JP2015167822A - 体内留置物 - Google Patents

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Abstract

【課題】抗血栓維持性に優れる体内留置物、特に小口径の人工血管を提供する。【解決手段】少なくとも表面が延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)からなる基材層と、該基材層の少なくとも一部に担持された分子内に複数のチオール基を有する化合物と、該分子内に複数のチオール基を有する化合物を覆う、反応性官能基を分子内に有する単量体と(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体からなる生体適合性層と、を備え、該チオール基を有する化合物がイオン化ガスプラズマを照射することにより基材層に担持されており、かつ該チオール基を有する化合物と、該共重合体とを反応させることで生体適合性層が基材層に結合している、抗血栓性を有する体内留置物。【選択図】なし

Description

本発明は、体内留置物に関する。詳細には、本発明は、体内留置物、特に比較的小口径の抗血栓性人工血管またはステントグラフトに関する。
従来、人工血管(代用血管)としては、ポリエステル繊維の織編物をチューブ状にしたものや、ポリテトラフルオロエチレン製のチューブ状成形物に特殊な延伸加工を施して多孔質としたものが知られている。これらの人工血管は、その構成材料自体に抗血栓性はないが、生体内に移植後、その細孔に天然の抗血栓性材料である血管内皮細胞が侵入、増殖して、血管内壁に抗血栓性の膜を形成する内皮細胞播種型人工血管である。そして、これらの内皮細胞播種型人工血管は、いずれも内径が6mmを超えるものであった。
ところで、近年、冠動脈バイパス手術や下肢の血行再建のため等に用いられる、内径が比較的小さい人工血管の研究、開発が進んでいる。しかしながら、上述したような内皮細胞播種型人工血管では、内径を小さく(例えば、4mm以下に)すると、抗血栓性の内膜の成長により血管の狭窄または閉塞が生じ、開存性が著しく低下するという問題がある。
このため、小口径の人工血管の抗血栓性およびその維持性を向上することを目的として、親水性線状重合体と疎水性線状重合体とをブロック重合してなるブロック共重合体で構成される内層、柔軟性を有する材料で構成される中間層および組織細胞の侵入可能な多孔質材で構成される外層を積層してなる人工血管が報告された(特許文献1)。特許文献1に記載の人工血管は、内層に抗血栓性に優れるブロックポリマーを使用し、外層に組織細胞が容易に侵入し、生体内の組織細胞との適合性、密着性、安定性に優れ、治癒効果が高い多孔質材を使用し、当該内層及び外層の間に柔軟性のある中間層を使用する。このため、特許文献1に記載の人工血管は、小口径であっても、優れた抗血栓性を長時間持続して得られ、また、生体適合性にも優れるため、開存性が従来の人工血管に比べ大幅に向上できる。
特開平5−269197号公報
上記特許文献1に記載の人工血管は、ポリエチレンテレフタレート繊維の編物をチューブ状物(外層)を、中間層形成用ポリマー溶液(ポリウレタン溶液)を繰り返し塗布して中間層を形成した後、さらに内層形成用ポリマー溶液(HEMA61%−St39%溶液)を繰り返し塗布して内層を形成して、製造される(特許文献1 実施例)。
しかしながら、特にポリエチレンテレフタレート製の人工血管(外層)に対しては、上記したように単にポリマー溶液の塗布によって形成した層(中間層及び内層)は、剥離しやすい。このため、人工血管、特に小口径の人工血管では、依然として抗血栓性を長持間維持することが困難であった。
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、抗血栓維持性に優れる体内留置物、特に小口径の人工血管を提供することを目的とする。
本発明者は、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、生体適合性層(抗血栓性層)をチオール化合物を介して基材層と結合させることにより、生体適合性層(抗血栓性層)が基材層に強固に固定化できること見出した。上記知見に基づいて、本発明を完成させた。
すなわち、上記目的は、少なくとも表面が延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)からなる基材層と、該基材層の少なくとも一部に担持された分子内に複数のチオール基を有する化合物と、該分子内に複数のチオール基を有する化合物を覆う、反応性官能基を分子内に有する単量体と下記式(1):
上記式(1)中、Rは、炭素原子数1〜4のアルキレン基を表わし;Rは、炭素原子数1〜4のアルキル基を表わし;およびRは、水素原子またはメチル基を表わす、
で示される(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体からなる生体適合性層と、を備え、
該チオール基を有する化合物がイオン化ガスプラズマを照射することにより基材層に担持されており、該チオール基を有する化合物と該共重合体とを反応させることにより、生体適合性層が基材層に結合してなる、抗血栓性を有する体内留置物によって達成される。
本発明によれば、生体適合性層(抗血栓性層)が基材層に強固に固定化される。このため、本発明の体内留置物は、長期間にわたって高い抗血栓性を維持できる。
図1は、実施例2の人工血管(2)の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
本発明の体内留置物は、少なくとも表面が延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)からなる基材層と、該基材層の少なくとも一部に担持された分子内に複数のチオール基を有する化合物と、該分子内に複数のチオール基を有する化合物を覆う、反応性官能基を分子内に有する単量体と下記式(1):
上記式(1)中、Rは、炭素原子数1〜4のアルキレン基を表わし;Rは、炭素原子数1〜4のアルキル基を表わし;およびRは、水素原子またはメチル基を表わす、
で示される(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体からなる生体適合性層と、を備える。ここで、上記チオール基を有する化合物は、イオン化ガスプラズマを照射することにより基材層に担持されている。また、上記チオール基を有する化合物と該共重合体とを反応させることにより、生体適合性層が基材層に結合していることを特徴とする。当該構成により、生体適合性層(抗血栓性層)がチオール化合物を介して基材層に強固に固定化する。このため、本発明の体内留置物は、長期間にわたって高い抗血栓性を維持できる。ゆえに、本発明の体内留置物を体腔管(例えば、血管)内に留置した場合には、留置中の血栓形成を有効に防止できる、または血栓が形成された場合であっても、体腔管内膜形成を促す程度のごく少量の血栓形成に止めることが可能である。
なお、本明細書において、「チオール基」は、−SH基であり、メルカプト基・スルフヒドリル基・水硫基と呼称することもある。また、本明細書では、延伸ポリテトラフルオロエチレンを「ePTFE」とも;少なくとも表面がePTFEからなる基材層を「ePTFE基材層」または「基材層」とも;分子内に複数のチオール基を有する化合物を「チオール化合物」とも;反応性官能基を分子内に有する単量体を「反応性単量体」とも;上記式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステルを「(メタ)アクリル酸エステル単量体」とも;および反応性単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体との共重合体を「生体適合性共重合体」とも、それぞれ、称する。
延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)は表面張力が小さいため、成型時の離型性に優れる一方で、その表面へポリマー等をコーティングする場合、コート性が悪いという欠点がある。ePTFEは人工血管等の体内留置物基材を構成する。人工血管は長期間血液と接触するため、抗血栓性(特に血小板の付着・粘着防止性)が強く要求される。特に小口径な人工血管の場合には、血液接触面に形成した血栓が原因となり、人工血管が狭窄、さらには閉塞する危険性が高い。そのため、小口径の人工血管(特に)血液接触面に抗血栓性を付与して、小口径の人工血管を長期間開存させることが重要となる。ePTFE自体には十分な抗血栓性(特に血小板の付着・粘着防止性)はない。このため、表面張力が小さいePTFEからなる人工血管の血液接触面に抗血栓性を付与するためには、基材表面に抗血栓性物質(抗血栓を有するポリマー)を被覆する方法がある。しかしながら、上記したように表面張力が小さい樹脂はコート性が劣るため、抗血栓性物質によるコート層が基材から剥離しやすく、抗血栓性ポリマーの剥離や溶出がない程度に強固な被覆層を形成することが困難であった。すなわち、体内留置物、特に小口径の人工血管では、抗血栓性(血小板粘着防止性、血小板粘着防止維持性)、特に長期間使用した場合の抗血栓性を十分達成できなかった。
これに対して、本発明の体内留置物は、生体適合性層(抗血栓性層)の基材層から剥離を抑制・防止できる。ゆえに、本発明の体内留置物は、抗血栓性(血小板粘着防止性、血小板粘着防止維持性)に優れ、特に長期間にわたる高い抗血栓を維持できる。上記効果を奏するメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。なお、本発明は、下記推測によって限定されない。すなわち、基材層にイオン化ガスプラズマを照射(以下、単に「プラズマ処理」または「プラズマ照射」ともいう)すると、プラズマ照射により、電離したイオンや電子線が発生・放射され、被処理物である基材層表面のePTFEの結合(例えばePTFEの主鎖など)が切断されたり、ラジカルが生じたりして、そこにチオール化合物(チオール基)が反応する。例えば、ePTFEの結合が切断されたり、ラジカルが発生した部位が酸化されるなどしてパーオキサイドなどの反応基が導入されて、そこにチオール化合物が反応(結合)することができる。これにより基材層表面とチオール化合物とを強固に固定化できる。さらに、上記したようにして基材層表面にチオール化合物を担持(固定化)させた後、生体適合性共重合体の反応性官能基(例えば、エポキシ基、イソシアネート基等)とチオール化合物の残存チオール基とを反応させて生体適合性層を形成させる。これにより、生体適合性層がチオール化合物を介してePTFE基材層表面に簡便な手法で強固に固定化することができ、使用時の優れた抗血栓性を長期間発揮することができる。
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」及び「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
(1)基材層
本実施形態の体内留置物を構成する基材層は、少なくとも表面がePTFEからなるものである。ここで、延伸ポリエチレンテトラフルオロエチレン(ePTFE:expanded polytetrafluoroethylene)は、特に制限されず、人工血管に通常使用されるのと同様のePTFEが使用できる。このため、ePTFEの構造もまた特に制限されず、一軸延伸構造または二軸延伸構造のいずれの構造であってもよい。
(1a)基材層の構成
基材層が「少なくとも表面がePTFEからなる」とは、基材層の少なくとも表面がePTFEで構成されていればよく、基材層全体(全部)がePTFEで構成(形成)されているものに何ら制限されるものではない。従って、金属材料やセラミックス材料等の硬い補強材料で形成された基材層コア部の表面に、金属材料等の補強材料に比して柔軟なePTFEが適当な方法(浸漬(ディッピング)、噴霧(スプレー)、塗布・印刷等の従来公知の方法)で被覆(コーティング)あるいは基材層コア部の金属材料等とePTFEとが複合化(適当な反応処理)されて、生体適合性層を形成しているものも、本発明の基材層に含まれるものである。よって、基材層コア部が、異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは体内留置物の部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造(複合体)などであってもよい。また、基材層コア部と生体適合性層との間に、更に異なるミドル層が形成されていてもよい。さらに、表面がePTFEで構成される限り、生体適合性層に関してもePTFE以外の高分子材料かなる層(複数層の積層体を含む)を積層してなる多層構造体、あるいは体内留置物の部分ごとに異なる高分子材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造(複合体)などであってもよい。
(1b)基材層コア部の構成
基材層コア部に用いることができる材料としては、特に制限されるものではなく、体内留置物(例えば、人工血管)の用途に応じて最適な基材層コア部としての機能を十分に発現し得る補強材料を適宜選択すればよい。例えば、SUS304、SUS316L、SUS420J2、SUS630などの各種ステンレス鋼(SUS)、金、白金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、アルミニウム、スズおよびニッケル−チタン合金、コバルト−クロム合金、亜鉛−タングステン合金等のそれらの合金などの各種金属材料、各種セラミックス材料などの無機材料、更には金属−セラミックス複合体などが例示できるが、これらに何ら制限されるものではない。
または、基材層コア部がePTFE以外の高分子材料で構成されてもよい。このような高分子材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66(いずれも登録商標)などのポリアミド樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などのポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリアルキレン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂)、ポリエステル樹脂、スチロール樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(1c)ミドル層の構成
基材層コア部と生体適合性層との間にミドル層が配置される場合の、ミドル層に用いることができる材料としては、特に制限されるものではなく、使用用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、各種金属材料、各種セラミックス材料、さらには有機−無機複合体などが例示できるが、これらに何ら限定されるものではない。
(2)分子内に複数のチオール基を有する化合物(チオール化合物)
チオール化合物は、基材層表面の少なくとも一部に担持されている。ここで、チオール化合物が、基材層表面の少なくとも一部に担持されているとしたのは、使用用途である体内留置物において、必ずしもこれらの体内留置物の全ての表面(表面全体)に抗血栓性を付与する必要はなく、抗血栓性を有することが求められる表面部分(一部の場合もあれば全部の場合もある)のみにチオール化合物が担持されていればよいためである。このため、チオール化合物は、基材層のうち少なくとも血液と接触する部分(例えば、人工血管の内壁)に担持されることが好ましい。
なお、ここでいう「担持」とは、チオール化合物が基材層表面から容易に遊離(剥離)しない状態に固定化されていればよく、基材層表面にチオール化合物が堆積した状態であってもよいし、基材層表面にチオール化合物が含浸した状態であってもよい。
チオール化合物としては、分子内にチオール基を複数有する化合物であれば特に限定されないが、基材層表面にプラズマ処理及びその後の加熱処理等で基材層表面のePTFEと反応し強固に結合(固定化)した際に、残存するチオール基と生体適合性層を構成する生体適合性共重合体の反応性基とが反応しやすいよう、チオール化合物の最表面に残存するチオール基が露出しやすい構造を有していることが望ましい。かかる観点から、チオール化合物としては、1分子内にチオール基を2個以上有する化合物であればよいが、好ましくは1分子内にチオール基を、2〜10個、より好ましくは3〜6個有する化合物である。
かかる観点から、上記チオール化合物としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば1,2−エタンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,8−オクタンジチオール、3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、1,2−ベンゼンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、トルエン−3,4−ジチオール、1,5−ジメルカプトナフタレン、2,6−ジメルカプトプリン、4,4’−ビフェニルジチオール、4,4’−チオビスベンゼンチオール、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)等の分子内にチオール基を2つ有する化合物、1,3,5−ベンゼントリチオール、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)、トリアジントリチオール、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(TMMP)等の分子内にチオール基を3つ有する化合物、ペンタエリスリトールテトラキス(メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)等の分子内にチオール基を4つ有する化合物、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)等の分子内にチオール基を6つ有する化合物、およびそれらの誘導体や重合体などを好適に例示できる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。好ましくは、基材層表面にチオール基が結合した際に、残存するチオール基と生体適合性共重合体の反応性官能基が反応しやすいよう、最表面に残存チオール基が露出しやすい構造を有し、分子骨格が安定で、基材層表面との親和性がよく、チオール基を3〜6個有する化合物である、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)である。
また、本実施形態では、上記に例示したチオール化合物に何ら制限されるものではなく、本発明の作用効果を有効に発現し得るものであれば、他のチオール化合物も利用可能である。
(2a)チオール化合物の厚さ
体内留置物を構成するチオール化合物の厚さは特に限定されるものではなく、基材層表面のePTFEと生体適合性層とを強固に固定化でき、使用時の優れた抗血栓性を長期間発揮することができるだけの厚さを有していればよい。通常、厚さは10μm以下、好ましくは1μm以下である。また、いわゆる分子接着剤として有効に機能し得るものであれば、基材層表面にチオール化合物の一分子膜層が形成された状態(=厚さ方向はチオール化合物1分子)であってもよい。さらに、チオール化合物の厚さをより薄くすることによって体内留置物(特に人工血管)をより小口径にできるという観点から、基材層表面にチオール化合物が含浸した状態であってもよい。
(2b)チオール化合物の固定法
本発明の体内留置物では、イオン化ガスプラズマを照射すること(プラズマ処理)によりチオール化合物を基材層に固定化させる。
チオール化合物を基材層に固定化させる具体的な形態としては、(i)チオール化合物を溶解した溶液を基材層表面に塗布する前に、前記基材層表面にイオン化ガスプラズマを照射することによって、前記チオール化合物を基材層に担持する形態が挙げられる。具体的には、チオール化合物を溶解した溶液(チオール化合物溶液)を基材層表面に塗布する前(チオール化合物塗布前)に、予め基材層表面をプラズマ処理することによって、表面を改質、活性化した後、チオール化合物溶液を塗布して、チオール化合物と基材層表面とを反応(結合/固定化)させる形態である。当該形態では、基材層表面にチオール化合物を強固に固定化することができる。すなわち、一般に、チオール化合物が有するチオール基は、エポキシ基やイソシアネート基等の反応性官能基(プラズマ処理により生成ないし導入された官能基やラジカルを含む)と反応できる。しかしながら、こうした反応性官能基を持たないePTFEからなる基材層表面に、単にチオール化合物を塗布しただけでは、チオール化合物と反応(結合)し得ない。このため、チオール化合物を介して生体適合性層を基材層に強固に固定化できず、生体適合性層が剥離してしまい、抗血栓性を安定して発揮できない。これに対して、上記形態によると、チオール化合物塗布前にプラズマ処理を行うことで、ePTFEからなる基材層であっても、その表面を改質、活性化する効果やチオール化合物溶液に対する基材層表面の濡れ性を向上させる効果が得られる。これらの効果により、チオール化合物溶液を基材層表面に均一に塗布でき、また、チオール化合物を基材層に強固に結合(固定化)できる。
また、上記(i)の形態において、チオール化合物溶液を塗布した後、加熱処理等をしてもよい。チオール化合物溶液を塗布した後、加熱処理等をすることによって、基材層表面とチオール化合物の反応を促進、あるいはチオール化合物自体を重合させることが可能である。このため、上記加熱処理等によって、チオール化合物を基材層表面により強固に固定化することができる。
また、チオール化合物を基材層に固定化させる具体的な他の形態としては、(ii)チオール化合物を溶解した溶液を基材層表面に塗布し、その後イオン化ガスプラズマを照射することによって、前記チオール化合物を基材層に担持する形態が挙げられる。具体的には、基材層表面にチオール化合物溶液を塗布した後(チオール化合物塗布後)に、プラズマ処理を行うことで、チオール化合物と基材層表面とを反応(結合)させる形態である。当該形態でも、イオン化ガスプラズマ照射により、基材層表面にチオール化合物を強固に固定化することができる。
また、上記(ii)の形態において、イオン化ガスプラズマを照射した後、加熱処理等をしてもよい。プラズマ処理を行った後、加熱処理等をすることによって、基材層表面とチオール化合物の反応の促進、あるいはチオール化合物自体を重合させることが可能である。このため、上記加熱処理等によって、チオール化合物を基材層表面により強固に固定化することができる。
さらに、上記(i)のチオール化合物塗布前と(ii)のチオール化合物塗布後のプラズマ処理を併用する形態、すなわち、(iii)基材層表面にイオン化ガスプラズマを照射し、前記チオール基を有する化合物を溶解した溶液を基材層表面に塗布し、再度イオン化ガスプラズマを照射することによって、前記チオール基を有する化合物を基材層に担持する形態が挙げられる。具体的には、チオール化合物塗布前に、基材層表面をプラズマ処理することによって、表面を改質、活性化した後、チオール化合物溶液を塗布し、さらにその後再度プラズマ処理を行うことで、チオール化合物と基材層表面とを反応(結合)させる形態である。当該形態は、基材層表面にチオール化合物を非常に強固に固定化することができる点で優れている。
この際にも、再度プラズマ処理を行った後、加熱処理等をしてもよい。このような加熱処理によって、基材層表面とチオール化合物の反応の促進、あるいはチオール化合物自体を重合させることが可能である。このため、上記加熱処理等によって、チオール化合物を基材層表面により強固に固定化することができる。
上記(i)〜(iii)のいずれの形態におけるプラズマ処理の効果は、基材層表面のePTFEに対するチオール化合物の反応が促進されることにある。即ち、プラズマ照射により、電離したイオンや電子線が発生・放射され、被処理物である基材層表面のePTFEの結合(例えばePTFEの主鎖など)が切断されたり、ラジカルが生じたりして、そこにチオール化合物(チオール基)が反応する。例えば、切断されたり、ラジカルが発生した部位が酸化されるなどしてパーオキサイドなどの反応基が導入されて、そこにチオール化合物が反応(結合)することができる。これにより基材層表面とチオール化合物とを強固に固定化することができるものといえる。
なお、チオール化合物を塗布後にチオール化合物同士がチオール基を介して架橋・不溶化した構造を形成させることが、その後に固定する抗血栓性ポリマー層を剥離・溶出等なく安定に固定する上で重要である。このため、チオール化合物塗布後のイオン化ガスプラズマ照射を行うことが好ましい。すなわち、上記(i)〜(iii)の形態のうち、上記(ii)または(iii)の形態が好ましい。
以下、上記(i)、(ii)の形態を併用する上記(iii)の形態につき、説明する。
(2b−1)チオール化合物塗布前のプラズマ処理
本形態では、基材層にチオール化合物溶液を塗布する前(チオール化合物塗布前)に、予め基材層表面にイオン化ガスプラズマを照射するものである。これにより、基材層表面を改質、活性化し、チオール化合物溶液に対する基材層表面の濡れ性を向上させることができるため、チオール化合物溶液を基材層表面に均一に塗布することができる。当該イオン化ガスプラズマ処理は、体内留置物(特に小口径の人工血管)の細く狭い内表面であっても、所望のプラズマ処理を施すことが可能である。
予め基材層表面にイオン化ガスプラズマ照射する前に、適当な方法で基材層表面を洗浄しておくのがよい。即ち、イオン化ガスプラズマ照射により基材層表面の濡れ性を高める前に、基材層表面のePTFEに付着した油脂や汚れなどを取り除いておくのが望ましい。なお、上記(ii)の形態のように、チオール化合物塗布前のプラズマ処理を行わずに、チオール化合物塗布を行う場合でも、当該洗浄処理は、チオール化合物溶液を塗布する前に実施しておくのが望ましい。
チオール化合物塗布前のプラズマ処理での圧力条件は、特に制限されるものではなく、減圧下、大気圧下のいずれでも可能であるが、自由な角度からプラズマガスの照射ができ、真空装置が必要ないので装置が小型化でき、省スペース、低コストでのシステム構成が実現でき、経済的にも優れることから、大気圧下で行うのがよい。また、プラズマ照射ノズルをガイドワイヤなどの被処理物を中心にその周りを一回転させながらプラズマガスを照射することで、被処理物の全周をムラなく均一にプラズマ処理することもできる。
チオール化合物塗布前のプラズマ処理に用いることのできるイオン化ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、空気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、窒素および水素等から成る一種類以上のガスである。なお、チオール化合物塗布前のプラズマ処理条件は、特に制限されず、所望の効果(チオール化合物の架橋・不溶化の程度など)適宜選択されうる。
チオール化合物塗布前のプラズマ処理での照射時間は、好ましくは100秒を超え、より好ましくは100秒を超えて300秒以下であり、特に好ましくは120〜240秒である。このような条件であれば、チオール化合物をより強固に基材層表面に固定化できる。
チオール化合物塗布前のプラズマ処理での被処理物(チオール化合物塗布前の基材層)の温度は、該基材層表面のePTFEの融点より低い温度で、基材層が変形しない温度範囲であれば特に制限されるものではなく、常温のほか、加熱または冷却して高温または低温にして行ってもよい。経済的な観点からは、加熱装置や冷却装置が不要な温度(5〜35℃)がよい。
チオール化合物塗布前のプラズマ処理条件としては、被処理物の面積、さらには使用するプラズマ照射装置やイオン化ガス種に応じて印加電流やガス流量等の照射条件を適宜決定すればよく、特に制限されるものではない(例えば、実施例1参照のこと)。
チオール化合物塗布前のプラズマ処理に用いることのできるプラズマ照射装置(システム)としては、特に制限されるものではなく、例えば、ガス分子を導入し、これを励起してプラズマを発生するプラズマ発生管と、このプラズマ発生管の中のガス分子を励起する電極とを有し、プラズマ発生管の一端からプラズマを放出するような構成のプラズマ照射装置(システム)などが例示できるが、こうした構成(システム)に何ら制限されるものではない。例えば、既に市販されているものから、カテーテル、ガイドワイヤ、留置針等への照射に適しているイオン化ガスプラズマ照射装置(システム)、特に大気圧でのプラズマ照射装置(システム)を用いることができる。具体的には、TRI−STAR TECHNOLOGIES製のプラズマ照射装置:DURADYNE(商品名又は商標名)、DIENER ELECTRONIC製のプラズマ照射装置:PLASMABEAMなどを利用できるが、これらに何ら制限されるものではない。
(2b−2)チオール化合物塗布
基材層にチオール化合物溶液を塗布する手法としては、特に制限されるものではなく、塗布・印刷法(コーティング法)、浸漬法(ディッピング法)、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を適用することができる。
以下では、チオール化合物溶液中に基材層を浸漬し、乾燥して、該チオール化合物溶液を基材層表面に塗布した後、プラズマ処理し、さらに加熱処理等によって、基材層表面に該チオール化合物が固定化されてなる形態を例にとり詳しく説明する。但し、本発明がこれらの形成法に何ら制限されるものでない。なお、この形態の場合、基材層をチオール化合物溶液中に浸漬した状態で、系内を減圧にして脱泡させることで、体内留置物(特に小口径の人工血管)の細く狭い内面に素早く溶液を浸透させてチオール化合物の塗布を促進するようにしても良い。
また、基材層表面の一部にのみチオール化合物を固定化する場合には、基材層の一部のみにチオール化合物溶液を塗布した(浸漬し、乾燥した)後、再度イオン化ガスプラズマ照射を行い、さらに、必要に応じて加熱処理等を行うことで、基材層の所望の表面部位に、チオール化合物を固定化することができる。
基材層表面の一部のみをチオール化合物溶液中に浸漬するのが困難な場合には、予めチオール化合物を形成しない基材層の表面部分を着脱(装脱着)可能な適当な部材や材料で保護(被覆等)してから、該基材層をチオール化合物溶液中に浸漬し、乾燥させた後、再度イオン化ガスプラズマ照射を行い、さらに、必要に応じて加熱処理等を行った後、チオール化合物を形成しない基材層の表面部分の保護部材(材料)と取り外すことで、該基材層の所望の表面部位に、チオール化合物を固定化することができる。但し、本発明では、これらの形成法に何ら制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用して、チオール化合物を固定化することができる。例えば、基材層の一部のみをチオール化合物溶液中に浸漬するのが困難な場合には、浸漬法に代えて、他のコーティング手法(例えば、塗布法や噴霧法など)を適用してもよい。但し、体内留置物の構造上、円筒状の用具の外表面と内表面の双方が、抗血栓性を有する必要があるような場合には、一度に外表面と内表面の双方をコーティングすることができる点で、浸漬法(ディッピング法)が優れている。
チオール化合物を形成させる際に用いられるチオール化合物溶液の濃度は、特に限定されない。所望の厚さに均一に被覆する観点からは、チオール化合物溶液中のチオール化合物の濃度は、好ましくは1〜200mM、より好ましくは10〜100mMである。または、チオール化合物溶液中のチオール化合物の濃度は、好ましくは0.001〜20(w/v)%、より好ましくは0.01〜15(w/v)%である。チオール化合物の濃度が上記範囲であれば、基材層表面に十分な量のチオール化合物を固定化することができ、生体適合性層を基材層に強固に固定できる。均一な厚さのチオール化合物を固定化でき、体内留置物(特に小口径の人工血管)の細く狭い内面に対しても均一に被覆できる。ただし、上記範囲を外れても、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
また、チオール化合物溶液に用いられる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム等のハロゲン化物、ブタン、ヘキサン等のオレフィン類、テトラヒドロフラン(THF)、ブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類などを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
チオール化合物溶液の乾燥条件としては、特に制限されるものではない。即ち、本発明の体内留置物の直径は小さなものであり、乾燥にさほど時間がかからないことから、自然乾燥でも十分である。かかる観点から、チオール化合物溶液の乾燥条件は、20〜150℃、好ましくは20〜130℃で、1秒〜1時間、好ましくは1〜30分である。乾燥時間が1秒未満の場合、未乾燥状態のままチオール化合物塗布後のプラズマ処理を行うことで、残存する溶媒等の蒸発にプラズマエネルギーが吸収され、基材層表面やチオール化合物の活性化(例えば、基材層の表面エネルギーを高めたり、基材層表面やチオール化合物の元素の励起・イオン化などにより官能基(活性点ないし活性部位)を創り出したりすることなど)を十分に図ることが難しくなるおそれがあり、基材層表面との結合部の確保が十分に図れないおそれがある。一方、乾燥時間が1時間を超える場合には、上記時間を超えて乾燥することによる更なる効果が得られず不経済である。
乾燥時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧ないし減圧下で行ってもよい。
乾燥手段(装置)としては、例えば、オーブン、減圧乾燥機などを利用することができるが、自然乾燥の場合には、特に乾燥手段(装置)は不要(自然乾燥)である。
(2b−3)チオール化合物塗布後のプラズマ処理
本形態では、基材層表面に上記チオール化合物溶液を塗布後、イオン化ガスプラズマ照射するものである。かかるプラズマ処理によっても、チオール化合物と基材層表面を活性化して、チオール化合物と基材層表面とを結合(反応)させ、チオール化合物を強固に固定化することができる。また、プラズマ処理によってチオール化合物自体を重合させることも可能である。
本形態のチオール化合物塗布後のプラズマ処理は、上述したチオール化合物塗布前のプラズマ処理と同じ条件で行うことができ、チオール化合物塗布前のプラズマ処理と同じプラズマ照射装置を用いて行うことができる。なお、本形態のチオール化合物塗布後のプラズマ処理条件は、チオール化合物塗布前のプラズマ処理の説明に記載された好ましい範囲の条件であることが好ましいが、チオール化合物塗布前のプラズマ処理と同条件である必要はない。
(2b−4)チオール化合物を固定化する際の加熱処理
チオール化合物を基材層表面に固定化する際、上記チオール化合物塗布後のプラズマ処理を行った後、さらに加熱処理等によって、基材層表面とチオール化合物の反応を促進、あるいはチオール化合物自体の重合を促進させることも可能である。
かかる加熱処理としては、チオール化合物の反応(重合)が促進し得るものであればよく、基材層表面のePTFEの温度特性(耐熱性)に応じて適宜決定すればよい。
従って、加熱処理温度(加熱炉などの加熱装置の設定温度)の下限としては、チオール化合物の反応(重合)が促進し得る温度以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上である。チオール化合物の反応(重合)が促進し得る温度未満では、所望の反応が十分に促進せず、加熱処理に長持間を要し不経済であるか、あるいは加熱処理による反応(重合)が進まず、所期の効果が得られないおそれがある。
また、加熱処理温度の上限としては、基材層表面のePTFEの融点(326.8℃)−5℃の温度以下、好ましくは融点−10℃以下である。基材層表面のePTFEの融点−5℃の温度よりも高い温度の場合には、反応(重合)は十分促進される反面、加熱炉などの加熱装置内部の温度分布によっては設定温度以上となることもあり、基材層表面の一部が溶融したり、変形を受けるおそれがある。すなわち、加熱処理温度は、好ましくは40〜150℃、より好ましくは50〜100℃である。
加熱処理時間は、チオール化合物の反応(重合)が促進し得るものであればよく、特に制限されるものではないが、15分〜24時間、好ましくは30分〜12時間加熱処理するのが望ましい。加熱時間が15分未満の場合には、反応(重合)が十分になされないおそれがあり、未反応のチオール化合物量が増加するおそれがあり、基材層表面との結合部の確保やチオール化合物自身の重合による強度補填効果が十分に発現し得ないおそれがある。一方、加熱時間が24時間を超える場合には、上記時間を超えて加熱することによる更なる効果が得られず不経済である。
但し、上記加熱処理温度や時間に関しては、チオール化合物塗布後のプラズマ処理を、例えば、低真空下で行う場合等では、プラズマ処理中に被処理物の温度が上昇し、プラズマ処理中に加熱処理と同じ反応(重合)が成される場合もあり、プラズマ処理条件も考慮して適宜決定するのが望ましいと言える。
加熱処理時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧ないし減圧下で行ってもよい。
また、チオール化合物同士を重合させる場合、該重合を促進することができるように、熱重合開始剤などの添加剤を、チオール化合物溶液に適時適量を添加して用いてもよい。加熱手段(装置)としては、例えば、オーブン、ドライヤー、マイクロ波加熱装置などを利用することができる。
チオール化合物の反応あるいは重合を促進させるための加熱処理以外の他の方法としては、例えば、UV照射、電子線照射などが例示できるが、これらに何ら制限されるものではない。
チオール化合物を固定化後、余剰のチオール化合物を、適用な溶剤で洗浄(例えば、超音波洗浄)し、基材層表面に結合したチオール化合物のみを残存させることも可能である。
(3)生体適合性層
本発明に係る生体適合性層は、チオール化合物表面を覆う生体適合性共重合体からなるものである。ここで、生体適合性層を構成する生体適合性共重合体は、チオール化合物表面(少なくとも一部)を覆うように形成されていればよい。例えば、チオール化合物が抗血栓性を有することが求められる表面部分を含めた基材層表面全体に形成されている場合には、チオール化合物表面のうち、抗血栓性を有することが求められる表面部分(一部の場合もあれば全部の場合もある)のみに生体適合性層が形成されていてもよい。
生体適合性層の厚さとしては、使用時の優れた抗血栓性を長期間にわたって発揮することができるだけの厚さを有していればよく、特に制限されない。未膨潤時の生体適合性層の厚さは、好ましくは0.5〜5μm、より好ましくは1〜5μm、さらにより好ましくは1〜3μmの範囲である。未膨潤時の生体適合性層の厚さが上記範囲であれば、小口径の体内留置物に対しても均一な被膜を容易に形成でき、抗血栓性を十分発揮できる。
(3a)生体適合性共重合体
本発明に係る生体適合性共重合体は、反応性官能基を分子内に有する単量体(反応性単量体)と下記式(1):
で示される(メタ)アクリル酸エステル((メタ)アクリル酸エステル単量体)との共重合体である。ここで、反応性単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体は、それぞれ、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。また、生体適合性共重合体は、ブロック共重合体であってもまたはランダム共重合体であってもよい。
ここで、生体適合性共重合体を構成する反応性官能基を分子内に有する単量体(反応性単量体)は、前記反応性官能基がチオール基と反応するものであれば特に制限されない。このような反応性官能基としては、カルボニル基、エポキシ基、イソシアネート基、アルデヒド基、および酸クロリド基などが挙げられる。
ここで、エポキシ基を有する単量体としては、特に限定されないが、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルエーテル;エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、クレジルジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、またはトリメチロールプロパンジグリシジルエーテル等が挙げられる。チオール基との反応性の観点からは、グリシジル(メタ)アクリレートが好ましい。
イソシアネート基を有する架橋性モノマーとしては、アクリロイルオキシエチルイソシアネート、アクリロイルオキシメチルイソシアネート、アクリロイルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネート、またはメタクリロイルエチルイソシアネート等のイソシアネート系化合物;エチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジクロロフェニルジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート等のジイソシアネート系化合物;トリフェニルメタントリイソシアネート、またはトルエントリイソシアネート等のトリイソシアネート系化合物;またはポリイソシアネート系化合物等が挙げられる。
アルデヒド基を有する架橋性モノマーとしては、シンナムアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、メタクロレイン、グルタルアルデヒド等が挙げられる。
酸クロリド基を有する架橋性モノマーとしては、アクリル酸クロリドまたはメタクリル酸クロリド等が挙げられる。
上記反応性単量体は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。また、上記反応性単量体は、上記反応性官能基を一つ分子内に有するものであってもあるいは複数分子内に有するものであってもよい。また、反応性単量体が分子内に複数の反応性官能基を有する場合には、上記反応性官能基は、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
これらのうち、チオール化合物との反応性などを考慮すると、エポキシ基、イソシアネート基が好ましい。すなわち、反応性官能基を分子内に有する単量体は、エポキシ基を有する単量体およびイソシアネート基を有する単量体からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
また、生体適合性共重合体を構成する他方の単量体である、(メタ)アクリル酸エステル単量体は、下記式(1):
で示される。
上記式(1)において、Rは、炭素原子数1〜4のアルキレン基を表わす。ここで、炭素原子数1〜4のアルキレン基は、炭素原子数1〜4の直鎖状または分岐状のアルキレン基である。具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、2−メチルトリメチレン基、1−メチルトリメチレン基、エチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、1,1−ジメチルエチレン基等が挙げられる。より好ましくは、モノマー自体の合成が容易である点から、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基である。
は、炭素原子数1〜4のアルキル基を表わす。ここで、炭素原子数1〜4のアルキル基は、炭素原子数1〜4の直鎖状または分岐状のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。このうち、モノマー自体の合成が容易である点から、好ましくは、メチル基、エチル基である。
は、水素原子またはメチル基を表わす。共重合体がより親水性となり、抗血栓性が向上する観点から、Rが水素原子であることが好ましい。
すなわち、(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、メトキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
本発明に係る生体適合性共重合体における反応性単量体由来の構成単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位の存在比(モル比)は、特に制限されず、チオール化合物との結合性および生体適合性(抗血栓性)のバランスを考慮して適宜選択される。具体的には、(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位が、反応性単量体由来の構成単位 1モルに対して、0.2〜25モルであることが好ましく、1〜20モルであることがより好ましく、4〜15モルであることが特に好ましい。このような組成の生体適合性共重合体は、チオール化合物と強固に結合するため、生体適合性層が基材層から剥離するのをより有効に抑制・防止できる。また、このような組成の生体適合性共重合体は、より優れた生体適合性(抗血栓性)をも発揮できる。
本発明に係る生体適合性共重合体は、反応性単量体由来の構成単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位に加えて、必要により他の単量体由来の構成単位を有してもよい。ここで、他の単量体としては、以下に制限されないが、アクリルアミドおよびその誘導体、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸及びその誘導体などが挙げられる。また、他の単量体の含有量は、本発明に係る生体適合性共重合体の特性を損なわない範囲であれば特に制限されないが、反応性単量体由来の構成単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位の合計含有量に対して、0モル%を超えて10モル%以下である。
本発明に係る生体適合性共重合体の重量平均分子量は、溶解性の点から、好ましくは10,000〜10,000,000である。そして、共重合体の重量平均分子量は、コート液(共重合体溶液)の調製のしやすさの点から、より好ましくは100,000〜10,000,000である。本発明において、「重量平均分子量」は、ポリスチレンを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用するものとする。
上述したように本発明に係る生体適合性共重合体は、ブロック共重合体であってもあるいはランダム共重合体であってよい。このため、当該共重合体の製造方法もまた、特に制限されず、所望の共重合体の構造に応じて、ランダム共重合、ブロック共重合(交互ブロックコポリマー、周期的ブロックコポリマー)、グラフト共重合などの公知の共重合方法から適宜選択される。
例えば、ブロック共重合体を得る場合には、例えば、リビングラジカル重合法、マクロ開始剤を用いた重合法、重縮合法など、従来公知の重合法を適用して製造可能である。これらのうち、各構成単位(単量体)やブロックコポリマーの分子量や分子量分布のコントロールがしやすいという点で、リビングラジカル重合法またはマクロ開始剤を用いた重合法が好ましく使用される。リビングラジカル重合法としては、特に制限されないが、例えば特開平11−263819号公報、特開2002−145971号公報、特開2006−316169号公報等に記載される方法、ならびに原子移動ラジカル重合(ATRP)法などが、同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。また、マクロ開始剤を用いた重合法では、例えば、反応性単量体と、パーオキサイド基等のラジカル重合成基を有するマクロ開始剤を作製した後、そのマクロ開始剤と(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合させることで、生体適合性共重合体をブロックコポリマーの形態で製造できる。
また、例えば、ランダム共重合体を得る場合には、反応性単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体、ならびに必要であれば他の単量体を、重合溶媒中で重合開始剤と共に撹拌・加熱することにより共重合させる方法が使用できる。ここで、重合開始剤は特に制限されず、公知のものを使用すればよい。好ましくは、重合安定性に優れる点で、ラジカル重合開始剤であり、具体的には、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素、t−ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物が挙げられる。また、例えば、上記ラジカル重合開始剤に、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせてレドックス系開始剤として用いてもよい。重合開始剤の配合量は、単量体合計量に対して、0.0001〜1モル%が好ましい。
共重合の際の重合上限は、上記重合が進行すれば特に制限されない。例えば、重合温度は、分子量の制御の点から、30℃〜100℃とするのが好ましい。また、重合時間は通常30分〜24時間である。
共重合の際の重合溶媒は、用いられる単量体により適宜選択される。例えば、水、アルコール、ポリエチレングリコール類などの水性溶媒;トルエン、キシレン、テトラリン等の芳香族系溶媒;及びクロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒などが挙げられる。重合溶媒中の単量体の合計濃度(固形分濃度)は、通常10〜90重量%であり、好ましくは15〜80重量%であり、より好ましくは20〜80重量%である。
さらに、共重合の際に、必要に応じて、連鎖移動剤、重合速度調整剤、界面活性剤、水溶性高分子、水溶性無機化合物(アルカリ金属塩、アルカリ金属水酸化物、多価金属塩、および非還元性アルカリ金属塩pH緩衝剤など)、無機酸、無機酸塩、有機酸及び有機酸塩およびその他の添加剤を適宜使用してもよい。
共重合後の共重合体は、再沈澱法、透析法、限外濾過法、抽出法など一般的な精製法により精製することが好ましい。
(3b)生体適合性層の形成方法
本発明では、基材層、チオール化合物、生体適合性層を備え、上述したように、イオン化ガスプラズマを照射することによりチオール化合物が基材層に固定化されており、さらにチオール化合物の残存チオール基と生体適合性共重合体の反応性官能基とを反応させることで、生体適合性層が基材層に結合する。
そのため、生体適合性層を形成させる場合、生体適合性共重合体を溶解した溶液(以下、「生体適合性共重合体溶液」とも略記する)中に、チオール化合物を固定化した基材層を浸漬した後、乾燥させ、加熱処理等することにより、生体適合性共重合体の反応性官能基(例えば、エポキシ基)とチオール化合物の残存チオール基とを反応させることで、生体適合性層を形成すると同時に、生体適合性層が基材層に結合(固定化)することができるものである。なお、チオール化合物を固定化した基材層を生体適合性共重合体溶液中に浸漬した状態で、系内を減圧にして脱泡させることで、体内留置物、特に小口径の人工血管の内面に素早く溶液を浸透させて生体適合性層の形成を促進するようにしても良い。
なお、チオール化合物の一部にのみ生体適合性層を形成させる場合には、基材層に固定化されたチオール化合物の一部のみを生体適合性共重合体溶液中に浸漬した後、加熱処理等することで、チオール化合物の所望の表面部位に生体適合性共重合体からなる生体適合性層を形成することができる。
基材層に固定化されたチオール化合物の一部のみを生体適合性共重合体溶液中に浸漬するのが困難な場合には、予め生体適合性層を形成しないチオール化合物の表面部分を着脱(装脱着)可能な適当な部材や材料で保護(被覆等)した上で、基材層に固定化されたチオール化合物を生体適合性共重合体溶液中に浸漬してから、生体適合性層を形成しないチオール化合物の表面部分の保護部材(材料)を取り外し、その後、加熱処理等することで、チオール化合物の所望の表面部位に生体適合性共重合体からなる生体適合性層を形成することができる。但し、本発明では、これらの形成法に何ら制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用して、生体適合性層を形成することができる。
なお、上記生体適合性共重合体溶液中にチオール化合物を固定化した基材層を浸漬する方法(浸漬法ないしディッピング法)に代えて、例えば、塗布・印刷法、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を適用することができる。
また、チオール化合物と生体適合性共重合体とを反応させる手法としても、特に制限されるものではなく、例えば、加熱処理、光照射、電子線照射、放射線照射など、従来公知の方法を適用することができる。
以下では、生体適合性共重合体溶液中に基材層に固定化されたチオール化合物を浸漬し、該生体適合性共重合体溶液(コーティング溶液)をチオール化合物表面にコーティング(被覆)した後、加熱操作によって、チオール化合物の残存チオール基と生体適合性共重合体の反応性官能基とを反応させることで、生体適合性層を形成する形態を例にとり詳しく説明する。但し、本発明がこれらのコーティング及び反応処理操作に何ら制限されるものでない。
生体適合性層を形成させる際に用いられる生体適合性共重合体溶液の濃度は、特に限定されない。所望の厚さに均一に被覆する観点からは、生体適合性共重合体溶液中の生体適合性共重合体の濃度は、0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜15重量%、より好ましくは1〜10重量%である。生体適合性共重合体溶液の濃度が0.1重量%未満の場合、所望の厚さの生体適合性層を得るために、上記した浸漬操作を複数回繰り返す必要が生じるなど、生産効率が低くなる恐れがある。一方、生体適合性共重合体溶液の濃度が20重量%を超える場合、生体適合性共重合体溶液の粘度が高くなりすぎて、均一な膜をコーティングできない恐れがあり、また体内留置物の細く狭い内面に素早く被覆するのが困難となる恐れがある。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
また、生体適合性共重合体溶液を溶解するのに用いられる溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、クロロホルム、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ベンゼンなどを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
本発明は、生体適合性層を形成させる際に、加熱処理等により生体適合性共重合体の反応性官能基(例えば、エポキシ基)とチオール化合物の残存チオール基とを反応させることで、生体適合性層を基材層に結合させうる。
かかる加熱処理の条件(反応条件)としては、生体適合性共重合体の反応性官能基とチオール化合物の残存チオール基との反応が進行(促進)し得るものであればよく、基材層表面の高分子材料の温度特性(耐熱性)に応じて適宜決定すればよい。
例えば、加熱処理温度(加熱炉などの加熱装置の設定温度)の下限としては、生体適合性共重合体の反応性官能基とチオール化合物の残存チオール基との反応が促進し得る温度以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上である。生体適合性共重合体の反応性官能基とチオール化合物の残存チオール基との反応が促進し得る温度未満では、所望の反応が十分に促進せず、加熱処理に長持間を要し不経済であるか、あるいは加熱処理による所望の反応が進まず、所期の効果が得られないおそれがある。ここで、加熱処理温度の上限としては、基材層表面のePTFEの融点(326.8℃)−5℃の温度以下、好ましくは融点−10℃以下である。基材層表面のePTFEの融点−5℃の温度よりも高い温度の場合には、所望の反応が十分促進される反面、加熱炉などの加熱装置内部の温度分布によっては設定温度以上となることもあり、基材層表面の一部が溶融したり、変形を受けるおそれがある。すなわち、加熱処理温度は、好ましくは40〜150℃、より好ましくは50〜100℃である。
加熱処理時間は、生体適合性共重合体の反応性官能基とチオール化合物の残存チオール基との反応が促進し得るものであればよく、特に制限されるものではないが、15分〜15時間、好ましくは30分〜10時間であるのが好ましい。加熱時間が15分未満の場合、反応がほとんど進行せず未反応の生体適合性共重合体が増加するおそれがあり、表面潤滑性を長期間維持するのが困難となる場合がある。一方、加熱時間が15時間を超える場合、加熱による更なる効果が得られず不経済である。
加熱処理時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧ないし減圧下で行ってもよい。また、生体適合性共重合体の反応性官能基がエポキシ基の場合、チオール化合物の残存チオール基との反応を促進することができるように、トリアルキルアミン系化合物やピリジン等の3級アミン系化合物などの反応触媒を、生体適合性共重合体溶液に適時適量添加して用いてもよい。加熱手段(装置)としては、例えば、オーブン、ドライヤー、マイクロ波加熱装置などを利用することができる。
また、加熱処理以外にも生体適合性共重合体の反応性官能基とチオール化合物の残存チオール基との反応を促進させる方法としては、光、電子線、放射線などが例示できるが、これらに何ら制限されるものではない。
生体適合性層を形成させた後、余剰の生体適合性共重合体を、適用な溶剤で洗浄し、生体適合性層が基材層に強固に固定化されてなる生体適合性共重合体のみを残存させることも可能である。
こうして形成された生体適合性層は、血液などの体液に対して、優れた生体適合性、特に抗血栓性を発現する。また、このようにして形成された生体適合性層は、基材層と強固に固定化されているため、長期間にわたって、高い生体適合性(抗血栓性)を維持できる。ゆえに、本発明の体内留置物は、小口径の体内留置物、特に人工血管やステントグラフトに適用できる。
(4)体内留置物
本発明の体内留置物は、体液や血液などと接触して用いる器具のことであり、体液や生理食塩水などの水系液体に対して、優れた生体適合性、特に血液に対して優れた抗血栓性を発揮・維持できる。本発明の体内留置物の好ましい例としては、以下に制限されないが、人工血管、ステントグラフトなどが挙げられる。
本発明に係る生体適合性層は、血液などの体液に対して、優れた生体適合性、特に抗血栓性を発現する。また、このようにして形成された生体適合性層は、基材層と強固に固定化されている。ゆえに、本発明の体内留置物は、長期間にわたって、高い生体適合性(抗血栓性)を維持できる。ゆえに、本発明の体内留置物は、小口径の体内留置物、特に人工血管やステントグラフトに適用できる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
合成例1:MEA―b−GMA(15/1)の合成
アジピン酸2塩化物72.3g中に50℃でトリエチレングリコール29.7gを滴下した後、50℃で3時間塩酸を減圧除去して、オリゴエステルを得た。次に、得られたオリゴエステル22.5gにメチルエチルケトン4.5gを加え、これを、水酸化ナトリウム5g、31%過酸化水素6.93g、界面活性剤としてのジオクチルホスフェート0.44g及び水120gよりなる溶液中に滴下し、−5℃で20分間反応させた。得られた生成物は、水洗、メタノール洗浄を繰り返した後、乾燥させて、分子内に複数のパーオキサイド基を有するポリ過酸化物を(PPO)を得た。続いて、このPPOを0.5g、グリシジルメタクリレート(GMA)を9.5g、さらにベンゼンを溶媒として、65℃で2時間、減圧下で撹拌しながら重合した。重合後に得られた反応物をジエチルエーテルで再沈殿して、分子内にパーオキサイド基を有するポリGMA(PPO−GMA)を得た。
続いて、得られたPPO−GMA1.00g(GMA 0.007mol相当)を重合開始剤として、メトキシエチルアクリレート(MEA)(大阪有機化学工業製、2−MTA)14.0g(0.108mol)をクロロベンゼンに溶解し、80℃で5時間、窒素雰囲気下で重合させた。重合後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して回収し、メトキシエチルアクリレートと、グリシジルメタクリレートを構成単位とするブロックコポリマー(1)(MEA:GMA=15:1(モル比))を得た。得られたブロックコポリマー(1)の重量平均分子量は104000であった。
合成例2:MEA―b−GMA(7/1)の合成
合成例1と同様な方法により、分子内にパーオキサイド基を有するポリGMA(PPO−GMA)を得た。
続いて、得られたPPO−GMA2.20g(GMA 0.015mol相当)を重合開始剤として、メトキシエチルアクリレート(MEA)(大阪有機化学工業製、2−MTA)13.5g(0.104mol)をクロロベンゼンに溶解し、80℃で5時間、窒素雰囲気下で重合させた。重合後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して回収し、メトキシエチルアクリレートと、グリシジルメタクリレートを構成単位とするブロックコポリマー(2)(MEA:GMA=7:1(モル比))を得た。得られたブロックコポリマー(2)の重量平均分子量は140000であった。
合成例3:MEA―b−GMA(4/1)の合成
合成例1と同様な方法により、分子内にパーオキサイド基を有するポリGMA(PPO−GMA)を得た。
続いて、得られたPPO−GMA3.00g(GMA 0.021mol相当)を重合開始剤として、メトキシエチルアクリレート(MEA)(大阪有機化学工業製、2−MTA)11.0g(0.084mol)をクロロベンゼンに溶解し、80℃で5時間、窒素雰囲気下で重合させた。重合後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して回収し、メトキシエチルアクリレートと、グリシジルメタクリレートを構成単位とするブロックコポリマー(3)(MEA:GMA=4:1(モル比))を得た。得られたブロックコポリマー(3)の重量平均分子量は210000であった。
合成例4:MEA―r−GMA(7/1)の合成
GMA2.20g(0.015mol)、メトキシエチルアクリレート(MEA)(大阪有機化学工業製、2−MTA)13.5g(0.104mol)をクロロベンゼンにGMA及びMEAの合計濃度が20重量%になるように溶解した。この溶液に、アゾイソブチロニトリル(AIBN)を重合開始剤として、GMA及びMEAの合計に対して0.1モル%の割合で添加し、80℃で5時間、窒素雰囲気下で重合させた。重合後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して回収し、メトキシエチルアクリレートと、グリシジルメタクリレートを構成単位とするランダムコポリマー(4)(MEA:GMA=7:1(モル比))を得た。得られたランダムコポリマー(4)の重量平均分子量は95000であった。
合成例5:MEA―r−GMA(4/1)の合成
GMA3.00g(0.021mol)、メトキシエチルアクリレート(MEA)(大阪有機化学工業製、2−MTA)11.0g(0.084mol)をクロロベンゼンにGMA及びMEAの合計濃度が20重量%になるように溶解した。この溶液に、アゾイソブチロニトリル(AIBN)を重合開始剤として、GMA及びMEAの合計に対して0.1モル%の割合で添加し、80℃で5時間、窒素雰囲気下で重合させた。重合後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して回収し、メトキシエチルアクリレートと、グリシジルメタクリレートを構成単位とするランダムコポリマー(5)(MEA:GMA=4:1(モル比))を得た。得られたランダムコポリマー(5)の重量平均分子量は83000であった。
合成例6:PMEAの合成
メトキシエチルアクリレート(MEA)(大阪有機化学工業製、2−MTA)15.0g(0.084mol)をクロロベンゼンにGMA及びMEAの合計濃度が20重量%になるように溶解した。この溶液に、アゾイソブチロニトリル(AIBN)を重合開始剤として添加、80℃で5時間、窒素雰囲気下で重合させた。重合後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して回収し、メトキシエチルアクリレートを構成単位とするポリマー(6)(PMEA)を得た。得られたポリマー(6)の重量平均分子量は79000であった。
実施例1
ePTFE製の人工血管をアセトン中で超音波洗浄した。このePTFE人工血管を、20mMの濃度に調節したトリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)(SC有機化学株式会社製)(1分子中のチオール基3個)のアセトン溶液に浸漬し、10分間自然乾燥した(TEMPIC処理)。次に、プラズマ照射装置(DURADYNE、PT−2000P、TRI−STAR TECHNOLOGIES製)に円筒状のノズルを取り付け、上記TEMPIC処理した人工血管をノズル先端に取り付けた。大気圧下、GAS FLOW:15SCFH、PLASMA CURRENT:2.00Aの条件で、2mm離れた距離から人工血管全表面にアルゴンイオン化ガスプラズマ照射を120秒間行った。その後、80℃のオーブンで3時間加熱処理することで、人工血管表面にTEMPICを固定化した。さらに、TEMPICを固定化した人工血管をアセトン中で超音波洗浄することにより、人工血管表面に固定化されていない余剰のTEMPICを取り除いた。これにより、人工血管(基材層)表面全体を覆うTEMPICからなるチオール化合物を形成(固定化)した(TEMPIC固定化人工血管)。
さらに、上記合成例1で得られたブロックコポリマー(1)を1重量%の濃度で、アセトンに溶解し、ポリマー溶液を調製した。このポリマー溶液中に、TEMPIC固定化人工血管を5分間、静置した。所定時間静置後、人工血管を取り出し、60℃のオーブン中で3時間、反応(加熱乾燥)した。これにより、TEMPICを固定化した人工血管表面に、ブロックコポリマー(1)からなる生体適合性層を形成した(人工血管(1))。
実施例2
実施例1において、アルゴンイオン化ガスプラズマ照射時間を240秒に変更した以外は、に記載の方法と同様の方法に従って、人工血管(2)を作製した。この人工血管(2)の表面を走査型電子顕微鏡で観察し、その結果を図1に示す。
実施例3〜6
実施例1において、ブロックコポリマー(1)の代わりに、合成例2〜5で得られたブロックコポリマー(2)〜(3)およびランダムコポリマー(4)〜(5)を、それぞれ、使用した以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法に従って、人工血管(3)〜(6)を作製した。
比較例1
ePTFE製の人工血管をアセトン中で超音波洗浄した。このePTFE人工血管を、20mMの濃度に調節したトリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)(SC有機化学株式会社製)(1分子中のチオール基3個)のアセトン溶液に浸漬し、10分間自然乾燥した(TEMPIC処理)。
次に、上記合成例1で得られたブロックコポリマー(1)を1重量%の濃度で、アセトンに溶解し、ポリマー溶液を調製した。このポリマー溶液中に、上記TEMPIC処理した人工血管を5分間、静置した。所定時間静置後、人工血管を取り出し、60℃のオーブン中で3時間、反応(加熱乾燥)した。これにより、人工血管表面(TEMPIC未固定化)に、ブロックコポリマー(1)からなる生体適合性層を形成した(人工血管(7))。
比較例2
実施例1において、ブロックコポリマー(1)の代わりに、合成例6で得られたポリマー(6)(PMEA)を使用した以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法に従って、人工血管(8)を作製した。
比較例3
ePTFE製の人工血管をアセトン中で超音波洗浄した(人工血管(9))。
[抗血栓性試験]
上記実施例1〜7で得られた人工血管(1)〜(6)および比較例1〜3で得られた人工血管(7)〜(9)について、下記方法に従って、抗血栓性試験を行い、結果を下記表1に示す。
詳細には、内径6mm、長さ27cmの軟質塩化ビニルチューブの両端にポリカーボネート製コネクターを接続し、このコネクターの一方に人工血管を接続した。チューブ内に、へパリンで抗凝固したヒト血液(へパリン濃度0.2単位/ml)を4.5ml充填した後、もう一方のコネクタと人工血管を接続し、ループを形成した。円筒形状の回転装置にループを固定し、14回転/分で120分間、血液を循環した。所定時間血液を循環した後、人工血管を取り出し、生理食塩水で洗浄した後、グルタルアルデヒド水溶液で固定した。固定処理後、水洗、乾燥、血液接触面を走査型電子顕微鏡で観察した。
下記評価にしたがい、血栓形成のレベルを評価した。
上記表1および図1の結果から、本発明の人工血管(1)〜(6)は、比較例の人工血管に比して、長期間にわたって、優れた抗血栓性を発揮できることが分かる。

Claims (4)

  1. 少なくとも表面が延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)からなる基材層と、
    該基材層の少なくとも一部に担持された分子内に複数のチオール基を有する化合物と、
    該分子内に複数のチオール基を有する化合物を覆う、反応性官能基を分子内に有する単量体と下記式(1):
    上記式(1)中、Rは、炭素原子数1〜4のアルキレン基を表わし;Rは、炭素原子数1〜4のアルキル基を表わし;およびRは、水素原子またはメチル基を表わす、
    で示される(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体からなる生体適合性層と、を備え、
    該チオール基を有する化合物がイオン化ガスプラズマを照射することにより基材層に担持されており、
    該チオール基を有する化合物と該共重合体とを反応させることにより、生体適合性層が基材層に結合してなる、抗血栓性を有する体内留置物。
  2. 前記チオール基を有する化合物の基材層への担持は、イオン化ガスプラズマを、100秒を超える時間、照射することによって行われる、請求項1に記載の体内留置物。
  3. 前記反応性官能基を分子内に有する単量体は、エポキシ基を有する単量体およびイソシアネート基を有する単量体からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1または2に記載の体内留置物。
  4. 前記体内留置物が、人工血管またはステントグラフトである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の体内留置物。
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