JP2016204690A - 延性と疲労特性と耐食性に優れた高強度熱延鋼板とその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】所定の成分組成を有する鋼において、隣接する結晶粒の粒界の方位差が15°以上である結晶粒であって、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒を面積率で50%以上含み、さらに マルテンサイトと焼き戻しマルテンサイトと残留オーステナイトの合計が面積分率で2%以上10%以下であり、さらに(a)式で表わされるTiefの40%以上の質量%のTiがTi炭化物として存在し、当該Ti炭化物の円相当粒径が7nm以上20nm以下であるものの質量が、全Ti炭化物の質量の50%以上であることを特徴とする、延性と疲労特性と耐食性に優れた高強度熱延鋼板。
Tief=[Ti]−48/14×[N]−48/32×[S]・・・(a)
【選択図】なし
Description
特許文献3にて提案された鋼板は多量のVを含有する。
特許文献4にて提案された鋼板は、結晶粒を微細化するため、圧延の途中で冷却することが必要である。
そのため、これらの鋼板には、合金コストや製造コストが高くなるという問題がある。また、これらの鋼板においてもフェライト自体を大きく高強度化させたことにより伸びは劣化してしまっている。これらの鋼板は、ベイナイトやベイニティックフェライトの単一組織鋼の伸びを上回るものの、伸び−穴広げ性バランスは必ずしも十分ではなかった。
特許文献17には、疲労き裂は表面近傍から発生するため、表面近傍の組織を微細化することが記載されている。
特許文献18には、マルテンサイト組織の細粒化による疲労特性の向上が記載されている。しかし、細粒化は切り欠きの無い材料の疲労特性を向上させ、延性も損なわないものの、強度の上昇量が固溶強化・析出強化などの強化機構と比較して小さいため、鋼板の高強度化が進む中で細粒化のみで疲労特性を担保するには限界があった。
非特許文献1では、固溶強化・析出強化・細粒強化が引張強さと疲労特性に与える影響を調査し、引張強さの上昇量に対する疲労強度の上昇量は、固溶強化>析出強化>細粒強化の順であると報告されている。
非特許文献2では、鋼中のCuの存在状態を固溶から析出に変化させると、疲労特性が低下すると報告されている。
特許文献19では、微細なフェライトを主相とした組織中に硬質なベイナイトまたはマルテンサイトを分散させることで、切り欠きの無い材料の疲労特性と切り欠き疲労特性を両立させている。しかし、プレス成形性を向上させるための手法が記載されておらず、ベイナイトやマルテンサイトの硬度や形状に格別の注意を払っていないため、良好なプレス成形性を備えていないと考えられる。
このように、析出強化鋼ではき裂の無い材料の疲労特性が課題であり、切り欠き疲労特性、切り欠きの無い平滑材の疲労特性とプレス成形性の両立に関しては析出強化鋼に限らず、有効な解決手段は提案されていない。
そして、この均一伸び(u―El)は、プレス成形性を確保するため、引張強さ(TS)≧540MPaで、(TS)×(u―El)≧8000MPa%を満たすことが必要である。また、日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の試験方法による穴広げ率(λ)は、足回り部品をプレスした際に伸びフランジ性が不足して割れが生じることがないようにするため、(TS)×(λ)≧36000MPa%を満たすことが必要である。
また、ここで(TS)はJIS Z 2241:2011に基づいて測定される引張強さを表す。
化学組成が、質量%で、
C :0.030〜0.200%、
Mn:0.10〜3.00%、
P :0.100%以下、
S :0.0300%以下、
Al:0.100〜2.000%、
N :0.0100%以下(0は含まない)、
O :0.0100%以下、
Ti:0.010〜0.380%、
残部がFeおよび不可避的不純物であって、(a)式で表わされるTiefが0.01〜0.30%であり、
隣接する結晶粒の粒界の方位差を15°以上とした結晶粒であって、前記結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒を面積率で50%以上含み、さらに
マルテンサイトと焼き戻しマルテンサイトと残留オーステナイトの合計が面積分率で2%以上10%以下であり、
(a)式で表わされるTiefの40%以上の質量%のTiが、Ti炭化物として存在し、当該Ti炭化物の円相当粒径が7nm以上20nm以下のものの質量が、全Ti炭化物の質量の50%以上であることを特徴とする、延性と疲労特性と耐食性に優れた高強度熱延鋼板。
Tief=[Ti]−48/14×[N]−48/32×[S]・・・(a)
但し、[Ti][N][S]はそれぞれTi、N、Sの質量%を示す。
(2)
さらに質量%で、
Si:0.500%以下、
Nb:0.010〜0.100%、
V :0.010〜0.300%、
Cu:0.01〜1.20%、
Ni:0.01〜0.60%、
Cr:0.01〜2.00%
Mo:0.01〜1.00%、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする、(1)に記載の延性と疲労特性と耐食性に優れた高強度熱延鋼板。
(3)
さらに質量%で、
Mg:0.0005〜0.0100%、
Ca:0.0005〜0.0100%、
REM:0.0005〜0.1000%、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする、(1)または(2)のいずれかに記載の延性と疲労特性と耐食性に優れた高強度熱延鋼板。
(4)
さらに質量%で、
B:0.0002〜0.0020%、
を含有することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の延性と疲労特性と耐食性に優れた高強度熱延鋼板。
(5)
(1)〜(4)のいずれか1つに記載の延性と疲労特性と耐食性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法であって、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の成分組成を有するスラブを、式(b)で規定されるT1以上の温度に加熱し、加熱したスラブを熱間圧延するに際し、
鋼板の中心温度が1000℃から式(d)により求めるAr3温度になるまでの時間(t1)を9.0秒以内とし、
熱間圧延のうち複数段の連続圧延からなる仕上圧延において圧下率が10%以上である仕上圧延の段のうち、最も後段側の仕上圧延の段を、式(c)で規定される温度T2に対して(T2−20)℃以上(T2+100)℃以下の圧延温度で行い、その後得られた熱延鋼板を、
平均冷却速度20℃/秒以上で730℃以上830℃以下の温度まで冷却し、その後
730℃以上830℃以下の温度域で3秒以上空冷し、その後平均冷却速度40℃/秒以上で冷却し、その後300℃以下の温度で巻き取ることを特徴とする延性と疲労特性と耐食性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
T1(℃)=7000/{2.75−log([Ti]×[C])}−273・・・(b)
T2(℃)=870+10×([C]+[N])×[Mn]+350×[Nb]+250×[Ti]+40×[B]+10×[Cr]+100×[Mo]+100×[V]・・・(c)
Ar3(℃)=868−396×[C]−68.1×[Mn]+24.6×[Si]−36.1×[Ni]−24.8×[Cr]−20.7×[Cu]+250×[Al]・・・(d)
ただし、式(d)で計算されるAr3温度が900℃を超える場合には、Ar3=900℃とし、式中の[X]は、鋼中に含有する成分元素Xの質量%を表す。
なお、式(a)(b)(c)(d)中の角カッコ([ ])は、カッコ内の元素の鋼板中の質量%を示す(以下、本明細書において同じ。)。
[鋼板の化学成分]
まず、本発明の熱延鋼板の化学成分の限定理由を説明する。なお、含有量の%は質量%である。
Cは本発明において重要な元素の一つである。Cはマルテンサイトを生成させオーステナイトを安定化させることに加え、Ti炭化物を形成するため組織強化および析出強化による熱延鋼板の強度向上に大きく寄与する。0.030%未満では強度540МPaを確保できない。また、硬質相分率が増大すると切り欠き疲労特性が向上する傾向があるため、0.050%以上の添加が望ましく、0.060%であれば更に望ましい。
一方、0.200%超添加すると硬質第二相である低温変態生成物の面積率が増加して穴広げ性が低下する。添加量が少なくなるほど穴広げ性は向上する傾向にあるので、望ましくは0.180%以下が望ましく、0.150%以下であれば更に望ましい。
従って、Cの含有量は0.030%〜0.200%とする。
Siは脱酸元素であると同時にフェライトの生成に関わり、その含有量の増加に伴いフェライト域温度を高温側に拡大させて、フェライトとオーステナイトの二相域温度域を拡大する元素である。本発明の複合組織鋼を得るためには本来はSiを含有することが望ましい。しかしながら、本発明においてはAlを0.100%以上添加することによりフェライト域温度を高温側に拡大させているため、Siの添加は必須ではない。
また、Siはタイガーストライプ状のSiスケール模様を鋼板表面に顕著に発生させ、著しく表面性状を劣化させる。そして、精整ラインでのスケール除去工程(酸洗等)の生産性を極端に低下させる場合がある。Siを0.500%超含有すると、著しく表面性状が劣化し、酸洗工程の生産性が極端に悪化する。また、如何なるスケール除去方法を実施しても、化成処理性が劣化し、塗装後耐食性が低下する。従って、Siの含有量は0.500%以下とする。
一方、Siを0.070%超含有すると、Siスケール模様が鋼板表面に散見され始める。従って、望ましくはSi含有量を0.070%以下にするとよく、0.050%以下にすると更によい。
Mnは、固溶強化に加え、焼入れ性を高め鋼板組織中にマルテンサイトまたはオーステナイトを生成させるために添加する。Mn含有量が3.00%超となるように添加すると、鋼板の板厚方向の中心部にМnの偏析帯が生じ、この偏析帯が割れの起点になるため穴広げ率が低下する。一方では、Mn含有量が0.10%未満では、冷却中に穴広げ率低下の原因となるパーライトの抑制効果を発揮しにくい。従って、Mnの含有量は0.10%〜3.00%とする。
また、焼き入れ性を十分確保しパーライトの抑制効果を確実にする観点からMnの含有量を0.30%以上にすることが望ましく、0.50%以上であると更に望ましい。一方、中心偏析の増大による延性の低下を抑制する観点からMnの含有量が2.50%以下にすることが望ましく、2.00%以下であれば更に望ましい。
Pは、溶銑に含まれている不純物であり、粒界に偏析し、含有量の増加に伴い低温靭性を低下させる元素である。このため、P含有量は、低いほど望ましく、0.100%超含有すると加工性や溶接性に悪影響を及ぼすので、0.100%以下とする。特に、溶接性を考慮すると、P含有量は、0.030%以下であることが望ましい。
Sは、溶銑に含まれている不純物であり、含有量が多すぎると、熱間圧延時の割れを引き起こすばかりでなく、穴広げ性を劣化させるMnSなどの介在物を生成させる元素である。このためSの含有量は、極力低減させるべきであるが、0.0300%以下ならば許容できる範囲であるので、0.0300%以下とする。ただし、ある程度の穴広げ性を必要とする場合のS含有量は、好ましくは0.0100%以下、より好ましくは0.0050%以下である。
Alは、溶鋼の脱酸剤として有効な元素である。また、Alは強力なフェライト生成元素であり、Ar3温度を上昇させる効果があるため、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒を面積率で50%以上とするために必須の元素である。これらの効果を得るため、Al含有量の下限を0.100%とする。好ましいAl含有量の下限は0.130%であり、より好ましいAl含有量の下限は0.150%である。
一方、Al含有量が2.000%を超えると圧延中に割れが発生することがある。そのため、Al含有量の上限を2.000%とする。また、Al含有量が1.000%を超えると溶接性や靭性などが劣化し始めるので、好ましいAl含有量の上限は、1.000%であり、より好ましいAl含有量の上限は、0.500%である。
Nは、TiNとして存在することで、スラブ加熱時の結晶粒径の微細化を通じて、低温靭性向上に寄与することから、添加してもよい。ただし、鋼中の窒化物は穴広げ率を低下させるため、0.0100%以下にする必要がある。望ましくは0.0050%以下である。
一方、0.0005%と以下とすることは経済的に望ましくないので、0.0005%以上とすることが望ましい。
Oは、酸化物を形成し、成形性を劣化させることから、添加量を抑える必要がある。特に、Oが0.0100%を超えると、この傾向が顕著となることから0.0100%以下にする必要がある。
一方、0.0010%未満とすることは経済的に好ましくないので、0.0010%以上とすることが望ましい。
Tiは、優れた疲労強度と析出強化による高強度を両立させるため、添加する。Tiが0.010%未満では析出強化の効果を得られないため、0.010%以上添加することが必要である。0.380%超添加すると上記効果は飽和して経済性が低下する。従って、Tiの含有量は0.010%〜0.380%とする。
Tief=[Ti]−48/14×[N]−48/32×[S]・・・(a)
Ti窒化物やTi硫化物はTi炭化物より高温で生成する。このため、鋼中のNやSが多いとTi炭化物を十分に生成させることができない。よって、Ti炭化物の生成に係る指標として(a)式で表わされるTiefという指標を用いた。Tiefが0.010%未満であるとTi炭化物の析出量が少ないため、Tiの炭化物による疲労強度と高強度の両立ができなくなる。望ましくはTiefは0.025%以上である。また、Tiefが0.300%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。さらに、Tiefが0.150%超では鋳造時にタンディッシュノズルが詰まりやすくなる恐れがあるため、0.150%以下とすることが望ましい。
Nbは、この炭窒化物、あるいは、固溶Nbが熱間圧延時の粒成長を遅延することで、熱延板の粒径を微細化でき、低温靭性を向上させるので添加しても良い。Nb含有量が0.100%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。また、Nb含有量が0.010%未満では上記効果を十分に得ることができない。したがって、必要に応じてNbを含有させる場合、Nb含有量は0.010%〜0.100%にすることが望ましい。
Vは、析出強化もしくは固溶強化により熱延鋼板の強度を向上させる効果がある元素であり、添加してもよい。V含有量が0.300%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。また、Vの含有量が0.010%未満では上記効果を十分に得ることができない。従って、必要に応じてVを含有させる場合、V含有量は0.010%〜0.300%にすることが望ましい。
Cuは、析出強化もしくは固溶強化により熱延鋼板の強度を向上させる効果がある元素であり、添加してもよい。Cu含有量が2.00%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。また、Cuの含有量が0.01%未満では上記効果を十分に得ることができない。Cuの含有量が1.20%超では鋼板の表面にスケール起因の傷が発生することがある。従って、必要に応じてCuを含有させる場合、Cu含有量は0.01%〜1.20%にすることが望ましい。
Niは、析出強化もしくは固溶強化により熱延鋼板の強度を向上させる効果がある元素であり、添加してもよい。Ni含有量が2.00%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。また、Niの含有量が0.01%未満では上記効果を十分に得ることができない。Niの含有量が0.60%を超えると延性が劣化し始める。従って、必要に応じてNiを含有させる場合、Ni含有量は0.01%〜0.60%にすることが望ましい。
Crは、析出強化もしくは固溶強化により熱延鋼板の強度を向上させる効果がある元素であり、添加してもよい。Cr含有量が2.00%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。また、Crの含有量が0.01%未満では上記効果を十分に得ることができない。従って、必要に応じてCrを含有させる場合、Cr含有量は0.01%〜2.00%にすることが望ましい。
Moは、析出強化もしくは固溶強化により熱延鋼板の強度を向上させる効果がある元素であり、添加してもよい。Mo含有量が1.00%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。また、Moの含有量が0.01%未満では上記効果を十分に得ることができない。従って、必要に応じてMoを含有させる場合、Mo含有量は0.01%〜1.00%にすることが望ましい。
Mgは、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素であることから、添加してもよい。Mgの含有量が0.0100%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。また、Mgの含有量は、0.0005%以上の添加で効果が顕著になる。従って、必要に応じてMgを含有させる場合、Mg含有量は0.0005%〜0.0100%にすることが望ましい。
Caは、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素であることから、添加してもよい。Caの含有量が0.0100%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。また、Caの含有量は、0.0005%以上の添加で効果が顕著になる。従って、必要に応じてCaを含有させる場合、Ca含有量は0.0005%〜0.0100%にすることが望ましい。
REM(希土類元素)は、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素であることから、添加してもよい。REMの含有量が0.1000%を超えて添加しても上記効果は飽和して経済性が低下する。また、REMの含有量は、0.0005%以上の添加で効果が顕著になる。従って、必要に応じてREMを含有させる場合、REM含有量は0.0005%〜0.1000%にすることが望ましい。
Bは粒界に偏析し、粒界強度を高めることで低温靭性を向上させる。このことから、添加しても良い。Bの添加量が0.0100%超の場合は、その効果が飽和するので経済性に劣る。また、この効果は、鋼板へのB添加量が0.0002%以上とすることで顕著となる。また、Bは強力な焼き入れ元素であり、0.0020%超を添加した場合、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°であるような結晶粒の面積率を減じてしまうおそれがある。従って、必要に応じてBを含有させる場合、B含有量は0.0002%〜0.0020%にすることが望ましい。
鋼板のミクロ組織について説明する。
鋼板のミクロ組織を、結晶方位解析に多く用いられるEBSD法(電子ビーム後方散乱回折パターン解析法)を用いて、1μm以下の測定間隔でEBSD解析する。EBSD解析で得られた1μm以下の測定間隔の測定点の方位について、隣接する測定点同士の方位差が15°以上である場合を粒界とし、この粒界によって囲まれる領域を結晶粒と定義する。
そして、この結晶粒の内側にある全ての測定点の方位について、隣接する測定点同士の方位差を求め、これらの方位差の平均値を、結晶粒内の方位差の平均とする。
本発明の鋼板は、この結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒が、全ての結晶粒に対して面積率で50%以上含むことを特徴とする。このような結晶粒は延性が高く、さらにTi炭化物により析出強化されている。そのため、このような結晶粒を一定の割合以上確保することで、引張強さ(TS)を540MPa以上に維持しつつ、延性を向上させることができる。
板幅の1/4W(幅)または3/4W(幅)のいずれかの位置において、鋼板の幅方向を圧延方向からみた断面(幅方向断面)が観察面となるように試料を採取し、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置で、鋼板の幅方向200μm×厚さ方向100μmの矩形領域を0.2μmの測定間隔でEBSD解析する。
ここでEBSD解析は、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(例えば、JEOL製JSM−7001F)とEBSD検出器(例えば、TSL製HIKARI検出器)で構成された装置を用い、200〜300点/秒の解析速度で実施する。得られた結晶方位情報に対して、結晶粒内の方位差15°以上かつ円相当径(直径)で0.3μm以上の結晶粒を抽出し、結晶粒内の平均方位差を計算する。そして、結晶粒内の平均方位差が0〜0.5°である結晶粒の面積割合を求める。なお結晶粒の定義や結晶粒内の平均方位差の算出は、例えばEBSD解析装置に付属のソフトウェア「OIM AnalysisTM」を用いて求めることができる。
本発明の鋼板は、マルテンサイトと焼き戻しマルテンサイトと残留オーステナイトの合計の組織が、面積分率で2%以上10%以下であることを特徴とする。マルテンサイトまたは焼き戻しマルテンサイトまたは残留オーステナイトの硬質相は、軟質相中の疲労き裂伝播の障害となり、疲労き裂伝播速度を低減する効果があるため、切り欠き疲労特性の向上に寄与する。このことから、マルテンサイトと焼き戻しマルテンサイトと残留オーステナイトの硬質相の合計は、面積分率で2%以上とする。硬質相の分率が2%未満であると、切り欠き疲労特性に優れる高強度鋼板の目安である(c−FL)/(TS)≧0.25を満たさなくなるため、硬質相分率は2%以上が望ましい。さらに望ましくは5%以上である。ただし、(c−FL)は切り欠き疲労試験の疲労限、(TS)は引張強さを示す。なお、切り欠き疲労試験の疲労限(c−FL)の求め方は、後述する。
次に、組織中のTi炭化物の状態と量について説明する。従来から、Ti炭化物による析出強化は、Si等による固溶強化より疲労特性に劣ることが報告されてきた。しかし、発明者らの鋭意検討の結果、鋼中のTi、N、Sから計算されるTief((a)式によって求められれる。)の40%(0.4倍)以上の質量%のTiが、Ti炭化物として析出し、この析出したTi炭化物のうち、Ti炭化物の円相当粒径(本明細書において単に粒径というときは円相当粒径をいう。)が7nmから20nmであるものが、質量分率で50%以上である場合には、固溶強化と同等以上の疲労特性が得られることを見出した。
また、Ti炭化物の粒径が大きすぎて、粒径7nmから20nmのTi炭化物の重量分率が、全Ti炭化物の重量の50%未満の場合には、Ti炭化物による転位運動の抑制効果が小さくなり、これらの疲労特性向上効果は小さくなる。
熱間圧延に先行する製造方法は特に限定するものではない。すなわち、高炉や電炉等による溶製に引き続き各種の2次製錬を行って上述した成分組成となるように調整し、次いで、通常の連続鋳造、薄スラブ鋳造などの方法で鋳造すればよい。その際、本発明の成分範囲に制御できるのであれば、原料にはスクラップを使用しても構わない。
また、スラブ加熱温度の上限は特に定めない。しかし、加熱温度を過度に高温にすることは、スラブ表面が酸化してスケールになり経済上好ましくない。このことから、スラブ加熱温度の上限は1300℃とすることが望ましい。
T1(℃)=7000/{2.75−log([Ti]×[C])}−273・・・(b)
Ar3(℃)=868−396×[C]−68.1×[Mn]+24.6×[Si]−36.1×[Ni]−24.8×[Cr]−20.7×[Cu]+250×[Al]・・・(d)
ただし、式(d)で計算されるAr3温度が900℃を超える場合には、Ar3=900℃とし、鋼板温度が1000℃に下がってから900℃になるまでの時間をt1とする。ここで述べる鋼板の中心温度は、鋼板表面の温度と冷却履歴から熱解析により求めることができる。
T2(℃)=870+10×([C]+[N])×[Mn]+350×[Nb]+250×[Ti]+40×[B]+10×[Cr]+100×[Mo]+100×[V]・・・(c)
すなわち、必ずしも最も後段側(下流側)の仕上圧延の段の圧延温度を管理するのではなく、圧下率が10%以上である仕上圧延の段のうち最も後段側(下流側)の仕上圧延の段の圧延温度を管理するのである。
なお、圧下率は、各段ごとに以下の式で求められる。
圧下率=(仕上圧延機の入側の板厚−仕上圧延機の出側の板厚)/(仕上圧延機の入側の板厚)×100%
圧下率が40%以上の圧延は、圧延機に大きな負担がかかるため、圧下率は40%未満にすることが望ましい。
これは、圧延後にオーステナイトが粒成長によって粗大化するため、フェライト変態の核生成サイトであるオーステナイト粒界面積率が減少し、変態温度が低下するためと考えられる。
この中間空冷温度の高温化により、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒の面積率が増大することから、結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒は、従来の光学顕微鏡の観察で定義されてきたフェライトのうち、より高温で変態したものである可能性がある。中間空冷時間の上限は特に規定しないが、15秒以上では結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒の面積率を増大させる効果が飽和する上、生産性が低下するため、中間空冷時間は15秒未満が望ましい。
2次冷却の平均冷却速度が大きいほど硬質なマルテンサイト、焼き戻しマルテンサイト、残留オーステナイトが得られ、切り欠き疲労特性に優位になる。このため平均冷却速度の上限は指定しないが、500℃/秒以上の冷却を行うには大規模な設備投資が必要であるため、500℃/秒未満が望ましい。
表1に試験に供した鋼の成分を示す。
表2−1、表2−2(本明細書において、これらを合わせて表2とよぶ。)に試験に供した試験片の鋼種類とその製造条件を示す。
表3−1、表3−2(本明細書において、これらを合わせて表3とよぶ。)に各試験片の評価結果を示す。
降伏応力は、0.2%耐力を用いてもよく、均一伸びは、最大試験力時塑性伸び(%)のことである。
穴広げ率は、穴広げ試験は引張試験片採取位置と同様の位置から試験片を採取し、日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の試験方法に準拠して評価した。
また、本発明における鋼板は、(TS)≧540MPaで、(TS)×(u―El)≧8000MPa%で、(TS)×(λ)≧36000MPa%を満たす鋼板であることを確認した。ただし(TS)は引張強さ、(u―El)は均一伸び、(λ)は穴広げ率である。
(1)Feイオンを溶出させて反応を促進することと、
(2)フォスフォフィライト結晶を鋼板表面に緻密に形成することにある。
特に(1)については、鋼板表面にSiスケールの形成に起因する酸化物が残存していると、Feの溶出が妨げられて、スケが現れたり、Feが溶出しないことで、
ホパイト:Zn3(PO4)2・4H2Oとよばれる鉄表面には本来形成しないような異常な化成処理皮膜が形成して、塗装後の性能を劣化させることがある。したがって、リン酸によって鋼板表面のFeが溶出してFeイオンが十分供給されるよう表面を正常にすることが重要になってくる。
Claims (5)
- 化学組成が、質量%で、
C :0.030〜0.200%、
Mn:0.10〜3.00%、
P :0.100%以下、
S :0.0300%以下、
Al:0.100〜2.000%、
N :0.0100%以下(0は含まない)、
O :0.0100%以下、
Ti:0.010〜0.380%、
残部がFeおよび不可避的不純物であって、(a)式で表わされるTiefが0.01〜0.30%であり、
隣接する結晶粒の粒界の方位差を15°以上とした結晶粒であって、前記結晶粒内の方位差の平均が0〜0.5°である結晶粒を面積率で50%以上含み、さらに
マルテンサイトと焼き戻しマルテンサイトと残留オーステナイトの合計が面積分率で2%以上10%以下であり、さらに
(a)式で表わされるTiefの40%以上の質量%のTiがTi炭化物として存在し、当該Ti炭化物の円相当粒径が7nm以上20nm以下であるものの質量が、全Ti炭化物の質量の50%以上であることを特徴とする、延性と疲労特性と耐食性に優れた高強度熱延鋼板。
Tief=[Ti]−48/14×[N]−48/32×[S]・・・(a)
但し、[Ti][N][S]はそれぞれTi、N、Sの質量%を示す。
- さらに質量%で、
Si:0.500%以下、
Nb:0.010〜0.100%、
V :0.010〜0.300%、
Cu:0.01〜1.20%、
Ni:0.01〜0.60%、
Cr:0.01〜2.00%
Mo:0.01〜1.00%、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の延性と疲労特性と耐食性に優れた高強度熱延鋼板。
- さらに質量%で、
Mg:0.0005〜0.0100%、
Ca:0.0005〜0.0100%、
REM:0.0005〜0.1000%、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の延性と疲労特性と耐食性に優れた高強度熱延鋼板。
- さらに質量%で、
B:0.0002〜0.0020%、
を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の延性と疲労特性と耐食性に優れた高強度熱延鋼板。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の延性と疲労特性と耐食性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の成分組成を有するスラブを、式(b)で規定されるT1以上の温度に加熱し、加熱したスラブを熱間圧延するに際し、
鋼板の中心温度が1000℃から式(d)により求めるAr3温度になるまでの時間t1を9.0秒以内とし、
熱間圧延のうち複数段の連続圧延からなる仕上圧延において圧下率が10%以上である仕上圧延の段のうち、最も後段側の仕上圧延の段を、式(c)で規定される温度T2に対して(T2−20)℃以上(T2+100)℃以下の圧延温度で行い、その後得られた熱延鋼板を、
平均冷却速度20℃/秒以上で730℃以上830℃以下の温度まで冷却し、
その後730℃以上830℃以下の温度域で3秒以上空冷し、
その後平均冷却速度40℃/秒以上で冷却し、
その後300℃以下の温度で巻き取ることを特徴とする延性と疲労特性と耐食性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
T1(℃)=7000/{2.75−log([Ti]×[C])}−273・・・(b)
T2(℃)=870+10×([C]+[N])×[Mn]+350×[Nb]+250×[Ti]+40×[B]+10×[Cr]+100×[Mo]+100×[V]・・・(c)
Ar3(℃)=868−396×[C]−68.1×[Mn]+24.6×[Si]−36.1×[Ni]−24.8×[Cr]−20.7×[Cu]+250×[Al]・・・(d)
ただし、式(d)で計算されるAr3温度が900℃を超える場合には、Ar3=900℃とする。
式中の[X]は、鋼中に含有する成分元素Xの質量%を表す。
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