JP2017106048A - 機械構造部品用鋼線 - Google Patents
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Abstract
【課題】冷間加工時における変形抵抗が低く、かつ耐割れ性に優れ、よって優れた冷間加工性を有する機械構造部品用鋼線を提供する。【解決手段】C:0.3質量%〜0.6質量%、Si:0.05質量%〜0.5質量%、Mn:0.2質量%〜1.7質量%、P:0質量%超、0.03質量%以下、S:0.001質量%〜0.05質量%、Al:0.005質量%〜0.1質量%、およびN:0質量%〜0.015質量%を含有し、残部が鉄および不可避不純物からなり、金属組織が、フェライトおよびセメンタイトより構成され、5μm×5μmの面積に含まれるセメンタイト数の標準偏差σcが下記(1)式を満足し、セメンタイトの平均粒径が0.5μm以上である機械構造部品用鋼線である。1.5≦σc≦4.5 (1)ただし、[C%]は質量%で示したCの含有量を示す。【選択図】図1
Description
本発明は、機械構造部品の素材として用いられる鋼線に関する。より詳細には、圧延により製造した線材に球状化焼鈍を施した後に冷間加工する際の冷間加工性、とりわけ低い冷変形抵抗および優れた耐割れ性を有する機械構造部品用鋼線に関する。
自動車用部品、建設機械用部品等の機械構造用部品の多くは、その製造工程において炭素鋼、合金鋼等の熱間圧延線材に、冷間加工性を付与する目的で球状化焼鈍が施される。そして、球状化焼鈍後の圧延線材、即ち鋼線に対し、冷間鍛造、冷間圧造および冷間転造等の冷間加工を行い、その後切削加工などの機械加工を施すことによって所定の形状に成形後、さらに焼入れ焼戻し処理による最終的な強度調整を行い、機械構造用部品とされる。
冷間加工性、とりわけ、低い変形抵抗と優れた耐割れ性を有することで以下の効果を得ることができる。鋼線の変形抵抗が低いと、加工が容易であり、また金型寿命の向上を期待することができる。また鋼線の耐割れ性を向上させることで、各種部品の歩留り向上を期待することができる。
このため、鋼線の冷間加工性を向上させる技術として、様々な方法が提案されている。 例えば特許文献1には、平均粒径が15μm以下のフェライト組織と、平均アスペクト比が3以下であり、かつ平均粒子径が0.6μm以下の球状セメンタイトからなり、前記球状セメンタイトの個数が1mm2当り1.0×106×C含有量(%)個以上である冷間加工性に優れた鋼線材の技術が開示されている。
特許文献1には、上記金属組織を得る方法として、ブルームまたはビレットを、熱間圧延および巻取りを行った後、得られた圧延線材を400℃以上600℃以下の溶融塩槽に10秒以上浸漬し、さらに450℃以上600℃以下の溶融塩槽に20秒以上150秒以下恒温保持した後冷却し、その後600℃以上700℃以下にて焼鈍することが開示されている。
また特許文献2には、セメンタイト間距離の標準偏差をセメンタイト間距離の平均値で除した値が0.50以下である組織を有する鋼線が開示されている。
特許文献2には、上記金属組織を得る方法として、熱間圧延後の冷却工程において、750〜1000℃から400〜550℃ までを20℃/s以上の冷却速度で冷却し、400〜550℃ において20秒以上保持して恒温変態を完了させ、室温まで冷却し、次に、40%以下の減面率で粗伸線して球状化焼鈍を行い、その後20% 以下の減面率で仕上げ伸線することが開示されている。
特許文献1に記載の方法で得られた鋼線は、セメンタイトがほぼ均一に分布し、軟質なフェライト組織が少なくなり、冷間加工時において、変形抵抗が増加する虞がある。また、この方法で得られた鋼線は、セメンタイト粒が微細であり、冷間加工時において、変形抵抗が増加する。
特許文献1および2に記載の鋼線を含め、これまで提案されている鋼線は、冷間鍛造等の冷間加工性を向上させる効果を有する。しかし、冷間加工性を更に向上させた鋼線、とりわけ冷間加工時における変形抵抗を低減するとともに、耐割れ性に優れた鋼線が求められている。
本発明はこうした状況の下になされたものであって、その目的は、冷間加工時における変形抵抗が低く、かつ耐割れ性に優れ、よって優れた冷間加工性を有する機械構造部品用鋼線を提供することにある。
本発明に係る機械構造用鋼線は、C:0.3質量%〜0.6質量%、Si:0.05質量%〜0.5質量%、Mn:0.2質量%〜1.7質量%、P:0質量%超、0.03質量%以下、S:0.001質量%〜0.05質量%、Al:0.005質量%〜0.1質量%、およびN:0質量%〜0.015質量%を含有し、残部が鉄および不可避不純物からなり、金属組織が、フェライトおよびセメンタイトより構成され、5μm×5μmの面積に含まれるセメンタイト数の標準偏差σcが下記(1)式を満足し、セメンタイトの平均粒径が0.5μm以上である機械構造部品用鋼線である。
1.5≦σc≦4.5 (1)
1.5≦σc≦4.5 (1)
本発明の機械構造部品用鋼線は、必要に応じて、Cr:0質量%超、0.5質量%以下、Cu:0質量%超、0.25質量%以下、Ni:0%質量超、0.25質量%以下、Mo:0質量%超、0.25質量%以下、およびB:0質量%超、0.01質量%以下よりなる群から選択される1種以上を更に含有し、かつ下記(2)式を満足してよい。
[Cr%]+[Cu%]+[Ni%]+[Mo%]+[B%]×50≦0.75 (2)
ただし、[Cr%]、[Cu%]、[Ni%]、[Mo%]および[B%]は、それぞれ、質量%で示したCr、Cu、Ni、MoおよびBの含有量を示す。
[Cr%]+[Cu%]+[Ni%]+[Mo%]+[B%]×50≦0.75 (2)
ただし、[Cr%]、[Cu%]、[Ni%]、[Mo%]および[B%]は、それぞれ、質量%で示したCr、Cu、Ni、MoおよびBの含有量を示す。
本発明に係る、機械構造部品用鋼線は、冷間加工時における変形抵抗が低く、かつ耐割れ性に優れ、よって優れた冷間加工性を有する。
本発明者らは、冷間加工時の変形抵抗の低減と共に耐割れ性の向上を兼備した鋼線を実現すべく、様々な角度から検討した。
冷間加工後の組織に対して、FE−SEM(Field−Emission Scanning Electron Microscope、電界放出型走査電子顕微鏡)およびEBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)法を用いた解析を行った結果、母相においてセメンタイト周囲の局所方位差が大きい鋼線ほど、冷間加工時の耐割れ性が劣化する傾向にあり、ボイド連結による割れが発生しやすくなることを見出した。これは、周囲の局所方位差が大きなセメンタイトほど、ボイドの起点となり、ボイド生成し易いためであると考えられる。更に、疎に分散しているセメンタイトの周囲に比べ、密に集積しているセメンタイトの周囲の方が局所方位差は大きく、セメンタイトの集積部が耐割れ性を劣化させることを見出した。即ち、組織にセメンタイト集積部が多いほど、セメンタイト周囲の局所方位差は大きくなり、冷間加工時の耐割れ性が悪くなることを見出した。
冷間加工後の組織に対して、FE−SEM(Field−Emission Scanning Electron Microscope、電界放出型走査電子顕微鏡)およびEBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)法を用いた解析を行った結果、母相においてセメンタイト周囲の局所方位差が大きい鋼線ほど、冷間加工時の耐割れ性が劣化する傾向にあり、ボイド連結による割れが発生しやすくなることを見出した。これは、周囲の局所方位差が大きなセメンタイトほど、ボイドの起点となり、ボイド生成し易いためであると考えられる。更に、疎に分散しているセメンタイトの周囲に比べ、密に集積しているセメンタイトの周囲の方が局所方位差は大きく、セメンタイトの集積部が耐割れ性を劣化させることを見出した。即ち、組織にセメンタイト集積部が多いほど、セメンタイト周囲の局所方位差は大きくなり、冷間加工時の耐割れ性が悪くなることを見出した。
冷間加工前の鋼線の組織において、セメンタイトの集積部をできるだけ減らし、セメンタイトの分布状態を均一化した金属組織について検討した。その結果、セメンタイトの分布状態を過剰に均一化すると、セメンタイトが金属組織の全面に亘って分布し、結晶粒内にセメンタイトが析出したフェライト結晶粒が多くなることを見いだした。さらに、結晶粒内にセメンタイトが析出したフェライト結晶粒は、セメンタイトが析出していないフェライト結晶粒に比べ硬いため、セメンタイトの分布状態が過剰に均一化することで、冷間加工時に変形抵抗が増加することを見出した。
セメンタイトの分布状態を示す指標として、単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差を用いて、検討を行った。すなわち、詳細を後述するように複数の単位領域において単位面積当たりのセメンタイト数を測定して得たセメンタイト数の標準偏差をセメンタイトの分布状態を示す指標として用いた。その結果、パーライトのような層状のセメンタイトが多く存在している組織ほど、単位面積に含まれるセメンタイト数の標準偏差が大きくなる傾向を見出した。パーライト(層状セメンタイト)組織は、球状セメンタイト組織に比べて硬く、冷間加工時の変形抵抗を増加させる組織である。このため、前述したように、変形抵抗を増加させないためには、セメンタイト数の標準偏差が小さ過ぎず、且つ大き過ぎないように制御することが必要である。
セメンタイトの分布状態を適切に制御し、耐割れ性を向上させた上で、更なる軟質化を検討した。その結果、粒子分散強化機構の観点から、セメンタイトの平均粒径を増加させることが、変形抵抗を低減させる手段として有効であることを見出した。
以上の知見から、変形抵抗低減と耐割れ性向上の両立を図るためには、金属組織中のセメンタイトの分布状態、即ち単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差を適切に制御し、更に、セメンタイトの平均粒径をできるだけ粗大化させることが重要であるとの着想を得た。
以下に本発明が規定する各要件の詳細を示す。
尚、本明細書において、「線材」とは、圧延線材の意味で用い、熱間圧延後、室温まで冷却した線状の鋼材を指す。また「鋼線」とは、圧延線材に球状化焼鈍等の調質処理が施された線状の鋼材を指す。
尚、本明細書において、「線材」とは、圧延線材の意味で用い、熱間圧延後、室温まで冷却した線状の鋼材を指す。また「鋼線」とは、圧延線材に球状化焼鈍等の調質処理が施された線状の鋼材を指す。
1.金属組織およびセメンタイトの分布状態
本発明の機械構造部品用鋼線(以下、単に「鋼線」と呼ぶことがある)の金属組織は、いわゆる球状化組織であり、フェライトおよびセメンタイトより構成される。上記球状化組織は、鋼の変形抵抗を低減させて冷間加工性向上に寄与する金属組織である。なお、本明細書において「フェライトおよびセメンタイトより構成」は、金属組織中にパーライト組織(疑似パーライトを含む)が一部含まれていてもよく、また、冷間加工性に及ぼす悪影響が小さければ、AlN等の析出物を面積率で3%未満許容することができる。
本発明の機械構造部品用鋼線(以下、単に「鋼線」と呼ぶことがある)の金属組織は、いわゆる球状化組織であり、フェライトおよびセメンタイトより構成される。上記球状化組織は、鋼の変形抵抗を低減させて冷間加工性向上に寄与する金属組織である。なお、本明細書において「フェライトおよびセメンタイトより構成」は、金属組織中にパーライト組織(疑似パーライトを含む)が一部含まれていてもよく、また、冷間加工性に及ぼす悪影響が小さければ、AlN等の析出物を面積率で3%未満許容することができる。
しかしながら、単にフェライトおよびセメンタイトより構成される金属組織とするだけでは、冷間加工性の向上を図ることができない。こうしたことから、以下で詳述する様に、この金属組織における単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差およびセメンタイトの平均粒径を適切に制御する必要がある。
セメンタイトの分布状態が不均一化すると、冷間加工時にひずみが堆積しやすいセメンタイトの集積部が増加する。その結果、集積部に存在するセメンタイトを起点としたボイドが多数発生し、割れが発生しやすくなり、耐割れ性が劣化する。一方、セメンタイトの分布状態を過剰に均一化すると、耐割れ性は向上するが、変形しやすい軟質なフェライト組織が少なくなり、冷間加工時の変形抵抗が増加する。
こうした観点から、単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差σcは下記(1)を満足する必要がある。
1.5≦σc≦4.5 (1)
横断面観察において、単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差σcが(1)式を満足することで、冷間加工時の耐割れ性を向上させ、変形抵抗の増加を抑制することができる。
1.5≦σc≦4.5 (1)
横断面観察において、単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差σcが(1)式を満足することで、冷間加工時の耐割れ性を向上させ、変形抵抗の増加を抑制することができる。
(1)式では、単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差σcの上限は、4.5であるが、標準偏差σcの上限は4.3以下が好ましく、4.0以下がより好ましい。
また、(1)式では、単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差σcの下限は、1.5であるが、標準偏差σcの下限は1.7以上であることが好ましく、1.9以上であることがより好ましい。
また、(1)式では、単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差σcの下限は、1.5であるが、標準偏差σcの下限は1.7以上であることが好ましく、1.9以上であることがより好ましい。
たとえ、(1)式を満足してもセメンタイト粒が微細であると、粒子分散強化機構によって、冷間加工時の変形抵抗が増加する。そこで、(1)式を満足した状態で、セメンタイト粒を粗大にするように制御することで、セメンタイトの分散状態の制御だけでは達成できない((1)式を満足するだけでは達成できない)、冷間加工時の変形抵抗低減を達成することができる。
こうした観点から、セメンタイトの平均粒径は、0.5μm以上とする必要がある。セメンタイトの平均粒径を0.5μm以上とすることで、冷間加工時の変形抵抗を低減することができる。
セメンタイトの平均粒径の好ましい下限は0.6μmであり、より好ましく下限は0.7μmである。セメンタイトの平均粒径の上限は特に限定されないが、例えば2.0μmである。好ましい上限は1.8μmであり、より好ましい上限は1.6μmである。
尚、セメンタイト数の標準偏差σcは、後述する実施例で詳細に説明するように、横断面において、鋼線の半径Dに対し、D/4の位置で走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率2000倍で60μm×45μmの領域5箇所(5視野)の組織観察写真を撮影し、それぞれの領域の写真上に、縦方向、横方向に5μm毎のメッシュ線を入れ、108個の5μm×5μmの単位領域に分割し、各々の単位領域内に含まれるセメンタイト数を測定し、5視野×108個の単位領域のすべての測定値を用いて、標準偏差を算出してよい。
セメンタイトの平均粒径は、後述する実施例で詳細に説明するように、セメンタイト数の標準偏差σcを求めるために撮影した、5視野のSEM写真を用い、例えばMedia Cybernetics,Inc.製Image−Pro Plusのような画像解析ソフによって求めてよい。写真内の全セメンタイトの面積を測定し、5視野における、全セメンタイト数に対する、面積の平均値を求め、その面積を用いて、セメンタイトの円相当直径を算出し、セメンタイトの平均粒径としてよい。
単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差、およびセメンタイトの平均粒径の両方の観点において、対象となる全セメンタイトの形態は特に限定されず、球状のセメンタイトの他、アスペクト比の大きい棒状のセメンタイトや、パーライト組織を形成する層状のセメンタイト等を含み、セメンタイトの形状に制限はない。尚、測定対象となるセメンタイトの大きさの基準は限定されないが、後述する単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差σc、およびセメンタイトの平均粒径の測定方法により判別できるセメンタイトのサイズが最小サイズとなる。具体的には、0.1μm以上のサイズが測定対象である。
セメンタイトの平均粒径は、後述する実施例で詳細に説明するように、セメンタイト数の標準偏差σcを求めるために撮影した、5視野のSEM写真を用い、例えばMedia Cybernetics,Inc.製Image−Pro Plusのような画像解析ソフによって求めてよい。写真内の全セメンタイトの面積を測定し、5視野における、全セメンタイト数に対する、面積の平均値を求め、その面積を用いて、セメンタイトの円相当直径を算出し、セメンタイトの平均粒径としてよい。
単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差、およびセメンタイトの平均粒径の両方の観点において、対象となる全セメンタイトの形態は特に限定されず、球状のセメンタイトの他、アスペクト比の大きい棒状のセメンタイトや、パーライト組織を形成する層状のセメンタイト等を含み、セメンタイトの形状に制限はない。尚、測定対象となるセメンタイトの大きさの基準は限定されないが、後述する単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差σc、およびセメンタイトの平均粒径の測定方法により判別できるセメンタイトのサイズが最小サイズとなる。具体的には、0.1μm以上のサイズが測定対象である。
2.化学組成
本発明は、機械構造部品の素材に用いる鋼線を対象とするものであり、機械構造部品用鋼線として通常の化学成分組成を有していればよいが、C、Si、Mn、P、S、AlおよびNについては、適切な範囲に調整するのが良い。こうした観点から、これらの化学成分の適切な範囲およびその限定理由は下記の通りである。尚、本明細書において、化学成分組成を表すのに用いる「%」は、質量%を意味する。
本発明は、機械構造部品の素材に用いる鋼線を対象とするものであり、機械構造部品用鋼線として通常の化学成分組成を有していればよいが、C、Si、Mn、P、S、AlおよびNについては、適切な範囲に調整するのが良い。こうした観点から、これらの化学成分の適切な範囲およびその限定理由は下記の通りである。尚、本明細書において、化学成分組成を表すのに用いる「%」は、質量%を意味する。
C:0.3〜0.6%
Cは、鋼の強度、即ち最終製品の強度を確保する上で有用な元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、C含有量は0.3%以上とする必要がある。C含有量は、好ましくは0.32%以上であり、より好ましくは0.34%以上である。しかしながら、Cが過剰に含有されると強度が高くなり過ぎて冷間加工性が低下するので、0.6%以下とする必要がある。C含有量は、好ましくは0.55%以下であり、より好ましくは0.50%以下である。
Cは、鋼の強度、即ち最終製品の強度を確保する上で有用な元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、C含有量は0.3%以上とする必要がある。C含有量は、好ましくは0.32%以上であり、より好ましくは0.34%以上である。しかしながら、Cが過剰に含有されると強度が高くなり過ぎて冷間加工性が低下するので、0.6%以下とする必要がある。C含有量は、好ましくは0.55%以下であり、より好ましくは0.50%以下である。
Si:0.05〜0.5%
Siは、脱酸元素として、および固溶強化による最終製品の強度を増加させることを目的として含有させる。このような効果を有効に発揮させるため、Si含有量を0.05%以上と定めた。Si含有量は、好ましくは0.07%以上であり、より好ましくは0.10%以上である。一方、Siが過剰に含有されると硬度が過度に上昇して冷間加工性を劣化させる。そこでSi含有量を0.5%以下と定めた。Si含有量は、好ましくは0.45%以下であり、より好ましくは0.40%以下である。
Siは、脱酸元素として、および固溶強化による最終製品の強度を増加させることを目的として含有させる。このような効果を有効に発揮させるため、Si含有量を0.05%以上と定めた。Si含有量は、好ましくは0.07%以上であり、より好ましくは0.10%以上である。一方、Siが過剰に含有されると硬度が過度に上昇して冷間加工性を劣化させる。そこでSi含有量を0.5%以下と定めた。Si含有量は、好ましくは0.45%以下であり、より好ましくは0.40%以下である。
Mn:0.2〜1.7%
Mnは、焼入れ性の向上を通じて、最終製品の強度を増加させるのに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させるため、Mn含有量を0.2%以上と定めた。Mn含有量は、好ましくは0.3%以上であり、より好ましくは0.4%以上である。一方、Mnが過剰に含有されると、硬度が上昇して冷間加工性を劣化させる。そこでMn含有量を1.7%以下と定めた。Mn含有量は、好ましくは1.5%以下であり、より好ましくは1.3%以下である。
Mnは、焼入れ性の向上を通じて、最終製品の強度を増加させるのに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させるため、Mn含有量を0.2%以上と定めた。Mn含有量は、好ましくは0.3%以上であり、より好ましくは0.4%以上である。一方、Mnが過剰に含有されると、硬度が上昇して冷間加工性を劣化させる。そこでMn含有量を1.7%以下と定めた。Mn含有量は、好ましくは1.5%以下であり、より好ましくは1.3%以下である。
P:0%超、0.03%以下
Pは、鋼中に不可避的に含まれる元素であり、鋼中で粒界偏析を起こし、延性の劣化の原因となる。そこで、P含有量は0.03%以下と定めた。P含有量は、好ましくは0.02%以下であり、より好ましくは0.017%以下、特に好ましくは0.01%以下である。P含有量は少なければ少ない程好ましいが、製造工程上の制約などにより0.001%程度残存する場合もある。
Pは、鋼中に不可避的に含まれる元素であり、鋼中で粒界偏析を起こし、延性の劣化の原因となる。そこで、P含有量は0.03%以下と定めた。P含有量は、好ましくは0.02%以下であり、より好ましくは0.017%以下、特に好ましくは0.01%以下である。P含有量は少なければ少ない程好ましいが、製造工程上の制約などにより0.001%程度残存する場合もある。
S:0.001〜0.05%
Sは、鋼中に不可避的に含まれる元素であり、鋼中でMnSとして存在し延性を劣化させるので、冷間加工性には有害な元素である。そこでS含有量を0.05%以下と定めた。S含有量は、好ましくは0.04%以下であり、より好ましくは0.03%以下である。但し、Sは被削性を向上させる作用を有するので、0.001%以上含有させる。S含有量は、好ましくは0.002%以上であり、より好ましくは0.003%以上である。
Sは、鋼中に不可避的に含まれる元素であり、鋼中でMnSとして存在し延性を劣化させるので、冷間加工性には有害な元素である。そこでS含有量を0.05%以下と定めた。S含有量は、好ましくは0.04%以下であり、より好ましくは0.03%以下である。但し、Sは被削性を向上させる作用を有するので、0.001%以上含有させる。S含有量は、好ましくは0.002%以上であり、より好ましくは0.003%以上である。
Al:0.005〜0.1%
Alは、脱酸元素として有用であると共に、鋼中に存在する固溶NをAlNとして固定するのに有用である。こうした効果を有効に発揮させるため、Al含有量を0.005%以上と定めた。Al含有量は、好ましくは0.008%以上であり、より好ましくは0.010%以上である。しかしながら、Al含有量が過剰になると、Al2O3が過剰に生成し、冷間加工性を劣化させる。そこでAl含有量を0.1%以下と定めた。Al含有量は、好ましくは0.090%以下であり、より好ましくは0.080%以下である。
Alは、脱酸元素として有用であると共に、鋼中に存在する固溶NをAlNとして固定するのに有用である。こうした効果を有効に発揮させるため、Al含有量を0.005%以上と定めた。Al含有量は、好ましくは0.008%以上であり、より好ましくは0.010%以上である。しかしながら、Al含有量が過剰になると、Al2O3が過剰に生成し、冷間加工性を劣化させる。そこでAl含有量を0.1%以下と定めた。Al含有量は、好ましくは0.090%以下であり、より好ましくは0.080%以下である。
N:0〜0.015%
Nは、鋼中に不可避的に含まれる元素であり、鋼中に固溶Nが過剰に含まれると、歪み時効による硬度上昇、延性低下を招き、冷間加工性を劣化させる。そこでN含有量を0.015%以下と定めた。N含有量は、好ましくは0.013%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。N含有量は少なければ少ない程好ましく、0%であることが最も好ましいが、製造工程上の制約などにより0.001%程度残存する場合もある。
Nは、鋼中に不可避的に含まれる元素であり、鋼中に固溶Nが過剰に含まれると、歪み時効による硬度上昇、延性低下を招き、冷間加工性を劣化させる。そこでN含有量を0.015%以下と定めた。N含有量は、好ましくは0.013%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。N含有量は少なければ少ない程好ましく、0%であることが最も好ましいが、製造工程上の制約などにより0.001%程度残存する場合もある。
本発明の鋼線の基本成分は上記の通りであり、残部は実質的に鉄である。尚、「実質的に鉄」とは、鉄以外にも本発明の特性を阻害しない程度の微量成分(例えばSb、Zn等)が許容できる他、P、S、N以外の不可避不純物(例えばO、H等)も含み得ることを意味する。更に本発明では、必要に応じて以下の任意元素を含有していてもよく、含有される成分に応じて鋼線の特性が更に改善される。
尚、上述のように、P、SおよびNは、不可避的に含まれる元素(不可避不純物)であるが、その組成範囲について上記のように別途規定している。このため、本明細書において、残部として含まれる「不可避不純物」は、別途その組成範囲が規定されている元素を除いた不可避的に含まれる元素を意味する。
尚、上述のように、P、SおよびNは、不可避的に含まれる元素(不可避不純物)であるが、その組成範囲について上記のように別途規定している。このため、本明細書において、残部として含まれる「不可避不純物」は、別途その組成範囲が規定されている元素を除いた不可避的に含まれる元素を意味する。
Cr:0%超、0.5%以下、Cu:0%超、0.25%以下、Ni:0%超、0.25%以下、Mo:0%超、0.25%以下およびB:0%超、0.01%以下よりなる群から選択される1種以上
Cr、Cu、Ni、MoおよびBは、いずれも鋼材の焼入れ性を向上させることによって最終製品の強度を増加させるのに有効な元素であり、必要に応じて、Cr、Cu、Ni、MoおよびBから選択される1種または2種以上を含有してよい。焼入れ性向上の効果は、これら元素の含有量が増加するに従って大きくなる。この効果を有効に発揮させるための好ましい含有量は、Cr量が0.015%以上、より好ましくは0.020%以上である。Cu量、Ni量およびMo量の好ましい含有量は、いずれも0.02%以上、より好ましくは0.05%以上である。B量の好ましい含有量は、0.0003%以上、より好ましくは0.0005%以上である。
Cr、Cu、Ni、MoおよびBは、いずれも鋼材の焼入れ性を向上させることによって最終製品の強度を増加させるのに有効な元素であり、必要に応じて、Cr、Cu、Ni、MoおよびBから選択される1種または2種以上を含有してよい。焼入れ性向上の効果は、これら元素の含有量が増加するに従って大きくなる。この効果を有効に発揮させるための好ましい含有量は、Cr量が0.015%以上、より好ましくは0.020%以上である。Cu量、Ni量およびMo量の好ましい含有量は、いずれも0.02%以上、より好ましくは0.05%以上である。B量の好ましい含有量は、0.0003%以上、より好ましくは0.0005%以上である。
しかしながら、Cr、Cu、Ni、MoおよびBの含有量が過剰になると、強度が高くなり過ぎて冷間加工性を劣化させる。そこで、Cr含有量は0.5%以下が好ましく、Cu、NiおよびMo含有量はいずれも0.25%以下が好ましく、B含有量は0.01%以下が好ましい。Crのより好ましい含有量は0.45%以下、更に好ましくは0.40%以下である。Cu、NiおよびMoのより好ましい含有量は、いずれも0.22%以下、更に好ましくは0.20%以下である。B量のより好ましい含有量は、0.007%以下であり、更に好ましくは0.005%以下である。
また、下記(2)式を満足することが好ましい。より適正な強度を得ることができるからである。
[Cr%]+[Cu%]+[Ni%]+[Mo%]+[B%]×50≦0.75 (2)
ただし、[Cr%]、[Cu%]、[Ni%]、[Mo%]および[B%]は、それぞれ、質量%で示したCr、Cu、Ni、MoおよびBの含有量を示す。
なお、なお、上述のようにCr、Cu、Ni、MoおよびBは選択的に添加可能な元素であり、こられの元素のうち、添加されていない元素の(2)式における含有量はゼロとなる。
(2)式が規定する上限値((2)式の右辺の値)は、より好ましくは0.65質量%以下、更に好ましくは0.50質量%以下である。
また、下記(2)式を満足することが好ましい。より適正な強度を得ることができるからである。
[Cr%]+[Cu%]+[Ni%]+[Mo%]+[B%]×50≦0.75 (2)
ただし、[Cr%]、[Cu%]、[Ni%]、[Mo%]および[B%]は、それぞれ、質量%で示したCr、Cu、Ni、MoおよびBの含有量を示す。
なお、なお、上述のようにCr、Cu、Ni、MoおよびBは選択的に添加可能な元素であり、こられの元素のうち、添加されていない元素の(2)式における含有量はゼロとなる。
(2)式が規定する上限値((2)式の右辺の値)は、より好ましくは0.65質量%以下、更に好ましくは0.50質量%以下である。
3.製造方法
本発明の鋼線は、球状化焼鈍後の組織形態を規定したものであり、こうした組織形態とするためには、後述する球状化焼鈍条件を適切に制御することが必要である。
また、上記のような組織形態を確保するためには、更に圧延線材を製造する段階での条件も適切に制御して、圧延線材における組織形態を球状化焼鈍時にセメンタイトが均一に分布し、粗大化できる組織とすることが好ましい。
本発明の鋼線は、球状化焼鈍後の組織形態を規定したものであり、こうした組織形態とするためには、後述する球状化焼鈍条件を適切に制御することが必要である。
また、上記のような組織形態を確保するためには、更に圧延線材を製造する段階での条件も適切に制御して、圧延線材における組織形態を球状化焼鈍時にセメンタイトが均一に分布し、粗大化できる組織とすることが好ましい。
3−1.圧延
圧延線材製造段階では、上記した成分組成を満足する鋼を、熱間圧延する際の仕上げ圧延温度を適正な温度とすると共に、その後の冷却速度を3段階で変化させて冷却することが好ましい。こうした条件で圧延線材を製造することによって、球状化焼鈍前の組織(または圧延後の組織)を、パーライトおよびフェライトを主相とする(フェライトおよびセメンタイトより構成する)と共に、bcc−Fe結晶粒径を適切な範囲に制御し、且つ初析フェライト分率を適切な範囲に制御し、パーライトのラメラー間隔を広くすることができる。このような組織に対し、後述する条件で球状化焼鈍を行うことによって、セメンタイトが均一に分布し、かつ粗大化した鋼線をより確実に得ることができる。具体的な圧延線材製造条件は、以下の通りである。
1)仕上げ圧延温度Tfが下記(2)式を満足するように仕上げ圧延を行い、
800℃≦Tf≦1200−500×[C%] (2)
(ただし、[C%]は質量%で示したCの含有量を示す。)
2)平均冷却速度が11℃/秒以上の第1冷却と、
平均冷却速度が4℃/秒以上、10℃/秒以下の第2冷却と、
平均冷却速度が3℃/秒以下である第3冷却を、この順で行い、
前記第1冷却の終了と前記第2冷却の開始を700〜750℃の範囲内で行い、前記第2冷却の終了と前記第3冷却の開始を600〜650℃の範囲内で行い、前記第3冷却を500℃まで行うことが好ましい。仕上げ圧延温度および第1〜3冷却について、以下に詳しく説明する。
圧延線材製造段階では、上記した成分組成を満足する鋼を、熱間圧延する際の仕上げ圧延温度を適正な温度とすると共に、その後の冷却速度を3段階で変化させて冷却することが好ましい。こうした条件で圧延線材を製造することによって、球状化焼鈍前の組織(または圧延後の組織)を、パーライトおよびフェライトを主相とする(フェライトおよびセメンタイトより構成する)と共に、bcc−Fe結晶粒径を適切な範囲に制御し、且つ初析フェライト分率を適切な範囲に制御し、パーライトのラメラー間隔を広くすることができる。このような組織に対し、後述する条件で球状化焼鈍を行うことによって、セメンタイトが均一に分布し、かつ粗大化した鋼線をより確実に得ることができる。具体的な圧延線材製造条件は、以下の通りである。
1)仕上げ圧延温度Tfが下記(2)式を満足するように仕上げ圧延を行い、
800℃≦Tf≦1200−500×[C%] (2)
(ただし、[C%]は質量%で示したCの含有量を示す。)
2)平均冷却速度が11℃/秒以上の第1冷却と、
平均冷却速度が4℃/秒以上、10℃/秒以下の第2冷却と、
平均冷却速度が3℃/秒以下である第3冷却を、この順で行い、
前記第1冷却の終了と前記第2冷却の開始を700〜750℃の範囲内で行い、前記第2冷却の終了と前記第3冷却の開始を600〜650℃の範囲内で行い、前記第3冷却を500℃まで行うことが好ましい。仕上げ圧延温度および第1〜3冷却について、以下に詳しく説明する。
(a)仕上げ圧延温度:
仕上げ圧延温度Tfは、以下の(2)式を満足する。
800℃≦Tf≦1200−500×[C%] (2)
(ただし、[C%]は質量%で示したCの含有量を示す。)
圧延線材の金属組織のbcc(body−centered cubic、体心立方格子)−Fe結晶粒の平均円相当直径(以下、単に「bcc−Fe平均粒径」と呼ぶことがある)を小さく、即ち、球状化焼鈍中に再生パーライトが析出しにくくするためには、仕上げ圧延温度を適切に制御することが好ましい。再生パーライトは、セメンタイトの分布状態を不均一化させ、耐割れ性を劣化させる原因となるため、できるだけ析出させないことが重要である。仕上げ圧延温度が(1200−500×[C%])℃を超えると、bcc−Fe結晶粒径を小さくすることが困難となる。すなわち、仕上げ圧延温度の上限は、炭素量が増加するとともに低くなる。
一方、仕上げ圧延温度が800℃未満となると、bcc−Fe結晶粒径が小さくなり過ぎ、軟質化が困難となるので、800℃以上とすることが好ましい。仕上げ圧延温度のより好ましい下限は820℃であり、更に好ましくは840℃である。仕上げ圧延温度のより好ましい上限は(1180−500×[C%])℃であり、更に好ましい上限は(1160−500×[C%])℃以下である。
仕上げ圧延温度Tfは、以下の(2)式を満足する。
800℃≦Tf≦1200−500×[C%] (2)
(ただし、[C%]は質量%で示したCの含有量を示す。)
圧延線材の金属組織のbcc(body−centered cubic、体心立方格子)−Fe結晶粒の平均円相当直径(以下、単に「bcc−Fe平均粒径」と呼ぶことがある)を小さく、即ち、球状化焼鈍中に再生パーライトが析出しにくくするためには、仕上げ圧延温度を適切に制御することが好ましい。再生パーライトは、セメンタイトの分布状態を不均一化させ、耐割れ性を劣化させる原因となるため、できるだけ析出させないことが重要である。仕上げ圧延温度が(1200−500×[C%])℃を超えると、bcc−Fe結晶粒径を小さくすることが困難となる。すなわち、仕上げ圧延温度の上限は、炭素量が増加するとともに低くなる。
一方、仕上げ圧延温度が800℃未満となると、bcc−Fe結晶粒径が小さくなり過ぎ、軟質化が困難となるので、800℃以上とすることが好ましい。仕上げ圧延温度のより好ましい下限は820℃であり、更に好ましくは840℃である。仕上げ圧延温度のより好ましい上限は(1180−500×[C%])℃であり、更に好ましい上限は(1160−500×[C%])℃以下である。
(b)第1冷却
第1冷却は、仕上げ圧延温度である800℃以上、(1200−500×[C%])℃以下から開始し、700〜750℃の温度範囲にある終了温度まで行う。第1冷却において、冷却速度が遅くなるとbcc−Fe結晶粒が粗大化して、bcc−Fe結晶粒径が大きくなり、球状化焼鈍後中に再生パーライトが析出し、単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差が適切な範囲を超える虞がある。そこで、第1冷却における平均冷却速度を11℃/秒以上とすることが好ましい。第1冷却の平均冷却速度はより好ましくは15℃/秒以上であり、更に好ましくは20℃/秒以上である。第1冷却の平均冷却速度の上限は特に限定されないが、現実的な範囲として200℃/秒以下であることが好ましい。尚、第1冷却における冷却では、平均冷却速度が11℃/秒以上である限り、冷却速度を変化させて冷却してもよい。第1冷却のこのような冷却速度は、コンベア上で圧延線材に適切な風冷却を施すことで達成することができる。
第1冷却は、仕上げ圧延温度である800℃以上、(1200−500×[C%])℃以下から開始し、700〜750℃の温度範囲にある終了温度まで行う。第1冷却において、冷却速度が遅くなるとbcc−Fe結晶粒が粗大化して、bcc−Fe結晶粒径が大きくなり、球状化焼鈍後中に再生パーライトが析出し、単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差が適切な範囲を超える虞がある。そこで、第1冷却における平均冷却速度を11℃/秒以上とすることが好ましい。第1冷却の平均冷却速度はより好ましくは15℃/秒以上であり、更に好ましくは20℃/秒以上である。第1冷却の平均冷却速度の上限は特に限定されないが、現実的な範囲として200℃/秒以下であることが好ましい。尚、第1冷却における冷却では、平均冷却速度が11℃/秒以上である限り、冷却速度を変化させて冷却してもよい。第1冷却のこのような冷却速度は、コンベア上で圧延線材に適切な風冷却を施すことで達成することができる。
(c)第2冷却
第2冷却は、700〜750℃の温度範囲にある第1冷却の終了温度から開始し、600〜650℃の温度範囲にある終了温度まで行う。圧延線材の金属組織における初析フェライトの面積率を低くする、即ちパーライト分率を高くするために、第2冷却は4℃/秒以上の平均冷却速度で冷却することが好ましい。第2冷却のより好ましい平均冷却速度は5℃/秒以上であり、更に好ましい冷却速度は6℃/秒以上である。一方、第2冷却における平均冷却速度が速すぎると、パーライト分率が過剰に高くなり、球状化焼鈍中に再生パーライトが析出し、単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差が適切な範囲を超える虞がある。そこで、第2冷却における平均冷却速度は10℃/秒以下とするのが好ましい。第2冷却の平均冷却速度はより好ましくは9℃/秒以下であり、更に好ましくは8℃/秒以下である。尚、第2冷却における冷却では、平均冷却速度が4℃/秒以上、10℃/秒以下である限り、冷却速度を変化させて冷却してもよい。第2冷却のこのような冷却速度は、コンベア上で圧延線材に適切な風冷却を施すことで達成することができる。
第2冷却は、700〜750℃の温度範囲にある第1冷却の終了温度から開始し、600〜650℃の温度範囲にある終了温度まで行う。圧延線材の金属組織における初析フェライトの面積率を低くする、即ちパーライト分率を高くするために、第2冷却は4℃/秒以上の平均冷却速度で冷却することが好ましい。第2冷却のより好ましい平均冷却速度は5℃/秒以上であり、更に好ましい冷却速度は6℃/秒以上である。一方、第2冷却における平均冷却速度が速すぎると、パーライト分率が過剰に高くなり、球状化焼鈍中に再生パーライトが析出し、単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差が適切な範囲を超える虞がある。そこで、第2冷却における平均冷却速度は10℃/秒以下とするのが好ましい。第2冷却の平均冷却速度はより好ましくは9℃/秒以下であり、更に好ましくは8℃/秒以下である。尚、第2冷却における冷却では、平均冷却速度が4℃/秒以上、10℃/秒以下である限り、冷却速度を変化させて冷却してもよい。第2冷却のこのような冷却速度は、コンベア上で圧延線材に適切な風冷却を施すことで達成することができる。
(d)第3冷却
第3冷却は、600〜650℃の温度範囲にある第2冷却の終了温度から500℃まで行う。
この第3冷却を行うことにより、パーライトの平均ラメラー間隔を広くし、より多くのセメンタイトを残存させ、粒内に球状セメンタイトの核を多く残すことができる。このため、後で適切な球状化焼鈍処理を行うことで、フェライト粒内にもセメンタイトが存在し、セメンタイトの分布状態を適切に制御することができる。パーライトの平均ラメラー間隔を広くするためには、600〜650℃の温度範囲から開始し、500℃まで実施する第3冷却において、3℃/秒以下の平均冷却速度で冷却することが好ましい。冷却速度が3℃/秒より速いとパーライトの平均ラメラー間隔を広くすることが困難となる。第3冷却の平均冷却速度はより好ましくは2.5℃/秒以下であり、更に好ましくは2℃/秒以下である。第3冷却のこのような冷却速度は、圧延線材からの放熱を抑制するためのカバーをコンベア上に設置することにより達成することができる。
第3冷却は、600〜650℃の温度範囲にある第2冷却の終了温度から500℃まで行う。
この第3冷却を行うことにより、パーライトの平均ラメラー間隔を広くし、より多くのセメンタイトを残存させ、粒内に球状セメンタイトの核を多く残すことができる。このため、後で適切な球状化焼鈍処理を行うことで、フェライト粒内にもセメンタイトが存在し、セメンタイトの分布状態を適切に制御することができる。パーライトの平均ラメラー間隔を広くするためには、600〜650℃の温度範囲から開始し、500℃まで実施する第3冷却において、3℃/秒以下の平均冷却速度で冷却することが好ましい。冷却速度が3℃/秒より速いとパーライトの平均ラメラー間隔を広くすることが困難となる。第3冷却の平均冷却速度はより好ましくは2.5℃/秒以下であり、更に好ましくは2℃/秒以下である。第3冷却のこのような冷却速度は、圧延線材からの放熱を抑制するためのカバーをコンベア上に設置することにより達成することができる。
第3冷却を行った後は、放冷などの通常の冷却を行って室温まで冷却を行ってよい。また、500℃より低い温度(例えば、400℃)まで、第3冷却と同程度の冷却速度で冷却を継続してもよい。
室温まで冷却した後は、必要に応じて更に室温で伸線加工を行ってもよく、その際の減面率は例えば30%以下とすればよい。伸線加工を実施すると、鋼中の炭化物が破壊され(細かく砕かれ)、その後の球状化焼鈍で炭化物の凝集を促進できるため、球状化焼鈍の均熱処理時間の短縮に有効である。但し、伸線加工の減面率が30%を超えると、焼鈍後の強度が高くなり冷間加工性を劣化させる虞があるため、伸線加工の減面率は30%以下が好ましい。尚、減面率の下限は特に限定されないが、好ましくは2%以上とすることでより確実に伸線加工の効果が得られる。
3−2.球状化焼鈍
上記のような好ましい条件で製造された圧延線材では、その後の球状化焼鈍処理によって、金属組織中のパーライトが一部残存した状態でオーステナイトに変態し、その後フェライト+セメンタイトと変態する中で、残存した核や結晶粒界などにセメンタイトが均一に析出し、セメンタイトの分布状態を均一制御しやすい状態となる。
しかし、上述の好ましい条件から外れた条件で得られた圧延線材についても適切な条件で球状化焼鈍を行うことで本発明に係る鋼線を得ることができる。
上記のような好ましい条件で製造された圧延線材では、その後の球状化焼鈍処理によって、金属組織中のパーライトが一部残存した状態でオーステナイトに変態し、その後フェライト+セメンタイトと変態する中で、残存した核や結晶粒界などにセメンタイトが均一に析出し、セメンタイトの分布状態を均一制御しやすい状態となる。
しかし、上述の好ましい条件から外れた条件で得られた圧延線材についても適切な条件で球状化焼鈍を行うことで本発明に係る鋼線を得ることができる。
こうした球状化焼鈍条件として、圧延線材に対し、例えば後記するSA1のように、大気炉を用いて加熱し、例えば740℃のような、A1点直上温度730℃より高い保持温度で保持する場合、少なくとも500℃から730℃までは平均加熱速度50℃/時間以上で加熱し、その後平均加熱速度6〜10℃/時間で保持温度(例えば740℃)まで加熱し、保持温度で1〜2時間保持した後、平均冷却速度20℃/時間以上で720℃まで冷却し、平均冷却速度8〜12℃/時間で640℃まで冷却し、その後放冷することが好ましい。
上記の球状化焼鈍条件において、室温から730℃まで加熱する際に、少なくとも500℃から730℃までの平均加熱速度を50℃/時間以上とすることで、金属組織の粒成長を抑制する。このときの平均加熱速度は、より好ましくは60℃/時間以上である。しかしながら、平均加熱速度が速すぎると圧延線材の温度追従が困難となるため、200℃/時間以下とすることが好ましく、より好ましくは150℃/時間以下である。
尚、室温から500℃まで加熱する際の平均加熱速度は、通常100℃/時間以上であるが、この温度範囲での平均加熱速度は、金属組織の粒成長に与える影響は小さい。生産性を考慮すれば、このときの加熱速度は速い方が好ましく、例えば120℃/時間以上であり、より好ましくは140℃/時間以上である。このときの平均加熱速度は、500℃から730℃までの平均加熱速度と同様に、200℃/時間以下とすることが好ましく、より好ましくは150℃/時間以下である。室温から500℃まで加熱する際の平均冷却速度は、少なくとも500℃から730℃までの平均加熱速度と、同じであってもよく、または異なっていてもよい。
またA1点直上の730℃から保持温度までの平均加熱速度を6〜10℃/時間に制御することにより、金属組織の粒成長を極力抑えながら、パーライト組織中のセメンタイトの分解・固溶を適切に行うことができる。平均加熱速度が10℃/時間よりも速い場合は、パーライト組織中のセメンタイトの分解・固溶の時間の確保が難しく、平均加熱速度が6℃/時間よりも遅い場合は、730℃から保持温度までの加熱時間が長くなり、セメンタイトの分解・固溶が過剰に行われてしまう。このときの平均加熱速度は、より好ましくは7℃/時間以上、9℃/時間以下である。
保持温度では、1〜2時間保持することが好ましい。この保持温度が1時間よりも短くなると、パーライト組織中のセメンタイトの分解・固溶が不十分であり、2時間よりも長くなると、セメンタイトの分解・固溶が過剰に行われてしまう。このときの保持時間は、より好ましくは1.2時間以上、1.8時間以下である。
上記のような保持を行なった後、720℃までの好ましい平均冷却速度を20℃/時間以上とすることで、金属組織の粒成長を抑制し、冷却中の再生パーライトの析出を抑制することができる。このときの平均冷却速度は、より好ましくは30℃/時間以上であるが、平均冷却速度が速すぎると圧延線材の温度追従が困難となるため、100℃/時間以下とすることが好ましい。
その後、720℃から640℃までの平均冷却速度を8〜12℃/時間に制御することにより、加熱中に残存していた核や粒界に優先的にセメンタイトを析出させ、再生パーライトの析出を抑制することができる。平均冷却速度が8℃/時間よりも遅い場合は、不必要に金属組織が粒成長し、後述するように繰返し球状化焼鈍する際に、再生パーライトが析出する虞がある。平均冷却速度が12℃/時間よりも速い場合は、パーライト組織のようなアスペクト比の大きなセメンタイトが多く再析出する。このときの平均冷却速度は、より好ましくは9℃/時間以上、11℃/時間以下である。
上記のような球状化焼鈍は、複数回繰り返し行ってもよい。こうした繰り返しを行うことによって、セメンタイトの個々の粒径が大きくなり、分布状態はある程度均一化する。
後述する実施例の試験No.36〜38(鋼種Q、R、S)のように、圧延条件が上述した好ましい条件の範囲から外れている場合であっても、上述した条件の球状化焼鈍を繰り返して複数回行うことによって、金属組織が、フェライトおよびセメンタイトより構成され、単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差およびセメンタイトの平均粒径が適切な範囲内となり、その結果、変形抵抗および割れ発生率の両方を低減できる機械構造部品用鋼線を得ることができる。
後述する実施例の試験No.36〜38(鋼種Q、R、S)のように、圧延条件が上述した好ましい条件の範囲から外れている場合であっても、上述した条件の球状化焼鈍を繰り返して複数回行うことによって、金属組織が、フェライトおよびセメンタイトより構成され、単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差およびセメンタイトの平均粒径が適切な範囲内となり、その結果、変形抵抗および割れ発生率の両方を低減できる機械構造部品用鋼線を得ることができる。
球状化焼鈍の繰り返し回数については、少なくとも3回以上であることが好ましいが、過度に繰り返しても単位面積(5μm×5μmの面積)に含まれるセメンタイト数の標準偏差およびセメンタイトの平均粒径があまり変化しなくなるので、10回以下であることが好ましい。尚、球状化焼鈍を複数回繰り返すに際して、上記の好ましい条件の範囲内で、同じ条件で繰り返してもよく、また異なる条件で繰り返してもよい。
以上に説明した本発明の実施形態に係る機械構造部品用鋼線およびその製造方法に接した当業者であれば、試行錯誤により、上述した製造方法と異なる製造方法により本発明に係る機械構造部品用鋼線を得ることができる可能性がある。
以上に説明した本発明の実施形態に係る機械構造部品用鋼線およびその製造方法に接した当業者であれば、試行錯誤により、上述した製造方法と異なる製造方法により本発明に係る機械構造部品用鋼線を得ることができる可能性がある。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記表1に示す化学成分組成の鋼を用い、表2に記載の条件で圧延を行い、φ17.0mmの線材を作製した。鋼種N、Oは化学成分組成が本発明の範囲から外れている比較例である。
鋼種P、Q、R、S、T、U、V、Wは、上述の好ましい圧延条件から外れる条件で圧延線材を製造した。鋼種Pは、第2冷却での平均冷却速度が好ましい範囲よりも遅い条件となっている。鋼種Qは、仕上げ圧延温度が好ましい範囲より高くなっている。鋼種Rは、第1冷却での平均冷却速度が好ましい範囲よりも遅い条件となっている。鋼種Sは、第3冷却での平均冷却速度が好ましい範囲よりも速い条件となっている。また鋼種Tは、第2冷却での平均冷却速度が好ましい範囲よりも速い条件となっている。
鋼種Uでは、435℃まで、即ち終了温度の好ましい範囲よりも低い温度まで第1冷却を行った後、同温度の435℃で120秒保持する保持工程を行い、室温まで放冷し、減面率20%の粗伸線を行った。鋼種Vでは、500℃まで、即ち終了温度の好ましい範囲よりも低い温度まで第1冷却を行った後、同温度の500℃で120秒保持する保持工程を行い、室温まで放冷し、減面率20%の粗伸線を行った。また鋼種Wでは、480℃まで、即ち終了温度の好ましい範囲よりも低い温度まで第1冷却を行った後、同温度の480℃で120秒保持する保持工程を行い、室温まで放冷し、減面率20%の粗伸線を行った。
次に、鋼種U、V、Wを除いた夫々の圧延線材に対し、大気炉にて、以下に示す焼鈍条件SA1〜SA3の何れかにより球状化焼鈍を行った。
(a)条件SA1
室温から730℃まで加熱するに際し、室温から500℃までを平均加熱速度110℃/時間で加熱し、500℃から730℃までを平均加熱速度80℃/時間で加熱する。その後平均加熱温度8℃/時間で740℃まで加熱し、740℃で2時間保持後、平均冷却速度30℃/時間で720℃まで冷却し、平均冷却速度10℃/時間で640℃まで冷却し、その後放冷する。
(b)条件SA2
条件SA1を3回繰り返す。
(c)条件SA3
室温から730℃まで加熱するに際し、室温から500℃までを平均加熱速度110℃/時間で加熱し、500℃から730℃までを平均加熱速度80℃/時間で加熱する。その後、平均加熱速度8℃/時間で740℃まで加熱し、740℃で2時間保持後、平均冷却速度30℃/時間で640℃まで冷却し、その後放冷する。
(a)条件SA1
室温から730℃まで加熱するに際し、室温から500℃までを平均加熱速度110℃/時間で加熱し、500℃から730℃までを平均加熱速度80℃/時間で加熱する。その後平均加熱温度8℃/時間で740℃まで加熱し、740℃で2時間保持後、平均冷却速度30℃/時間で720℃まで冷却し、平均冷却速度10℃/時間で640℃まで冷却し、その後放冷する。
(b)条件SA2
条件SA1を3回繰り返す。
(c)条件SA3
室温から730℃まで加熱するに際し、室温から500℃までを平均加熱速度110℃/時間で加熱し、500℃から730℃までを平均加熱速度80℃/時間で加熱する。その後、平均加熱速度8℃/時間で740℃まで加熱し、740℃で2時間保持後、平均冷却速度30℃/時間で640℃まで冷却し、その後放冷する。
焼鈍条件SA1、SA2は、本発明の球状化焼鈍に係る焼鈍条件であり、焼鈍条件SA3は、720℃から640℃までの平均冷却速度が本発明に係る焼鈍条件の範囲より速くなっている。
尚、鋼種U、V、Wに対しては、大気炉にて以下に示す焼鈍条件SA4により球状化焼鈍を行った。
(d)条件SA4
平均加熱速度150℃/時間で室温から720℃まで加熱し、720℃で1時間保持し、その後放冷する。その後、減面率10%の仕上げ伸線を行った。
焼鈍条件SA4は、本発明に係る焼鈍条件の範囲から外れている。
(d)条件SA4
平均加熱速度150℃/時間で室温から720℃まで加熱し、720℃で1時間保持し、その後放冷する。その後、減面率10%の仕上げ伸線を行った。
焼鈍条件SA4は、本発明に係る焼鈍条件の範囲から外れている。
上記の球状化焼鈍を行った後の鋼線について、(1)5μm×5μmの面積に含まれるセメンタイト数の標準偏差、(2)セメンタイトの平均粒径、(3)冷間加工時の変形抵抗、および(4)冷間加工時の割れ発生率を、下記の方法によって測定した。
尚、球状化焼鈍後の鋼線の5μm×5μmの面積に含まれるセメンタイト数の標準偏差、およびセメンタイトの平均粒径の測定に当たっては、横断面が観察できるように樹脂埋めし、エメリー紙、ダイヤモンドバフによって切断面を鏡面研磨した。鋼線の半径Dに対し、D/4の位置を測定した。
(1)5μm×5μmの面積に含まれるセメンタイト数の標準偏差の測定
ピクラールエッチングによってセメンタイトを出現させた断面をFE−SEMにて組織観察を行い、倍率2000倍にて60μm×45μmの領域を5箇所(5視野)撮影した。写真上に、縦方向、横方向に5μm毎のメッシュ線を入れ、それぞれの視野を108個の5μm×5μmの単位領域に分割した。各々の単位領域内に含まれるセメンタイト数を測定し、5視野×108個の単位領域のすべての測定値を用いて、標準偏差を算出した。単位領域の境界上に存在、即ち1つの単位領域内に一部分しか存在しないセメンタイトのうち、上および左の境界上に存在しているものは単位領域内に存在するとして測定し、下および右の境界上に存在しているものは単位領域内に存在しないものとして測定しなかった。即ち、測定しなかったセメンタイトは、別の単位領域内に存在することになる。測定するセメンタイトの最小の円相当直径は0.1μmとした。
ピクラールエッチングによってセメンタイトを出現させた断面をFE−SEMにて組織観察を行い、倍率2000倍にて60μm×45μmの領域を5箇所(5視野)撮影した。写真上に、縦方向、横方向に5μm毎のメッシュ線を入れ、それぞれの視野を108個の5μm×5μmの単位領域に分割した。各々の単位領域内に含まれるセメンタイト数を測定し、5視野×108個の単位領域のすべての測定値を用いて、標準偏差を算出した。単位領域の境界上に存在、即ち1つの単位領域内に一部分しか存在しないセメンタイトのうち、上および左の境界上に存在しているものは単位領域内に存在するとして測定し、下および右の境界上に存在しているものは単位領域内に存在しないものとして測定しなかった。即ち、測定しなかったセメンタイトは、別の単位領域内に存在することになる。測定するセメンタイトの最小の円相当直径は0.1μmとした。
(2)セメンタイトの平均粒径の測定
セメンタイトの平均粒径の測定においては、上記(1)で撮影した写真を基に、画像解析ソフトMedia Cybernetics,Inc.製Image−Pro Plusにより、写真内の全セメンタイトの面積を測定し、5視野における、全セメンタイト数に対する、面積の平均値を求めた。その面積を用いて、セメンタイトの円相当直径を算出し、セメンタイトの平均粒径とした。測定するセメンタイトは、写真内にセメンタイトの全体が写っているものを対象とし、写真の端に位置し、セメンタイトの一部しか写真内に写っていないものは対象としなかった。測定するセメンタイトの最小の円相当直径は0.1μmとした。
セメンタイトの平均粒径の測定においては、上記(1)で撮影した写真を基に、画像解析ソフトMedia Cybernetics,Inc.製Image−Pro Plusにより、写真内の全セメンタイトの面積を測定し、5視野における、全セメンタイト数に対する、面積の平均値を求めた。その面積を用いて、セメンタイトの円相当直径を算出し、セメンタイトの平均粒径とした。測定するセメンタイトは、写真内にセメンタイトの全体が写っているものを対象とし、写真の端に位置し、セメンタイトの一部しか写真内に写っていないものは対象としなかった。測定するセメンタイトの最小の円相当直径は0.1μmとした。
(3)変形抵抗の測定
鋼線から、φ10.0mm×15.0mmの冷間鍛造試験用サンプルを作製し、鍛造プレスを用い、室温にて、ひずみ速度5/秒〜10/秒で、加工率60%の冷間鍛造試験を5回ずつ行った。変形抵抗の測定は、60%加工率の冷間鍛造試験から得られた加工率−変形抵抗のデータから、40%加工時の変形抵抗を5回測定し、5回の平均値を求めた。尚、C、Si及びMn含有量によって、求められる変形抵抗が異なるため、目標とする変形抵抗の上限値(表3内では「変形抵抗上限目標値」と記載。)を下記(3)式により求めた。
変形抵抗上限目標値(MPa)=400×Ceq+420 (3)
ただし、Ceq=[C%]+0.2×[Si%]+0.2×[Mn%]であり、[C%]、[Si%]及び[Mn%]は、それぞれC、Si及びMnの含有量(質量%)を示す。
鋼線から、φ10.0mm×15.0mmの冷間鍛造試験用サンプルを作製し、鍛造プレスを用い、室温にて、ひずみ速度5/秒〜10/秒で、加工率60%の冷間鍛造試験を5回ずつ行った。変形抵抗の測定は、60%加工率の冷間鍛造試験から得られた加工率−変形抵抗のデータから、40%加工時の変形抵抗を5回測定し、5回の平均値を求めた。尚、C、Si及びMn含有量によって、求められる変形抵抗が異なるため、目標とする変形抵抗の上限値(表3内では「変形抵抗上限目標値」と記載。)を下記(3)式により求めた。
変形抵抗上限目標値(MPa)=400×Ceq+420 (3)
ただし、Ceq=[C%]+0.2×[Si%]+0.2×[Mn%]であり、[C%]、[Si%]及び[Mn%]は、それぞれC、Si及びMnの含有量(質量%)を示す。
(4)割れ発生率の測定
割れ発生率の測定は、上記(3)と同じ条件で60%加工率の冷間鍛造試験後、夫々実体顕微鏡にて表面観察を5回行い、倍率20倍にて表面割れの有無を測定し、「表面割れを有するサンプル数」を5で除すことにより、その平均を求めた。全ての鋼種における目標とする割れ発生率は、20%以下とした。
割れ発生率の測定は、上記(3)と同じ条件で60%加工率の冷間鍛造試験後、夫々実体顕微鏡にて表面観察を5回行い、倍率20倍にて表面割れの有無を測定し、「表面割れを有するサンプル数」を5で除すことにより、その平均を求めた。全ての鋼種における目標とする割れ発生率は、20%以下とした。
これらの結果を、球状化焼鈍条件と共に下記表3に示す。表3には、(1)式により求まるセメンタイト数の標準偏差σcの上限値および下限値も記載した。尚、表3の総合評価の欄には、変形抵抗および耐割れ発生率のいずれも目標値をクリアーし良好である場合は「OK」と記載し、変形抵抗および耐割れ発生率の少なくとも一方が目標値に達していない場合は「NG」と記載した。
図1は、表3に示す結果から得た、耐割れ性が良好のサンプルおよび不良サンプルにおけるC濃度とセメンタイト数の標準偏差との関係を示すグラフである。グラフ中の2本の点線のうち、下側の点線は、(1)式の左辺に示す下限値1.5に対応し、上側の点線は、(1)式の右辺に示す上限値4.5に対応する。
図1より(1)式を満足し、かつ所定の化学組成を有するともにセメンタイトの平均粒径が0.5μm以上であるサンプルは全て総合評価がOKであり、(1)式を満足しないサンプルは総合評価がNGであることが分かる。また(1)式を満足していても、化学組成およびセメンタイトの平均粒径のどちらかの要件を満足しないサンプルは総合評価がNGとなっている。
図1は、表3に示す結果から得た、耐割れ性が良好のサンプルおよび不良サンプルにおけるC濃度とセメンタイト数の標準偏差との関係を示すグラフである。グラフ中の2本の点線のうち、下側の点線は、(1)式の左辺に示す下限値1.5に対応し、上側の点線は、(1)式の右辺に示す上限値4.5に対応する。
図1より(1)式を満足し、かつ所定の化学組成を有するともにセメンタイトの平均粒径が0.5μm以上であるサンプルは全て総合評価がOKであり、(1)式を満足しないサンプルは総合評価がNGであることが分かる。また(1)式を満足していても、化学組成およびセメンタイトの平均粒径のどちらかの要件を満足しないサンプルは総合評価がNGとなっている。
また、上述のFE−SEMによる組織観察の際に、いずれのサンプルもフェライトおよびセメンタイトにより構成されているのを確認した。
図2(a)は、試験No.15のFE−SEMによる金属組織観察結果であり、図2(b)は試験No.16のFE−SEMによる金属組織観察結果である。試験No.15には層状のセメンタイトはあまり観察されなかったが、試験No.16には比較的多くの層状のセメンタイトが観察された。
図2(a)は、試験No.15のFE−SEMによる金属組織観察結果であり、図2(b)は試験No.16のFE−SEMによる金属組織観察結果である。試験No.15には層状のセメンタイトはあまり観察されなかったが、試験No.16には比較的多くの層状のセメンタイトが観察された。
表3の結果より、次のように考察できる。試験No.1〜3、5〜7、9、10、12〜15、17〜20、22〜24および36〜38は、本発明で規定する要件の全てを満足する実施例であり、変形抵抗の低減および耐割れ性向上が共に達成されていることが分かる。
このうち試験No.36〜38は、圧延が好ましい条件で製造されていない鋼種Q、R、Sを用いた例であるが、SA2の焼鈍条件によって繰り返し球状化焼鈍を行ったことから、硬質組織の再生パーライトが分解・減少した結果、セメンタイトの分布状態が均一化し、変形抵抗および割れ発生率のいずれも目標値に達している。
ここで、球状化焼鈍がSA1かSA2であるか以外は条件に違いのない(すなわち鋼種が同じ)試験No.2、3(鋼種B)、試験No.6、7(鋼種C)、試験No.9、10(鋼種E)、試験No.14、15(鋼種H)、試験No.19、20(鋼種K)および試験No.23、24(鋼種M)に着目すると、いずれの場合もSA1と比べてSA1を3回繰り返すSA2の焼鈍を行った方が、変形抵抗が低くかつ割れ発生率も低くなっていることが分かる。
試験No.4、8、11、16、21、25〜35は、本発明で規定する要件のいずれかを欠く比較例であり、変形抵抗、割れ発生率のいずれか、または両方が目標値に達していないことが分かる。
即ち、試験No.4、8、11、16、21、25は、条件が適切でない焼鈍条件SA3で球状化焼鈍を行っており、5μm×5μmの面積に含まれるセメンタイト数の標準偏差が(1)式で規定する上限値より大きく、割れ発生率、または変形抵抗および割れ発生率の両方が目標値に達していない。両方が目標値に達していない試験の金属組織には再生パーライトが多く見られ、このため(1)式を満足せず、変形抵抗が増加したと考えられる。
試験No.26、27は、Mn含有量が過剰な鋼種NまたはCr含有量が過剰な鋼種Oを用いており、冷間加工時の変形抵抗が高いままである。
試験No.28〜32は、圧延を好ましい条件から外れた条件で行った鋼種P、Q、R、S、Tを用いた例であり、その後のSA1の球状化焼鈍を行っても、5μm×5μmの面積に含まれるセメンタイト数の標準偏差が(1)式が規定する上限値より大きく、割れ発生率、または変形抵抗および割れ発生率の両方が目標値に達していない。
試験No.33〜35は、圧延条件が好ましい条件ではない鋼種U、V、Wを用い、焼鈍条件が適切でないSA4で球状化焼鈍を行った例であり、微細なセメンタイトが均一に分散し、5μm×5μmの面積に含まれるセメンタイト数の標準偏差が(1)式が規定する下限値よりも小さくなっており、更にセメンタイトの平均粒径も規定値より小さい。No.34、35は5μm×5μmの面積に含まれるセメンタイト数の標準偏差が下限値より小さく、変形抵抗が高い。No.33、34はセメンタイトの平均粒径が下限値よりも小さく、変形抵抗が高い。
本発明の機械構造部品用鋼線は、冷間鍛造、冷間圧造、冷間転造等の冷間加工によって製造される自動車用部品、建設機械用部品等の各種機械構造部品の素材に好適に用いられる。こうした機械構造部品として、具体的には、ボルト、ねじ、ナット、ソケット、ボールジョイント、インナーチューブ、トーションバー、クラッチケース、ケージ、ハウジング、ハブ、カバー、ケース、受座金、タペット、サドル、バルグ、インナーケース、クラッチ、スリーブ、アウターレース、スプロケット、コア、ステータ、アンビル、スパイダー、ロッカーアーム、ボディー、フランジ、ドラム、継手、コネクタ、プーリ、金具、ヨーク、口金、バルブリフター、スパークプラグ、ピニオンギヤ、ステアリングシャフト、コモンレール等の機械部品、電装部品等が挙げられる。本発明の鋼線は、上記の機械構造部品の素材として好適に用いられる高強度機械構造部品用鋼線として産業上有用であり、上記の各種機械構造用部品を製造するときの室温における変形抵抗が低く、且つ素材の割れが抑制されることで優れた冷間加工性を発揮することができる。
Claims (2)
- C :0.3質量%〜0.6質量%、
Si:0.05質量%〜0.5質量%、
Mn:0.2質量%〜1.7質量%、
P :0質量%超、0.03質量%以下、
S :0.001質量%〜0.05質量%、
Al:0.005質量%〜0.1質量%、および
N :0質量%〜0.015質量%を含有し、
残部が鉄および不可避不純物からなり、
金属組織が、フェライトおよびセメンタイトより構成され、5μm×5μmの面積に含まれるセメンタイト数の標準偏差σcが下記(1)式を満足し、セメンタイトの平均粒径が0.5μm以上である機械構造部品用鋼線。
1.5≦σc≦4.5 (1)
- Cr:0質量%超、0.5質量%以下、
Cu:0質量%超、0.25質量%以下、
Ni:0%質量超、0.25質量%以下、
Mo:0質量%超、0.25質量%以下、および
B :0質量%超、0.01質量%以下よりなる群から選択される1種以上を更に含有し、かつ下記(2)式を満足する請求項1に記載の機械構造部品用鋼線。
[Cr%]+[Cu%]+[Ni%]+[Mo%]+[B%]×50≦0.75 (2)
ただし、[Cr%]、[Cu%]、[Ni%]、[Mo%]および[B%]は、それぞれ、質量%で示したCr、Cu、Ni、MoおよびBの含有量を示す。
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