JP2018057354A - 変異型チロシナーゼ及びその利用方法 - Google Patents

変異型チロシナーゼ及びその利用方法 Download PDF

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Takayuki Maeda
貴行 前田
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恭士 山本
康平 宮奥
Kohei Miyaoku
康平 宮奥
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Shuichi Yumura
秀一 湯村
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Abstract

【課題】微生物を用いてベタレイン色素等の製造方法の生産性を向上させる。【解決手段】特定のアミノ酸配列、又は特定のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、下記(i)及び/又は(ii)の変異を有する、チロシナーゼ活性を有するタンパク質。(i)特定のアミノ酸配列におけるS2、N3、Y5、I28、K30、G46、F48、S54、N57、W68、E71、S104、D127、N144、D166、D170、K173、W182、E187、N188、S189、Q193、E195、T220、H230、N233、W241、I243、Q251、N261、D264、Y267、P273、G283、及びI288からなる群より選ばれる1又は複数のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基が、置換された変異。(ii)特定のアミノ酸配列におけるV218に相当するアミノ酸残基が置換された変異。【選択図】なし

Description

本発明は、変異型チロシナーゼ、並びにそれを好適に用い得るベタレイン色素等の製造方法に関する。
ベタレイン色素とは、天然では、ナデシコ目の植物およびある種の高等菌類にのみ含まれ、その化学構造中に窒素を含有することを特徴とする水溶性の色素である。ベタレイン色素は、構造上の特徴からベタキサンチンとベタシアニン類に分類されている。ベタキサンチンは黄色に発色し、ベタシアニン類は赤紫に発色するため従来から天然着色料として利用されている。
近年、ベタレイン色素が強力な抗酸化作用を有することが見出され、抗酸化剤としての活用も検討されている。さらに、ベタレイン色素が太陽エネルギーを効率よく吸収する性質を有することも見出され、色素増感型太陽電池の増感色素等への利用も期待されている。
このベタレイン色素の製造方法としては、植物から抽出し、精製する方法が一般的であるが、ベタレイン色素を含む植物は、マツバギク、ビート、サボテンなどのナデシコ目(ツルナ科、ヒユ科、スベリヒユ科、ツルムラサキ科、サボテン科、アカザ科、オシロイバナ科など)に限られている。そのため、高価であり、また、安定して供給することも難しい。
近年、新たなベタレイン色素の製造方法として、ベタレイン色素の生産に関与する酵素であるチロシナーゼやL−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)4,5−ジオキシゲナーゼ等の遺伝子を大腸菌や酵母などの微生物へ導入し、それらの微生物を用いて、グルコースやチロシンなどを基質としてベタレイン色素を一貫して合成する方法が開発されている(特許文献1,2)。
また、バチルス・メガテリウムのチロシナーゼに関しては、R209H、V218F、又はV218G
の変異を有するものが報告されており、該変異体では酵素学的性質が野生型に比べて変化したとされている(非特許文献1,2)。しかしながら、これらの変異型チロシナーゼを、ベタレイン色素等の合成に用いることについての記述はない。
特開2015−192668号公報 特開2015−192669号公報
Ben-Yosef et al., Enzyme and Microbial Technology, 47.7 (2010): 372-376. Goldfeder et al., Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Proteins and Proteomics1834.3 (2013): 629-633.
前述のように、ベタレイン色素を安定して持続的に、かつ低コストで製造・供給することの需要がある。しかしながら、特許文献1,2に記載の微生物を用いる製造方法では、
現状では生産速度が遅いため、生産効率が低く、工業化に耐えられるレベルではない。
そこで本発明は、微生物を用いてベタレイン色素等の製造方法の生産性を向上させることを課題とする。
本発明者らは、微生物を用いる製造方法においてベタレイン色素等の生産性を向上させるためには、その生合成経路上で律速酵素であるチロシナーゼにアミノ酸変異を加えて、その触媒能を向上させることが有効であることに想到した。そして、鋭意研究の結果、チロシナーゼの触媒能向上に好適なアミノ酸変異を見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)配列番号2のアミノ酸配列、又は配列番号2のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、下記(i)及び/又は(ii)の変異を有する、チロシナーゼ活性を有するタンパク質(以降、「本発明の変異型チロシナーゼ」とも記す)。
(i)配列番号2のアミノ酸配列におけるS2、N3、Y5、I28、K30、G46、F48、S54、N57、W68、E71、S104、D127、N144、D166、D170、K173、W182、E187、N188、S189、Q193、E195、T220、H230、N233、W241、I243、Q251、N261、D264、Y267、P273、G283、及びI288からなる群より選ばれる1又は複数のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基が、K、H、R、E、D、Q、N、C、V、L、I、P、M、F、W、Y、G、A、S、及びTからなる群から選択されるアミノ酸残基に置換された変異。
(ii)配列番号2のアミノ酸配列におけるV218に相当するアミノ酸残基がK、H、R、E、D、Q、N、C、L、I、P、M、W、Y、A、S、及びTからなる群から選択されるアミノ酸残基
に置換された変異。
(2)前記変異が、配列番号2のアミノ酸配列における下記のいずれかの変異に相当する変異である、(1)に記載のタンパク質:
S2C、S2R、N3D、Y5N、I28S、K30E、G46D、F48L、S54N、N57T、W68R、E71G、S104T、D127E、N144H、D166E、D170E、K173E、W182R、E187R、N188K、S189T、Q193R、E195D、V218D
、T220S、H230Q、N233K、W241R、W241G、I243N、Q251P、N261D、D264E、Y267F、P273L、G283S、I288T。
(3)前記変異が、配列番号2のアミノ酸配列における下記のいずれかの変異に相当する変異である、(1)又は(2)に記載のタンパク質:
S2C、(S2C+Y5N)、(S2C+F48L)、(S2C+N188K)、(S2C+Q251P)、(S2C+D264E)、
(S2C+P273L)、(S2C+S104T+N261D)、(S2C+K173E+W182R)、(S2C+E71G+E195D+W241G
)、(S2C+Q193R+V218D+I288T)、(S2C+N3D+G46D+D127E+W241R)、(S2C+I28S+S54N+D170E+W182R)、(S2C+W68R+D166E+S189T+N233K)、(S2R+W241R+I243N)、V218D、D264E、
(K30E+E187R)、(N57T+Y267F)、(N57T+T220S+Y267F+G283S)、(N144H+H230Q)。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質をコードする、DNA。
(5)(4)に記載のDNAを含む、組換え発現ベクター。
(6)(5)に記載の組換え発現ベクターで形質転換された、微生物。
(7)大腸菌または酵母である、(6)に記載の微生物。
(8)(6)又は(7)に記載の微生物を培地中で培養する工程を含む、前記タンパク質の製造方法。
(9)(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質、又は前記タンパク質を含有する微生物若しくはその処理物の存在下で、水性媒体中で、チロシンをL−DOPAに変換する工程を含む、L−DOPAの製造方法。
(10)(9)に記載のL−DOPAの製造方法を含む、目的物質の製造方法であって、
前記目的物質は、アルカロイド、並びにカフェ酸及びその誘導体からなる群から選ばれるいずれかである、製造方法。
(11)(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質及びDOPA4,5−ジオキシゲナーゼを含有する微生物又はその処理物の存在下で、水性媒体中で、原料をベタレイン色素に変換する工程を含む、ベタレイン色素の製造方法。
(12)前記変換工程の前に、前記微生物を水性媒体中で培養する工程を含む(11)に記載の製造方法。
(13)前記変換工程において、前記微生物として休止菌体を用いる、(11)又は(12)に記載の製造方法。
(14)前記原料が、チロシン、及び/又は糖質原料である、(11)〜(13)のいずれかに記載の製造方法。
(15)さらに、チロシン以外のアミノ酸又はアミンの存在下で行われる、(11)〜(14)のいずれかに記載の製造方法。
(16)前記変換工程において、前記水性媒体が、アスコルビン酸、UDP−グルコース、銅、及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、(11)〜(15)のいずれかに記載の製造方法。
(17)前記ベタレイン色素がベタキサンチンである、(11)〜(16)のいずれかに記載の製造方法。
本発明により、触媒能が向上した変異型チロシナーゼが提供される。該酵素は、チロシンからL−DOPAへの変換反応を効率的に触媒することができるため、該酵素を含有する微生物等を用いることにより、グルコースやチロシン等の安価な原料からL−DOPAを経てベタレイン色素等を高い生産性で安定的に製造することができる。
ベタレイン色素の生合成経路を示す図である。 ベタキサンチンの生合成経路を示す図である。 ベタニンの生合成経路を示す図である。 ベタニンの生合成経路を示す図である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<1>本発明の変異型チロシナーゼ
本発明の変異型チロシナーゼは、配列番号2のアミノ酸配列、又は配列番号2のアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する。配列番号2のアミノ酸配列は、バチルス・メガテリウム菌(Bacillus megaterium)由来のチロ
シナーゼ(以降「野生型チロシナーゼ」とも記す)のアミノ酸配列である。
なお、本明細書において、「同一性」(identity)は、「相同性」(homology)を指すことがある。
また、本明細書において、アミノ酸は特記しない限りL体である。
また、本発明の変異型チロシナーゼは、後述するチロシナーゼ活性が損なわれない限り、配列番号2のアミノ酸配列において、後述の変異の他に、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位等の変異が加えられたアミノ酸配列であってもよい。ここで、1個又は数個とは、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜5個である。かかる変異としては保存的変異が好ましく、代表的なものとしては保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場
合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミ
ノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で
、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換
、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、Asp
からAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの
置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの
置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの
置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの
置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへ
の置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、遺伝子が由来する微生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
さらに、本発明の変異型チロシナーゼは、下記(i)及び/又は(ii)の変異を有する。
(i)配列番号2のアミノ酸配列におけるS2、N3、Y5、I28、K30、G46、F48、S54、N57、W68、E71、S104、D127、N144、D166、D170、K173、W182、E187、N188、S189、Q193、E195、T220、H230、N233、W241、I243、Q251、N261、D264、Y267、P273、G283、及びI288からなる群より選ばれる1又は複数のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基が、K、H、R、E、D、Q、N、C、V、L、I、P、M、F、W、Y、G、A、S、及びTからなる群から選択されるアミノ酸残基に置換された変異。
(ii)配列番号2のアミノ酸配列におけるV218に相当するアミノ酸残基がK、H、R、E、D、Q、N、C、L、I、P、M、W、Y、A、S、及びTからなる群から選択されるアミノ酸残基
に置換された変異。
上記表記において、数字の左側の文字はアミノ酸残基を、数字は配列番号2のアミノ酸配列におけるN末端からの位置を、それぞれ表し、本明細書において以降も同様とする。
(i)及び/又は(ii)の変異の数の合計は、特に限定されないが、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個である。
前記変異の位置における置換後のアミノ酸残基は、元のアミノ酸残基以外のアミノ酸残基であれば、(i)及び(ii)に記載の各選択肢の何れであってもよいが、好ましくは配列番号2のアミノ酸配列における下記のいずれかの変異に相当する変異が挙げられる:
S2C、S2R、N3D、Y5N、I28S、K30E、G46D、F48L、S54N、N57T、W68R、E71G、S104T、D127E、N144H、D166E、D170E、K173E、W182R、E187R、N188K、S189T、Q193R、E195D、V218D
、T220S、H230Q、N233K、W241R、W241G、I243N、Q251P、N261D、D264E、Y267F、P273L、G283S、I288T。
上記表記において、数字の左側の文字はアミノ酸残基を、数字は配列番号2のアミノ酸配列におけるN末端からの位置を、数字の右側の文字は変異後のアミノ酸残基を、それぞれ表し、本明細書において以降も同様とする。例えば、「S2C」は、配列番号2における
2位のセリン残基がシステイン残基に置換された変異を表す。
本発明の変異型チロシナーゼが有する変異としてさらに好ましいのは、後述の実施例2において波長470nmのUV吸収で測定されたベタキサンチンの生成量が、野生型チロシナー
ゼの好ましくは1.3倍以上、より好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2倍以上であることが確認されたいずれかの変異である。
そのような変異としては、配列番号2のアミノ酸配列における下記のいずれかの変異に相当する変異が挙げられる:
S2C、(S2C+Y5N)、(S2C+F48L)、(S2C+N188K)、(S2C+Q251P)、(S2C+D264E)、
(S2C+P273L)、(S2C+S104T+N261D)、(S2C+K173E+W182R)、(S2C+E71G+E195D+W241G
)、(S2C+Q193R+V218D+I288T)、(S2C+N3D+G46D+D127E+W241R)、(S2C+I28S+S54N+D170E+W182R)、(S2C+W68R+D166E+S189T+N233K)、(S2R+W241R+I243N)、V218D、D264E、
(K30E+E187R)、(N57T+Y267F)、(N57T+T220S+Y267F+G283S)、(N144H+H230Q)。
これらのうち、上記実施例におけるベタキサンチン生産量が特に優れていた(S2C+D264E)、(S2C+N3D+G46D+D127E+W241R)がより好ましい。
上記表記において、「+」で表される2以上の変異の併記は、二重変異又はそれ以上の
多重変異を表す。例えば、(S2C+Y5N)は、変異型チロシナーゼがS2C変異とY5N変異とを
同時に有することを表す。
また、別の観点からは、上記変異のうちS2C変異、又はS2Cと1又はそれ以上の変異との組み合わせからなる多重変異であることも好ましい。
好ましい例としては、S2C、(S2C+D264E)、(S2C+N3D+G46D+D127E+W241R)が挙げられるが、これらに限定されない。
変異の位置は、必ずしも変異型チロシナーゼのアミノ酸配列におけるN末端からの絶対
的な位置を示すものではなく、配列番号2に記載のアミノ酸配列との相対的な位置を示すものである。例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するチロシナーゼにおいて、n
位よりもN末端側の位置で1個のアミノ酸残基が欠失した場合、このn位はN末端からn-1番目のアミノ酸残基となる。このような場合であっても、前記アミノ酸酸残基は、n位のア
ミノ酸残基とみなされる。アミノ酸置換の絶対的な位置は、対象のチロシナーゼのアミノ酸配列と配列番号2のアミノ酸配列とのアラインメントにより、決定することができる。この場合のアラインメントの方法は、公知の遺伝子解析ソフトウェアが利用可能である。具体的なソフトウェアとしては、日立ソリューションズ製のDNASISや、ゼネティックス製のGENETYXなどが挙げられる(Elizabeth C. Tyler et al., Computers and Biomedical Research, 24(1), 72-96, 1991;Barton GJ et al., Journal of molecular biology, 198(2), 327-37. 1987)。
さらに、本発明の変異型チロシナーゼは、チロシナーゼ活性を有するタンパク質である。
本明細書において「チロシナーゼ活性」とは、チロシンのフェノール環の3位に水酸基を付加することができる酵素活性をいう。ただし、チロシン以外の化合物を基質としてそれを水酸化する活性をも有することは排除されない。
具体的には、本発明の変異型チロシナーゼは、チロシンをL−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(以降、「L−DOPA」と記す)に変換する酵素活性を有することが好まししく、野生型チロシナーゼに比して増強した該活性を有することがさらに好ましい。
チロシナーゼ活性を有するか否かは、対象タンパク質が、チロシンの3位を水酸化する活性を通常のアッセイ方法で測定することにより判定が可能である。例えば、チロシンに、対象タンパク質を作用させ、チロシンから変換されたL−DOPA量を直接的に測定することで、その酵素活性を確認することができる。
本発明の変異型チロシナーゼは、それをコードする遺伝子(以降「変異型tyr遺伝子」
と記す)を適当なベクターに挿入し、得られた組換えベクターを適切な宿主に導入して形質転換したり、変異型tyr遺伝子を宿主の染色体上に導入したりして、発現させることに
よって製造することができる。また、後述するL−DOPAの製造方法に用いる、変異型チロシナーゼを含有する微生物は、前記組組換えベクターを適切な宿主微生物に導入したり、変異型tyr遺伝子を宿主の染色体上に導入したりすることによって取得することがで
きる。
変異型tyr遺伝子は、例えば、部位特異的変異法によって、コードされるチロシナーゼ
の特定の部位のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基で置換されるように、野生型チロシナーゼをコードする遺伝子、例えばバチルス・メガテリウム菌の野生型チロシナーゼをコードする遺伝子(以降、「野生型tyr遺伝子」と記す;配列番号1)の塩基配列を改変するこ
とによって取得することができる。
なお、野生型tyr遺伝子は、前記特定の変異を有さない限り、それ以外の変異を有して
いてもよい。また、バチルス・メガテリウム菌の野生型tyr遺伝子に替えて、そのホモロ
グ、例えばバチルス・メガテリウムの野生型チロシナーゼと構造が類似する他の微生物のチロシナーゼをコードする遺伝子を用いてもよい。他の微生物としては、例えば、Bacillus flexus、Bacillus aryabhattai等が挙げられる。
また、野生型チロシナーゼをコードする遺伝子として、導入する宿主微生物のコドン使用頻度に応じて塩基配列を最適化したものを用いてもよい。コドン最適化は、例えば、J.
Microbiol. Biotechnol. (2012), 22(3), 316-325に記載の方法や、GenScript社のOptimumGeneTMサービスを利用する方法がある。
例えば、大腸菌発現用に最適化したtyr遺伝子としては配列番号3の塩基配列が、酵母
発現用に最適化したtyr遺伝子としては配列番号4の塩基配列が、それぞれ挙げられる。
また、野生型チロシナーゼをコードする遺伝子は、配列番号1、3又は4の塩基配列に相補的な塩基配列を有するプローブ、又は前記相補的な塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAであって、かつ、チロシナー
ゼ活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。
ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%、特に好まし
くは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同
士がハイブリダイズしない条件、例えば、42℃でのハイブリダイゼーション、及び1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理を挙げることができ、65℃でのハイブ
リダイゼーション、及び0.1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理をよ
り好ましく挙げることができる。なお、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える要素としては、上記温度条件以外に種々の要素があり、当業者であれば、種々の要素を適宜組み合わせて、上記例示したハイブリダイゼーションのストリンジェンシーと同等のストリンジェンシーを実現することが可能である。
ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、tyr遺伝子の相補配列の一部であっても
よい。そのようなプローブは、公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、これらの塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとして、300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、
ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
DNAの目的部位に目的の変異を起こす部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))、ファージを用いる方法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth.
in Enzymol., 154, 367 (1987))などがある。
得られた変異型tyr遺伝子を宿主となる微生物に導入するに際しては、プラスミドベク
ター上に変異型tyr遺伝子DNAを導入しても、相同組み換えにより染色体(ゲノム)上
に該DNAを導入してもよい。
微生物に変異型tyr遺伝子を導入する際には、適当なプロモーターを該遺伝子の5'−側上流に組み込むことが好ましく、加えてターミネーターを3'−側下流にそれぞれ組み込
むことがより好ましい。このプロモーター及びターミネーターとしては、宿主として利用する微生物において機能することが知られているプロモーター及びターミネーターであれば特に限定されず、該酵素遺伝子自身のプロモーター及びターミネーターであってもよいし、他のプロモーター及びターミネーターに置換してもよい。これら各微生物において利用可能なベクター、プロモーター及びターミネーターなどに関しては、例えば「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」などに詳細に記述されている。
なお、DNAの切断、連結、その他、染色体DNAの調製、PCR、プラスミドDNAの調製、形質転換、プライマーとして用いるオリゴヌクレオチドの設定等の方法は、当業者によく知られている通常の方法を採用することができる。これらの方法は、Sambrook, J., Fritsch, E. F., and Maniatis, T., “Molecular Cloning A Laboratory Manual, Second Edition”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, (1989)等に記載されている。
好ましい宿主としては、構築した組換えDNAの複製起点と変異型tyr遺伝子が機能し、組換えDNAが複製可能でかつ変異型tyr遺伝子の発現が可能な微生物ならば、特に限定されない。例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属細菌、エンテロバクター属細菌、パントエア属細菌等のグラム陰性細菌、グラム陽性細菌としてはバチルス属細菌、コリネバクテリウム属細菌等のコリネ型細菌、その他に酵母、カビなどの細胞等を用いることができる。
宿主微生物として大腸菌を用いる場合、大腸菌の親株としては、例えば、K12株又はB株、加えてこれらの誘導体を用いることが好ましい。本発明で用いることのできる親株としては、HB101、DH5α、JM109、JM110、BL21(DE3)、TH2、TOP10、及びこれらの改良株が挙げられ、これらの菌株は市販されている。加えて、例えば一遺伝子破壊株であるKEIOコレクションで使用されているBW25113株なども利用可能であり、これらはナショナルバイオリソースプロジェクトより分与が可能である。
大腸菌の組換え方法としては、目的とする遺伝子または配列を含むDNA断片をプラスミドベクターに導入することにより、大腸菌内で前記酵素遺伝子の発現増強が可能な組換えプラスミドベクターを得て、このプラスミドベクターを菌体内へ導入する方法等が挙げられる。
大腸菌に目的とする遺伝子または配列を導入することができるプラスミドベクターとしては、大腸菌内での複製増殖機能を司る遺伝子を少なくとも含むものであれば特に制限されない。プラスミドベクターとしては、例えば、P15A、ColE1(pBR322、pUC)、RSF1030、pSC101、CloDF13などの複製開始点をもつものを好適に用いることができる。
また、プロモーターとしては、大腸菌において機能するものであればいかなるプロモーターであってもよく、導入される遺伝子自身のプロモーターであってもよい。例えば、trpプロモーター、trcプロモーター、PLプロモーター、T5プロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター及びλPLプロモーター等を用いることができる。
本発明で用いることができるプラスミドベクターは、例えば、pETシリーズ(ノバジェン)、Duet Vectorシリーズ(Novagen)、pDUALシリーズ(ストラタジェン)、pMALシリーズ(NEB)、pGEXシリーズ(GEヘルスケア)、pKK223(GEヘルスケア)pTrcシリーズ(ライフテクノロジーズ)、pUC1
8、pUC19、pUC118、pUC119(タカラバイオ)等が挙がられる。
また、上記の組換え方法に代えて、あるいは、上記の組換え方法に加えて、公知の相同組換え法によって、変異型tyr遺伝子を導入したり、置換したり、増幅したり、加えて、
染色体上へ導入された当該遺伝子のプロモーターへの変異導入、より強力なプロモーターへの置換などによっても高発現株を得ることができる。
宿主微生物として、コリネ型細菌(coryneform bacterium)を用いる場合、コリネ型細菌としては、コリネバクテリウム属に属する細菌、ブレビバクテリウム属に属する細菌又はアースロバクター属に属する細菌等が挙げられ、これらのうち、コリネバクテリウム属又はブレビバクテリウム属に属するものが好ましく、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)又はブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)に属する
細菌がより好ましい。
本発明において用いることのできる親株としては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP−1497)、同MJ−233 AB−41(FERM BP−
1498)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス ATCC6872、コリネバクテ
リウム・グルタミカム ATCC13032、ココリネバクテリウム・グルタミカムAT
CC31831、及びブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869等が挙げられる。
なお、ブレビバクテリウム・フラバムは、現在、コリネバクテリウム・グルタミカムに分類される場合もあることから(Lielbl, W. et al. International Journal of Systematic Bacteriology, 1991, vol. 41, p255-260)、本発明においては、ブレビバクテリウ
ム・フラバムMJ−233株、及びその変異株MJ−233 AB−41株はそれぞれ、
コリネバクテリウム・グルタミカムMJ−233株及びMJ−233 AB−41株と同
一の株であるものとする。また、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233は、1975年4月28日に通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(現 独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター)(〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 120号室)に受託番号FERM P−3068として寄託さ
れ、1981年5月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP
−1497の受託番号で寄託されている。
本発明の方法において親株として用いられる上記の微生物としては、野生株だけでなく、UV照射やNTG処理等の通常の変異処理により得られる変異株、細胞融合もしくは遺伝子組換え法などの遺伝学的手法により誘導される組換え株などのいずれの株であってもよい。
コリネ型細菌に前記遺伝子をプラスミドベクターにより導入する際、利用できるプラスミドベクターの具体例は、例えば、特開平3−210184号公報に記載のプラスミドpCRY30;特開平2−72876号公報及び米国特許5,185,262号明細書公報に記載のプラスミドpCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE及びpCRY3KX;特開平1−191686号公報に記載のプラスミドpCRY2およびpCRY3;特開昭58−67679号公報に記載のpAM330;特開昭58−77895号公報に記載のpHM1519;特開昭58−192900号公報に記載のpAJ655、pAJ611及びpAJ1844;特開昭57−134500号公報に記載のpCG1;特開昭58−35197号公報に記載のpCG2;特開昭57−183799号公報に記載のpCG4およびpCG11;Plasmid vol.36(1)p62-66(1996)
に記載のpC2又はその改変プラスミド等を挙げることができる。
また、上記の組換え方法に代えて、あるいは、上記の組換え方法に加えて、公知の相同組換え法によって、変異型tyr遺伝子を導入したり、置換したり、増幅したり、加えて、
染色体上へ導入された当該遺伝子のプロモーターへの変異導入、より強力なプロモーターへの置換などによっても高発現株を得ることができる。
宿主微生物として、酵母を用いる場合、親株として用いる酵母の種類は特に限定されないが、サッカロミセス属、デバリオマイセス属、シゾサッカロマイセス属、キャンディダ属、ヤロウィア属、ロドトルラ属、リポマイセス属、クルイベロマイセス属、ロドスポリジウム属、トリコデルマ属または、トルロプシス属、ピキア属等に属する酵母を親株として用いることが好ましい。例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、デバリオマイセス・ニ
ルソニ(Debaryomyces nilssonii)、デバリオマイセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、キャンディダ・グラブラータ(Candida glabrata)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)、キャンディダ・ボイディニィ(Candida boidinii)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ロドトルラ・グ
ルティニス(Rhodotorula glutinis)、リポマイセス・リポフェラス(Lipomyces lipoferus)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、ロドスポリジウム
・トルロイディス(Rhodosporidium toruloides)、トリコデルマ・リセイ(Trichodermareesei)、トルロプシス・コリキュロサ(Torulopsis colliculosa)、ピキア・ファリノサ(Pichia farinosa)等が挙げられる。これらの中で、代謝工学的手法が用いやすいこ
とからサッカロミセス属が最も好ましい。
さらに、サッカロミセス属は、his3、leu2、trp1、ura3などの栄養要求性の遺伝型であることが望ましく、例えば、サッカロミセス・セレビジエYPH499株(MATa ura3 lys2 ade2 trp1 his3 leu2)(ATCC204679:American Type Culture Collection又はSTRATAGENE社より入手できる)、サッカロミセス・セレビジエFY1679−06c株(MATα ura3 leu2 trp1 his3)(Euroscarf社から入手できる)、サッカロミセス・セレビジエBY4741株(MATa,his3Δ1,leu2Δ0,met15Δ0,ura3Δ0)(Yeast 14:115−132(1998)、ATCC201388)なども用いることができる。
酵母において変異型tyr遺伝子を導入する方法としては、公知の手法を用いることがで
き、形質転換体において形質転換の目的とした酵素が発現していればよく、遺伝子の導入の方法は限定されない。用いるプラスミドベクターとしては、例えば、次の3つのプラスミドベクターが挙げられる。
(i)酵母に常在する2μmプラスミドの複製配列を利用した多コピーのYEp型ベクターを用いることができる。本発明において酵母に遺伝子を導入するために使用できるプラスミドの具体例としては、2μmプラスミド由来のpAUR112ベクター(タカラバイオ社製)やpESCベクター(STRATAGENE社製)、pYESベクター(ライフテクノロジーズ)などが挙げられる。これらのベクターは市販されている。
(ii)自律複製配列(ARS)とセントロメア配列(CEN)を利用した低コピー安定型のYCp型ベクターを用いることができる。本発明において用いることのできるプラスミドベクターとしては、例えば、pAUR123(タカラバイオ)等が挙げられる。
(iii)染色体組込みを目的とした酵母内では自律複製をしないYIp型のプラスミドを用いることができる。これは、酵母の高い相同組換え能を利用するものであり、染色体ゲノムと相同な配列を両端に置き、選択可能なマーカー遺伝子、プロモーター及びター
ミネーターに挟まれた形で希望の遺伝子をYIp型のプラスミドに組み込み、これを酵母内に導入することで、外来遺伝子は染色体内に組み込まれ、安定的に外来遺伝子を発現することが期待できる。これは一般的な大腸菌や酵母用のプラスミドを用いて構築することが可能であるほか、PCRや合成DNAを用いて作製することが可能である。
本発明において用いることのできるプロモーターとしては、宿主酵母で機能しうるものであれば特に制限されないが、例えば、PGK遺伝子のプロモーター(3−ホスホグリセラートキナーゼ 1983、Science、219、620-625)、GAPDH(グリセルアルデヒドホ
スフェートデヒドロゲナーゼ 1979、J.Biol.Chem.、254、9839-9845)をコードするTDH遺伝子のプロモーター、TEF1遺伝子(伸長因子1 1985、J.Biol.Chem.、260、3090-3096)のプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼをコードするADH遺伝子のプロモーター、グルコースの存在下に抑制される調節可能なCYC1遺伝子のプロモーター(1981、Proc.Natl.Acad.Sci.、USA、78、2199-2203)、チアミンにより調節され得るPH
O5遺伝子のプロモーター(1982、EMBO J.、1、675-680)、グルコース非存在下でガラ
クトースにより誘導されるGAL1またはGAL10遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。
また、上記の組換え方法に代えて、あるいは、上記の組換え方法に加えて、公知の相同組換え法によって、変異型tyr遺伝子を導入したり、置換したり、増幅したり、加えて、
染色体上へ導入された当該遺伝子のプロモーターへの変異導入、より強力なプロモーターの置換などによっても高発現株を得ることができる。
なお、酵母の形質転換は、例えば、エレクトロポレーション法(Fromm ME,et al. Nature 1986, 319(6056):791-793)、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法(Ito,H.et al, (1983) J. Bacteriol. 153(1), 163-168)等によって行うことができ、二種以上のプラス
ミドを導入することもできる。また、酵母における遺伝子の発現増強は、公知の相同組換え法によって宿主のゲノム上で該遺伝子を多コピー化させることによって行うこともできる。例えば、ゲノム組込型プラスミドのうち多コピーがゲノムに組み込まれるベクターを用いる方法(Bio/Technol. 1991, 9, 1382-1385)が挙げられる。ゲノム上の各遺伝子を
含む発現単位の挿入箇所は、クロチルアルコールもしくはその異性体の合成関連遺伝子や生育関連遺伝子の発現が阻害されない箇所であれば何れのものでもよい。
<2>変異型チロシナーゼの製造方法
本発明の変異型チロシナーゼは、上記のようにして得られる変異型tyr遺伝子を含む組
換えDNAを導入した微生物(形質転換体)を、該遺伝子が発現可能な条件で培養し、微生
物を増殖させ、該遺伝子がコードするタンパク質を発現させることにより製造することができる。培養に用いる培地としては、目的の微生物が増殖し得るものであれば特に制限されず、炭素源、窒素源、イオウ源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地を用いることができる。
炭素源としては、グルコース、フラクトース、シュークロース、グリセロール、エタノール、糖蜜やでんぷんの加水分解物などの糖類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類を用いることができる。
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。
イオウ源としては、硫酸塩、亜硫酸塩、硫化物、次亜硫酸塩、チオ硫酸塩等の無機硫黄化合物が挙げられる、
有機微量栄養源としては、ビタミンB1などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じてリン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
培養条件は、用いる微生物によって適宜設定すればよく、例えば、培養温度は20℃〜45℃、好ましくは24℃〜45℃で培養することが好ましい。培養は通気培養が好ましく、酸素濃度は、飽和濃度に対して5〜50%に、望ましくは10%程度に調節して行うことが好ましい
。また、培養中のpHは5〜9が好ましい。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、例えば炭酸カルシウム、アンモニアガス、アンモニア水等を使用することができる。
上記のような条件下で、好ましくは10時間〜120時間程度培養することにより、微生物
のペリプラズムに変異型チロシナーゼが蓄積する。
なお、使用する宿主及びtyr遺伝子の設計によっては、微生物内にチロシナーゼを蓄積
させることや、もしくは、微生物外にチロシナーゼを分泌生産させることも可能である。
変異型チロシナーゼは、微生物体内に含まれたまま、すなわち「変異型チロシナーゼを含有する微生物」として使用することもできるが、微生物から抽出した粗酵素画分又は精製酵素として使用してもよい。変異型チロシナーゼは、通常のペリプラズム酵素の抽出と同様の方法、例えば浸透圧ショック法、凍結融解法等により、抽出することができる。また、変異型チロシナーゼの精製は、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、等電点沈殿等、酵素の精製に通常用いられる手法を適宜組み合わせて行うことができる。微生物外にチロシナーゼが分泌生産される場合は、培地から採取した変異型チロシナーゼを使用することができる。
変異型チロシナーゼを含有する微生物の処理物としては、変異型チロシナーゼが機能可能な状態で含まれる限り特に制限されず、微生物の破砕物、微生物の抽出物、それらの部分精製物、又は精製酵素等、及び、それらをアクリルアミド、カラギーナン等で固定化した微生物体、又は変異型チロシナーゼを樹脂等の固相に固定化した固定化酵素などが挙げられる。
<3>目的物質の製造方法
上記のようにして得られる本発明の変異型チロシナーゼ、又は該変異型チロシナーゼを含有する微生物もしくはその処理物の存在下で、水性媒体中で、チロシンをL−DOPAに変換する工程により、L−DOPAを製造することができる。さらに前記L−DOPAへの変換工程を経て、ベタレイン色素等のアルカロイド並びにカフェ酸及びその誘導体などの目的物質を製造することができる。例えば、チロシンを出発物質又は中間体として、L−DOPAを経由してベタレイン色素が生成される経路の概略を図1に示す。
L−DOPAの製造においては、チロシンに本発明の変異型チロシナーゼ、又は該変異型チロシナーゼを含有する微生物もしくはその処理物を作用させて、該変異型チロシナーゼの触媒活性によりL−DOPAに変換する。ここで、本発明の変異型チロシナーゼとしては粗酵素画分又は精製酵素のいずれでもよく、本発明の変異型チロシナーゼを含有する微生物の処理物も特に限定されず、これらは<2>で述べた説明に準ずる。
L−DOPAの製造における原料としては、チロシン及び/又は糖質原料を用いることができる。ここでチロシンとしては、純度90%以上の市販品を好適に用いることができる。
糖質原料としては、グルコース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、スクロース、マルトース、ラクトース、ラフィノース、サッカロース、デンプン、セルロースなどの炭水化物やグリセリン、マンニトール、リビトール、キシリトールなどのポリアルコール類等の発酵性糖質類等を用いることができ、中でもグルコースが好ましい。
変異型チロシナーゼを含有する微生物を用いる場合、糖質原料からチロシンを合成する代謝フラックスが充分に強くない場合は、原料として糖質原料およびチロシンを用いることが好ましく、特にグルコースおよびチロシンを用いることが好ましい。一方、前記微生物において、糖質原料からチロシンを合成する代謝フラックスが強い場合は、原料として糖質原料のみを用いることができ、目的物質の製造プロセスの低コスト化のためには好ましい。
L−DOPAの製造に用いる水性媒体としては特に制限はなく、例えば、水;リン酸塩緩衝液、炭酸塩緩衝液、酢酸塩緩衝液、ほう酸塩緩衝液、クエン酸塩緩衝液、トリス緩衝液などの緩衝液;メタノール、エタノールなどのアルコール類;酢酸エチルなどのエステル類;アセトンなどのケトン類;アセトアミドなどのアミド類等が挙げられる。また、変異型チロシナーゼを含有する微生物を用いる場合は、その微生物の種類に応じて適当な培地を使用すればよく、例えば、炭素源、窒素源、無機塩及び必要に応じその他の有機微量栄養素を含有する通常の培地を使用できる。
ここで、炭素源は、上記微生物が資化しうる炭素源であれば特に限定されないが、例えば、ガラクトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、グリセロール、シュークロース、サッカロース、デンプン、セルロース等の炭水化物;グリセリン、マンニトール、キシリトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられる。
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩の他、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー等が用いられる。
無機塩としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が用いられる。
また、ビオチン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加してもよい。
また、変換工程を行う条件は、本発明の変異型チロシナーゼが完全に酵素活性を失わない条件であれば特に限定されないが、通常10℃〜45℃で12時間〜96時間実施することができる。
変換により生成したL−DOPAを原料として、アルカロイド並びにカフェ酸及びその誘導体などの目的物質を任意の方法で製造することができる。その際、L−DOPAは、精製又は粗精製して後続の反応に供してもよいし、そのまま微生物内で代謝経路により反応を進行させてもよい。
ここで、アルカロイドとは、ベタレイン色素(ベタシアニン類、ベタキサンチン類)、アドレナリン前駆体(ドロキシドパ、カルビドパ等)等を含み、その他にもアガランサミン、モルヒネ等の種々のアルカロイド系化合物も、L−DOPAを出発物質又は中間体として製造できることが知られている。
L−DOPAからアルカロイド類へは、周知の反応経路で製造することができ、例えば、L−DOPAから種々のベタレイン色素を製造する具体的な経路を図2〜4に示す。
また、カフェ酸及びその誘導体は、下記一般式(1)で表される化合物をいう。
Figure 2018057354
(式(1)中、R’〜R ’の少なくとも2以上がOHであり、他及びR’は任意
の原子又は置換基である。任意の原子としては、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルカリ金属原子が挙げられ、任意の置換基としては、それぞれ独立して、水酸基、重水酸基、チオール基、第一級〜第四級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アゾキシル基、ジアゾ基、アジド基、ヒドラジン基、ニトロ基、ニトロソ基、尿素基、チオ尿素基、シアネート基、チオシアネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、硫酸基、スルホニル基、スルホキシド基、リン酸基、ホスホニル基、硼酸基、ボロニル基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、ニトリル基、イソニトリル基、ジスルフィド基、置換カルボニル基、ホルミル基、各種エステル基、各種チオエステル基、各種カーボネート基、各種チオカーボネート基、各種アミド基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルカノイル基、炭素数1〜12のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基または炭素数1〜12のフルオロアルキル基等が挙げられる。
カフェ酸及びその誘導体として代表的なフェルラ酸等は、バイオエンジニアリングプラスチック材料として注目されている。これらは、L−DOPAの脱アミノ反応を経て任意の反応経路で製造することができる。
Figure 2018057354
Figure 2018057354
<4>ベタレイン色素の製造方法
前述の目的物質の製造方法のさらなる態様として、本発明の変異型チロシナーゼ及びD
OPA4,5−ジオキシゲナーゼを含有する微生物又はその処理物の存在下で、水性媒体中で、原料からベタレイン色素を製造する方法について以下に説明する。
DOPA4,5−ジオキシゲナーゼ(DOD)とは、L−DOPAのエクストラジオール開裂を触媒する活性を有する酵素である。この酵素により、原料又は中間体であるチロシンからチロシナーゼによって変換されたL−DOPAが、4,5−seco−DOPAに変換され、さらに、それに続く自発的反応を経て、ベタラミン酸へと変換される(図2)。
DODを発現する微生物は、例えば特許文献1,2等に記載の方法で作製することができる。
(原料及び添加物)
ベタレイン色素の原料としては、<3>で述べたL−DOPAの製造における原料の説明に準ずる。
また、ベタキサンチンを製造する場合は、ベタキサンチンはベタラミン酸にアミノ酸又はアミンが結合した化合物であるため、チロシン以外の該アミノ酸又は該アミンを上記原料に加えて添加してもよい。
チロシン以外のアミノ酸としては、天然型アミノ酸であっても、非天然型アミノ酸であってもよい。天然型アミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンが挙げられ、これらをチロシン以外のアミノ酸として添加すると、ベタキサンチンとして、それぞれ、アラニン−ベタキサンチン、アルギニン−ベタキサンチン、アスパラギン−ベタキサンチン、アスパラギン酸−ベタキサンチン、システイン−ベタキサンチン、グルタミン−ベタキサンチン、グルタミン酸−ベタキサンチン、グリシン−ベタキサンチン、ヒスチジン−ベタキサンチン、イソロイシン−ベタキサンチン、ロイシン−ベタキサンチン、リシン−ベタキサンチン、メチオニン−ベタキサンチン、フェニルアラニン−ベタキサンチン、プロリン−ベタキサンチン、セリン−ベタキサンチン、トレオニン−ベタキサンチン、トリプトファン−ベタキサンチン、チロシン−ベタキサンチン、バリン−ベタキサンチンが製造される。
非天然型アミノ酸としては、例えば、m−チロシン、メトキシフェニルアラニン、メチルシステイン、アリルアラニン、プロパルギルアラニン、アリルグリシン、プロパルギルグリシン、エチルアラニン、メチルアスパラギン酸、メチルシステイン、メチルロイシン、メチルフェニルアラニン、メチルトリプトファン、メチルチロシン、メチルバリン、α−メチル−2−ブロモフェニルアラニン、α−メチル−3−ブロモフェニルアラニン、α−メチル−4−ブロモフェニルアラニン、α−メチル−2−ヨードフェニルアラニン、α−メチル−3−ヨードフェニルアラニン、α−メチル−4−ヨードフェニルアラニン、α−メチル−2−ニトロフェニルアラニン、α−メチル−3−ニトロフェニルアラニン、α−メチル−4−ニトロフェニルアラニン、α−メチル−β−(4−ビスフェニル)アラニン等が挙げられる。これらをチロシン以外のアミノ酸として添加すると、ベタキサンチンとして、それぞれ、m−チロシン−ベタキサンチン、メトキシフェニルアラニン−ベタキサンチン、メチルシステイン−ベタキサンチン、アリルアラニン−ベタキサンチン、プロパルギルアラニン−ベタキサンチン、アリルグリシン−ベタキサンチン、プロパルギルグリシン−ベタキサンチン、エチルアラニン−ベタキサンチン、メチルアスパラギン酸−ベタキサンチン、メチルシステイン−ベタキサンチン、メチルロイシン−ベタキサンチン、メチルフェニルアラニン−ベタキサンチン、メチルトリプトファン−ベタキサンチン、メチルチロシン−ベタキサンチン、メチルバリン−ベタキサンチン、α−メチル−2−ブロモフェニルアラニン−ベタキサンチン、α−メチル−3−ブロモフェニルアラニン−ベタ
キサンチン、α−メチル−4−ブロモフェニルアラニン−ベタキサンチン、α−メチル−2−ヨードフェニルアラニン−ベタキサンチン、α−メチル−3−ヨードフェニルアラニン−ベタキサンチン、α−メチル−4−ヨードフェニルアラニン−ベタキサンチン、α−メチル−2−ニトロフェニルアラニン−ベタキサンチン、α−メチル−3−ニトロフェニルアラニン−ベタキサンチン、α−メチル−4−ニトロフェニルアラニン−ベタキサンチン、α−メチル−β−(4−ビスフェニル)アラニン−ベタキサンチンが製造される。
アミンとしては、天然型アミンであっても、非天然型アミンであってもよい。
天然型アミンとしては、例えばメチルアミン、エタノールアミン、ピペリジン、ヒスタミン、ドーパミン、フェネチルアミン、チラミン、3−メトキシチラミン、γ−アミノ酪酸、ノルアドレナリン、セロトニン、ムッシモール、スペルミジン、スペルミン等が挙げられる。これらをアミンとして添加すると、ベタキサンチンとして、それぞれ、メチルアミン−ベタキサンチン、エタノールアミン−ベタキサンチン、ピペリジン−ベタキサンチン、ヒスタミン−ベタキサンチン、ドーパミン−ベタキサンチン、フェネチルアミン−ベタキサンチン、チラミン−ベタキサンチン、3−メトキシチラミン−ベタキサンチン、γ−アミノ酪酸−ベタキサンチン、ノルアドレナリン−ベタキサンチン、セロトニン−ベタキサンチン、ムッシモール−ベタキサンチン、スペルミジン−ベタキサンチン、スペルミン−ベタキサンチンが製造される。
非天然型アミンとしては、例えばエチルアミン、ピペラジン、モルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンエキサミン、ヘキサメチレンジアミン、1,3−ブタジエン−1−アミン、1,3,5−ヘキサトリエン−1−アミン、アニリン、4−ビフェニルアミン、アマンタジン等が挙げられる。これらをアミンとして添加すると、ベタキサンチンとして、それぞれ、エチルアミン−ベタキサンチン、ピペラジン−ベタキサンチン、モルホリン−ベタキサンチン、エチレンジアミン−ベタキサンチン、ジエチレントリアミン−ベタキサンチン、トリエチレンテトラミン−ベタキサンチン、テトラエチレンペンタミン−ベタキサンチン、ペンタエチレンエキサミン−ベタキサンチン、ヘキサメチレンジアミン−ベタキサンチン、1,3−ブタジエン−1−アミン−ベタキサンチン、1,3,5−ヘキサトリエン−1−アミン−ベタキサンチン、アニリン−ベタキサンチン、4−ビフェニルアミン−ベタキサンチン、アマンタジン−ベタキサンチンが製造される。
また、上記原料に加えて、目的のベタレイン色素を生産するために必要な酵素を添加してもよい。例えば、図3の経路でベタニン(ベタシアニン類)を製造する場合は、例えばL−DOPAオキシダーゼ及びcyclo−DOPA 5−O−グルコシルトランスフェ
ラーゼを添加すればよい。また、図4の経路でベタニン(ベタシアニン類)を製造する場合は、L−DOPAオキシダーゼ及びベタニジン 5−O−グルコシルトランスフェラーゼを添加すればよい。
(培養工程)
培養工程は、本発明の変異型チロシナーゼ及びDODを含有する微生物を水性媒体中で培養する工程である。本工程は、前記微生物を増殖させたり、その状態を調えたりするために行なうものであるため、通常は、上述した原料のうち、前記微生物の生育に必要な原料のみを、具体的には、糖質原料(好ましくはグルコース)のみを培地に加える。
ただし、本発明の変異型チロシナーゼ及びDODなどのベタレイン色素生産に必要な酵素を何らかの誘導性プロモーター下に配置している場合は、上記プロモーターの種類により適切に選択される誘導剤を培養工程途中に添加する必要がある。
なお、本発明の微生物が充分な量、存在する場合等は、本工程は省略して、次の変換工程を行なうことができる。
本工程で用いる水性媒体(培地)については、<3>で述べたL−DOPAの製造における培地の説明に準ずる。
また、培養条件は、微生物の生育が可能であれば特に制限はなく、通常、培養温度10℃〜45℃で12時間〜96時間実施することができる。微生物が、酵母である場合、水性媒体の温度を、好ましくは16℃以上、より好ましくは20℃以上、また、好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下とする。
(変換工程)
変換工程は、本発明の変異型チロシナーゼ及びDODを含有する微生物またはその処理物の存在下、水性媒体中で原料をベタレイン色素へと変換する工程である。本工程は、原料をベタレイン色素へと変換することを目的とするものであり、原料としては、上述のチロシン及び/又は糖質原料を用いればよい。
また、上述の培養工程で培養された微生物の菌体を、休止菌体として、本工程に用いることも好ましい。微生物の菌体を休止菌体とする方法としては、培養工程で得られた培養液から遠心操作等による菌体を回収する方法や、水、または、微生物の生育に必要な炭素源、および窒素源を含有しないバッファー等により洗浄することにより、菌体を回収する方法等が挙げられる。
また、前記微生物は処理物の態様で本工程に供してもよく、処理物については<2>で述べた説明に準ずる。
本工程で用いる水性媒体(培地)に特に制限はなく、用いる微生物の種類に応じて適宜設定することができ、前記培養工程に記載したものと同様のものを用いることができる。
好ましくは、水性媒体は、アスコルビン酸、UDP−グルコース、銅および鉄からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、より好ましくは、アスコルビン酸、UDP−グルコース、銅、及び鉄を含む。
また、反応は、本発明の変異型チロシナーゼ及びDODを含有する微生物の生育が可能な条件、またはベタレイン色素生産に関与する酵素が完全に酵素活性を失わない条件であれば特に制限はなく、通常、反応温度10℃〜45℃で12時間〜96時間実施する。本発明の微生物が、酵母である場合、水性媒体の温度を、好ましくは16℃以上、より好ましくは20℃以上、また、好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下とするとベタレイン色素の生産効率が向上する傾向にあり、好ましい。
なお、本製造方法に用いる微生物が、本発明の変異型チロシナーゼ及びDODを含めベタレイン色素を合成する代謝経路をすべて有するものである場合は、上述の培養工程と特に区別することなく連続して本工程を実施してもよい。
本製造方法に用いる微生物は、本発明の変異型チロシナーゼ及びDODの他に、目的とするベタレイン色素の合成に関与する酵素をも含有することが好ましい。
そのような酵素としては、例えば、L−DOPAオキシダーゼ、フェノール性水酸基に糖を付加する酵素、cyclo−DOPA 5−O−グルコシルトランスフェラーゼ、ベ
タニジン 5−O−グルコシルトランスフェラーゼ、ベタニジン 6−O−グルコシルトランスフェラーゼ等が挙げられる。これらの酵素を発現する微生物は、例えば特許文献1,2等に記載の方法で作製することができる。
L−DOPAオキシダーゼは、L−DOPAを酸化しcyclo−DOPAへと変換する活性を有する酵素である。本製造方法に用いる微生物が、さらにL−DOPAオキシダーゼ活性を有すると、図3および図4の代謝経路におけるcyclo−DOPAの生成が促進されるため好ましい。
フェノール性水酸基に糖を付加する酵素とは、cyclo−DOPAやベタニジンが有するcyclo−DOPA骨格の5位や6位に存在するフェノール性水酸基に糖を付加することができる活性を有する酵素である。本製造方法に用いる微生物が、さらにフェノール性水酸基に糖を付加する酵素活性を有していると、図3および図4の代謝経路におけるcyclo−DOPA グルコシドやベタシアニンの生成が促進されるため好ましい。
本製造方法に用いる微生物が、さらにcyclo−DOPA 5−O−グルコシルトラ
ンスフェラーゼ活性を有する場合は、図3の代謝経路によるベタシアニン類の製造に好適である。
また、本製造方法に用いる微生物が、さらにベタニジン 5−O−グルコシルトランス
フェラーゼ活性を有する場合は、図4の代謝経路によりベタシアニン類の製造に好適である。
また、本製造方法に用いる微生物が、さらにベタニジン 6−O−グルコシルトランス
フェラーゼ活性を有する場合は、図4に準じる代謝経路によりcyclo−DOPAの6位に糖が付加されたベタシアニン類の製造に好適である。
(回収工程)
上述の変換工程の後に、必要に応じて、水性媒体からベタレイン色素を回収する工程を行うことが好ましい。
回収は周知の方法で行うことができ、例えば、有機溶媒を用いる抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィーなどにより、水性媒体(培地)または微生物内からベタレイン色素を回収することができる。さらに、必要に応じて、定法により精製してもよい。
本製造方法で製造され得るベタレイン色素について、以下に説明する。
ベタレイン色素は、ベタキサンチンとベタシアニン類に大別することができる。
ベタキサンチンは、ベタラミン酸に、アミノ酸またはアミンがイミン結合した化合物群の総称であり、その構造は、以下の式(2)または式(3)として表される。
Figure 2018057354
Figure 2018057354
式(2)、(3)においてR、R及びRは、水素原子、炭素数1〜40の直鎖または分岐鎖または環状の飽和もしくは不飽和炭化水素基からなる群から選択される1種である。ただし該炭化水素基の水素原子の一部または全部は、ハロゲン原子、アシル基、アミド基、アミノ基、アルコキシ基、アルデヒド基、イミダゾール基、インドール基、オキソ基、カルボキシル基、グアニジノ基、シアノ基、スルホ基、チオール基、ニトロ基、ヒドロキシル基およびフェニル基からなる群から選択される少なくとも一種で置換されていてもよく、該炭化水素基は、イミニウムの窒素を含有する形で環を形成していてもよい。さらに該イミダゾール基、該インドール基および該フェニル基の芳香環の一部または全部は、上記と同様の置換基群から選択される少なくとも一種にて置換されていてもよい。また、該炭化水素基の炭素原子の一部は、硫黄原子、酸素原子、窒素原子、リン原子から選択される少なくとも一種で置換されていてもよい。
例えば、Rが水素原子、Rが炭素数3の直鎖炭化水素基であり、イミニウムの窒素を含有する形で環を形成する化合物は、プロリン−ベタキサンチンである。また、Rが水素原子、Rが炭素数3の直鎖炭化水素基であり、該炭化水素基の末端の水素原子の一つがグアニジノ基で置換された化合物は、アルギニン−ベタキサンチンである。Rが水素原子、Rが炭素数1の炭化水素基であり、該炭化水素基の水素原子の一つがイミダゾール基で置換された化合物は、ヒスチジン−ベタキサンチンである。Rが水素原子、Rが炭素数4の直鎖炭化水素基であり、該炭化水素基の末端から2番目の炭素原子が硫黄原子に置換された化合物は、メチオニン−ベタキサンチンである。Rが水素原子、Rが炭素数1の炭化水素基であり、該炭化水素基の水素原子の一つがインドール基で置換された化合物は、トリプトファン−ベタキサンチンである。Rが水素原子、Rが炭素数1の炭化水素基であり、該炭化水素基の水素原子の一つがフェニル基で置換され、さらに該フェニル基のパラ位の水素原子がヒドロキシル基で置換された化合物は、チロシン−ベタキサンチンである。
また、本製造方法において原料として、任意の非天然型アミノ酸を用いれば、非天然型のアミノ酸が付加されたベタキサンチンをも製造することができ、例えば、以下の式(4)で表されるものが挙げられる。
Figure 2018057354
式(4)において、Rは、炭素数1〜40の直鎖または分岐鎖または環状の飽和もしくは不飽和炭化水素基からなる群から選択される1種である。ただし該炭化水素基の水素原子の一部または全部は、ハロゲン原子、アシル基、アミド基、アミノ基、アルコキシ基、アルデヒド基、イミダゾール基、インドール基、オキソ基、カルボキシル基、グアニジノ基、シアノ基、スルホ基、チオール基、ニトロ基、ヒドロキシル基およびフェニル基からなる群から選択される少なくとも一種で置換されていてもよく、該炭化水素基は、イミニウムの窒素を含有する形で環を形成していてもよい。さらに、該イミダゾール基、該インドール基および該フェニル基の芳香環の一部または全部は、上記と同様の置換基群から選択される少なくとも一種にて置換されていてもよい。さらに該炭化水素基の炭素原子の一部は、硫黄原子、酸素原子、窒素原子、リン原子から選択される少なくとも一種で置換されていてもよい。
式(4)において、Rが、直鎖または分岐鎖のアルキル基である場合、その炭素数が1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。この場合、Rが、エチル基、プロピル基、およびイソブチル基からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが特に好ましい。
式(4)において、Rが、直鎖または分岐鎖のアルケニル基である場合、その炭素数が1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。この場合、Rが、アリル基、1−ブテニル基、および2−ブテニル基からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが特に好ましい。
式(4)において、Rが、直鎖または分岐鎖のアルキニル基である場合、その炭素数が1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。この場合、Rが、エチニル基、1−ブチニル基、および2−ブチニル基からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが特に好ましい。
式(4)において、Rが、直鎖または分岐鎖のアリール基である場合、その炭素数が1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。この場合、Rが、ベンジル基、トリル基、およびフェネシル基からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが特に好ましい。
前記式(4)で表される化合物は、強力な抗酸化活性を有するという性質を生かし、抗酸化剤等に好適に用いることができる。
一方、ベタシアニンとは、ベタニジンのフェノール性水酸基に糖類がグリコシド結合した化合物群の総称であり、その構造は以下の式(5)で表される。
Figure 2018057354
式(5)において、RおよびRのうちどちらかは水素原子であり、もう一方は式(6)で表される糖鎖である。
Figure 2018057354
式(6)においてRは、水素原子、炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖の飽和もしくは不飽和炭化水素基からなる群から選択される1種である。ただし該炭化水素基の水素原子の一部または全部は、ハロゲン原子、アシル基、アミド基、アミノ基、アルコキシ基、アルデヒド基、イミダゾール基、インドール基、オキソ基、カルボキシル基、グアニジノ基、シアノ基、スルホ基、チオール基、ニトロ基、ヒドロキシル基およびフェニル基からなる群から選択される少なくとも一種で置換されていてもよい。また、該イミダゾール基、該インドール基および該フェニル基の芳香環の一部または全部は、上記と同様の置換基群から選択される少なくとも一種にて置換されていてもよい。さらに該炭化水素基の炭素原子の一部は、硫黄原子、酸素原子、窒素原子、リン原子から選択される少なくとも一種で置換されていてもよい。
式(6)においてRは、水素原子またはグリコシル基からなる群から選択される1種である。ただし、該グリコシル基の水素原子の一部または全部は、炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖の飽和もしくは不飽和炭化水素基からなる群から選択される1種で置換されていてもよい。ただし該炭化水素基の水素原子の一部または全部は、ハロゲン原子、アシル基、アミド基、アミノ基、アルコキシ基、アルデヒド基、イミダゾール基、インドール基、オキソ基、カルボキシル基、グアニジノ基、シアノ基、スルホ基、チオール基、ニトロ基、ヒドロキシル基およびフェニル基からなる群から選択される少なくとも一種で置換されていてもよい。また、該イミダゾール基、該インドール基および該フェニル基の芳香環の一部または全部は、上記と同様の置換基群から選択される少なくとも一種にて置換されていてもよい。さらに該炭化水素基の炭素原子の一部は、硫黄原子、酸素原子、窒素原子、リン原子から選択される少なくとも一種で置換されていてもよい。
例えば、Rが水素原子、RがR、Rが水素であるグルコース鎖である場合は、ベタニンである。Rが水素原子、RがR、Rが水素であるグルコース鎖である場
合は、ゴンフレニンIである。
さらに、本明細書においては、ベタシアニン類は上記のベタシアニンの類縁体も含む概念であり、例えば式(6)で、2位のカルボキシル基が脱離した式(7)で表される構造の化合物や、14、15位の炭素間が不飽和化された式(8)で表される構造の化合物などもベタシアニン類である。ここでR、Rの定義は上述と同様である。
Figure 2018057354
Figure 2018057354
さらに、本製造方法において付加させる糖の種類を変えることにより、非天然型のベタシアニン類をも製造することもできる。例えば、糖供与体として、UDP−ガラクトースを用いれば、ベタニジンにガラクトースが付加した式(9)に表される非天然型ベタシアニン類が製造できる。同様に、糖供与体として、UDP−N−アセチルグルコサミン、UDP−N−アセチルガラクトサミン、UDP−グルクロン酸、UDP−イズロン酸、UDP−キシロース、GDP−マンノース、GDP−フコース等を用いれば、UDPやGDPに結合した糖がベタニジンに付加した非天然型ベタシアニン類を製造することができる。これら化合物は強力な抗酸化活性を有することから、抗酸化剤等に好適に利用することができる。
Figure 2018057354
以下、具体的な実験例をあげて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の態様にのみ限定されない。
<実施例1>チロシナーゼ遺伝子の変異ライブラリーの構築
エラー易発性PCR(error−prone PCR;以降「epPCR」と記す)
は、Clontech社製Diversify(登録商標) PCR Random Mu
tagenesis Kitを用いて、Diversify(登録商標) PCR Ran
dom Mutagenesis Kit User Manualに掲載のプロトコルに基づいて実施した。
epPCR条件は、以下の通り実施した。
5μL 10×TITANIUMTM Taq Buffer
3μL 8mM MnSO
1μL 2mM dGTP
1μL 50×dNTP Mix
1μL Primer Mix
1μL BMTYR/pETDuet−1 (1ng/μL)
1μL TITANIUMTM Taq Polymerase
37μL H
上記BMTYR/pETDuet−1は、特開2015−192668号公報に記載のプラスミドDNAであり、上記Primer Mixは、2つのepPCR用プライマー(配列番号5及び6)の混合液であり、Primer Mix中のepPCR用Fwプライマー、およびepPCR用Rvプライマーの濃度はそれぞれ10μMである。
また、サイクルのパラメーターは以下の通りで実施した。
98℃で30秒、次いで、
98℃で10秒、52℃で30秒、68℃で1分を30サイクル。
epPCRの増幅産物の確認は、1%アガロース(アガロース−RE:ナカライテスク株式会社)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することにより行い、約0.9kbの断片を検出した。ゲルからの目的断片の回収はWizard(登録商標) SV Gel and PCR Clean−UP System (Promega製)を用いて行った。精製して得られたチロシナーゼ遺伝子(BMTYR)のepPCR産物を、制限酵素BglII及びXhoIにて消化した。次いで、消化したepPCR産物と、前記Clean−UP Systemで精製し、同一の酵素で消化したベクターpETDuet−1とをライゲーション反応で連結した
ライゲーションは、以下の条件で16℃で一晩行った。
1.8μL epPCR産物(BglII/XhoI処理済)
0.2μL pETDuet(BglII/XhoI処理済)
2μL Ligation high ver.2(TOYOBO製)
連結したDNA4μLに対し、ケミカルコンピテント(Chemicalcompetent)な大腸菌DH5α50μLを混合し、DH5αを形質転換した。このようにして得られた組換え大腸菌を100μg/mLアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布した。この培地上でコロニーを形成したクロ―ンを全てまとめて、100μg/mLアンピシリンを含むLB液体培地を用いて液体培養した後、得られた菌体からGenEluteTM
HP Plasmid Miniprep Kit(SIGMA−ALDRICH製)を用いてプラスミドDNAを抽出し、チロシナーゼ遺伝子の変異DNAライブラリーを得た。
<実施例2>ベタキサンチン生産性評価による改良・変異型チロシナーゼの選抜
(1)変異型チロシナーゼ及びDOD共発現大腸菌ライブラリーの作製
実施例1で得られたチロシナーゼ遺伝子の変異DNAライブラリーと、特開2015−192668号公報に記載のプラスミドDNA MjDOD/pRSFDuet−1とを混合したものを用いて、ケミカルコンピテント(Chemicalcompetent)な大腸菌(BL21 StarTM (DE3)株)を形質転換した。得られた組換え大腸菌を100μg/mL アンピシリンおよび50μg/mL カナマイシンを含むLB寒天培地に塗布し、コロニーを形成させた。
(2)一次スクリーニング
上記のコロニーを、コロニーピッカー(マイクロテック・ニチオン製 PM−2)を用
いて100μg/mL アンピシリンおよび50μg/mL カナマイシンを含むLB寒天培地上に植菌し、37℃で18時間インキュベートすることでレプリカを作製した。96ディープウェルプレート(Thermo Fisher Scientific製 AB−0932)に本培養培地を500μLずつ添加し、上記レプリカから爪楊枝で各ウェルに植菌し、マキシマイザー(TAITEC社製 M・BR−420FL)にて30℃、6時間、1400rpmで培養し、その後、20℃、18時間、1400rpmで培養した。
また、上記ウェルの1つには特開2015−192668号公報に記載の組換え大腸菌E.coli(BL21)/BMTYR/MjDODをコントロール条件として植菌した。
なお、上記本培養培地は、5×M9 Minimal Salts 200mL、1M
CaCl 100μL、1M MgSO 2mL、40g/L NHCl 75mL、100g/L Casamino acid 100mL、10g/L チアミン塩酸塩 2mL、50mM FeSO 1mL、40mg/mL CuSO 1mL、50mg/mL Kanamycin 1mL、100mg/mL Carbenicillin 1mL、Overnight ExpressTMAutoinduction Systems1 OnEx Solution1 20mL、OnEx Solution2 50mL、およびOnEx Solution3 1mLを、全量1Lになるように滅菌水に溶解したものを用いた。
上記培養の終了後、基質とアスコルビン酸との混合液(チロシン 164.7mg、1M アスコルビン酸 9.1mLを、全量100mLになるように滅菌水に溶解したもの)を各ウェルに50μLずつ添加し、20℃、24時間、1400rpmで反応させた。
上記反応後、反応液が入った96ディープウェルプレートを室温、1090×gで遠心
分離を実施し、96ウェルプレート(TPP社製 TISSUE CULTURE TEST PLATE 96F)に上清を回収し、プレートリーダー(モレキュラーデバイス社製 SpectraMax(登録商標) Paradigm(登録商標))を用いて、
波長470nmのUV吸収を測定した。測定で得られた各ウェルの吸光度のうち、コントロール条件のE.coli/BMTYR/MjDODのそれより高くなった株に関しては、以下に続く二次スクリーニング評価を実施した。
(3)二次スクリーニング
(前培養工程)
上記一次スクリーニングで選抜した株に関して、同スクリーニングで作製したレプリカを1白金耳、前培養培地 2mLに植菌し、バイオシェーカー(TAITEC社製 G・
BR−200)で培養温度30℃、180rpmで18時間培養した。
なお、上記前培養培地は、5×M9 Minimal Salts 200mL、1M
CaCl 100μL、1M MgSO 2mL、100g/L Casamino acid 100mL、1M Glucose 22mL、10g/L チアミン塩酸塩 2mL、50mM FeSO 1mL、40mg/mL CuSO 1mL、50mg/mL Kanamycin 1mL、及び100mg/mL Carbenicillin 1mLを、全量1Lになるように滅菌水に溶解したものを用いた。
(本培養工程)
上記で得られた前培養液を、前記本培養培地20mLに初期OD600nmの値が0.35になるように植菌し、バイオシェーカー(TAITEC社製 G・BR−200)で培養温度20℃、180rpmで24時間培養することで、タンパク質の発現を誘導した。
(変換工程)
上記で得られた本培養液に、前記基質、アスコルビン酸混合液を2mL添加することで、ベタキサンチンの生産反応を開始し、バイオシェーカー(TAITEC社製 G・BR−200)で反応温度20℃、180rpmで24時間培養して、ベタキサンチンを生産させた。
(吸光度測定)
上記で得られた反応液を1mL回収し、さらに遠心分離(12000rpm、1分間)して得られた上清を96ウェルプレート(TPP社製 TISSUE CULTURE TEST PLATE 96F)に回収し、プレートリーダーを用いて、波長470nmのUV吸収を測定した。測定で得られた各ウェルの吸光値のうち、コントロール条件のE.coli/BMTYR/MjDODの吸光値を1とした場合より吸光値が高かった試験区を表1に示した。
Figure 2018057354
(DNA配列解析)
上記で得られた試験区で用いられた組換え大腸菌1〜21に関して、各大腸菌が保有する変異型チロシナーゼのDNA配列を確認するために、各大腸菌を100μg/mL アンピシリンおよび50μg/mL カナマイシンを含むLB液体培地で培養し、GenEluteTM HP Plasmid Miniprep Kit(SIGMA−ALDRICH製)を用いてプラスミド抽出を行い、3130xl Genetic Analyzer(Applied Biosystems製)を用いたシーケンス反応により変異型チロシナーゼのDNA配列を確認した。その結果、組換え大腸菌1〜21が保有する変異型チロシナーゼは、表2に示すアミノ酸変異が導入されていることがわかった。
Figure 2018057354
<実施例3>変異型チロシナーゼを発現させた大腸菌によるL−DOPA生産
(1)変異型チロシナーゼを発現するL−DOPA生産株の作製
実施例2で得られた変異型チロシナーゼをコードするDNAを含むpETDuet−1プラスミドをケミカルコンピテント(Chemicalcompetent)な大腸菌BL21 starTM(DE3)でそれぞれ形質転換し、得られた組換え大腸菌を100μg/mL アンピシリンを含むLB寒天培地でコロニーを形成させることにより、該変異型チロシナーゼをコードするDNAを含むpETDuet−1プラスミドを保持した組換え大腸菌(後述の13種類)を作製した。
(2)L−DOPA生産試験
(前培養工程)
上記の組換え大腸菌をそれぞれ前培養培地2mLに植菌し、バイオシェーカー(TAITEC社製 G・BR−200)で培養温度32℃、180rpmで18時間培養した。
なお、上記全培養培地は、5×M9 Minimal Salts 200mL、1M
CaCl 100μL、1M MgSO 2mL、100g/L Casamino acid 100mL、1M Glucose 22mL、10g/L チアミン塩酸塩 2mL、50mM FeSO 1mL、40mg/mL CuSO 1mL、および100mg/mL Carbenicillin 1mLを、全量1Lになるように滅菌水に溶解したものを用いた。
(本培養工程)
上記前培養液を本培養培地 20mLに初期OD600nmの値が0.35になるよう
に植菌し、バイオシェーカー(TAITEC社製 G・BR−200)で培養温度32℃、180rpmで24時間培養することで、タンパク質の発現を誘導した。ただし、組換え大腸菌12については、培養温度を20℃とした。
なお、上記本培養培地は、5×M9 Minimal Salts 200mL、1M
CaCl 100μL、1M MgSO 2mL、40g/L NHCl 75mL、100g/L Casamino acid 100mL、10g/L チアミン塩酸塩 2mL、40mg/mL CuSO 1mL、100mg/mL Carbe
nicillin 1mL、Overnight ExpressTM Autoinduction Systems1 OnEx Solution1 20mL、OnEx
Solution2 50mL、およびOnEx Solution3 1mLを、全量1Lになるように滅菌水に溶解したものを用いた。
(変換工程)
上記本培養の終了後、基質とアスコルビン酸との混合液(チロシン 164.7mg、全量100mLになるように滅菌水に溶解したもの)を2mL添加することで、L−DOPAの生産反応を開始し、バイオシェーカー(TAITEC社製 G・BR−200)で反応温度32℃、180rpmで4時間反応させてL−DOPAを生産させた。ただし、組換え大腸菌12については、反応温度を20℃、反応時間を96時間とした。
(L−DOPAの定量分析)
上記で得られた反応液を1mL回収し、さらに遠心分離(12000rpm、1分間)して得られた上清を用いて、Nexera UHPLCシステム Nexera X2(島津製作所製)にて定量分析を行った。カラムは、Kinetex 2.6u HILIC
100A(Phenomenex製)を使用した。溶出は、10mM クエン酸Buff
er(SolventA)とアセトニトリル(SolventB)を用い、SolventBの混合比を80%にすることにより行った(流速0.8mL/min、温度40℃)。
その結果、変異型チロシナーゼを保有する組換え大腸菌によるL−DOPA生産量は、同条件で測定した野生型のBMTYRのL−DOPAの蓄積量を1としたとき、表3及び表4のとおりとなった。なお、表3及び表4中の番号は、表2中の変異体の番号に対応する。
Figure 2018057354
Figure 2018057354
本発明により、触媒能が向上した変異型チロシナーゼが提供される。該酵素は、チロシンからL−DOPAへの変換反応を効率的に触媒することができるため、該酵素を含有する微生物等を用いることにより、グルコースやチロシン等の安価な原料からL−DOPAを高い生産性で安定的に製造することができる。L−DOPAはベタレイン色素等のアルカロイド化合物やカフェ酸及びその誘導体等、種々の有用な化合物の製造原料となり得るため、本発明は産業上の利用可能性が高い。

Claims (17)

  1. 配列番号2のアミノ酸配列、又は配列番号2のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、下記(i)及び/又は(ii)の変異を有する、チロシナーゼ活性を有するタンパク質。
    (i)配列番号2のアミノ酸配列におけるS2、N3、Y5、I28、K30、G46、F48、S54、N57、W68、E71、S104、D127、N144、D166、D170、K173、W182、E187、N188、S189、Q193、E195、T220、H230、N233、W241、I243、Q251、N261、D264、Y267、P273、G283、及びI288からなる群より選ばれる1又は複数のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基が、K、H、R、E、D、Q、N、C、V、L、I、P、M、F、W、Y、G、A、S、及びTからなる群から選択されるアミノ酸残基に置換された変異。
    (ii)配列番号2のアミノ酸配列におけるV218に相当するアミノ酸残基がK、H、R、E、D、Q、N、C、L、I、P、M、W、Y、A、S、及びTからなる群から選択されるアミノ酸残基
    に置換された変異。
  2. 前記変異が、配列番号2のアミノ酸配列における下記のいずれかの変異に相当する変異である、請求項1に記載のタンパク質:
    S2C、S2R、N3D、Y5N、I28S、K30E、G46D、F48L、S54N、N57T、W68R、E71G、S104T、D127E、N144H、D166E、D170E、K173E、W182R、E187R、N188K、S189T、Q193R、E195D、V218D
    、T220S、H230Q、N233K、W241R、W241G、I243N、Q251P、N261D、D264E、Y267F、P273L、G283S、I288T。
  3. 前記変異が、配列番号2のアミノ酸配列における下記のいずれかの変異に相当する変異である、請求項1又は2に記載のタンパク質:
    S2C、(S2C+Y5N)、(S2C+F48L)、(S2C+N188K)、(S2C+Q251P)、(S2C+D264E)、
    (S2C+P273L)、(S2C+S104T+N261D)、(S2C+K173E+W182R)、(S2C+E71G+E195D+W241G
    )、(S2C+Q193R+V218D+I288T)、(S2C+N3D+G46D+D127E+W241R)、(S2C+I28S+S54N+D170E+W182R)、(S2C+W68R+D166E+S189T+N233K)、(S2R+W241R+I243N)、V218D、D264E、
    (K30E+E187R)、(N57T+Y267F)、(N57T+T220S+Y267F+G283S)、(N144H+H230Q)。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のタンパク質をコードする、DNA。
  5. 請求項4に記載のDNAを含む、組換え発現ベクター。
  6. 請求項5に記載の組換え発現ベクターで形質転換された、微生物。
  7. 大腸菌または酵母である、請求項6に記載の微生物。
  8. 請求項6又は7に記載の微生物を培地中で培養する工程を含む、前記タンパク質の製造方法。
  9. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のタンパク質、又は前記タンパク質を含有する微生物若しくはその処理物の存在下で、水性媒体中で、チロシンをL−DOPAに変換する工程を含む、L−DOPAの製造方法。
  10. 請求項9に記載のL−DOPAの製造方法を含む、目的物質の製造方法であって、
    前記目的物質は、アルカロイド、並びにカフェ酸及びその誘導体からなる群から選ばれるいずれかである、製造方法。
  11. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のタンパク質及びDOPA4,5−ジオキシゲナー
    ゼを含有する微生物又はその処理物の存在下で、水性媒体中で、原料をベタレイン色素に変換する工程を含む、ベタレイン色素の製造方法。
  12. 前記変換工程の前に、前記微生物を水性媒体中で培養する工程を含む、請求項11に記載の製造方法。
  13. 前記変換工程において、前記微生物として休止菌体を用いる、請求項11又は12に記載の製造方法。
  14. 前記原料が、チロシン、及び/又は糖質原料である、請求項11〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
  15. さらに、チロシン以外のアミノ酸又はアミンの存在下で行われる、請求項11〜14のいずれか一項に記載の製造方法。
  16. 前記変換工程において、前記水性媒体が、アスコルビン酸、UDP−グルコース、銅、及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項11〜15のいずれか一項に記載の製造方法。
  17. 前記ベタレイン色素がベタキサンチンである、請求項11〜16のいずれか一項に記載の製造方法。
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