JP2019019383A - 焼結部材、及び焼結部材の製造方法 - Google Patents

焼結部材、及び焼結部材の製造方法 Download PDF

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繁樹 江頭
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朝之 伊志嶺
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Abstract

【課題】径方向の内周側又は外周側の一方側が高硬度で、他方側が低硬度な焼結部材を提供する。【解決手段】鉄基合金からなる組成を有する筒状の焼結部材であって、径方向の内周側及び外周側の一方に形成され、C含有量が0.7質量%以上で、ビッカース硬さが650Hv以上である高炭素高硬度部と、径方向の内周側及び外周側の他方に形成され、C含有量が0.5質量%以下で、ビッカース硬さが500Hv以下である低炭素低硬度部とを備え、前記高炭素高硬度部側から前記低炭素低硬度部側に向かって径方向に沿ってビッカース硬さのプロファイルをとったとき、前記プロファイルにおけるビッカース硬さの下降開始点とビッカース硬さの下降収束開始点とを結ぶ直線の傾きが−0.25以下である焼結部材。【選択図】図1

Description

本発明は、焼結部材、及び焼結部材の製造方法に関する。
自動車用部品や一般機械の部品などに利用される焼結部材は、一般的に、鉄基合金粉末を加圧成形した圧粉成形体を焼結して焼結部材を作製する焼結工程と、焼結部材を浸炭処理(浸炭焼入れ・焼戻し)する浸炭処理工程とを経て製造される。その他の焼結部材の製造方法として、特許文献1の焼結部品の製造方法が知られている。この焼結部品の製造方法では、焼結工程の冷却過程で焼結部材を急冷する所謂シンターハードニング処理を施し、その後の浸炭処理工程を行っていない。
特開2004−323939号公報
焼結部材は、強度と振動抑制との両立から、径方向に一様な硬度を有するのではなく、径方向の内周側又は外周側の一方側が高硬度で他方側が低硬度であることが望まれる。
焼結後に浸炭処理する一般的な製造方法であれば、径方向の内周側又は外周側の一方側が高硬度で、他方側が低硬度な焼結部材が得られる。浸炭処理により、内周側又は外周側の一方のC含有量を高められるからである。しかし、シンターハードニング処理を行う特許文献1に比較して、浸炭処理工程の分だけ工程数が多くなる。
一方、シンターハードニング処理を行う特許文献1の製造方法であれば、浸炭処理工程を省略できて工程数を低減できる。しかし、浸炭処理を行わないため、径方向の内周側又は外周側の一方側が高硬度で他方側が低硬度な焼結部材を製造できず、硬度が均一な焼結部材が得られる。
そこで、径方向の内周側又は外周側の一方側が高硬度で、他方側が低硬度な焼結部材を提供することを目的の一つとする。
また、浸炭処理を行わなくても、上記焼結部材を製造できる焼結部材の製造方法を提供することを目的の一つとする。
本開示に係る焼結部材は、
鉄基合金からなる組成を有する筒状の焼結部材であって、
径方向の内周側及び外周側の一方に形成され、C含有量が0.7質量%以上で、ビッカース硬さが650Hv以上である高炭素高硬度部と、
径方向の内周側及び外周側の他方に形成され、C含有量が0.5質量%以下で、ビッカース硬さが500Hv以下である低炭素低硬度部とを備え、
前記高炭素高硬度部側から前記低炭素低硬度部側に向かって径方向に沿ってビッカース硬さのプロファイルをとったとき、前記プロファイルにおけるビッカース硬さの下降開始点とビッカース硬さの下降収束開始点とを結ぶ直線の傾きが−0.25以下である。
本開示に係る焼結部材の製造方法は、
C含有量が0.7質量%以上の高炭素鉄基合金粉末を有する第1原料粉末と、C含有量が0.5質量%以下の低炭素鉄基合金粉末を有する第2原料粉末とを準備する原料準備工程と、
貫通孔を有するダイと前記貫通孔内に挿通されるコアロッド及び下パンチとで作られる筒状のキャビティの内周側又は外周側の一方側に、前記第1原料粉末を充填し、他方側に前記第2原料粉末を充填する充填工程と、
前記下パンチと、前記下パンチと対向配置された上パンチとにより、前記キャビティ内の前記両原料粉末を加圧して筒状の圧粉成形体を作製する成形工程と、
前記圧粉成形体を焼結する焼結工程とを備え、
前記焼結工程の冷却過程における冷却速度が1℃/sec以上である。
上記焼結部材は、径方向の内周側又は外周側の一方側が高硬度で、他方側が低硬度である。
上記焼結部材の製造方法は、浸炭処理を行わなくても、径方向の内周側又は外周側の一方側が高硬度で、他方側が低硬度な焼結部材を製造できる。
実施形態に係る焼結部材の概略を示す斜視図である。 試験例1において、焼結部材における外周面からの深さとビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
《本発明の実施形態の説明》
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
(1)本発明の一態様に係る焼結部材は、
鉄基合金からなる組成を有する筒状の焼結部材であって、
径方向の内周側及び外周側の一方に形成され、C含有量が0.7質量%以上で、ビッカース硬さが650Hv以上である高炭素高硬度部と、
径方向の内周側及び外周側の他方に形成され、C含有量が0.5質量%以下で、ビッカース硬さが500Hv以下である低炭素低硬度部とを備え、
前記高炭素高硬度部側から前記低炭素低硬度部側に向かって径方向に沿ってビッカース硬さのプロファイルをとったとき、前記プロファイルにおけるビッカース硬さの下降開始点とビッカース硬さの下降収束開始点とを結ぶ直線の傾きが−0.25以下である。
上記の構成によれば、径方向の内周側又は外周側の一方側に高硬度な高炭素高硬度部を備えるため、他の部材との接触による負荷の大きい側を高炭素高硬度部で構成できるので、その接触による損傷を抑制できる。その上、径方向の内周側又は外周側の他方側に低硬度な低炭素低硬度部を備えることで、負荷の大きい高炭素高硬度部において他の部材との接触に伴って発生する振動を低炭素低硬度部で抑制でき、その振動に伴う騒音を抑制できる。
上記傾きが−0.25以下である焼結部材は、焼結後の浸炭処理を行う従来の一般的な製造方法ではなく、本発明の一態様に係る焼結部材の製造方法により得られる。それは、浸炭処理を行わないことで浸炭処理に伴うCの拡散が生じないからである。詳しくは後述するが、浸炭処理を行うと上記傾きは、行わない場合に比較して緩やかになる。
(2)上記焼結部材の一形態として、前記鉄基合金は、Ni,Cu,Sn,Cr,Mo,Si,Nb,B,及びMnから選択される少なくとも1種以上の添加元素を含むことが挙げられる。
上記の構成によれば、硬度を高め易い。これらの添加元素は、焼結部材の機械的特性の向上に寄与する。
(3)上記鉄基合金が上記添加元素を含む上記焼結部材の一形態として、前記鉄基合金の前記添加元素の合計含有量は、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが挙げられる。
上記合計含有量を0.1質量%以上とすれば、硬度を高め易い。上記合計含有量を10.0質量%以下とすれば、添加元素が過度に多すぎず、靭性の低下を抑制し易い。
(4)本発明の一態様に係る焼結部材の製造方法は、
C含有量が0.7質量%以上の高炭素鉄基合金粉末を有する第1原料粉末と、C含有量が0.5質量%以下の低炭素鉄基合金粉末を有する第2原料粉末とを準備する原料準備工程と、
貫通孔を有するダイと前記貫通孔内に挿通されるコアロッド及び下パンチとで作られる筒状のキャビティの内周側又は外周側の一方側に、前記第1原料粉末を充填し、他方側に前記第2原料粉末を充填する充填工程と、
前記下パンチと、前記下パンチと対向配置された上パンチとにより、前記キャビティ内の前記両原料粉末を加圧して筒状の圧粉成形体を作製する成形工程と、
前記圧粉成形体を焼結する焼結工程とを備え、
前記焼結工程の冷却過程における冷却速度が1℃/sec以上である。
上記の構成によれば、浸炭処理を行わなくても、径方向の内周側又は外周側の一方側に形成される高炭素高硬度部と、他方側に形成される低炭素低硬度部とを有する焼結部材を製造できる。原料粉末のC含有量は焼結後も維持されるため、原料準備工程でC含有量が互いに異なる第1原料粉末と第2原料粉末とを準備し、その第1・第2原料粉末を充填工程でキャビティ内の内周側と外周側の互いに異なる側に充填するからである。また、焼結工程の冷却過程における冷却速度を1℃/sec以上とすることで、マルテンサイト組織を形成できて、強度を高められる。特に、C含有量が多いほどマルテンサイト組織の形成により硬度を高められるため、第1原料粉末側を第2原料粉末側に比較して高硬度化し易い。
《本発明の実施形態の詳細》
本発明の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。
〔焼結部材〕
図1を参照して実施形態に係る焼結部材1を説明する。この焼結部材1は、鉄基合金からなる組成を有する筒状体である。この焼結部材1の特徴の一つは、径方向の内周側又は外周側の一方と他方のそれぞれに形成される高炭素高硬度部2と低炭素低硬度部3とを備え、その一方側から他方側に向かって径方向に沿って特定のビッカース硬さのプロファイルを有する点にある。以下、詳細を説明する。
[高炭素高硬度部]
高炭素高硬度部2は、筒状の焼結部材1のうち、低炭素低硬度部3に比較してC含有量が多くて高硬度な部分である。即ち、高炭素高硬度部2は、筒状の焼結部材1のうち、低炭素低硬度部3を除く部分である。
高炭素高硬度部2の形成箇所は、径方向の内周側及び外周側の一方であり、焼結部材1の用途に応じて適宜選択できる。高炭素高硬度部2の形成箇所は、焼結部材1において、他の部材との接触による負荷の大きい高負荷側が挙げられる。そうすれば、高硬度であるため、負荷による損傷を抑制し易い。
例えば、図1に示すように、焼結部材1の用途が外歯車の場合、高負荷側は歯部21が形成される外周側である。外周側が他の歯車に噛合されるからである。よって、高炭素高硬度部2の形成箇所は径方向の外周側が挙げられる。同様に、図示は省略しているが、焼結部材の用途が内歯車の場合、高負荷側は歯部が形成される内周側である。内周側が他の外歯車に噛合されるからである。よって、高炭素高硬度部の形成箇所は径方向の内周側が挙げられる。焼結部材1の用途が外歯車(内歯車)の場合、高炭素高硬度部2は歯部21を備え、高炭素高硬度部2の外周面(内周面)の形状が凹凸形状である。歯部21のサイズや数などは適宜選択できる。
高炭素高硬度部2の材質は、鉄を主成分とし、後述の低炭素鉄基合金に比較して、添加元素のC含有量の多い高炭素鉄基合金からなる組成を有する。鉄の含有量は、高炭素鉄基合金を100質量%とするとき、85質量%以上、更に90質量%以上が挙げられる。C含有量は、高炭素鉄基合金を100質量%とするとき、0.7質量%以上が挙げられる。そうすれば、焼結部材1の機械的特性(特に硬度)の向上に寄与する。C含有量は、更に0.8質量%以上2.0質量%以下が挙げられる。高炭素高硬度部2のC含有量は、準備する原料粉末の高炭素鉄基合金のC含有量が維持される。
高炭素鉄基合金は、更に、Cu,Ni,Sn,Cr,Mo,Si,Nb,B,及びMnから選択される少なくとも1種の添加元素を含んでいてもよい。これらの添加元素は、焼結部材1の機械的特性の向上に寄与する。高炭素鉄基合金は、不可避的不純物を含むことを許容する。具体的な高炭素鉄基合金の組成は、Fe−Ni−Mo−Mn−Cr−C系合金が代表的であり、その他、Fe−Cu−C系合金,Fe−Ni−Mo−Cu−C系合金,Fe−Ni−Mo−C系合金,Fe−Cr−C系合金,Fe−Ni−C系合金,Fe−Mo−Mn−Cr−C系合金などが挙げられる。高炭素鉄基合金におけるCu,Ni,Sn,Cr,Mn,Si,Nb,B,及びMoの含有量は、合計で0.1質量%以上10.0質量%以下、更に0.2質量%以上7.5質量%以下、特に0.3質量%以上5.0質量%以下が挙げられる。上記合計含有量を0.1質量%以上とすれば、硬度を高め易い。上記合計含有量を10.0質量%以下とすれば、添加元素が過度に多すぎず、硬度を低下させる残留オーステナイトの生成を抑制し易い。
各元素は、ICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Optical Emission Spectrometry:ICP−OES)などによって成分分析を行うことで確認できる。
高炭素高硬度部2のビッカース硬さは、650Hv以上である。そうすれば、高硬度であるため、他の部材との接触による損傷などを抑制し易い。高炭素高硬度部2のビッカース硬さは、更に675Hv以上が好ましく、特に700Hv以上が好ましい。高炭素高硬度部2のビッカース硬さの上限値は、例えば、1000Hv以下程度が挙げられる。
[低炭素低硬度部]
低炭素低硬度部3は、筒状の焼結部材1のうち、高炭素高硬度部2に比較してC含有量が少なくて低硬度な部分である。即ち、低炭素低硬度部3は、筒状の焼結部材1のうち、高炭素高硬度部2を除く部分である。
低炭素低硬度部3の形成箇所は、径方向の内周側及び外周側の他方であり、焼結部材1の用途に応じて適宜選択できる。低炭素低硬度部3の形成箇所は、焼結部材1において、他の部材の接触による負荷の大きい高負荷側でない。この低炭素低硬度部3は、低硬度であるため、高炭素高硬度部2において他の部材(他の歯車)との接触に伴い発生する振動を吸収し易く、振動に伴う騒音などを抑制し易い。
例えば、図1に示すように焼結部材1の用途が外歯車の場合、低炭素低硬度部3の形成箇所は歯部21よりも径方向の内周側が挙げられる。同様に、図示は省略しているが、焼結部材の用途が内歯車の場合、低炭素低硬度部の形成箇所は歯部よりも径方向の外周側が挙げられる。本例では、焼結部材1の用途が外歯車(内歯車)であり、低炭素低硬度部3は円環状部分を備え、低炭素低硬度部3の内周面(外周面)の形状が円筒形状である。
低炭素低硬度部3の材質は、高炭素鉄基合金と同様、鉄を主成分とするが、高炭素鉄基合金に比較して、添加元素のC含有量の少ない低炭素鉄基合金からなる組成を有する。鉄の含有量は、高炭素鉄基合金と同様、低炭素鉄基合金を100質量%とするとき、85質量%以上、更に90質量%以上が挙げられる。C含有量は、低炭素鉄基合金を100質量%とするとき、0.5質量%以下が挙げられる。そうすれば、高炭素鉄系合金ほどではないものの、硬度を向上することができ、焼結部材1の機械的特性(硬度)の向上に寄与する。C含有量は、更に0.1質量%以上、0.3質量%以上が挙げられる。低炭素低硬度部3のC含有量は、準備する原料粉末の低炭素鉄基合金のC含有量が維持される。
低炭素鉄基合金は、高炭素鉄基合金と同様、更に、Cu,Ni,Sn,Cr,Mo,Si,Nb,B,及びMnから選択される少なくとも1種の添加元素を含んでいてもよい。低炭素鉄基合金は、不可避的不純物を含むことを許容する。具体的な低炭素鉄基合金の組成は、上述した高炭素鉄基合金の組成と同様である。低炭素鉄基合金におけるCu,Ni,Sn,Cr,Mn,Si,Nb,B,及びMoの含有量は、高炭素鉄基合金よりも高硬度にならない範囲で適宜選択でき、合計で0.1質量%以上10.0質量%以下、更に0.2質量%以上7.5質量%以下、特に0.3質量%以上5.0質量%以下が挙げられる。
低炭素低硬度部3のビッカース硬さは、500Hv以下である。そうすれば、低硬度であるため、歯車同士の接触に伴い発生する騒音を抑制し易い。低炭素低硬度部3のビッカース硬さは、更に475Hv以下が好ましく、特に450Hv以下が好ましい。低炭素低硬度部3のビッカース硬さの下限値は、例えば、400Hv以上程度が挙げられる。
高炭素高硬度部2と低炭素低硬度部3との境界は、図1の二点鎖線で示すように、高炭素高硬度部2の外周面(内周面)の形状に沿う凹凸形状に形成されていてもよいし、低炭素低硬度部3の内周面(外周面)の形状に沿う円形状に形成されていてもよい。この境界の径方向に沿った位置は、歯部21の数やサイズ、焼結部材1のサイズなどに応じて適宜選択できる。
焼結部材1の軸方向に直交する断面において、高炭素高硬度部2側から低炭素低硬度部3側に向かって焼結部材1の径方向に沿ってビッカース硬さのプロファイルをとったとき、図2の実線で示すように、プロファイルにおけるビッカース硬さの下降開始点とビッカース硬さの下降収束開始点とを結ぶ直線の傾きは、−0.25以下である。このプロファイルは、高炭素高硬度部2の位置が内周側か外周側かに関係なく、常に、高炭素高硬度部2側から低炭素低硬度部3側に向かって採る。下降開始点とは、硬さのプロファイルにおいて、高炭素高硬度部2の表面側から順に隣り合うビッカース硬さ(Hv)の測定結果同士を結ぶ直線の傾きを採り、その傾きが−0.15以下を満たしたとき、その2点の測定地点のうち高炭素高硬度部2の表面側の地点とする。下降収束開始点とは、下降開始点以降で、隣り合うビッカース硬さ(Hv)の結果同士を結ぶ直線の傾きを採り、その傾きが−0.015以上0以下を満たすとき、その2点の測定結果同士のうち、高炭素高硬度部2の表面側の点とする。
この焼結部材1は、後述する焼結部材の製造方法により製造される。その製造方法により製造することで、上記傾きは−0.25以下のように急峻となる。本例の焼結部材の製造方法では、詳しくは後述するが、従来の製造方法のような焼結後の浸炭処理を行わないため、浸炭処理に伴うCの拡散が生じないからである。
従来のように焼結後に浸炭処理する場合、上記傾きは、図2の破線で示すように、−0.25超となる。浸炭処理により外周側(内周側)のC含有量が多くなって、外周側(内周側)と内周側(外周側)のC含有量の差が大きくなる。しかし、浸炭処理によりCが外周側(内周側)から拡散するため、外周側(内周側)から内周側(外周側)に向かってC含有量の減少度合いが緩やかになる。
また、1種類の原料粉末を用いて焼結し、本例の製造方法と同様、焼結過程の冷却過程で急冷する所謂シンターハードニングの場合、上記傾きは、図示は省略しているが、略0(ゼロ)になる。即ち、硬度は径方向に沿って一様になる。準備する原料粉末におけるC含有量が一様であり、浸炭処理を行わないため浸炭処理する場合のようなCの拡散が生じることがないからである。
焼結部材1の全体における相対密度は、90%以上が好ましい。相対密度が90%以上であることで、非常に緻密であるため、機械的強度に優れる。相対密度は、更に93%以上が好ましく、特に95%以上が好ましい。
焼結部材1の全体における相対密度は、「{(焼結部材1の成形密度)/(焼結部材1の真密度)}×100」から求めることができる。焼結部材1の成形密度は、焼結部材1を油中に浸漬させ、「含油密度×{(含油前の焼結部材1の質量)/(含油後の焼結部材1の質量)}」から求める。含油密度は、含油後の焼結部材1の質量を焼結部材1の体積で除した値である。
また、焼結部材1の全体における相対密度は、焼結部材1の高炭素高硬度部2と低炭素低硬度部3の相対密度の平均から求めることができる。高炭素高硬度部2と低炭素低硬度部3の相対密度は、各々の断面を市販の画像解析ソフトで画像解析することで求めることができる。まず、高炭素高硬度部2と低炭素低硬度部3の各断面において、それぞれ5個以上、合計で10個以上の観察視野の画像を取得する。高炭素高硬度部2と低炭素低硬度部3の観察視野数は同数とする。各断面は任意の断面とし、1断面につき1視野として5個以上の断面をとってもよいし、1断面につき複数の視野をとってもよい。各視野のサイズは、500μm×600μmとする。各観察視野の画像を二値化処理して、各観察視野に占める鉄基合金の面積割合を求め、その面積割合を各観察視野の相対密度と見做す。そして、全観察視野の相対密度の平均値を求めて焼結部材1の相対密度とする。
[用途]
実施形態に係る焼結部材1は、各種の一般構造用部品(スプロケット、ローター、ギア、リング、フランジ、プーリー、軸受けなどの機械部品などの焼結部品)に好適に利用できる。
〔作用効果〕
実施形態に係る焼結部材1によれば、歯部21が形成される外周側を高炭素高硬度部2で構成することで、他の歯車(図示略)との噛合による歯部21の損傷を抑制できる。その上、焼結部材1の回転軸が挿通される内周側を低炭素低硬度部3で構成することで、歯車同士の接触に伴い発生する振動を吸収し易く、振動に伴う騒音などを抑制できる。
〔焼結部材の製造方法〕
実施形態に係る焼結部材は、原料準備工程と、充填工程と、成形工程と、焼結工程とを備える実施形態に係る焼結部材の製造方法により製造できる。この焼結部材の製造方法は、焼結工程後、浸炭焼入れを行わない。この焼結部材の製造方法の特徴の一つは、原料準備工程でC含有量の異なる2種類の第1・第2原料粉末を準備し、充填工程で金型のキャビティ内で異なる領域に充填し、焼結工程の冷却過程で急冷することにある。以下、各工程の詳細を説明する。
[原料準備工程]
原料準備工程は、C含有量の異なる鉄基合金粉末を有する第1原料粉末及び第2原料粉末の2種類の原料粉末を準備する。第1原料粉末は、上述した高炭素鉄基合金の粒子を複数有する高炭素鉄基合金粉末を備え、第2原料粉末は、上述した低炭素鉄基合金の粒子を複数有する低炭素鉄基合金粉末を備える。
高炭素鉄基合金粉末及び低炭素鉄基合金粉末は、水アトマイズ粉、還元粉、ガスアトマイズ粉、カルボニル粉などが利用できる。高炭素鉄基合金粉末及び低炭素鉄基合金粉末の平均粒径は、例えば20μm以上200μm以下が挙げられる。高炭素鉄基合金粉末及び低炭素鉄基合金粉末の平均粒径が上記範囲内であれば、取り扱い易く、加圧成形が行い易い。特に、高炭素鉄基合金粉末及び低炭素鉄基合金粉末の平均粒径を20μm以上とすることで、高炭素鉄基合金粉末及び低炭素鉄基合金粉末の流動性を確保し易い。高炭素鉄基合金粉末及び低炭素鉄基合金粉末の平均粒径を200μm以下とすることで、緻密な組織の焼結体を得易い。高炭素鉄基合金粉末及び低炭素鉄基合金粉末の平均粒径は、更に50μm以上150μm以下が挙げられる。高炭素鉄基合金粉末及び低炭素鉄基合金粉末の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(D50)のことである。
第1原料粉末及び第2原料粉末の少なくとも一方は、潤滑剤を含有していてもよい。第1原料粉末及び第2原料粉末の少なくとも一方が潤滑剤を含有することで、第1原料粉末及び第2原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する際に成形時の潤滑性が高められ、成形性が向上する。よって、緻密な圧粉成形体を得易く、圧粉成形体の密度を高めることで、高密度の焼結部材を得易い。更に、後工程の成形体加工で圧粉成形体に切削工具で切削加工する場合、第1原料粉末及び第2原料粉末に潤滑剤を混合すると圧粉成形体中に潤滑剤が分散することになるため、切削工具の潤滑剤としても機能させられる。従って、切削抵抗を低減したり、工具寿命を改善したりできる。
潤滑剤の種類は、例えば、高級脂肪酸、金属石鹸、脂肪酸アミド、高級脂肪酸アミドなどが挙げられる。金属石鹸は、例えば、ステアリン酸亜鉛やステアリン酸リチウムなどが挙げられる。脂肪酸アミドは、例えば、ステアリン酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミドなどが挙げられる。高級脂肪酸アミドは、例えば、エチレンビスステアリン酸アミドなどが挙げられる。潤滑剤の存在形態は、固体状や粉末状、液体状など形態を問わない。
潤滑剤の含有量は、第1原料粉末及び第2原料粉末のそれぞれを100質量%とするとき、例えば、2質量%以下、更に1質量%以下とすることが挙げられる。潤滑剤の含有量が2質量%以下であれば、圧粉成形体に含まれる金属粉末の割合を多くできる。そのため、緻密で強度の高い圧粉成形体を得易い。更に、後工程で圧粉成形体を焼結した際に潤滑剤が消失することによる体積収縮を抑制でき、寸法精度が高く、高密度の焼結部材を得易い。潤滑剤の含有量は、潤滑性の向上効果を得る観点から、0.1質量%以上、更に0.5質量%以上が好ましい。
第1原料粉末及び第2原料粉末は、有機バインダーを含有してもよい。有機バインダーは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、パラフィン、各種ワックスなどが挙げられる。有機バインダーの含有量は、第1原料粉末及び第2原料粉末のそれぞれを100質量%としたとき、0.1質量%以下が挙げられる。そうすれば、成形体に含まれる金属粉末の割合を多くできるため、緻密な圧粉成形体を得易い。有機バインダーを含有しない場合、圧粉成形体を後工程で脱脂する必要がない。
[充填工程]
充填工程では、第1原料粉末と第2原料粉末とを金型のキャビティ内の異なる領域に充填する。金型には、機械部品の最終形状に沿った形状に成形できる適宜な成形装置(成形用金型)を用いてもよいし、後述する成形体加工を施す場合、後工程の切削加工に適した形状、具体的には円柱状や円筒状に形成できる適宜な成形装置(成形用金型)を用いてもよい。本例の金型は、貫通孔を有するダイと、貫通孔内に挿通されるコアロッド及び上下のパンチと、キャビティ内の領域を仕切る仕切部を備える。
ダイは、圧粉成形体の外周面を形成する。ダイの貫通孔の内周面形状は、焼結部材の外周面の最終形状に沿った形状としてもよいし、後述する成形体加工を施す場合、切削加工に適した形状、具体的には円形状が挙げられる。
コアロッドは、圧粉成形体の内周面を形成する。コアロッドの外周面形状は、焼結部材の内周面の最終形状に沿った形状としてもよいし、切削加工に適した形状としてもよく、具体的には円形状が挙げられる。
上下のパンチは、圧粉成形体の各端面を形成する。上下のパンチの端面の外周輪郭形状は、ダイの貫通孔の内周形状に沿った形状とし、内周輪郭形状は、コアロッドの外周面形状に沿った形状とする。上下のパンチの端面形状は、焼結部材の各端面の最終形状に沿った形状としてもよいし、切削加工に適した形状、具体的には、平面形状が挙げられる。
仕切部は、キャビティ内に取り外し可能に設けられ、ダイのキャビティ内を径方向の内外に仕切る。この仕切部により、焼結部材の高炭素高硬度部と低炭素低硬度部との境界が形成される。仕切部の形状は、所定の筒形状である。この仕切りの形状は、ダイの内周形状に沿った形状としてもよいし、コアロッドの外周形状に沿った形状としてもよい。仕切部は、金属や樹脂の薄板で筒型に成形したものが好適に利用できる。
仕切りの内側と外側とのそれぞれに第1原料粉末と第2原料粉末とを充填する。両粉末を充填したら、仕切部をキャビティ内から取り外す。
[成形工程]
成形工程では、キャビティ内の原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する。この加圧成形は、上述の上下のパンチで行う。
成形圧力(面圧)は、例えば、250MPa以上が挙げられ、更に500MPa以上が挙げられ、特に750MPa以上が挙げられる。成形圧力の上限は、特に限定されないが、例えば、3000MPa以下程度が挙げられる。
この加圧成形により、相対密度が径方向に一様な圧粉成形体を作製できる。相対密度は、成形圧力が高いほど高くし易く、例えば、90%以上、更には93%以上、特に95%以上とすることができる。
成形工程は、金型の内周面(ダイの内周面やパンチの押圧面)に潤滑剤を塗布する金型(外部)潤滑法で行ってもよい。そうすれば、金型への原料粉末の焼き付きを防止し易い。潤滑剤は、例えば、原料粉末に含まれる潤滑剤と同様、上述の金属石鹸、脂肪酸アミド、高級脂肪酸アミドなどが利用できる。金型への潤滑剤の塗布は、原料粉末が潤滑剤を含む場合には行わず、原料粉末が潤滑剤を含まない場合に行ってもよいし、原料粉末が潤滑剤を含む場合であっても行ってもよい。
[焼結工程]
焼結工程では、圧粉成形体を焼結する。この焼結により、高炭素鉄基合金粉末の粒子同士、低炭素鉄基合金粉末の粒子同士、高炭素鉄基合金粉末の粒子と低炭素鉄基合金粉末の粒子とが接触して結合された焼結部材が得られる。この焼結は、焼結炉と、焼結炉の下流に焼結炉に連続する急冷室とを有する連続焼結炉を利用する。
焼結条件は、原料粉末の組成に応じて適宜選択できる。焼結温度は、例えば、1050℃以上1400℃以下が挙げられ、更に1100℃以上1300℃以下が挙げられる。焼結時間は、例えば、10分以上150分以下が挙げられ、更に15分以上60分以下が挙げられる。焼結条件は、公知の条件を適用できる。
この焼結工程の冷却過程における冷却速度を1℃/sec以上とする。それにより、マルテンサイト組織を形成できて、強度を高められる。特に、C含有量が多いほどマルテンサイト組織の形成により硬度を高められるため、第1原料粉末側を第2原料粉末側に比較して高硬度化し易い。この冷却速度は、例えば1000℃/sec以下が挙げられる。この冷却速度は、更に2℃/sec以上500℃/sec以下が挙げられる。
この冷却方法は、冷却ガスを焼結部材に吹き付けることが挙げられる。冷却ガスの種類は、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスが挙げられる。
[その他の工程]
焼結部材の製造方法は、その他、成形体加工工程、及び仕上げ加工工程の少なくとも一つの工程を備えることができる。
(成形体加工工程)
成形体加工工程は、成形工程後、焼結工程前に、圧粉成形体を切削加工する。切削加工は、切削工具を用いて所定の形状に圧粉成形体を加工する。焼結前の圧粉成形体を加工するため、複雑形状な焼結部材を容易に製造できる。圧粉成形体は、焼結部材に比較して軟らかいため切削加工し易い。その上、圧粉成形体は、焼結部材に比較すると軟らかいものの、相対密度が非常に高くて強度がある程度高いため、切削加工による欠けや亀裂の発生を抑制し易い。圧粉成形体は、成形により原料粉末を固めただけであり、金属粉末の粒子同士が機械的に密着している。一方、焼結部材は、金属粉末の粒子同士が焼結により拡散結合して強固に結合している。
切削加工は、例えば、転削加工、旋削加工などが挙げられる。転削加工には、穴あけ加工が含まれる。切削工具には、穴あけ加工の場合、ドリルやリーマ、転削加工の場合、フライスやエンドミル、旋削加工の場合、バイトや刃先交換型切削チップなどを用いることが挙げられる。その他、ホブ、ブローチ、ピニオンカッタなどを用いてもよいし、複数種の加工を自動で行なえるマシニングセンタを用いてもよい。
切削加工に供する前に、圧粉成形体の表面に有機バインダーを溶かした揮発性溶液や可塑性溶液を表面に塗布または浸漬させてもよい。そうすれば、切削加工時の圧粉成形体の表層の割れや欠けを抑制し易い。
切削加工は、圧粉成形体に作用する引張応力を打ち消す方向に、圧粉成形体に圧縮応力を付与しながら行ってもよい。そうすれば、圧粉成形体の割れや欠けを抑制し易い。例えば、ブローチで圧粉成形体に加工孔を形成する場合、ブローチが圧粉成形体を突き通すときに加工孔の出口近傍に強い引張応力が作用する。この場合、複数の圧粉成形体を多段に重ねることが挙げられる。最下段の圧粉成形体の下にはダミーの圧粉成形体や板材などを配置すると良い。複数の圧粉成形体を多段に重ねれば、上段側にある圧粉成形体の下面が、下段側の圧粉成形体の上面に押さえ付けられ、当該下面に圧縮応力が作用する。この多段に重ねられた圧粉成形体の上方からブローチ加工を行なえば、圧粉成形体の下面に形成される加工孔の出口付近の割れや欠けを効果的に防止できる。また、フライスで圧粉成形体に加工溝を形成する場合、加工溝の出口近傍に強い引張応力が作用する。その場合、フライスの進行方向に複数の圧粉成形体を並べて、加工溝の出口となる部分に圧縮応力を作用させることが挙げられる。
(仕上げ加工工程)
仕上げ加工工程は、焼結部材の表面粗さを小さくすると共に、焼結部材の寸法を設計寸法に合わせる。例えば、焼結部材の表面への研磨加工などが挙げられる。
[用途]
実施形態に係る焼結部材の製造方法は、各種の一般構造用部品(スプロケット、ローター、ギア、リング、フランジ、プーリー、軸受けなどの機械部品などの焼結部品)の製造に好適に利用できる。
〔作用効果〕
実施形態に係る焼結部材の製造方法は、浸炭処理を行わなくても、径方向の内周側又は外周側の一方側に形成される高炭素高硬度部と、他方側に形成される低炭素低硬度部とを有する焼結部材を製造できる。原料粉末のC含有量は焼結後も維持されるため、原料準備工程でC含有量が互いに異なる第1原料粉末と第2原料粉末とを準備し、その第1・第2原料粉末を充填工程でキャビティ内の内周側と外周側の互いに異なる側に充填するからである。従って、工程数を低減しつつ、径方向の内周側又は外周側の一方側が高硬度で、他方側が低硬度な焼結部材を製造できる。
《試験例1》
円筒状の焼結部材を作製し、焼結部材の硬度を評価した。
〔試料No.1−1〕
試料No.1−1の焼結部材は、上述の焼結部材の製造方法と同様にして、原料準備工程と充填工程と成形工程と焼結工程とを経て作製した。この焼結部材は、浸炭処理工程(浸炭焼入れ・焼戻し)を行っていない。
[原料準備工程]
原料粉末には、C含有量の異なる2種類の鉄基合金粉末をそれぞれ含む第1原料粉末と第2原料粉末とを用意した。
(第1原料粉末)
第1原料粉末は、高炭素鉄基合金粉末と潤滑剤とを含む。高炭素鉄基合金粉末は、1.6質量%Ni−1.0質量%Mo−0.35質量%Mn−0.25質量%Cr−0.8質量%C−残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有する。高炭素鉄基合金粉末の平均粒径(D50)は、100μmである。潤滑剤には、エチレンビスステアリン酸アミドを用いた。第1原料粉末における潤滑剤の含有量は、0.6質量%とした。第1原料粉末は、有機バインダーを含有していない。
(第2原料粉末)
第2原料粉末は、低炭素鉄基合金粉末と、第1原料粉末と同種かつ同量の潤滑剤とを含む。低炭素鉄基合金粉末は、1.6質量%Ni−1.0質量%Mo−0.35質量%Mn−0.25質量%Cr−0.3質量%C−残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有する。低炭素鉄基合金粉末の平均粒径(D50)は、100μmである。第2原料粉末は、有機バインダーを含有していない。
[充填工程]
金型には、ダイとコアロッドと上下のパンチと仕切部とを備える金型を用いた。ダイの貫通孔の内周面形状及びコアロッドの外周面形状は円形状であり、上下のパンチの端面形状は、円環状である。仕切部の形状は、円筒状である。仕切部の外径は、26mmとした。ダイの貫通孔内にコアロッドと下パンチとを挿入し、円筒状のキャビティを形成し、そのキャビティ内にコアロッドと同心状となるように仕切部を配置した。キャビティ内の仕切部の外側に第1原料粉末を充填し、仕切部の内側に第2原料粉末を充填した。両粉末の充填後に、仕切部をキャビティ内から取り外す。
[成形工程]
キャビティ内の第1・第2原料粉末を上下のパンチで加圧成形して円筒状(外径:30mm、内径:16mm、高さ:8mm)の圧粉成形体を作製した。成形圧力は、980MPaとした。
作製した圧粉成形体の相対密度を測定した。その結果、圧粉成形体の相対密度は、90%であった。この相対密度は、圧粉成形体の外周側領域(直径26mmから外周面(直径30mm)までの間の領域)と内周側領域(内周面(直径16mm)から直径26mmまでの間の領域)の相対密度の平均とした。外周側領域及び内周側領域の相対密度は、断面を市販の画像解析ソフトで画像解析することで求めた。まず、外周側領域及び内周側領域の各断面において、それぞれ5個、合計で10個の観察視野の画像を取得した。1断面につき5視野とった。各視野のサイズは、500μm×600μmとした。各観察視野の画像を二値化処理して、各観察視野に占める鉄基合金の面積割合を求め、その面積割合を各観察視野の相対密度と見做す。そして、全観察視野の相対密度の平均値を求めて圧粉成形体の相対密度とした。
[焼結工程]
圧粉成形体を焼結して焼結部材を作製した。焼結条件は、焼結温度を1150℃、焼結時間を30分、焼結雰囲気を窒素雰囲気とした。
焼結工程の冷却過程で焼結部材を急冷した。具体的には、冷却速度を、焼結部材の温度が450℃以下となるまで1℃/secとした。この冷却は、窒素ガスを焼結部材に吹き付けることで行った。
〔試料No.1−101〕
試料No.1−101の焼結部材は、試料No.1−1の焼結部材の製造方法とは異なり、従来の焼結部材の製造方法と同様、原料準備工程と充填工程と成形工程と焼結工程と浸炭処理工程とを経て作製した。
[原料準備工程]
原料粉末には、試料No.1−1の第2原料粉末と同様の低炭素鉄基合金粉末と潤滑剤とを準備した。即ち、低炭素鉄基合金粉末は、1.6質量%Ni−1.0質量%Mo−0.35質量%Mn−0.25質量%Cr−0.3質量%C−残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有する。低炭素鉄基合金粉末の平均粒径(D50)は、100μmである。この原料粉末は、有機バインダーを含有していない。
[充填工程]
充填工程では、キャビティ内に仕切部を設けず、キャビティ内の全域に亘って原料粉末を充填した。
[成形工程]
試料No.1−1と同じ成形圧力で、試料No.1−1と同じ形状で同じサイズの円筒状(外径:30mm、内径:16mm、高さ:8mm)の圧粉成形体を作製した。
試料No.1−101の圧粉成形体の相対密度を測定した。その結果、試料No.1−101の圧粉成形体の相対密度は、試料No.1−1の圧粉成形体の相対密度と同じ90%であった。この圧粉成形体の相対密度は、「{(圧粉成形体の成形密度)/(圧粉成形体の真密度)}×100」から求めた。圧粉成形体の成形密度は、圧粉成形体を油中に浸漬させ、「含油密度×{(含油前の圧粉成形体の質量)/(含油後の圧粉成形体の質量)}」から求めた。含油密度は、含油後の圧粉成形体の質量を圧粉成形体の体積で除した値である。
[焼結工程]
試料No.1−1と同じ焼結条件で、圧粉成形体を焼結し焼結部材を作製した。焼結工程の冷却過程では急冷せず、冷却速度を20℃/min(≒0.33℃/sec)とした。
[浸炭処理工程]
浸炭処理工程では、焼結部材に対して浸炭焼き入れし、油冷した後、焼戻しした。浸炭焼入れ条件は、温度を930℃、時間を90分、カーボンポテンシャル(C.P.)を1.2体積%とした。焼戻し条件は、温度を200℃、時間を90分とした。
〔硬さの評価〕
焼結部材の硬さは、ビッカース硬さ(Hv)を測定することで評価した。ビッカース硬さ(Hv)は、焼結部材の軸方向に直交する断面において、外周面側から内周面側(焼結部材の中心)に向かって複数箇所測定した。その結果を表1に示す。表1の深さ(μm)とは、焼結部材の外周面を0(ゼロ)としたとき、測定地点における焼結部材の外周面からの距離を言う。また、硬さプロファイル(深さ(μm)とビッカース硬さ(Hv)との関係)を図2に示す。図2に示すグラフの横軸は深さ(μm)とし、縦軸はビッカース硬さ(Hv)としている。図2には、試料No.1−1の結果を黒菱形でプロットし、試料No.1−101の結果を白四角でプロットしている。
Figure 2019019383
図2に示す硬さのプロファイルから、試料No.1−1の焼結部材におけるビッカース硬さ(Hv)の下降開始点と下降収束開始点とを求め、下降開始点と下降収束開始点とを結ぶ直線の傾きを求めた。下降開始点は、外周面側(深さ0μm側)から順に隣り合うビッカース硬さ(Hv)の測定結果同士を結ぶ直線の傾きが−0.15以下となる地点を求めた。その結果、深さ1600μmの地点の結果と2400μmの地点の結果とを結ぶ直線の傾きが−0.15以下となった。従って、上記下降開始点は、その2点間の測定地点のうち外周面側の点である1600μmの地点とした。下降収束開始点は、下降開始点以降、隣り合うビッカース硬さ(Hv)の測定結果同士を結ぶ直線の傾きが−0.015以上となる地点を求めた。その結果、深さ2400μmの地点の結果と3200μmの地点の結果とを結ぶ直線の傾きが−0.015以上になった。これらの結果は、下降開始点(1600μm)と下降収束開始点(2400μm)との中間地点(2000μm)と、充填工程における高炭素鉄基合金粉末と低炭素鉄基合金粉末との実質的な境界の位置とが一致することから合理的な結果であることが分かる。上記境界は、充填工程で使用した仕切部の外径が26mmであることから、外周から2mm(2000μm)の地点である。これらの結果から、上記傾きは、図2の実線で示すように−0.25以下、具体的には−0.29であった。
本例では、高炭素鉄基合金と低炭素鉄基合金の組成はC含有量以外同じであるため、ビッカース硬さ(Hv)の大小はC含有量の多寡に依存すると言える。即ち、ビッカース硬さ(Hv)のプロファイルは、C含有量のプロファイルと見做せる。そのため、C含有量の推移は、ビッカース硬さ(Hv)の大きさの推移と同様の推移となる。
試料No.1−1の焼結部材において、外周面から下降開始点(表1に示す50μm〜1600μm)までの6点のビッカース硬さの最大値は704Hvであり、平均値は約698Hvであった。また、下降収束開始点からその内周側(表1に示す2400μm〜3200μm)までの2点のビッカース硬さの最小値は443Hvであり、平均値は約446Hvであった。
一方、図2の硬さプロファイルから、試料No.1−101の上記下降開始点、上記下降収束開始点、上記下降開始点と上記下降収束開始点とを結ぶ直線の傾きを試料No.1−1と同様にして求めた。その結果、深さ400μmの地点の結果と600μmの地点の結果とを結ぶ直線の傾きが−0.15以下となった。従って、上記下降開始点は、その2点間の測定地点のうち外周面側の点である400μmの地点とした。また、深さ1600μmの地点の結果と2400μmの地点の結果とを結ぶ直線の傾きが−0.015以上となった。従って、上記下降収束開始点は、その2点の測定結果同士のうち、外周面側の地点である1600μmの地点とした。そして、上記傾きは、図2の破線で示すように−0.25超、具体的には−0.20であった。
試料No.1−101の焼結部材において、外周面から下降開始点(50μm〜400μm)までの3点のビッカース硬さの最大値は710Hvであり、平均値は701Hvであった。また、下降収束開始点からその内周側(1600μm〜3200μm)まで3点のビッカース硬さの最小値は433Hvであり、平均値は443Hvであった。また、試料No.1−101の焼結部材において、試料No.1−1の外周側領域と同じ6点(表1に示す50μm〜1600μm)のビッカース硬さの平均値は約603Hvであり、試料No.1−1の内周側領域と同じ2点(表1に示す2400μm〜3200μm)のビッカース硬さの平均値は440Hvであった。
以上の結果から、焼結工程の冷却過程で急冷して焼結後に浸炭処理を行わなかった試料No.1−1の焼結部材は、焼結後に浸炭処理を行った試料No.1−101の焼結部材と同様に、外周側が高硬度で内周側が低硬度な焼結部材を製造できることがわかる。また、試料No.1−101の焼結部材は、上記下降開始点が外周面から400μmであり、高硬度な領域が外周面近傍のみと非常に狭いことが分かる。それに対して、試料No.1−1の焼結部材は、仕切部の径によって高硬度な領域(高炭素高硬度部)の大きさを調整できる。そして、焼結工程の冷却過程で急冷して焼結後に浸炭処理を行わなかった試料No.1−1では、上記傾きが−0.25以下のように急峻な焼結部材が得られ、焼結後に浸炭処理を行った試料No.1−101では、上記傾きが−0.25超のように緩やかな焼結部材が得られることが分かる。
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 焼結部材
2 高炭素高硬度部
21 歯部
3 低炭素低硬度部

Claims (4)

  1. 鉄基合金からなる組成を有する筒状の焼結部材であって、
    径方向の内周側及び外周側の一方に形成され、C含有量が0.7質量%以上で、ビッカース硬さが650Hv以上である高炭素高硬度部と、
    径方向の内周側及び外周側の他方に形成され、C含有量が0.5質量%以下で、ビッカース硬さが500Hv以下である低炭素低硬度部とを備え、
    前記高炭素高硬度部側から前記低炭素低硬度部側に向かって径方向に沿ってビッカース硬さのプロファイルをとったとき、前記プロファイルにおけるビッカース硬さの下降開始点とビッカース硬さの下降収束開始点とを結ぶ直線の傾きが−0.25以下である焼結部材。
  2. 前記鉄基合金は、Ni,Cu,Sn,Cr,Mo,Si,Nb,B,及びMnから選択される少なくとも1種以上の添加元素を含む請求項1に記載の焼結部材。
  3. 前記鉄基合金の前記添加元素の合計含有量は、0.1質量%以上10.0質量%以下である請求項2に記載の焼結部材。
  4. C含有量が0.7質量%以上の高炭素鉄基合金粉末を有する第1原料粉末と、C含有量が0.5質量%以下の低炭素鉄基合金粉末を有する第2原料粉末とを準備する原料準備工程と、
    貫通孔を有するダイと前記貫通孔内に挿通されるコアロッド及び下パンチとで作られる筒状のキャビティの内周側又は外周側の一方側に、前記第1原料粉末を充填し、他方側に前記第2原料粉末を充填する充填工程と、
    前記下パンチと、前記下パンチと対向配置された上パンチとにより、前記キャビティ内の前記両原料粉末を加圧して筒状の圧粉成形体を作製する成形工程と、
    前記圧粉成形体を焼結する焼結工程とを備え、
    前記焼結工程の冷却過程における冷却速度が1℃/sec以上である焼結部材の製造方法。
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