JP2017159423A - 耐チッピング性と耐摩耗性にすぐれた表面被覆切削工具 - Google Patents

耐チッピング性と耐摩耗性にすぐれた表面被覆切削工具 Download PDF

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Abstract

【課題】耐チッピング性、耐摩耗性にすぐれた表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】硬質被覆層は、AlCrSiNiZrN層を少なくとも含み、該層は、主相と、主相中に分散分布するCrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルとからなり、それぞれの組成を、組成式:(Al1−α−β−γ−δCrαSiβNiγZrδ1−xで表した場合(ただし、α、β、γ、δ、xはいずれも原子比)、前記主相、前記CrSiリッチパーティクル、前記NiZrリッチパーティクルは、それぞれα、β、γ、δ、xが所要の値を満足し、かつ、硬質被覆層縦断面に占める長径が100nm以上のCrSiリッチパーティクルの面積率は、0.5〜5面積%、NiZrリッチパーティクルの面積率は0.3〜3面積%である。
【選択図】図2

Description

本発明は、切れ刃に断続的・衝撃的高負荷が作用する焼入鋼等の高硬度材の断続切削加工において、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を示し、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
従来、例えば、特許文献1に示されているように、工具基体の表面に、組成式:(Al1−x−yCrSi)(N1−z)(但し、0.3≦x≦0.7、0≦y≦0.1、0≦z≦0.3)で表される平均層厚0.5〜8.0μmの複合炭窒化物層または複合窒化物層からなる硬質皮膜を形成した表面被覆切削工具において、硬質皮膜は、構成元素の90原子%以上が金属元素である粒子を含有しており、前記粒子は、断面長径0.05〜1.0μmで前記硬質皮膜中に3〜20%の縦断面面積比率で分散分布し、前記粒子のうち、構成元素に50原子%以上のAlを含み、かつ縦断面形状のアスペクト比が2.0以上かつ断面長径が基板表面となす鋭角が45°以下である粒子の縦断面面積比率をA%、それ以外の粒子の縦断面面積比率をB%としたとき、0.3≦A/(A+B)を満足し、炭素鋼、合金工具鋼等の正面フライス加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する被覆工具が知られている。
また、特許文献2に示されているように、工具基体の表面に、少なくとも、0.5〜10μmの層厚のAlとCrの複合窒化物層からなる硬質被覆層を被覆形成した表面被覆切削工具において、上記AlとCrの複合窒化物層中には、ポアおよびパーティクル(ドロップレット)が分散分布し、上記AlとCrの複合窒化物層の任意の断面における上記ポアの占有面積率および上記パーティクル(ドロップレット)の占有面積率は、それぞれ、0.5〜1面積%および2〜4面積%であり、さらに、上記パーティクル(ドロップレット)のうち、上記AlとCrの複合窒化物層の平均Al含有量よりもAl含有割合が高いAlリッチパーティクル(ドロップレット)が、上記AlとCrの複合窒化物層の任意の断面における全パーティクル(ドロップレット)面積の20面積%以上を占め、炭素鋼、合金工具鋼等の高速切削加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する被覆工具が知られている。
さらに、特許文献3では、硬質被膜形成用のターゲットとして、Cr1−x−y−zAl[Ni1−aZrで表される組成を有し(但し、Mは、Ti、Nb、Si、B、W及びVから選ばれる少なくとも1種の元素、0.5≦x≦0.8、0.01≦y≦0.35、0≦z≦0.2、0.51≦x+y+z<1、0.2≦a≦0.5)、相対密度が95%以上であるターゲットが提案されており、このターゲットを用いて形成された窒化物、炭化物又は炭窒化物を含む硬質被膜を備えた被覆工具は、耐摩耗性及び密着性に優れることが知られている。
特開2013−56954号公報 特開2012−166333号公報 特開2008−238336号公報
近年の切削加工における省力化および省エネ化の要求は強く、これに伴い、被覆工具は一段と過酷な条件下で使用されるようになってきており、耐チッピング性、耐摩耗性等を高めるために、前記特許文献1〜3に示されるような手法で、被覆工具の性能向上がなされてきているが、特に、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高硬度材の切削加工においては、耐チッピング性と耐摩耗性の双方の特性を相兼ね備えた被覆工具の開発は未だ十分になされているとはいえない。
例えば、特許文献1に示される被覆工具においては、硬質皮膜中に含有される粒子を構成する元素の90原子%以上が金属元素であり、しかも、構成元素の50原子%以上Alが含有されているため、粒子組成がAlリッチであって融点が低く、耐溶着性が劣るため、耐チッピング性が十分ではなかった。
また、特許文献2に示される被覆工具においては、硬質皮膜中に存在するパーティクル(ドロップレット)の下部には空隙が形成されており、その空隙が存在することで、高負荷が作用した際の皮膜の強度が弱く、例えば、空隙をクラックが伝播・進展することによりチッピング発生に至るという問題があった。
さらに、特許文献3に示される被覆工具は、Cr−Al−Ni−N系の硬質被膜において、Niの一部をZrで置換するとともに、任意成分としてのSiを含有させることにより、密着性と耐摩耗性の改善を図ったものであるが、この被覆工具を、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高硬度材の断続切削加工に供した場合には、耐チッピング性と耐摩耗性の両立を図ることはできなかった。
そこで、本発明は、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する焼入鋼等の高硬度材の断続切削加工(例えば、ミーリング加工)に供した場合であっても、すぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する被覆工具を提供することを目的とする。
本発明者らは、前述のような観点から、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高硬度材の断続切削加工において、耐チッピング性と耐摩耗性を両立し得る硬質被覆層の層構造について鋭意研究を行った結果、以下の知見を得たのである。
即ち、工具基体表面に、AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層からなる硬質被覆層を被覆形成した被覆工具において、前記AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層内に成分系の異なる2種類のパーティクル、具体的には、CrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクル、を共存させ、しかも、前記AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層に占める前記2種類のパーティックルの面積率をそれぞれ特定範囲に定めることにより、前記AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層は耐溶着性とともにすぐれた硬さと強度を示すようになることを見出した。
前記AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層からなる硬質被覆層は、炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体表面に、物理蒸着法により成膜することができる。
本発明では、例えば、図3にその概略を示すアークイオンプレーティング(以下、「AIP」で示す)装置を用いて成膜をするが、成膜条件として、特に、ターゲットに印加する磁束密度の強さ及びアーク電流の大きさを制御することによって、AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層中に所定の面積率のCrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルを共存生成させることができる。
そして、AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層中に存在する所定の面積率のCrSiリッチパーティクルが、切削加工時における該層の耐チッピング性向上に寄与すること、また、該層中に存在する所定の面積率のNiZrリッチパーティクルが、潤滑性向上に寄与することを見出したのである。
その結果、前記のAlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層からなる硬質被覆層を被覆形成した本発明の被覆工具は、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高硬度材の断続切削加工において、すぐれた耐溶着性、耐チッピング性および耐摩耗性を示し、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮するのである。
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「 炭化タングステン基超硬合金、TiCN基サーメット、立方晶窒化硼素焼結体および高速度工具鋼のいずれかからなる工具基体の表面に、硬質被覆層が設けられた表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層を少なくとも含み、前記複合窒化物層は、主相と、該主相中に分散分布するCrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルとからなり、前記主相、CrSiリッチパーティクルおよびNiZrリッチパーティクルの組成を、
組成式:(Al1−α−β−γ−δCrαSiβNiγZrδ1−x
で表した場合(ただし、α、β、γ、δ、xはいずれも原子比を示す)、
(b)前記主相は、0.15≦α≦0.30、0.01≦β≦0.15、0.001≦γ≦0.02、0.001≦δ≦0.02、0.45≦x≦0.60を満足し、
(c)前記CrSiリッチパーティクルは、0.25≦α≦0.65、0.15≦β≦0.50、0≦γ≦0.02、0≦δ≦0.02、0.05≦x≦0.35を満足し、
(d)前記NiZrリッチパーティクルは、0≦α≦0.05、0.10≦β≦0.25、0.20≦γ≦0.40、0.30≦δ≦0.45、0.10≦x≦0.35を満足し、
(e)前記硬質被覆層の縦断面に占める長径が100nm以上の前記CrSiリッチパーティクルの占有面積率は、0.5面積%以上5面積%以下であり、また、前記硬質被覆層の縦断面に占める長径が100nm以上の前記NiZrリッチパーティクルの占有面積率は、0.3面積%以上3面積%以下であることを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
本発明について、以下に詳細を説明する。
硬質被覆層:
硬質被覆層は、図1の模式図に示すように、AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物(以下、「AlCrSiNiZrN」で示す)層を少なくとも含み、該層は、図2(a)、あるいは、図2(a)の部分拡大図である図2(b)に示すように、主相と、該主相中に分散分布するCrSiリッチパーティクルおよびNiZrリッチパーティクルからなる。
AlCrSiNiZrN層の主相:
AlCrSiNiZrN層の主相を、
組成式:(Al1−α−β−γ−δCrαSiβNiγZrδ1−x
で表した場合(ただし、α、β、γ、δ、xはいずれも原子比を示す)、その構成成分であるAl成分は高温硬さと耐熱性を向上させ、Cr成分は高温強度を向上させ、Si成分は耐酸化性を向上させる。また、AlとCrとが共存することによって高温耐酸化性を向上させる作用がある。さらに、Ni成分は層の潤滑性を向上させ、Zr成分は層の硬さを高める作用がある。
そして、前記主相において、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるCrの含有割合αが0.15(但し、αは原子比)未満であると、相対的にAl含有量が高くなるため、溶着性の高い被削材のミーリング切削加工において、被削材および切粉に対する耐溶着性を確保することができず、また、高温強度も低下するため、溶着、チッピングを発生しやすくなる。一方、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるCrの含有割合αが0.30を超えると、硬質被覆層をAIP装置で成膜する際に、ターゲット材の融点が高くなり、その結果、副次的に生成されるCrSiリッチパーティクルも高Cr濃度となり、融点が相対的に高くなる。そのため、CrSiリッチパーティクルの形状は球状に近くなり、長径が100nm以上のパーティクル形状が形成されず、パーティクルの下部に空隙が残る。そして、この空隙が、切削加工時のクラックの起点となりやすく、チッピングが発生しやすくなる。
したがって、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるCrの含有割合αは、0.15≦α≦0.30とする。
また、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるSiの含有割合βが0.01未満では、耐酸化性向上効果が少ないばかりか、相対的にCr含有割合が高くなるため、粒子の融点が高くなり、耐チッピング性向上効果が少ない。一方、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるSiの含有割合βが0.15を超えると、主相の高温靭性、高温強度が低下するので、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるSiの含有割合βは、0.01≦β≦0.15とする。
また、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるNiの含有割合γが0.001未満では、主相の潤滑性向上効果が少なく、一方、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるNiの含有割合γが0.02を超えると、主相の硬度を低下させることにより、耐摩耗性を低下させるので、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるNiの含有割合γは、0.001≦γ≦0.02とする。
さらに、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるZrの含有割合δが0.001未満では、主相の硬度を高める効果が少なく、一方、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるZrの含有割合δが0.02を超えると、耐チッピング性を低下させるので、AlとCrとSiとNiとZrの合量に占めるZrの含有割合δは、0.001≦γ≦0.02とする。
なお、複合窒化物からなる主相において、主相を構成する成分の総量に対するN成分の含有割合xは、化学量論比である0.50には限定されず、これと同等な効果が得られる範囲である0.45≦x≦0.60の範囲であればよい。
また、硬質被覆層の層厚について本発明では特に制限するものではないが、硬質被覆層の層厚が0.5μm未満であると、十分な耐摩耗性を長期にわたって発揮することができず、一方、10.0μmを越えると、硬質被覆層中に蓄積される圧縮残留応力が大きくなるため、切削初期に切れ刃でのチッピング発生が生じやすくなり、また、硬質被覆層自体が自己破壊する恐れがある。
したがって、硬質被覆層の層厚は、0.5μm以上8.0μm以下とすることが望ましい。
硬質被覆層中のCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクル:
硬質被覆層中には、前記主相中に分散分布するCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクル(図2(a)、(b)参照)が形成される。
CrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクルの生成は、図3に示すAIP装置を用いて硬質被覆層を蒸着形成する際の蒸着条件、特に、ターゲットに印加する磁束密度の大きさ及びアーク電流の大きさをコントロールすることによって、それぞれのパーティクルを所望の組成とすることができ、さらに、硬質被覆層中に存在するパーティクルのうち、長径が100nm以上のそれぞれのパーティクルが硬質被覆層の縦断面に占める面積割合を所望の値とすることができる。
CrSiリッチパーティクル:
CrSiリッチパーティクルは、主相中に分散分布し、切削加工時の硬質被覆層の高温強度を向上し、その結果、切削加工時の耐チッピング性を向上させる。
CrSiリッチパーティクルの組成を、
組成式:(Al1−α−β−γ−δCrαSiβNiγZrδ1−x
で表した場合(α、β、γ、δ、xはいずれも原子比を示す)、CrSiリッチパーティクルの組成が、0.25≦α≦0.65、0.15≦β≦0.50、0≦γ≦0.02、0≦δ≦0.02、0.05≦x≦0.35の範囲を外れると、焼入鋼等の高硬度材の断続切削加工において、被削材および切粉に対する高温強度を確保することができなくなるため、チッピングを発生しやすくなる。
Crの含有割合αが0.25未満では、主相に対して十分な強度が得られず、主相中へ分散した際に発揮する耐チッピング性向上の効果が小さくなる。一方、Crの含有割合が0.65を超えると、パーティクルが球状に近くなりパーティクル下に空隙が残りやすくなり、これがクラックの起点となりやすく、チッピングが発生しやすくなる。
Siの含有割合βが0.15未満では、パーティクルの耐酸化性が低下し、0.50を超えると、パーティクルの高温靭性が低下し、パーティクル自体がクラックの起点になってしまう。
Ni、Zr含有割合が0.02を超えると、パーティクル自体の強度が低下し、CrSiリッチパーティクルを分散させることにより得られる耐チッピング性が十分発揮できなくなる。
Nの含有量xが0.05未満では、主相との親和性が低下しパーティクルと主相の界面がクラックの起点になってしまい、また、0.35を超えるとCrSiリッチパーティクルとしての効果が発揮されない。
NiZrリッチパーティクル:
NiZrリッチパーティクルは、主相中に分散分布し、硬質被覆層の潤滑性を高め、その結果、耐摩耗性を向上させる。
NiZrリッチパーティクルの組成を、
組成式:(Al1−α−β−γ−δCrαSiβNiγZrδ1−x
で表した場合(α、β、γ、δ、xはいずれも原子比を示す)、NiZrリッチパーティクルの組成が、0≦α≦0.05、0.10≦β≦0.25、0.20≦γ≦0.40、0.30≦δ≦0.45、0.10≦x≦0.35の範囲を外れると、耐摩耗性向上効果が低下する。
Niの含有割合γが0.20未満では、NiZrリッチパーティクルとしての潤滑性が発揮されず、一方、Niの含有割合γが0.40を超えると、パーティクルの硬さを低下し、これらが分散した膜全体の硬さを低下させ、耐摩耗性を低下させる。
Zrの含有割合δが0.30未満では、パーティクルの硬さが低下し、パーティクル部が局所的に損傷しやすくなり、膜全体の損傷の起点となる。一方、Zrの含有割合が0.045を超えると相対的にパーティクルの形状が球状に近くなりパーティクルの下に空隙が残りやすくなり、これがクラックの起点になりやすく、チッピングが発生しやすくなる。
Crの含有割合αが0.05を超えると相対的にパーティクルの硬さが低下し、耐摩耗性を低下させる。
Siの含有割合βが0.10未満ではパーティクルの耐酸化性が発揮されず、0.25を超えると靭性が低下し、パーティクル部が損傷の起点となりやすくチッピングが発生しやすくなる。
Nの含有量xが0.10未満では、主相との親和性が低下しパーティクルと主相の界面がクラックの起点になってしまい、また、0.35を超えるとNiZrリッチパーティクルとしての効果が発揮されない。
なお、主相中に分散分布するCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクルの組成は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光分析(SEM−EDS)を用いて測定することができる
本発明においては、硬質被覆層がAlCrSiNiZrN層を少なくとも含み、該層を、主相と該主相中に分散分布するCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクルとで構成することによって、硬質被覆層がすぐれた耐溶着性、耐チッピング性、耐摩耗性を備えるようになるが、硬質被覆層中に存在するCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクルの面積割合によって、硬質被覆層の特性が影響を受けることから、硬質被覆層中に占める前記パーティクルの面積割合を適正な範囲に維持することが重要である。
本発明の硬質被覆層は、AIP装置を用い、かつ、制御された成膜条件(特に、ターゲットに印加する磁束密度の強さ及びアーク電流の大きさ)のもとで蒸着することで、主相が形成されると同時に、該主相中にCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクルが分散分布して形成される。
硬質被覆層の縦断面を観察した場合、上記パーティクルは、工具基体表面とほぼ平行な方向に直径を有する扁平形状のものとして形成される。その長径と短径の比からアスペクト比を測定しその平均を求めると2以上となる。
上記パーティクルのアスペクト比が2未満の場合、パーティクル形状が球状に近くなりパーティクル下に空隙が発生しやすくなり、この空隙はクラックの起点になりやすく、チッピングの原因となる。
そして、上記パーティクルのうちで、長径が100nm以上のパーティクルの存在が、硬質被覆層の特性に影響を及ぼすことから、長径が100nm以上のCrSiリッチパーティクルについては、硬質被覆層の縦断面に占める面積割合を0.5面積%以上5面積%以下とし、また、NiZrリッチパーティクルについては、硬質被覆層の縦断面に占める面積割合を0.3面積%以上3面積%以下とする。
これは、CrSiリッチパーティクルの面積割合が0.5面積%未満の場合には、十分な耐チッピング性を発揮できない。一方、CrSiリッチパーティクルの面積割合が5面積%を超える場合には、皮膜全体の硬さを低下させる、という理由による。
また、NiZrリッチパーティクルの面積割合が0.3面積%未満の場合には、十分な潤滑性を発揮できない。一方、NiZrリッチパーティクルの面積割合が3面積%を超える場合には、皮膜全体の硬さが低下し耐摩耗性を低下させる、という理由による。
なお、パーティクルの長径とは、基体表面に垂直な硬質被覆層断面におけるパーティクルの断面形状について測定した最も長い直径を意味するが、本発明においては、ほとんどすべてのパーティクルの長径が工具基体表面と平行な方向であるので、工具基体表面と平行な方向に測定したパーティクルの最大長さを長径とよび、また、該長径方向に直交するパーティクルの最大長さを短径とよぶ。
そして、アスペクト比とは、長径/短径の値であり、アスペクト比を複数個所で測定し、この測定値を平均した値が平均アスペクト比である。
本発明の被覆工具は、硬質被覆層が、AlCrSiNiZrN層を少なくとも含み、該層は、主相と、該主相中に分散分布するCrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルとからなり、それぞれの組成を、組成式:(Al1−α−β−γ−δCrαSiβNiγZrδ1−xで表した場合(ただし、α、β、γ、δ、xはいずれも原子比を示す)、主相は、0.15≦α≦0.30、0.01≦β≦0.15、0.001≦γ≦0.02、0.001≦γ≦0.02、0.45≦x≦0.60を満足し、CrSiリッチパーティクルは、0.25≦α≦0.65、0.15≦β≦0.50、0≦γ≦0.02、0≦δ≦0.02、0.05≦x≦0.35を満足し、NiZrリッチパーティクルは、0≦α≦0.05、0.10≦β≦0.25、0.20≦γ≦0.40、0.30≦δ≦0.45、0.10≦x≦0.35を満足する組成を有し、さらに、硬質被覆層の縦断面に占める長径が100nm以上のCrSiリッチパーティクルの占有面積率は、0.5面積%以上5面積%以下、また、NiZrリッチパーティクルの占有面積率は、0.3面積%以上3面積%以下であることから、本発明の硬質意被覆層は、耐溶着性、耐チッピング性、耐摩耗性にすぐれる。
したがって、本発明の被覆工具を、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高硬度材の断続切削加工に用いた場合、長期の使用にわたって、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する。
本発明被覆工具の硬質被覆層の概略縦断面模式図を示す。 (a)は、本発明被覆工具の硬質被覆層のTEM像を示し、(b)は、(a)の部分拡大図を示す。 本発明被覆工具の硬質被覆層を成膜するアークイオンプレーティング装置の概略説明図を示し、(a)は平面図、(b)は側面図を示す。
つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
以下の実施例では、本発明の被覆工具をミーリング加工で使用した場合について説明するが、旋削加工、ドリル加工等について用いることを何ら排除するものではない。
また、WC基超硬合金を工具基体として用いた場合について説明するが、TiCN基サーメット、立方晶窒化硼素焼結体、高速度工具鋼を工具基体として用いた場合であっても同様である。
なお、以下の実施例では、硬質被覆層がAlCrSiNiZrN層の単層である場合について説明するが、硬質被覆層としては、AlCrSiNiZrN層が少なくとも1層あればよいのであって、この層の他に、例えば、TiAlN層、AlCrCN層等の他の層が存在することを排除するものではない。また、AlCrSiNiZrN層以外の層が存在したとしても、本発明の作用効果は何ら損なわれるものではない。
原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C[質量比で、TiC/WC=50/50]粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が8mmの工具基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記丸棒焼結体から、研削加工にて、切刃部の直径×長さが6mm×13mmの寸法、並びにねじれ角30度の2枚刃ボール形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)A〜Eをそれぞれ製造した。
つぎに、これらの工具基体A〜Eを、図3に示すAIP装置に装入し、Tiボンバードを施し、次いで、所定の成分組成のターゲットを用い、表2に示す成膜条件で所定の層厚の硬質被覆層を蒸着形成することにより、表3に示す成分組成の主相と表4に示す成分組成のCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクルからなる本発明被覆工具1〜10を作製した。
前記本発明被覆工具1〜10の硬質被覆層について、工具基体表面に垂直な硬質被覆層断面の組織観察と組成分析を、透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光分析(TEM−EDS)を用いて行った。
本発明被覆工具における観察範囲は、工具基体表面と平行方向に20μmとし、硬質被覆層断面に対して0.01μm以下の空間分解能の元素マッピングを行い、被覆した硬質被覆層の主相およびCrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルの組成を複数個所測定し、本発明で規定する範囲内であることを確認した。
また、CrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルが、硬質被覆層断面に占める面積割合は、次のような方法で求めた。すなわち、各パーティクルを撮影したTEM―EDSマッピング像において、窒素量を分析したマッピング像を用いてパーティクルと主相の境界を区別し、パーティクルの長径が100nm以上のパーティクルの外周部を選択し、囲まれた面積を、画像解析ソフト(例えば、Adobe photoshopなど)を用いて算出し、測定領域の硬質被覆層断面に占めるパーティクルの面積割合として算出した。
次に、CrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルの工具基体表面に平行な方向の最大長さを長径として測定し、また、長径の方向に直交する方向の最大長さを短径として測定し、それぞれのパーティクルについてのアスペクト比(長径/短径)を求め、複数領域でアスペクト比を測定してこれらの値を平均することによった、パーティクルの平均アスペクト比を算出した。
表3、表4に、これらの測定値、算出値をそれぞれ示す。
次に、比較の目的で、前記AIP装置を用いて、工具基体A〜Eの表面に、Tiボンバードを施し、次いで、所定の成分組成のターゲットを用いて、表5に示す成膜条件で、各種の硬質被覆層を蒸着形成することにより、表6に示す成分組成の主相と表7に示す成分組成のCrSiリッチパーティクル、NiZrリッチパーティクルからなる比較被覆工具1〜10を作製した。
比較被覆工具1〜10についても、その断面をTEM−EDSによって観察し、また、硬質被覆層断面における点分析によって、硬質被覆層を構成する主相の組成、パーティクルが存在する場合にはその組成を分析し、また、硬質被覆層断面に占めるパーティクルの面積割合、パーティクルの平均アスペクト比を算出した。
表6、表7に、これらの値をそれぞれ示す。
また、本発明被覆工具1〜10および比較被覆工具1〜10の硬質被覆層の層厚を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した。
表3、表6に、これらの値を示す。







つぎに、前記本発明被覆工具1〜10および比較被覆工具1〜10について、以下に示す条件で、ミーリング切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
被削材: JIS・SKH51(HRC64)のブロック材
回転速度: 5400/min.、
切削速度: 100m/min.、
切り込み: ae 0.2mm、ap 2.0mm
送り(1刃当り): 0.05mm/刃、
切削油剤: エアーブロー、
切削長: 20 m、
表8に、前記切削試験の結果を示すとともに、チッピング発生の有無を示す。

表3、4、6、7、8に示される結果から、本発明の被覆工具1〜10は、AlCrSiNiZrN層からなる硬質被覆層中に、所定の組成の主相とともに、所定組成のCrSiリッチパーティクルおよびNiZrリッチパーティクルが所定の面積率で存在することによって、切れ刃に断続的・衝撃的高負荷が作用する高硬度材の断続切削加工において、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を示した。
これに対して、比較被覆工具1〜10は、
硬質被覆層中に、パーティクルが形成されているものの、本発明で規定する範囲を外れているため、耐チッピング性あるいは耐摩耗性の両特性にすぐれるものであるとはいえない。
本発明の被覆工具は、焼入鋼等の高硬度材の断続切削加工においてすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮し、使用寿命の延命化を可能とするものであるが、他の被削材の切削加工、他の条件での切削加工で使用することも勿論可能である。

Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金、TiCN基サーメット、立方晶窒化硼素焼結体および高速度工具鋼のいずれかからなる工具基体の表面に、硬質被覆層が設けられた表面被覆切削工具において、
    (a)前記硬質被覆層は、AlとCrとSiとNiとZrの複合窒化物層を少なくとも含み、前記複合窒化物層は、主相と、該主相中に分散分布するCrSiリッチパーティクルとNiZrリッチパーティクルとからなり、前記主相、CrSiリッチパーティクルおよびNiZrリッチパーティクルの組成を、
    組成式:(Al1−α−β−γ−δCrαSiβNiγZrδ1−x
    で表した場合(ただし、α、β、γ、δ、xはいずれも原子比を示す)、
    (b)前記主相は、0.15≦α≦0.30、0.01≦β≦0.15、0.001≦γ≦0.02、0.001≦δ≦0.02、0.45≦x≦0.60を満足し、
    (c)前記CrSiリッチパーティクルは、0.25≦α≦0.65、0.15≦β≦0.50、0≦γ≦0.02、0≦δ≦0.02、0.05≦x≦0.35を満足し、
    (d)前記NiZrリッチパーティクルは、0≦α≦0.05、0.10≦β≦0.25、0.20≦γ≦0.40、0.30≦δ≦0.45、0.10≦x≦0.35を満足し、
    (e)前記硬質被覆層の縦断面に占める長径が100nm以上の前記CrSiリッチパーティクルの占有面積率は、0.5面積%以上5面積%以下であり、また、前記硬質被覆層の縦断面に占める長径が100nm以上の前記NiZrリッチパーティクルの占有面積率は、0.3面積%以上3面積%以下であることを特徴とする表面被覆切削工具。
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