JP2016024149A - 二次電池の状態推定方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】走行中の電動車両において二次電池の満充電容量を正確に推定することを可能とする技術を提供する。【解決手段】電池反応モデルを用いて二次電池のSOCを推定する過程において算出される二次電池の内部温度の推定値Tsと外部温度の実測値Tとの差(ΔT)に応じて当該電池反応モデルの満充電容量を補正する。【選択図】図4
Description
本発明は、二次電池の状態推定方法に関する。より詳しくは、本発明は、完全緩和状態にない場合においても二次電池の満充電容量をより正確に推定して当該二次電池の充電率SOCを正確に推定することができる、二次電池の状態推定方法に関する。
昨今の地球環境保護意識の高まりを受け、例えばリチウムイオン電池等を始めとする二次電池から供給される電力によって駆動力を生ずる電動機を動力源として備える電動車両(例えば、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、及びハイブリッド自動車(HV)等)が近年急激に普及している。
ところで、二次電池は、過放電及び/又は過充電により電池性能が劣化し、寿命が短くなる虞がある。従って、二次電池の性能及び寿命を維持する観点から、二次電池の充電率(SOC:State of Charge)を正確に推定し、二次電池の充放電を適切に制御して、過剰な充放電を抑制することが必要である。また、電動車両を目的地まで走行させるために必要な電力量が確保されているか否かを正しく判断するためにも、二次電池のSOCを正確に推定することが重要である。
そこで、当該技術分野においては、二次電池の状態推定を正確に行うための様々な方法が提案されている。例えば、電気化学反応式に基づく電池反応モデルを用いてリチウムイオン電池の熱的挙動及び電気化学的挙動を予測しようとする試みもなされており(例えば、非特許文献1を参照。尚、非特許文献1における開示内容は引用により本明細書に取り込まれる)、このような電池反応モデルを用いて二次電池のSOCを推定する技術も開発されている。
具体的には、例えば、電池反応モデルを用いて二次電池の内部状態を推定してSOC及び電池電流を推定し、SOCに対する電池電流の推定値の積算値と実測値の積算値との誤差を求め、当該誤差に基づいて容量劣化パラメータを推定する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照。尚、特許文献1における開示内容は引用により本明細書に取り込まれる)。
また、例えば、蓄電素子の外部における温度と、熱の移動を表す式とを用いて、蓄電素子の内部抵抗に対応した温度を推定する技術も提案されている(例えば、特許文献2を参照。尚、特許文献2における開示内容は引用により本明細書に取り込まれる)。
W. B. Gu and C.Y. Wang, "Thermal and Electrochemical Coupled Modeling of a Lithium−Ion Cell, in Lithium Batteries", ECS Proceedings , Vol.99−25 (1), pp.748−762, 2000
前述したように、当該技術分野においては、電池反応モデルを用いて二次電池の内部状態を推定してSOC及び電池温度を推定する種々の技術が提案されている。ところで、特定の時点における二次電池のSOCは、その時点における二次電池の充電容量(残存電力量)の満充電容量に対する割合を示す。従って、二次電池のSOCを正確に推定するためには当該二次電池の正確な満充電容量を取得する必要がある。また、満充電容量の値は時間の経過及び負荷による劣化によって変化する(通常は減少する)ため、満充電容量を継続的に取得することが必要である。更に、二次電池の満充電容量を正確に推定するためには二次電池の正確な開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)を取得する必要がある。
二次電池の正確なOCVを取得するためには、完全緩和状態にある二次電池の端子間電圧を取得する必要がある。しかしながら、例えば走行中の電動車両において二次電池が完全緩和状態にあることは希であるため、二次電池の正確なOCVを取得することは困難であり、結果として二次電池の満充電容量を正確に推定することもまた困難である。二次電池の正確な満充電容量を取得することができない場合、当該二次電池のSOCの推定値と真の値との間の乖離が大きくなり、前述したように二次電池の過剰な充放電を抑制したり、二次電池の正確な残存電力量を推定して電動車両を目的地まで走行させるために必要な電力量が確保されているか否かを正しく判断したりすることが困難となる虞がある。
即ち、当該技術分野においては、走行中の電動車両において二次電池の満充電容量を正確に推定することを可能とする技術に対する要求が存在する。即ち、本発明の1つの目的は、走行中の電動車両において二次電池の満充電容量を正確に推定することを可能とする技術を提供することである。
そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、電池反応モデルを用いて二次電池のSOCを推定する過程において算出される電池の内部温度の推定値Tsと電池の外部に配設された検出手段(例えば、温度センサー)から得られる電池の外部温度の実測値Tとの差(ΔT)に応じて当該電池反応モデルの満充電容量を補正することにより、当該二次電池の満充電容量を正確に推定することができることを見出した(詳しくは後述する)。
従って、本発明の上記1つの目的は、
電池反応モデルを用いて二次電池の満充電容量及び内部温度を推定する二次電池の状態推定方法であって、
前記二次電池の内部温度の推定値Ts及び外部温度の実測値Tから下式(1)に従って前記二次電池の温度差ΔTを算出し、
電池反応モデルを用いて二次電池の満充電容量及び内部温度を推定する二次電池の状態推定方法であって、
前記二次電池の内部温度の推定値Ts及び外部温度の実測値Tから下式(1)に従って前記二次電池の温度差ΔTを算出し、
前記温度差ΔTが予め定められた上限値Tuよりも大きい場合は前記電池反応モデルの満充電容量をより小さい値に補正する、
二次電池の状態推定方法によって達成される。
二次電池の状態推定方法によって達成される。
本発明によれば、上記のように電池反応モデルを用いて推定される二次電池の内部温度に基づいて当該電池反応モデルの満充電容量を補正することにより、走行中の電動車両においても、当該二次電池の満充電容量を正確に推定することができる。
前述したように、二次電池の正確な満充電容量を取得することができない場合、当該二次電池のSOCの推定値と真の値との間の乖離が大きくなり、前述したように二次電池の過剰な充放電を抑制したり、二次電池の正確な残存電力量を推定したりすることが困難となる虞がある。
二次電池のSOCは、ある特定の時点におけるSOC(SOC0)に対して、所定期間Δtにおける電流値の積分値(ΣIΔt)の満充電容量Qfに対する比を反映させることによって算出することができる。即ち、二次電池のSOCは、下式(2)によって表すことができる。この場合、二次電池のSOCが低下する放電時における電流の流れる方向を正方向(即ち、電流の符号を正)としている。
例えば、二次電池から供給される電力によって駆動力を生ずる電動機を動力源として備える電動車両をCD(Charge Depleting)モードにて走行させる場合を想定する。この場合、二次電池の放電により、図1(a)に示されている実線によって表されているように、二次電池のSOCが時間の経過と共に低下する。電池反応モデルの満充電容量が正しく推定されている場合は、電池反応モデルの満充電容量は当該二次電池の真の満充電容量と一致し、当該電池反応モデルを用いて推定されるSOCもまた、図1(a)に示されている実線によって表されている真のSOCと同様に推移する。
しかしながら、電池反応モデルの満充電容量が当該二次電池の真の満充電容量よりも過大に推定されている場合は、上記式(2)におけるQfが真の値よりも大きい。その結果、上記式(2)の右辺の第二項による寄与(SOCの減少(ΔSOC))が小さくなり、図1(a)に示されている破線によって表されているようにSOCが過大に推定される。この場合、真のSOCは推定値よりも小さいため、推定されたSOCに基づけば電動車両は未だ走行可能であると判断されるにも拘わらず、走行を継続することが困難となる虞がある。
逆に、電池反応モデルの満充電容量が当該二次電池の真の満充電容量よりも過小に推定されている場合は、上記式(2)におけるQfが真の値よりも小さい。その結果、上記式(2)の右辺の第二項による寄与(SOCの減少(ΔSOC))が大きくなり、図1(a)に示されている点線によって表されているようにSOCも過小に推定される。この場合、真のSOCは推定値よりも大きく、実際には電動車両は未だ走行可能であるにも拘わらず、走行を続けることが困難であると誤った判断がなされる虞がある。
ところで、二次電池から供給される電力によって駆動力を生ずる電動機を動力源として備える電動車両の走行モードとしては、上記CDモードの他に、CS(Charge Sustaining)モードが知られている。このCSモードは、「充電維持モード」とも呼称され、例えばHV及びHVモードにて走行するPHV等において採用される。CSモードにおいては、電力によって作動する電動機と燃料の燃焼によって作動する内燃機関とを併用して車両を走行させる。これにより、充電及び放電により二次電池のSOCが所定の範囲(例えば、50〜60%)内に維持され、二次電池の過剰な充放電に起因する劣化を抑制しつつ、車両の走行状態に応じた放電要求及び/又は充電要求に対応可能な状態を常に維持することができる。即ち、CSモードにおいては、ある期間において二次電池のSOCが充電により増大する。
この場合、二次電池の充電により、図1(b)に示されている実線によって表されているように、二次電池のSOCが時間の経過と共に上昇する。即ち、この場合は、上述した図1(a)によって表されるCDモードにおける二次電池の放電時とは逆の方向に電流が流れる(電池電流の符号が逆である)。この場合も、電池反応モデルの満充電容量が正しく推定されている場合は、電池反応モデルの満充電容量は当該二次電池の真の満充電容量と一致し、当該電池反応モデルを用いて推定されるSOCもまた、図1(b)に示されている実線によって表されている真のSOCと同様に推移する。
しかしながら、電池反応モデルの満充電容量が当該二次電池の真の満充電容量よりも過大に推定されている場合は、上記式(2)におけるQfが真の値よりも大きい。その結果、上記式(2)の右辺の第二項による寄与(SOCの増大(ΔSOC))が小さくなり、図1(b)に示されている破線によって表されているようにSOCが過小に推定される。この場合、真のSOCは推定値よりも大きいため、実際には二次電池のSOCが所定の範囲の上限に達しているにも拘わらず二次電池の充電が継続されて過充電となり、二次電池の劣化を招く虞がある。
逆に、電池反応モデルの満充電容量が当該二次電池の真の満充電容量よりも過小に推定されている場合は、上記式(2)におけるQfが真の値よりも小さい。その結果、上記式(2)の右辺の第二項による寄与(SOCの増大(ΔSOC))が大きくなり、図1(b)に示されている点線によって表されているようにSOCが過大に推定される。この場合、真のSOCは推定値よりも小さく、実際には二次電池のSOCが所定の範囲の上限に未だ達していないにも拘わらず二次電池の充電が停止され、必要とされる電力量を確保することが困難となる虞がある。
上記のように、ある特定の時点におけるSOC(SOC0)からのSOCの変化(ΔSOC)の大きさ(絶対値)は、満充電容量が過大に推定されている場合は過小に、満充電容量が過小に推定されている場合は過大に、それぞれ推定されてしまう。その結果、CDモードでの走行時等、二次電池の放電によりSOCが減少する状態におけるSOCは、満充電容量が過大に推定されている場合は過大に、満充電容量が過小に推定されている場合は過小に、それぞれ推定されてしまう。一方、二次電池の充電によりSOCが増大する状態におけるSOCは、満充電容量が過大に推定されている場合は過小に、満充電容量が過小に推定されている場合は過大に、それぞれ推定されてしまう。
従って、二次電池のSOCを正確に推定するためには当該二次電池の正確な満充電容量を取得する必要がある。そこで、前述したように、本発明は、走行中の電動車両において二次電池の満充電容量を正確に推定することを可能とする技術を提供することを1つの目的とする。
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、例えば特許文献2において開示されているように電池反応モデルを用いて二次電池のSOCを推定する過程において、当該電池反応モデルの満充電容量が当該二次電池の真の満充電容量から乖離するほど、当該過程において算出される二次電池の内部温度の推定値が(例えば、温度センサ等による測定値に基づく)当該二次電池の外部温度の実測値から想定される程度を超えて乖離することを見出した。即ち、本発明者は、電池反応モデルを用いて二次電池のSOCを推定する過程において算出される二次電池の内部温度の推定値Tsと外部温度の実測値Tとの差に基づいて当該電池反応モデルの満充電容量を補正することにより、当該二次電池の満充電容量を正確に推定することができることを見出し、本発明を想到するに至ったのである。
即ち、本発明の第1の実施態様は、
電池反応モデルを用いて二次電池の満充電容量及び内部温度を推定する二次電池の状態推定方法であって、
前記二次電池の内部温度の推定値Ts及び外部温度の実測値Tから下式(1)に従って前記二次電池の温度差ΔTを算出し、
電池反応モデルを用いて二次電池の満充電容量及び内部温度を推定する二次電池の状態推定方法であって、
前記二次電池の内部温度の推定値Ts及び外部温度の実測値Tから下式(1)に従って前記二次電池の温度差ΔTを算出し、
前記温度差ΔTが予め定められた上限値Tuよりも大きい場合は前記電池反応モデルの満充電容量をより小さい値に補正する、
二次電池の状態推定方法である。
二次電池の状態推定方法である。
上記のように、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法は、電池反応モデルを用いて二次電池の満充電容量及び内部温度を推定する二次電池の状態推定方法である。このような二次電池の状態推定方法において用いられる電池反応モデル及び当該電池反応モデルを用いる二次電池の状態推定方法については、前述したように、例えば、非特許文献1、特許文献1、及び特許文献2等を始めとする従来技術において、様々なタイプのものが提案されている。
例えば、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法を実施する二次電池の状態推定装置は、例えば、二次電池と、検出手段と、電池状態推定手段と、パラメータ推定手段とを備える。二次電池は、例えば、電気化学反応に寄与する反応関与物質を内部に含む活物質を含んでなる正極及び負極、並びにイオン化した前記反応関与物質を前記正極と前記負極との間で伝導するイオン伝導体を備える二次電池である。このような二次電池の具体例としては、例えば、リチウムイオン電池等を挙げることができる。尚、リチウムイオン電池等の二次電池の構成については、当業者に周知であるので、本明細書における詳細な説明は割愛する。
検出手段は、例えば、二次電池の電池電圧、電池電流、及び外部温度等を検出する。検出手段は、二次電池の電池電圧、電池電流、及び外部温度を測定することができる限り、如何なる構成を有していてもよい。例えば、検出手段は、電圧センサ、電流センサ、及び温度センサを備えていてもよい。
電池状態推定手段は、例えば、電池温度及び電池電圧の検出値に基づいて、電池モデル式に従って、二次電池の満充電容量、充電率SOC、開放電圧OCV、電池電流I、及び内部温度を逐次推定する。パラメータ推定手段は、例えば、電池電流の検出値及び推定値に基づいて、電池電流Iの検出値と推定値との間の差異を表す推定誤差を算出すると共に、SOC及びOCVの何れか一方と推定誤差とに基づいて、電池モデル式に用いられるパラメータ群のうち、二次電池の状態変化に応じて変化する所定のパラメータを推定する。更に、電池状態推定手段は、例えば、パラメータ推定手段による所定のパラメータの推定結果を電池モデル式に反映させることによって正極開放電位及び負極開放電位を補正すると共に、補正された正極開放電位及び負極開放電位に基づいてOCVを推定する。
電池状態推定手段は、上記推定処理及び後に詳述する満充電容量の補正処理等に対応する所定のシーケンス及び所定の演算処理を実行するための中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)(例えば、マイクロコンピュータ等)、例えば上記所定のシーケンス及び所定の演算処理に対応するプログラム、検出手段からの検出信号に基づく検出値及び上記演算処理の結果等を格納するためのデータ記憶装置(例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等)、並びに例えば検出手段からの検出信号を受け取ったり上記演算処理の結果を送出したりするためのデータ入出力ポート等を含む構成を挙げることができる。
パラメータ推定手段は、パラメータ推定手段のために個別に設けられた上述したような演算手段から構成されていてもよく、或いは、上記電池状態推定手段、又は本実施態様に係る二次電池の状態推定方法が適用される二次電池を電力源として含む装置及び/又は機構が備える電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)等が当該パラメータ推定手段として機能してもよい。更に、電池状態推定手段及びパラメータ推定手段は複数の演算手段及び/又はECUに分散して実装されていてもよい。
尚、上述した構成は本実施態様に係る二次電池の状態推定方法を実施する二次電池の状態推定装置の構成の一例であって、二次電池の状態推定装置の構成は上述した構成に限定されない。即ち、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法を実施する二次電池の状態推定装置は、電池反応モデルを用いて二次電池の内部状態を推定してSOCを推定する二次電池の状態推定装置である限り、特定の構成に限定されない。
ところで、前述したように、特定の時点における二次電池のSOCを正確に推定するためには当該二次電池の正確な満充電容量を取得する必要があり、二次電池の満充電容量を正確に推定するためには二次電池の正確な開放電圧(OCV)を取得する必要がある。二次電池の正確なOCVを取得するためには、完全緩和状態にある二次電池の端子間電圧を取得する必要があるが、例えば走行中の電動車両等、二次電池が完全緩和状態にない場合、二次電池の正確なOCVを取得することは困難である。
上記のように二次電池の正確なOCVを取得することが困難である場合、電池反応モデルを用いて推定される開放電圧OCVeを用いることが考えられる。しかしながら、電池反応モデルを用いて推定されるOCVeが二次電池の真のOCVから乖離する場合がある。例えば、図2に示されているように、破線の曲線によって表されている正しい開放電圧OCVに基づけば正しい満充電容量Qfが推定されるのに対し、実線の曲線によって表されているように過大に推定された開放電圧OCVeに基づけば過大な満充電容量Qfeが推定される。
図1を参照しながら前述したように、ある特定の時点におけるSOC(SOC0)からのSOCの変化(ΔSOC)の大きさ(絶対値)は、満充電容量が過大に推定されている場合は過小に、満充電容量が過小に推定されている場合は過大に、それぞれ推定されてしまう。その結果、二次電池の放電によりSOCが減少する状態におけるSOCは、満充電容量が過大に推定されている場合は過大に、満充電容量が過小に推定されている場合は過小に、それぞれ推定されてしまう。一方、二次電池の充電によりSOCが増大する状態におけるSOCは、満充電容量が過大に推定されている場合は過小に、満充電容量が過小に推定されている場合は過大に、それぞれ推定されてしまう。
ところで、例えば特許文献2に記載されているように検出手段によって測定される電池電圧V及び電池電流Iから電池の内部温度を推定する場合、その過程において算出される電池の発熱量は下式(3)に従って算出される。
従って、図3(a)に示されているように、電池反応モデルを用いて推定される開放電圧OCVe(太い実線)が二次電池の真の開放電圧OCVと一致する場合、ΔVe(=OCVe−V)=ΔV(=OCV−V)となる。その結果、開放電圧の推定値OCVeに基づいて算出される発熱量Weと開放電圧の真の値OCVに基づいて算出される発熱量Wとが一致する筈である。換言すれば、電池反応モデルの満充電容量Qfeが二次電池の真の満充電容量Qfと一致する場合、ΔVe=ΔVとなり、二次電池の発熱量の推定値We(=ΔVe×I)と真の値W(=ΔV×I)とが一致し、結果として二次電池の内部温度の推定値Tsと外部温度の実測値Tとの差が想定される範囲(即ち、予め想定される温度分布の最大値以下)に収まる筈である。
しかしながら、上述したように、電池反応モデルを用いて推定されるOCVeが二次電池の真のOCVから乖離し、電池反応モデルの満充電容量Qfeが二次電池の真の満充電容量Qfから乖離する場合がある。この場合、ΔVe≠ΔVとなり、We≠Wとなるため、二次電池の内部温度の推定値Tsと外部温度の実測値Tとが想定される程度(即ち、実際の温度分布)を超えて乖離する。
例えば、図3(b)に示されているように、推定された開放電圧OCVe(太い実線)が真の開放電圧OCV(点線)よりも過大に推定されている場合、上述したように、満充電容量の推定値Qfeが真の値Qfよりも過大に推定される。この場合は、ΔVe>ΔVとなり、We>Wとなるため、二次電池の内部温度の推定値Tsと外部温度の実測値Tとの差が想定される範囲(即ち、予め想定される温度分布の最大値以下)よりも大きくなる。
上記のように二次電池の内部温度の推定値Tsと外部温度の実測値Tとが想定される程度(即ち、実際の温度分布)を超えて乖離している状態は、満充電容量の推定値Qfeが真の値Qfから乖離していることを意味する。従って、このままの状態で電池反応モデルを用いる二次電池の状態推定を行っても、当該二次電池のSOCを正確に推定することは困難である。その結果、前述したように二次電池の過剰な充放電を抑制して電池性能の劣化を防止したり、二次電池の正確な残存電力量を推定したりすることが困難となる虞がある。
そこで、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法においては、二次電池の内部温度の推定値Tsと外部温度の実測値Tとの差に応じて当該電池反応モデルの満充電容量を補正することにより、当該二次電池の満充電容量を正確に推定する。
具体的には、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法においては、上述したように、
前記二次電池の内部温度の推定値Ts及び外部温度の実測値Tから下式(1)に従って前記二次電池の温度差ΔTを算出する。
前記二次電池の内部温度の推定値Ts及び外部温度の実測値Tから下式(1)に従って前記二次電池の温度差ΔTを算出する。
ところで、電池反応モデルを用いて推定される二次電池の内部温度の推定値Tsは、例えば、熱拡散方程式を利用して算出することができる。具体的には、時刻t+Δtにおける二次電池の内部温度の推定値Ts(t+Δt)は、時刻tにおける二次電池の内部温度の推定値Ts(t)、外部温度の実測値T(t)、及び発熱量W(t)から、下式(4)に従って算出される。下式中、α及びβは係数である。
上記のようにして算出される二次電池の内部温度の推定値Tsと例えば温度センサ等の検出手段によって測定される外部温度の実測値Tとの差である温度差ΔTは、上記式(1)に従って算出することができる。この温度差ΔTが想定される範囲(即ち、予め想定される温度分布の最大値以下)よりも大きい場合、当該二次電池の満充電容量が過大に推定されていることを意味する。
次に、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法においては、上述したように、
前記温度差ΔTが予め定められた上限値Tuよりも大きい場合は前記電池反応モデルの満充電容量をより小さい値に補正する。この上限値Tuは、当該二次電池の内部温度と外部温度との間に「予め想定される温度分布の最大値」に基づいて定められる。
前記温度差ΔTが予め定められた上限値Tuよりも大きい場合は前記電池反応モデルの満充電容量をより小さい値に補正する。この上限値Tuは、当該二次電池の内部温度と外部温度との間に「予め想定される温度分布の最大値」に基づいて定められる。
具体的には、上述したように、二次電池の外部温度の実測値Tは、例えば温度センサ等の検出手段によって測定される。このように二次電池の表面に配設されている検出手段によって測定される二次電池の外部温度と充放電に伴って発熱する二次電池の内部温度との間には自ずと差(温度分布)が生ずる。このような温度分布は、例えば二次電池の表面及び内部のそれぞれに検出手段が配設された試験用電池を使用する実験、又はシミュレーション等によって求めることができる。このようにして求められた温度分布の最大値に基づいて、上記温度差ΔTの上限値Tuを適宜定めることができる。
加えて、上記上限値Tuは、例えば、当該二次電池の用途において要求されるSOCの推定精度、当該二次電池の内部温度の推定値Tsの変動幅、及び当該二次電池の外部温度の検出値Tの変動幅等に応じた許容範囲を加算する等、微調整を適宜行うことができる。
電池反応モデルの満充電容量を補正するための具体的な手法は特に限定されないが、例えば、電池反応モデルの満充電容量に乗算される係数の大きさを増減したり、電池反応モデルの容量維持率に乗算される係数の大きさを増減したりすることにより、電池反応モデルの満充電容量を補正することができる。
尚、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法に対応する所定のシーケンス及び所定の演算処理を実行する時間間隔は、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法による状態推定に求められる推定精度に応じて適宜調整することができる。例えば、当該時間間隔が短くなるほど温度差ΔTが小さくなり、推定精度が低下する。一方、当該時間間隔が長くなるほど温度差ΔTの算出頻度が低下し、満充電容量の補正頻度が低下する。従って、当該時間間隔の具体的な長さは、例えば、求められる推定精度と満充電容量の補正頻度とのバランスを考慮して定めることが望ましい。
ここで、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法において用いられる電池反応モデルの満充電容量の補正手順につき、添付図面を参照しながら以下に詳細に説明する。図4は、前述したように、本発明の1つの実施態様に係る二次電池の状態推定方法において用いられる電池反応モデルの満充電容量の補正手順を説明する模式的なグラフである。尚、この例においては、電池反応モデルの容量維持率に乗算される係数の大きさを増減することにより、電池反応モデルの満充電容量を補正する。また、上記係数の初期値を1としている。
具体的には、図4に示されている例においては、時刻ta以降において、二次電池の内部温度の推定値Tsと外部温度の実測値Tとの差である温度差ΔTが予め定められた上限値Tuよりも大きくなっている。これは、電池反応モデルの満充電容量が、二次電池の真の満充電容量に対して過大に推定されていることを示している。そこで、この場合は、電池反応モデルの容量維持率に乗算される係数の大きさがより小さい値に変更され、電池反応モデルの満充電容量がより小さい値に補正されている。即ち、電池反応モデルの満充電容量が真の値に近付けられる。
上記のようにして電池反応モデルの満充電容量が真の値に近付くと、温度差ΔTが上記閾値(即ち、上限値Tu)以下になる。その結果、電池反応モデルの満充電容量の補正が行われなくなる。尚、電池反応モデルの満充電容量の補正量が過剰とならないように上記係数の設定値を調節することが望ましい。
上記のように、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法によれば、正確なOCVを取得することが困難な状況においても、二次電池の内部温度の推定値Tsと外部温度の実測値Tとの差である温度差ΔTに基づいて電池反応モデルの満充電容量が補正され、二次電池の真の満充電容量に近付けられる。その結果、例えば、二次電池のSOCを正確に推定することができるので、二次電池の過剰な充放電の抑制による電池性能の劣化防止及び/又は二次電池の正確な残存電力量の推定をより確実に行うことができる。
ところで、温度差ΔTの算出には、上述した式(1)に示されているように、検出手段によって測定される二次電池の外部温度Tが用いられる。また、発熱量の推定値Weの算出には、上述した式(3)に示されているように、検出手段(電圧センサ及び電流センサ)によって測定される二次電池の電池電圧V及び電池電流Iが用いられる。これらの検出手段によって測定される二次電池の外部温度T、電池電圧V、及び電池電流Iの測定値に測定誤差が含まれる場合、これらの測定誤差の累積により温度差ΔTが正確に算出されない虞がある。
ここで、二次電池の外部温度T、電池電圧V、及び電池電流Iの各検出手段の測定誤差の累積による満充電容量の補正への影響につき、添付図面を参照しながら、以下に説明する。図5は、前述したように、二次電池の外部温度の実測値T、電池電圧V、及び電池電流Iの検出手段の測定誤差の累積による満充電容量の補正への影響を説明する模式的なグラフである。より具体的には、図5は、温度差ΔTが時間の経過と共に増大する場合を表している。
図5に示されている点線の曲線は、二次電池の外部温度の実測値T、電池電圧V、及び電池電流Iに測定誤差が影響しない場合における温度差ΔTの時間的な推移を表す。この場合、上述した図4に示されている例と同様に、時刻taにおいて、温度差ΔTが予め定められた上限値Tuよりも大きくなっている。実線の曲線は、二次電池の外部温度の実測値T、電池電圧V、及び電池電流Iに測定誤差が減算的に影響した場合における温度差ΔTの時間的な推移を表す。この場合、上述した式(1)の右辺の第2項の値が小さくなるので、温度差ΔTが過大に算出される。その結果、時刻taよりも早い時刻ta´において、温度差ΔTが予め定められた上限値Tuよりも大きくなっている。逆に、破線の曲線は、二次電池の外部温度の実測値T、電池電圧V、及び電池電流Iに測定誤差が加算的に影響した場合における温度差ΔTの時間的な推移を表す。この場合、上述した式(1)の右辺の第2項の値が大きくなるので、温度差ΔTが過小に算出される。その結果、時刻taを過ぎても、温度差ΔTは予め定められた上限値Tuよりも大きくなっていない。
上記のように、二次電池の外部温度の実測値T、電池電圧V、及び電池電流Iの測定誤差の影響により温度差ΔTが正確に算出されなくなると、電池反応モデルの満充電容量が補正されるタイミングが本来のタイミングからずれたり、電池反応モデルの満充電容量が補正されなかったりする虞がある。従って、本発明に係る二次電池の状態推定方法において、不正確な温度差ΔTに基づいて電池反応モデルの満充電容量が誤って補正されることを防止して二次電池の満充電容量を正確に推定するためには、二次電池の外部温度の実測値T、電池電圧V、及び電池電流Iの測定誤差の累積による影響を考慮することが望ましい。
そこで、本発明者は、上記測定誤差による影響の大きさに対応する尺度として、二次電池の外部温度の実測値T、電池電圧V、及び電池電流Iの測定誤差の累積に起因する温度差ΔTの誤差範囲Etを採用した。この誤差範囲Etは、二次電池の外部温度の実測値Tの測定誤差が減算的に作用し且つ電池電圧V及び電池電流Iの測定誤差により発熱量の推定値Weが小さくなった場合における温度差ΔT(図5における実線)と、二次電池の外部温度の実測値Tの測定誤差が加算的に作用し且つ電池電圧V及び電池電流Iの測定誤差により発熱量の推定値Weが大きくなった場合における温度差ΔT(図5における破線)と、の差として定義される。図5において、誤差範囲Etは縦の両矢印によって表されている。この誤差範囲Etが予め定められた閾値を超える場合は、上記のように温度差ΔTが正確に算出されない虞が高い。そこで、この場合は、満充電容量の補正を禁止することにより、不正確な温度差ΔTに基づいて電池反応モデルの満充電容量が誤って補正されることを防止することができる。
即ち、本発明の第2の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る二次電池の状態推定方法であって、
前記二次電池の外部温度の実測値T、電池電圧V、及び電池電流Iを測定するそれぞれの検出手段の測定誤差ΔMt、ΔMv、及びΔMiに起因する前記温度差ΔTの誤差範囲Etを下式(5)に従って算出し、
本発明の前記第1の実施態様に係る二次電池の状態推定方法であって、
前記二次電池の外部温度の実測値T、電池電圧V、及び電池電流Iを測定するそれぞれの検出手段の測定誤差ΔMt、ΔMv、及びΔMiに起因する前記温度差ΔTの誤差範囲Etを下式(5)に従って算出し、
上式中、Ts′及びTs″はそれぞれ前記測定誤差ΔMtが加算的及び減算的に作用した場合における前記二次電池の内部温度の推定値Tsを表し、W+及びW−はそれぞれ前記二次電池の発熱量の推定値Weが大きく及び小さくなるように前記ΔMv及びΔMiが作用した場合の前記推定値Weを表し、
前記誤差範囲Etが予め定められた上限値Teよりも大きい場合は満充電容量の補正を禁止する、
二次電池の状態推定方法である。
前記誤差範囲Etが予め定められた上限値Teよりも大きい場合は満充電容量の補正を禁止する、
二次電池の状態推定方法である。
上記のように、式(5)の右辺の第1項は、二次電池の外部温度の実測値Tの測定誤差が減算的に作用し且つ電池電圧V及び電池電流Iの測定誤差により発熱量の推定値Weが小さくなった場合に算出される過大な温度差ΔTに対応する(図5における実線)。一方、式(5)の右辺の第2項は、二次電池の外部温度の実測値Tの測定誤差が加算的に作用し且つ電池電圧V及び電池電流Iの測定誤差により発熱量の推定値Weが大きくなった場合に算出される過小な温度差ΔTに対応する(図5における破線)。従って、上記式(5)に従って算出される誤差範囲Etは、二次電池の外部温度の実測値T、電池電圧V、及び電池電流Iを測定するそれぞれの検出手段の測定誤差ΔMt、ΔMv、及びΔMiに起因する温度差ΔTの変動幅に対応すると言うことができる(図5における両矢印)。
誤差範囲Etが大きいということは、二次電池の外部温度の実測値T、電池電圧V、及び電池電流Iの測定誤差に起因する温度差ΔTの変動幅が大きいことを意味する。つまり、誤差範囲Etが予め定められた閾値よりも大きい場合、正確な温度差ΔTを算出することが困難であり、温度差ΔTに基づいて電池反応モデルの満充電容量を適切に補正することが困難である。従って、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法においては、このような場合、満充電容量の補正を禁止する。これにより、不正確な温度差ΔTに基づいて電池反応モデルの満充電容量が誤って補正されることを防止することができる。
尚、測定誤差ΔMt、ΔMv、及びΔMiは、例えば、実験等によって事前に計測された各検出手段(それぞれ、温度センサ、電圧センサ、及び電流センサ)の測定誤差に基づいて適宜定めることができる。測定誤差ΔMt、ΔMv、及びΔMiは、このようにして計測された各検出手段の測定誤差の最大値であってもよく、或いは平均値であってもよい。また、上限値Teについては、上記のようにして定められる測定誤差ΔMt、ΔMv、及びΔMiの大きさに応じて適宜定めることができる。
但し、上限値Teとして過度に大きい値を設定すると、二次電池の外部温度の実測値T、電池電圧V、及び電池電流Iの測定誤差に起因して変動した温度差ΔTに基づいて電池反応モデルの満充電容量が誤って補正される虞が高まる。逆に、上限値Teとして過度に小さい値を設定すると、満充電容量の補正が禁止される頻度が多くなり、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法による状態推定の精度向上効果を十分に発揮させることが困難となる虞が高まる。このように、上限値Teは、二次電池の外部温度の実測値T、電池電圧V、及び電池電流Iの測定誤差に起因する状態推定の精度低下と満充電容量の補正の禁止に伴う状態推定の精度低下とを適度にバランスさせることが可能な範囲を例えばモデル実験等によって求めることにより、適宜定めることができる。
ところで、例えば、並列に接続された複数の単電池によって構成される二次電池においては、図6(a)における点線で囲まれた部分によって示されているように、複数の単電池のうちの何れかの単電池のヒューズが断線して、二次電池全体としての満充電容量が急激に低下する場合がある。また、図6(b)に示されているように、例えば高い負荷又は衝撃等の作用により電池の電極を構成する活物質が欠落して、二次電池の満充電容量が急激に低下する場合もある。
上記のように二次電池の満充電容量が急激に低下すると、当該二次電池の充電容量(残存電力量)もまた急激に低下する。従って、上記のような満充電容量の低下に対応して電池反応モデルの満充電容量を補正せずに当該二次電池を使用し続けると、当該二次電池の過剰な充放電による電池性能の劣化を招いたり、二次電池の正確な残存電力量を推定することが困難となったりする虞がある。従って、上記のように二次電池の満充電容量が急激に低下したときには、それに対応して電池反応モデルの容量維持率を急激に低下させることが望ましい。
尚、二次電池の満充電容量が急激に低下すると、電池電圧の実測値Vもまた急激に低下する。一方、二次電池のOCVの推定値は上記のような二次電池の満充電容量の急激な低下に伴って低下しないので、発熱量が急激に増大し、二次電池の内部温度の推定値Tsと外部温度の実測値Tとの差である温度差ΔTが急激に増大することとなる。このように、二次電池の満充電容量が急激に変化すると、温度差ΔTもまた急激に変化する。従って、温度差ΔTが急激に変化したときに電池反応モデルの容量維持率を急激に変化させることにより、二次電池の過剰な充放電による電池性能の劣化を招いたり、二次電池の正確な残存電力量を推定することが困難となったりする虞を低減することができる。
即ち、本発明の第3の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る二次電池の状態推定方法であって、
前記温度差ΔTの前回の算出値と今回の算出値との偏差Dtが予め定められた上限値Tkよりも大きい場合は、前記電池反応モデルの容量維持率kを予め定められた1未満の値kfに設定する、
二次電池の状態推定方法である。
本発明の前記第1の実施態様に係る二次電池の状態推定方法であって、
前記温度差ΔTの前回の算出値と今回の算出値との偏差Dtが予め定められた上限値Tkよりも大きい場合は、前記電池反応モデルの容量維持率kを予め定められた1未満の値kfに設定する、
二次電池の状態推定方法である。
上記のように、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法において、温度差ΔTの前回の算出値と今回の算出値との偏差Dtが予め定められた上限値Tkよりも大きい場合は、電池反応モデルの容量維持率kを予め定められた1未満の値kfに設定する。例えば、図7の上のグラフに示されているように、温度差ΔTが時刻tcにおいて急激に増大したとき、温度差ΔTの前回の算出値と今回の算出値との偏差Dtが予め定められた上限値Tkよりも大きい場合は、図7の下のグラフに示されているように、電池反応モデルの容量維持率kを予め定められた1未満の値kfに設定する。これにより、二次電池の過剰な充放電による電池性能の劣化を招いたり、二次電池の正確な残存電力量を推定することが困難となったりする虞を低減することができる。
尚、二次電池の過剰な充放電による電池性能の劣化を招いたり、二次電池の正確な残存電力量を推定することが困難となったりする虞を低減する観点からは、電池反応モデルの容量維持率kを予め定められた1未満の値kfにできる限り迅速に設定することが望ましい。例えば、容量維持率kの値の値kfへの変更は、徐々に変化させるのではなく、図7の下のグラフに示されているように、不連続に変化させてもよい。
上限値Tkは、例えば、二次電池の構成において想定される満充電容量の低下要因及び正常な使用に伴う満充電容量の変動幅等を考慮して、適宜定めることができる。上記低下要因としては、上述したように、例えば、並列に接続された複数の単電池によって構成される二次電池における何れかの単電池のヒューズの断線並びに例えば高い負荷及び衝撃等による電極活物質の欠落等を挙げることができる。また、二次電池の正常な使用に伴う満充電容量の変動幅については、例えば当該二次電池の用途において想定される環境及び使用状況を再現するモデル実験等によって計測又は推定することができる。
また、上記偏差が上記上限値Tkよりも大きい場合における容量維持率kの設定値であるkfは、上記のように、予め定められた1未満の値である。このkfの具体的な値は、二次電池の過剰な充放電による電池性能の劣化を招いたり、二次電池の正確な残存電力量を推定することが困難となったりする虞を低減することが可能であるように、十分に小さい値とするべきである。即ち、このkfの具体的な値は、このような意図せぬ望ましくない状況を回避するフェイルセーフ(fail safe)的な設計思想に基づいて定められることが望ましい。
尚、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法においては、上記のように、温度差ΔTの前回の算出値と今回の算出値との偏差Dtに基づいて、電池反応モデルの容量維持率kを予め定められた1未満の値kfに設定する。しかしながら、本実施態様は、広義には、二次電池の満充電容量が急激に変化したときに、電池反応モデルの容量維持率kを予め定められた1未満の値kfに設定することにより、二次電池の過剰な充放電による電池性能の劣化を招いたり、二次電池の正確な残存電力量を推定することが困難となったりする虞を低減する。従って、電池反応モデルの容量維持率kを上記のように変更するか否かの判断基準は、上記偏差Dtに限定されない。具体的には、例えば温度差ΔTの時間的な変化率(単位時間当たりの温度差ΔTの変化量)に基づいて、上記のように電池反応モデルの容量維持率kを変更するか否かを判断してもよい。
ところで、動力源として電動機を備える電動車両に電源として搭載される二次電池には、二次電池の使用期間、電動車両の走行モード等、種々の状況に応じたSOC制御が適用される。例えば、二次電池の過剰な充放電に起因する劣化を抑制することを主目的とする場合は、二次電池のSOCが所定の範囲内に維持されるように制御される。このためには、二次電池の使用に伴うSOCの増減を適切に反映して、その時々のSOCを正確に推定する必要がある。
一方、式(2)を参照しながら前述したように、二次電池のSOCは、ある特定の時点におけるSOC(SOC0)に対して、所定期間Δtにおける電流値の積分値(ΣIΔt)の満充電容量Qfに対する比を反映させることによって算出することができる。従って、ある特定の時点におけるSOC(SOC0)からのSOCの変化(ΔSOC)の大きさ(絶対値)は、満充電容量が過大に推定されている場合は過小に推定されてしまう。この場合、二次電池の使用に伴うSOCの増減が過小に算出され、その時々のSOCを正確に推定することが困難となる。
ところが、本発明に係る二次電池の状態推定方法によれば、二次電池の内部温度の推定値Tsと外部温度の実測値Tとの温度差ΔTに応じて電池反応モデルの満充電容量が補正される。従って、二次電池の使用に伴うSOCの増減が適切に反映され、その時々のSOCが正確に推定される。その結果、二次電池のSOCが所定の範囲内に維持して二次電池の過剰な充放電に起因する劣化を抑制する制御を的確に行うことができる。
上記において、二次電池の使用に伴うSOCの増減が過小に算出され、その結果として二次電池の過剰な充放電に起因する劣化の可能性が高まることを防止するためには、満充電容量が過大に推定される可能性をできるだけ低く抑えることが望ましい。即ち、本発明に係る二次電池の状態推定方法により温度差ΔTを所定の上限値Tu以下の範囲に収める制御においても、温度差ΔTをできるだけ小さく維持することが望ましい。
具体的には、温度差ΔTが上限値よりも大きい場合において電池反応モデルの満充電容量をより小さい値に補正するときの満充電容量の変化を迅速にする一方で、当該補正後に満充電容量をより大きい値に戻すときの満充電容量の変化は緩慢にすることが望ましい。
即ち、本発明の第4の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る二次電池の状態推定方法であって、
前記温度差ΔTが前記上限値Tuよりも大きい場合に、前記電池反応モデルの満充電容量をより小さい値に補正するときの単位時間当たりの満充電容量の変化量の絶対値である容量変化速度Vudを、その後、前記電池反応モデルの満充電容量をより大きい値に戻すときの単位時間当たりの満充電容量の変化量の絶対値である容量変化速度Vuuよりも大きい値に設定する、
二次電池の状態推定方法である。
本発明の前記第1の実施態様に係る二次電池の状態推定方法であって、
前記温度差ΔTが前記上限値Tuよりも大きい場合に、前記電池反応モデルの満充電容量をより小さい値に補正するときの単位時間当たりの満充電容量の変化量の絶対値である容量変化速度Vudを、その後、前記電池反応モデルの満充電容量をより大きい値に戻すときの単位時間当たりの満充電容量の変化量の絶対値である容量変化速度Vuuよりも大きい値に設定する、
二次電池の状態推定方法である。
ここで、上記につき、添付図面を参照しながら、以下に詳しく説明する。図8は、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法が適用される二次電池の劣化を抑制することを主目的とする場合に、温度差ΔTが上限値Tuを超えたときの電池反応モデルの満充電容量の補正様式を表す。
図8に示されている例では、時刻taにおいて温度差ΔTが上限値Tuを超える。即ち、電池反応モデルの満充電容量が過大に推定されている。この場合、上述したように、二次電池の使用に伴うSOCの増減が過小に算出され、その時々のSOCを正確に推定することが困難となる。より具体的には、図1を参照しながら前述したように、二次電池のSOCの放電に伴う低下幅及び充電に伴う増加幅が何れも過小に算出される。その結果、モデル上ではSOCが好適な範囲内にあっても、真のSOCは好適な範囲から逸脱して、過剰な充放電に起因する電池の劣化を招く虞がある。そこで、時刻ta以降は、例えば容量維持率をより小さい値へと急激に補正することにより、電池反応モデルの満充電容量をより小さい値へと急激に(速やかに)補正する(容量変化速度Vud)。これにより、上記のように過剰な充放電に起因する電池の劣化を招く可能性を低減することができる。
その後、時刻tbにおいて温度差ΔTの増大が停止する。図8においては、時刻tb以降は、電池反応モデルの満充電容量の更なる低減(補正)は行わず、一定値に維持している。時刻tb以降、温度差ΔTは減少に転じ、時刻tcにおいて温度差ΔTが再び上限値Tuを下回るようになる。即ち、電池反応モデルの満充電容量が適正に推定されるようになる。従って、時刻tc以降は、温度差ΔTが減少し過ぎないように電池反応モデルの満充電容量をより大きい値へと戻す。但し、この段階で電池反応モデルの満充電容量をより大きい値へと戻すことは、再び過大な満充電容量を推定することに繋がる虞がある。そこで、時刻tc以降は、電池反応モデルの満充電容量をより大きい値へと徐々に(緩やかに)補正する(容量変化速度Vuu)。このような電池反応モデルの満充電容量の補正様式(容量変化速度Vud>容量変化速度Vuu)により、上記のような過放電に起因する電池の劣化を招く可能性を低減することができる。
以上、二次電池の過剰な充放電に起因する劣化を抑制することを主目的とするSOC制御について説明してきた。しかしながら、電動車両におけるSOC制御が「できるだけ多くの放電量を確保して、できるだけ長い走行距離を達成すること」を主目的とする場合もあり得る。
この場合も、電池反応モデルの満充電容量を適切に補正してSOCを正確に推定することが望ましいことに変わりはない。しかしながら、できるだけ多くの放電量を確保して、できるだけ長い走行距離を達成する観点からは、放電に伴うSOCの低下幅(ΔSOC)が過大に推定されて、二次電池のSOCが過小に推定される可能性をできるだけ低減することが望ましい。即ち、電池反応モデルの満充電容量を増加する補正は迅速に、電池反応モデルの満充電容量を低減する補正は緩慢に、それぞれ行うことが望ましい。
即ち、本発明の第5の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る二次電池の状態推定方法であって、
前記温度差ΔTが前記上限値Tuよりも大きい場合に、前記電池反応モデルの満充電容量をより小さい値に補正するときの単位時間当たりの満充電容量の変化量の絶対値である容量変化速度Vudを、その後、前記電池反応モデルの満充電容量をより大きい値に戻すときの単位時間当たりの満充電容量の変化量の絶対値である容量変化速度Vuuよりも小さい値に設定する、
二次電池の状態推定方法である。
本発明の前記第1の実施態様に係る二次電池の状態推定方法であって、
前記温度差ΔTが前記上限値Tuよりも大きい場合に、前記電池反応モデルの満充電容量をより小さい値に補正するときの単位時間当たりの満充電容量の変化量の絶対値である容量変化速度Vudを、その後、前記電池反応モデルの満充電容量をより大きい値に戻すときの単位時間当たりの満充電容量の変化量の絶対値である容量変化速度Vuuよりも小さい値に設定する、
二次電池の状態推定方法である。
ここで、上記につき、添付図面を参照しながら、以下に詳しく説明する。図9は、本実施態様に係る二次電池の状態推定方法が適用される二次電池の放電量をできるだけ多く確保して、できるだけ長い走行距離を達成することを主目的とする場合に、温度差ΔTが上限値Tuを超えたときの電池反応モデルの満充電容量の補正様式を表す。尚、容量変化速度Vud及びVuuの定義については、図8と同様である。
図9に示されている例では、時刻taにおいて温度差ΔTが上限値Tuを超える。即ち、電池反応モデルの満充電容量が過大に推定されている。本実施態様においては、できるだけ多くの放電量を確保して、できるだけ長い走行距離を達成することを主目的とするSOC制御を想定している。従って、二次電池のSOCは放電に伴って低下している状況にある。このとき、上記のように電池反応モデルの満充電容量が過大に推定されていると、前述したようにSOCの低下幅(ΔSOC)が過小に算出され、SOCが過大に推定される。従って、このように過大に推定されたSOCに基づくSOC制御によれば、モデル上ではSOCが好適な範囲内にあっても、真のSOCは好適な範囲の下限を下回り、過放電に起因する電池の劣化を招く虞がある。そのため、電池反応モデルの満充電容量をより小さい値へと補正する必要がある。
しかしながら、この補正を急激に(速やかに)行うと、モデル上のSOCが過小に推定され、二次電池の放電が過度に制限されて、例えば電動車両の走行距離の確保が困難となる虞がある。そこで、時刻ta以降は、例えば容量維持率をより小さい値へと徐々に補正することにより、電池反応モデルの満充電容量をより小さい値へと徐々に(緩やかに)補正する(容量変化速度Vud)。これにより、上記のように二次電池の放電が過度に制限される可能性を低減することができる。
その後、時刻tbにおいて温度差ΔTの増大が停止する。図9においては、時刻tb以降は、電池反応モデルの満充電容量の更なる低減(補正)は行わず、一定値に維持している。時刻tb以降、温度差ΔTは減少に転じ、時刻tcにおいて温度差ΔTが再び上限値Tuを下回るようになる。即ち、電池反応モデルの満充電容量が適正に推定されるようになる。従って、時刻tc以降は、温度差ΔTが減少し過ぎないように電池反応モデルの満充電容量をより大きい値へと戻す。この際、できるだけ多くの放電量を確保して、できるだけ長い走行距離を達成する観点からは、満充電容量をより大きい値へと迅速に戻すことが望ましい。そこで、時刻tc以降は、電池反応モデルの満充電容量をより大きい値へと急激に(速やかに)補正する(容量変化速度Vuu)。このような電池反応モデルの満充電容量の補正様式(容量変化速度Vud<容量変化速度Vuu)により、できるだけ多くの放電量を確保して、できるだけ長い走行距離を達成することができる。
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施態様について説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施態様に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることができることは言うまでも無い。
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