 May;12(5):1007-17、Lundegaard C, Lamberth K, Harndahl M, Buus S, Lund O, Nielsen M. NetMHC-3.0: accurate web accessible predictions of human, mouse and monkey MHC class I affinities for peptides of length 8-11. Nucleic Acids Res. 2008 Jul 1;36(Web Server issue):W509-12. 、Lundegaard C, Lund O, Nielsen M. Accurate approximation method for prediction of class I MHC affinities for peptides of length 8, 10 and 11 using prediction tools trained on 9mers. Bioinformatics. 2008 Jun 1;24(11):1397-8. )で算出されたスコア(表中c)が高い順に示した。このスコアは、HLA-A11とペプチドとの親和性を予測する数値で、スコアが高い程、HLAとペプチドが安定した複合体を形成する可能性があることを意味する。なお表1、表2と表3に示したNetMHC 3.4のスコアは、分析に用いた11種類の分析ソフトで得られた代表例として示す。
Figure 2019110909
Figure 2019110909
Figure 2019110909
〔EBV特異的CTLエピトープ候補ペプチドのフォールディングテスト〕
発明者らは、表1、表2と表3に記載した35種類のペプチドを用いてフォールディングテストを実施した。具体的には、大腸菌発現系を利用して発現精製したHLA-A*11:01とβ2−ミクログロブリン、および合成ペプチドをフォールディング溶液に添加して混合後、フォールディング溶液を経時的に分取し、ゲル濾過カラムにて分析を行った。ゲル濾過カラム分析では、HLA-A*11:01とβ2−ミクログロブリン、およびEBV特異的CTLエピトープ候補ペプチドの3者複合体(MHC−モノマー)の形成が認められる場合、MHC−モノマーは原料よりも分子量が大きいため、ゲル濾過カラム分析での溶出時間が早くなる。また、MHC−モノマー形成量は、280 nmの吸収波長によって得られるピーク面積から算出可能である。一方、HLA分子との結合性の無い候補ペプチドではMHC−モノマー形成が確認されない。MHC−モノマー形成が認められる場合の代表的なゲル濾過カラム分析例を図1に示した。
ゲル濾過カラム分析の結果では、HLA分子とβ2−ミクログロブリンは、大腸菌発現系を利用して発現精製する際に、封入体として不溶性分画を精製後8M尿素に可溶化させているが、難溶性であるHLA分子は、MHC−モノマー形成に至らないものが凝集体として7〜8分に検出される。但し、凝集体の多くはゲル濾過カラム分析の前処理工程であるフィルター濾過により除去されている。β2−ミクログロブリンは、可溶性タンパク質であり、フォールディング溶液中で可溶化され、Superdex75 10/300GL(GE Healthcare社)を用いた場合、14分付近に検出される。15分以降にはフォールディング溶液の組成物やペプチドが検出される。フォールディングテスト開始直後(day 0)にはMHC−モノマーのピークは確認されないが、1日後(day 1)、3日後(day 3)とピークが大きくなり、MHC−モノマー形成が順調に進行している事を示している。
図2および図3に35種類のペプチドに対して実施したフォールディングテストの1、3、7日後の分析結果を示した。陽性コントロールペプチドとして、CMVのpp65タンパク質由来HLA-A*11:01拘束性エピトープペプチド(ATVQGQNLK、配列番号:34)、陰性コントロールとして、survivin-2B由来HLA-A*24:02拘束性エピトープペプチド(AYACNTSTL、配列番号:35)を比較対象に用いた。MHC−モノマー形成を示すピークの面積を棒グラフで示した。配列番号:1〜22(LMP2)と配列番号:23〜33(EBNA1)を陽性コントロールペプチドと陰性コントロールである配列番号:34〜35と比較した結果をそれぞれ表4と表5に示す。
Figure 2019110909
Figure 2019110909
表4と表5にペプチド候補のHLA-A*11:01結合性を示す。結合性の有無はフォールディングテストにおいて、陰性コントロールの結合性の最も高い値(135,674 μV*秒)を上回るものを結合性の有るものとして○、下回るものを結合性のないものとして×で表記する。このように実験値で判定したHLA-A*11:01結合性はコンピューターアルゴリズムで得られた予測値とは必ずしも一致するわけではなく、フォールディングテストの実験値はin vitroにおける候補ペプチドとHLA-A*11:01との結合性を表す。コンピューターアルゴリズムで予測した下位(予測値<0.400)8個のペプチド候補のいずれも、フォールディングテストの実験の結果では、HLA-A*11:01結合性が示された。一方、フォールディングテストの実験の結果でHLA-A*11:01結合性が示さない4個のペプチドの予測値は以下である。VML:0.417;LVL(9mer):0.439;TTM:0.477;KIL:0.602。いずれの予測値も0.400より高いにもかかわらず、HLA-A*11:01と結合しないことがわかる。このように、コンピューターアルゴリズムだけではエピトープ候補ペプチドとHLA分子との結合性は判断できない。
〔EBV LMP2特異的MHC−テトラマー試薬の製造〕
フォールディングテストの結果に基づき、HLA-A*11:01結合性のEBV LMP2特異的あるいはEBV EBNA1特異的CTLエピトープ候補ペプチドを用いてPE標識MHC−テトラマー試薬を製造した。本発明で製造したMHC−テトラマー試薬は例えば、ASS(10mer)-Tetと略号で示すが、これは、HLA-A*11:01とASS(10mer)ペプチド(ASSYAAAQRK、配列番号:1)とβ2−ミクログロブリンの3者複合体を用いて製造されたものを示す。タンパク質発現用の遺伝子組換え宿主から精製したHLAクラス I分子、β2−ミクログロブリン及び本発明のEBV LMP2またはEBV EBNA1特異的CTLエピトープ候補ペプチドの複合体である、MHC−モノマーを適切なフォールディング溶液中で形成させる。組換えHLAクラスI分子のC末端には予めビオチン結合部位を付加しておき、MHC−モノマー形成後この部位にビオチンを付加する。市販の色素標識されたストレプトアビジンとビオチン化MHC−モノマーをモル比1:4で混合することによってMHC−テトラマー試薬を製造することができる。
〔EBV特異的CTLエピトープペプチドの同定〕
(検体のHLA型の選定)
EBV特異的CTLエピトープ候補ペプチドには、HLA-A*11:01に対して結合モチーフを有する33種類の候補ペプチドを選択した。更にフォールディングテストにより、試験管内でHLA-A*11:01とβ2−ミクログロブリンと29種類のEBV特異的CTLエピトープ候補ペプチドが結合しMHC−モノマーを形成する事が判明した。実際にこの29種類のEBV LMP2特異的あるいはEBNA1特異的CTLエピトープ候補ペプチドがHLA-A*11:01に結合し、これを認識するCTLが生体内に存在するかどうかを確認するためには、HLA-A*11:01を保持する供血者の末梢血を用いて、末梢血中に存在するEBV特異的CTLを増幅する事が可能であるかどうか検討する必要がある。最初に、供血者がHLA-A*11:01を保持するかどうかは、ジェノサーチ(商標)HLA-A Ver.2(MBL社)を用いてHLA-Aの遺伝子型判定にて確認した。以降の検討は、HLA-A*11:01を保有する5名の健康成人のPBMCを用いて行った。
〔抗原提示細胞の調製〕
(1)EBV感染B細胞株の調製
定法(Kuzushima K, Yamamoto M, Kimura H, Ando Y, Kudo T, Tsuge I, Morishima T. Establishment of anti-Epstein-Barr virus (EBV) cellular immunity by adoptive transfer of virus-specific cytotoxic T lymphocytes from an HLA-matched sibling to a patient with severe chronic active EBV infection. Clin Exp Immunol. 1996;103:192-198)に従い、EBV産生細胞株であるB95.8細胞株(JCRB Cell Bankより入手)の培養上清(生EBVウイルスを含む)とPBMCを混合培養し、EBV感染B細胞株(Lymphoblastoid cell line、以下、EBV感染LCLと称する)を樹立した。約2週間後にHLA分子の発現、CD80、CD83、CD86およびCD20の発現を確認した。
(2)CD40-B細胞の調製
ヒトCD40Lを遺伝子導入し、安定的に発現させたNIH3T3細胞(NIH-CD40L)とPBMCを、IL-4存在下で共培養した。NIH-CD40Lは96 GyのX線照射により増殖阻害し、3〜4日毎に共培養を繰り返した(Kondo E, Topp MS, Kiem HP, Obata Y, Morishima Y, Kuzushima K, Tanimoto M, Harada M, Takahashi T, Akatsuka Y. Efficient generation of antigen-specific cytotoxic T cells using retrovirally transduced CD40-activated B cells. J Immunol. 2002;169:2164-2171)。約2週間後にHLA分子の発現、CD80、CD83とCD86の発現を確認した。
(3)樹状細胞の調製
PBMCをプラスティック製の培養皿で37℃、5% CO2恒温槽内にて2時間培養し、培養皿に接着しなかった細胞を軽く洗い流した。これにGM-CSFとIL-4を加え24時間培養後、続けてTNFαとIL-1βおよびPGE2(Prostaglandin E2)を加え、24〜48時間培養した。適当な培地等で軽く洗い流して回収できた細胞を樹状細胞とした(Kondo E, Topp MS, Kiem HP, Obata Y, Morishima Y, Kuzushima K, Tanimoto M, Harada M, Takahashi T, Akatsuka Y. Efficient generation of antigen-specific cytotoxic T cells using retrovirally transduced CD40-activated B cells. J Immunol. 2002;169:2164-2171)。48時間後にHLA分子の発現、CD80、CD83とCD86の発現を確認した。
〔EBV特異的CTLの誘導〕
1)抗原提示細胞を利用した誘導
HLA-A*11:01を保持するPBMCより、前述の抗原提示細胞(EBV感染LCL、CD40-B細胞、樹状細胞)を予め調製した。抗原提示細胞をパルス用培地(0.1% ヒト血清アルブミン/55 μM 2-メルカプトエタノール/RPMI 1640)あるいは、AIM-V medium (Invitrogen社)に浮遊させ、10 μg/mLの濃度でCTLエピトープ候補ペプチドを加え、およそ15分間隔で穏やかに混合しながら室温にて30〜60分間放置後、過剰量の洗浄液(2% ウシ胎児血清(FCS)/PBS)にて3回洗浄し、HLA分子に未結合のペプチドを洗い流した。この操作を行うことで、抗原提示細胞上のHLA分子にCTLエピトープ候補ペプチドが結合すると考えられる。この操作を行った抗原提示細胞をペプチドパルス抗原提示細胞と呼ぶ。ペプチドパルス抗原提示細胞は、増殖能を失わせる為に、致死量のX線照射、またはマイトマイシンC処理を行った。これを同一人物から分離したPBMC、あるいはCD8陽性またはCD4陽性のT細胞と混和し37℃、5% CO2恒温槽にて培養を行った。用いる培地は、10%FCS含有RPMI1640培地、あるいは10%ヒト血清含有RPMI1640培地、または、1〜10%のヒト血漿含有RPMI1640培地等の検討を行ったが、本方法においては、10%ヒト血清含有RPMI1640培地で良好な結果が得られた。T細胞の生存の維持と、増殖を補助する目的でIL-2(シオノギ製薬社)を添加したが、そのタイミングは通常混合培養開始後7〜14日目とする報告が多く、本発明でIL-2は培養開始時、培養開始2日後、6日後等の検討を行ったが培養開始2日後に投与した場合に良好な結果が得られた為、培養開始2日後に50 U/mLの濃度で加えた。培養開始10〜14日後に再度ペプチドパルス抗原提示細胞を用いて刺激を加えた。10〜14日毎にペプチドパルス抗原提示細胞を用いて刺激を加え、CTL誘導の評価は、およそ2週間後と4週間後に実施した。EBV特異的CTLの誘導が確認できた場合は、更にペプチドパルス抗原提示細胞を用いて刺激を加えCTLラインを樹立した。
2)抗原提示細胞を利用しない誘導法
本誘導法は、PBMC培養液中にペプチドを投入してCTLを誘導する方法である。PBMC中に存在する抗原提示細胞、例えば、樹状細胞、B細胞、マクロファージ、ある種のT細胞にペプチドが提示され、PBMCに含まれるCTL前駆細胞が刺激を受け増殖すると考えられる。前述の抗原提示細胞を利用した誘導法と異なり、前もって抗原提示細胞を調製する必要が無い点で区別され、簡便に実施できることが利点である。あえて抗原提示細胞を利用しない事で末梢血中を循環しているメモリー/エフェクター型のCTLを刺激増殖させるシステムである。
HLA-A*11:01を保持する健康成人より採血した末梢血を3,000 rpmで5〜10分間遠心処理し、上清の血漿部分を回収した。血漿部分以外は従来法に従いPBMCを分離した。誘導に用いる培地に数%の血漿を加えることが特徴である。本発明では5%の血漿を加えた場合に良好な結果が得られた。培地は一般に細胞培養に用いる培地に適切な添加物と抗生物質を加える。本発明に用いたCTL誘導培地は、RPMI1640 Hepes modify(Sigma社)に2-メルカプトエタノール、L-グルタミン、抗生物質としてストレプトマイシンとペニシリンを加えた培地を使用した。これ以外にインスリン、トランスフェリン、亜セレン酸、ピルビン酸、ヒト血清アルブミン、非必須アミノ酸溶液等を加えることもできる。PBMC 1〜3×106個を培地1〜2.5 mLに浮遊させた。これに1〜20 μg/mLの濃度で候補ペプチドを加えた。ペプチドの濃度は、ペプチドの溶解度に応じて変更できる。本発明では10 μg/mLにて実施した。2日後に20〜100 U/mLの最終濃度でIL-2の添加を行った。PBMCとペプチドの混合培養は、炭酸ガス交換可能な丸底の培養皿を用いることが望ましく、本発明においては、ポリプロピレン製14 mLの丸底チューブ(BD Biosciences社)または、96穴U底細胞培養用マイクロテストプレート(BD Biosciences社)を用いた。EBV特異的CTLの確認は、培養2週間および4週間後を目処に実施した。培養2週間後を目処に、再度10 μg/mLのペプチドで刺激した。EBV特異的CTLの誘導が確認できた場合は、ペプチドパルス抗原提示細胞を用いて刺激を加えCTLラインを樹立した。
〔EBV特異的CTLの確認〕
前述の方法で培養した細胞集団にEBV特異的なCTLが存在するかどうかの検討は、細胞内IFNγ産生細胞定量法、MHC−テトラマー法検討により実施した。
細胞内IFNγ産生細胞定量法による特異的CTL誘導の確認
前述の方法で誘導した細胞集団の約1/10〜全量を96穴U底細胞培養用マイクロテストプレートに移し、誘導に用いたペプチドを最終0.01〜0.05 μg/mLの濃度で加えた。さらに細胞内タンパク質輸送阻止剤(例えば、Brefeldin AやMonensin等)を加え、5% CO2恒温槽にて37℃で5〜16時間培養した。培養後、細胞を洗浄し、PE(phycoerythrin)標識MHC−テトラマー試薬とPC5(phycoerythrin-Cy5)標識抗CD8抗体(Beckman Coulter社)を加え、室温にて15〜30分間放置した。洗浄後、4% ホルムアルデヒドにて、4℃、15分間固定後、過剰量の洗浄液にて洗った。0.1%サポニンにて膜透過処理後、FITC標識抗IFNγ抗体(Beckman Coulter社)を加え、室温にて15〜30分間反応させた。洗浄後、フローサイトメーターを用いて、T細胞中のIFNγ陽性細胞率あるいはMHC−テトラマー試薬陽性細胞中のIFNγ陽性細胞率を定量した。
図4に陽性コントロールペプチドを用いて、抗原提示細胞を利用しない誘導法にて特異的CTLを誘導し、細胞内IFNγ産生細胞定量法にて検討した結果を示す。HLA-A*11:01を保持しHLA-A*24:02を保持しない健康成人末梢血から分離したPBMCをHLA-A*11:01拘束性CMV pp65由来のエピトープペプチド(ATVQGQNLK、配列番号:34)または陰性コントロールペプチドとしてHLA-A*24:02拘束性survivin-2B由来のエピトープペプチド(AYACNTSTL、配列番号:35)で13日間刺激後、刺激に用いたそれぞれのペプチドでBrefeldin A存在下14時間再刺激した。これを、PE標識MHC−テトラマー試薬(MBL社)、PC5標識抗CD8抗体、FITC標識抗IFNγ抗体で3重染色しフローサイトメーターを用いて解析した結果を示す。ドットプロット展開図中の数字は、四分割した領域に存在する細胞が全生細胞に占める割合(%)を示す。四分割した領域は今後、UL(左上)、UR(右上)、LL(左下)、LR(右下)と表記する。X軸にCD8、Y軸にINFγに対する蛍光強度をlogスケールで示したドットプロット展開図では、陽性コントロールペプチドで再刺激された場合にURにIFNγ陽性CD8陽性細胞が出現し、陰性コントロールペプチドで再刺激されても殆ど出現しない。陽性コントロールペプチドで13日間刺激培養した細胞集団では、CMV pp65特異的CTLが存在していることは、X軸にCD8、Y軸にMHC−テトラマー試薬に対する蛍光強度をlogスケールで示したドットプロット展開図でURにCD8陽性MHC−テトラマー試薬陽性細胞集団が存在することから明らかである。一方で、ドナーアリルと異なる拘束性の陰性コントロールペプチドを加えた細胞集団では、survivin-2B特異的CTLが出現しないことも明らかである。すなわち、HLA-A*11:01拘束性CMV pp65由来のエピトープペプチドを加えた細胞集団では29.37%の特異的CTLが誘導され、survivin-2B由来の HLA-A*24:02拘束性エピトープペプチドを加えた細胞集団では特異的CTLが誘導されない。この結果は、上記のIFNγの測定結果と合致している。更に、X軸にIFNγ、Y軸にMHC−テトラマー試薬に対する蛍光強度をlogスケールで示したドットプロット展開図では、陰性コントロールペプチドを加えた場合、MHC−テトラマー試薬陽性かつIFNγ陽性の細胞は殆ど存在しないが、HLA-A*11:01拘束性CMV pp65由来の陽性コントロールペプチドの刺激により誘導された特異的CTLは全細胞集団の29.39%を占めており、その内の73%がIFNγを産生(UR)する事、言い換えると細胞傷害性活性を有する事が明らになった。
この結果より、ドナーが保持するHLA拘束性のCTLエピトープペプチドを加えて培養したPBMC中には、再刺激によりIFNγを産生する細胞が誘導され、この細胞はMHC−テトラマー試薬で染色されることから加えたCTLエピトープペプチドに特異的なCTLであることが明らかである。この様に特異的なCTLが誘導されているか否かは、細胞内IFNγ産生細胞定量法にて判断することも可能である。同様にEBV LMP2特異的CTLエピトープ候補ペプチドを用いてIFNγ産生細胞が誘導されるか否かの検討を5名の健康成人で実施した。CD8陽性細胞中に存在するIFNγ産生生細胞の割合を数値化し図5に示した。図6に細胞内IFNγ産生細胞を定量した代表的な結果を示した。
図5では、5名の健康成人(ドナー ID番号:*11-13, *11-16, *11-8, *11-11, *11-2)の末梢血を用い、21種類のペプチドで、細胞内IFNγ産生細胞定量をした。X軸にCD8陽性IFNγ陽性細胞数がPBMCに占める割合(%)を数値で示す。陰性コントロールと比較し、陽性を示したペプチド候補はASS(10mer)(配列番号:1)と陽性コントロールペプチドCMV pp65である。陽性を示したペプチドの詳細結果は図6で説明する。
図6では、X軸にCD8、Y軸にIFNγに対する蛍光強度をlogスケールで示したドットプロット展開図で、誘導に用いたペプチドと同じペプチドを用いて再刺激して細胞内IFNγ産生細胞を定量した結果を示した。URにCD8陽性IFNγ陽性細胞数がPBMCに占める割合(%)を数値で示した。
陽性コントロールのCMV pp65では、28.0%のCD8陽性IFNγ陽性(産生)細胞がURに検出された。陰性コントロールのsurvivin-2Bの場合の陽性率(8.67%)と比較し有意な差が認められた。これらの結果を元に、MHC−テトラマー試薬を合成し、その有用性に関する検討を実施した。
〔EBV特異的MHC−テトラマー試薬を用いた検討〕
(MHC−テトラマー試薬の合成)
発明者らは、EBV 特異的なCTLエピトープペプチドとHLA-A*11:01分子を用いてPE標識MHC−テトラマー試薬を作製した。本発明で作製したMHC−テトラマー試薬は例えば、ASS(10mer)-Tetと略号で示すが、これは、HLA-A*11:01分子とペプチドASS(10mer)(ASSYAAAQRK、配列番号:1)とβ2−ミクログロブリンの3者複合体を用いて合成されたものを示す。
〔MHC−テトラマー試薬を用いた定量法〕
本発明のCTLエピトープペプチドを使用して作製したMHC−テトラマー試薬を用いて、末梢血あるいは末梢血から分離したPBMCにCTLエピトープペプチドを添加誘導して得られたCTLラインを試料として、EBV特異的なCTLの定量を行った。以下にPE標識MHC−テトラマー試薬を用いた場合を例に実施例を示す。用いるフローサイトメーターの機種に合わせ標識色素は適切な組合せで用いれば良く、下記に限定されるものではない。
末梢血の場合
採血した末梢血200 μLに対して、10 μLのPE標識MHC−テトラマー試薬と、20 μLのFITC標識抗T細胞表面抗体(例えばCD8、CD4、CD3)等を加えた。さらに、混入した赤血球による非特異的な蛍光を除外するために、PC5等で標識された抗CD45抗体を加えても良い。穏やかに混合し室温にて30分間放置した。OptiLyse B (Beckam coulter社)を加え能書に従い溶血固定処理を行った。2 mLのPBSを加え攪拌後、400×gで5分間遠心分離した。上澄みを吸引廃棄後、細胞を500 μLのPBSに再懸濁し、24時間以内にフローサイトメーターにて解析した。
PBMCまたはCTLエピトープペプチドを使用して誘導したCTLラインの場合
適量のPBMC(105〜106個)または、CTLエピトープペプチドを使用して誘導した適量のCTLラインに対して10 μLのPE標識MHC−テトラマー試薬と、20 μLのFITC標識抗T細胞表面抗体(例えばCD8、CD4、CD3)等を加えた。さらに、混入した赤血球による非特異的な蛍光を除外するために、PC5等で標識された抗CD45抗体を加えても良い。穏やかに混合し室温にて30分放置した。3 mLのPBSを加え攪拌後、400×gで5分間遠心分離した。上澄みを吸引廃棄後、細胞を500 μLのPBSに再懸濁した。CTLラインの場合は、死細胞による非特異的な蛍光を除外するために、7-AAD viability Dye(死細胞検出試薬、MBL社)を加えてもよい。24時間以内にフローサイトメーターにて解析した。
〔MHC−テトラマー試薬による健康成人末梢血中のEBV LMP2特異的CTLの検出〕
何らかの原因により免疫能が低下した人、先天性免疫不全症患者、または骨髄移植、造血幹細胞移植、臍帯血移植、固形臓器移植を受けて拒絶予防のために免疫抑制剤の投与を受けている患者、慢性ウイルス感染症患者、エイズ患者、高齢者、幼小児、妊婦等のハイリスクの患者、または移植ドナーの末梢血中にEBV特異的CTLが存在するか否かを知ることは、抗ウイルス剤や免疫抑制剤の適正な使用を含めた感染症管理の上で重要である。しかし、これらの患者の免疫能は低下していることから、EBV特異的CTL の存在も少なくなっているため、既存の方法ではEBV特異的CTLが存在することは困難であった。EBV特異的MHC−テトラマー試薬を用いれば、採血から1時間程度でEBV特異的CTLの存在を判定できる可能性がある。そこで我々は、健康成人末梢血を用いてEBV特異的CTLが検出できるか検討した。その結果を図7に示す。ドナーID*11-11の末梢血を用いて3種類のEBV特異的MHC−テトラマー試薬と陽性コントロールであるCMV pp65 MHC−テトラマー試薬(MBL社)および陰性コントロールsurvivin-2B HLA-A*24:02 MHC−テトラマー試薬(MBL社)にて染色した。X軸にCD8、Y軸にMHC−テトラマー試薬に対する蛍光強度をlogスケールで解析したドットプロット展開図にて示した。ドットプロット展開図中の数値は、CD8陽性MHC−テトラマー試薬陽性細胞がCD8陽性細胞中に占める割合を陽性率(%)として示した。その結果、採血直後(day 0)においてCD8陽性MHC−テトラマー試薬陽性の細胞集団は、陰性コントロールと比較して有意に差があるとは言えなかった。これは、用いた末梢血がいずれも健康成人で、EBVあるいはCMVによる日和見感染症を発症している可能性が低いことが原因として挙げられる。続けて、PBMCをそれぞれのペプチドで14日間刺激培養後(day 14)、同様にMHC−テトラマー試薬にて染色した。その結果14日間の培養で、ASS(10mer)は44.47%、CMV pp65は40.52%の陽性率が検出された。陰性コントロールであるHLA-A*24:02拘束性survivin-2B MHC−テトラマー試薬で得られた陽性率が0.17%であった事からも陽性を示した細胞集団は各ペプチドに特異的なCTL集団であると言える。これらの結果から、EBV LMP2特異的CTLは健康成人末梢血中に存在し、2週間の培養でCTL存在の有無を判定できる程度の増殖が可能であることが明らかになった。このことは、本発明で実施した、抗原提示細胞を利用しない誘導法がEBV特異的CTLの検出の為に有効であることを意味している。また、本発明で同定されたEBV LMP2由来のASS(10mer)(配列番号:1)は末梢血中のEBV LMP2特異的CTLを増殖させる機能をもち、これらの細胞集団がASS(10mer)-Tetで検出可能であったことからHLA-A*11:01拘束性のEBV LMP2特異的CTLエピトープペプチドであることが判明した。
〔MHC−テトラマー試薬による健康成人末梢血中のEBV EBNA1特異的CTLの検出〕
続けて発明者らは、EBV EBNA1由来HLA-A*11:01拘束性のCTLエピトープの同定を実施した。先のLMP2で得られた検証結果から、細胞内IFNγ産生細胞定量法では図6に示した通り、陰性コントロールのsurvivin-2Bでも8.67%の非特異反応が検出された。一方図7に示した通り、MHC−テトラマー試薬を用いたCTLの検出では、非特異反応が殆どない事が明らかとなった。
HLA-A*11:01拘束性EBV EBNA1由来のCTLエピトープの報告が過去には存在しない事から、より非特異染色の少ないMHC−テトラマー染色法にて検証を行う事とした。
表5に示した通り、フォールディングテストの結果、11個のEBV EBNA1特異的CTLエピトープ候補ペプチドはすべてHLA*11:01結合性を示した。そのため、発明者らはEBV EBNA1特異的CTL エピトープペプチドを同定する為に、11個のEBV EBNA1のCTLエピトープ候補ペプチドを用いてMHC−テトラマー試薬を作製した。続けて健康成人末梢血を用いてEBNA1特異的CTLが検出できるか検討した。その結果を図8と図9に示す。まずは、3種類ずつ混合したペプチドを用いて、5名の健康成人(ドナーID番号:*11-13, *11-16, *11-8, *11-11, *11-2)の末梢血を用いてCTL誘導を行った。2週間後、誘導用ペプチドに相応した3種類の混合MHC−テトラマー試薬を用いて検出を行った。図8では、X軸にCD8、Y軸にTetramerに対する蛍光強度をlogスケールで解析したドットプロット展開図にて示した。ドットプロット展開図中の数値は、CD8陽性細胞中のMHC−テトラマー試薬陽性細胞が生細胞中に占める割合を陽性率(%)として表す。その結果、ドナー *11-8では、(HRG+GVF+KTS)の3種混合ペプチドを用いて誘導した細胞集団を同じ3種類のペプチドのそれぞれを用いて合成した3種類のMHC−テトラマー試薬の混合試薬(HRG-Tet+GVF-Tet+KTS-Tet)で染色した場合に0.38%の陽性細胞が検出された。3種類のペプチドの内、どのペプチドに対して特異性があるのか検証するために、図9では、3種類それぞれのMHC−テトラマー試薬を用いて別々に検出を実施した。その結果、HRG-Tet単独で染色した場合に、0.42%の陽性率でHRG-Tet陽性細胞が検出された。Tet-GVF-TetとKTS-Tetでは全く陽性細胞が検出されなかったことから、HRG(配列番号:26)はHLA-A*11:01拘束性を示すEBV EBNA1特異的CTLエピトープペプチドであることが示された。
〔細胞内IFNγ産生細胞定量法によるEBV EBNA1特異的CTL誘導の確認〕
細胞内IFNγの産生はCTLの細胞傷害性活性のひとつの指標として用いられている。発明者らは上記のMHC−テトラマー試薬により同定されたEBV EBNA1特異的CTLエピトープペプチドで誘導されたCTLの機能性を評価するために、細胞内IFNγ産生細胞定量を実施した。その結果を図10で示す。
図10の上段では、X軸にCD8、Y軸にIFNγに対する蛍光強度をlogスケールで示したドットプロット展開図で、誘導に用いたペプチドと同じペプチドを用いて再刺激して、IFNγ産生能を検証した結果を示した。URにCD8陽性細胞中のIFNγ陽性細胞数がPBMCに占める割合(%)を数値で示した。図10の下段では、IFNγ産生能を検証した際にテトラマーで染色した結果である。X軸にCD8、Y軸にテトラマーに対する蛍光強度をlogスケールで示したドットプロット展開図で、URにCD8陽性細胞中のテトラマー陽性細胞数がPBMCに占める割合(%)を数値で示した。
HRGで誘導されたCTLに対し、HRGペプチドあるいは陰性コントロールのsurvivin-2Bペプチドを用いて14時間再刺激を行った。その結果、陰性コントロールのsurvivin-2Bで再刺激した場合と未刺激の場合ではCD8陽性IFNγ陽性(産生)細胞(再刺激:0.08%;未刺激:0.06%)がほとんど出なかったのに対し、HRG(配列番号:26)ペプチドを用いた再刺激では、0.68%のCD8陽性IFNγ陽性(産生)細胞がURに出現した(0.98%のCD8陽性テトラマー陽性細胞)。
以上より、本発明で同定されたEBV EBNA1由来のHRG(配列番号:26)は末梢血中のEBV EBNA1特異的CTLを増殖させる機能をもち、これらの細胞集団が細胞傷害性活性を有しかつHRG-Tetで検出可能であったことからHLA-A*11:01拘束性のEBV EBNA1特異的CTLエピトープペプチドであることが判明した。
〔ASS(10mer)配列N末端とC末端のアミノ酸の重要性についての検討〕
HLAクラスI分子に提示されるCTLエピトープペプチドは、8〜10個のアミノ酸からなり、N末端側から2番目と、9あるいは10番目のアミノ酸はHLAクラスI分子との結合に対して最も重要なアミノ酸であり、アンカーモチーフと呼ばれている。HLA-A11分子に結合するペプチドとしては、N末端より2番目の位置にIle、Met、Ser、Thr、又はValのいずれかが配置され、9あるいは10番目の位置にLys又はArgのいずれかが配置されたペプチドであって、9〜10個のアミノ酸からなるペプチドが最もよく知られている(Chang CX, Tan AT, Or MY, Toh KY, Lim PY, Chia AS, Froesig TM, Nadua KD, Oh HL, Leong HN, Hadrup SR, Gehring AJ, Tan YJ, Bertoletti A, Grotenbreg GM. Conditional ligands for Asian HLA variants facilitate the definition of CD8+ T-cell responses in acute and chronic viral diseases. Eur J Immunol. 2013 Apr;43(4):1109-20. )。本発明で提供されるHLA-A*11:01拘束性EBV LMP2特異的CTLエピトープペプチドASS(10mer)は、Ala Ser Ser Tyr Ala Ala Ala Gln Arg Lys(配列番号:1)という10個のアミノ酸から構成され、アンカーモチーフとしてN末端側から2番目と3番目にSerを、9番目にArgと10番目にLysを有する。このため、本発明の実施形態をより明確にする目的で、N末端側から、或いはC末端から1個のアミノ酸残基を削ったペプチドを合成して検証を行った。N末端側のAlaを削除した配列番号:6のアミノ酸配列は、Ser Ser Tyr Ala Ala Ala Gln Arg Lysであり、C末端側のLysを削除した配列番号:5のアミノ酸配列は、Ala Ser Ser Tyr Ala Ala Ala Gln Argである。これらを用いた比較実験の結果は図11、12、13に示す。
Ala Ser Ser Tyr Ala Ala Ala Gln Arg Lys ASS(10mer) 配列番号:1
Ala Ser Ser Tyr Ala Ala Ala Gln Arg ASS(9mer) 配列番号:5
Ser Ser Tyr Ala Ala Ala Gln Arg Lys SSY 配列番号:6
図11では、HLA-A*11:01との複合体形成能を調べるためにフォールディングテストを実施した。その結果、7日間のフォールディングテストの結果では、MHC−モノマー形成率は、高い順にASS(9mer)(337,803 μV*秒)、SSY(294,932 μV*秒)、ASS(10mer)(238,655 μV*秒)の順番であったが、いずれの配列も陰性コントロール(83,587 μV*秒)のペプチドとの比較からMHC−モノマーの形成能が認められた。
図12の実験では、前述の抗原提示細胞を利用しない誘導法にて3種類のペプチドを用いてそれぞれCTL誘導実験を実施した。誘導から14日後に3種類のMHC−テトラマー試薬を用いてそれぞれ特異的なCTLの検出を実施した。図12の上段は、ASS(10mer)を用いてCTLを誘導し、これをASS(10mer)-Tet、ASS(9mer)-Tet、SSY-Tetを用いて染色した。その結果、ASS(10mer)-Tetで染色した場合に53.31%のASS(10mer)-Tet陽性CD8陽性の特異的CTLが検出されたが、ASS(9mer)-TetあるいはSSY-Tet陽性CD8陽性の特異的CTLは検出されなかった(上段中央および上段左)。上段の細胞集団には、ASS(10mer)-Tet陽性CD8陽性の細胞集団が53.31%存在するにも関わらず、これらの細胞集団をASS(9mer)-TetあるいはSSY-Tetでは検出できない事から、ASS(10mer)-Tet陽性CD8陽性の細胞集団は、HLA-A*11:01分子に提示されたASS(9mer)とSSYを認識できない事が判明した。同様の実験を、ASS(9mer)とSSYのペプチドでCTLを誘導した細胞集団で実施したが、いずれの細胞集団でもASS(10mer)-Tet、ASS(9mer)-Tet、SSY-Tetに反応性を示す細胞集団は検出されなかった(中段および下段)。この事は、図11で示した通り、ASS(9mer)とSSYの両ペプチドはHLA-A*11:01分子に結合する能力はあるものの、血中に存在するEBV LMP2特異的CTL前駆体(エフェクター/メモリー細胞)を刺激増殖させる能力が無い事を意味していおりASS(10mer)はN末端側のAla残基、あるいはC末端側のLys残基のいずれか一つが欠損してもCTL誘導能とCTL検出能が無くなることが明らかになった。
図13では、ASS(10mer)、ASS(9mer)、SSYのそれぞれのペプチドを用いてCTL誘導した細胞集団に、誘導に用いたペプチドと同じぺプチドで再刺激した場合のIFNγの産出能を検出した結果を示した。陽性コントロール用のペプチドであるCMV pp65タンパク質由来のHLA-A*11:01拘束性エピトープペプチド(ATVQGQNLK、配列番号:34)を用いて誘導した細胞集団ではATV-Tet陽性細胞が40.52%存在し、ATVペプチドによる再刺激で28%の細胞がIFNγを産生した。
一方陰性コントロール用のペプチドとして用いたsurvivin-2BのHLA-A*24:02拘束性エピトープペプチド(AYACNTSTL、配列番号:35)の場合は、AYA-Tet陽性細胞が0.17%検出されたが、この細胞集団は明確なスポットとして検出されておらず非特異的な反応と考えられる。またAYAペプチドを用いた再刺激で8.67%のIFNγ陽性細胞が検出されたが、これは細胞内IFNγ染色法では一般的な非特異染色のレベルである。本発明で同定されたEBV LMP2由来HLA-A*11:01拘束性ASS(10mer)を用いて誘導した細胞集団にはASS(10mer)-Tet特異的CTLが53.31%存在し、ASS(10mer)の再刺激により68%の細胞集団がIFNγを産生した。これに対してN末端のAla残基を欠失したSSYの場合、SSY-Tet陽性細胞は検出されず、IFNγの産生も陰性コントロールよりも低かった。このことから、アンカーモチーフに該当するアミノ酸を有するペプチドであって、かつ、MHC-モノマーを形成する場合であっても、エピトープペプチドとして特異的にCTLを誘導できるとは限らず、なお、特異的にCTLを誘導できるエピトープペプチドは、容易に想到できないことが示された。
〔EBV株多様性によるCTLエピトープのアミノ酸の変異からペプチドカクテル療法へ〕
(EBV株間におけるASS(10mer)のCTLエピトープのアミノ酸変異)
EBV株の多様性に起因するCTLエピトープのアミノ酸変異は免疫応答の低下や免疫逃避を引き起こし、CTLエピトープを用いた免疫療法の潜在的な問題点となる。この問題を解決するために、複数のCTLエピトープを混合したペプチドカクテル療法が提起されはじめている。これは、1種類のエピトープを用いた場合、仮に変異等が原因で免疫不応答であった場合には他のエピトープで補う事が可能であることを期待した解決策と言える。この解決策には、1種類のHLA型に対して複数のCTLエピトープを用いる方法と、複数のHLA型に対してそれぞれのCTLエピトープを用いる方法が考えられるが、望ましくは、両者を組み合わせる事である。例えば、対象となる患者がHLA-A2とHLA-A11を保持する場合、それぞれのHLA拘束性の複数のCTLエピトープが治療に選択される事が望ましい。これは本発明が解決しようとしている課題の一つである。
前述のように、NPC患者ではHLA-A11保持者がもっとも多いことがこれまでの複数の研究グループの調査で明らかになっている。しかしながら、LMP2およびEBNA1のHLA-A11拘束性CTLエピトープは、今まで、SSCのみの一つしか報告されていない。
発明者らはHLA-A*11:01拘束性LMP2由来CTLエピトープであるASS(10mer)およびHLA-A*11:01拘束性EBNA1由来CTLエピトープであるHRGについて、株間のアミノ酸の変異を調べた結果を図14で示す。新規のエピトープASS(10mer)はGD2(中国広東省由来)とHKNPC1(香港NPC患者由来)で、2番目のSer残基と4番目のTyr残基がそれぞれ、Asn残基とSer残基に変異(S2N Y4S)している事が判明した。さらに、新規のエピトープHRGは2つの株での変異が判明した。AG876(西アフリカ由来 タイプ2)で4番目のGln残基がGlu残基に、8番目のAsn残基がSer残基に、9番目のPro残基をGln残基に変異している。Mutu(アジア由来)で、9番目のPro残基がGln残基に変異している。
〔各検体におけるASS(10mer) CTLエピトープのシークエンス〕
本発明で新規同定したASS(10mer)のCTLエピトープの変異を詳細に調べるために、発明者らは本発明で用いた5名のドナー(*11-2、*11-8、*11-11、*11-13、*11-16)に対し、ASS(10mer)を含むEBV LMP2由来DNA配列の解析を実施した。DNA配列解析用のプライマーは、LMP2のExon 2内に設計し増幅される遺伝子産物は292 bpである。
5'primer:TTGCTCTATTCACCCTTACT (配列番号:50)
3'primer:ATGCATTGTAAATGGTGCGT (配列番号:51)
5名のドナー のPBMCあるいはB95.8細胞株(ATCC社)からGeneJET Viral DNA and RNA Purification Kit(Thermo scientific社)を用いて、EBVゲノムDNAを抽出した。これを鋳型に用いて上記のプライマーを使い、PCR反応にてExon 2断片を増幅し、TOPO(登録商標)TA cloning Kit(Life technologies社)を用いてクローニングした。各検体からそれぞれ3個のクローンを選択してシークエンス分析を行った。シークエンスの結果を図15と表6に示す。図15では、EBV株間で見られたASSYAAAQRK(配列番号:1)(塩基配列:GCCAGCTCATATGCCGCTGCACAAAGGAAA(配列番号:48)、GCCAGCTCATATGCCGCTGCACAGAGGAAA(配列番号:49))の変異位置をクローズアップして示した。表6は、ASS(10mer)のシークエンス結果である。B95.8と比較し、ドナー*11-11ではDNA配列上、一塩基の置換(CAAからCAG)が見られたが、アミノ酸置換はなかった。また、他の4名はB95.8と同一の配列であった。この結果から、本発明で用いられた日本人のドナー5名は、最も広範に分布するB95.8株に感染しており、ASS(10mer) CTLエピトープの変異が検出できなかった。上記のシークエンスの結果を踏まえ、発明者らはEBV株間で見られるASS(10mer) CTLエピトープの変異によるCTL誘導能に与える影響を調べた。合成したペプチドASS(10mer)(配列番号:1)、ANS(S2N)(配列番号:2)、ASS(Y4S)(配列番号:3)、ANS(S2N;Y4S)(配列番号:4)および陰性コントロールペプチドとしてsurvivin-2Bを用いて、ドナー*11-11のPBMCを用いてCTL誘導を行った。その結果を図16で示す。ASS(10mer)を用いた誘導では、ASS(10mer)-Tet陽性細胞が27.63%検出されたが、各変異ペプチドではCTLの誘導が認められなかった。これは、ドナー*11-11はEBV LMP2のシークエンス解析からB95.8株の感染者でありASS(10mer)にはアミノ酸の変異が認められないからだと考えられる。B95.8株感染者に対してANS(S2N)(配列番号:2)、ASS(Y4S)(配列番号:3)およびGD2株とHKNPC1株のANS(S2N;Y4S)を用いても、特異的CTLが誘導できなかったことから、S2NとY4Sの変異がTCRの認識に重要な変異であることが明確になった。従って、EBV特異的CTLの誘導を行う場合は、ASS(10mer)の領域に予め変異が無いか検討する事が重要で、仮に変異がある場合は、ANS(S2N)、ASS(Y4S)、ANS(S2N;Y4S)を用いることが好ましいと考えられる。
Figure 2019110909
〔ASS(10mer)CTLエピトープの変異によるCTL誘導能とTCR結合性の違い〕
S2NとY4Sの変異によりTCR結合能に与える影響を詳細に調べるために、発明者らは3種類の変異配列ペプチドを用いて、ANS(S2N)-Tet、ASS(Y4S)-Tet、ANS(S2N, Y4S)-Tetの3種類のMHCテトラマー試薬を作製した。本発明で提供されるASS(10mer)エピトープペプチド(配列番号:1)を用いてPBMCから誘導したHLA-A*11:01拘束性EBV LMP2特異的CTLに対するテトラマー染色を実施した。結果を図17に示す。
HLA-A*11:01拘束性EBV LMP2 ASS(10mer)特異的CTLは図17で示したように、ANS (S2N)-Tetで検出されたことから、ANS(S2N)-TetはASS(10mer)-Tetとの交差反応性が保持されていたのに対し(26.87%対27.63%)、ASS(Y4S)-Tetでは陽性細胞が殆ど検出できず、TCRとの結合性がほぼ失われた(0.49%)。ASN (S2N, Y4S)-Tetでは、TCRとの結合能が若干保持された(5.93%)。これは、S2NとY4Sの両置換とY4Sの単独の置換によるアミノ酸の疎水性・親水性の変化の程度および側鎖の立体配置の違いによるものだと考えられる。この2つのアミノ酸変異について、EBV株間で単独の置換がなく、共置換しか見られなかった(GD2、HKNPC1)。しかし、注目すべきは、本発明で提供されるASS(10mer)の変異はGD2株とHKNPC1株でしか見られないことである。このことから、このエピトープが機能的に相補する、すなわち、両者の混合使用でGD2株及びHKNPC1株とそれら以外の感染EBV株の違いで生じるアミノ酸変異による免疫応答の低下は回避できると考えられる。
さらに、HLA-A*11:01拘束性EBV EBNA1由来の新規のエピトープHRG(配列番号:26)に関しても、AG876株由来HRG(Q4E, N8S, P9Q)とMutu株由来のHRG(P9Q)を含めて、図3に示したようにHLA-A*11:01に対する結合性があり、それぞれのMHC−テトラマー試薬の合成に成功した。ASS(10mer)と同様の検証をすることで、それぞれの感染株によって、誘導効率の違いが明らかになると思われる。
〔培養バッグを用いたCTLの大量培養〕
本発明でEBV LMP2特異的あるいはEBV EBNA1特異的な新規CTLエピトープの同定に成功し、HLA-A11保持者を対象とした抗原特異的細胞傷害性T細胞療法(CTL療法)の実現が可能となった。CTL療法は次世代の免疫療法として期待されている。しかし、生体外で抗原特異的CTLを調製するため、複雑且つ煩雑な操作を伴うことから、開放系培養システムに頼らざるを得なかった。そのため、医療用グレードの培養細胞加工センター(CPC)内にクラス100レベルの清浄環境を保つ施設を整備、管理しなければならず、多大な費用を必要としていた。
また、従来の方法では種々のサイトカインを使用することから、調製時に要する費用も相当なものとなる。さらに、クラス100レベルに保った施設のなかで調製するとはいえ、開放系による培養は安全面でのリスクを伴う。このように、従来の抗原特異的CTL調製法では操作性、経済性及び安全性が実用化の大きな妨げとなり、限られた施設でのみ実施可能であった。上記の問題点を解決すべく、発明者らはCTLの大量培養方法を研鑽し、簡便性と安全性を兼ね備え、且つ低コストで実施可能なEBV特異的CTL培養システムを検討した。市販のガス通気性培養用バッグを用いて、わずか三週間程度でEBV LMP2特異的CTLの大量培養に成功した。
図18は培養期間中の細胞を顕微鏡で観察した結果である。抗CD3抗体で刺激したPBMCはday 7、ペプチドで刺激したPBMCはday 14で活性化したT細胞塊が観察され、混合培養を開始した一週間後(day 21)では、活性化T細胞塊がさらに増殖したことが示された。
前述のように、混合ペプチドの使用が癌免疫療法の有効性を高めるための解決策の一つである。本実施例では、新規同定したCTLエピトープASS(10mer)(配列番号:1)とその変異配列ASN(S2N)(配列番号:2)の4種類のペプチドを混同し、CTL大量培養を実施した。その結果を図19と20に示す。
図19は培養期間中の総細胞および4種類のペプチド誘導で増殖したCTL数を示した。CTL数は図20のテトラマー染色結果により算出した。図19はX軸にCD8、Y軸にテトラマーに対する蛍光強度をlogスケールで示したドットプロット展開図で、誘導に用いたペプチドと同じペプチドのテトラマーで染色した。ドットプロット展開図中の数値は、CD8陽性細胞中のMHC−テトラマー試薬陽性細胞が生細胞中に占める割合を陽性率(%)として表す。
ASS(10mer)とANS(S2N)については、大量培養前、分離したPBMC中のMHC−テトラマー試薬陽性細胞数はわずか0.04%以下であったが、陽性細胞が検出されたday 7からday 24の間で、ASS(10mer)は、1.3×103個から2.3×105へ、ANSは3.2×103個から3.1×105個へ約100倍の増殖が確認された。これにより、新規CTLエピトープペプチドを用いた前記ペプチドカクテル療法の有効性が示された。さらに、新規CTLエピトープペプチドを用いたCTLの大量増殖に成功は、臨床への実用性が示すものである。
発明者らが検討した上記培養システムは、従来の開放系ではなく閉鎖系で行うことが特徴である。そのために、抗原特異的CTLの調製における操作性、経済性及び安全性が実現でき、CTL療法の実用化を推進できるものと考えられる。
これまでの癌免疫療法の臨床試験では、一種類のHLA型に対して、一つのエピトープを用いて行うケースが多かったが、有効性が認められたものの、個人差を否定できない。前述のように、カクテルペプチド療法は解決策の一つである。しかし、EBV LMP2抗原特異的およびEBNA1抗原特異的HLA-A11拘束性エピトープペプチドはこれまで1個しか同定されていなかった。EBV株間でのアミノ酸変異により起こりうる免疫応答の低下は、臨床における潜在的な問題点だと指摘すべきところである。この問題点を看過できないと考え、本発明で鋭意検討した結果、新たなエピトープASS(10mer)(配列番号:1)およびHRG(配列番号:26)を同定した。この新規のCTLエピトープはEBV関連癌・免疫不全、特にHLA-A11患者の多いNPCの治療には、今後大きく貢献するはずであると考えられる。
〔ワクチン注射剤〕
DMSOに、配列番号:1のペプチドを最終濃度20 mg/mlとなるように各々溶解し、ろ過滅菌した。得られたペプチド含有溶液を滅菌バイアル瓶に1 mLずつ分注密栓し、ワクチン注射剤とした。
〔実施例2〕
〔CKAP4特異的HLA-A*24:02拘束性エピトープペプチドの予測〕
CKAP4は全長602個のアミノ酸で構成されるII型膜タンパク質であり、アイソフォームの報告はない。本発明のCKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドの選択は、日本人の約60%が保有するHLA-A*24:02に対して実施した。具体的には、HLA-A*24:02に対して結合モチーフを有する8〜12個のアミノ酸よりなるCTLエピトープ候補ペプチドを検索し得る、インターネット上に公開されている複数のソフトウェアに照合して実施した。その結果、CKAP4のアミノ酸配列よりHLA-A*24:02の結合モチーフを有する9〜10個のアミノ酸よりなるCTLエピトープ候補ペプチドを10種類選択しペプチドを合成した。以下に合成したCTLエピトープ候補ペプチドを示す。
合成したHLA-A*24:02結合性CKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチド
Arg Leu Gly Arg Ala Leu Asn Phe Leu Phe (配列番号:36)
Phe Tyr Leu Ala Leu Val Ala Ala Ala Ala (配列番号:37)
Tyr Leu Ala Leu Val Ala Ala Ala Ala Phe (配列番号:38)
Asp Phe Ser Arg Gln Arg Glu Glu Leu (配列番号:39)
Lys Val Gln Ser Leu Gln Ala Thr Phe (配列番号:40)
Ser Leu Gln Ala Thr Phe Gly Thr Phe (配列番号:41)
Thr Phe Gly Thr Phe Glu Ser Ile Leu (配列番号:42)
Ile Tyr Thr Glu Val Arg Glu Leu Val (配列番号:43)
Lys Val Gln Glu Gln Val His Thr Leu Leu (配列番号:44)
Asp Phe Leu Asp Arg Leu Ser Ser Leu (配列番号:45)
表7に合成したHLA-A*24:02結合性CKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドの特徴を示す。合成したCKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドのN末端側から3つまたは4つのアミノ酸配列をペプチド名として略号で示す。左から、ペプチド名、アミノ酸配列、CKAP4アミノ酸配列上の位置、アミノ酸数、分析に用いたBIMAS(BioInformatics & Molecular Analysis Section/ http://thr.cit.nih.gov/index.shtml)のHLA Peptide Binding Predictions (http://thr.cit.nih.gov/molbio/hla_bind/)で算出されたスコアを示した。このスコアは、HLA-A*24:02とペプチドとの親和性を予測する数値で、スコアが高い程、HLA分子とペプチドが安定した複合体を形成する可能性がある事を意味する。発明者らは表7に記載した分析ソフトBIMAS以外にもSYFPEITHI、Rankpep、IEDB Bind prediction、NetCTL等の分析ソフトを用いてCTLエピトープ候補ペプチドを10種類(配列番号:36〜45)選択した。
Figure 2019110909
〔CKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドのフォールディングテスト〕
発明者は、人工的に合成した10種類のCKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドを用いて、フォールディングテストを実施した。具体的には、大腸菌発現系を利用して発現精製したHLA-A*24:02とβ2−ミクログロブリン、およびCKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドをフォールディング溶液に添加して混合後、経時的にフォールディング溶液を分取し、ゲル濾過カラムにて分析を行った。ゲル濾過カラム分析では、HLA-A*24:02とβ2−ミクログロブリン、およびCKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドの3者複合体(MHC−モノマー)の形成が認められる場合、MHC−モノマーは原料よりも分子量が大きいため、ゲル濾過カラム分析での溶出時間が早くなる。また、MHC−モノマー形成量は、280 nmの吸収波長によって得られるピーク面積から算出可能である。一方、HLA分子との結合性の無い候補ペプチドではMHC−モノマー形成が確認されない。MHC−モノマー形成が認められる場合の代表的なゲル濾過カラム分析例を図21に示した。
HLA分子とβ2−ミクログロブリンは、大腸菌発現系を利用して発現精製する際に、不溶性画分である封入体として精製し、8M尿素で可溶化されているが、ゲル濾過カラム分析の結果では、難溶性であるHLA分子は、MHC−モノマー形成に至らないものが凝集体として7〜8分に検出される。但し、凝集体の多くはゲル濾過カラム分析前のフィルター濾過処理により除去されている。β2−ミクログロブリンは、可溶性タンパク質であり、フォールディング溶液中で可溶化され14分付近に検出される。15分以降にはフォールディング溶液の組成物やペプチドが検出される。フォールディングテスト開始直後(day 0)にはMHC−モノマーのピークは確認されないが、1日後(day 1)、3日後(day 3)とピークが大きくなり、MHC−モノマー形成が順調に進行している事を示している。
図22に10種類のCKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドに対して実施したフォールディングテスト4日後の分析結果を示した。同時に、9個のアミノ酸からなる陽性コントロールペプチド(配列番号:46)と陰性コントロール(配列番号:47)を比較対象に用いた。
フォールディングテストに用いたコントロールペプチド
Ala Tyr Ala Cys Asn Thr Ser Thr Leu(配列番号:46)
Ser Ser Tyr Arg Arg Pro Val Gly Ile(配列番号:47)
グラフは、MHC−モノマー形成を示すピーク面積を棒グラフで示した。配列番号:36〜45を陽性コントロールペプチドと陰性コントロール(79,031 μV*秒)と比較した結果、配列番号:36、40、42、43はMHC−モノマー形成が良好であり、以降の解析を進めた。
〔CKAP4特異的MHC−テトラマー試薬の製造〕
フォールディングテストの結果に基づき、配列番号:36、40、42、43のCKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドとHLA-A*24:02、およびβ2−ミクログロブリンを用いてPE(phycoerythrin)標識MHC−テトラマー試薬を製造した。本発明で製造したMHC−テトラマー試薬は例えば、KVQE-Tetと略号で示すが、これは、HLA-A*24:02とペプチドKVQE(KVQEQVHTLL(配列番号:44))とβ2−ミクログロブリンの3者複合体を用いて製造されたものを示す。タンパク質発現用の遺伝子組換え宿主から精製したHLAクラスI分子、β2−ミクログロブリン及び本発明のCKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドの複合体である、MHC−モノマーを適切なフォールディング溶液中で形成させる。組換えHLAクラスI分子のC末端には予めビオチン結合部位を付加しておき、MHC−モノマー形成後この部位にビオチンを付加する。市販の色素標識されたストレプトアビジンとビオチン化MHC−モノマーをモル比1:4で混合することによってMHC−テトラマー試薬を製造することができる。
〔CKAP4特異的CTLエピトープペプチドの同定〕
(検体のHLA型の選定)
CKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドには、HLA-A*24:02に対して結合モチーフを有する10種類の候補ペプチドを選択した。更にフォールディングテストにより、試験管内でHLA-A*24:02とβ2−ミクログロブリンと4種類のCKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチド(配列番号:36、40、42、43)が結合しMHC−モノマーを良好に形成する事が判明した。実際にこの4種類のCKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドがHLA-A*24:02に結合し、これを認識するCTLが生体内に存在するかどうかを確認するためには、HLA-A*24:02を保有する供血者の末梢血を用いて検証する事が望ましい。最初に、供血者がHLA-A*24:02を保有するかどうかは、ジェノサーチ(商標)HLA-A Ver.2(MBL社)を用いてHLA-Aの遺伝子型判定にて確認した。以降の検討は、HLA-A*24:02を保有する7名の健康成人のPBMCを用いて行った。
〔CKAP4特異的CTLの誘導〕
〔MLPC (Mixed Lymphocyte-Peptide Cultures)法を用いたCKAP4特異的CTLの誘導〕
MLPC法は、PBMC培養液中にペプチドを添加してCTLを誘導する方法である(Karanikas V, Lurquin C, Colau D, van Baren N, De Smet C, Lethe B, Connerotte T, Corbiere V, Demoitie MA, Lienard D, Dreno B, Velu T, Boon T, Coulie PG. Monoclonal anti-MAGE-3 CTL responses in melanoma patients displaying tumor regression after vaccination with a recombinant canarypox virus. J Immunol. 2003;171(9):4898-904、Tsukahara T, Kawaguchi S, Torigoe T, Takahashi A, Murase M, Kano M, Wada T, Kaya M, Nagoya S, Yamashita T, Sato N. HLA-A*0201-restricted CTL epitope of a novel osteosarcoma antigen,papillomavirus binding factor. J Transl Med. 2009;7:44)。PBMC中に存在する抗原提示細胞、例えば、樹状細胞、B細胞、マクロファージ、ある種のT細胞にペプチドが提示され、PBMCに含まれるメモリータイプのCTLが刺激を受け増殖すると考えられる。HLA-A*24:02を保有する健康成人より採血した末梢血を3,000 rpmで5〜10分間遠心処理し、上清の血漿部分を回収した。血漿部分以外は従来法である密度勾配遠心法にてPBMCを分離した。本発明では5%の血漿を加えた培地を用いて良好な結果が得られた。培地は一般に細胞培養に用いる培地に適切な添加物と抗生物質を加える。本発明に用いたCTL誘導培地は、RPMI1640 Hepes modify(Sigam社)に2-メルカプトエタノール、L-グルタミン、抗生物質としてストレプトマイシンとペニシリンを加えた培地を使用した。これ以外にインスリン、トランスフェリン、亜セレン酸、ピルビン酸、人血清アルブミン、非必須アミノ酸溶液等を加える事もできる。約3×107個のPBMC を10 mLの培地に浮遊させた。これに4種類のCKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチド(配列番号:36、40、42、43)の内、1〜2種類のペプチドをそれぞれ10 μg/mLの濃度で加えた。ペプチドの濃度は、ペプチドの溶解度に応じて変更できる。本発明では10μg/mLにて実施した。PBMCとペプチドの混合培養は、96ウェルU底細胞培養用マイクロテストプレート(BECTON DICKINSON社)を用いた。細胞は37℃、5% CO2恒温槽にて培養した。2日後に20〜100 U/mLの最終濃度でIL-2の添加を行った。その後適宜IL-2添加CTL誘導培地の交換を行った。CKAP4特異的CTLの確認は、培養2週間を目処に実施した。CKAP4特異的CTLの誘導が確認できた場合は、ペプチドパルス抗原提示細胞を用いた刺激または直接ペプチドで刺激し、CTLラインの樹立を試みた。
〔CKAP4特異的CTLの確認〕
前述の方法で培養した細胞集団にCKAP4特異的なCTLが存在するか否かの検討は、MHC−テトラマー法により実施した。培養後、適量の細胞数に対して10 μLのPE標識MHC−テトラマー試薬と、20 μLのFITC(fluorescein isothiocyanate)標識T細胞表面抗体(例えばCD8, CD4, CD3)等を加えた。さらに、混入した赤血球による非特異的な蛍光を除外するために、PC5(phycoerythrin-Cy5)等で標識されたCD45抗体を加えても良い。その後、穏やかに混合し2〜8℃で60分間または、室温にて30分間静置した。1.5 mLのPBSを加え攪拌後、3,000 rpmで5分間遠心分離した。上澄みを吸引廃棄後、細胞を400 μLのPBSに再懸濁した。この際、死細胞による非特異的な蛍光を除外するために、7-AAD viability Dye(死細胞検出試薬、MBL社)を加えてもよい。24時間以内にフローサイトメーターにて解析した。
CKAP4特異的CTLの確認は2段階で行った。まず1段階目は、96ウェルU底細胞培養用マイクロテストプレートの縦列の8ウェルそれぞれの一部の細胞を回収して1サンプルとしてプールし(レーンプール)、CKAP4特異的CTLの誘導の有無をMHC−テトラマー法で確認した。2段階目は、1段階目でCKAP4特異的CTLの誘導が確認されたレーンプールにおいて、各ウェルの細胞を個別に回収してCKAP4特異的CTLの誘導の有無をMHC−テトラマー法で確認した。この様な方法を用いることで、96ウェルU底細胞培養用マイクロテストプレートの何処のウェルにCKAP4特異的CTLが誘導されているかを確認した。
図23、図25にMLPC法にてCKAP4特異的CTLを誘導後、1段階目の確認を行った代表的な結果を示す。検体番号A24-37(図23)およびA24-39(図25)のPBMCをCKAP4特異的CTLエピトープ候補ペプチドの配列番号:43で14日間培養した。ドットプロット展開図中の数字は、展開図を四分割した領域を、UL(左上)、UR(右上)、LL(左下)、LR(右下)と表記した場合、(UR + LR)分のURの百分率を示す。X軸にCD8、Y軸にMHC−テトラマー試薬に対する蛍光強度をlogスケールで示したドットプロット展開図で示す。IYT-Tetで、配列番号:43の特異的CTLの誘導を確認したところ、検体番号A24-37ではlane 7の、A24-39ではlane 11のURに、明らかなCD8陽性IYT-Tet陽性の細胞集団が検出された。この事は、配列番号:43がCKAP4特異的CTLエピトープペプチドであり、検体番号A24-37およびA24-39の末梢血にメモリータイプのCKAP4特異的CTLが存在した事を示している。図24、図26にMLPC法で配列番号:43特異的CTLを誘導し、MHC−テトラマー法で検出した2段階目の結果を示す。図23、図25にてCKAP4特異的CTLの誘導が確認されたそれぞれのlaneにおいて、各ウェルのCKAP4特異的CTLの誘導の有無をMHC―テトラマー法で確認した結果を示した。その結果、図24に示す検体番号A24-37 lane 7のGウェル(7-G)と、図26に示す検体番号A24-39 lane 11のBウェル(11-B)で、配列番号:43特異的CTLが検出された。これらの事は、配列番号:43がHLA-A*24:02拘束性を示すCKAP4特異的CTLエピトープペプチドである事を証明している。検体番号A24-37および、A24-39において、それぞれ96ウェル中1ウェルで配列番号:43特異的CTLが検出されたことから、配列番号:43特異的CTLの末梢血PBMC中での存在比率は以下の式で算出される。
検体番号A24-37の配列番号:43特異的CTLの頻度
=(MHC−テトラマー試薬陽性ウェル数)/(実験に用いたPBMCの数×誘導前のCD8陽性率)
=1/(3×107×0.311)
=1.07×10-7

検体番号A24-39の配列番号:43特異的CTLの頻度
= 1/(3×107×0.155)
= 2.15×10-7
通常96ウェルのMLPC法にて特異的CTLが検出できる限界は、誘導前のCD8陽性細胞率を10〜20%と仮定した場合、1.6〜3.3×10-7となる。言い換えると、この場合の96ウェルのMLPC法において、検出される特異的CTLの標準的な割合は、3〜6×106個のCD8陽性細胞につき1個である。
Figure 2019110909
さらに、本発明は表8の通り、配列番号36、40、42、43を用いて、7人の供血者を対象に同様の検討を実施したが、配列番号:43以外では特異的CTLの検出はできなかった。配列番号:43でも7名中2名で検出できただけであった。このことは、CKAP4特異的HLA-A*24:02拘束性エピトープペプチドの予測が困難であり、そのエピトープペプチドが特異的CTLの誘導能を有するか予測することは、さらに困難であることを示している。
〔抗原提示細胞の調製〕
EBV感染B細胞株の調製
定法(Kuzushima K, Yamamoto M, Kimura H, Ando Y, Kudo T, Tsuge I, Morishima T. Establishment of anti-Epstein-Barr virus (EBV) cellular immunity by adoptive transfer of virus-specific cytotoxic T lymphocytes from an HLA-matched sibling to a patient with severe chronic active EBV infection. Clin Exp Immunol. 1996;103:192-198)に従い、EBV産生細胞株であるB95-8細胞(JCRB Cell Bankより入手)の培養上清(生EBVウイルスを含む)とPBMCを混合培養し、EBV感染B細胞株(Lymphoblastoid cell line、以下、EBV感染LCLと称する)を樹立した。
〔抗原提示細胞を用いた特異的CTLの増幅〕
前述の抗原提示細胞(EBV感染LCL)をパルス用培地(0.5%ヒト血清アルブミン/RPMI1640)あるいは、AIM-V medium (Invitrogen社)に浮遊させ、10 μg/mLの濃度でCTLエピトープ候補ペプチドを加え、およそ15分間隔で穏やかに混合させながら室温にて30〜60分間放置後、過剰量のパルス用培地にて3回洗浄し、HLA分子に未結合のペプチドを洗い流した。この操作を行う事で、抗原提示細胞上のHLA分子にCTLエピトープ候補ペプチドが結合すると考えられる。この操作を行った抗原提示細胞をペプチドパルス抗原提示細胞と呼ぶ。ペプチドパルス抗原提示細胞は、増殖能を失わせる為に、致死量のX線照射、またはマイトマイシン処理を行った。これを同一人物から誘導したCKAP4特異的CTLを含む細胞集団と混和し37℃、5% CO2恒温槽にて培養を行った。用いる培地は、10%ウシ胎児血清(FCS)含有RPMI1640培地、あるいは10%ヒト血清含有RPMI1640培地、または、1〜10%のヒト血漿含有RPMI1640培地等の検討を行ったが、本方法においては、5%ヒト血漿含有RPMI1640培地で良好な結果が得られた。T細胞の生存の維持と、増殖を補助する目的でIL-2(シオノギ製薬社)を50 U/mLで添加した。培養開始10〜16日後にCKAP4特異的CTL誘導の評価を実施した。CKAP4特異的CTLの誘導が確認できた場合は、更にペプチドパルス抗原提示細胞を用いて刺激を加えCTLラインを樹立した。
〔細胞内IFNγ産生細胞定量法による特異的CTLの機能解析〕
前述の方法で誘導したCKAP4特異的CTLを含む細胞集団の約1/10〜全量を96ウェルU底細胞培養用マイクロテストプレートに移し、誘導に用いたペプチドを最終0.1〜10 μg/mLの濃度で加えた。さらに細胞内蛋白輸送阻止剤(例えば、Brefeldin AやMonensin等)を加え、5% CO2恒温槽にて37℃で5〜16時間培養した。培養後、細胞を洗浄し、PE標識MHC−テトラマー試薬とPC5標識CD8抗体(Beckman Coulter社)を加え、室温にて15〜30分放置した。洗浄後、4%ホルムアルデヒドにて、4℃、15分固定後、過剰量の洗浄液にて洗った。0.1%サポニンにて膜透過処理後、FITC標識抗IFNγ抗体(MBL社製)を加え、室温にて15〜30分反応させた。洗浄後、フローサイトメーターを用いて、T細胞中のIFNγ陽性細胞率あるいはMHC−テトラマー試薬陽性細胞中のIFNγ陽性細胞率を定量した。
図27に誘導したCKAP4特異的CTLの細胞内IFNγ産生細胞定量法にて検討した結果を示す。検体番号A24-39のPBMCをHLA-A*24:02拘束性CKAP4特異的CTLエピトープペプチドである配列番号:43で刺激した。これを、PE標識MHC−テトラマー試薬(MBL社)、PC5標識CD8抗体、FITC標識IFNγ抗体で3重染色しフローサイトメーターを用いて解析した結果を示す。ドットプロット展開図中の数字は、四分割した領域に存在する細胞が全生細胞に占める百分率を示す。図27は、特異的ペプチドで刺激された場合にのみURにIFNγ陽性MHC−テトラマー試薬陽性細胞が出現し、ペプチドを加えない場合は殆ど出現しない。しかしながら、ペプチドを加えた場合と加えない場合のどちらの細胞集団にも、IYT-Tet特異的CTLが存在している事は、X軸にCD8、Y軸にMHC−テトラマー試薬に対する蛍光強度をlogスケールで示したドットプロット展開図で、URにCD8陽性MHC−テトラマー試薬陽性細胞集団を見れば明らかである。
この結果より、CKAP4特異的CTLエピトープペプチドを加えて培養したPBMC中には、再刺激によりIFNγを産生する細胞傷害活性を有するCKAP4特異的CTLが誘導され、この細胞はMHC−テトラマー試薬で染色される事からHLA-A*24:02拘束性CKAP4由来ペプチドIYTEVRELV(配列番号:43)に特異的なCTLであることが明らかになった。
本発明により、エプスタイン-バールウイルスに特異的な細胞傷害性T細胞エピトープペプチドを用いたEBVの感染および同ウイルス陽性の癌を治療又は予防することができる。また、EBVに特異的なCTLの定量が可能となる。また、本発明のIYTEVRELV(配列番号:43)の配列からなるHLA-A*24:02拘束性エピトープペプチドを用いることによって、CKAP4を高発現する悪性腫瘍細胞に依拠する疾患の治療が可能となる。

Claims (16)

  1. 配列番号:43に記載のアミノ酸配列からなる、CKAP4に特異的なCTLエピトープペプチド。
  2. 配列番号:43に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加された、CKAP4に特異的なCTLエピトープペプチド。
  3. HLA-A*24:02分子拘束性の抗原ペプチドであって、HLA-A*24:02分子との複合体を細胞表面に提示する細胞を特異的に認識するT細胞受容体を有するCTLを誘導することを特徴とする、請求項1又は2のいずれかに記載のエピトープペプチド。
  4. 請求項1〜2のいずれかに記載のエピトープペプチドをコードする核酸。
  5. 請求項1〜2のいずれかに記載のエピトープペプチドをコードする核酸を含む発現ベクター。
  6. 請求項1〜2のいずれかに記載のエピトープペプチドを有効成分として含む、がん治療又は予防のためのワクチン。
  7. 請求項4〜5のいずれかに記載の核酸又は発現ベクターを有効成分として含む、がん治療又は予防のためのワクチン。
  8. 請求項1〜2のいずれかに記載のエピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞を有効成分として含む、がん治療又は予防のためのワクチン。
  9. 請求項1〜2のいずれかに記載のエピトープペプチドもしくは該エピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激して得られるCKAP4特異的なCTLを有効成分として含む、がん治療のための受動免疫療法剤。
  10. 請求項1〜2のいずれかに記載のエピトープペプチドから調製した主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーと末梢血リンパ球とを接触させ、該主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーにCTLが結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られるCTLを有効成分として含む、がん治療のための受動免疫療法剤。
  11. 請求項1〜2のいずれかに記載のエピトープペプチドで対象由来の末梢血を刺激する工程、
    前記工程により生じたCKAP4に特異的なCTLを取得する工程、及び
    該取得したCTLが産生するサイトカイン及び/又はケモカイン及び/又は細胞表面分子を測定する工程、
    を含む、CKAP4に特異的なCTLの定量方法。
  12. 請求項1〜2のいずれかに記載のエピトープペプチドから主要組織適合性抗原複合体−テトラマーを調製する工程、及び
    主要組織適合性抗原複合体−テトラマーと対象由来の末梢血とを接触させる工程
    を含む、該末梢血中のCKAP4に特異的なCTLの定量方法。
  13. 請求項1〜2のいずれかに記載のエピトープペプチドと、対象由来の末梢血単核球を接触させる工程を含む、CKAP4特異的CTLの誘導方法。
  14. 請求項1〜2のいずれかに記載のエピトープペプチドもしくは該エピトープペプチドをHLAに提示した抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激してCKAP4特異的なCTLを取得する工程を含む、がん治療のための受動免疫療法剤の製造方法。
  15. 請求項1〜2のいずれかに記載のエピトープペプチドから調製した主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーと末梢血リンパ球とを接触させる工程、
    該主要組織適合性抗原複合体及び/又は主要組織適合性抗原複合体−テトラマーにCTLが結合した結合体を形成させる工程、及び
    該結合体から単離して得られるCTLを取得する工程
    を含む、がん治療のための受動免疫療法剤の製造方法。
  16. 請求項1〜2のいずれかに記載のエピトープペプチドから調製した主要組織適合性抗原複合体に特異的な抗体。
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