以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態における燃料電池システム100の構成の一例を示す図である。
図に示す燃料電池システム100は、燃料電池としての燃料電池スタック1に対して発電に必要となる燃料としての燃料ガス(水素)及び酸化剤としての空気(酸素)を供給し、電気負荷に応じて燃料電池を発電させる電源システムを構成する。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、カソード給排装置2と、アノード給排装置3と、スタック冷却装置4と、負荷装置5と、インピーダンス計測装置6と、コントローラ200とを含む。
燃料電池スタック1は、複数の燃料電池が積層された積層電池である。燃料電池スタック1は、負荷装置5に接続されて負荷装置5に電力を供給する。燃料電池スタック1は、例えば数百V(ボルト)の直流の電圧を生じる。また、燃料電池スタック1を構成する燃料電池は、主として、電解質膜と、アノード電極と、カソード電極とから構成されている。ここで、電解質膜は、適度な湿潤度(含水量)で良好な電気伝導性を示す。以下では、この電解質膜の湿潤状態を、「燃料電池スタック1の湿潤状態」、「燃料電池の湿潤状態」、又は単に「湿潤状態」とも記載する。
カソード給排装置2は、燃料電池スタック1に空気を供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスを大気に排出する装置である。
カソード給排装置2は、空気供給通路21と、コンプレッサ22と、エアフローメータ23と、インタークーラー24と、空気圧力センサ25と、カソードオフガス排出通路26と、空気調圧弁27、バイパス通路28と、バイパス弁29と、を含む。
空気供給通路21は、燃料電池スタック1に空気を供給するための通路である。空気供給通路21の一端は開口しており、他端は、燃料電池スタック1の空気極の入口に接続される。
コンプレッサ22は、燃料電池システム100内に空気を吸入する。コンプレッサ22は、空気供給通路21の一端の開口端に設けられる。
コンプレッサ22は、コンプレッサモータ22aにより駆動され、空気供給通路21の開口端からシステム100内に空気を吸入し、空気供給通路21を介して燃料電池スタック1に供給する。コンプレッサモータ22aの回転速度、すなわちコンプレッサ22の出力はコントローラ200によって制御される。
具体的に、コンプレッサモータ22aには、その回転速度を検出する回転数センサ22bが設けられている。回転数センサ22bは、コンプレッサモータ22aの回転速度の検出値をコントローラ200に出力する。そして、コントローラ200は、回転速度の検出値に基づき、コンプレッサモータ22aの回転速度、すなわちコンプレッサ22の出力を調節する。なお、コンプレッサ22は、例えばターボ式コンプレッサや容積式コンプレッサにより構成することができる。
エアフローメータ23は、コンプレッサ22の入り口に設けられる。エアフローメータ23は、コンプレッサ22により吸入される空気の流量を検出する。以下では、この吸入される空気の流量を「吸入空気流量」とも記載する。また、エアフローメータ23は、吸入空気流量の検出値(以下では「吸入空気流量検出値Qin_det」とも記載する)をコントローラ200に出力する。
インタークーラー24は、コンプレッサ22から空気供給通路21に吐出されて燃料電池スタック1に送られる空気を冷却する。
空気圧力センサ25は、空気供給通路21において、インタークーラー24の下流で且つバイパス通路28の上流に設けられる。空気圧力センサ25は、空気供給通路21における空気の圧力を検出する。空気圧力センサ25は、空気圧力の検出値をコントローラ200に出力する。
カソードオフガス排出通路26は、燃料電池スタック1の空気極から排出されるカソードオフガスを外部へ放出するための通路である。カソードオフガス排出通路26の一端は、燃料電池スタック1の空気極出口に接続され、他端は開口している。
空気調圧弁27は、燃料電池スタック1に供給される空気の圧力を調節する。空気調圧弁27は、カソードオフガス排出通路26において、カソードオフガス排出通路26とバイパス通路28との合流部の下流に設けられる。
空気調圧弁27は、コントローラ200によって開閉制御される。この開閉制御によって燃料電池スタック1に供給される空気の圧力が所望の圧力に調節される。なお、空気調圧弁27は、カソードオフガス排出通路26において、バイパス通路28の上流に設けても良い。
バイパス通路28は、燃料電池スタック1に対して、コンプレッサ22からシステム100内に吸入される空気の一部をバイパスさせる通路である。本実施形態では、バイパス通路28は、空気供給通路21における空気圧力センサ25の下流部分と、カソードオフガス排出通路26における空気調圧弁27の上流部分に亘って接続されている。
バイパス弁29は、バイパス通路28に設けられている。バイパス弁29は、燃料電池スタック1をバイパスしてカソードオフガス排出通路26に流す空気流量(以下では、「バイパス流量」とも記載する)を調節する弁であり、コントローラ200によってその開度(以下では、「バイパス弁開度」とも記載する)が調節可能に構成されている。すなわち、バイパス弁開度を調節することで、燃料電池スタック1に供給される空気の流量(以下では、「スタック供給空気流量」とも記載する)を調節することができる。
また、バイパス弁29には、バイパス弁開度を検出する開度センサ29aが設けられている。そして、開度センサ29aは、バイパス弁開度の検出値(以下では、「バイパス弁開度検出値Oby_det」とも記載する)をコントローラ200に出力する。
アノード給排装置3は、燃料電池スタック1に燃料ガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出される燃料ガスを燃料電池スタック1に導入して循環させる装置である。
アノード給排装置3は、高圧タンク31と、燃料ガス供給通路32と、燃料ガス調圧弁33と、エゼクタ34と、燃料ガス循環通路35と、燃料ガス循環ブロワ36と、循環燃料ガス圧力センサ37と、パージ通路38と、パージ弁39と、を含む。
高圧タンク31は、燃料電池スタック1に供給される燃料ガスを高圧状態に保って貯蔵する。
燃料ガス供給通路32は、高圧タンク31に貯蔵された燃料ガスを燃料電池スタック1に供給するための通路である。燃料ガス供給通路32の一端は、高圧タンク31に接続され、他端は、エゼクタ34を介して燃料ガス循環通路35に接続される。
燃料ガス調圧弁33は、燃料ガス供給通路32の圧力を調整する。燃料ガス調圧弁33は、高圧タンク31とエゼクタ34との間の燃料ガス供給通路32に設けられる。そして、コントローラ200が燃料ガス調圧弁33の開度を調節することにより、燃料電池スタック1に供給される燃料ガスの圧力は上昇又は降下する。
エゼクタ34は、燃料ガス調圧弁33と燃料電池スタック1との間の燃料ガス供給通路32に設けられる。エゼクタ34は、燃料ガスを図示しないノズルで増速して供給した際の負圧を利用して、当該燃料ガスを燃料ガス供給通路32内で循環させる装置である。
燃料ガス循環通路35は、燃料ガス供給通路32にエゼクタ34の吸引口を介して接続され、図示しない燃料電池スタック1内の燃料ガス通路に連通して燃料ガスを循環させる通路である。
燃料ガス循環ブロワ36は、燃料ガス循環通路35内でエゼクタ34の上流に設けられる。燃料ガス循環ブロワ36は、エゼクタ34を介して燃料ガスを燃料ガス循環通路35内で循環させる。燃料ガス循環ブロワ36の回転速度はコントローラ200によって制御される。
循環燃料ガス圧力センサ37は、エゼクタ34と燃料電池スタック1との間の燃料ガス供給通路32に設けられる。循環燃料ガス圧力センサ37は、燃料電池スタック1に供給される燃料ガスの圧力を検出する。循環燃料ガス圧力センサ37は、燃料ガス圧力の検出値をコントローラ200に出力する。
パージ通路38は、燃料ガス循環通路35から分岐して設けられており、空気調圧弁27よりも下流側のカソードオフガス排出通路26に合流する。パージ通路38は、燃料ガス循環通路35から排出される燃料オフガスに含まれる窒素ガスや発電による生成水等の不純物を外部に排出する通路である。これにより、パージ通路38を介して排出される燃料オフガスは、カソードオフガス排出通路26でカソードオフガスと混合されるので、混合ガス中の水素濃度が規定値以下に維持される。
パージ弁39は、パージ通路38に設けられる。パージ弁39は、その開度に応じてパージ通路38を介した不純物の排出量を調節する。パージ弁39の開度は、コントローラ200によって制御される。
なお、燃料ガス循環通路35とパージ通路38の合流部に気液分離装置を設けて、不純物を液体成分と気体成分に分離し、液体成分を図示しない排出系統からシステム外部に排出するとともに、気体成分のみをパージ通路38に流すようにしても良い。
スタック冷却装置4は、燃料電池スタック1の温度を制御する装置である。スタック冷却装置4は、冷却水循環通路41と、冷却水ポンプ42と、ラジエータ43と、冷却水バイパス通路44と、三方弁45と、入口水温センサ46と、出口水温センサ47とを含む。
冷却水循環通路41は、燃料電池スタック1に冷却水を循環させる通路である。冷却水循環通路41の一端は、燃料電池スタック1の冷却水入口孔に接続され、他端は、燃料電池スタック1の冷却水出口孔に接続される。
冷却水ポンプ42は、冷却水循環通路41に設けられる。冷却水ポンプ42は、ラジエータ43を介して燃料電池スタック1に冷却水を供給する。なお、冷却水ポンプ42の回転速度は、コントローラ200によって制御される。
ラジエータ43は、冷却水ポンプ42よりも下流の冷却水循環通路41に設けられる。ラジエータ43は、燃料電池スタック1の内部で温められた冷却水をファンによって冷却する。
冷却水バイパス通路44は、ラジエータ43をバイパスする通路であって、燃料電池スタック1から排出される冷却水を燃料電池スタック1に戻して循環させる通路である。冷却水バイパス通路44の一端は、冷却水循環通路41において冷却水ポンプ42とラジエータ43との間で接続され、他端は、三方弁45の一端に接続される。
三方弁45は、燃料電池スタック1に供給される冷却水の温度を調整する。三方弁45は、例えばサーモスタットにより実現される。三方弁45は、ラジエータ43と燃料電池スタック1の冷却水入口孔との間の冷却水循環通路41において冷却水バイパス通路44が合流する部分に設けられる。
入口水温センサ46及び出口水温センサ47は、冷却水の温度を検出する。冷却水の温度は、燃料電池スタック1の温度、又は空気の温度として用いられる。
入口水温センサ46は、燃料電池スタック1に形成された冷却水入口孔の近傍に位置する冷却水循環通路41に設けられる。入口水温センサ46は、燃料電池スタック1の冷却水入口孔に流入する冷却水の温度を検出する。入口水温センサ46は、このスタック入口水温の検出値をコントローラ200に出力する。
出口水温センサ47は、燃料電池スタック1に形成された冷却水出口孔の近傍に位置する冷却水循環通路41に設けられる。出口水温センサ47は、燃料電池スタック1から排出された冷却水の温度を検出する。出口水温センサ47は、このスタック出口水温の検出値をコントローラ200に出力する。
なお、燃料電池スタック1の温度としては、例えばスタック入口水温の検出値とスタック出口水温の検出値の平均値が用いられる。
負荷装置5は、燃料電池スタック1から供給される発電電力を受けて駆動する。負荷装置5としては、例えば、車両を駆動する電動モータや、電動モータを制御する制御ユニット、燃料電池スタック1の発電を補助する補機などが挙げられる。燃料電池スタック1の補機としては、例えば、コンプレッサ22、燃料ガス循環ブロワ36、及び冷却水ポンプ42などが挙げられる。
なお、負荷装置5を制御する制御ユニットは、負荷装置5の作動に必要な電力を、燃料電池スタック1に対する要求電力としてコントローラ200に出力する。例えば、車両に設けられたアクセルペダルの踏込み量が大きくなるほど、負荷装置5の要求電力は大きくなる。
また、本実施形態では、コントローラ200は、予め定められている燃料電池スタック1のIV特性に基づいて、上記要求電力からスタック出力電流の目標値である目標スタック電流Ist_tを演算する。
負荷装置5と燃料電池スタック1との間には、スタック電流センサ51とスタック電圧センサ52とが配置される。
スタック電流センサ51は、燃料電池スタック1の正極端子1pと負荷装置5の正極端子との間の電源線に接続される。スタック電流センサ51は、燃料電池スタック1から負荷装置5に出力される電流を検出する。以下では、燃料電池スタック1から負荷装置5に出力される電流のことを「スタック出力電流」とも記載する。また、スタック出力電流の検出値をスタック出力電流検出値Ist_dと記載する。スタック電流センサ51は、スタック出力電流検出値Ist_dをコントローラ200に出力する。
スタック電圧センサ52は、燃料電池スタック1の正極端子1pと負極端子1nとの間に接続される。スタック電圧センサ52は、正極端子1pと負極端子1nとの間の電圧である端子間電圧を検出する。以下では、燃料電池スタック1の端子間電圧のことを「スタック出力電圧」とも記載する。また、スタック出力電圧の検出値をスタック出力電圧検出値Vst_dと記載する。スタック電圧センサ52は、スタック出力電圧検出値Vst_dをコントローラ200に出力する。
インピーダンス計測装置6は、燃料電池スタック1に接続される。インピーダンス計測装置6は、所定の計測周波数に基づいて電解質膜の湿潤状態と相関のある燃料電池スタック1の内部インピーダンスZを計測する。
一般に、電解質膜の含水量(水分)が少なくなるほど、すなわち電解質膜が乾き気味になるほど、内部インピーダンスZは大きくなる。一方、電解質膜の含水量が多くなるほど、すなわち電解質膜が濡れ気味になるほど、内部インピーダンスZは小さくなる。このため、本実施形態では、電解質膜の湿潤状態を示すパラメータとして、燃料電池スタック1の内部インピーダンスZが用いられる。
インピーダンス計測装置6は、例えば、所定の計測周波数の交流信号(電流又は電圧)を燃料電池スタック1に入力し、出力される交流信号を検出して、これら入出力された交流信号に基づいて内部インピーダンスZを演算する。特に、インピーダンス計測装置6は、電解質膜の電気抵抗である電解質膜抵抗を検出するのに適した高周波数領域に属する高周波数を計測周波数として内部インピーダンスZを演算する。
以下では、上述した高周波数の内部インピーダンスZをHFR(High Frequency Resistance)とも記載する。すなわち、本実施形態では、HFRが燃料電池スタック1の湿潤状態に相当する。HFRが高いほど電解質膜の湿潤度(濡れ具合)は低く、逆にHFRが低いほど電解質膜の湿潤度は高い。そして、インピーダンス計測装置6は、演算したHFR値をHFR計測値(以下では、単に「HFR_det」とも記載する)としてコントローラ200に出力する。
コントローラ200は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピューターで構成される。
コントローラ200は、負荷装置5、インピーダンス計測装置6、エアフローメータ23、及び開度センサ29a等の各センサ類からの入力信号を取得する。
そして、コントローラ200は、上記各入力信号に基づいて、バイパス弁29等の各アクチュエータを操作して、バイパス弁開度等の燃料電池システム100の運転状態を制御する。
ここで、本発明者らが、本実施形態における燃料電池システム100に至った背景について説明する。
既に述べたように、コンプレッサから供給される空気の一部を、燃料電池をバイパスするようにバイパス通路に流す燃料電池システムにおいて、燃料電池の水分状態が乾燥状態であり、且つコンプレッサモータの回転数が目標回転数より大きい場合に、バイパス弁を開弁することは知られている。
このような燃料電池システムでは、コンプレッサが燃料電池の負荷に応じた目標通りに作動したとしても、燃料オフガスの希釈やターボサージ回避等の観点から、燃料電池に供給される空気の供給流量が負荷の要求とは異なって制御されることがある。この結果、燃料電池に供給される空気流量が適切に維持されず、燃料電池の湿潤状態が好適に保たれない恐れがある。
これに対し、本発明者らは、鋭意研鑽の結果、燃料電池の湿潤状態の指標となるパラメータ、例えば燃料電池の高周波数インピーダンス(HFR:High Frequency Resistance)に基づいてバイパス弁を制御することで、燃料電池の湿潤状態に応じてより適切に燃料電池への空気流量を調節するという方法を見出した。
この方法によれば、燃料電池の湿潤状態に応じて直接的にバイパス弁開度を調節することができるので、燃料電池に実際に供給される酸化剤流量を検出することなく、燃料電池に供給される酸化剤流量を適正値に維持して、湿潤状態を好適に制御することができる。
しかしながら、本発明者らが見出した燃料電池の湿潤状態に基づいたバイパス弁開度制御であっても、過渡負荷上げ運転時などの燃料電池への負荷が変動する運転状態においては、燃料電池に供給される実際の空気流量が発電で要求される空気流量を下回り、燃料電池の空気不足に至る可能性が考えられる。
したがって、本発明者らは、燃料電池の湿潤状態に基づいたバイパス弁開度制御の下でも、燃料電池の空気不足を抑制し得る本実施形態の燃料電池システム100を開発した。以下では、この燃料電池システム100における制御を詳細に説明する。
本実施形態における燃料電池システム100では、コントローラ200は、バイパス弁29の開閉を制御するバイパス弁制御部として機能し、燃料電池スタック1の湿潤状態に相関するHFR値に基づいてバイパス弁29の開度を制御する(湿潤バイパス弁制御)。
そして、コントローラ200は、この湿潤バイパス弁制御の下、燃料電池スタック1の発電に要求される空気に対して、燃料電池スタック1に供給される空気が不足しているか又は不足する可能性があるかを判定する(酸化剤不足状態判定)。さらに、コントローラ200は、酸化剤不足状態であると判定すると、バイパス弁29を閉める方向に制御する(強制バイパス弁閉塞制御)。
また、コントローラ200は、上記強制バイパス弁閉塞制御の後に、上記湿潤バイパス弁制御を復帰させる処理を行う(湿潤バイパス弁制御復帰処理)。
以下では、上述したバイパス弁制御の内容をより具体的に説明する。
図2は、本実施形態におけるバイパス弁制御全体の流れを示すフローチャートである。なお、このバイパス弁制御は、数〜数十ミリ秒の所定の演算周期間隔で繰り返し実行される。
ステップS100において、コントローラ200は、燃料電池スタック1の発電に要求される空気に対して、燃料電池スタック1に実際に供給される空気が不足している状態(空気不足状態)であるか否かを判定する空気不足状態判定処理を行う。
図3は、空気不足状態判定処理の詳細を示すフローチャートである。
ステップS101において、コントローラ200は、燃料電池スタック1の電解質膜の湿潤状態を適切に維持するために、燃料電池スタック1へ供給することが要求される空気流量(以下では、「湿潤要求空気流量Qst_hum」とも記載する)を演算する。
図4は、湿潤要求空気流量Qst_humの演算機能を説明するブロック図である。
図示のように、コントローラ200は、湿潤要求空気流量Qst_humの演算機能として、目標HFR演算部B100と、演算部B110と、湿潤要求空気流量演算部B120と、を有している。
目標HFR演算部B100は、予め定められたテーブルに基づいて、目標スタック電流Ist_tから目標HFR(以下では、単に「HFR_t」とも記載する)を演算する。
なお、本実施形態では、HFR_tは、目標スタック電流Ist_t、すなわち要求負荷の大きさに応じて、燃料電池スタック1内の電解質膜の湿潤状態を適切に維持する観点から定められる。
目標HFR演算部B100は、演算したHFR_tを演算部B110に出力する。
演算部B110は、目標HFRとしてのHFR_tからHFR計測値としてのHFR_detを減算し、HFR偏差e_HFRを演算する。演算部B110は、演算した偏差e_HFRを湿潤要求空気流量演算部B120に出力する。
湿潤要求空気流量演算部B120は、HFR偏差e_HFRに基づいて湿潤要求空気流量Qst_humを演算する。
図5は、湿潤要求空気流量演算部B120の演算機能を説明するブロック図である。
図示のように、コントローラ200は、湿潤要求空気流量演算部B120の機能として、比例ゲイン乗算部B121と、積分部B122と、積分ゲイン乗算部B123と、加算部B124を有している。
比例ゲイン乗算部B121は上述のHFR偏差e_HFRに比例ゲインKpを乗算して得られる比例項Kp・e_HFRを加算部B124に出力する。
積分部B122は、第1回目の湿潤要求空気流量Qst_humの演算周期から前回の演算周期までにおけるHFR偏差e_HFRの総和∫e_HFRを演算し、積分ゲイン乗算部B123に出力する。なお、第1回目の演算周期では、前回値として予め定められた初期値を用いる。
積分ゲイン乗算部B123は、HFR偏差e_HFRの総和∫e_HFRに積分ゲインKiを乗算して得られる積分項Ki・∫e_HFRを加算部B124に出力する。
加算部B124は、比例項Kp・e_HFRと積分項Ki・∫e_HFRを加算して、湿潤要求空気流量Qst_humを演算する。
したがって、湿潤要求空気流量Qst_humは、HFR_detがHFR_tに近づくように演算されることとなる。
図3に戻り、ステップS102において、コントローラ200は、燃料電池スタック1の発電に要求される空気流量(以下では、「発電要求空気流量Qst_gen」とも記載する)を演算する。
図6は、発電要求空気流量Qst_genの演算機能を示すブロック図である。図示のように、コントローラ200は、発電要求空気流量Qst_genの演算機能として、発電要求空気流量演算部B200を有している。
発電要求空気流量演算部B200は、スタック出力電流と発電要求空気流量との関係を示す予め定められたテーブルを記憶している。このテーブルから理解されるように、スタック出力電流(負荷)が増加するほど発電要求空気流量が増加する。発電要求空気流量演算部B200はこのテーブルに基づいて、スタック出力電流検出値Ist_dから発電要求空気流量Qst_genを演算する。
図3に戻り、ステップS103において、コントローラ200は、発電要求空気流量Qst_genが湿潤要求空気流量Qst_humより大きいか否かを判定する。
コントローラ200は、発電要求空気流量Qst_genが湿潤要求空気流量Qst_humより大きいと判定すると、ステップS104に進み、強制バイパス弁閉塞フラグとして「1」をセットする。
すなわち、これは、燃料電池スタック1内の電解質膜の湿潤状態に基づく湿潤要求空気流量Qst_humを満たすようにスタック供給空気流量が制御されている状況では、燃料電池スタック1に対する要求発電電力を満たすスタック供給空気流量が確保されずに空気不足状態となり得るので、これを抑制する強制バイパス弁制御を行うことを意図している。
一方、コントローラ200は、上記ステップS103で発電要求空気流量Qst_genが湿潤要求空気流量Qst_humより小さいと判定すると、強制バイパス弁閉塞フラグをセットすることなく処理を終了する。
すなわち、この場合は、湿潤要求空気流量Qst_humを満たすようにスタック供給空気流量が制御されている状況であっても、空気不足状態とならないと判断し、強制バイパス弁制御を実行しないようにすることを意図している。
図2に戻り、ステップS110において、コントローラ200は、バイパス弁開閉実行処理を実行する。
図7は、バイパス弁開閉実行処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS111において、コントローラ200は、強制バイパス弁閉塞フラグが「1」であるか否かを判定する。そして、コントローラ200は、当該フラグが「1」でないと判定すると、ステップS112に進み、湿潤バイパス弁制御状態を実行する。一方、当該フラグが「1」であると判定すると、ステップS113に進み、強制バイパス弁閉塞制御を実行する。
図8は、湿潤バイパス弁制御について説明するブロック図である。なお、以下では、湿潤バイパス弁制御下における目標バイパス弁開度を「湿潤目標バイパス弁開度Oby_hum」と記載する。
図示のように、コントローラ200は、湿潤バイパス弁制御を実行する湿潤バイパス弁制御部B300として、演算部B310と、湿潤目標バイパス弁開度演算部B320と、を有している。
演算部B310には、湿潤要求空気流量Qst_humと吸入空気流量検出値Qin_detが入力される。演算部B310は、湿潤要求空気流量Qst_humから吸入空気流量検出値Qin_detを除して得られる流量比Qst_hum/Qin_detを湿潤目標バイパス弁開度演算部B320に出力する。
湿潤目標バイパス弁開度演算部B320は、流量比Qst_hum/Qin_detと湿潤目標バイパス弁開度Oby_humとの関係を示す予め定められたテーブルを記憶している。このテーブルにおいて、流量比Qst_hum/Qin_detが相対的に小さい領域(図のα以下の領域)では、吸入空気流量検出値Qin_detに対して湿潤要求空気流量Qst_humが低いので、スタック供給空気流量を減少させるべく湿潤目標バイパス弁開度Oby_humは「1」(全開)に設定される。
一方、流量比Qst_hum/Qin_detが相対的に大きい領域(図のα以上の領域)では、流量比Qst_hum/Qin_detの増加、吸入空気流量検出値Qin_detに対する湿潤要求空気流量Qst_humの割合の増加に応じてスタック供給空気流量を増加させるべく、湿潤目標バイパス弁開度Oby_humを減少させる。
そして、湿潤バイパス弁制御部B300は、バイパス弁29の開度を湿潤目標バイパス弁開度Oby_humに操作する。
図7に戻り、上記ステップS111でコントローラ200は、強制バイパス弁閉塞フラグが「1」であると判定した場合、ステップS113の強制バイパス弁閉塞制御を実行する。
図9は、強制バイパス弁閉塞制御について説明するブロック図である。なお、以下では、強制バイパス弁閉塞制御下における目標バイパス弁開度を「強制目標バイパス弁開度Oby_for_t」と記載する。
図示のように、コントローラ200は、強制バイパス弁閉塞制御を行う強制バイパス弁閉塞制御部B400を有している。強制バイパス弁閉塞制御部B400は、強制バイパス弁閉塞フラグがセットされていることをトリガとして、強制目標バイパス弁開度Oby_for_tを0に設定する。すなわち、強制バイパス弁閉塞制御部B400は、強制バイパス弁閉塞フラグがセットされている場合に、バイパス弁29を全閉にする操作を実行する。
これにより、燃料電池スタック1には、湿潤バイパス弁制御の下で定まる湿潤要求空気流量Qst_humを超えた流量の空気が供給され、燃料電池スタック1における空気不足が解消される方向に制御されることとなる。
図2に戻り、次にステップS120において、コントローラ200は、空気不足状態の判定が解消されると、強制バイパス弁閉塞制御を解除して湿潤バイパス弁制御を復帰させる湿潤バイパス弁制御復帰処理を実行する。
図10は、湿潤バイパス弁制御復帰処理の詳細を示すフローチャートである。
図示のように、ステップS121において、コントローラ200は、図3のステップS103と同等の判定条件として、発電要求空気流量Qst_genが湿潤要求空気流量Qst_humより大きいか否かを判定する。
コントローラ200は、発電要求空気流量Qst_genが湿潤要求空気流量Qst_humより大きいと判定した場合には、まだ空気不足状態の判定は解消されていないものとして処理を終了する。
一方、コントローラ200は、発電要求空気流量Qst_genが湿潤要求空気流量Qst_humより大きくないと判定した場合には、当該判定からの経過時間をカウントしつつ、ステップS122に移行する。
ステップS122において、コントローラ200は、ステップS121における判定から所定時間経過したか否かを判定する。なお、この所定時間とは、湿潤要求空気流量Qst_humと発電要求空気流量Qst_genとの相対的大小関係が頻繁に切り替わらない定常状態に移行するまでに十分な時間として任意に設定される。
そして、コントローラ200は、所定時間経過していないと判定すると、ステップS121の処理に戻り、以降のルーチンを再び実行する。
一方、コントローラ200は、所定時間経過したと判定すると、ステップS123に進み、強制バイパス弁閉塞フラグをクリアする。
以上説明した本実施形態のバイパス弁29の制御による作用について説明する。
図11は、本実施形態のバイパス弁制御下におけるスタック供給空気流量の経時変化の一例を概略的に示したグラフである。
なお、図中の実線はスタック供給空気流量(実際に燃料電池スタック1に供給される空気流量)を表し、破線は発電要求空気流量Qst_genを表し、一点鎖線は湿潤要求空気流量Qst_humを表す。
図示のように、時刻t1に至るまでは、燃料電池システム100は負荷変動が生じていない定常状態であり、湿潤要求空気流量Qst_hum>発電要求空気流量Qst_genとなっているので、コントローラ200は図7で説明した制御フローにしたがい、湿潤バイパス弁制御を実行する。これにより、スタック供給空気流量は湿潤要求空気流量Qst_humに調節される。
そして、時刻t1では、燃料電池システム100が登坂路を走行し始めるなどの要因で負荷の増加変動が発生する過渡負荷上げ状態に移行する。過渡負荷上げ状態に移行するに伴い、湿潤要求空気流量Qst_hum及び発電要求空気流量Qst_genがともに増加する。
しかしながら、湿潤要求空気流量Qst_humに比べて発電要求空気流量Qst_genは急激に増加するため、時刻t1を経過すると、発電要求空気流量Qst_genが湿潤要求空気流量Qst_humを超えることとなる。
したがって、この状態で仮に湿潤バイパス弁制御を維持すると、スタック供給空気流量が、発電要求空気流量Qst_genよりも小さい湿潤要求空気流量Qst_humに維持されることとなり、スタック供給空気流量が不足して燃料電池スタック1内の酸素濃度が低下し、発電に悪影響を与えることが想定される。
これに対して、本実施形態のバイパス弁制御では、図3及び図7で説明した制御フローにしたがい、発電要求空気流量Qst_gen>湿潤要求空気流量Qst_humとなることをトリガとして、制御状態が湿潤バイパス弁制御から強制バイパス弁閉塞制御に切り替わる。
そして、強制バイパス弁閉塞制御では図9に示したロジックにしたがい、バイパス弁29の開度が0に設定される。すなわち、バイパス弁29が全閉とされる。これにより、図11に示すように、スタック供給空気流量が発電要求空気流量Qst_gen以上に保たれることとなる。したがって、負荷が増加する過渡負荷上げ状態においてもスタック供給空気流量の不足が防止され、燃料電池スタック1の発電状態を適切に維持することができる。
そして、時刻t1から所定時間が経過すると発電要求空気流量Qst_genが略一定値に静定する(図の時刻t2)。一方で湿潤要求空気流量Qst_humは、発電要求空気流量Qst_genが静定する時刻t2以降も緩やかに増加する。
そして、時刻t3を経過すると、再び湿潤要求空気流量Qst_humが発電要求空気流量Qst_genより大きくなる。したがって、時刻t3以降では、図10で説明した制御フローにしたがい、強制バイパス弁閉塞制御が解除されて湿潤バイパス弁制御に復帰する。これにより、再び、スタック供給空気流量は湿潤要求空気流量Qst_humに制御されることとなる。
なお、時刻t1〜時刻t2で実行される強制バイパス弁閉塞制御では、実質的に湿潤要求を無視して発電要求を満たすようにバイパス弁開度を制御することとなる。すなわち、時刻t1〜時刻t2では、スタック供給空気流量が、電解質膜の湿潤状態を適切に維持するための湿潤要求空気流量Qst_humを超えることとなる。
しかしながら、強制バイパス弁閉塞制御を実行する時刻t1〜時刻t2は、相対的に短い時間区間であるため、この間に湿潤要求空気流量Qst_humを超える空気流量を燃料電池スタック1に供給したとしても、電解質膜の湿潤状態に与える影響は小さい。
一方で、上述のように、過渡負荷上げ状態における発電要求空気流量Qst_genの増加量は相対的に大きいので、スタック供給空気流量が発電要求空気流量Qst_genを満たさない場合には、燃料電池スタック1の発電状態に少なからず影響を与えると考えられる。したがって、本実施形態では、上述のように、過渡負荷上げ状態等の短時間の負荷変動において、湿潤状態の維持よりも優先すべき発電要求空気流量Qst_genを満たすようにバイパス弁開度を制御することで、燃料電池システム100の発電状態をより好適に保つことができる。
以上説明した第1実施形態にかかる燃料電池システム100によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態の燃料電池システム100は、酸化剤としての空気と燃料(燃料ガス)の供給を受けて発電を行う燃料電池としての燃料電池スタック1と、燃料電池スタック1に空気を供給する酸化剤供給装置としてのコンプレッサ22と、燃料電池スタック1に供給される空気の一部をバイパスさせるバイパス通路28と、バイパス通路28に設けられるバイパス弁29と、燃料電池スタック1の運転状態を取得する運転状態取得部と、運転状態に基づいてバイパス弁29及びコンプレッサ22を制御する運転制御装置としてのコントローラ200を有する。
さらに、燃料電池システム100においては、上記運転状態取得部は、燃料電池スタック1の湿潤状態としてのHFRを取得する湿潤状態取得部としてのインピーダンス計測装置6を有し、コントローラ200は、燃料電池スタック1のHFRに基づいてバイパス弁29の開閉を制御する湿潤バイパス弁制御(図7のステップS112)を実行するバイパス弁制御部(図2)を有する。
そして、上記バイパス弁制御部としてのコントローラ200は、燃料電池スタック1の発電に要求される空気(発電要求空気流量Qst_gen)に対して燃料電池スタック1に供給される空気(スタック供給空気流量)が不足しているか又は不足する可能性がある空気不足状態を判定する酸化剤不足状態判定部(図1のステップS100)と、空気不足状態と判定すると、バイパス弁29を閉める方向に制御する強制バイパス弁閉塞制御(図7のステップS113)を実行する強制バイパス弁閉塞制御部B400と、を備える。
なお、「スタック供給空気流量が不足する可能性がある」とは、現時点でスタック供給空気流量が不足していないものの、そのままの制御状態では所定時間内にスタック供給空気流量が現実に不足する状態となることを意味する。
これにより、湿潤バイパス弁制御の下で発電の要求に対して燃料電池スタック1に供給される空気が不足し得る過渡負荷上げ状態等の負荷変動が発生しても、強制バイパス弁閉塞制御にしたがいバイパス弁29が閉塞されて燃料電池スタック1に実際に供給される空気が増加するので、燃料電池の空気不足状態を抑制することができる。したがって、湿潤バイパス弁制御に基づいたバイパス弁29の制御を行う燃料電池システム100において、発電要求に応じた燃料電池スタック1への空気供給状態をより適切に維持することができる。
また、本実施形態の酸化剤不足状態判定部としてのコントローラ200は、空気不足状態に相関する酸化剤不足状態判定パラメータとしての空気不足状態判定パラメータに基づいて、空気不足状態を判定する。これにより、燃料電池スタック1へ供給される空気流量であるスタック供給空気流量、すなわち、吸入空気流量からバイパス通路28へバイパスされる空気流量分を差し引いた流量を検出するためのエアフローメータを設けることなく、燃料電池スタック1の空気不足状態を判定することができる。
特に、本実施形態では、上記酸化剤不足状態判定パラメータは、燃料電池スタック1のHFRに基づいて要求される酸化剤流量である湿潤要求酸化剤流量としての湿潤要求空気流量Qst_hum(図4参照)と、燃料電池スタック1の発電に要求される酸化剤流量である発電要求酸化剤流量としての発電要求空気流量Qst_gen(図6参照)と、を含む。そして、酸化剤不足状態判定部としてのコントローラ200は、湿潤要求空気流量Qst_humが発電要求空気流量Qst_gen未満である場合に空気不足状態と判定する(図3のステップS103のYes)。
これによれば、バイパス弁開度が湿潤状態に基づいて制御されている状況下で、湿潤要求空気流量Qst_humが発電要求に基づく発電要求空気流量Qst_gen未満となる状況、すなわちスタック供給空気流量が湿潤要求に応じた空気流量に調節されて発電要求に応じた空気流量に満たない場合に、燃料電池スタック1が空気不足状態であると判定されることとなる。したがって、湿潤バイパス弁制御の下において生じる燃料電池スタック1における空気の不足をより高精度に判定することができる。
特に、本実施形態では、強制バイパス弁閉塞制御部B400は、上記強制バイパス弁閉塞制御としてバイパス弁29を全閉にする制御を実行する(図9参照)。
これにより、スタック供給空気流量が発電要求空気流量Qst_genに対して不足している状態をより速やかに解消することができる。すなわち、燃料電池スタック1の空気不足状態をより効果的に解消することができる。
さらに、本実施形態では、バイパス弁制御部としてのコントローラ200は、上記空気不足状態の判定が解消されると、上記強制バイパス弁閉塞制御を解除して上記湿潤バイパス弁制御を復帰させる湿潤バイパス弁制御復帰処理を行う湿潤バイパス弁制御復帰部(図2のステップS120及び図10参照)をさらに備える。
これにより、空気不足状態と判定された状態が解消された後に、すなわち、湿潤要求空気流量Qst_humが発電要求空気流量Qst_genを上回る状態となったら、強制バイパス弁閉塞制御から湿潤バイパス弁制御に復帰させることができる。したがって、強制バイパス弁閉塞制御により燃料電池スタック1の空気不足状態を抑制しつつも、空気不足状態となる恐れが無くなった場合には湿潤バイパス弁制御を復帰させて燃料電池スタック1の適切な湿潤状態の維持に資することとなる。
特に本実施形態では、湿潤バイパス弁制御復帰部としてのコントローラ200は、上記空気不足状態の判定が解消されてから所定時間経過後に、強制バイパス弁閉塞制御を解除して湿潤バイパス弁制御を復帰させる(図10のステップS122参照)。
ここで、空気不足状態の判定直後のように、依然として湿潤要求空気流量Qst_humと発電要求空気流量Qst_genとの間の大小関係が頻繁に切り替わり得る状況下において即座に強制バイパス弁閉塞制御を解除すると、空気不足状態の判定と非空気不足状態の判定が頻繁に切り替わり、制御のハンチングが発生する可能性がある。
これに対して、本実施形態では、空気不足状態の判定が解消されてから所定時間経過後に、湿潤バイパス弁制御を復帰させることで、このような制御のハンチングを防止することができる。
なお、図11に示したように、湿潤要求空気流量Qst_humの経時変化は、発電要求空気流量Qst_genの経時変化に比べると緩やかである。したがって、強制バイパス弁閉塞制御から湿潤バイパス弁制御に移行するタイミング(図11の時刻t3)が多少遅れたとしても、湿潤要求空気流量Qst_humに対してスタック供給空気流量が若干不足して湿潤状態がややウェット側に制御されるものの、これは、燃料電池スタック1の湿潤状態に実質的な悪影響を与える要素とはならないと考えられる。
したがって、上記所定時間は、むしろ、上述した制御のハンチングをより確実に発生させない観点から比較的長めに設定することが好ましい。
さらに、本実施形態では、上記湿潤状態取得部としてのインピーダンス計測装置6は、燃料電池スタック1の湿潤状態として燃料電池スタック1の高周波インピーダンスであるHFR_det(HFR計測値)を取得する。そして、バイパス弁制御部としてのコントローラ200は、上記湿潤バイパス弁制御として、燃料電池スタック1の負荷としての目標スタック電流Ist_tに基づいてHFRの目標値であるHFR_tを演算し(図4の目標HFR演算部B100)、高周波インピーダンスの取得値であるHFR_detと目標値HFR_tに基づき、燃料電池スタック1の湿潤状態に基づいて要求される酸化剤流量である湿潤要求空気流量Qst_humを演算し(図4の湿潤要求空気流量演算部B120)、湿潤要求空気流量Qst_humに基づいてバイパス弁29の開度を制御する(及び図8の湿潤バイパス弁制御部B300)。
これにより、湿潤バイパス弁制御の下では、燃料電池スタック1の湿潤状態の指標であるHFRに応じてより適切にバイパス弁開度を調節し、スタック供給空気流量を調節することができる。特に、スタック供給空気流量を検出するためのエアフローメータを設けなくとも、燃料電池スタック1の湿潤状態を適切に維持するように、バイパス弁29の開度を調節することができる。
以上の説明から理解されるように、本実施形態の燃料電池システム100の制御方法では、燃料電池スタック1に供給される空気の一部をバイパスするバイパス通路28に設けられるバイパス弁29の開閉を、燃料電池スタック1の湿潤状態であるHFRに基づいて制御する湿潤バイパス弁制御を実行し(図7のステップS112)、燃料電池スタック1の発電に要求される空気(発電要求空気流量Qst_gen)に対して燃料電池スタック1に供給される空気(スタック供給空気流量)が不足しているか又は不足する可能性があるかを判定し(図1のステップS100)、スタック供給空気流量が不足するか又は不足する可能性があると判定すると、バイパス弁29を湿潤バイパス弁制御によって定まる開度よりも閉める方向に制御する強制バイパス弁閉塞制御を実行する(図7のステップS113)。
これにより、湿潤バイパス弁制御の下で発電の要求に対して燃料電池スタック1に供給される空気が不足し得る過渡負荷上げ状態等のシーンが発生しても、燃料電池の空気不足状態を抑制することができる。したがって、湿潤バイパス弁制御に基づいたバイパス弁29の制御を行う燃料電池システム100において、発電要求に応じた燃料電池スタック1への空気供給状態をより適切に維持することができる。
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素については適宜、同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施形態では、第1実施形態における湿潤要求空気流量Qst_humと発電要求空気流量Qst_genの大小関係に基づき空気不足状態を判定する処理(図3参照)に代えて、燃料電池スタック1に実際に供給される空気の流量であるスタック供給空気流量の推定値(以下では、「推定スタック供給空気流量Qst_est」とも記載する)と、発電要求空気流量Qst_genの大小関係に基づき空気不足状態を判定する処理を行う。
図12は、第2実施形態の空気不足状態判定処理の詳細を示すフローチャートである。
図示のように、ステップS1001において、コントローラ200は、エアフローメータ23で検出された吸入空気流量検出値Qin_det、及び開度センサ29aで検出されたバイパス弁開度検出値Oby_detを取得する。
ステップS1002において、コントローラ200は、発電要求空気流量Qst_genを演算する。なお、発電要求空気流量Qst_genの演算方法は、第1実施形態における演算方法(図6参照)と同様である。
ステップS1003において、コントローラ200は、吸入空気流量検出値Qin_det及びバイパス弁開度検出値Oby_detに基づいて、推定スタック供給空気流量Qst_estを演算する。
図13は、推定スタック供給空気流量Qst_estの演算機能を示すブロック図である。図示のように、コントローラ200は、推定スタック供給空気流量Qst_estの演算機能として、推定バイパス流量演算部B500と、乗算部B501と、を有している。
推定バイパス流量演算部B500は、バイパス弁開度と、吸入空気流量に対するスタック供給空気流量割合(以下では、「スタック空気供給割合Qst/Qin」とも記載する)との関係を示すテーブルを記憶している。そして、推定バイパス流量演算部B500は、このテーブルに基づき、入力されたバイパス弁開度検出値Oby_detからスタック空気供給割合Qst/Qinを演算する。
そして、乗算部B501は、吸入空気流量検出値Qin_detとスタック空気供給割合Qst/Qinを乗算して推定スタック供給空気流量Qst_estを演算する。
図12に戻り、ステップS1004において、発電要求空気流量Qst_genが推定スタック供給空気流量Qst_estより大きいか否かを判定する。
コントローラ200は、発電要求空気流量Qst_genが推定スタック供給空気流量Qst_estより大きいと判定すると、ステップS1005に進み、強制バイパス弁閉塞フラグとして「1」をセットする。
すなわち、発電要求空気流量Qst_genが推定スタック供給空気流量Qst_estより大きい場合には、要求発電電力を満たすスタック供給空気流量が確保されておらず、現実に空気不足状態となっているか又は空気不足状態になる可能性があるので、これを抑制する強制バイパス弁制御を行うべく強制バイパス弁閉塞フラグをセットする。
一方、コントローラ200は、上記ステップS1004で発電要求空気流量Qst_genが推定スタック供給空気流量Qst_estより小さいと判定すると、強制バイパス弁閉塞フラグをセットすることなく処理を終了する。
すなわち、この場合には、スタック供給空気流量が発電電力の要求を満たしていると判断できるため、空気不足状態となる懸念が無いと判定して、強制バイパス弁閉塞フラグをセットせずに処理を終了する。
次に、本実施形態における強制バイパス弁閉塞制御について説明する。
図14は、本実施形態の強制バイパス弁閉塞制御の流れを示すフローチャートである。
図示のように、ステップS111において、コントローラ200は、図6に示す発電要求空気流量演算部B200の機能により、発電要求空気流量Qst_genを演算する。
ステップS112において、コントローラ200は、図8に示す湿潤目標バイパス弁開度演算部B320の機能により、湿潤目標バイパス弁開度Oby_humを演算する。
ステップS113において、コントローラ200は、図13に示す推定スタック供給空気流量Qst_estの演算機能にしたがい、推定スタック供給空気流量Qst_estを演算する。
ステップS114において、コントローラ200は、推定スタック供給空気流量Qst_estから発電要求空気流量Qst_genを減算して得られる流量偏差e_Qをゼロに近づけるように、強制目標バイパス弁開度Oby_for_tを演算する。そして、ステップS115において、コントローラ200は、バイパス弁29を強制目標バイパス弁開度Oby_for_tに制御する。
ここで、上記ステップS114における強制目標バイパス弁開度Oby_for_tの演算についてより詳細に説明する。
図15は、本実施形態における強制バイパス弁閉塞制御部B400の機能を説明するブロック図である。
図示のように、コントローラ200は、強制バイパス弁閉塞制御部B400の機能として、比例ゲイン乗算部B401と、積分部B402と、積分ゲイン乗算部B403と、加算部B404と、ミニマムセレクト部B405を有している。
比例ゲイン乗算部B401は上述の流量偏差e_Qに比例ゲインKpを乗算して得られる比例項Kp・e_Qを加算部B404に出力する。
積分部B402は、第1回目の強制バイパス弁閉塞制御の制御周期から前回の制御周期までにおける流量偏差e_Qの総和∫e_Qを演算し、積分ゲイン乗算部B403に出力する。
なお、第1回目の制御周期における強制バイパス弁閉塞制御では、総和∫e_Qの初期値として、現在の湿潤目標バイパス弁開度Oby_humから積分ゲインKiを除した値を用いる。これにより、湿潤バイパス弁制御から強制バイパス弁閉塞制御への制御の切り替えをスムーズに行うことができる。
積分ゲイン乗算部B403は、流量偏差e_Qの総和∫e_Qに積分ゲインKiを乗算して得られる積分項Ki・∫e_Qを加算部B404に出力する。
加算部B404は、比例項Kp・e_Qと積分項Ki・∫e_Qを加算して、暫定強制目標バイパス弁開度Oby_for_t´を演算する。
したがって、暫定強制目標バイパス弁開度Oby_for_t´は、推定スタック供給空気流量Qst_estが発電要求空気流量Qst_genに近づくように演算される目標値である。これにより、暫定強制目標バイパス弁開度Oby_for_t´が強制目標バイパス弁開度Oby_for_tとして設定される場合には、発電要求に対して過不足なく燃料電池スタック1に空気が供給されることとなる。
ミニマムセレクト部B405は、湿潤目標バイパス弁開度Oby_humと暫定強制目標バイパス弁開度Oby_for_t´の内の小さい方を、強制目標バイパス弁開度Oby_for_tとして演算する。
このように、湿潤目標バイパス弁開度Oby_humと暫定強制目標バイパス弁開度Oby_for_t´の内の小さい方を選択するようにしたことで、暫定強制目標バイパス弁開度Oby_for_t´が湿潤目標バイパス弁開度Oby_humより大きい場合には、暫定強制目標バイパス弁開度Oby_for_t´を目標バイパス弁開度として設定しないようにしている。
これにより、要求発電電力に基づく発電要求空気流量Qst_genに対して推定スタック供給空気流量Qst_estが不足して、バイパス弁開度を湿潤目標バイパス弁開度Oby_humよりも閉める方向に制御する必要があるシーンをより確実に検知して、強制バイパス弁閉塞制御を実行することができる。
なお、湿潤バイパス弁制御復帰処理については、第1実施形態で説明した図10のステップS121における判定に用いている「湿潤要求空気流量Qst_hum」を「推定スタック供給空気流量Qst_est」に代えることで同様に実行することができる。
以上説明した第2実施形態にかかる燃料電池システム100によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態の燃料電池システム100では、空気不足状態判定パラメータは、燃料電池スタック1の発電に要求される空気流量である発電要求空気流量Qst_genと、酸化剤供給装置としてのコンプレッサ22によりシステム100に供給される空気流量の検出値であるシステム酸化剤流量検出値としての吸入空気流量検出値Qin_detと、バイパス弁29の開度の検出値であるバイパス弁開度検出値Oby_detと、を含む。
そして、空気不足状態判定部(図12)としてのコントローラ200は、吸入空気流量検出値Qin_det及びバイパス弁開度検出値Oby_detに基づいて(ステップS1001)、燃料電池スタック1に供給される空気の流量である燃料電池供給酸化剤流量としてのスタック供給空気流量を推定し(ステップS1003)、スタック供給空気流量の推定値としての推定スタック供給空気流量Qst_estが発電要求空気流量Qst_gen未満である場合に空気不足状態と判定する(ステップS1004及びステップS1005)。
これにより、燃料電池スタック1に実際に供給される空気の流量が直接的に表された推定スタック供給空気流量Qst_estと、発電に要求される発電要求空気流量Qst_genを比較することで、空気不足状態をより高精度且つ容易に判定することができ、強制バイパス弁制御をより好適なタイミングで実行することができる。
さらに、本実施形態の燃料電池システム100では、強制バイパス弁閉塞制御部B400は、推定スタック供給空気流量Qst_estが発電要求空気流量Qst_gen以上となるまでバイパス弁29を閉塞する(図15)。
これにより、燃料電池スタック1に実際に供給される空気の流量が発電に要求される空気の流量を満たす範囲までバイパス弁29を閉塞することができる。すなわち、空気不足状態を抑制しつつも、必要以上にバイパス弁29の開度を小さくすることによる燃料電池スタック1の電解質膜の乾燥も抑制することができる。
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態や第2実施形態と同様の要素については適宜、同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施形態では、第1実施形態における湿潤要求空気流量Qst_humと発電要求空気流量Qst_genの大小関係に基づき空気不足状態を判定する処理(図3参照)に代えて、燃料電池スタック1の内部インピーダンスZから演算される空気極の反応抵抗(以下では、「空気極反応抵抗Rc」とも記載する)に基づいて、空気不足状態を判定する処理を行う。
図16は、第3実施形態の空気不足状態判定処理の詳細を示すフローチャートである。
図示のように、ステップS201において、コントローラ200は、インピーダンス計測装置6で計測された内部インピーダンスZを取得する。なお、本実施形態においては、インピーダンス計測装置6は、HFR対応の高周波数ω→∞と、所定の低周波数領域に属する2つの周波数ωLo1,ωLo2において、高周波数内部インピーダンスZ(ω→∞)、低周波数内部インピーダンスZ(ωLo1)、及び低周波数内部インピーダンスZ(ωLo2)を計測し、コントローラ200に出力する。
なお、上記2つの低周波数ωLo1,ωLo2は、低周波数内部インピーダンスZ(ωLo1)及びZ(ωLo2)に対する空気極反応抵抗Rcの寄与が、燃料極反応抵抗Raの寄与に比べて十分小さくなる周波数領域(例えば、数Hz〜数十Hz)から選択されることが好ましい。これにより、後述の図19で示す燃料電池スタック1の等価回路モデルを想定した演算の精度が向上する。
ステップS202において、コントローラ200は、空気極反応抵抗Rcを演算する。
図17は、空気極反応抵抗Rcを演算する流れを説明するフローチャートである。
先ず、ステップS2021において、コントローラ200は、インピーダンス計測装置6で計測された定常状態の内部インピーダンスZを取得する。ここで、定常状態とは、発進時や停車時等の急加速状態ではない安定走行時を意味する。
定常状態の内部インピーダンスZの計測方法について説明する。
図18は、定常状態における内部インピーダンスZの演算方法を説明する図である。なお、図に示す曲線は、燃料電池スタック1のIV特性線を表している。
そして、IV特性線では、図示のように、出力電流範囲RAにおいて、領域スタック出力電流の変化量に対するスタック出力電圧の変化量が概ね一定値をとる。
したがって、インピーダンス計測装置6は、図示しないコンバータ等の出力電流調節手段を用いて、スタック出力電流を上記出力電流範囲RA内でΔIだけ変動させて、そのときのスタック出力電圧の変動量ΔVを検出する。そして、コントローラ200は、出力電圧の変動量ΔVを出力電流の変動量ΔIで除して得られる特性線傾きΔV/ΔIを求める。
この特性線傾きΔV/ΔIは、定常状態の内部インピーダンスZとみなすことができる。以下では、その理由について説明する。
図19は、燃料電池スタック1の等価回路モデルを示している。なお、当図において、「Ra」は燃料極の反応抵抗、「Ca」は燃料極の電気容量、「Rc」は空気極の反応抵抗、「Cc」は空気極の電気容量、及び「Rm」は燃料電池スタック1の電解質膜抵抗Rmを意味する。
図19に示す等価回路モデルに基づく、内部インピーダンスZ(ω)は、以下の式(1)により求めることができる。
(ただし、式中jは虚数単位を意味する。)
ここで、定常特性では、スタック出力電流及び電圧が実質的に直流となるので、式(1)においてωを0に近づけて得られる内部インピーダンスZ(ω→0)が、定常状態の内部インピーダンスZに相当する。すなわち、定常状態の内部インピーダンスZ(ω→0)=Rm+Ra+Rcとなる。
一方、図18に示すIV特性線は定常状態における特性を表す。したがって、出力電流範囲RA内において近似的にオームの法則が成り立つとみなすことができ、特性線傾きΔV/ΔIは燃料電池スタック1の等価回路モデルにおける全抵抗成分の総和(電解質膜抵抗Rm+燃料極反応抵抗Ra+空気極反応抵抗Rc)にほぼ等しくなる。すなわち、ΔV/ΔI=Rm+Ra+Rcが成り立つ。
したがって、定常状態の内部インピーダンスZ(ω→0)=特性線傾きΔV/ΔIが成り立つ。
図17に戻り、ステップS2022において、コントローラ200は、燃料電池スタック1の電解質膜抵抗Rmを演算する。なお、本実施形態では、高周波数内部インピーダンスZ(ω→∞)が電解質膜抵抗Rmに相当するので、高周波数内部インピーダンスZ(ω→∞)を電解質膜抵抗Rmとして用いる。
ステップS2023において、コントローラ200は、低周波数内部インピーダンスZ(ωLo1)及びZ(ωLo2)、特性線傾きΔV/ΔI、及び電解質膜抵抗Rmに基づいて、燃料極反応抵抗Raを演算する。以下では、燃料極反応抵抗Raの演算方法の一例を説明する。
図20は、空気極反応抵抗Rcの影響を無視した燃料電池スタック1の等価回路モデルを示している。コントローラ200は、燃料極反応抵抗Raをこの等価回路モデルに基づいて演算する。
なお、図20に示す等価回路モデルでは、空気極の反応抵抗成分が無視されている。これは、計測周波数ωLo1,ωLo2が属する低周波数領域においては、交流信号値の変動に対して燃料極の反応は十分な応答性を示すが、空気極の反応の応答性は低いことにより、低周波数内部インピーダンスZ(ωLo)及びZ(ωLo2)への空気極反応抵抗Rcの影響が、燃料極反応抵抗Raの影響に比べて低いためである。
図20に示す空気極の反応抵抗を無視した等価回路モデルに基づく、内部インピーダンスZは、以下の式(2)により求めることができる。
さらに、式(2)の実部をとって変形すると下記の式(3)が得られる。
ただし、Zrは内部インピーダンスZの実部を意味する。
ここで、式(3)の電解質膜抵抗Rmは、図17のステップS2022で演算されているので既知の値である。
また、内部インピーダンスZの1つの計測周波数である周波数ωLo1を式(3)に代入する場合、実部Zrは、図16のステップS201で取得した低周波数内部インピーダンスZ(ωLo1)の実部Zr(ωLo1)に相当する既知の値となるので、式(3)から、燃料極反応抵抗Ra及び燃料極電気容量Caを未知数とする第1式が得られる。
さらに、内部インピーダンスZのもう1つの計測周波数である周波数ωLo2を式(3)に代入する場合、実部Zrは、図16のステップS201で取得した低周波数内部インピーダンスZ(ωLo2)の実部Zr(ωLo2)に相当する既知の値となるので、式(3)から、燃料極反応抵抗Ra及び燃料極電気容量Caを未知数とする第2式が得られる。
したがって、燃料極反応抵抗Ra及び燃料極電気容量Caを未知数とする2つの式が得られるので、これを適宜任意の方法で解くことで燃料極反応抵抗Raを求めることができる。
例えば、式(3)における横軸ω
2、縦軸1/Zrとする(ω
2,1/Zr)平面を考慮すると、当該平面において式(3)は直線を表し、その切片aは以下の式(4)で与えられる。
そして、この2点の周波数ωLo1、ωLo2、及びこれらに対応する実部Zr(ωLo1)及びZr(ωLo2)を上記(ω2,1/Zr)平面上にプロットすると、これらのプロットを結ぶ一つの直線Lが定まる。この直線Lの切片が式(4)の切片aに相当する。したがって、式(4)における未知数は燃料極反応抵抗Raのみとなるので、これを解くことで燃料極反応抵抗Raを求めることができる。
図17に戻り、ステップS2024において、コントローラ200は、空気極反応抵抗Rcを演算する。
具体的に、コントローラ200は、既に説明した定常特性の関係式ΔV/ΔI=Rm+Ra+Rcに、ステップS2022で演算した電解質膜抵抗Rm及びステップS2023で演算した燃料極反応抵抗Raを適用して、空気極反応抵抗Rcを演算する。
図16に戻り、コントローラ200は、ステップS203において、空気極反応抵抗Rcが所定の閾値Rc_thより大きいか否かを判定する。ここで、所定の閾値Rc_thとは、発電の要求に対して燃料電池スタック1内の酸素濃度を適切に保つ観点から許容される空気極反応抵抗Rcの下限値として予め設定される値である。
コントローラ200は、空気極反応抵抗Rcが閾値Rc_thより大きいと判定すると、ステップS204に進み、強制バイパス弁閉塞フラグとして「1」をセットする。
すなわち、空気極反応抵抗Rcが閾値Rc_thより大きい場合には、要求発電電力を満たすスタック供給空気流量が確保されておらず、燃料電池スタック1内の酸素濃度が低い状態(空気不足状態)と判断し、空気不足状態を解消すべく強制バイパス弁閉塞フラグをセットする。
一方、コントローラ200は、上記ステップS203で空気極反応抵抗Rcが閾値Rc_thより小さいと判定すると、強制バイパス弁閉塞フラグをセットすることなく処理を終了する。
すなわち、この場合には、スタック供給空気流量が発電電力の要求を満たし燃料電池スタック1の空気極内の酸素濃度が適切に保たれている判断できるため、空気不足状態となる懸念が無いと判定して、強制バイパス弁閉塞制御を実行しないようにする。
次に、本実施形態における強制バイパス弁閉塞制御について説明する。
図21は、本実施形態の強制バイパス弁閉塞制御の流れを示すフローチャートである。
図示のように、ステップS1101において、コントローラ200は、図8に示す湿潤目標バイパス弁開度演算部B320の機能により、湿潤目標バイパス弁開度Oby_humを演算する。
ステップS1102において、コントローラ200は、図16に示す空気極反応抵抗Rcの演算機能にしたがい、空気極反応抵抗Rcを演算する。
ステップS1103において、コントローラ200は、湿潤目標バイパス弁開度Oby_hum、空気極反応抵抗Rc、及び閾値Rc_thに基づいて、空気極反応抵抗Rcから閾値Rc_thを減算して得られる反応抵抗偏差e_Rcをゼロに近づけるように、強制目標バイパス弁開度Oby_for_tを演算する。そして、ステップS1104において、コントローラ200は、バイパス弁開度を強制目標バイパス弁開度Oby_for_tに調節する。
ここで、上記ステップS1104における強制目標バイパス弁開度Oby_for_tの演算についてより詳細に説明する。
図22は、本実施形態における強制バイパス弁閉塞制御部B400の機能を説明するブロック図である。
図示のように、コントローラ200は、強制バイパス弁閉塞制御部B400の機能として、比例ゲイン乗算部B4011と、積分部B4012と、積分ゲイン乗算部B4013と、加算部B4014と、ミニマムセレクト部B4015を有している。
比例ゲイン乗算部B4011は上述の反応抵抗偏差e_Rcに比例ゲインKpを乗算して得られる比例項Kp・e_Rcを加算部B4014に出力する。
積分部B4012は、第1回目の強制バイパス弁閉塞制御の制御周期から前回の制御周期までにおける反応抵抗偏差e_Rcの総和∫e_Rcを演算し、積分ゲイン乗算部B4013に出力する。
なお、第1回目の制御周期における強制バイパス弁閉塞制御では、総和∫e_Rcの初期値として、現在の湿潤目標バイパス弁開度Oby_humから積分ゲインKiを除した値を用いる。これにより、湿潤バイパス弁制御から強制バイパス弁閉塞制御への制御の切り替えをスムーズに行うことができる。
積分ゲイン乗算部B4013は、反応抵抗偏差e_Rcの総和∫e_Rcに積分ゲインKiを乗算して得られる積分項Ki・∫e_Rcを加算部B4014に出力する。
加算部B4014は、比例項Kp・e_Rcと積分項Ki・∫e_Rcを加算して、暫定強制目標バイパス弁開度Oby_for_t´を演算する。
したがって、暫定強制目標バイパス弁開度Oby_for_t´は、空気極反応抵抗Rcが閾値Rc_thに近づくように演算される目標値である。これにより、暫定強制目標バイパス弁開度Oby_for_t´が強制目標バイパス弁開度Oby_for_tとして設定される場合には、発電要求に対して燃料電池スタック1内の酸素濃度が適切に維持されるように燃料電池スタック1に空気が供給されることとなる。
ミニマムセレクト部B4015は、湿潤目標バイパス弁開度Oby_humと暫定強制目標バイパス弁開度Oby_for_t´の内の小さい方を、強制目標バイパス弁開度Oby_for_tとして演算する。
このように、湿潤目標バイパス弁開度Oby_humと暫定強制目標バイパス弁開度Oby_for_t´の内の小さい方を選択するようにしたことで、暫定強制目標バイパス弁開度Oby_for_t´が湿潤目標バイパス弁開度Oby_humより大きい場合には、暫定強制目標バイパス弁開度Oby_for_t´を目標値として設定しないようにしている。
これにより、空気極反応抵抗Rcが高くなって、バイパス弁開度を湿潤目標バイパス弁開度Oby_humよりも閉める方向に制御する必要があるシーンをより確実に検知して、強制バイパス弁閉塞制御を実行することができる。
なお、湿潤バイパス弁制御復帰処理については、第1実施形態で説明した図10のステップS121における判定に用いている「発電要求空気流量Qst_gen」及び「湿潤要求空気流量Qst_hum」を、それぞれ「空気極反応抵抗Rc」及び「閾値Rc_th」に代えることで同様に実行することができる。
以上説明した第3実施形態にかかる燃料電池システム100によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態の燃料電池システム100では、空気不足状態判定パラメータは、燃料電池スタック1の内部インピーダンスZを含む。そして、空気不足状態判定部としてのコントローラ200は、燃料電池スタック1の内部インピーダンスZに基づいて空気不足状態を判定する(図16)。
これにより、燃料電池スタック1内の空気が発電要求に対して不足する場合に、その影響が反映される内部インピーダンスZに基づいて空気不足状態を判定するため、空気不足状態をより高精度且つ容易に判定することができ、強制バイパス弁制御をより好適なタイミングで実行することができる。
特に、本実施形態では、コントローラ200は、燃料電池スタック1の内部インピーダンスZに基づき燃料電池スタック1の酸化剤極の反応抵抗である空気極反応抵抗Rcを演算し(図17)、空気極反応抵抗Rcが所定の閾値Rc_thより大きい場合に空気不足状態と判定する。
これにより、燃料電池スタック1内において、実際に空気(酸素)が消費される空気極の反応サイトの情報をより直接的に反映する空気極反応抵抗Rcに基づいて強制バイパス弁制御が判定され、強制バイパス弁制御が実行されることとなる。したがって、強制バイパス弁制御をさらに好適なタイミングで実行することができる。
さらに、本実施形態の燃料電池システム100では、強制バイパス弁閉塞制御部B400は、空気極反応抵抗Rcが所定の閾値Rc_th以下となるまでバイパス弁29を閉塞する(図22)。
これにより、空気極反応抵抗Rcが所定の閾値Rc_thとなるまでバイパス弁29を閉塞して、空気不足状態を抑制しつつも、必要以上にバイパス弁29の開度を小さくすることによる燃料電池スタック1の電解質膜の乾燥も抑制することができる。
なお、上記第3実施形態において、空気不足状態の判定(図16参照)に空気極反応抵抗Rcを用いているが、これに代えて、例えば内部インピーダンスZ(ωLo1)等の内部インピーダンス計測値を直接空気不足状態の判定に用いても良い。すなわち、内部インピーダンスZ(ωLo1)が所定の閾値より大きい場合に、空気不足状態と判定するようにしても良い。
これにより、空気極反応抵抗Rcを空気不足状態の判定に用いる場合と比較して、判定精度は低下するものの、コントローラ200による演算処理の負担を軽減することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
例えば、第2実施形態及び第3実施形態においては、強制バイパス弁閉塞制御における強制目標バイパス弁開度Oby_for_tの演算をPI制御に基づいて行っている(図15及び図22参照)。しかしながら、第2実施形態及び第3実施形態においても、第1実施形態にかかる図9に示す強制バイパス弁閉塞制御部B400のように、空気不足状態判定処理(ステップS100)により強制バイパス弁閉塞フラグがセットされている場合に、強制目標バイパス弁開度Oby_for_tを0に設定するようにしても良い。
さらに、強制バイパス弁閉塞制御においては、第1実施形態によるバイパス弁29を全閉(強制目標バイパス弁開度Oby_for_t=0)や、第2実施形態及び第3実施形態によるフィードバック制御に基づく強制目標バイパス弁開度Oby_for_tの演算以外に、他の強制目標バイパス弁開度Oby_for_tの決定方法を採用しても良い。
例えば、強制バイパス弁閉塞制御におけるバイパス弁開度を、湿潤バイパス弁制御により定まる湿潤目標バイパス弁開度Oby_hum(図8参照)の1/2等、湿潤目標バイパス弁開度Oby_humよりもバイパス弁29を閉塞させる方向の任意の目標バイパス弁開度を設定するようにしても良い。