前述した従来の全方向移動装置では、脚部、車輪等の各部品が複数必要であるため、部品点数が多くなり構造が複雑になるとともに、製造のためのコストが高くなるという問題がある。
本発明は、前述した問題に対処するためになされたもので、その目的は、構造が単純で、製造コストの低下が図れる全方向移動装置を提供することである。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
前述した目的を達成するため、本発明に係る全方向移動装置の構成上の特徴は、操作部(30)の操作に応じて、移動面(C)上を全方向に移動できる全方向移動装置(10)であって、移動面に対して傾斜して配置された支持軸(21a)の下端に取り付けられ、外周部の一部が移動面に接触するように配置された傾斜輪(21)と、支持軸の上端に取り付けられた傾斜かさ歯車(25)と、軸方向を移動面に対して直交させて配置され傾斜かさ歯車に歯合する非傾斜かさ歯車(24b)と、傾斜輪を、非傾斜かさ歯車、傾斜かさ歯車および支持軸を介して支持軸の軸周り方向に回転させる移動用モータ(22)と、軸方向を移動面に対して直交させて配置され、内部に、支持軸を回転可能に貫通させる傾斜貫通孔(28c)が形成された特殊歯車(28)と、傾斜輪を、輪特殊歯車および支持軸を介して特殊歯車の軸周り方向に回転させる方向変更用モータ(26)と、傾斜輪の周囲に設けられた支持部品(11,13)と、傾斜輪を囲む方向に間隔を保って支持部品の下面に設けられた、回転可能な球体(12b)を備えた複数の脚部(12)とを備えたことにある。
本発明に係る全方向移動装置では、傾斜輪が移動面に対して傾斜して配置された支持軸の下端に取り付けられ、傾斜輪の一部が移動面に接触する。また、傾斜輪は、支持軸の上端に取り付けられた傾斜かさ歯車と、軸方向を移動面に対して直交させて配置され傾斜かさ歯車に歯合する非傾斜かさ歯車とを介して移動用モータに連結されている。このため、移動用モータを作動させると、傾斜輪は、移動面に対して傾斜し一部を接触させた状態で、支持軸の軸周り方向に回転する。これによって、全方向移動装置は、移動面に対する傾斜輪の接線方向に移動する。
また、全方向移動装置には、軸方向を移動面に対して直交させて配置され、内部に支持軸を軸周り方向に回転可能な状態で貫通させる傾斜貫通孔が形成された特殊歯車と、傾斜輪と支持軸を特殊歯車の軸周り方向に回転させる方向変更用モータとが備わっている。このため、方向変更用モータの作動により、特殊歯車を軸周り方向に回転させると、傾斜輪は、特殊歯車の傾斜貫通孔内に位置する支持軸とともに、特殊歯車の軸周り方向に回転する。この場合、支持軸の他端に取り付けられた傾斜かさ歯車は、非傾斜かさ歯車の外周に沿って回転し、非傾斜かさ歯車は静止状態に維持される。
この特殊歯車の回転によって、移動面に対する傾斜輪の接触部分が特殊歯車の軸周り方向の円周に沿って変化する。このため、移動用モータと方向変更用モータを所定の回転数で作動させることにより、全方向移動装置を任意の方向に任意の速度で移動させることができる。本発明によると、全方向移動装置を移動させるための駆動輪が1個の傾斜輪ですみ、この傾斜輪を駆動させる駆動装置が移動用モータと方向変更用モータの2個のモータですむため、全方向移動装置の構造が単純になるとともに、製造コストの低下が可能になる。さらに、駆動輪が1個であるため、鋭い角度で、かつ反応よく高精度で進行方向を変えることも可能になる。
また、本発明では、傾斜輪の周囲に支持部品が位置し、その移動面側に回転可能な球体を備えた複数の脚部が設けられているため、傾斜輪の回転によって全方向移動装置が移動する際に、球体が移動面に接触して回転する。このため、全方向移動装置は安定した状態で移動できる。この場合の脚部は、2個以上であればいくつでもよいが、傾斜輪を中心として等間隔で4個配置することが好ましい。また、各脚部は、支持部品の外周部に配置することが好ましい。
本発明に係る全方向移動装置の他の構成上の特徴は、移動用モータと非傾斜かさ歯車との間に、少なくとも移動用モータの回転軸に取り付けられた連動歯車(23)を含む連動機構が設けられていることにある。
この場合の連動歯車は、平歯車であってもかさ歯車であってもよい。本発明によると、移動用モータの設置位置を非傾斜かさ歯車の軸方向以外の任意の位置にできるため、移動用モータの設置位置に自由度が増すようになる。移動用モータの回転軸を、非傾斜かさ歯車の軸に直接連結する場合には、移動用モータが、特殊歯車に接触しないように配置しなければならないため、移動用モータの設置位置や形状に制限が加わるが、本発明によると、このような制限が緩和される。本発明においては、連動機構に含まれる歯車を互いに歯合する複数の歯車で構成すると、移動用モータの設置位置にさらに自由度が増すようになる。
本発明に係る全方向移動装置のさらに他の構成上の特徴は、方向変更用モータの回転軸に特殊歯車に歯合する伝達歯車(27)を取り付けて、方向変更用モータの回転軸の回転を伝達歯車を介して特殊歯車に伝達するようにしたことにある。
この場合の伝達歯車は、平歯車であってもかさ歯車であってもよい。本発明によると、方向変更用モータの設置位置を特殊歯車の軸方向以外の任意の位置にできるため、方向変更用モータの設置位置に自由度が増すようになる。方向変更用モータの回転軸を、特殊歯車の軸に直接連結する場合には、方向変更用モータが、傾斜かさ歯車や非傾斜かさ歯車に接触しないように配置しなければならないため、方向変更用モータの設置位置や形状に制限が加わるが、本発明によると、このような制限が緩和される。
本発明に係る全方向移動装置のさらに他の構成上の特徴は、特殊歯車の上面中央から軸方向の上方に延びる軸部(24e)を設けるとともに、非傾斜かさ歯車に円筒軸部(24c)を設けて、円筒軸部に軸部を回転可能な状態で挿通させたことにある。
本発明によると、特殊歯車の上方に非傾斜かさ歯車を同軸上に位置させて配置できるため、特殊歯車と非傾斜かさ歯車をコンパクトに設置できる。また、軸部は、特殊歯車に固定され、非傾斜かさ歯車に対しては相対的に回転可能になっているため、移動用モータの作動によって回転する非傾斜かさ歯車と、方向変更用モータの作動によって回転する特殊歯車とは互いに干渉することなく、回転できる。
本発明に係る全方向移動装置のさらに他の構成上の特徴は、支持部品に、傾斜輪の高さ位置を調節する調節機構(14)が設けられていることにある。本発明によると、傾斜輪を適度な押圧力で移動面に当接させることができる。
本発明に係る全方向移動装置のさらに他の構成上の特徴は、操作部に力覚センサ(33)が含まれ、移動用モータおよび方向変更用モータが、力覚センサの検出値に応じて作動するようにしたことにある。
この場合の力覚センサは、力と方向とをベクトルで示す公知のセンサであり、例えば前後左右のどの方向にでも押圧操作することができる棒状に形成され、押圧操作された際に生じるひずみや変化量を電気信号に変換する。この力覚センサの検出値に応じた制御装置の制御により、移動用モータと方向変更用モータが作動し、全方向移動装置は、力覚センサが押圧操作された方向に、押圧力の大きさに応じた速度で移動する。本発明によると、簡単な操作で全方向移動装置を移動させることができる。
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1および図2(a)〜(c)は、本実施形態に係る全方向移動装置10を示している。なお、以下の説明においては、全方向移動装置10の前後、左右、上下の各方向は、図1において各矢印に記載した方向とするが、後述する図4および図5では、図の右側が前方で左側が後方になっている。この全方向移動装置10は、台車部品11の上方にベース部品13を設置し、ベース部品13の上面に駆動部20を設置し、駆動部20の上方に操作部30を設置して構成されている。
図3に示したように、台車部品11は左右の幅よりも前後の長さが長い矩形の肉厚板状に形成されており、その中央から後部側にかけての部分に、平面視が略円形の穴部とその略円形の穴部の後部に連通して後方に延びる平面視が略長方形の穴部とからなる摺動穴11aが上下に貫通して形成されている。台車部品11の前部における左右方向の中央には左右の長さよりも前後の長さが長い平面視が長方形の逃がし穴11bが上下に貫通して形成されている。また、台車部品11の上面には、複数の円形の係合穴11cが分散して形成されており、これらの係合穴11cの直径はそれぞれ任意の長さに設定されている。さらに、台車部品11の上面における摺動穴11aの周囲には、四角形の四隅に位置するようにして、それぞれ上方に延びる4個の円筒状のガイド部11dが形成されている。
また、台車部品11の下面における四隅の近傍部分には、図2(b),(c)に示したように、支受部12aと鋼球12bからなる脚部12がそれぞれ取り付けられている。支受部12aは、下面中央に、鋼球12bを回転可能な状態で支持する凹部が形成された略円盤状に形成されており、鋼球12bは、下部を支受部12aの凹部から突出させて回転可能に支持されている。各支受部12aは、所定の係合穴11cおよびねじ部材(図示せず)によって、台車部品11に固定されている。
ベース部品13は、左右および前後の長さが台車部品11と同じ板状に形成されており、その中央に、平面視が円形の傾斜輪挿通穴13aが形成されている。傾斜輪挿通穴13aは、ベース部品13を上下に貫通しており、ベース部品13の下面における傾斜輪挿通穴13aの周縁部には、下方に延びて摺動穴11aの円形部分に進退可能に収容できる短筒状の円形摺動部13bが形成されている。ベース部品13の下面における円形摺動部13bの後方には、摺動穴11aの長方形部分に進退可能に収容できる枠状の矩形摺動部13cが形成されている。この矩形摺動部13c内の空間は、後述する取付け穴15aに連通して、ベース部品13の上面で開口している。
また、ベース部品13における円形摺動部13bと矩形摺動部13cの周囲の左右前後の4か所には、ガイド部11dが摺動可能に貫通できる貫通摺動穴13dが形成され、ベース部品13の上面における傾斜輪挿通穴13aの左右両側にはそれぞれ前後一対のねじ穴13eが形成されている。そして、ベース部品13における前側に位置する2個の貫通摺動穴13dの前方と後側に位置する2個の貫通摺動穴13dの後方にはそれぞれ上下位置調節部14が形成されている。
上下位置調節部14の本体部分は、略四角筒状のばね収容部14aと、ばね収容部14aの上部に形成されたねじ受け部14bで構成されている。ばね収容部14aは、ベース部品13の下面と、ベース部品13の上方との間に形成されており、下端がベース部品13の下面で開口し、ベース部品13の上面から突出した部分の上端が中央にねじ挿通穴(図示せず)が形成された天井部で構成されている。
ねじ受け部14bは、門形に形成された外枠の内側に、ばね収容部14aのねじ挿通穴に連通するねじ穴14cが内部に形成されたねじ形成部を設けて構成されており、ねじ穴14cの上部は外枠の上面まで延びて開口している。ばね収容部14aの内部にはコイルばね14d(図2(c)参照)が収容され、ねじ受け部14bのねじ穴14cには調節ねじ14eが螺合している。調節ねじ14eの下部は、ばね収容部14aの天井部のねじ挿通穴を挿通してばね収容部14a内に進入できる。
また、ベース部品13の上面における傾斜輪挿通穴13aの後方(矩形摺動部13cの上方)には、後述する移動用モータ22を取り付けるためのブロック17が設置される設置部15が形成され、ベース部品13の上面前部における左右方向の中央部分には、後述する方向変更用モータ26およびフォトインタラプタ29を取り付けるためのブロック18が設置される設置部16が形成されている。設置部15は、ベース部品13における後側に位置する2個の貫通摺動穴13dの間に位置しており、左右に間隔を保って形成された高さの低い一対の矩形の台部で構成されている。この一対の台部の間には、前述した矩形摺動部13cの内部に連通する取付け穴15aが形成されている。この取付け穴15aの下方には、摺動穴11aの長方形部分が位置している。また、設置部15の左右部分の上面には、それぞれ前後に配置された一対のねじ穴15bが形成されている。
設置部16は、四角台状の凸部の左右方向の中央部分に前端側から後端にかけて延び上面からベース部品13の下面まで貫通する取付け穴16aを形成した形状をしており、左右両側部分の後端部には、対向する面が平面視で凹状の円弧を描くように形成された一対の曲面部16bが形成されている。曲面部16bは、左右方向の両中央側が前方に位置し、両外部側が後方に位置する一対の湾曲面を備えている。取付け穴16aは、台車部品11の逃がし穴11bの上方に位置している。また、設置部16の左右部分の上面には、それぞれ前後に配置された一対のねじ穴16cが形成されている。
このように構成されたベース部品13は、円形摺動部13bと矩形摺動部13cを摺動穴11a内に位置させ、各貫通摺動穴13dに各ガイド部11dを貫通させて台車部品11に対して進退可能な状態で組み付けられており、調節ねじ14eを調節することにより、台車部品11との隙間を調節可能になっている。すなわち、コイルばね14dの下端部は、台車部品11の上面に当接しており、調節ねじ14eを締めると、コイルばね14dが下方に押圧されて台車部品11とベース部品13の間隔は広がり、調節ねじ14eを緩めると、コイルばね14dが上方に移動して台車部品11とベース部品13の間隔は狭くなる。
また、ベース部品13を台車部品11に向かって押さえることでコイルばね14dを収縮させて台車部品11とベース部品13の間隔を狭くすることもできる。各ガイド部11dの上端開口には、フランジ付きのねじ13fが螺合しており、これによって、ベース部品13が台車部品11から外れることが防止される。なお、台車部品11とベース部品13で本発明に係る支持部品が構成され、上下位置調節部14で本発明に係る調節機構が構成される。
ブロック17は、固定部17aと、モータ取付部17bを備えている。固定部17aは、設置部15を構成する一対の台部の上面に対応する大きさの一対の板体で構成されており、それぞれの中央に上下に貫通するねじ挿通穴17cが形成されている。モータ取付部17bは、固定部17aの左右部分の後端から上方に延びる横長の四角板状に形成されており、固定部17aの左右部分の後端を連結している。モータ取付部17bの左右部分には、それぞれ前後に貫通するねじ挿通穴17dが形成されている。ブロック17は、固定部17aの両ねじ挿通穴17cにそれぞれねじ17eを通し、その先端をねじ穴15bに螺合させて設置部15に固定されている。
ブロック18は、固定部18aと、モータ取付部18bと、フォトインタラプタ取付部18cを備えている。固定部18aは、設置部16の左右部分の上面に設置できる大きさの一対の板体で構成されており、前後の長さが設置部16の前後の長さよりも少し短くなっている。固定部18aの左右部分には、それぞれ上下に貫通する前後一対のねじ挿通穴18dが形成されている。モータ取付部18bは、固定部18aの後端から上方に延びる横長の四角板状に形成されており、固定部18aの左右部分の後端を連結している。モータ取付部18bの左右部分には、それぞれ前後に貫通するねじ挿通穴18eが形成されている。
フォトインタラプタ取付部18cは、固定部18aの左右部分の対向する部分の前端を連結して下方に延びる縦長の四角板状に形成されており、上下部分にそれぞれ前後に貫通する四角形の係合穴18fが形成されている。ブロック18は、固定部18aのねじ挿通穴18dにそれぞれねじ18g(図では左右両側にそれぞれ1個だけ取り付けられている。)を通しねじ穴16cに螺合させて設置部16に固定されている。
駆動部20は、図4および図5に示したように、垂直方向に対して傾斜して配置される支持軸21aと、支持軸21aの下端に取り付けられた傾斜輪21と、傾斜輪21を支持軸21aとともに支持軸21aの軸周り方向に回転させる移動機構Aと、傾斜輪21を支持軸21aとともに水平面上で円周方向に回転させる方向変更機構Bとで構成されている。移動機構Aは、移動用モータ22と、平歯車23と、一体成形歯車24と、かさ歯車25とで構成されている。移動用モータ22は、モータ本体22aの上面から上方に回転軸22bを突出させ、モータ本体22aの下部にエンコーダ22cを取付けて構成されている。
モータ本体22aは、下部よりも上部が大きくなった段違いの縦長の長方体に形成されており、上部の左右の幅は、ブロック17の固定部17aを構成する一対の板体の間隔よりも長く、下部の大きさは、固定部17aを構成する一対の板体の間および取付け穴15a内に挿入できる大きさに設定されている。また、モータ本体22aの上部の左右両側面の後部には、それぞれ内面にねじ挿通穴が形成された略半円状のねじ挿通部22dが形成されている。
移動用モータ22は、モータ本体22aの上部を固定部17aを構成する一対の板体間に係合させ、下部を一対の板体間の下方に位置させた状態で、ねじ(図示せず)をブロック17のねじ挿通穴17dおよびねじ挿通部22dのねじ挿通穴に通し、その先端にナット22eを螺合させて、ブロック17に固定されている。エンコーダ22cは、移動用モータ22の回転数を検出するためのものである。このエンコーダ22cは、平面視が略四角形に形成されており、移動用モータ22が、ブロック17を介してベース部品13に取り付けられたときに、取付け穴15a(矩形摺動部13c内)に位置する。
平歯車23は、後述する平歯車24a(図7(a)参照)と略同じ構成をしており、中心に軸固定穴が形成されている。この平歯車23は、歯部23aを水平方向に向けて回転軸22bに固定され、移動用モータ22の作動により、回転軸22bとともに回転する。一体成形歯車24は、図6および図7(a)〜(c)に示した形状をしており、平歯車24aとかさ歯車24bとを円筒軸部24cを介して上下に配置して一体成形して構成されている。平歯車24aは、平歯車23の前方に配置された状態で、平歯車23と歯合して、平歯車23の回転により、平歯車23と逆方向に回転する。なお、平歯車23で本発明に係る連動歯車が構成され、平歯車23と平歯車24aで連動機構が構成される。
かさ歯車24bは、本発明に係る非傾斜かさ歯車を構成するもので、大径側が上方に位置し小径側が下方に位置しており、上部を平歯車24aの下部に対向させている。また、平歯車24aとかさ歯車24bはそれぞれリング状に形成されており、平歯車24aと円筒軸部24cの間は4つの連結片24dで連結され、かさ歯車24bと円筒軸部24cは直接連結されている。平歯車24a、かさ歯車24bおよび円筒軸部24cは軸心を一致させており、円筒軸部24cの内部には、軸受け(図示せず)が取り付けられている。そして、一体成形歯車24の軸受け内に、軸部24eが回転可能に挿入されている。この軸部24eの上下の端部はそれぞれ円筒軸部24cから外部に突出しており、軸部24eの下端部の横断面形状は、略半円状に形成されている。
かさ歯車25は、本発明に係る傾斜かさ歯車を構成するもので、図8および図9(a),(b)に示したように、大径側が上方に位置し下部側が下方に位置しており、その状態で、一体成形歯車24のかさ歯車24bに歯合している。かさ歯車25もリング状に形成され、内部に略半円状の軸固定穴25aが形成されている。そして、軸固定穴25a内に、支持軸21aの上端部が固定されている。なお、支持軸21aの上端部の横断面形状は、軸固定穴25aに嵌合できる半円状に形成されている。このため、移動用モータ22が作動すると、傾斜輪21は、平歯車23、一体成形歯車24およびかさ歯車25を介して支持軸21aとともに回転する。また、支持軸21aの移動面Cに対する傾斜角度は、50〜80度で、傾斜輪21の下面は、支持軸21aに略90度の角度で直交している。
方向変更機構Bは、方向変更用モータ26と、平歯車27と、特殊歯車28とで構成されている。方向変更用モータ26は、移動用モータ22と同じモータで構成されており、モータ本体26a、回転軸26b、エンコーダ26cおよびねじ挿通部26dを備えている。この方向変更用モータ26は、モータ本体26aの下方に回転軸26bを位置させ、モータ本体26aの上方にエンコーダ26cを位置させるとともに、ねじ挿通部26dを前方側に位置させて配置されている。そして、方向変更用モータ26は、ねじ26eをねじ挿通穴18eおよびねじ挿通部26dのねじ挿通穴に通し、ねじ26eの先端にナット(図示せず)に螺合させて、ブロック18に固定されている。
平歯車27は、歯部27aを水平方向に向けた状態で、中心に形成された軸固定穴27bに回転軸26bが嵌合固定されており、方向変更用モータ26の作動により、回転軸26bとともに回転する。また、平歯車27には、原点位置を示すためのスリット27c(図12(b)参照)が上下に貫通して形成されている。このスリット27cは、平歯車27の歯部27aと軸固定穴27bとの中間部分に設けられており、径方向に延びる長円形に形成されている。なお、平歯車27で本発明に係る伝達歯車が構成される。
特殊歯車28は、平歯車27の後方で、一体成形歯車24の下方に配置されており、図10および図11(a)〜(d)に示した形状をしている。すなわち、特殊歯車28は、平歯車27に歯合する平歯車28aと、異形の軸体部28bとを一体成形して構成されている。軸体部28bは、上端部を平歯車28aの上方に僅かに突出させ、上下の1/2に近い下側部分を平歯車28aの下方に突出させた状態で平歯車28aの内部側に形成されている。また、軸体部28bの内部には、傾斜貫通孔28cが形成されており、これによって、軸体部28bは略円筒状になっている。
傾斜貫通孔28cの上端は、軸体部28bの上面の外周側部分で開口し、傾斜貫通孔28cの下端は、軸体部28bの下面の中央部分で開口している。このため、傾斜貫通孔28cは、特殊歯車28(平歯車28a)の軸心に対して傾斜しており、その傾斜角は、移動面Cに対して、50〜80度に設定されている。また、軸体部28bにおける傾斜貫通孔28cの開口を形成する部分の上下の端面は、それぞれ、傾斜貫通孔28cが延びる方向に直交する平面に形成されている。また、軸体部28bの上面中央には、略半円状の固定用凹部28dが形成されている。
このように構成された特殊歯車28の傾斜貫通孔28c内に支持軸21aが挿入され、固定用凹部28dに軸部24eの下端部が嵌合固定されており、これによって、移動機構Aと方向変更機構Bとが組み付けられて駆動部20が形成されている。なお、傾斜貫通孔28c内には、軸受け(図示せず)が設けられ、この軸受けの内部に支持軸21aが挿入されている。これによって、支持軸21aは特殊歯車28に対してスムーズに回転できる。また、支持軸21aの下端に固定された傾斜輪21が、特殊歯車28の下方に位置し、支持軸21aの上端に固定されたかさ歯車25が特殊歯車28の上方に位置しているため、傾斜輪21、支持軸21aおよびかさ歯車25が特殊歯車28から外れることはない。
このように構成された駆動部20は、傾斜輪21を傾斜輪挿通穴13a内に位置させ、モータ本体22aの下部およびエンコーダ22cを取付け穴15a内に位置させた状態で、ベース部品13に組み付けられている。また、平歯車27の外周前部の前方には、曲面部16bの湾曲面が位置しており、平歯車27の前部の上下は空間になっている。
フォトインタラプタ29は、発光部と受光部とを備えたセンサで構成されており、上下に延びる縦片29aと、縦片29aの上部から後方に延びる上片29bと、縦片29aの下端から後方に延びる下片29cとを備えている。そして、例えば、上片29bの下面後部に発光部が設けられ、下片29cの上面後部における発光部に対向する位置に受光部が設けられている。また、縦片29aの前部における上部と下端にそれぞれブロック18の係合穴18fに係合可能な係合突起29dが形成されている。
フォトインタラプタ29は、ブロック18の固定部18aの下方に配置され、縦片29aの上部を固定部18aの左右部分の間から上方に突出させるとともに、各係合突起29dを各係合穴18fに係合させてブロック18に組み付けられている。また、フォトインタラプタ29の上片29bは取付け穴16a内に位置し、下片29cは、ベース部品13の上下動にともなって取付け穴16a内と逃がし穴11b内との間を移動でき、上片29bと下片29cの間には、平歯車27の前部が位置する。平歯車27の回転によりスリット27cが平歯車27の前部に位置したときに、スリット27cは発光部と受光部との間に位置する。このため、図12(a)に示したように、発光部の発光を受光部が受光することができる。それ以外のときは、発光部の発光は平歯車27によって遮光され受光部が受光することはできない。
操作部30は、ベース部品13の上面に固定された設置台31の上面に取り付けられており、操作部本体32と、力覚センサ33と、基板34と、操作ピース35とで構成されている。設置台31は、長方形の板状部材を正面視が略コ字状の門形になるように形成して構成されており、駆動部20の前後方向の中央部分を覆うようにして、ベース部品13に固定されている。
この設置台31は、略正方形の天井部31aと、天井部31aの左右両縁部から下方に延びる略正方形の一対の側面部31bと、一対の側面部31bの下端からそれぞれ外部側にわずかに延びる一対の固定片31cとを備えている。天井部31aには上下に貫通する複数のねじ穴や軸挿通穴などからなる穴部31dが互いに間隔を保って形成され、各固定片31cの前部と中央部には、それぞれ上下に貫通する取付け穴31eが形成されている。
設置台31は、両固定片31cの各取付け穴31eにねじ31fを通し、その先端を、ベース部品13の各ねじ穴13eに螺合させてベース部品13に固定されている。また、天井部31aの中央には軸挿通穴からなる穴部31dが位置しており、この穴部31dに、軸部24eの上端部が抜け止めされた状態で回転可能に組み付けられている。これによって、一体成形歯車24および特殊歯車28が、設置台31から外れて下方に落下することを防止される。
操作部本体32は、位置決め固定部32aと収容部32bで構成されている。位置決め固定部32aは、左右の幅が天井部31aと略同じで、前後の長さが幅の略2倍になった板状に形成されており、前部の高さが後部の高さよりも少し高くなった段違いになっている。位置決め固定部32aの前部における左右両側には、それぞれ上下に貫通する前後一対のねじ挿通穴32cが形成されている。
収容部32bは、位置決め固定部32aの前部の上部に形成された円形収容部32dと、位置決め固定部32aの後部の上部に形成され、円形収容部32dの後部から後方に延びる四角収容部32eを備えている。円形収容部32dの左右部分は四角収容部32eよりも外部側に膨らんでおり、四角収容部32eの後端は開放されている。また、円形収容部32dの前方には、四角収容部32eの幅と同程度の幅の四角形の突出部32fが形成されている。この操作部本体32は、位置決め固定部32aの下面の段部を設置台31の天井部31aの後端部に合わせ、各ねじ挿通穴32cにねじ32gを通し、その先端を、ねじ穴からなる穴部31dに螺合させて設置台31に固定されている。
力覚センサ33は、リング式またはブロック式のひずみゲージの上部に上方に延びる可撓性を備えた棒状部を取付けて構成されており、棒状部が前後左右の360度の各方向に押圧操作されたときに、ひずみゲージに生じるひずみや変化量を電気信号に変換する。この力覚センサ33は、基板34に組み付けられている。基板34は、前後に長い板体に、複数の電子部品や電気回路を設けて構成されており、力覚センサ33の検出値に応じて、移動用モータ22および方向変更用モータ26の作動を制御する制御装置として機能する。すなわち、基板34には、制御部の他、移動用モータ22および方向変更用モータ26を作動させるためのプログラムや各種のデータを記憶する記憶部が備わっている。基板34は、操作部本体32の円形収容部32dと四角収容部32eにわたって前後に延びるように設置され、円形収容部32dの中心に力覚センサ33が位置している。
操作ピース35は、全体がドーム状に形成されており、その下部35aは短筒状に形成されている。下部35aの外径は、操作部本体32の円形収容部32dの内径よりも少し小さくなっている。また、操作ピース35の内面中央(上端)には、下方に僅かに突出した円筒状の突部が形成されており、その内部に、力覚センサ33の上端部が嵌合されている。このように構成された操作ピース35は、下部35aを円形収容部32d内に位置させて力覚センサ33に組み付けられており、円形収容部32d内のどの方向にでも移動できる。そして、この操作ピース35の移動によって、力覚センサ33はその移動方向に押圧される。また、基板34にはバッテリーおよび始動スイッチ等(図示せず)が接続されている。
つぎに、このように構成された全方向移動装置10の操作および動作について説明する。全方向移動装置10を移動させるときには、まず、図2(b),(c)に示したように、平面状の移動面Cの上に全方向移動装置10を置く。このとき、傾斜輪21の下端部が、全方向移動装置10を移動させるために充分な押圧力で移動面Cに接触していなければ、調節ねじ14eの調節により、台車部品11に対するベース部品13の高さ位置を変更して、傾斜輪21の下端部が、適正状態で移動面Cに接触するようにする。この場合、傾斜輪21が、移動面Cに接触してなければ、ベース部品13を下降させ、傾斜輪21の移動面Cへの接触により、脚部12のいずれかが移動面Cから浮き上がっていれば、ベース部品13を上昇させる。
ついで、始動スイッチをオン状態にする。ここでは、図2(b),(c)に示したように、傾斜輪21の下端部が後部に位置した状態を原点位置とする。そして、始動スイッチのオン操作により、方向変更用モータ26が作動して、傾斜輪21を図2(b),(c)の状態にする。なお、始動スイッチをオン状態にしたときに、傾斜輪21が原点位置に位置していれば、方向変更用モータ26は作動しない。このとき、平歯車27のスリット27cが、前方に位置してフォトインタラプタ29の受光部は発光部の発光を受光できる状態になっている。また、方向変更用モータ26が作動すると、平歯車27と特殊歯車28が連動して回転し、それにともなって、かさ歯車25が静止状態のかさ歯車24bの周囲を回転するとともに、傾斜輪21が特殊歯車28の軸周り方向に回転する。これによって、傾斜輪21の傾斜方向が変更される。
つぎに、操作部30の操作ピース35を手で持って、全方向移動装置10を移動させる方向に押圧操作する。このとき、全方向移動装置10を早く移動させるときには、操作ピース35を強く操作し、全方向移動装置10をゆっくり移動させるときには、操作ピース35をかるく操作する。この場合、操作ピース35を左側に操作すると、移動用モータ22は、傾斜輪21を下方から見た状態で時計周り方向に回転させるように作動する。これによって、全方向移動装置10は左方向に移動する。
このとき、移動用モータ22の作動により、平歯車23、一体成形歯車24およびかさ歯車25が連動して回転し、それにともなって、支持軸21aとともに傾斜輪21が支持軸21aの軸周り方向に回転する。この場合、特殊歯車28は静止状態に維持される。また、図2(b),(c)の状態から、操作ピース35を右側に押圧操作すると、移動用モータ22の回転軸22bは、操作ピース35を左側に操作したときと反対方向に回転する。これによって、傾斜輪21は下方から見た状態で反時計周り方向に回転し、全方向移動装置10は右方向に移動する。このときの移動用モータ22の回転角は、エンコーダ22cによって計測され、移動用モータ22は、エンコーダ22cの計測値が操作ピース35の操作力に対応する値になるように作動する。
全方向移動装置10を前方に移動させる場合には、操作ピース35を前側に押圧操作する。これによって、方向変更用モータ26が作動して、傾斜輪21の下端部を左側または右側に位置させる。このときの方向変更用モータ26の回転角は、エンコーダ26cによって計測され、傾斜輪21は正確に原点位置から90度回転する。同時に、移動用モータ22が作動して、傾斜輪21を、操作ピース35の操作力に応じた速度で回転させる。このとき、傾斜輪21が左側に位置していれば、傾斜輪21は右側から見た状態で時計周り方向に回転し、傾斜輪21が右側に位置していれば、傾斜輪21は左側から見た状態で反時計周り方向に回転する。
また、全方向移動装置10を後方に移動させる場合には、操作ピース35を後側に押圧操作する。これによって、方向変更用モータ26と移動用モータ22は、操作ピース35を前側に操作したときと反対方向に回転する。そして、全方向移動装置10は、操作ピース35の操作力に応じた速度で後方に移動する。操作ピース35をそれぞれ前後左右の斜め方向に操作した場合にも、操作ピース35の操作方向および操作力に応じて方向変更用モータ26と移動用モータ22が作動する。そして、全方向移動装置10は、操作ピース35の操作方向に向かって操作力に応じた速度で移動する。
以上のように、本実施形態に係る全方向移動装置10では、全方向移動装置10を走行させるための傾斜輪21が1個だけ備わっており、その傾斜輪21が移動面Cに対して傾斜して配置された支持軸21aの下端に固定されている。そして、傾斜輪21は、移動機構Aと方向変更機構Bの作動によって傾斜方向を変えながら回転するように構成されている。すなわち、移動機構Aの移動用モータ22が作動すると、傾斜輪21は、移動面Cに対して傾斜し一部を接触させた状態で、支持軸21aの軸周り方向に回転し、これによって、全方向移動装置10は、移動面C上で移動する。また、方向変更機構Bの方向変更用モータ26が作動すると、傾斜輪21は、支持軸21aとともに特殊歯車28の軸周り方向に回転し、これによって、全方向移動装置10は進行方向を変える。
以上のように、本実施形態によると、傾斜輪21が1個ですむとともに、モータが移動用モータ22と方向変更用モータ26の2個ですむため、全方向移動装置10の構造が単純になるとともに、製造コストの低下が可能になる。また、移動機構Aに、平歯車23,24aを含ませることにより、移動用モータ22を一体成形歯車24の周囲の任意の位置に設置することができるようになり、方向変更機構Bに平歯車27を含ませることにより、方向変更用モータ26を特殊歯車28の周囲の任意の位置に設置することができるようになる。このため、移動用モータ22と方向変更用モータ26を傾斜輪21に近いスペースに設置することができ、全方向移動装置10全体をコンパクトに形成することができる。
また、全方向移動装置10では、台車部品11の下面四隅に設けた脚部12を、鋼球12bと鋼球12bを回転可能に支受する支受部12aで構成したため、全方向移動装置10は安定した状態でスムーズに移動できる。さらに、支持部品を構成する台車部品11とベース部品13との間に上下位置調節部14を設けて、傾斜輪21の高さ位置を調節できるようにしたため、傾斜輪21を適度な押圧力で移動面Cに当接させることができる。また、棒状の力覚センサ33の上端にドーム状の操作ピース35を取付けて、操作ピース35を押圧操作するようにしているため、全方向移動装置10を走行させるための操作が簡単になる。
なお、本発明に係る全方向移動装置は、前述した実施形態に限るものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した実施形態では、移動機構Aに平歯車23,24aが備わっているが、これらの歯車は省略して、移動用モータ22で、かさ歯車24bを回転させるようにしてもよい。また、平歯車23,24aに代えてかさ歯車を用いてもよい。要は、移動用モータ22の作動により、かさ歯車24bを回転させることができる構成になっていればよい。
また、前述した実施形態では、方向変更機構Bに平歯車27が備わっているが、この歯車は省略して、方向変更用モータ26で、特殊歯車28を回転させるようにしてもよい。この場合、一体成形歯車24および軸部24eを方向変更用モータ26の上方に位置させるとともに、支持軸21aの軸方向の長さを長くし、さらに、かさ歯車24b,25の大きさを互いに歯合できる大きさにする。さらに、前述した実施形態では、操作部30を力覚センサ33および操作ピース35を備えたもので構成しているが、これに代えて、遠隔操作が可能なコントローラを用いてもよい。また、全方向移動装置のそれ以外の部分についても本発明の技術的範囲内で、適宜変更して実施することが可能である。