JP2016103885A - 回転電機制御装置 - Google Patents

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有礼 島田
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Abstract

【課題】停止時から高速回転時までの広い回転速度範囲において、適切に磁極位置を推定すると共に高い安定性と高い応答性を備えて滑らかに回転電機を制御する。【解決手段】第1演算モードmode1と第2演算モードmode2との少なくとも2つの演算モードを切り替えて回転電機を制御する。回転速度ωestを変化させる際に許容する最大の変化率である最大変化率Xは、第1演算モードmode1の最大変化率X1が、第2演算モードmode2の最大変化率X2に比べて小さい。第2演算モードmode2から第1演算モードmode1への切り替えに際しては、第2最大変化率X2を用いて制御される第2演算モードmode2から、第1最大変化率X1以下の最大変化率Xを用いて制御される第2演算モードmode2を経て、第1最大変化率X1を用いて制御される第1演算モードmode1に遷移して回転電機を制御する。【選択図】図9

Description

本発明は、回転電機を制御する回転電機制御装置に関する。
永久磁石式同期回転電機、例えば3相同期モータのロータの位置(磁極位置)を検出するために、レゾルバなどの回転センサが利用される。しかし、小型化やコストダウンなどを目的として、そのような回転センサを無くし、磁極位置に応じた電気的現象に基づいて、電気的に磁極位置を検出するセンサレス磁極検出が行われる場合がある。例えば、ロータの回転によって生じる誘導起電力を利用して電気的に磁極位置を検出することができる。但し、この方法は、ロータが停止している場合や、低速で回転している場合には、誘導起電力が生じなかったり、誘導起電力が小さかったりすることから、精度良く磁極位置を検出することができない。そこで、低速領域では、高周波電流や高周波電圧をモータに与えてその応答により磁極位置を推定する方法も提案されている。
特開平10−94298号公報(特許文献1)には、2つの位相決定方法を併用して、センサレス磁極検出行う技術が提案されている。ここで、「位相」は「磁極位置」に対応するもので、制御上の回転座標系の固定座標系に対する位相を指す。特許文献1によれば、低周波数領域用の位相決定方法と高周波数領域用の位相決定方式との2種類の位相決定方式を用いてそれぞれ位相を生成し、これら2種類の位相を周波数的に加重平均して、dq軸座標系の位相とする。
このように2つの方式を併用すれば、広い回転速度域に対応させることが可能である。しかし、誘導起電力を利用する方法と、高周波を印加してその応答を利用する方法とでは、制御ブロックの構成が異なり、応答性も異なる。従って、例えば、回転速度制御により回転電機を制御し、回転速度を変化させる際(加速及び減速の際)に、許容可能な回転速度の変化率が、2つの磁極位置検出方式において異なることになる。応答性が低い側に合せて制御すれば、全体として高い応答性が損なわれる。一方、応答性が高い側に合せて制御すれば、応答性が低い側の方式を用いた際に制御破綻を生じるなど、安定性が損なわれる可能性がある。
特開平10−94298号公報
上記背景に鑑みて、停止時から高速回転時までの広い回転速度範囲において、適切に磁極位置を推定すると共に高い安定性と高い応答性を備えて滑らかに回転電機を制御する技術の提供が望まれる。
上記課題に鑑みた本発明に係る回転電機制御装置の特徴構成は、
永久磁石が配置されたロータとステータコイルが巻き回されたステータとを備えた回転電機を制御する回転電機制御装置であって、
前記ロータの磁極位置を演算して前記回転電機を制御する第1演算モードと、前記第1演算モードとは異なる方式で前記ロータの磁極位置を演算して前記回転電機を制御する第2演算モードと、の少なくとも2つの演算モードを切り替えて前記回転電機を制御するものであり、
前記第1演算モードでは、前記ロータの回転速度を変化させる際に許容する最大の変化率である第1最大変化率が、前記第2演算モードにおいて前記ロータの回転速度を変化させる際に許容する最大の変化率である第2最大変化率に比べて小さくなるように前記回転電機が制御され、
前記第2演算モードから前記第1演算モードへの切り替えに際しては、前記第2最大変化率を用いて制御される前記第2演算モードから、前記第1最大変化率以下の前記最大変化率を用いて制御される前記第2演算モードを経て、前記第1最大変化率を用いて制御される前記第1演算モードに遷移して前記回転電機を制御する点にある。
この構成によれば、異なる方式の位置演算により磁極位置を演算して回転電機を制御する、少なくとも2つの演算モードを切替えて実行可能であることにより、広い回転速度域に亘って磁極位置を推定することが可能である。但し、回転速度の最大変化率が大きく、相対的に回転速度を速く変化させることができる第2演算モードから第1演算モードに、演算モードが切り替わる際には、回転電機の回転に乱れを生じさせる可能性がある。本構成によれば、演算モードが切り替わるよりも前に、最大変化率が、第1演算モードの最大変化率(第1最大変化率)以下の値となる。従って、演算モードが切り替わる際には、第2演算モードによる回転速度の変化率は、第1演算モードの実行のために充分な変化率まで低下している。その結果、演算モードが第2演算モードから第1演算モードに切り替わる際に、回転電機の回転に乱れを生じさせることなく、連続して安定した回転速度制御を実現することができる。即ち、本構成によれば、停止時から高速回転時までの広い回転速度範囲において、適切に磁極位置を推定すると共に高い安定性と高い応答性を備えて滑らかに回転電機を制御することが可能となる。
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する本発明の実施形態についての以下の記載から明確となる。
車両用駆動装置の構成を模式的に示すブロック図 電動ポンプを含む油圧回路を模式的に示す図 モータ制御装置の構成の一例を模式的に示すブロック図 回転速度及びトルクにより規定された回転特性マップの一例を示す図 低速域位置演算部の構成の一例を模式的に示すブロック図 dq軸ベクトル座標系とδγ軸ベクトル座標系との関係を示す図 αβ軸ベクトル座標系とdq軸ベクトル座標系との関係を示す図 速度指令制限部の構成の一例を模式的に示すブロック図 回転速度制御の第1の例を模式的に示すグラフ 第1の例の最大変化率の設定手順例を示すフローチャート 回転速度制御の第2の例を模式的に示すグラフ 第2の例の最大変化率の設定手順例を示すフローチャート 回転速度制御の第3の例を模式的に示すグラフ 回転速度制御の第4の例を模式的に示すグラフ 第3及び第4の例の最大変化率の設定手順例を示すフローチャート 切替準備回転速度の設定原理を模式的に示す説明図 回転速度制御の等価ブロック線図
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態においては、回転電機制御装置が制御対象とする回転電機が、車両用動力伝達装置の伝達状態を制御するための流体圧を生成する電動ポンプを駆動する電動ポンプ用回転電機である場合を例として説明する。車両に用いられる電動ポンプでは、高い応答性と安定性とが共に求められる。車両用の電動ポンプでは、粘性の高い流体(例えばオイル)の流体圧を生成する必要がある。そして、車両では、その使用条件に応じて、例えば氷点下からの動作が要求される。極低温(例えば−10℃以下)ではオイルの粘性は高くなり、負荷も高くなる。且つ、車両用動力伝達装置の1つであるオートマチックトランスミッションの係合装置などに対して迅速に流体圧を供給して、車両を走行可能な状態にすることも要求される。つまり、回転電機は、負荷の高い状態から安定して起動すると共に、迅速に加速して流体圧を生成することが求められる。本実施形態の回転電機制御装置は、以下に説明するように、停止時から高速回転時までの広い回転速度範囲において適切に磁極位置を推定すると共に、高い安定性と高い応答性を備えて回転電機を制御することができる。従って、好適な実施形態として、電動ポンプ用回転電機制御装置を例として説明する。
尚、以下の説明において、「回転電機制御装置(電動ポンプ用回転電機制御装置)」は「モータ制御装置」と称し、「回転電機(電動ポンプ用回転電機)」は「モータ」と称する。図1は、車両用動力伝達装置の一例としての車両用駆動装置60の構成を模式的に示している。車両用駆動装置60は、車輪Wの駆動力源として、内燃機関(EG:Engine)70及び回転電機(M/G:Motor/Generator)80を備えた、いわゆるパラレル方式のハイブリッド駆動装置である。内燃機関70は、公知のガソリンエンジンやディーゼルエンジンなど、燃料の燃焼により駆動される熱機関である。回転電機80は、複数相の交流(例えば3相交流)により動作する回転電機であり、電動機としても発電機としても機能することができる。内燃機関70と回転電機80とは、内燃機関分離クラッチ75(CL:Clutch)を介して駆動連結されている。
本実施形態では、車両用駆動装置60は、さらに変速装置(TM:Transmission)90を備えている。即ち、図1に示すように、車両用駆動装置60には、内燃機関70と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に、内燃機関70の側から順に、内燃機関分離クラッチ75、回転電機80、変速装置90が設けられている。変速装置90の入力軸は回転電機80の出力軸(例えばロータ軸)に駆動連結され、変速装置90の出力軸は、例えばディファレンシャルギヤ(出力用差動歯車装置)等によって2つに分岐した車軸を介して車輪Wに駆動連結されている。変速装置90は、変速比の異なる複数の変速段を有する有段の自動変速装置である。ここで、変速比は、変速装置90において各変速段が形成された場合の、出力軸の回転速度に対する入力軸の回転速度の比である(=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)。変速装置90は、変速装置90に伝達された回転速度を、各変速段の変速比で変速すると共に、変速装置90に伝達されたトルクを変換して変速装置90の出力軸に伝達する。
尚、ここで「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指す。具体的には、「駆動連結」とは、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等が含まれていてもよい。
例えば、変速装置90は、複数の変速段を形成するために、遊星歯車機構等の歯車機構及び複数の係合装置(クラッチやブレーキ等)を備えた有段変速機構を有するものとして構成することができる。或いは、変速装置90は、2つのプーリー(滑車)にベルトやチェーンを通し、プーリーの径を変化させることで連続的な変速を可能にする変速機構(無段変速機構(CVT:Continuously Variable Transmission))を有するものでもよい。即ち、変速装置90は、入力軸の回転を変速して出力軸に伝達すると共にその変速比が変更可能に構成された変速機構を有していれば、その方式はどのようなものでもよい。
図2は、車両用駆動装置60(車両用動力伝達装置)の伝達状態を制御するための流体圧を生成する電動オイルポンプ50(電動ポンプ)を含む油圧回路を模式的に示している。機械式オイルポンプ(MOP:Mechanical Oil Pump)40は、例えば、内燃機関70の出力軸に連結されている。内燃機関分離クラッチ75が係合している状態では、内燃機関70の出力軸と回転電機80のロータ軸とは同期回転する。従って、機械式オイルポンプ40は、内燃機関70の出力軸及び回転電機80のロータ軸に、例えばワンウェイクラッチ等を介して接続されていてもよい。電動オイルポンプ(EOP:Electric Oil Pump)50は、機械式オイルポンプ40と並列に接続されている。
内燃機関分離クラッチ75を制御するCL係合回路75c、変速装置90の係合装置を制御する変速制御回路90c、変速装置のシフトレンジの位置やパーキングのロック状態を制御するパーキング・バイ・ワイヤ(PBW:Parking-by-wire)回路95cへは、機械式オイルポンプ及び電動オイルポンプの双方から油圧(流体圧)が供給される。また、回転電機80の潤滑用のオイルは、リニアソレノイド(SL)43によって制御されるプライマリレギュレータバルブ42を介して、機械式オイルポンプ40及び電動オイルポンプ50の双方から吐出される。内燃機関分離クラッチ75の潤滑用のオイルは、電動オイルポンプ50から供給される。
以下、図3に示す電動ポンプ用回転電機制御装置(モータ制御装置1)のブロック図を参照して説明する。電動オイルポンプ50は、交流のモータ30(電動ポンプ用回転電機)によって駆動される。モータ30は、磁気的突極性を有する状態で永久磁石が配置されたロータとステータコイルが巻き回されたステータとを備えている。モータ制御装置1は、モータ30を制御対象とし、回転速度ωの目標値である回転速度指令ω(目標回転速度)と、実際の回転速度ω(本実施形態では後述する推定回転速度ω^)との偏差に基づいて、モータ30をフィードバック制御する。詳細は後述するが、モータ制御装置1は、モータ30の回転状態(磁極位置θや回転速度ω)をレゾルバ等の回転センサを用いることなく、いわゆるセンサレスで検出する機能を備えている。
本実施形態において、モータ30は、埋込型永久磁石同期モータ(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor : IPMSM)であり、ロータの永久磁石のN極方向の磁気特性と電気的にこれと垂直な方向(電気角で90°ずれた方向)との磁気特性とが異なる突極性(逆突極性を含む)を有する。詳細は後述するが、本実施形態においてモータ制御装置1は、この突極性を利用して、モータ30の停止時や低速回転時においてもセンサレスで磁極位置や磁極の方向、回転速度などの回転状態を判定する。従って、モータ30は、突極性を有する他の方式のモータ、例えば、シンクロナスリラクタンスモータであってもよい。尚、当然ながら、モータ30は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)の双方の機能を果たすものであってもよい。
モータ30は交流の回転電機であるから、直流電源21とモータ30との間には、直流と交流との間で電力を変換するインバータ23が接続されている。直流電源21は、バッテリ等の充電可能な二次電池である。インバータ23は、直流電源21の直流電力を複数相の交流に変換してモータ30に供給する。また、インバータ23は、モータ30がジェネレータとして機能する際には発電された交流電力を直流に変換して直流電源21に供給する。
インバータ23は、複数のスイッチング素子を有して構成される。スイッチング素子には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やSiC−MOSFET(Silicon Carbide - Metal Oxide Semiconductor FET)やSiC−SIT(SiC - Static Induction Transistor)、GaN−MOSFET(Gallium Nitride - MOSFET)などのパワー半導体素子を適用すると好適である。直流と複数相の交流(ここでは3相交流)との間で電力変換するインバータ23は、よく知られているように複数相(ここでは3相)のそれぞれに対応する数のアームを有するブリッジ回路により構成される。つまり、インバータ23の直流正極側と直流負極側との間に2つのスイッチング素子が直列に接続されて1つのアームが構成される。
複数相の交流が3相交流の場合には、この直列回路(1つのアーム)が3回線並列接続される。つまり、モータ30のU相、V相、W相に対応するステータコイルのそれぞれに一組の直列回路(アーム)が対応したブリッジ回路が構成される。対となる各相のスイッチング素子による直列回路(アーム)の中間点は、モータ30のステータコイルにそれぞれ接続される。つまり、各アームの、直流正極側に接続されるスイッチング素子(上段側スイッチング素子)と直流正極側に接続されるスイッチング素子(下段側スイッチング素子)との接続点は、モータ30のステータコイルにそれぞれ接続される。尚、スイッチング素子には、負極から正極へ向かう方向(下段側から上段側へ向かう方向)を順方向として、それぞれフリーホイールダイオード(回生ダイオード)が並列に接続される。
図3に示すように、モータ制御装置1は、インバータ制御部8、回転状態情報演算部7を備えて構成されている。インバータ制御部8及び回転状態情報演算部7は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築されたECU(electronic control unit)として構成されている。本実施形態において、インバータ制御部8は、ベクトル制御法を用いて、インバータ23を介してモータ30を駆動制御する。回転状態情報演算部7は、磁極位置や回転速度をステータコイルに流れる電流から推定する。インバータ制御部8は、回転状態情報演算部7により推定された磁極位置や回転速度を利用して、電流フィードバック制御を実行する。インバータ制御部8及び回転状態情報演算部7は、種々の機能部を有して構成されており、各機能部は、マイクロコンピュータ等のハードウェアとソフトウェア(プログラム)との協働により実現される。
インバータ23は、インバータ制御部8が生成するスイッチング制御信号Sに応じてスイッチング動作する。インバータ23とインバータ制御部8との間には、必要に応じて電圧変換回路や絶縁回路などを有して構成されているドライバ回路(不図示)が備えられている。ドライバ回路は、インバータ制御部8が生成したスイッチング制御信号S(例えばゲート駆動信号)の駆動能力(例えば電圧振幅や出力電流など、後段の回路を動作させる能力)をそれぞれ高めてスイッチング素子の制御端子(ゲート端子やベース端子など)に中継する回路である。
モータ30は、インバータ制御部8によりスイッチング制御されるインバータ23を介して、所定の出力トルク及び回転速度で駆動される。この際、モータ30の各ステータコイルに実際に流れる電流の値がインバータ制御部8にフィードバックされる。このため、インバータ23の各相アームとモータ30の各相ステータコイルとの間に設けられたバスバーなどの導体を流れる電流(Iu,Iv,Iw)が、電流センサ9により検出される。図3においては、電流センサ9は、バスバーなどの交流電力線に対して非接触で交流電流を検出する非接触電流センサの形態を例示している。尚、本実施形態では、3相全てに対して電流センサ9が配置される形態を例示しているが、3相各相の電流は平衡しており瞬時値はゼロであるから、2相のみの電流値を検出して残りの1相を演算により求める構成であっても構わない。インバータ制御部8は、この実電流(フィードバック電流)とステータコイルに流す電流を指定する電流指令(Id,Iq)との偏差に対してPI制御(比例積分制御)やPID制御(比例積分微分制御)を実行してモータ30を駆動制御する。
ここで、インバータ制御部8によるベクトル制御について簡単に説明する。このベクトル制御におけるベクトル空間(座標系)は、モータ30のロータに配置された永久磁石が発生する磁界の方向であるd軸と当該d軸に電気的に直交するq軸とのdq軸ベクトル座標系(dq軸ベクトル空間)である。本実施形態においてインバータ制御部8は、速度指令制限部10と、トルク指令演算部11と、トルク制御部12(電流指令演算部)と、電流制御部13(電圧指令演算部)と、変調制御部14と、3相2相座標変換部15とを備えて構成されている。
本実施形態において、モータ30は、不図示の上位のECU等からの回転速度指令ωに基づいて、回転速度制御される。速度指令制限部10は、詳細は後述するが、回転速度指令ωによる回転速度の変化の程度を制限する演算器(Rate Limiter)である。トルク指令演算部11は、回転速度指令ω(又は制限後の回転速度指令ω**)及び実際の回転速度(ここでは後述する推定回転速度ω^)に基づき、回転速度制御を実行してトルク指令Tを演算する演算器(ASR:Automatic Speed Regulator)である。尚、本実施形態では、レゾルバ等の回転センサを用いることなくセンサレスでモータ30の回転を検出する。従って、実際の回転速度は、回転状態情報演算部7により推定される推定回転速度であり、図3に示すように^(ハット)付きのω(便宜上、文中ではω^と表記する。)である。トルク制御部12は、同一のトルク(ここではトルク指令T)を発生させる電流ベクトルのうちで,電流振幅を最小にする制御(最大トルク制御)を行う演算器(MTPA Controller:Maximum Torque Per Ampere Controller)である。トルク制御部12は、トルク指令Tに応じてベクトル制御の電流指令Id,Iqを設定する。電流指令Id,Iqは、上述したdq軸ベクトル座標系に対応して設定される。
電流制御部13は、定電流(ここでは電流指令(Id,Iq)を出力するように制御する演算器(ACR:Automatic Current Regulator)である。電流制御部13は、dq軸ベクトル座標系における電流指令Id,Iqと、フィードバック電流Id,Iqとの偏差を例えばPI制御して、dq軸ベクトル座標系における電圧指令Vd,Vqを演算する。フィードバック電流Id,Iqは、モータ30の各ステータコイルに流れる3相電流の検出値が、3相2相座標変換部15により2相のdq軸ベクトル座標系に座標変換されてフィードバックされたものである。変調制御部14は、キャリア周波数fcに応じて直流を交流に変調する変調パターンを生成する。電圧指令Vd,Vqは、変調制御部14において3相の電圧指令に座標変換される。また、変調制御部14は、この3相の電圧指令に基づいてインバータ23をスイッチング制御するスイッチング制御信号Sを、例えばパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)により生成する。
変調制御部14及び3相2相座標変換部15における座標変換は、ロータの磁極位置θに基づいて行われる。つまり、モータ30をベクトル制御するためには、現実の3相座標系(3相空間)と2相のdq軸ベクトル座標系との間での相互の座標変換が必要である。このため、ロータの磁極位置θを精度良く検出する必要がある。本実施形態では、レゾルバなどの回転検出装置を備えることなく、ロータの磁極位置θを推定するセンサレス制御を採用している。従って、磁極位置θは推定磁極位置であり、図3に示すように^付きのθ(便宜上、文中ではθ^と表記する。)である。
モータ30が回転中においては、ロータの回転によってステータコイルに誘起電圧が生じる(ロータの回転による誘導起電力)。このため、フィードバック電流Id,Iqに誘導起電力による脈動成分が含まれ、この脈動成分を検出することによって回転速度ω(推定回転速度ω^)を演算することができる。そして、この推定回転速度ω^から磁極位置θ(推定磁極位置θ^)を演算することができる。一方、モータ30が停止している際には当然ながら誘導起電力も生じない。また、モータ30が低速で回転している際には、誘導起電力も小さくなり、フィードバック電流Id,Iqに含まれる脈動成分も小さくなる。このため、回転速度ω(ω^)及び磁極位置θ(θ^)の演算には、別の手法を用いる必要がある。例えば、モータ30が停止中あるいは低速で回転中の場合には、電気的な刺激となる高周波の観測信号(観測電流又は観測電圧)をモータ30(ステータコイル)に印加し、その応答から回転速度ω(ω^)並びに磁極位置θ(θ^)を演算することができる。
図3に示すように、本実施形態では、相対的に回転速度が低い低速回転域において回転速度ω(ω^)並びに磁極位置θ(θ^)を演算する低速域位置演算部5(第1位置演算部)と、相対的に回転速度が高い高速回転域において回転速度ω(ω^)並びに磁極位置θ(θ^)を演算する高速域位置演算部3(第2位置演算部)との2つの位置演算部を備える。高速域位置演算部3(第2位置演算部)は、誘導起電力(誘起電圧)を利用し、低速域位置演算部5(第1位置演算部)は、高周波の観測信号を用いて回転速度ω(ω^)並びに磁極位置θ(θ^)を演算する。高速域位置演算部3の演算結果(ω^及びθ^)と、低速域位置演算部5の演算結果(ω^及びθ^)とは、後述するように切替部4によって選択されて、トルク指令演算部11や変調制御部14、3相2相座標変換部15で利用される。また、切替部4は、スイッチ6を制御して、高周波の観測信号(ここでは“Vd ”)を印加するか否かの切り替えも行う。本実施形態では、制御信号(制御フラグ)“sw”により、観測信号“Vd ”を印加するか、ゼロ値を印加するかがスイッチ6において選択される。
図4は、モータ30の回転速度(回転数[rpm])及びトルク[Nm]により規定された回転特性マップを模式的に示している。図中、“RL”は低速回転域(第1回転域)を示し、“RH”は高速回転域(第2回転域)を示している。“BL”は、低速回転域RL(第1回転域)と高速回転域RH(第2回転域)との境界を示している。境界BLは、モータ30の回転速度(回転数[rpm])及びトルク[Nm]により規定された回転特性マップにおいて、トルクが相対的に高い場合にトルクが相対的に低い場合と比べて回転速度が低い側となるように設定されている。また、図示は省略するが、境界BLは、図4に示すような連続した直線である必要はなく、曲線状であってもよい。また、同様に図示は省略するが、境界BLは、連続した直線や曲線である必要もなく、階段状であってもよい。
尚、切替部4においては、低速回転域RLと高速回転域RHとが設定されているが、これらの回転域は回転速度にのみ対応して設定されるものではなく、トルクにも対応して設定されている。具体的には、低速回転域RLは、回転速度が低い側、且つトルクが低い側の領域に設定される。高速回転域RHは、回転速度が高い側、且つトルクが高い側の領域に設定される。詳細については、後述するが、このような領域設定によって、2つの演算部(3,5)のそれぞれがより安定し、高い精度で磁極位置を推定することが可能となる。
境界BLを跨いで回転速度が変化する際の境界BLにおける回転速度ωは、高速域位置演算部3及び低速域位置演算部5の何れを利用して磁極位置θを演算するかが切り替わる切替回転速度ωchg1である。上述したように、境界BLは回転速度に対してだけではなく、トルクにも対応して設定されている。従って、トルクに応じて切替回転速度ωchg1も異なる値となる。図4に示すように、トルクT1よりも高いトルクT2における切替回転速度ωchg1はω1であり、トルクT2における切替回転速度ωchg1であるω2よりも低い回転速度となる。
上述したように、回転状態情報演算部7は、少なくとも、低速域位置演算部5と高速域位置演算部3との2つの位置演算部を備えて構成される。また、モータ制御装置1は、低速域位置演算部5により磁極位置θ(θ^)を演算してモータ30を制御する低速域演算モード(第1演算モード)と高速域位置演算部3により磁極位置θ(θ^)を演算してモータ30を制御する高速域演算モード(第2演算モード)と、の少なくとも2つのモードが実行される。切替部4は、これら少なくとも2つの演算モードを切り替えてモータ30をフィードバック制御する。
以下、高速域位置演算部3及び低速域位置演算部5による回転状態情報の演算手法について説明する。
高速域位置演算部3は、ロータの回転によってステータコイルに生じる誘起電圧に基づいてロータの磁極位置θ(θ^)を演算する。本実施形態では、誘起電圧を利用した手法の1つとして、“拡張誘起電圧モデル”によりロータの磁極位置θ(θ^)を演算する形態を例示する。即ち、本実施形態では、高速域位置演算部3は、d軸電流によりロータに発生する磁束の回転により発生する誘起電圧、ステータ側のq軸のインダクタンスに流れる電流の変化分により発生する誘起電圧、永久磁石の磁束の回転により発生する誘起電圧を合算した拡張誘起電圧を用いた“拡張誘起電圧モデル”によりロータの磁極位置θ(θ^)を演算する。磁気的突極性を有する回転電機の回転座標系(dq軸ベクトル座標系)での一般的な回路方程式は、下記式(1)で表される。ここで、pは微分演算子、Ld,Lqはそれぞれd軸インダクタンス及びq軸インダクタンス、Kは誘起電圧定数である。
Figure 2016103885
この式(1)を用いたモデルは、一般的な誘起電圧モデルである。当然ながら、このモデルを用いて、回転状態情報を演算してセンサレス制御を構成することも可能である。本実施形態の高速域位置演算部3は、このモデルに基づいて構築されることを妨げるものではない。しかし、本実施形態では、回転電機の仕様に依存して推定精度の低下を招く可能性が低い“拡張誘起電圧モデル”に基づいて高速域位置演算部3を構築する。このような技術的背景については、市川真士、他による論文“拡張誘起電圧モデルに基づく突極方永久磁石同期モータのセンサレス制御(Sensorless Controls of Salient-Pole Permanent Magnet Synchronous Motors Using Extended Electromotive Force Models, T.IEE Japan, vol. N0.12, 2002)”に詳しいので、ここでは詳細な説明は省略する。この論文によれば、式(1)に含まれる位置情報は、d軸とq軸との違いとして考えることができる。つまり、式(1)の右辺第1項の行列の対角成分及び逆対角成分のインダクタンスの違いと、右辺第2項の誘起電圧項に位置情報が含まれる。この位置情報を1つにまとめると、式(1)は、下記式(2)に書き直すことができる。“Iq”に付加されているドット“・”は“Iq”の時間微分を意味しており,ドットの付いた変数に対してのみ微分を作用させるため、式(1)の微分演算子pとは区別した表記としている。
Figure 2016103885
式(2)に示す電圧方程式を“拡張誘起電圧モデル”と称し、式(2)の第2項を下記式(3)に示すように、“拡張誘起電圧”と定義する。
Figure 2016103885
式(3)の右辺第1項“(Ld−Lq)ωId”は、d軸電流によりロータに発生する磁束の回転により発生する誘起電圧を示している。式(3)の右辺第2項“(Ld−Lq)Iq”は、ステータ側のq軸のインダクタンスに流れる電流の変化分により発生する誘起電圧を示している。式(3)の右辺第3項“ωK”はロータに取り付けられた永久磁石の磁束の回転により発生する誘起電圧を示している。つまり、回転電機の永久磁石とインダクタンスにおける位置情報は、全て“拡張誘起電圧”に集約されていることになる。詳細な説明は、市川氏らの論文に詳しいので省略するが、式(2)を回転電機のステータに設定された固定座標系(例えばαβ軸ベクトル座標系)に変換すると、磁極位置の推定の際に処理が困難な値(論文によれば“2θ”)を含む項が存在しなくなるため、推定のための演算が容易となる。一般的な誘起電圧モデルを用いた磁極位置の演算の際には近似を用いる必要が生じて推定精度を低下させる可能性があるが、拡張誘起電圧モデルを用いた場合には、近似は不要となり、高精度な磁極位置θ(θ^)や回転速度ω(ω^)の推定が可能となる。
低速域位置演算部5は、モータ30に高周波の観測信号を印加し、当該観測信号への応答成分としてフィードバック電流に含まれてフィードバックされる高周波成分に基づいてロータの磁極位置θ(θ^)を演算する。低速域位置演算部5は、例えば、図5に示すように、観測指令生成部51と、復調部52と、位相同期部53とを備えて構成されている。観測指令生成部51は、モータ30に印加する高周波の観測信号を生成する機能部である。本実施形態では、d軸電圧指令Vdに重畳する高周波の観測信号(Vd :Vahcos(ω^t))が生成される。
この観測信号に応じた座標系は、γδ軸ベクトル座標系である。図6に示すように、dq軸ベクトル座標系とγδ軸ベクトル座標系との間には、“θ”(指令値としては位相指令“θ ”)の位相差が存在する。指令値として電圧指令に重畳した位相差に対する応答成分は、モータ30からのフィードバック電流に含まれる。
ここでモータ30のステータに設定される固定座標系(αβ軸ベクトル座標系)と、dq軸ベクトル座標系との関係を考える。dq軸ベクトル座標系は、αβ軸ベクトル座標系に対して回転する座標系となる。そして、磁極位置θは、図7に示すようにαβ軸を基準とした位相角“θ”として定義することができる。また、ロータの回転速度ωは、αβ軸ベクトル座標系に対するdq軸ベクトル座標系の回転速度ωとして定義することができる。本実施形態のように、磁極位置θを演算によって推定する場合には、実際のdq軸ベクトル座標系を直接検出することはできない。従って、図7において^(ハット)付きのdq軸によって示すように、演算によって推定された磁極位置θ^に基づく推定dq軸ベクトル座標系が設定される。αβ軸を基準としたロータの磁極位置は、図7に示すように^付きの“θ^”として定義され、αβ軸ベクトル座標系に対する推定dq軸ベクトル座標系の回転速度は^付きの“ω^”として定義される。
図7に示すΔθは、実際のdq軸ベクトル座標系と推定dq軸ベクトル座標系との誤差に相当する。この誤差“Δθ”をゼロにすることにより、推定dq軸ベクトル座標系が実際のdq軸ベクトル座標系に一致する。つまり、誤差“Δθ”をゼロとすることにより推定dq軸が実際のdq軸となるので、磁極位置が精度良く検出されることになる。回転状態情報演算部7は、この原理により磁極位置を演算する。
図5に示すように、本実施形態では、q軸フィードバック電流Iq(δ軸フィードバック電流Iδ)が復調部52において“εf”に復調される。復調部52は、ハイパスフィルタ52a、ヘテロダイン回路の中核を構成するミキサー52b、ローパスフィルタ52cを備えて構成されている。q軸フィードバック電流Iq(δ軸フィードバック電流Iδ)からは、ハイパスフィルタ52aを通過することによって高周波の観測信号に対する応答成分が抽出される。
ところで、ロータのインダクタンスには、ロータの鎖交磁束Φ(Φd,Φq)に対して、下記式(4)で定義されるダイナミックインダクタンスと、下記式(5)で定義されるスタティックインダクタンスとがある。ここで、Ld:d軸のダイナミックインダクタンス、Lq:q軸のダイナミックインダクタンス、Ld:d軸のスタティックインダクタンス、Lq:q軸のスタティックインダクタンスである。
Figure 2016103885
Figure 2016103885
モータ30の磁気的突極性を示す突極比はq軸のダイナミックインダクタンスをd軸のダイナミックインダクタンスで除した値“Lq/Ld” により示される。また、磁極位置の推定には突極比が“1”より大きいことが条件となる。そして、d軸とq軸とのダイナミックインダクタンスの平均値“ΣL”を“(Ld+Lq)/2”、d軸とq軸とのダイナミックインダクタンスの差分“ΔL”を“(Ld−Lq)/2”とすると、ハイパスフィルタ52aを通過した後のδ軸フィードバック電流Iδの高周波成分“Iδ”は、下記式(6)で示される。
Figure 2016103885
次に、ハイパスフィルタ52aにおいて抽出された応答成分“Iδ”と、観測指令生成部51から伝達される観測指令の高周波成分の正弦成分“sin(ωt)”とがミキサー52bによって混合されて下記式(7)に示す“ε”となる。“A”及び“B”は係数である。観測信号に起因する高周波成分を除去するローパスフィルタ52cを通過した“ε”は、下記式(8)に示す“ε”となる。
Figure 2016103885
Figure 2016103885
図7からも明らかなように、式(8)の“Δθ”が“0”に近づくと、推定dq軸ベクトル座標系とdq軸ベクトル座標系との誤差が小さくなる。位相同期部53は、2つの座標系の位相を同期させる演算器(PLL:Phase Locked Loop)である。この位相同期部53において誤差“Δθ”が“0”となるようにPI制御が実行される。つまり、位相同期部53は、dq軸ベクトル座標系と低速域位置演算部5による演算に基づく推定dq軸ベクトル座標系とを同期させる。本実施形態では、第1PI制御部53aと第2PI制御部53bとの2つのPI制御部が設けられている。PI制御の結果、推定回転速度“ω^”が求められる。回転速度(角速度)を積分すると距離、即ち角度が得られるので、この推定回転速度“ω^”を積分器53cにおいて積分することによって、推定磁極位置“θ^”が求められる。
以上説明したように、低速域位置演算部5及び高速域位置演算部3によって、それぞれ回転状態情報が演算される。切替部4は、モータ30の回転速度及びトルクにより規定された回転特性マップ(図4参照)に基づいて演算モードを切り替え、推定回転速度“ω^”及び推定磁極位置“θ^”を決定する。本実施形態において、切替部4が、演算モードの切り替えの判定を行う際の基準となる回転速度は、実際の回転速度ωに対応する推定回転速度“ω^”である。また、切替部4が、演算モードの切り替えの判定を行う際の基準となるトルクは、トルク指令Tに限らず、d軸フィードバック電流Id(γ軸フィードバック電流Iγ)やq軸フィードバック電流Iq(δ軸フィードバック電流Iδ)から演算によって求められる値であってもよい。また、基準となるトルクは、指令値“T”に制御系の遅れを考慮したフィルタをかけて得られる値であってもよい。
上述したように、本発明に係るモータ制御装置1は、高速域位置演算部3と低速域位置演算部5とを備えることにより、それぞれの演算部に適した回転速度域において磁極位置θ(θ^)を推定することができる。上述したように、低速回転域RL及び高速回転域RHは、回転速度及びトルクに応じて設定されている。拡張誘起電圧モデルには、式(1)〜式(3)を示して上述したように、d軸電流によりロータに発生する磁束の回転により発生する誘起電圧が含まれている。モータ制御装置1は、主として回転速度制御を実施するが、回転速度指令(ω又はω**又はω***)を満足しつつ、その範囲内で出力トルクが最大となるようにモータ30を制御する(上述したように、トルク制御部12は最大トルク制御を行う演算器である)。このため、ステータにはd軸電流も流れ、磁極位置を推定するための誘起電圧も増加することになる。つまり、高速域位置演算部3による磁極位置の推定では、低トルクの場合に比べて、高トルクの場合の方が、推定精度が向上し、より演算が安定することになる。
一方、低速域位置演算部5による磁極位置θ(θ^)の推定では、以下に述べる理由により、高トルクの場合に比べて、低トルクの場合の方が、推定精度が向上し、より演算が安定する。最大トルク制御を実施する場合、d軸電流は一般的に負の値となるからトルクの大小に拘わらず、d軸のダイナミックインダクタンス“Ld”はほとんど変化しない。一方、q軸の磁束は、トルクが大きくなるとq軸電流が増加して次第に飽和領域へと近づく。ダイナミックインダクタンスは、磁束の微分値であるから、q軸電流が増加して飽和領域に近づくとq軸のダイナミックインダクタンス“Lq”は“0”に近づいていく。つまり、トルクが大きくなるに従って、q軸のダイナミックインダクタンス“Lq”は小さくなっていく。
高周波の観測信号に対する応答成分によって磁極位置を推定する手法は、回転電機の磁気的突極性を利用しているが、上述したように突極比は、“Lq/Ld”である。q軸のダイナミックインダクタンス“Lq”が小さくなることによって、突極比が小さくなるので、突極性を利用した磁極位置の推定を行う場合の安定性が低下する。上述したように、磁極位置の推定には突極比が“1”より大きいことが条件となるから、回転速度が同じであっても、トルクが大きくなってq軸のダイナミックインダクタンス“Lq”が小さくなると演算の安定性が低下する。
尚、低速域位置演算部5により磁極位置θ(θ^)を推定する際には、電圧指令Vdに対して高周波の観測指令を重畳する必要がある。このため、切替部4は、低速域位置演算部5による演算が実行される際には、スイッチ6を切り替えて、電圧指令Vdに対して高周波の観測指令を重畳させる。切替部4は、低速域位置演算部5による演算が実行されない際には、スイッチ6を切り替えて、電圧指令Vdに対する重畳信号を“0”に設定する。
ところで、高速域位置演算部3は、上記式(3)に示した拡張誘起電圧から、回転速度ω(ω^)及び磁極位置θ(θ^)を演算する。一方、低速域位置演算部5は、図5に示すように、復調部52のローパスフィルタ52cや位相同期部53を経由して、回転速度ω(ω^)及び磁極位置θ(θ^)を演算する。つまり、低速域位置演算部5では、ローパスフィルタ52cや位相同期部53による遅れが生じる。このため、高速域位置演算部3により演算された回転速度ω(ω^)及び磁極位置θ(θ^)を用いてモータ30を回転速度制御する場合に比べて、低速域位置演算部5により演算された回転速度ω(ω^)及び磁極位置θ(θ^)を用いてモータ30を回転速度制御する場合の応答性が低くなる。上述したように、モータ30は、上位のECUから与えられる速度指令ωに基づいて回転速度制御される。回転速度制御に際しては、単位時間当たりにロータの回転速度を変化させる割合を示す変化率が高い方が、応答性が高い。尚、変化率は加速時及び減速時の双方における回転速度の変化の割合として規定される。本実施形態では、加速時及び減速時の双方において同じ変化率が適用される。従って、変化率の大小を比較するような場合には、特に断りが無い限り、絶対値による比較を行うものとして説明する。
低速域位置演算部5を利用して回転速度制御する場合には、回転速度ω(ω^)及び磁極位置θ(θ^)の応答性がボトルネックとなり、高速域位置演算部3を利用して回転速度制御する場合に比べて、変化率の上限が低くなる。即ち、回転速度制御の応答性は、低速域位置演算部5を利用して回転速度制御する場合に比べて、高速域位置演算部3を利用して回転速度制御する場合の方が、低くなる。速度指令ωの変化率の上限を高速域位置演算部3の応答性に合わせると、低速域位置演算部5を利用した回転速度制御の安定性を損なう可能性がある。一方、速度指令ωの変化率の上限を低速域位置演算部5の応答性に合わせると、高速域位置演算部3を利用した回転速度制御の応答性が低くなる。
そこで、本実施形態では、回転速度指令ωの値や回転速度指令ωの変化率を制限する。図8は、速度指令制限部10の構成を模式的に示している。速度指令制限部10は、パラメータ設定部10aと変化率リミッタ10bとを備えている。また、パラメータ設定部10aは、指令値リミッタ10yと最大変化率設定部10xとを備えている。指令値リミッタ10yは、回転速度指令ωの値を制限するリミッタである。例えば、加速制御に際して、回転速度指令ωが、モータ30が出力可能な最大の回転速度ωmaxを指定していても、指令値リミッタ10yは、それよりも低い回転速度に制限することができる。また、減速制御に際して回転速度指令ωがゼロを指定していても、指令値リミッタ10yは、それよりも高い回転速度に制限することができる。指令値リミッタ10yを通過後の回転速度指令は“ω**”である(制限後回転速度指令)。尚、当然ながら“ω**=ω”という場合もある。
最大変化率設定部10xは、ロータの回転速度を変化させる際に許容する最大の変化率である最大変化率Xを設定する。最大変化率設定部10xにより、第1演算モードの最大変化率X(第1最大変化率X1)と、第2演算モードの最大変化率X(第2最大変化率X2)とが、個別に設定可能である。これらの最大変化率(X1,X2)は、切替部4からの情報“mode”に基づいて切り替えられる。この情報“mode”は、第1演算モード及び第2演算モードの何れによりモータ30を制御するかを示している。“mode”が第1演算モードの実行を示している場合には、最大変化率Xとして第1最大変化率X1が選択される。“mode”が第2演算モードの実行を示している場合には、最大変化率Xとして第2最大変化率X2が選択される。上述したように、高速域位置演算部3に比べて、低速域位置演算部5は応答速度が低い。従って、第1演算モードの最大変化率である第1最大変化率X1は、第2演算モードの最大変化率である第2最大変化率X2に比べて、絶対値が小さい(|X1|<|X2|)。尚、図11から図15等を参照して後述するように、最大変化率Xとして3つ以上の値が選択可能であってもよい。図8に破線で示すように、本実施形態では、最大変化率設定部10xが第3最大変化率X3も選択可能な構成を例示している。
ここで、第1最大変化率X1は、低速域位置演算部5に備えられるローパスフィルタ52c及び位相同期部53の時定数に応じて設定されていると好適である。上述したように、低速域位置演算部5の応答性を低下させる要因の1つは、ローパスフィルタ52cや位相同期部53において生じる遅延である。従って、これらの時定数に応じて最大変化率が設定されると、過度な制限を与えることなく、可能な範囲で最も追従性の高い制御器を構築することができる。
変化率リミッタ10bは、設定された最大変化率Xに基づき、必要に応じて指令値リミッタ10yを通過後の回転速度指令ω**を制限し、制限後の回転速度指令ω***を出力する(最終回転速度指令ω***)。後段の演算器(ここではトルク指令演算部11)は、変化率リミッタ10bから出力される回転速度指令(最終回転速度指令ω***)に基づいて演算を実行する。当然ながら、回転速度指令ωの変化が最大変化率X以内であれば、変化率リミッタ10bに入力される回転速度指令(ω**)は制限されない。従って、“ω***=ω**”の場合もある。また、指令値リミッタ10yにおいても制限を受けていなければ、“ω***=ω**=ω”の場合もある。
ところで、制御モードの切り替えの際には、制御の安定性が損なわれる場合がある。特に、最大変化率Xが、絶対値の大きい第2最大変化率X2から第1最大変化率X1に切り替わる際、つまり減速時には、急に応答速度が低下することになり、モータ30の出力(回転速度やトルク)が乱れる可能性がある。電動オイルポンプ50などのモータ30に駆動される機器の安定動作を考慮すれば、モータ30は停止した状態から安定して起動すると共に、広い回転速度域に亘って迅速且つ滑らかに加速及び減速できることが好ましい。そこで、本実施形態のモータ制御装置1は、下記に説明するように、演算モードが第2演算モードから第1演算モードに切り替わる際に、モータ30の回転に乱れを生じることなく、連続して安定した回転速度制御が実現できるように構成されている。
図9のグラフは、回転速度制御の一例(第1の例)を模式的に示している。図9の上段のグラフは、上位のECU等からモータ制御装置1に与えられる回転速度指令ωを示している。この例では、時刻t1において、回転速度指令ωが、速度ゼロからモータ30が出力可能な最大の回転速度ωmaxに指定され、時刻t5においてゼロに指定されている。図9の下段のグラフは、破線により指令値リミッタ10yを通過後の回転速度指令ω**を示し、実線により変化率リミッタ10bを通過後(速度指令制限部10を通過後)の回転速度指令ω***を示し、一点鎖線によりモータ30の回転速度ωestを示している。この「回転速度ωest」は、モータ30の実際の回転速度に相当するものであり、ここではシミュレーション値を示している。「回転速度ωest」には、例えば、回転状態情報演算部7(低速域位置演算部5又は高速域位置演算部3)により演算された推定回転速度ω^(ω^,ω^L)を適用することができる。この「回転速度ωest」は、演算モードの切替えの際に判定の対象となるものである。
図9の下段のグラフに示すように、時刻t1から時刻t5の間にモータ30の回転速度ωは、ゼロから最大の回転速度ωmaxに達する。従って、時刻t5における回転速度指令ωは、最大の回転速度ωmaxからゼロへの速度変化を指示するものである。即ち、図9に示す回転速度制御は、トルクが一定となる条件で、許容される最大の変化率(最大変化率X)で回転速度を加速及び減速させた場合を例示している。図11、図13、図14を参照して後述する例においても同様である。
図9に示すように、モータ30の回転速度ωestは、少なくともモータ制御装置1による演算時間分(最終回転速度指令ω***に対する応答時間分)遅れて最終回転速度指令ω***に追従する。上述したように、本実施形態において、演算モードはモータ30の回転速度ωestに応じて切り替わる。モータ30の回転速度ωestは時刻t3において切替回転速度ωchg1に達する。時刻t1から時刻t3は、低速回転域RLであり、第1演算モードでモータ30が制御される。この際には、最終回転速度指令ω***の変化率は、第1最大変化率X1以内に制限される。
以下、図10のフローチャートも参照して説明する。ステップ#1において、演算モードが第1演算モード(mode1)であるか否かが判定される。演算モードが第1演算モード(mode1)である場合には、指令値リミッタ10yによる制限を受けずに、制限後回転速度指令ω**として元の回転速度指令ωが設定される(#2)。また、最大変化率設定部10xにより、最大変化率Xとして第1最大変化率X1が設定される(#2)。変化率リミッタ10bは、現在の最終回転速度指令ω*** (n−1)を、第1最大変化率X1の範囲内で制限後回転速度指令ω**(回転速度指令ω)の方向へ変化させて、最終回転速度指令ω***を決定する。尚、現在の最終回転速度指令ω*** (n−1)とは、今回をn回目として前回((n−1)回目)の制御ループにおいて設定された最終回転速度指令ω***に相当する。モータ制御装置1は、この最終回転速度指令ω***に基づいて回転速度制御を実行する。
モータ30の回転速度が切替回転速度ωchg1に達する時刻t3において、演算モードが第1演算モード(mode1)から第2演算モードに切り替わる。ステップ#1の判定結果は“No”となり、次にモータ30が加速中であるか否かが判定される(#3)。つまり、第2演算モードの実行中には、モータ30を加速制御しているか、減速制御しているかが判定される。本実施形態では、現在の最終回転速度指令ω*** (n−1)と、最新の回転速度指令ωとを比較し、最新の回転速度指令ωの方が大きい場合に加速中と判定している。モータ30が加速中である場合には、指令値リミッタ10yによる制限を受けずに、制限後回転速度指令ω**として元の回転速度指令ωが設定される(#4)。また、最大変化率設定部10xにより、最大変化率Xとして第2最大変化率X2が設定される(#4)。変化率リミッタ10bは、現在の最終回転速度指令ω*** (n−1)を、第2最大変化率X2の範囲内で制限後回転速度指令ω**(回転速度指令ω)の方向へ変化させて、最終回転速度指令ω***を決定する。モータ制御装置1は、この最終回転速度指令ω***に基づいて回転速度制御を実行する。上述したように、第1最大変化率X1の絶対値に対して第2最大変化率X2の絶対値は大きい。従って、時刻t1から時刻t3までの間に比べて、時刻t3以降の方が速く回転速度ωestが上昇している。
ところで、現在の最終回転速度指令ω*** (n−1)が最大の回転速度ωmaxに達すると、現在の最終回転速度指令ω*** (n−1)と最新の回転速度指令ωとが同値となり、ステップ#3の判定は“No”となる。しかし、最新の回転速度指令ωが、切替回転速度ωchg1以下でなければ、次のステップ#5を経て、ステップ#4が実行される。即ち、回転速度指令ωが切替回転速度ωchg1以下となるような急激な減速制御が指示されていない場合には、上述した第2演算モードが継続される。
時刻t3以降、モータ30の回転速度ωestが切替回転速度ωchg1に達する時刻t9までの間は、高速回転域RHであり、第2演算モードでモータ30が制御される。時刻t3から時刻t9の間では、最終回転速度指令ω***の変化率は、基本的には第2最大変化率X2以内に制限される。但し、本実施形態では、第2演算モードから第1演算モードへ切り替わる前に、第2最大変化率X2とは異なる最大変化率Xまでの値に最終回転速度指令ω***の変化率を制限して、第2演算モードでモータ30が制御される。具体的には、第2演算モードから第1演算モードへの切り替えに際しては、第2最大変化率X2を用いて実行される第2演算モードから、第1最大変化率X1以下の最大変化率Xを用いて実行される第2演算モードを経て、第1最大変化率X1を用いて実行される第1演算モードに遷移してモータ30が制御される。
上述したように、時刻t5において、回転速度指令ωは、最大の回転速度ωmaxからゼロへと変化する。この回転速度指令ω(=0)は、現在の最終回転速度指令ω*** (n−1)(=ωmax)以下であるから、図10のフローチャートにおけるステップ#3の判定結果は“No”となる。また、この回転速度指令ω(=0)は、切替回転速度ωchg1以下であるから、ステップ#5の判定結果も“No”となる。この場合には、指令値リミッタ10yによる制限を受け、制限後回転速度指令ω**として切替回転速度ωchg1が設定される(#6)。図9の下段のグラフに破線で示すように、時刻t5において、制限後回転速度指令ω**は切替回転速度ωchg1となる。演算モードとしては第2演算モードが継続されており、最大変化率設定部10xにより、最大変化率Xとして第2最大変化率X2が設定される(#6)。
変化率リミッタ10bは、現在の最終回転速度指令ω*** (n−1)を、第2最大変化率X2の範囲内で制限後回転速度指令ω**(切替回転速度ωchg1)の方向へ変化させて、最終回転速度指令ω***を決定する。モータ制御装置1は、この最終回転速度指令ω***に基づいて回転速度制御を実行する。図9の下段のグラフに示すように、最終回転速度指令ω***及びモータ30の回転速度ωestは、時刻t5以降、切替回転速度ωchg1へ向かって低下していく。最終回転速度指令ω***が切替回転速度ωchg1に達した時点(時刻t8)では、モータ30の回転速度ωestはまだ追従していない。従って、最終回転速度指令ω***は、切替回転速度ωchg1に制限された状態(固定された状態)となる(#1→#3→#5→#6)。
時刻t9において、モータ30の回転速度ωestが切替回転速度ωchg1に達すると演算モードが第2演算モードから第1演算モード(mode1)に切り替わり、ステップ#1の判定が“yes”となる。その結果、指令値リミッタ10yによる制限を受けずに、制限後回転速度指令ω**として元の回転速度指令ω(=0)が設定される(#2)。また、最大変化率設定部10xにより、最大変化率Xとして第1最大変化率X1が設定される(#2)。変化率リミッタ10bは、現在の最終回転速度指令ω*** (n−1)(=切替回転速度ωchg1)を、第1最大変化率X1の範囲内で制限後回転速度指令ω**(回転速度指令ω(=0))の方向へ変化させて、最終回転速度指令ω***を決定する。モータ制御装置1は、この最終回転速度指令ω***に基づいて回転速度制御を実行する。
図9の下段のグラフに示すように、演算モードが第2演算モード(mode2)から第1演算モード(mode1)に切り替わる際(時刻t9)において、モータ30の回転速度ωestは安定して変化している。つまり、演算モードの切り替わり時に、モータ30の回転に乱れを生じることなく、連続して安定した回転速度制御が実現されている。時刻t8から時刻t9の間は、最終回転速度指令ω***が、制限後回転速度指令ω**(=ωchg1)に固定されている。従って、時刻t8から時刻t9の間は、最終回転速度指令ω***の最大変化率Xがゼロに制限されていることと等価である。値がゼロの最大変化率Xは、当然ながら第1最大変化率X1以下である。
従って、図9及び図10を参照して例示した形態では、第2演算モードから第1演算モードへの切り替えに際して、第2最大変化率X2を用いて実行される第2演算モード(時刻t5から時刻t8)から、第1最大変化率X1以下の最大変化率X(この場合はゼロ)を用いて実行される第2演算モード(時刻t8から時刻t9)を経て、第1最大変化率X1を用いて実行される第1演算モード(時刻t9以降)に遷移してモータ30が制御される。より具体的には、第2演算モードから第1演算モードへの切り替えは、モータ30の回転速度ωestが、切替回転速度ωchg1に達した場合に実施され、第2演算モードから第1演算モードへの切り替えに際しては、モータ30の回転速度ωestが切替回転速度ωchg1に達するまで、回転速度指令(最終回転速度指令ω***)を一時的に切替回転速度ωchg1に固定して第2演算モードが実行される。
図11のグラフ及び図12のフローチャートは、回転速度制御の別の例(第2の例)を示している。この第2の例でも、第2演算モードから第1演算モードへの切り替えに際して、第2最大変化率X2を用いて実行される第2演算モード(時刻t5から時刻t6)から、第1最大変化率X1以下の最大変化率X(この場合はゼロ及び後述する第3最大変化率X3)を用いて実行される第2演算モード(時刻t6から時刻t12)を経て、第1最大変化率X1を用いて実行される第1演算モード(時刻t12以降)に遷移してモータ30が制御される。尚、第2の例では、第1最大変化率X1以下の最大変化率X(この場合はゼロ及び後述する第3最大変化率X3)を用いて実行される第2演算モード(時刻t6から時刻t12)が、3つのフェーズに分かれる。第1のフェーズは、時刻t6から時刻t7であり、このフェーズでは、最大変化率Xがゼロで第2演算モードが実行される。第2のフェーズは、時刻t7から時刻t11であり、このフェーズでは、最大変化率Xとして第1最大変化率X1以下の第3最大変化率X3で第2演算モードが実行される。第3のフェーズは、時刻t11から時刻t12であり、このフェーズでも、最大変化率Xがゼロで第2演算モードが実行される。
具体的には、第2演算モードから第1演算モードへの切り替えに際して、モータ30は以下のように制御される。第1の例と同様に、モータ30の回転速度ωestが、切替回転速度ωchg1に達した場合に、演算モードが第2演算モードから第1演算モードへ切り替わる。そして、第2演算モードから第1演算モードへの切り替えに際しては、モータ30の回転速度ωetsが、第2演算モードが実行される回転速度の範囲内(ωchg1からωmaxの範囲内)に設定された切替準備回転速度ωchg2に達した後、切替回転速度ωchg1に達するまで、第1最大変化率X1以下(ゼロ又は第3最大変化率X3又は第1最大変化率X1)で第2演算モードを実行してモータ30が制御される。詳細については、図11及び図12を参照して以下で説明する。尚、第1の例と同様の点については適宜説明を省略する。
モータ30の回転速度ωestがゼロから最大の回転速度ωmaxに加速する際の制御については、第1の例と同様であるから、図11のグラフ及び図12のフローチャートの説明は省略する。演算モードが第1演算モードから第2演算モードに切り替わった時刻t3以降、モータ30の回転速度ωestが切替回転速度ωchg1まで下降る時刻t12までの間は、高速回転域RHであり、第2演算モードでモータ30が制御される。時刻t3から時刻t12の間では、最終回転速度指令ω***の変化率は、基本的には第2最大変化率X2以内に制限される。但し、上述したように、第2演算モードから第1演算モードへ切り替わる前に、第2最大変化率X2とは異なる最大変化率Xの範囲に最終回転速度指令ω***の変化率を制限して、第2演算モードでモータ30が制御される。
第1の例においても説明したように、時刻t5において、回転速度指令ωは、最大の回転速度ωmaxからゼロへと変化する。図12のフローチャートにおけるステップ#3の判定結果は“No”となり、ステップ#5の判定結果も“No”となる。第1の例では、ここで指令値リミッタ10yによる制限を受け、制限後回転速度指令ω**として切替回転速度ωchg1が設定された(図10:#6)。第2の例では、ステップ#5の判定結果が“No”であった場合、さらにパラメータ“Y”が切替準備回転速度ωchg2よりも大きいか否かが判定される(#7)。切替準備回転速度ωchg2は、切替回転速度ωchg1よりも高い回転速度に設定されている。その設定基準については、図16及び図17を参照して後述する。パラメータ“Y”は、モータ30の回転速度ωest、又は最終回転速度指令ω***に速度応答相当のフィルタを掛けて推定した回転速度、又は最終回転速度指令ω***である。「最終回転速度指令ω***に速度応答相当のフィルタを掛けて推定した回転速度」は、「モータ30の回転速度ωest」を模擬したものであるから、両者の物理的意義はほぼ等価と考えてよい。第2の例においては、パラメータ“Y”が、これら2つに相当するものとして説明する。パラメータ“Y”が「最終回転速度指令ω***」である場合については、第3の例として図13から図15を参照して後述する。
最大の回転速度ωmaxで回転している状態から減速を開始する際、つまり、時刻t5においては、パラメータ“Y”(モータ30の回転速度ωest)は切替準備回転速度ωchg2を上回っている。従って、ステップ#7の判定は“Yes”となり、最大変化率設定部10xにより、最大変化率Xとして第2最大変化率X2が設定される(#6B)。この最大変化率X(X2)は、通常の第2演算モードにおける最大変化率X(X2)と同値である。一方、制限後回転速度指令ω**は指令値リミッタ10yにより制限されて切替準備回転速度ωchg2となる(#6B)。
変化率リミッタ10bは、現在の最終回転速度指令ω*** (n−1)を、第2最大変化率X2の範囲内で制限後回転速度指令ω**(切替準備回転速度ωchg2)の方向へ変化させて、最終回転速度指令ω***を決定する。モータ制御装置1は、この最終回転速度指令ω***に基づいて回転速度制御を実行する。図11の下段のグラフに示すように、最終回転速度指令ω***及びモータ30の回転速度ωestは、切替準備回転速度ωchg2へ向かって低下していく。最終回転速度指令ω***が切替準備回転速度ωchg2に達した時点(時刻t6)では、モータ30の回転速度ωestはまだ追従していない。従って、最終回転速度指令ω***は、モータ30の回転速度ωestが追従する時刻t7まで、切替準備回転速度ωchg2に制限された状態(固定された状態)となる(#1→#3→#5→#7→#6B)。つまり、時刻t6から時刻t7は、上述した第1のフェーズであり、最大変化率Xがゼロで第2演算モードが実行されることと等価である。
時刻t7において、モータ30の回転速度ωestが切替準備回転速度ωchg2に達すると、ステップ#7の判定は“No”となる。最大変化率設定部10xにより、最大変化率Xとして第3最大変化率X3が設定される(#8)。この最大変化率X(X3)は、絶対値において、この後遷移する第1演算モードにおける最大変化率X(X1)以下の値である。また、制限後回転速度指令ω**は指令値リミッタ10yにより制限されて切替回転速度ωchg1となる(#8)。この時点(時刻t7)において、モータ30の回転速度ωestは、切替回転速度ωchg1以上であるから、図11に示すように、演算モードとしては第2演算モードが継続される。
変化率リミッタ10bは、現在の最終回転速度指令ω*** (n−1)を、第3最大変化率X3の範囲内で制限後回転速度指令ω**(切替回転速度ωchg1)の方向へ変化させて、最終回転速度指令ω***を決定する。モータ制御装置1は、この最終回転速度指令ω***に基づいて回転速度制御を実行する。図11の下段のグラフに示すように、最終回転速度指令ω***及びモータ30の回転速度ωestは、切替回転速度ωchg1へ向かって低下していく。最終回転速度指令ω***は、時刻t11で切替回転速度ωchg1に達する。時刻t7から時刻t11は、上述した第2のフェーズであり、最大変化率Xが第3最大変化率X3で第2演算モードが実行される。
最終回転速度指令ω***が切替回転速度ωchg1に達した時点(時刻t11)では、モータ30の回転速度ωestはまだ追従していない。従って、最終回転速度指令ω***は、モータ30の回転速度ωestが追従する時刻t12まで、切替回転速度ωchg1に制限された状態(固定された状態)となる(#1→#3→#5→#7→#8)。つまり、時刻t11から時刻t12は、上述した第3のフェーズであり、最大変化率Xがゼロで第2演算モードが実行されることと等価である。時刻t12において、モータ30の回転速度ωestが切替回転速度ωchg1に達すると演算モードが第2演算モードから第1演算モードに切り替わり、図12のフローチャートのステップ#1の判定が“yes”となる。以下の制御は、第1の例と同様であるから詳細な説明は省略する。
図11の下段のグラフに示すように、演算モードが第2演算モード(mode2)から第1演算モード(mode1)に切り替わる際(時刻t12)において、モータ30の回転速度ωestは安定して変化している。つまり、演算モードの切り替わり時に、モータ30の回転に乱れを生じることなく、連続して安定した回転速度制御が実現されている。時刻t6から時刻t12の間についても、最終回転速度指令ω***の最大変化率Xが、ゼロ又は第1最大変化率X1以下の値(第3最大変化率X3)に制限されており、モータ30の回転速度ωestの変化の度合いが抑制されている。従って、第2演算モード(mode2)から第1演算モード(mode1)に、穏やかに遷移させることができる。尚、第3最大変化率X3は、第1最大変化率X1よりも絶対値が小さい値であってもよいし、第1最大変化率X1と同じ値であってもよい。
上述したように、図12のステップ#7における判定対象のパラメータ“Y”は、モータ30の回転速度ωest、又は最終回転速度指令ω***に速度応答相当のフィルタを掛けて推定した回転速度、又は最終回転速度指令ω***である。以下、パラメータ“Y”が最終回転速度指令ω***である場合について、回転速度制御の第3の例として、図13から図15を参照して説明する。
この第3の例でも、第2演算モードから第1演算モードへの切り替えに際して、第2最大変化率X2を用いて実行される第2演算モード(時刻t5から時刻t6)から、第1最大変化率X1以下の最大変化率X(図13の例の場合は第3最大変化率X3、図14の例の場合は第1最大変化率X1)を用いて実行される第2演算モード(時刻t6から時刻t15(図13)又は時刻t6から時刻t13(図14))を経て、第1最大変化率X1を用いて実行される第1演算モード(時刻t15以降(図13)又は時刻t13以降(図14))に遷移してモータ30が制御される。第2の例では、第1最大変化率X1以下の最大変化率X(ゼロ及び第3最大変化率X3)を用いて実行される第2演算モード(図11の時刻t6から時刻t12)が、3つのフェーズに分かれていた。しかし、第3の例では、第1最大変化率X1以下の最大変化率X(第3最大変化率X3又は第1最大変化率X1)を用いて実行される第2演算モードが、1つのフェーズで構成される(図13の時刻t6から時刻t15、図14の時刻t6から時刻t13参照)。
具体的には、第2演算モードから第1演算モードへの切り替えに際して、以下のように制御される。第2演算モードから第1演算モードへの切り替えは、第1の例及び第2の例と同様に、モータ30の回転速度ωestが、切替回転速度ωchg1に達した場合に実施される。そして、第2演算モードから第1演算モードへの切り替えに際しては、最大変化率Xによる制限後の目標回転速度(最終回転速度指令ω***)が、第2演算モードが実行される回転速度の範囲内(ωchg1からωmaxの範囲内)に設定された切替準備回転速度ωchg2に達した後、切替回転速度ωchg1に達するまで、第1最大変化率X1以下(第3最大変化率X3又は第1最大変化率X1)で第2演算モードを実行してモータ30が制御される。尚、第2の例では、第2演算モードから第1演算モードへの切り替えに際して、「最終回転速度指令ω***」ではなく、「モータ30の回転速度ωest」が、切替準備回転速度ωchg2に達したことを判定条件としており、この点において第2の例と第3の例とは相違する。以下、第3の例について、図13及び図14のグラフ、及び図15のフローチャートを参照して詳細に説明するが、既に説明した第1の例及び第2の例と同様の点については適宜説明を省略する。
モータ30の回転速度ωestがゼロから最大の回転速度ωmaxに加速する際の制御については、第1の例及び第2の例と同様であるから説明を省略し、回転速度指令ωがゼロへと変化し、減速制御が始まる時刻t5以降について説明する。第1の例及び第2の例においても説明したように、時刻t5において回転速度指令ωがゼロとなると、図15のフローチャートにおけるステップ#3の判定結果は“No”となり、ステップ#5の判定結果も“No”となる。第3の例では、第2の例と同様に、ステップ#5の判定結果が“No”であった場合、さらにパラメータ“Y”が切替準備回転速度ωchg2よりも大きいか否かが判定される(図12の#7参照)。第3の例では、パラメータ“Y”が最終回転速度指令ω***であるから、現在の最終回転速度指令ω*** (n−1)(前回の制御ループにおいて設定された最終回転速度指令ω*** (n−1))が切替準備回転速度ωchg2よりも大きいか否かが判定される(図15:#7C)。
最大の回転速度ωmaxで回転している状態から減速を開始する際、つまり、時刻t5においては、最終回転速度指令ω*** (n−1)は切替準備回転速度ωchg2を上回っている。従って、ステップ#7Cの判定は“Yes”となり、最大変化率設定部10xにより、最大変化率Xとして第2最大変化率X2が設定される(#6C)。この最大変化率X(X2)は、通常の第2演算モードにおける最大変化率X(X2)と同値である。また、第3の例においては、制限後回転速度指令ω**も指令値リミッタ10yにより制限されることはなく、制限後回転速度指令ω**として元の回転速度指令ωが設定される(#6C)。
変化率リミッタ10bは、現在の最終回転速度指令ω*** (n−1)を、第2最大変化率X2の範囲内で制限後回転速度指令ω**(回転速度指令ω)の方向へ変化させて、最終回転速度指令ω***を決定する。モータ制御装置1は、この最終回転速度指令ω***に基づいて回転速度制御を実行する。図13及び図14のグラフに示すように、最終回転速度指令ω***及びモータ30の回転速度ωestは、回転速度指令ω(=0)へ向かって低下していく。最終回転速度指令ω***が切替準備回転速度ωchg2に達した時点(時刻t6)では、モータ30の回転速度ωestはまだ追従していないが、第3の例における判定対象(パラメータ“Y”)は、「回転速度ωest」ではなく、「最終回転速度指令ω***」である。従って、最終回転速度指令ω***は、モータ30の回転速度ωestが追従する時刻まで制限された状態(固定された状態)となることなく低下する。
但し、最終回転速度指令ω***が切替準備回転速度ωchg2に達すると(時刻t6)、ステップ#7Cの判定結果は“No”となり、最大変化率設定部10xにより、最大変化率Xとして第3最大変化率X3が設定される(#8C)。制限後回転速度指令ω**は、ステップ#6Cと同様に指令値リミッタ10yにより制限されることなく、制限後回転速度指令ω**として元の回転速度指令ωが設定される(#8C)。この時点(時刻t6)において、モータ30の回転速度ωestは、切替回転速度ωchg1以上であるから、図13及び図14に示すように、演算モードとしては第2演算モードが継続される。図13は、時刻t6以降の第3最大変化率X3として、第1最大変化率X1よりも絶対値が小さい値が用いられる場合を例示している。図14は、時刻t6以降の第3最大変化率X3として第1最大変化率X1が用いられる場合を例示している。
変化率リミッタ10bは、現在の最終回転速度指令ω*** (n−1)を、第3最大変化率X3の範囲内で制限後回転速度指令ω**(=0)の方向へ変化させて、最終回転速度指令ω***を決定する。モータ制御装置1は、この最終回転速度指令ω***に基づいて回転速度制御を実行する。図13及び図14のグラフに示すように、最終回転速度指令ω***及びモータ30の回転速度ωestは、低下していく。最終回転速度指令ω***は、図13に示す例では時刻t14に、図14に示す例では時刻t10に、切替回転速度ωchg1に達する。しかし、この時点では、モータ30の回転速度ωestはまだ追従していないので、第3最大変化率X3を用いた第2演算モードが継続される。尚、第3の例では、第1の例や第2の例とは異なり、最終回転速度指令ω***が例えば“ωchg1”や“ωchg2”に固定されることなく、元の回転速度指令ωに向かって継続して低下していく。図13における時刻t15、図14における時刻t13において、モータ30の回転速度ωestが切替回転速度ωchg1に達すると演算モードが第2演算モードから第1演算モードに切り替わると、図15のフローチャートのステップ#1の判定が“yes”となる。以下の制御は、第1の例及び第2の例と同様であるから詳細な説明は省略する。
図13及び図14に示すように、最大変化率Xが切り替わる時刻t6は、第2演算モードが継続中である。そして、この際の最大変化率Xの切替えは、単位時間当たりの回転速度ω(ωest)の変化量が少なくなる方向であるから、時刻t6の前後では、連続して安定した回転速度制御が可能である。また、図13における時刻t15、図14における時刻t13で、演算モードが第2演算モードから第1演算モードに切り替わるが、これらの時刻においては、既に最大変化率Xが、第1最大変化率X1以下となっている。従って、第1演算モードに切り替わった際に急に応答性が低下することはなく、連続して安定した回転速度制御が可能である。
尚、特に図14に例示する形態、つまり、第3最大変化率X3として第1最大変化率X1を適用する形態は、第2演算モードから第1演算モードへの遷移に際して、第1演算モードの開始前から最大変化率Xを第1演算モードの第1最大変化率X1に設定して第2演算モードを実行し、最大変化率Xを維持した状態で第1演算モードに遷移する形態ということもできる。ここで、「第1演算モードの開始前」は、「第1演算モードに切り替わると推定される時点よりも、少なくとも予め規定された切替準備期間の分だけ前の時点」とすることができる。この「切替準備期間」は、「切替準備回転速度ωchg2」についての下記の説明における“5τsc”とすると好適である。
ところで、切替準備回転速度ωchg2は、速度制御系の応答特性(時定数τsc)に基づいて設定されると好適である。ここで、時定数τscは、回転速度ωscを速度制御系のカットオフ周波数として“τsc=1/ωsc”である。即ち、切替準備回転速度ωchg2は、最大変化率Xによる制限後の目標回転速度(最終回転速度指令ω***)とモータ30の回転速度ω(ωest)との偏差に基づくフィードバック制御の応答特性に応じて設定されていると好適である。図16は、図17に示す回転速度制御の等価ブロック線図における、最終回転速度指令ω***とモータ30の回転速度ωestとの関係を示している。図16に示すように、最大変化率Xを第3最大変化率X3として第2演算モードで速度制御を実施した場合に、モータ30の回転速度ωestが、切替回転速度ωchg1となるまで、時定数τscの5倍の時間(5τsc)を要する。図16に示すように、この応答時間(5τsc)に基づいて切替準備回転速度ωchg2が設定されると好適である。尚、1つの態様として、切替準備回転速度ωchg2は下記の式(9)のように導出される。
Figure 2016103885
図17は、回転速度制御の等価ブロック線図を示している。ここで、比例積分器8aは、一次ローパスフィルタ応答となるように設計されている。伝達関数ブロック8bにおける“J”はイナーシャ([kgm])を示しており、“D”は流体(オイル)の粘性([Nm/(rad/s)])を示している。例えば、電動オイルポンプ50のイナーシャ“J”や粘性“D”は製品ごとの偏差や、温度特性に影響を受けるため、上記式(9)に基づくと共に、実験やシミュレーション結果を加味したマージンを付加して、切替準備回転速度ωchg2が設定されると好適である。尚、図14に例示する形態について上述した「切替準備期間」は、上述したように“5τsc”とすると好適である。即ち、切替準備期間は、最大変化率Xによる制限後の目標回転速度(最終回転速度指令ω***)とモータ30の回転速度ω(ωest)との偏差に基づくフィードバック制御の応答特性に応じて設定されていると好適である。
ところで、モータ制御装置1は、上述したように、不図示の上位のECU等からの速度指令ωに基づいて、モータ30を回転速度制御する。電動オイルポンプ50のトルクは、下記の式(10)に示すように、イナーシャ(J)と回転速度(ω)の時間微分との積と、流体の粘性(D)との和で表される。
Figure 2016103885
流体の粘性(D)は、モータ制御装置1による制御対象ではない。従って、電動オイルポンプ50による流体圧の生成に寄与するトルク(T)は、モータ30の回転速度ωを制御対象とする回転速度制御により実現されると好適である。また、電動オイルポンプ50を駆動するモータ30は、電動オイルポンプ50が停止状態から立ち上がる際、つまり低速回転領域でも充分なトルクを発揮することが望ましい。電動オイルポンプ50が停止した状態では、オイルの動きもなくイナーシャを期待することはできない。従って、迅速に回転速度ωを上げることができるトルクを出力することが求められる。また、環境温度が低い時(特に氷点下の場合など)には、オイルの粘性も高くなり、流体圧を得るために、より高いトルクが求められる。回転速度制御は、公知のV/f制御などに比べて、モータ30の低回転速度・高トルク領域から良好な応答性を有する制御が可能である。そして、本実施形態では、回転速度制御を実施する上で、上述したように、位置演算部(3,5)の応答性に応じて最大変化率Xを設定する。従って、モータ制御装置1は、モータ30の停止時から高速回転時までの広い回転速度範囲において精度良く磁極位置を推定すると共に、高い安定性と高い応答性を備えて電動ポンプ用を駆動するモータ30を制御することができる。
〔その他の実施形態〕
以下、本発明のその他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
(1)上記説明においては、第1演算モード(mode1)では、ステータコイルに高周波の観測信号を印加し、当該観測信号への応答成分としてフィードバック電流に含まれる高周波成分に基づいてロータの磁極位置(θ^)を演算し、第2演算モード(mode2)では、ロータの回転によって生じる誘起電圧に基づいてロータの磁極位置(θ^)を演算する形態を例示した。しかし、第1演算モード及び第2演算モードにおける位置演算の手法は、上記の例には限定されない。第2演算モードの最大変化率(第2最大変化率X2)に比べて第1演算モード最大変化率(第1最大変化率X1)の方が低ければ、どのような手法で磁極位置を演算しても問題はない。
(2)上記説明においては、切替部4が、演算モードの切り替えの判定を行う際の基準となる回転速度(ωest)が、実際の回転速度ωに対応する推定回転速度ω^(ω^,ω^)である場合を例示した(例えば、図9、図11,図13、図14におけるωest)。しかし、この回転速度は、モータ30の実際の回転速度ωに相当するものであれば、回転状態情報演算部7によって推定されたものでなくてもよい。例えば、モータ制御装置1の速度制御系の応答特性から、最終回転速度指令ω***に対して応答する回転速度を予測することができる。従って、演算モードの切り替えの判定を行う際の基準となる回転速度は、最終回転速度指令ω***に対してモータ制御装置1の速度制御系の応答特性に準じたフィルタを掛けた値とすることもできる。また、最終回転速度指令ω***に対する応答時間を考慮して切替回転速度ωchg1を設定することも可能であるから、最終回転速度指令ω***を、演算モードの切り替えの判定を行う際の基準となる回転速度としてもよい。
(3)上記説明においては、低速域位置演算部5が、電圧指令に観測信号を重畳させる例を用いて説明したが、低速域位置演算部5の構成はこの形態に限定されるものではない。高周波の観測信号を回転電機に印加して、その応答によって磁極位置を推定する種々の態様を適用することができる。例えば、電流指令に観測信号が重畳される形態であってもよい。
(4)上記説明においては、高速域位置演算部3が、拡張誘起電圧モデルに基づいて構築される形態を例示した。しかし、上述したように、高速域位置演算部3は、上記式(1)に示される一般的な誘起電圧モデルに基づいて構築されていてもよい。
(5)上記においては、低速回転域RLと高速回転域RHとの境界BLが1つである形態を例示しているが、境界BLはこの形態に限定されるものではない。切替部4による切り替え時に、回転速度ω(ω^)並びに磁極位置θ(θ^)の値にハンチングが生じないように、境界BLにヒステリシスを持たせる形態も好適である。例えば、回転数[rpm]が低速から高速へと変化する場合には、境界BLよりも高速側において、高速域位置演算部3による演算に切り替え、高速から低速へと変化する場合には、境界BLよりも低速側において、低速域位置演算部5による演算に切り替えると好適である。ヒステリシスは、位置演算部(3,5)双方の回転速度ω(ω^L,ω^H)の誤差よりも大きく設定されているとよい。尚、当然ながら、ハンチングが実用上問題無い場合には、このようなヒステリシスを設けなくてもよい。
〔本発明の実施形態の概要〕
以下、上記において説明した、本発明の実施形態における回転電機制御装置(1)の概要について簡単に説明する。
本発明の実施形態に係る回転電機制御装置(1)の特徴的な構成は、
永久磁石が配置されたロータとステータコイルが巻き回されたステータとを備えた回転電機(30)を制御する回転電機制御装置(1)であって、
前記ロータの磁極位置を演算して前記回転電機(30)を制御する第1演算モード(mode1)と、前記第1演算モード(mode1)とは異なる方式で前記ロータの磁極位置を演算して前記回転電機(30)を制御する第2演算モード(mode2)と、の少なくとも2つの演算モードを切り替えて前記回転電機(30)を制御するものであり、
前記第1演算モード(mode1)では、前記ロータの回転速度を変化させる際に許容する最大の変化率である第1最大変化率(X1)が、前記第2演算モード(mode2)において前記ロータの回転速度を変化させる際に許容する最大の変化率である第2最大変化率(X2)に比べて小さくなるように前記回転電機(30)が制御され、
前記第2演算モードから前記第1演算モードへの切り替えに際しては、前記第2最大変化率(X2)を用いて制御される前記第2演算モードから、前記第1最大変化率(X1)以下の前記最大変化率(X)を用いて制御される前記第2演算モードを経て、前記第1最大変化率(X1)を用いて制御される前記第1演算モードに遷移して前記回転電機(30)を制御する点にある。
この構成によれば、異なる方式の位置演算により磁極位置(θ)を演算して回転電機(30)を制御する少なくとも2つの演算モードを切替えて実行可能であることにより、広い回転速度域に亘って磁極位置(θ)を推定することが可能である。但し、回転速度(ω)の最大変化率(X)が大きく、相対的に回転速度(ω)を速く変化させることができる第2演算モード(mode2)から第1演算モード(mode1)に、演算モードが切り替わる際には、回転電機(30)の回転に乱れを生じさせる可能性がある。本構成によれば、演算モードが切り替わるよりも前に、最大変化率(X)が、第1最大変化率(X1)以下の値となる。従って、演算モードが第1演算モード(mode1)に切り替わる際には、第2演算モード(mode2)による回転速度(ω)の変化率は、第1演算モード(mode1)の実行のために充分な変化率まで低下している。その結果、演算モードが第2演算モード(mode2)から第1演算モード(mode1)に切り替わる際に、回転電機(30)の回転に乱れを生じさせることなく、連続して安定した回転速度制御を実現することができる。即ち、本構成によれば、停止時から高速回転時までの広い回転速度範囲において、適切に磁極位置を推定すると共に高い安定性と高い応答性を備えて滑らかに回転電機(30)を制御することが可能となる。
また、別の態様として、前記回転電機(30)は、目標回転速度(ω)に基づいて回転速度制御され、前記第2演算モードから前記第1演算モードへの切り替えは、前記回転電機(30)の回転速度(ω(ωest))が、切替回転速度(ωchg1)に達した場合に実施され、前記第2演算モードから前記第1演算モードへの切り替えに際しては、前記回転電機(30)の回転速度(ω(ωest))又は前記最大変化率(X)による制限後の前記目標回転速度(ω***)が、前記第2演算モードが実行される回転速度(ω)の範囲内に設定された切替準備回転速度(ωchg2)に達した後、前記切替回転速度(ωchg1)に達するまで、前記第1最大変化率(X1)以下で前記第2演算モードを実行すると好適である。この構成によれば、回転電機(30)の回転速度(ω(ωest))や目標回転速度(ω***)が、切替回転速度(ωchg1)に達するよりも前に、確実に最大変化率(X)を第2最大変化率(X2)よりも小さい値に変更することができる。
第2最大変化率(X2)が不必要に早い段階で第1最大変化率(X1)以下の値となると、応答性を必要以上に低下させることになる。一方、第2最大変化率(X2)を第1最大変化率(X1)以下の値とするのが遅れると、回転電機(30)の回転速度(ω(ωest))に乱れを生じさせる可能性がある。従って、最大変化率(X)を変更する時期を規定する切替準備回転速度(ωchg2)は適切に設定されることが好ましい。1つの態様として、前記切替準備回転速度(ωchg2)は、前記最大変化率による制限後の前記目標回転速度(ω***)と前記回転電機(30)の回転速度(ω(ωest))との偏差に基づくフィードバック制御の応答特性に応じて設定されていると好適である。
また、回転電機制御装置(1)は、前記第1演算モード(mode1)では、前記ステータコイルに高周波の観測信号を印加し、当該観測信号への応答成分としてフィードバック電流に含まれる高周波成分に基づいて前記ロータの磁極位置(θ^)を演算し、前記第2演算モード(mode2)では、前記ロータの回転によって生じる誘起電圧に基づいて前記ロータの磁極位置(θ^)を演算すると好適である。ロータが回転している場合には、ロータの回転によってステータに生じる誘起電圧を利用して電気的に磁極位置を推定することができる。一方、ロータが停止していたり、低速で回転しており誘起電圧が小さかったりする場合には、ステータコイルに高周波の観測信号を印加してその応答を観測することによって電気的に磁極位置を推定することができる。従って、停止時から高速回転時までの広い回転速度範囲において、適切に磁極位置(θ^)を推定して回転電機を制御することができる。
本発明は、回転電機を制御する回転電機制御装置に利用することができる。
1 :モータ制御装置(回転電機制御装置)
30 :モータ(電動ポンプ用回転電機)
X :最大変化率
X1 :第1最大変化率
X2 :第2最大変化率
θ :磁極位置
θ^ :推定磁極位置(磁極位置)
ω :回転速度
ωest :回転速度
ωchg1 :切替回転速度
ωchg2 :切替準備回転速度
ω^ :推定回転速度(回転速度)
ω :回転速度指令(目標回転速度)
ω*** :最終回転速度指令(最大変化率による制限後の目標回転速度)

Claims (5)

  1. 永久磁石が配置されたロータとステータコイルが巻き回されたステータとを備えた回転電機を制御する回転電機制御装置であって、
    前記ロータの磁極位置を演算して前記回転電機を制御する第1演算モードと、前記第1演算モードとは異なる方式で前記ロータの磁極位置を演算して前記回転電機を制御する第2演算モードと、の少なくとも2つの演算モードを切り替えて前記回転電機を制御するものであり、
    前記第1演算モードでは、前記ロータの回転速度を変化させる際に許容する最大の変化率である第1最大変化率が、前記第2演算モードにおいて前記ロータの回転速度を変化させる際に許容する最大の変化率である第2最大変化率に比べて小さくなるように前記回転電機が制御され、
    前記第2演算モードから前記第1演算モードへの切り替えに際しては、前記第2最大変化率を用いて制御される前記第2演算モードから、前記第1最大変化率以下の最大変化率を用いて制御される前記第2演算モードを経て、前記第1最大変化率を用いて制御される前記第1演算モードに遷移して前記回転電機を制御する回転電機制御装置。
  2. 前記回転電機は、目標回転速度に基づいて回転速度制御され、
    前記第2演算モードから前記第1演算モードへの切り替えは、前記回転電機の回転速度が、切替回転速度に達した場合に実施され、
    前記第2演算モードから前記第1演算モードへの切り替えに際しては、前記回転電機の回転速度が前記切替回転速度に達するまで、前記目標回転速度を一時的に前記切替回転速度に固定して前記第2演算モードを実行する請求項1に記載の回転電機制御装置。
  3. 前記回転電機は、目標回転速度に基づいて回転速度制御され、
    前記第2演算モードから前記第1演算モードへの切り替えは、前記回転電機の回転速度が、切替回転速度に達した場合に実施され、
    前記第2演算モードから前記第1演算モードへの切り替えに際しては、前記回転電機の回転速度又は前記最大変化率による制限後の前記目標回転速度が、前記第2演算モードが実行される回転速度の範囲内に設定された切替準備回転速度に達した後、前記切替回転速度に達するまで、前記第1最大変化率以下で前記第2演算モードを実行する請求項1に記載の回転電機制御装置。
  4. 前記切替準備回転速度は、前記最大変化率による制限後の前記目標回転速度と前記回転電機の回転速度との偏差に基づくフィードバック制御の応答特性に応じて設定されている請求項3に記載の回転電機制御装置。
  5. 前記第1演算モードでは、前記ステータコイルに高周波の観測信号を印加し、当該観測信号への応答成分としてフィードバック電流に含まれる高周波成分に基づいて前記ロータの磁極位置を演算し、
    前記第2演算モードでは、前記ロータの回転によって生じる誘起電圧に基づいて前記ロータの磁極位置を演算する請求項1から4の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
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