JP2019044857A - 弁ユニット、液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】弁のシール性および耐久性の向上が可能な弁ユニット、液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置を提供する。【解決手段】弁(58)により液体流路を開閉する弁ユニット(21)であって、弁の本体である基部(75)と、基部に設けられ、対向して配置された被当接部材(63)に当接して液体流路をシールするシール部材(73)と、を備え、シール部材と基部とはプライマー材料(80)を介して接合されており、基部とプライマー材料との付着仕事が82.9〔mj/m2〕以上であることを特徴とする。【選択図】図11
Description
本発明は、例えばインクジェット記録装置等の液体噴射装置に用いられる弁ユニット、これを備える液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置に関するものである。
液体噴射装置は、液体供給部材から液体噴射ヘッドのノズルに至るまでの流路の途中に、当該流路を開閉する弁ユニットを有する構成のものがある。例えば、特許文献1に開示されている流体用開閉器(弁ユニットの一形態)は、支持部材の内部の貫通路に弁体が設けられ、当該弁体により貫通路の遮断状態と連通状態との切り替えを行うように構成されている。そして、支持部材の材料としてシリコーンゴムを用いた場合において、支持部材における弁体との接合面に、シランカップリング剤を含むプライマー材料等が塗布されることにより、支持部材と弁体との密着性の向上が図られている。
ところが、シランカップリング剤を含むプライマー材料と、当該プライマー材料が塗布される材料との組み合わせによっては、インク浸漬により密着性(密着強度)が低下し、経時的な耐久性が劣る場合があった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、弁のシール性および耐久性の向上が可能な弁ユニット、液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置を提供することにある。
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、弁により液体流路を開閉する弁ユニットであって、
前記弁の本体である基部と、
前記基部に設けられ、対向して配置された被当接部材に当接して前記液体流路をシールするシール部材と、
を備え、
前記シール部材と前記基部とはプライマー材料を介して接合されており、
前記基部と前記プライマー材料との付着仕事が82.9〔mj/m2〕以上であることを特徴とする。
前記弁の本体である基部と、
前記基部に設けられ、対向して配置された被当接部材に当接して前記液体流路をシールするシール部材と、
を備え、
前記シール部材と前記基部とはプライマー材料を介して接合されており、
前記基部と前記プライマー材料との付着仕事が82.9〔mj/m2〕以上であることを特徴とする。
本発明によれば、基部とプライマー材料との付着仕事が82.9〔mj/m2〕以上となるようにすることにより、基部の材料とプライマー材料との相溶性が高まる。これにより、基部とシール部材との密着性(密着強度)が向上する。特に、溶剤系の液体に曝された場合においても基部とシール部材との密着強度の変化をより低減することができ、これにより、弁の耐久性がより高められる。
また、本発明は、弁により液体流路を開閉する弁ユニットであって、
前記弁の本体である基部と、
前記基部に設けられ、対向して配置された被当接部材に当接して前記液体流路をシールするシール部材と、
を備え、
前記シール部材と前記基部とはプライマー材料を介して接合されており、
前記プライマー材料の表面自由エネルギーγLの分散力成分をγL d、双極子成分をγL p、水素結合成分γL hとし、
前記基部の表面自由エネルギーγSの分散力成分をγS d、双極子成分をγS p、水素結合成分γS hとしたとき、次式で表される指標Eの値が16.3以下であることを特徴とする。
前記弁の本体である基部と、
前記基部に設けられ、対向して配置された被当接部材に当接して前記液体流路をシールするシール部材と、
を備え、
前記シール部材と前記基部とはプライマー材料を介して接合されており、
前記プライマー材料の表面自由エネルギーγLの分散力成分をγL d、双極子成分をγL p、水素結合成分γL hとし、
前記基部の表面自由エネルギーγSの分散力成分をγS d、双極子成分をγS p、水素結合成分γS hとしたとき、次式で表される指標Eの値が16.3以下であることを特徴とする。
この構成によれば、標Eが16.3以下となるようにすることにより、基部の材料とプライマー材料との相溶性が高まる。これにより、基部とシール部材との密着強度が向上する。特に、溶剤系の液体に曝された場合においても基部とシール部材との密着強度の変化をより低減することができ、これにより、弁の耐久性がより高められる。
また、本発明の液体噴射ヘッドは、上記何れかの構成の弁ユニットを備え、
前記弁ユニットから供給される液体を噴射することを特徴とする。
前記弁ユニットから供給される液体を噴射することを特徴とする。
本発明によれば、弁のシール性および耐久性が向上した弁ユニットを備えるため、より長期に亘り信頼性を確保することが可能となる。
また、本発明の液体噴射装置は、上記何れかの構成の弁ユニットと、
前記弁ユニットから供給される液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
を備えることを特徴とする。
前記弁ユニットから供給される液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
を備えることを特徴とする。
本発明によれば、弁のシール性および耐久性が向上した弁ユニットを備えるため、より長期に亘り信頼性を確保することが可能となる。
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下の説明は、本発明に係る弁ユニットを有する液体噴射装置として、液体噴射ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッド)10を搭載したインクジェット式プリンター(以下、プリンター)1を例に挙げて行う。
図1は、プリンター1の構成を示す平面図である。本実施形態におけるプリンター1は、記録用紙、布、あるいは樹脂フィルム等の記録媒体(液体の着弾対象:図示せず)の表面に記録ヘッド10(図2等参照)から液体状のインク(液体の一種)を噴射させて画像やテキスト等の記録を行う装置である。このプリンター1は、フレーム2と、このフレーム2内に配設されたプラテン3と、を備えており、図示しない搬送機構によってプラテン3上に記録媒体が搬送される。また、フレーム2内には、プラテン3と平行にガイドロッド4が架設されており、このガイドロッド4には、記録ヘッド10を収容したキャリッジ5が摺動可能に支持されている。このキャリッジ5は、図示しないキャリッジ移動機構によってガイドロッド4に沿って記録媒体の搬送方向と交差する主走査方向に往復移動するように構成されている。キャリッジ移動機構は、パルスモーター6と、このパルスモーター6の駆動により回転する駆動プーリー7と、この駆動プーリー7とはフレーム2における反対側に設けられた遊転プーリー8と、駆動プーリー7及び遊転プーリー8の間に架設されたタイミングベルト9とを有する。本実施形態におけるプリンター1は、記録媒体に対してキャリッジ5を相対的に往復移動させながら記録ヘッド10のノズル30(図2参照)からインクを噴射させて記録動作(液体噴射動作)を行う。
フレーム2の一側には、インクカートリッジ13(液体供給源又は液体貯留容器の一種)を着脱可能に搭載するカートリッジホルダー14が設けられている。インクカートリッジ13は、エアーチューブ15を介してエアーポンプ16と接続されており、このエアーポンプ16からの空気が各インクカートリッジ13内に供給される。そして、この加圧空気によってインクカートリッジ13の内部が加圧されることにより、当該インクカートリッジ13内のインクがインク供給チューブ17を通じて記録ヘッド10側に供給(圧送)される。インクカートリッジ13からインク供給チューブ17から送られてくるインクは、まずキャリッジ5に搭載された弁ユニット21に導入される。弁ユニット21に導入されたインクは、後述するフィルター55を通り、圧力調整部57において供給圧力が調整されて記録ヘッド10内部のインク流路に供給される。なお、液体貯留容器としては、例示したものには限られず、カートリッジ型、パック型、タンク型等、種々の構成のものを採用することができる。インクとしては、例えば、水系の染料インクもしくは顔料インクや、これらの水系のインクよりも耐候性が高められた有機溶剤系(エコソルベント系)インクや、紫外線の照射による硬化する光硬化型インク等、周知の種々の組成のものを用いることができる。
インク供給チューブ17は、例えば、合成樹脂で作製された可撓性を有する中空部材であり、このインク供給チューブ17の内部には、各インクカートリッジ13に対応するインク流路が形成されている。また、プリンター1本体側と記録ヘッド10側との間には、プリンター1本体側の制御部(図示せず)から記録ヘッド10側に駆動信号等を伝送するFFC(フレキシブルフラットケーブル)18が配線されている。
フレーム2の内側において、記録ヘッド10の移動範囲における一側(カートリッジホルダー14側)に設けられたホームポジションには、記録ヘッド10のノズル面を封止するキャップ12を有するキャッピング機構11が配設されている。キャッピング機構11は、ホームポジションで待機状態にある記録ヘッド10のノズル面(ノズル30を有する面であり、ノズルプレート24及び固定板23を含む記録ヘッド10の底面)をキャップ12により封止してノズル30からインクの溶媒が蒸発することを抑制する。また、キャッピング機構11は、記録ヘッド10のノズル面を封止した状態で封止空部内を吸引ポンプ等の吸引手段よって負圧化し、ノズル30からインクや気泡を強制的に吸引するクリーニング動作(メンテナンス動作)を行うことができる。
次に、本実施形態における記録ヘッド10の構成について説明する。
図2は、記録ヘッド10の断面図である。本実施形態における記録ヘッド10は、固定板23、ノズルプレート24、連通板25、アクチュエーター基板26、コンプライアンス基板27、ケース28等の複数の構成部材が積層されて接着剤等によって接合されてユニット化されてホルダー22(図3参照)の保持空部22aの内部に収容・保持されている。なお、以下においては、記録ヘッド10の各構成部材の積層方向を、適宜上下方向として説明する。
図2は、記録ヘッド10の断面図である。本実施形態における記録ヘッド10は、固定板23、ノズルプレート24、連通板25、アクチュエーター基板26、コンプライアンス基板27、ケース28等の複数の構成部材が積層されて接着剤等によって接合されてユニット化されてホルダー22(図3参照)の保持空部22aの内部に収容・保持されている。なお、以下においては、記録ヘッド10の各構成部材の積層方向を、適宜上下方向として説明する。
本実施形態におけるアクチュエーター基板26は、ノズルプレート24に形成されたノズル30と連通する圧力室33が形成された圧力室形成基板29と、各圧力室33内のインクに圧力変動を生じさせる駆動素子としての圧電素子31と、これらの圧力室形成基板29及び圧電素子31を保護する保護基板32とを積層した状態で備えている。保護基板32の平面視における略中央部には、駆動IC38を実装したフレキシブル基板39が挿通される配線空部40が開設されている。この配線空部40内に、圧電素子31のリード電極が配置され、このリード電極にフレキシブル基板39の配線端子が電気的に接続される。圧電素子31のリード電極に接続されたフレキシブル基板39は、FFC18を通じて制御部から送られてくる駆動信号等を圧電素子31に供給する。なお、フレキシブル基板39としては、駆動IC38を備えるものには限られず、当該駆動IC38がインターポーザーとして機能する保護基板32の上部に別途配置され、当該フレキシブル基板39には駆動IC38が設けられない構成を採用することもできる。
アクチュエーター基板26の圧力室形成基板29は、シリコン単結晶基板から作製されている。この圧力室形成基板29には、圧力室33となる空間が各ノズル30に対応して複数列設されている。この圧力室33は、ノズル列に交差(本実施形態においては直交)する方向に長尺な液体貯留部である。この圧力室33の長手方向の一側の端部には、ノズル連通口34が連通し、他側の端部に個別連通口35が連通する。本実施形態における圧力室形成基板29には、圧力室33の列が2列形成されている。
圧力室形成基板29の上面(連通板25側とは反対側の面)には、振動板36が積層され、この振動板36によって圧力室33の上部開口が封止されている。すなわち、振動板36により、圧力室33の一部が区画されている。この振動板36は、例えば、圧力室形成基板29の上面に形成された二酸化シリコン(SiO2)からなる弾性膜と、この弾性膜上に形成された酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜と、から成る。そして、この振動板36上における各圧力室33に対応する領域に圧電素子31がそれぞれ積層されている。
本実施形態の圧電素子31は、所謂撓みモードの圧電素子である。この圧電素子31は、例えば、振動板36上に、下電極層、圧電体層及び上電極層(いずれも図示せず)が順次積層されてなる。このように構成された圧電素子31は、下電極層と上電極層との間に両電極の電位差に応じた電界が付与されると、上下方向に撓み変形する。本実施形態では、2列に形成された圧力室33の列に対応して、圧電素子31の列が2列形成されている。なお、下電極層及び上電極層は、両側の圧電素子31の列から当該列の間の配線空部40内までリード電極として延在され、上述したようにフレキシブル基板39と電気的に接続されている。
保護基板32は、2列に形成された圧電素子31の列を覆うように振動板36上に積層されている。保護基板32の内部には、圧電素子31の列を収容可能な長尺な収容空間41が形成されている。この収容空間41は、保護基板32の下面側(振動板36側)から上面側(ケース28側)に向けて保護基板32の高さ方向途中まで形成された窪みである。本実施形態における保護基板32には、配線空部40の両側に収容空間41がそれぞれ形成されている。
アクチュエーター基板26の下面には、このアクチュエーター基板26よりも広い面積を有する連通板25が接合される。この連通板25は、圧力室形成基板29と同様にシリコン単結晶基板から作製されている。本実施形態における連通板25には、圧力室33とノズル30とを連通するノズル連通口34と、各圧力室に共通に設けられた第一共通液室43と、この第一共通液室43と圧力室33とを連通する個別連通口35と、が形成されている。第一共通液室43は、ノズル列方向に沿って延在する空部であり、連通板25において、ノズルプレート24のノズル列毎に対応して2つ形成されている。すなわち、第一共通液室43は、インクの種類毎に設けられている。個別連通口35は、各圧力室33にそれぞれ対応してノズル列方向に沿って複数形成されている。この個別連通口35は、圧力室33の長手方向における他側(ノズル連通口34とは反対側)の端部と連通する。
上記の連通板25の下面の略中央部分には、複数のノズル30が形成されたノズルプレート24が接合される。本実施形態におけるノズルプレート24は、連通板25及びアクチュエーター基板26よりも小さい外形の板材であり、シリコン単結晶基板から構成されている。このノズルプレート24は、連通板25の下面において、第一共通液室43の開口から外れた位置であって、ノズル連通口34が開口した領域に、これらのノズル連通口34と複数のノズル30とがそれぞれ連通する状態で接着剤等により接合される。本実施形態におけるノズルプレート24には、複数のノズル30が列設されてなるノズル列が合計2条形成されている。
また、連通板25の下面において、ノズルプレート24の周囲を囲むように、当該ノズルプレート24の外形に倣った形状の貫通開口46が中央部に形成されたコンプライアンス基板27が接合される。このコンプライアンス基板27の貫通開口46は、固定板23の貫通口23aと連通して、その内側にノズルプレート24が配置されるように構成されている。コンプライアンス基板27は、連通板25の下面に位置決めされて接合された状態で、連通板25の下面における第一共通液室43の開口を封止する。本実施形態におけるコンプライアンス基板27は、コンプライアンスシート44と、これを支持する支持板45とが接合されて構成されている。
連通板25の下面には、コンプライアンス基板27のコンプライアンスシート44が接合されて、連通板25と支持板45との間にコンプライアンスシート44が挟まれた状態となる。コンプライアンスシート44は、可撓性を有する薄膜、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)等の合成樹脂材料により作製されている。支持板45は、コンプライアンスシート44よりも剛性が高く且つ厚みのあるステンレス鋼等の金属材料で形成されている。この支持板45の第一共通液室43に対向する領域には、この第一共通液室43の下面開口に倣った形状に支持板45の一部が除去されている。このため、第一共通液室43の下面側の開口は、可撓性を有するコンプライアンスシート44のみで封止されている。換言すると、コンプライアンスシート44は、第一共通液室43の一部を区画している。
支持板45の下面には固定板23が接合されている。これにより、コンプライアンスシート44の可撓領域と、これに対向する固定板23との間には、コンプライアンス空間47が形成されている。そして、このコンプライアンス空間47におけるコンプライアンスシート44の可撓領域が、インク流路内、特に第一共通液室43内の圧力変動に応じて第一共通液室43側又はコンプライアンス空間47側に変位する。したがって、支持板45の厚みは、コンプライアンス空間47として必要な高さに応じて定められている。
アクチュエーター基板26及び連通板25は、ケース28に固定されている。ケース28の下面側にはアクチュエーター基板26を収容する収容空部49が形成されている。そして、収容空部49にアクチュエーター基板26が収容された状態でケース28の下面が連通板25によって封止される。図2に示すように、このケース28の平面視における略中央部分には、収容空部49と連通する挿通空部50が開設されている。この挿通空部50は、アクチュエーター基板26の配線空部40とも連通する。上記のフレキシブル基板39は、挿通空部50を通じて配線空部40に挿入されるように構成されている。また、ケース28の内部において、挿通空部50及び収容空部49の両側には、連通板25の第一共通液室43と連通する第二共通液室51が形成されている。これらの第一共通液室43及び第二共通液室51が連通して形成された液室は、リザーバーあるいはマニホールドとも呼ばれる。また、ケース28の上面には、各第二共通液室51と連通する導入口52がそれぞれ開設されている。導入口52は、ホルダー22に設けられた流路部材の導入流路37(図3参照)を介して弁ユニット21における導出口65と連通する。このため、弁ユニット21から送られてきたインクは、導入流路37、導入口52、及び第二共通液室51を順に通って第一共通液室43へと導入され、第一共通液室43から個別連通口35を通じて各圧力室33に供給される。
固定板23は、例えば、ステンレス鋼等の金属製の板材である。本実施形態における固定板23には、ノズルプレート24に対応する位置に、当該ノズルプレート24に形成されたノズル30を露出させるため、ノズルプレート24の外形に倣った形状の貫通口23aが厚さ方向を貫通する状態で形成されている。上述したように、この貫通口23aは、コンプライアンス基板27の貫通開口46と連通する。本実施形態では、この固定板23における固定板23の下面と貫通口23aにおけるノズルプレート24の露出部分とによりノズル面が構成されている。この固定板23は、ホルダー22に接着剤等により接合されている。
そして、上記構成の記録ヘッド10では、第二共通液室51から第一共通液室43及び圧力室33を通ってノズル30に至るまでの流路内がインクで満たされた状態で、駆動IC38からの駆動信号に従い圧電素子31が駆動されることにより、圧力室33内のインクに圧力変動が生じ、この圧力振動によって所定のノズル30からインクが噴射される。
図3は、弁ユニット21の一形態について説明する模式図である。
弁ユニット21は、インクカートリッジ13から記録ヘッド10に供給するインクの供給圧力を調整する部材である。本実施形態における弁ユニット21は、合成樹脂等から作製された本体部54(流路部材の一種)内に、フィルター55が配設されたフィルター室56と、圧力調整弁58(本発明における弁の一種)を有する圧力調整部57と、を備えている。本実施形態における本体部54は、例えば、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE:ザイロン(登録商標))から作製されている。インクカートリッジ13からインク供給チューブ17を通じて送られてくるインクは、流路接続部60から弁ユニット21内に導入され、まず、フィルター室56に流入する。このフィルター室56と弁収容室61との境界部分にフィルター55が配設されている。
弁ユニット21は、インクカートリッジ13から記録ヘッド10に供給するインクの供給圧力を調整する部材である。本実施形態における弁ユニット21は、合成樹脂等から作製された本体部54(流路部材の一種)内に、フィルター55が配設されたフィルター室56と、圧力調整弁58(本発明における弁の一種)を有する圧力調整部57と、を備えている。本実施形態における本体部54は、例えば、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE:ザイロン(登録商標))から作製されている。インクカートリッジ13からインク供給チューブ17を通じて送られてくるインクは、流路接続部60から弁ユニット21内に導入され、まず、フィルター室56に流入する。このフィルター室56と弁収容室61との境界部分にフィルター55が配設されている。
圧力調整部57は、圧力調整弁58が配設された弁収容室61と、当該弁収容室61に連通する圧力調整室62と、圧力調整室62の一側の開口部を封止する状態で配設された受圧部材67と、を備えている。圧力調整室62は、本体部54の一方の側面(図3における右側面)から他方の側面(同図における左側面)側に向けて窪んだ凹部である。この圧力調整室62と弁収容室61との間を仕切る仕切壁63には、弁収容室61と圧力調整室62とを相互に連通させる流入口64(流路開口)が開設されている。この流入口64が開口した仕切壁63の弁収容室61側の面は、本発明における被当接部材の一種として機能する。また、圧力調整室62において、流入口64よりも下流側の底部には導出口65が開設されている。本実施形態において、流路接続部60からフィルター室56、弁収容室61、流入口64、圧力調整室62、および導出口65に至るまでの一連の流路は、本発明における液体流路に相当する。
上記圧力調整室62の開口は、ダイアフラム状の受圧部材67により封止されている。受圧部材67は、圧力調整室62の内圧が所定の圧力より低くなると、圧力調整室62の内側(仕切壁63側)へ弾性変形する可撓性のフィルム部材68と、このフィルム部材68の内側に設けられた作動片69とにより構成されている。フィルム部材68は、例えば、可撓性を有する薄手の樹脂製のフィルムから成る。このフィルム部材68は、圧力調整室62となる窪みの開口部(即ち、圧力調整室62の一側の開口)を密封するように本体部54の一方の側面に接着又は溶着されている。したがってフィルム部材68は圧力調整室62の一部を区画している。作動片69は、本体部54に支持された一端部69aを支点として、フィルム部材68の変形に伴って回動可能に構成されている。
図4および図5は、圧力調整弁58の周辺構成を説明する断面図であり、図4は開弁状態、図5は閉弁状態をそれぞれ示している。また、図6は、圧力調整弁58の封止面(仕切壁63側の面)74の平面図である。
本実施形態における圧力調整弁58は、受圧部材67と当接する軸部71(後述)の軸方向に進退することにより、弁収容室61側から圧力調整室62側へのインクの流入を許容する開弁状態と、圧力調整室62へのインクの導入を遮断する閉弁状態とに変換可能に構成されている。この圧力調整弁58は、例えばコイルバネ等の付勢部材70によって閉弁位置側(仕切壁63側)へ付勢された状態で、仕切壁63よりも上流側に形成された弁収容室61内に配設されている。この圧力調整弁58は、基部75(弁本体)とシール部材73(弾性部材)とから構成されている。
本実施形態における圧力調整弁58は、受圧部材67と当接する軸部71(後述)の軸方向に進退することにより、弁収容室61側から圧力調整室62側へのインクの流入を許容する開弁状態と、圧力調整室62へのインクの導入を遮断する閉弁状態とに変換可能に構成されている。この圧力調整弁58は、例えばコイルバネ等の付勢部材70によって閉弁位置側(仕切壁63側)へ付勢された状態で、仕切壁63よりも上流側に形成された弁収容室61内に配設されている。この圧力調整弁58は、基部75(弁本体)とシール部材73(弾性部材)とから構成されている。
基部75は、円柱状の軸部71と、この軸部71の途中から側方に延出した鍔部72とにより構成されている。この基部75は、シール部材73と比較して硬質の合成樹脂等から作製される。合成樹脂としては、例えば、本体部54と同様の変性PPEの他、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、あるいは液晶ポリマー(LCP)、等を採用することができる。本実施形態における基部75は、例えば、本体部54と同様に変性PPE/PPSアロイから作製されている。軸部71の先端部(鍔部72よりも圧力調整室62側の部分)は、その外径が流入口64の内径よりも小さくなるように形成され、仕切壁63に開設された流入口64を通じて圧力調整室62内に挿入されている。そして、開弁状態では、軸部71と流入口64の内周面との隙間を通じて、フィルター室56側からのインクが圧力調整室62側へ流入する。鍔部72は、流入口64の開口面積よりも広い面積を有する円盤状の部材である。この鍔部72の仕切壁63側の面は封止面74として機能する。圧力調整弁58は、当該封止面74を、流入口64が開口した仕切壁63の開口面に対して進退させて流入口64を開閉する。
鍔部72の封止面74における流入口64の開口周縁部に対向する部分には、エラストマー等の弾性を有するシール部材73が取り付けられている。このシール部材73は、図6に示されるように、鍔部72の外周縁に沿って平面視でリング状に形成されている。また、本実施形態におけるシール部材73は、図4および図5に示されるように、断面視で幅広なシール基部76と、同じく断面視でシール基部76よりも幅が狭く半円状の当接部77と、を一体的に有している。そして、図5に示されるように、閉弁時においては、シール部材73の当接部77が、これと対向配置された仕切壁63における流入口64の開口周縁部に対して弾性により当接して密着することにより、当該流入口64の開口周縁部を液密にシールする。すなわち、シール部材73は、圧力調整弁58が閉じた状態で流入口64の周縁部に密着する。このように、圧力調整弁58が基部75にシール部材73を備えることにより、当該シール部材73が閉弁時に流入口64の開口周縁部に弾性により密着するので、閉弁時のシール性が向上する。このシール部材73の詳細については後述する。
付勢部材70は、圧力調整弁58における鍔部72の封止面74とは反対側の面に当接して圧力調整弁58全体を仕切壁63側に付勢し、圧力調整室62の内部が所定圧力に減圧されるまで閉弁状態を維持する。即ち、圧力調整弁58は、付勢部材70の付勢力に抗する応力を受けない限り、鍔部72のシール部材73が流入口64の開口周縁部に密着する閉弁位置に維持される。そして、圧力調整弁58の閉弁状態における閉弁位置では、圧力調整弁58は弁収容室61側から圧力調整室62側へのインクの流入を遮断する。
圧力調整弁58によって圧力調整室62へのインクの流入が遮断されると、圧力調整室62の内圧が、記録ヘッド10によるインクの消費に伴って低下していく。圧力調整室62内が所定圧力まで減圧されると、受圧部材67のフィルム部材68が大気圧により圧力調整室62の内側へ変形して、作動片69を仕切壁63側(圧力調整弁58側)へ押圧する。これにより、作動片69は、閉弁位置にある圧力調整弁58の軸部71の先端部を押圧し、付勢部材70の付勢力に抗しながら圧力調整弁58を開方向(仕切壁63から離隔する側)に移動させる。これにより、図4に示されるように、鍔部72のシール部材73が仕切壁63の開口面から離間して、密着状態が解除された位置(開弁位置)まで圧力調整弁58が変位する。
上記の開弁状態では、弁収容室61側から流入口64を通じて圧力調整室62内へのインクの流入が許容される。圧力調整室62に流入したインクは、導出口65を通じて記録ヘッド10のインク流路に供給される。開弁後、圧力調整室62内にインクが流入すると、これに伴って圧力調整室62の内圧が次第に上昇する。圧力調整室62の内圧の上昇により、受圧部材67が、仕切壁63側(圧力調整弁58側)から遠ざかる側に向かって次第に変位する。図5に示されるように、最終的には、圧力調整弁58が付勢部材70による付勢力によって閉弁位置まで変位し、これにより鍔部72のシール部材73が流入口64の開口周縁部に密着して流入口64を閉塞し、圧力調整室62へのインクの流入を遮断する。つまり、液体流路をシールする。
次に、上記シール部材73について説明する。
本実施形態におけるシール部材73は、撥液性及び弾性を有する樹脂、具体的には、フッ素化ポリエーテル骨格を有するフッ素化エラストマーにより作製されている。フッ素化エラストマーは、撥液性及び弾性(柔軟性)を有する他、耐熱性や化学的安定性を有し、長期にわたって性能が維持されるので、シール部材73として好適である。また、フッ素化エラストマーとして、例えば、ヒドロシリル基(ケイ素−水素結合)及び炭化水素基(例えば、炭素−炭素二重結合を有するビニル基等のアルケニル基)を有するフッ素化ポリエーテル骨格のフッ素化シリコーン樹脂を採用することができる。ここで、プリンター1において、インクとして例えば有機溶剤系インクを使用した場合、従来のスチレン系エラストマーあるいはオレフィン系エラストマーで作製されたシール部材では、インクにより膨潤して弁本体との密着強度(接合強度)が弱まり、これにより弁本体から離脱するおそれがあった。本発明に係るプリンター1では、シール部材73として上記フッ素化エラストマーが採用され、さらに、シール部材73と基部75との間にプライマー層80が形成されていることにより、上記問題を解決している。以下、この点について説明する。
本実施形態におけるシール部材73は、撥液性及び弾性を有する樹脂、具体的には、フッ素化ポリエーテル骨格を有するフッ素化エラストマーにより作製されている。フッ素化エラストマーは、撥液性及び弾性(柔軟性)を有する他、耐熱性や化学的安定性を有し、長期にわたって性能が維持されるので、シール部材73として好適である。また、フッ素化エラストマーとして、例えば、ヒドロシリル基(ケイ素−水素結合)及び炭化水素基(例えば、炭素−炭素二重結合を有するビニル基等のアルケニル基)を有するフッ素化ポリエーテル骨格のフッ素化シリコーン樹脂を採用することができる。ここで、プリンター1において、インクとして例えば有機溶剤系インクを使用した場合、従来のスチレン系エラストマーあるいはオレフィン系エラストマーで作製されたシール部材では、インクにより膨潤して弁本体との密着強度(接合強度)が弱まり、これにより弁本体から離脱するおそれがあった。本発明に係るプリンター1では、シール部材73として上記フッ素化エラストマーが採用され、さらに、シール部材73と基部75との間にプライマー層80が形成されていることにより、上記問題を解決している。以下、この点について説明する。
図7は、スチレン系エラストマーのシール部材及びフッ素化エラストマーのシール部材を、60℃に加温した有機溶剤系インクにそれぞれ浸漬したときの接触角(静的接触角)の変化を示すグラフである。なお、浸漬前(0日)に測定された接触角と、14日経過した時点で測定された接触角がそれぞれプロットされている。同図に示されるように、スチレン系エラストマーの場合、浸漬状態での時間の経過と共に接触角が低下するのに対し、フッ素化エラストマーはスチレン系エラストマーに比べて高い接触角を示し、しかも浸漬後においても接触角に殆ど変化が観られない。このように、本実施形態におけるシール部材73は、有機溶剤系インクに対して耐性、すなわち、優れた撥液性を有し、当該インクによる膨潤が抑制されるので、有機溶剤系インクを使用した場合においても膨潤による基部75からの離脱を抑制することができる。また、撥液性を長期に亘って維持することができるので、インクの含有成分がシール部材73に堆積にすることが低減される。このため、この堆積物によるシール性の低下が抑制される。さらに、本実施形態においては、シール部材73と基部75との接合強度を高めるべく、これらの間にプライマー層80が設けられている。そして、基部75とプライマー層80との間の付着仕事等を規定することにより、耐インク性をより高めている。この点については後述する。
次に、本発明に係る圧力調整弁58の製造工程について説明する。
図8から図10は、圧力調整弁58の製造工程における主にプライマー工程(プライマー層80の形成工程)について説明する工程図である。本発明に係る圧力調整弁58の製造工程では、基部75にシール部材73を一体成形するにあたり、インサート成形が採用される。これにより、基部75とシール部材73との間にプライマー層80を形成するプライマー工程(プライマー処理)を行うことができ、これにより、基部75とシール部材73との接合強度の向上が図られている。
図8から図10は、圧力調整弁58の製造工程における主にプライマー工程(プライマー層80の形成工程)について説明する工程図である。本発明に係る圧力調整弁58の製造工程では、基部75にシール部材73を一体成形するにあたり、インサート成形が採用される。これにより、基部75とシール部材73との間にプライマー層80を形成するプライマー工程(プライマー処理)を行うことができ、これにより、基部75とシール部材73との接合強度の向上が図られている。
まず、基部75が射出成形される。すなわち、射出成形機により、基部75の材料が加熱溶融されて金型内に射出され、その後、冷却工程を経て基部75の形状に成形される。次に、シール部材73との密着性を高めるために基部75における封止面74の少なくともシール部材73が形成される部分(以下、シール配置部)の基材、すなわち、本実施形態においては基部75にプライマー処理が施されることにより、基部75とシール部材73との間に介在するプライマー層80が形成される(プライマー工程)。本実施形態におけるプライマー工程は、2種類のプライマー溶液(プライマー材料の一種)が用いられて第1のプライマー工程と第2のプライマー工程の2回の工程に分けて行われる。第1のプライマー工程では、シール配置部の基材と反応する官能基、及び、後述する第2のプライマー層82と結合する官能基を有するシランカップリング剤からなる第1のプライマー溶液が用いられる。より具体的には、第1のプライマー溶液は、基部75の素材にフィラーとして含有されているシリカに由来する水酸基(OH基)と化学結合する加水分解性基(例えばメトキシ基等のアルコキシ基等)、及び、第2のプライマー層82と結合する炭化水素基(例えば、炭素−炭素二重結合を有するビニル基等のアルケニル基)を有するシランカップリング剤からなる第1のプライマー溶液が用いられる。
第1のプライマー工程では、基部75の封止面74における少なくともシール部材73が形成されるシール配置部に、上記の第1のプライマー溶液が、刷毛等により塗布され、又は、スプレー等により吹き付けられる。すなわち、第1のプライマー工程では、ケイ素−水酸基結合及び炭素−炭素二重結合を有する分子でシール配置部が表面処理される。このように、プライマー溶液(第1のプライマー溶液、及び、後述する第2のプライマー溶液)を塗布し又は吹き付けることにより、シール配置部に選択的にプライマー層80(81,82)を形成することができる。その後、十数分から数十分間、室温で放置されることで乾燥(風乾)され、続いて、100℃以上、200℃以下の温度で十数分から数十分程度加熱される。この過程で、第1のプライマー溶液の加水分解、及び、基部75のシール配置部に配置された水酸基との結合を経てシロキサン結合(ポリシロキサン)による膜が形成され、さらに、加熱・乾燥による脱水縮合反応により、図8に示されるように、基部75のシール配置部に第1のプライマー層81が形成される。その結果、基部75のシール配置部と第1のプライマー層81との間には、シロキサン結合(ケイ素−酸素結合)が形成される。このシロキサン結合の結合エネルギーは、炭素結合の結合エネルギーよりも大きく、且つ安定しているため、より強固な結合強度が得られる。
第1のプライマー工程に続いて行われる第2のプライマー工程では、例えば、シール部材73の素材のポリマー成分を含み、且つシール部材73の素材及び第1のプライマー層81のそれぞれと反応する官能基(ヒドロシリル基、及び、ビニル基等の炭化水素基)を有する第2のプライマー溶液が用いられる。すなわち、この第2のプライマー溶液は、第1のプライマー層81とシール部材73とのそれぞれと結合するため、ヒドロシリル基及び炭化水素基をより多く有している。そして、第2のプライマー工程では、上記の第1のプライマー層81が形成された部分に第2のプライマー溶液が塗布又は吹き付けられる。すなわち、第2のプライマー工程では、ヒドロシリル基及び炭素−炭素二重結合を有する分子で、第1のプライマー工程で表面処理が施された(第1のプライマー層81が形成された)シール配置部がさらに表面処理される。その後、数分間、室温で放置されることで乾燥され、さらに、100℃以上、170℃以下の温度で十数分から数十分程度加熱されて、図9に示されるように、第1のプライマー層81に重ねて第2のプライマー層82が形成される。この第2のプライマー層82のヒドロシリル基と第1のプライマー層81の炭化水素基とが反応することにより、シロキサン結合と炭素−炭素二重結合が形成される。これにより、両プライマー層81,82が互いに結合してプライマー層80が形成される。
続いて、インサート成形によりシール部材73がプライマー層80に積層されて、図10に示されるように、基部75にシール部材73が一体に成形される。当該シール部材73が成形される部分にプライマー層80が形成された基部75が、図示しないインサート成形用の金型にセットされる。この状態で、液状のシール部材73の素材(フッ素化エラストマー)が金型内に射出され、加熱処理を経て当該シール部材73が硬化される。この過程で、このシール部材73のヒドロシリル基と第2のプライマー層82の炭化水素基とが反応し、また、シール部材73の炭化水素基と第2のプライマー層82のヒドロシリル基とが反応して、シール部材73とプライマー層80(第2のプライマー層82)とが互いに強固に結合される。ここで、シール部材73との接合には、比較的多くの炭素−炭素二重結合を要するため、第2のプライマー層82は、第1のプライマー層81と比較してより多くの炭素−炭素二重結合を有している。したがって、基部75とシール部材73との間のプライマー層80において炭素−炭素二重結合がシール部材73側により多く分布している。これにより、プライマー層80とシール部材73との結合強度をより高めることができる。
以上の工程を経て、基部75とシール部材73とが一体化された圧力調整弁58が得られる。このように、基部75のシール配置部に、当該基部75の素材(シール配置部の基材)と反応する第1のプライマー層81と、当該第1のプライマー層81及びシール部材73の素材と反応する第2のプライマー層82と、の合計2層のプライマー層80が形成されることにより、基部75とシール部材73との接合強度を高めつつ一体成形が可能となる。そして、シール部材73が、フッ素化ポリエーテルを含有することで、インク等の液体、特に有機溶剤系インクに対して優れた撥液性を有するので、使用する液体の種類を問わずシール部材73が膨潤することが抑制される。これにより、基部75からのシール部材73の離脱が抑制される。その結果、圧力調整弁58のシール性および耐久性が向上する。
また、シール部材73がインクに対して優れた撥液性を有することから、当該シール部材73にインクの含有成分が堆積しにくいので、シール性の低下を抑制することが可能となる。そして、本実施形態においては、インサート成形により基部75とシール部材73とが一体化された圧力調整弁58が作製されるので、基部75のシール配置部にプライマー処理を行うことができる。このため、装置構成を複雑化することなく基部75とシール部材73との接合強度をより向上させることができる。
ここで、上記のように、圧力調整弁58における基部75とシール部材73との間にプライマー層80を介在させる構成であっても、基部75の材料と、プライマー層80の材料であるプライマー材料(プライマー溶液)との組み合わせによって、インクに浸漬されたときの基部75とシール部材73との密着強度の経時的な変化度合にばらつきがある。このため、基部75の材料とプライマー材料との組み合わせによっては、耐久性に劣るものもある。このため、本実施形態においては、以下に説明するように、「基部75の材料とプライマー材料との付着仕事」又は「基部75の材料とプライマー材料との性質の相違度を示す指標E」を規定することにより、基部75とシール部材73との密着強度(接合強度)をより向上させるとともに、耐久性をより高めている。
図11は、圧力調整弁58を有機溶剤系インクに浸漬したときの基部75とシール部材73との密着強度の変化と、基部75の材料とプライマー材料との付着仕事との関係を示すグラフである。同図において、横軸が付着仕事〔mJ/m2〕であり、縦軸が密着強度の変化率〔%〕である。なお、浸漬前(0日)に測定された密着強度を基準として有機溶剤系インクに浸漬させて28日経過した時点で測定されたときの密着強度の変化率が、付着仕事が異なる複数の基部75の材料毎にそれぞれプロットされている。本実施形態においては、付着仕事が異なる樹脂A〜Eの合計5種類の合成樹脂を材料とする基部75に上記プライマー層80を介してシール部材73を形成したときの密着強度が測定されている。
ここで、基部75に付着したプライマー材料(液体状のプライマー溶液)を当該基部75から引き離すのに必要な仕事である付着仕事WSLは、以下の式(1)で規定される。
…(1)
上記式(1)において、γSは基部75の表面自由エネルギー、γLは、プライマー材料の表面自由エネルギーである。また、γSLは、以下の式(2)で表される。
…(2)
上記式(2)において、γL d、γL p、γL hは、それぞれプライマー材料の表面自由エネルギーγLの成分であり、γL dは分散力成分、γL pは双極子成分、γL hは水素結合成分である。同様に、γS d、γS p、γS hは、それぞれ基部75の表面自由エネルギーγSの成分であり、γS dは分散力成分、γS pは双極子成分、γS hは水素結合成分である。
上記式(1)において、γSは基部75の表面自由エネルギー、γLは、プライマー材料の表面自由エネルギーである。また、γSLは、以下の式(2)で表される。
上記式(2)において、γL d、γL p、γL hは、それぞれプライマー材料の表面自由エネルギーγLの成分であり、γL dは分散力成分、γL pは双極子成分、γL hは水素結合成分である。同様に、γS d、γS p、γS hは、それぞれ基部75の表面自由エネルギーγSの成分であり、γS dは分散力成分、γS pは双極子成分、γS hは水素結合成分である。
図11に示されるように、付着仕事の値が大きいほど、基部75の材料とプライマー材料との相溶性が高まり、これにより、密着強度の変化率が小さくなる。特に、付着仕事が82.9〔mJ/m2〕以上の樹脂A〜Cに関しては、インクへの浸漬後においても密着強度が殆ど変化せず、良好な耐久性(耐インク性)を示すことがわかる。これに対し、付着仕事が82.9〔mJ/m2〕よりも小さい樹脂D及びEに関しては、インクへの浸漬後の密着強度が−100〔%〕前後まで低下しており、耐インク性が低くなっている。
図12は、圧力調整弁58を有機溶剤系インクに浸漬したときの基部75とシール部材73との密着強度の変化と、基部75に含まれるフィラーのSi濃度〔%〕(エネルギー分散型X線分析による)との関係を示すグラフである。従来では、基部75の素材にフィラーとしてシリカをより多く添加させることにより、プライマー層80との密着強度を高めることが試みられていたが、図12に示されるように、フィラーの添加量(Si濃度)と密着強度の変化率に相関は観られず、逆にフィラーをより多く添加することで樹脂の流動性が低下し、基部75のような微細な形状を成形する上では不利となる。
図13は、圧力調整弁58を有機溶剤系インクに浸漬したときの基部75とシール部材73との密着強度の変化と、基部75の材料とプライマー材料との性質の相違度を示す指標Eとの関係を示すグラフである。この指標Eは、以下の式(3)で表される指標である。
…(3)
すなわち、上記指標Eは、プライマー材料の表面自由エネルギーγLの各成分γL p、γL h、γL dと、基部75の表面自由エネルギーγSの各成分γS p、γS h、γS dとの相違度(3点間の距離)を示している。この指標Eの値が小さいほど、密着強度の変化率が小さくなる。密着強度の変化率を小さくするには、上述したように付着仕事を大きくすることが望ましい。そして、上記付着仕事を大きくするには、式(1)におけるγSLをできるだけ小さくすればよい。この点に関し、プライマー材料の表面自由エネルギーγLの各成分γL p、γL h、γL dと、基部75の表面自由エネルギーγSの各成分γS p、γS h、γS dとがそれぞれ可及的に近い値であるとき、すなわち、指標Eができるだけ小さい値であるときにγSLがより小さくなる。このように、付着仕事と指標Eとの間には相関がある。図13に示されるように、指標Eが16.3以下の樹脂A〜Cに関しては、インクへの浸漬後においても密着強度が殆ど変化せず、良好な耐インク性を示すことがわかる。これに対し、指標Eが16.3よりも大きい樹脂D及びEに関しては、インクへの浸漬後の密着強度が−100〔%〕前後まで低下しており、耐インク性が低い。
すなわち、上記指標Eは、プライマー材料の表面自由エネルギーγLの各成分γL p、γL h、γL dと、基部75の表面自由エネルギーγSの各成分γS p、γS h、γS dとの相違度(3点間の距離)を示している。この指標Eの値が小さいほど、密着強度の変化率が小さくなる。密着強度の変化率を小さくするには、上述したように付着仕事を大きくすることが望ましい。そして、上記付着仕事を大きくするには、式(1)におけるγSLをできるだけ小さくすればよい。この点に関し、プライマー材料の表面自由エネルギーγLの各成分γL p、γL h、γL dと、基部75の表面自由エネルギーγSの各成分γS p、γS h、γS dとがそれぞれ可及的に近い値であるとき、すなわち、指標Eができるだけ小さい値であるときにγSLがより小さくなる。このように、付着仕事と指標Eとの間には相関がある。図13に示されるように、指標Eが16.3以下の樹脂A〜Cに関しては、インクへの浸漬後においても密着強度が殆ど変化せず、良好な耐インク性を示すことがわかる。これに対し、指標Eが16.3よりも大きい樹脂D及びEに関しては、インクへの浸漬後の密着強度が−100〔%〕前後まで低下しており、耐インク性が低い。
図14は、上記各樹脂A〜Eについての、付着仕事、フィラー濃度(Si濃度)、指標E、密着強度変化率、及び、基部75とシール部材73との密着強度についての合否判定を示す表である。合否判定については、弁ユニット21の仕様上求められる耐久性を有する場合には合格(〇)、求められる耐久性に満たない場合には不合格(×)と判定される。同図に示されるように、付着仕事が82.9〔mJ/m2〕以上、指標Eが16.3以下の条件を満たす樹脂A〜Cは合格判定(〇)であり、付着仕事及び指標Eが条件を満たさない(付着仕事が82.9〔mJ/m2〕未満、指標Eが16.3よりも大きい)樹脂A〜Cは合格判定(〇)となっている。
このように、本発明に係る弁ユニット21においては、付着仕事が82.9〔mJ/m2〕以上、又は指標Eが16.3以下となるような基部75の材料とプライマー材料との組み合わせが選択されることにより、基部75の材料とプライマー材料との相溶性が高まり、基部75とシール部材73との密着性(密着強度)が向上する。特に、溶剤系インクに曝された場合においても基部75とシール部材73との密着強度の変化をより小さくすることができ、これにより、圧力調整弁58の耐久性がより高められる。この圧力調整弁58を有する弁ユニット21を備えるプリンター1や記録ヘッド10では、圧力調整弁58の耐久性が向上するので、信頼性の向上が可能となる。
なお、上記実施形態においては、弁ユニット21が、記録ヘッド10から独立した部材である構成を例示したが、これには限られず、液体噴射ヘッド自体が本発明に係る弁ユニットを有する構成(液体噴射ヘッドが、本発明に係る弁ユニットに相当する機能を有する構成)を採用することもできる。
そして、上記実施形態においては、弁ユニットとして、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド10にインクを供給する弁ユニット21を例示したが、これには限られず、本発明の弁ユニットは、種々の液体が流通する液体流路の開口を開閉する用途に用いることが可能である。
1…プリンター,2…フレーム,3…プラテン,4…ガイドロット,5…キャリッジ,6…パルスモーター,7…駆動プーリー,8…遊転プーリー,9…タイミングベルト,10…記録ヘッド,11…キャッピング機構,12…キャップ,13…インクカートリッジ,14…カートリッジホルダー,15…エアーチューブ,16…エアーポンプ,17…インク供給チューブ,18…FFC,19…回路基板,21…弁ユニット,22…ホルダー,23…固定板,24…ノズルプレート,25…連通板,26…アクチュエーター基板,27…コンプライアンス基板,28…ケース,29…圧力室形成基板,30…ノズル,31…圧電素子,32…保護基板,33…圧力室,34…ノズル連通口,35…個別連通口,36…振動板,37…導入流路,38…駆動IC,39…フレキシブル基板,40…配線空部,41…収容空間,43…第一共通液室,44…コンプライアンスシート,45…支持板,46…貫通開口,47…コンプライアンス空間,49…収容空部,50…挿通空部,51…第二共通液室,52…導入口,54…本体部,55…フィルター,56…フィルター室,57…圧力調整部,58…圧力調整弁,60…流路接続部,61…弁収容室,62…圧力調整室,63…仕切壁,64…流入口,65…導出口,67…受圧部材,68…フィルム部材,69…作動片,70…付勢部材,71…軸部,72…鍔部,73…シール部材,74…封止面,75…基部,76…シール基部,77…当接部,80…プライマー層,81…第1のプライマー層,82…第2のプライマー層
Claims (4)
- 弁により液体流路を開閉する弁ユニットであって、
前記弁の本体である基部と、
前記基部に設けられ、対向して配置された被当接部材に当接して前記液体流路をシールするシール部材と、
を備え、
前記シール部材と前記基部とはプライマー材料を介して接合されており、
前記基部と前記プライマー材料との付着仕事が82.9〔mj/m2〕以上であることを特徴とする弁ユニット。 - 請求項1又は請求項2に記載の弁ユニットを備え、
前記弁ユニットから供給される液体を噴射することを特徴とする液体噴射ヘッド。 - 請求項1又は請求項2に記載の弁ユニットと、
前記弁ユニットから供給される液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
を備えることを特徴とする液体噴射装置。
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