JP2016117935A - 摺動部材の表面処理方法及び摺動部材 - Google Patents

摺動部材の表面処理方法及び摺動部材 Download PDF

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Abstract

【課題】長期間にわたって安定して低摩擦性,耐摩耗性を発揮する摺動部材の表面処理方法を提供する。【解決手段】摺動部材の少なくとも他部材と摺接される部分である摺動部を,素地中に炭化物及び/又は金属間化合物が散在した合金により形成し,前記摺動部の表面付近における前記素地を選択的に除去することにより,前記摺動部の表面に,前記炭化物及び/又は金属間化合物から成る凸部を形成すると共に,前記摺動部の前記凸部の高さを0.05〜3.0μm,好ましくは0.1〜2.0μmに形成する。【選択図】図7

Description

本発明は,金型,工具,刃物,軸受等,他部材と摺接される部分(本発明において「摺動部」という)を有する摺動部材の表面処理方法,及び該方法で処理された表面を有する摺動部材に関する。
摺動部材の摺動部の低摩擦性,耐摩耗性を実現するために,従来から各種の表面処理技術が提案されている。
このような低摩擦性,耐摩耗性を実現するための表面処理の1つとして,二硫化モリブデンや酸化スズ等の固体潤滑剤を,摺動部に対しバインダと共に塗布し,メッキし,あるいはスパッタリング等で蒸着することにより,固体潤滑剤を含む被膜を形成することが提案されている。
一例として,後掲の特許文献1では,この様な固体潤滑剤を含む被膜を比較的簡単に形成する方法として,摺動部の表面にブラスト加工装置を使用して二硫化モリブデンの微細粉体を衝突させることにより,表面から深さ20μm以内の表面に,固体潤滑剤である二硫化モリブデンを含有する層を形成することを提案している(特許文献1の請求項1他参照)。
また,前述した低摩擦性,耐摩耗性を,摺動部に対する潤滑油の給油性の向上と,潤滑油の保持力の向上によって実現することも提案されており,このような給油性や保持力の向上を得るために,後掲の特許文献2には,摺動部材の摺動面に,所定のパターンで寸法が0.5〜500μmの凹凸を形成することが提案されている(特許文献2参照)。
国際公開2002/040743号公報 特開2002−323045号公報
以上で説明した従来技術のうち,摺動部の表面に固体潤滑剤を含有する被膜を形成する構成では,摺動部は固体潤滑剤を含有する被膜を介して相手方の部材と接触することとなるため,低摩擦性,耐摩耗性を向上させることができる。
しかし,このような被膜の形成によって低摩擦性と耐摩耗性を実現した摺動部材では,固体潤滑剤が被膜より脱落し,又は,固体潤滑剤を含む被膜が剥離してしまうと,低摩擦性や耐摩耗性が失われる。
そのため,被膜は下地に対し強固に付着している必要があり,高い付着強度を得るためには,処理時間,その他の処理条件の厳格な管理が必要で,処理作業に専門性が必要となる。
また,固体潤滑剤を含有する被膜は,下地層の材質や加工状態によっては剥離が生じ易くなるため,被膜の剥離を防止して,長期間,低摩擦性や耐摩耗性を発揮させるためには,適切な下地処理が必要となり,作業工数が多くなる。
なお,前述したように,ブラスト加工装置を使用して二硫化モリブデンの粉体を噴射するという比較的簡単な方法により固体潤滑剤を含有する被膜を摺動部の表面に形成することができる特許文献1に記載の方法では,バインダによる塗布やメッキ,スパッタリング等の方法によって固体潤滑剤を含有する被膜を形成する場合に比較して,被膜の形成が容易である。
しかし,特許文献1に記載の方法によって固体潤滑剤を含有する被膜を形成した場合であっても,形成した被膜が摩耗や摩擦剥離によって消滅すれば,低摩擦性や耐摩耗性を発揮しなくなる。
従って,このように固体潤滑剤を含有する被膜の形成による低摩擦性,耐摩耗性の向上は,摺動部材の使用開始から比較的短期間の間,初期なじみを向上させる目的で採用するのが一般的であり,長期間,安定的に低摩擦性や耐摩耗性を得られるものとはなっていない。
これに対し,摺動部の表面に微細な凹凸を形成した特許文献2に記載の構成では,面圧の高い摺動部においても凹凸間に潤滑油が入り込むことで,摺動部に対する給油性が向上すると共に,油膜の保持性が向上し,これにより,低摩擦性と耐摩耗性を実現することができるものとなっている。
また,特許文献2に記載の構成は,摺動部の表面凹凸形状によって低摩擦性や耐摩耗性を得ようというものであり,固体潤滑剤を含む被膜の形成によって低摩擦性,耐摩耗性を実現する特許文献1に記載の方法とは異なり,被膜の剥離に伴う性能の低下等といった問題も生じない。
しかし,摺動部の表面に凹凸を形成した特許文献2に記載の構成においても,摺動部の表面に形成した凹凸の凸部が,経時と共に相手方の部材と擦れ合うことで摩耗し,これに伴い摺動部が平滑化することにより給油性や油膜の保持性能が低下する。
そこで本発明は,上記従来技術として説明した構成中,摺動部の表面に凹凸を形成することにより得られる給油性と油膜保持性の向上により,低摩擦性,耐摩耗性の向上を図るものでありながら,経時によっても凹凸形状の平滑化が生じ難く,従って長期間にわたって安定して低摩擦性,耐摩耗性を発揮することができる摺動部材の表面処理方法,及び前記方法によって表面処理された摺動部材を提供することを目的とする。
上記目的を達成するための,本発明の摺動部材の表面処理方法は,
摺動部材のうち少なくとも他部材と摺接される部分である摺動部を,素地中に炭化物及び/又は金属間化合物が散在した合金により形成し,
前記摺動部の表面付近における前記素地を選択的に除去することにより,前記摺動部の表面に,前記炭化物及び/又は金属間化合物から成る凸部を形成し,前記凸部の高さを0.05〜3.0μm,好ましくは0.1〜2.0μmとしたことを特徴とする(請求項1,2)。
ここで,本発明の表面形状の定義について説明する。表面形状の「凸部の高さ」の定義については,下記の方法により測定した数値で定義する。
凸部の高さの測定方法
1.測定装置
キーエンス社製 レーザー顕微鏡VK-X250を使用。
2.測定法
上記測定装置で測定したデータに対して,任意の位置のプロファイル曲線を測定。
プロファイル曲線の平坦部と凸部の高さを任意に測定して,それを凸部高さとした(図7)。
なお,鏡面は凸部高さ「0」とする。
また,前記素地の除去は,前記摺動部の表面を,例えば,Ra0.03μm以下の鏡面に鏡面研磨した後に行うことが好ましい(請求項3)。
更に,前記表面処理は,平面視における前記凸部の面積が,後述の観察により,前記摺動部の面積の4%以上となるよう前記凸部を形成することが好ましい(請求項4)。
なお,前記凸部の面積比(%)の算出は,SEMで撮影した写真(平面)中の面積比から求めた。
なお,前記凹凸の形成後,形成された前記凹凸を維持した状態で前記摺動部の表面に耐摩擦性及び/又は耐摩耗性を有する被膜をコーティングするものとしても良い(請求項5)。
また,本発明の摺動部材は,
他部材と摺接される摺動部を備え,
少なくとも前記摺動部が,
素地中に炭化物及び/又は金属間化合物が散在した合金により形成されていると共に,
前記摺動部の表面付近における前記素地を選択的に除去することにより形成された,前記炭化物及び/又は金属間化合物から成る凸部が形成されており,該凸部の高さは,0.05〜3.0μm,好ましくは0.1〜2.0μmであることを特徴とする(請求項6,7)。
更に,前記平面視における前記凸部の面積が,前記摺動部の面積の4%以上であることが好ましい(請求項8)。
なお,前記凹凸が形成された前記摺動部の表面に,前記凹凸を維持した状態で耐摩擦性及び/又は耐摩耗性を有する被膜を形成するものとしても良い(請求項9)。
以上で説明した本発明の構成により,本発明の摺動部材の表面処理方法及び摺動部材によれば,以下の顕著な効果を得ることができた。
摺動部材の少なくとも摺動部を,素地中に炭化物及び/又は金属間化合物が散在した合金により形成し,前記摺動部の表面付近における前記素地を選択的に除去することで,前記摺動部に,前記炭化物及び/又は金属間化合物から成る凸部を有し,且つ,前記凸部の高さを0.05〜3.0μm,好ましくは0.1〜2.0μmに形成したことで,炭化物或いは金属間化合物という高硬度の材質で形成された凸部と,これに対し低硬度の素地によって形成された凹部から成る凹凸を摺動部の表面に形成することができた。
その結果,摺動部に形成された凹凸の存在により,摺動部に対し潤滑油が供給され易く,且つ,油膜が保持され易くなると共に,本発明の方法で摺動部に形成された凹凸の凸部は高硬度であるために摩耗し難く,経時による凹凸の平滑化が生じ難く,その結果,前述した良好な給油性と油膜の保持性を,長期間,安定的に維持することができ,低摩擦性と耐摩耗性を長期に亘って発揮する摺動部材を提供することができた。
しかも,素地部分に対し,素地中に析出した炭化物及び/又は金属間化合物は高硬度であることから,摺動部の表面に対し既知の機械的,化学的な研磨,例えばブラスト加工,ドライエッチング,ウェットエッチング等によって,素地部分を選択的に除去し,炭化物や金属間化合物から成る高硬度の凸部を比較的容易に形成することができた。
すなわち,素地と炭化物,及び/又は素地と金属間化合物間に硬度差が存在することにより,摺動部に対し研磨やエッチングを行うと,素地に比較して,炭化物及び/又は金属間化合物の部分は研磨やエッチングがされ難いことから,炭化物及び/又は金属間化合物の部分が残って突出することとなる。
そのため,前述したように既知の各種の方法で研磨あるいはエッチングを行うことで,比較的容易に炭化物や金属間化合物を突出させて凸部を形成可能であると共に,仮に経時に伴い凸部が摩耗した場合であっても,これを容易に再生することができた。
しかも,素地の除去を行う際,凸部として残る炭化物や金属間化合物の部分に対しても,僅かながら研磨やエッチングが及ぶことから,凸部は,角が取れた丸みを帯びた形状に形成されることで,他部材に対し摺接した際に相手方部材への攻撃性も低下させることができる。
その結果,凸部が丸みを帯びた形状であることは,凸部が高硬度であることとも相俟って,摺動時における摺動抵抗の減少にも寄与するものとなっている。
また,前記凸部の高さを0.05〜3.0μm,より好ましくは0.1〜2.0μmの範囲とした構成では,摩擦抵抗を極小化することができた(図3)。
更に,素地部分の除去を,摺動部を鏡面とした後に行う構成にあっては,素地部分の除去によって形成された凸部の高さを比較的均一な状態に揃えることができた。
更に,前述した低摩擦性,耐摩耗性は,前述平面視における前記凸部の面積を,前記摺動部の面積の4%以上に形成することで得ることができた。
なお,前記凹凸の形成後の摺動部の表面に,前記凹凸を維持した状態で更に耐摩擦性及び/又は耐摩耗性を有する被膜をコーティングした構成では,前述した凹凸の形成との相乗効果により更なる低摩擦性と耐摩耗性の向上を得ることができた。
本発明の表面処理方法を実施した試験片(SKD11)の表面電子顕微鏡写真(SEM像)。 ボールオンディスク摩擦摩耗試験の試験方法の説明図。 摺動部に形成された凹凸の凸部の高さと摩擦係数の関係を示すグラフ。 本発明の表面処理方法を実施した試験片(SUS440)の表面電子顕微鏡写真(SEM像)。 本発明の表面処理方法を実施した試験片(粉末ハイス鋼:SKH51)の表面電子顕微鏡写真(SEM像)。 本発明の表面処理方法を実施した試験片(Al−Si系合金:AC8A)の表面電子顕微鏡写真(SEM像)。 凸部の高さを規定するプロファイル曲線を示す。
次に,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら以下説明する。
〔処理対象〕
本発明の表面処理方法は,使用時に他部材と摺接される部分である摺動部を備えた摺動部材全般を対象とし,このような摺動部材の一例としては,金型(例えば,絞り,曲げ等のプレス金型等),各種工具や刃物(例えばドリル等の穴あけ工具,バイト,フライス等の切削工具),軸,軸受等を挙げることができるが,特にこれらに限定されるものではない。
本発明で処理対象とする摺動部材は,少なくともその摺動部を,素地中に炭化物や金属間化合物が散在した合金によって形成する。
このような合金の例として炭素鋼の一種である合金工具鋼(SKD1)を例に取り説明すると,この合金工具鋼(SKD1)の焼入れ,焼戻し組織では,焼戻しマルテンサイトから成る素地中に,Cr73から成る比較的粗大な粒状組織と,Cr236から成る比較的微細な粒状組織が「炭化物」として析出,散在しており,このような構造を備えた合金は,前述した摺動部の材質として使用可能である。
上記合金工具鋼(SKD1)の例では,素地中に散在している炭化物はCr73,Cr236であったか,このような炭化物としては,例えば,M3C,M236,M73,M2C,M6C,MC等(Mは金属元素)を挙げることができ,M(金属元素)としては,Fe,Cr,Mo,W,V,Ti等を挙げることができる。
なお,本発明における「炭化物」には炭素(C)と金属(M)の化合物のみならず,更に窒素(N)が結合した「炭窒化物」を含む。
また,金属間化合物は,2つ以上の成分金属が結合してできたもので,一例として,CuAl2,Mg2Si,Ni3Al,Fe2Mo等がある。
このような炭化物あるいは金属間化合物が素地中に析出した合金としては,前述した合金工具鋼(SKD)の他,ハイス鋼(SKH),炭素工具鋼(SK),合金工具鋼(SKS),ステンレス鋼(SUS),高炭素クロム軸受鋼(SUJ)等の炭素鋼や,Cu,Mg,Ni等を合金成分として添加した多元Al−Si合金,青銅等を挙げることができる。
このように,素地中に炭化物や金属間化合物が散在した合金では,素地(炭素鋼ではFe,多元Al−Si合金ではAl,青銅ではCu)に対し,炭化物や金属間化合物の硬度は高いものとなる。
本発明では,このように素地に対し,炭化物や金属間化合物が高硬度である点を利用して,以下に説明するように摺動部の表面に,低摩擦性,耐摩耗性の向上に有効な給油性,油膜保持性を実現する凹凸を形成する。
〔凹凸の形成〕
前述したように,本発明の方法で処理対象とする摺動部材は,少なくとも摺動部が,素地中に炭化物や金属間化合物が散在した合金によって形成されていることから,この摺動部に対し,研磨やエッチングを施すと,相対的に高硬度である炭化物や金属間化合物の研磨速度或いはエッチング速度に比較して,相対的に低硬度である素地部分の研磨速度或いはエッチング速度は速くなる。
その結果,摺動部の表面に対し研磨やエッチングを施すと,素地部分に対しては研磨やエッチングが進行する一方,高硬度である炭化物や金属間化合物に対しては研磨やエッチングが殆ど生じず,素地部分のみが選択的に除去されて炭化物や金属間化合物の部分が突出して凸部を形成することで,摺動部の表面に凹凸が形成される。
このように,本発明では,素地部分と,炭化物あるいは金属間化合物部分の硬度差によって生じる研磨速度,エッチング速度の相違に着目して凹凸を形成するものであることから,この凹凸の形成方法としては,既知の各種の機械的・化学的研磨方法,エッチング方法を使用することができる。
一例として,このような研磨方法としては,ブラストによる研磨等を挙げることができ,また,エッチング方法としては,エッチングガスを使用して行うドライエッチング,エッチング液を使用して行うウェットエッチングを挙げることができる。
もっとも,大がかりな装置が必要であると共に,使用後のエッチング液やエッチングガスの処理が必要となるドライエッチング,ウェットエッチングに比較して,比較的簡単な装置構成によって行うことができる機械的な研磨による凹凸の形成は,コスト面で有利である。
特に,ブラストによる研磨は,摺動部材の形状が複雑な場合であっても表面全体を均一に研磨することが比較的容易である点で好ましい。
なお,このような研磨やエッチングによる凹凸の形成は,研削や切削等の加工が施された後の摺動部に対して直接行うことも可能であるが,好ましくは,凹凸を形成する前に,摺動部を鏡面,好ましくはRa0.1μm以下,より好ましくはRa0.03μm以下の鏡面に加工してから行うことが好ましく,このように鏡面に加工した後に凹凸の形成を行うこことで,形成された凹凸の凸部の高さを所定の範囲内に揃え易くなる。
また,摺動部に対する凹凸の形成は,好ましくは,前記凸部の高さを0.05〜3.0μm,好ましくは0.1〜2.0μmとなるよう行う。
更に,形成された凸部の表面積が,摺動部の表面積の4%以上となるように,前述した凹凸を形成する。
以上のように,素地と炭化物の硬度差,素地と金属間化合物の硬度差,従って,研磨速度或いはエッチング速度の違いを利用して摺動部の表面に凹凸を形成することで,摺動部では,主として,素地部分が研磨により除去されて前述した凹凸が形成されるものの,炭化物や金属間化合物は高硬度であるとはいえ,これらの部分に対しても僅かながら研磨が及ぶ。
その結果,摺動部に形成された凸部は,角部が削られて丸みを帯びた形状に形成され,摺接される相手方部材に対する攻撃性が低減されたものとなると共に,この丸みを帯びた形状によって,摺接時における摩擦抵抗が軽減される。
なお,前述した各加工方法による凹凸の形成は,下記のようにして行うことができる。
(1)凹凸形成方法1(ブラスト加工)
ブラスト加工装置としては,圧縮気体と共に研磨材を噴射するエア式(サクション式,重力式,直圧式,ブロアー式)の他,遠心力によって研磨材を投射する遠心式,回転するインペラとの衝突によって研磨材を投射する打撃式等,各種方式のブラスト加工装置を使用可能である。
投射する研磨材としては,セラミックス系研磨材(アルミナ,SiC,ジルコニア,ガラス),樹脂系研磨材,金属系研磨材(スチール,ステンレス,ハイス,銅)等の球状あるいは不定形の研磨材(ショット,グリッド)を使用することができ,又は,弾性研磨材(ゴム系又はゼラチン系の弾性体に砥粒を練り込み,又は前記弾性体の表面に砥粒を付着させた研磨材)等,各種研磨材を使用することができる。
使用する研磨材の粒径は,加工対象とする摺動部材の硬度,面粗度に応じて0.1〜1000μm(メディアン径D50)の範囲より選択することができ,特に,粒子径5μm以下の微粒子研磨材を使用する場合,炭化物や金属間化合物が削られ難く,素地部分が選択的に削られることで,炭化物や金属間化合物部分を***させ易い。
また,前述した弾性研磨材を使用する場合,弾性体に練り込み,あるいは弾性体の表面に付着させる砥粒としては,セラミックス系(アルミナ,SiC等),ダイヤモンド,CBN,B4C等を使用することができ,その粒径は0.1〜10μm(メディアン径D50)を使用することができる。
一例として,ブラスト加工装置としてエア式(直圧式)のものを使用する場合,加工対象の材料硬度,面粗度,形状等に応じて,噴射圧力を0.01〜1MPa,ノズル内径(直径)を1〜12mm,ノズル距離(ノズル先端から加工表面迄の距離)を10〜200mm,ノズル角度を10〜90°の範囲で調整することで,前述した凹凸の形成が可能である。
なお,ブラスト加工を鏡面研磨された摺動部に対して行う場合,通常のブラスト加工ではRa0.03μm以下の鏡面状態として加工を行うことが好ましいが,弾性研磨材を使用する場合,Ra0.1μm以下であっても同様の凹凸形状の形成が可能である。
また,通常のブラスト加工で凹凸を形成する場合,形成後の表面に対し弾性研磨材を使用したブラスト加工を更に行い,あるいは,後述する他の研磨方法やエッチング方法を行って表面を調整することで,更に機能向上を図るものとしても良い。
(2)凹凸形成方法2(エッチング)
摺動部に対する凹凸の形成は,エッチング(ドライ/ウェット)によって行うこともでき,摺動部を構成する材料,面粗度に応じて,エッチング液(シアン系,王水等の酸系,ヨウ素系),エッチングガス(CF,CHF,C,CFとOの混合ガス,SF,ClとHBrの混合ガス,SF,ClとBClの混合ガス,ClとCClの混合ガス,O),その他のエッチング条件を選択してエッチングを行う。
このエッチングによる凹凸の形成も,摺動部の面粗度に応じて,エッチング液やエッチングガス,その他の加工条件を変更して複数回にわたりエッチングを行うことで凹凸を形成するものとしても良く,また,エッチングによる加工後,弾性研磨材を使用した前述のブラスト加工等,他の加工方法と組み合わせて必要な凹凸面を形成するものとしても良い。
なお,鏡面に形成された摺動部に対しエッチングを行うことによって凹凸を形成する場合,摺動部をRa0.03μm以下の鏡面状態として加工を行うことが好ましい。
ラッピング,バフ研磨はワークとラップ板(バフ)との間に砥粒が入り,ほぼ一定した距離を保持して研磨される。これにより,金属素地のマトリックス組織とマトリックス組織より硬い組織ともに同一の研磨速度で研磨される。このため硬い組織が選択的に凸状にならない。本発明では,噴射により飛翔した研磨材により研磨されるため,柔らかいマトリックス組織は硬質部に比べて選択的に研磨され,硬質部と軟質部に研磨量の差ができるので,削れにくい硬質部による凸部が形成される。
〔耐摩耗・摩擦被膜の形成〕
以上のようにして凹凸が形成された摺動部材の摺動部は,これをそのままの状態で使用することも可能であるが,更に,その表面に,形成した凹凸を維持した状態で低摩擦性,耐摩耗性を付与するための被膜を形成するものとしても良い。
このような被膜としては,DLC被膜やセラミックス系の被膜(TiN,TiAlN,TiCrN,CrN,TiCN,TiSiN,AlCrSiN,CrSiN,ZrN等),フッ素樹脂被膜,モリブデン被膜,ポリテトラフルオロエチレン(所謂「テフロン」(登録商標))被膜等を挙げることかできる。
このように,前述した凹凸の形成と共に,摺動部に低摩擦性,耐摩耗性の被膜を形成することで,凹凸の形成に伴う潤滑油の供給性の向上,油膜保持性の向上と,被膜の形成に伴う低摩擦性,耐摩耗性の相乗効果によって,摺動部の摩耗が生じ難くなる結果,より長期間にわたり,本発明の方法で表面処理を行った摺動部材に対し,低摩擦性と耐摩耗性を付与することができる。
〔ボールオンディスク摩擦摩耗試験機による試験〕
(1)試験の概要
本発明の方法で摺動部に表面処理が施された摺動部材(実施例1)と,摺動部を鏡面研磨した摺動部材(比較例1),摺動部に圧痕により形成された無数の凹部(マイクロディンプル)を備えた摺動部材(比較例2)をそれぞれ作成し,摩擦抵抗,耐摩耗性につき確認試験を行った結果を,以下に説明する。
(2)試験対象(実施例及び比較例)
(2-1) 実施例1
摺動部材であるSDK11製の試験片(縦40mm,横40mm,厚さ5mm)の片面(摺動面)に,弾性研磨材を使用したブラスト加工により凹凸を形成した。
摺動面の加工は,ブラスト加工を開始する前,予め摺動部の表面をRa0.1μmの鏡面とした状態で開始し,ブラスト加工装置として不二製作所製の「SFSR−2」(サクション式)を使用し,D50:1.2μmの砥粒(材質:SiC(炭化ケイ素)がゴム系の弾性体に分散された,全体粒径650μmの弾性研磨材を噴射して凹凸を形成した。
なお,弾性研磨材の噴射は,噴射圧力0.2MPa,ノズル内径φ9mm,噴射距離50mm,噴射角度30°として加工時間10minで行った。
なお,上記処理後の試験片の表面を撮影した電子顕微鏡写真を図1に示す。
図1中,濃色のグレーに表れている部分(図1中に○印で囲んだ部分)が,SKD11に含まれるクロム系の炭化物(Cr)であり,上記加工によって***し凸部となった部分である。
加工後の摺動部の凸部高さは0.2μmでSEM画像中に現れた凸部の面積は,摺動部の総面積に対し30%である。
(2-2) 比較例1(鏡面)
比較例1として,同様の試験片(SKD11)の片面を,Ra0.02μmの鏡面に研磨したのみで,他の処理を行っていない試験片を用意した。
(2-3) 比較例2(マイクロディンプル)
比較例1の試験片の鏡面加工面(Ra0.02μm)に対し,下記の2工程の加工を行い,摺動部となる表面に,ショットの衝突によって形成された圧痕から成る無数の凹部(マイクロディンプル)を形成した。
工程1
不二製作所製のブラスト加工装置「SCF−3」(サクション式),ブラストガン「F2−4型」を使用して,ハイス鋼製のビーズ(不二製作所製「FHS♯400」)噴射圧力は0.5MPa,ノズル内径φ9mm,噴射距離100〜150mm,噴射角度90°,加工時間10〜20秒(40mm×40mmの範囲)で噴射して,試験片の表面に,ビーズの衝突によりマイクロディンプルを形成した。
工程2
前記マイクロディンプルが形成された後の試験片の表面に対し,不二製作所製のブラスト加工装置シリウス「LDQWSR−3」(ブロワー式)を使用して,弾性研磨材(不二製作所製「SI−G100−7」)を噴射圧力は0.06MPa,ノズル内径φ9mm,噴射距離50〜100mm,噴射角度30〜40°,加工時間2秒(40mm×40mmの範囲)で噴射して,試験片の表面をRa0.2μmに調整した。
(3)試験内容
(3-1) 試験方法
実施例1及び比較例1,2の各試験片に対し,ボールオンディスク摩擦摩耗試験機(レスカ製「FPR2100」)を使用して,摩擦摩耗試験を行った。
ボールオンディスク摩擦摩耗試験法は,図2に示すように試験片にボールを所定の荷重をかけた状態で押しつけて回転摺動させることにより動摩擦係数を測定する試験方法であり(JIS R 1613),本試験例では,荷重を1500gf,回転速度200min-1,回転径を直径5mm,ボール材としてSUJ2(直径6mm)を使用して,測定を行った。
ボール材と試料との摺動部には,動粘度VG10である比較的低動粘度の潤滑油を給油している。
(3-2) 検査事項と検査方法
動摩擦係数の測定
試験片毎に,時間の経過毎の動摩擦係数の変化を測定した。摩擦係数の変化の測定は,摩擦係数μが0.7以上になるまで,又は,試験開始後24時間経過する迄行った。
(4)試験結果
摩擦係数の変化確認
本発明の方法で摺動部の表面処理を行ったSKD11製の試験片(実施例1)と,摺動部を鏡面とした試験片(比較例1),及び摺動部にマイクロディンプルを形成した試験片(比較例2)それぞれの経時に対する摩擦係数の変化の状態を表1に示す。
表1より明らかなように,実施例1の試験片では,24時間の摩擦摩耗試験によっても摩擦係数が0.7以上に上昇することがなく,また,24時間経過後も摩擦係数は測定開始後1時間の摩擦係数に対し1.4倍程度の上昇しか示しておらず,安定的,且つ長期間に亘り低摩擦性を発揮しており,1500gfの荷重をかけた状態においても,少なくとも24時間以上の油膜保持力を有することが確認された。
これに対し,比較例1の試験片(鏡面)では,測定開始後,15時間で摩擦係数が0.7を超えており,比較的短時間で油膜保持力が失われていることが判る。
一方,比較例2の試験片(マイクロディンプル)では,24時間の経過後においても摩擦係数が0.7を超えることは無く,0.46程度に止まっていることから,ある程度の油膜保持力は維持されているものと考えられる。
しかし,比較例2の試験片では,測定開始後5時間で,測定後1時間の摩擦係数に対し,約3.4倍まで摩擦係数が上昇しており,比較的短時間で油膜保持力が大幅に低下していることが確認できた。
以上の結果から,摺動部を鏡面とした比較例1の試験片では,摺動部の凹凸がRa0.02μmと微少であるために,摺動部の表面に対する油膜の保持力が元々小さく,面圧がかかると摺接面より潤滑油が排出されて相手方部材(ボール)と直接接触する結果,試験初期において点接触していたボールと試料が,摩耗の進行と共に面接触に変化して摩擦係数が増大することで,大幅な摩擦抵抗の上昇を示したものと考えられる。
これに対し,摺動部にマイクロディンプルが形成された比較例2の試験片では,ディンプル内に潤滑油が保持されることにより,摺動部を鏡面とした比較例1の試験片に比較して油膜保持効果を長時間維持し,その結果,試験開始後24時間を経過した後においても摩擦係数を0.7未満に維持することができているものと考えられる。
しかし,比較例2の摺動部に形成されたマイクロディンプルの形成によって生じた凹凸は,凸部が高硬度の材料によって形成されたものではないため,試験開始後,比較的短時間で凸部が相手方部材(ボール)との接触によって摩耗してしまい,凸部間に潤滑油の保持が行われているものの,試験開始当初に比較して保持できる潤滑油量が減少したことで,測定開始後,5時間程度の比較的短時間で摩擦係数の大幅な増大が生じたものと推測できる。
これに対し,本発明の方法で凹凸が形成された実施例1の試験片では,摺動部に形成された凹凸の凸部は,高硬度な炭化物或いは金属間化合物によって形成されたものであることから,相手方部材(ボール)との接触によっても摩耗し難く,長期にわたり初期の凹凸形状が維持されることで,潤滑油の高い保持力が長期間にわたり維持される結果,長時間,安定して低摩擦係数を示したものと考えられる。
〔凸部高さと摩擦係数の関係の確認試験〕
試験片(SKD11)に対するブラスト加工条件を変化させて,摺動部に形成する凸部の高さを0.1〜4μmの範囲で変化させたものと,鏡面(凸部高さ0)の摩擦係数の変化状態を測定した結果を図3に示す。このとき,鏡面の凸部高さは0とする。
凸部高さが0.05〜3.0μmの範囲では摩擦係数0.3以下という比較的低い値が実現されているが,特に0.1〜2.0μm以下の範囲においては摩擦係数0.2以下と非常に低い範囲で安定していることが確認された。
したがって,凸部高さは,より好ましくは0.1〜2.0μmであることが確認された。
〔軸受の耐久性試験〕
(1)SUS440製軸受
(1-1) 試験方法
SUS440(焼入れ焼き戻し鋼)製のニードルベアリング(外径52mm,内径25mm,長さ25mmの円筒形)を複数準備し,各ニードルベアリングの摺動部に対し,本発明の表面処理を施すことにより,未処理品に対し,どの程度の耐久性の向上(寿命の延長)が得られるかを確認する試験を行った。
表面処理は,各ベアリングの摺動面(Ra0.1μm)に対し,エア式のブラスト加工装置(不二製作所製「FDDSR−4」;直圧式)を使用して,噴射圧力0.2MPa,ノズル内径φ7mm,ノズル距離50mm,噴射角度30°としてブラスト加工を行うことで,炭化物(CrC)乃至は金属間化合物の凸部を形成した。
研磨材として使用した前述の弾性研磨材(平均粒径650μm)は,SiC砥粒(♯8000/D50:2μm)を弾性体に含有させたものを使用し,これを噴射量4kg/minで噴射した。
ブラスト加工後のSUS440材の表面電子顕微鏡写真(SEM像)を図4に示す。図4中,僅かに白っぽく表れている部分(図4中に○印を付けた部分)が,SUS440に含まれるクロム系の炭化物(CrC)であり,上記加工によって突出して凸部となった部分である。
凸部高さは0.4μm。また,SEM像中に表れた凸部の面積は,摺動部の総面積に対し4%であった。
摺動部の表面状態の測定条件は,表2に示す通りである。
耐久性(寿命)評価は,下記の3パターンの組み合わせから成る実施例に対して実施した。
実施例2:内輪,外輪及び転動体の摺動部全てに本発明の表面処理を実施。
実施例3:内輪及び外輪の摺動部に対してのみ本発明の表面処理を実施。
実施例4:転動体の摺動部に対してのみ本発明の表面処理を実施。
比較例3:表面処理を行っていない(購入したままの状態)。
測定は,軸受耐久試験機を使用して行い,潤滑剤としてグリースを使用し,実施例2〜4及び比較例3の軸受共に,いずれも一定のラジアル荷重,スラスト荷重を加えた状態で,且つ,いずれも軸受に取り付けた軸を一定の回転速度で継続的に回転させ,軸受の軌道面や転動体の表面にうろこ状の剥離が発生した時点を「寿命」と評価した。
(1-2) 試験結果
未処理の軸受(比較例3)が寿命を迎える迄に要した時間を「1」とし,これに対し,各実施例(実施例2〜4)の軸受が寿命を迎える迄の時間が何倍に延長されているかを評価した結果を,表3に示す。
以上の結果,本発明の方法で表面処理を行うことで,いずれの組合せにおいて耐久性の向上が得られることが確認された。
特に,内輪,外輪,及び転動体の全ての摺動部に本発明の表面処理を施した場合(実施例2)には,未処理の場合(比較例3)に対し,3倍という大幅な耐久性の向上が得られており,本発明の表面処理方法が摺動部の低摩擦性及び耐摩耗性を実現する上で極めて有効な手段であることが確認された。
(2)SUJ2製軸受
(2-1) 試験方法
SUJ2製の玉軸受(外径52mm,内径25mm,長さ12mmの円筒形)を複数準備し,各ベアリングの摺動部に対し,本発明の表面処理を施すことにより,未処理品に対し,どの程度の寿命の延長が得られるかを確認した。
表面処理は,各ベアリングの摺動面(Ra0.2μm)に対し,エア式のブラスト加工装置(不二製作所製「SFSR−2」;サクション式)を使用して,噴射圧力0.15MPa,ノズル内径φ7mm,ノズル距離100mm,噴射角度40°としてブラスト加工を行うことで,炭化物(CrC)乃至は金属間化合物の凸部を形成した。凸部高さは0.3μm。
研磨材として使用した前述の弾性研磨材(平均粒径1000μm)は,ダイヤモンド砥粒(♯10000/D50:1μm)をゼラチン製の核体に付着させたものを使用し,これを噴射量1kg/minで噴射した。
なお,摺動部の表面状態の測定条件は,表2に示した通りである。
耐久性(寿命)の評価は,下記の3パターンの実施例に対して実施した。
実施例5:内輪,外輪及び転動体の摺動部全てに本発明の表面処理を実施。
実施例6:内輪及び外輪の摺動部に対してのみ本発明の表面処理を実施。
実施例7:転動体の摺動部に対してのみ本発明の表面処理を実施。
比較例4:表面処理を行っていない(購入したままの状態)。
測定は,軸受耐久試験機を使用して行い,潤滑剤としてグリースを使用し,実施例5〜7及び比較例4の軸受共に,いずれも一定のラジアル荷重,スラスト荷重を加えた状態で,且つ,いずれも軸受に取り付けた軸を一定の回転速度で継続的に回転させ,軸受の軌道面や転動体の表面にうろこ状の剥離が発生した時点を「寿命」と評価した。
(2-2) 試験結果
未処理の軸受(比較例4)が寿命を迎える迄に要した時間を「1」とし,これに対し,各実施例(実施例5〜7)の軸受が寿命を迎える迄の時間が何倍に延長されているかを評価した結果を,表4に示す。
以上の結果,本発明の方法で表面処理を行うことで,いずれの組合せにおいて耐久性の向上が得られることが確認された。
特に,内輪,外輪,及び転動体の全ての摺動部に本発明の表面処理を施した場合(実施例5)には,未処理の場合(比較例4)に対し,2.7倍という大幅な耐久性の向上が得られており,本発明の表面処理方法が摺動部の低摩擦性及び耐摩耗性を実現する上で極めて有効な手段であることが確認された。
(3)CAC603製軸受
(3-1) 試験方法
CAC603製のメタル軸受(すべり軸受:外径31mm,内径25mm,長さ22mmの円筒形)を複数準備し,各軸受の摺動部(内周面)に対し,本発明の表面処理を施すことにより,未処理品に対し,どの程度の耐久性の向上(寿命の延長)が得られるかを確認した。
表面処理は,各軸受の摺動面(Ra0.1μm)に対し,エア式のブラスト加工装置(不二製作所製「SFSR−2」;サクション式)を使用して,噴射圧力0.1MPa,ノズル内径φ9mm,ノズル距離50mm,噴射角度30°としてブラスト加工を行うことで,銅合金中のスズ系金属間化合物(CuSn)の凸部を形成した。凸部の高さは0.3μmである。
研磨材として使用した前述の弾性研磨材(平均粒径650μm)は,Al砥粒(♯6000/D50:3μm)を弾性体中に練り込んだものを使用し,これを噴射量1kg/minで噴射した。摺動部の表面状態の測定条件は,表2に示す通りである。
耐久性(寿命)の評価は,摺動部(内周面)に上記方法で表面処理を施したメタル軸受(実施例8)と,本発明の表面処理を行っていない,購入したままの状態のメタル軸受(比較例5)に対して実施した。
測定は,軸受耐久試験機を使用して行い,潤滑剤としてグリースを使用し,実施例8及び比較例5の軸受共に,いずれも一定のラジアル荷重,スラスト荷重を加えた状態で,且つ,いずれも軸受に支承した軸を一定の回転速度で継続的に回転させ,軸受の軌道面の表面にうろこ状の剥離が発生した時点を「寿命」と評価した。
(3-2) 試験結果
未処理の軸受(比較例5)が寿命を迎える迄に要した時間を「1」とし,これに対し,実施例8の軸受が寿命を迎える迄の時間が何倍に延長されているかを評価した結果を,表5に示す。
以上の結果,本発明の方法で表面処理を行うことで,銅合金(CAC603)製の軸受についても耐久性の向上が得られることが確認され,本発明の表面処理方法が,炭素鋼のみならず,非鉄系の合金の摺動部材に対しても有効に利用できる表面処理方法であることが確認できた。
〔その他の材質に対する適用例〕
本発明の方法で表面処理を行った粉末ハイス鋼(SKH51)製の試験片の表面電子顕微鏡写真を図5に,Al−Si系合金(AC8A)製の試験片の表面電子顕微鏡写真を図6にそれぞれ示す。○で囲んだ部分が,炭化物である。
いずれの試験片共に,炭化物あるいは金属間化合物からなる凸部の***を確認することができ,本発明の表面処理が,通常の炭素鋼のみならず,粉末ハイス鋼のような粉末冶金によって製造された鋼や,Al−Si系合金等の非鉄系合金に対しても適用できることが確認された。
このように,本発明の表面処理方法は,素地中に炭化物や金属間化合物が散在している合金によって少なくとも摺動部が形成されている摺動部材に対し広く適用可能である。

Claims (9)

  1. 摺動部材のうち少なくとも他部材と摺接される部分である摺動部を,素地中に炭化物及び/又は金属間化合物が散在した合金により形成し,
    前記摺動部の表面付近における前記素地を選択的に除去することにより,前記摺動部の表面に,前記炭化物及び/又は金属間化合物から成る凸部を形成し,前記摺動部の前記凸部の高さを0.05〜3.0μmとしたことを特徴とする摺動部材の表面処理方法。
  2. 前記素地の除去を,前記凸部の高さが0.1〜2.0μmとなるよう行うことを特徴とする請求項1記載の摺動部材の表面処理方法。
  3. 前記素地の除去を,前記摺動部の表面を鏡面研磨した後に行うことを特徴とする請求項1又は2記載の摺動部材の表面処理方法。
  4. 平面視における前記凸部の面積が,前記摺動部の面積の4%以上となるよう前記凸部を形成することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の摺動部材の表面処理方法。
  5. 前記凹凸の形成後,形成された前記凹凸を維持した状態で前記摺動部の表面に耐摩擦性及び/又は耐摩耗性を有する被膜をコーティングすることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の摺動部材の表面処理方法。
  6. 他部材と摺接される摺動部を備え,
    少なくとも前記摺動部が,
    素地中に炭化物及び/又は金属間化合物が散在した合金により形成されていると共に,
    前記摺動部の表面付近における前記素地を選択的に除去することにより形成された,前記炭化物及び/又は金属間化合物から成る凸部が形成されている,前記凸部の高さが0.05〜3.0μmであることを特徴とする摺動部材。
  7. 前記摺動部の凸部の高さが0.1〜2.0μmであることを特徴とする請求項6記載の摺動部材。
  8. 平面視における前記凸部の面積が,前記摺動部の面積の4%以上であることを特徴とする請求項6又は7記載の摺動部材。
  9. 前記凹凸が形成された前記摺動部の表面に,前記凹凸を維持した状態で耐摩擦性及び/又は耐摩耗性を有する被膜を形成したことを特徴とする請求項6〜8いずれか1項記載の摺動部材。
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