炭素数2以上4以下の脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と芳香族ジカルボン酸系化合物を含有するカルボン酸成分とを重縮合して得られる非晶質ポリエステルは、芳香族系ジオールを使用したものと比べると、エステル基の濃度が高いことと低分子量分が存在することの影響により吸水しやすいという性質がある。この非晶質ポリエステルを結晶性ポリエステルと併用すると、低分子量分の影響により、結晶性ポリエステルの結晶化が阻害され、特に高温高湿環境下で結晶性ポリエステルが吸水しやすく、供給カスレが悪化する。
そこで、非晶質ポリエステルの構成成分として、炭素数8以上20以下のアルキル基又はアルケニル基で置換されたモノマーを導入すると、非晶質ポリエステルは疎水化され、吸水し難くなるが、その一方で、結晶性ポリエステルとの相溶性が高くなり、低分子量分の影響と相重なって結晶化が阻害され、やはり高温高湿下で結晶性ポリエステルが吸水しやすく、供給カスレが悪化してしまうものと考えられる。
これに対して、本発明者等が鋭意検討した結果、炭素数8以上20以下のアルキル基もしくは炭素数8以上20以下のアルケニル基で置換されたモノマーを構成成分に含み、低分子量分を低減した高分子量の非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルとを組み合わせることにより、結晶性ポリエステルの結晶化を阻害することなく、低温定着性、保存性、特に高温下での保存性(耐熱保存性)及び高温高湿(HH)環境下での供給カスレの抑制を両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の電子写真用トナーは、結着樹脂及び着色剤を含有し、該結着樹脂が、炭素数2以上4以下の脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と炭素数8以上20以下のアルキル基で置換されたコハク酸系化合物及び炭素数8以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸系化合物から選ばれる1種又は2種以上のコハク酸誘導体を含有するカルボン酸成分との重縮合物である非晶質ポリエステルAPを含有し、数平均分子量が4,000以上である非晶質ポリエステルの割合が60質量%以上である非晶質樹脂Aと、脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と、脂肪族ジカルボン酸系化合物を含有するカルボン酸成分とを重縮合させて得られる結晶性ポリエステルCP又は結晶性ポリエステルCPを含む複合樹脂を含有し、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸系化合物の少なくとも1つが炭素数9以上14以下である結晶性樹脂Cとを含有するものである。
非晶質ポリエステルAPは、前記の如く、炭素数2以上4以下の脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と炭素数8以上20以下のアルキル基で置換されたコハク酸系化合物及び炭素数8以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸系化合物から選ばれる1種又は2種以上のコハク酸誘導体を含有するカルボン酸成分を含有するカルボン酸成分との重縮合物である。
アルコール成分において、炭素数2以上4以下の脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる。本発明においては、耐熱保存性を向上させる観点から、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを含有していることが好ましい。かかる脂肪族ジオールとしては、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、又は2,3-ブタンジオールが好ましく、中でも1,2-プロパンジオールがより好ましい。
第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールの含有量は、炭素数2以上4以下の脂肪族ジオール中、耐熱保存性を向上させる観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上である。
また、炭素数2以上4以下の脂肪族ジオールは、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールに加えて、低温定着性の観点から、水酸基を炭素鎖の末端に有しているα,ω-脂肪族ジオール、好ましくはα,ω-直鎖アルカンジオールを含有していることが望ましい。
α,ω-脂肪族ジオール、好ましくはα,ω-直鎖アルカンジオールの含有量は、炭素数2以上4以下の脂肪族ジオール中、低温定着性の観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上であり、そして、耐熱保存性の観点から、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下である。
また、炭素数2以上4以下の脂肪族ジオール中、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールとα,ω-脂肪族ジオールのモル比(第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオール/α,ω-脂肪族ジオール)は、耐熱保存性の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1以上、さらに好ましくは2以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは5以下、さらに好ましくは3以下である。
炭素数2以上4以下の脂肪族ジオールの含有量は、低温定着性、及び耐熱保存性の観点から、非晶質ポリエステルAPのアルコール成分中、好ましくは60モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
他のアルコール成分としては、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール、炭素数5以上の脂肪族ジオール、グリセリン等の3価以上のアルコール等が挙げられる。
炭素数8以上20以下のアルキル基で置換されたコハク酸系化合物及び炭素数8以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸系化合物の具体例としては、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、テトラプロペニルコハク酸、デセニルコハク酸、それらの酸無水物、それらの炭素数1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられる。なかでも、HH環境下での供給カスレを抑制する観点から、ドデセニルコハク酸、テトラプロペニルコハク酸、又はそれらの酸無水物が好ましく、ドデセニルコハク酸無水物がより好ましい。
コハク酸系化合物におけるアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、HH環境下での供給カスレを抑制する観点から、8以上、好ましくは10以上、より好ましくは12以上であり、そして、20以下、好ましくは18以下、より好ましくは16以下である。
従って、コハク酸誘導体としては、HH環境下での供給カスレを抑制する観点、帯電安定性を向上させカブリの発生を抑制する観点から、炭素数10以上20以下のアルキル基で置換されたコハク酸及び炭素数10以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸からなる群より選ばれた少なくとも1種又は2種以上が好ましく、炭素数12以上16以下のアルキル基で置換されたコハク酸及び炭素数12以上16以下のアルケニル基で置換されたコハク酸からなる群より選ばれた少なくとも1種又は2種以上がより好ましい。
コハク酸誘導体の含有量は、HH環境下での供給カスレを抑制する観点、及び低温定着性の観点から、非晶質ポリエステルAPのカルボン酸成分中、好ましくは3モル%以上であり、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上であり、そして、トナーの耐熱保存性を向上させる観点から、非晶質ポリエステルAPのカルボン酸成分中、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下である。
コハク酸誘導体以外の2価のカルボン酸系化合物としては、例えば、好ましくは炭素数3以上30以下、より好ましくは炭素数3以上20以下、さらに好ましくは炭素数3以上10以下のジカルボン酸、及びそれらの酸無水物、炭素数1以上3以下のアルキルエステル等の誘導体等が挙げられる。具体的には、芳香族ジカルボン酸系化合物又は脂肪族ジカルボン酸系化合物が好ましく、トナーの帯電安定性を向上させカブリの発生を抑制する観点から、芳香族ジカルボン酸系化合物がより好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられ、これらの中ではテレフタル酸が好ましい。脂肪族ジカルボン酸としては、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。なお、本明細書中、カルボン酸系化合物はカルボン酸、カルボン酸と炭素数1以上3以下のアルコールとのエステル及び酸無水物を含む。
3価以上のカルボン酸系化合物としては、例えば、好ましくは炭素数4以上30以下、より好ましくは炭素数4以上20以下、さらに好ましくは炭素数4以上10以下の3価以上のカルボン酸、又はそれらの酸無水物、炭素数1以上3以下のアルキルエステル等の誘導体等が挙げられる。具体的には、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸(ピロメリット酸)又はそれらの酸無水物等が挙げられ、HH環境下での供給カスレを抑制する観点、及び帯電安定性を向上させカブリの発生を抑制する観点から、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)又はその酸無水物が好ましく、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物(無水トリメリット酸)がより好ましい。
なお、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸系化合物が、適宜含有されていてもよい。
カルボン酸成分とアルコール成分の当量モル比(COOH基/OH基)は、ポリエステルの酸価を低減しつつ、分子量を向上させる観点から、0.70以上1.15以下が好ましく、より好ましくは0.75以上1.10以下である。
アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合反応は、特に制限されるものではないが、例えば、不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、180℃以上250℃以下程度の温度で行うことができる。エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられ、エステル化触媒とともに用い得るエステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下である。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
ここで、数平均分子量が4,000以上の非晶質ポリエステルを得る方法として、特に限定されるものではないが、例えば、
(1) 工程1A:アルコール成分とカルボン酸成分を、反応率が70%以上99%以下に達するまで重縮合する工程、及び
工程2A:工程1Aで得られた重縮合物に、さらにスルホ基を有する有機化合物を添加し、重縮合する工程
を含む方法、並びに
(2) 工程1B:アルコール成分とカルボン酸成分を、1.6以上2.6以下のモル比率(アルコール成分/カルボン酸成分)で用い、反応率が90%を超えるまで重縮合する工程、及び
工程2B:脂肪族ジオールを除去する工程
を含む方法
が挙げられるが、非晶質ポリエステルの製造収率を向上させる観点から、(1)の方法が好ましい。
工程1A及び1Bにおけるアルコール成分とカルボン酸成分の重縮合は、エステル化触媒の存在下で行うことが好ましい。
エステル化触媒としては、反応性の観点から、錫触媒又はチタン触媒が好ましく、速やかに目的の反応率に到達させる観点及び着色を抑制する観点から、錫触媒がより好ましい。
錫触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等が挙げられるが、反応性、分子量調整及び樹脂の物性調整の観点から、Sn−C結合を有していない錫(II)化合物が好ましい。
Sn−C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn−C結合を有しておらず、Sn-O結合を有する錫(II)化合物、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく、Sn-O結合を有する錫(II)化合物がより好ましい。
Sn-O結合を有する錫(II)化合物としては、シュウ酸錫(II)、酢酸錫(II)、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ラウリル酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)、オレイン酸錫(II)等の炭素数2〜28のカルボン酸基を有するカルボン酸錫(II);オクチロキシ錫(II)、ラウロキシ錫(II)、ステアロキシ錫(II)、オレイロキシ錫(II)等の炭素数2〜28のアルコキシ基を有するアルコキシ錫(II);酸化錫(II);硫酸錫(II)等が、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物としては、塩化錫(II)、臭化錫(II)等のハロゲン化錫(II)等が挙げられ、これらの中では、帯電立ち上がり効果及び触媒能の点から、(R1COO)2Sn(ここでR1は炭素数5〜19のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表される脂肪酸錫(II)、(R2O)2Sn(ここでR2は炭素数6〜20のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表されるアルコキシ錫(II)又はSnOで表される酸化錫(II)が好ましく、(R1COO)2Snで表される脂肪酸錫(II)又は酸化錫(II)がより好ましく、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)又は酸化錫(II)がさらに好ましく、2-エチルヘキサン酸錫(II)又は酸化錫(II)がさらに好ましい。
チタン触媒としては、Ti−O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1〜28のアルコキシ基、総炭素数2〜28のアルケニルオキシ基又は総炭素数1〜28のアシルオキシ基を有する化合物がより好ましく、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネートがさらに好ましい。
エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.2質量部以上であり、そして、好ましくは2.0質量部以下、より好ましくは1.5質量部以下、さらに好ましくは1.0質量部以下である。
工程1A及び1Bにおいて、エステル化触媒とともに、エステル化助触媒として、互いに隣接する3個の炭素原子に結合した水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有する化合物が用いられていてもよい。その例としては、例えば、没食子酸等が挙げられる。
また、エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
また、工程1A及び1Bにおいて、重縮合以外の副反応を防止する観点から、ラジカル重合禁止剤を用いてもよい。ラジカル重合禁止剤としては、4-tert-ブチルカテコールが好ましい。
工程1A及び1Bにおいて、重縮合は、不活性ガス雰囲気中にて行うことが好ましく、反応性やモノマーの熱分解性の観点から、反応温度は、好ましくは160℃以上、より好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下である。
工程1Aでは、所定の反応率に達するまで、重縮合を行う。反応率は、得られるトナーの低温定着性と耐熱保存性を向上させる観点から、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上であり、そして、工程2Aでの重合を促進し、HH環境下での供給カスレの抑制を向上させる観点から、好ましくは99%以下、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは85%以下である。なお、本発明における反応率とは、生成反応水量(mol)/理論生成水量(mol)×100の値をいう。
工程2Aでは、工程1Aで得られた重縮合物(工程1Aの反応系)にスルホ基を有する有機化合物を添加して、重縮合を行う。
本発明におけるスルホ基を有する有機化合物は、スルホ基を有する芳香族化合物又はスルホ基を有する脂肪族化合物が好ましいが、樹脂中への分散性、ポリエステルとの相溶性、及び帯電特性の観点からスルホ基を有する芳香族化合物がより好ましい。
スルホ基を有する芳香族化合物としては、パラトルエンスルホン酸、イソトルエンスルホン酸、メタトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−キシレン-2-スルホン酸、ナフタレン-1-スルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、アミノベンゼンスルホン酸、2-アミノトルエン-5-スルホン酸、8-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸、4-ビフェニルスルホン酸、ベンゼン-1,3-スルホン酸、パラトルエンスルホン酸-2ブチニル、パラトルエンスルホン酸-3ブチニル、パラトルエンスルホン酸-2クロロエチル、パラトルエンスルホン酸シクロヘキシル、2,5-ジメチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸エチル、p-トルエンスルホン酸エチル、ビス-p-トルエンスルホン酸エチレングリコール、p-トルエンスルホン酸イソブチル、ベンゼンスルホン酸メチル、1,3,6-ナフタレントリスルホン酸、1-ナフトール-2-スルホン酸、及びこれら化合物の塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、水和物、メチルエステル化合物等が挙げられる。これらの中では、ポリエステルモノマーの反応性を向上させ、得られるトナーの低温定着性と耐熱保存性、耐久性を向上させる観点から、ベンゼン環にアルキル基が置換した、アルキルベンゼンスルホン酸が好ましい。ベンゼン環に置換するアルキル基の炭素数は、ポリエステルモノマーの反応性を向上させ、得られるトナーの低温定着性とHH環境下での供給カスレの抑制を向上させる観点から、好ましくは1以上であり、そして、好ましくは22以下、より好ましくは14以下、さらに好ましくは6以下である。
スルホ基を有する脂肪族化合物としては、エタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、ヒドロキシアミン−O−スルホン酸、メタンスルホン酸、メタンスルホン酸エチル、トリフルオロメタンスルホン酸、1−ブタンスルホン酸、1-デカンスルホン酸、1-ヘプタンスルホン酸、1-ヘキサンスルホン酸、3-ヒドロキシプロパンスルホン酸、1-ノナンスルホン酸、1-オクタンスルホン酸、1-ペンタンスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1-ドデカンスルホン酸、1-ヘキサデカンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸及びその塩、水和物等が挙げられる。
スルホ基を有する有機化合物の使用量は、得られるトナーの低温定着性とHH環境下での供給カスレの抑制を向上させる観点から、工程1Aに供するアルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上であり、そして、得られるトナーの耐熱保存性を向上させる観点から、工程1Aに供するアルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.2質量部以下である。
工程1Aでスズ触媒又はチタン触媒を使用する場合、スズ触媒又はチタン触媒と、工程2Aで使用するスルホ基を有する有機化合物の質量比(スズ触媒又はチタン触媒/スルホ基を有する有機化合物)は、得られるトナーの低温定着性とHH環境下での供給カスレの抑制を向上させる観点から、好ましくは1/2以上、より好ましくは1/1以上であり、そして、好ましくは50/1以下、より好ましくは20/1以下である。
工程2Aにおいても、重縮合は、不活性ガス雰囲気中にて行うことが好ましく、反応性やモノマーの熱分解性の観点から、反応温度は、反応性の観点から、好ましくは160℃以上、より好ましくは200℃以上であり、そして、工程1Aで生成したポリエステルの熱分解性の観点から、好ましくは240℃以下、より好ましくは230℃以下である。
また、非晶質ポリエステルは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されていてもよい。例えば、変性されたポリエステルとしては、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルをいう。
非晶質ポリエステルAPの数平均分子量は、低温定着性とHH環境下での供給カスレを抑制する観点から、好ましくは4,000以上、より好ましくは4,500以上であり、そして、好ましくは10,000以下、より好ましくは7,000以下である。なお、2種以上の非晶質ポリエステルを含有する場合の数平均分子量は、加重平均により求まる値である。
非晶質ポリエステルAPのテトラヒドロフラン(THF)可溶分中の低分子量分率は、HH環境下での供給カスレを抑制する観点から、好ましくは6.0質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下である。なお、その低分子量分率は、低温定着性を向上する観点から、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上である。
非晶質ポリエステルAPの軟化点は、耐熱保存性の観点から、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは145℃以下である。
非晶質ポリエステルAPのガラス転移温度は、耐熱保存性の観点から、好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは85℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは75℃以下である。
非晶質ポリエステルAPの酸価は、生産性を向上させる観点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは3mgKOH/g以上、さらに好ましくは5mgKOH/g以上であり、そして、耐熱保存性の観点から、好ましくは30mgKOH/g以下、より好ましくは25mgKOH/g以下、さらに好ましくは20mgKOH/g以下、さらに好ましくは10mgKOH/g以下である。
非晶質ポリエステルAPの含有量は、非晶質樹脂A中、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
なお、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。結晶性樹脂は、結晶性指数が0.6以上1.4以下、好ましくは0.7以上1.2以下、より好ましくは0.9以上1.2以下、さらに好ましくは0.9以上1.1以下の樹脂である一方、非晶質樹脂は、結晶性指数が1.4を超えるか、0.6未満、好ましくは1.5を超えるか、0.5以下、より好ましくは1.6以上か、0.5以下の樹脂である。樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。結晶性樹脂においては、吸熱の最高ピーク温度を融点とする。
本発明において、非晶質樹脂Aは、非晶質ポリエステルAPを含有し、かつ、HH環境下での供給カスレの抑制を向上する観点から、数平均分子量が4,000以上の非晶質ポリエステルの割合が60質量%以上であるものである。非晶質樹脂Aに含まれる数平均分子量が4,000以上の非晶質ポリエステルの割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。従って、非晶質ポリエステルAPの数平均分子量は4,000以上であることが好ましい。
さらに、本発明において、非晶質樹脂Aは、耐高温オフセット性及び低温定着性の観点から、軟化点が異なる2種の非晶質ポリエステルを含むことが好ましい。
軟化点の高い方の非晶質ポリエステルHの軟化点は、耐高温オフセット性の観点から、好ましくは110℃以上、より好ましくは130℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは170℃以下、より好ましくは160℃以下である。
軟化点の低い方の非晶質ポリエステルLの軟化点は、耐久性の観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは95℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは125℃以下、より好ましくは115℃以下である。
非晶質ポリエステルHと非晶質ポリエステルLの軟化点の差は、耐高温オフセット性と低温定着性の観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上であり、そして、帯電性の観点から、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下である。
非晶質ポリエステルHと非晶質ポリエステルLの質量比(非晶質ポリエステルH/非晶質ポリエステルL)は、耐久性及び生産性の観点から、好ましくは20/80以上、より好ましくは40/60以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは80/20以下、より好ましくは60/40以下である。
非晶質ポリエステルHと非晶質ポリエステルL(軟化点の異なる2種の非晶質ポリエステル)のいずれかが非晶質ポリエステルAPであることが好ましく、非晶質ポリエステルHと非晶質ポリエステルLのいずれもが、非晶質ポリエステルAPであることがより好ましい。また、非晶質ポリエステルHと非晶質ポリエステルLのいずれもが、数平均分子量が4,000以上の非晶質ポリエステルであることが好ましい。
非晶質樹脂Aには、本発明の効果を損なわない範囲で、前記非晶質ポリエステル以外の公知の非晶質樹脂、例えば、スチレン-アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の他の樹脂が併用されていてもよいが、非晶質ポリエステルの総含有量は、低温定着性の観点から、非晶質樹脂A中、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
結晶性樹脂Cは、脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と脂肪族ジカルボン酸系化合物を含有するカルボン酸成分との重縮合物である結晶性ポリエステルCP又は結晶性ポリエステルCPを含む複合樹脂を含有し、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸系化合物の少なくとも1つの炭素数が9以上14以下である。
結晶性ポリエステルCPのアルコール成分は、ポリエステルの結晶性を高める観点、トナーの低温定着性及び耐熱保存性を向上させる観点から、脂肪族ジオールを含有する。脂肪族ジオールの炭素数は、ポリエステルの結晶性を高める観点から、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、さらに好ましくは9以上であり、そして、トナーの低温定着性及び耐熱保存性を向上させる観点から、好ましくは14以下、より好ましくは12以下である。
炭素数4以上14以下の脂肪族ジオールとしては、1,4-ブタンジオール、1,4-ブテンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール等が挙げられ、特にポリエステルの結晶性を高める観点、トナーの低温定着性及び耐熱保存性を向上させる観点から、α,ω−直鎖アルカンジオールが好ましく、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、又は1,12-ドデカンジオールがより好ましく、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、又は1,12-ドデカンジオールがさらに好ましい。
炭素数4以上14以下の脂肪族ジオールの含有量は、ポリエステルの結晶性を高める観点から、アルコール成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。さらに、炭素数9以上14以下の脂肪族ジオールの含有量は、アルコール成分中、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
アルコール成分には、炭素数4以上14以下の脂肪族ジオール以外の多価アルコール成分が含有されていてもよく、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3−プロパンジオール等の脂肪族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等のビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、1,4−ソルビタン等の3価以上のアルコールが挙げられる。
結晶性ポリエステルCPのカルボン酸成分は、ポリエステルの結晶性を高める観点、トナーの低温定着性及び耐熱保存性を向上させる観点から、脂肪族ジカルボン酸系化合物を含有する。
なお、本発明において、ジカルボン酸系化合物とは、ジカルボン酸、その無水物及びその炭素数1以上3以下のアルキルエステルを指すが、これらの中では、ジカルボン酸が好ましい。また、好ましい炭素数とは、ジカルボン酸系化合物のジカルボン酸部分を含む炭素数であり、アルキルエステル部は含めない。
脂肪族ジカルボン酸系化合物の炭素数は、ポリエステルの結晶性を高める観点から、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、さらに好ましくは9以上であり、そして、トナーの低温定着性を向上させる観点から、好ましくは14以下、より好ましくは12以下である。
炭素数4以上14以下の脂肪族ジカルボン酸系化合物としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸等が挙げられ、トナーの耐久性を向上させる観点から、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカン二酸、及びドデカン二酸からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
炭素数4以上14以下の脂肪族ジカルボン酸系化合物の含有量は、ポリエステルの結晶性を高める観点から、カルボン酸成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
カルボン酸成分には、炭素数4以上14以下の脂肪族ジカルボン酸系化合物以外の多価カルボン酸系化合物が含有されていてもよく、該多価カルボン酸系化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸系化合物;シュウ酸、マロン酸、炭素数が1以上30以下のアルキル基又は炭素数2以上30以下のアルケニル基で置換されたコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等の3価以上の芳香族カルボン酸、及びこれらの無水物、炭素数1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられる。
また、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸系化合物が、分子量調整等の観点から、適宜含有されていてもよい。
前記の如く、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸系化合物の少なくとも1つの炭素数が9以上14以下である。炭素数が9以上14以下の化合物の含有量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量中、ポリエステルの結晶性を高める観点から、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%、さらに好ましくは60モル%以下である。
結晶性ポリエステルCPのカルボン酸成分とアルコール成分との当量比(COOH基/OH基)は、ポリエステルの軟化点を調整する観点から、好ましくは0.70以上、より好ましくは0.75以上であり、そして、好ましくは1.10以下、より好ましくは1.00以下である。
カルボン酸成分とアルコール成分との重縮合反応は、不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じて、エステル化触媒、重合禁止剤等の存在下、140℃以上250℃以下の温度で行うことが好ましい。エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられ、エステル化触媒とともに用い得るエステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられ、重合禁止剤としては、tert-ブチルカテコール等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下である。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。重合禁止剤の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
なお、結晶性ポリエステルは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルを含む。変性されたポリエステルとしては、例えば、ポリエステルがウレタン結合で変性されたウレタン変性ポリエステル、ポリエステルがエポキシ結合で変性されたエポキシ変性ポリエステル等が挙げられる。
本発明において、結晶性樹脂Cは、HH環境下での供給カスレを抑制する観点から、結晶性ポリエステルCPを含む複合樹脂を含有していることが好ましく、該複合樹脂は、結晶性ポリエステルCPとスチレン系樹脂との複合樹脂であることがより好ましい。
スチレン系樹脂の原料モノマーとしては、少なくとも、スチレン、又はα−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン誘導体(以下、スチレンとスチレン誘導体をまとめて「スチレン化合物」という)が用いられる。
スチレン化合物の含有量は、トナーの耐久性、低温定着性を向上させる観点から、スチレン系樹脂の原料モノマー中、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
スチレン化合物以外に用いられるスチレン系樹脂の原料モノマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル;エチレン、プロピレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン類;ブタジエン等のジオレフィン類;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のエチレン性モノカルボン酸エステル;N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物類等が挙げられる。
スチレン化合物以外に用いられるスチレン系樹脂の原料モノマーは2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。
スチレン系樹脂の原料モノマーの付加重合反応は、例えば、ジクミルパーオキサイド等の重合開始剤、架橋剤等の存在下、有機溶媒存在下又は無溶媒下で、常法により行うことができる。付加重合反応の温度条件は原料モノマーと重合開始剤の反応性によって適宜選択されるが、好ましくは110℃以上、より好ましくは140℃以上であり、そして、好ましくは200℃以下、より好ましくは170℃以下である。
複合樹脂は、(イ)アルコール成分とカルボン酸成分とを含む、結晶性ポリエステルCPの原料モノマー、(ロ)スチレン系樹脂の原料モノマー、及び(ハ)結晶性ポリエステルCPの原料モノマー及びスチレン系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る両反応性モノマーを重合させることにより得られる樹脂であることが好ましい。
両反応性モノマーとしては、分子内に、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基、好ましくは水酸基及び/又はカルボキシ基、より好ましくはカルボキシ基と、エチレン性不飽和結合とを有する化合物が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることがより好ましいが、重縮合反応及び付加重合反応の反応性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸又はフマル酸がさらに好ましい。但し、重合禁止剤と共に用いた場合は、フマル酸等のエチレン性不飽和結合を有する多価カルボン酸系化合物は、結晶性ポリエステルCPの原料モノマーとして機能する。この場合、フマル酸等は両反応性モノマーではなく、結晶性ポリエステルCPの原料モノマーである。
両反応性モノマーの使用量は、スチレン系樹脂と結晶性ポリエステルCPとの分散性を高め、低温定着性及びHH環境下での供給カスレの抑制を向上させる観点から、結晶性ポリエステルCPのアルコール成分の合計100モルに対して、好ましくは1モル以上、より好ましくは2モル以上であり、そして、好ましくは30モル以下、より好ましくは25モル以下、さらに好ましくは20モル以下である。また、スチレン系樹脂の原料モノマーの合計(重合開始剤を含めない)100モルに対して、好ましくは2モル以上、より好ましくは5モル以上であり、そして、好ましくは30モル以下、より好ましくは20モル以下、さらに好ましくは15モル以下である。
複合樹脂は、例えば、結晶性ポリエステルCPの原料モノマーによる重縮合反応の工程(A)とスチレン系樹脂の原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(B)とを並行して行う方法で得ることができる。
この方法では、付加重合反応に適した反応温度条件下で工程(A)と工程(B)とを行い、反応温度を上昇させ、重縮合反応に適した温度条件下で、必要に応じて架橋剤となる3価以上の結晶性ポリエステルCPの原料モノマーを重合系に添加し、工程(A)の重縮合反応をさらに行うことが好ましい。その際、重縮合反応に適した温度条件下では、ラジカル重合禁止剤を添加して重縮合反応だけを進めることもできる。両反応性モノマーは付加重合反応と共に重縮合反応にも関与する。
工程(A)と工程(B)を並行して行う際には、結晶性ポリエステルCPの原料モノマーを含有した混合物中に、スチレン系樹脂の原料モノマーを含有した混合物を滴下して反応させることもできる。
上記の方法は、同一容器内で行うことが好ましい。
複合樹脂において、結晶性ポリエステルCPのスチレン系樹脂に対する質量比[結晶性ポリエステルCP/スチレン系樹脂](本発明においては、結晶性ポリエステルCPの原料モノマーのスチレン系樹脂の原料モノマーに対する質量比とする)、すなわち[結晶性ポリエステルCPの原料モノマーの合計質量/スチレン系樹脂の原料モノマーの合計質量]は、ポリエステルの結晶性を維持させることにより、低温定着性及びHH環境下での供給カスレの抑制を向上させる観点から、好ましくは55/45〜95/5、より好ましくは65/35〜95/5、さらに好ましくは70/30〜95/5である。なお、上記の計算において、両反応性モノマーの量は、結晶性ポリエステルCPの原料モノマー量に含める。また、重合開始剤の量はスチレン系樹脂の原料モノマー量に含めない。
結晶性ポリエステルCP及び結晶性ポリエステルCPを含む複合樹脂の軟化点は、トナーの耐熱保存性を向上させる観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80℃以上であり、そして、トナーの低温定着性を向上させる観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは115℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。
また、結晶性ポリエステルCP及び結晶性ポリエステルCPを含む複合樹脂の軟化点は、トナーの低温定着性を向上させる観点から、非晶質樹脂Aの軟化点よりも低いことが好ましく、その差は、好ましくは20℃以上であり、そして、60℃以下である。ここで、非晶質樹脂Aの軟化点との差とは、非晶質樹脂Aが複数の樹脂からなる場合、加重平均した軟化点との差をいう。
結晶性ポリエステルCP及び結晶性ポリエステルCPを含む複合樹脂の融点は、トナーの耐熱保存性を向上させる観点から、好ましくは55℃以上、より好ましくは65℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、そして、トナーの低温定着性を向上させる観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。
結晶性ポリエステルCPもしくは結晶性ポリエステルCPを含む複合樹脂の含有量、又は両者を併用している場合は両者の総含有量は、結晶性樹脂C中、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
非晶質樹脂Aと結晶性樹脂Cの質量比(非晶質樹脂A/結晶性樹脂C)は、耐熱保存性の観点から、好ましくは70/30以上、より好ましくは80/20以上、さらに好ましくは90/10以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは97/3以下、より好ましくは95/5以下である。
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等を使用することができる。例えば、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾエロー等が挙げられる。本発明において、トナー粒子は、黒用トナー、カラー用トナーのいずれであってもよい。
着色剤の含有量は、トナーの画像濃度を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
トナーには、さらに、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が含有されていてもよく、離型剤及び荷電制御剤が含有されていることが好ましい。
離型剤としては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンポリエチレン共重合体ワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス等の炭化水素ワックス及びそれらの酸化物、カルナウバワックス、モンタンワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステルワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。トナーの耐熱保存性を向上させる観点から、ポリプロピレンワックスが好ましい。
離型剤の融点は、トナーの耐熱保存性の観点から、好ましく60℃以上、より好ましく70℃以上であり、そして、耐高温オフセット性の観点から、好ましくは150℃以下である。
離型剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上であり、そして、トナーの耐久性の観点から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは6質量部以下、さらに好ましくは4質量部以下である。
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリエント化学工業(株)製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業(株)製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリエント化学工業(株)製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成工業(株)製)等;スチレン−アクリル系樹脂、例えば「FCA-701PT」(藤倉化成(株)製)等が挙げられる。
また、負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリエント化学工業(株)製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」、「T-77」(保土谷化学工業(株)製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット(株)製)等;サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「ボントロンE-304」(以上、オリエント化学工業(株)製)、「TN-105」(保土谷化学工業(株)製)等;銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体等;有機金属化合物等が挙げられる。
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。
電子写真用トナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂及び着色剤、必要に応じて、離型剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。従って、本発明のトナーのより好適な製造方法としては、前記工程1A及び1Bを含む方法により、非晶質ポリエステルを製造し、得られた非晶質ポリエステルと、結着樹脂及び着色剤、必要に応じて、離型剤、荷電制御剤等の原料とを溶融混練し、粉砕、分級する工程を含む方法が挙げられる。一方、トナーの小粒径化の観点からは、重合法によるトナーが好ましい。
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、外添剤を用いることが好ましい。外添剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、メラミン系樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子等の樹脂粒子等の有機微粒子が挙げられ、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、シリカが好ましく、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであることがより好ましい。
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
外添剤の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上であり、そして、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは90nm以下である。
外添剤の含有量は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、外添剤で処理する前のトナー100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径をトナーの体積中位粒径とする。
本発明のトナーは、そのまま一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して用いられる二成分現像用トナーとして、それぞれ一成分現像方式又は二成分現像方式の画像形成装置に用いることができる。
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定した。
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT-500D」((株)島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、室温から降温速度10℃/minで0℃まで冷却し、0℃にて1分間維持する。その後、昇温速度10℃/minで測定する。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最高ピーク温度とする。
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計「Q-20」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱ピークを測定する。吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。ただし、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
〔樹脂の数平均分子量〕
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により数平均分子量を求める。
(1) 試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、試料をテトラヒドロフランに、40℃で溶解させる。次いで、この溶液を孔径0.20μmのPTFEタイプメンブレンフィルター「DISMIC-25JP」(東洋濾紙(株)製)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とする。
(2) 分子量測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフランを、毎分1mLの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μLを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー(株)製のA-500(5.0×102)、A-1000(1.01×103)、A-2500(2.63×103)、A-5000(5.97×103)、F-1(1.02×104)、F-2(1.81×104)、F-4(3.97×104)、F-10(9.64×104)、F-20(1.90×105)、F-40(4.27×105)、F-80(7.06×105)、F-128(1.09×106))を標準試料として作成したものを用いる。括弧内は分子量を示す。
測定装置:HLC-8220GPC(東ソー(株)製)
分析カラム:TSKgel GMHXL+TSKgel G3000HXL(東ソー(株)製)
〔テトラヒドロフラン(THF)可溶分中の低分子量分率〕
分子量測定によって得られた分子量分布のうち、分子量が500以下の成分が占める比率を低分子量分率とする。
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計「DSC Q20」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、昇温速度10℃/minで200℃まで昇温し、その温度から降温速度5℃/minで-10℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し測定する。そこで得られた融解吸熱カーブから観察される吸熱の最高ピーク温度を離型剤の融点とする。
〔外添剤の平均粒子径〕
平均粒子径は、個数平均粒子径を指し、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの数平均値とする。
〔トナーの体積中位粒径〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター(株)製)
アパチャー径:100μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター(株)製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター(株)製)
分散液:電解液にエマルゲン109P(花王(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB(グリフィン):13.6)を溶解して5質量%に調整したもの
分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機(機械名:(株)エスエヌディー製US-1、出力:80W)にて1分間分散させ、その後、前記電解液25mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記電解液100mLに、3万個の粒子の粒径を20秒間で測定できる濃度となるように、前記試料分散液を加え、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
樹脂製造例1〔樹脂A1〜樹脂A8〕
表1に示す原料モノマー及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃まで昇温した後、210℃まで5時間かけて昇温を行った。その後210℃にて反応率が70%以上に到達したのを確認し、スルホ基を有する有機化合物を加えた。その後、220℃まで昇温し、8.0kPaにて表1に示す軟化点に達するまで反応を行い、非晶質ポリエステルを得た。なお、反応率とは、生成反応水量/理論生成水量×100の値をいい、各樹脂の製造におけるスルホ基を有する有機化合物を添加する時点での反応率と得られた樹脂の物性を表1に示す。
樹脂製造例2〔樹脂A9〕
表1に示す無水トリメリット酸以外の原料モノマー及びエステル化触媒を、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、200℃に昇温して6時間反応させた。さらに210℃に昇温した後、無水トリメリット酸を添加し、常圧(101.3kPa)にて1時間反応させ、さらに40kPaにて所望の軟化点に達するまで反応させて、非晶質ポリエステルを得た。得られた樹脂の物性を表1に示す。
樹脂製造例3〔樹脂A10〕
表1に示す原料モノマー及びエステル化触媒を、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、200℃に昇温して6時間反応させた。さらに210℃に昇温した後、常圧(101.3kPa)にて1時間反応させ、さらに40kPaにて所望の軟化点に達するまで反応させて、非晶質ポリエステルを得た。得られた樹脂の物性を表1に示す。
樹脂製造例4〔樹脂C1、樹脂C2〕
表2に示す結晶性ポリエステルの原料モノマー、及びエステル化触媒を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、160℃まで加熱し、6時間反応させた。
その後、表2に示すスチレン系樹脂の原料モノマー及び両反応性モノマーを滴下ロートにより1時間かけて滴下した。160℃に保持したまま1時間付加重合反応を熟成させた後、8.3kPaにて1時間スチレン系樹脂の原料モノマーの除去を行った。さらに、200℃まで8時間かけて昇温、8.3kPaにて2時間反応させて、複合樹脂を得た。得られた樹脂の物性を表2に示す。
樹脂製造例5〔樹脂C3〕
表2に示す原料モノマー、及びエステル化触媒を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、130℃から200℃まで10時間かけて昇温を行い、200℃で8kPaにて1時間反応させて、結晶性ポリエステルを得た。得られた樹脂の物性を表2に示す。
実施例1〜10及び比較例1〜4
表3に示す所定量の結着樹脂100質量部、着色剤「REGAL 330R」(キャボット・スペシャリティー・ケミカルズ・インク社製)5.0質量部、離型剤「NP-055」(三井化学(株)製、ポリプロピレンワックス、融点:146℃)1.0質量部、及び荷電制御剤「ボントロンE-304」(オリエント化学工業(株)製)1.0質量部を、ヘンシェルミキサーを用いて1分間混合後、以下に示す条件で溶融混練した。
同方向回転二軸押出機「PCM-30」((株)池貝製、軸の直径 2.9cm、軸の断面積 7.06cm2)を使用した。運転条件は、バレル設定温度 100℃、軸回転数 200r/min(軸の回転の周速 0.30m/sec)、混合物供給速度 10kg/h(軸の単位断面積あたりの混合物供給量 1.42kg/h・cm2)であった。
得られた樹脂混練物を冷却し、粉砕機「ロートプレックス」(ホソカワミクロン(株)製)により粗粉砕し、目開きが2mmのふるいを用いて体積中位粒子径が2mm以下の粗粉砕物を得た。得られた粗粉砕物を、DS2型気流分級機(衝突板式、日本ニューマチック(株)製)を用いて体積中位粒径が8.0μmになるように粉砕圧を調整して微粉砕した。得られた微粉砕物を、DSX2型気流分級機(日本ニューマチック(株)製)を用いて体積中位粒径が8.5μmになるように静圧(内部圧力)を調整して分級を行い、トナー粒子を得た。
得られたトナー粒子100質量部と、外添剤として疎水性シリカ「R972」(日本アエロジル(株)製、疎水化処理剤:DMDS、平均粒子径:16nm)0.5質量部、及び疎水性シリカ「RY50」(日本アエロジル(株)製、疎水化処理剤:シリコーンオイル、平均粒子径:40nm)1.0質量部を、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業(株)製)を用いて2100r/min(周速度29m/sec)で3分間混合して、トナーを得た。
試験例1〔低温定着性〕
未定着画像を取れるように改造した、プリンター「OKI MICROLINE 5400」((株)沖データ製)にトナーを充填し、2cm角のベタ画像の未定着画像を印刷した。「OKI MICROLINE 3010」((株)沖データ製)を改造した外部定着装置を使用して、定着ロールの回転速度180mm/secにて、定着ロールの温度を100℃から230℃まで5℃ずつ上昇させながら、各温度でこの未定着画像の定着処理を行い、定着画像を得た。各定着温度で得られた画像を、400gの荷重をかけた砂消しゴム((株)ライオン事務器製、ER-502R)で5往復擦り、擦り前後の画像濃度を画像濃度測定器「Gretag SPM50」(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、擦り前後の画像濃度比率([擦り後の画像濃度/擦り前の画像濃度]×100)が最初に85%を超える温度を最低定着温度とし、低温定着性の指標とした。値が小さいほど低温定着性に優れる。結果を表3に示す。
試験例2〔耐熱保存性〕
20ml容のポリプロピレン製の容器に、5gのトナーを入れた。トナーの入った容器を、60℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽に入れ、ポリビンの蓋をあけた状態で、3時間保存した。放置後のトナーの凝集度を測定し、耐熱保存性の指標とした。この数値が小さいほど、耐熱保存性に優れる。結果を表3に示す。
〔凝集度〕
凝集度は、パウダーテスタ(ホソカワミクロン(株)製)を用いて測定する。
150μm、75μm、45μmの目開きの篩を重ね、一番上にトナーを5g載せ、1mmの振動幅で60秒間振動させる。振動後、篩い上に残ったトナー量を測定し、下記の計算式を用いて凝集度の計算を行う。
試験例3〔供給カスレ抑制〕
非磁性一成分現像装置「MicroLine5400」(商品名、(株)沖データ製)にトナー50gを実装し、30℃、湿度85%の環境下でA4サイズの黒ベタ画像を印刷した。次に印字率1%で500枚印字を行った後、再度A4サイズの黒ベタ画像を印刷した。なお、印字媒体にJ紙(商品名、富士ゼロックス(株)製)を用いた。初期の黒ベタ画像の下部から5cmの中央部分の画像濃度(ID1)と500枚印字後の下部から5cmの中央部分の画像濃度(ID2)を「Gretag SPM50」(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、両者の画像濃度の差を確認した。画像濃度の差が0.4を超えた場合はその印字枚数を供給カスレ抑制の評価結果とし、0.4を超えない場合は500枚ずつ印字を行い、同様に評価した。印字枚数が多いほど供給カスレの抑制に優れる。結果を表3に示す。
以上の結果より、実施例1〜10のトナーは、低温定着性、耐熱保存性、及び供給カスレの抑制のいずれもが良好であることが分かる。
これに対し、結晶性ポリエステルを用いていない比較例1では、低温定着性に欠ける。
コハク酸誘導体を用いていない非晶質ポリエステルを用いた比較例2では、耐熱保存性と供給カスレの抑制が不十分である。
数平均分子量が4,000以上の非晶質ポリエステル量が少ない比較例3、4では、耐熱保存性と供給カスレの抑制が不十分である。