JP2017064706A - コーティング被膜形成方法および当該コーティング被膜を備える機能材 - Google Patents

コーティング被膜形成方法および当該コーティング被膜を備える機能材 Download PDF

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Abstract

【課題】 優れた施工性を有し、基材の表面に均一または均質で、良好な外観を有するコーティング被膜を容易に形成可能な方法の提供。
【解決手段】 コーティング被膜を基材の表面に形成する方法であって、当該方法が、水系コーティング組成物を基材の表面に適用して液膜を形成する工程と、前記液膜を乾燥させて被膜を形成する工程とを少なくとも含んでなり、前記液膜が、複数の凸部および複数の凹部を含む微細な凹凸形状を有しており、前記被膜形成工程において、前記液膜を乾燥させて前記液膜の前記微細な凹凸形状が維持された前記被膜を形成することを特徴とする、方法。
【選択図】 図2

Description

本発明は、優れた施工性を有し、基材の表面に均一または均質で、良好な外観を有するコーティング被膜を容易に形成可能なコーティング被膜形成方法、および基材と、当該基材の表面に形成された、均一または均質で、良好な外観を有するコーティング被膜とを備えてなる機能材に関する。
基材の表面にコーティング被膜を形成する一つの手段として、水を分散媒として含む水系コーティング組成物が用いられている。水系コーティング組成物は、一般に、溶剤を分散媒として含む非水系コーティング組成物に比べて、表面張力が低く、粘度が低い傾向にある。すなわち、水系コーティング組成物は高いレベリング性(基材の表面に濡れ広がりやすい性質)を有する。現場施工において、このような高いレベリング性を有する水系コーティング組成物を、壁面などの広い面または垂直面もしくは傾斜面を有する基材に適用する場合、液だれや塗りムラなどの外観不良が生じ易く、均一な被膜を形成するのは難しいことがある。とりわけガラスなどの透明な基材に適用する場合、外観不良がより生じ易く、均一な被膜を形成するのは一層難しい。こうした不具合を抑制するため、施工者に高い技能を要求しなければならない実情があり、現場施工に高い技術が求められている。
WO98/003607号公報(特許文献1)には、界面活性剤を添加することにより、コーティング組成物を基材の表面に均質に適用できることが記載されている。特開平10−337526号公報(特許文献2)には、汚れが付着している既設の基材表面を洗浄した後にコーティング組成物を塗布する方法が記載されている。このコーティング組成物に界面活性剤を添加することによって、基材の表面への濡れ性を向上させることができると記載されている。
特開2000−246115号公報(特許文献3)には、基材の表面に実質的に均一に分散した状態で、例えば不連続状、好ましくは島状で形成された光触媒被膜を有する光触媒性部材が記載されている。この光触媒性部材は、気候変動など基材が膨張・収縮し易い環境下でも光触媒機能を良好に発揮できると報告されている。
しかしながら、壁面など水系コーティング組成物の適用が困難な基材の表面に、均一で良好な外観を有する、優れたコーティング被膜を高い施工技術を要することなく容易に形成可能な方法が依然求められている。
WO98/003607号公報 特開平10−337526号公報 特開2000−246115号公報
本発明者らは、今般、基材の表面に微細な凹凸形状を有する液膜を形成し、この微細な凹凸形状が維持されるように当該液膜を乾燥させて被膜を形成することにより、優れた施工性を有し、基材の表面に均一または均質で、良好な外観を有するコーティング被膜を容易に形成できるとの知見を得た。本発明は斯かる知見に基づくものである。
従って、本発明は、優れた施工性を有し、基材の表面に均一または均質で、良好な外観を有するコーティング被膜を容易に形成可能な方法を提供することを目的とする。また、本発明は、基材と、当該基材の表面に形成された、均一または均質で、良好な外観を有するコーティング被膜とを備えてなる機能材を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、コーティング被膜を基材の表面に形成する方法であって、
当該方法が、
水系コーティング組成物を基材の表面に適用して液膜を形成する工程と、
前記液膜を乾燥させて被膜を形成する工程と
を少なくとも含んでなり、
前記液膜が、複数の凸部および複数の凹部を含む微細な凹凸形状を有しており、
前記被膜形成工程において、前記液膜を乾燥させて前記液膜の前記微細な凹凸形状が維持された前記被膜を形成することを特徴とする。
また、本発明は、基材と、当該基材の表面に形成されたコーティング被膜とを備えてなる機能材であって、前記コーティング被膜が複数の凸部および複数の凹部を含む微細な凹凸形状を有することを特徴とする。
本発明によるコーティング被膜形成方法は、水系コーティング組成物の基材への適用が困難な環境下であっても、当該水系コーティング組成物および/または基材に特別な処理を施すことなく、当該水系コーティング組成物から形成される液膜の形状を微細な凹凸形状に制御しながら、当該液膜の形状が維持された形状を有する被膜を簡便に形成することができる。本発明においては、微細な凹凸形状を有する液膜が形成され、この形状が維持されたまま液膜が乾燥し、均質で外観に優れたコーティング被膜となる。液膜が微細な凹凸形状を有することにより、この形状が、乾燥途中の液膜、さらには乾燥後の被膜に維持されると考えられる。この形状の維持により、均一で良好な外観を有する優れたコーティング被膜を、高い施工技術を要することなく容易に形成することができる。具体的には、壁面のように窓ガラス等よりも広い面積を有する基材に、垂直面もしくは傾斜面を有する基材に、またはこのような基材であって透明性のあるものに、液だれ、塗りムラ、塗筋などの外観不良が視認されることのない、均一なコーティング被膜を、高い施工技能を要することなく容易に形成することができる。あるいは、夏場など気温が高く液膜の乾燥時間が短い環境下で、現場施工する場合における、塗りムラ、塗筋などの外観不良、および、冬場などの気温が低く液膜の乾燥時間が長い環境下で、現場施工する場合における液ダレなどの外観不良が視認されることのない、均一なコーティング被膜を、高い施工技能を要することなく容易に形成することができる。さらに、このような優れた施工性を安定して発現・維持することができる。
本発明によるコーティング被膜形成方法のフローチャートである。 (a)本発明によるコーティング被膜形成方法において形成される液膜および被膜を示す模式図である。(b)従来のコーティング被膜形成方法において形成される液膜および被膜を示す模式図である。 スポンジローラーを回転させながら水系コーティング組成物を基材の表面に適用して液膜を形成する態様を示す模式図である。 本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された液膜の写真である。 図4(a)に示す液膜が乾燥して形成された被膜の写真である。 本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された別の液膜の写真である。 図5(a)に示す液膜が乾燥して形成された被膜の写真である。 本発明に属さないコーティング被膜形成方法により形成された液膜の写真である。 図6(a)に示す液膜が乾燥して形成された被膜の写真である。 本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明に属さないコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明に属さないコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明に属さないコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明に属さないコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明に属さないコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明に属さないコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明に属さないコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明に属さないコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明に属さないコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明に属さないコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 本発明に属さないコーティング被膜形成方法により形成された被膜の写真である。 デジタルホログラフィック顕微鏡観察によって得た被膜37〜41の表面形状プロファイルを示す。 デジタルホログラフィック顕微鏡観察によって得た被膜42〜46の表面形状プロファイルを示す。
コーティング被膜形成方法
図1は、本発明によるコーティング被膜形成方法のフローチャートである。本発明によるコーティング被膜形成方法は、図1に示すように、水系コーティング組成物を基材の表面に適用して液膜を形成する工程(工程1)と、この液膜を乾燥させて被膜を形成する工程(工程2)とを少なくとも含んでなる。
図2及び図3を参照しつつ、図1のフローチャートに示す工程を詳細に説明する。図2(a)は、本発明によるコーティング被膜形成方法において形成される液膜および被膜を示す模式図である。図2(b)は、従来のコーティング被膜形成方法において形成される液膜および被膜を示す模式図である。図3は、スポンジローラーを回転させながら水系コーティング組成物を基材の表面に適用して液膜を形成する態様を示す模式図である。
液膜の形成(工程1)
本発明によるコーティング被膜形成方法においては、先ず、水系コーティング組成物を基材の表面に適用して液膜を形成する。
液膜
本発明において、液膜とは、水系コーティング組成物を基材の表面に適用した後に形成された膜であって、乾燥し始める前のウエットな状態の膜を指す。図2(a)に示すように、液膜101は、複数の凸部101aおよび複数の凹部101bを含む微細な凹凸形状を有する。微細な凹凸形状としては、例えば、複数の凸部101aおよび複数の凹部101bが、基材表面全体に亘って均一に存在している状態のものが挙げられる。例えば、複数の凸部101aおよび複数の凹部101bが、基材表面の縦方向および横方向双方において交互に規則正しく分布している状態が挙げられる。
ここで、基材から液膜に向かう積層(鉛直)方向をZ軸方向とし、Z軸方向に垂直な方向をX軸方向、Z軸方向及びX軸方向の双方に垂直な方向をY軸方向とする。上記凸部101aの直径とは、X-Y平面、すなわち液膜101の表面において、隣接する2つの凸部101aの間の距離である。凸部101aの厚さとは、凸部101aのZ軸方向に沿う長さである。
液膜101の微細な凹凸形状は、液膜101の表面(X−Y平面)を観察した場合に、微細な網目状、鱗状であることが好ましく、鱗状であることがより好ましい。液膜101に含まれる単位体積あたりのコーティング組成物の量が所定値より少ない、または該コーティング組成物の表面張力及び粘度が所定値よりも大きい等の場合は、微細な網目状や鱗状の微細な凹凸形状を有する液膜101を形成することができる。一方、液膜101に含まれる単位体積あたりのコーティング組成物の量が所定値よりも多い、または該コーティング組成物の表面張力及び粘度が所定値よりも小さい等の場合には、例えば、微細な網目状や鱗状の微細な凹凸形状を有する液膜101を形成することが困難である。あるいは、これら微細な凹凸形状を有する液膜101を形成することができた場合であっても、後述する乾燥途中にこれら微細な凹凸形状を維持できないおそれがある。この場合、乾燥後の被膜においては、その外観に塗りムラ等が視認されてしまう。
本発明によれば、液膜101が微細な凹凸形状を有しており、かつ、この形状が、乾燥途中の液膜、さらには乾燥後の被膜102に維持されることにより、均一で良好な外観を有する優れたコーティング被膜を、高い施工技術を要することなく容易に形成することができる。
被膜の形成(工程2)
本発明によるコーティング被膜形成方法においては、次いで、工程1で形成された液膜を乾燥させて被膜を形成する。被膜は、液膜が有する微細な凹凸形状が維持されるように当該液膜を乾燥させて形成される。つまり、液膜が有する微細な凹凸形状を維持したまま液膜を乾燥して、被膜を形成する。このように形成された被膜は、その後もこの凹凸形状を維持する。すなわち、液膜が有する微細な凹凸形状は、乾燥途中の液膜、さらには乾燥後の被膜に維持される。この形状の維持が、良好なコーティング被膜の形成に寄与する。微細な凹凸形状が維持される作用機序として、以下の現象が生じるものと考えられる。
例えば、図2(a)に示すように、液膜101が乾燥している間、微細な凹凸形状に含まれる凸部101aの高さが分散媒の蒸発に伴い小さくなることを除き、液膜101が有する微細な凹凸形状がほとんど変化しない現象が生じるものと考えられる。すなわち、乾燥前の微細な凹凸形状(101a、101b)と、乾燥後の微細な凹凸形状(102a、102b)とを2次元(平面)的に対比した場合、両者における凸部(101a、102a)および凹部(101b、102b)の位置がほとんど変化していない現象である。また、凸部101aが流動せず(縦方向および/または横方向に濡れ広がらず)、元の凸部101aの形状、および基材表面における位置が変化することがほとんど無い現象が生じるものと考えられる。さらに、凸部101aが流動せず、隣接する凸部101aと接触し、元の凸部101aの形状、基材表面における位置、基材表面に存在する凸部101aの数(密度)が変化することがほとんど無い現象が生じるものと考えられる。このように、工程2では、液膜101の微細な凹凸形状が反映された微細な凹凸形状を有する被膜102が形成される。
被膜
本発明において、被膜102とは、液膜101が乾燥した後の状態の膜を指す。被膜102においては、液膜101が有していた微細な凹凸形状が維持されている。従って、被膜102においては、塗りムラ等の外観不良が視認されにくい。また、タレ等の不具合の発生も抑制される。液膜101が有していた微細な凹凸形状が維持された状態の、被膜102の形状は、微細な網目状、鱗状が好ましく、鱗状がより好ましい。
図3に示すように、施工現場では、例えばローラー10などの手段を用いて水系コーティング組成物を基材の表面に適用して液膜101を形成する。例えば、ローラー10を基材の表面に押し付けて染み出させた水系コーティング組成物を、ローラーで塗り広げて液膜を形成する。このとき、ローラーの材質、水系コーティング組成物の物性などの諸条件に応じて、厚さが大きい凸部(例えば凸部101a)と、厚さが小さい凹部(例えば凹部101b)とからなる凹凸形状を有する液膜が形成される。
水系コーティング組成物は、一般に、基材に適用された後、その表面に濡れ広がって、均一な液膜、被膜が形成されるように、レベリング性が高いものが好適に用いられる。本発明者らの行った実験によればり、以下の現象が確認された。すなわち、このようにレベリング性の高い水系コーティング組成物を基材に適用して、図2(b)に示すような、厚さ及び直径が大きい凸部201aを含む液膜201を形成した場合、基材に適用した後、凹部201b方向に濡れ広がろうとする力が生じて、乾燥時に、例えば、隣接する2つの凸部201a同士が結合して被膜202に大きな凸部202aが不均一に形成される。ここで、凸部202aが不均一に形成されるとは、凸部202a自体の大きさが不均一であること、および、凸部202aの被膜202内における配置が不均一であること、の両方を意味する。この不均一に形成された凸部202aが塗りムラ等の外観不良として視認される。
さらに、図2(b)に示すように、微細でなく、また不規則な凹凸形状を有する液膜201にあっては、乾燥時、凸部201aが濡れ広がって、隣接する2つの凸部201a同士が結合して、新たな凸部202aを有する被膜202が形成される。また、凸部201aに含まれる液が濡れ広がることで、被膜202において液膜201の凹部201bとは異なる位置にフラットな凹部202bが形成され、凸部202aの高さが相対的に大きくなる。また、凸部202aの被膜202中での配置も不規則となる。さらに、液膜201は不均一に濡れ広がるため、凸部202aの高さのばらつきが大きくなる。これらの現象は、被膜202において塗りムラ等の外観不良として視認される。
これに対し、本発明によれば、上述した現象の発生は抑制される。例えば、本発明にあっては、水系コーティング組成物によって微細な凹凸形状(101a、101b)を有する液膜101を形成し、かつ、凸部101aが、適用後、凹部101b方向に濡れ広がらないように工夫している。従って、液膜101において、乾燥時、隣接する2つの凸部101a同士が結合することが抑制される。よって、液膜101の有する微細な凹凸形状が、乾燥途中の液膜及び乾燥後の被膜に維持される。このように形成された被膜102が有する微細な凹凸形状はほとんど視認されることがないため、被膜102は良好な外観を有する。
本発明において、被膜102の厚さは、例えば10nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上150nm以下であることがより好ましい。被膜の厚さが10nm以上であることにより、被膜が光触媒を含む場合、光触媒の効果が十分に発揮される。被膜の厚さが200nm以下であることにより、液膜101に厚い凸部101aが均一に形成された場合であっても、被膜の塗りムラが視認され難い。また、被膜の透明性に優れる。
本発明によるコーティング被膜の形成方法について、図4〜図6を参照しつつさらに説明する。図4(a)は、本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された液膜の写真である。図4(b)は、図4(a)に示す液膜が乾燥して形成された被膜の写真である。図5(a)は、本発明によるコーティング被膜形成方法により形成された別の液膜の写真である。図5(b)は、図5(a)に示す液膜が乾燥して形成された被膜の写真である。図6(a)は、本発明に属さないコーティング被膜形成方法により形成された液膜の写真である。図6(b)は、図6(a)に示す液膜が乾燥して形成された被膜の写真である。なお、写真中央に位置する黒いしるしは、写真撮影時のピント調整のためのしるしである。
図4(a)に示すように、液膜101は、その表面を観察した場合に、鱗状の微細な凹凸形状を有している。そして図4(b)に示すように、この液膜101を乾燥させて形成した被膜102も、同様に鱗状の微細な凹凸形状を有している。すなわち、図4(a)(b)に示すように、本発明によるコーティング被膜の形成方法においては、液膜101に設けた微細な凹凸形状が維持された被膜102を形成することができる。鱗状の微細な凹凸を有する被膜102においては、塗りムラ等が視認されず、優れた外観を有している。
図5(a)に示すように、液膜101は、その表面を観察した場合に、網目状の微細な凹凸形状を有している。そして図5(b)に示すように、この液膜101を乾燥させて形成した被膜102も、同様に網目状の微細な凹凸形状を有している。すなわち、図5(a)(b)に示すように、本発明によるコーティング被膜の形成方法においては、液膜101に設けた微細な凹凸形状が維持された被膜102を形成することができる。網目状の微細な凹凸を有する被膜102においても、塗りムラ等が視認されにくく、優れた外観を有している。
なお、図5に示す被膜102においては、隣接する凸部同士の一部が結合している場合もあるが、全体としては、液膜101の微細な凹凸形状が被膜102においても維持されており、被膜102は優れた外観を有している。また、図5に示す液膜101において、凸部101aが、例えば図4(a)に示す液膜101の場合と比べて大きいため、白っぽく見えている。この図5に示す凸部は、液膜101内に均一に配置されており、また凹部の厚さと凸部の厚さとの相対的な差が小さいため、被膜102においても塗りムラとして視認されにくい。
これに対して、図6(a)に示すように、液膜201は、その表面を観察した場合に、微細な凹凸形状を有しておらず、凹部の厚さと凸部の厚さとの相対的な差が大きい。また、液膜の厚い部分(凸部201a)が不規則に配置されている。そして図6(b)に示すように、この液膜201を乾燥させて形成した被膜202には、例えば、液膜の凸部201aとは異なる位置に、大きな凸部202aが不規則に形成されている。図6(a)(b)を比べると、本発明に属さないコーティング被膜の形成方法において形成された場合には、液膜201が乾燥する際に、液の移動が生じてしまい、液膜201と被膜202とで、その表面の形状が変化してしまうことがわかる。また、この変化が均一ではなく不均一に生じるために、被膜202においては、塗りムラが視認されてしまう。
液膜の乾燥方法は自然乾燥でも良いし、加熱、気流、減圧等の方法で乾燥を促進しても良い。本発明において、液膜の乾燥時間は短い方が好ましい。より好ましい乾燥時間は概ね10秒以上5分以内である。乾燥時間の下限を10秒以上、つまり短過ぎない時間にすることにより、水系コーティング組成物を基材表面に適用している間に液膜が乾燥してしまうのを防ぐことが可能となり、その結果、液膜が有する微細な凹凸形状が維持されたままの均一または均質な被膜を形成することができる。さらにより好ましい乾燥時間は、概ね10秒以上2分以内である。
被膜の表面形状
本発明の好ましい態様によれば、本発明による方法により得られる被膜が有する微細な凹凸形状は、等方性を有する。「等方性を有する」とは、コーティング被膜において、被膜表面に沿った任意の方向で、つまり塗装方向(例えば、縦方向および横方向)によらずに微細な凹凸形状が形成され、筋状模様などが視認されない状態を意味する。これらの状態は、例えば、被膜表面を目視により観察することができる。また、後記するデジタルホログラフィック顕微鏡解析によって得られるピークに関する測定値が、被膜表面に沿った任意の方向(例えば、縦方向および横方向)において、有意差がないことをもって確認することができる。
上記態様においては、コーティング被膜の表面形状が等方性を有することに加えて、被膜の表面形状をデジタルホログラフィック顕微鏡で観察して得られたプロファイルを処理して計測したとき、被膜表面の凹凸形状が、300μm以上500μm以下の平均ピーク幅、かつ、単位長さ2.5mmにおいて4個以上8個以下の平均ピーク個数をさらに有する。このような表面形状を有する被膜においては、複数の凸部および複数の凹部は、微細であり、かつ、基材表面全体に亘って均一または規則正しく存在している。
デジタルホログラフィック顕微鏡は、コーティング被膜の表面形状を非常に微細なレベルで3次元解析できる装置である。本発明においては、デジタルホログラフィック顕微鏡を用いて得られる測定データをプロファイリングし、ピーク(凸部)の幅、単位長さあたりのピークの個数、被膜厚に対するピーク高さの割合という3つのパラメータを導き出し、これらをコーティング被膜の表面形状の指標とすることにより、微細な凹凸形状の数値化を実現している。3つの指標のうち、ピーク(凸部)の幅、および単位長さあたりのピークの個数は、コーティング被膜の表面形状の均一性または規則性を2次元的に可視化することを可能とするものである。これら2つの指標に加えて、被膜厚に対するピーク高さの割合を考慮することで、コーティング被膜の表面形状の均一性または規則性を3次元的に可視化することが可能となる。
デジタルホログラフィック顕微鏡を用い、例えば以下のような手法で、コーティング被膜の表面形状のピーク(凸部)の幅、単位長さあたりのピークの個数、被膜厚に対するピーク高さの割合を求めることができる。
コーティング被膜において、所定の方向へ所定の長さ、例えば10mm分の表面形状プロファイルを測定する。1ショットで1×1mmの視野の撮影が最大であるため、1ショット毎に0.8mmずつ視野をずらしながら13ショットの撮影を実施する。得られた13個の2次元の表面形状プロファイル(x、y、高さのデータ)を基に、1次元のプロファイル(x、高さのデータ)を抽出する。13個のプロファイルを統合するため、各プロファイルのベースライン、ドリフト、位置の補正を行い、1本のプロファイルに統合する。その際、重なり部分は2つのプロファイルデータの平均値とする。得られたプロファイルのノイズを除去するため100点移動平均をとる。このような手順で得られた位置対高さのデータから以下の手法でピーク幅、単位長さあたりのピーク個数、ピーク高さを計測する。
・ピーク幅:ピークの両側にある2つの極小部分(谷)の間の距離を計測する。
・ピーク個数:プロファイルを、例えば0〜2500μm、2500〜5000μm、5000〜7500μm、7500〜10000μmの4つの領域に区切り、各領域にあるピークの個数を計測する。
・ピーク高さ:ピーク幅を求めた際の2つの極小部を結ぶ直線を描き、ピークの頂点から垂線を引いてピークから直線までの距離(ピーク高さ)を求める。この距離の被膜の厚さに対する割合を計測する。被膜の厚さは例えば以下の方法で求められる。サンプルの被膜にカッターナイフで切り込みを入れ、基材表面まで到達する傷を形成する。この傷の部分をデジタルホログラフィック顕微鏡で測定し、被膜表面と基材表面の高低差から被膜の厚さを求める。
本発明の好ましい態様によれば、コーティング被膜の微細な凹凸形状の、コーティング被膜の表面形状をデジタルホログラフィック顕微鏡で観察して得られたプロファイルを処理して計測された、被膜の厚さに対するピーク高さの割合が10%以下である。このような表面形状を有する被膜は、被膜が光触媒を含む場合、光触媒の効果が十分に発揮される。また、被膜に厚さが厚い凸部が均一に形成された場合であっても、塗りムラなどの外観不良が視認され難い。また、被膜の透明性に優れる。
次に、本発明によるコーティング被膜の形成方法に用いる水系コーティング組成物について説明する。
水系コーティング組成物
<粘度>
水系コーティング組成物の粘度は、例えば、当該組成物と組み合わせて用いられるスポンジローラーの性質に応じて適宜選択することができる。組合せの詳細については後述する。本発明の好ましい態様によれば、水系コーティング組成物の粘度は4.5mPa・s以上である。水系コーティング組成物の粘度の下限を4.5mPa・s以上、つまり粘度が小さくなり過ぎないように調整することにより、水系コーティング組成物からなる凸部101aが基材の表面に濡れ広がるのを抑制することができ、その結果、微細な凹凸形状を有する液膜101を形成することができる。また、被膜の形成(液膜の乾燥)工程において、凸部101aを形成する水系コーティング組成物の移動、すなわち凸部101aの流動を抑制することが可能となり、微細な凹凸形状を維持したまま液膜101を乾燥させることができる。その結果、被膜102に塗りムラ等の外観不良が視認されるのを抑制することができる。
本発明の好ましい態様によれば、水系コーティング組成物の粘度は、3000mPa・sよりも小さい。水系コーティング組成物の粘度の上限をこの範囲に調整することにより、水系コーティング組成物の塗装性の低下を抑制することができる。また、後述するように、例えば、気孔径が小さいスポンジローラーを用いる場合には、水系コーティング組成物の粘度を1000mPa・s以下、より好ましくは200mPa・s以下に小さくすることで、より確実に被膜に塗りムラ等が視認されることを抑制でき好ましい。水系コーティング組成物の粘度は、例えば、後述する増粘剤を用いて調整することができる。
水系コーティング組成物の粘度は、例えば、B型粘度計(例えば、東機産業(株)製、TV−10)、または、レオメーター(例えば、Thermo Scientific社製、HAAKE MARSII)を用いて測定することができる。B型粘度計の測定条件は、ローターの回転数を6rpm、測定温度を25℃とする。ローターは、試料の粘度が100mPa・s未満の場合はLアダプターを、100mPa・s以上1000mPa・s未満の場合はM1ローターを、1000mPa・s以上5000mPa・s未満の場合はM2ローターを使用する。レオメーターの測定条件は、温度25℃とする。センサーは、コーンプレート(φ60mm、1°)を使用する。
<表面張力>
水系コーティング組成物の表面張力は、例えば、これと組み合わせて用いられるスポンジローラーの性質に応じて適宜選択することができる。組合せの詳細については後述する。本発明の好ましい態様によれば、水系コーティング組成物の表面張力は25mN/mより大きく72mN/m以下である。水系コーティング組成物の表面張力の下限を25mN/mより大きく、つまり表面張力が小さくなり過ぎないように調整することにより、水系コーティング組成物からなる凸部101aが基材の表面に濡れ広がるのを抑制することができ、その結果、微細な凹凸形状を有する液膜101を形成することができる。また、後述する被膜の形成(液膜の乾燥)工程において、液膜101が有する微細な凹凸形状に含まれる隣接する凸部101a同士が接触または結合するのを抑制することが可能となり、微細な凹凸形状を維持したまま液膜101を乾燥させることができる。その結果、被膜102に塗りムラ等の外観不良が視認されるのを抑制することができる。水系コーティング組成物の表面張力の上限を72mN/m以下に調整することにより、基材に対する水系コーティング組成物の濡れ性の低下、ひいては塗装性の低下を抑制することができる。水系コーティング組成物の表面張力は、例えば、後述する界面活性剤を用いて調整することができる。
水系コーティング組成物の表面張力は、公知の方法により測定することができる。測定方法としては、例えば、プレート法(Wilhelmy法)、リング法(du Nouy法)、懸滴法、最大泡圧法等が挙げられる。本発明においては、水系コーティング組成物の表面張力は、最大泡圧法を用いて測定される。具体的な方法のひとつとして、最大泡圧法による表面張力測定装置である英弘精機製のSITA t60を用い、気泡寿命30〜20,000msで動的表面張力を測定し、20,000msのときの値を表面張力(静的表面張力に準ずる値)として記録する。
<成分>
本発明に用いられる水系コーティング組成物は、機能性粒子と、水を主として含む分散媒とを少なくとも含む。機能性粒子としては、光触媒粒子を好ましく用いることができる。
(光触媒粒子)
水系コーティング組成物に含まれる光触媒粒子は、好ましくは、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウムから選ばれる少なくとも1種の光触媒粒子である。これらの中で、アナターゼ型酸化チタンは光触媒活性および親水化効果が高く、好適に用いることができる。これらの光触媒粒子として、窒素等の元素をドープしたり銅や鉄の化合物を表面に担持したりして可視光応答性を高めた光触媒粒子を利用することもできる。
光触媒粒子の粒子径は1nm以上50nm以下の範囲が好適であり、5nm以上20nm以下の範囲がより好適である。粒子径が1nm以上、より好ましくは5nm以上であることにより、光触媒活性と親水化性能を十分に発揮することができる。粒子径が50nm以下、より好ましくは20nm以下であることにより、可視光の散乱が起こりにくいため、透明性に優れた被膜を得ることができる。ここで、粒子径は、被膜の破断面を、走査型電子顕微鏡により20万倍で観察した100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出される。観察される粒子の形状が略円形の場合、粒子の長さとは粒子の直径を意味する。観察される粒子の形状が非円形の場合、粒子の長さは((長径+短径)/2)として略算出される。
光触媒粒子の濃度は、0.05質量%以上5質量%以下の範囲が好適であり、0.1質量%以上1質量%以下の範囲がより好適である。この範囲で光触媒粒子を含むことにより、光触媒活性と親水化性能が十分に発揮できるとともに、被膜が厚くなりすぎることを防ぎ、良好な透明性を得ることができる。
(分散媒)
水系コーティング組成物に含まれる分散媒は水を主として含む。ここで、「水を主として含む分散媒」とは、水を60質量%以上100質量%以下、好適には水を80質量%以上100質量%以下含むものである。水と水以外の有機溶媒とを混合してなる混合溶媒を用いる場合、有機溶媒は水に可溶性のものが好適に利用できる。
水に可溶性の有機溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等が好ましく挙げられる。本発明においては、これらの群から選択される少なくとも1種の有機溶媒を使用することができる。
水系コーティング組成物は、固形分濃度が0.1質量%以上10質量%以下となるように、前記分散媒を含有することが好ましい。このような範囲で分散媒を含むことにより、透明で外観に優れた被膜を得ることができる。
前記分散媒のpHは6以下または8以上であることが好ましい。この範囲のpHは、光触媒粒子または後述する無機酸化物微粒子の等電点から十分に離れているため、光触媒粒子または無機酸化物粒子が安定して分散することができる。その結果、凝集粒の生成を抑制することができ、透明で外観に優れた被膜を得ることができる。
(増粘剤)
本発明において、水系コーティング組成物は増粘剤を含んでいてもよい。増粘剤を含むことにより、水系コーティング組成物の粘度を所望の範囲に調整することができる。本発明において、コーティング組成物の粘度は5mPa・sよりも大きいことが好ましい。
本発明において、水系コーティング組成物に含まれる増粘剤としては、水に対する溶解性または分散性が極度に低い物質を除き、通常増粘剤として用いられる種々の物質を用いることができる。増粘剤の例としては、水溶性又は水分散性増粘剤が挙げられる。このような増粘剤を含むことにより、水系コーティング組成物を目的の粘度に調整することが可能となり、また凝集物を生じてコーティング被膜の外観が悪化するのを防止することができる。水溶性増粘剤の例としては、キサンタンガム、ウェランガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、ダイユータンガム、グァーガム等の増粘多糖類、好ましくは、ウェランガム、ダイユータンガム等の主鎖にグルクロン酸および/またはラムノースを含む増粘多糖類;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の合成水溶性高分子;デキストリン、ペクチン、ゼラチン等の天然水溶性高分子;アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸誘導体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体が挙げられる。これらの水溶性増粘剤としては、サチアキサン(カーギル)(キサンタンガム)、ウェランガム(三晶(株))(ウェランガム)、アラビックコール(三栄薬品貿易(株))(アラビアガム)、ゲニュガム(CPケルコ)(ローカストビーンガム)、ケルコクリート(CPケルコ)(ダイユータンガム)、メイプロドール(デュポン)(グァーガム)、アロン(東亞合成(株))(ポリアクリル酸ナトリウム)、ポリビニルピロリドン(日本触媒(株))(ポリビニルピロリドン)等の商品名で市販されているものを使用することができる。水分散性増粘剤の例としては、合成ヘクトライト、合成サポナイト等のスメクタイト系粘土鉱物が挙げられる。これらの水分散性増粘剤としては、ラポナイトRD、ラポナイトB(ロックウッド)、ルーセンタイト(コープケミカル(株))、スメクトンSA(クニミネ工業(株))等の商品名で市販されているものを使用することができる。これらの増粘剤は単独で使用しても良いし、二種類以上を混合して使用しても良い。
本発明において、増粘剤の添加量は、好ましくは、水系コーティング組成物の粘度を4.5mPa・s以上に大きい値に調整可能な量であればよく、増粘剤の種類等を考慮しつつ適宜決定される。例えば、増粘剤として、ダイユータンガム(ケルコクリートDG(CPケルコ))を用いる場合、水系コーティング組成物の粘度を所望の範囲に調整するために、増粘剤の添加量は0.01質量%以上0.25質量%以下が好ましい。
(界面活性剤)
本発明において、水系コーティング組成物は界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤を含むことにより、水系コーティング組成物の表面張力を所望の範囲に調整することができる。本発明の好ましい態様によれば、水系コーティング組成物の表面張力は、25mN/mより大きく72mN/m以下の範囲である。
表面張力を所望の範囲に調整することにより、水系コーティング組成物の基材表面に対する濡れ性を向上させ、液膜101を基材表面に均一に形成することが可能となる。さらに、液膜101からの分散媒の蒸発が均一になり、液膜101が有する微細な凹凸形状を維持したまま被膜102を形成することが可能となる。本発明において用いられる界面活性剤は、分散媒の主成分である水への溶解度が高く、表面張力の低減効果が高い物質であることが好ましい。表面張力の低減効果が高い界面活性剤を用いることにより、ごく少量の添加で水系コーティング組成物の表面張力を所望の範囲に調整することができ、その結果、被膜102の耐久性を向上させることができる。また、界面活性剤は、泡が立ちにくい物質であることが好ましい。気泡を含む水系コーティング組成物を用いると、液膜101に気泡が生じ、その痕跡が被膜102に残るが、低泡性界面活性剤を用いることにより、残留気泡によるコーティング被膜の外観の悪化を防止することができる。このような界面活性剤の好ましい例として、アセチレンジオール系の界面活性剤や、ポリエーテル変性シリコーン系の界面活性剤が挙げられる。
本発明において、界面活性剤の添加量は、水系コーティング組成物の表面張力を25mN/mより大きく72mN/m以下の範囲に調整可能な量であればよく、界面活性剤の種類等を考慮しつつ適宜決定される。例えば、界面活性剤として、アセチレンジオール系の界面活性剤や、ポリエーテル変性シリコーン系の界面活性剤を用いる場合、水系コーティング組成物の表面張力を所望の範囲に調整するために、界面活性剤の添加量は0.01質量%以上0.5質量%以下が好ましい。これにより、水系コーティング組成物の表面張力を低下させ過ぎることを防止することができ、その結果、微細な凹凸形状を有する液膜101およびコーティング被膜102を形成することができる。
(無機酸化物粒子)
本発明において、水系コーティング組成物は無機酸化物微粒子を含んでいてもよい。無機酸化物微粒子としては、バインダーとして機能するものであって透明な被膜を形成可能なものを好適に用いることができる。材料としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化セリウム等から選ばれる少なくとも1種の、上記光触媒粒子とは異なる、酸化物の微粒子が好ましく挙げられる。これらの中で、酸化ケイ素の微粒子はバインダーとして優れているため、被膜の基材への密着性が強く、特に好ましい。
無機酸化物微粒子の粒子径は50nm以下が好適である。粒子径がこの範囲であることにより、可視光の散乱が起こりにくく、透明性に優れた被膜を得ることができる。更に、粒子径が20nm以下であると、バインダーとしての効果が高くなり、被膜の密着性に優れる。ここで、粒子径は、被膜の破断面を、走査型電子顕微鏡により20万倍で観察した100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出される。観察される粒子の形状が略円形の場合、粒子の長さとは粒子の直径を意味する。観察される粒子の形状が非円形の場合、粒子の長さは((長径+短径)/2)として略算出される。
無機酸化物微粒子の濃度は、0.05質量%以上5質量%以下の範囲が好適であり、0.1質量%以上1質量%以下の範囲がより好適である。この範囲で無機酸化物粒子を含むことにより、バインダーとしての効果を十分に発揮できるとともに、被膜が厚くなりすぎることを防ぎ、良好な透明性を得ることができる。
水系コーティング組成物の基材への適用
<適用手段>
本発明の好ましい態様によれば、水系コーティング組成物は、例えば、ローラーを用いて基材に適用される。ローラーの材質は、スポンジであることが好ましい。
(スポンジローラー)
本発明において、スポンジローラーのスポンジは湿式スポンジであることが好ましい。湿式スポンジにあっては、例えば水溶性塩の微粒子(気孔生成剤)を練り込んだ原料樹脂を硬化させ、その後塩を洗い流すことにより多孔質構造が形成される。従って、湿式発泡では、小さい微粒子を用いることにより、気孔径の小さいスポンジを容易に形成することができる。これに対し、乾式スポンジにあっては、発泡剤または重合過程で発生するガスを利用して原料樹脂(例えばウレタン)を発泡させることにより多孔質構造が形成される。従って、乾式発泡では、気孔径の小さいスポンジを形成することは困難である。
連続気孔
本発明の好ましい態様によれば、スポンジローラーは連続気孔を有する。連続気孔とは、隣接する気孔同士の少なくとも一部がつながっている状態を指す。ここで、隣接するとは、2次元だけでなく3次元的に隣り合って接して設けられる態様を言う。
平均気孔径
本発明の好ましい態様によれば、適用する水系コーティング組成物の粘度、表面張力等の液性状などにもよるが、スポンジローラーが有する連続気孔の平均気孔径は、例えば、30μm以上150μm以下である。より好ましくは100μm未満、さらにより好ましくは50μm以下である。スポンジローラーの平均気孔径が小さく、この範囲にあることで、微細な凹凸形状を有する液膜101を形成することができる。平均気孔径とは、連続気孔を構成する個々の気孔の径の平均径をいう。平均気孔径は、例えば以下の方法により測定される。即ち、100倍の倍率でスポンジローラーの走査電子顕微鏡写真を撮影し、走査電子顕微鏡画像の対角に長さ(l)の線を2本引き、それぞれの線を横切る気孔数(n)を数える。平均気孔径(μm)を、2l/nとして算出する。
本発明において、水系コーティング組成物の粘度が低い場合には、気孔径が小さいスポンジローラーを用いることが好ましい。このように、組成物とスポンジローラーとの組合せをうまく工夫することで、微細な凹凸形状を有する均一または均質な液膜及び被膜を形成することができる。
本発明において、気孔径が小さいスポンジローラーを用いる場合には、表面張力が小さい水系コーティング組成物を用いることが好ましい。
なお、スポンジローラーと組み合わせる水性コーティング組成物の性状(粘度、表面張力など)や、スポンジローラーの気孔径だけでなく、後述するスポンジローラーのバブルポイント径、エタノール透過時間も合わせて考慮することが好ましい。
エタノール透過時間
本発明の好ましい態様によれば、スポンジローラーのエタノール透過時間が20秒以上270秒以下である。エタノール透過時間はスポンジローラーの性能の一指標であり、例えば、スポンジローラーの吸水性能を表している。エタノール透過時間は、例えば以下の方法により測定される。即ち、内径17.4mmのガラス管を垂直に設置し、その下端部に直径6.8mmの穴の空いた板をガラス管の断面と穴が同心円となるように取り付ける。更に、厚さ2mmにカットしたスポンジを板の穴を塞ぐように密着させる。ガラス管に深さ100mm(23.7ml)のエタノールを注ぎ、スポンジを通して完全に排出されるまでの時間を計測する。本発明において、スポンジローラーのエタノール透過時間は、より好ましくは27秒以上261秒以下、さらにより好ましくは70秒以上261秒以下、特に好ましくは150秒以上261秒以下である。
バブルポイント径
本発明の好ましい態様によれば、スポンジローラーのバブルポイント径は、例えば、42μm以下である。バブルポイント径はスポンジローラーの性能の一指標であり、例えば、スポンジローラーの吸水性能を表している。バブルポイント径とは、ASTM F316−03およびJIS K 3832に規定される手法(バブルポイント法)により測定される最大気孔径である。即ち、スポンジを試験液に浸漬して下側から空気の圧力を上げていき、ある圧力に達した時に最初に最大孔径の孔から気泡が発生する。この時の圧力(P:バブルポイント圧)を用いて、下記式から最大孔径(D)が求められる。試験液としては例えばエタノールを用いることができる。本発明において、スポンジローラーのバブルポイント径は、より好ましくは26μm以下、さらにより好ましくは16.5μm以下である。
D=4γcosθ/P
(式中、D:最大気孔径(m)、γ:試験液の表面張力(N/m)、θ:スポンジと試験液の接触角(rad)、P:バブルポイント圧(Pa)を表す)
吸水速度
本発明の好ましい態様によれば、スポンジローラーの吸水速度が1分以下である。吸水速度はスポンジローラーの性能の一指標である。吸水速度は、例えばJIS L1907「繊維製品の吸水性試験方法」7.1.1滴下法を参考に測定される。即ち、水滴(0.04mL)1滴を10mmの高さから試験片の表面に滴下し、水滴が試験片の表面に達したときから、試験片が水滴を吸収するにつれて鏡面反射が消え、湿潤だけが残った状態までの時間を計測する。尚、JIS L1907では、200mm×200mmの試験片を用いる測定が規定されているが、本明細書では、試験片としてローラーの円柱状の外周面を用いる。本発明において、スポンジローラーの吸水速度は、好ましくは30秒以下、より好ましくは5秒以下、さらにより好ましくは1秒以下である。
本発明の好ましい態様によれば、スポンジローラーは、連続気孔、平均気孔径、バブルポイント径、エタノール透過時間、および吸水速度からなる群から選択される少なくとも1つ以上の性能を有するものである。本発明のより好ましい態様によれば、スポンジローラーは、連続気孔を有し、さらに平均気孔径、バブルポイント径、エタノール透過時間、および吸水速度からなる群から選択される少なくとも1つ以上の性能を有する吸液性に優れたものである。このような性能を有するスポンジローラーを用いることにより、微細な凹凸形状を有する液膜101をより確実に形成することができる。例えば、スポンジローラーは、連続気孔を有し、その平均気孔径が30μm以上150μm以下であり、かつエタノール透過時間が20秒以上270秒以下であるものであることが好ましい。
また、スポンジローラーは、連続気孔を有し、その平均気孔径が30μm以上100μm以下であることが好ましい。また、スポンジローラーは、連続気孔を有し、その気孔径が30μm以上50μm以下、かつ、バブルポイント径が16.5μm以下、であるものであることが好ましい。
本発明において用いられる水系コーティング組成物とスポンジローラーの好ましい組合せは、例えば、粘度が4.5mPa・s以上3000mPa・s未満である水系コーティング組成物と、連続気孔を有し、平均気孔径が30μm以上150μm以下であり、エタノール透過時間が20秒以上270秒以下であるスポンジローラーとの組合せである。
本発明において用いられる水系コーティング組成物とスポンジローラーの好ましい組合せは、例えば、表面張力が25mN/mより大きく72mN/m以下である水系コーティング組成物と、連続気孔を有し、平均気孔径が30μm以上150μm以下であり、エタノール透過時間が20秒以上270秒以下であるスポンジローラーとの組合せである。
<適用量>
本発明の好ましい態様によれば、液膜形成工程において、基材の表面に適用される水系コーティング組成物の1回あたりの適用量は、用いられるスポンジローラー及び水系コーティング組成物の表面張力、粘度等にもよるが、2g/m以上15g/m以下である。1回あたりの適用量をこの範囲とすることにより、微細な凹凸形状を有する液膜101を形成することができる。1回あたりの適用量の下限を2g/m以上とすることにより、基材表面全体に水系コーティング組成物を行きわたらせることができ、かすれを生ずることなく、均一に適用することができる。1回あたりの適用量の上限を15g/m以下とすることにより、液溜り、すなわち大きな凸部201aを有する液膜201が形成されるのを抑制することができる。つまり、液膜形成時に、凸部から凹部への液の移動を抑制することができ、その結果、隣接する凸部同士が接触または結合してしまうのを抑制することができる。その結果、被膜に、塗りムラとして視認される大きな凸部202aが形成されることがなく、外観不良が視認されない良好な被膜102を形成することができる。より好ましい1回あたりの適用量は、3g/m以上10g/m以下であり、さらにより好ましい1回あたりの適用量は5g/m以上7g/m以下である。例えば、気孔径が大きいスポンジローラーを用い、粘度が高い水系コーティング組成物を適用する場合には、塗着量を10g/mよりも小さくすることが好ましい。
<適用方法>
本発明の好ましい態様によれば、図3に示すように、スポンジローラー10を回転させながら水系コーティング組成物を基材の表面に適用して液膜101を形成する。これにより、ローラー面が基材表面に対して滑らないように水系コーティング組成物を適用することができる。微細な凹凸(101aおよび101b)は、スポンジの気孔に起因して形成されるが、ストップローラーのように、ローラーの回転を止めて水系コーティング組成物を適用した場合、基材表面に形成された凹凸が、ローラーの移動によって引き伸ばされてしまい、これが筋状の塗りムラとして視認されてしまう。ローラーを回転させることにより、スポンジローラーの上述した各種性能に起因して、水系コーティング組成物の染み出し(図3の矢印Aout)と、既に基材表面に適用された余分な水系コーティング組成物の吸い取り(図3の矢印Ain)とを適切なバランスで行うことができ、微細な凹凸形状を有する液膜101を形成することができる。
基材
本発明において、水系コーティング組成物を適用可能な好ましい基材としては、ガラス、タイル等窯業系無機材料、PMMA、ポリカーボネート等樹脂材料、金属材料、およびそれらの基材表面に形成された有機塗装面が挙げられる。
<基材の前処理>
本発明において、水系コーティング組成物のハジキによる製膜不良を防止する目的で、例えばセリ粉洗浄などの方法で基材を予め洗浄してもよい。なお、基材表面の濡れ性を確保するための十分な洗浄は必ずしも必要でない。
機能材
本発明による機能材は、基材と、当該基材の表面に形成されたコーティング被膜とを備えてなり、前記コーティング被膜が複数の凸部および複数の凹部を含む微細な凹凸形状を有するものである。被膜の微細な凹凸形状は、被膜の表面(X−Y平面)を2次元的に観察した場合に、微細な網目状、鱗状であることが好ましく、鱗状であることがより好ましい。「微細な凹凸形状」、「網目状の微細な凹凸形状」、「鱗状の微細な凹凸形状」については先に説明したとおりである。
本発明の好ましい態様によれば、コーティング被膜が有する微細な凹凸形状は等方性を有する。「等方性」については先に述べたとおりである。
上記態様においては、コーティング被膜の表面形状が等方性を有することに加えて、被膜の表面形状をデジタルホログラフィック顕微鏡で観察して得られたプロファイルを処理して計測したとき、微細な凹凸形状が、300μm以上500μm以下の平均ピーク幅、かつ、単位長さ2.5mmにおいて4個以上8個以下の平均ピーク個数をさらに有する。このような表面形状を有する被膜においては、複数の凸部および複数の凹部は、微細であり、かつ、基材表面全体に亘って均一または規則正しく存在している。
デジタルホログラフィック顕微鏡、これを用いて得られる表面形状プロファイルのピーク幅、単位長さあたりのピーク個数、被膜厚に対するピーク高さの割合については先に説明したとおりである。
本発明の好ましい態様によれば、コーティング被膜の微細な凹凸形状の、コーティング被膜の表面形状をデジタルホログラフィック顕微鏡で観察して得られたプロファイルを処理して計測された、被膜の厚さに対するピーク高さの割合が10%以下である。このような表面形状を有する被膜は、塗りムラ、塗筋などの外観不良が視認されることのない、均一な膜である。
水系コーティング組成物の調製
<原材料>
・光触媒粒子1:アナターゼ型酸化チタン微粒子を含む弱塩基性の水分散液、粒子径20nm
・光触媒粒子2:アナターゼ型酸化チタン微粒子を含む弱塩基性の水分散液、粒子径30〜60nm
・無機酸化物粒子1:シリカ微粒子を含む塩基性の水分散液、粒子径8〜11nm
・無機酸化物粒子2:シリカ微粒子を含む塩基性の水分散液、粒子径4〜6nm
・界面活性剤1
・界面活性剤2
・界面活性剤3
・増粘剤1:ダイユータンガム
表1に示す種類の光触媒粒子、無機酸化物粒子、界面活性剤、増粘剤および水を、表1に示す濃度(質量%)で含む水系コーティング組成物1〜11を調製した。
水系コーティング組成物1〜11の表面張力および粘度は表2に示すとおりであった。表面張力は以下のように測定した。最大泡圧法による表面張力測定装置であるSITA t60(英弘精機製)を用い、気泡寿命30〜20,000msで動的表面張力を測定し、20,000msのときの値を表面張力(静的表面張力に準ずる値)とした。粘度は、B型粘度計(東機産業(株)製、TV−10)またはレオメーター(Thermo Scientific社製、HAAKE MARSII)を用いて測定した。B型粘度計では、回転数6rpm、温度25℃の条件とした。測定の際に使用したローターは、試料の粘度が100mPa・s未満の場合はLアダプターを、100mPa・s以上1000mPa・s未満の場合はM1ローターを、1000mPa・s以上5000mPa・s未満の場合はM2ローターを使用した。レオメーターでは、温度25℃の条件とし、センサーはコーンプレート(φ60mm、1°)を使用した。
コーティング被膜の形成
<基材の用意>
以下の試験1〜試験7では、基材としてソーダライムガラス(200×200×2t(mm))を用意した。次いで、酸化セリウム粉を含む研磨剤でガラス表面を洗浄し、ガラス表面を親水性にした。その後、ガラス表面をイオン交換水でよくすすぎ、自然乾燥させた。試験8では、基材として外壁材の有機塗装体を用いた。試験9では、基材としてフロートガラス基板(並ガラス)(100×200×2t(mm))を用意し、試験1〜7の基材に対して行った処理と同様の処理を行った。
(試験1)各種スポンジローラーを用いた試験
<各種ローラー>
使用したローラー1〜9の材質、製法、物性(平均気孔径、バブルポイント径、エタノール透過時間、および吸水速度)を表3に示す。
平均気孔径は、以下のように求めた。100倍の倍率でスポンジローラーの走査電子顕微鏡写真を撮影し、走査電子顕微鏡画像の対角に長さ(l)の線を2本引き、それぞれの線を横切る気孔数(n)を数えた。平均気孔径(μm)を、2l/nとして算出した。
バブルポイント径は、ASTM F316−03およびJIS K 3832に規定されるバブルポイント法に従い、以下のように求めた。スポンジを試験液に浸漬して下側から空気の圧力を上げていき、最初に気泡が発生した孔の直径を最大気孔径とした。この時の圧力(P:バブルポイント圧)を用いて、下記式から最大気孔径(D)を求めた。試験液としてエタノールを用いた。
D=4γcosθ/P
(式中、D:最大気孔径(m)、γ:試験液の表面張力(N/m)、θ:スポンジと試験液の接触角(rad)、P:バブルポイント圧(Pa)を表す)
エタノール透過時間は、以下のように求めた。内径17.4mmのガラス管を垂直に設置し、その下端部に直径6.8mmの穴の空いた板をガラス管の断面と穴が同心円となるように取り付けた。更に、厚さ2mmにカットしたスポンジを板の穴を塞ぐように密着させ、ガラス管に深さ100mm(23.7ml)のエタノールを注ぎ、スポンジを通して完全に排出されるまでの時間を計測した。
吸水速度は、JIS L1907「繊維製品の吸水性試験方法」7.1.1滴下法を参考に以下のように求めた。水滴(0.04mL)1滴を10mmの高さから試験片の表面に滴下し、水滴が試験片の表面に達したときから、試験片が水滴を吸収するにつれて鏡面反射が消え、湿潤だけが残った状態までの時間を計測した。試験片としてローラーの円柱状の外周面を用いた。吸水が瞬時に確認されたローラーについては、上記試験のスローモーションビデオを撮影し吸水速度を計測した。
<液膜の形成>
表3に記載の平均気孔径などが異なる各種のスポンジローラーを用いて、1回あたりの塗着量(g/m2)を表4に示す量とし、同一の水系コーティング組成物1を基材の表面に塗付して試料1〜10の液膜(液膜1〜10)を形成した。液膜9のみ、ローラーを回転させずに形成した。
<被膜の形成>
液膜1〜10が形成された基材を水平に静置し、十分に乾燥するまで自然乾燥させて試料1〜10の被膜(被膜1〜10)を形成した。
評価
外観評価
各種ローラーを用いて形成した被膜の外観を写真撮影により観察した。外観が非常に優れたものをA、外観が優れたものをB、やや外観に劣るが実用上許容できるものをC、外観不良をDと判定した。
平均気孔径が30μmのローラー1を用いて形成された試料1の液膜1は微細な凹凸形状(鱗状)を有していた。被膜1の形状を写真撮影して観察したところ、被膜1は、液膜1が有する微細な凹凸形状を維持したまま微細な凹凸形状(鱗状)を有しており、外観は非常に良好であり、外観判定はAであった。被膜1の画像を図7に示す。なお、前述の図4(a)が試料1の液膜1、前述の図4(b)が試料1の被膜1に、それぞれ対応している。また、試料1においては、液膜は10秒程度で速やかに乾燥した。
平均気孔径が50μmのローラー2を用いて形成された試料2の液膜2は微細な凹凸形状(鱗状)を有していた。被膜2の形状を写真撮影して観察したところ、被膜2は、液膜2が有する微細な凹凸形状を維持したまま微細な凹凸形状(鱗状)を有しており、外観は非常に良好であり、外観判定はAであった。被膜2の画像を図8に示す。試料2においても、液膜は10秒程度で速やかに乾燥した。
平均気孔径が80μmのローラー3を用いて形成された試料3の液膜3は微細な凹凸形状(細かい網目状)を有していた。被膜3の形状を写真撮影して観察したところ、被膜3は、液膜3が有する微細な凹凸形状を維持したまま微細な凹凸形状(細かい網目状)を有しており、外観は良好であり、外観判定はBであった。被膜3の画像を図9に示す。試料3においては、液膜は速やかに乾燥した。
平均気孔径が150μmのローラー4を用いて形成された試料4の液膜4は微細な凹凸形状(細かい網目状)を有していた。被膜4の形状を写真撮影して観察したところ、被膜4は、液膜4が有する微細な凹凸形状(細かい網目状)を構成する凸部が一部流動し、その結果液膜4の微細な凹凸形状(細かい網目状)が一部維持されなかったが、凸部が全体に均一に配置されていた。被膜4においては、塗りムラが視認され難く、外観は実用上許容可能なものであり、外観判定はCであった。被膜4の画像を図10に示す。また、試料4においては、液膜の流動した部分の乾燥に少し時間を要した。乾燥時間は1、2分程度であった。
平均気孔径が200μmのローラー5を用いて形成された試料5の液膜5は大きな凸部を含む網目状の形状を有していた。被膜5の形状を写真撮影して観察したところ、被膜5は、液膜5が有する大きな凸部を含む網目状の形状が維持されていなかった。被膜5においては、塗りムラが視認され、外観は不良であり、外観判定はDであった。被膜5の画像を図11に示す。なお、前述の図6(a)が試料5の液膜5、前述の図6(b)が試料5の被膜5に、それぞれ対応している。また、試料5においては、液膜5の大きな凸部が乾燥し難かった。液膜5の乾燥には、5分程度の時間を要した。
平均気孔径が50μmの低密度オレフィンタイプのローラー6を用いて形成された試料6の液膜6は、鱗状の形状と網目状の形状とを有していた。被膜6の形状を写真撮影して観察したところ、被膜6は、液膜6が有する鱗状の形状と網目状の形状とを維持しており、外観は良好であり、外観判定はBであった。被膜6の画像を図12に示す。試料6においては、液膜は速やかに乾燥した。
平均気孔径が200μmの低密度オレフィンタイプのローラー7を用いて形成された試料7の液膜7は、大きな凸部を含む網目状の形状を有していた。被膜7の形状を写真撮影して観察したところ、液膜7が有する大きな凸部を含む網目状の形状が維持されていなかった。被膜7においては、塗りムラが視認され、外観は不良であり、外観判定はDであった。被膜7の画像を図13に示す。試料7においては、液膜の乾燥に5分程度の時間を要した。
材質がウールのローラー8を用いて形成された試料8の液膜8は大きな凸部(例えば、図2(b)の201a)を含んでいた。被膜8の形状を写真撮影して観察したところ、被膜8は、液膜8に含まれる大きな凸部を反映した大きな凸部(例えば、図2(b)の202a)、あるいは液膜8に含まれる大きな凸部同士が乾燥時に結合して形成された新たな大きな凸部を含んでいた。また、これら大きな凸部の厚さ、直径もまちまちであり、また被膜中の配置も不均一であった。被膜8においては、塗りムラがはっきりと視認され、外観は不良であり、外観判定はDであった。被膜8の画像を図14に示す。試料8においては、液膜の乾燥に5分程度の時間を要した。
材質がウールのローラー8を回転させずに用いて形成された試料9の液膜9は大きな凸部(例えば、図2(b)の201a)を含み、これが筋状に形成されていた。被膜9の形状を写真撮影して観察したところ、被膜9は、液膜9に含まれる筋状に形成された大きな凸部を反映した大きな凸部(例えば、図2(b)の202a)を含み、これが筋状に形成されていた。被膜9においては、この筋がはっきりと視認され、外観は不良であり、外観判定はDであった。被膜9の画像を図15に示す。試料9においては、液膜の乾燥に5分程度の時間を要した。
材質が乾式スポンジで、平均気孔径が500μmのローラー9を用いて形成された試料10の液膜10は大きな凸部(例えば、図2(b)の201a)を含んでいた。被膜10の形状を写真撮影して観察したところ、被膜10にも、大きな凸部(例えば、図2(b)の202a)、あるいは液膜10に含まれる大きな凸部同士が乾燥時に結合して形成された新たな大きな凸部が含まれていた。被膜10においては、これら大きな凸部が塗りムラとしてはっきりと視認され、外観は不良であり、外観判定はDであった。被膜10の画像を図16に示す。試料10においては、液膜の乾燥に5分程度の時間を要した。
(試験2)表面張力が低いコーティング組成物と気孔径が小さなスポンジローラーの組合せ
<液膜の形成>
表4に示すように、平均気孔径が50μmであるローラー2を用いて、試料11の液膜11を形成した。1回あたりの塗着量を7.75g/m2とした。これは、同じくローラー2を用いた試料2の塗着量とほぼ同じ量である。一方で、試料11においては、試料2で用いた水系コーティング組成物1よりも表面張力が小さい水系コーティング組成物4を用いている。水系コーティング組成物4の表面張力は30mN/mであった。
<被膜の形成>
液膜11が形成された基材を水平に静置し、十分に乾燥するまで自然乾燥させて被膜11を形成した。
評価
外観評価
表面張力が58mN/mである水系コーティング組成物1を用いた液膜2は、鱗状の凹凸形状を有していた。一方で、表面張力が30mN/mである水系コーティング組成物4を用いた液膜11は、鱗状ではなく、細かい網目状の凹凸形状を有していた。これは、用いた水系コーティング組成物4の表面張力が低いため、凹凸形状が鱗状とはならず、濡れ広がったためと考えられる。つまり、液膜11が適用直後に有していた微細な凹凸が乾燥時に少し移動したことが確認された。被膜11の形状を写真撮影して観察した。被膜11の画像を図17に示す。被膜11においては、細かい網目状の凹凸が均一に設けられており、塗りムラは視認されなかった。被膜11の外観は実用上許容可能であり、外観判定はCであった。この試料11において、液膜11の乾燥には、液膜2の乾燥時間よりも長い時間を要した。
(試験4)重ね塗りの試験
<液膜の形成>
表4に示すように、平均気孔径が30μmのローラー1を用いて、基材の表面に3回塗付(重ね塗り)して試料13の液膜13を形成した。具体的には、1回目の塗付により1回目の液膜を形成し、これを乾燥させて1回目の被膜を形成した。その後、2回目の塗付により1回目の被膜の上に2回目の液膜を形成し、これを乾燥させて2回目の被膜を形成した。その後、3回目の塗付により2回目の被膜の上に3回目の液膜を形成した(液膜13)。1回あたりの塗着量は、4〜5g/m2とした。これは、同じくローラー1を用いた試料1の1回あたりの塗着量とほぼ同じ量である。なお、試料13で用いた水系コーティング組成物2の表面張力及び粘度は、試料1で用いた水系コーティング組成物1の表面張力及び粘度とほぼ同じである。
<被膜の形成>
上記のとおり、1回の塗付毎に液膜が形成された基材を水平に静置し、十分に乾燥するまで自然乾燥させる工程を3回繰り返して被膜13を形成した。試料13においては、液膜は1回の塗付毎に、10秒程度で速やかに乾燥した。
評価
外観評価
液膜13においては、1回目から3回目いずれの液膜も鱗状の微細な凹凸形状を有していた。被膜13の形状を写真撮影して観察した。被膜13の画像を図19に示す。3回塗り重ねて形成した被膜13の形状は鱗状であることが確認された。つまり、1回目の被膜が有する鱗状は2回目の被膜を形成した後も消失せず維持され、同様に、2回目の被膜が有する鱗状も3回目の被膜を形成した後も消失せず維持され、その結果、3回重ね塗りをしても1回目および2回目の微細な凹凸形状が重ねられた鱗状の被膜13が形成されることが確認された。被膜13においては、塗りムラは視認されず、外観は非常に良好であり、外観判定はAであった。
(試験5)水系コーティング組成物の表面張力を変化させた試験
表面張力を変化させたコーティング組成物5〜8について、平均気孔径が30μmのローラー1と、気孔径が200μmのローラー5と、を用いて試験を行った。
<液膜の形成>
表5に示すように、平均気孔径が30μmのローラー1を用いて、試料14〜17の液膜を形成した。また、平均気孔径が200μmのローラー5を用いて、試料19〜21の液膜を形成した。試料14〜17については、塗着量を8〜11g/m2とした。試料19〜21については、塗着量を4〜9g/m2とした。
<被膜の形成>
液膜14〜17、19〜21が形成された基材を水平に静置し、試験1と同様に自然乾燥させて被膜14〜17、19〜21を形成した。
評価
外観評価
被膜14〜17、19〜21の状態を目視により観察した。平均気孔径が30μmのローラー1を用いたときは、塗付する水系コーティング組成物の表面張力が29〜72mN/mと広い範囲に及ぶ場合であっても、被膜14〜17の外観は非常に良好であるか、良好であることが確認された。具体的には、水系コーティング組成物の表面張力が48mN/m以上に大きい場合には、塗りムラがなく、外観が非常に良好な被膜14〜16が形成された。これらの被膜においては、外観判定はAであった。水系コーティング組成物の表面張力が29mN/mと小さい場合であっても、微細な網目模様を有し、外観が良好な被膜17が形成された。被膜17においては、外観判定はBであった。
一方、平均気孔径が200μmのローラー5を用いたときは、試料19〜21のように、表面張力が54mN/m以下の場合には、塗リムラやタレ等の不具合が生じた。
(試験6)水系コーティング組成物の粘度を変化させた試験
粘度を変化させたコーティング組成物6、9〜11について、平均気孔径が30μmのローラー1と、平均気孔径が200μmのローラー5と、を用いて試験を行った。
<液膜の形成>
表6に示すように、平均気孔径が30μmのローラー1を用いて、試料15、22、24および26の液膜を形成した。また、平均気孔径が200μmのローラー5を用いて、試料19の液膜を形成した。試料15、22、24および26については、塗着量を6〜14g/m2とした。試料19については、塗着量を2〜5g/m2とした。
<被膜の形成>
液膜15、19、22、24、26が形成された基材を水平に静置し、試験1と同様に自然乾燥させて被膜15、19、22、24、26を形成した。
評価
外観評価
被膜15、19、22、24、26の状態を目視により観察した。平均気孔径が30μmのローラー1を用いたときは、塗付する水系コーティング組成物の粘度が5.4〜2079mPa・sと広い範囲に及ぶ場合であっても、被膜15、22、24および26の外観は不良と評価されるものはなかった。具体的には、水系コーティング組成物の粘度が185mPa・s以下の場合には、塗りムラがなく、外観が非常に良好な被膜15、22が形成された。これらの被膜の外観判定はAであった。また、水系コーティング組成物の粘度が684mPa・sと大きい場合にも、鱗状の塗装痕を有し、外観が良好な被膜24が形成された。被膜24においては、外観判定はBであった。一方、水系コーティング組成物の粘度が2079mPa・sと大きい被膜26では、斑点状の塗りムラがわずかに視認された。ただし、被膜26で視認された塗りムラはわずかであり、外観は実用上許容可能なものであった。被膜26においては、外観判定はCであった。
一方、平均気孔径が200μmのローラー5を用いたときは、水系コーティング組成物の粘度が5.4mPa・sと小さい被膜19では、塗りムラやタレ等の不具合が生じた。被膜19の外観は、不良であり、外観判定はDであった。
(試験7)塗着量を変化させた試験
平均気孔径が30μmのローラー1を用い、水系コーティング組成物9の塗着量を変化させた試験を行った。
<液膜の形成>
表7に示すように、平均気孔径が30μmのローラー1を用いて、1回あたりの塗着量(g/m2)を変化させ、水系コーティング組成物9を基材の表面に塗付して試料22および28の液膜を形成した。
<被膜の形成>
液膜22、28が形成された基材を水平に静置し、試験1と同様に自然乾燥させて被膜22、28を形成した。
評価
外観評価
被膜22、28の状態を目視により観察した。平均気孔径が30μmのローラー1を用いた試料22、28では、いずれも、塗りムラがなく、外観が非常に良好な被膜22、28が形成された。これらの被膜の外観判定はAであった。
(試験8)外壁に適用した試験
次に、各種ローラーを用いて、外壁材の有機塗装体の表面に水系コーティング組成物を適用した例について述べる。
スレート基板に、下塗、中塗を塗装した後、水系コーティング組成物12、13を表8に示す各種ローラーで当該塗装体に適用して、試料32〜36の液膜32〜36を形成した。スレート基板の大きさは、300mm×200mm×3mmtとした。下塗として、2液型エポキシ樹脂塗料(SR−50W、TOTO製)を用いた。中塗として、変性シリコーン樹脂塗料(ECO-EX中塗、色番#4000N、TOTO製)を用いた。水系コーティング組成物12は、粒子成分として光触媒粒子2を10mass%、無機酸化物粒子1を90mass%含んでいる。固形分濃度は5.5mass%であった。水系コーティング組成物13は、水系コーティング組成物12を3倍に濃縮したものであり、固形分濃度は16.5mass%であった。表8に示すように、試料32〜36の被膜32〜36を得た。
気孔径が小さいローラー1、6を用いて、固形分濃度が3倍高い水系コーティング組成物13を適用した試料32、33においては、液膜32、33は細かい凹凸形状を有していた。液膜32、33の乾燥工程において、この細かい凹凸形状を保ったまま10秒程度で速やかに乾燥した。得られた被膜32、33においては、鱗状の微細な凹凸形状が形成され、塗りムラが視認されない非常に良好な外観であった。外観判定はいずれもAであった。
また、ローラー6を用い、水系コーティング組成物12を3回重ね塗りした試料35においては、3倍の固形分濃度である水系コーティング組成物13を同じローラー6で適用した試料33の被膜33と同様に鱗状の微細な凹凸形状を有する被膜35を得た。外観は非常に良好であり、外観判定はAであった。なお、1回の塗装ごとの液膜の乾燥時間は10秒程度であった。
気孔径が大きいローラー5を用いて、水系コーティング組成物13を適用した試料34においては、液膜34に凹凸構造が形成された。この凹凸構造がやや大きめだったため、液膜34の乾燥工程において凸部の一部が流動し、被膜34には部分的に塗りムラが視認されたが、実用上許容範囲内であった。外観判定はCであった。液膜34の乾燥時間は試料32、33、35よりも少し長かったが、1分以内であった。
ウールローラー8を用いて、水系コーティング組成物12を適用した試料36においては、液膜36が全体に濡れ広がり、凹凸形状は形成されなかった。液膜36が乾燥するに従って流動し、被膜36には塗りムラが視認された。液膜36の乾燥には3〜5分程度を要した。外観判定はDであった。
以上の試験より、基材がガラス、外壁等、のいずれであっても、ローラーの種類とコーティング組成物との組合せを同様に工夫することで、良好な外観の被膜が得られることがわかった。
(試験9)被膜の表面形状の測定試験
<液膜の形成>
表9に記載の各種塗装道具を用いて、塗着量を約10g/m2とし、同一の水系コーティング組成物2を基材の表面に塗付して試料37〜46の液膜(液膜37〜46)を形成した。
ローラー1〜5、8、9を用いた液膜37〜44の形成は以下のとおり行った。コーティング組成物にローラーを浸漬し、ローラーにコーティング組成物を十分に含ませた後、しごき板でローラーをしごいてコーティング組成物の含浸量を半分程度に調整した。基材へローラーを密着させ、回転させながら縦横に2往復ずつコーティング組成物を塗り広げ、液膜が乾燥する前に基材の長手方向へ仕上げ塗装を行った。液膜44のみ、ローラーを回転させずに形成した。具体的には、ローラーヘッドが回転しないようにローラーハンドルに固定して塗装を行った。ベルベットコーター(スポンジの表面に起毛地の布を接着したもの)を用いた液膜45は、適量のコーティング組成物をスポイトで塗装面の起毛地部分へ滴下し、基材へ押し付けて数回塗り広げた後、一方向に仕上げ塗りを行った。スプレーを用いた液膜46は、低圧霧化ガン(アネスト岩田LPH-101、オリフィス1.2mm)を使用した。霧化圧0.15MPaとし、3回塗り重ねて上記の塗着量とした。
<被膜の形成>
液膜37〜46が形成された基材を水平に静置し、十分に乾燥するまで自然乾燥させて試料37〜46の被膜(被膜37〜46)を形成した。
評価
(外観)
被膜37〜46の表面形状を写真撮影し、目視により、等方性の有無、すなわち塗装方向によらずに微細な凹凸形状が形成され、筋状模様などが視認されない状態か否か、および塗りムラの有無を観察した。被膜37〜46の各写真画像を図20〜29に示す。被膜の写真は、背景に黒色艶消し板を置き、被膜面にほぼ水平となる方向から白色LEDの照明をあてて被膜の模様が見やすい状態として撮影を行った。写真中の黒い線は、油性フェルトペンで引いた目印であり、直線の途中にある2つの点の間の距離が1cmである。
(表面形状プロファイル)
さらに、被膜37〜46の表面形状をデジタルホログラフィック顕微鏡(Lyncee Tec社製)で計測した。各被膜の表面形状の特徴を、ピーク(凸部)の幅、単位長さあたりのピークの個数、ピーク高さ(被膜厚に対する割合)の3つの指標で数値化して、評価した。表9に単位長さあたりのピークの個数、表10に被膜厚の評価結果を示し、表11に総合結果を示す。また、図30、31に、デジタルホログラフィック顕微鏡観察によって得た被膜37〜46の表面形状プロファイルを示す。
各被膜において、液膜を形成した際に仕上げ塗装を行った方向と直角をなす方向へ10mm(10,000μm)の長さ分の表面形状プロファイルを測定した。フェルトペンで描いた目印の線から2mm離れた線上で測定を行った。1ショットで1×1mmの視野の撮影が最大であるため、1ショット毎に0.8mmずつ視野をずらしながら13ショットの撮影を実施した。得られた13個の2次元の表面形状プロファイル(x、y、高さのデータ)を基に、1次元のプロファイル(x、高さのデータ)を抽出した。13個のプロファイルを統合するため、各プロファイルのベースライン、ドリフト、位置の補正を行った後、1本のプロファイルに統合した。その際、重なり部分は2つのプロファイルデータの平均値とした。得られたプロファイルはノイズが多かったため、ノイズ除去のために100点移動平均をとった。このような手順で得られた位置対高さのデータから以下の手法でピーク幅、単位長さあたりのピーク個数、ピーク高さを計測した。
・ピーク幅:ピークの両側にある2つの極小部分(谷)の間の距離を計測し、これをピーク幅とした。
・ピーク個数:プロファイルを0〜2500μm、2500〜5000μm、5000〜7500μm、7500〜10000μmの4つの領域(順に、領域1、2、3、4)に区切り、それぞれの領域にあるピークの個数を計測した。
・ピーク高さ:ピーク幅を求めた際の2つの極小部を結ぶ直線を描き、ピークの頂点から垂線を引いてピークから直線までの距離を求め、この距離の被膜の厚さに対する割合をピーク高さとして計測した。被膜の厚さは以下の方法で求めた。各サンプルの被膜にカッターナイフで切り込みを入れ、基材表面まで到達する傷を形成した。この傷の部分をデジタルホログラフィック顕微鏡にて測定し、被膜表面と基材表面の高低差から被膜の厚さを求めた。
結果
平均気孔径が30〜150μmのローラー1〜4を用いて形成された被膜37〜40については、ピーク幅およびピーク個数の双方が所望の数値範囲(それぞれ、300μm以上500μm以下、4個以上8個以下/2.5mm)にあり、被膜表面は2次元的に均一または規則正しい凹凸形状を有していた。また、被膜37〜40は、ピーク個数のバラつきが小さく全体的に均一な周期構造となっていた。さらに、被膜37〜40は、塗装方向によらず凹凸形状が形成され、筋状模様などが視認されず、等方性を有しているとともに、塗りムラも視認されず、目視において良好な外観を有していた。従って、被膜37〜40はいずれも微細な凹凸形状を有していることが確認された。とりわけ、ローラー1、2を用いて形成された被膜37、38は、2次元的に均一または規則正しい凹凸形状を有していただけでなく、さらに被膜厚に対するピーク高さの割合も所望の数値範囲(10%以下)にあり、3次元的にも均一または規則正しい凹凸形状を有していた。従って、被膜37、38は良好な微細な凹凸形状を有していることが確認された。平均気孔径が80〜150μmのローラー3、4を用いて形成された被膜39、40は、ピーク高さの割合がその他の塗装具を用いて形成された被膜に比べて大きく、所望の数値範囲になかったが、ピーク幅およびピーク個数の双方は所望の数値範囲にあり、十分に微細な凹凸形状を有していた。なお、2次元的に良好な凹凸形状を有していれば、被膜は十分に微細な凹凸形状を有していると判断し、さらに3次元的にも良好な凹凸形状を有していれば、被膜は良好な微細な凹凸形状を有していると判断した。
一方、平均気孔径が200μmのローラー5を用いて形成された被膜41は、塗装方向によらず凹凸形状が形成され、筋状模様などは確認されず、等方性を有していたが、塗りムラが目立ち目視外観は不良であった。また、ピーク幅は所望の数値範囲にあった。しかし、ピーク個数が所望の数値範囲になく、かつバラつきも大きく、非周期的な構造となっていた。従って、被膜41は微細な凹凸形状を有していないことが確認された。なお、ピーク高さも所望の数値範囲になかった。
材質が乾式スポンジで、平均気孔径が500μmであり、吸水性のないローラー9を用いて形成された被膜42は、塗装方向によらず凹凸形状が形成され、筋状模様などは確認されず、等方性を有していたが、塗りムラが目立ち目視外観は不良であった。しかし、ピーク幅、ピーク個数、ピーク高さのいずれもが所望の数値範囲になく、またピーク個数のバラつきが大きく、非周期的な構造となっていた。従って、被膜42は微細な凹凸形状を有していないことが確認された。
材質がウールであるローラー8を用いて形成された被膜43は、塗装方向によらず凹凸形状が形成され、筋状模様などは確認されず、等方性を有していたが、塗りムラが目立ち目視外観は不良であった。また、ピーク幅は所望の数値範囲にあった。しかし、ピーク個数が所望の数値範囲になく、かつバラつきがあり、非周期的な構造となっていた。従って、被膜43は微細な凹凸形状を有していないことが確認された。なお、ピーク高さも所望の数値範囲になかった。
材質がウールであるローラー8を回転させずに用いて形成された被膜44は、ピーク幅、ピーク個数、ピーク高さのいずれもが所望の数値範囲にあったが、大きな凸部を含んでおり、これが塗装方向に沿った筋状の模様や、塗りムラとなっていた。従って、被膜44は微細な凹凸形状を有していないことが確認された。
ベルベットコーター(スポンジの表面に起毛地の布を接着したもの)を用いて形成された被膜45は、ピーク幅が所望の数値範囲になく、また大きな凸部を含んでおり、これが塗装方向に沿った筋状の模様や、塗りムラとなっていた。従って、被膜45は微細な凹凸形状を有していないことが確認された。
スプレーを用いて形成された被膜46は、筋状模様などが視認されず、等方性を有していたが、塗りムラが目立ち目視外観は不良であった。しかし、ピーク幅、ピーク個数、ピーク高さのいずれも所望の数値範囲になかった。従って、被膜46は微細な凹凸形状を有していないことが確認された。
以上より、平均気孔径が30μm以上150μm以下であり、吸水性が良好なローラーを用いて形成された被膜の表面形状は、材質が同じであるが、平均気孔径が上記範囲を超えて大きいローラー、あるいは平均気孔径が大きいだけでなく、吸収性もないローラー、あるいはベルベットコーターやスプレーなど他の塗装具を用いて形成された被膜の表面形状に比べて、等方性を有し、かつ、ピーク幅、ピークの個数、ピーク高さが所望の数値範囲にあり、微細な凹凸形状を有することが確認された。
101:微細な凹凸形状を有する液膜(塗付直後、乾燥前)
101a:液膜の微細な凹凸形状を構成する凸部
101b:液膜の微細な凹凸形状を構成する凹部
102:微細な凹凸形状が維持されている被膜(乾燥後)
102a:被膜の微細な凹凸形状を構成する凸部
102b:被膜の微細な凹凸形状を構成する凹部
201:微細でない凹凸形状を有する液膜(従来技術)
201a:液膜の微細でない凹凸形状を構成する凸部
201b:液膜の微細でない凹凸形状を構成する凹部
202:微細でない凹凸形状を有する被膜(塗りムラあり)
202a:被膜の微細でない凹凸形状を構成する凸部(塗りムラとして視認される凸部)
202b:被膜の微細でない凹凸形状を構成する凹部(塗りムラとして視認される凹部)

Claims (19)

  1. コーティング被膜を基材の表面に形成する方法であって、
    当該方法が、
    水系コーティング組成物を基材の表面に適用して液膜を形成する工程と、
    前記液膜を乾燥させて被膜を形成する工程と
    を少なくとも含んでなり、
    前記液膜が、複数の凸部および複数の凹部を含む微細な凹凸形状を有しており、
    前記被膜形成工程において、前記液膜を乾燥させて前記液膜の前記微細な凹凸形状が維持された前記被膜を形成することを特徴とする、方法。
  2. 前記液膜の微細な凹凸形状が維持されて形成された前記被膜が、鱗状の微細な凹凸形状を有する、請求項1に記載の方法。
  3. 前記鱗状の微細な凹凸形状が、等方性を有し、かつ
    前記鱗状の微細な凹凸形状の、前記被膜の表面形状をデジタルホログラフィック顕微鏡で観察して得られたプロファイルから計測された、平均ピーク幅が300μm以上500μm以下であり、かつ、単位長さ2.5mmにおける平均ピーク個数が4個以上8個以下である、請求項2に記載の方法。
  4. 前記鱗状の微細な凹凸形状の、前記被膜の表面形状をデジタルホログラフィック顕微鏡で観察して得られたプロファイルから計測された、前記被膜の厚さに対するピーク高さの割合が10%以下である、請求項3に記載の方法。
  5. 前記液膜を形成する工程が、水系コーティング組成物を、スポンジローラーを用いて基材の表面に適用して液膜を形成するものであり、
    前記スポンジローラーが連続気孔を有し、前記連続気孔の平均気孔径が30μm以上150μm以下であり、エタノール透過時間が20秒以上270秒以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記水系コーティング組成物の粘度が4.5mPa・s以上3000mPa・s未満である、請求項5に記載の方法。
  7. 前記水系コーティング組成物の表面張力が25mN/mより大きく72mN/m以下である、請求項5または6に記載の方法。
  8. 前記液膜形成工程において、前記基材の表面に適用される前記水系コーティング組成物の1回あたりの適用量が、2g/m以上15g/m以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 前記液膜形成工程において、前記スポンジローラーを回転させながら水系コーティング組成物を基材の表面に適用して前記液膜を形成することを特徴とする、請求項5〜8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 前記水系コーティング組成物が、機能性粒子と、水を主として含む分散媒とを含んでなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
  11. 前記機能性粒子が、光触媒粒子である、請求項10に記載の方法。
  12. 前記水系コーティング組成物が、前記光触媒粒子以外の無機酸化物粒子をさらに含んでなる、請求項11に記載の方法。
  13. 基材と、当該基材の表面に形成されたコーティング被膜とを備えてなる機能材であって、
    前記コーティング被膜が複数の凸部および複数の凹部を含む微細な凹凸形状を有する、機能材。
  14. 前記微細な凹凸形状が、鱗状の微細な凹凸形状である、請求項13に記載の機能材。
  15. 前記鱗状の微細な凹凸形状が、等方性を有し、かつ
    前記鱗状の微細な凹凸形状の、前記被膜の表面形状をデジタルホログラフィック顕微鏡で観察して得られたプロファイルから計測された、平均ピーク幅が300μm以上500μm以下であり、かつ、単位長さ2.5mmにおける平均ピーク個数が4個以上8個以下である、請求項14に記載の機能材。
  16. 前記鱗状の微細な凹凸形状の、前記コーティング被膜の表面形状をデジタルホログラフィック顕微鏡で観察して得られたプロファイルから計測された、前記被膜の厚さに対するピーク高さの割合が10%以下である、請求項15に記載の機能材。
  17. 前記コーティング被膜が機能性粒子を含んでなる、請求項13〜16のいずれか一項に記載の機能材。
  18. 前記機能性粒子が光触媒粒子である、請求項17に記載の機能材。
  19. 前記コーティング被膜が、光触媒粒子以外の無機酸化物粒子をさらに含んでなる、請求項18に記載の機能材。
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CN117532789A (zh) * 2024-01-04 2024-02-09 中南大学 制备环氧超低温结构胶拉伸试样的方法及振动固化装置

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