以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(1.第1の実施形態)
(1−1.システムの構成)
図1を参照して、本発明の一実施形態に係るシステムの構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るシステムの一構成例を示す図である。
図1を参照すると、第1の実施形態に係るシステム1は、圧延機10と、圧延機10の動作を制御する圧延制御装置20と、から主に構成される。
圧延機10は可逆式の圧延機であり、被圧延材2がテーブルロール170により搬送方向が変えられながら圧延機10を複数回(複数パス)通過することにより、圧延が行われる。具体的には、最初の圧延パスでは、被圧延材2が、前面側(図面左側)からテーブルロール170により圧延機10に送り込まれて、圧延が開始される。そして、圧延が行われた被圧延材2は、圧延機10の後面側(図面右側)へ抜けていく。更に、次の圧延パスでは、被圧延材2が圧延機10の後面側からテーブルロール170によって圧延機10に送り込まれて圧延が開始され、圧延が行われた後に圧延機10の前面側に抜けていく。以下、この圧延パスを複数回繰り返して行うことにより、被圧延材2は所望の板厚になるまで圧下される。
圧延機10は、ハウジング110の内部に、一対の上ワークロール121及び下ワークロール122が設けられるとともに、当該上ワークロール121及び下ワークロール122の上下に、それぞれ上バックアップロール123及び下バックアップロール124が設けられて構成される、4重式圧延機である。ただし、圧延機10は4重式のものには限定されず、4重式以外の多重式圧延機であってもよい。なお、以下の説明では、上ワークロール121、下ワークロール122、上バックアップロール123及び下バックアップロール124の少なくともいずれかを表現する際に、これらを単にロールと記載することがある。
上ワークロール121及び下ワークロール122は、それぞれ、ワークロールチョック131、132によって軸支された状態でハウジング110の内部に設けられる。また、上バックアップロール123及び下バックアップロール124は、それぞれ、バックアップロールチョック133、134によって軸支された状態でハウジング110の内部に設けられる。
第1の実施形態では、圧延機10は、いわゆるロールクロスミルである。圧延機10は、ロールクロス角を変更するためのロールクロス機構(図示せず)を備えている。また、システム1には、当該ロールクロス機構を駆動させるロールクロス駆動装置(図示せず)が設けられている。圧延制御装置20からの指示は当該ロールクロス駆動装置に入力され、当該ロールクロス駆動装置によって当該指示に従ってロールクロス機構が駆動されることにより、当該指示に応じた所望のロールクロス角が、上ワークロール121、上バックアップロール123、下ワークロール122及び下バックアップロール124に設定される。
また、詳細な機構の図示は省略しているが、圧延機10は、いわゆるロールベンディングミル又はロールシフトミルであってもよい。圧延機10は、圧延制御装置20からの制御により、そのロールベンディング力又はロールシフト量を変更可能に構成される。
なお、図1では、簡易的に、圧延制御装置20からの駆動制御のための指示が上ワークロール121、下ワークロール122、上バックアップロール123及び下バックアップロール124に入力されているように図示しているが、実際には、システム1には、ロールをクロスさせるように動作させるロールクロス駆動装置又はロールをシフトするように動作させるロールシフト駆動装置(ともに図1では図示せず)が設けられる。圧延制御装置20からの指示は当該ロールクロス駆動装置又は当該ロールシフト駆動装置に入力され、当該ロールクロス駆動装置又は当該ロールシフト駆動装置によって当該指示に従ってロールが駆動されることにより、所望のロールクロス角度又はロールシフト量が実現される。
ここで、一般的に、圧延において、被圧延材2の板クラウンを制御する際に調整されるクラウン制御機構としては、ロールベンダ機構、ロールクロス機構及びロールシフト機構が知られており、それぞれ、ロールベンディング力(より詳細にはロールベンダ機構に与えられるベンダ圧)、ロールクロス角及びロールシフト量を制御することでクラウン制御を行うことができる。第1の実施形態では、クラウン制御する際に、これらロールベンディング力(ロールベンダ圧)、ロールクロス角度及びロールシフト量のいずれが調整されてもよい。
なお、一般的に、ロールクロス機構又はロールシフト機構の応答は、ロールベンダ機構の応答に比べて遅い一方、ロールクロス機構又はロールシフト機構は、ロールベンダ機構に比較すると大きなクラウン制御能力を有している。従って、第1の実施形態において、板クラウンを制御する際に、ロールベンダ圧、ロールクロス角及び/又はロールシフト量のいずれを変更するかは、このような特性を考慮して、トータルでの圧延に掛かる時間に対する要請や、必要とされる板クラウンの制御量(変更量)等を考慮して、適宜決定されてよい。
圧延機10の上バックアップロール123のバックアップロールチョック133には、上ワークロール121及び下ワークロール122の間隔(ロール間隔)を調整する圧下装置150が設けられる。圧下装置150は、圧延制御装置20からの制御により、ロール間隔、すなわち圧下位置を調整する。また、圧下装置150は、ロードセルと一体的に構成されていてもよく、圧延中に上ワークロール121及び下ワークロール122に負荷される圧延荷重を測定することができる。測定された圧延荷重の値は、圧延制御装置20に送信される。
なお、第1の実施形態はかかる例に限定されず、圧下装置150とは別個の装置としてロードセルが圧延機10に設けられてもよい。また、圧下装置150及びロードセルが設けられる位置も上記の例に限定されず、圧下装置150及びロードセルは、下バックアップロール124のバックアップロールチョック134に設けられてもよい。
圧延機10の後面側には、板クラウン測定器160が設けられる。板クラウン測定器160は、圧延機10を通過した後の、すなわち所定の圧延パスが終了した段階での被圧延材2の板クラウンを測定する。測定された板クラウンの値は、圧延制御装置20に送信される。
なお、第1の実施形態はかかる例に限定されず、板クラウン測定器160は、圧延機10の前面側に設けられてもよく、あるいは両側に設けられてもよい。また、板クラウン測定器160ではなく、被圧延材2の平坦度を測定するための平坦度測定器が設けられてもよい。
圧延制御装置20は、圧延機10の動作を制御することにより、被圧延材2に対する複数パスの圧延を実行する。圧延制御装置20は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサであり得る。あるいは、圧延制御装置20は、これらのプロセッサ及びメモリ(例えばROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory))等の記憶素子が搭載された制御基板やコンピュータであり得る。圧延制御装置20を構成するプロセッサが所定のプログラムに従って各種の演算処理を実行することにより、圧延機10における各種の動作が実行される。更に、圧延制御装置20は、圧延機10と各種の情報をやり取りするための通信装置や、各種の情報を格納可能な記憶装置等を備えてもよい。
具体的には、圧延制御装置20は、被圧延材2の圧延開始前に、被圧延材2の種類(例えば、鋼板であれば鋼種)、圧延開始板厚、圧延終了板厚、板幅、ロールプロフィル状態、被圧延材温度等の圧延条件に基づいて、所定のパススケジュール計算を行い、所望の板厚、板クラウン及び平坦度を得るための圧延パス数を決めるとともに、パススケジュール(各圧延パスの圧下量配分)を初期設定する。この際、各圧延パスにおける圧下量や圧延速度、被圧延材の温度や種類等の情報に基づいて各圧延パスの圧延荷重が予測計算され、これらの情報に基づいて各圧延パスの出側における板クラウン及び各圧延パスでのクラウン制御量(例えばロールベンディング力)が設定される。そして、圧延制御装置20は、各圧延パスの実行前に圧下装置150、及びクラウン制御機構(例えばロールクロス機構)を、それぞれの設定値に従って駆動させることにより、当該設定値に応じた圧延を実行する。なお、圧延開始前におけるパススケジュール計算の方法としては、各種の公知の方法が適用されてよいため、ここではその詳細な説明は省略する。
第1の実施形態では、圧延開始後、m−1パス目の圧延パス(2≦m≦N、Nは総パス数)までは、上記のような設定値に応じたクラウン制御(例えば、ロールベンダ圧の制御)が実行される。そして、mパス目の圧延パスを開始する前の段階において(すなわち、m−1パス目の圧延パスが終了した段階において)、被圧延材2の板クラウン又は平坦度の測定値を用いてロールプロフィルの予測値を修正する処理、すなわちロールプロフィルの学習処理が行われる。そして、修正されたロールプロフィルを用いて、mパス目以降の圧延パスにおけるクラウン制御量(設定値からの板クラウンの変更量)が計算され、当該クラウン制御量に従ってmパス目以降の圧延パスでの圧延が行われる。
以下では、第1の実施形態に係る圧延制御装置20において行われる、上記のロールプロフィルの修正処理、及び修正後のロールプロフィルを用いた圧延制御について、詳細に説明する。なお、以下の説明では、簡単のため、「mパス目の圧延パス」のことを「mパス」等とも略記する。
(1−2.圧延制御装置での処理について)
(1−2−1.処理の概要)
まず、圧延制御装置20によって実行される、第1の実施形態に係る圧延制御方法の概要について説明する。上述したように、厚板圧延に係る複数パスでの圧延においては、圧延開始前に最終的な製品における板クラウン及び平坦度を考慮して、パススケジュール(各圧延パスの圧下量配分)が設定される。そして、その圧下量配分に応じた各圧延パスの出側での板厚の設定値を実現するように圧延が開始される。
しかしながら、各圧延パスにおける被圧延材の温度予測誤差等により、圧延荷重には予測誤差が生じてしまい、圧延荷重の設定計算値と実際の値とは必ずしも一致しない。そのため、各圧延パスの出側(すなわち、次の各圧延パスの入側)における被圧延材の板クラウンは、必ずしもその設定計算値とは一致していない。
一方、たとえ圧延荷重に予測誤差が生じなかったとしても、設定計算に用いたロールプロフィルに誤差があった場合には、各圧延パスの出側(すなわち、次の各圧延パスの入側)における被圧延材の板クラウンの設定計算値あるいは実績計算値は、必ずしもその測定値とは一致しない。ここで、実績計算値とは、圧延荷重の測定値や、入出側板厚の測定値(板厚については、圧延荷重の測定値と圧延機の剛性とから計算されるゲージメータ板厚を用いることも少なくない)、並びに、ロールプロフィルを用いて板クラウン計算モデルから算出される計算値である。実際の設備においては、測定器の設置位置や設置台数等の関係から、常に測定値(例えば、板クラウン)が得られるとは限らないため、実際の値を表し得る(測定値を代用し得る)ものとして、このような実績計算値が好適に用いられ得る。
そこで、第1の実施形態では、m−1パス目(2≦m≦N)の圧延パスが終了した段階で、mパス目の圧延パス入側での被圧延材2の板クラウン又は平坦度の測定値を用いてロールプロフィルを学習し、その学習されたロールプロフィルを用いてmパス目以降の圧延を行う。ロールプロフィルの学習処理では、mパス入側での板クラウン又は平坦度の測定値が、実績計算値と一致するように、ロールプロフィルが修正される。
mパス目以降の圧延については、修正されたロールプロフィルを用いて、m〜Nパス目の各圧延パスについて出側での板クラウンが所望の値と一致するようなクラウン制御量を計算し、当該m〜Nパス目の各圧延パスにおいて当該クラウン制御量を付与し(すなわち、当該クラウン制御量を実現するようにクラウン制御機構(ロールベンダ機構、ロールクロス機構及び/又はロールシフト機構)を駆動させ)、mパス目以降の圧延パスでの圧延を行う。ここで、m〜Nパス目の各圧延パスについての板クラウンの所望の値は、最終パス(Nパス)出側において板クラウンが製品の板クラウンの狙い値(すなわち、Nパス出側での板クラウンの当初設定値)に一致するような値として、圧延条件から既存のクラウンモデルを用いて計算することにより求められる。また、例えば、圧延機のクラウン制御能力が不足したときには、製品の板クラウンの狙い値を公差の範囲内でより大きな値へ変更して、所望の値を与えてもよい。
この際、当該クラウン制御量としては、mパス目以降の各圧延パスの出側において板クラウンが所望の板クラウンと一致するようなクラウン制御量が圧延パスごとに計算されて付与されてもよいし、Nパス出側における板クラウン(すなわち、最終製品における板クラウン)が所望の板クラウンと一致するような、mパス目からNパス目の圧延パスにおける一律のクラウン制御量が計算されて付与されてもよい。以下の説明では、便宜的に、前者のクラウン制御量に従った板クラウン制御のことを「圧延パスごとに異なるクラウン制御量を付与する板クラウン制御」と呼称し、後者のクラウン制御量に従った板クラウン制御のことを「全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御」と呼称することとする。
ここで、圧延パスごとに異なるクラウン制御量を付与する板クラウン制御では、圧延パスごとにクラウン制御量を変更する必要があるため、ロールベンディング機構のような高応答なクラウン制御機構を具備する圧延機が実用上は必須となる。また、mパス目の圧延パスに注目すると、m−1パス出側における板クラウンの測定値と設定値との乖離が大きい場合には、m回目の圧延パスにおいては、板クラウンを大幅に変更させるように圧延を行う必要が生じる。しかしながら、上述したように、ロールベンディング力によるクラウン制御能力はさほど大きくない。従って、m−1パス出側における板クラウンの測定値と設定値との乖離が大きい場合には、ロールベンディング力を調整したとしても、mパス目出側における板クラウンが設定値と一致するようにmパス目の圧延を行うことは困難である可能性がある。
ここで、ロールクロス機構又はロールシフト機構は、ロールベンディング機構に比べて、クラウン制御能力が大きいことが知られている。従って、圧延パスごとに異なるクラウン制御量を付与する板クラウン制御において、ロールベンディング力に代えて、ロールクロス角度又はロールシフト量を変更することにより、板クラウンの制御を行うことも考えられる。しかしながら、ロールベンディング力の変更は比較的高応答であるのに対して、ロールクロス角又はロールシフト量の変更は相対的に応答性が低い。従って、圧延パスごとにロールクロス角又はロールシフト量を変更することは、圧延に係るトータルでの作業時間の増大化を招く恐れがあるため、あまり現実的でない。加えて、ロールクロス角又はロールシフト量を変更するための作業時間の増大は、被圧延材の温度低下の観点からも好ましくない。
一方、全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御では、mパス目からNパス目の圧延パスに対し「一律の」クラウン制御量が計算、付与されるため、当該一律のクラウン制御量に従って、mパス目の圧延パス実行前に1度だけクラウン制御機構を駆動させればよい。従って、圧延パスごとにロールクロス角、ロールシフト量及び/又はロールベンディング力を変更するという煩雑な制御を行うことなく、より簡易な制御で最終的な製品において所望の板クラウンを実現することができる。従って、第1の実施形態では、修正されたロールプロフィルを用いたmパス以降の圧延においては、圧延パスごとに異なるクラウン制御量を付与する板クラウン制御よりも、全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御が実行される方が好ましいと言える。
なお、全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御では、mパス目の圧延パス実行前に行われるクラウン制御量に応じたロールクロス角、ロールシフト量及び/又はロールベンディング力の調整において、好適に、ロールクロス角又はロールシフト量が調整され得る。上述したように、ロールクロス角又はロールシフト量を変更する場合には、ロールベンディング力を変更する場合に比べて、板クラウンをより大きな範囲で変更することが可能となるため、ロールクロス角又はロールシフト量を変更することにより、m−1パス出側における板クラウンの測定値と設定値との乖離が大きい場合であっても、より適切に板クラウンを制御することが可能になる。このとき、全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御では、上記のように、1度だけロールクロス角又はロールシフト量が変更されればよいため、その変更に比較的長時間を要したとしても、圧延に係るトータルでの作業時間に与える影響は小さい。また、ロールクロス角又はロールシフト量の変更を、比較的板厚が厚い途中パスで行えば、その変更に多少時間が掛かったとしても、被圧延材の温度低下を抑えることができる。
以上、第1の実施形態に係る圧延制御方法の概要について説明した。以上説明したように、第1の実施形態では、複数圧延パスからなる圧延における途中でロールプロフィルの学習を行い、その学習結果を以降の圧延パスでの圧延に反映する。
ここで、従来、圧延において、先行材の圧延実績に基づいてロールプロフィルを修正し、次の被圧延材に対する圧延時における設定計算等に、その修正したロールプロフィルを用いことは、広く行われている。しかしながら、この方法では、例えば被圧延材の板幅が先行材と大きく異なる場合には、先行材の圧延実績に基づいて修正されたロールプロフィルを用いたとしても、必ずしも次の被圧延材におけるロールプロフィルの推定精度が向上するとは限らない。加えて、上述したような先行材との板幅変化が大きい場合であってもロールプロフィル学習を安定的なものとするために、そのゲインを小さく設定せざるを得なかった。一方、第1の実施形態によれば、同一の圧延機における同一の被圧延材に対する複数パスの圧延において、途中パスでの板クラウンの測定値に基づいてロールプロフィルが修正され、修正後のロールプロフィルを用いて残りの圧延パスでの圧延における板クラウンが制御される。この場合には、ロールプロフィル学習に用いた被圧延材(板クラウンを測定した被圧延材)と制御対象の被圧延材とが同一であることから、ロールプロフィル誤差を高精度に推定、補償できる。従って、ロールプロフィル学習の効果をより好適に得ることができる。
なお、第1の実施形態に係る圧延制御方法は、好適に、例えば板厚が15mm以上であるような、比較的厚手の厚板に対する圧延に対して適用され得る。これは、比較的厚手の被圧延材においては、板クラウン比率の変化が平坦度に与える影響が小さいからである。
より詳細に説明すると、被圧延材の平坦度を示す指標として、伸びひずみ差が知られている。iパス目(1≦i≦N)の出側における伸びひずみ差Δεiは、下記数式(1)で表される。
ここで、Hiはiパス入側の板厚、hiはiパス出側の板厚、CHiはiパス入側の板クラウン、Chiはiパス出側の板クラウンである。また、ξは形状変化係数である。伸びひずみ差Δεiがゼロに近付くほど被圧延材は平坦であるといえる。
上記数式(1)からも明らかなように、一般的に、板クラウン比率(CHi/Hi、Chi/hi)が入側と出側とで一定になるように圧延を行った場合には、高品質な平坦度が確保され得ることが知られている。逆に、板クラウン比率(CHi/Hi、Chi/hi)が入側と出側とで大きく変化した場合には、耳波(端伸び)や中伸びと呼ばれる平坦度不良が生じ、被圧延材の平坦度は悪化する。
しかしながら、上記数式(1)における形状変化係数ξは、被圧延材の板厚が厚い場合には比較的小さな値を取り、被圧延材の板厚が薄い場合には比較的大きな値を取ることが知られている。従って、被圧延材の板厚が比較的厚い場合には、板クラウン比率の変化が当該被圧延材の平坦度に及ぼす影響は小さい。従って、第1の実施形態に係る圧延制御方法を、比較的厚手の厚板に対する圧延に対して適用する場合には、被圧延材の平坦度に及ぼす板クラウン比率変化の影響は小さいので、圧延パスにおいて比較的大きな板クラウン比率変化を許容でき、所望の板クラウンも実現することが可能になるのである。
(1−2−2.処理手順)
図2及び図3を参照して、第1の実施形態に係る圧延制御方法の処理手順について説明する。ここでは、比較のため、従来の圧延制御方法の処理手順についても併せて説明する。図2は、従来の圧延制御方法の処理手順の一例を示すフロー図である。図2では、従来の圧延制御方法の一例として、特許文献4に記載の方法に対応する処理手順を示している。また、図3は、第1の実施形態に係る圧延制御方法の処理手順の一例を示すフロー図である。図3では、第1の実施形態に係る圧延制御方法の一例として、上述した全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御に対応する処理手順を示している。
まず、従来の圧延制御方法の処理手順について説明する。図2を参照すると、従来の圧延制御方法では、まず、圧延開始前にパススケジュール計算が行われ、パス回数や、各圧延パスにおける圧下配分、クラウン制御量が決定される(ステップS101)。
次に、設定されたパススケジュールに対する各圧延パスでの圧延荷重、及び板クラウンの設定値が計算される(ステップS103)。
次に、計算されたパススケジュールに従って、各パス出側板厚の設定値を実現するように、圧延が実行される(ステップS105)。
次に、mパス(2≦m≦N)入側での板クラウン及び平坦度の測定値に基づいて、ロールプロフィルが学習(修正)される(ステップS107)。なお、図示する例では、板クラウン及び平坦度の測定値の両方を用いてロールプロフィルを修正しているが、例えば特許文献1−3に記載の方法を用いれば、板クラウン及び平坦度の測定値のいずれか一方のみを用いてロールプロフィルを修正することも可能である。
次に、修正されたロールプロフィルを用いて、各圧延パス出側の板クラウンが設定値に一致するような、mパス以降の各圧延パスのクラウン制御量が計算される(ステップS109)。ステップS109における具体的な手順としては、まず、修正されたロールプロフィルを用いて、mパス出側での板クラウンが計算される。次いで、計算されたmパス出側での板クラウンに基づいて、mパス以降の各圧延パス出側の板クラウンがそれぞれステップS103で計算された設定値に一致するような、当該mパス以降の各圧延パスのクラウン制御量が計算される(詳細な手順については下記(1−2−3.処理の詳細)を参照)。
そして、計算されたクラウン制御量に従ってmパス以降の圧延が実行される(ステップS111)。
次に、第1の実施形態に係る圧延制御方法の処理手順について説明する。図3を参照すると、第1の実施形態に係る圧延制御方法では、ステップS201〜ステップS205における処理は、図2に示す従来の圧延制御方法におけるステップS101〜ステップS105における処理と同様である。
すなわち、第1の実施形態に係る圧延制御方法では、まず、圧延開始前にパススケジュール計算が行われ、パス回数や、各圧延パスにおける圧下配分、クラウン制御量が決定される(ステップS201)。次いで、設定されたパススケジュールに対する各圧延パスでの圧延荷重、及び板クラウンの設定値が計算される(ステップS203)。次いで、計算されたパススケジュールに従って、各パス出側板厚の設定値を実現するように、圧延が実行される(ステップS205)。
第1の実施形態に係る圧延制御方法では、次に、mパス入側での板クラウン又は平坦度の測定値が実績計算値と一致するように、ロールプロフィルが学習(修正)される(ステップS207)。
次に、修正されたロールプロフィルを用いて、Nパス出側における板クラウン(すなわち、最終的な製品板クラウン)が所望の板クラウンと一致するような、mパス以降に一律のクラウン制御量が計算される(ステップS209)。ステップS209における具体的な手順としては、まず、修正されたロールプロフィルを用いて、mパス出側での板クラウンが計算される。次いで、計算されたmパス出側での板クラウンに基づいて、Nパス出側における板クラウンが狙い値(ステップS203で計算された設定値)と一致するような、mパス以降に一律のクラウン制御量が計算される(詳細な手順については下記(1−2−3.処理の詳細)を参照))。
そして、計算されたクラウン制御量に従ってmパス以降の圧延が実行される(ステップS211)。具体的には、mパス開始前に、計算されたクラウン制御量に応じてロールクロス角度、ロールシフト量及び/又はロールベンディング力が1度だけ調整され、その変更されたロールクロス角度、ロールシフト量及び/又はロールベンディング力に従ってmパス以降の圧延が実行される。
以上、従来の圧延制御方法及び本実施形態に係る圧延制御方法の処理手順について説明した。
ここで、以上説明したように、従来の圧延制御方法では、修正後のロールプロフィルを用いたmパス以降の各圧延パスにおける板クラウン制御では、あくまでも当初設定した各圧延パス出側の板クラウンを実現するように板クラウン制御が行われる。そのため、特にロールプロフィル学習を行った直後の圧延パス(mパス)におけるクラウン制御量を大きく変更する必要が生じ得る。この場合、圧延機のクラウン制御能力が不足してしまう事態が起こり得る。これに対して、第1の実施形態に係る圧延制御方法では、圧延パスごとに異なるクラウン制御量を付与する板クラウン制御、及び全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御のいずれにおいても、mパス以降の各圧延パスに対するクラウン制御量の与え方に違いはあるものの、Nパス出側において板クラウンが所望の板クラウンに一致するように、当該mパス以降の各圧延パスにおける板クラウン制御が行われる。そして、このとき、ロールプロフィル学習を行った直後の圧延パス(mパス)出側における板クラウンを当初設定した当該パス出側板クラウンと等しくすることまでは必須としない。そのため、mパス以降の圧延パスにおけるクラウン制御量を従来法に比べて小さくすることが可能であり、圧延機のクラウン制御能力の範囲内に留めることができる。従って、第1の実施形態によれば、従来法に比べて、板クラウンをより精度良く造り込むことが可能になる。
また、従来の圧延制御方法では、mパス以降の各圧延パスにおいて、当該圧延パスごとに異なるクラウン制御量が付与される。従って、上述した第1の実施形態に係る圧延パスごとに異なるクラウン制御量を付与する板クラウン制御と同様の不都合(すなわち、実質的に、クラウン制御機構としてロールベンダ機構しか用いることができず、大きな板クラウンの変更を伴う板クラウン制御が行えないこと等)が顕現し得る。これに対して、第1の実施形態に係る全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御によれば、mパス以降の圧延パスごとにクラウン制御量を変更しなくてよいため、上記不都合を解消することが可能になる。
また、第1の実施形態に係る全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御では、同一の圧延機における同一の被圧延材に対する複数パスの圧延において、mパス入側での板クラウン又は平坦度の測定値を用いて、ロールプロフィルの修正が行われる。従って、第1の実施形態によれば、ロールプロフィル学習に用いた被圧延材(板クラウンを測定した被圧延材)と制御対象の被圧延材とが同一であることから、ロールプロフィル誤差を高精度に推定、補償できるため、ロールプロフィル学習の効果をより好適に得ることができる。
また、第1の実施形態によれば、mパス目以降の圧延制御において、例えば上記特許文献2に記載の技術のような圧下量配分の再計算は行われない。従って、制御に要する時間をより短時間に抑えることができ、圧延に係るトータルでの作業時間を増大させることがない。従って、操業効率の低下を招くことなく、より板クラウンの造り込み精度が高い製品を得ることができる。また、板クラウンの造り込み精度が向上することにより、板クラウンが規格から外れることによる歩留まりの低下を抑制することができ、生産性を向上させることができる。
(1−2−3.処理の詳細)
第1の実施形態において圧延制御装置20において実行される処理についてより具体的に説明する。なお、図3に示すステップS201〜ステップS205、ステップS211における処理は、従来用いられている各種の方法によって実行可能であるため、ここではその説明を省略する。ここでは、図3に示す各処理の中でも、第1の実施形態に特徴的な処理である、ステップS207及びステップS209における処理、すなわち、ロールプロフィルを修正する処理、及びNパス出側における板クラウンが所望の板クラウンとなるようなmパス以降に一律のクラウン制御量を計算する処理について詳細に説明する。
以下では、一例として、クラウンの変化を示すモデル式として下記数式(2)を用いた場合における、ステップS207及びステップS209における処理について説明する。
ここで、Hi、hi、CHi及びChiは、上記数式(1)と同様のものである。また、Ciはiパスにおけるメカニカルクラウン、ηiはiパスにおけるクラウン比率遺伝係数である。なお、上記数式(2)において、iパス出側の板厚hi及び板クラウンChiは、それぞれ、i+1パス入側の板厚Hi+1及び板クラウンCHi+1に等しいことに注意されたい。
ここで、クラウン比率遺伝係数ηiは、各種の物理モデルによって求めることができる定数である。また、メカニカルクラウンCiは、ロールプロフィルや圧延荷重に伴うロール変形に依存する。上記(1−1.システムの構成)で、板クラウンを制御するために調整され得る制御量として、ロールベンディング力(ロールベンダ圧)、ロールクロス角及びロールシフト量等が知られていることについて述べたが、これらはいずれも、メカニカルクラウンに関する制御量であり得る。このように、上記数式(2)からも、メカニカルクラウンに関する制御量であるロールベンディング力(ロールベンダ圧)、ロールクロス角及び/又はロールシフト量を制御することにより、板クラウンを制御可能であることが分かる。
上記数式(2)において、メカニカルクラウンCiにロールプロフィルの誤差が含まれているとする。当該誤差を補償し得るようなロールプロフィル補償量をΔCR errとすると、上記数式(2)から、ロールプロフィル誤差が補償された関係式は、下記数式(3)のように書ける。
上記数式(3)を、i=1〜m−1まで書き下すと、下記数式(4)を得る。
第1の実施形態では、m−1パス目の圧延が終了した段階で、圧延制御装置20は、上記数式(4)を用いて、当該m−1パス出側での板クラウンの測定値が、実績計算値Chm−1と一致するような、ロールプロフィル補償量ΔCR errを求める。これは、ロールプロフィルを修正する処理、すなわち図3に示すステップS209における処理に対応する。
ここで、求めたロールプロフィル補償量ΔCR errを用いて、上記数式(3)に従ってmパス以降のクラウン制御量を求めれば、ロールプロフィル誤差が補償されたクラウン制御量が算出され得る。しかしながら、mパス目の圧延が開始される段階で、既に、板クラウンの実績計算値(=測定値)と設定値との間には乖離が存在しているため、当該乖離の分を補償した上で、mパス以降のクラウン制御量を求める必要がある。
従って、圧延制御装置20は、これから行う圧延パス(mパス〜Nパス)について、下記数式(5)に従ってNパス出側の板クラウンChNを計算し、その計算値が所望の値(最終的に製品に求められる板クラウン)と一致するようなクラウン制御変更量ΔCcorrectを求める(図3に示すステップS211における処理に対応)。
そして、圧延制御装置20は、求められたクラウン制御変更量ΔCcorrectを実現するようにロールクロス角度、ロールシフト量及び/又はロールベンダ圧を変更し、mパス以降の圧延を実行する。
以上、圧延制御装置20において実行される処理、特に図3に示すステップS207及びステップS209における処理について詳細に説明した。なお、上記の具体例では、クラウンモデルとして上記数式(2)を用いていたが、第1の実施形態はかかる例に限定されない。クラウンモデルは、上記数式(2)以外にも様々なものが知られている。第1の実施形態では、クラウンモデルとしては、各種の公知のものが用いられてよい。また、上記の具体例では、ロールプロフィルを修正するために板クラウンの測定値が用いられていたが、上述したように、平坦度の測定値に基づいて(具体的には、平坦度の測定値が実績計算値と一致するように)、ロールプロフィルが修正されてもよい。
(1−3.圧延制御装置の機能構成)
図4を参照して、以上説明した第1の実施形態に係る圧延制御方法を実行するための、圧延制御装置20の機能構成について説明する。図4は、第1の実施形態に係る圧延制御装置20の機能構成の一例を示すブロック図である。
図4を参照すると、第1の実施形態に係る圧延制御装置20は、その機能として、測定値取得部201と、演算部203と、駆動制御部205と、記憶部207と、を有する。
測定値取得部201は、圧下装置150及び板クラウン測定器160から、圧延荷重、板厚、板クラウンの測定値を受信する通信装置によって実現される。測定値取得部201は、圧延荷重の測定値を、圧延中において随時取得することができる。また、測定値取得部201は、板厚及び板クラウンの測定値を、いずれかの圧延パスが終了したタイミングで取得することができる。測定値取得部201は、取得した各種の測定値についての情報を、演算部203に提供する。
なお、測定値取得部201は、取得した各種の測定値についての情報を記憶部207に格納してもよく、演算部203は、記憶部207にアクセスすることにより、当該測定値についての情報を取得してもよい。
演算部203は、CPU等の処理回路によって実現される。演算部203では、上記の図3に示すステップS201〜ステップS209における各処理が実行される。これらの各処理の詳細については既に説明しているため、ここではその説明は省略する。演算部203は、計算したクラウン制御量についての情報を、駆動制御部205に提供する。
なお、演算部203は、計算したクラウン制御量についての情報を記憶部207に格納してもよく、駆動制御部205は、記憶部207にアクセスすることにより、当該クラウン制御量についての情報を取得してもよい。
駆動制御部205は、CPU等の処理回路と、外部装置に信号を送信する通信装置によって実現される。駆動制御部205では、上記の図3に示すステップS211における処理が実行される。具体的には、駆動制御部205は、演算部203によって計算されたクラウン制御量に従って、圧延機10を駆動させる。例えば、駆動制御部205は、ロールクロス駆動装置又はロールシフト駆動装置(ともに図1では図示せず)を動作させ、ロールを、計算されたクラウン制御量に応じた分だけ移動させる。あるいは、駆動制御部205は、ロールベンディング駆動装置(図1では図示せず)を動作させ、ロールベンダによって、計算されたクラウン制御量に応じたロールベンディング力をロールに負荷させる。
記憶部207は、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶装置、半導体記憶装置、光記憶装置、又は光磁気記憶装置等の各種の記憶装置によって実現され得る。記憶部207には、圧延制御装置20における処理に係る各種の情報が格納され得る。例えば、記憶部207には、測定値取得部201によって取得された各種の測定値が格納される。また、例えば、記憶部207には、演算部203による演算処理に使用される各種のパラメータや、当該演算処理の途中経過、当該演算処理の結果等が格納される。
以上、第1の実施形態に係る圧延制御装置20の機能の一例について説明した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアによって構成されていてもよい。また、圧延制御装置20を実現するための構成は、実施する時々の技術レベルに応じて適宜変更され得る。
なお、圧延制御装置20の具体的な装置構成は限定されない。例えば、以上説明した圧延制御装置20の機能は、必ずしも1つの装置によって実現されなくてもよい。例えば、図示する機能のうちのいくつかを実行する一の装置と、残りの機能を実行する他の装置と、が通信可能に接続されることにより、圧延制御装置20と同様の機能が、複数の装置の協働によって実現されてもよい。
また、上述のような第1の実施形態に係る圧延制御装置20の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータなどに実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することが可能である。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等であり得る。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信されてもよい。
(1−4.変形例)
以上説明した第1の実施形態は、以下のように構成されてもよい。
例えば、上述した実施形態では、板クラウンが所望の値と一致するように、修正されたロールプロフィルを用いてm〜Nパス目の各圧延パスにおけるクラウン制御量が計算されるが、このクラウン制御量は、最終パス(Nパス)出側において板クラウンが製品の板クラウンの狙い値に一致するような値として計算されていた。ただし、第1の実施形態はかかる例に限定されない。例えば、m〜Nパス目の各圧延パスにおけるクラウン制御量を計算する際に最終的に目標とする板クラウンは、Nパス出側の板クラウンでなくてもよい。つまり、第1の実施形態では、tパス(m≦t≦N)出側での板クラウンが狙い値(当初設定値)に一致するようなm〜tパス目の各圧延パスの出側での板クラウンの所望の値が計算され、当該所望の値を実現するようなm〜tパス目の各圧延パスにおけるクラウン制御量が計算され、この計算されたクラウン制御量を付与してm〜tパス目の各圧延パスにおける圧延が行われてよい(上述した実施形態は、t=Nの場合に対応する)。以下、このクラウン制御量を計算する際に出側板クラウンが所望の値になるようにする目標とする圧延パス(tパス)のことを、目標パスとも呼称する。t≠Nの場合には、例えば、t+1〜Nパス目の各圧延パスについては、これらの各圧延パスの出側における板クラウンが当初設定値に一致するような各圧延パスにおけるクラウン制御量が、修正後のロールプロフィルを反映して改めて計算され、計算されたクラウン制御量を付与して各圧延パスでの圧延が行われることとなる。
ただし、t=mの場合、あるいはtがmと近い値である場合には、ロールプロフィルを修正した直後の圧延パス(すなわちmパス)、あるいはその数パス後の圧延パスにおいて、その出側板クラウンが当初設定値と一致するように、圧延が行われることとなる。この場合には、特にロールプロフィル学習を行った直後の圧延パス(mパス)におけるクラウン制御量を大きく変更する必要が生じ得るため、圧延機のクラウン制御能力が不足してしまうという、上述した従来の圧延制御方法と同様の不都合が生じる恐れがある。従って、tは、Nに近い値に設定されることが好ましく、t=Nであることがより好ましい。
なお、t≠Nの場合における板クラウン制御の具体例については、図7を参照して後述する。
また、上述した実施形態では、mパス以降の各圧延パスにおける板クラウン制御として、圧延パスごとに異なるクラウン制御量を付与する板クラウン制御、及び全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御について説明した。ただし、第1の実施形態はかかる例に限定されない。第1の実施形態では、tパス出側での板クラウンが狙い値(当初設定値)に一致するように、m〜tパス目の各圧延パスの出側での板クラウンが制御されればよく、これらm〜tパス目の各圧延パスに対するクラウン制御量の与え方は任意であってよい。例えば、具体的な例を挙げて説明すると、後述する図6に示すように、m=6として第1の実施形態に係る圧延制御方法を適用した場合における板クラウンの変化は、当該図6における太い実線で示される。図6では、一例として、全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御を適用した場合における板クラウンの変化を示しているが、5パス出側の板クラウンの値(約0.300mm)から11パス出側(11は最終パスNである)の板クラウンの当初設定値(約0.070mm)までの板クラウンの変化(すなわち、5パス〜11パスまでの太い実線の軌跡)は、図6に示すものに限定されず、任意であってよい。
例えば、mパス目からkパス目(m≦k<t)と、k+1パス目からtパス目とで、それぞれ異なる一律のクラウン制御量を付与してもよい。あるいは、例えば、m〜tパス目の圧延パスをより多くの区分に分割し、区分ごとに一律のクラウン制御量を付与してもよい(当該区分を各圧延パスにまで細かく分割したものが、圧延パスごとに異なるクラウン制御量を付与する板クラウン制御に対応する)。ただし、この場合も、クラウン制御量を大きく変更する必要が生じた場合には、圧延機のクラウン制御能力が不足してしまう事態が生じ得るため、クラウン制御量の変更量が圧延機のクラウン制御能力の範囲内に収まるように、m〜tパス目の各圧延パスに対するクラウン制御量の与え方が設定されることが好ましい。また、一律のクラウン制御量を付与する区分を多く設ければ設けるほど、クラウン制御量を変更する回数が増加することとなる。従って、クラウン制御量を変更する間は圧延を停止する必要があることに鑑みれば、操業効率が低下することが懸念される。よって、操業効率を向上させる観点からは、当該区分の数は少ない方が好ましく、当該区分の数を1とすること、すなわち全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御を適用することがより好ましいと考えられる。
また、m〜tパス目の各圧延パスにおける圧延と、t+1〜Nパス目の各圧延パスにおける圧延とで、圧延制御の方法を変更してもよい。具体的には、上記数式(1)を参照して説明したように、被圧延材の板厚が比較的薄い場合には、板クラウン比率の変化が当該被圧延材の平坦度に及ぼす影響が大きくなる。つまり、被圧延材の板厚が比較的薄くなってから、板クラウン比率が大きく変化するような圧延を行うと、当該被圧延材の平坦度が悪化する恐れがある。一方、本実施形態に係る圧延制御方法では、m〜tパス目の各圧延パスにおいて、修正したロールプロフィルを用いて計算し直したクラウン制御量に従って圧延が行われることとなるから、このm〜tパス目の各圧延パスでの圧延においては、板クラウン比率が比較的大きく変化してしまう可能性がある。従って、第1の実施形態では、t+1〜Nパス目の各圧延パスについては、当初設定されたNパス出側での板クラウンの設定値を狙う圧延制御ではなく、当該各圧延パスでの板クラウン比率が一定となるような圧延制御を行ってもよい。このような圧延制御の切り替えを行うことにより、Nパス出側において所望の板クラウンに近い板クラウンを実現しつつ、平坦度をより向上させることができる。
このような圧延制御の切り替えを行う場合には、tの具体的な値は、各圧延パスにおける被圧延材の板厚に基づいて、各圧延パスにおいて所望の平坦度が実現され得るように適宜決定されてよい。具体的には、tパスとしては、当該tパス目の入側板厚が、それ以降の各圧延パスにおいて板クラウン比率が一定となるような圧延を行わないと平坦度不良が顕在化し得る領域に属さないような圧延パスが選択されてよい。各圧延パスにおいて板クラウン比率が一定となるような圧延を行わないと平坦度不良が顕在化し得る領域の境界となる具体的な被圧延材の板厚は、被圧延材の種類(例えば、鋼板であれば鋼種)、サイズ(板幅)等によって適宜設定されてよいが、例えば、20mm程度である。つまり、例えば、入側板厚が20mm以上である圧延パスのいずれかが、tパス目として設定され得る。このとき、入側板厚が20mm以上である圧延パスの内、最も入側板厚が薄い圧延パスをtパス目としてもよい。この場合、各圧延パスにおいて板クラウン比率が一定となるような圧延を行わないと平坦度不良が顕在化し得る領域に侵入する直前の圧延パスまでは、Nパス出側における板クラウンの当初設定値を狙う圧延制御が行われ、当該領域に侵入した直後の圧延パスから板クラウン比率が一定となるような圧延制御が行われることとなるため、良好な平坦度を得つつ、Nパス出側において所望の板クラウンにより近い板クラウンを実現することが可能になる。
(2.第2の実施形態)
以上説明したように、第1の実施形態では、圧延開始後、m−1パス目の圧延パス(2≦m≦N)までは、当初設定値に応じたクラウン制御が実行される。そして、mパス目の圧延パスを開始する前の段階において、被圧延材の板クラウン又は平坦度の測定値を用いてロールプロフィルの学習処理が行われる。そして、修正されたロールプロフィルを用いて、Nパス目の圧延パスについて板クラウンが狙い値(当初設定値)と一致するようなクラウン制御量が計算され、当該クラウン制御量を付与してmパス目以降の圧延パスでの圧延が行われる。
ただし、本発明はかかる例に限定されない。例えば、rパス(2≦r≦N)入側においてロールプロフィルの学習処理が行われ、mパス(r≦m≦N)以降の各圧延パスにおいて修正されたロールプロフィルを用いて計算されたクラウン制御量に従った圧延が行われるとした場合に、r≠mであってもよい。つまり、ロールプロフィルの学習処理が行われた直後の圧延パスから、修正後のロールプロフィルを用いた板クラウン制御が行われなくてもよい。なお、上述した第1の実施形態は、r=mの場合に対応する。
以下、本発明の第2の実施形態として、このような、r≠mである場合における圧延制御方法について説明する。なお、第2の実施形態は、入側においてロールプロフィルの学習処理が行われる圧延パスと、修正後のロールプロフィルに基づく板クラウン制御が開始される圧延パスとが異なること以外は、第1の実施形態と同様である。例えば、第2の実施形態に係る圧延制御方法が適用され得るシステムは、図1に例示するシステム1と同様である。また、例えば、第2の実施形態に係る圧延制御方法におけるロールプロフィルの学習処理の詳細、及び、修正されたロールプロフィルを用いたクラウン制御量の計算処理の詳細は、上記(1−2−3.処理の詳細)で説明したものと同様である。また、例えば、第2の実施形態に係る圧延制御装置の機能構成は、図4に例示する圧延制御装置20の機能構成と同様である。従って、以下の第2の実施形態についての説明では、第1の実施形態と重複する事項についてはその説明を省略し、第1の実施形態と相違する事項について主に説明することとする。
(2−1.圧延制御方法の処理手順)
図5を参照して、第2の実施形態に係る圧延制御方法の処理手順について説明する。図5は、第2の実施形態に係る圧延制御方法の処理手順の一例を示すフロー図である。なお、第2の実施形態においても、mパス目以降の各圧延パスについては、圧延パスごとに異なるクラウン制御量を付与する板クラウン制御が適用されてもよいし、全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御が適用されてもよい。図5では、第2の実施形態に係る圧延制御方法の一例として、全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御に対応する処理手順を示している。
図5を参照すると、第2の実施形態に係る圧延制御方法において、ステップS301〜ステップS307における処理は、図3に示す第1の実施形態に係る圧延制御方法におけるステップS201〜ステップS207における処理と同様である。
すなわち、第2の実施形態に係る圧延制御方法では、まず、圧延開始前にパススケジュール計算が行われ、パス回数や、各圧延パスにおける圧下配分、クラウン制御量が決定される(ステップS301)。次いで、設定されたパススケジュールに対する各圧延パスでの圧延荷重、及び板クラウンの設定値が計算される(ステップS303)。次いで、計算されたパススケジュールに従って、各パス出側板厚の設定値を実現するように、r−1パス(2≦r≦N)までの圧延が実行される(ステップS305)。次いで、rパス入側での板クラウン又は平坦度の測定値が実績計算値と一致するように、ロールプロフィルが学習(修正)される(ステップS307)。
第2の実施形態に係る圧延制御方法では、次に、計算されたパススケジュールに従って、各パス出側板厚の設定値を実現するように、m−1パス(r≦m≦N)までの圧延が実行される(ステップS309)。このように、第2の実施形態では、rパス入側でロールプロフィルの修正処理が行われるものの、r〜m−1パス目までの各圧延パスについては、ステップS305と同様に、当初設定値に従った圧延が実行される。
次に、修正されたロールプロフィルを用いて、r〜m−1パス出側における板クラウンが計算される(ステップS311)。
次に、計算されたr〜m−1パス出側における板クラウンを用いて、Nパス出側における板クラウン(すなわち、最終的な製品板クラウン)が所望の板クラウンと一致するような、mパス以降に一律のクラウン制御量が計算される(ステップS313)。なお、図5では、便宜的に、ステップS309に示す処理、ステップS311に示す処理及びステップS313に示す処理がこの順に実行されるように記載しているが、実際には、ステップS311に示す処理及びステップS313に示す処理は、ステップS307に示す処理が行われた後、後述するステップS315に示す処理が開始されるまでの間に行われていればよい。例えば、ステップS311に示す処理及びステップS313に示す処理は、ステップS309に示す処理が行われている間に並行して行われてもよい。
そして、計算されたクラウン制御量に従ってmパス以降の圧延が実行される(ステップS315)。具体的には、mパス開始前に、計算されたクラウン制御量に応じてロールクロス角度、ロールシフト量及び/又はロールベンディング力が1度だけ調整され、その変更されたロールクロス角度、ロールシフト量及び/又はロールベンディング力に従ってmパス以降の圧延が実行される。
以上、第2の実施形態に係る圧延制御方法の処理手順について説明した。第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、Nパス出側において板クラウンが所望の板クラウンに一致するように、mパス以降の各圧延パスにおけるクラウン制御量が計算され、計算されたクラウン制御量に従って当該mパス以降の各圧延パスにおいて板クラウン制御が行われる。従って、第1の実施形態と同様の効果、すなわち、mパス以降の各圧延パスにおけるクラウン制御量を従来法に比べて小さくすることができ、圧延機のクラウン制御能力の範囲内に留めることができるため、板クラウンをより精度良く造り込むことが可能になるという効果を得ることができる。
なお、第2の実施形態においても、上記(1−4.変形例)で説明した各変形例が適用されてよい。具体的には、第2の実施形態では、目標パスは必ずしもNパスでなくてもよい(すなわち、t≠Nであってもよい)。また、第2の実施形態では、mパス以降の各圧延パスにおけるクラウン制御量の与え方は、任意であってよい。更に、第2の実施形態では、t+1〜Nパス目の各圧延パスについては、当該各圧延パスでの板クラウン比率が一定となるような圧延制御を行ってもよく、その場合、入側板厚が20mm以上である圧延パスのいずれかが、tパス目として設定されてよい。
本発明の効果を確認するために、以上説明した第1の実施形態に係る圧延制御方法を実際の厚板圧延に適用し、各圧延パス出側での板クラウンの値を測定した。圧延の条件は以下の通りである。
(圧延条件)
・パス数:11
・移送厚(圧延開始前の板厚):150mm
・製品板厚(圧延終了時(11パス終了時)の板厚):30mm
・製品板クラウン(圧延終了時(11パス終了時)の板クラウン):0.070mm
第1の実施形態に係る圧延制御方法の一実施例として、上記の条件に従って、図3に示す処理手順に従って、11パスの圧延を行った(すなわち、ロールプロフィル修正後の圧延制御としては、全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御を行った)。なお、5パス目終了時にロールプロフィルの学習(修正)、クラウン制御量の計算及び、当該クラウン制御量に応じたロールクロス角の変更を行っている(すなわち、図3に示す処理手順において、m=6としている)。
結果を図6に示す。図6は、第1の実施形態に係る圧延制御方法を適用した厚板圧延の結果を示すグラフ図である。図6では、横軸にパス回数を取り、縦軸に各圧延パス出側での板クラウンの値を取り、圧延の結果得られた、第1の実施形態に係る圧延制御方法を適用した際の、5パス目以降の各圧延パス出側での板クラウンの値を太い実線でプロットしている(「クラウン制御量変更」)。また、図6では、併せて、修正後のロールプロフィルを用いて計算した5パス目までの各圧延パス出側での板クラウンの実績計算値を太い破線でプロットしている(「ロールプロフィル修正後実績計算値」)。また、図6では、圧延開始前に計算される板クラウンの設定値を細い実線で併せてプロットしている(「設定値」)。更に、図6では、5パス目終了時にクラウン制御量の変更を行わなかった場合(すなわち、当初の設定値に従って板クラウンを制御した場合)におけるその後の板クラウンの推定値を破線で併せてプロットしている(「推定値」)。当該推定値は、クラウン制御量の変更を行わなかった場合における、ロールプロフィルの修正が反映された板クラウンの実績計算値をプロットしたものである。
以下、図6を参照しながら、本実施例における具体的な処理手順について説明する。本実施例では、まず、製品板クラウンが0.070mmとなるように各圧延パスでの圧下量配分を設定し、圧延を開始した。このとき、設定荷重と実績荷重との誤差は無視できる程度に小さくなっており、圧延荷重の予測誤差はほぼ存在しないものと考えられた。
この当初の設定値に従って5パス目まで圧延を行った段階で、出側板クラウンを測定すると、0.300mmであった。なお、図6に示すように、5パス出側における板クラウンの設定値は0.189mmである。この板クラウンのずれは、当初の設定計算で用いたロールプロフィルの予測値(推定値)と、実際のロールプロフィルとの誤差に起因するものであると考えられた。
そこで、上記数式(4)に従って、5パス出側における板クラウンの予測誤差がゼロになるような(すなわち、板クラウンの測定値と板クラウンの実績計算値が一致するような)ロールプロフィル補償量ΔCR errを求めた。その結果、当該ロールプロフィル補償量ΔCR errは、0.144mmであった。
更に、当該ロールプロフィル補償量ΔCR errの値を用いて、上記数式(5)に従って、Nパス出側の板クラウンが所望の製品板クラウン(0.070mm)と一致するような、6〜11パスにおいて一律のクラウン制御変更量ΔCcorrectを求めた。その結果、当該クラウン制御変更量ΔCcorrectは、−0.169mmであった。
従って、当該クラウン制御変更量ΔCcorrect(−0.169mm)に対応する分だけロールクロス角を調整した上で、6パス以降の圧延を、全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御により行った。その結果、図6に示すように、11パス出側において、所望の板クラウン(0.070mm)を実現することができた。
なお、図中「推定値」として示すように、5パス目終了時にロールクロス角の変更を行わなかった場合における最終的な板クラウンの推定値は0.153mmであり、目標とする0.070mmから乖離した値となった。このように、第1の実施形態に係る圧延制御方法を適用することにより、最終的な板クラウンを所望の値に高精度に制御することが可能であることが確認できた。
他の実施例として、第1の実施形態に係る圧延制御方法において、目標パスを最終パス以外の圧延パスとして(すなわち、t≠Nとして)、厚板圧延を行った。圧延条件は上述した実施例1と同様である。本実施例では、上記実施例1と同様に、基本的に図3に示す処理手順に従って全11パスの圧延を行った。具体的には、図3に示すステップS201〜ステップS207に示す処理については、上記実施例1と同様の処理を行った。その際、m=6とし、5パス目終了時にロールプロフィルの学習(修正)を行った。ただし、本実施例では、ステップS209に示す処理において、修正後のロールプロフィルを用いて、9パス出側における板クラウンが所望の板クラウンと一致するような、6〜9パスに一律のクラウン制御量を計算した(すなわち、t=9とした)。更に、10パス及び11パスについては、9パス出側における板クラウンと、修正されたロールプロフィルに基づいて、当該10パス及び当該11パス出側での板クラウンがステップS203で計算された設定値と一致するようなクラウン制御量を改めて計算し、その計算されたクラウン制御量に従って圧延を行った。
結果を図7に示す。図7は、第1の実施形態に係る圧延制御方法を適用した厚板圧延において、目標パスを最終パス以外に設定した場合における結果を示すグラフ図である。図7では、図6と同様に、横軸にパス回数を取り、縦軸に各圧延パス出側での板クラウンの値を取り、圧延の結果得られた、6パス目以降の各圧延パス出側での板クラウンの値を太い実線でプロットしている(「クラウン制御量変更」)。また、図7では、図6と同様に、修正後のロールプロフィルを用いて計算した5パス目までの各圧延パス出側での板クラウンの実績計算値(「ロールプロフィル修正後実績計算値」)、圧延開始前に計算される板クラウンの設定値(「設定値」)、及び5パス目終了時にクラウン制御量の変更を行わなかった場合におけるその後の板クラウンの推定値(「推定値」)を、それぞれ、太い破線、細い実線、及び細い破線で併せてプロットしている。
本実施例における具体的な処理手順について、ロールプロフィル補償量ΔCR errを求める処理までは、上述した実施例1と同様である。すなわち、本実施例では、まず、製品板クラウンが0.070mmとなるように各圧延パスでの圧下量配分を設定し、圧延を開始した。次いで、この当初の設定値に従って5パス目まで圧延を行った段階で出側板クラウンを測定したところ、その測定値は0.300mmであり、5パス出側における板クラウンの設定値0.189mmと乖離していた。そこで、次いで、上記数式(4)に従って、5パス出側における板クラウンの予測誤差がゼロになるような(すなわち、板クラウンの測定値と板クラウンの実績計算値が一致するような)ロールプロフィル補償量ΔCR errを求めた。その結果、当該ロールプロフィル補償量ΔCR errは、0.144mmであった。
本実施例では、次いで、当該ロールプロフィル補償量ΔCR errの値を用いて、上記数式(5)に従って、9パス出側の板クラウンが所望の製品板クラウン(0.091mm)と一致するような、6〜9パスにおいて一律のクラウン制御変更量ΔCcorrectを求めた。その結果、当該クラウン制御変更量ΔCcorrectは、−0.195mmであった。
次いで、当該クラウン制御変更量ΔCcorrect(−0.195mm)に対応する分だけロールクロス角を調整した上で、6〜9パスの圧延を行った(すなわち、一律のクラウン制御量を付与して6〜9パスの圧延を行った)。次いで、9パス出側の板クラウン(0.091mm)と、上記ロールプロフィル補償量ΔCR err(0.144mm)を用いて、10パス及び11パス出側の板クラウンが当初設定値(それぞれ、0.079mm及び0.070mm)と一致するようなクラウン制御変更量をそれぞれ計算し、当該クラウン制御変更量に従って10パス及び11パスの圧延を行った。その結果、図7に示すように、11パス出側において、当初設定値、すなわち所望の板クラウン(0.070mm)を実現することができた。
なお、図中「推定値」として示すように、5パス目終了時にロールクロス角の変更を行わなかった場合における最終的な板クラウンの推定値は0.153mmであり、目標とする0.070mmから乖離した値となった。このように、第1の実施形態に係る圧延制御方法においてt≠Nとした場合であっても、最終的な板クラウンを所望の値に高精度に制御することが可能であることが確認できた。
更に他の実施例として、第2の実施形態に係る圧延制御方法を実際の厚板圧延に適用し、各圧延パス出側での板クラウンの値を測定した。圧延条件は上述した実施例1と同様である。本実施例では、当該圧延条件に従って、図5に示す処理手順に従って、11パスの圧延を行った(すなわち、ロールプロフィル修正後の圧延制御としては、全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御を行った)。なお、5パス目終了時にロールプロフィルの学習(修正)を行い、8パス入側において修正後のロールプロフィルを反映して計算されたクラウン制御量に応じたロールクロス角の変更を行っている(すなわち、図5に示す処理手順において、r=6、m=8としている)。
結果を図8に示す。図8は、第2の実施形態に係る圧延制御方法を適用した厚板圧延の結果を示すグラフ図である。図8では、図6と同様に、横軸にパス回数を取り、縦軸に各圧延パス出側での板クラウンの値を取り、圧延の結果得られた、5パス目以降の各圧延パス出側での板クラウンの値を太い実線でプロットしている(「クラウン制御量変更」)。また、図8では、図6と同様に、修正後のロールプロフィルを用いて計算した5パス目までの各圧延パス出側での板クラウンの実績計算値(「ロールプロフィル修正後実績計算値」)、圧延開始前に計算される板クラウンの設定値(「設定値」)、及び5パス目終了時にクラウン制御量の変更を行わなかった場合におけるその後の板クラウンの推定値(「推定値」)を、それぞれ、太い破線、細い実線、及び細い破線で併せてプロットしている。
本実施例における具体的な処理手順について、ロールプロフィル補償量ΔCR errを求める処理までは、上述した実施例1と同様である。すなわち、本実施例では、まず、製品板クラウンが0.070mmとなるように各圧延パスでの圧下量配分を設定し、圧延を開始した。次いで、この当初の設定値に従って5パス目まで圧延を行った段階で出側板クラウンを測定したところ、その測定値は0.300mmであり、5パス出側における板クラウンの設定値0.189mmと乖離していた。そこで、次いで、上記数式(4)に従って、5パス出側における板クラウンの予測誤差がゼロになるような(すなわち、板クラウンの測定値と板クラウンの実績計算値が一致するような)ロールプロフィル補償量ΔCR errを求めた。その結果、当該ロールプロフィル補償量ΔCR errは、0.144mmであった。
本実施例では、次いで、6、7パス目の各圧延パスについては、当該ロールプロフィル補償量ΔCR errを反映することなく、当初設定値に従った圧延を行った。そして、この6、7パス目の各圧延パスにおける圧延を行っている最中に、当該ロールプロフィル補償量ΔCR errを反映して6、7パス目の各圧延パス出側での板クラウンの値を計算するとともに、当該ロールプロフィル補償量ΔCR err及びこの計算した6、7パス目の各圧延パス出側での板クラウンの値を用いて、上記数式(5)に従って、11パス出側の板クラウンが当初設定値、すなわち所望の製品板クラウン(0.070mm)と一致するような、8〜11パスにおいて一律のクラウン制御変更量ΔCcorrectを求めた。その結果、当該クラウン制御変更量ΔCcorrectは、−0.208mmであった。
次いで、当該クラウン制御変更量ΔCcorrect(−0.208mm)に対応する分だけロールクロス角を調整した上で、8パス以降の圧延を、全ての圧延パスに一律のクラウン制御量を付与する板クラウン制御により行った。その結果、図8に示すように、11パス出側において所望の板クラウン(0.070mm)を実現することができた。
なお、図中「推定値」として示すように、5パス目終了時にロールクロス角の変更を行わなかった場合における最終的な板クラウンの推定値は0.153mmであり、目標とする0.070mmから乖離した値となった。このように、第2の実施形態に係る圧延制御方法を適用することでも、最終的な板クラウンを所望の値に高精度に制御することが可能であることが確認できた。
(3.補足)
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。