本明細書において、「ジカルボン酸成分」とは、特に断りのない限り、ジカルボン酸のみならず、ジカルボン酸エステル形成性誘導体等のジカルボン酸誘導体も含むものとする。
本明細書において、「9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分」とは、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシアリール)フルオレン成分及び9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシアリール)フルオレン成分のいずれも含むものとする。なお、「9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分」には、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシアリール)フルオレン成分、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシポリアルコキシアリール)フルオレン成分等の9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分は含まないものとする。
本明細書では、特定の波長領域で測定した面内位相差を「R波長nm」で表す。例えば、R550nmは、波長550nmで測定した面内位相差を意味する。
1.ポリエステル樹脂
本発明のポリエステル樹脂は、特定のジオール成分(A)とジカルボン酸成分(B)とを重合成分として含有するポリエステル樹脂である。
(1)ジオール成分(A)
本発明において、ジオール成分(A)は、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1)を少なくとも含んでいる。これにより、ガラス転移温度(Tg)を高くして耐熱性を向上させるとともに、複屈折及び逆波長分散性に優れた位相差フィルムを提供することができる。本発明においては、特に、複屈折を維持しつつ、逆波長分散性を向上させることができる。
9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1)
9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1)としては、特に制限されないが、一般式(1):
[式中、Z1及びZ2は同じか又は異なり、それぞれ芳香族炭化水素環;R1a及びR1bは同じか又は異なり、それぞれ(置換又は非置換)カルボキシ基ではない置換基;R2a及びR2bは同じか又は異なり、それぞれ二価の炭化水素基;R3a及びR3bは同じか又は異なり、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基;n1及びn2は同じか又は異なり、それぞれ0〜4の整数;m1及びm2は同じか又は異なり、それぞれ1以上の整数;k1及びk2は同じか又は異なり、それぞれ1以上の整数である。]
で示される化合物由来の構成単位が挙げられる。
一般式(1)において、環Z1及びZ2で示される芳香族炭化水素環としては、特に制限されるわけではないが、ベンゼン環だけでなく、縮合多環式芳香族炭化水素環[例えば、縮合二環式炭化水素環(例えば、インデン環、ナフタレン環等のC8−20縮合二環式炭化水素環等、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素環等)、縮合三環式炭化水素環(例えば、アントラセン環、フェナントレン環等)等の縮合2〜4環式炭化水素環等]等も挙げられる。2つの環Z1及びZ2は同一でも異なっていてもよいが、同一の環であることが好ましい。このような環Z1及びZ2としては、耐熱性、複屈折及び加工性改善効果の観点から、ベンゼン環及びナフタレン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
前記一般式(1)において、基R1a及びR1bで示される(置換又は非置換)カルボキシ基ではない置換基としては、カルボキシ基及びその誘導体基(アルコキシカルボニル基等)ではない置換基であれば特に制限されないが、例えば、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基等が挙げられる。これらの置換基は、置換基を有するものでもよいし、有さないものでもよい。
前記一般式(1)において、基R1a及びR1bで示されるアルキル基としては、C1−8アルキル基が好ましく、C1−4アルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基等を例示できる。このアルキル基の置換基としては、例えば、後述の炭化水素基(シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等の1〜2個を有し得る。
前記一般式(1)において、基R1a及びR1bで示されるシクロアルキル基としては、C5−10シクロアルキル基が好ましく、C5−8シクロアルキル基がより好ましく、C5−6シクロアルキル基がさらに好ましい。具体的には、シクロペンチル基、シクロへキシル基等を例示できる。このシクロアルキル基の置換基としては、例えば、前記又は後述の炭化水素基(アルキル基、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等の1〜2個を有し得る。
前記一般式(1)において、基R1a及びR1bで示されるアリール基としては、C6−10アリール基が好ましい。具体的には、フェニル基、アルキルフェニル基(アルキル:前述したもの;トリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基等のメチルフェニル基、キシリル基等のジメチルフェニル基等)、ナフチル基等を例示できる。このアリール基の置換基としては、例えば、前記又は後述の炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等の1〜2個を有し得る。
前記一般式(1)において、基R1a及びR1bで示されるアラルキル基としては、前述したアリール基と前述したアルキル基を有するC7−14アラルキル基が好ましい。具体的には、ベンジル基、フェネチル基等が例示できる。このアラルキル基の置換基としては、例えば、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等の1〜2個を有し得る。
前記一般式(1)において、基R1a及びR1bで示されるアルコキシ基としては、C1−8アルコキシ基が好ましく、C1−6アルコキシ基がより好ましい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基等が例示できる。このアルコキシ基の置換基としては、例えば、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等)、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等の1〜2個を有し得る。
前記一般式(1)において、基R1a及びR1bで示されるシクロアルコキシ基としては、C5−10シクロアルコキシ基が好ましい。具体的には、シクロへキシルオキシ基等が例示できる。このシクロアルコキシ基の置換基としては、例えば、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等の1〜2個を有し得る。
前記一般式(1)において、基R1a及びR1bで示されるアリールオキシ基としては、前述したアリール基を有するC6−10アリールオキシ基が好ましい。具体的には、フェノキシ基等が例示できる。このアリールオキシ基の置換基としては、例えば、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等の1〜2個を有し得る。
前記一般式(1)において、基R1a及びR1bで示されるアラルキルオキシ基としては、前述したアリール基と前述したアルキルオキシ基を有するC7−14アラルキルオキシ基が好ましい。具体的には、ベンジルオキシ基等が例示できる。このアラルキルオキシ基の置換基としては、例えば、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等の1〜2個を有し得る。
前記一般式(1)において、基R1a及びR1bで示されるアシル基としては、C1−6アシル基が好ましい。具体的には、アセチル基等が例示できる。このアシル基の置換基としては、例えば、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等の1〜2個を有し得る。
前記一般式(1)において、基R1a及びR1bで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が例示できる。
前記一般式(1)において、基R1a及びR1bで示されるアミノ基としては、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等の1〜2個の置換基を有し得る。アミノ基としては、具体的には、アミノ基の他、ジメチルアミノ基等のジアルキルアミノ基等が例示できる。
これらのなかでも、基R1a及びR1bとしては、後述するジカルボン酸成分との重合効率、複屈折向上効果(特に面内位相差を高める効果)等を考慮して相性のよい置換基を採用することが好ましい。
なお、n1が複数(2〜4の整数)である場合、複数の基R1aは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。同様に、n2が複数(2〜4の整数)である場合、複数の基R1bは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
また、異なるベンゼン環に置換した基R1aと基R1bとは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。また、基R1a及びR1bの結合位置(置換位置)は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2位、7位等の少なくとも1つが挙げられる。
前記一般式(1)において、基R1a及びR1bの置換数であるn1及びn2は同じでも異なっていてもよいが、それぞれ0〜4の整数が好ましく、0〜2の整数がより好ましく、0又は1がさらに好ましく、0が特に好ましい。
上記一般式(1)において、基R2a及びR2bで示される二価の炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基(アルキレン基(又はアルキリデン基)、シクロアルキレン基、アルキレン(又はアルキリデン)−シクロアルキレン基、ビ又はトリシクロアルキレン基等)、芳香族炭化水素基(アリーレン基、アルキレン(又はアルキリデン)−アリーレン基等)等が挙げられる。
一般式(1)において、基R2a及びR2bで示されるアルキレン基(又はアルキリデン基)としては、アルキレン基が好ましく、C1−8アルキレン基がより好ましく、C1−4アルキレン基がさらに好ましく、C2−4アルキレン基が特に好ましく、C2−3アルキレン基が最も好ましい。具体的には、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、トリメチレン基、プロピレン基、プロピリデン基、テトラメチレン基、エチルエチレン基、ブタン−2−イリデン基、1,2−ジメチルエチレン基、ペンタメチレン基、ペンタン−2,3−ジイル基等が例示できる。
一般式(1)において、基R2a及びR2bで示されるシクロアルキレン基としては、C5−10シクロアルキレン基が好ましく、C5−8シクロアルキレン基がより好ましい。具体的には、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、メチルシクロへキシレン基、シクロへプチレン基等が例示できる。
一般式(1)において、基R2a及びR2bで示されるアルキレン(又はアルキリデン)−シクロアルキレン基としては、アルキレン基−シクロアルキレン基が好ましく、C1−6アルキレン−C5−10シクロアルキレン基がより好ましく、C1−4アルキレン−C5−8シクロアルキレン基がさらに好ましい。具体的には、メチレン−シクロへキシレン基、エチレン−シクロへキシレン基、エチレン−メチルシクロへキシレン基、エチリデン−シクロへキシレン基等が例示できる。
一般式(1)において、基R2a及びR2bで示されるビ又はトリシクロアルキレン基としては、具体的には、ノルボルナン−ジイル基等が例示できる。
一般式(1)において、基R2a及びR2bで示されるアリーレン基としては、C6−10アリーレン基が好ましい。具体的には、フェニレン基、ナフタレンジイル基等が例示できる。
一般式(1)において、基R2a及びR2bで示されるアルキレン(又はアルキリデン)−アリーレン基としては、アルキレン−アリーレン基が好ましく、C1−6アルキレン−C6−20アリーレン基がより好ましく、C1−4アルキレン−C6−10アリーレン基がさらに好ましく、C1−2アルキレン−フェニレン基が特に好ましい。具体的には、メチレン−フェニレン基、エチレン−フェニレン基、エチレン−メチルフェニレン基、エチリデンフェニレン基等が例示できる。
これらのうち、二価の脂肪族炭化水素基、特に、アルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基等のC1−4アルキレン基等)が好ましい。
なお、アルキレン(若しくはアルキリデン)−シクロアルキレン基並びにアルキレン(アルキリデン)−アリーレン基とは、−Ra−Rb−(式中、Raは、一般式(1)においてヒドロキシ基又はフルオレンの9位に結合したアルキレン基又はアルキリデン基、Rbはシクロアルキレン基又はアリーレン基を示す)で示される基を示す。
なお、m1が複数(2以上の整数)である場合、複数の基R2aは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。同様に、m2が複数(2以上の整数)である場合、複数の基R2bは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
また、基R2aと基R2bとは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
前記一般式(1)において、OR2a及びOR2bの繰り返し数であるm1及びm2は同じでも異なっていてもよいが、それぞれ1以上の整数が好ましく、1〜10の整数がより好ましく、1〜6の整数がさらに好ましく、1〜4の整数が特に好ましく、1〜2の整数がさらに好ましく、1が最も好ましい。
なお、前記一般式(1)において、−O−(R2aO)m1−H基及び−O−(R2bO)m2−H基の置換位置は、特に限定されず、環Z1及びZ2の適当な置換位置に置換していればよい。例えば、−O−(R2aO)m1−H基及び−O−(R2bO)m2−H基は、環Z1及びZ2がベンゼン環である場合、ベンゼン環の2〜6位に置換していればよく、4位に置換しているのが好ましい。また、−O−(R2aO)m1−H基及び−O−(R2bO)m2−H基は、環Z1及びZ2が縮合多環式炭化水素環である場合、縮合多環式炭化水素環において、フルオレンの9位に結合した炭化水素環とは別の炭化水素環(例えば、ナフタレン環の5位、6位等)に少なくとも置換している場合が多い。
前記一般式(1)において、基R3a及びR3bで示されるアリール基としては、C6−10アリール基が好ましい。具体的には、フェニル基、アルキルフェニル基(アルキル:前述したもの;トリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基等のメチルフェニル基、キシリル基等のジメチルフェニル基等)、ナフチル基等を例示できる。このアリール基の置換基としては、例えば、前記又は後述の炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等の1〜2個を有し得る。
なお、k1が複数(2以上の整数)である場合、複数の基R3aは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。同様に、k2が複数(2以上の整数)である場合、複数の基R3bは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
また、基R3aと基R3bとは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
前記一般式(1)において、基R3a及びR3bの置換数であるk1及びk2は同じでも異なっていてもよいが、それぞれ1以上の整数が好ましく、1〜8の整数がより好ましく、1〜4の整数がさらに好ましく、1〜3の整数が特に好ましく、1〜2の整数がさらに好ましく、1が最も好ましい。
なお、前記一般式(1)において、基R3a及びR3bの置換位置は、特に限定されず、環Z1及びZ2の適当な置換位置に置換していればよい。例えば、基R3a及びR3bは、環Z1及びZ2がベンゼン環である場合、ベンゼン環の2〜6位に置換していればよく、3位又は5位に置換しているのが好ましい。また、基R3a及びR3bは、環Z1及びZ2が縮合多環式炭化水素環である場合、縮合多環式炭化水素環において、フルオレンの9位に結合した炭化水素環とは別の炭化水素環(例えば、ナフタレン環の5位、7位、8位等)に少なくとも置換している場合が多い。
代表的な9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン(A1)(又は前記一般式(1)で示される化合物)には、例えば、n1及びn2が0である化合物が含まれる。このような化合物としては、前記一般式(1)において、Z1及びZ2がともにベンゼン環であり、m1及びm2がともに1である9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン;Z1及びZ2がともにベンゼン環であり、m1及びm2がともに2以上である9,9−ビス(アリール−ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレン等が挙げられる。
9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン等の9,9−ビス(モノ又はジC6−10アリール−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン等が挙げられる。
9,9−ビス(アリール−ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシジアルコキシフェニル)フルオレン等が好ましく、例えば、9,9−ビス{4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]−3−フェニルフェニル}フルオレン等の9,9−ビス(モノ又はジC6−10アリール−ヒドロキシジC2−4アルコキシフェニル)フルオレン等が挙げられる。
一般式(1)で示される化合物としては、これらのうち、特に、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンが好ましく、9,9−ビス(C6−10アリール−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレンがより好ましく、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン等がさらに好ましい。つまり、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレン成分(A1)としては、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン由来の構成単位が好ましく、9,9−ビス(C6−10アリール−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン由来の構成単位がより好ましく、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン由来の構成単位がさらに好ましい。
本発明のポリエステル樹脂が有するジオール成分(A)において、9,9−ビス(アリールヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1)の含有量は、ガラス転移温度(Tg)を向上させて、加工性及び重合効率をより維持しつつ耐熱性をより向上させるとともに、逆波長分散性をより維持しつつ、より複屈折に優れた(より高い面内位相差を有する)位相差フィルムを得る観点からは、ジオール成分(A)全体に対して、40モル%以上が好ましく、50〜90モル%がより好ましく、55〜85モル%がさらに好ましく、60〜80モル%が特に好ましく、65〜75モル%が最も好ましい。
本発明のポリエステル樹脂が有するジオール成分(A)において、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1)の含有量は、ガラス転移温度(Tg)を向上させて、加工性及び重合効率をより維持しつつ耐熱性をより向上させるとともに、複屈折をより維持しつつ逆波長分散性に優れた位相差フィルムを得る観点からは、ジオール成分(A)全体に対して、40モル%以上が好ましく、50〜98モル%がより好ましく、60〜95モル%がさらに好ましく、70〜90モル%が特に好ましく、75〜85モル%が最も好ましい。
脂肪族ジオール成分(A2)
本発明のポリエステル樹脂が有するジオール成分(A)は、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1)のみで構成していてもよいが、脂肪族ジオール成分(A2)を含んでいてもよい。脂肪族ジオール成分(A2)を含ませることにより、耐熱性、複屈折及び逆波長分散性を維持しつつ、加工性をより向上させ、ポリエステル樹脂の重合をより効率よく行うことができる。この脂肪族ジオール成分(A2)は、本発明のポリエステル樹脂を合成する際の溶媒ともなり得る。
このような脂肪族ジオール成分(A2)としては、例えば、鎖状脂肪族ジオール成分(アルカンジオール成分、ポリアルカンジオール成分等)、脂環族ジオール成分(シクロアルカンジオール成分、ジ(ヒドロキシアルキル)シクロアルカン成分、イソソルバイド成分等)等が挙げられる。
アルカンジオールとしては、C2−10アルカンジオールが好ましく、C2−6アルカンジオールがより好ましく、C2−4アルカンジオールがさらに好ましい。具体的には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
ポリアルカンジオールとしては、ジ又はトリC2−4アルカンジオールが好ましい。具体的には、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール等が挙げられる。
シクロアルカンジオールとしては、C5−8シクロアルカンジオールが好ましい。具体的には、シクロヘキサンジオール等が挙げられる。
ジ(ヒドロキシアルキル)シクロアルカンとしては、ジ(ヒドロキシC1−4アルキル)C5−8シクロアルカンが好ましい。具体的には、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
これらの脂肪族ジオール成分(A2)は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
これらのうち、耐熱性、複屈折及び逆波長分散性をより維持しつつ、加工性をより向上させ、ポリエステル樹脂の重合をより効率よく行うことができる観点から、脂肪族ジオール成分(A2)としては、特に、アルカンジオール(特にエチレングリコール等のC2−4アルカンジオール)等の低分子量の脂肪族ジオール成分(鎖状脂肪族ジオール成分)を好適に使用し得る。
本発明のポリエステル樹脂が有するジオール成分(A)において、脂肪族ジオール成分(A2)の含有量は、耐熱性、複屈折及び逆波長分散性をより維持しつつ、加工性をより向上させ、ポリエステル樹脂の重合をより効率よく行うことができる観点から、ジオール成分(A)全体に対して、60モル%以下、好ましくは10〜50モル%、より好ましくは15〜45モル%、さらに好ましくは20〜40モル%、特に好ましくは25〜35モル%とし得る。また、ジオール成分(A)全体に対して、60モル%以下、好ましくは2〜50モル%、より好ましは5〜40モル%、さらに好ましくは10〜30モル%、特に好ましくは15〜25モル%ともし得る。
9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1)と、脂肪族ジオール成分(A2)との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=40/60〜100/0、好ましくは50/50〜90/10、より好ましくは55/45〜85/15、さらに好ましくは60/40〜80/20、特に好ましくは65/35〜75/25とし得る。また、前者/後者(モル比)=40/60〜100/0、好ましくは50/50〜98/2、より好ましくは60/40〜95/5、さらに好ましくは70/30〜70/10、特に好ましくは75/25〜85/15ともし得る。これにより、耐熱性、複屈折及び逆波長分散性をより維持しつつ、加工性をより向上させ、ポリエステル樹脂の重合をより効率よく行うことができる。
なお、ジオール成分(A)において、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1)、及び脂肪族ジオール成分(A2)の総量は、耐熱性、複屈折及び逆波長分散性をより維持しつつ、加工性をより向上させ、ポリエステル樹脂の重合をより効率よく行う観点から、ジオール成分(A)全体に対して、50モル%以上(50〜100モル%)が好ましく、60モル%以上(60〜100モル%)がより好ましく、70モル%以上(70〜100モル%)がさらに好ましく、80モル%以上(80〜100モル%)が特に好ましく、90モル%以上(90〜100モル%)が最も好ましい。
他のジオール成分
ジオール成分(A)には、本発明の効果を害しない範囲であれば、他のジオール成分(9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1)及び脂肪族ジオール成分(A2)の範疇に属さないジオール成分)を含ませていてもよい。
このような他のジオール成分としては、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A3)、芳香族ジオール成分(A4)等が挙げられる。これらの他のジオール成分としては、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合せて用いてもよい。
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A3)としては、特に制限されないが、一般式(2):
[式中、Z1、Z2、R1a、R1b、R2a、R2b、n1、n2、m1及びm2は前記に同じである。]
で示される化合物由来の構成単位が挙げられる。
一般式(2)において、Z1、Z2、R1a、R1b、R2a、R2b、n1、n2、m1及びm2は前記に同じである。好ましい具体例も同様である。
代表的な一般式(2)で示される化合物には、n1及びn2が0である化合物が含まれる。このような化合物としては、前記一般式(2)において、Z1及びZ2がともにベンゼン環であり、m1及びm2がともに1である9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン;Z1及びZ2がともにベンゼン環であり、m1及びm2がともに2以上である9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレン;Z1及びZ2がともにナフタレン環であり、m1及びm2がともに1である9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン等が挙げられる。
9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン等の9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン等が挙げられる。
9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシジアルコキシフェニル)フルオレン等が好ましく、例えば、9,9−ビス{4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレン等の9,9−ビス(ヒドロキシジC2−4アルコキシフェニル)フルオレン等が挙げられる。
9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレンとしては、例えば、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシプロポキシ)−2−ナフチル]フルオレン等の9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシナフチル)フルオレン等が挙げられる。
一般式(2)で示される化合物としては、これらのうち、特に、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンが好ましく、9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレンがより好ましく、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン等がさらに好ましい。つまり、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1)としては、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン由来の構成単位が好ましく、9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン由来の構成単位がより好ましく、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン由来の構成単位がさらに好ましい。
芳香族ジオール成分(A4)としては、特に制限されないが、ジヒドロキシアレーン成分、芳香脂肪族ジオール成分、ビフェノール・ビスフェノール成分、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1)及び9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン成分(A3)の範疇に属さないフルオレン骨格を有するジオール成分等が挙げられる。
ジヒドロキシアレーンとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール等が挙げられる。
芳香脂肪族ジオールとしては、例えば、1,4−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノール等のジ(ヒドロキシC1−4アルキル)C6−10アレーン等が挙げられる。
ビフェノール・ビスフェノールとしては、例えば、ビフェノールの他、ビスフェノールA等のビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカン等も挙げられる。
9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1)及び9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン成分(A3)の範疇に属さないフルオレン骨格を有するジオールとしては、例えば、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシアルコキシアリール)フルオレン等が好ましく、具体的には、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン等の9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン)等が挙げられる。
これらの他のジオール成分(9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン成分(A3)及び芳香族ジオール成分(A4))は、単独で用いてもよいし、2種以上組合せて用いてもよい。
他のジオール成分を含む場合、他のジオール成分の含有量は、耐熱性、複屈折及び逆波長分散性をより維持しつつ、加工性をより向上させ、ポリエステル樹脂の重合をより効率よく行う観点から、ジオール成分(A)全体に対して、50モル%以下(0〜50モル%)が好ましく、40モル%以下(0〜40モル%)がより好ましく、30モル%以下(0〜30モル%)がさらに好ましく、20モル%以下(0〜20モル%)が特に好ましく、10モル%以下(0〜10モル%)が最も好ましい。
また、必要に応じて、ジオール成分(A)に加えて、3以上のヒドロキシ基を有するポリオール成分として、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等のアルカンポリオール成分を少量使用してもよい。これらの3以上のヒドロキシ基を有するポリオール成分を使用する場合には、ジオール成分(A)と前記ポリオール成分との総量に対して、10モル%以下(例えば、0.1〜8モル%、好ましくは0.2〜5モル%程度)とし得る。
(2)ジカルボン酸成分(B)
本発明において、ジカルボン酸成分(B)は、脂環式ジカルボン酸成分(B1)及び非フルオレン芳香族ジカルボン酸成分(B2)を少なくとも含んでいる。脂環式ジカルボン酸成分(B1)を含ませることによりガラス転移温度(Tg)を上昇させすぎて加工性が悪化するのを抑制するとともに、逆波長分散性に優れた位相差フィルムを提供することができる。また、非フルオレン芳香族ジカルボン酸成分(B2)を含ませることにより、ガラス転移温度(Tg)を上昇させて耐熱性を向上させつつ、複屈折に優れた位相差フィルムを提供することができる。このため、耐熱性及び加工性のバランスに優れ、且つ、複屈折及び逆波長分散性のバランスに優れた位相差フィルムを提供できるポリエステル樹脂が得られる。
脂環式ジカルボン酸成分(B1)
脂環式ジカルボン酸成分(B1)としては、脂環式ジカルボン酸成分及び脂環式ジカルボン酸エステル形成性誘導体成分のいずれも含まれる。
なお、エステル形成性誘導体としては、特に制限されないが、例えば、エステル、酸ハライド、酸無水物等が挙げられる。
エステルとしては、例えば、アルキルエステルが好ましく、C1−4アルキルエステルがより好ましく、C1−2アルキルエステルがさらに好ましい。具体的には、メチルエステル、エチルエステル等が例示できる。
酸ハライドとしては、例えば、酸クロライド等が例示できる。
なお、エステル形成性誘導体は、モノエステル(ハーフエステル)形成性誘導体であってもよいし、ジエステル形成性誘導体であってもよい。
このような脂環式ジカルボン酸成分(B1)としては、得ようとするポリエステル樹脂の製造方法に応じて適宜選択できるが、溶融重合法を採用する場合には、脂環式ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸エステル等(特に脂環式ジカルボン酸)を使用する場合が多い。
このような脂環式ジカルボン酸成分(B1)としては、例えば、単環脂環式ジカルボン酸成分、複環脂環式ジカルボン酸成分等が挙げられる。
単環脂環式ジカルボン酸としては、シクロアルカンジカルボン酸が好ましく、C5−10シクロアルカンジカルボン酸がより好ましい。具体的には、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が例示できる。これらの単環脂環式ジカルボン酸は、単独で用いてもよいし、二種以上を組合せて用いてもよい。
これらの単環脂環式ジカルボン酸のうち、ガラス転移温度(Tg)をより上昇させて耐熱性をより向上させるとともに、逆波長分散性をより向上させる観点から、対称性単環脂環式ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体が好ましく、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体がより好ましい。
複環脂環式ジカルボン酸としては、ジ又はトリシクロアルカンジカルボン酸が好ましく、C7−12ジ又はトリシクロアルカンジカルボン酸がより好ましい。具体的には、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸等が例示できる。これらの複環脂環式ジカルボン酸は、単独で用いてもよいし、二種以上を組合せて用いてもよい。
なお、上記の単環脂環式ジカルボン酸と複環脂環式ジカルボン酸とを組合せてもよい。
脂環式ジカルボン酸成分(B1)の含有量は、ガラス転移温度(Tg)をより上昇させて加工性及びポリエステル樹脂の重合効率をより維持しつつ耐熱性をより向上させるとともに、複屈折をより維持し、逆波長分散性をより向上させる観点から、ジカルボン酸成分(B)全体に対して、40モル%以上が好ましく、50〜98モル%がより好ましく、60〜95モル%がさらに好ましく、70〜92モル%が特に好ましく、80〜90モル%が最も好ましい。なお、脂環式ジカルボン酸成分(B1)の含有量は、80モル%より大きく、好ましくは81モル%以上(81〜95モル%等)、より好ましくは82モル%以上(82〜90モル%等)、さらに好ましくは83モル%以上(83〜87モル%等)、特に好ましくは84モル%以上(84〜86モル%等)としてもよい。
非フルオレン芳香族ジカルボン酸成分(B2)
非フルオレン芳香族ジカルボン酸成分(B2)としては、非フルオレン芳香族ジカルボン酸成分及び非フルオレン芳香族ジカルボン酸エステル形成性誘導体成分(エステル形成性誘導体は前記したものである)のいずれも含まれる。
非フルオレン芳香族ジカルボン酸成分(B2)としては、得ようとするポリエステル樹脂の製造方法に応じて適宜選択できるが、溶融重合法を採用する場合には、非フルオレン芳香族ジカルボン酸、非フルオレン芳香族ジカルボン酸エステル等(特に非フルオレン芳香族ジカルボン酸)を使用する場合が多い。
非フルオレン芳香族ジカルボン酸成分(B2)としては、例えば、単環式芳香族ジカルボン酸成分、非フルオレン多環式芳香族ジカルボン酸成分等が挙げられる。
単環式芳香族ジカルボン酸としては、C6−10アレーンジカルボン酸が好ましい。具体的には、テレフタル酸、アルキルテレフタル酸(5−メチルテレフタル酸等のC1−4アルキルテレフタル酸)イソフタル酸、アルキルイソフタル酸(4−メチルイソフタル酸等のC1−4アルキルイソフタル酸)等が例示できる。
これらの単環式芳香族ジカルボン酸のうち、ガラス転移温度(Tg)をより上昇させて耐熱性をより向上させるとともに、複屈折をより向上させる観点からは、対称性単環式芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体として、テレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体が好ましい。
一方、ガラス転移温度(Tg)をより低減して加工性及びポリエステル樹脂の重合効率を向上させるとともに、逆波長分散性をより維持する観点からは、非対称性単環式芳香族ジカルボン酸が好ましい。
このような非対称性単環式芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、アルキルイソフタル酸(4−メチルイソフタル酸等のC1−4アルキルイソフタル酸)、アルキルテレフタル酸(5−メチルテレフタル酸等のC1−4アルキルテレフタル酸)等が挙げられる。
これらの単環式芳香族ジカルボン酸は、単独で用いてもよいし、二種以上を組合せて用いてもよい。
非フルオレン多環式芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、非フルオレン多環式芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体(エステル形成性誘導体は前記したものである)由来の構成単位が挙げられる。
非フルオレン多環式芳香族ジカルボン酸としては、多環式芳香族骨格としてフルオレン骨格を有しないジカルボン酸であれば特に制限されないが、例えば、縮合多環式芳香族ジカルボン酸、アリールアレーンジカルボン酸、ジアリールアルカンジカルボン酸、ジアリールケトンジカルボン酸等が例示できる。
縮合多環式芳香族ジカルボン酸としては、例えば、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の異なる環に2つのカルボキシル基を有するナフタレンジカルボン酸;1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸等の同一の環に2つのカルボキシル基を有するナフタレンジカルボン酸;アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸等の縮合多環式C10−24アレーン−ジカルボン酸(特に縮合多環式C10−16アレーン−ジカルボン酸、さらには縮合多環式C10−14アレーン−ジカルボン酸)等が例示できる。
アリールアレーンジカルボン酸としては、C6−10アリールC6−10アレーンジカルボン酸が好ましく、例えば、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等のビフェニルジカルボン酸等が例示できる。
ジアリールアルカンジカルボン酸としては、ジC6−10アリールC1−6アルカン−ジカルボン酸が好ましく、ジフェニルC1−4アルカン−ジカルボン酸がより好ましい。具体的には、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸等のジフェニルアルカンジカルボン酸等が例示できる。
ジアリールケトンジカルボン酸としては、ジC6−10アリールケトン−ジカルボン酸が好ましく、具体的には、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸等のジフェニルケトンジカルボン酸等が例示できる。
これらの非フルオレン多環式芳香族ジカルボン酸は、単独で用いてもよいし、二種以上を組合せて用いてもよい。
これらの非フルオレン多環式芳香族ジカルボン酸成分のうち、特に、ガラス転移温度(Tg)を上昇させて加工性及びポリエステル樹脂の重合効率を維持しつつ耐熱性をより向上させるとともに、逆波長分散性を維持し、複屈折をより向上させることができる観点からは、縮合多環式芳香族ジカルボン酸が好ましく、ナフタレンジカルボン酸がより好ましい。
なお、上記の単環式芳香族ジカルボン酸と非フルオレン多環式芳香族ジカルボン酸とを組合せてもよい。
非フルオレン芳香族ジカルボン酸成分(B2)の含有量は、ガラス転移温度(Tg)をより適切に保ちたい熱性をより維持しつつ加工性及びポリエステル樹脂の重合効率をより向上させるとともに、複屈折をより向上させ、逆波長分散性をより維持する観点から、ジカルボン酸成分(B)全体に対して、60モル%以下が好ましく、2〜50モル%がより好ましく、5〜40モル%がさらに好ましく、8〜30モル%が特に好ましく、10〜20モル%が最も好ましい。なお、非フルオレン芳香族ジカルボン酸成分(B2)の含有量は、20モル%未満としてもよく、好ましくは19モル%以下(5〜19モル%等)、より好ましくは18モル%以下(10〜18モル%等)、さらに好ましくは17モル%以下(13〜17モル%等)、特に好ましくは16モル%以下(14〜16モル%等)としてもよい。
脂環式ジカルボン酸成分(B1)と非フルオレン芳香族ジカルボン酸成分(B2)との割合は、前者/後者(モル比)=40/60〜100/0が好ましく、50/50〜98/2がより好ましく、60/40〜95/5がさらに好ましく、70/30〜92/8が特に好ましく、80/20〜90/10が最も好ましい。なお、脂環式ジカルボン酸成分(B1)と非フルオレン芳香族ジカルボン酸成分(B2)との割合は、前者/後者(モル比)=80より大きい/20未満としてもよく、好ましくは81以上/19以下(81/19〜95/5等)、より好ましくは82以上/18以下(82/18〜90/10等)、さらに好ましくは83以上/17以下(83/17〜87/13等)、特に好ましくは84以上/16以下(84/16〜86/14等)としてもよい。
これら脂環式ジカルボン酸成分(B1)及び非フルオレン芳香族ジカルボン酸成分(B2)の総量は、耐熱性及び加工性のバランスにより優れ、且つ、複屈折及び逆波長分散性のバランスにより優れた位相差フィルムを提供する観点から、ジカルボン酸成分(B)全体に対して、50モル%以上(50〜100モル%)が好ましく、60モル%以上(60〜100モル%)がより好ましく、70モル%以上(70〜100モル%)がさらに好ましく、80モル%以上(80〜100モル%)が特に好ましく、90モル%以上(90〜100モル%)が最も好ましい。また、さらに、好ましくは95モル%以上(95〜100モル%)、より好ましくは97モル%以上(97〜100モル%)、さらに好ましくは98モル%以上(98〜100モル%)としてもよい。最も好ましいのは100モル%である。
他のジカルボン酸成分
ジカルボン酸成分(B)としては、本発明の効果を害しない範囲であれば、さらに他のジカルボン酸成分を含んでいてもよい。
他のジカルボン酸成分(脂環式ジカルボン酸成分(B1)及び非フルオレン芳香族ジカルボン酸成分(B2)の範疇に属さないジカルボン酸成分)としては、例えば、フルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(B3)、脂肪族ジカルボン酸成分(B4)等が挙げられる。
フルオレン骨格を有するジカルボン酸としては、フルオレンジカルボン酸(2,7−ジカルボキシフルオレン等)のように、フルオレンを構成する2つのベンゼン環に2つのカルボキシ基含有基が置換した化合物であってもよいが、通常、フルオレンの9位に2つのカルボキシ基含有基が置換した化合物を好適に使用できる。
このような化合物は、前記の9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1)と組合せて使用することにより、ガラス転移温度(Tg)をより維持しつつ、逆波長分散性により優れた位相差フィルムを提供することができる。
このフルオレンの9位に2つのカルボキシ基含有基が置換した化合物としては、具体的には、一般式(3):
[式中、R4a及びR4bは同じか又は異なり、それぞれ(置換又は非置換)カルボキシ基ではない置換基;R5a及びR5bは同じか又は異なり、それぞれ二価の炭化水素基;j1及びj2は同じか又は異なり、それぞれ0〜4の整数である。]
で示される化合物が好ましい。
つまり、フルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(B3)としては、上記一般式(3)で示される化合物、又はそのエステル、酸ハライド若しくは酸無水物由来の構成単位が好ましい。
一般式(3)において、R4a及びR4bは(置換又は非置換)カルボキシ基ではない置換基であればどのようなものでも採用できるが、上記R1a及びR1bと同様のものを採用できる。
基R4a及びR4bとしては、前記ジオール成分(特に9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1))との重合効率、逆波長分散性向上効果等を考慮して相性のよい置換基を採用することが好ましい。
なお、j1が複数(2〜4の整数)である場合、複数の基R4aは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。同様に、j2が複数(2〜4の整数)である場合、複数の基R4bは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
また、異なるベンゼン環に置換した基R4aと基R4bとは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。また、基R4a及びR4bの結合位置(置換位置)は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2位、7位等の少なくとも1つが挙げられる。
前記一般式(3)において、基R4a及びR4bの置換数であるj1及びj2は同じでも異なっていてもよいが、それぞれ0〜4の整数が好ましく、0〜2の整数がより好ましく、0又は1がさらに好ましく、0が特に好ましい。
一般式(3)において、R5a及びR5bは二価の炭化水素基であればどのようなものでも採用できるが、上記R2a及びR2bと同様のものを採用できる。好ましい具体例も同様である。
また、基R5aと基R5bとは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
なお、前記一般式(3)において、−R5aCOOH基及び−R5bCOOH基の置換位置は、特に限定されず、環Z1及びZ2の適当な置換位置に置換していればよい。例えば、−R5aCOOH基及び−R5bCOOH基は、環Z1及びZ2がベンゼン環である場合、ベンゼン環の2〜6位に置換していればよく、4位に置換しているのが好ましい。また、−R5aCOOH基及び−R5bCOOH基は、環Z1及びZ2が縮合多環式炭化水素環である場合、縮合多環式炭化水素環において、フルオレンの9位に結合した炭化水素環とは別の炭化水素環(例えば、ナフタレン環の5位、6位等)に少なくとも置換している場合が多い。
代表的な一般式(3)で示されるフルオレン骨格を有するジカルボン酸は、基R5a及びR5bが二価の脂肪族炭化水素基である化合物が挙げられる。例えば、9,9−ビス(カルボキシアルキル)フルオレン、9,9−ビス(カルボキシシクロアルキル)フルオレン等が挙げられる。
9,9−ビス(カルボキシアルキル)フルオレンとしては、9,9−ビス(カルボキシC1−6アルキル)フルオレンが好ましい。具体的には、9,9−ビス(カルボキシメチル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシエチル)フルオレン、9,9−ビス(1−カルボキシエチル)フルオレン、9,9−ビス(1−カルボキシプロピル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシプロピル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシ−1−メチルエチル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシ−1−メチルプロピル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシブチル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシ−1−メチルブチル)フルオレン、9,9−ビス(5−カルボキシペンチル)フルオレン等が例示できる。
9,9−ビス(カルボキシシクロアルキル)フルオレンとしては、9,9−ビス(カルボキシC5−8シクロアルキル)フルオレンが好ましい。具体的には、9,9−ビス(カルボキシシクロヘキシル)フルオレン等が例示できる。
なかでも、9,9−ビス(カルボキシアルキル)フルオレンが好ましく、9,9−ビス(カルボキシC1−4アルキル)フルオレンがより好ましい。
脂肪族ジカルボン酸としては、アルカンジカルボン酸が好ましく、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等のC2−12アルカンジカルボン酸等を例示できる。
つまり、他のジカルボン酸成分としては、これらのジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体由来の構成単位を使用することができる。なお、これらの他のジカルボン酸成分は、単独で用いてもよいし、二種以上を組合せて用いてもよい。
ジカルボン酸成分(B)中に他のジカルボン酸成分を含む場合、他のジカルボン酸成分の割合は、耐熱性及び加工性のバランスにより優れ、且つ、複屈折及び逆波長分散性のバランスにより優れた位相差フィルムを提供する観点から、ジカルボン酸成分(B)全体に対して、50モル%以下(0〜50モル%)が好ましく、40モル%以下(0〜40モル%)がより好ましく、30モル%以下(0〜30モル%)がさらに好ましく、20モル%以下(0〜20モル%)が特に好ましく、10モル%以下(0〜10モル%)が最も好ましい。また、さらに、5モル%以下、より好ましくは3モル%以下、さらに好ましくは2モル%以下としてもよい。最も好ましいのは0モル%である。
ジカルボン酸成分(B)は、本発明の効果を害しない範囲であれば、他の酸成分(カルボン酸成分)と組合せて使用してもよい。このような酸成分としては、例えば、不飽和カルボン酸成分、3以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸成分等が挙げられる。
不飽和カルボン酸としては、例えば、不飽和脂肪族ジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のC2−10アルケン−ジカルボン酸等)、不飽和脂環族ジカルボン酸(特にシクロアルケンジカルボン酸(シクロヘキセンジカルボン酸等のC5−10シクロアルケン−ジカルボン酸等)、ジ又はトリシクロアルケンジカルボン酸(ノルボルネンジカルボン酸等))等が挙げられる。また、これらのエステル形成性誘導体も好適に使用できる。
3以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族ポリカルボン酸等が挙げられる。
これらの他の酸成分は単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
なお、他の酸成分を使用する場合、他の酸成分の割合は、ジカルボン酸成分(B)及び他の酸成分の総量に対して10モル%以下が好ましく、0.1〜8モル%がより好ましく、0.2〜5モル%がさらに好ましい。
(3)ポリエステル樹脂の特性及び製造方法
本発明のポリエステル樹脂は、前記ジオール成分(A)と前記ジカルボン酸成分(B)とを重合成分とする(又はジオール成分(A)とジカルボン酸成分(B)とが重合した)ポリエステル樹脂であり、種々の特性(特に、光学的特性、熱的特性、加工性等)において優れている。具体的には、本発明のポリエステル樹脂は、特定のジオール成分(由来の構成単位)と特定のジカルボン酸成分(由来の構成単位)とを組み合わせて有することにより、高い耐熱性を有するとともに、シート又はフィルム状に形成した際に複屈折及び逆波長分散性のバランス(特に、高い面内位相差と低い面内位相差波長分散性)に優れる。このポリエステル樹脂を用いた位相差フィルムは、フルオレン骨格を有するジオール成分を用いたポリエステル樹脂のなかでも、複屈折を維持しつつも、逆波長分散性を特に改善することができる。また、本発明のポリエステル樹脂は、高い加工性も有し得るし、優れた重合効率も有し得る。
このような本発明のポリエステル樹脂において、ガラス転移温度(Tg)をより上昇させて加工性及びポリエステル樹脂の重合効率を維持しつつ耐熱性をより向上させるとともに、逆波長分散性を維持し、複屈折をより向上させる観点から、前記ジオール成分(A)を20〜80モル%(特に30〜70モル%、さらに40〜60モル%)、前記ジカルボン酸成分(B)を20〜80モル%(特に30〜70モル%、さらに40〜60モル%)含むことが好ましい。
本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、120〜200℃、好ましくは121〜180℃、より好ましくは122〜160℃、さらに好ましくは123〜150℃、特に好ましくは124〜140℃とし得る。これにより、本発明のポリエステル樹脂の耐熱性及び加工性をより向上させ得る。なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量計により測定するものとする。
本発明のポリエステル樹脂の重量平均分子量は、例えば、5000〜500000程度、好ましくは7000〜300000、より好ましくは8000〜200000、さらに好ましくは10000〜150000、特に好ましくは12000〜100000、最も好ましくは13000〜70000とし得る。なお、重量平均分子量は、GPC測定装置により測定するものとする。
本発明のポリエステル樹脂は、前記ジオール成分(A)と対応するジオールと、前記ジカルボン酸成分(B)と対応するジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体とを反応(重合又は縮合)させることにより製造できる。重合方法(製造方法)としては、使用するジオール、ジカルボン酸等の種類等に応じて適宜選択でき、慣用の方法、例えば、溶融重合法(ジオールとジカルボン酸とを溶融混合下で重合させる方法)、溶液重合法、界面重合法等が例示できる。なかでも、コストの観点から、溶融重合法が好ましい。
また、反応におけるジオール成分(A)における9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1)に対応するジオール、脂肪族ジオール成分(A2)に対応するジオール等や、ジカルボン酸成分(B)における脂環式ジカルボン酸成分(B1)に対応するジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体、非フルオレン芳香族ジカルボン酸成分(B2)に対応するジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体等の使用量(使用割合)は、各成分の項目において説明した範囲と同様の範囲から選択できるが、必要に応じて少なくとも1つの成分を過剰に用いて反応させてもよい。例えば、ジオール成分(A)において、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分(A1)に対応するジオールを脂肪族ジオール成分(A2)に対応するジオールの所望の割合よりも過剰に使用してもよい。また、反応は、重合方法に応じて、適宜溶媒の存在下又は非存在下で行い得る。
反応は、通常、触媒の存在下で行い得る。触媒としては、特に制限されず、ポリエステル樹脂の製造に利用される種々の触媒、例えば金属触媒等を使用し得る。金属触媒としては、例えば、ナトリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属;マンガン、亜鉛、カドミウム、鉛、コバルト等の遷移金属;アルミニウム等の周期表第13族金属;ゲルマニウム等の周期表第14族金属;アンチモン等の周期表第15族金属等を含む金属化合物が好適に使用し得る。金属化合物としては、例えば、上記した金属のアルコキシド;酢酸塩、プロピオン酸塩等の有機酸塩;ホウ酸塩、炭酸塩等の無機酸塩;金属酸化物等が例示できる。これらの触媒は単独で用いてもよいし、二種以上を組合せて用いてもよい。これら触媒の使用量は、例えば、ジカルボン酸成分(B)に対応するジカルボン酸の総量1モルに対して、1.0×10−6〜1.0×10−2モル、好ましくは1.0×10−3〜4.0×10−3モル程度とし得る。
本発明においては、上記のとおり、脂肪族ジオール成分(A2)が反応溶媒ともなり得るため、反応溶媒を用いなくてもよいが、反応溶媒を用いてもよい。反応溶媒としては、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等)、脂肪族ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン等)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン(DME)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、エステル類(酢酸エチル、プロピオン酸エチル等)、酸アミド類(ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセタミド(DMA)、N−メチルピロリドン(1−メチル−2−ピロリジノン)(NMP)、ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル等)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、反応は、必要に応じて、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤等)等の添加剤の存在下で行ってもよい。この際、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤等)等の添加剤の種類は、ポリエステル樹脂を合成する際に通常使用される添加剤を用いることができ、また、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤等)等の添加剤の量は、ポリエステル樹脂を合成する際の通常の使用量とすることができる。
反応は、通常、不活性ガス(窒素、ヘリウム、アルゴン等)雰囲気中で行うことができる。また、反応は、減圧下(例えば1×102〜1×104Pa程度)で行うこともできる。反応温度は、重合法に応じて適宜選択することができ、例えば、溶融重合法における反応温度は、150〜300℃、好ましくは180〜290℃、より好ましくは200〜280℃程度とし得る。反応時間は、本発明のポリエステル樹脂を得ることができる程度であれば特に制限されない。
(4)成形体(位相差フィルム)
本発明のポリエステル樹脂は、前記のように、高い耐熱性を有するとともに、シート又はフィルム状に形成した際に複屈折及び逆波長分散性のバランス(特に、高い面内位相差と低い面内位相差波長分散性)に優れている。また、本発明のポリエステル樹脂は、高い加工性も有し得る。特に、フルオレン骨格を有するジオール成分を用いたポリエステル樹脂のなかでも、複屈折を維持しつつも、逆波長分散性を特に改善することができる。このため、本発明のポリエステル樹脂は、特に位相差フィルム用途として有用である。本発明の位相差フィルムの形状は、シート状又はフィルム状であれば特に限定されない。
このような本発明の位相差フィルムは、本発明のポリエステル樹脂を用いて得られるものであれば特に制限されず、本発明のポリエステル樹脂のみから形成されていてもよいし、本発明のポリエステル樹脂を含む樹脂組成物から形成されていてもよい。このような樹脂組成物は、本発明のポリエステル樹脂以外に、各種添加剤(例えば、充填剤又は補強剤;染顔料等の着色剤;導電剤;難燃剤;可塑剤;滑剤;酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の安定剤;離型剤;帯電防止剤;分散剤;流動調整剤;レベリング剤;消泡剤;表面改質剤;シリコーンオイル、シリコーンゴム、各種プラスチック粉末、各種エンジニアリングプラスチック粉末等の低応力化剤;硫黄化合物、ポリシラン等の耐熱性改良剤;炭素材等)等の1種又は2種以上を含み得る。
本発明の位相差フィルムは、前記ポリエステル樹脂又は前記ポリエステル樹脂を含む樹脂生物を、慣用の成膜方法、キャスティング法(溶剤キャスト法)、溶融製膜法、カレンダー法等を用いてシート又はフィルム状物に成膜(又は成形)することにより製造することができる。なかでも、環境負荷抑制及び製造設備の腐食抑制の観点から、溶融製膜法が好ましい。
このようにして得られる本発明の位相差フィルムの厚みは、1〜1000μm、好ましくは5〜800μm、より好ましくは10〜600μm、さらに好ましくは100〜400μmとし得る。
本発明の位相差フィルムは延伸フィルムであってもよい。本発明のポリエステル樹脂は加工性が高いために容易に延伸フィルムを製造し得るし、本発明の位相差フィルムは複屈折(特に面内位相差)及び逆波長分散性(特に面内位相差波長分散性)の双方に優れるため、本発明の位相差フィルムを延伸フィルムとしても、複屈折及び逆波長分散性が高いレベルで維持できる。特に、本発明の位相差フィルムを延伸フィルムとすることにより、逆波長分散性(特に面内位相差波長分散性)を高いレベルで維持しつつ、複屈折(特に面内位相差)により優れた位相差フィルムを得ることができる。このような延伸フィルムとしては、一軸延伸フィルム及び二軸延伸フィルムのいずれであってもよい。
本発明の位相差フィルムを延伸フィルムとする場合の延伸温度は、所望の特性が得られるように適宜設定することが好ましく、本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度によって異なるが、ポリエステル樹脂のガラス転移温度〜ポリエステル樹脂のガラス転移温度+20℃、好ましくはポリエステル樹脂のガラス転移温度+3℃〜ポリエステル樹脂のガラス転移温度+15℃、より好ましくはポリエステル樹脂のガラス転移温度+4℃〜ポリエステル樹脂のガラス転移温度+12℃、さらに好ましくはポリエステル樹脂のガラス転移温度+5℃〜ポリエステル樹脂のガラス転移温度+10℃とし得る。これにより、本発明の位相差フィルムの複屈折及び逆波長分散性をより理想値に近づけることも可能である。
本発明の位相差フィルムを延伸フィルムとする場合の延伸倍率は、所望の特性が得られるように適宜設定することが好ましいが、具体的には、一軸延伸又は二軸延伸において各方向にそれぞれ1.1〜10倍、好ましくは1.2〜8倍、より好ましくは1.5〜6倍、さらに好ましくは1.7〜5倍、特に好ましくは2〜4倍とし得る。なお、二軸延伸を採用する場合は、等延伸(例えば縦横両方向に1.5〜5倍延伸)であってもよく、偏延伸(例えば縦方向に1.1〜4倍、横方向に2〜6倍延伸)であってもよい。また、一軸延伸の場合、縦延伸(例えば縦方向に2.5〜8倍延伸)であってもよく、横延伸(例えば横方向に1.2〜5倍延伸)であってもよい。これにより、本発明の位相差フィルムの複屈折及び逆波長分散性をより理想値に近づけることも可能である。
本発明の位相差フィルムが延伸フィルムの場合の厚みは、1〜500μm、好ましくは2〜400μm、より好ましくは3〜300μm、さらに好ましくは30〜200μmとし得る。
なお、このような延伸フィルムは、上記のように溶融製膜法等により成膜した位相差フィルム(又は未延伸位相差フィルム)に、延伸処理を施すことにより得ることができる。延伸方法は特に制限がなく、一軸延伸の場合、湿式延伸法又は乾式延伸法のいずれであってもよく、二軸延伸の場合、テンター法(フラット法ともいわれる)であってもチューブ法であってもよいが、延伸厚みの均一性に優れるテンター法が好ましい。
このようにして得られる本発明の位相差フィルムは、複屈折の指標の一つとして、波長550nmにて測定した場合の面内位相差(R550nm)を、厚み100μm換算で、50〜1000nm、好ましくは60〜800nm、より好ましくは80〜600nm、さらに好ましくは100〜500nm、特に好ましくは120〜400nmとし得る。この面内位相差は、リタデーション測定装置により測定するものとする。
このようにして得られる本発明の位相差フィルムは、逆波長分散性の指標の一つとして、波長450nmにて測定した場合の面内位相差と波長550nmにて測定した場合の面内位相差との比(R450nm/R550nm)を、0.65〜1.000、好ましくは0.70〜0.995、より好ましくは0.75〜0.990、さらに好ましくは0.80〜0.980、特に好ましくは0.82〜0.975とし得る。この面内位相差分散性は、リタデーション測定装置により測定するものとする。
(5)円偏光板、楕円偏光板及び画像表示装置
本発明の位相差フィルムは、必要に応じて粘着層、接着層等を介して偏光板と貼り合わせて円偏光板又は楕円偏光板としたり、位相差フィルム上に何らかの材料をコーティングして湿熱耐久性を向上させたり耐溶剤性を向上させたりすることも可能である。この場合、従来の位相差フィルムとは異なり、本発明の位相差フィルムを積層フィルムとする必要はなく、1枚のみで使用しつつも、広帯域の光に対して、直線偏光を円偏光に変換したり、円偏光を直線偏光に変換したりすることができる。この際、粘着層、接着層等は、従来から使用されている材料を用いて、従来から公知の方法により形成することができる。
また、本発明の位相差フィルムを、有機EL表示装置等の画像表示装置に用いることもできる。この画像表示装置は、本発明の位相差フィルム(特に上記した円偏光板若しくは楕円偏光板)を備えること以外の構成は特に限定されず、電源、バックライト部、操作部等の部材を、必要に応じて適宜備え得る。本発明の画像表示装置においては、本発明の位相差フィルムを、円偏光を直線偏光に変換する素子として使用すれば、広帯域で良好な直線偏光が得られ、画質に優れた有機EL装置等の画像表示装置を得ることができる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、ポリエステル樹脂又は位相差フィルムの特性の測定及び評価は以下の方法によって行った。
[ガラス転移温度]
示差走査熱量計(セイコーインスツル(株)製、DSC 6220)を用い、アルミパンに試料を入れ、30〜220℃の範囲でガラス転移温度(Tg)を測定した。
[複屈折(面内位相差;R550nm)]
大塚電子(株)製のリタデーション測定装置RETS−100を用いて、550nmの単色光で複屈折(面内位相差:R550nm)を測定した。
具体的には、各実施例のポリエステル樹脂を160〜240℃でプレス成形し、厚み100〜400μmのフィルムを得た後、15×50mmの短冊状に切り出すことにより、測定用試験片を得た。その後、ガラス転移温度(Tg)+5℃、ガラス転移温度(Tg)+6℃、ガラス転移温度(Tg)+7℃、又はガラス転移温度(Tg)+10℃の温度で測定用試験片を25mm/分で2倍、2.5倍、3倍又は3.75倍延伸し、本発明の位相差フィルム(延伸フィルム)を得た。これらのフィルムの複屈折(リタデーション)を上記の装置を使用して測定し、膜厚100μm換算とすることにより、面内位相差(R550nm)を測定した。
[逆波長分散性(面内位相差波長分散性;R450nm/R550nm)]
測定波長を450nmとすること以外は上記面内位相差(R550nm)と同様に、面内位相差450nmを測定した。その後、得られたR550nm及びR450nmの値から、逆波長分散性(面内位相差波長分散性;R450nm/R550nm)を算出した。
実施例1
反応器に、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)3−フェニルフェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、以下、BOPPEFという)0.80モル、エチレングリコール(以下、EGという)2.20モル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(以下、CHDAという)0.85モル、テレフタル酸(以下、TPAという)0.15モル、エステル交換触媒として酢酸マンガン・4水和物2×10−4モル及び酢酸カルシウム・1水和物8×10−4モルを加え撹拌しながら徐々に加熱溶融し、230℃まで昇温した後、トリメチルホスフェート1.4×10−3モル、酸化ゲルマニウム2.0×10−3モルを加え、270℃、0.13kPa以下に到達するまで徐々に昇温、減圧しながらエチレングリコールを除去した。所定の撹拌トルクに到達後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂のペレットを得た。なお、2モルのEGは重合中に系外へと排出するため、ポリエステル樹脂を構成するEG由来の構成単位の含有量は0.2モルである。
得られたペレットを、NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジオール成分の80モル%がBOPPEF由来、20モル%がEG由来であった。また、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸成分の85モル%がCHDA由来であり、15モル%がTPA由来であった。
得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は139℃、重量平均分子量は29700であった。このポリエステル樹脂について、ガラス転移温度(Tg)+5℃の温度で延伸した場合の面内位相差(R550nm)は2.5倍延伸で86nm、3倍延伸で76nmであった。このポリエステル樹脂について、ガラス転移温度(Tg)+6℃の温度で2.5倍延伸した場合の面内位相差(R550nm)は64nmであった。このポリエステル樹脂について、ガラス転移温度(Tg)+7℃の温度で延伸した場合の面内位相差(R550nm)は2.5倍延伸で99nm、3倍延伸で65nmであった。このポリエステル樹脂について、ガラス転移温度(Tg)+10℃の温度で延伸した場合の面内位相差(R550nm)は2倍延伸で58nm、3倍延伸で88nmであった。このポリエステル樹脂について、ガラス転移温度(Tg)+5℃の温度で延伸した場合の面内位相差波長分散性(R450nm/R550nm)は2.5倍延伸で0.766、3倍延伸で0.778であった。このポリエステル樹脂について、ガラス転移温度(Tg)+6℃の温度で2.5倍延伸した場合の面内位相差波長分散性(R450nm/R550nm)は0.543であった。このポリエステル樹脂について、ガラス転移温度(Tg)+7℃の温度で延伸した場合の面内位相差波長分散性(R450nm/R550nm)は2.5倍延伸で0.902、3倍延伸で0.692であった。このポリエステル樹脂について、ガラス転移温度(Tg)+10℃の温度で延伸した場合の面内位相差波長分散性(R450nm/R550nm)は2倍延伸で0.891、3倍延伸で0.893であった。
実施例2
BOPPEF及びEGの添加量(モル数)を、BOPPEF0.70モル、EG2.30モル(ポリエステル樹脂中のEGの量は0.30モル)に変更する他は実施例1と同様に、ポリエステル樹脂のペレットを得た。
得られたペレットを、NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジオール成分の70モル%がBOPPEF由来、30モル%がEG由来であった。また、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸成分の85モル%がCHDA由来であり、15モル%がTPA由来であった。
得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は133℃、重量平均分子量は45000であった。このポリエステル樹脂について、ガラス転移温度(Tg)+10℃の温度で延伸した場合の面内位相差(R550nm)は2倍延伸で64nm、3倍延伸で126nm、3.75倍延伸で172nmであった。このポリエステル樹脂について、ガラス転移温度(Tg)+10℃の温度で延伸した場合の面内位相差波長分散性(R450nm/R550nm)は2倍延伸で0.924、3倍延伸で0.940、3.75倍延伸で0.941であった。
実施例3
BOPPEF及びEGの添加量(モル数)を、BOPPEF0.60モル、EG2.40モル(ポリエステル樹脂中のEGの量は0.40モル)に変更する他は実施例1と同様に、ポリエステル樹脂のペレットを得た。
得られたペレットを、NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジオール成分の60モル%がBOPPEF由来、40モル%がEG由来であった。また、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸成分の85モル%がCHDA由来であり、15モル%がTPA由来であった。
得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は128℃、重量平均分子量は45200であった。このポリエステル樹脂について、ガラス転移温度(Tg)+10℃の温度で2倍延伸した場合の面内位相差(R550nm)は96であった。このポリエステル樹脂について、ガラス転移温度(Tg)+10℃の温度で2倍延伸した場合の面内位相差波長分散性(R450nm/R550nm)は0.955であった。
結果を表1及び2に示す。