JP2019026893A - 耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた高強度鋼板 - Google Patents

耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた高強度鋼板 Download PDF

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謙太郎 秦
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Akira Matsuzaki
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Abstract

【課題】主として自動車、建材用の強度部材に好適な高強度鋼板であって、耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた高強度鋼板を提供する。
【解決手段】引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、Ni濃度が15質量%以上80質量%未満、付着量が0.5g/m以上90g/m未満のZn−Ni系めっき層を有する。好ましくは、鋼板表面にNi濃度が80〜100質量%、付着量が0.5g/m以上10g/m未満のNi系めっき層又はZn−Ni系めっき層を有し、その上層にNi濃度が10質量%以上80質量%未満のZn−Ni系めっき層を有し、めっき層全体のNi濃度を15質量%以上80質量%未満とする。Znの腐食の過程で生成する水酸化亜鉛は保護性の腐食生成物であり、Ni濃度が比較的高いZn−Ni系めっき層の形成により、この保護性が高い腐食生成物を含む安定錆が生成し、この安定錆が水素侵入を抑制する。
【選択図】なし

Description

本発明は、耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた高強度鋼板に関するものであり、詳細には、主として自動車、建材用の強度部材に好適な鋼板であって、耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板に関するものである。
従来、自動車用鋼板としては、板厚精度や平担度に関する要求から冷延鋼板が用いられているが、近年、自動車のCO排出量の低減および安全性確保の観点から、自動車用鋼板の高強度化が図られている。しかしながら、鋼材の強度を高めていくと、遅れ破壊という現象が生じやすくなることが知られており、この遅れ破壊は鋼材強度の増大とともに激しくなり、特に引張強度1180MPa以上の高強度鋼で顕著となる。なお、遅れ破壊とは、高強度鋼材が静的な負荷応力(引張り強さ以下の負荷応力)を受けた状態で、ある時間が経過したとき、外見上はほとんど塑性変形を伴うことなく、突然脆性的な破壊が生じる現象である。
この遅れ破壊は、鋼板の場合、プレス加工により所定の形状に成形したときの残留応力と、応力集中部における鋼の水素脆性により生じるものであることが知られている。この水素脆性の原因となる水素は、ほとんどの場合、外部環境から鋼中に侵入、拡散した水素であると考えられており、代表的には、鋼板の腐食の際に発生した水素が鋼中に侵入、拡散したものである。
高強度鋼板におけるこのような遅れ破壊を防止するために、例えば、特許文献1では、鋼板の組織や成分を調整することにより、遅れ破壊感受性を弱める検討がなされている。また、特許文献2では、遅れ破壊を防止する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関する検討がなされている。
特開2004−231992号公報 特開平6−145893号公報
しかし、特許文献1の手法では、外部環境から鋼板内部に侵入する水素量は変化しないため、遅れ破壊の発生を遅らせることは可能であるが、遅れ破壊自体を防止することはできない。また、特許文献2の手法では、めっき中のFe濃度は十数%程度であり、耐食性は得られるものの、優れた耐遅れ破壊特性は期待できない。
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、主として自動車、建材用の強度部材に好適な高強度鋼板であって、耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた高強度鋼板を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋼板内部に侵入する水素を抑制することにより遅れ破壊を防止できる手段について検討を重ねた結果、鋼板表面を特定の付着量とNi含有率のZn−Ni系めっき層で被覆することにより、鋼板内部への水素侵入を大幅に抑制して鋼板の遅れ破壊を防止することができ、しかも優れた耐食性も得られることを見出した。
また、高強度鋼板には、上記のような課題に加えて、特に加工部での高い耐食性の求められることがあるが、このような課題を解決できる手段について検討を重ねた結果、上述した特定の付着量とNi含有率のZn−Ni系めっき層の上層に、特定の有機樹脂層を設けることにより、上述したような優れた耐遅れ破壊特性とともに、優れた加工部耐食性が得られることを見出した。
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、Ni含有率が15質量%以上80質量%未満、付着量が0.5g/m以上90g/m未満のZn−Ni系めっき層を有することを特徴とする耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた高強度鋼板。
[2]上記[1]の高強度鋼板において、Zn−Ni系めっき層の付着量が20g/m以上50g/m未満であることを特徴とする耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた高強度鋼板。
[3]引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、第1層としてNi含有率が80〜100質量%、付着量が0.5g/m以上10g/m未満のNi系めっき層又はZn−Ni系めっき層を有し、その上に第2層としてNi含有率が10質量%以上80質量%未満のZn−Ni系めっき層を有し、
第1層と第2層を合わせためっき層全体のNi含有率が15質量%以上80質量%未満、付着量が0.6g/m以上90g/m未満であることを特徴とする耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた高強度鋼板。
[4]上記[3]の高強度鋼板において、第1層と第2層を合わせためっき層全体の付着量が20g/m以上50g/m未満であることを特徴とする耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた高強度鋼板。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの高強度鋼板において、さらに、めっき層の上層に、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、エチレン系樹脂の中から選ばれる1種以上を主剤樹脂とする膜厚が0.3μm以上4.0μm未満の有機樹脂層を有することを特徴とする耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた鋼板。
本発明の高強度鋼板は、遅れ破壊が効果的に抑制される優れた耐遅れ破壊特性を有するとともに、優れた耐食性を有している。また特に、Zn−Ni系めっき層の上層に特定の有機樹脂層を設けた本発明の高強度鋼板は、優れた耐遅れ破壊特性を有するとともに、優れた加工部耐食性を有している。
実施例で用いた遅れ破壊評価用試験片を模式的に示す図面 実施例において行った複合サイクル腐食試験の工程を示す説明図 実施例において行った予備加工の方法を模式的に示す図面
本発明の高強度鋼板の基材となる鋼板(素材鋼板)は、引張強度が1180MPa以上、好ましくは1320MPa以上の鋼板である。引張強度が低い鋼板は、本質的に遅れ破壊が生じにくい。本発明の効果は、引張強度が低い鋼板でも発現されるが、引張強度が1180MPa以上の鋼板で顕著に発現され、引張強度が1320MPa以上の鋼板でより顕著に発現されるためである。
鋼板の化学組成および鋼組織は、特に限定されない。また、圧延方法などについても特に限定されず、熱延鋼板、冷延鋼板のいずれでもよい。ただし、これらのうち、自動車分野や建材分野などにおいて用いられる、特に自動車分野などにおいて多く用いられる引張強度が1180MPa以上の高強度冷延鋼板が好ましく、引張強度が1340MPa以上の高強度冷延鋼板がさらに好ましい。
本発明において好ましく用いられる高強度冷延鋼板は、所望の引張強度を有するものであれば、いかなる組成及び組織を有するものでもよく、機械特性などの諸特性を向上させるために、例えば、C、Nなどの侵入型固溶元素やSi、Mn、P、Crなどの置換型固溶元素の添加による固溶体強化、Ti、Nb、V、Alなどの炭・窒化物による析出強化、W、Zr、Hf、Co、B、Cu、希土類元素などの強化元素の添加といった化学組成的改質、再結晶の起こらない温度で回復焼きなましすることによる強化あるいは完全に再結晶させずに未再結晶領域を残す部分再結晶強化、ベイナイトやマルテンサイト単相化あるいはフェライトとこれら変態組織の複合組織化といった変態組織による強化、フェライト粒径をdとしたときのHall-Petchの式:σ=σ+kd-1/2(式中σ:応力、σ,k:材料定数)で表される細粒化強化、圧延などによる加工強化といった組織的ないし構造的改質を単独で又は複数を組み合わせて行うことができる。
このような高強度冷延鋼板の組成として、例えば、質量%で、C:0.1〜0.4%、Si:0〜3.0%、Mn:1〜10%、P:0〜0.05%、S:0〜0.005%、残部がFeおよび不可避的不純物であるもの、これにCu、Ti、V、Al、Cr、Niなどの1種又は2種以上を添加したもの、などを例示することができる。
上記の引張強度を有する高強度冷延鋼板として商業的に入手可能なものとして、例えば、JFE−CA1180、JFE−CA1370、JFE−CA1470、JFE−CA1180SF、JFE−CA1180Y1、JFE−CA1180Y2(以上、JFEスチール株式会社製)などが例示できる。
本発明において基材となる鋼板(素材鋼板)の厚さは、特に限定されるものではないが、0.8〜2.5mm程度が好ましく、1.2〜2.0mm程度がより好ましい。
本発明の高強度鋼板は、上述したような鋼板(素材鋼板)の表面に、Ni含有率が15質量%以上80質量%未満、付着量が0.5g/m以上90g/m未満のZn−Ni系めっき層(Zn−Ni系合金めっき層)を有する。
本発明者らの検討結果によれば、腐食過程における鋼板内部への水素侵入は、湿潤環境下におけるFe錆の酸化還元反応が大きく寄与していると考えられ、水素侵入を抑制するためには、Fe錆を変化しにくい状態にするいわゆる「安定錆」を形成することが重要であること、この「安定錆」の形成には、鋼板表面にNi濃度が比較的高いZn−Ni合金層(めっき層)を形成することが有効であることが判った。この理由は必ずしも明らかではないが、次のように推定できる。すなわち、Znの腐食の過程で生成する水酸化亜鉛[Zn(OH)]は保護性の腐食生成物であるといわれているが、鋼板表面にNi濃度が比較的高いZn−Ni合金層(めっき層)を形成することにより、この保護性が高い腐食生成物を含む安定錆が生成し、この安定錆が水素侵入を抑制するものと推定される。
また、ZnとNiからなるめっき層は、鋼板の加工後に地鉄に達するクラックが多数入り、鋼板表面を完全には被覆していない状態となるが、Ni含有率が15質量%以上80質量%未満のZnとNiからなるめっき層の場合には、上述のように腐食環境下で保護性の高いZnの腐食生成物を含む安定錆が形成され、その腐食生成物がクラック部分を埋めることで水素侵入を抑制するものと考えられる。
以上のように推定されるメカニズムによって、水素侵入を抑制するために有効な腐食生成物を生成させるには、鋼板表面に形成するZn−Ni系めっき層は、Ni含有率が15質量%以上80質量%未満、付着量が0.5g/m以上90g/m未満とする必要がある。また、特に腐食に厳しい部材に適用する場合には、Zn−Ni系めっき層の付着量を20g/m以上50g/m未満とすることが好ましい。
Zn−Ni系めっき層のNi含有率が15質量%未満では、鋼板の腐食抑制に寄与するZn量が多くなるため耐食性は向上するが、Znの腐食に伴い発生する水素量が増加するため、水素の侵入を助長してしまう。一方、Ni含有率が80質量%以上では、鋼板の腐食抑制に寄与するZn量が少ないため耐食性が低下してしまう。
Zn−Ni系めっき層の付着量が0.5g/m未満では、十分な水素侵入抑制効果と耐食性が得られない。一方、付着量が90g/m以上では、鋼板の腐食抑制に寄与するZn量が多くなるため耐食性は向上するが、防錆鋼板として必要以上の被覆層はコストが高くなるため好ましくない。また、皮膜付着量が多くなるとプレス加工時に皮膜が脱落することで耐遅れ破壊特性が劣化することがあるため好ましくない。
Zn−Ni系めっき層は、基本的にNi(Ni:15質量%以上80質量%未満)とZnなるものであるが、例えば、塗膜密着性や皮膜の残留応力緩和などを目的として、V、Mo、Wなどのような合金元素の1種以上を少量(例えば3mass%以下)添加してもよい。
また、鋼板界面のNi含有率を高くすることで耐遅れ破壊特性が向上することから、めっき層を2層構造とし、Ni含有率を第1層(下層)>第2層(上層)とすることにより、耐遅れ破壊特性と耐食性をより高めることができる。
具体的には、鋼板表面に、第1層としてNi含有率が80〜100質量%、付着量が0.5g/m以上10g/m未満のNi系めっき層又はZn−Ni系めっき層を形成し、その上に第2層としてNi含有率が10質量%以上80質量%未満のZn−Ni系めっき層を形成し、第1層と第2層を合わせためっき層全体のNi含有率を15質量%以上80質量%未満、付着量を0.6g/m以上90g/m未満とする。
鋼板表面に第1層として形成されるめっき層は、Ni含有率が高いほど好ましく、したがってNi系めっき層(例えば純Niめっき層)であってもよい。一方、第1層がZn−Ni系めっき層の場合、Ni含有率が80質量%未満では、鋼板界面にNi含有率が高いめっき層を設けることによる耐遅れ破壊特性の顕著な向上効果が認めらない。また、第1層として形成されるめっき層の付着量が0.5g/m未満では、そのような耐遅れ破壊特性の顕著な向上効果が発現せず、一方、付着量が10g/m以上では、めっき層全体に占めるZn量が減少するため防錆効果が低下する。
第1層に上記のような高Ni含有率のめっき層を形成し、且つ第1層と第2層を合わせためっき層全体のNi含有率(平均Ni含有率)を15質量%以上80質量%未満とすることにより、耐遅れ破壊特性を顕著に向上させることができる。めっき層全体のNi含有率を上記の範囲とするために、第2層として形成されるZn−Ni系めっき層のNi含有率は10質量%以上80質量%未満とする。ここで、めっき層全体のNi含有率の限定理由は、上述した単層構造のめっき層のNi含有率の限定理由と同じである。
また、第1層に高Ni含有率のめっき層を形成することから、鋼板の防錆性を確保するためにめっき層全体の付着量は0.6g/m以上とする必要がある。一方、めっき層全体の付着量が0.6g/m未満では、耐食性が低くなるだけでなく、上述した腐食生成物機構を発現する効果が得られないため、耐遅れ破壊特性が向上しない。また、特に腐食に厳しい部材に適用する場合には、めっき層全体の付着量を20g/m以上50g/m未満とすることが好ましい。
なお、以上述べた2層構造のめっき層を構成するZn−Ni系めっき層やNiめっき層にも、例えば、塗膜密着性や皮膜の残留応力緩和などを目的として、V、Mo、Wなどのような合金元素の1種以上を少量(例えば3mass%以下)添加してもよい。
鋼板表面に上述したような単層又は2層構造のめっき層を形成する方法については、特別な制限はなく、公知の方法を適用することが可能であり、例えば、電気めっき法(Zn−Ni合金電気めっき法)、無電解めっき法、蒸着めっき法等を適用することができる。
電気めっき法(Zn−Ni合金電気めっき法)の場合には、めっき浴に含まれるZn、Niの濃度を調整することでZn−Ni系めっき層のNi含有率を調整することができ、また、電解時間を調整することでZn−Ni系めっき層やNi系めっき層の付着量を調整することができる。
無電解めっき法の場合には、めっき浴に含まれるZn、Niの濃度を調整することでZn−Ni系めっき層のNi含有率を調整することができ、また、処理時間を変更したりすることでZn−Ni系めっき層やNi系めっき層の付着量を調整することができる。
蒸着めっき法の場合には、ターゲットとしてNi材及びZn材を用い、蒸着させる量を変化させることでZn−Ni系めっき層のNi含有率を調整することができ、また、処理時間やスパッタ速度を変更することでZn−Ni系めっき層やNi系めっき層の付着量を調整することができる。
本発明の高強度鋼板は、上述した単層又は2層構造のめっき層を鋼板の片面に形成してもよいし、鋼板両面に形成してもよい。
本発明の高強度鋼板は、上述したようなめっき層の上層にさらに、任意の被覆層(表面処理層、有機樹脂層など)を形成することができるが、特に、以下のような特定の有機樹脂層を形成することにより、加工部耐食性を向上させることができる。上述したようなめっき層を有する高強度鋼板は、加工時にめっき層にクラックが発生するが、特に厳しい加工によってクラック間隔が大きくなる場合や、めっき層の付着量が多い場合には、めっき層の剥がれが生じる恐れがある。これに対して、めっき層の上層に特定の有機樹脂層を形成することにより、単に鋼板の腐食を抑制するだけではなく、めっき層の剥がれを抑制して耐食性を維持することができる。
具体的には、上述しためっき層の上層に、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、エチレン系樹脂(ポリオレフィン樹脂)の中から選ばれる1種以上を主剤樹脂とする膜厚が0.3μm以上4.0μm未満の有機樹脂層を形成する。
このような有機樹脂層を設けることにより加工部耐食性が向上するのは、上述した通り、有機樹脂層が腐食因子のバリア層となって腐食を抑制するだけでなく、加工時のめっき層の剥がれを防止するためであると考えられる。ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、エチレン系樹脂(ポリオレフィン樹脂)は酸素透過性が低いため、これらの1種以上を主剤樹脂とする。すなわち、これらの1種以上を樹脂(固形分)中の割合で50質量%以上含む。
ただし、上記主剤樹脂に対して、アルキド樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アミノ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂などの1種以上を混合して使用してもよい。
有機樹脂層の膜厚が0.3μm未満では、バリア層による耐食性の向上効果が得られない。一方、膜厚が4μm以上では、耐食性は向上するが、部材を組み合わせる際に行われる溶接時の溶接性が劣る。
めっき層の上層に有機樹脂層を形成するには、有機樹脂を溶媒(水および/または有機溶剤)に溶解及び/又は分散させた処理液(樹脂溶液)を鋼板表面にコーティングした後、加熱乾燥させる方法が採られる。
有機樹脂を含む処理液を鋼板表面にコーティングする方法としては、塗布方式、浸漬方式、スプレー方式のいずれでもよく、塗布方式ではロールコーター(3ロール方式、2ロール方式など)、スクイズコーター、ダイコーターなどのいずれの塗布手段を用いてもよい。また、スクイズコーターなどによる塗布処理、浸漬処理、スプレー処理の後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行うことも可能である。コーティングした処理液を加熱乾燥する方法は任意であり、例えば、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉等の手段を用いることができる。
ここで、有機樹脂層の膜厚の測定では、皮膜断面を観察し、任意視野の複数箇所(例えば3箇所)で有機樹脂層の厚さ(鋼板めっき面から有機樹脂層の表面までの厚さ)を測定し、それらの平均値を求める。本発明では、この平均値をもって有機樹脂層の膜厚とする。なお、断面加工の方法は特に限定されないが、例えばFIB加工などを用いることができる。
めっき層と同様、めっき層の上層の有機樹脂層は、鋼板の片面のみに形成してもよいし、鋼板両面に形成してもよい。
基材として使用される鋼板の製造方法は特に限定されない。本発明の理解を容易にするために、製鋼からの一連のプロセスについて、一例を挙げて簡単に説明する。但し、基材となる鋼板の製造工程は、以下の例示に限定されるものではない。
所定の成分組成の鋼を溶製し、常法に従い連続鋳造でスラブとする。次いで、得られたスラブを加熱炉中で1100〜1300℃の温度で加熱し、750〜950℃の仕上げ温度で熱間圧延を行い、500〜650℃にて巻き取る。これに続いて酸洗後、圧下率30〜70%の冷間圧延を行う。その後、必要に応じて、常法に従い、アルカリ又はアルカリと界面活性剤及びキレート剤との混合溶液による洗浄、電解洗浄、温水洗浄、乾燥を行う清浄化処理を行った後、750〜900℃にて加熱処理し、急速冷却を行い、鋼板の引張強度の調整を行う。さらに必要に応じて、常法に従い伸長率0.01〜0.5%程度の調質圧延を行うことで所望の引張強度を有する冷延鋼板を得る。このようにして得られた冷延鋼板表面に、電気めっき法、無電解めっき法、蒸着めっき法などにより、上述したようなめっき層を形成し、さらに必要に応じて、有機樹脂を含む処理液をコーティングすることにより有機樹脂層を形成する。これにより本発明の高強度冷延鋼板を得ることができる。
なお、鋼板表面にめっき層を形成するためにめっき処理、特に電気めっき法によるめっき処理を行う場合において、めっき処理時に鋼板及びZn−Niめっき層中に水素が侵入するおそれがあるときは、必要に応じて、めっき処理後に100〜300℃程度の温度でベーキング処理を施し、鋼板及びZn−Niめっき層中に侵入した水素を除去する処理を施してもよい。
[実施例1]
素材鋼板として、成分組成がC:0.19質量%、Si:0.4質量%、Mn:1.53質量%、P:0.011質量%、S:0.001質量%、残部Fe及び不可避的不純物からなり、板厚が1.6mmの冷延鋼板(引張強度1480MPa)を用いた。この冷延鋼板をトルエンに浸漬して5分間超音波洗浄を行い、防錆油を除去した後、以下のめっき法によりめっき層を形成した。
・電気めっき法
電気めっき液として、硫酸ニッケル・6水和物を350g/L、硫酸亜鉛・7水和物を0〜150g/L添加し、硫酸によりpH2.0に調整したものを用いた。電流密度を10〜80A/dmの範囲で調整することで、Zn−Niめっき層のNi含有率を調整し、また、電解時間を調整することで付着量を調整した。なお、Ni含有率100%のめっき層は、浴中にZnを含まないめっき浴を用いて形成し、Ni含有率0%(Zn含有率100%)のめっき層は、浴中にNiを含まないめっき浴を用いて形成した。
また、2層めっきでは、第1層(下層)のめっき完了後に、通電条件を変更して若しくは通電条件が異なる他のめっき浴において第2層(上層)のめっきを行った。
・蒸着めっき法
蒸着めっき処理はイオンプレーティング法で実施し、ターゲットであるNi材、Zn材へのチャージ量を変化させることで、基板に蒸着するZn−Niめっき層の組成を調整した。また、処理時間を変更することによりZn−Niめっき層の付着量を調整した。この蒸着めっきでは、基板温度を100〜110℃にして製膜した。また、2層めっきでは、第1層(下層)の蒸着めっき完了後に、条件を変更して第2層(上層)の蒸着めっきを行った。
なお、以上のめっき処理を行わない鋼板を比較例の1つとした。
めっき層の付着量は、鋼板を塩酸に浸漬してめっき成分を溶解させ、溶解前後の質量差から求めた。また、Ni含有率はICP分析法にてNi含有量を測定した。
以上のようにして得られた試験片について、以下の評価を行った。得られた結果を、鋼板表面のめっき層の構成とともに表1及び表2に示す。
(1)耐遅れ破壊特性の評価
研削加工を施して作製した試験片(30mm×99.5mm)を曲率半径4.5mmRで180°曲げ加工し、図1に示すように、この曲げ試験片1を内側間隔が8mmとなるようにボルト2とナット3で拘束して試験片形状を固定し、遅れ破壊評価用試験片を得た。このようにして作製した遅れ破壊評価用試験片に対し、米国自動車技術会で定めたSAE J2334に規定された、乾燥・湿潤・塩水浸漬の工程からなる複合サイクル腐食試験(図2参照)を、最大60サイクルまで実施した。各サイクルの塩水浸漬の工程前に目視により割れの発生の有無を調査し、割れ発生サイクル数を測定した。また、本試験は、各鋼板3検体ずつ実施し、その平均値をもって評価を行った。評価はサイクル数から、以下の基準により評価し、○以上を良好とした。
◎:30サイクル以上
○:10サイクル以上、30サイクル未満
×:10サイクル未満
(2)耐食性の評価
上記耐遅れ破壊特性の評価を行ったサンプルについて、各サイクルの塩水浸漬工程前に目視により赤錆発生の有無を調査し、赤錆発生サイクル数を測定した。評価はサイクル数から、以下の基準により評価した。
◎:30サイクル以上
○:5サイクル経過時点で赤錆の発生はないが、30サイクル未満で赤錆発生あり
×:5サイクル未満で赤錆発生あり
Figure 2019026893
Figure 2019026893
表1及び表2によれば、本発明例の鋼板は、いずれも優れた耐遅れ破壊特性と耐食性が得られている。これに対して比較例の鋼板は、耐遅れ破壊特性と耐食性のいずれか又は両方が劣っている。
[実施例2]
実施例1と同じ成分組成の素材鋼板の表面に、実施例1と同様の方法(前処理及びめっき処理)でめっき層を形成し、次いで、このめっき層の上層に有機樹脂層を形成した。有機樹脂層用には下記A1〜A4の有機樹脂を用い、いずれかの有機樹脂を含む処理液をロールコーター式の塗布法で塗布した後、到達板温が120℃となるようにインダクションヒーターで加熱することで有機樹脂層を形成した。
A1:エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名:jER1009)
A2:ポリオレフィン樹脂(東邦化学工業(株)製、商品名:HYTEC S−3121)
A3:ウレタン樹脂(メーカー名:第一工業製薬(株)製 型番:スーパーフレックスE−2000)
A4:フッ素樹脂(旭硝子(株)製、商品名:ルミフロン LF552)
有機樹脂層の膜厚の測定は、FIB加工により得られた断面をSEM観察し、任意視野の3箇所で有機樹脂層の厚さ(鋼板めっき面から有機樹脂層の表面までの厚さ)を測定し、それらの平均値を膜厚とした。
以上のようにして得られた試験片について、下記(2)〜(4)の評価を行ったが、(2)及び(3)の評価については、下記(1)の予備加工を行った試験片を対象とした。得られた結果を、めっき層及び有機樹脂層の構成とともに表3〜表5に示す。
(1)予備加工
得られた鋼板から、幅40mm×長さ250mmの一次試験片を作製し、図3に示すようなビードを模した冶具を用いてドロービード加工を施し、鋼板の評価面とビード部との間で長さ150mm以上の摺動を起こさせ、予備加工した試験片を得た。なお、上記ドロービード試験において、使用した冶具のダイス肩及びビード部の曲率半径は2mmRであり、ダイスの押し付け圧は5.88×10N/m、引き抜き速度は2m/minとした。また、試験片に潤滑油としてスギムラ化学社製「プレトン303PX2」を1.5g/m(片面)塗布した後、試験に供した。
(2)耐遅れ破壊性の評価
予備加工で得られた試験片に研削加工を施して30mm×99.5mmの二次試験片を得た。この二次試験片を曲率半径4.5mmRで180°曲げ加工し、図1に示すように、この曲げ試験片1を内側間隔が9mmとなるようにボルト2とナット3で拘束して試験片形状を固定し、遅れ破壊評価用試験片を得た。このようにして作製した遅れ破壊評価用試験片に対し、米国自動車技術会で定めたSAE J2334に規定された、乾燥・湿潤・塩水浸漬の工程からなる複合サイクル腐食試験(図2参照)を、最大60サイクルまで実施した。各サイクルの塩水浸漬の工程前に目視により割れの発生の有無を調査し、割れ発生サイクル数を測定した。また、本試験は、各鋼板3検体ずつ実施し、その平均値をもって評価を行った。評価はサイクル数から、以下の基準により評価し、○以上を良好とした。
◎:30サイクル以上
○:10サイクル以上、30サイクル未満
×:10サイクル未満
(3)耐食性の評価
上記耐遅れ破壊特性の評価を行ったサンプルについて、各サイクルの塩水浸漬工程前に目視により赤錆発生の有無を調査し、赤錆発生サイクル数を測定した。評価はサイクル数から、以下の基準により評価した。
◎:30サイクル以上
○:5サイクル経過時点で赤錆の発生はないが、30サイクル未満で赤錆発生あり
×:5サイクル未満で赤錆発生あり
(4)導電性の評価
溶接性の指標として導電性を評価した。発明例および比較例の鋼板の試験片について、三菱化学アナリテック(株)製「ロレスタGP ASP端子」を用い表面抵抗値を測定し、表面抵抗値が10−4Ω以下となる割合(%)により、以下の判定基準で評価した。
○:80%以上
△:60%以上80%未満
×:60%未満
Figure 2019026893
Figure 2019026893
Figure 2019026893
表3〜表5によれば、本発明例の鋼板は、いずれも優れた耐遅れ破壊特性と耐食性(加工部耐食性)が得られている。これに対して比較例の鋼板は、耐遅れ破壊特性、耐食性(加工部耐食性)のいずれか又は両方が劣っている。
1 試験片
2 ボルト
3 ナット

Claims (5)

  1. 引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、Ni含有率が15質量%以上80質量%未満、付着量が0.5g/m以上90g/m未満のZn−Ni系めっき層を有することを特徴とする耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた高強度鋼板。
  2. Zn−Ni系めっき層の付着量が20g/m以上50g/m未満であることを特徴とする請求項1に記載の耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた高強度鋼板。
  3. 引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、第1層としてNi含有率が80〜100質量%、付着量が0.5g/m以上10g/m未満のNi系めっき層又はZn−Ni系めっき層を有し、その上に第2層としてNi含有率が10質量%以上80質量%未満のZn−Ni系めっき層を有し、
    第1層と第2層を合わせためっき層全体のNi含有率が15質量%以上80質量%未満、付着量が0.6g/m以上90g/m未満であることを特徴とする耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた高強度鋼板。
  4. 第1層と第2層を合わせためっき層全体の付着量が20g/m以上50g/m未満であることを特徴とする請求項3に記載の耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた高強度鋼板。
  5. さらに、めっき層の上層に、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、エチレン系樹脂の中から選ばれる1種以上を主剤樹脂とする膜厚が0.3μm以上4.0μm未満の有機樹脂層を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の耐遅れ破壊特性と耐食性に優れた鋼板。
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