JP2015186474A - 細胞培養方法、細胞培養部材、及び細胞培養装置 - Google Patents
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Abstract
Description
クローン細胞を得るための細胞培養方法として、例えば、特許文献1には、単一分散された細胞を培養液の層流条件が調整されたマイクロ流路内で培養する方法が開示されている。
また、特許文献2には、単一分散されたヒト多能性幹細胞を、単一細胞の状態で、且つ分化多能性を保持したまま培養する細胞培養方法であって、適用する培養基材の細胞外基質のコーティングが、ヒトラミニンα5β1γ1のE8フラグメントまたはヒトラミニンα3β3γ2のE8フラグメントである発明が開示されている。
上記特許文献1の技術は、培地を層流条件で送液することにより、単一分散培養によるクローン化が可能であるという知見に基づくものである。
一方、上記特許文献2の技術は、底面積が小さいwellに単一分散した細胞を1×103個〜5×104個も播種していることから、播種後に細胞同士の接着が起こり、2以上の細胞となった状態のもののみが増殖している可能性がある。
[1] 内壁にラミニンを含むコーティング層を有するマイクロ流路の前記コーティング層上に単一細胞を単一に播種する播種工程と、前記播種工程で単一細胞が単一に播種された前記マイクロ流路内に培養液を循環させる循環工程と、を有する細胞培養方法。
本発明の1つの態様は、単一細胞を播種する内壁にラミニンを含むコーティング層を有するマイクロ流路の前記コーティング層上に単一細胞を単一に播種する播種工程と、前記播種工程で単一細胞が単一に播種された前記マイクロ流路内に培養液を循環させる循環工程と、を有する細胞培養方法である。
本発明の細胞培養方法によれば、播種工程と循環工程とを経ることにより、単一細胞を単一の状態で培養し、そのクローン細胞を得ることができる。
以下、各工程について述べる。
播種工程においては、内壁にラミニンを含むコーティング層を有するマイクロ流路のコーティング層上に、単一細胞を単一に播種する。
ここで、「単一細胞」とは、他の細胞と接触していない細胞であり、具体的には、カドヘリン等の細胞外マトリックスを介して2個以上の細胞が接合されていない、単離された細胞を示す。
また、「単一の状態に単一細胞を播種する」または「単一細胞を単一に播種する」とは、単一細胞を、他の細胞と接触しておらず、且つ他の細胞と接触し難い状態で播種することを示す。
隔離構造の詳細については、細胞培養部材の項において説明する。
溶媒としては、例えば、培養液が挙げられる。但し、培養液は、後述する循環工程において循環させる培養液と同じものが好ましい。
具体的には、単一細胞分散液中の細胞の濃度は、例えば、2.5×102細胞/ml以上1.0×104細胞/ml以下が好ましく、5.0×102細胞/ml以上5.0×103細胞/ml以下がより好ましく、5.0×102細胞/mlが特に好ましい。
播種する単一細胞同士の間隔は、単一細胞分散液の細胞濃度により調整できる。
薬剤としては、プロテアーゼ活性を有する酵素又はEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含有する試薬が挙げられ、試薬として具体的には、例えば、トリプシン/EDTA、Accutase(登録商標、Bioneer社製)、及びAccumax(登録商標、Bioneer社製)が挙げられるが、これらに限定されない。
なお、本発明の細胞培養方法で培養する細胞については後述する。
ラミニンは、基底膜の主要構成成分である公知の糖タンパク質であり、ラミニンとして同定されているものであれば用いることができる。また、ラミニンは、必ずしも精製されている必要はなく、ラミニンを主要構成成分として含有する基底膜抽出物等を用いてもよい。
また、ラミニンは、例えば、ヒト由来、マウス由来、ラット由来等のいずれを用いてもよいが、これらの中でもヒト由来のヒトラミニンが好ましい。
ヒトラミニンとしては、ヒトラミニン521、ヒトラミニン511、ヒトラミニン522、ヒトラミニン523が挙げられ、これらの中でもヒトラミニン521、ヒトラミニン511が好ましく、ヒトラミニン521が特に好ましい。
コーティング層の詳細については、後述する。
つまり、単一状態に播種する単一細胞は、ラミニンを含む培地で培養された細胞群に対して、上述の単一細胞分散液を調製する方法により分離された単一細胞であることが好ましい。
ラミニンとしては、例えば、単一細胞を単一に播種するコーティング層に含まれるラミニンと同じ種類のラミニンが挙げられる。
なお、継代培養用の培地に含まれるラミニンと、マイクロ流路のコーティング層のラミニンとは、同じ種類であることが好ましい。
つまり、単一状態に播種する単一細胞は、ラミニンを含む培地で少なくとも2回以上連続して継代培養された細胞群に対して、上述の単一細胞分散液を調製する方法により分離された単一細胞であることが好ましい。
ここで、本発明において使用される「多能性細胞」は、複数の種類の細胞に分化する能力を有する細胞を意味する。例えば、多能性細胞は、(A)胚性幹細胞(ES細胞)、(B)***幹細胞(GS細胞)、(C)胚性生殖細胞(EG細胞)、(D)人工多能性幹細胞(iPS細胞)、(E)核移植により得られたクローン胚由来のES細胞、および(F)培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Multilineage−differentiating Stress Enduring cells、Muse細胞)を含むが、これらに限定されない。多能性細胞は、種々の生物に由来するものであってよい。好ましくは、ヒトを含む哺乳類動物由来の多能性細胞であり、より好ましくは、マウス由来の多能性細胞や霊長類由来の多能性細胞である。特に好ましくは、ヒト由来の多能性細胞である。
以下、(A)〜(F)の細胞について説明する。
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物の初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。ES細胞は、受精卵の8細胞期、桑実胚後の胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚由来の幹細胞であり、成体を構成するあらゆる細胞に分化する能力、いわゆる分化多能性と、自己複製による増殖能とを有している。ES細胞は、マウスで1981年に発見され (M.J. Evans and M.H. Kaufman(1981), Nature 292:154−156)、その後、ヒト、サルなどの霊長類でもES細胞株が樹立された (J.A. Thomson et al. (1998), Science 282:1145−1147; J.A. Thomson et al. (1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844−7848;J.A. Thomson et al. (1996), Biol.Reprod., 55:254−259; J.A. Thomson and V.S. Marshall (1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133−165)。
***幹細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、***形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(M. Kanatsu−Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612−616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001−1012)。神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line−derived neurotrophic factor (GDNF))を含む培養液で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、***幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41〜46頁,羊土社(東京、日本))。
胚性生殖細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞であり、LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立しうる(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841−847;J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550−551)。
人工多能性幹(iPS)細胞は、特定の初期化因子を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663−676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861−872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917−1920; Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101−106 (2008);国際公開WO 2007/069666)。初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon−cording RNAまたはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon−coding RNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c−Myc、N−Myc、L−Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15−2、Tcl1、beta−catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO 2010/111409、WO 2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D,et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795−797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 2: 525−528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467−2474、Huangfu D, et al. (2008), Nat Biotechnol. 26:1269−1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3, 568−574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475−479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132−135、Feng B, et al. (2009), Nat Cell Biol. 11:197−203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotech., 27:459−461、Lyssiotis CA, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912−8917、Kim JB, et al. (2009), Nature. 461:649−643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491−503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167−74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096−100、MaliP, et al. (2010), Stem Cells. 28:713−720、Maekawa M, et al. (2011), Nature. 474:225−9.に記載の組み合わせが例示される。
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培養液と培養液交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm2あたり約5×103〜約5×106細胞の範囲である。
nt ES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している (T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740−743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932−936; J. Byrne et al.(2007), Nature, 450:497−502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がnt ES(nuclear transfer ES)細胞である。nt ES細胞の作製のためには、核移植技術(J.B. Cibelli et al. (1998), Nature Biotechnol., 16:642−646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊), 47〜52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化することができる。
Muse細胞は、WO2011/007900に記載された方法にて製造された多能性幹細胞であり、詳細には、線維芽細胞または骨髄間質細胞を長時間トリプシン処理、好ましくは8時間または16時間トリプシン処理した後、浮遊培養することで得られる多能性を有した細胞であり、SSEA−3およびCD105が陽性である。
循環工程においては、上述の播種工程で単一細胞が単一に播種されたマイクロ流路内に、培養液を循環させる。
しかし、本発明の細胞培養方法によれば、アポトーシス阻害剤を適用せずに、単一状態に播種された単一細胞を培養することができる。
循環させる培養液として馴化培養液を用いることにより、細胞が分泌した物質(例えば、増殖に必要な物質)が、分泌した細胞以外の細胞に作用する現象(パラクライン)が生じ易くなるため、単一の状態に播種された単一細胞が増殖し易くなると考えられる。
この工程を有することにより、単一に播種された単一細胞の周辺に培養液が留まる結果、細胞が分泌した物質(例えば、増殖に必要な物質)が、分泌した細胞自身に作用する現象(オートクライン)が生じ易くなり、単一の状態に播種された単一細胞が増殖し易くなると考えられる。
さらに、維持培養のために、低酸素状態の状況下に設置してもよい。ここで、低酸素状態とは、酸素分圧が、1%以上10%以下の状態であり、好ましくは、5%である。
本発明の細胞培養装置の一例である細胞培養装置10は、図1に示すように、例えば、後述する細胞培養部材12と、細胞培養部材12のマイクロ流路内に培養液を循環させる循環装置と、を備える。
上述した本発明の細胞培養方法は、例えば、図1に示す細胞培養装置10を適用することにより実現する。
以下、本発明の細胞培養装置について、図1を用いて詳細に説明する。
循環装置は、例えば、リザーバ(貯蔵部)14、循環ポンプ(送液手段)16、圧力均一化機構(圧力均一化手段)18、エアトラップ(気泡除去手段)20、加圧機構(加圧手段)22を備えており、各部にはチューブ24A〜24Fが接続されて循環流路26を構成している。なお、循環装置は、細胞培養部材12に形成された6つのチャネルのうち、2つのチャネルを用いて培養を行うように、循環ポンプ16、圧力均一化機構18、エアトラップ20、及び加圧機構22が2つずつ設けられているが、これに限らず、使用するチャネルの数に応じて、さらに多くの循環流路26を設けてもよい。また、1つの循環ポンプ16に複数のチューブ24を接続してもよい。
細胞培養部材12は、単一細胞を播種する内壁にラミニンを含むコーティング層を有するマイクロ流路を含む。
以下、具体的に説明する。
上述した本発明の細胞培養方法は、本発明の細胞培養部材を適用することが好ましい。
本発明の細胞培養部材12の一例を、図2〜図5を用いて説明する。但し、本発明の細胞培養部材12は、図2〜図5に示すものに限られない。
スリット32Bの幅は、例えば、0.1mm以上1mm以下が好ましく、0.2mm以上0.5mm以下がより好ましい。また、スリット32Bの深さは、0.1mm以上1mm以下がより好ましく、0.2mm以上0.5mm以下が特に好ましい。スリット32Bの長さは、0.5cm以上10cm以下が好ましく、1cm以上2cm以下がより好ましい。
つまり、図2、図3の細胞培養部材12は、マイクロ流路32B内に、単一細胞を他の細胞から隔離する隔離構造として、ポケット状の窪みを有する。なお、隔離孔33Aの数は、5つに限られない。
単一細胞は、隔離孔33Aが形成する窪みの内部に播種することにより、他の細胞から隔離された単一の状態で培養し易くなる。
また、隔離孔33Aの深さは、0.5mm以上2mm以下が好ましく、0.5mm以上1mm以下がより好ましい。
隔離孔33A同士の中心間距離は、0.1mm以上20mm以下が好ましく、0.2mm以上10mm以下がより好ましい。
ガラス板34の材質は、第1のPDMS板32及び第2のPDMS板33と比較して、コーティング層を形成し易い材質が好ましい。
つまり、マイクロ流路32Bは、第1のPDMS板32及び第2のPDMS板33の表面で構成された主流路に、ガラス板34を底面とした隔離孔33Aで構成された窪み(孔)を有する。
マイクロ流路32Bは、ラミニンを含むコーティング層34Aを有する。具体的には、例えば、主に、マイクロ流路32Bの内壁のうち、隔離孔33Aにより露出された、底面となるガラス板34は、ラミニンを含むコーティング層34Aにより選択的に被覆されている。
ラミニンを含むコーティング層は、ガラス板34の表面を処理して親水性特性を付与することにより、選択的に被覆し易くなる。すなわち、底面となるガラス板34の表面に親水性特性を付与した後に、マイクロ流路32B内にラミニンを含むコーティング層形成用溶液を注入することを含む方法により、コーティング層を、隔離孔33Aにより露出された、底面となるガラス板34に形成してもよい。
PBSまたは培地でラミニンなどのコーティング剤を希釈して調製する。
隔離構造は、図3に示す構造に限られず、その他の隔離構造としては、例えば、マイクロ流路32B中に一対の隔壁33Bを有する構造(図4参照)、ラミニンを含むコーティング層34Aを平坦面に部分的に設けた構造(以下、マイクロ流路32Bに部分的に設けたコーティング層を、「部分コーティング層34B」と称する場合がある。図5参照)とする構造、が挙げられる。
隔離構造が、マイクロ流路32Bに隔離孔33Aを有する構造、又は、マイクロ流路32Bに隔壁33Bを有する構造の場合、単一に播種された単一細胞の周辺の空間が狭まり、且つ、単一細胞の周辺に新たな培養液が流入し難くなるので、細胞が分泌した物質(例えば、増殖に必要な物質)が、分泌した単一細胞自身に作用する現象(オートクライン)が生じ易くなり、細胞が増殖し易くなると考えられる。
インキュベーター102は、細胞の培養に適した温度に維持できるものが好ましい。また、インキュベーター102としてCO2インキュベーター102を用いて、4%以上6%以下のCO2雰囲気下で行うことが好ましい。
さらに、維持培養のために、低酸素状態の状況下に設置してもよい。ここで、低酸素状態とは、酸素分圧が、1%以上10%以下の状態であり、好ましくは、5%である。
ここで、多能性細胞の変化とは、例えば、内胚葉細胞、外胚葉細胞、中胚葉細胞、脊索中胚葉、沿軸中胚葉、中間中胚葉細胞、側板中胚葉、神経細胞、グリア細胞、造血細胞、肝細胞、膵β細胞、腎前駆細胞、内皮細胞、周皮細胞、上皮細胞、骨芽細胞、筋芽細胞、軟骨細胞など特定の細胞への変化が挙げられる。また、候補薬剤は、各細胞への分化誘導剤として選択することができる。
なお、本発明の細胞培養部材を用いた場合、マイクロ流路内で培養するため、候補薬剤の量を少量にすることができる。
(単一細胞分散液1)
−iPS細胞の調製−
JCRB細胞バンクにより提供されたヒト胎児肺線維芽細胞(TIG1)を用いて、OCT3/4、SOX2、KLF4及びc−MYCをレトロウイルスにより導入し、hiPSCs株を誘導した。マトリゲル被覆ディッシュ上、MEF(マウス胚性繊維芽細胞)馴化hES培地(20%ノックアウト血清置換(Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)、L−グルタミン、非必須アミノ酸、2−メルカプトエタノール及び10ng/ml bFGF(Peprotech、Rocky Hill、NJ、USA)を補充したDMEM/F12)中で、TIG1−iPSCを培養した。
このマトリゲルを含む培地で継代培養されたTIG1−iPSCを、0.25%トリプシン(Gibco)/0.04%EDTAにより解離させて回収し、2回の洗浄後、5.0×102細胞/mlとなるように500μlの新鮮な培養液(MEFコンディションドメディウム、mTeSR1(modified Tenneille Serum Replacer 1))中に懸濁し、単一細胞分散液1を得た。
−各部材の準備−
・樹脂板30
樹脂板30は、ポリカーボネート(PC)で作製した。樹脂板30には、内径1mmの第1の孔30A及び第2の孔30Bを設けた。
まず、SU8リソグラフィ法により作製された、マイクロ流路となる6つのスリット(幅0.5mm、長さ20mm、深さ0.5mm)を形成させる鋳型へ熱硬化性のPDMS(Slipot184、Toray−DawCorning、Japan)を0.5mmの厚さになるように注ぎ、80℃で4時間、乾燥器中で硬化させた。その後、硬化したPDMSを鋳型から取り出して6つの流路が形成された第1のPDMS板32を得た。
第2のPDMS板33は、第1のPDMS板32のマイクロ流路となる6つのスリットのかわりに、内径1mm、深さ0.5mmの隔離孔33Aを作製した以外は、第1のPDMS板32と同様にして作製した。
第2のPDMS板33の隔離孔33Aは、第1のPDMS板32のマイクロ流路となる溝の長手方向に沿って、スリット1つにつき5個設けた。孔の中心と、この孔に隣接する孔の中心までの距離は、2.5mmとなるようにした。
なお、第2のPDMS板33に設けられた隔離孔33Aは、合計で30個であった。
ガラス板34は、SU8(SU−8 2010、Microchem社製)を塗布してSU8層を設けたガラス板とした。SU8層は、ガラス板へSU8を塗布後、紫外線を照射し硬化させ作製した。ガラス板には、第1及び第2のPDMS層と接合する際のXY軸を合わせるための十字印をSU8リトグラフィにより付した。次いで、SU8層の表面を酸素プラズマで処理することで、親水性特性を付加した。
図2に示す細胞培養部材12を、以下の方法で得た。
樹脂板30、マイクロ流路を形成するスリット状の溝を有する第1のPDMS板32、隔離構造(上記(1)のマイクロ流路中に隔離孔33Aを有する構造)を形成する第2のPDMS板33、及びコーティング層を有するガラス板34を、上から順番に重ねて積層体を形成した。そして、上記積層体のガラス板の下方に下クランプを配置した状態で、樹脂プレートの上方から上クランプを当てて、上クランプと下クランプとで、樹脂板30、第1のPDMS板32、第2のPDMS板33、及びガラス板34を挟み込んだ。
この状態で、上クランプの形成されたボルト孔と下クランプに形成されたボルト孔にボルトを挿通して互いを締結し、コーティング層未形成の細胞培養部材12を作製した。
まず、ヒトラミニン521を含むコーティング層形成用溶液を、以下のようにして作製した。
PBSでヒトラミニン521を希釈して終濃度 20 μg/mLとなるよう調製した。
次に、上記コーティング層形成用溶液を、上記で得た細胞培養部材12の第1の孔30A(注入口)から注入し、マイクロ流路32B内の、隔離孔33Aにより露出したガラス板34上を被覆するようにヒトラミニン521を含むコーティング層を形成した。
位相差顕微鏡で確認したところ、コーティング層が、マイクロ流路32B内の隔離孔33Aにより露出した領域、つまりガラス板34上に形成されていた。
−播種工程−
ヒトラミニン521を含むコーティング層が形成された細胞培養部材の第1の孔30A(注入口)から、上記単一細胞分散液1を、シリンジを用いて注入し、単一細胞を単一に播種した。単一細胞分散液1は、第1のPDMS板32の溝と、第2のPDMS板33に設けられた孔とを満たす量を注入した。
マイクロ流路内に播種された単一細胞は、165個であった。
注入後、単一細胞が第2のPDMS板33に設けられた隔離孔33Aに1個ずつ入っていることを、位相差顕微鏡を用いて確認した。
その後、単一細胞が単一に播種された細胞培養部材を、温度が37℃に維持されたCO2インキュベーター102内に、24時間静置した。
静置した上記細胞培養部材を、図1に示す、細胞培養装置10に配置した。
連結用のチューブには、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)管TUF−100シリーズAWG−30(Chukoh Chemical Industries,Japan社製)を使用した。
リザーバ14には、単一細胞分散液1の培養液と同じ種類の培養液であって、TIG1−iPSCを培養して馴化した馴化培養液を入れた。
−培養の確認−
培養の確認を、上記の細胞培養装置を用いて単一に播種した単一細胞を、位相差顕微鏡を用いて観察することにより行った。観察は、循環を開始する直前(0日目)、培養から2日目、培養から6日目、培養から8日目、培養から13日目、の計5回行った。細胞数は、0日目で1個、2日目で1個、6日目で8個、8日目で28個、13日目で85個であった。観察の結果を図6に示す。
観察した結果、50細胞以上まで増殖した単一細胞は、2例であった(表1中の50細胞以上の増殖例(B))。また、表1中の、播種された単一細胞数(A)、及び50細胞以上の増殖例(B)から、平均増殖率(B/A)を求めた。結果を表1に示す。
マイクロ流路内での培養14日目のTIG1−iPSC(図7A参照)のコロニーからTIG1−iPSCを取り、マトリゲルをコートしたプレート上で通常の培養を行い(図7B参照)、1回目の継代培養を行ったTIG1−iPSC(図7C参照)を回収して、多能性が維持されているか、確認した。
多能性は、免疫染色法により確認した。各方法とその結果を、以下に示す。
回収した細胞(TIG1−iPSC)を4% PFA(パラホルムアルデヒド)/PBS(リン酸緩衝生理食塩水)を用いて、室温(25℃)で10分間固定し、PBST(PBS中、 0.1% Triton X−100)で洗浄後、4℃でブロッキング溶液(PBST中、3% BSAおよび2% スキムミルク(DIFCO,USA))中で一晩プレ処理した。次いで、一次抗体;抗OCT4(1:50, Santa Cruz Biotechnology, USA)、抗SOX2(1:500, Abcam, Cambridge, UK)または抗NANOG(1:200, Abcam, Cambridge, UK)と免疫反応させた後に、蛍光二次抗体(1:500, Invitrogen)により染色した。
さらに、DAPI(4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)を用いて核を対比染色し、SlowFade light褪色防止キット(Invitrogen)を用いて光褪色を防止した後、IX70倒立顕微鏡を用いて蛍光画像を得た。
その結果、シャーレ内で培養したTIG1−iPSについても、試験例1のマイクロ流路内での培養14日目のTIG1−iPSと同様に、OCT4及びNANOGの多能性マーカータンパク質の発現が確認された。また、DAPI染色の結果、核が確認された。
フィーダー細胞については、DAPI染色の結果、核は確認されたが、OCT4及びNANOGの多能性マーカータンパク質の発現は確認されなかった。
調製したTIG1−iPSCを、マトリゲル被覆を用いてマトリゲルを含む培地で培養するのではなく、ヒトラミニン521被覆を用いて、ヒトラミニン521を含む培地で培養を1回行った以外は、試験例1と同様にしてTIG1−iPSCを得た。
この培養により得られたTIG1−iPSCを、単一細胞分散液1と同様に処理して細胞群を解離し、単一細胞分散液2を得た。単一細胞分散液2の細胞濃度は、5×102細胞/mlであった。
この単一細胞分散液2を、試験例1と同様の細胞培養部材に注入して播種し、試験例1と同様に培養した。
なお、単一細胞分散液2を注入後、単一細胞が第2のPDMS板33に設けられた孔に1個ずつ入っていることを、位相差顕微鏡を用いて確認した。
また、試験例2においてマイクロ流路内に播種された単一細胞は、262個であった。
試験例1と同様にして、培養された単一細胞の観察を、位相差顕微鏡を用いて行ったところ、50細胞以上まで増殖した単一細胞は、10例であった。また、表1中の、播種された単一細胞数(A)、及び50細胞以上の増殖例(B)から、平均増殖率(B/A)を求めた。結果を表1に示す。
コーティング層形成溶液として、ヒトラミニン521ではなくマトリゲルを含むコーティング層形成溶液を用いたこと以外は、試験例1で用いた細胞培養部材と同様にして細胞培養部材を作製した。
マトリゲルを含むコーティング層形成溶液は、以下のようにして作製した。
マトリゲルを培養液にて50倍に希釈して、マトリゲルコ―ティング溶液を作製した。
その後、試験例1と同様にして、上記細胞培養部材に単一細胞分散液1を注入して播種し、試験例1と同様に培養した。
なお、単一細胞分散液1を注入後、単一細胞が第2のPDMS板33に設けられた孔に1個ずつ入っていることを、位相差顕微鏡を用いて確認した。
また、比較試験例1においてマイクロ流路内に播種された単一細胞は、783個であった。
試験例1と同様にして、培養された単一細胞の観察を、位相差顕微鏡を用いて行ったところ、50細胞以上まで増殖した単一細胞は、0例であった。また、表1中の、播種された単一細胞数(A)、及び50細胞以上の増殖例(B)から、平均増殖率(B/A)を求めた。結果を表1に示す。
また、単一細胞分散液用の細胞の継代培養用培地には、マイクロ流路のコーティング層と同様に、ヒトラミニン521が含まれている方がよいことが明らかとなった。
12 細胞培養部材
14 リザーバ(貯蔵部)
16 循環ポンプ(送液手段)
18 圧力均一化機構(圧力均一化手段)
20 エアトラップ(気泡除去手段)
22 加圧機構(加圧手段)
24A〜24F チューブ(循環流路)
26 循環流路
30 樹脂プレート
30A 第1の孔
30B 第2の孔
32 第1のPDMS層
32B スリット(マイクロ流路)
33 第2のPDMS層
33A 隔離孔
33B 隔壁
34 ガラス板
34A コーティング層
34B 部分コーティング層
36 上クランプ
36A ボルト孔
38 下クランプ
38A ボルト孔
40 ボルト
102 インキュベーター(恒温器)
Claims (10)
- 内壁にラミニンを含むコーティング層を有するマイクロ流路の前記コーティング層上に単一細胞を単一に播種する播種工程と、
前記播種工程で単一細胞が単一に播種された前記マイクロ流路内に培養液を循環させる循環工程と、
を有する細胞培養方法。 - 前記播種工程において、播種された単一細胞が、ラミニンを含む培地で継代培養されたものである請求項1に記載の細胞培養方法。
- 前記継代培養の回数が2回以上である請求項2に記載の細胞培養方法。
- 前記培養液が、馴化培養液である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
- 前記循環工程において、前記播種工程で単一細胞が単一に播種された前記マイクロ流路内を、前記培養液で満たした状態で維持した後、前記培養液の循環を開始する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
- 前記ラミニンが、ヒトラミニンである請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
- 前記マイクロ流路内に、単一細胞を他の細胞から隔離する隔離構造を有する請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
- 単一細胞を播種する内壁にラミニンを含むコーティング層を有するマイクロ流路を含む細胞培養部材。
- 前記マイクロ流路内に、単一細胞を他の細胞から隔離する隔離構造を有する請求項8に記載の細胞培養部材。
- 請求項8又は請求項9に記載の細胞培養部材と、
前記細胞培養部材の前記マイクロ流路内に培養液を循環させる循環装置と、
を備える細胞培養装置。
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