JP2017177024A - 水素分離膜の製造方法及び水素分離膜 - Google Patents

水素分離膜の製造方法及び水素分離膜 Download PDF

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Abstract

【課題】水素透過性能、耐水素脆性および耐久性のバランスを担保した固溶体単相合金の水素分離膜の製造方法を提供する。【解決手段】 水素を選択的に透過させることができる薄膜状の金属として、例えば、バナジウムに対し、ε=10以上の巨大ひずみを付与する強歪み加工として高圧ねじり(HPT)加工を行うことで、粒度番号が20であり、平均粒径d=390nmのバナジウム膜を製造する。【選択図】図21

Description

本発明は、水素分離膜の製造方法及び水素分離膜に関する。
水素分離膜として、水素を選択的に透過させることができる金属であるパラジウム(Pd)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)や、それらの合金を、圧延やめっきにより薄膜状に加工したものが使用されている。
例えば、特許文献1には、パラジウムを含有するパラジウム含有金属薄膜の一方面側にパラジウムが含まれない金属層を積層して、水素分離膜の前駆体となる金属膜を形成する金属膜形成ステップと、前記金属膜の金属層側に配置される溶質を溶解した溶媒と、前記金属膜のパラジウム含有金属薄膜側に配置される無電解めっき用触媒溶液との浸透圧によって、前記無電解めっき用触媒溶液を前記金属膜の金属層側に欠陥を通じて移動させ、前記金属膜の金属層側にある欠陥部位に無電解めっき用触媒を付与する無電解めっき用触媒付与ステップと、前記無電解めっき用触媒が付与された前記金属膜の金属層側に配置される少なくとも還元剤を溶質として溶解した溶媒と、前記金属膜のパラジウム含有金属薄膜側に配置される金属イオンを含有する還元剤を含まないめっき液との浸透圧によって、前記めっき液を前記金属膜の金属層側に移動させ、前記金属膜の金属層側にある欠陥部位に前記金属イオンを還元・析出させる金属イオン還元・析出ステップとを備えた水素分離膜の製造方法が記載されている。
水素分離膜は、高純度水素を精製するために、高温の水素ガス環境中での高い機械的強度と水素透過能および耐久性が求められており、このような性質を有する水素分離膜の製造方法が求められている。
具体的には、厚さ数〜数百ミクロンの水素分離膜は、高温で長時間の水素圧力負荷を受けるため、機能材料でありながら耐熱構造材料としての性能も要求されており、そのため長時間の安定した運転に耐え得る、耐久性(耐割れ性など)の向上が大きな課題となっている。
ここで、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)やタンタル(Ta)は、水素雰囲気中で脆化して激しく脆性破壊することが以前より知られており、諸外国ではこの問題を解決することができず、非Pd系水素分離膜の開発は殆ど行われてこなかった。
一方、我が国では非Pd系水素分離膜の開発が継続的かつ熱心に進められているが、この金属膜は通常400℃以上の高温で使用されるが、低温では水素化物の形成により水素脆化するために使用出来ないと理解される傾向にあった。
なお、安価で、高温の活性処理が不要であり、且つ水素の吸収/放出が繰り返し可能な水素貯蔵合金を製造するために、せん断歪みを水素貯蔵合金に加える方法が、特許文献2に記載されている。
すなわち、特許文献2には、TiFeを材料とし、材料表面から材料内部へ延在し、周囲の当該材料に比べて水素移動抵抗が低い水素移動路を形成する水素移動路形成工程を含み、前記水素移動路形成工程においては、TiFeに7以上のせん断歪みを加えることにより、前記TiFeの材料表面から材料内部へ延在する線欠陥又は面欠陥を前記水素移動路として形成することを特徴とする、TiFe水素貯蔵合金の製造方法が記載されている。
しかしながら、上記いずれの特許文献にも、水素分離膜の製造の際に、大きなせん断歪みを加えることで、高い機械的強度と水素透過能、長時間の耐久性能が得られることは記載も示唆もされていない。
本発明者らは、金属膜の水素圧力−組成−等温線(PCT曲線)、膜間に作用する固溶水素の化学ポテンシャル勾配、ならびに金属膜が延性から脆性へと遷移する水素濃度(DBTC)の観点から、合金膜の最適化学組成を精度良く計算できる設計指針を独自に開発している。
これまでの多くの研究では、水素透過係数、短時間水素圧力負荷後の膜強度の把握に終始しており、また、水素解離触媒としての表面被覆Pdと下地のVやNb、Taとの高温での相互拡散が原因で水素透過能が時間とともに低下することも知られており、低温作動膜が検討されるようになってきた。
そこで、本発明者らは、水素分離膜を製造する際に、ε=10以上の巨大ひずみを付与する強歪み加工を行うことで、5族金属のバナジウムが、300℃の低い温度でも10−7(mol H−1−1Pa−0.5)台の水素透過係数Φが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
ここで、S.A.Steward: Lawrence Livermore National Laboratory Report,UCRL−53441,(1983)によると、各種金属の水素透過係数の温度依存性を表す図1に示すとおり、鉄(Fe)についても、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)等と同様に水素透過性を有し、本発明の対象となることが示唆されている。
すなわち、本発明の課題を解決するための手段は、下記のとおりである。
第1に、水素を選択的に透過させることができる薄膜状の金属に対し、ε=10以上、望ましくは30以上のひずみを付与する強歪み加工を行うことを特徴とする、水素分離膜の製造方法。
ここで、ε=10以上のひずみを付与する強歪み加工とは、材料に強い圧縮力とせん断力を加え、大きなせん断ひずみを与えることで、結晶粒を超微細化し、高い機械的強度と水素透過能を得ることを目的として行われる加工手段のことをいう。
該強歪み加工としては、高圧ねじり(HPT)加工、高圧すべり(HPS)加工、繰り返しせん断変形加工(ECAP)法、繰り返し重ね接合圧延(ARB)プロセス、多方向鍛造(MDF)プロセスの他に、ショットピーニング加工、ドリル加工、ボールミリング等を採用できる。
ひずみεは、例えば、HPT加工の際には、次の式で表される。
ここで、εは相当ひずみ、rは試料中心からの距離、Nは回転数、tはディスク試料の厚さである。
また、HPS加工の際のひずみεは、次の式で表される。
ここで、εは相当ひずみ、Xはスライド量、tは板厚である。
第2に、前記金属が、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)、鉄(Fe)から選ばれる、1種又は2種以上の金属であることを特徴とする、前記第1に記載の水素分離膜の製造方法。
第3に、前記強歪み加工が、高圧ねじり(HPT)加工であることを特徴とする、前記第1または第2に記載の水素分離膜の製造方法。
第4に、水素を選択的に透過させることができる金属膜であり、周期表で5族又は10族に属し、粒度番号Nが18以上であることを特徴とする、水素分離膜。
ここで、粒度番号Nは、1mm中の結晶粒の数nを二次元的に測定し、次の式の値を切り上げ整数値で示したものである。
第5に、前記金属膜が、粒度番号N=20、平均粒径d=390nmのバナジウム膜であることを特徴とする、前記第4に記載の水素分離膜。
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
水素を選択的に透過させることができる薄膜状の金属に対し、巨大ひずみを付与する強歪み加工を行うことで水素分離膜を製造するに際し、例えば、純バナジウムを高圧ねじり(HPT: High Pressure Torsion)加工によって強歪み加工を行うことで、超微細結晶粒が生じるが、粒度番号N=20、平均粒径d=390nmのバナジウム膜が得られる。
該バナジウム膜は、300℃の低い温度でも通常の溶製材や圧延加工材と比較して、結晶粒が粗大化(粒成長)することなく、2.5〜5倍の高い水素透過性能を有することが確認できた(図21参照)。
また、該バナジウム膜は、同時に負荷水素圧力や固溶水素に起因する膜変形も十分に抑えられることが確認できた(図22、図23参照)。
さらに、これまでに水素透過現象が殆ど見られなかったNiに対しても同様のプロセスを施したところ、同温度で水素透過現象を示すことが確認できた。
従って、種々の強歪み加工によって、合金化と金属組織制御を5族金属や10族金属あるいはこれらの合金に対して行うことで、水素透過性能、耐水素脆性および耐久性のバランスを担保した固溶体単相合金の水素分離膜の製造が実現可能となる。
ここで、溶製材や圧延材、従来のPd−Ag合金やV−15Ni合金と比べても一桁上の水素分離性能を発揮することが期待される。
さらに、結晶粒粗大化の観点から400℃以下での運転が好ましいが、合金化してPCT曲線を立ち上げた後に強歪み加工を行うことで、さらなる低温にて作動可能な水素分離膜の製造が可能となる。
発明者らの見出したプロセスで、水素透過性能、耐水素脆性および耐久性のバランスを確立した水素分離膜を製造することで、室温に近い低温で作動可能な水素分離膜を製造することが可能となる。
各種金属の水素透過係数の温度依存性を示す図である。 本発明に係るHPT加工装置の概略図である。 引張試験に用いる試料片の切り出し形状を示す図である。 引張試験による公称応力−ひずみ線図である。 各熱処理温度におけるビッカース硬度を示す図である。 熱処理前後における結晶組織のEBSD方位像を示す写真である。 比較品1の光学顕微鏡像を示す写真である。 二つの異なる温度で熱処理した結晶組織のEBSD方位像を示す写真である。 SP試験装置の配管システムの概略図である。 SP試験装置の内部構造をSP治具と共に示す概略図である。 300℃における真空中でのSP曲線である。 400℃における真空中でのSP曲線である。 500℃における真空中でのSP曲線である。 各温度におけるSP吸収エネルギーをまとめて示す図である。 各試料の外観及び破断面のSEM像を示す写真である。 水素雰囲気in−situ SP試験の結果を示す図である。 DBTC曲線である。 水素雰囲気in−situ SP試験後の各試料の外観と破面のSEM像を示す図である。 水素透過装置における圧力制御用配管システムの概略図である。 水素透過装置における膜試料固定部の概略図である。 300℃における水素透過試験結果を示す図である。 水素透過後の各分離膜の外観を示す図である。 水素透過後の各分離膜表面のSEM像を示す図である。 各温度における透過係数を比較したグラフである。 500℃における透過試験前後の試料のEBSD方位像を示す図である。 測定した各試料のPCT曲線を示すグラフである。 ニッケル試料における水素透過試験の結果を示すグラフである。 ニッケル試料における水素透過試験前後のEBSD方位像を示す写真である。
(1)HPT加工装置
本実施例に用いる強歪み加工を行うHPT加工装置1は、図2に示すように、アンビル中央にある平坦なくぼみに試料を置き、強制的に挟み込み、非常に大きな圧力(通常は1GPa以上)をかけた状態で下側のアンビルを回転させることにより、試料に大量のせん断ひずみを導入することで、結晶粒をサブミクロンレベルにまで微細することで、微細粒を得るものである。
(2)HPT加工による水素分離膜試料の製造
本実施例では、該HPT加工装置を用い、純度99.9%のバナジウム引抜材を、1100℃で1時間熱処理を施した後、室温にて、印加圧力1.5GPa、回転速度0.25rpm、回転数5回転の条件でHPT加工を行うことで、本発明品1である水素分離膜の試料を製造した。
ここで、前記のHPT加工の際のひずみを表す式によると、ひずみεは、最小値32.6〜最大値169程度であった。
この際、20mmディスクから10mmディスクを切り出した試料のうちの水素が透過している領域について、試料中心からの距離を示すrは、1.8mm〜9.3mmの範囲における値となるので、ひずみεも下限〜上限の値として計算された。
そして、金型溝深さが上下合わせて0.7mmの場合、HPT加工の際に用いられる金型穴径と同じ直径20mm、厚さ0.8mmのディスク状の水素分離膜試料を得た。
ここで、比較のために、HPT加工を行わない純度99.9%のバナジウム焼鈍材を、本発明品1と同じディスク状に形成して比較品1とした。
(3)試料の作製
上記で得たディスク状の本発明品1又は比較品1による水素分離膜試料から、ワイヤーカット放電加工機(Wire cut Electric Discharge Machine;WEDM)を用い、後述する試験ごとに所望の形状に切り出して各試験用の試料を作製した。
(4)粒度番号の算出
HPT加工を施した結晶粒サイズの評価方法として、粒度番号Nを算出した。
まず、1mm中に存在する平均結晶粒数nを二次的に測定した。
ここで、粒度番号Nは、試験片断面の1mm中の結晶粒の平均結晶粒数nを二次元的に測定し、次の式の値を切り上げ整数値で示したものである。
なお、単位面積当たりの結晶粒数nは、結晶粒の形状をEBSD方位像から算出した平均粒径dを直径とする円として近似することで求めた。
(5)粒度番号による評価
粒度番号が大きい程、結晶粒は微細であり、粒度番号を算出することで結晶粒径の評価を行うことができる。
結晶粒度について、粒度番号Nと平均結晶粒径(nm)との関係を次表に示す。
(6)引張試験
(6−1)引張試験装置
引張試験には、島津製作所(株)製のAGS−H型万能試験機を用いた。
該試験機は、クロスヘッドに連結された引張治具を、リニアガイドに沿って移動させることにより、試験片のゲージ部に上下方向の荷重のみを負荷することが可能なものである。
(6−2)試料作製
引張試験に用いる試料は、ディスク状試料からワイヤーカット放電加工機(WEDM)にて図3に示した形状に切り出した後、#1000までのエメリー湿式研磨および平均粒径1μmのAl懸濁液を含むバフ研磨により、最終厚さ0.4mmに調整することで得た。
なお、図3中の数字の単位はmmである。
焼鈍の影響を調べるため、同様の手順の後、2枚の発明品1について、各々500℃と700℃にて1時間熱処理を行った試料(以後、HPT−V+500℃、HPT−V+700℃と略す)と、同形状に切り出した比較品1(無加工のV)による試料片を用意した。
(6−3)試験条件
本引張試験では、室温中にてゲージ部長さlが1mmであり、クロスヘッド移動速度1.0mm/minとしており、ひずみ速度1.7×10−2−1にて実施した。
そして、引張荷重fから公称応力σ、治具移動量xから公称ひずみεを算出し、公称応力−ひずみ線図を作成し、図4に示した。
公称応力σ及びひずみεは、次式によって求めた。
(6−4)試験結果の考察
図4に示すように、本発明品1であるHPT−Vの最大引張強度は、約1020MPaであり、本試験で使用した試料の中で最も高い強度を示した。
これに対し、比較品1であるvirgin Vの最大引張強度は、約170MPaであることから、HPT加工処理を施すことによって6倍の強度上昇を確認した。
また、HPT−V+500℃材では、僅かな強度の低下はあったものの、最大引張強度890MPaと十分な強度を保持していることを確認した。
なお、HPT−V+700℃材では、340MPaと急激な最大引張強度の低下が見られた。
(7)硬度試験
(7−1)試験条件
本発明品1及び比較品1について、熱処理温度によるビッカース硬度の変化を定量的に評価するため、室温から900℃までの温度範囲で1時間のアルゴン雰囲気中熱処理を行い、その後、各熱処理温度におけるビッカース硬度を測定し、図5に示した。
尚、図5中のvirgin VとはHPT加工処理前の純Vを表しており、その硬さを点線で示している。
(7−2)試験結果の考察
HPT加工を施すことにより、225Hvまでビッカース硬度が上昇することを確認した。
また、HPT加工後、500℃での熱処理を施した場合、ビッカース硬度は緩やかに硬度が減少し200Hv程度となるのに対し、700℃での熱処理ではビッカース硬度が約100Hvとなり急激な硬度の減少を確認した。
これは、500℃での熱処理では転位の回復により硬度が低下しているのに対し、700℃での熱処理では再結晶も作用し、大幅に硬度が減少していると考えられる。
すなわち、本発明品1は、500℃での熱処理により硬度が減少し始めるが、高融点金属でもあるため、再結晶など粗大化の様相は見られなかったが、硬度の減少は、転位の回復が主因と考えられ、熱処理温度が700℃程度まで上昇しても、初期性能を維持できることを確認した。
以上の結果より、引張強度と硬度に相関性があることを確認し、HPT加工を施すことによって大幅に上昇した強度は、加工後でも熱処理温度500℃付近まで保持されることを確認した。
(8)結晶組織観察
(8−1)熱処理試験
本発明品1について、HPT−Vの熱処理前と、500℃と700℃で熱処理をした際の結晶組織について、組織変化を明らかにするため、電子線後方散乱回折(Electron Back Scatter Diffraction Patterns; EBSD)法により結晶粒の観察を行った。
そのEBSD方位像を、図6に示す。
また、HPT加工前の焼鈍材である比較品1についての光学顕微鏡像の写真を、図7に示す。
さらに、各試料の平均粒径と粒度番号を次表に示す。
(8−2)二つの異なる温度による熱処理
本発明品1について、400℃と500℃で熱処理した際の組織について、組織変化を明らかにするため、EBSD法により結晶粒の観察を行った。 そのEBSD方位像を、図8に示す。
(8−3)結果の考察
HPT加工前の焼鈍材では平均結晶粒径がmmオーダーの大きな結晶粒であったのに対し、HPT加工後の平均粒径は380nmとサブミクロン結晶粒を形成していた。
また、500℃で熱処理を行っても平均粒径は390nmと結晶粒径はほとんど変化しなかったが、700℃で熱処理を行った際の平均粒径は1.35μmであり、結晶粒の粗大化を確認した。
さらに、400℃で熱処理した場合の平均結晶粒径は360nmであるのに対し、500℃で処理した場合の平均結晶粒径は390nmであり、500℃で処理した場合であっても、結晶粒は微細なまま保持されており、結晶粒の粗大化も見られないことが確認された。
すなわち、本発明品1は、500℃でも水素分離膜として長時間機能し、粗大化による機能低下も起こらないものと推測される。
これらの結果により、700℃においては再結晶組織であることがわかる。
したがって、再結晶は、500から700℃の温度領域で起きると考えられる。
(9)小型パンチ(Small Punch;SP)試験
(9−1)SP試験装置
SP試験は、図9に概略を示す圧力制御用配管システムと、図10に示すSP治具とを有するものである。
該圧力制御用配管システムでは、試験に用いる水素が可燃性ガスである為、水素が漏洩しない気密構造が必要となる。
また、真空中でのSP試験実施の際、SP治具及びその周辺の温度は500℃と高温になるため、気密性や耐熱性に優れた配管システムが要求されるため、Swagelok社製のバルブ・フィッティングや各種バルブ類を用いて、図9に示すように配管した。
ここで、SP試験装置の一次側(P1)に水素導入口を、二次側(P2)に水素排出口を接続した。
これにより、配管システム中のバルブ操作を適切に行って、種々の水素圧力下での破壊試験が可能となる。
SP治具は、水素透過試験後にその場でSP試験を行うためのものであり、主要部の材料としてSUS304を用い、耐熱ヒーターブロックの材料としてはSUS316Lを用いており、ヒーターにはWATLOW社製及びMiSUMi社製のカートリッジヒーターを使用し、SP治具を600℃にまで昇温できるようにした。
また、SP治具下部には、測温・温度制御用にK熱電対も内蔵している。
ここで、高温高圧の水素ガスに耐える必要があるため、設定した試験条件に耐え得る成形ベローズを別途設計製作した。
そして、試験装置外への水素リークを防ぐため、上部及び下部ダイスのフランジ部とベローズフランジ部にはICF70コンフラットフランジ及び高真空用銅ガスケットを用いて封止した。
さらに、上部ダイスと成形ベローズの上部フランジ間をボルトで固定することで、気密構造を形成した。
(9−2)試料作製
ディスク状試料からワイヤーカット放電加工機(WEDM)にて直径7mmの円形状に切り出した後、表面を#1000までのエメリー湿式研磨および平均粒径1μmのAl懸濁液を含むバフ研磨により鏡面状態とし、最終厚さを0.5±0.01mmに調整した。
さらに、水素解離触媒性を付与するため、DCマグネトロンスパッタ装置を用いて試料両面に厚さ約200nmのPd被覆を施した。
真空中SP試験用の試料についても、水素雰囲気in−situ SP試験と同条件にするため、同様の工程を施した。
これまでのin−situ SP試験では、10×10×0.5mmの試料を用いていたが、実際に試験を行った結果、変形・破壊に寄与している試料箇所は打抜き球が接地した点を中心に直径5mm程度だったため、本試験では上記の試料サイズにてSP試験を行った。
(9−3)小型パンチ(SP)試験法
小型パンチ(SP)試験法とは、小型板状試料に直径2.4mmの鋼球(本試験では耐水素脆性及び高温強度維持の観点からSi球を使用)を載せ、パンチャーで鋼球を試料に押し当てた際に生じる荷重と圧子移動量を測定する打抜き破壊試験法である。
ここで、膜試料が破断するまでの荷重−圧子移動量曲線下の面積をSP吸収エネルギーと定義し、膜試料の破壊に必要なエネルギーを比較する際の基準とした。
本試験法とシャルピー衝撃試験法とを比べると、SP試験ではシャルピー衝撃試験片の一端から得られるほどに試験片サイズが小さく、また、試験で評価される吸収エネルギーの変化については、狭い温度範囲で明瞭な延性−脆性遷移挙動が現れることが知られている。
そのため、SP試験は、原子炉炉心材料の照射損傷評価などによく用いられている。
該in−situ SP試験では、直径7mm、厚さ0.5mmの試料を上治具と下部ダイスの間にセットし、4本の六角穴付ボルトを用いて均一トルク(9.8Nm)で固定した。
次いで、油回転真空ポンプ及びターボ分子ポンプによる真空排気を行い、所望の温度まで加熱し、1.0時間維持した後に、次の(9−4)に示す各試験条件の水素ガスを導入することで、SP試験を行った。
なお、in−situ SP試験における圧子移動速度は、0.5mm/minで一定とした。
(9−4)試験条件
まず、HPT−V材の各温度での膜強度を把握するために、300℃、400℃、500℃の三つの温度条件にて真空中SP試験を行った。
次に、同材料の機械的性質に及ぼす固溶水素量の影響を評価するために、種々の固溶水素濃度条件の下、水素雰囲気in−situ SP試験を行った。
温度条件は、500℃とした。
目標とする負荷水素圧力は、後述のジーベルツ型の水素吸蔵量測定装置(PCT測定装置)を用いて測定するPCT曲線から読み取ることで決定した。
そして、目標とする水素圧力を負荷し、その状態を2.5時間維持した後に、水素雰囲気in−situ SP試験を実施した。
ここで、各水素圧力に平衡した水素濃度まで水素を固溶していない場合、膜試料への水素の溶解反応が進行する。
そして、供給している水素ガスの導入バルブを閉鎖すると、試験装置内の水素圧力が減少する。
したがって、この試験では、水素ガスの導入停止に伴う試験装置内の圧力低下が生じなくなった場合に、膜試料中の水素濃度が水素圧力に平衡した濃度に達したと判断して、その直後にin−situ SP試験を行った。
(9−5)破面観察
水素雰囲気in−situ SP試験後及び真空中SP試験後の膜材料の破壊形態を確認するため、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて破面観察を行った。
電子銃の加速電圧は20kVとし、膜材料の全体像と破面の拡大像の二種類のSEM像を撮影し、破面の特徴と破壊形態に関する総合評価を行った。
HPT−Vとvirgin Vの各温度における真空中でのSP曲線を、図11、図12及び図13に各々示す。
virgin Vでは、全ての温度条件で典型的な延性材料と同様なSP曲線が得られたのに対し、HPT−Vでは全ての温度においてSP曲線の第三段階である塑性膜伸び段階が見られず、300℃と400℃においては圧子移動量0.7mmの付近で一旦、負荷荷重が急激に減少し、その後に再び増加、第四段階である塑性不安定段階を経て破断するという挙動が確認された。
また、500℃での最大荷重は、300℃、400℃と比べ大きく、塑性膜伸び段階が見られないこと以外では典型的な延性材料に見られるSP曲線と類似している。
塑性膜伸び段階が見られなかった理由として、HPT加工を施すことによって結晶粒が微細化され、通常の延性材料に見られるネッキングが起こらず、破断部の組織が全体的に粘って相対変形を起こしたため破断に至ったためと考えられる。
また、300℃と400℃で見られた挙動については、どちらの温度でも圧子移動量0.7mm付近で起きているため、同様の過程での現象であると考えられる。
ここで、500℃ではその挙動が見られなかったことから、400℃以下の温度では転位の回復が十分でなく、残留した転位が応力場において不動転位として作用しているため、早期にき裂を開放し、破壊に至っていると考えられる。
そして、400℃までの熱処理では、図5に示すとおり、硬度の低下は十分に起きておらず、転位が十分に回復していないことが考えられる。
したがって、400℃以下の温度では脆性的な破壊が起こったといえる。
また、各温度におけるSP吸収エネルギー(ESP)をまとめたものを図14に示す。
温度が上昇するにあたり、virgin VはSP吸収エネルギーが低下しているのに対し、HPT−Vは500℃において急激にSP吸収エネルギーが上昇している。
また、図15に、図11〜図13のHPT−V材の真空中SP試験後のSEM観察で得られた各試料の外観及び破面のSEM像を示す。
図15中、(a)(b)(c)は外観、(a)’(b)’(c)’は破面の拡大像であり、(a)(a)’は300℃、(b)(b)’は400℃、(c)(c)’は500℃の条件下のものを示す。
全ての温度条件で、円周方向の破壊が起きており、さらに300℃と400℃では延性破面に見られるディンプルを確認した。
500℃においては、他の温度条件ほど顕著なディンプルは見られなかったが、SP曲線が第四段階まで至っていることから延性的な破壊であると考えられる。
以上の考察より、水素雰囲気中でのin−situ SP試験の温度条件は、比較的、典型的な延性材料のSP曲線に近似しており、転位の回復も十分であると考えられる500℃にて行うこととした。
(9−6)水素雰囲気における圧力−濃度−等温線(PCT曲線)の測定
本試験ではHPT−Vの水素溶解特性を定量的に調べるためジーベルツ型のPCT測定装置を用いて水素雰囲気における圧力−濃度−等温線(PCT曲線)を測定した。
測定の手順を以下に示す。
試料を装置に取り付け、室温で2時間、真空引きを行い、500℃で5MPaの水素を負荷し、0.5時間保持する。
その後、温度を室温にまで下げ、圧力が安定するまでそのままの状態で保持する。
圧力が安定したら、再び500℃にまで上げ、0.5時間の真空引きを行う。
その後、再び5MPaの水素負荷を行い、同様の手順を繰り返す。
この作業を、4回反復させることで活性化処理を行う。
十分に活性化処理を終えたら、残留している水素を引抜くために2時間の真空引きを行い、測定温度にて測定を開始する。
各温度における測定前には、2時間の真空引きを毎回行う。
本試験では500℃、400℃、300℃の順で測定した。
また、比較のために、virgin Vにおいても同様の手順でPCT測定を行った。
(9−7)水素雰囲気in−situ SP試験
水素雰囲気in−situ SP試験の結果を、図16に示す。
HPT−Vは、固溶水素濃度0.3H/Mでも延性的なSP曲線を示しており、固溶水素濃度0.4H/Mでは脆性的な破壊を起こしているものの、弾性範囲を越えて、十分に塑性変形した後に破壊していることがわかる。
図17に、図16の結果から得たESPを縦軸に、また、固溶水素濃度を横軸に取るDBTC曲線を示す。
virgin Vが、0.2〜0.3H/Mの範囲で延性から脆性的な破壊に遷移しているのに対し、HPT−Vは、0.4H/Mでも十分な強度を保持しているといえる。
これらの結果から、Vの耐水素脆性の向上にHPT加工は非常に有用であり、Vの水素透過性能をそのまま有しているとすれば、高性能な水素分離膜の設計に向けた指針としてHPT加工は大きな可能性を有しているといえる。
また、水素雰囲気in−situ SP試験後の試料の外観及び破面のSEM像を図18に示す。
図18中、(a)(b)は外観、(a)‘(a)”(b)’(b)”は破面の拡大像であり、(a)(a)’(a)”は0.3H/M、(b)(b)’(b)”は0.4H/Mの条件下のものを示す。
固溶水素濃度0.3H/Mでは、延性的な破面で見られるディンプルが多く存在していたが、一方で脆性的な破面でみられるリバーパターンが存在する箇所もあった。
0.4H/Mでは、ディンプルが見られる領域が減り、リバーパターンが見られる領域が増加していた。
これは、水素固溶濃度が増加するにつれ、脆性的な破壊に至る領域が増加している故、妥当な結果であるといえる。
(10)水素透過試験
(10−1)水素透過試験装置
本試験に用いる水素透過試験装置は、発明者が独自に開発したもので、図19に概略を示す圧力制御用配管システムと、図20に模式的に示す膜試料固定部とを有するものである。
該圧力制御用配管システムは、SP試験に用いた圧力制御用配管システムと同様に、Swagelok社製バルブ・フィッティングや各種バルブ類を用いて配管したものである。
また、VCR面シ−ル継手の一次側(P)に水素導入口を、二次側(P)に水素排出口を接続したものである。
これにより、配管システム中のバルブ操作を適切に行えば、安定した水素圧力下での水素透過試験が可能となる。
さらに、配管の二次側に組み込まれているマスフロメ−タを用いて、透過流束をその場で測定することが可能となる。
前記膜試料固定部は、水素透過試験装置内に組み込まれている。
水素透過膜試料は、SUS316ステンレス製のリングにはめ込むことによってVCR面シール継手の中心に試料が配置される様にして、継手の先端で試料を挟みこむことによって封止されており、VCR面シ−ル継手間にこれを固定した後、管状電気炉を用いて設定試験温度にまで膜試料を加熱した後、水素透過試験を行った。
(10−2)試料作製
本発明品1であるディスク状試料からワイヤーカット放電加工機(WEDM)にて直径8.9mmの円形に切り出した後、500℃で1時間熱処理を行い、表面を#1000までのエメリー湿式研磨および平均粒径1μmのAl懸濁液を含むバフ研磨により鏡面状態とし、最終厚さ0.5mm程度に調整した。
さらに、水素解離触媒性を付与するため、RFスパッタ装置を用いて試料両面に厚さ約200nmのPd−25%Ag被覆を施した。
尚、純Pdも被覆可能であるが、設定温度(300℃〜500℃)の範囲でも、低温での水素透過時に水素化物形成による機能低下が懸念されたため、水素化物形成の限界温度を引き下げるために、Pd−25%Ag被覆を施した。
また、比較のため、同様の手順で、1100℃で1時間熱処理を施した比較品1であるvirgin Vでも試料を作製した。
(10−3)水素透過試験の手法
水素透過試験は、試料各面について一次側水素圧力を二次側水素圧力以上となるように水素圧力を加え、その圧力差によって低圧側に流れ出た水素の体積流量を測定することにより水素透過膜としての性能を評価する試験である。
水素透過性能の測定手順を以下に示す。
膜試料をVCR面シ−ル継手内部に取り付け、真空引きを行う。
その後、VCR面シ−ル継手の膜試料固定部を管状電気炉で設定温度(300℃〜500℃)まで加熱し、一次側の水素圧力を5kPaまで上昇させ、水素透過が行われるまでそのままの状態で保持する。
水素が透過したことを確認してから1時間保持し、二次側配管内の体積流量Q[sccm]を管路に設置したマスフロメ−タにて測定することで水素透過流束を算出した。
その後、一次側の圧力を10kPa、15kPa、10kPa、5kPaと変化させ、それぞれ1時間保持し、水素透過流束の算出を行った。
(10−4)水素透過流束測定方法
本水素透過試験では、水素透過反応の時間経過に伴う配管内圧力の変化により、水素透過量が算出できる。
その評価方法の詳細を以下に述べる。
図19に示す配管図内のP、PおよびPは、圧力トランスデュ−サ−(ひずみゲ−ジ式圧力センサ)を示しており、それぞれ3つのセルに分割された各配管内圧力を計測することができる。
ここで、Pは膜試料を隔てた1次側(高圧側)の圧力、Pは膜試料を隔てた2次側(低圧側)の圧力、Pは低圧容器内(リザ−ブセル)の圧力の計測を行うための圧力センサである。
これらのセル間を仕切るために接続された各バルブを操作することで、セル内の圧力をそれぞれ独立して調整できる。
リザ−ブセル内を真空排気し、高圧セルおよび低圧セル内にP>Pとなるように水素ガスを充填すると、圧力差によって膜試料の両面に水素濃度差を生じ、金属中の拡散により水素が透過する。
水素が透過し始めると低圧セル内の圧力が上昇する為、ニ−ドルバルブを開き、低圧セル内の水素ガスをリザ−ブセル内にリ−クさせることで、Pの圧力が一定となるようにニ−ドルバルブの開閉量を調整する。
同時に、高圧セル内の圧力も圧力レギュレ−タ−により目標値に調整する。
結果として、低圧セルおよび高圧セルは、任意の測定条件に従って常に一定圧力に保持され、リザ−ブセル内の圧力だけが時間経過に伴い上昇する。
リザ−ブセル内の圧力変化の結果あるいはマスフローメータ読みにて、水素透過速度を算出した後に、水素透過流束を求めることで水素透過性能を評価した。
(10−5)水素透過試験の結果
300℃における水素透過試験結果を図21に示す。
図21に示すグラフは、水素透過試験における水素透過係数の圧力差による影響を比較したグラフであり、水素透過係数を縦軸、一次側水素圧力を横軸に取っており、本発明品1であるHPT−Vは、300℃の低温域においても、比較品1であるvirgin Vの水素透過係数の2.5〜5倍である10−7[mol H−1−1 Pa−0.5]程度の高い水素透過係数を示している。
すなわち、本発明品1は、比較品1よりも全体的に良好な値を示し、インレット値が5の場合は一桁以上の良好な値を示し、インレット値が高くなるにつれ、2.5倍から5倍程の良好な値を示している。
しかし、水素雰囲気in−situ SP試験において、HPT加工による水素溶解度の変化は無いことが明らかとなっており、HPT加工による水素透過性能の向上は、原子拡散に依存する拡散係数の増加が寄与していると考えられる。
したがって、拡散係数を増加させた要因は、HPT加工を施すことによって増加した結晶粒界が、水素の高速拡散経路として機能したことが考えられる。
図22は、水素透過後の各分離膜の外観を示す図である。
図23は、水素透過後の各分離膜表面のSEM像を示す図であり、上段が比較品1である分離膜の表面を、下段が本発明品1である分離膜の表面を示す。
比較品1であるvirgin Vでは、水素付加圧力や固溶水素による膨張を起因とした膜変形によるシワが生じており、表面にはき裂が入っているのに対し、本発明品1であるHPT−Vでは膜変形が抑えられており、シワの発生やき裂発生までは至っていないことが確認できる。
すなわち、比較品1の焼鈍材では、水素負荷により変形によるすべり線や微視的き裂の発生が確認されたのに対し、本発明品1は、すべり線や微視的き裂の発生は確認されなかった。
これは、HPT加工によって水素中の変形が抑制され、高強度化されており、応力場において高い変形抵抗を有し、相応の水素透過および耐圧性能が得られたことを示している。
図24は、各温度における透過係数を比較したグラフであり、縦軸に水素透過係数、横軸に温度の逆数を取ったグラフである。
ここで、一次側水素圧力の最大値は、300℃で15kPa、350℃で20kPa、400℃で60kPa、450℃および500℃で100kPaとして水素透過係数を算出した。
HPT−Vは、400℃以下の温度条件において、virgin Vを上回る水素透過係数を示している。
500℃においても、400℃以下の温度条件と比べると僅かではあるが水素透過が行われていることがわかる。
図25は、500℃における透過試験前後の試料のEBSD方位像であり、(a)は透過試験後、(b)は透過試験前を示す。
試験前後で平均粒径は変わらず390nmであり、微細組織を保っていることが確認できる。
この結果から、500℃においては、400℃以下の温度域と比べると水素透過性能は低下するが、水素雰囲気でも微細結晶を維持したまま水素分離膜として長時間機能し、粗大化による機能低下も起こらないと考えることができる。
すなわち、500℃、3.6ks、1時間の水素透過試験後の本発明品1は、平均結晶粒径が390nmであり、微細組織を保ち、500℃でも水素分離膜として長時間機能し、粗大化による機能低下も起こらないことが確認された。
水素透過試験前後の試料の平均粒径と粒度番号を、次表に示す。
どちらの試料も粒度番号Nは20であり、結晶組織観察の結果から500℃以下の温度領域でも粒度番号20以上の微細粒を有していると考えられるため、水素透過性能が向上する1つの目安として粒度番号20以上の微細粒を有していることが考えられる。
(11)PCT測定
測定した各試料のPCT曲線を図26に示す。
HPT−Vとvirgin VのPCT曲線は同線上に重なっており、HPT加工によるPCT曲線への影響は見られなかった。
したがって、HPT加工前後の試料において水素溶解度の変化はなく、HPT加工のPCT曲線に対する寄与は小さいと考えられる。
この結果により、Vのようなbcc金属において、結晶粒内の結晶格子中への水素溶解度が高いため、結晶粒界の影響は少ないと考えられる。
また岩岡らにより、fcc金属であるPdではHPT加工により、水素溶解度が向上すると報告されているが、Pdはfcc金属であるため、結晶粒内の水素溶解度が小さく結晶粒界における水素溶解度が相対的に高まっていると考えられる。
(12)ニッケルによる水素分離膜試料の製造
前記のバナジウムと同様に、該HPT加工装置を用い、純度99.9%のニッケルの引抜材を、1100℃で1時間熱処理を施した後、室温にて、印加圧力1.5GPa、回転速度0.25rpm、回転数5回転の条件でHPT加工を行うことで、本発明品2である水素分離膜の試料を製造した。
ここでの、前記のHPT加工の際のひずみを表す式によると、ひずみεは、最小値32.6〜最大値169程度であった。
すなわち、20mmディスクから10mmディスクを切り出した試料のうちの水素が透過している領域について、試料中心からの距離を示すrは、1.8mm〜9.3mmの範囲における値となるので、ひずみεも下限〜上限の値として計算された。
そして、金型溝深さが上下合わせて0.7mmの場合、HPT加工の際に用いられる金型穴径と同じ直径20mm、厚さ0.8mmのディスク状のニッケルによる水素分離膜試料を得た。
ここで、比較のために、HPT加工を行わない純度99.9%のニッケルによる焼鈍材を、本発明品2と同じディスク状に形成して比較品2とした。
(13)ニッケルによる試料の作製
上記で得たでディスク状の本発明品2又は比較品2による水素分離膜試料から、ワイヤーカット放電加工機(WEDM)を用い、所望の形状に切り出して各試験用の試料を作製した。
(14)水素透過試験
本発明品2と比較品2について、600℃の温度条件下、1次側水素圧力を600kPa、400kPa、200kPaの各3通りについて、2次側水素圧力は10kPaに統一して、水素透過試験を行った。
その結果を、図27に示す。
なお、図27において、左側の列は、本発明品2を示し、右側の列は比較品2を示す。
(15)試験結果の考察
Pdと同じ10族に属する純Niは、比較品2による焼鈍材では水素透過現象が見られないが、HPT加工を施した本発明品2は、1次側水素圧力を600kPaの条件下では、水素透過係数Φ=2×10−9(mol H−1−1Pa−0.5)を示し、水素の透過を確認した。
この結果により、fcc金属であるNiにおいてもHPT加工を施すことによって水素透過性能が向上することを確認した。
この要因として、NiはPdと同じくfcc金属であり、HPT加工により、水素溶解度が向上すると考えられること、Niにおいても結晶粒界は水素の高速拡散経路として機能すると考えられることが挙げられる。
(16)EBSD方位像
水素透過前(左)と水素透過後(右)の試料表面のEBSD方位像を、図28に示す。
水素透過前の平均粒径は320nmと超微細結晶粒を有していたが、水素透過後の平均粒径は3.84μmであり、結晶粒の粗大化を確認した。
水素透過試験前後の試料の平均粒径と粒度番号を、次表に示す。
水素透過後の試料は、結晶粒が粗大化しているため、水素透過性能が低下していると考えられる。
しかし、fcc金属においてもHPT加工を施すことによる水素透過性能の向上は確認できたため、高性能な水素分離膜の設計指針としてHPT加工は効果的であることが裏付けられた。
また、fcc金属においても粒度番号が21の試料で水素透過性能が向上しており、水素透過性能が向上する1つの目安として粒度番号20以上の微細粒を有していることが挙げられる。
(17)まとめ
(17−1)HPT加工を施すことにより、サブミクロン結晶粒組織を得ることができ、超微細化された結晶粒は500℃の温度環境下でも微細な結晶粒径を維持する。
また、500〜700℃の温度領域で再結晶を開始し、700℃では結晶粒の粗大化を確認した。
(17−2)HPT加工を施すことで、結晶粒が微細化され、引張強度が1.0GPaまで上昇する。
(17−3)VにHPT加工を施した後の焼鈍において、500℃を超えてから結晶粒が粗大化し、急激に硬度および引張強さが低下する。
(17−4)HPT加工による高密度の転位は、400℃以下の温度環境下においてじん性の低下に起因していたが、500℃においては転位が回復し、延性材料としての特徴を有していた。
(17−5)Vなどのbcc金属において、HPT加工を施すことによる水素固溶量への影響は少なく、結晶粒界は水素のトラップサイトとしてではなく、水素原子の拡散経路として機能している。
(17−6)HPT加工を施すことで水素雰囲気において、virgin Vでは脆性破壊していた水素固溶領域においても靭性を維持しており、0.4H/Mにおいても延性的な破壊を示す。
(17−7)fcc金属であるNiにおいてもHPT加工を施すことにより、水素透過性能の向上を確認した。
(17−8)粒度番号N=20以上でHPT加工による水素透過性能への効果が得られることを確認した。
1 HPT加工装置
特開2015−147208号公報 特開2014−181344号公報

Claims (5)

  1. 水素を選択的に透過させることができる薄膜状の金属に対し、ε=10以上のひずみを付与する強歪み加工を行うことを特徴とする、水素分離膜の製造方法。
  2. 前記金属が、ニッケル、パラジウム、ニオブ、バナジウム、タンタル、鉄から選ばれる1種又は2種以上の金属であることを特徴とする、請求項1に記載の水素分離膜の製造方法。
  3. 前記強歪み加工が、高圧ねじり加工であることを特徴とする、請求項1または2に記載の水素分離膜の製造方法。
  4. 水素を選択的に透過させることができる金属膜であり、周期表で5族又は10族に属し、粒度番号Nが18以上であることを特徴とする、水素分離膜。
  5. 前記金属膜が、粒度番号N=20、平均粒径d=390nmのバナジウム膜であることを特徴とする、請求項4に記載の水素分離膜。
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