JP2019002034A - 銅・単層カーボンナノチューブ複合めっき方法 - Google Patents
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特許文献3には、銅・単層カーボンナノチューブの複合めっき方法として、イオン性界面活性剤と高分子系界面活性剤を使用し、アルカリ浴を用いて電解めっきあるいは無電解めっきにより複合めっきを施す方法が開示されている。
多層カーボンナノチューブと比べてSWCNTははるかに細径であり、きわめて凝集しやすく通常はバンドル状となっていて、めっき浴中でSWCNTを分散させることはきわめて困難である。また、仮にめっき浴中でSWCNTを分散させることができたとしても、めっき膜にSWCNTを共析させることができるとは限らない。
また、前記酸性のめっき浴として、硫酸銅のめっき浴を使用することにより、めっき膜中に好適に単層カーボンナノチューブが共析した複合めっき膜を得ることができる。
また、前記酸性のめっき浴に添加するカチオン系の界面活性剤は、とくに限定されるものではないが、トリメチルステアリルアンモニウムクロリド(STAC)はとくに好適に用いることができる。
また。複合材料として用いる単層カーボンナノチューブは、とくにその種類が限定されるものではないが、径約2nm、長さ数μm〜10μmである単層カーボンナノチューブはめっき膜の面方向にならってめっき膜中に共析されるという特徴がある。
図1に、単層カーボンナノチューブを複合材料として銅・単層カーボンナノチューブ複合めっきの実験に使用したSWCNTのSEM像を示す。実験に使用した単層カーボンナノチューブはOCSiAL社製のTUBALL(登録商標)(外径1.8±0.3nm)である。このSWCNTは径寸法が2nm程度であり、多層カーボンナノチューブと比べると径寸法が1/10程度と小径である。一方、長さは数μm〜10μm程度以上であり、径寸法と比較してきわめて長い形態となっている。
図2は、上述したSWCNTを水等に分散させた状態を示す。図2(a)は媒質を水とした場合である。SWCNTは疎水性であり水には分散せず沈殿する、図2(b)は媒質の水に分散剤としてHPC 1g L-1 + SDS 1 g L-1を添加した場合である。分散剤を添加した水にはSWCNTは問題なく分散する。図2(c)は水溶性のめっき浴である硫酸銅浴にSWCNTを添加したものである。SWCNTはめっき浴中で分散せず、容器内で沈殿する。図2(c)は、水溶性のめっき浴に単にSWCNTを加えたのではSWCNTは分散しないことを示す。
図3(a)はSWCNTを化学修飾した例を示す。たとえば、H2SO4/HNO3 にSWCNTを加えるとSWCNTの表面にカルボン酸等の親水基が導入され、SWCNTは水に分散する。
図3(b)は分散剤を用いて物理修飾した例を示す。SWCNTの分散剤にはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルベンゼン硫酸ナトリウム(SDBS)等がよく使われる。これらの分散剤によりミセルが形成されSWCNTが水に分散する。
また、分散剤を用いる電解銅めっき法によりSWCNTの複合めっきを行う方法として、アルカリ性のめっき浴を用いる方法は、酸性めっき浴を使用する方法と比較して成膜速度が遅いという問題と、めっき膜に水酸化物が形成され、めっき膜の特性が劣るという問題がある。そのため、成膜速度が速く、水酸化物が形成されにくい硫酸銅浴等の酸性めっき浴を用いて複合めっきを施す方法が求められる。
水溶性のめっき浴を用いる場合にSWCNTの分散に用いられる分散剤としては、純水中でカーボンナノチューブの分散に使用される分散剤が候補となる。純水中でカーボンナノチューブの分散に使用される分散剤として現在、最も一般的に用いられているものは、デオキシコール酸ナトリウム(DOC)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)の3種である。DOC、SDS、SDBSの化学構造式を下に示す。
実験は、水100mLにそれぞれの分散剤を0.01435M(SDS: 0.4 g 、DOC:0.6 g 、SDBS:0.5 g)添加した後、SWCNT(OCSiAL社TUBALL(登録商標))をそれぞれ0.1g添加し、スターラーで攪拌した後、超音波処理を行い、その後の分散状態を経過観察したものである。
この実験結果は、硫酸銅浴中においてSWCNTの分散性を良好にするには、分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)が有効であることを示唆する。
分散剤によるSWCNTの分散性にこのような差異が生じる理由は、中性の純水中における分散剤によるSWCNTの分散作用と、酸性の硫酸銅浴中における分散剤によるSWCNTの分散作用が異なることによるためであると考えられる。
硫酸銅浴を用いて、電解めっきによりSWCNTの複合めっきを施す場合、めっき膜中にSWCNTを分散させて取り込むためには、少なくともめっき浴中でSWCNTが確実に分散する必要がある。
上述した図4に示す実験結果は、硫酸銅浴を用いてSWCNTの複合めっきを施す場合に使用することができる可能性のある分散剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)とドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)であることを示す。
実験条件
SDS、SDBS、PAA、STACの硫酸銅浴への添加量: 2.9×10-4M
HPCの硫酸銅浴への添加量: 0.1gL-1
SWCNT:OCSiAL社製TUBALL(登録商標)
攪拌操作:分散剤とSWCNTを加えた硫酸銅浴をスターラーでの攪拌 1日
超音波処理:攪拌後の硫酸銅浴を超音波ホモジナイザー処理 15分
したがって、硫酸銅浴を用いるSWCNTの複合めっきの実験では、分散剤としてHPCを加える複合めっきの実験は行わず、分散剤としてドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)、ポリアクリル酸(PAA)、トリメチルステアリルアンモニウムクロリド(STAC)を分散剤として複合めっきを行った。
図6に、銅・単層カーボンナノチューブ複合めっきの操作手順を示す。
実験で使用したSWCNTはOCSiAL社製TUBALL(登録商標)である。使用したSWCNTサンプルの仕様を下に示す。
平均内径:1.5±0.4 nm
長さ:5〜μm
炭素含有量:85〜mass%
CNT含有量:75〜mass%
不純物:〜15mass%
使用したサンプルには、カーボンナノチューブ以外の不純物が含まれているため、まずサンプルから不純物を除去する精製処理を行い、不純物を除去した後のSWCNTを複合めっきに使用した。
次いで、超音波処理後の分散液を吸引ろ過装置にセットし、吸引ろ過処理を行った。この吸引ろ過処理によりSWCNTの分散液から媒質が除去され、フィルタ上にSWCNTが残留する。
次に、残留したSWCNTを真空乾燥し、粉末状のSWCNTを得た。真空乾燥は、真空乾燥装置を用いて110℃、2時間行った。
硫酸銅のめっき液300mLに対し、実験で使用する4種類の分散剤(SDS、SDBS、PAA、STAC)を添加し、精製処理により得られた不純物を除去したSWCNTを0.03g添加した。
次いで、SWCNTを分散させる操作として、まずスターラー攪拌を1日行い、次いで超音波ホモジナイザーによる超音波処理を15分間行った(分散処理)。SWCNTを分散させる処理により、硫酸銅めっき浴の液色は黒色の外観を呈した。
この段階で、硫酸銅のめっき浴におけるSWCNTの分散性を評価した。
次いで、電解めっき装置のめっき槽に、分散剤とSWCNTを含む硫酸銅のめっき液をそれぞれ投入し、銅板をカソードとしてSWCNTの複合めっきを施した(めっき処理)。めっき膜については電界放出走査型電子顕微鏡(FE-SEM)により評価した。
図7は、SWCNTを分散させた硫酸銅浴の分散安定性を評価する実験を行った結果を示す。
分散安定性の評価は、分散剤を添加した硫酸銅のめっき液にSWCNTを加えて分散させた後、分散液を静置してSWCNTの分散の様子を1日後、4日後で観察する方法で行った。
分散剤を加えていないものは、分散処理を行った直後は、めっき液は全体が均一な黒色を呈しSWCNTは全体として分散しているが、1日経過するとSWCNTが完全に分離して沈殿する。
分散剤として、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)を添加したものは、分散処理から4日経過しても、めっき液全体が均一な黒色を呈しており、SWCNTの分散性がきわめて良いことが分かる。
分散剤として、ポリアクリル酸(PAA)を添加したものは、分散処理から1日経過した時点でSWCNTがかなり沈殿している。このPAAを添加しためっき液におけるSWCNTの分散性は4種の分散剤(SDS、SDBS、PAA、STAC)のうちでは最も劣っている。
分散剤として、トリメチルステアリルアンモニウムクロリド(STAC)を添加したものは、分散処理から4日経過した時点でSWCNTが分離しはじめた。STACを添加しためっき液は4種の分散剤のうちでは、SDBSを添加したものに次いで、SWCNTの分散性が良好であるという結果となった。
上述した4種類の分散剤SDS、SDBS、PAA、STACを使用してSWCNTを分散処理した直後の硫酸銅のめっき浴を、電解めっき装置のめっき槽に投入し、電解銅めっき法により銅板上に複合めっきを施した。
以下に、実験時の浴組成とめっき条件を示す。
浴組成
試薬 濃度
CuSO4・5H2O 0.85M
H2SO4 0.55M
SWCNT 0.1(gL-1)
分散剤 SDS 2.9×10-4 M
SDBS 2.9×10-4 M
PAA 2.9×10-4 M
STAC 2.9×10-4 M
めっき条件
基板 Cu
陽極 Cu
電流密度 10mAcm-2
通電量 27Ccm-2
めっき時間 45min
浴温 25℃
攪拌 あり
図8は、分散剤としてSDS、SDBS、PAA、ATACを使用した硫酸銅浴を用いて作製したSWCNTの複合めっき膜の表面の電子顕微鏡像(FE-SEM)であり、図9は、電子顕微鏡像の倍率を拡大したものである。
図9で、分散剤としてSDS、SDBS、PAAを使用したものについては、SEM像中に破線で示した範囲にのみSWCNTが存在する。すなわち、これらの分散剤(SDS、SDBS、PAA)を使用して複合めっきを施したサンプルでは、破線で囲んだ範囲に僅かにSWCNTが見えているのみでめっき膜に十分にSWCNTが共析しない結果となった。
多層カーボンナノチューブを複合材料とする複合めっき膜では、カーボンナノチューブの端部がめっき膜から突出する形態がしばしば見られるのに対して対照的である。
図8、9に示したSWCNTの複合めっき膜のSEM像と、図7に示した硫酸銅のめっき液中におけるSWCNTの分散安定性についての実験結果を比較すると、めっき液中におけるSWCNTの分散安定性と、複合めっき膜に取り込まれるSWCNTの含有量とは相関関係がないことが分かる。すなわち、硫酸銅のめっき液中におけるSWCNTの分散安定性に基づけば、4種の分散剤のうちでは、分散剤SDBSを使用した場合に最もSWCNTの取り込み量が多くなることが予想される。しかしながら、実際には分散剤SDS、SDBS、PAAを使った硫酸銅のめっき液については、いずれもSWCNTはほとんど取り込まれず、唯一、分散剤STACを添加した硫酸銅のめっき浴を使用した場合にのみSWCNTが取り込まれている。
すなわち、4種の分散剤のうち、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)とドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)はアニオン性、ポリアクリル酸(PAA)はノニオン性、トリメチルステアリルアンモニウムクロリド(STAC)はカチオン性である。したがって、これらの分散剤を硫酸銅のめっき液に添加したときに、使用した分散剤によってSWCNTが帯びる電荷が異なるという作用が生じる。
図10に示すように、硫酸銅のめっき液にアニオン性界面活性剤を添加すると、SWCNTの表面に界面活性剤が吸着することでSWCNTはマイナスの電荷を帯びる。したがって、この場合、SWCNTは電極(マイナス)に対しては静電的に斥力が作用し、Cuイオンは電極上に析出するものの、マイナスに荷電したSWCNTは電極に取り込まれることが抑制される。
したがって、酸性のめっき浴を利用して電解銅めっき法によりSWCNTをめっき膜に取り込む方法として、トリメチルステアリルアンモニウムクロリド(STAC)に限らず、カチオン系の界面活性剤を使用することで同様にSWCNTを分散させてめっき膜に共析させることが可能である。カチオン系の界面活性剤としては、塩化セチルトリメチルアンモニウム,臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウムなどがある。塩化セチルトリメチルアンモニウムと臭化セチルトリメチルアンモニウムの化学構造式を下に示す。
また、上記実施形態では単層カーボンナノチューブとして、OCSiAL社製TUBALL(登録商標)を使用したが、本発明に係る銅・単層カーボンナノチューブ複合めっき方法おいては、複合めっきに使用する単層カーボンナノチューブが上記実験で使用した単層カーボンナノチューブに限られるものではない。
Claims (4)
- 酸性のめっき浴を使用し、電解銅めっき方法により単層カーボンナノチューブの複合銅めっき膜を作製する銅・単層カーボンナノチューブ複合めっき方法であって、
前記酸性のめっき浴に分散剤としてカチオン系の界面活性剤を添加してめっきすることを特徴とする銅・単層カーボンナノチューブ複合めっき方法。 - 前記酸性のめっき浴として、硫酸銅のめっき浴を使用することを特徴とする請求項1記載の銅・単層カーボンナノチューブ複合めっき方法。
- 前記分散剤として、トリメチルステアリルアンモニウムクロリド(STAC)を使用することを特徴とする請求項1または2記載の銅・単層カーボンナノチューブ複合めっき方法。
- 前記単層カーボンナノチューブとして、径約2nm、長さ数μm〜10μmである単層カーボンナノチューブを使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の銅・単層カーボンナノチューブ複合めっき方法。
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