本願では、まず加速荷電GCIBを形成し、次いで、ビームの少なくとも一部を中性化または中性化するために準備し、荷電および非荷電部分を分離する、中性ビーム形成方法および装置を開示する。中性ビームは、中性ガスクラスタ、中性モノマー、またはこれらの組み合わせから成ることができるが、好ましくは完全に中性モノマーに解離したものである。
GCIB加工と比べて、加速中性ビームを用いることで、表面における電荷効果の波及が最小限に抑えられる物理的表面改質法が得られ(材料が導電材料でない場合、または、表面荷電が材料を損なう恐れがあるときは特に重要)、このため、シリカなどの絶縁材料やその他の類似の材料における、電荷効果による表面下損傷形成が避けられる。場合によっては、高い平坦度を保ちながらも、従来の二次研磨で得られるものよりさらに平均表面粗度が低減される。
従来のエネルギーイオン、加速荷電原子または分子のビームは、半導体装置のジャンクション形成、スパッタリングおよびエッチングによる表面の改質、また、薄膜特性の改変に広く利用されている。従来のイオンと異なり、ガスクラスタイオンは、標準的な温度および圧力条件下ではガス状の材料(一般的には、たとえば酸素、窒素、またはアルゴンなどの不活性ガスだが、凝縮性ガスであればガスクラスタイオン生成に使用可能)の多数(標準的な分布は数百〜数千、平均値は数千)の弱く結合した原子または分子のクラスタから形成され、各クラスタは1つまたは複数の電荷を共有し、大きな電位差(約3kV〜約70kV以上)により共に加速されることで高い総エネルギーを有する。ガスクラスタイオンの形成および加速後、その荷電状態は、その他のクラスタイオン、その他の中性クラスタ、または背景に残留するガス粒子との衝突によって変更される、または変更されるようになる(さらには中性化される)ことがあり、このため、より小さなクラスタイオンまたはモノマーイオン、および/またはより小さな中性クラスタおよび中性モノマーに開裂される、または、開裂を誘発されることがあるが、結果として生じるクラスタイオン、中性クラスタ、モノマーイオン、中性モノマーは、大きな電位差を通じて加速されたために比較的高い速度およびエネルギーを維持する傾向があり、加速ガスクラスタイオンのエネルギーがフラグメント全体に分配されている。
本願で使用する場合の「GCIB」、「ガスクラスタイオンビーム」、「ガスクラスタイオン」という用語は、イオン化ビームおよびイオンだけでなく、加速後に荷電状態の一部が(中性化も含めて)改変された加速ビームおよびイオンを包含することを意図している。「GCIB」および「ガスクラスタイオンビーム」という用語は、非クラスタ化粒子を含む場合があるとしても、加速ガスクラスタイオンを含むすべてのビームを包含することを意図している。本願で使用する場合の「中性ビーム」という用語は、加速ガスクラスタイオンビームから得られる中性ガスクラスタおよび/または中性モノマーのビームを意味することを意図し、ここでの加速は、ガスクラスタイオンビームの加速を由来とする。本願で使用する場合の「モノマー」という用語は、同等に、単一の原子または単一の分子のいずれも指す。「原子」「分子」「モノマー」という用語は互換可能に使用することができ、言及中のガスの特徴となる適切なモノマー(クラスタの一成分、クラスタイオンの一成分、または原子あるいは分子)すべてを指す。たとえば、アルゴンなどの一原子ガスは原子、分子、またはモノマーとして言及することができ、これらの用語はそれぞれ単一の原子を意味する。同様に、窒素のような二原子ガスの場合、原子、分子、またはモノマーとして言及することができ、これらの用語はそれぞれ二原子分子を意味する。さらに、CH4のような分子ガスは原子、分子、またはモノマーとして言及することができ、これらの用語はそれぞれ五原子分子を意味する、といった次第である。これらの決まりは、ガス状態のとき一原子、二原子、または分子のいずれであるかに関係なくガスおよびガスクラスタまたはガスクラスタイオンについて包括的に考察する際の簡略化のために用いられる。
大きなガスクラスタイオン内の個々の原子のエネルギーは非常に小さく、通常は数eV〜数十eVであるため、原子は衝撃時に標的表面のせいぜい原子数個分の層を貫通するのみである。このように衝突する原子が浅く(通常、ビーム加速に応じて数ナノメートル〜約10ナノメートル)貫通するため、結果的に、クラスタイオン全体の担持する全エネルギーが、1マイクロ秒未満の期間内に、非常に浅い表面層内でごくわずかな量に分散されることになる。これは、材料への侵入が時には数百ナノメートルに及び、材料の表面下深くに変化や材料改質を生じさせる従来のイオンビームとは異なる。ガスクラスタイオンの総エネルギーが高く、かつ相互作用量が非常に小さいため、衝撃部位に付与されるエネルギーの密度は従来のイオンによる衝突の場合よりもかなり大きい。したがって、GCIBによる表面の改変では、より浅い領域で原子混合が生じるため、分析機器における深さ方向分析用のエッチングビームとして好適に用いられている。中性ビームによる表面加工では、表面の荷電が少なく、さらに浅い部分で改変を生じさせることができる。
加速ガスクラスタイオンが完全に解離、中性化されると、この結果生じる中性モノマーは、元の加速ガスクラスタイオンの総エネルギーを、加速時に元のガスクラスタイオンを形成していたモノマーの数N1で割ったものにほぼ等しいエネルギーを有する。このように解離された中性モノマーは、ガスクラスタイオンの元の加速エネルギーと加速時のガスクラスタのサイズとに応じて、約1eV〜数十、さらには数千eVものエネルギーを有する。
ガスクラスタイオンビームは、既知の技術によりワークを照射する目的で生成および移送される。GCIBの照射経路に物体を保持し、物体の複数の部分を照射できるように物体を操作する様々な種類のホルダが当該技術において知られている。中性ビームは、本願に教示する技術によりワークを照射する目的で生成および移送することができる。
本発明は、様々な種類の表面および浅表面下材料加工に採用することができ、多数の用途で従来のGCIB加工よりも優れた性能を発揮できる、加速ガスクラスタイオンビームから加速中性ガスクラスタおよび/または好ましくはモノマービームを得る、高ビーム純度方法およびシステムを採用することができる。中性ビーム装置は、約1eV〜数千eVもの範囲のエネルギーを有する粒子を持つ、良好に収束され加速される強力な中性モノマービームを提供することができる。このエネルギー範囲では、簡易で比較的安価な装置で強力な中性ビームを形成することはこれまで実現困難であった。
これらの加速中性ビームは、まず、従来の加速GCIBを形成し、次に、ビームに不純物を導入しない方法および稼働条件によって部分的またはほぼ全部を解離してから、ビームの残りの荷電部分を中性部分と分離することによって生成され、結果として生じる加速中性ビームをワークの加工に使用する。生成される中性ビームは、ガスクラスタイオンの解離度合いに応じて、中性ガスモノマーとガスクラスタの混合物、または、すべてまたはほぼすべてが中性ガスモノマーから成ることができる。加速中性ビームは完全に解離された中性モノマービームであることが好ましい。
本発明の方法および装置によって生成可能な中性ビームを利用すると、GCIBを含むあらゆるイオン化ビームで一般的に生じるような、ビームが運ぶ電荷による材料表面の荷電を起因とする材料への損傷を与えずに絶縁性材料を加工できるという利点がある。たとえば、用途によっては、イオンが酸化物、窒化物などの誘電薄膜の損傷または破壊的荷電に寄与することが多い。イオンビームでは表面その他の電荷効果による望ましくない副作用が生じる可能性がある用途において、中性ビームを使用することで、ポリマー、誘電性および/またはその他の電気絶縁性または高電気抵抗材料、コーティング、膜のビーム加工を良好に行なうことができる。例として、(これに限られないが)防食コーティング加工や有機膜の照射架橋および/または重合化が挙げられる。別の例としては、ガラス、ポリマー、およびセラミック材料、ならびに、酸化物、窒化物、ガラスなどの誘電薄膜コーティングの中性ビーム加工が挙げられる。
加速GCIBから得られる中性モノマーの加速ビームを表面改質用途に用いる場合のさらなる利点は、加工表面の、同様にGCIBを用いる場合と比べてもさらに浅い部分に破壊層を形成することである。
本発明の方法および装置によって加速中性ビームを形成するその元となるGCIBはイオンから成るため、従来のイオンビーム技術を用いて所望のエネルギーまで容易に加速され、容易に収束される。その後の解離と、中性粒子からの荷電イオンの分離が起きると、中性ビーム粒子は収束軌道を維持する傾向があり、長距離を移送され良好な結果をもたらすことができる。
ジェット内の中性ガスクラスタは、電子衝突によってイオン化されると、加熱および/または励起される。この結果、加速後にビームラインに沿って進む際にイオン化ガスクラスタからモノマーが蒸発する場合がある。さらに、イオン化装置、加速器領域、ビームライン領域におけるガスクラスタイオンと背景ガス分子との衝突によってもガスクラスタイオンを加熱および励起する結果、加速後にガスクラスタイオンからモノマーがさらに発生する場合がある。これらのモノマー発生メカニズムが、GCIBを形成したのと同じガスの背景ガス分子(および/またはその他のガスクラスタ)と電子との衝撃および/または衝突で誘発される場合は、モノマー発生につながる解離プロセスがビーム汚染の一因となることはない。
ビームを汚染せずにGCIB内のガスクラスタイオンを解離する(またはモノマー発生を誘発する)ために採用可能なメカニズムは他にもある。これらのメカニズムのうちいくつかは、中性ガスクラスタビーム内の中性ガスクラスタを解離するのに採用することもできる。メカニズムの1つとしては、赤外線またはその他のレーザエネルギーを使用してガスクラスタイオンビームをレーザ照射する。レーザ照射されたGCIB内のガスクラスタイオンがレーザ誘起加熱される結果、ガスクラスタイオンが励起および/または加熱され、次いでビームからモノマーが発生する。別のメカニズムでは、加熱管にビームを通し、輻射熱エネルギーフォトンがビーム内のガスクラスタイオンに衝突するようにする。管内の輻射熱エネルギーによりガスクラスタイオンが誘起加熱される結果、ガスクラスタイオンが励起および/または加熱されて、次いでビームからモノマーが発生する。また別のメカニズムでは、GCIBの形成に使用される原料ガス(またはその他の非汚染ガス)と同一のガスまたは混合ガスのガスジェットをガスクラスタイオンビームに交差させる結果、ガスジェット内のガスのモノマーとイオンビーム内のガスクラスタとが衝突し、ビーム内のガスクラスタイオンが励起および/または加熱され、次いで、励起されたガスクラスタイオンからモノマーが発生する。GCIB解離および/または開裂を起こすのに、最初のイオン化中の電子衝突、および/またはビーム内の(他のクラスタイオンまたはGCIB形成に使用したものと同一ガスの背景ガス分子との)衝突、および/またはレーザまたは熱放射、および/または非汚染ガスの交差ジェット衝突に完全に依存することによって、他材料との衝突によるビーム汚染は回避される。
上述のような非汚染解離方法を用いることで、解離生成物または元の原料ガス原子の一部ではない残留クラスタに原子が導入されることなく、GCIBは解離または少なくとも部分的に解離される。最初のクラスタ形成に、残留クラスタまたは解離生成物を用いてワークを加工すると汚染物質となってしまう原子を含まない原料ガスを用いることで、ワーク汚染は回避される。アルゴンまたはその他の希ガスを用いる場合、原料ガス材料は揮発性で化学的に反応しないので、後で中性ビームを用いてワークを照射しても、これらの揮発性、非反応性原子はワークから完全に放出される。したがって、ガラス、石英、サファイア、ダイヤモンド、その他の硬い透明材料を含む光学材料であるワークに対しては、アルゴンまたはその他の希ガスは、中性ビーム照射による汚染をもたらすことなく、原料ガス材料として機能することができる。そのほか、原料ガスの原子構成要素がワーク汚染につながる原子を含まなければ、その他の原料ガスを採用することもできる。たとえば、ガラスおよびシリカのワーク、また、その他の様々な光学材料は酸素を含有するが、酸素原子は汚染物質としては働かない場合がある。このような場合、酸素を含有する原料ガスは、汚染を引き起こすことなく採用することができ、その他のガスおよびワーク材料にも同じことが当てはまる。
ノズルからの中性ガスクラスタジェットが、電子がクラスタをイオン化するように導かれるイオン化領域を移動していく間、クラスタは非イオン化状態を保つ場合と、(入射電子によるクラスタからの電子の放出により)1つまたは複数の電荷を持つ荷電状態qを得る場合がある。イオン化装置の稼働条件は、ガスクラスタが特定の荷電状態をとる可能性に影響する。イオン化装置の条件が強力であるほど、より高い荷電状態が達成される可能性が高くなる。より高いイオン化効率につながるイオン化装置のより強力な条件は、より高い電子束および/またはより高い(限界内)電子エネルギーによりもたらすことができる。いったんガスクラスタがイオン化されると、一般的には、イオン化装置から抽出され、ビームへと収束され、電界を下ることによって加速される。ガスクラスタイオンの加速量は加速電界の大きさを制御することによって容易に制御される。一般的な市販のGCIB加工ツールは、通常はたとえば約1kV〜70kVの調節可能な加速電位VAccを有する電界によってガスクラスタイオンを加速させる(ただしこの範囲に限定されず、最大200kVまたはそれ以上のVAccが実現可能)。したがって、一価のガスクラスタイオンは、1〜70keV(またはVAccがもっと大きい場合はそれ以上)の範囲のエネルギーを得、多価(これに限られないが、たとえば荷電状態q=3電子電荷)のガスクラスタイオンは3〜210keV(またはVAccがもっと大きい場合はそれ以上)のエネルギーを得る。その他のガスクラスタイオン荷電状態および加速電位の場合、クラスタ当たりの加速エネルギーはqVAcceVである。所与のイオン化効率を有する所与のイオン化装置から得られるガスクラスタイオンは、ゼロ(非イオン化)〜たとえば6といったさらに高い値(またはイオン化装置効率がさらに高い場合はそれ以上)まで分布する荷電状態を有し、荷電状態分布の最も可能性の高い値および平均値もまた、イオン化装置効率の上昇(電子束および/またはエネルギーの増大)と共に増加する。イオン化装置効率が高い場合、イオン化装置で形成されるガスクラスタイオンの数もまた多くなる。多くの場合、高効率でイオン化装置を稼働する結果としてGCIB電流が増大すると、GCIB加工処理量が増加する。このような稼働のマイナス面は、中サイズのガスクラスタイオンで生じ得る多価の荷電状態が、これらイオンによって孔および/または粗境界面の形成を増加させる可能性があり、これらの作用が加工目的に対して逆効果に働く場合が多いことである。したがって、多くのGCIB表面加工法において、イオン化装置稼働パラメータ選択の際は単にビーム電流を最大化するだけでなく多くの考慮事項を含む傾向がある。プロセスによっては、「圧力セル」(米国特許第7,060,989号、Swensonほかを参照)を採用して、高圧の「圧力セル」内でのガス衝突によりビームエネルギーを抑えることによって、許容範囲のビーム加工性能を得つつ、高イオン化効率でイオン化装置を稼働できるようにしてもよい。
本発明では、イオン化装置を高効率で稼働させることに不都合はなく、実際、このような稼働が好ましい場合がある。イオン化装置を高効率で稼働させると、イオン化装置によって生成されるガスクラスタイオンは幅広い荷電状態をとりうる。この結果、イオン化装置と加速電極間の抽出領域内、および下流のビーム内でも、ガスクラスタイオンは幅広い速度を有することになる。このため、ビーム内のガスクラスタイオン間の衝突頻度が増し、これが通常は、最大のガスクラスタイオンが開裂する度合いが高まることにつながる。このような開裂によりビーム内のクラスタサイズの再分布が起こり、クラスタサイズがより小さい方に傾く。これらのクラスタフラグメントは新たなサイズ(N)に比例したエネルギーを保持するため、最初の未開裂ガスクラスタイオンの加速度をほぼ保持しつつそのエネルギーは小さくなる。衝突後の速度保持に伴うエネルギーの変化は実験で実証されている(たとえば、Toyoda,N.ほかの「残留ガスとの衝突後における、ガスクラスタイオンのエネルギーおよび速度分布に対するクラスタサイズ依存」、Nucl.Instr.& Meth.in Phys.Research.B257(2007)、662〜665ページで報告されている)。また、開裂により、クラスタフラグメント内の電荷にも再分布が起きる。非荷電フラグメントが生じる可能性が高く、多価のガスクラスタイオンがいくつかの荷電ガスクラスタイオンと、場合によってはいくつかの非荷電フラグメントとに開裂する可能性がある。発明者の理解するところでは、イオン化装置内の収束場および抽出領域の設計により、小さなガスクラスタイオンおよびモノマーイオンの収束を推進することができ、これにより、ビーム抽出領域および下流のビーム内での大きなガスクラスタイオンとの衝突可能性が高まり、ガスクラスタイオンの解離および/または開裂に貢献することができる。
中性ビーム生成にあたり、イオン化装置、加速領域、ビームラインにおける背景ガス圧は任意で、良好なGCIB伝送のために通常利用されるものより高い圧力となるよう構成することができる。この結果、ガスクラスタイオンから(最初のガスクラスタイオン化事象から生じる加熱および/または励起から得られるものよりも)さらに多くのモノマーを発生させることができる。圧力は、ガスクラスタイオンの平均自由行程が充分短く、背景ガス分子と複数回衝突しなければならないように、イオン化装置とワーク間で充分に長い飛行行程を有するように構成することができる。
N個のモノマーを含み、荷電状態qを有し、VAccボルトの電場電位低下を通じて加速された均一なガスクラスタイオンの場合、クラスタはモノマー当たり約qVAcc/N1eVのエネルギーを有する。ここで、N1は、加速時のクラスタイオン中のモノマーの数である。最小のガスクラスタイオンを除き、このようなイオンと、クラスタの原料ガスと同一ガスの背景ガスモノマーとの衝突の結果、ガスクラスタイオンには約qVAcc/N1eVが追加で付与される。このエネルギーは全ガスクラスタイオンエネルギー(qVAcc)と比べて比較的小さく、通常はクラスタを励起または加熱し、次いで、クラスタからモノマーを発生させる。このような大きなクラスタと背景ガスとの衝突でクラスタが開裂することはほとんどなく、クラスタを加熱および/または励起して、蒸発または類似のメカニズムによってモノマーを発生させると考えられる。ガスクラスタイオンからのモノマー発生をもたらした励起源にかかわらず、発生したモノマーは、粒子当たりほぼ同一のエネルギーqVAcc/N1eVを有し、発生源であるガスクラスタイオンとほぼ同じ速度と軌道とを保持する。ガスクラスタイオンからこのようなモノマー発生が起きるとき、元のイオン化事象、衝突、または輻射加熱による励起または加熱のいずれから生じたかにかかわらず、電荷は大きな残留ガスクラスタイオンに留まる可能性が高い。したがって、一連のモノマー発生後、より大きなガスクラスタイオンは、共に移動するモノマーと、場合によってはより小さな残留ガスクラスタイオン1つ(あるいは開裂が起きた場合は数個)とのイオン雲に縮小している可能性がある。元のビーム軌道に沿って共に移動するモノマーはすべて、元のガスクラスタイオンとほぼ同じ速度を有し、それぞれが約qVAcc/N1eVのエネルギーを有する。小さなガスクラスタイオンの場合、背景ガスモノマーとの衝突エネルギーは、小さなガスクラスタを完全に激しく解離させる可能性が高く、このような場合、結果として生じたモノマーがビームと共に移動し続けるのか、ビームから放出されるのかは不確実である。
GCIBがワークに到達する前に、ビーム中に残留する荷電粒子(ガスクラスタイオン、特に小中サイズのガスクラスタイオンと、数個の荷電モノマーだが、大きなガスクラスタイオンが残っている場合はこれも含む)は、ビームの中性部分から分離されて、残りはワーク加工用の中性ビームだけとなる。
通常の稼働時、加工標的に送達される全量ビーム(荷電プラス中性)の出力に対する中性ビーム成分の出力割合は約5%〜95%の範囲であるため、本発明の分離方法および装置によって、全加速荷電ビームの運動エネルギーの同部分を、中性ビームとして、標的に送達することができる。
ガスクラスタイオンの解離、すなわち高エネルギーの中性モノマービーム生成は、以下により容易に得ることができる。1)より高い加速電圧で稼働する。これにより、クラスタサイズがいずれであってもqVAcc/Nが増大する。2)イオン化装置を高効率で稼働する。これによりqが増大するため、クラスタサイズがいずれであってもqVAcc/Nが増大し、クラスタ間の荷電状態の差により、抽出領域におけるクラスタイオン同士の衝突が増加する。3)イオン化装置、加速領域、またはビームラインを高圧で稼働する、または、ビームに交差するガスジェットを用いて稼働する、または、より長いビーム経路で稼働する。これらはすべて、ガスクラスタイオンのサイズがいずれであっても背景ガス衝突の可能性を高める。4)ガスクラスタイオンからのモノマー発生を直接促進するレーザ照射またはビームの輻射加熱を用いて稼働する。5)より高いノズルガス流で稼働させる。これによって、クラスタ化および場合によっては非クラスタ化ガスのGCIB軌道への移送が促進されて衝突が増し、この結果モノマーがより多く発生する。
中性ビームの測定は、ガスクラスタイオンビームには都合のよいビーム電流または電荷測定によって行なうことができない。ワークに中性ビームを照射する際の線量測定を容易にするために中性ビーム出力センサを用いることができる。中性ビームセンサは、ビーム(または任意でビームの既知のサンプル)を遮断する熱センサとすることができる。センサの温度上昇率はセンサのエネルギービーム照射から生じるエネルギー束に関連している。このような熱測定は、センサに入射するエネルギーの熱再放射を起因とするエラーを避けるため、センサの限られた範囲内の温度で行わなければならない。GCIB加工の場合、ビーム出力(ワット)はビーム電流(アンペア)×ビーム加速電圧VAccに等しい。ある期間(秒)GCIBでワークを照射するとき、ワークが受け取るエネルギー(ジュール)はビーム出力と照射時間の積である。広い領域を加工する際のこのようなビームの加工作用は、その面積(たとえばcm2)全体に分散される。イオンビームの場合、従来は都合よく、加工線量は1cm2当たりの照射イオン数として特定してきた。ここで、イオンは加速時に平均荷電状態qを有し、VAccボルトの電位差を通じて加速されたことが知られている、または推定され、これにより、各イオンがqVAcceV(eVは約1.6×10−19ジュール)のエネルギーを担持している。したがって、平均荷電状態qで、VAccにて加速され、イオン数/cm2で特定されるイオンビーム線量は、簡単に算出可能でジュール/cm2で表されるエネルギー線量に相当する。本発明で利用されるような加速GCIBから得られる加速中性ビームの場合、加速時のqの値とVAccの値は、(後で形成され分離される)ビームの荷電部分と非荷電部分の両方で同一である。GCIBの2つの部分(中性および荷電)の出力は各ビーム部分の質量に比例して分割される。したがって、本発明で採用されるような加速中性ビームの場合、等しい面積が等しい時間照射されるとき、中性ビームによって付与されるエネルギー量(ジュール/cm2)は必然的に、全量GCIBによって付与されるエネルギー量より小さくなる。熱センサを使用して全量GCIBの出力PGと中性ビームの出力PN(一般的には全量GCIBの約5%〜95%と考えられる)を測定することによって、中性ビーム加工線量測定で使用される補償係数を算出することができる。PNがaPGのとき、補償係数はk=1/aである。したがって、ワークをGCIBから得られる中性ビームを用いて加工する場合、線量D(イオン数/cm2)を得るのに必要な全量GCIB(荷電部分と中性ビーム部分を含む)の場合の加工時間よりもk倍長く設定される時間の間加工すれば、中性ビームと全量GCIBとがワークに付与するエネルギー線量はいずれも同一となる(ただし、2つのビームの粒子サイズの差異による加工作用の量的差異が原因で、結果は異なる場合がある)。本願で使用する場合、このようにして補償される中性ビーム加工線量は、線量D(イオン数/cm2)と等価のエネルギー/cm2を有するものとして説明されることがある。
その他の中性ビーム線量測定法を採用することもできる。これらの代替的方法の例は、共通の発明者による米国特許出願第13/660,295号(出願日2012年10月25日)「中性ビーム特性評価とそれによるプロセス制御のための診断法および装置」に開示されている。
以下の説明では、簡潔化のため、先に説明した図の要素符号が、後述の図で説明なく使用される場合がある。同様に、先の図に関して説明した要素が、後の図で要素符号または追加の説明なく使用される場合がある。このような場合、類似の符号を付した要素は類似の要素であり、先に説明した特徴および機能を有し、本図面に要素符号無しで示される要素は、先に説明し番号を付した図中で示される類似の要素と同一の機能を有する類似の要素を指す。
以下、GCIB加工装置1100の概略構造を示す図1を参照する。低圧容器1102は、流体接続された3つのチャンバ、すなわち、ノズルチャンバ1104、イオン化/加速チャンバ1106、処理チャンバ1108を有する。3つのチャンバは真空ポンプ1146a、1146b、1146cによってそれぞれ排気される。ガス貯蔵シリンダ1111に貯蔵される圧縮凝縮性原料ガス1112(たとえばアルゴン)は、ガス計測バルブ1113および供給管1114を通って滞留チャンバ1116へと流れ込む。滞留チャンバ1116内の圧力(通常、数気圧)により、ガスはノズル1110を通って、圧力がこれよりかなり低い真空内に噴射され、超音速のガスジェット1118を形成する。ジェット内の膨張から得られる冷却効果によって、ガスジェット1118の一部はそれぞれが数個から数千個の弱く結合した原子または分子から成るクラスタへと凝縮する。ガススキマー開口1120を使用し、クラスタジェットに凝縮しなかったガス分子を部分的にクラスタジェットから分離することによって、下流のチャンバに向かうガス流を制御する。下流チャンバ内の圧力が過大であると、ガスクラスタイオンの移送を阻害し、また、ビーム形成および移送のために採用される場合がある高電圧の管理を阻害して、有害となる場合がある。適切な凝縮性原料ガス1112は、アルゴンおよびその他の凝縮性希ガス、窒素、二酸化炭素、酸素、およびその他多くのガスおよび/またはガス混合物を含むがこれらに限定されない。超音速ガスジェット1118内のガスクラスタの形成後、ガスクラスタの少なくとも一部はイオン化装置1122内でイオン化される。当該装置は通常、1または複数の白熱フィラメント1124(またはその他の適切な電子源)からの熱放射により電子を生成して、電子を加速および案内し、ガスジェット1118内のガスクラスタと衝突できるようにする、電子衝撃イオン化装置である。電子とガスクラスタとの衝突によりガスクラスタの一部から電子が放出され、これらのクラスタが正イオン化する。クラスタによっては2つ以上の電子が放出され、多価イオン化する場合がある。通常、加速後の電子数とそのエネルギーの制御は、起こり得るイオン化の数と、ガスクラスタの多価イオン化と単価イオン化との割合に影響を及ぼす。抑制電極1142および接地電極1144はイオン化装置出口孔1126からクラスタイオンを抽出し、それらを所望のエネルギー(通常は数百V〜数十kVの加速電位)まで加速し、収束させてGCIB1128を形成する。GCIB1128がイオン化装置出口孔126と抑制電極1142間を横断する領域を抽出領域と呼ぶ。ガスクラスタを含有する超音速ガスジェット1118の(ノズル1110位置に規定される)軸は、GCIB1128の軸1154と略同一である。フィラメント電源1136は、イオン化装置フィラメント1124を加熱するフィラメント電圧Vfを供給する。アノード電源1134は、フィラメント1124から出射される熱電子を加速するアノード電圧VAを供給し、熱電子でクラスタ含有ガスジェット1118を照射してクラスタイオンを生成する。抑制電源1138は、抑制電極1142にバイアスをかける抑制電圧Vs(数百〜数千ボルト)を供給する。加速器電源1140は、抑制電極1142および接地電極1144に対してイオン化装置1122にバイアスをかける加速電圧VAccを供給し、総GCIB加速電位がVAccに等しくなるようにする。抑制電極1142は、イオン化装置1122のイオン化装置出口孔1126からイオンを抽出し、所望しない電子が下流からイオン化装置1122に入るのを防止し、収束GCIB1128を形成する役割を果たす。
GCIB加工により加工されるワーク1160、(たとえば)医療装置、半導体材料、光学素子、またはその他のワークは、ワークをGCIB1128の経路に配置するワークホルダ1162に保持される。ワークホルダは処理チャンバ1108に装着されるが、電気絶縁体1164によって電気的に絶縁されている。したがって、ワーク1160およびワークホルダ1162に衝突するGCIB1128は、導線1168を通って線量プロセッサ1170へと流れる。ビームゲート1172は、軸1154に沿ったワーク1160までのGCIB1128の伝送を制御する。通常、ビームゲート1172は開状態および閉状態を有し、(たとえば)電気的、機械的、または電気機械的なリンク機構1174によって制御される。線量プロセッサ1170は、ビームゲート1172の開/閉状態を制御して、ワーク1160およびワークホルダ1162が受け取るGCIBの線量を管理する。稼働時には、線量プロセッサ1170はビームゲート1172を開状態とし、ワーク1160へのGCIB照射を開始する。通常、線量プロセッサ1170はワーク1160とワークホルダ1162に到達するGCIB電流を統合して、GCIB累積照射線量を算出する。所定の線量になると、線量プロセッサ1170はビームゲート1172を閉状態として、所定の線量に達した時点で加工を終了する。
図2は、イオンビームの走査およびワークの操作を行なう場合の、GCIBを用いてワークを加工する別のGCIB加工装置1200の要素を示す概略図である。GCIB加工装置1200により加工されるワーク1160は、GCIB1128の経路に配置されるワークホルダ1202に保持される。ワーク1160の均一加工を達成するため、ワークホルダ1202は均一加工に必要とされる通りにワーク1160を操作するべく設計される。
非平面状、たとえば、球状またはカップ状、丸み、不規則、またはその他の非平坦な構造を有するワーク表面は、ビーム入射に対してある範囲内の角度で配向させて、ワーク表面に最適なGCIB加工を行なうことができる。加工の最適化と均一性のため、ワークホルダ1202は、加工対象のすべての非平面状表面をGCIB1128に適切に合わせて配向するために、全関節型とすることができる。より具体的には、加工中のワーク1160が非平面状である場合、ワークホルダ1202は関節/回転機構1204によって回転運動1210で回転させ、関節運動1212で関節稼働を行なうことができる。関節/回転機構1204は、縦軸1206(GCIB1128の軸1154と同軸)を中心とした360度の回転と、軸1206に垂直な軸1208を中心とした充分な関節運動とを可能にし、ワーク表面をビーム入射の所望の範囲内に維持することができる。
特定の条件下では、ワーク1160のサイズに応じて、大きなワークに均一な照射を行うために走査システムが望ましい場合がある。GCIB加工には必要ない場合が多いが、直交する2対の静電走査板1130、1132を用いて、広い加工領域に渡ってラスタまたはその他の走査パターンを生成することができる。このようなビーム走査を実行する場合、走査装置1156が導線対1159を通じて一対の走査板1132にX軸走査信号電圧を供給し、導線対1158を通じて一対の走査板1130にY軸走査信号電圧を供給する。一般的に、走査信号電圧は、GCIB1128を、ワーク1160の全表面を走査する走査GCIB1148に変換させる、様々な周波数の三角波である。走査ビーム画定開口1214が、走査領域を画定する。走査ビーム画定開口1214は導電性であり、低圧容器1102の壁に電気的に接続され、支持部材1220によって支持される。ワークホルダ1202は、可撓導線1222を介してファラデーカップ1216に電気的に接続され、該ファラデーカップは、ワーク1160およびワークホルダ1202を囲み、画定開口1214を流れる全電流を回収する。ワークホルダ1202は関節/回転機構1204から電気的に隔離され、ファラデーカップ1216は、絶縁体1218によって低圧容器1102から電気的に隔離され低圧容器1102に装着されている。したがって、走査ビーム画定開口1214を通過する走査GCIB1148からの全電流は、ファラデーカップ1216に回収されて、導線1224を通って線量プロセッサ1170まで流れる。稼働時には、線量プロセッサ1170はビームゲート1172を開状態とし、ワーク1160へのGCIB照射を開始する。通常、線量プロセッサ1170はワーク1160、ワークホルダ1202、およびファラデーカップ1216に到達するGCIB電流を統合して、単位面積当たりのGCIB累積照射線量を算出する。所定の線量になると、線量プロセッサ1170はビームゲート1172を閉状態とし、所定の線量に達した時点で加工を終了する。所定線量の累積中、ワーク1160は、所望の表面すべてを確実に加工するために、関節/回転機構1204によって操作することができる。
図3は、本発明の実施形態に係る中性ビーム加工に採用可能な例示的タイプの中性ビーム加工装置1300の概略図である。この装置は、GCIBの荷電部分と非荷電部分とを分離するために静電偏向板を使用する。ビームラインチャンバ1107は、イオン化装置、加速器領域、ワーク加工領域を囲っている。ビームラインチャンバ1107は高導電性を有するため、圧力は全体にほぼ一定である。真空ポンプ1146bはビームラインチャンバ1107を排気する。ガスは、ガスジェット1118によって運ばれるクラスタ化ガスおよび非クラスタ化ガスの形で、また、ガススキマー開口1120を通じて漏れる追加の非クラスタ化ガスの形でビームラインチャンバ1107に流れ込む。圧力センサ1330は、ビームラインチャンバ1107から電気ケーブル1332を介して圧力センサ制御部1334に圧力データを送信し、そこでビームラインチャンバ1107内の圧力が測定および表示される。ビームラインチャンバ1107内の圧力は、ビームラインチャンバ1107へのガス流と真空ポンプ1146bのポンピング速度とのバランスに依存する。ガススキマー開口1120の径、ノズル1110を通る原料ガス1112流、真空ポンプ1146bのポンピング速度を選択することによって、ビームラインチャンバ1107内の圧力は、設計とノズル流とにより決定される圧力PBに釣り合う。接地電極1144からワークホルダ162へのビーム飛行経路はたとえば100cmである。設計および調節によって、PBは約6×10−5Torr(8×10−3パスカル)とすることができる。よって、圧力とビーム路長の積は約6×10−3Torr−cm(0.8パスカル−cm)であり、ビーム用のガスは1cm2当たり約1.94×1014個のガス分子を有する濃度を目標とし、これは、GCIB1128でガスクラスタイオンを解離するのに有効であると考えられる。VAccはたとえば30kVとすることができ、GCIB1128はこの電位で加速される。一対の偏向板(1302および1304)がGCIB1128の軸1154を中心にして配置される。偏向板電源1306は導線1308を介して偏向板1302に正の偏向電圧VDを供給する。偏向板1304は、導線1312によって、電流センサ/ディスプレイ1310を通じて電気接地点に接続される。偏向板電源1306は手動で制御可能である。VDは、ゼロ電圧から、GCIB1128のイオン化部分1316を偏向板1304上に完全に偏向させるのに充分な電圧(たとえば数千ボルト)まで調節することができる。GCIB1128のイオン化部分1316が偏向板1304上に偏向されると、結果として生じる電流IDは、表示用に導線1312と電流センサ/ディスプレイ1310とを流れる。VDがゼロのとき、GCIB1128は偏向されずにワーク1160およびワークホルダ1162へ移動する。GCIBビーム電流IBはワーク1160およびワークホルダ1162上で回収され、導線1168および電流センサ/ディスプレイ1320を通って電気接地点まで流れる。IBは電流センサ/ディスプレイ1320に示される。ビームゲート1172は、ビームゲート制御部1336によって、リンク機構1338を介して制御される。ビームゲート制御部1336は手動で、あるいは電気的または機械的に、所定値によって時間を調整され、所定の間隔でビームゲート1172を開くことができる。使用時、VDはゼロに設定され、ワークホルダに衝突するビーム電流IBが測定される。所与のGCIB加工法での過去の経験に基づき、所与の加工での最初の照射時間は、測定された電流IBに基づいて決定される。VDは、すべての測定ビーム電流がIBからIDに移り、IDがVDの増加と共に増加しなくなるまで増大される。この時点で、最初のGCIB1128の解離エネルギー成分を含有する中性ビーム1314がワークホルダ1162を照射する。次いで、ビームゲート1172が閉じられ、ワーク1160が従来のワーク装填手段(図示せず)によってワークホルダ1162に配置される。ビームゲート1172は所定の、最初の照射時間の間、開状態とされる。照射期間の後、ワークを検査し、加工時間を必要に応じて調節し、測定されたGCIBビーム電流IBに基づき中性ビーム加工時間を較正することができる。このような較正プロセスの後、さらなるワークを較正された照射期間を用いて加工することができる。
中性ビーム1314は、加速GCIB1128の最初のエネルギーの反復可能部分を含む。元のGCIB1128の残りのイオン化部分1316は、中性ビーム1314から除去され、接地された偏向板1304によって回収される。中性ビーム1314から除去されるイオン化部分1316は、モノマーイオンと、中サイズのガスクラスタイオンを含むガスクラスタイオンとを含む場合がある。イオン化プロセス中のクラスタ加熱、ビーム間衝突、背景ガス衝突、その他の原因(すべてがクラスタの侵食を招く)によるモノマーの蒸発メカニズムにより、中性ビームはほぼ中性モノマーから成る一方、分離された荷電粒子は大半がクラスタイオンである。発明者は、中性ビームの再イオン化や、結果として生じたイオンの電荷質量比の測定を含む、適切な測定によって、このことを確認した。以下で示すように、特定の優れた加工結果は、この中性ビームを用いてワークを加工することによって得られる。
図4は、本発明の実施形態で採用することができる、たとえば中性ビーム生成の際に使用される、中性ビーム加工装置1400の概略図である。この装置は、中性ビームの測定用に熱センサを使用する。熱センサ1402は、低伝熱性装着部1404を介して、旋回軸1412に装着された回転支持アーム1410に装着される。アクチュエータ1408は、可逆性回転運動1416を介して、熱センサ1402が中性ビーム1314またはGCIB1128を遮断する位置と熱センサ1402がビームを遮断しない1414で示す停止位置との間で、熱センサ1402を移動させる。熱センサ1402が(1414で示す)停止位置にあるとき、GCIB1128または中性ビーム1314は、経路1406に沿って進行し続け、ワーク1160および/またはワークホルダ1162を照射する。熱センサ制御部1420は熱センサ1402の配置を制御し、熱センサ1402によって生成される信号の処理を実行する。熱センサ1402は電気ケーブル1418を通じて熱センサ制御部1420と通信する。熱センサ制御部1420は電気ケーブル1428を通じて線量測定制御部1432と通信する。ビーム電流測定装置1424は、GCIB1128がワーク1160および/またはワークホルダ1162に衝突したときに導線1168に流れるビーム電流IBを測定する。ビーム電流測定装置1424は、電気ケーブル1426を介して線量測定制御部1432にビーム電流測定信号を伝達する。線量測定制御部1432は、リンク機構1434を介して送信される制御信号に従い、ビームゲート1172の開閉状態の設定を制御する。線量測定制御部1432は、電気ケーブル1442を介して偏向板電源1440を制御し、ゼロ電圧と、GCIB1128のイオン化部分1316を偏向板1304に完全に偏向させるのに充分な正電圧との間で偏向電圧VDを制御することができる。GCIB1128のイオン化部分1316が偏向板1304に衝突すると、結果として生じる電流IDが電流センサ1422によって測定され、電気ケーブル1430を介して線量測定制御部1432に伝達される。稼働時には、線量測定制御部1432は熱センサ1402を停止位置1414に設定し、ビームゲート1172を開状態とし、全量GCIB1128がワークホルダ1162および/またはワーク1160に衝突するように、VDをゼロに設定する。線量測定制御部1432は、ビーム電流測定装置1424から送信されるビーム電流IBを記録する。次に、線量測定制御部1432は、熱センサ制御部1420から中継されるコマンドに従い、熱センサ1402を停止位置1414からGCIB1128を遮断するように移動させる。熱センサ制御部1420は、センサの熱容量と、熱センサ温度が上昇し所定の測定温度(たとえば70℃)を越えるときの熱センサ1402の温度上昇測定速度とに基づき算出されるGCIB1128のビームエネルギー束を測定し、算出したビームエネルギー束を線量測定制御部1432に伝達し、線量測定制御部1432は、熱センサ1402によって測定されたビームエネルギー束の較正値と、これに対応する、ビーム電流測定装置1424によって測定されるビーム電流を算出する。線量測定制御部1432は次いで、熱センサ1402を停止位置1414に停止させることによってこれを冷却させ、GCIB1128のイオン化部分による電流IDがすべて偏向板1304に移送されるまで、正電圧VDを偏向板1302に印加するよう命じる。電流センサ1422は対応するIDを測定し、これを線量測定制御部1432に伝える。また、線量測定制御部は、熱センサ制御部420を介して中継されるコマンドに従い、熱センサ1402を停止位置1414から移動させて、中性ビーム1314を遮断する。熱センサ制御部420は予め決定された較正係数と、熱センサ温度が上昇し所定の測定温度を越えたときの熱センサ1402の温度上昇速度とを用いて、中性ビーム1314のビームエネルギー束を測定し、中性ビームエネルギー束を線量測定制御部1432に伝達する。線量測定制御部1432は中性ビーム割合を算出する。これは、センサ1402における全量GCIB1128のエネルギー束の熱測定値に対する、中性ビーム1314のエネルギー束の熱測定値の割合である。通常稼働時には、約5%〜約95%の中性ビーム割合が得られる。加工開始前に、線量測定制御部1432は電流IDも測定し、IBとIDの最初の値間の電流比を算出する。加工中、IBを連続測定する代わりに、IDの瞬時値に最初のIB/IDの割合を掛けて使用することができ、これを、線量測定制御部1432による加工制御中の線量測定に使用することができる。よって、線量測定制御部1432は、あたかも全量GCIB1128の実際のビーム電流測定が利用可能であるかのように、ワーク加工中のいかなるビーム変動を補償することができる。線量測定制御部は中性ビーム割合を使用して、特定のビーム加工に要する所望の加工時間を計算する。加工中に、較正測定値IDに基づき加工時間を調節し、加工中に起こりえるビーム変動を補正することができる。
図5A〜5Dは、ここでは金の薄膜であるワーク上の、全量ビームと電荷分離ビームとの比較作用を示す。実験環境では、シリコン基板に蒸着された金膜を、全量GCIB(荷電成分および中性成分)、中性ビーム(ビームから荷電成分が外へ偏向された)、および荷電成分のみを含む偏向ビームで加工した。3つの条件はすべて同一の、最初に30kVで加速されたアルゴンGCIBから得たものである。加速後のビーム経路には1cm2当たり約2×1014個のアルゴンガス原子が存在することを目標ガス濃度とした。3つのビームそれぞれについて、1cm2当たり2×1015のガスクラスタイオン量で全量ビーム(荷電プラス中性)によって担持される総エネルギーに一致するよう照射した。各ビームのエネルギー束速度を熱センサを用いて測定し、加工時間は、各サンプルが全量(荷電プラス中性)GCIB線量と等価の総熱エネルギー量を確実に受け取るように調節した。
図5Aは、約2.22nmの平均粗度Raを有する蒸着金膜サンプルの、原子間力顕微鏡(AFM)による5ミクロン角の走査像と統計分析を示す。
図5Bは、平均粗度Raが約1.76nmに低減されている、全量GCIBで加工した金表面のAFM走査像を示す。
図5Cは、平均粗度Raが約3.51nmに増大している、ビームの荷電成分のみ(中性ビーム成分からの偏向後)を使用して加工した表面のAFM走査像を示す。
図5Dは、平均粗度Raが約1.56nmまで平滑化されている、ビームの中性成分(荷電成分が中性ビームから外に偏向された後)のみを用いて加工された表面のAFM走査像を示す。全量GCIB加工サンプル(B)は蒸着膜(A)よりも滑らかである。中性ビーム加工サンプル(D)は全量GCIB加工サンプル(B)よりも滑らかである。ビームの荷電成分で加工されたサンプル(C)は蒸着膜よりもかなり粗い。この結果が示すように、ビームの中性成分は、全量GCIBに比べて非常に高い平滑化の一因となり、ビームの荷電成分は粗化の一因となる。
図6は、GCIBから得られた加速中性ビームを用いて、シリコン基板上のシリカ(二酸化ケイ素、SiO2)膜をエッチング、および、シリコン基板をエッチングした後に得られた、深さ方向分析の計測グラフ1200を示す。図4に示すものと同様の装置を使用し、アルゴンを用いて30kVで加速GCIBを形成した。滞留チャンバ内の圧力は28psi(1.93×105パスカル)、ノズル流は200標準cm3/分(3.3標準cm3/秒)とした。全量ビーム電流(偏向による分離前の荷電および中性成分)は約0.50マイクロアンペア(μA)であった。加速器とワーク間領域のアルゴンガス目標濃度は1cm2当たりのアルゴンガスモノマー数が約1.49×1014であり、加速中性ビームは、標的において、実質的に完全に解離した中性モノマーからなることが観測された。静電偏向を用いて、荷電粒子をすべてビーム軸から外れるようビーム外へ偏向し、中性ビームを形成した。したがって、中性ビームは、実質的に、アルゴン中性モノマーの加速ビームであった。熱センサを用いて線量測定を行ない、シリコン基板に供給される総中性ビーム線量を較正し、荷電および非荷電粒子の双方を含む(電荷分離により中性化していない)加速GCIB(30kV)であれば1cm2当たり2.16×1016個のガスクラスタイオン照射線量によって付与されるようなエネルギーと等価のエネルギーを中性ビームが付与するようにした。シリコン基板上のシリカ膜(厚さ約0.5ミクロン[μm])は、ポリイミドフィルムテープの細長い片(幅約0.7mm)で部分的に覆い、加速中性ビームを照射した。照射に続き、ポリイミドテープは取り除かれた。図6を再び参照すると、深さ方向分析の計測グラフ1200は、側面計TENCOR Alpha−Step250を用い、(シリコン基板上の)SIO2膜表面に沿い、ポリイミドフィルムテープにより覆われた領域をまたぐ方向に、加速中性ビームによるエッチングで生じた段差形状を測定して作成されたものである。平坦部1202はポリイミドフィルム下の(フィルム除去および洗浄後の)SiO2膜の非エッチング面を表し、領域1204はエッチングされた部分を表す。加速中性ビームによるエッチングは約2.4ミクロン(μm)の深さまで達し、0.5ミクロンのSiO2膜を貫通した上に、その下の結晶シリコン基板内にさらに1.9ミクロン侵入し、深さ方向分析の計測グラフ1200に示す段差を形成している。この結果は、中性ビームによるシリカエッチングの有効性を示している。アルゴンおよびその他の不活性ガスを、物理的手段による中性ビームエッチングの原料ガスとして用いることができる。
図7A〜図7Eは、従来の加工を本発明の一実施形態に係る加工に対して比較した、フォトマスク基板の加工工程を示す概略図である。
図7Aは、CMP平滑化、平坦化、および/または追加の二次研磨などの先の加工の結果として存在し得る、最上層の浅い表面損傷領域1404に欠陥を有するシリカフォトマスク基板1402を示す概略図1400である。このような欠陥は(たとえば1408で示す)埋め込まれた粒子、または、(たとえば1410で示す)表面下損傷を含む場合がある。浅い表面損傷領域1404の下側境界1406は、フォトマスク基板1402の最上面下の深さdにある。同図は、表面平滑化/平坦化工程(CMPまたはCMPプラス二次研磨)完了後のフォトマスク基板加工における典型的な中間過程を示している。
従来のフォトマスク基板研磨では、図7Aに示す加工過程の後、基板上への蒸着などの従来の後続工程へと進む前に、基板を(たとえば超音波溶媒キャビテーションなどの)強力な撹拌ウェットクリーニング加工により洗浄し、良好なフォトマスク形成を阻害しかねない、残留研磨スラリーまたはその他の汚染粒子を除去するのが通例である。
図7Bは、従来の強力洗浄(たとえば強力撹拌ウェットクリーニング加工など)後の段階にあるフォトマスク基板を示す概略図1420である。洗浄加工の結果、埋め込まれていた粒子が放出され、埋設粒子跡の孔が現れ(例えば1422で示す)、表面下損傷の領域が最上層まで移動して、孔および/または凹み(たとえば1424で示す)として露わになっている。表面下損傷1410のさらなる領域は、移動して表面に孔や凹みを形成しない場合がある。1422や1424などの表面欠陥は小さく、加工のこの段階では検知されず、続く蒸着工程などの従来の後続加工過程や、後に、相当の加工費用がさらに費やされた後になって初めて、現れる場合がある。
本発明の一実施形態によれば、フォトマスク基板には、加工フローの変形例を採用することができる。すなわち、図7Aに示す従来の工程の後、表面欠陥が現れる原因となるような強力洗浄工程を行なう前に、中性ビームを用いて表面を加工し、フォトマスク基板の最上面を、表面損傷1406の下側境界および浅い表面損傷領域1404を含む深さdと同等またはこれより大きい深さの所定深さまでエッチング除去する。このためには浅い表面損傷領域1404の深さdを求める必要があるが、この深さは、先のCMPおよび/または二次研磨加工プロセスおよび基板材料に依存する。また、中性ビームの照射ビームパラメータ(ビーム加速度、エッチング用原料ガス選択、および中性ビーム線量)や、基板材料のエッチングし易さ特性を求める必要もある。深さdは、典型的には、約10ナノメータから数百ナノメータまでであることが分かっている。中性ビーム加工パラメータの選択は、典型的には、アルゴンを原料ガスとし、加速電位VAccを30kVとし、線量は、基板材料に深さdと等しいかまたはこれを越える深さまでエッチングするための、予め求めたものとすることができる。従来のプロセス開発技術を用いて、深さdとこれに対応する必要なエッチング深さを、特定のビーム条件一式に対する基板材料と中性ビーム線量の関数として求めることができる。
図7Cは、図7Aに示す従来の加工状態に続く、本発明の一実施形態に係る中性ビームによるエッチング工程を示す概略図1440であり、中性ビームエッチング工程を用いて、(たとえば超音波溶媒キャビテーションなどの)強力な撹拌ウェットクリーニングまたはその他の強力な洗浄工程を行なう前に損傷領域を取り除いている。中性ビーム1442を、(たとえば原料ガスはアルゴン、加速電位VAccは30kVの)ビーム条件を用い、少なくとも浅い表面損傷領域1404のすべてをエッチングにより除去するに充分な所定線量にて、フォトマスク基板1402表面に照射する。エッチング工程によって、埋設粒子1408、表面下損傷領域1410、その他の基板材料を、少なくともdの深さまで取り除く。中性ビームエッチングではCMPのように機械的ストレスが生じないので、新たな表面下損傷が形成されることはなく、ビームは非荷電のため、イオンビームやプラズマエッチングでは起こりえる電荷効果による表面下欠陥が生じ易いということもない。
図7Dは、本発明の一実施形態に係る図7Cに示すエッチング工程の後の、フォトマスク基板1402の状態を示す概略図1460である。元の浅い表面下損傷領域は中性ビーム照射によるエッチングにより完全に取り除かれている。フォトマスク基板1402の上面1464は、元の浅い表面下損傷領域の元の下側境界1406と同じ位置(または場合によってはこれより下)にある。エッチング工程またはその他の処理から残った汚染物質の(たとえば1462で示す)残留粒子が上面1464上に存在する場合がある。
図7Dに示す状態に続き、本発明の一実施形態によれば、(強力撹拌ウェットクリーニング工程などの)従来の強力洗浄工程を採用し、表面上から残留粒子1462を取り除く。埋設粒子や表面下損傷領域はもう存在しないため、強力洗浄を採用しても、フォトマスク基板1402の上面1464に孔や凹みが発生することはない。
図7Eは、中性ビームを用いて、元の浅い表面下損傷領域を、後続の洗浄前にエッチングにより除去する工程を含む、本発明のワークフロー変形例による加工後のフォトマスク基板を示す概略図1480である。フォトマスク基板1402は、孔や凹みがなく清浄で、粒子汚染もない上面1464を有している。たとえば蒸着やパターニングを含むさらなる従来のフォトマスク加工を行なう準備ができている。
本発明は、溶融シリカフォトマスク基板表面の加工に、GCIBから得られる中性ビームを用いるものとして、例示の目的で説明したが、発明者らが理解するところでは、このような表面加工の利用により得られる利点はこの特定の材料に限られるものではなく、本発明は、その他のフォトマスク基板材料およびセラミック、ポリマー、ガラス、金属などの、その他材料の加工にも良好に用いることができ、このような用途もすべて本発明の範囲に含まれることを意図している。さらに、発明者らの理解するところでは、本発明は、その他の光学機器など、フォトマスク基板以外の用途において高品質表面を製造するのに適し、また、熱衝撃、機械的撹拌、水性処理または化学処理、表面に塗布される追加コーティングからのストレスの始まりなどの期間に欠陥をさらに広めかねない、表面下欠陥領域を起因として表面欠陥が形成し始める場合の、その他材料や装置における問題を改善するのに適し、このような材料や用途もすべて本発明の範囲に含まれることを意図している。本発明は、CMP加工から生じる潜在的損傷の除去について説明してきたが、発明者らの理解するところでは、本発明は、ダイヤモンド切削加工、研磨剤研磨、またはその他の、潜在的表面下損傷を生じさせる、または放出されやすい粒子を重要表面に埋設するような加工を起因とする潜在的損傷を除去することもでき、このような用途もすべて本発明の範囲に含まれることを意図している。本発明を様々な実施形態に関して説明したが、本発明および添付の請求項の精神および範囲内で、幅広い多様なその他の実施形態も可能であると理解すべきである。