以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下で述べる極数、突極数、外内突極数、巻数、多層巻における層数等は、説明のための例示であり、磁石レス回転電機の仕様に合わせ、適宜変更が可能である。以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、磁石レス回転電機10の構成を示す図で、磁石レス回転電機10の軸方向に垂直な断面図である。以下では、磁石レス回転電機10を特に断らない限り回転電機10と呼ぶ。図1に、周方向としてθ方向と、径方向としてR方向とを示す。紙面上で時計回り方向が+θ方向で、内周側から外周側に向かう方向が+R方向である。
回転電機10は、三相同期型回転電機で、磁極としての永久磁石を有しない。回転電機10は、環状ロータ16と、環状ロータ16の外周側に向かい合って配置される外側ステータ12と、環状ロータ16の内周側に向かい合って配置される内側ステータ14と、出力軸18とを含むダブルステータ型回転電機である。外側ステータ12と内側ステータ14とは、図示されないモータケースに固定され、出力軸18は、モータケースに回転可能に支持される。環状ロータ16と出力軸18は一体構造で、環状ロータ16は外側ステータ12と内側ステータ14の間の空間を回転し、そのトルクは出力軸18に出力される。
環状ロータ16は、ロータヨーク部40、外内突極対42,44、ロータコイル46を含む。
ロータヨーク部40は、環状の磁性体である。外内突極対42,44は、ロータヨーク部40の周方向に沿って外周側に設けられる外側突極42と内周側に設けられる内側突極44とで構成される。外側突極42と内側突極44とは、ロータヨーク部40を挟んで径方向に対となって突出す。このように、外内突極対42,44は、外側突極42と内側突極44の対のことであるが、個別の外側突極42と内側突極44と区別することがよいときには、「対」でなく、外側突極42または内側突極44と呼ぶ。図1の例では、ロータヨーク部40の一周で外内突極対42,44が12対設けられる。隣接する外内突極対42,44の間の角度は30度である。
ロータコイル46は、外内突極対42,44を挟んで周方向の一方側のロータヨーク部40の内周面と他方側のロータヨーク部40の外周面との間でタスキ掛け状に巻回されるコイルである。この巻き方は、外内突極対42,44の径方向に沿って巻回されているのではなく、外内突極対42,44とロータヨーク部40との十字状の交差部においてタスキ掛けとなる巻き方である。
環状ロータ16は、外側ステータ12、内側ステータ14の励磁コイルからの磁束をロータコイル46に鎖交させ、ロータコイル46に生じる誘起電流によって外内突極対42,44を磁化させる。磁化された外内突極対42,44は、磁石レス磁極となる。磁化された外内突極対42,44のうち、磁化された外側突極42は、外側ステータ12に向かい合う外側磁極となり、磁化された内側突極44は、内側ステータ14に向かい合う内側磁極となる。外側磁極の極性と内側磁極の極性とは互いに逆極性である。
1つの外内突極対42,44は、これに対応するロータヨークコイル46を流れる誘導電流で磁化されて外側磁極と内側磁極とを形成するので、これを磁極対と呼ぶ。図1では、互いに隣接する磁極対48,49を示した。互いに隣接する磁極対48,49は、外内突極対42,44における磁極のNSの向きが互いに逆方向である。図1の例では、磁極対48は、外側突極42の磁極極性がSで、内側突極44の磁極極性がNであり、外内突極対42,44における磁極のNSの向きは、外側突極42から内側突極44の方へSNである。磁極対49は、外側突極42の磁極極性がNで、内側突極44の磁極極性がSであり、外内突極対42,44における磁極のNSの向きは、外側突極42から内側突極44の方へNSである。環状ロータ16は、12の磁極対を有するが、隣接する磁極対48,49は互いにNSの向きが逆であるので、環状ロータ16の一周では、外側突極42から内側突極44に向かう磁極の向きを(SN),(NS),(SN),(NS),(SN),(NS),(SN),(NS),(SN),(NS),(SN),(NS)とする順で、12の磁極対が配置される。
整流素子50は、磁極対48の外側磁極と内側磁極の極性を互いに逆極性とするダイオードであり、整流素子51は、磁極対49の外側磁極と内側磁極の極性を互いに逆極性とするダイオードである。さらに、整流素子50,51は、互いに隣接する磁極対48,49において、外内突極対42,44における磁極のNSの向きが互いに逆方向とするために、一方側の磁極対48を構成するロータコイル46に流れる誘起電流の向きと、他方側の磁極対49を構成するロータコイル46に流れる誘起電流の向きとを、互いに逆方向とする。
上記のように、環状ロータ16は、12の磁極対を有するが、隣接する磁極対48,49は互いにNSの向きが逆であり、周方向に沿って1つおきの磁極対は、外側突極42から内側突極44に向かう磁極の向きが同じであり、磁極の向きとしては(SN)か(NS)の2つしかない。そこで、複数の外内突極対42,44の中で磁極のNSの向きが同じ外内突極対42,44のロータコイル46を互いに直列接続し、1つの共通整流素子を設ける。図1では、外側突極42から内側突極44に向かう磁極の向きが(SN)となる6つの外内突極対42,44について1つの整流素子50を用い、(NS)となる6つの外内突極対42,44について1つの整流素子51を用いた。
外側ステータ12は、環状の外側ステータヨーク部20の内周側に沿って設けられる複数の外側ステータ突極22と、複数の外側ステータ突極22のそれぞれに巻回される複数の外側励磁コイル24とを有する。複数の外側ステータ突極22は環状ロータ16の外側突極42に向かい合って配置される。
複数の外側励磁コイル24は、U相巻線コイル、V相巻線コイル、W相巻線コイルで構成される。図1では、1つの極の範囲である(A−B)を示した。(A−B)の角度は60度である。(A−B)の範囲には、3つの外側ステータ突極22が配置される。1つの極の範囲の3つの外側ステータ突極22は、U相巻線コイルが巻回されるU相突極とV相巻線コイルが巻回されるV相突極とW相巻線コイルが巻回されるW相突極である。図1の(A−B)の範囲の3つの外側ステータ突極22に、U相、V相、W相の位置を示した。外側ステータ突極22の総数は、環状ロータ16の外側突極42の総数の(3/2)倍で、12×(3/2)=18個である。U相巻線コイル、V相巻線コイル、W相巻線コイルは、いずれも集中巻によって、U相突極、V相突極、W相突極に巻回される。
内側ステータ14は、環状の内側ステータヨーク部30の外周側に沿って設けられる複数の内側ステータ突極34と、複数の内側ステータ突極34のそれぞれに巻回される複数の内側励磁コイル32とを有する。複数の内側ステータ突極34は環状ロータ16の内側突極44に向かい合って配置される。
複数の内側励磁コイル32は、U相巻線コイル、V相巻線コイル、W相巻線コイルで構成される。内側ステータ14の1つの極の範囲は、外側ステータ12の1つの極の範囲(A−B)と同じである。したがって、(A−B)の範囲に、3つの内側ステータ突極34が配置される。(A−B)の範囲の3つの内側ステータ突極34は、U相巻線コイルが巻回されるU相突極とV相巻線コイルが巻回されるV相突極とW相巻線コイルが巻回されるW相突極である。図1の(A−B)の範囲の3つの内側ステータ突極34に、U相、V相、W相の位置を示した。内側ステータ突極34の総数は、外側ステータ12の総数と同じ18個である。U相巻線コイル、V相巻線コイル、W相巻線コイルは、いずれも集中巻によって、U相突極、V相突極、W相突極に巻回される。
上記構成において、外側ステータ12の外側励磁コイル24によって形成される界磁と、内側ステータ14の内側励磁コイル32によって形成される界磁とを受けて、環状ロータ16のロータコイル46には、誘導電流が生じる。この誘導電流によって、外側突極42が磁化されて外側磁極を形成し、内側突極44が磁化されて内側磁極が形成される。形成された外側磁極と外側ステータ12からの界磁との協働と、形成された内側磁極と内側ステータ14からの界磁との協働とによって、環状ロータ16は回転してトルクを発生する。このようにして、環状ロータ16には永久磁石が配置されないが、トルクが発生する。これが磁石レス回転電機10のトルク発生原理である。
環状ロータ16と外側ステータ12とで1つの回転電機部を構成でき、環状ロータ16と内側ステータ14とでもう1つの回転電機部を構成できる。このように、回転電機10は、1台で2つの回転電機部を有する。
図2は、図1における3つの互いに隣接する磁極対の部分の拡大図である。図2を用いて、回転電機10が動作するときの磁束の流れを説明する。なお、図2では、説明の便宜上、1つの磁極対に1つの整流素子が設けられるものとした。
図2の中央に示される磁極対は、図1で磁極対48と示したもので、外内突極対42,44が整流素子50の作用によって、ロータコイル46には矢印の方向に誘導電流が流れる。この誘導電流により外側突極42がS極に磁化され、内側突極44がN極に磁化される。これに隣接する磁極対49は、整流素子51の作用によって、ロータコイル46には矢印で示すように、磁極対48とは逆方向に誘導電流が流れる。これにより、外側突極42がN極に磁化され、内側突極44がS極に磁化される。ここで、環状ロータ16に形成される磁極対の磁極の方向に合わせて、外側ステータ12の界磁制御と内側ステータ14の界磁制御が行われるものとする。
外側ステータ12側からの磁束の流れ60は、S極に磁化された外内突極対42,44の外側突極42を通ってN極に磁化された内側突極44に向かって流れ、内側ステータ14を経由して、隣接する外内突極対42,44のS極に磁化された内側突極44を通ってN極に磁化された外側突極42に向かって流れ、外側ステータ12側に戻る。この磁束の流れによって、環状ロータ16と、外側ステータ12および内側ステータとの間に回転トルクが発生する。
上記では、ロータコイル46は、周方向に1層巻するものとした。これを周方向に多層巻することで、1層巻のロータコイル46に比較して、回転電機10の出力を改善することができる。
図3は、1つの磁極対48をθ方向とR方向に拡大して、多層巻のロータコイル47の巻き方を示す図である。図3には、磁極対48において、多層巻のロータコイル47に流れる誘導電流の方向を一方向とする整流素子50を示した。整流素子50は、多層巻のロータコイル47の巻始めと巻き終りの両端部の間に接続される。
以下では、外内突極対42,44を挟むその両側のロータヨーク部40を区別して、−θ方向の部分を外内突極対42,44に対する一方側のロータヨーク部40aとし、+θ方向の部分を外内突極対42,44に対する他方側のロータヨーク部40bと呼ぶ。
多層巻のロータコイル47は、外内突極対42,44を挟んで、一方側のロータヨーク部40aの内周面と、他方側のロータヨーク部40bの外周面との間でタスキ掛け状に多層巻される。タスキ掛けの方向は、(−θ,−R)側と(+θ,+R)側とを結ぶ方向である。図3で破線矢印で示す方向がタスキ掛けの方向で、外内突極対42,44の延伸する方向に対し約45度の角度をなし、ロータヨーク部40の延伸する方向に対しても約45度の角度をなす。多層巻の方向もタスキ掛けの方向と同じである。つまり、タスキ掛けの方向に沿って多層巻される。同じ層の中での巻回の方向は、タスキ掛けの方向に直交する方向である。図3で実線矢印で示す方向が、多層巻で同じ層の中での巻回の方向である。タスキ掛け状に多層巻する順番は、外内突極対42,44とロータヨーク部40とが交差する隅部を巻始めとして、タスキ掛けの方向に1巻し、その後は、多層巻の方向に巻きながらタスキ掛けの方向に積み重ねてゆく。図3に、巻線順を1,2,3・・・で示した。
図3のタスキ掛けの多層巻の1巻目(図3の巻線順で1)の巻始めは、外側突極42と他方側ロータヨーク部40bの外周面とが交差する隅部である。ここから、内側突極44と一方側ロータヨーク部40aの内周面とが交差する隅部に向かってタスキ掛けで巻回される。
2巻目(図3の巻線順で2)と3巻目(図3の巻線順で3)は、1巻目に対し、タスキ掛けの方向に沿って1つ外側の層における巻線で、2層目の巻線に当たる。1巻目の巻終りは2層目の巻始めに当たり、外側突極42と他方側ロータヨーク部40bの外周面とが交差する隅部から外側突極42の先端側の方向である+R方向に1巻分ずれた位置である。ここを2層目の巻始めとし、一方側ロータヨーク部40aの内周面に沿って1巻目の位置から−θ方向に1巻分ずれた位置に巻回され、さらに、他方側ロータヨーク部40bの外周面に沿って1巻目の位置から+θ方向に1巻分ずれた位置に巻回され、2巻目の巻終りとなる。2巻目の巻終りは、3巻目(図3の巻線順で3)の巻始めに当たる。3巻目は、その巻始めの位置から、内側突極44の−θ側の面に沿って1巻目の位置から−R方向に1巻分ずれた位置へ向かって巻回され、さらに、他方側ロータヨーク部40bの外周面に沿って3巻目の巻始めの位置から+θ方向に1巻分ずれた位置(図3の巻線順で4)に巻回され、3巻目が巻終り、これとともに2層目の巻回が終わり、3層目の巻回が始まる。
これを繰り返し、図3の例では、ロータヨーク部40の一方側ロータヨーク部40aの内周面と他方側ロータヨーク部40bの外周面との間でタスキ掛けによる13層の多層巻が行われる。これによりロータヨーク部40の周方向に7層、径方向に7層の積層された多層巻が形成される。ロータヨーク部40の周方向に沿った層数は、隣接する外内突極対42,44との間のθ方向の間隔で、お互いに干渉しない層数の範囲で適当に設定できる。ロータヨーク部40の周方向に沿った層数は、ロータヨーク部40の外周面から外側突極42の先端面およびロータヨーク部40の内周面から内側突極44の先端面までの間に巻回できる範囲内で適当に設定できる。この層数は説明のための例示であって、これ以外の層数、巻数であってもよい。なお、タスキ掛け方向に沿って多層巻を行う方法であれば、上記以外の巻き方であってもよい。
図3では、整流素子50によって整流された電流がロータコイル47に流れる方向を矢印で示した。整流素子50のカソードをK、アノードをAで示すと、整流素子50は、カソードKがロータコイル47の巻始め(図3の巻線順で1)に接続され、アノードAがロータコイル47の巻終り(図3の巻線順で49)に接続される。
図3に示されるように、整流素子50によって整流された電流がロータコイル47に流れる向きは、外内突極対42,44の径方向の+R方向から−R方向に向かって右ねじの方向である。したがって、外側突極42がS極となり内側突極44がN極となる。これは、図1、図2の1層巻の場合も同じである。
整流素子50は、ロータコイル47の巻始めと巻終りとの間に接続され、外側ステータ12と内側ステータ14との励磁によりロータコイル46に誘起される誘起電流で磁化される外側突極42の外側磁極の極性と内側突極44の内側磁極の極性とを逆極性とする。
図3では、磁極対48について説明したが、ロータヨーク部40の周方向に沿って磁極対48のすぐ隣に隣接する磁極対49でも、タスキ掛けによって多層巻されたロータコイル47の巻き方はまったく同じである。異なるのは、磁極対49に設けられる整流素子51の接続の仕方である。磁極対49において整流素子51は、アノードAがロータコイル47の巻始め(図3の巻線順で1)に接続され、カソードKがロータコイル47の巻終り(図3の巻線順で49)に接続される。これにより、整流素子51によって整流された電流によって磁化される磁極の極性は、外側突極42がN極で、内側突極44がS極となる。
整流素子50,51は、隣接する磁極対48,49について、一方側の磁極対48の外内突極対42,44における磁極のNSの向きを互いに逆方向とする。これは、図1、図2の1層巻の場合も同じである。
このように、ロータコイル46をタスキ掛け方向に沿って多層巻することで、1層巻の場合に比較して、回転電機10の出力を改善することができる。