本願で開示するデータ解析装置は、発光する部分を有する生体分子の1分子レベルの光学像を取得可能な光学イメージング装置と、前記光学像における前記発光を1分子レベルで検出する発光検出部と、検出された前記発光の強さを測定結果数値として算出する結果算出部とを備え、所定の移動分離手段によって分離された状態の前記生体分子の総体を測定対象試料として前記光学イメージング装置により順次走査しながら観察し、得られた前記測定結果数値と当該測定結果数値を取得した取得タイミングとに基づいて、前記生体分子のデータ解析を行うデータ解析部を備える。
本開示にかかるデータ解析装置は、上記構成を備えることで、測定対象試料である生体分子の総体について、所定の条件で分離された状態を1分子レベルの光学像を取得可能な光学イメージング装置で順次走査しながら観察することによって、分離条件に対応して存在する生体分子の量を把握することができる。このため、一連の操作での観察結果に基づいて、生体分子の総体についてのデータ解析を行うことができる。
本願発明において、「生体分子の総体」とは、プロテオーム、トランスクリプトーム、ゲノム、メタボロームなどあらゆるオミックスであり、1分子検出が可能な生体分子の総体である。
本願において、「1分子」とは、前記の「1分子生物学」や「1分子イメージング」の概念における「1分子」の意味と同義である。従って、生体分子の総体がプロテオームの場合は、タンパク質1分子、または多量体タンパクの1サブユニットである。一般的なタンパク質1分子の物理的なサイズは、直径が数nmの球状である。
生体分子の総体がゲノムDNAである場合、「1分子」とは、ある制限酵素で切断された一定の長さのDNAフラグメントである。例えばヒトゲノムを構成するDNA2重螺旋の物理的なサイズは、幅約2nm、長さ約1mの紐状である。これを各種の制限酵素で数百〜数百万のフラグメントに切断して解析を行う。
生体分子の総体がトランスクリプトームである場合、「1分子」とは、遺伝子転写産物(mRNA)の1分子である。一般的な遺伝子転写産物(mRNA)1分子のサイズは、幅約0.3nm、長さ10〜5000nmの紐状である。DNAフラグメントに比べると、トランスクリプトームの1分子は物理サイズが小さいことが多いが、1分子イメージングは可能である。
生体分子の総体がメタボロームである場合、生体内の代謝産物(メタボライト)には、タンパク質、RNA、DNAのほか、脂肪酸、アミノ酸、その他の有機酸、糖など種々の低分子化合物も含まれるが、「1分子」とは、上記のメタボライトのうち本願所定の移動分離手段によって移動分離が可能なものであり、かつ、光学イメージング装置の観察系の空間分解能を考慮して「1分子」の検出が可能な生体分子である。
プロテオーム解析の場合、本願所定の「生体分子の総体」として想定されるのは、少なくとも10種類以上のタンパク質分子または多量体構成タンパクのサブユニットを含む試料である。発現タンパクの網羅的解析という観点から少なくとも10種類以上の同時解析は必要であると考えられる。この場合において、本願開示のデータ解析装置は、少なくとも10種類以上のタンパク質分子または前記サブユニットを、1分子定量で、一度に解析することができるプロテオーム解析装置として機能する。
トランスクリプトーム解析の場合、本願所定の「生体分子の総体」として想定されるのは、上記と同様の理由から、少なくとも10種類以上の遺伝子転写産物(mRNA)分子を含む試料であり、この場合において、本願開示のデータ解析装置は、少なくとも10種類以上の遺伝子転写産物(mRNA)を、1分子定量で、一度に解析することができるトランスクリプトーム解析装置として機能する。
ゲノム解析の場合、本願所定の「生体分子の総体」として想定されるのは、上記と同様の理由から、少なくとも100種類以上の前記のDNAフラグメントを含む試料であり、この場合において、本願開示のデータ解析装置は、少なくとも100種類以上のDNAフラグメントを、1分子定量で、一度に解析することができるゲノム解析装置として機能する。
メタボローム解析の場合、本願所定の「生体分子の総体」として想定されるのは、上記と同様の理由から、少なくとも10種類以上のメタボライトを含む試料であり、この場合において、本願で開示するデータ解析装置は、少なくとも10種類以上のメタボライトを、1分子定量で、一度に解析することができるメタボローム解析装置として機能する。なお、そのほかのオミックス解析の場合も上記同様である。
その他のオミックス解析においても、上記と同様の理由から、本願所定の「生体分子の総体」としては、網羅的データ解析という本願発明の目的に見合った適切な種類数の生体分子を含む試料が想定される。
生体内での分子濃度のダイナミックレンジは、タンパク質分子がおおよそ1011(100fM〜10mM)、mRNA分子がおおよそ105(100fM〜10nM)、メタボロームがおおよそ1011(100fM〜10mM)である。本願開示のデータ解析装置は、1分子感度であることから、従来法では検出限界以下であった分子のデータも確実に拾うことができ、網羅的なオミックス解析が可能となる。
本願で開示するデータ解析装置において、「1分子レベルでの光学像を取得」とは、前記の「1分子イメージング」とおおよそ同義であるが、従来法においては、観察対象の生体分子の種類ごとに発光波長の異なる発光指標でラベルし、1分子のダイナミクスを観察することが主眼であったのに対し、本願では、後述する全分子種ラベルのプロトコルによって、生体分子の総体に対し、種類を問わず、各分子一律に、同一の発光指標でラベルし、各分子の個数・濃度を定量化することが主眼としている点が新しい。励起光の照射光学系としては、エバネッセント光を用いた全反射照明が1分子レベルの蛍光測定に有利であるが、その限りではなく、広視野照明やライトシート照明などの光学系を用いることもできる。
本願で開示するデータ解析装置において、「1分子レベルで検出する発光検出部」とは、1分子の生体分子からの発光を検出可能である発光検出部である。このような発光検出部としては、光学像の視野を画像データとして取得する撮像部を用いてもよく、この撮像部にCCDやCMOSなど、十分に感度の高い撮像デバイスを用いることにより、発光検出部における1分子検出が可能となる。また、本願開示のデータ解析装置では、発光指標の二次元的位置情報が不要な場合には、フォトマル(光電子増倍管)やフォトセルなどの高感度な受光デバイスを発光検出部として用いることもできる。なお、「1分子レベル」は「検出感度が1分子である」と同義である。
本願で開示するデータ解析装置において、「所定の移動分離手段」とは、生体分子の総体を、その生体分子が有する性質に応じて成分分離する手段である。
このような移動分離方法の例として、電気泳動法やクロマトグラフィー法がある。電気泳動装置は、生体分子の総体を、電荷や質量に応じて電界中を移動させて成分分離する。クロマトグラフィー装置は、生体分子の総体を、大きさ、吸着力、電荷、質量、疎水性などの違いを利用し、カラム中を移動させて成分分離する。
本願で開示するデータ解析装置において、「光学像」は、拡大像であってよく、縮小像または等倍像であってもよい。一態様において、光学像は、1分子観察が可能な倍率まで拡大された拡大像である。別の態様において、光学像は、1分子レベルの観察が可能な等倍像である。また別の態様において、光学像は、1分子レベルの観察が可能な縮小像である。
本願で開示するデータ解析装置において、「発光する部分」は、所定の波長の励起光を照射した際に蛍光を発光する「蛍光性指標」の発光であってよく、化学発光(化学ミネッセンス)や生物酵素発光(バイオルミネセンス)による「発光性指標」の発光であってもよい。または、この「発光する部分」は、所定の波長の光を照射した際に観察されるラマン散乱光による発光であってもよい。
「発光する部分」が蛍光性指標の発光である場合、観察対象の生体分子に蛍光性指標を標識して観察する蛍光解析の手法を用いて、多種類の生体分子を観察対象とすることができる。「発光する部分」が化学発光による発光性指標の発光である場合も、同様に、観察対象の生体分子に発光性指標を標識して観察する公知の解析手法を用いて、多種類の生体分子を観察対象とすることができる。
本発明では、後述するように、生体分子の総体の全分子種ラベルを行うプロトコルを開示している。ここで、本願において「全分子種ラベルを行う」とは、生体分子の総体を構成する各々の分子に対して、その特異性を問わず、網羅的に、蛍光性指標(蛍光ラベル)や発光性指標等により対象分子を標識化(ラベル化)することをいう。
本発明者らは、細胞のライセートに一般的な1分子標識のプロトコルを試したところ、生体分子の性質(分子量等)によってラベル化率に多少ばらつきを生じるものの、生体分子の総体を構成する全分子種を網羅的にラベル化できることを確認した。例えばプロテームを対象とする場合、ほぼどのタンパク質も持っているフリーのアミノ基などをターゲットとしてラベル化を行えば、染まらないタンパク質は殆どない。1分子の生体分子に結合するラベル化分子の数は生体分子の分子種毎に異なり、一般的に1分子の生体分子に対し1〜100個のラベル化分子が結合しうるが、1分子イメージングにおいては、結合する指標(ラベル化分子)の数にかかわらず、1分子の生体分子は1つの発光スポットとして検出されるので、正確な定量を行うことができる。また、1分子の生体分子に結合したラベル化分子の数はスポット毎の発光強度やブリンキング、分布から求めることが可能である。例えば、タンパク質1分子に結合したラベル化分子の数が求まれば、当該タンパク質が有するフリーのアミノ基の数を求めることができ、タンパク質同定の際の付加情報とすることができる。
「発光する部分」がラマン散乱光による発光の場合にも、同様に、公知の解析手法を用いて、多種類の生体分子を観察対象とすることができる。本願開示の装置が測定対象とするタンパク質、ゲノムDNA、RNAなどの生体分子は、総じてラマン活性を有するため、この場合も、全分子検出が可能である。
上記本開示のデータ解析装置において、前記データ解析部が、前記測定結果数値と前記取得タイミングとの相関を表す測定対象試料のスペクトルデータを作成し、作成された前記スペクトルデータを既存のスペクトルデータと比較して前記測定対象試料の状態のデータ解析を行うことが好ましい。このようにすることで、測定対象試料の各分子種の定量解析を経ずに、生体分子の種類とそれが含まれる量とを示す分布パターンの比較にのみ基づいて、試料における測定対象試料の状態を判別することができる。
この場合において、所定のデータを記憶するデータ記憶部をさらに備え、前記データ記憶部が前記既存のスペクトルデータを記憶するとともに、新たに測定された測定対象試料の前記スペクトルデータを追加して記憶することが好ましい。このようにすることで、データ解析部における測定対象となる生体分子の種類と量との分布パターンに基づくデータ解析を容易にかつ精度良く行うことができる。
また、上記本開示のデータ解析装置において、前記データ解析部はプロセッサを有していてよく、多数のデータについて機械学習(人工知能エンジン)を用いて前記測定対象試料の状態の分類整理を行うことで、診断精度を自動的に向上させることができるようにしてよい。プロセッサは、CPU、GPU、FPGA等任意の論理回路を構成するものであってよく、機械学習のアルゴリズムを動作させるために好適に用いられるものであってよい。また、上記本開示のデータ解析装置において、データ解析部は、マイコンその他の論理回路を備えたデータ処理手段として構成されていてもよい。更には、上記本開示のデータ解析装置におけるデータ解析部として特有のデータ処理手段を構成しなくても、パーソナルコンピュータを用いて所定の演算を行う形でデータ解析部の機能を果たすことができる。機械学習アルゴリズムの例については、(実施形態)においてより詳細に記載する。
なお、上記開示のデータ解析装置において、データ記憶部は、物理的サーバに限られず、例えば、クラウドコンピューティングによって、クラウド上のサーバに記憶データを保管するものであってもよい。この場合、クラウドサーバは、前記既存のスペクトルデータを記憶するとともに、上記本開示のデータ解析装置によって新たに測定された測定対象試料の前記スペクトルデータを追加して記憶し、前記データ解析部からの求めに応じ、記憶データを本開示のデータ解析装置の各部に転送する。
また、上記本開示のデータ解析装置において、前記データ解析部が、前記取得タイミングに対応する前記測定対象試料の分離条件を指標値として求め、前記指標値と前記測定結果数値とに基づいて前記生体分子の定量プロファイリングを行うこともできる。このようにすることで、定量解析などによってあらかじめ判明した指標値を用いて、測定対象となる生体分子の各分子種について種類毎の定量的データ解析を行うことができる。
この場合において、所定のデータを記憶するデータ記憶部をさらに備え、前記データ記憶部が、前記指標値が表す前記生体分子の種類を記憶することが好ましい。このようにすることで、データ解析部における生体分子の種類毎の定量プロファイリングを容易に行うことができる。
また、前記光学像を撮像して画像データを作成する撮像部をさらに備え、前記発光検出部が前記画像データから前記発光を検出することが好ましい。このようにすることで、光学イメージング装置で取得された光学像から観察対象試料の発光の強さをデータ化するに当たって、光学イメージング装置の画像解析に一般的に用いられる撮像装置を利用して行うことができ、既存のデータ処理プログラムなどを適宜利用することが可能となる。
さらに、前記データ解析部がデータ解析した前記測定対象試料のデータ解析結果を出力するデータ出力部をさらに備えることが好ましい。このようにすることで、測定結果数値と取得タイミングとの関係を示すスペクトルデータや、測定試料を採取した被験者の状態などを、画像表示手段の表示画像やプリンターによって紙媒体に表してユーザにわかりやすく提供したり、得られたデータを他の機器でより発展的に使用したりすることができるようになる。
また、本願で開示する解析装置は、移動分離手段を更に備えることが好ましく、このような移動分離手段の一例として、電気泳動法によって前記生体分子の総体を分離する移動分離手段、または、クロマトグラフィー法によって前記生体分子の総体を分離する移動分離手段が挙げられる。
これらの移動分離手段は、移動分離部としてカラムやキャピラリーなどを有している。生体分子の総体を構成する各分子は、光学イメージング装置による走査観察の際に発光検出部による1分子検出が可能となるように、当該移動分離部において各々十分に離れたスポットに分離されることが望ましい。ただし、本願開示のデータ解析装置は、前述のとおり、構成分子のバラエティを10種類以上からとしており、移動分離部における移動距離があまり長いと、光学イメージング装置による走査観察が困難となる。また、移動分離部における移動距離があまり長いと、そもそも移動分離自体にも高圧負荷が必要となり、解析時間も長びく。
このため、移動分離手段における移動分離部の長さは、好ましくは、26mm以上、12m以下であり、28mm以上、10.5m以下であってもよく、30mm以上、10m以下であってもよい。なお二次元電気泳動の場合、「移動分離部の長さ」とは、一辺の長さであり、他辺の長さは上記の範囲を下回っていてもよい。
このようにすることで、生体分子の分離に用いられる電気泳動法やクロマトグラフィー法などの所定の移動分離手段を用いて、試料の分離からデータ解析までの一連の作業を実施することができるデータ解析装置を得ることができる。
さらに、本願で開示するデータ解析装置は、前記の蛍光性指標、または、発光性指標が付され分離された状態で保存されていた前記生体分子の総体を前記測定対象試料としてデータ解析を行うことができる。
また、本願で開示するデータ解析装置は、前記データ解析装置を構成する各部の動作を制御する制御部をさらに備え、前記制御部が、前記各部を制御して前記生体分子の総体のデータ解析を自動的に行うことが好ましい。このようにすることで、分離された状態の試料から、データ解析結果を自動的に取得することができる生体分子のデータ解析装置として実現することができる。
なお、この制御部自体もプロセッサを備えていてよい。また、制御部は、前記データ解析部が有するプロセッサと相互に連動するものであってよい。
さらに、本願で開示するコンピュータプログラムは、上記本願で開示したデータ解析装置において、コンピュータを一連のデータ解析作業のために装置全体を動作させる制御部として機能させて、前記生体分子の総体のデータ解析を自動で行わせるものである。
このようなコンピュータプログラムは、汎用性のあるコンピュータを用いて、本願で開示するデータ解析装置を自動的に動作させることができる。
また、本願で開示する記憶媒体は、本願で開示する上記コンピュータプログラムが記録され、コンピュータによる読み込みが可能なものである。
このような記憶媒体によって、コンピュータで容易にデータ解析装置全体の制御を行わせることができる。
さらにまた、本願で開示するデータ解析方法は、発光する部分を有し、所定の移動分離手段によって分離された生体分子の総体を前記生体分子の1分子レベルでの光学像を取得可能な光学イメージング装置で順次走査しながら観察し、前記光学像から前記発光を1分子レベルで検出し、当該発光の強さを測定結果数値として算出して、前記測定結果数値と当該測定結果数値を取得した取得タイミングとに基づいて、前記生体分子のデータ解析を行うものである。
本開示にかかるデータ解析方法によれば、測定対象試料である生体分子の総体について、所定の条件で分離された状態を1分子レベルの光学像を取得可能な光学イメージング装置で順次走査しながら観察することによって、分離条件に対応して存在する生体分子の量を把握することができ、観察結果に基づいて、測定対象試料の総体の状態についてのデータ解析を行うことができる。
(実施の形態)
以下、本開示にかかるデータ解析装置、このデータ解析装置を動作させるためのコンピュータプログラム、さらに、このプログラムを記録する記録媒体、さらに、データ解析方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態にかかるデータ解析装置、データ解析方法は、タンパク質、ゲノムなどの生体分子の総体を対象物として、簡易に、かつ、短時間でデータ解析することが可能である。
なお、本願で開示する発明において、光学イメージング装置は光学顕微鏡であり、観察対象となるのは、蛍光性指標により標識された生体分子である。
以下の実施形態の説明では、最も一般的な蛍光性指標により標識された生体分子のデータ解析を中心に説明する。
[データ解析装置の構成]
図1は、本実施形態にかかるデータ解析装置の概略構成を説明するためのブロック図である。
なお、図1においては、本実施形態にかかるデータ解析装置について、それぞれが果たす機能の内容に応じてブロックとして分割して示したものであり、図1の各ブロックの区分は、実際のデータ解析装置を構成する各部材の物理的な区分とは必ずしも一致しない。例えば、図1に示す複数のブロックの機能を果たす一つの電気回路が構成されることがあり、また、図1に記載された1つのブロックが、複数のデバイスの集合体としてデータ解析装置内で機能することがある。
図1に示すように、本実施形態にかかるデータ解析装置100は、蛍光性指標が付された生体分子が電気泳動法またはクロマトグラフィー法によって分離された状態となっている測定対象試料10を、順次走査しながら1分子レベルでの拡大像を取得可能な光学顕微鏡11、光学顕微鏡11により取得された拡大像から測定対象試料10における蛍光性指標の発光を1分子レベルで検出する発光検出部12、発光検出部12で検出された測定対象試料10の発光の強さを測定結果数値として算出する結果算出部13、さらに、結果算出部13で得られた測定結果数値とその取得タイミングとに基づいて、測定対象試料10のデータ解析を行うデータ解析部14とを有している。
光学顕微鏡11で得られた測定対象試料10の拡大像を、撮像画像データとして取得する撮像部12aを有している場合には、撮像部12aは発光検出部12の一部となる。
また、本実施形態にかかるデータ解析装置100では、蛍光性指標が付された生体分子を分離する移動分離手段15を備えることができる。この場合には、蛍光性指標が付された生体分子の電気泳動法またはクロマトグラフィー法による分離を行いつつ、分離された状態の測定対象試料10を光学顕微鏡11で観察してデータ解析が行われる。なお、後述のように、本実施形態にかかるデータ解析装置100は、移動分離手段15を構成要件としては有さずに、別途用意された分離された状態の測定対象試料10に対してデータ解析を行うという形態を採り得る。
データ解析装置100は、光学顕微鏡11、発光検出部12、結果算出部13、データ解析部14、データ解析装置100に含まれる場合は移動分離手段15の各部の動作を制御して、測定対象試料10に対する一連のデータ解析動作を行う制御部16を備えることができる。また、データ解析装置100は、データ解析部14でのデータ解析を行うために必要な情報や、新たな測定対象試料10のデータ解析結果をデータとして蓄積することができるデータ記憶部17、さらに、データ解析部14でのデータ解析結果をデータ解析装置100のユーザに報知したり、外部の機器などにデータとして送出したりするデータ出力部18を備えることができる。
[測定対象試料]
本実施形態にかかるデータ解析装置100がデータ解析対象とする測定対象試料10は、細胞、または、細胞からの分泌物などから得られた、タンパク質、ゲノム、DNA、RNAなどの生体分子の総体である。
ここで総体とは、測定対象とする生体分子を複数種類含んだ状態のものを意味し、例えば、データ解析対象の生体分子がタンパク質の場合に、従来のプロテオーム解析のデータ解析対象とされているもの、すなわち、上述した従来のプロテオーム解析では、データ解析の第1段階である電気泳動法や液体クロマトグラフィー法などの分離方法による分離前の状態のものを指す。
なお、測定対象試料を抽出した細胞などに含まれている、測定対象となる分子種のすべての生体分子が含まれていることが総体と称するための必要条件となるのではなく、例えば、被験者の細胞や細胞分泌物からデータ解析の対象となる生体分子を選別することなく総体として取り出す際に、取り出し方法に起因して取り出すことができなかった一部の生体分子が欠如していても、測定対象の生体分子の総体と称することに支障はない。また、例えば、タンパク質をデータ解析するプロテオーム解析を行う場合に、測定対象試料10をデータ解析装置100のデータ解析対象であるタンパク質の総体と称する上で、タンパク質以外の生体分子が含まれていてもよいことは言うまでもない。
[光学顕微鏡]
光学顕微鏡11は、対物レンズを有して測定対象物を光学的なレンズ作用により拡大して観察することを可能とする顕微鏡であり、SEM、TEMなどの電子顕微鏡をのぞく概念である。
本実施形態にかかる光学顕微鏡11は、測定対象試料10である生体分子1分子レベルの検出が可能なものであり、観察に十分な感度を備えると共に、一般的に数倍から数百倍程度の拡大倍率を有している。一例として、例として開口数NA=1.49以上、倍率60倍の対物レンズを用いた観察が挙げられる。
光学顕微鏡11は、測定対象試料10に含まれる蛍光性指標を発光させるための励起光を照射する機能を有している。励起光の照射光源としては、サファイヤレーザーやYAGなどの固体レーザー、その他各種の半導体レーザーなどのレーザー光源を用いることができる。また、水銀ランプ、キセノンランプといった高圧放電灯などの周知の発光光源を用いることができ、音響光学素子フィルタ(Acousto−Optic Tunable Filter:AOTF)などの光量調整手段を適宜備えることが好ましい。励起光の波長は、用いられた蛍光性指標が求める波長に対応させて、例えば、500nm近傍の発光帯域を持つAlexaFlour488(商品名、登録商標)を用いる場合は、励起光の波長は485〜488nm、580nm近傍の発光帯域を持つテトラメチルローダミンを用いる場合は、励起光の波長は561nmなどとする。このように、複数種類の蛍光性指標に対応できるように、複数の波長の励起光源を備えておくことが好ましい。
励起光の照射光学系としては、1分子レベルの蛍光測定に有利であるためにいわゆる1分子顕微鏡で使用されるエバネッセント光を用いた全反射照明を採用することができる。なお、本実施形態にかかるデータ解析装置100では、分離された状態の生体分子に標識された蛍光性指標の発光全体を拡大像としてとらえる必要がある。特に、分離手段としてゲル電気泳動法やキャピラリー電気泳動法、液体クロマトグラフィー法(LC)などを用いた場合には、励起光をエバネッセント光として照射すると顕微鏡視野の深さ方向において、全体の蛍光性指標を励起できない場合が生じる。このため、広視野照明型、シート照明型など、エバネッセント照明型以外の励起光が照射できる励起光学系を、選択された分離手段に伴う観察深度の深浅に対応させて備えることが好ましい。また、複数種類の励起光が照射できる照射光学系を備えた構成とすることもできる。
光学顕微鏡11は、オートフォーカス光の照射や撮像画像のコントラストからフォーカス状態を把握して対物レンズ位置を微調整するオートフォーカス機能、測定対象試料が載置された観察テーブルをX軸方向、Y軸方向の2次元方向に自動で移動させることができる機能など、光学顕微鏡が一般的に備えている各種機能を備えることができる。
[発光検出部]
発光検出部12は、光学顕微鏡11によって観察された測定対象試料10の拡大像における蛍光性指標の発光を1分子レベルで検出する部材である。
発光検出部12としては、光学顕微鏡11に備えられ、観察している試料の拡大像をモニタで表示可能とするために、顕微鏡視野を画像データとして取得するCCDやCMOSなどの撮像デバイスによる撮像部12cを用いることができる。特に、高感度でかつ高倍率の電子像倍型CCD(EM−CCD:Electoron Multiplying CCD)は、1分子レベルの生体分子に標識された蛍光性指標の発光の検出に好適である。また、冷却CCDカメラまたはCMOSカメラを用いてもよい。撮像部12aにより取得された画像データをデータ解析して輝点の有無を判定することによって、その画像データが取得された取得タイミングにおける蛍光性指標の発光を検出することができる。
また、本実施形態にかかるデータ解析装置100では、光学顕微鏡11により取得された測定対象試料10の拡大像における蛍光性指標の二次元的な位置やその動きを把握する必要はない。このため、光学顕微鏡11の拡大された画像を観察する部分に、フォトマル(光電子増倍管)やフォトセルなどの高感度な受光デバイスを配置して、発光検出部12とすることができる。
なお、後述のように、測定対象試料に2種類の蛍光性指標を付着させる場合には、それぞれの発光を波長によって分離して検出することとなる。
[結果算出部]
結果算出部13は、発光検出部12により検出された光学顕微鏡11の拡大像における蛍光性指標の発光強度を算出し、測定結果数値として出力する。
発光検出部12が、CCDカメラなどの撮像部12aを用いている場合は、取得された撮像画像の画像データに対して画像解析を行って、視野内に含まれる蛍光性指標の輝点の数をカウントしてその数を測定結果数値とすることができる。また、複数の蛍光性指標が集まっているために発光輝度が他よりも高い輝点がある場合には、その輝度から集まっている蛍光性指標の数を推定して積算することにより、測定結果数値を求めることができる。
一方、発光検出部12が上述のような受光デバイスである場合には、当該デバイスから出力される輝度信号の値が測定結果数値に対応するものとなる。
[データ解析部]
データ解析部14は、結果算出部13で算出された測定結果数値と、その測定結果数値が取得された取得タイミングとを関連づけて、測定対象試料10のデータ解析を行う。
本実施形態のデータ解析装置100では、所定の方法で分離された状態の測定対象試料10に対して光学顕微鏡11を順次走査しながら拡大画像を取得し、拡大画像から得られた測定結果数値と、その測定結果数値を算出した拡大画像の取得タイミングの関係から、測定対象試料に含まれる生体分子のデータ解析を行う。
光学顕微鏡11の拡大観察光学系の視野内に順次捕らえられた拡大画像は、光学顕微鏡11が分離された状態の測定対象試料10を走査しながら観察したものであるため、たとえば、光学顕微鏡11が測定対象試料10に対して一方向に走査(一次元走査)された場合、相対的な走査速度と拡大画像の取得タイミング間の時間を掛け合わせることで、分離された測定対象試料10における観察位置が求まる。
また、光学顕微鏡11が測定対象試料10に対して2次元に走査された場合は、走査された際の軌跡と拡大画像の取得タイミングとから、2次元に分離された測定対象試料10のどの部分を観察して得られた拡大画像かを把握できる。
さらに、例えば、測定対象試料10が、分離された状態で所定の条件にしたがってマルチウェルの各ウェル内に収容されたものである場合には、マルチウェルの各ウェルに対する観察順序を把握することで、順次観察された拡大画像が、どのウェル内の試料を拡大観察したものかが判明する。
また、分離された状態の測定対象試料10と光学顕微鏡11とが、空間的に走査された場合ではなく、光学顕微鏡11の観察視野内を分離条件に従って測定対象試料が順次通過する場合には、取得タイミングそのものがそのまま測定結果数値を算出した試料の分離条件となる。
このように、本実施形態にかかるデータ解析装置100では、分離された状態の測定対象試料10に対して順次走査されて光学顕微鏡11が観察した拡大画像から、生体分子の量を表す測定結果数値と、分離条件を表す当該測定結果数値を取得した取得タイミングとの関係から、測定の対称となる生体分子の分離条件に基づいてのデータ解析を行うことができる。
データ解析部14が把握する測定結果数値の取得タイミングは、連続して測定結果数値が得られている場合には測定時刻、または測定開始時刻からの経過時間のデータとして把握される。また、測定結果数値が断続的に得られる場合には、データの取得順序を測定結果数値の取得タイミングとして把握することができる。このため、図1での図示は省略するが、本実施形態にかかるデータ解析装置100では、データ解析部14自体、または、光学顕微鏡11、発光検出部12、結果算出部13のいずれかの部材に、測定結果数値が得られた時刻を把握する現在時刻データ取得手段、または、タイマー手段、および、測定結果数値を取得した順序を把握するためのカウント手段の少なくともいずれかを有している。なお、データ解析部14が、取得タイミングを示すデータを取得することができる外部の装置として、これらの取得タイミングを示す情報提供手段を備えることもできる。
なお、データ解析部によるデータ解析手法と、データ解析結果の詳細については、本実施形態にかかるデータ解析方法として後に詳述する。
このようなデータ解析部14は、得られたデータに基づいてその内容をデータ解析する機能を果たすために、マイコンや論理回路を備えたデータ処理手段として構成できる。また、データ解析部14として特有のデータ処理手段を構成しなくても、パーソナルコンピュータを用いて所定の演算を行う形でデータ解析部14の機能を果たすことができる。
[移動分離手段]
本実施形態にかかるデータ解析装置100において、測定対象試料10について、総体として取得したものを分離する移動分離手段15は、必須の構成要件ではない。
例えば、データ解析装置100とは別に設けられた移動分離手段15によって、測定対象試料10を分離し、分離した状態を維持して本実施形態にかかるデータ解析装置100を用いて光学顕微鏡11による走査を行って、生体分子のデータ解析を行うことができる。
一方、測定対象試料10を分離する移動分離手段15を、本実施形態にかかるデータ解析装置100の一構成要件とすることで、測定対象となる生体分子をデータ解析装置100の所定部分に供給するだけで、測定対象試料の分離と、分離された測定対象試料10のデータ解析とを一連の動作で実行することかできる全自動のデータ解析装置100を構成することができる。
データ解析装置100によってプロテオーム解析を行う場合、移動分離手段15としては、電気泳動装置を用いることができる。移動分離時の試料の移動距離は、電気泳動装置の泳動カラムやキャピラリーの長さによって決定されるが、高濃度試料の場合であっても、後の走査観察の際に発光検出部における1分子検出が保障されるよう、十分な長さをもって設計される。
高濃度試料でなくても、生体由来試料であるから、一定のPH値付近に複数種類のタンパク質分子が局在する場合もある。また、生体を構成するタンパク質の分子量は、1kD未満から260kD程度と様々であるが、生体内で重要な働きを担うタンパク質はしばしば20kD以下で互いに近接した分子量を有しており、そのようなプロテオーム試料の解析の際には、低分子量付近の泳動スポットが過密になることがある。
観察系の空間分解能は一般に半波長程度と考えられており、可視光による観測の場合、光の回折限界から空間分解能はおおよそ200nm程度と考えられることから、これを考慮し移動距離を設計することが望ましい。そのため、電気泳動装置における移動分離部の長さは、好ましくは26mm以上、12m以下に設計され、28mm以上、10.5m以下であってもよく、30mm以上、10m以下であってもよい。トランスクリプトーム解析、ゲノム解析、メタボローム解析においても、上記と同様の理由から、当該移動分離手段における移動分離部の長さは、26mm以上、12m以下として良く、28mm以上、10.5m以下であってもよく、30mm以上、10m以下であってもよい。その他のオミックス解析の場合も同様である。
なお、本実施形態にかかるデータ解析装置100では、測定対象試料の分離方法として複数の手法を採用することができる。このため、データ解析装置100が備える移動分離手段15は、それぞれの分離方法に応じて異なるものとなる。これらの分離方法と分離手段の構成については、後に詳述する。
[制御部]
データ解析装置100の構成要件として移動分離手段15を含む含まないに関わらず、光学イメージング装置11による測定対象試料10の観察と、測定結果数値の取得、さらに、測定結果数値と測定タイミングとの関連に基づいたデータ解析部14でのデータ解析までを一連の動作とするために、データ解析装置100は、各部材の動作を制御する制御部16を備えることが好ましい。
例えば、データ解析装置100が移動分離手段15を含んだ自動データ解析装置である場合には、制御部16は、ユーザによるデータ解析開始の指示に基づいて、移動分離手段15による測定対象試料の分離を開始し、分離された状態の測定対象試料10に対して、観察ステージを動作させるなどして光学顕微鏡11を測定対象試料10に対して順次走査して、拡大画像を得る。
制御部16は、発光検出部12を経て結果算出部13で得られた測定結果数値と、その取得タイミングに基づいて、データ解析部14で測定データのデータ解析を行わせる。
なお、データ解析装置100が移動分離手段15を含んでおらず、分離された状態の測定対象試料のデータ解析を自動的に行うものである場合には、分離された状態の測定対象試料10がデータ解析装置100の所定部分にセットされた後に、ユーザがデータ解析開始の指示を行うことで、光学顕微鏡11による相対的な走査が開始される。
[コンピュータプログラム、記録媒体]
このような制御部16は、データ解析装置100の各部を制御するためのプログラムで動作するコンピュータとして構成することができる。データ解析装置100全体の動作を制御する制御部16を適宜書き換え可能なプログラムで動作するコンピュータで構成することで、測定対象試料10や、移動分離手段15における分離方法、また、データ解析部14におけるデータ解析処理内容の変更や追加にも容易に対応することができる。
また、制御部16を所定のプログラムで動作するコンピュータで構成する場合には、プログラムを記録媒体に記録することが好ましい。記録媒体としては、記録されたプログラムを読み出すためのROM形式、プログラムの修正、改善が可能なRAM形式のいずれの形式も使用可能であり、CDやDVD、BDなどの光学ディスク、各種の半導体メモリカード、また、ハードディスクや磁気テープ媒体など、プログラムを記録するために使用される媒体を使用することができる。
[その他の構成]
本実施形態にかかるデータ解析装置100は、データ解析部14が一連のデータ解析を行うために、あらかじめデータ解析に用いられる所定のデータが記録されているデータ記録部17を備えることができる。
このデータ記録部17は、あらかじめデータ解析に必要な情報を記録しておくだけではなく、データ解析装置100で測定対象試料10のデータ解析が行われる毎にそのデータ解析結果を随時新たなデータとして記憶することができる書き換え可能な記憶手段を用いて、データ解析を行うほどデータ解析結果の精度が向上する学習機能を果たすようにすることができる。
本実施形態にかかるデータ解析装置100は、さらに、データ解析部14でのデータ解析結果をユーザに対して報知するためのデータ出力部18を備えることができる。
データ出力部18は、データ解析結果の出力形式に応じて、データ解析結果を画像として表示するLCDディスプレイなどの表示装置、データ解析結果を所定の用紙などに印刷して出力するプリンター、データ解析結果を他のデータ処理装置で利用可能なように所定のデータ形式でアウトプットする有線または無線の通信手段を用いたデータアウトプット装置などとして実現することができる。
また、図1での図示は省略するが、本実施形態にかかるデータ解析装置100では、データ解析の開始をユーザが指示するための操作部、所定のデータをデータ記憶部17に追加する場合のデータ入力部など、データ解析装置一般に用いられる各種のユーザインタフェース、外部機器との接続装置などを備えることができる。
[データ解析方法]
次に、本願で開示するデータ解析方法の実施形態として、上述の本実施形態にかかるデータ解析装置において実行される生体分子のデータ解析の具体的な方法について説明する。また、以下の実施形態では、測定対象となる生体分子がタンパク質である、プロテオーム解析が行われる場合を例示して説明する。
図2は、本実施形態で説明するデータ解析方法の手順を説明するためのイメージ図である。
まず、図2(a)に示すように、測定対象試料である生体分子21に、蛍光性指標24を標識する。
本実施形態にかかるデータ解析方法では、生体分子の総体である、例えば被験者の細胞に含まれるタンパク質全体についての定量的なプロファイリングを行う。プロテオーム解析の場合、本願所定の「生体分子の総体」として想定されるのは、少なくとも10種類以上のタンパク質分子または多量体構成タンパクのサブユニットを含む試料であるが、図2(a)では、このうち3種類のタンパク質21、22、23が近接して混在している状態が例示されている。
次に、この混在している複数種類のタンパク質を、電気泳動法やクロマトグラフィー法など、タンパク質の総体を特定の物理パラメータに沿って種類毎に分離する方法25によって分離する。図2(b)は、所定の分離条件、例えば電気泳動法であれば印加された電界によってタンパク質21、22、23が分離された状態を示している。
本実施形態で説明するデータ解析方法では、この分離されている状態のタンパク質21、22、23を、光学顕微鏡26で走査しながら観察する。図2(c)に示すように、電気泳動法により分離された状態のタンパク質を、矢印27に示す方向に走査することで、タンパク質21が最初の取得タイミングで観察され、その後、所定の間隔を隔てて次の取得タイミングで第2のタンパク質22が、さらに、所定の間隔をおいて第3のタンパク質23が観察される。
なお、顕微鏡により観察されるのは、タンパク質21、22、23に付着させた蛍光性指標24の発光であり、蛍光性指標24の発光の強さがその分離条件で分離されているタンパク質21、22、23の数を表している。
図2(d)に示すように、取得タイミングを表す、光学顕微鏡により観察された時間(例えば測定開始時刻からの経過時間)を横軸に、それぞれの取得タイミングにおける蛍光性指標24の発光強度を縦軸にしてスペクトルを描くことにより、観察された測定対象試料である総体としてのタンパク質の分類とそれぞれのタンパク質の定量化が果たせたこととなる。なお、測定結果のスペクトル表示においては、縦軸を測定時間(分離条件)、横軸を発光強度とすることもできる。
[蛍光性指標の標識]
まず、図2(a)で示した、測定対象試料である総体としてのタンパク質に蛍光性指標を付す工程の例を説明する。
測定対象試料(サンプル)調製として、 変性/溶解緩衝液(10mMホウ酸塩と界面活性剤として1%SDS、1%Tween(商品名)を含むもの)を調製し、NaOH 2Mを用いて変性/溶解緩衝液のpHを調整する。変性/緩衝溶液のpHは高い値(強アルカリ性)とすることが好ましく、一例としてpH12とする。
次に、標識反応によって100μlの変性/溶解緩衝液に両性界面活性剤CHAPS(商品名)を最終2%、および、ジチオトレイトール(dithiothreitol,DTT:商品名)最終10mMを加える。
これに、測定対象となるタンパク質の総体1〜5μlを加える。
直ちに、ジメチルホルムアミド(DMF)に一例として0.3mMに希釈した緑色蛍光色素(AlexaFlour488(商品名)、ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、エステル1μlを添加し、室温で15分間〜1時間インキュベートする。
このようにして、各タンパク質に含まれるアミノ基をターゲットとして蛍光色素を付加することで、タンパク質の総体に対して蛍光性指標の全分子種ラベルが可能となる。
なお、本実施形態にかかるデータ解析装置において、複数の蛍光性指標を用いることができ、例えば、特定のタンパク質にのみ標識化を行う特定のタンパク質を用い、蛍光性指標の発光波長の違いを区別して測定結果数値を得ることで、分離手段における分離方法以外のさらなる測定対象試料の分離を行うことができる。
[試料の分離と光学顕微鏡での観察]
以下、本実施形態で説明するデータ解析方法における、測定対象試料の分離方法と、それぞれの方法により分離された状態の測定対象試料を光学顕微鏡で走査して観察する方法について説明する。
なお、それぞれの分離方法と分離された状態の試料を観察するイメージを図3〜図7に示す。
(第1の分離方法)
第1の分離方法は、ゲル電気泳動法によって試料を分離する方法である。
図3は、ゲル電気泳動法を用いて測定対象試料の分離を行いつつ、光学顕微鏡で測定対象試料を観察する方法を説明するイメージ図である。
この方法は、タンパク質の分離で一般的に用いられているゲル電気泳動法によって測定対象試料であるタンパク質の総体を分離しつつ、ゲル内で分離された状態の試料を光学顕微鏡で走査しながら観察する方法である。
図3に示すように、光学顕微鏡のガラスステージ31上にSDSマイクロゲル32を載置して、その両端に試料を入れた容器33、34を配置する。容器33と試料導入部32aを接続して、マイクロゲル32を介して容器34との間を試料で接続する。
試料の両端部に相当する容器33と容器34との間に所定の電圧を印加することにより、試料中のタンパク質はその電荷量によって移動し、種類毎にマイクロゲル32中の特定の位置に留まる。なお、図3中の35は、マイクロゲル32の温度が高くなりすぎないようにする冷却プレートである。
このように、試料中のタンパク質が分離された状態のマイクロゲル32を、光学顕微鏡を走査させて観察する。図3では、ガラスステージ31の下方から蛍光性指標を発光させる照射光を照射しながら、ガラスステージ31を図中矢印で示す右方向に移動させている。このようにして、光学顕微鏡で観察するマイクロゲル32の部分が順次異なることとなり、光学顕微鏡による走査しながらの観察が行われる。
第1の分離方法を用いる場合、マイクロゲル内に存在するタンパク質に標識された蛍光性指標の発光を検出する必要がある。マイクロゲルには、一定の厚さ(一例として0.5mm)の厚さがあり、1分子レベルでの光学顕微鏡において測定対象試料の収容容器として通例使用されるマイクロウェルなどに比べて厚く、光学顕微鏡の拡大光学系からから見た場合の深度が大きくなる。
このため、図3に示す例では、蛍光性指標を発光させる励起光の照射光学系36として、シート照明を採用している。この場合、シート照明光は、ガラスステージ31の下面から斜め上方に進んでマイクロゲル中の試料へ照射され、試料から発せられる蛍光は、ガラスステージ31の下面に設置された対物レンズにて受光される。励起光の照射光学系36の光軸と光学顕微鏡の拡大光学系37とが略直交するシート照明方式を採用することで、ガラスステージ31から約0.5mm上方に位置する蛍光性指標の発光を観察することができ、撮像装置38で取得された画像データに基づいて光学顕微鏡の解析部39で測定結果数値とその取得タイミングとの相関データを得ることができる。
なお、第1の分離方法の場合には、マイクロゲル32に対して走査される光学顕微鏡で順次蛍光性指標の発光を得ることとなるため、取得タイミングに走査速度、図3の場合は、ガラスステージ31の移動速度を乗じることで、マイクロゲル32内の一方の端部からの距離を算出できる。このようにして得られた、マイクロゲル32内の距離を第1の分離方法におけるタンパク質の分離状態を表す指標値とすることができる。
なお、図3では、マイクロゲル32が載置されたガラスステージ31を光学顕微鏡に対して移動させる方法を示したが、分離された状態の試料と光学顕微鏡とが相対的に走査されればよいことから、観察対象となるマイクロゲル32は移動させずに、光学顕微鏡の拡大光学系を移動機構上に載置して光学顕微鏡が移動する構成とすることも可能である。また、ゲルに対して、縦方向と横方向との2方向から電界を印加して電気泳動を行う2次元の電気泳動法試料を分離する場合には、分離された試料と光学顕微鏡とを相対的に2次元方向に走査して、マイクロゲル内の所定の位置での蛍光性指標の発光を検出する。この場合の、走査方向と走査速度とから、蛍光性指標の発光の強さとして得られた測定結果数値が、ゲル内のどの部分に位置する試料からのものかを判断することで、より多段階に分離された状態のタンパク質についてのデータ解析を行うことができる。
(第2の分離方法)
第2の分離方法は、キャピラリー電気泳動法によって試料を分離する方法である。
図4に、キャピラリー電気泳動法を用いて測定対象試料の分離を行いつつ、光学顕微鏡で測定対象試料を観察する方法を説明するイメージ図を示す。
この方法は、キャピラリーを用いてゲル電気泳動法よりも高い分離能を有するキャピラリー電気泳動法を用い、キャピラリーの途中に設けた観視ユニットの内部を通過する試料を光学顕微鏡により拡大観視するものである。
図4に示すように、緩衝液を入れた2つの容器41、42の間にキャピラリー43を配置し、容器41、42の間に所定の電圧を印加してキャピラリー電気泳動法を実施する。キャピラリー43の途中に、光学顕微鏡のガラスステージ44上に配置された観視ユニット45が設けることで、印加される電圧とキャピラリー43内で生じる電気浸透流との作用により分離された試料であるタンパク質が、順次観視ユニット45内を通過し、これを光学顕微鏡で観視することで取得タイミングと関連づけた測定結果数値を得ることができる。
図5に、分離された試料の通過を光学顕微鏡で観視するための観視ユニットの構成を説明する斜視図を示す。
観視ユニット45は、図5に示すように、光学顕微鏡のガラスステージ44上に載置される部材であり、ガラスステージ44と接触する底面に観視流路52が形成されている。観視流路52は、少なくとも光学顕微鏡によって観察する部分52aの断面が横長の略長方形に形成されていて、底辺に相当する長辺部分がガラスステージ44に接触するように配置されている。また、光学顕微鏡で観察する部分52aの上流と下流側の部分では、観察流路52の厚みを少し大きくし、観視流路52の両端部分には、観視ユニット45の厚さ方向に伸びた流入管51と流出管53とが形成されている。流入管51と流出管53の先端部分に、それぞれキャピラリー43が接続されることで、キャピラリー43により分離された試料が、順次観視流路52を通過する。
なお、一例として、観視流路52の幅W=0.1mm、光学顕微鏡で観察する部分52aの厚さH=0.001mm、長さL=0.1mmとすることができる。観視ユニット45はガラス、石英、または、PDMSなどの樹脂材料により構成することができる。観察流路52は、略直方体形状に構成された観視ユニット45の一面を所定形状に切削することで、また、樹脂により観視ユニット45を形成する場合には、観視ユニットを成型する際の型に観察流路52に相当する突起部を設けておくことなどによって、観視ユニット45の底面に形成することができる。
図4に示すように、ガラステーブル44の下方から光学顕微鏡で観視ユニット45の観視流路52内を観視する際には、観視流路52の底面が平面であるため、励起光照射系46を広視野照射型とすることができ、拡大観察光学系47で得られた1分子レベルの拡大画像を撮像装置48によって取得して、データ解析部49でデータ解析することができる。
キャピラリー電気泳動法を用いる第2の分離方法の場合は、光学顕微鏡のガラスステージ上に載置された観視ユニット45内を試料が順次通過するため、光学顕微鏡の拡大光学系とガラスステージとを相対的に動かす必要がなく、測定精度の向上が図りやすく、また、データ解析装置全体を小型化することができるという利点がある。
なお、別の一例として、上記の観察ユニット45において、観視流路52の幅W=0.1mm、光学顕微鏡で観察する部分52aの厚さH=0.1mm、長さL=0.1mmとすることができる。この場合、観察に用いる光学顕微鏡としては、図3に示す例と同様に、励起光の照射光学系の光軸と光学顕微鏡の拡大光学系とが略直交するシート照明方式を採用することができる。この場合も、図3と同様に、照射光学系からのシート照明光は、ガラスステージの下面から斜め上方に進んで試料へ照射され、試料から発せられる蛍光は、ガラスステージ下面に設置された対物レンズにて受光される。
シート照明方式を採用することで、ガラスステージから最大で約0.1mm上方に位置する蛍光性指標の発光を観察することができ、撮像装置38で取得された画像データに基づいて光学顕微鏡の解析部39で測定結果数値とその取得タイミングとの相関データを得ることができる。
(第3の分離方法)
第3の分離方法は、クロマトグラフィー法の一つである液体クロマトグラフィー(LC)法によって試料を分離する方法である。
図6に、LCを用いて測定対象試料の分離を行いつつ、光学顕微鏡で測定対象試料を観察する方法を説明するイメージ図を示す。
図6に示すように、移動相溶媒61を電動ポンプ62で送出しながら、試料注入部63で測定対象試料64であるタンパク質の総体を溶媒61に加える。その後、カラム65によってタンパク質の分離を行い、カラム65を通過した溶媒61を光学顕微鏡のガラステーブル66上に載置された観視ユニット67で1分子レベルでの拡大観察を行う。
第3の分離方法である液体クロマトグラフィーによる分離方法に用いられる観視ユニット67は、第2の分離方法であるキャピラリー電気泳動法を用いた際に使用した、図5に示す観視ユニット45と同じものを使用することができる。キャピラリー電気泳動法によって試料を分離する場合と同様に、観視ユニット67内の断面が半円形の観視流路を通過する試料を観察することができるため、広視野照明型の励起光照射系68を用いて、拡大光学系69によって蛍光性指標の発光を拡大像として撮像装置70で取得し、解析部71で解析を行う。
なお、観視ユニット67を通過した分離された試料を含む溶媒61は、適宜マイクロウェル72に収容することができる。このとき、溶媒61を時間経過に対応して定められたマイクロウェル72内に順次収容すれば、カラムを通過した順に資料を含む溶媒が得られることとなり、このマイクロウェル内の溶媒61を改めて光学顕微鏡によって拡大観察することで、測定結果の検証や再測定を行うことが可能となる。
(第4の分離方法)
第4の分離方法は、クロマトグラフィー法の一つである液体クロマトグラフィー(LC)法を用いる点では上記第3の分離方法と同じであるが、カラムによって分離された試料を、一旦、時系列に収容し、カラムによる分離が終了した後に改めて時系列に分離されている試料の拡大観察を行う点が、カラムにより分離された試料をオンタイムで拡大観察した第3の分離方法と異なる。
図7に、液体クロマトグラフィー用いて測定対象試料の分離を行った後に、改めて分離された測定対象試料を光学顕微鏡で拡大観視するデータ解析方法を説明するイメージ図を示す。
なお、図7では、図6に示した、オンタイムで分離された試料を拡大観視する方法で用いられた部材と同じ部材については、図6と同じ符号を付している。
図7に示すように、移動相溶媒61を電動ポンプ62で送出しながら、試料注入部63で測定対象試料64であるタンパク質の総体を溶媒61に加え、さらに、カラム65によってタンパク質の分離を行う点は、図6に示した方法と同じである。図7に示す方法では、カラム65を通過した溶媒61を順次所定の容器に収容する。この場合の容器として、図7に示したようなマルチウェル73を用いることで、時系列にカラム65を通過した試料を細分化して順次収容することができると共に、各ウェルの底面を平面形状とするなど、光学顕微鏡による拡大観察を行う際により詳細な拡大画像を得ることを想定した対応が可能となる。また、マルチウェル73を用いることにより、時系列に分離された試料の保管や光学顕微鏡のガラステーブル上へのセッティングにおいても有利である。
上記、測定対象試料の分離は、プロテオーム解析を行うデータ解析装置とは全く別の装置で行うことができる。分離され、液体クロマトグラフィー法により順次取得された測定対象試料は、真空、高温、マイクロ液滴などの条件下で乾燥させ、長期間保管することができる。
分離された試料が保管された状態のマルチウェル74は、光学顕微鏡による1分子観察により適応した形状とすることができるため、蛍光性指標を励起する励起光をエバネッセント照明型の励起光照射系75で照射し、拡大光学系76で得られた拡大像を撮像装置77によって取得して、データ解析部78でデータ解析することができる。
なお、図示は省略するが、光学顕微鏡を用いて拡大像を取得するために、あらかじめ分離された状態の測定対象試料を準備する方法として、上述のマルチウェルを用いる方法以外に、インクジェット法、その他各種のスプレー法などを用いて分離された試料をカバーガラスに吹き付けたものを作製する方法が考えられる。このように、試料を分離条件に応じてカバーガラスに吹き付けたものを作製することで、光学顕微鏡での観察時の深度を一定でかつ浅くすることができ、エバネッセント光を用いたより正確な拡大像の取得を行うことができる。また、マルチウェルを用いる場合と比較して、観察対象とする資料の厚さを薄くすることができるため、試料の作製、保管などの取り扱い上の利便性も向上する。
以上のように、測定対象試料である蛍光性指標が付されたタンパク質の総体をその物理的特性を用いて移動分離することができる電気泳動法やクロマトグラフィー法を用いて分離し、分離された状態の試料を光学顕微鏡によって1分子レベルで解析することによって、試料に含まれるタンパク質を種類毎に分離して、測定結果数値とその取得タイミングとを得ることができる。
なお、上記例では、移動分離方法であるクロマトグラフィー法として液体クロマトグラフィー法を用いた例のみを示したが、観察対象物の条件によっては、ガスクロマトグラフィー法やペーパークロマトグラフィー法などの、気体や固体を用いて分離する方法を使用できる可能性がある。
[測定結果数値の取得]
図8に、光学顕微鏡の撮像装置により取得された測定対象試料の拡大画像と、拡大画像を数値解析して作成したイメージとを示す。
図8(a)に示すように、光学顕微鏡の拡大像を撮像装置で撮像することで、蛍光性指標が付された測定対象試料の1分子レベルの拡大画像を得ることができる。図8(b)は、図8(a)に示した撮像画像に対して、一例としてTrianglethresholding法によって2値化するなどの数値解析を行って、撮像画像内の蛍光性指標を明確に示したものである。
図8(b)に示した処理後の画像から、さらに画像処理手法を用いて蛍光性指標の数をカウントすることができる。このカウントされた蛍光性指標の数を、測定結果数値としてタンパク質データ解析に使用できる。
なお、それぞれの撮像画像を、その画像が撮像された撮像時刻と対応して、または、測定された順序を明確化されて記録されることで、図8を用いて示したデータ処理を行って測定結果数値を得ることで、測定結果数値とその取得タイミングとを把握することができる。
なお、光学顕微鏡により得られた拡大像を撮像装置で画像データとして得た場合の、測定結果数値を得るまでのデータ処理は、上記例示したものに限られず、各種の画像処理、画像データに基づく各種データ解析手法、さらに、測定結果精度を高める測定結果数値の数学的処理方法などの、手法を利用することができる。
また、撮像画像からの解析ではなく、受光デバイスなどによって発光強度を検出した場合には、得られた発光強度をそのまま測定結果数値とすることができる。
[スペクトルデータの作成]
図8に示したような、撮像画像から測定結果数値と取得タイミングとを把握する処理を、図3〜図7に示した分離された試料の観察時に連続して行うことで、測定結果数値と取得タイミングとの相関としてのスペクトルデータを得ることができる。
以下では、測定対象試料として、「MDA MB 231間葉系細胞株」100細胞から取得されたタンパク質の総体(以下「試料1」と称する)と、「HTB 132上皮基底細胞株」100細胞から取得されたタンパク質の総体(以下「試料2」と称する)とを用いた場合の、スペクトルデータの作成を説明する。
なお、それぞれのタンパク質の総体についてのデータ取得では、いずれも、試料であるタンパク質の総体をゲル電気泳動法により分離し、ガラスステージを移動させることで相対的に走査して、光学顕微鏡の撮像装置によって、蛍光性指標の発光数を測定結果数値とした。また、取得タイミングは走査時の移動距離として撮像画像の画素(Pixel)を単位として指標化した。なお、走査方向は、電気泳動ゲルの基準点から遠い側から基準点へと向かう方向とした。
図9は、第1の測定対象試料である「MDA MB 231間葉系細胞株」100細胞から取得されたタンパク質の総体のスペクトルデータである。また、図10は、第2の測定対象試料であるHTB 132上皮基底細胞株100細胞から取得されたタンパク質の総体のスペクトルデータである。
このようにして得られた、図9、および、図10に示すグラフは、それぞれの試料のデータ解析結果として使用することができる。
例えば、複数の被験者から得られた試料に含まれるタンパク質を比較検討する場合や、同じ被験者から異なるタイミングで取得された試料に含まれるタンパク質を比較検討する場合には、それぞれの測定対象試料のデータ解析結果であるスペクトルデータ同士において、スペクトルにおけるピークの位置やその高さを比較することで測定対象試料に含まれる各種タンパク質ごとの量の変化を把握することができる。
一方、試料1である「MDA MB 231間葉系細胞株」から得られたタンパク質の総体と、試料2である「HTB 132上皮基底細胞株」から得られたタンパク質の総体とを比較してデータ解析を行う場合には、それぞれのスペクトルデータの差異を明確化することが好ましい。
図11は、2つの試料から得られた測定結果を正規化し、さらにその差分を求めた結果を示している。
図11に示すグラフ93は、試料1の測定データ(図9の符号91)と試料2の測定データ(図10の符号92)とをそれぞれ正規化した後に、試料1の測定データから試料2の測定データを差し引いた数値を示している。このように、複数の測定対象試料からのデータ解析結果を比較して、試料1と試料2とにおいて、どのタンパク質が量的にどの程度異なった状態となっているかを容易に把握しデータ解析することができる。
なお、上記例では、2つの試料からの測定データの比較を行う際に、まずそれぞれのデータを正規化したが、それぞれの測定データを正規化せずに比較することで、測定対象試料である生体分子の総体における分子種毎の絶対量を比較することもできる。
図9〜図11に示したデータ解析結果によれば、細胞が自らの状態によって有意に各タンパク質の構成量を変化させていることが把握できる。このように、上記実施形態で説明したデータ解析方法を用いることで、例えば上記2つの細胞状態の違いを容易に診断できることがわかる。
[データ解析手法]
データ解析部では、上述の方法により得られた測定結果数値とその取得タイミングとの相関データに基づいて、測定対象試料のデータ解析を行う。
本実施形態で説明する上記のデータ解析装置100のデータ解析部14でのデータ解析には、以下の2つの手法がある。
[1.測定結果パターンによる分類]
第1のデータ解析手法は、測定結果から試料に含まれる個々の生体分子の特定と定量化とを行わずに、測定結果数値と、それぞれの測定結果数値の取得タイミングとの関係のみから当該生体分子の総体である試料の状態性を判断する手法である。
本実施形態で説明するデータ解析方法では、電気泳動法やクロマトグラフィー法などによって測定対象となる生体分子を分離して、光学顕微鏡によって、分離状態における生体分子の1分子レベルの量を蛍光性指標の発光を用いて取得する。このため、同じ分離方法によって得られた測定結果数値と当該数値の取得タイミングとを図2(d)にイメージを示すようなスペクトラムデータとしてスペクトラムデータ同士を比較することにより、測定対象の生体分子の状態が同じであることを容易に判別することができる。
例えば、図9において符号91として示されたスペクトルデータは、被験者の「MDA MB 231間葉系細胞株」100細胞から取得されたタンパク質の総体のデータ解析結果が現れている。ここで、スペクトルデータの個々のピークの位置、すなわち、測定結果に表れているタンパク質の種類や、ピークの高さ、すなわち、測定結果として得られた各タンパク質の量を求めることなく、異なる時間に取得した細胞、または、別の被験者から取得した細胞を試料としたプロテオーム解析を行って得られたスペクトルデータ同士を比較する。二つのスペクトルデータが同じ分布傾向を示している場合は、その2つの状態におけるタンパク質の種類と量とが同じ傾向を示していることがわかるため、例えば、特定の遺伝的傾向を有する場合のスペクトルデータがわかっていれば、同じ遺伝的傾向を有するか否かが判断でき、また、特定の疾病時のスペクトルデータがわかっていれば、同じ疾病にかかっているか否かを容易に判断できる。
この判定方法の場合は、より多くの種類のスペクトルデータを取得しているかが重要となる。このため、上述のデータ解析装置100において説明したデータ記憶部17で、順次測定結果として得られたスペクトルデータをそのデータが表す意味とを対応させて記憶することが好ましい。
このように、スペクトラムデータに現れたピークがどの生体分子を示しているかの特定をすることなく試料の状態を分類することで、簡易に精度の高い遺伝診断や病理診断を行うことができる。
また、上記本開示のデータ解析装置において、前記データ解析部は、任意の論理回路を構成するプロセッサを有していても良く、前記プロセッサが前記既存のスペクトルデータを入力データとして受け付け、多数のデータについて機械学習を用いて分類整理することで、診断精度を自動的に向上させることができる。
機械学習アルゴリズムとしては、教師あり学習、教師なし学習、半教師あり学習、強化学習など、いずれもでもよい。このような機械学習アルゴリズムの例として、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン、遺伝的アルゴリズム、帰納論理プログラミング、ベイズ分類器、決定木、主成分分析、クラスター分析、相関ルール学習(パターンマイニング)などの、種々のアルゴリズムを用いることができる。
教師あり学習アルゴリズムを適用する場合、データ解析部が有するプロセッサは、複数のスペクトルデータを比較し、特定の遺伝的傾向や特定の疾病に由来することが既知であるプロテオームにおいて観察されるスペクトルデータの波形、ピーク位置、ピークの高さなどから一定の特徴量を抽出し、それらを教師データとしてその特徴量を機械学習することで、検査対象のプロテオームのスペクトルデータを自動分類し、そのプロテオームの由来となる元の細胞について、同じ遺伝的傾向を有しているか否か、あるいは同じ疾病にかかっているか否かを容易に判断することができる。
教師なし学習アルゴリズムを適用する場合、前記データ解析部において、プロセッサは、複数のスペクトルデータを比較し、それらの複数のスペクトルデータから、波形、ピーク位置、ピークの高さなどの一定の特徴量を抽出し統計的に機械学習を行うことで、検査対象のプロテオームのスペクトルデータを自動分類し、そのプロテオームの由来となる元の細胞について、その遺伝的傾向や病理的傾向を推定し、簡易に精度の高い遺伝診断や病理診断を行うことができる。
なお、測定結果数値と取得タイミングとの関係を表す方法としては、上記例示したスペクトルデータである必要はなく、たとえは、レーダーチャートや2次元マップなど、測定結果の分布状態と各状態における強度とを視覚的に表すことができる既存の表現方法を採用することができる。
[2.取得タイミングを指標化するデータ解析]
データ解析部14で行われる生体分子のデータ解析手法の第2は、観察対象試料である生体分子の分離条件に基づいて取得タイミングを指標として表し、当該指標を生体分子の種類に対応させて、それぞれの種類における量を表す方法である。
例えば、電気泳動法の場合は、ゲルや印加される電圧値などの条件によって、どの種類の生体分子がどの位置に分離されているかを判断することができる。このため、得られた測定結果数値が、光学顕微鏡の走査速度などからゲル内のどの位置を観察して得られたものであるかを指標化し、その指標に対応する生体分子の種類が特定できる。このため、この指標値に対応して得られた測定結果数値の値から、測定対象試料に含まれている生体分子の種類と、その量とを知ることができる。
この場合、データ解析対象となるデータは、取得タイミングと測定結果数値であるため、図9、および、図10に示されたようなスペクトルデータとして表すことができる。また、図11に示したように、それぞれのデータを比較するための差分による表示をスペクトルデータとして行うことで、注目すべきピークの位置などが一目瞭然となり、データ解析結果を容易に捕らえることができる。
また、測定結果数値とその取得タイミングに対応した指標値とが把握できればよいことから、得られたデータ解析結果を必ずしもスペクトルデータとして表す必要はなく、例えば、テーブルに表すことができる。特に、得られたデータ解析結果をそのままユーザが表示画面や印刷物として見るのではなく、他の機器にデータを送信してさらなるデータ解析に供する場合などでは、測定結果数値と指標値とが対応したテーブルデータとして得ることが好適である。
応用例として、例えば、1細胞データ解析(1細胞プロファイリング)を複数種類の細胞に対して行い、上述の方法により測定結果数値とその取得タイミングの指標値とをテーブルデータとして取得して、最尤法、近隣結合法、ベイズ法などによるクラスター分析によって、細胞間の関係を表す系統樹を構築することもできる。クラスター分析以外の機械学習の手法も適宜活用してよい。
[他の生体分子]
以上説明したように、本実施形態にかかるデータ解析装置、データ解析方法によれば、生体化学物物質であるタンパク質の総体を測定対象として、簡便に、かつ、容易にデータ解析することができる。
なお、細胞や細胞からの分泌物内に含まれる総体として、例えば定量解析などが行われる生体分子としては、上述したタンパク質以外にも、トランスクリプトーム、ゲノム、メタボロームなどがある。本実施形態として示したデータ解析装置、データ解析方法は、例示したタンパク質についてのプロテオーム解析と同様に、これらの各種生体分子のデータ解析について良好に用いることができる。また、その他にも、グライコーム、リビドーム、さらには、これらの生体分子複数を含む混合物に対しても、上記実施形態として説明したデータ解析装置、データ解析方法を適用することができる。
なお、例えば、データ解析対象の生体分子が、トランスクリプトーム、ゲノム、である場合には、蛍光ハイブリダイゼーション法を用いることにより、効率よく蛍光性指標の付加を行うことができる。
[他の蛍光性指標による発光の観察]
本願開示のデータ解析装置において、蛍光性指標としては、上記で例示したもの以外にも、各種の蛍光性残基修飾薬や蛍光性架橋試薬、上記のテトラメチルローダミン以外の各種のローダミン系色素、テトラセン、フルオレセイン等々の有機色素プローブ、量子ドットプローブ等の種々の蛍光指標を用いることができる。
[発光性指標による発光の観察]
本願で開示するデータ解析装置において、「発光する部分」が化学発光や生物酵素発光による発光性指標によるものである場合の例として、例えば、ルシフェラーゼ、アクリジニウム等の発光プローブが挙げられる。
[蛍光性指標以外の発光の観察]
また、本願で開示するデータ解析方法では、励起光によって発光する蛍光性指標を観察する光学イメージング装置を用いて、自ら発光するいわゆる自家発光性の生体分子についてのデータ解析を行うことができる。
例えば、リボフラビンやリポフスチンなどの蛍光性色素の発光を、特定のカラーフィルタを用いて蛍光性指標の発光と分離してその発光強度を測定結果数値と得ることで、これら自家発光性を備えた生体分子の存在とその量をより正確に把握することができる。
また、本願で開示するデータ解析装置によれば、ラマン散乱光を用いて、照射光に対するラマンシフト量を正確に分光して受光することで、生体分子の総体に対して、1分子レベルでのデータ解析が可能となる。ただし、ラマン分光によるデータ解析を行う場合は、蛍光性指標の発光を観察する場合と異なりレーザー光などの高強度光源を用いる必要がある。このため、上記実施形態で示した4つの分類法の内、第1から第3の分類法を用いることはできず、あらかじめ分類された状態の試料を用意する第4の方法を用いることとなる。この場合、特に、分類された状態の生体分子を印刷法、スプレー法などによってカバーガラスまたは金属表面に塗布したものを観察対象とすることが好ましいと考えられる。
[他の光学イメージング装置による光学像]
上記実施形態では、光学イメージング装置による光学像の例として、光学顕微鏡による拡大像を得る例を例示したが、本願で開示するデータ解析装置において、「光学像」は、1分子レベルでのデータ解析が可能であるならば、等倍像や縮小像であってもよい。
試料濃度が高く生体分子が密集しているような試料の1分子観察を行う場合には、顕微鏡などの拡大光学系を用い、撮像カメラのピクセルサイズを光の回折限界程度にすると最も効率が良くなる。しかし、1分子検出を行う必須条件は拡大像を得ることではなく、検出系のカメラとして十分感度が高いものを用いることであり、等倍像や縮小像であっても、明るい蛍光性指標を用いること、観察視野面外の蛍光バックグラウンドを十分減らすなどの条件が整えば、発光検出部における1分子検出が可能である。
一般的に等倍像や縮小像を測定する場合には、観察視野が広がる一方で観察に用いる対物レンズの開口数が低くなるため、蛍光検出の感度は低くなる。しかし、1分子の生体分子に、複数の蛍光性指標を結合させたり、蛍光ビーズ、量子ドットなどの蛍光輝度の高い蛍光性指標を結合させたりすることにより、検出感度を補うことができる。また、発光性指標を用いる場合には、発光が消失するまでの間、長時間の露光を行うことによって検出感度を向上できる。
等倍像、縮小像の観察は、一般的な蛍光顕微鏡筐体において、対物レンズや変倍レンズの倍率を変えたり、検出部に至るまでの光学系を変えたりするほか、縮小光学系を構築することによっても実現できる。また、長時間の露光観察は、ゲルビューア(GEヘルスケア社)のように、観察視野面内に分離した生体分子がすべて収まるように、観察の倍率やカメラの観察領域を設定することにより実現できる。